説明

電動機の制御装置

【課題】電動機の出力トルクの変動を抑制すべき運転状態においてのみ、出力トルクの変動を抑制し、他の運転状態では、電動機の出力トルクやエネルギー効率を十分に高め得るように該電動機の運転を行なう。
【解決手段】アキシャルギャップ型の電動機3の所定の運転状態において、一方のステータ12aの電機子巻線13aの通電電流と他方のステータ12bの電機子巻線13bの通電電流との間の位相差を電動機3の出力トルクの変動を抑制するように設定し、その設定した位相差を有する通電電流を各ステータ12a,12bの電機子巻線13a,13bに流すように該通電電流を制御する。所定の運転状態以外では、各ステータ12a,12bの電機子巻線13a,13bの通電電流を同一位相とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシャルギャップ型の電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石を有するロータと、該ロータの回転軸心方向で該ロータの両側に設けられた2つのステータと、各ステータに装着された電機子巻線とを備えたアキシャルギャップ型の電動機が従来より知られている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3を参照)。このようなアキシャルギャップ型の電動機は、電動機のロータの軸方向の長さを短くしつつ、比較的高い出力トルクを発生させることができる。
【特許文献1】特開平10−271784号公報
【特許文献2】特開2001−136721号公報
【特許文献3】特開平6−245458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、アキシャルギャップ型の電動機を、その出力トルクとロータの回転速度とが微小なものとなる低トルク・低速運転状態で運転させると、出力トルクの変動が顕著に現れやすい。そして、このような電動機をハイブリッド車両もしくは電動車両に、車両の推進力発生源として搭載した場合には、車両の発進時などに、電動機の出力トルクの変動(所謂トルクリプル)に伴う車体の振動が発生する。
【0004】
このため、低トルク・低速運転状態における電動機の出力トルクの変動を抑制することが望まれる。
【0005】
しかるに、前記特許文献1、2に見られる技術では、電動機の出力トルクのトルク変動を抑制する対策がなされていない。
【0006】
一方、特許文献3に見られる技術では、電動機の出力トルクの変動を抑制するために、一方のステータに対する電機子巻線の取り付け位置と、他方のステータに対する電機子巻線の取り付け位置とをそれらのステータの周方向(ロータの軸心まわりの方向)にずらすようにしている。あるいは、ロータの軸方向の一方の面に装着する永久磁石の位置と他方の面に装着する永久磁石の位置とをロータの周方向にずらすようにしている。この特許文献3に見られる技術では、電動機の運転状態によらずに、出力トルクの変動を抑制することが可能である。
【0007】
しかるに、特許文献3に見られる技術では、電機子巻線の取り付け位置を両ステータで同じにした場合、あるいは、ロータの両面に装着する永久磁石の位置をその両面で同じにした場合に比べて、電動機が出力し得る最大トルクが低下し、あるいは、電動機のエネルギー効率が低下するという不都合がある。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、電動機の出力トルクの変動を抑制すべき運転状態においてのみ、出力トルクの変動を抑制し、他の運転状態では、電動機の出力トルクやエネルギー効率を十分に高め得るように該電動機の運転を行なうことができる電動機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電動機の制御装置は、かかる目的を達成するために、永久磁石を有するロータと、該ロータの回転軸心方向で該ロータの両側に設けられた2つのステータと、各ステータに装着された電機子巻線とを備えたアキシャルギャップ型の電動機の制御装置であって、前記電動機の所定の運転状態において、一方のステータの電機子巻線の通電電流と他方のステータの電機子巻線の通電電流との間の位相差を前記出力トルクの変動を抑制するように設定し、その設定した位相差を有する通電電流を各ステータの電機子巻線に流すように該通電電流を制御する通電制御手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
かかる本発明によれば、前記電動機の所定の運転状態では、一方のステータの電機子巻線の通電電流と他方のステータの電機子巻線の通電電流との間の位相差を持たせることにより、電動機の出力トルクの変動が抑制される。すなわち、電動機の各ステータの電機子巻線の通電電流の電気的な制御によって、特別な機構を必要とすることなく、電動機の出力トルクの変動が抑制される。この場合、上記のようにステータの電機子巻線の通電電流と他方のステータの電機子巻線の通電電流との間の位相差を持たせる制御を行なう電動機の運転状態を前記所定の運転状態に限定することにより、該所定の運転状態以外の運転状態では、電動機の出力トルクや、エネルギー効率をより高めるように電動機の各ステータの電機子巻線の通電電流を制御できる。
【0011】
従って、本発明によれば、電動機の出力トルクの変動を抑制すべき所定の運転状態においてのみ、出力トルクの変動を抑制し、他の運転状態では、電動機の出力トルクやエネルギー効率を十分に高め得るように該電動機の運転を行なうことが可能となる。
