説明

エンジンの潤滑装置

【課題】エンジンの潤滑装置において、ニードル軸受を使用することによって潤滑油量を低減する一方、ピストン摺動部において給油不足を来すことがないようにすることである。
【解決手段】上流側に配置されたジャーナル軸3と、下流側に配置されたコンロッド大端部軸受6に給油する軸受給油経路21とは別にコンロッド小端部軸受8とピストン摺動部14に給油する摺動部給油経路33を設け、前記ジャーナル軸受3及びコンロッド大端部軸受6をそれぞれニードル軸受40、41により構成し、上流側のニードル軸受40の油穴48を縮径することによってこれらのニードル軸受40、41に対する給油量を制限するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等のエンジンの潤滑装置に関し、特に、潤滑油量の低減に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の2気筒以上4サイクルエンジンにおける潤滑装置の給油系統を図14に基づいて説明する。潤滑対象となる軸受は、クランク軸1のジャーナル2に嵌合されたジャーナル軸受3、クランクピン4とコンロッド5との間においてクランクピン4に嵌合されたコンロッド大端部軸受6及びピストン9のピストンピン7に嵌合されたコンロッド小端部軸受8である。カム軸10においてはカム軸軸受11、バランス軸12においてはバランス軸軸受38である(特許文献1、同2、同3)。
【0003】
一方、潤滑油を供給する対象となる摺動部は、ピストン9とシリンダ内壁13との間のピストン摺動部14、カム軸10のカム15とタペット16との間のカム摺動部17である。
【0004】
給油系統は、図示のように、エンジンに内蔵されたオイルポンプ18に接続されたメインギャラリ19に、クランク軸1側の1気筒ごとの軸受給油経路21、カム軸10側に軸受給油経路22と1気筒ごとの摺動部給油経路23が設けられる。バランス軸12側においては、軸受給油経路39が設けられる。
【0005】
前記の軸受給油経路21は、軸支持部24を経てジャール軸受3の油穴25からジャーナル2を径方向に貫通し、そのジャーナル軸受3の反対側内周面に達する経路によりジャーナル軸受3に給油する。この軸受給油経路21は、ジャーナル2の内部で分岐され、その分岐経路26がコンロッド大端部軸受6の内径面に達しこれに給油する。コンロッド大端部軸受6は油穴25を有する。軸受給油経路21、分岐経路26及び油穴25はφ5〜6mm程度の径に設定され、油穴25は給油量を制限する機能はもっていない。
【0006】
コンロッド大端部軸受6の前記油穴25を経てコンロッド大端部28に入った経路は外部に開放され、その開放口29から前記ピストン摺動部14及びコンロッド小端部軸受8に対し、矢印Aで示したように、回転時の遠心力により潤滑油を噴射することにより給油する(特許文献2)。
【0007】
また、カム軸10においては、軸受給油経路22から油穴25を経てカム軸軸受11に対し給油される。摺動部給油経路23からカム15とタペット16との間のカム摺動部17にも給油される。バランス軸12においては、油穴25を経て軸受給油経路39からバランス軸軸受38に対し給油される。前記の軸受給油経路22、39及び油穴25は、いずれもφ5〜6mm程度の径に設定され、油穴25は給油量を制限する機能はもっていない。
【0008】
前記ジャーナル軸受3、コンロッド大端部軸受6、コンロッド小端部軸受8、カム軸軸受11及びバランス軸軸受38は、従来はいずれもブッシュやメタルにより構成された滑り軸受50が使用されていた(特許文献1)。図14において、各軸受3、6、8、11及び38にそれぞれかっこ書きで符号50を付して示す。
【0009】
一方、ニードル軸受は、軸受投影面積が小さい割には高負荷容量及び高剛性であり、滑り軸受に比べて低摩擦であるとともに、少ない潤滑油量で運転が可能であるという優れた特性を有する。この点に着目して、クランク軸のジャーナル軸受としてニードル軸受を使用する提案が早くからなされている(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−27126号公報
【特許文献2】特開2000−161334号公報
【特許文献3】特開2000−213323号公報
