説明

エンジンの制御装置

【課題】可変バルブタイミング機構のロック位置学習からドライバのアクセル操作による目標バルブタイミング制御へ移行する際の加速応答遅れを抑制し、ドライブフィーリングの悪化を防止する。
【解決手段】ロック位置学習フラグFがF=1すなわちロック位置学習を実施中である場合、アクセル開度が0%から変化したか否かを調べる(S1,S2)。そして、アクセル開度が0%から変化した場合、ロック位置学習フラグFを0にクリアしてロック位置学習を終了させ(S3)、燃料噴射量を設定時間だけ増量させる(S4,S5)。これにより、ロック位置学習からドライバのアクセル操作による目標バルブタイミング制御へ移行する際の加速応答遅れを抑制し、ドライブフィーリングの悪化を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランク軸とカム軸との間の回転位相を調整する可変バルブタイミング機構を有するエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンのクランク軸とカム軸との間の回転位相を調整するバルブタイミング制御システムを備えたエンジンが実用化されており、このような可変バルブタイミング機構付きエンジンでは、エンジン運転状態に応じて吸気バルブと排気バルブとの少なくとも一方のバルブタイミングを連続的に変更する。
【0003】
ここで、可変バルブタイミング機構は、一般に、油圧によって駆動される油圧駆動式が採用されることが多く、所定の基準位置で機械的にロックするロック機構を備えており、この基準位置を学習することにより、可変タイミング機構の個体バラツキや経年変化の影響による制御性の低下を防止するようにしている。
【0004】
例えば、特許文献1には、可変バルブタイミングを最進角位置と最遅角位置の間の基準位置に機械的に係止(ロック)することで、エンジンの始動後油温が低い間は、吸入空気量を確保して内燃機関の始動を容易にする技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、最遅角位置を基準位置として、アイドル時以外に最遅角位置に機械的にロックして最遅角量を学習することで、最遅角量のばらつきを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−210424号公報
【特許文献2】特開2000−328969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ロック位置学習中にドライバがアクセルペダルを踏み込むと、ロック位置学習が終了されてカム角の位相が目標バルブタイミングへ制御されるが、この目標バルブタイミングへの制御は、ロックの解除を行ってから開始されるため、可変バルブタイミング機構の応答遅れが発生する。また、ロック位置学習が終了してロックが解除される前あるいはロックの解除中にドライバがアクセルペダルを踏み込んだ場合にも、同様に応答遅れが発生する。さらに、ロック位置学習が終了してロックが解除された状態であっても、未だカム角の位相がロック位置近傍にあるときには、ドライバのアクセルペダルの踏み込みにより目標バルブタイミングへの制御を開始しても、ロック位置近傍からの制御であるため、同様に応答遅れが発生する。
【0008】
このように、可変バルブタイミング機構のロック位置学習からドライバのアクセル操作による目標バルブタイミング制御へ移行する際には、可変バルブタイミング機構の応答遅れから加速応答遅れが生じ、ドライブフィーリングの悪化を招く虞がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、可変バルブタイミング機構のロック位置学習からドライバのアクセル操作による目標バルブタイミング制御へ移行する際の加速応答遅れを抑制し、ドライブフィーリングの悪化を防止することのできるエンジンの制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明によるエンジンの制御装置は、エンジンのクランク軸とカム軸との間の回転位相を調整してクランク角に対するカム角の位相を進角又は遅角させる可変バルブタイミング機構を有するエンジンの制御装置であって