【0012】
かかる本発明では、前記所定の運転状態は、前記電動機の出力トルクの要求値が所定値以下となり、且つ、該電動機の回転速度が所定値以下となる低トルク・低速運転状態を少なくとも含むことが好適である。これにより、電動機の出力トルクの変動が顕著に現れやすい低トルク・低速運転状態において、電動機の出力トルクの変動を適切に抑制できる。特に、電動機が、ハイブリッド車両や電動車両の推進力発生源として該車両に搭載されているような場合には、該車両の発進時などに車両の振動を効果的に抑制できる。
【0013】
また、本発明では、前記通電制御手段は、前記電動機の運転状態が、前記所定の運転状態以外の運転状態であるときには、前記一方のステータの電機子巻線の通電電流と他方のステータの電機子巻線の通電電流とが互いに同一位相の電流になるように各ステータの電機子巻線に流す電流を制御することが好適である。
【0014】
これにより、前記電動機の運転状態が、前記所定の運転状態以外の運転状態であるときには、電動機が出力し得るトルクの最大値を高めると共に、電動機のエネルギー効率を高効率に確保することができる。
【0015】
なお、前記2つのステータのそれぞれの磁気回路断面積は、実質的に互いに同一であることが好ましい。すなわち、アキシャルギャップ型の電動機では、2つのステータ間で、永久磁石による磁束と電機子巻線の通電電流による磁束との閉回路が構成される。このため、仮に、各ステータの磁気回路断面積が互いに異なると、両ステータに通し得る最大磁束(磁束飽和を生じる磁束)が、両ステータのうちの磁気回路断面積の小さい方のステータによる制限を受けてしまい、磁気回路断面積の大きい方のステータに通し得る最大磁束よりも小さくなってしまう。ひいては、電動機が出力し得る最大トルクが減少してしまう。これに対して、両ステータのそれぞれの磁気回路断面積を、実質的に互いに同一にすることによって、該磁気回路断面積に応じた最大限の磁束を両ステータに通すことが可能となる。この結果、各ステータの磁路を最大限に活用して、電動機が出力し得る最大トルクを高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の一実施形態を図1〜図4を参照して説明する。
【0017】
まず、図1を参照して、本実施形態の電動機を搭載した車両の概略構成を説明する。図1はその車両の概略構成を示す図である。
【0018】
本実施形態の車両1は、パラレル型のハイブリッド車両であり、内燃機関(エンジン)2と電動機3とをそれぞれ車両1の主たる推進力発生源、補助的な推進力発生源として備える。電動機3は、詳細は後述するが、ロータ11と、2つのステータ12a,12bとを備えたアキシャルギャップ型の電動機である。電動機3には、そのロータ11の回転角度を検出する回転角度検出手段としてのレゾルバ14が備えられている。
【0019】
内燃機関1の出力軸1aは、電動機3のロータ11と一体に回転自在な回転軸3aに同軸に直結されている。なお、内燃機関2の出力軸2aと電動機3の回転軸3aとを減速機などの動力伝達機構を介して接続してもよい。これらの出力軸2aおよび回転軸3aは、クラッチ4を介して変速機5の入力側に接続されている。変速機5の出力側は差動歯車ユニット6を介して車両1の駆動輪7,7に接続されている。
【0020】
この車両1では、内燃機関2の出力トルク、あるいは、これに電動機3の出力トルク(力行トルク)を付加したトルクが、車両1の推進力として、クラッチ4、変速機5、および差動歯車ユニット6を介して駆動輪7,7に伝達される。これにより、車両1の走行が行なわれる。なお、電動機3は、駆動輪7,7側から該電動機3に伝達される車両1の運動エネルギーにより該電動機3の発電を行いつつ、その発電エネルギーを電動機3の電源たる蓄電器(図示省略)に充電する回生運転も可能である。その回生運転時に該電動機3が発生する回生トルクは、車両1の制動力として機能する。
【0021】
また、車両1は、電動機3の動作制御を行なう制御装置8を備えている。この制御装置8には、前記レゾルバ14からロータ11の回転角度の検出値θm_sが入力されると共に、電動機3の出力トルクの要求値であるトルク指令値Tr_cが入力される。トルク指令値Trは、車両1の統括的な運転制御を担う車両運転制御装置(図示省略)により、車両1のアクセルペダルの操作量やブレーキペダルの操作量、車速などに応じて決定される。そして、制御装置8は、トルク指令値Tr_cの出力トルクを電動機3に発生させるように各ステータ12a,12bの電機子巻線の通電電流を制御する。なお、本実施形態では、トルク指令値Tr_cは、電動機3の力行運転を行なうべき状況では正の値に設定され、回生運転を行なうべき状況では負の値に設定される。
【0022】
図2(a),(b)は、電動機3のロータ11およびステータ12a,12bの構造を示す斜視図である。図2(a)はロータ11およびステータ12a,12bを電動機3の組立状態で示し、図2(b)はロータ11およびステータ12a,12bを電動機3の分解状態で示している。
【0023】
ロータ11は、非磁性材からなる枠体14と、この枠体14に組み付けられた複数の永久磁石15とから構成されている。枠体14は、円板状の基体16と、この基体16の外周面と径方向に間隔を存して該基体16の周囲に同軸心に設けられた円形の環状体17と、これらの基体16および環状体17を連結する複数の仕切り板18とを一体に形成して構成されている。基体16には、図2(a)に仮想線で示す如く、回転軸3aが同軸心に取り付けられる。