【特許文献4】米国特許第1921488号明細書及び図面
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ニードル軸受の前記特性を活かすべく、エンジンの潤滑装置において、クランク軸1のジャーナル軸受3、コンロッド大端部軸受6、コンロッド小端部軸受8、カム軸軸受11及びバランス軸軸受38の全部又は一部をニードル軸受によって構成することが考えられる。
【0012】
しかし、ニードル軸受は、隣り合うころ同士のすきまから潤滑油が軸受外部に漏れ易い傾向がある。このため、クランク軸1に関わる軸受給油経路21においては、相対的に上流に位置するジャーナル軸受3及びコンロッド大端部軸受6をそれぞれニードル軸受によって構成し、その運転が可能な程度に給油量を絞った場合、最下流に位置するピストン摺動部14及びコンロッド小端部軸受8に対する給油量が不足する問題がある。
【0013】
この場合、前述のように、ニードル軸受は少ない潤滑油量で運転可能なので、ニードル軸受によって構成されたコンロッド小端部軸受8は、少量であっても運転可能な量の給油が確保される限り支障はない。これに対し、ピストン摺動部14においては、ニードル軸受の運転可能な程度の給油量では、給油が不足し潤滑不良を生じるおそれがある。
【0014】
そこで、この発明は、エンジンの潤滑装置において、従来の滑り軸受に代えてニードル軸受を使用することによって潤滑油量を低減する一方、ピストン摺動部において給油不足を来すことがないエンジンの潤滑装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するために、この発明は、2気筒以上の4サイクルエンジンにおいて1気筒ごとにジャーナル軸受、コンロッド大端部軸受、コンロッド小端部軸受及びピストン摺動部に対する給油経路がメインギャラリに接続されたエンジンの潤滑装置において、前記給油経路は、前記メインギャラリに対して並列に接続された軸受給油経路と摺動部給油経路とによって構成され、前記軸受給油経路によって上流側に配置された前記ジャーナル軸と下流側に配置された前記コンロッド大端部軸受に給油する経路、前記摺動部給油経路によって前記コンロッド小端部軸受とピストン摺動部に給油する経路がそれぞれ構成され、少なくとも前記コンロッド大端部軸受がニードル軸受により構成され、前記軸受給油経路に前記コンロッド大端部軸受を構成するニードル軸受に対する給油量を運転可能な範囲に制限する給油制限手段が設けられた構成を採用した。
【0016】
前記の構成によると、摺動部給油経路は軸受給油経路から独立しているので、軸受給油経路の給油量を給油制限手段によって制限しても、摺動部給油経路の給油量に影響を及ぼすことがない。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、軸受給油経路においては、給油制限手段を経てニードル軸受に必要な比較的少量の給油を行えばよいので、全体の潤滑油量が減少し、オイルポンプの小型化が可能となる。その一方、ピストン摺動部に対しては摺動部給油経路を通じて必要な量の給油を行うことができるので、潤滑不良が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】は、実施形態1の給油経路図である。
【図2】は、同上のジャーナル軸受の一例を示す一部省略拡大断面図である。
【図3】は、同上のジャーナル軸受の他の例を示す一部省略拡大断面図である。
【図4】は、同上のジャーナル軸受の他の例を示す一部省略拡大断面図である。
【図5】は、同上のジャーナル軸受の他の例を示す一部省略拡大断面図である。
【図6】は、同上のコンロッド大端部軸受の一部省略拡大断面図である。
【図7】は、同上のコンロッド小端部軸受の一部省略拡大断面図である。
【図8】は、同上のカム軸軸受の一部省略拡大断面図である。
【図9】(a)図は、従来例の場合の実験結果の数値を記入した説明図、(b)図は、実施形態1の場合の実験結果の数値を記入した説明図である。
【図10】は、実施形態2の給油経路図である。
【図11】は、実施形態3の給油経路図である。
【図12】は、実施形態4の給油経路図である。
【図13】は、実施形態5の給油経路図である。
