サスペンションシステム
【課題】サスペンションシステムにおいて、高周波数の振動が生じても、低周波数の振動が生じても、良好に振動を抑制可能とする。
【解決手段】ばね下部の振動の周波数がしきい値以下である場合には、位相進みの程度が小さい特性で位相進み処理が行われる(a)。その結果、ばね下変位の制御によって、ばね上部のばね上共振周波数付近の振動を良好に抑制することができる。ばね下部の振動の周波数がしきい値より高い場合には、位相進みの程度が大きい特性で位相進み処理が行われる(b)。その結果、ばね下共振周波数付近のばね下の振動を良好に抑制することができ、それによって、ばね上部の振動を抑制することができる。
【解決手段】ばね下部の振動の周波数がしきい値以下である場合には、位相進みの程度が小さい特性で位相進み処理が行われる(a)。その結果、ばね下変位の制御によって、ばね上部のばね上共振周波数付近の振動を良好に抑制することができる。ばね下部の振動の周波数がしきい値より高い場合には、位相進みの程度が大きい特性で位相進み処理が行われる(b)。その結果、ばね下共振周波数付近のばね下の振動を良好に抑制することができ、それによって、ばね上部の振動を抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションの制御に関するものであり、特に、振動取得装置によって取得された振動の処理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の位相補償フィルタ手段を備え、ばね上部の共振周波数が高い場合には位相遅れが小さい特性のフィルタ手段を選択し、共振周波数が低い場合には位相遅れが大きい特性のフィルタ手段を選択することが記載されている。荷重が小さく、共振周波数が高い場合には、位相遅れが小さいフィルタ手段を選択することにより、応答性を向上させ、良好な制振効果を得ることができる。
特許文献2には、位相遅れ手段と位相進み手段とを備え、ばね上部の周波数が設定周波数以上である場合に位相進み手段を選択し、設定周波数より低い場合に位相遅れ手段を選択することが記載されている。それによって、乗り心地の向上を図ることができる。
特許文献3には、ばね上部とばね下部との間に、サスペンションスプリング、ショックアブソーバおよび上下方向力発生装置が互いに並列に設けられた場合において、上下方向力発生装置が、ばね下部の絶対速度とばね上部の絶対速度とに基づいて制御される場合に、ばね下対応ゲインとばね上対応ゲインとの各々が、サスペンションスプリングおよびショックアブソーバの分担分を考慮して決定されることが記載されている。
特許文献4〜6には、ばね上部の振動等に基づいて減衰特性を制御することが記載されている。
【特許文献1】特開平8−258529号公報
【特許文献2】特開平5−319056号公報
【特許文献3】特開平7−89321号公報
【特許文献4】特開平7−32838号公報
【特許文献5】特開平5−201224号公報
【特許文献6】特公平3−16281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、サスペンションシステムにおいて、振動取得装置によって取得された振動の処理を特許文献1,2に記載の態様とは異なる態様で行うことにより、高周波数の振動が生じた場合にも、低周波数の振動が生じた場合にも、良好に抑制可能とすることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0004】
請求項1に記載のサスペンションシステムは、(a)車両のばね上部とばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動を取得する振動取得装置と、(b)その振動取得装置によって取得された振動について位相進み処理を行うものであって、互いに位相進みの程度が異なる複数の特性を有する処理装置と、(c)前記ばね上部と前記ばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動の周波数に基づいて前記複数の特性のうちの1つを選択する特性選択部と、(d)その特性選択部によって選択された特性で前記処理装置により処理された振動を用いて前記ばね上部と前記ばね下部との間のサスペンションを制御するサスペンション制御部とを含むものとされる。
車両のサスペンションシステムにおいて、車両のばね上部とばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動が取得され、取得された振動に対して、位相進み処理が処理装置において行われ、その処理された値に基づいてサスペンションの制御が行われる。サスペンション制御において、その制御に用いられるアクチュエータの応答遅れ等に起因して、実際の振動に対して制御が遅れる。特に、応答遅れが大きいアクチュエータが用いられる場合には、振動を良好に抑制することが困難な場合がある。このような場合に、振動取得装置によって得られた振動に対して位相進み処理を施し、その処理された振動に基づいてアクチュエータが制御されるようにすれば、制御遅れを抑制することが可能となる。しかし、例えば、処理装置の位相進みの程度(特性)を、ばね上共振周波数付近の振動を抑制する場合に適した程度とした場合には、ばね上共振周波数付近の振動を良好に抑制することができるが、ばね下共振周波数付近の振動を良好に抑制することができない。逆に、処理装置の特性を、ばね下共振周波数付近の振動を抑制するのに適した程度とした場合には、ばね上共振周波数付近の振動を良好に抑制することができないという問題が生じる。そこで、本請求項1に記載のサスペンションシステムにおいては、処理装置を、互いに位相の進みの程度が異なる複数の特性を有するものとし、ばね上部とばね下部との少なくとも一方の振動の周波数に基づいて複数の特性のうちの1つが選択されるようにした。その結果、車両に、ばね上共振周波数付近の振動が生じても、ばね下共振周波数付近の振動が生じても、振動を良好に抑制することが可能となり、乗り心地を向上させることができる。
それに対して、前述のように、特許文献1に記載のサスペンションシステムにおいても、特許文献2に記載のサスペンションシステムにおいても、位相の進みの程度が互いに異なる複数の位相進みフィルタを含むものではなく、互いに特性が異なる複数の位相進みフィルタから1つが選択されることもない。この点において、本発明とは異なる。
振動取得装置は、1つのセンサを含むものとしたり、複数のセンサを含むものとしたりすることができる。振動取得装置が1つのセンサを含む場合において、(i)その1つのセンサによる検出値をそのまま、ばね上部とばね下部との少なくとも一方の振動(以下、車両に生じる振動と略称することがある)として取得するものとしたり、(ii)1つのセンサによる検出値にノイズ除去、カットオフ周波数以下の振動の除去等の処理を施した値を車両に生じた振動として取得するものとしたり、(iii)1つのセンサによる検出値を微分、あるいは、積分した値を車両に生じた振動として取得するものとしたり、(iv)これらのうちの2つ以上の処理や演算が実行されることによって得られた値を振動として取得するものとしたりすることができる。また、複数のセンサを含む場合において、(i)複数のセンサによる検出値を演算することにより車両に生じた振動を取得するものとしたり、(ii)複数のセンサによる検出値、あるいは、演算値に対して上述のノイズ除去等の処理を施した値を車両に生じた振動として取得するものとしたりすることができる。具体的には、(i)ばね上加速度センサを含み、そのばね上加速度センサによる検出値にノイズ除去等の処理を施した値をばね上加速度として取得するものとしたり、(ii)そのばね上加速度を積分して、ばね上部の絶対速度を取得するものとしたり、(iii)ばね上加速度センサおよび上下ストロークセンサ(ばね上部とばね下部との間のストロークを検出するセンサ)を含み、ばね上加速度センサによる検出値を2回積分した値から、上下ストロークセンサによる検出値を引いた値をばね下部の変位として取得するものとしたりすることができる。