【0024】
複数の仕切り板18は、基体16の外周面と環状体17の内周面との間で放射状に延在し、ロータ11の軸心回りに等角度間隔で配列されている。そして、基体16の外周面と、環状体17の内周面と、ロータ11の周方向で互いに隣合う仕切り板18,18とで囲まれた各空間にこれと同形状(扇板形状)の永久磁石15が嵌め込まれている。これにより、基体16と環状体17との間で複数の永久磁石15がロータ11の軸心まわりに等角度間隔で配列されている。
【0025】
各永久磁石15は、その厚み方向(ロータ11の軸心方向)における一方の面がN極、他方の面がS極となる磁石である。そして、ロータ11の周方向で互いに隣合う永久磁石15,15は、それらの厚み方向における同じ側の面の磁極が、図2(b)の各永久磁石15に記載した如く、互いに異なるものとされている。換言すれば、ロータ11が有する複数の永久磁石16は、該ロータ11の周方向で隣り合う永久磁石15,15の磁束の向き(ロータ11の軸方向での向き)が互いに逆向きになるように配列されている。なお、図示の例では、永久磁石15の個数は8個であり、ロータ11の極対数は4である。
【0026】
補足すると、ロータ11の軸心方向の一方の面側と他方の面側とにそれぞれ別個に永久磁石を配列するようにしてもよい。
【0027】
各ステータ12a,12bは、いずれも同一構造であり、図2(b)に示す如く、各々、リング状の基体19の軸心方向における両端面のうちの一方の面から該基体19の軸心方向に突設された複数のティース20を、該基体19の軸心まわりに等角度間隔で配列した構造のものである。基体19およびティース20は、磁性材により一体に形成されている。なお、図示の例では、各ステータ12a,12bのティース20の個数は24個である。
【0028】
この各ステータ12a,12bには、その周方向で隣り合うティース20,20の間の溝であるスロット21に図示を省略する電機子巻線を収容するようにして、該電機子巻線が装着されている。本実施形態では、各ステータ12a,12bに装着される電機子巻線は、3相分(U相、V相、W相)の電機子巻線である。また、各ステータ12a,12bにおける電機子巻線の装着形態は、互いに同一である。例えば、ステータ12a側の各相の電機子巻線は、ステータ12aの軸心方向で見たとき、ロータ11の永久磁石15の個数と同数の巻線ループが、ステータ12aの周方向に等角度間隔で形成されるようにステータ12aに装着される。ステータ12b側も同様である。
【0029】
これらのステータ12a,12bは、電動機3の組立状態では、図2(a)に示す如く、該ステータ12a,12bの間にロータ11を挟み込むようにして、ロータ11の軸方向の両側に該ロータ11と同軸心に配置され、電動機3の図示しないハウジングに固定される。この場合、各ステータ12a,12bのティース20の先端面がロータ11に近接して対向される。また、本実施形態では、電動機3の組立状態においてロータ11の軸心方向で見たとき、ステータ12aの各ティース20の位置(軸心まわりの角度位置)と、ステータ12bの各ティース20の位置(軸心まわりの角度位置)とが合致するように、ステータ12a,12bが電動機3に組み付けられる。すなわち、ステータ12aの個々のティース20と、ステータ12bの個々のティース20とがロータ11の軸心方向で正対するようになっている。そして、ステータ12aの各相の電機子巻線と、これと同じ相のステータ12bの電機子巻線とは、各相毎に、ステータ12a側の電機子巻線の巻線ループとステータ12b側の電機子巻線の巻線ループとがロータ11の軸心方向で互いに対向するように(ロータ11の軸心方向で見たとき、ステータ12a側の巻線ループとステータ12b側の巻線ループとが互いに同じ角度位置に存するように)、各ステータ12a,12bに装着されている。従って、ステータ12aの各相の電機子巻線と、それと同じ相のステータ12bの電機子巻線とに、同一位相の電流を通電したとき、各相毎に、ステータ12aの電機子巻線が発生する磁束と、ステータ12bの電機子巻線が発生する磁束とがロータ11の軸心方向で最大限に互いに強め合うようになっている。なお、本実施形態では、ステータ12a,12bは同一構造で、その各部のサイズも同一であるので、それらの各相毎の磁気回路断面積(磁路の断面積)は、互いに同一である。
【0030】
次に、図3を参照して、前記制御装置8を詳細に説明する。図3は制御装置8の詳細な機能的構成を示すブロック図である。該制御装置8は、マイクロコンピュータなどを含む電子回路ユニットにより構成されたものである。なお、以降の説明では、図3に示す如く、ステータ12aに装着された各相の電機子巻線に参照符号13aを付し、ステータ12bに装着された各相の電機子巻線に参照符号13bを付する。
【0031】
まず、制御装置8による電動機3の制御処理の概要を説明する。本実施形態では、いわゆるd−qベクトル制御により電動機3の各ステータ12a,12bの各相の電機子巻線13a,13bの通電電流(相電流)を制御する。すなわち、制御装置8は、ステータ12aの3相分の電機子巻線13a,13a,13aと、ステータ12bの3相分の電機子巻線13b,13b,13bとを2相直流のd−q座標系での等価回路に変換して取り扱う。その各ステータ12a,12bに対応する等価回路は、それぞれd軸上の電機子巻線(以下、d軸電機子巻線という)と、q軸上の電機子巻線(以下、q軸電機子巻線という)とを有する。なお、d−q座標系は、ロータ11の永久磁石15による界磁方向をd軸、d軸と直交する方向をq軸として電動機3のロータ11と一体に回転する回転座標系である。