【図14】は、従来例の給油経路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
[実施形態1]
図1から図9に示した実施形態1に係るエンジンの潤滑装置の基本的な構成は、前述の「背景技術」において説明した図14にしたものと同じであるので、理解の便宜上、共通する部分には同一符号を付して示すこととする。
【0021】
この実施形態1の場合も、エンジンは2気筒以上の4サイクルエンジンであり、潤滑対象となる軸受は、クランク軸1のジャーナル2に気筒ごとに設けられたジャーナル軸受3、クランクピン4に嵌合されたコンロッド大端部軸受6及びピストンピン7に嵌合されたコンロッド小端部軸受8である。また、カム軸10、バランス軸12側において潤滑対象となる軸受は、それぞれカム軸軸受11及びバランス軸軸受38である。
【0022】
一方、潤滑油を供給する対象となる摺動部は、従来の場合と同様に、ピストン9とシリンダ内壁13との間のピストン摺動部14及びカム軸10のカム15とタペット16とのカム摺動部17である。
【0023】
この実施形態1においては、前記のジャーナル軸受3、コンロッド大端部軸受6、コンロッド小端部軸受8、カム軸軸受11及びバランス軸軸受38は、いずれもニードル軸受40、41、42、43、44、によって構成されているので、添付図面及び以下の説明においては、各軸受3、6、8、11、38にそれぞれ対応するニードル軸受40〜44の符号をかっこ書きで示す。
【0024】
潤滑油の給油系統は、図1に示したように、エンジンに内蔵されたオイルポンプ18に接続されたメインギャラリ19に、クランク軸1に対応して1気筒ごとの軸受給油経路21と、軸受給油経路21から独立した1気筒ごとの摺動部給油経路33が並列に設けられる点が従来の場合と異なる。カム軸10側は従来と同様に軸受給油経路22、摺動部給油経路23がメインギャラリ19に対して並列に設けられ、バランス軸12においても同様に軸受給油経路39が設けられる。
【0025】
前記の軸受給油経路21は、軸支持部24を経てジャーナル軸受3(40)の油穴48からジャーナル2を径方向に貫通し、そのジャーナル軸受3の反対側内周面に達する経路によりジャーナル軸受3(40)に給油を行う。軸受給油経路21は、ジャーナル2の内部で分岐され、その分岐経路26がコンロッド大端部軸受6(41)の内径面に達しこれに給油を行う。
【0026】
カム軸10においては、従来の場合と同様に、軸受給油経路22からカム軸軸受11(43)に対し給油され、1気筒ごとの摺動部給油経路23からカム15とタペット16との間のカム摺動部17に対し給油される。バランス軸12においては、軸受給油経路39からバランス軸軸受38(44)に給油される。
【0027】
前記の軸受給油経路21の内径は、従来の場合と同様にφ5〜6mm程度に設定される。これに対し油穴48は、軸受給油経路21の内径より縮小され、ジャーナル軸受3(40)及びコンロッド大端部軸受6(41)が運転可能な範囲の給油量に制限する範囲において可能な限り小さい内径、即ち、φ0.5〜3mm(断面積0.2mm〜7mm)に設定される。この縮小された内径をもった油穴48が特許請求の範囲にいう「給油制限手段」に相当する。
【0028】
コンロッド大端部軸受6(41)自体には給油制限手段は設けられていないが、上流側のジャーナル軸受3(40)の前記油穴48によってコンロッド大端部軸受6(41)への給油量が制限される。
【0029】
前記コンロッド大端部軸受6(41)を経てコンロッド大端部28に入った経路は外部に開放され、その開放口29から前記ピストン摺動部14及びコンロッド小端部軸受8(42)に対し、矢印Aで示したように、回転時の遠心力により潤滑油を噴射することにより給油を行う。ただし、この場合の給油量は前記のように油穴48において制限されているので、ピストン摺動部14及びコンロッド小端部軸受8の潤滑には相当不足する。
【0030】
前記の不足を補うべく、この発明においては、図1に示したように、メインギャラリ19に、別に1気筒ごとに摺動部給油経路33を設け、その先端部の給油ノズル37から、摺動部14とコンロッド小端部軸受8(42)に対し、これらの潤滑に必要な量の給油を行うようにしている(矢印B参照)。摺動部給油経路33は軸受給油経路21から独立しているから、給油ノズル37から供給される給油量は、軸受給油経路21における給油量の制限の影響を受けない。