振動の周波数は、周波数取得装置によって取得される。周波数取得装置は、ばね上部の振動の周波数を取得するものであっても、ばね下部の振動の周波数を取得するものであってもよい。周波数取得装置は、ばね上部(あるいはばね下部)の変位の変化、絶対速度の変化等に基づいて取得するものとしたり、フィルタ(例えば、バンドパスフィルタ)を使用して取得するものとしたりすることができる。例えば、予め定められた設定時間内に変位が0(基準位置にある)になった回数、絶対速度が0(振幅の絶対値が極大、あるいは極小の位置にある)になった回数等に基づけば、周波数を取得することができる。また、設定周波数範囲の振動を通過させるバンドフィルタを用い、通過した出力が設定値以上である場合には、その振動の周波数が設定周波数領域内であることを取得することができる。
サスペンションの制御は、ばね上部の振動に基づいて行われる場合、ばね下部の振動に基づいて行われる場合、これらの両方に基づいて行われる場合等がある。
処理装置は、入力信号(振動取得装置によって取得された振動)に対して位相進み処理を行うものであり、互いに位相の進みの程度が異なる複数の特性を有する。処理装置は、互いに特性が異なる複数の処理部を含むものであっても、互いに異なる複数の特性を有する1つの処理部を含むものであってもよい。処理装置は、例えば、微分要素を含む1つ以上のフィルタを含むものとすることができるのであり、互いに異なる特性の複数のフィルタを含むものとしたり、1つのフィルタであって、異なる特性で処理可能なものを含むものとしたりすることができる。例えば、フィルタがディジタルフィルタである場合には、その演算に用いられる係数の1つ以上を変更すれば、特性を変更することができる。また、特性を連続的に変更することも可能である。
特性選択部は、処理装置が複数の処理部を含む場合には、複数の処理部のうちの1つを選択する。処理部を選択することによって特性を選択したことになる。処理装置が1つの処理部を含む場合には、その処理部が有する複数の特性のうちの1つを選択する。ディジタルフィルタを含む場合には、1つ以上の係数等を選択あるいは決定することにより特性が選択されたことになる。また、サスペンションの制御が、ばね上部の振動に基づいて行われる場合には、ばね上部の振動の周波数に基づいて特性を選択し、ばね下部の振動に基づいて行われる場合には、ばね下部の振動の周波数に基づいて選択することができるが、それに限らない。ばね下部の振動とばね上部の振動との間には、予め定められた関係があるため、いずれか一方の振動の周波数に基づいて他方の振動の周波数を取得することができる。
【特許請求可能な発明】
【0005】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組を、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0006】
(1)車両のばね上部とばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動を取得する振動取得装置と、
その振動取得装置によって取得された振動について位相進み処理を行うものであって、互いに位相進みの程度が異なる複数の特性を有する処理装置と、
前記ばね上部と前記ばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動の周波数に基づいて前記複数の特性のうちの1つを選択する特性選択部と、
その特性選択部によって選択された特性で前記処理装置により処理された振動を用いて前記ばね上部と前記ばね下部との間のサスペンションを制御するサスペンション制御部と
を含むことを特徴とするサスペンションシステム(請求項1)。
(2)前記振動取得装置が、前記ばね下部の上下方向の振動を取得するばね下振動取得部を含み、前記処理装置が、第1の特性と、その第1の特性より位相の進みの程度が大きい第2の特性とを含み、前記特性選択部が、前記周波数が予め定められた設定周波数より低い場合に前記第1の特性を選択し、前記周波数が前記設定周波数以上である場合に前記第2の特性を選択する周波数対応特性選択部を含む(1)項に記載のサスペンションシステム。
本サスペンションシステムにおいては、ばね下部の振動の周波数に基づいて処理装置の特性が選択される。特許文献1,2に記載のサスペンションシステムにおいてはばね上部の振動の周波数に基づいて特性が選択されるのであり、この点が異なる。
(3)前記サスペンション制御部が、(a)前記周波数が前記設定周波数より低い場合に、前記処理装置によって前記第1の特性で処理された前記ばね下部の振動に基づいて前記サスペンションを制御する低周波振動時ばね下制御部と、(b)前記周波数が前記設定周波数以上である場合に、前記処理装置によって前記第2の特性で処理された前記ばね下部の振動に基づいて前記サスペンションを制御する高周波振動時ばね下制御部とを含む(2)項に記載のサスペンションシステム(請求項2)。
周波数が高い振動が生じた場合に、位相進みの程度が大きい特性が選択される。位相進みの程度が大きい特性で処理が行われ、その処理された振動に基づいてサスペンションの制御が行われる。その結果、周波数が高い振動を良好に抑制することができる。
周波数が低い振動が生じた場合に、位相進みの程度が小さい特性が選択されて、位相進みの程度が小さい特性で処理が行われる。その処理値に基づいたサスペンション制御により、周波数が低い振動を良好に抑制することができる。
以上のように、低周波数の振動が生じた場合に第1の特性が選択され、高周波数の振動が生じた場合に第2の特性が選択されるようにすれば、周波数が高い振動が生じても、周波数が低い振動が生じても、振動を良好に抑制することが可能となる。
(4)前記振動取得装置が、前記ばね上部の上下方向の振動を取得するばね上振動取得部を含み、前記処理装置が、位相の進みの程度が前記第2の特性より小さい第3の特性を有し、前記サスペンション制御部が、前記処理装置によって第3の特性で処理された前記ばね上部の上下方向の振動を使用して前記サスペンションを制御するばね上制御部を含む(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のサスペンションシステム(請求項3)。
ばね上共振周波数は、ばね下共振周波数より低いのが普通である。そのため、ばね上部の振動を抑制するためにサスペンション制御が行われる場合には、位相進みの程度が小さい第3の特性が選択され、その第3の特性で処理された値に基づいてサスペンション制御が行われる。なお、第3の特性は、第2の特性より位相進みの程度が小さい特性であるが、第1の特性と位相進みの程度を同じとしても、異ならせてもよい。
(5)当該サスペンションシステムが、(a)前記周波数が前記設定周波数より低い場合に、前記ばね上制御部と前記低周波振動時ばね下制御部とを選択する手段と、(b) 前記周波数が前記設定周波数以上である場合に、前記高周波振動時ばね下制御部を選択する手段との少なくとも一方を含む周波数対応制御部選択部を含む(4)項に記載のサスペンションシステム(請求項4)。
ばね上部の振動が、その振動の周波数の大小と関係なく、処理装置によって第3の特性で処理される場合には、ばね上制御部によって、ばね上部の周波数の高い振動を抑制することが困難である。
それに対して、高周波数の振動が生じた場合に、高周波振動時ばね下制御部によって、ばね下部の高周波数の振動が抑制されれば、それによって、ばね上部の高周波数の振動を抑制することが可能となる。
また、振動の周波数が低い場合には、ばね上制御部と低周波振動時ばね下制御部との両方が実行される。ばね上制御部によってばね上部の振動が抑制されるとともに、低周波振動時ばね下制御部によってばね下部の振動が抑制されるため、ばね上部の振動を良好に抑制することができ、乗り心地の向上を図ることができる。さらに、たとえ、ばね上制御部によってばね上部の振動を充分に抑制できない場合であっても、低周波振動時ばね下制御部によってばね下部の振動が抑制されるため、それによって、ばね上部の振動を良好に抑制することが可能となる。
なお、設定周波数以上の振動が生じた場合には、高周波振動時ばね下制御部とばね上制御部とのいずれか一方が択一的に選択されるようにすることもできる。設定周波数の大きさによっては、ばね上制御部による制御が有効な場合があるからである。