【0032】
そして、制御装置8は、外部から与えられる前記トルク指令値Tr_cのトルクを電動機3の回転軸3aから出力させるように電動機3の各ステータ12a,12bの電機子巻線13a,13bの各相電流を制御する。この場合、本実施形態では、電動機3の所定の運転状態を除いて、ステータ12aの電機子巻線13aの相電流とステータ12bの電機子巻線13bの相電流とを、各相毎に互いに同一位相の相電流とするが、電動機3の所定の運転状態では、ステータ12aの電機子巻線13aの相電流とステータ12bの電機子巻線13bの相電流とを全ての相について所定の位相差だけずらす。この所定の運転状態は、本実施形態では、電動機3の出力トルクが低トルクで、且つ、該電動機3のロータ11の回転速度が低速となる低トルク・低速運転状態である。
【0033】
本実施形態では、上記のような制御を行なうために、制御装置8は、その機能的構成として、各ステータ12a,12bのd軸電機子巻線の電流(以下、d軸電流という)の指令値であるd軸電流指令値Id_c、およびq軸電機子巻線の電流(以下、q軸電流という)の指令値であるq軸電流指令値Iq_cを決定する電流指令決定部21と、そのd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cに応じてステータ12aの電機子巻線13aの各相電流を制御する第1電流制御部22aと、該d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cに応じてステータ12bの電機子巻線13bの各相電流を制御する第2電流制御部22bとを備える。なお、本実施形態では、d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cは、ステータ12a,12bの両者について共通である。
【0034】
さらに、制御装置8は、ステータ12aの電機子巻線13aの相電流とステータ12bの電機子巻線13bの相電流との位相差の指令値であるスキュー指令sk_cを決定するスキュー指令決定部23と、前記レゾルバ14により検出されたロータ11の回転角度θm_s(以下、ロータ角度検出値θm_sという)を微分することによりロータ11の回転角速度ωm_sを算出するロータ速度算出部24と、スキュー指令決定部23により決定されたスキュー指令sk_cに応じてロータ角度検出値θm_sを補正する角度補正部25とを備える。なお、本実施形態では、ロータ速度算出部24で算出される回転角速度ω_sは、ロータ11の機械角の角速度であるが、これにロータ11の極対数を乗じることで、ロータ11の電気角の角速度に変換してもよい。
【0035】
補足すると、本実施形態では、スキュー指令決定部23、角度補正部25、第1電流制御部22a、および第2電流制御部22bにより本発明における通電制御手段が構成される。
【0036】
上記した制御装置20の各機能部の処理は、所定の制御処理周期で、以下に説明する如く逐次実行される。
【0037】
前記スキュー指令決定部23には、制御装置8に外部から与えられる前記トルク指令値Tr_cと角速度算出部24で算出されたロータ11の回転角速度ωm_s(以下、ロータ角速度ωm_sという)とが逐次入力される。そして、スキュー指令決定部23は、これらの入力値を基に、電動機3の運転状態が前記低トルク・低速運転状態であるか否かを判断し、その判断結果に応じてスキュー指令sk_cを逐次決定する。
【0038】
この場合、本実施形態では、スキュー指令決定部23は、トルク指令値Tr_cの絶対値(大きさ)が所定値以下で、且つロータ角速度ωm_sが所定値以下であるとき、電動機3の運転状態が低トルク・低速運転状態であると判断する。そして、スキュー指令決定部23は、電動機3の運転状態が低トルク・低速運転状態でないときには、sk_c=0とする。なお、sk_c=0とするということは、ステータ12aの電機子巻線13aの相電流とステータ12bの電機子巻線13bの相電流とを各相毎に同一位相にする(各相毎の相電流の位相差を0にする)ということを意味する。
【0039】
また、スキュー指令決定部23は、電動機3の運転状態が低トルク・低速運転状態であるときには、スキュー指令sk_cをあらかじめ定めた所定値(≠0)に設定する。その所定値は、本実施形態では、各ステータ12a,12bの互いに隣り合うティース20,20の角度間隔(互いに隣り合うティース20,20のそれぞれの角度位置の差)をθttとおくと、その角度間隔θttの半分の値である。より具体的には、本実施形態では、各ステータ12a,12bのティース20の個数は、24個であるので、θtt=360/24=15[deg]である。なお、本実施形態では、ロータ11の極対数は4であるので、θttは、電気角に換算すると、15×4=60[deg]である。従って、電動機3の運転状態が低トルク・低速運転状態であるときのスキュー指令sk_cは、機械角で15/2=7.5[deg](電気角換算では、30[deg])に設定される。このように、スキュー指令sk_cを0でない所定値に設定するということは、ステータ12aの電機子巻線13aの各相電流とステータ12bの電機子巻線13bの各相電流との間に、各相毎にsk_cの値の位相差を持たせるということを意味する。
【0040】