【0031】
前記の摺動部給油経路33を設けたことにより、摺動部14とコンロッド小端部軸受8(42)には、矢印A、Bで示したように、2系統の給油経路21、33から潤滑油が供給される。前記のように、矢印Aで示した給油量は相当少ないので、実質的には矢印Bで示した摺動部給油経路33からの給油のみで必要量の給油が賄われる。
【0032】
なお、カム軸軸受11(43)の油穴48、バランス軸軸受38(44)の油穴48の内径もφ0.5〜3mmに設定される。
【0033】
次に、図2から図8に基づき、前記のジャーナル軸受3、コンロッド大端部軸受6、コンロッド小端部軸受8、カム軸軸受11及びバランス軸軸受38を構成するニードル軸受40〜44の具体的な構成について説明する。他の実施形態におけるニードル軸受も同様である。
【0034】
図2から図5は、ジャーナル軸受3を構成するニードル軸受40の諸例を示す。図2に示したニードル軸受40は、外輪45と針状ころ46及び針状ころ46を案内する保持器47により構成される。外輪45と保持器47はいずれも径方向の分割面で二分割された半環状のものを突き合わせることにより環状に形成された分轄型ニードル軸受を構成している。外輪45に、径方向に貫通した前記の油穴48が設けられる。油穴48は前記の径(φ0.5〜3mm)を有する。
【0035】
保持器47の両側縁の端部外径面に外径方向にL形に突き出し軸方向に対向する鍔部49、49が全周に設けられる。各鍔部49の対向内面は、それぞれ外輪45の両端面に接近する位置まで突き出す。
【0036】
前記の鍔部49と外輪45の対向端面間に従来のニードル軸受の場合に比べて顕著に小さいスキマ、即ち、外輪側狭窄部51、51が形成される。前記外輪側狭窄部51の大きさは0.2mmであるように設定される。外輪側狭窄部51の大きさを前記のように設定することにより、ニードル軸受40の回転トルクの増加を抑えながら、外輪45と保持器47の間のスキマから軸受外部に漏出する潤滑油の量を少なく抑えることができる。
【0037】
また、保持器47の両側縁の内径を通常のニードル軸受より小さく形成することにより、ジャーナル2に接近した小径内径面52を設けている。この小径内径面52とジャーナル2とによりジャーナル側狭窄部53、53が形成される。
【0038】
前記のニードル軸受40は、軸受給油経路21の上流側に位置するジャーナル軸受3として使用されるものであり、前記外輪側狭窄部51及びジャーナル側狭窄部53によって潤滑油の漏れを抑制するようにしている。
【0039】
図3に示したニードル軸受40は、潤滑油の漏れを抑制する手段として、外輪45と保持器47の間にシール部材54、保持器47とジャーナル2の間にシール部材55を介在するようにしている。
【0040】
図4に示したニードル軸受40は、前述の図2の場合と同様に、保持器47の両側縁にL形の鍔部49を設け、その鍔部49と外輪45の間にシール部材56、保持器47とジャーナル2との間にシール部材57を介在している。
【0041】
図5に示したニードル軸受40は、外輪45とクランクアームボス部58との間及び外輪45とカウンタウェイトボス部59の間にそれぞれシール部材60を介在している。
【0042】
次に、コンロッド大端部軸受6を構成するニードル軸受41は、図6に示したように、針状ころ46及び針状ころ46を案内する保持器47により構成されたものであり、外輪を持たず、コンロッド大端部28とクランクピン4の間に直接介在される。給油は分岐経路26から直接行われる。
【0043】
コンロッド小端部軸受8を構成するニードル軸受42は、図7に示したように、針状ころ46とその保持器47によって構成されたものであり、外輪を持たず、コンロッド小端部62とピストンピン7との間に介在される。油穴を持たず、給油は、保持器47とピストンピン7との間のすき間等から行われる。
【0044】
カム軸軸受11を構成するニードル軸受43は、図8に示したように、外輪45と針状ころ46及びその針状ころ46を案内する保持器47により構成された通常のものであり、軸支持部61とカム軸10との間に介在される。外輪45に設けられた油穴48は、そのニードル軸受44の運転に必要な量の潤滑油が供給できるように従来の場合より小径に形成され、「給油量制限手段」を構成している。バランス軸軸受38を構成するニードル軸受44もこれと同様に構成される。