(6)当該サスペンションシステムが、(a)前記周波数がばね上共振周波数を含む領域にある場合に、前記ばね上制御部と前記低周波振動時ばね下制御部とを選択する手段と、(b)前記周波数がばね下共振周波数を含む領域にある場合に、前記高周波振動時ばね下制御部を選択する手段との少なくとも一方を含む共振周波数対応制御部選択部を含む(4)項または(5)項に記載のサスペンションシステム。
(7)前記第1の特性を、ばね上共振周波数を含む周波数の振動を抑制可能な振動を出力する特性とし、前記第2の特性を、ばね下共振周波数を含む周波数の振動を抑制可能な振動を出力する特性とした(2)項ないし(6)項のいずれか1つに記載のサスペンションシステム。
ばね上共振周波数とばね下共振周波数との両方の成分を含む振動が生じることは殆どない。そのため、第1特性と、第2特性とのいずれか一方が択一的に選択されるようにすれば、いずれの振動が生じても、振動を良好に抑制することができ、乗り心地の低下を抑制することができる。
ばね上共振周波数は、ばね上重量を含む車両の諸元によって決まるが、積載重量が変わると変化する。そのため、第1の特性は、標準的な積載状態で決まる共振周波数がほぼ中央に位置する範囲の領域の振動を出力する特性とすることが望ましい。その結果、積載重量が変化して共振周波数が変化しても、ばね上部の振動を良好に抑制することが可能となる。
(8)前記ばね上制御部が、ばね上対応ゲインを使用して前記サスペンションを制御するばね上対応ゲイン使用制御部を含み、前記低周波振動時ばね下制御部が、前記サスペンションを前記ばね上制御部と前記低周波振動時ばね下制御部との両方によって制御する場合に、前記ばね上対応ゲインより大きいばね下対応ゲインを使用して前記サスペンションを制御するばね下ゲイン使用制御部を含む(4)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のサスペンションシステム(請求項5)。
ばね上制御部による制御と低周波振動時ばね下制御部による制御との両方が行われる場合において、低周波振動時ばね下制御部において使用されるゲインが、ばね上制御部において使用されるゲインより大きくされる。実験あるいはシミュレーション等により、ばね上制御部による制御とばね下制御部による制御との両方が行われる場合に、ばね下制御部において使用されるゲインが、ばね上制御部において使用されるゲインより大きい方が、大きな制振効果が得られるからである。
(9)前記ばね上対応ゲインを、0.1〜1.5から選択された値とし、前記ばね下対応ゲインを、0.3〜1.5の間の値であって、かつ、前記ばね上対応ゲインより大きい値から選択された値とした(8)項に記載のサスペンションシステム。
ばね上対応ゲインは、1.2以下、1.0以下、0.8以下の値とすることが望ましく、0.2以上、0.4以上の値とすることが望ましい。ばね下対応ゲインは、1.3以下、1.1以下、0.9以下とすることが望ましく、0.3以上、0.5以上とすることが望ましい。
ばね上対応ゲイン、ばね下対応ゲインを、それぞれ1より小さい値とすれば、1以上の値とした場合より、アクチュエータの出力を小さくすることができ、消費エネルギの低減を図ることができる。
ゲインは、予め定められた固定値としたり、振動の状態と車両の走行状態との少なくとも一方で決まる可変値としたりすることができる。
(10)前記振動取得装置が、前記車両に設けられた少なくとも1つのセンサを含み、そのセンサによる検出対象部より前記車両の後方にある制御対象輪の前記ばね下部の上下方向の振動を、そのセンサによる検出値に基づいて予測するばね下振動予測部を含み、前記サスペンション制御部が、前記制御対象輪のサスペンションを、前記ばね下振動予測部によって予測された前記ばね下部の上下方向の振動に基づいて制御するプレビュー制御部を含む(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載のサスペンションシステム。
(11)当該サスペンションシステムが、前記プレビュー制御部による制御が有効である場合に、前記プレビュー制御部と前記ばね上制御部とを選択し、前記プレビュー制御部による制御が有効でない場合に、(i)前記ばね上制御部と、(ii)前記高周波振動時ばね下制御部と前記低周波振動時ばね下制御部とのいずれか一方との少なくとも一方を選択する有効性対応制御部選択部を含む(10)項に記載のサスペンションシステム(請求項6)。
(12)前記ばね下振動予測部が、前記制御対象輪の振動を、前記センサによる検出値の位相を、車両の走行速度と、アクチュエータの制御遅れ時間とで決まる時間に対応する位相だけ遅らせて取得する位相遅れ対応予測部を含む(10)項または(11)項に記載のサスペンション制御装置。
プレビュー制御は、センサが路面センサである場合において、そのセンサによって凹凸が検出された路面と同じ路面を制御対象輪が通ること、あるいは、センサが前輪側の上下方向の振動を検出するセンサである場合において、そのセンサによって検出された振動に応じた路面を、制御対象輪である後輪が通ること(前輪に生じた振動と同じ振動が後輪にも起きること)が前提である。
それに対して、車両が旋回している場合には、センサによる検出対象部の軌跡と制御対象輪の軌跡とが異なるのが普通であり、プレビュー制御を良好に行うことができない場合がある。また、〔実施例〕において詳述するように、車両の走行速度が非常に早い場合には、制御指令値を作成できない場合がある。
そこで、本実施例においては、車両が旋回状態にあることと、車速が予め定められた設定速度より大きくなったこととの少なくとも一方の場合には、プレビュー制御を効果的に行うことができない状態にあると判定され、プレビュー制御が行われないようにされている。
本項に記載のサスペンションシステムにおいては、プレビュー制御が行われない場合に、ばね上制御部による制御が行われる場合、ばね下制御部による制御が行われる場合、ばね上制御部による制御とばね下制御部による制御との両方が行われる場合がある。いずれにしても、プレビュー制御が行われない場合であっても振動を良好に抑制することが可能となる。
(13)前記サスペンションが、前記ばね下部と前記ばね上部との間に設けられ、上下方向の力を発生させる上下方向力発生装置を含み、前記サスペンション制御部が、その上下方向力発生装置を電気的に制御して、前記上下方向力を制御する発生装置制御部を含む(1)項ないし(12)項のいずれか1つに記載のサスペンションシステム(請求項7)。
上下方向力発生装置は、ばね下部とばね上部との間に設けられ、上下方向の力を発生させるものである。上下方向の力とは、上下方向の成分を有する方向の力であり、車両の上下方向であっても、車両の上下方向に対して多少傾いた方向であってもよい。
上下方向力発生装置によって発生させられる上下方向力の向きは、ばね下部の車体、車輪に対する連結部の構造、上下方向力発生装置とばね下部との連結の状態等で決まる。ばね下部が上下方向に回動可能に連結されており、前後方向、幅方向の移動(あるいは回動)が許容されていない場合には、発生させられる力は上下方向の力であると考えることができる。
上下方向力は、後述するように、減衰力としたり、弾性力としたりすることができる。
(14)前記上下方向力発生装置が、減衰力を発生させる減衰力発生装置を含み、前記振動取得装置が、制御対象輪に対応する前記ばね上部の上下方向の絶対速度と、ばね上部とばね下部との上下方向の相対速度とを取得するものであり、前記発生装置制御部が、(a)(i)前記ばね上部の絶対速度と(ii)ばね上部とばね下部との相対速度との少なくとも一方に基づいて目標減衰力を決定する目標減衰力決定部と、(b)前記減衰力発生装置を制御して、その目標減衰力決定部によって決定された目標減衰力を出力させる減衰力制御部とを含む(13)項に記載のサスペンション制御装置。
上下方向力発生装置の制御により減衰力が発生させられ、それによって上下方向の振動が抑制される。減衰力は、ばね上部の上下方向の絶対速度に応じた大きさとしても、ばね上部とばね下部との相対速度に応じた大きさとしてもよい。減衰係数は、ばね上絶対速度と相対速度との少なくとも一方に基づいて取得することができる。