補足すると、電動機3の運転状態が低トルク・低速運転状態であるか否かの判断は例えば次のように行なうようにしてもよい。すなわち、トルク指令値Tr_cおよびロータ角速度ωm_sを2成分とする座標平面上の原点近傍に該原点を含む所定の領域(円形、三角形、四角形などの領域)を設定しておき、トルク指令値Tr_cおよびロータ角速度ωm_sの値から定まる点(Tr_c,ωm_s)がその所定の領域内に存在するか否かによって、電動機3の運転状態が低トルク・低速運転状態であるか否かを判断する。
【0041】
角度補正部25には、前記ロータ角度検出値θm_sとスキュー指令決定部23で決定されたスキュー指令sk_cとが逐次入力される。そして、角度補正部25は、ロータ角度検出値θm_sにスキュー指令sk_cを加えることにより、θm_sを補正してなる補正回転角度θm_s’を逐次求める。なお、ロータ角度検出値θm_sからスキュー指令sk_cを減じることにより、補正回転角度θm_s’を求めるようにしてもよい。
【0042】
電流指令決定部21には、前記トルク指令値Tr_cと、ロータ角速度ωm_sと、スキュー指令決定部23で決定されたスキュー指令sk_cとが逐次入力される。そして、電流指令決定部21は、これらの入力値から、あらかじめ定められたマップに従って、d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cを決定する。この場合、基本的には、sk_c=0であるときには、q軸電流指令値Iq_cは、トルク指令値Tr_cに比例した値に決定される。また、d軸電流指令値Id_cは、q軸電流指令値Iq_cとd軸電流指定値Id_cとロータ角速度ωm_sとに応じて定まるd軸電機子巻線の電圧(以下、d軸電圧という)とq軸電機子巻線の電圧(以下、d軸電圧という)との合成ベクトルの大きさが、電動機3の電源電圧に対応して定まる所定値を超えないように決定される。また、sk_c≠0であるときには、d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Id_cは、sk_c=0であるときのd軸電流指令値およびq軸電流指令値を修正した値に決定される。これは、sk_c≠0であるときには、ステータ12aの電機子巻線13aの相電流とステータ12bの電機子巻線13bの相電流との間に、いずれの相でもスキュー指令sk_cの値の位相差が生じるため、d軸電流指令値およびq軸電流指令値がsk_c=0である場合と同じであっても、電動機3の出力トルクがsk_c=0である場合と異なるものとなるからである。
【0043】
第1電流制御部22aは、ステータ12aの3相の電機子巻線13a,13a,13aのうちの2つの相、例えばU相、W相の電機子巻線13a,13aのそれぞれの相電流を検出する電流検出手段である電流センサ26a,27aと、これらの電流センサ26a,27aの出力をBPフィルタ28aに通すことにより得られたステータ12aのU相電機子巻線13aの電流検出値Iu_s1およびW相電機子巻線13aの電流検出値Iw_s1から、ステータ12a側のd軸電流およびq軸電流のそれぞれの検出値(推定値)としてのd軸電流検出値Id_s1およびq軸電流検出値Iq_s1を算出するdq変換部29aとを備える。BPフィルタ28aは、電流センサ26a,27aの出力からノイズ成分を除去するためのバンドパス特性のフィルタである。
【0044】
dq変換部29aは、ステータ12aのU相電機子巻線13aの電流検出値Iu_s1と、W相電機子巻線13aの電流検出値Iw_s1と、これらから算出されるV相電機子巻線13aの電流検出値Iv_s1(=−Iu_s1−Iw_s1)とを、ロータ11の電気角θeに応じて次式(1)により座標変換することによりd軸電流検出値Id_s1およびq軸電流検出値Iq_s1を算出する。
【0045】
【数1】

【0046】
ここで、ステータ12aの電機子巻線13aの実際の各相電流の瞬時値を、d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cに従って制御する(Id_c,Iq_cと、ロータ11の現実の回転角度(dq座標系の回転位相)とから規定される各相電流の指令値に制御する)場合には、式(1)の右辺の演算に用いる電気角θeの値を、現在のロータ角度検出値θm_sに対応するロータ11の電気角(=θm_s×ロータ11の極対数)に設定すればよい。
【0047】
但し、本実施形態では、第1電流制御部22aは、ステータ12aの電機子巻線13aの実際の相電流がd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cに対応するステータ12aの電機子巻線13aの相電流の指令値を前記スキュー指令sk_cの位相差だけずらした値に一致するように、ステータ12aの電機子巻線13aの各相電流を制御する。このため、第1電流制御部22aのdq変換部29aには、前記角度補正部25から補正回転角度θm_s’(=θm_s+sk_c)が入力される。そして、dq変換部29aは、式(1)のθeの値として、前記補正回転角度θm_s’を電気角に換算してなる値(=θm_s’×ロータ11の極対数)を使用して、d軸電流検出値Id_s1およびq軸電流検出値Iq_s1を算出する。換言すれば、dq変換部29aは、ロータ11の実際の回転角度が、補正回転角度θm_s’であると見なしてd軸電流検出値Id_s1およびq軸電流検出値Iq_s1を算出する。
【0048】