、上記エンジンが減速運転中且つ燃料カット実行中であると判定された場合、上記可変バルブタイミング機構を所定の基準位置にロックして上記カム角の位相差を学習するロック位置学習を実行するロック位置学習部と、上記ロック位置学習の実行中或いは終了後設定時間内に、アクセル開度が設定開度以上になったとき、上記エンジンの燃料噴射量を所定期間だけ増量させる増量制御部とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明によるエンジンの制御装置は、エンジンのクランク軸とカム軸との間の回転位相を調整してクランク角に対するカム角の位相を進角又は遅角させる可変バルブタイミング機構を有するエンジンの制御装置であって、上記エンジンが減速運転中且つ燃料カット実行中であると判定された場合、上記可変バルブタイミング機構を所定の基準位置にロックして上記カム角の位相差を学習するロック位置学習を実行するロック位置学習部と、上記ロック位置学習の実行中或いは終了後設定時間内に、アクセル開度が設定開度以上になったとき、上記エンジンの吸気量を所定期間だけ増量させる増量制御部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可変バルブタイミング機構のロック位置学習からドライバのアクセル操作による目標バルブタイミング制御へ移行する際の加速応答遅れを抑制し、ドライブフィーリングの悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の第1形態に係り、可変バルブタイミング機構付エンジンの全体構成図
【図2】同上、アクセル開度、進角量、燃料噴射量増量、吸気量増量の関係を示すタイムチャート
【図3】同上、増量制御ルーチンを示すフローチャート
【図4】本発明の実施の第2形態に係り、増量制御ルーチンを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は、可変バルブタイミング機構付きエンジン(以下、単に「エンジン」と略記する)である。図1においては、エンジン1は、シリンダブロック1aがクランク軸1bを中心として左右2つのバンク(図の右側が左バンク、左側が右バンク)に分割される水平対向型4気筒エンジンを示している。
【0015】
先ず、エンジン1の吸排気系について説明する。エンジン1のシリンダブロック1aの左右両バンクには、シリンダヘッド2がそれぞれ設けられ、各シリンダヘッド2に、吸気ポート2aと排気ポート2bとが気筒毎に形成されている。
【0016】
シリンダヘッド2の各吸気ポート2aには、インテークマニホルド3が連通され、このインテークマニホルド3の各気筒の吸気ポート2aの直上流に、インジェクタ11が配設されている。インテークマニホルド3は、各気筒の吸気通路が集合するエアチャンバ4を介してスロットルチャンバ5に連通されている。
【0017】
スロットルチャンバ5には、スロットルアクチュエータ10によって駆動されるスロットルバルブ5aが介装されている。更に、スロットルチャンバ5の上流には、吸気管6を介してエアクリーナ7が取付けられ、このエアクリーナ7に接続されるエアインテーク通路にチャンバ8が連通されている。
【0018】
一方、シリンダヘッド2の各排気ポート2bには、エキゾーストマニホルド14が連通され、このエキゾーストマニホルド14の集合部に排気管15が連通されている。排気管15には触媒コンバータ16が介装され、マフラ17に連通されている。
【0019】
尚、シリンダヘッド2の各気筒毎には、放電電極を燃焼室に露呈する点火プラグ12が配設されている、各点火プラグ12は、イグナイタ内蔵のイグニッションコイル13に接続されている。
【0020】
次に、エンジン1の動弁系について説明する。エンジン1の左右バンクの各シリンダヘッド2内には、それぞれ吸気カム軸19、排気カム軸20が配設され、各カム軸19,20にクランク軸1bの回転が伝達される。このクランク軸1bの吸気カム軸19、排気カム軸20への回転の伝達は、クランク軸1bに固設されたクランクプーリ21、タイミングベルト22、吸気カム軸19に介装された吸気カムプーリ23、排気カム軸20に固設された排気カムプーリ24等を介して行われる。そして、吸気カム軸19に設けられた吸気カム、及び排気カム軸20に設けられた排気カムにより、それぞれクランク軸1bと2対1の回転角度に維持される各カム軸19,20の回転に基づいて、吸気バルブ25、排気バルブ26が開閉駆動される。