なお、減衰力は、ばね下絶対速度に応じた大きさとすることもできる。その場合には、減衰係数は一定の値とすることができる。
(15)前記上下方向力発生装置が、弾性力を発生させる弾性力発生装置を含み、前記振動取得装置が、前記ばね上部の上下方向の変位と、ばね上部とばね下部との相対変位とに、ばね下部の変位を取得するものであり、前記発生装置制御部が、(a)前記ばね下部の変位に基づいて目標弾性力を決定する目標弾性力決定部と、(b)前記弾性力発生装置を制御して、その目標弾性力決定部によって決定された目標弾性力を出力させる弾性力制御部とを含む(13)項または(14)項に記載のサスペンション制御装置。
上下方向力発生装置の制御により、弾性力が発生させられ、それによって、制御対象輪の上下方向の振動が抑制される。
(16)前記上下方向力発生装置が、(a)前記ばね下部と前記ばね上部とのいずれか一方に一端部が連結され、他方に他端部が連結された弾性部材と、(b)前記弾性部材を復元力に抗して弾性変形させる駆動源とを含み、前記発生装置制御装置が、前記弾性部材の弾性変形量を変化させて、前記上下方向力を制御する弾性変形量制御部を含む(13)項ないし(15)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
(17)前記弾性部材が、前記車両の前後方向に延びた第1バー部と幅方向に延びた第2バー部とを含む概してL字形を成したバーであり、前記駆動源が、前記L字形のバーの第1バー部と第2バー部とのいずれか一方を、それの軸線回りに回転させて、捩りモーメントを加える電動モータを含む(16)項に記載のサスペンション制御装置。
(18)前記弾性部材が、前記車両の前後方向に延びた第1バー部と幅方向に延びた第2バー部とのいずれか一方から成るロッドであり、前記駆動源が、前記ロッドに曲げモーメントを加える電動モータを含む(16)項または(17)項に記載のサスペンション制御装置。
弾性部材は、上下方向から見た場合に、L字形を成した部材であっても、直線状に延びた部材であってもよい。換言すれば、上下方向に湾曲した形状であっても差し支えない。
(19)前記ばね下部と前記ばね上部との間に、前記上下方向力発生装置と並列に、その上下方向力発生装置に含まれる弾性部材とは別の弾性部材としてのサスペンションスプリングが設けられた(13)項ないし(18)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
ばね下部とばね上部との間に、上下方向力発生装置の弾性部材と、その弾性部材とは別の弾性部材であるサスペンションスプリングとが設けられる。上下方向力発生装置に含まれる弾性部材は、前述のように、駆動源により弾性変形させられ、上下方向力が発生させられるが、サスペンションスプリングは、駆動源によって弾性変形させられるのではなく、車輪に加えられる荷重等により弾性変形させられる。
車輪に加えられる荷重は、サスペンションスプリングと弾性部材とが受ける。しかし、駆動源の非作動状態において、弾性部材が弾性変形していない状態においては、弾性部材には力が発生せず、荷重はサスペンションスプリングが受ける。この状態が上下方向力発生装置の駆動源の基準状態である。基準状態は、車輪に加えられる荷重で決まり、荷重が大きい場合は小さい場合よりばね上ばね下間の距離が短くなる。
基準状態から、例えば、駆動源の電動モータを一方向に回転させた場合には、ばね上部とばね下部との間の距離が大きくなる。サスペンションスプリングの弾性力が小さくなるが、弾性部材の弾性力が大きくされるのであり、これらの和は、荷重に応じた大きさに維持される。サスペンションスプリングの弾性力の向きと弾性部材の弾性力の向きとは同じである。
基準状態から、電動モータを他方向に回転させた場合には、ばね上部とばね下部との間の距離が小さくなる。サスペンションスプリングの弾性力が大きくなり、弾性部材のその逆向きの弾性力が大きくされる。サスペンションスプリングの弾性力の向きと弾性部材の弾性力の向きとは逆となる。
弾性部材がL字形のバーである場合には、第1バー部と第2バー部との一方(以下、シャフト部と称する)が軸線回りに回転させられると、他方(以下、アーム部と称する)が回動させられ、それによって、ばね上ばね下間の距離が変化する。また、シャフト部が捩られると、シャフト部に加えられる捩りモーメント(電動モータによって加えられたトルクと同じ)とアーム部に加えられる曲げモーメントとが等しくなるため、それで決まる大きさの上下方向力がばね下部に加えられる。
弾性部材が直線状のロッドである場合には、ロッドに電動モータによって加えられたトルクと曲げモーメントとが等しくなるため、それで決まる大きさの上下方向力がばね下部に加えられる。
弾性部材がL字形のバーである場合と直線状のロッドである場合とを比較すると、いずれにおいても、電動モータによって弾性部材に加えられるトルクと曲げモーメントとが等しくなる大きさに応じた上下方向力が発生させられる点については同じである(捩り応力と曲げ応力とが、同時に許容応力に達することが前提)。
また、弾性部材がL字形のバーである場合には、シャフト部の軸線回りの回転によりアーム部が回動させられるのに対して、直線状のロッドである場合には、直線状のロッドが直接電動モータによって回動させられる。そのため、直線状のロッドの長さとL字形のバーのアーム部の長さとが同じである場合には、L字形のバーとした方が、直線状のロッドとする場合に比較して、駆動源を、車体(ばね上部)の車輪から離れた部分に設けることができるという利点がある。
【実施例】
【0007】
以下、本発明の一実施例であるサスペンション制御装置を含むサスペンションシステムについて説明する。
図2,3において、車両の前後左右の各車輪12FR、FL、RL、RRとばね上部としての車体14(以下、ばね上部と称する場合や、車体と称する場合がある)との間にサスペンション16が設けられる。
サスペンション16は、サスペンションスプリングとしてのコイルスプリング20FR、FL、RL、RR、ショックアブソーバ(以下、アブソーバと略称する場合がある)22FR、FL、RL、RR、上下方向力発生装置24FR、FL、RL、RR等を含む。以下、車輪の位置を表す添え字FR、FL、RL、RRはこれらを区別する必要がある場合に記載するが、区別する必要がない場合には記載しない。また、前輪側と後輪側とを区別する必要が場合に、添え字F、Rを付すことがある。さらに、前後左右の車輪のうちの任意の一輪を表す場合において、それが同じ車輪であること表す場合に、添え字ij(i=F、R j=R、L)を付すことがある。
図3に示すように、サスペンション16は、第1アッパアーム40,第2アッパアーム42,第1ロアアーム44,第2ロアアーム46,トーコントロールアーム48等の複数のサスペンションアームを含む。本実施例において、サスペンション16はマルチリンク式とされている。これら5本のサスペンションアーム40,42,44,46,48は、それぞれの一端部において、車体14に回動可能に連結され、他端部において、車輪12を相対回転可能に保持するアクスルキャリア50に回動可能に連結されている。アクスルキャリア50は、車体14に、それら5本のアーム40,42,44,46,48により予め定められた軌跡に沿って上下方向に相対移動可能とされる。
【0008】
ショックアブソーバ22は、図4に示すように、車体14と、ばね下部としての第2ロアアーム46との間に、原則的に、上下方向に相対移動不能、かつ、揺動可能に連結されている。ショックアブソーバ22は、減衰特性制御装置56を含み、減衰特性が連続的に制御可能とされている。
ショックアブソーバ22は、ハウジング60とピストン62とを含み、ハウジング60において第2ロアアーム46に連結され、ピストン62のピストンロッド64において、マウント部54を介して車体14に連結される。ピストンロッド64は、中間部において、ハウジング60の蓋部66にシール68を介して摺接させられる。
ハウジング60は、図5に示すように、外筒71と内筒72とを含み、それらの間がバッファ室74とされる。上述のピストン62は、その内筒72の内側に液密かつ摺動可能に嵌合されているのであり、内筒72の内側が、上室75と下室76とに仕切られる。