【0045】
ここで、滑り軸受とニードル軸受の給油量と運転可否の関係を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
前記ニードル軸受単体の寿命試験の結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
前記の表1及び表2から、ニードル軸受は滑り軸受に比べ1/10〜1/100程度の少ない給油量であっても運転が可能であること、10ml/min程度の少ない給油量であっても100ml/minの給油量の場合と同程度の寿命が得られることがわかる。
【0050】
実験例
次に、クランク軸1に関連する部分のジャーナル軸受3、コンロッド大端部軸受6及びコンロッド小端部軸受8のいずれも滑り軸受50を使用した従来の場合(図14参照)と、いずれもニードル軸受40、41、42使用した実施形態1の場合(図1参照)について、ジャーナル軸受3、コンロッド大端部軸受6、ピストン摺動部14・コンロッド小端部軸受8における潤滑油量を測定した実験結果を表3に示すとともに、図9(a)(従来例)、図9(b)(実施形態1)にその数値を付記して示す。
【0051】
【表3】

【0052】
図9(a)に示したように、従来の場合は、メインギャラリ19から軸受給油経路21を経てジャーナル軸受3(50)に1000ml/minの給油を行うことにより、コンロッド大端部軸受6(50)において運転可能な量の油量600ml/minが供給される。その下流側のピストン摺動部14及びコンロッド小端部軸受8(50)に対しては300ml/minの油量を供給することができ、ピストン摺動部14の潤滑不良の発生を防止することができる。
【0053】
一方、図9(b)に示したように、実施形態1の場合は、ピストン摺動部14・コンロッド小端部軸受8(42)には摺動部給油経路33を経て300ml/minが直接供給され、これによりピストン摺動部14の潤滑不良の発生を防止することができる。ジャーナル軸受3(40)に対しては100ml/minの給油を行うだけで、コンロッド大端部軸受6(41)に運転可能な量の油量35ml/minが供給される。ピストン摺動部14及びコンロッド小端部軸受8(42)に対しては17.5ml/min及び前記の摺動部給油経路33からの給油量(300ml/min)の総和となる量の給油が行われる。厳密には、摺動部給油経路33からの給油量(300ml/min)は、17.5ml/minだけ少なくてもよい。
【0054】
前記のように、クランク軸1に関わる部分について、従来の場合と実施形態1の場合の総給油量を比較すると、従来の場合が1000ml/minであるのに対し、実施形態1の場合は400ml/minとなり、給油量が60%低減されていることがわかる。
【0055】
なお、カム軸軸受11及びバランス軸軸受38においては、従来の滑り軸受50を使用する場合に比べ、ニードル軸受43、44を使用し給油量を運転可能な量の油量に制限することにより、先に表1及び表2に示したように、給油量を1/10〜1/100に低減することができる。
【0056】
[実施形態2]
図10に示した実施形態2のエンジンの潤滑装置の場合は、「給油量制限手段」として、前記実施形態1におけるジャーナル軸受3(40)、カム軸軸受11(43)、バランス軸軸受38(44)の入側に絞り弁64を介在したものである。絞り弁64の径はφ0.5〜3mmに設定される。この場合の油穴48の径は、それぞれ給油経路21、22、39の径と同程度に設定される。その他の構成及び作用は、実施形態1の場合と同じである。
【0057】
[実施形態3]
図11に示した実施形態3のエンジンの潤滑装置の場合は、「給油量制限手段」として、クランク軸1の軸受給油経路21、カム軸10の軸受給油経路22、及びバランス軸12の軸受給油経路39の内径をそれぞれφ0.5〜3mmの小径に形成することで、給油量を制限するようにしたものである。これらの油穴48も同様の小径に形成される。その他の構成は、前記実施形態1、2の場合と同様である。
【0058】
[実施形態4]