第1電流制御部22aは、さらに、前記d軸電流指令値Id_cとd軸電流検出値Id_s1との偏差ΔId1(=Id_c−Id_s1)を求める演算部30aと、前記q軸電流指令値Iq_cとq軸電流検出値Iq_s1との偏差ΔIq1(=Iq_c−Iq_s1)を求める演算部31aと、それぞれの偏差ΔId1,ΔIq1から、それぞれフィードバック制御則としてのPI制御則(比例・積分制御則)により該偏差ΔId1,ΔIq1を解消する(0に近づける)ようにd軸電圧の基本指令値Vd1_c1およびq軸電圧の基本指令値Vq1_c1を各々算出するPI制御部32a,33aと、d軸およびq軸間で互いに干渉し合う速度起電力を打ち消すためのd軸電圧の補正量Vd2_c1およびq軸電圧の補正量Vq2_c1を求める非干渉制御部34aとを備える。なお、非干渉制御部34aは、d軸側の補正量Vd2_c1をq軸電流指令値Iq_cとロータ角速度θm_sとから算出し、q軸側の補正量Vq2_c1をd軸電流指令値Id_cとロータ角速度θm_sとから算出する。
【0049】
さらに、第1電流制御部22aは、d軸電圧の前記基本指令値Vd1_c1に補正量Vd2_c1を加えることで、最終的なd軸電圧指令値Vd_c1を求める演算部35aと、q軸電圧の前記基本指令値Vq1_c1に補正量Vq2_c1を加えることで、最終的なq軸電圧指令値Vq_c1を求める演算部36aと、それらの、d軸電圧指令値Vd_c1およびq軸電圧指令値Vq_c1からステータ12aのU相、V相、W相のそれぞれの電機子巻線13aの相電圧指令値Vu_c1,Vv_c1,Vw_c1を求める3相変換部37aと、これらの相電圧指令値Vu_c1,Vv_c1,Vw_c1に応じてステータ12aの各相の電機子巻線に通電するパワードライブユニット(PDU)38aとを備える。PDU38aは、その詳細な図示は省略するが、電動機3の電源たる蓄電器(図示省略)に接続されたインバータ回路(図示省略)を含む回路ユニットであり、PWM制御によりインバータ回路のスイッチ素子のオン・オフを制御して、ステータ12aの各相の電機子巻線13aと蓄電器との間の通電を制御する。
【0050】
前記3相変換部37aは、d軸電圧指令値Vd_c1およびq軸電圧指令値Vq_c1を、ロータ11の電気角θeに応じ、次式(2)により座標変換することにより、前記相電圧指令値Vu_c1,Vv_c1,Vw_c1を算出する。なお、式(2)中のA(θe)は、前記式(1)の但し書きで定義した行列A(θe)の転置行列である。
【0051】
【数2】

【0052】
この場合、本実施形態では、第1電流制御部22aは、前記したように、ステータ12aの電機子巻線13aの実際の相電流がd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cに対応するステータ12aの電機子巻線13aの相電流の指令値を前記スキュー指令sk_cの位相差だけずらした値に一致するように、ステータ12aの電機子巻線13aの各相電流を制御する。このため、第1電流制御部22aの3相変換部37aには、前記角度補正部25から補正回転角度θm_s’(=θm_s+sk_c)が入力される。そして、3相変換部37aは、dq変換部29aの場合と同様に、式(2)のθeの値として、前記補正回転角度θm_s’を電気角に換算してなる値(=θm_s’×ロータ11の極対数)を使用して、相電圧指令値Vu_c1,Vv_c1,Vw_c1を算出する。換言すれば、ロータ11の実際の回転角度が、補正回転角度θm_s’であると見なして相電圧指令値Vu_c1,Vv_c1,Vw_c1を算出する。
【0053】
以上説明した第1電流制御部22aの各機能部の制御処理により、ステータ12aの電機子巻線13aの各相電流がd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cに対応するステータ12aの電機子巻線13aの各相電流の指令値(ロータ11の電気角θeの値をロータ角度検出値θm_sにロータ11の極対数を乗じた値に一致させた場合にId_c,Iq_cに応じて規定される各相電流の指令値)を前記スキュー指令sk_cの位相差だけずらした値に一致するように制御される。
【0054】
前記第2電流制御部22bは、第1電流制御部22aと同様に、ステータ12bの2つの相(本実施形態ではU相、V相)の電機子巻線13b,13bの相電流を検出する電流センサ26b,27b、この電流センサ26b,27bの出力をBPフィルタ28bに通すことにより得られるステータ12bのU相電機子巻線13bの電流検出値Iu_s2およびW相電機子巻線13bの電流検出値Iw_s2から、ステータ12b側のd軸電流検出値Id_s2およびq軸電流検出値Iq_s2を算出するdq変換部29bとを備える。この場合、dq変換部29bは、前記式(1)の左辺のId_s1、Iq_s1をそれぞれId_s2、Iq_s2に置き換え、且つ、式(1)の右辺のIu_s1、Ivs_1、Iw_s1をそれぞれIu_s2、Iv_s2(=−Iu_s2−Iw_s2)、Iw_s2に置き換えた式によって、d軸電流検出値Id_s2およびq軸電流検出値Iq_s2を算出する。但し、第2電流制御部22bのdq変換部29bには、ロータ角度検出値θm_sがそのまま入力される。そして、dq変換部29bは、ロータ11の電気角θeの値として、ロータ角度検出値θm_sそのものを電気角に変換してなる値(=θm_s×ロータ11の極対数)を使用して、d軸電流検出値Id_s2およびq軸電流検出値Iq_s2を算出する。
【0055】