ピストン62には、上室75と下室76とを接続する接続通路77、78が同心状に複数個ずつ設けられる(図5には、そのうちの2つずつが記載されている)。ピストン62の下面に配設された弁板79、上面に配設された弁板80、81は、それぞれ、ピストンロッド64に設けられた段部、ナットによって支持されている。
弁板79は、外周側にある接続通路78の開口は覆わないが、内周側にある接続通路77の開口を覆う大きさであり、上室75と下室76との液圧差が設定値以上となり、開弁圧以上の力が作用すると撓められ、上室75から下室76への作動液の流れを許容する。弁板79,接続通路77の開口部等によりリーフバルブ84が構成される。
弁板80、81は上下方向に重ねて設けられる。弁板80が接続通路78の開口を覆い、弁板80,81の接続通路77の開口に対応する部分には開口部が形成されている。下室76と上室75との液圧差が設定値以上になり、開弁圧以上の力が作用すると撓められ、下室76から上室75へ向かう作動液の流れを許容する。弁板80,81、接続通路78の開口部等によりリーフバルブ86が構成される。
下室76と上述のバッファ室74との間には、リーフバルブを備えたベースバルブ本体88が設けられる。
【0009】
減衰特性制御装置56は、図4に示すように、電動モータ90,電動モータ90の回転を直線運動に変換する運動変換機構91,調整ロッド92等を含む。ピストンロッド64の内部には、それの軸線方向に延びた貫通穴94が形成され、その貫通穴94に調整ロッド92が配設される。調整ロッド92は、上端部において運動変換機構91の出力部材に連結されており、電動モータ90の回転に伴ってピストンロッド64に対して直線的に相対移動させられる。電動モータ90の回転角度はモータ回転角センサ96によって検出される。
図5に示すように、貫通穴94は段付き形状を成しており、上部が大径部98、下部が小径部100とされる。小径部100において下室76に開口し、大径部98において接続通路102を介して上室75と連通させられる。上室75と下室76とは、貫通穴94,接続通路102によって互いに連通させられる。
一方、調整ロッド92の中間部の外径は大径部98の内径より小さく、かつ、小径部100の内径より大きくされており、下端部106の外径は下方にいくにつれて漸減させられる(例えば、下端部106の形状を円錐形状とすることができる)。調整ロッド92は、中間部が大径部98に位置し、下端部106が大径部98と小径部100との段差部付近に位置する状態で配設される。
調整ロッド92の下端部106の外周面と、大径部98と小径部100との段部の周縁107との間の隙間(開口面積)が、調整ロッド92(下端部106)のピストンロッド64に対する相対位置の変化に伴って、連続的に変化させられる。調整ロッド92の相対位置は、電動モータ90の回転角度からわかる。電動モータ90の制御により開口面積が制御されるのであり、調整ロッド76の下端部106、周縁107を含む貫通穴94の内周面等により流量制御弁(可変絞り)108が構成される。
なお、貫通穴94の接続通路102が接続された部分より上方にはシール部材109が設けられ、貫通穴94の内周面と調整ロッド92の外周面との間が液密に保たれる。
【0010】
例えば、ばね上部14と第2ロアアーム46(車輪12)とを接近させる向きの力、すなわち、ピストン62をハウジング60に対して相対的に下方へ移動させる向きの力が加えられた場合には、下室76の液圧が高くなる。
下室76の作動液の一部が貫通穴94の可変絞り108を通って上室75へ流れる。また、弁板80(81)に加えられる液圧差に応じた力が開弁圧以上となり、リーフバルブ86が開状態に切り換えられると、接続通路78を経て作動液が上室75へ流れる。さらに、ベースバルブ体88のリーフバルブを経てバッファ室74へ流出する。ショックアブソーバ22の減衰特性は、主として、可変絞り108の開口面積で決まる。作動液が可変絞り108を流れる際に加えられる抵抗力は、流速が同じである場合には、可変絞り108の開口面積が小さくなるほど大きくなる。本実施例においては、ショックアブソーバ全体において、減衰係数が所望の大きさとなるように、電動モータ90の制御により、可変絞り108の開口面積が制御される。
【0011】
逆に、ばね上部14と第2ロアアーム46(車輪12)とを離間させる向きの力、すなわち、ピストン62をハウジング60に対して相対的に上方に移動させる向きの力が加えられた場合には、上室75の液圧が高くなる。
上室75内の作動液の一部が貫通穴94の可変絞り108を通って下室76へ流れる。また、弁板79に加えられる力が開弁圧以上になるとリーフバルブ84が開状態に切り換えられて、接続通路77を経て下室76に作動液が流れる。また、バッファ室74の作動液の一部がベースバルブ体88のリーフバルブを経て流入する。減衰特性は、可変絞り108の開口面積の制御によって制御される。
なお、ピストン62の移動速度(作動液の流速)が同じ場合には、減衰特性(減衰係数)の制御により減衰力が制御されるため、減衰特性の制御を減衰力の制御であると考えることもできる。
【0012】
前記コイルスプリング20は、図4に示すように、ショックアブソーバ22のハウジング60の中間部に設けられた下部リテーナ110と、マウント部54に防振ゴム112を介して設けられた上部リテーナ114との間に配設される。ハウジング60は第2ロアアーム46に支持され、マウント部54において車体14に取り付けられるため、コイルスプリング20は、第2ロアアーム46と車体14との間に、ショックアブソーバ22と並列に設けられることになる。
なお、ピストンロッド64のハウジング60の内部に位置する部分には、弾性部材116が設けられ、その弾性部材116の上面が蓋部66の下面に当接することによってリバウンド方向(車輪と車体との離間方向)の移動限度が規定される。また、ハウジング60の蓋部66の上面が防振ゴム112に当接することによってバウンド方向(車輪と車体との接近方向)の移動限度が規定される。弾性部材116,あるいは、弾性部材116および蓋部66の下面によってリバウンド側のストッパが構成され、防振ゴム112,あるいは、防振ゴム112および蓋部66の上面によってリバウンド側のストッパが構成される。
【0013】
上下方向力発生装置24は、図3,6に示すように、上下方向から見た場合に、概してL字形を成したバー122(弾性部材の一態様であり、以下、L字形バーと略称する)と、そのL字形バー122を軸線Ls回りに回転させるアクチュエータ(駆動源の一態様である)124とを含む。L字形バー122は、概ね車幅方向に延びるシャフト部130と、シャフト部130と交差して概ね車両の後方に延びるアーム部132とを含み、一体的に力を伝達可能に(例えば、1本のバーを曲げて)製造されたものである。アクチュエータ124は取付部134において車体14に固定される。
L字形バー122は、それのシャフト部130のアーム部132が設けられた側とは反対側の端部において、アクチュエータ124に連結されることにより車体14に支持され、アーム部側の端部において、取付具136によって車体14に、シャフト部130の軸線Ls回りの回転を許容する状態で支持される。また、アーム部132のシャフト部130とは反対側の端部は、リンクロッド137を介して、第2ロアアーム46に連結されている。リンクロッド137は、一端部において、第2ロアアーム46に設けられたリンクロッド連結部138に揺動可能に連結され、他端部において、L字形バー122のアーム部132の端部に揺動可能に連結されている。
【0014】
図7に示すように、アクチュエータ124は、電動モータ140と減速機142とを含み、L字形バー122のシャフト部130が、減速機142を介して電動モータ140の出力軸に連結される。シャフト部130には、電動モータ140の回転が減速して伝達される。
ハウジング144には、電動モータ140と減速機142とが直列に設けられる。電動モータ140の出力軸(回転軸)146,減速機142の出力軸148は、それぞれ、ハウジング144にベアリング150,152を介して相対回転可能に保持される。また、これら出力軸146,148は中空とされており、これらの内側に、シャフト部130が挿入される。シャフト部130は、ブッシュ型軸受け153を介してハウジング144に相対回転可能に保持される。