図12は、実施形態4のエンジンの潤滑装置の場合を示す。前述の実施形態1から3においては、ジャーナル軸受3、コンロッド大端部軸受6、コンロッド小端部軸受8、カム軸軸受11及びバランス軸軸受38のすべての軸受をニードル軸受(40〜44)によって構成する場合について述べたが、ニードル軸受を使用することによる潤滑油量の削減効果は、必ずしもすべての軸受をニードル軸受とする必要はなく、滑り軸受とニードル軸受を組み合わせて用いることによってもある程度の削減効果が期待できる。
【0059】
滑り軸受とニードル軸受を組み合わせて用いる場合、クランク軸1の軸受給油経路21に属する軸受、即ち、ジャーナル軸受3及びコンロッド大端部軸受6においては、上流側のジャーナル軸受3に滑り軸受を用い、下流側のコンロッド大端部軸受6にニードル軸受を用いる組み合わせにする必要がある。これとは逆に、ニードル軸受を上流に配置すると、そのニードル軸受において制限された給油量では、下流に配置された滑り軸受の運転には不足する。
【0060】
そこで、図12に示した実施形態4の場合は、上流側のジャーナル軸受3として滑り軸受50を用い、コンロッド大端部軸受6としては前記の場合と同様にニードル軸受41を用いた例を示している。コンロッド大端部軸受6(41)に対する給油制限手段としては分岐経路26の内径を縮小する構成を用いる。分岐経路26の出口に絞り弁を取り付けてもよい。この場合、他のすべての軸受、即ち、コンロッド小端部軸受8、カム軸軸受11及びバランス軸軸受38を滑り軸受50によって構成したとしても、コンロッド大端部軸受6(41)に対する給油量が制限されることにより全体の給油量削減効果に寄与することができる。
【0061】
[実施形態5]
図13に示した実施形態5は、メインオイルポンプ18aの他にサブオイルポンプ18bを設け、メインオイルポンプ18aは、メインギャラリ19a及びそのメインギャラリ19aに並列に接続された摺動部給油経路23、33に対応し、サブオイルポンプ18bは、サブギャラリ19b及びそのサブギャラリ19bに並列に接続された軸受給油経路21、22、39に対応して設けられる。軸受給油経路21、22、39は、前記実施形態3(図11参照)と同様にその内径を縮小することによりニードル軸受40、41、43、44への給油を制限している。
【0062】
このような構成をとると、メインオイルポンプ18aは、摺動部給油経路23、33に対する給油のみとなり給油量が減少するので、従来のオイルポンプ18より小型化することができる。また、サブオイルポンプ18bは、軸受給油経路21、22、39に対する給油のみとなり、しかも給油量が制限されているので、この場合も従来のオイルポンプ18より小型化することができる。
【0063】
実施形態1から5のいずれの場合においても、従来の場合に比べ給油量が削減されるので、オイルポンプ18、18a、18bは、エンジン内蔵のポンプに代えて、エンジン外部に設置する小型の電動ポンプを使用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 クランク軸
2 ジャーナル
3 ジャーナル軸受
4 クランクピン
5 コンロッド
6 コンロッド大端部軸受
7 ピストンピン
8 コンロッド小端部軸受
9 ピストン
10 カム軸
11 カム軸軸受
12 バランス軸
13 シリンダ内壁
14 ピストン摺動部
15 カム
16 タペット
17 カム摺動部
18 オイルポンプ
18a メインオイルポンプ
18b サブオイルポンプ
19 メインギャラリ
19a メインギャラリ
19b サブギャラリ
21、22 軸受給油経路
23 摺動部給油経路
24 軸支持部
25 油穴
26 分岐経路
28 コンロッド大端部
29 開放口
33 摺動部給油経路
37 給油ノズル
38 バランス軸軸受
39 軸受給油経路
40、41、42、43、44 ニードル軸受
45 外輪
46 針状ころ
47 保持器
48 油穴
49 鍔部
50 滑り軸受
51 外輪側狭窄部
52 小径内径面
53 ジャーナル側狭窄部
54、55、56、57 シール部材
58 クランクアームボス部
59 カウンタウェイトボス部
60 シール部材
61 軸支持部
62 コンロッド小端部