【0021】
また、左右バンクの各吸気カム軸19と吸気カムプーリ23との間には、吸気カムプーリ23と吸気カム軸19とを相対回動してクランク軸1bに対する吸気カム軸19の回転位相(変位角)を連続的に変更する可変バルブタイミング機構27がそれぞれ配設されている。可変バルブタイミング機構27は、周知の油圧駆動式バルブタイミング機構であり、本実施の形態においては、各バンクの吸気カム軸19側にのみ可変バルブタイミング機構27が設けられている。すなわち、可変バルブタイミング機構27は、吸気カムプーリ23に連結されるハウジング内に、吸気カム軸19に連結されるベーン体を収納して構成され、このベーン体を油圧によって相対回転させることで、吸気カムプーリ23に対する吸気カム軸19の相対回転位相を変更し、排気バルブ26に対する吸気バルブ25のバルブタイミングを変更する。
【0022】
各バンクの可変バルブタイミング機構27には、オイルパン1cから図示しないオイルポンプを介して供給される作動油圧を調整するためのオイルフロー制御弁28が備えられている。オイルフロー制御弁28は、例えば電磁スプール弁等からなり、マイクロコンピュータ等からなる電子制御装置(以下、「ECU」と略記する)50によってデューティ制御され、可変バルブタイミング機構27の油圧室(ハウジング内にベーン体によって区画・形成される油圧室)に供給する油圧の大きさを調整する。
【0023】
すなわち、デューティ制御による通電電流に比例してオイルフロー制御弁28のスプールが軸方向に移動すると、可変バルブタイミング機構27の進角室(進角作動の油圧室)、遅角室(遅角作動の油圧室)に連通する各ポートが切換えられ、オイルの流れ方向が切換えられると共にパッセージの開度が調整される。その結果、可変バルブタイミング機構27の進角室、遅角室に供給する油圧の大きさが調整され、吸気バルブ25の開閉タイミングが進角或いは遅角側に制御される。
【0024】
尚、可変バルブタイミング機構27には、エンジンの始動時等、油圧の低い状態においてバルブタイミングを所定のタイミングに固定すべく、カム軸の回転位相を所定のタイミングに対応する位相にて機械的にロックするロック機構が設けられている。このロック機構は、例えばハウジングに設けられるロック穴と、ばね等によって同ロック穴方向に付勢された状態でベーン体に設けられるロックピンとから構成され、ロックピンとロック穴との係合により、ハウジングに対するベーン体の相対回転が機械的にロックされる。本実施の形態においては、最遅角位置と最進角位置との中間の位置にロックされるよう、ロックピンとロック穴との係合位置が設定されている。
【0025】
次に、エンジン1の状態を検出するセンサ類について説明する。エンジン1の吸気量及び燃料量に係るパラメータ検出用として、吸気管6のエアクリーナ7の直下流には、吸入空気量センサ30が介装され、また、図示しないアクセルペダルに、その踏み込み量を検出するアクセルポジションセンサ31が連設されている。
【0026】
また、エンジン1の運転状態パラメータの検出用として、オイルパン1cに油温センサ32が臨まされると共に、シリンダブロック1aの左右両バンクを連通する冷却水通路33に水温センサ34が臨まされている。更に、触媒コンバータ16の上流側には、空燃比センサ35が配設されている。
【0027】
一方、エンジン1の作動位置パラメータの検出用として、クランク軸1bに軸着するクランクロータ36の外周に、クランク角センサ37が対設され、各バンクの吸気カム軸19の後端に固設されたカムロータ39の外周には、カム位置検出用のカム位置センサ40がそれぞれ対設されている。
【0028】
以上の各センサ類の出力信号は、ECU50に入力されて処理され、エンジン運転状態が検出される。ECU50は、予め内部に格納されている制御プログラムに従って、各センサ類・スイッチ類等からの信号を処理し、前述のインジェクタ11、イグニッションコイル13に内蔵されるイグナイタ、スロットルアクチュエータ10、可変バルブタイミング機構27のオイルフロー制御弁28等に対する制御量を演算し、燃料噴射制御、点火時期制御、スロットル制御、バルブタイミング制御等のエンジン制御を行う。