電動モータ140は、ハウジング144の内周面に設けられた複数のコイル154と、出力軸146と、出力軸146に設けられた複数の永久磁石155(永久磁石155は出力軸146の外周面に設けても、埋め込んでもよい。)とを含む。電動モータ140は、3相のDCブラシレスモータとされており、電動モータ140の回転角度はモータ回転角センサ156により検出される。
減速機142は、ハーモニックギヤ機構として構成されるものであり、波動発生器(ウェーブジェネレータ)157,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)158およびリングギヤ(サーキュラスプライン)160を含む。波動発生器157は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボールベアリングとを含み、モータ出力軸146の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ158は、筒部が弾性変形可能なカップ形状をなすものであり、筒部の外周面に複数の歯(本減速機142では、400歯)が形成されており、底部に形成された孔にL字形バー122のシャフト部130が嵌合され、一体的に回転可能とされている。リングギヤ160は、概してリング状をなして内周に複数の歯(本減速機142においては、402歯)が形成されたものであり、ハウジング144に固定されている。フレキシブルギヤ158は、その筒部が波動発生器157の外周側に位置し、楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ160と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。
【0015】
波動発生器157が1回転(360度回転)、すなわち、電動モータ140の出力軸146が1回転させられると、フレキシブルギヤ158とリングギヤ160とが、2歯分だけ相対回転させられ、シャフト部130が回転させられる。本実施例においては、フレキシブルギヤ158のシャフト部130と一体的に回転可能な部分が減速機142の出力軸148とされる。
減速機142の減速比は、1/200であり、比較的大きい。電動モータ140の回転速度に対して減速機142の出力軸148の回転速度が小さく、その結果、アクチュエータ124の制御遅れが大きくなる(電動モータ140に制御指令値を出力してから、シャフト部130にトルクが加えられるまでの間の時間が長い)。
【0016】
一方、アクチュエータ124の正効率ηPを、ある外部入力に抗してL字形バー122のシャフト部130を回転させるのに必要な最小のモータ力に対するその外部入力の比率と定義し、逆効率ηNを、ある外部入力によってもアクチュエータ124が回転させられない最小のモータ力の、その外部入力に対する比率と定義した場合に、アクチュエータ力(アクチュエータ124に外部から加えられる力であり、アクチュエータトルクと考えてることもできる)をFa、電動モータ140が発生させる力であるモータ力(モータトルクと考えることができる。)をFmとすれば、正効率ηP,逆効率ηNは、下式のように表現できる。
ηP=Fa/Fm
ηN=Fm/Fa
正効率ηP、逆効率ηPは、アクチュエータ力Faが同じ大きさであっても、正効率特性下において必要な電動モータ140のモータ力FmPと、逆効率特性下において必要なモータ力FmNとで異なる(FmP>FmN)。また、電動モータ140の正効率ηPと逆効率ηNとの積(正逆効率積ηP・ηNと称する)は、ある大きさの外部入力に抗してアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力と、その外部入力によってもアクチュエータが動作させられないために必要なモータ力との比(FmN/FmP)と考えることができる。
そして、正逆効率積ηP・ηNが小さい程、正効率特性下において必要な電動モータのモータ力FmPに対して、逆効率特性下において必要なモータ力FmNが小さくなるのであり、動かされ難いアクチュエータであると考えることができる。
本実施例においては、アクチュエータの正逆効率積ηP・ηNが小さいものとされているため、L字形バー122に加えられる力を保持するのに、小さい電流でよいという利点がある。
【0017】
前述のように、ばね下部46とばね上部14との間には、コイルスプリング20,ショックアブソーバ22,弾性部材としてのL字形バー122が互いに並列に設けられる。そのため、車輪12に加えられる荷重は、これらコイルスプリング20,ショックアブソーバ22,L字形のバー122が協働して受けることになる。電動モータ140に電流が供給されていない場合には、L字形バー122には力が発生させられていないため、荷重がコイルスプリング20とショックアブソーバ22とによって受けられる(主としてコイルスプリング20が受けるため、以下、コイルスプリング20が受けると記載する)。この状態を、本実施例においては、電動モータ140の回転角度が0の基準状態(アクチュエータ124の基準状態)とする。
【0018】
この基準状態から、電動モータ140が駆動させられると、電動モータ140のトルクがシャフト部130に加えられる。アーム部132が回動させられ、シャフト部130が捩られる。なお、電動モータ140の回転角度とアクチュエータ124の回転角度(減速機142の出力)とは1対1に対応する。制御指令値は後述するように電動モータ140の回転角度の目標値である。
図8(a)に示すように(図8においては、電動モータ140の回転、アーム部132の回動、ばね下部46の回動の関係を理解し易い状態で記載した。そのため、L字形バー122の実際の姿勢とは異なる)、アクチュエータ124がP方向に回転角θMA回転させられた場合において、アーム132部がθA回動させられた場合には、それによって、ばね上ばね下間の距離が大きくなる。アーム部132がP方向に回動角θA回動させられると、ばね上ばね下間のストロークは、θA(sinθA)に応じた距離だけ大きくなり、サスペンションスプリング20の弾性力は、その分、小さくなる。
また、シャフト部130は、アクチュエータ124の回転角θMAからアーム部132の回動角θAを引いた角度で捩られる。シャフト部130に加えられる捩りモーメントTM(アクチュエータ124によって加えられるトルク)と、アーム部132に生じる曲げモーメントとは等しいため、式
TM=FB・L・・・(1)
が成立する。ここで、Lはアーム部132の長さであり、FBはアーム部132に加えられる力(第2ロアアーム46に加えられる力の反力)であり、FB・Lが、アーム部132に生じる曲げモーメントである。第2ロアアーム46には、下向きの力(下向きの成分を有する力)が加えられる。
一方、シャフト部130の捩りモーメントTMは、剪断弾性係数GS、断面2次極モーメントIPとした場合に、式
TM=GS・IP・(θMA−θA)・・・(2)
が成立する。
(1)式、(2)式から、
FB=GS・IP・(θMA−θA)/L・・・(3)
が成立し、第2ロアアーム46に加えられる力(上下方向力に対応し、アーム部132に加えられる力に対応する)は、捩り角(θMA−θA)に比例した大きさになることがわかる。
また、アクチュエータ124の回転角θMAとアーム部132の回転角θAとの間(車高の変化量)には、予め定められた関係がある。
以上の事情から、アクチュエータ124の回転角θMAが決まれば、ばね上ばね下間の距離の変化量および第2ロアアーム46に加えられる力FBが決まるのであり、本実施例においては、第2ロアアーム46に加えられる上下方向力(L字形バー122によって加えられる上下方向力)が、所望の大きさとなるように、電動モータ140の回転角θMが制御される。
なお、前述のように、シャフト部130は、アーム部132の近傍において車体14に保持されているため、シャフト部130の曲げを考慮する必要はない。
また、弾性部材をL字形バー122としたため、直線状のロッドとする場合に比較して、アクチュエータ124を車体14の車輪12から離れた部分に設けることができ、車輪近傍の設計の自由度を向上させることができる。