64 絞り弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2気筒以上の4サイクルエンジンにおいて1気筒ごとにジャーナル軸受、コンロッド大端部軸受、コンロッド小端部軸受及びピストン摺動部に対する給油経路がメインギャラリに接続されたエンジンの潤滑装置において、前記給油経路は、前記メインギャラリに対して並列に接続された軸受給油経路と摺動部給油経路とによって構成され、前記軸受給油経路によって上流側に配置された前記ジャーナル軸と下流側に配置された前記コンロッド大端部軸受に給油する経路、前記摺動部給油経路によって前記コンロッド小端部軸受とピストン摺動部に給油する経路がそれぞれ構成され、少なくとも前記コンロッド大端部軸受がニードル軸受により構成され、前記軸受給油経路に前記コンロッド大端部軸受を構成するニードル軸受に対する給油量を運転可能な範囲に制限する給油制限手段が設けられたことを特徴とするエンジンの潤滑装置。
【請求項2】
前記ジャーナル軸受及びコンロッド小端部軸受がニードル軸受により構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの潤滑装置。
【請求項3】
前記給油制限手段は、前記コンロッド大端部軸受の上流側に配置されたジャーナル軸受がニードル軸受により構成され、かつそのジャーナル軸受を構成するニードル軸受の外輪に設けた油穴の内径が前記軸受給油経路の内径より小さく設定された構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの潤滑装置。
【請求項4】
前記給油制限手段は、前記コンロッド大端部軸受の上流側に配置されたジャーナル軸受がニードル軸受により構成され、かつそのジャーナル軸受を構成するニードル軸受の外輪の油穴の入側に絞り弁が設けられた構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの潤滑装置。
【請求項5】
前記給油制限手段は、前記コンロッド大端部軸受の上流側に配置されたジャーナル軸受がニードル軸受により構成され、かつメインギャラリから前記ジャーナル軸受を構成するニードル軸受に至る軸受給油経路の内径が所定の大きさに制限された構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの潤滑装置。
【請求項6】
前記メインギャラリにカム軸軸受に対する軸受給油経路と、カム摺動部に対する摺動部給油経路が設けられ、前記カム軸軸受の少なくとも1か所のカム軸軸受がニードル軸受によって構成され、前記軸受給油経路に前記カム軸軸受を構成するニードル軸受に対する給油量を運転可能な範囲に制限する給油制限手段が設けられたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のエンジンの潤滑装置。
【請求項7】
前記給油制限手段は、前記カム軸軸受を構成するニードル軸受の油穴の内径の大きさ、その油穴の入側に設けられた絞り弁、又は前記軸受給油経路の内径の大きさのいずれかによって給油量を制限するものであることを特徴とする請求項6に記載のエンジンの潤滑装置。
【請求項8】
前記コンロッド小端部軸受及びピストン摺動部に対する摺部給油経路とカム摺動部に対する摺動部給油経路に対応したメインオイルポンプと、前記クランク軸側の軸受給油経路とカム軸側の軸受給油経路に対応したサブオイルポンプが独立に設けられたことを特徴とする請求項6又は7に記載のエンジンの潤滑装置。
【請求項9】
前記ニードル軸受が分割型であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のエンジンの潤滑装置。
【請求項10】
前記オイルポンプが、エンジン外部に設置された電動オイルポンプであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のエンジンの潤滑装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−163146(P2011−163146A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24059(P2010−24059)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】