【0029】
ここで、バルブタイミング制御においては、エンジン運転状態、例えばエンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて、クランク軸1bの回転角と吸気カム軸19の回転角との位相差の制御目標値である目標バルブタイミングを設定すると共に、クランク角センサ37から出力されるクランク角を表すクランクパルスとカム位置センサ40から出力されるカム位置を表すカム位置パルスとから、クランク軸1bの実際の回転角と吸気カム軸19の実際の回転角との位相差である実バルブタイミングを算出する。そして、この実バルブタイミングが目標バルブタイミングに収束するよう、オイルフロー制御弁28を介して可変バルブタイミング機構27をフィードバック制御する。
【0030】
また、ECU50は、所定の条件下で可変バルブタイミング機構27のロック位置(基準位置)を学習し、可変バルブタイミング機構27の個体差や温度による影響(エンジンの熱膨張等)等による実バルブタイミングとのずれを防止する。上述したように、本実施の形態においては、可変バルブタイミング機構27は最遅角位置と最進角位置との中間の位置でロックされるようになっており、この中間ロック位置で学習を行う。
【0031】
この中間ロック位置は、エンジン始動時の排気エミッションを低減する最適点を狙って設定されており、暖機完了後のアイドル時の進角量とは異なる位置である。すなわち、エンジン始動時は、エンジンが暖まっていないため、燃料が気化し難い。そこで、可変バルブタイミング機構27のロック位置を暖機完了後のアイドル時よりも進角側に設定して吸気ポートを早期に開き、排気ガスを吸気側に送ることで燃料を気化し易くし、排気エミッションの改善を図るようにしている。
【0032】
この場合、暖機完了後のアイドル運転時に、可変バルブタイミング機構27のロック位置学習を行うと、充填効率の低下によってアイドル運転が不安定になる虞がある。そのため、ECU50は、燃焼状態に影響を与え難い(エンジン発生トルクに影響を与え難い)コースティング走行時の燃料カット時(減速燃料カット時)に、可変バルブタイミング機構27の中間ロック位置を学習するロック位置学習部としての機能を備えている。
【0033】
また、ECU50は、図2に示すように、ロック位置学習中にドライバによるアクセル踏み込み操作がなされ、アクセル開度が設定開度以上になった場合(本実施の形態においては、アクセル開度が0%以上になった場合)、ロック位置学習を終了してロック解除を行い、その後、目標進角量への制御を開始する。従って、図2に一点鎖線で示すように、ロック解除時間分の目標進角量への制御遅れが生じることは避けられず、コースティング走行からのドライバのアクセル操作に対して一時的にエンジントルクが不足し、ドライブフィーリングの悪化を招く虞がある。
【0034】
このため、ECU50は、減速燃料カット時のロック位置学習中にアクセル開度が増加したとき、学習を終了させて目標進角量への制御を開始すると同時に、エンジンの燃料噴射量又は吸気量を設定時間だけ増量する増量制御部の機能も備えている。この燃料噴射量又は吸気量の増量により、目標進角量への遅れによるトルク不足を補い、レスポンス低下によるドライブフィーリングの悪化を回避することができる。
【0035】
燃料噴射量又は吸気量の増量は、ロック位置学習から目標進角量制御への移行時に所定の期間だけ実施され、図2に示すようなドライバの加速要求に対応する加速増量とは異なるものである。すなわち、加速増量は、アクセル開度が一定以上の場合にドライバの加速したいという要求を加味して通常の噴射量に増量するものであり、アクセル開度が一定以上の場合は、常に増量される。
【0036】
一方、可変バルブタイミング機構27のロック位置学習から目標進角量制御への移行時における増量は、ロック位置学習中にアクセルを踏まれた場合の、ロック解除時間分の目標進角量への遅れによるトルク不足を補うための増量であり、所定の期間が経過したときには終了される。この増量期間は、実進角量がエンジン運転状態に応じた目標進角量に達するまでの時間として設定され、予め実験或いはシミュレーションにより求めてシステム内に記憶された時間、或いは、カム位置センサ40等から実進角量が目標進角量に達したと確認されるまでの時間、燃料噴射量或いは吸気量の増量が行われる。