【0019】
図8(b)に示すように、電動モータ140(アクチュエータ124)をQ方向に回転させた場合には、アーム部132は、矢印Q方向にθA回動させられる。ばね上ばね下間のストロークが小さくなり、コイルスプリング20によって発生させられる力が大きくなる。シャフト部130は、(θMA−θA)でQ方向に捩られ、第2ロアアーム46には、ばね上ばね下間のストロークが小さくなる向きの上下方向力が加えられる。L字形アーム122によって第2ロアアーム46に加えられる力の向きは、コイルスプリング20によって加えられる向きと逆向きとなる。
この場合においても、電動モータ140の回転角θMの制御により、第2ロアアーム46に加えられる上下方向力が制御される。
図8(a)、(b)から、電動モータ140の回転方向によって上下方向力の向きが決まり、電動モータ140の回転角θMの大きさ(回転角の絶対値と称することもある)によって上下方向力の大きさ、および、ばね上ばね下間の距離(あるいは距離の変化量)が決まる。
【0020】
本実施例において、ショックアブソーバ22,上下方向力発生装置24等は、図11に示すサスペンション制御ユニット168によって制御される。サスペンション制御ユニット168は、上下方向力発生装置制御ユニット(ECU)170と、アブソーバ制御ユニット(ECU)172とを含む。上下方向力発生装置制御ユニット170によって、L字形バー122によって第2ロアアーム46に加えられる上下方向力が制御され、アブソーバ制御ユニット172によってショックアブソーバ22において発生させられる減衰力が制御される。
上下方向力発生装置制御ユニット170は、実行部173、入出力部174、記憶部175を備えたコンピュータを主体とするコントローラ176と、駆動回路としてのインバータ178とを含み、コントローラ176の入出力部174には、上記モータ回転角センサ156、ばね上加速度センサ196,車高センサ198、操舵部材の操舵量(本実施例においては図示しないステアリングホイールの操舵角)を検出する操舵角センサ204等が接続されるとともに、上述のインバータ178が接続される。ばね上加速度センサ196は、車体14のマウント部54に設けられ、ばね上部14の上下方向の加速度を検出する。車高センサ198は、ばね上部14のばね下部46に対する上下方向の変位(ばね上ばね下間の距離)を検出する。ばね上加速度センサ196,車高センサ198は、前後左右の各輪12FL、FR、RL、RRに対応してそれぞれ設けられる。記憶部175には、複数のテーブル、プログラム等が記憶されている。
【0021】
アブソーバ制御ユニット172も、同様に、実行部210、入出力部211、記憶部212等を含むコンピュータを主体とするコントローラ220と、駆動回路としてのインバータ222とを含み、入出力部211には、ばね上加速度センサ196,車高センサ198、操舵角センサ204、モータ回転角センサ96等が接続されるとともに、上述のインバータ222が接続される。
ブレーキ制御ユニット224も、同様に、コンピュータを主体とするコントローラを含む。ブレーキ制御ユニット224には、各輪12FR、FL、RR、RLの回転速度を検出する車輪速センサ226が接続され、これら車輪速センサ226による検出値に基づいて車両の走行速度やスリップ状態が取得される。
これら上下方向力発生装置制御ユニット170、アブソーバ制御ユニット172,ブレーキ制御ユニット224等は互いにCAN(Car Area Network)を介して接続され、ブレーキ制御ユニット224において取得された車両の走行速度を表す情報、前後左右の各輪12FL、FR、RL、RRのスリップ状態を表す情報等が上下方向力発生装置制御ユニット170,アブソーバ制御ユニット172等に供給される。
【0022】
なお、上下方向力発生装置ECU170のコントローラ176,アブソーバECU172のコントローラ220は、各輪毎に(各インバータ毎に)、それぞれ個別に設けることもできる。
【0023】
図9に示すように、電動モータ140は、Δ結線された3相のDCブラシレスモータであり、各相(U,V,W)に対応してそれぞれ通電端子230u,230v,230w(以下、総称して「通電端子230」という場合がある)を有している。
インバータ178は、各通電端子、つまり各相(U,V,W)ごとに、high(正)側,low(負)側に対応して、設けられた2つずつのスイッチング素子(UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLC)と、これらスイッチング素子を切り換えるスイッチング素子切換回路とを含む。スイッチング素子切換回路は、電動モータ140に設けられた3つのホール素子HA,HB,HC(図では、Hと表記している)の検出信号により回転角(電気角)を判断し、その回転角に基づいて6つのスイッチング素子の各々のON/OFFの切り換えを行う。なお、インバータ178は、コンバータ232を介してバッテリ236に接続される。
このように、電動モータ140には、コンバータ232によって制御された一定の電圧が加えられるため、電動モータ140への供給電力量は、供給電流量を変更することによって変更される。供給電流量の変更は、インバータ178においてPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
上記のように構成されたインバータ178の作動状態を制御することにより、電動モータ140の作動モードが変更される。作動モードには、バッテリ236から電動モータ140への電力の供給が行われる制御通電モード、電力の供給が行われないスタンバイモード,ブレーキモード,フリーモードがある。
【0024】
制御通電モードにおいて、図9,10に示すように、いわゆる120゜通電矩形波駆動と呼ばれる方式にて、各スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのON/OFFが、電動モータ140の回転角に応じて切り換えられる。この場合において、high側の各スイッチング素子UHC,VHC,WHCに対してはデューティ制御が実行されないが、low側の各スイッチング素子ULC,VLC,WLCに対してデューティ制御が実行される。そのデューティ比が変更されることにより、電動モータ140への供給電流量が変更される。図10における「1*」は、デューティ制御されることを示している。各スイッチング素子の切換形態は、電動モータ140の回転方向に応じて異なっており、便宜的に、時計回り方向(CW方向)と反時計回り(CCW方向)と称する。
制御通電モードにおいては、電動モータ140への供給電力が制御され、それによって、トルクの向きおよび大きさが制御される。
【0025】
スタンバイモードにおいては、各スイッチング素子の切り換えが実行されても、実際にはバッテリ236から電動モータ140への電力が供給されることがない。
図10に示すように、制御通電モードにおける場合と比較すると、high側に存在する各スイッチ素子WHC,VHC,UHCは、制御通電モータにおける場合と同様に切り換えられるが、low側に存在する各スイッチング素子ULC,VLC,WLCのいずれにおいても、デューティ比が0とされるのであり、low側のスイッチング素子ULC,VLC,WLCは、常時、OFF状態(開状態)とされる。その結果、本モードでは、電動モータ140に電力が供給されないことになる。図10における「0*」は、そのことを示している。スタンバイモードは、本発明の実施例とは関係がないため、詳細な説明を省略する。
ブレーキモードにおいては、スイッチング素子のON/OFFにより、電動モータ140の各通電端子が相互に導通させられる。このモードは、全端子間導通モードの一種と考えることができる。電動モータ140の回転角に拘わらず、スイッチング素子のうちのhigh側,low側の一方(本実施例においては、low側)に配置されたすべてのものが閉状態に維持され、high側,low側の他方(本実施例においては、high側)に配置されたすべてのものが開状態に維持される。ON状態とされたhigh側のスイッチング素子UHC,VHC,WHCにより、電動モータ140の各相は短絡させられた状態となる。本モードにおいては、短絡制動の効果が得られることになる。