第2電流制御部22bは、さらに、第1電流制御部22aと同様に、前記d軸電流指令値Id_cとd軸電流検出値Id_s2との偏差ΔId2(=Id_c−Id_s2)、および、前記q軸電流指令値Iq_cとq軸電流検出値Iq_s2との偏差ΔIq2(=Iq_c−Iq_s2)をそれぞれ求める演算部30b,31bと、それぞれの偏差ΔId2,ΔIq2から、それぞれフィードバック制御則としてのPI制御則により該偏差ΔId2,ΔIq2を解消する(0に近づける)ようにd軸電圧の基本指令値Vd2_c1およびq軸電圧の基本指令値Vq2_c1を各々算出するPI制御部32b,33bと、d軸およびq軸間で互いに干渉し合う速度起電力を打ち消すためのd軸電圧の補正量Vd2_c2およびq軸電圧の補正量Vq2_c2を求める非干渉制御部34bとを備える。なお、非干渉制御部34bは、d軸側の補正量Vd2_c2をq軸電流指令値Iq_cとロータ角速度θm_sとから算出し、q軸側の補正量Vq2_c2をd軸電流指令値Id_cとロータ角速度θm_sとから算出する。この場合、本実施形態では、ステータ12aの電機子巻線13aとステータ12bの電機子巻線13bとはほぼ同一の仕様であり、且つ、それらのd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cも互いに同一であるため、非干渉制御部34bで算出される補正量Vd2_c2,Vq2_c2は、第1電流制御部22aの非干渉制御部34bで算出される補正量Vd2_c2,Vq2_c2に一致する。従って、非干渉制御部34a,34bのいずれか一方で算出された補正量を第1電流制御部22aと第2電流制御部22bとで共用してもよい。
【0056】
さらに、第2電流制御部22bは、第1電流制御部22aと同様に、d軸電圧の前記基本指令値Vd1_c2に補正量Vd2_c2を加えることで、最終的なd軸電圧指令値Vd_c2を求める演算部35bと、q軸電圧の前記基本指令値Vq1_c2に補正量Vq2_c2を加えることで、最終的なq軸電圧指令値Vq_c2を求める演算部36bと、それらのd軸電圧指令値Vd_c2およびq軸電圧指令値Vq_c2からステータ12bのU相、V相、W相のそれぞれの電機子巻線の相電圧指令値Vu_c2,Vv_c2,Vw_c2を求める3相変換部37bと、これらの相電圧指令値Vu_c2,Vv_c2,Vw_c2に応じてステータ12bの各相の電機子巻線13bに通電するパワードライブユニット(PDU)38bとを備える。PDU38bは、第1電流制御部22aのPDU38aと同様に、インバータ回路のPWM制御により、ステータ12bの各相の電機子巻線13bと蓄電器との間の通電を制御する。
【0057】
この場合、第2電流制御部22bの3相変換部37bは、前記式(2)の左辺のVu_c1、Vv_c1、Vw_c1をそれぞれ、Vuc_2、Vv_c2、Vw_c2に置き換え、且つ、式(2)の右辺のVd_c1、Vq_c1をそれぞれVd_c2、Vq_c2に置き換えた式によって、相電圧指令値Vu_c2,Vv_c2,Vw_c2を算出する。但し、3相変換部37bには、ロータ角度検出値θm_sがそのまま入力される。そして、3相変換部37bは、ロータ11の電気角θeの値として、ロータ角度検出値θm_sそのものを電気角に変換してなる値(=θm_s×ロータ11の極対数)を使用して、相電圧指令値Vu_c2,Vv_c2,Vw_c2を算出する。
【0058】
以上説明した第2電流制御部22bの各機能部の制御処理により、ステータ12bの電機子巻線13bの各相電流がd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cに対応するステータ12bの電機子巻線13bの各相電流の指令値(ロータ11の電気角θeの値をロータ角度検出値θm_sにロータ11の極対数を乗じた値に一致させた場合にId_c,Iq_cに応じて規定される各相電流の指令値)に一致するように制御される。
【0059】
従って、sk_c≠0となる電動機3の運転状態、すなわち、低トルク・低速運転状態では、ステータ12aの電機子巻線の各相電流と、ステータ12bの電機子巻線の各相電流とは、各相毎に、スキュー指令sk_cの位相差を有するように制御されることとなる。
【0060】
この結果、電動機3の低トルク・低速運転状態では、電動機3の出力トルクの変動を抑制することができる。ここで、図4の実線で示すグラフaは、電動機3の運転状態が低トルク・低速運転状態であるときに、本実施形態の制御装置8を使用して電動機3の運転制御を行なった場合における電動機3の実際の出力トルクの経時変化の例(実施例)を示している。なお、この場合、トルク指令値Tr_cとロータ11の回転速度とは一定に保持されている。また、図4の二点鎖線で示すグラフbは、グラフaの場合と同一のトルク指令値Tr_cおよび回転速度で、スキュー指令sk_cを強制的に0に保持した場合における電動機3の実際の出力トルクの経時変化の例(比較例)を示している。実施例における電動機3の出力トルクの変化幅Δ1は、比較例における電動機3の出力トルクの変化幅Δ2に比べて小さくなっている。このように、本実施形態の制御装置8によれば、低トルク・低速運転状態での電動機3の出力トルクの変動を適切に抑制できる。
【0061】