【0037】
具体的には、ECU50は、図3のフローチャートに示す増量制御ルーチンにより、ロック位置学習から目標進角量制御への移行時におけるレスポンス悪化を抑制する。次に、この増量制御ルーチンについて説明する。
【0038】
図3に示す増量制御ルーチンは、所定時間毎或いは所定周期毎に実行されるプログラム処理であり、先ず、ステップS1において、ロック位置学習フラグFが1にセットされているか、すなわち、現在、ロック位置学習を実施中であるか否かを調べる。その結果、F≠1でロック位置学習を実施していない場合には、ステップS1からそのままルーチンを抜け、F=1すなわちロック位置学習を実施中である場合には、ステップS2へ進む。
【0039】
ステップS2では、アクセルポジションセンサ31からの信号に基づいて、ドライバのアクセルペダルの踏み込み操作によりアクセル開度が0%から変化したか否かを調べる。そして、アクセル開度が0%のまま変化していない場合、本ルーチンを抜け、アクセル開度が0%から変化した場合、ステップS3でロック位置学習フラグFを0にクリアしてロック位置学習を終了させる。
【0040】
その後、ステップS4へ進み、ロック位置学習から目標進角量制御へ移行する際の一時的なエンジントルクの不足を補うため、インジェクタ11から噴射される燃料噴射量を増量させる。そして、ステップS5で設定時間が経過するまで燃料噴射量の増量を継続し、設定時間が経過したとき、ステップS6で増量をクリアしてルーチンを抜ける。
【0041】
尚、ステップS4での燃料噴射量増量に代えて、スロットルアクチュエータ10を介したスロットルバルブ5aのスロットル開度制御による吸入空気量の増量を行っても良い。また、ステップS5での設定時間待ちに代えて、センサによる実進角量が目標進角量に達したか否かを判定するようにしても良い。
【0042】
このように本実施の形態においては、可変バルブタイミング機構27のロック位置学習中に、ドライバによってアクセルペダルが踏み込まれたとき、所定期間だけ燃料噴射量或いは吸気量を増量する。これにより、ロック位置学習を終了してロックを解除し、目標進角量への制御を開始する際の一時的なエンジントルクの不足を補うことができ、加速の応答遅れを抑制してドライブフィーリングの悪化を防止することができる。
【0043】
次に、本発明の実施の第2形態について説明する。第2形態は、ロック位置学習が終了し、未だロック解除が完了していない、或るは未だカム角の位相がロック位置近傍にある状況下でドライバによりアクセルペダルが踏み込まれたときのレスポンス悪化を抑制するものである。第2形態の増量制御について、図4のフローチャートに示す。
【0044】
第2形態の増量制御ルーチンでは、最初のステップS11において、ロック位置学習フラグFが0にクリアされたか否か、すなわち、ロック位置学習を終了したか否かを判定する。そして、F≠0でロック位置学習を終了していない場合には、ステップS11からルーチンを抜け、F=0すなわちロック位置学習を終了したとき、ステップS12へ進む。
【0045】
ステップS12は、ロック位置学習が終了し、ロックを解除するのに要する設定時間T1が経過したか否かを判定する。この設定時間T1は、ロックピンを抜くのに要する時間であり、予め実験或いはシミュレーション等により求めて設定する。そして、設定時間T1経過していないときは、ステップS13に進み、設定時間T1経過したときは、ステップS17へ進む。
【0046】
ステップS13は、ドライバのアクセルペダルの踏み込み操作によりアクセル開度が0%から変化したか否かを調べる。そして、アクセル開度が0%のまま変化していない場合はステップS12へ戻る。アクセル開度が0%から変化した場合、ステップS13からステップS14へ進んで燃料噴射量の増量を行う(吸気量増量でも良い)。そして、第1形態と同様のステップS5,S6を経て所定期間だけ燃料噴射量(或いは吸入空気量)を増量させる。
【0047】