また、電動機3の運転状態が低トルク・低速運転状態でない場合には、スキュー指令sk_cが0に設定されるので(θm_s’=θm_sとなるので)、第1電流制御部22aのdq変換部29aおよび3相変換部37aの演算でそれぞれ使用されるロータ11の電気角θeは、第2電流制御部22bのdq変換部29bおよび3相変換部37bの演算でそれぞれ使用されるロータ11の電気角θeに一致する。このため、ステータ12aの電機子巻線13aの各相電流と、ステータ12bの電機子巻線13bの各相電流とは、各相毎に同一位相の相電流となる。この結果、ステータ12aのV相、U相、W相のそれぞれの電機子巻線13aがロータ11の軸心方向で発生する磁束と、ステータ12bのV相、U相、W相のそれぞれの電機子巻線13bがロータ11の軸心方向で発生する磁束とが、最大限に強め合うようになる。このため、低トルク・低速運転状態以外の電動機3の運転状態では、電動機3を高いエネルギー効率で(エネルギー損失を少なくして)、運転することができ、あるいは、電動機3の出力トルクを高トルクにすることができる。
【0062】
また、本実施形態では、両ステータ12a,12bの磁気回路断面積が互いに同一であるので、各ステータ12a,12bにその磁気回路断面積に応じた最大限の磁束を通すことができる。その結果、電動機3の出力トルクの最大値を高めることができる。
【0063】
なお、以上説明した実施形態では、第1電流制御部22aおよび第2電流制御部22bのうちの、第1電流制御部22aで補正回転角度θm_s’を使用してdq変換部29aおよび3相変換部37aの演算を行なうようにしたが、第1電流制御部22aでは、ロータ角度検出値θm_sをそのまま使用してdq変換部29aおよび3相変換部37aの演算を行ない、第2電流制御部22bでは、補正回転角度θm_s’を使用してdq変換部29bおよび3相変換部37bの演算を行なうようにしてもよい。
【0064】
あるいは、ロータ角度検出値θm_sに、スキュー指令sk_cをα倍(0<α<1)してなる値を加えたものを第1補正回転角度(=θm_s+α・sk_c)とすると共に、ロータ角度検出値θm_sから、スキュー指令sk_cを(1−α)倍してなる値を減算したものを第2補正回転角度(=θm_s−(1−α)・sk_c)とし、第1補正回転角度および第2補正回転角度のいずれか一方を第1電流制御部22aで使用してdq変換部29aおよび3相変換部37aの演算を行い、他方を第2電流制御部22bで使用してdq変換部29bおよび3相変換部37bの演算を行うようにしてもよい。
【0065】
また、前記実施形態では、スキュー指令sk_cを0でない値に設定する電動機3の運転状態を低トルク・低速運転状態だけにしたが、これ以外の運転状態で、必要に応じて、スキュー指令sk_cを0でない値に設定するようにしてもよい。
【0066】
また、前記実施形態では、電動機3をパラレル型のハイブリッド車両1に搭載した場合を例に採って説明したが、電動機3を電動車両もしくはシリーズ型のハイブリッド車両に、推進力発生源として搭載するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態における電動機を搭載した車両の概略構成を示す図。
【図2】図2(a),(b)は実施形態の電動機のロータおよびステータの構造を、それぞれ電動機の組立状態、分解状態で示す斜視図。
【図3】実施形態の電動機の制御装置の機能的構成を示すブロック図。
【図4】低トルク・低速運転状態のおける電動機の出力トルクの経時変化の例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0068】
3…電動機、11…ロータ、12a,12b…ステータ、13a,13b…電機子巻線、15…永久磁石、22a…第1電流制御部(通電制御手段)、22b…第2電流制御部(通電制御手段)、23…スキュー指令決定部23(通電制御手段)、25…角度補正部(通電制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を有するロータと、該ロータの回転軸心方向で該ロータの両側に設けられた2つのステータと、各ステータに装着された電機子巻線とを備えたアキシャルギャップ型の電動機の制御装置であって、
前記電動機の所定の運転状態において、一方のステータの電機子巻線の通電電流と他方のステータの電機子巻線の通電電流との間の位相差を前記出力トルクの変動を抑制するように設定し、その設定した位相差を有する通電電流を各ステータの電機子巻線に流すように該通電電流を制御する通電制御手段を備えたことを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の電動機の制御装置において、前記所定の運転状態は、前記電動機の出力トルクの要求値が所定値以下となり、且つ、該電動機の回転速度が所定値以下となる低トルク・低速運転状態を少なくとも含むことを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動機の制御装置において、前記通電制御手段は、前記電動機の運転状態が、前記所定の運転状態以外の運転状態であるときには、前記一方のステータの電機子巻線の通電電流と他方のステータの電機子巻線の通電電流とが互いに同一位相の電流になるように各ステータの電機子巻線に流す電流を制御することを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電動機の制御装置において、前記2つのステータのそれぞれの磁気回路断面積は、実質的に互いに同一であることを特徴とする電動機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−259289(P2008−259289A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97969(P2007−97969)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】