ステップS17は、センサによる実進角量が、減速燃料カット時の目標進角量に達したか否かを判定する。そして、実進角量が減速燃料カット時の目標進角量に達しているときは、エンジン運転状態に応じた通常のバルブタイミング制御が行われており、燃料噴射量増量或いは吸気量増量の必要はないのでそのままルーチンを抜ける。実進角量が減速燃料カット時の目標進角量に達していないときは、ステップS18へ進み、アクセル開度が0%から変化したか否かを調べる。そして、アクセル開度が0%のまま変化していない場合はステップS17へ戻り、アクセル開度が0%から変化した場合、ステップS14へ進んで燃料噴射量の増量を行い(吸気量増量でもよい)、第1形態と同様のステップS5、S6を経て本ルーチンを抜ける。
【0048】
尚、ステップS12の設定時間を、ロックピンを抜いてから実進角量が減速燃料カット時の目標進角量まで達する時間として予め設定し、設定時間経過したときはそのままルーチンを抜けるようにしても良い。
【0049】
第2形態においては、可変バルブタイミング機構27のロック位置学習を終了し、ロックの解除前、ロックの解除中或いはロックを解除しても未だカム角の位相がロック位置近傍にある状況下で、ドライバによってアクセルペダルが踏み込まれたとき、所定期間だけ燃料噴射量或いは吸気量を増量する。これにより、ロックを解除し、ロック位置から目標進角量への制御を移行する際の一時的なエンジントルクの不足を補うことができ、加速の応答遅れを抑制してドライブフィーリングの悪化を防止することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン
1b クランク軸
5a スロットルバルブ
10 スロットルアクチュエータ
19 吸気カム軸
20 排気カム軸
27 可変バルブタイミング機構
28 オイルフロー制御弁
50 電子制御装置(ロック位置学習部、増量制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランク軸とカム軸との間の回転位相を調整してクランク角に対するカム角の位相を進角又は遅角させる可変バルブタイミング機構を有するエンジンの制御装置であって、
上記エンジンが減速運転中且つ燃料カット実行中であると判定された場合、上記可変バルブタイミング機構を所定の基準位置にロックして上記カム角の位相差を学習するロック位置学習を実行するロック位置学習部と、
上記ロック位置学習の実行中或いは終了後設定時間内に、アクセル開度が設定開度以上になったとき、上記エンジンの燃料噴射量を所定期間だけ増量させる増量制御部と
を備えることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
エンジンのクランク軸とカム軸との間の回転位相を調整してクランク角に対するカム角の位相を進角又は遅角させる可変バルブタイミング機構を有するエンジンの制御装置であって、
上記エンジンが減速運転中且つ燃料カット実行中であると判定された場合、上記可変バルブタイミング機構を所定の基準位置にロックして上記カム角の位相差を学習するロック位置学習を実行するロック位置学習部と、
上記ロック位置学習の実行中或いは終了後設定時間内に、アクセル開度が設定開度以上になったとき、上記エンジンの吸気量を所定期間だけ増量させる増量制御部と
を備えることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項3】
上記所定期間を、上記カム角の進角量が目標進角量に達するまでの時間とすることを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
上記設定時間を、上記ロック位置学習が終了してからロックを解除する時間或いは上記ロック位置学習が終了してからロックを解除して上記カム角の進角量が減速燃料カット時の目標進角量に達するまでの時間とすることを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−32950(P2011−32950A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180920(P2009−180920)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】