フリーモードにおいては、スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのすべてが、OFF状態(開状態)とされる。本モードにおいては、電動モータ140はフリーの状態となる。
【0026】
以上のように、インバータ178におけるスイッチング素子の切換え制御により、電動モータ140(アクチュエータ124)の作動が制御され、それによって、L字形バー122によってばね下部46に加えられる上下方向の力FBが制御される。
上下方向力FBの向きは基準位置からの電動モータ140の回転方向で決まり、上下方向力FBの大きさは、電動モータ140の回転角の大きさによって制御される。前述のように、電動モータ140の回転角θMと上下方向力FBの大きさとの間には予め定められた関係があるため、これらの間の関係に基づいて、上下方向力FBが所望の向きおよび大きさとなるように、目標回転角θM*(回転方向と大きさ)が決まる。
θM*=f(FB*)
電動モータ140への供給電流量iは、原則として、電動モータ140の目標回転角θM*が得られる大きさとされる。本実施例においては、フィードフォワード制御が行われるのであり、目標回転角θM*に基づいて、供給電流量i*が決定される。
i*=g(θM*)
後述するように、上下方向力の目標値FB*の絶対値が増加する場合には、この供給電流i*(符号を有する)が制御指令値に対応する。供給電流i*の大きさ(絶対値)に基づいて、電動モータ140を駆動するためのデューティ比が決定される。また、この供給電流i*の符号が電動モータ140のトルクの向き(回転方向)に対応する。それらデューティ比および回転方向についての制御指令値がインバータ178に出力されると、インバータ178において、スイッチング素子の制御が行われる。
それに対して、上下方向力の目標値FB*の絶対値が保持または減少させられる場合には、供給電流i*を表す制御指令値が出力されるのではなく、ブレーキモード、フリーモードに切り換えることを表す制御指令値が出力される。
【0027】
本実施例において、原則として、上下方向力発生装置24については、ばね上部14の上下方向の速度(以下、ばね上絶対速度と称する)VUに基づく減衰力制御(ばね上速度制御、スカイフック理論に基づく制御と称することもできる)と、ばね下部46の変位(以下、ばね下変位と称する)XLに基づく弾性力制御(ばね下変位制御、強制入力低減制御と称することもできる)との両方が行われる。換言すれば、目標上下方向力FB*が、ばね上絶対速度VUに応じた減衰力FSとばね下変位XLに応じた弾性力FHとの和とされ、目標上下方向力FB*が得られるように、上下方向力発生装置24が制御されるのである。
FB*=FS+FH
前輪側の上下方向力発生装置24Fについては、その制御対象輪12Fjのばね上絶対速度に基づく減衰力制御と、その制御対象輪12Fjのばね下変位に基づく弾性力制御とが行われる。いわゆる通常制御(センサ196,198によって上下挙動が検出される検出対象車輪と、上下方向力が制御される制御対象車輪とが同じである制御をいう)が行われる。
後輪側の上下方向力発生装置24Rについては、原則として、その制御対象輪12Rjのばね上絶対速度に基づく減衰力制御と、前輪(検出対象輪)12Fjのばね下変位に基づく弾性力制御とが行われる。制御対象車輪が検出対象車輪より後方にある場合に、検出対象車輪の上下方向の挙動に基づいて制御対象輪の上下挙動を予測し、その予測した上下挙動に基づく制御をプレビュー制御と称するが、ばね下変位制御としてプレビュー制御が行われるのである。しかし、プレビュー制御によってばね下部46の上下方向の振動を効果的に抑制できない場合には通常制御が行われる。このように、後輪側の上下方向力発生装置24Rについては、プレビュー制御を含む制御が行われるのであるが、以下、プレビュー制御を含む制御も単にプレビュー制御と称する。
【0028】
ばね上速度制御は、よく知られた制御であるが、ばね上絶対速度VUと、ばね上ばね下間の相対速度VSとの積の値が正である場合に、中間の大きさの減衰力を発生させて、負の値である場合に、減衰力を小さくする制御である。
本実施例においては、ばね上絶対速度VUと、ばね上ばね下間の相対速度VSとの積の値が正である場合(VU・VS>0)には、減衰係数C*が予め定められた中間の値CMIDとされ、積の値が負である場合(VU・VS<0)には、減衰係数C*が小さい値CMINとされる。
そして、減衰係数C*とばね上絶対速度VUとで決まる大きさの減衰力が発生させられる。減衰力は、ばね上絶対速度VUの向きと逆向きである。
FS=−GS・C*・VU
ゲインGSについては後述する。
【0029】
ばね下変位制御は、ばね下部46の振動を抑制して、ばね上部14の上下方向の振動を抑制する制御である。ばね下変位XLが基準位置より下方であり、ばね上ばね下間の距離が大きくなると、コイルスプリング20の弾性力が小さくなる。そのため、荷重が一定である場合に、ばね上部14が下方へ移動し、振動が生じる。それに対して、コイルスプリング20の弾性力の減少分を、上下方向力発生装置24によって発生させれば、ばね下部46の変位に伴うばね上部14の変位を抑制することができる。ばね下変位制御において、ばね下部46の変位が基準位置より下方である場合には、目標弾性力FHの向きは下方となる。
ばね下変位XLが基準位置より上方である場合には、目標弾性力FHの向きは上方とされる。ばね上ばね下間の距離が小さくなると、コイルスプリング20の弾性力が増加するため、その増加分に応じた弾性力とは逆向きの力を、上下方向力発生装置24によって発生させて、ばね下部46の上下方向の振動に伴うばね上部14の振動を抑制するのである。
FH=GH・K・XL
弾性係数Kは、コイルスプリング20の弾性係数、L字形のバー122のばね定数、シャフト部130の剪断係数、断面二次モーメント、アーム部132の曲げ剛性等のうちの1つ以上で決まる固定値である。
ゲインGHについては後述する。
【0030】
プレビュー制御は、図14(a)〜(c)に示すように、前輪12FL、FRが通った路面と同じ路面を後輪12RL、RRが通る場合には、前輪12FL、FRに加えられた路面入力と同じ入力を後輪12RL、RRも受け、前輪12FL、FRのばね下部46FL、FRの上下方向の挙動と同じ挙動が所定の時間が経過した後に、後輪12RL、RRのばね下部46RL、RRに生じることを前提とした制御である。
本実施例においては、図14(b)に示すように、時点P(現時点)におけるセンサ196,198の検出値に基づいてばね下変位XLが取得され、その取得されたばね下変位XLの位相を、後述する戻り時間TQに対応する位相だけ遅らせる処理が行われ、その位相遅れ処理が行われたばね下変位XLに応じた目標弾性力FHが求められて、直ちに(時点Pにおいて)出力される。その目標弾性力FHに応じた制御は、制御遅れ時間TDの経過後(時点Q)に実行されるが、時点Qにおける後輪12Rのばね下部46Rの上下方向の挙動は、時点R(時点Pより戻り時間前)の前輪12Fの上下方向の挙動と同じ挙動となる。実際の上下方向の挙動と、制御とが一致するため、後輪12Rのばね下部46の振動を良好に抑制することが可能となる。
【0031】
戻り時間は、ホイールベースLWを車速Vで割って得られる余裕時間TPから遅れ時間TDを引いた時間TQである。
TP=LW/VS
TQ=TP−TD
余裕時間TPは、同じ路面の凹凸を、前輪12Fが通過してから後輪12Rが通過するまでの時間であり、図14(c)に示すように、同じ車両について(ホイールベースLWが同じである場合)は、車速Vが大きい場合は小さい場合より短くなる。
余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合、すなわち、戻り時間TQが0以上である場合には、目標弾性力FHを作成することができ、プレビュー制御を有効に行うことができるが、車速が大きくなり、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短くなると、戻り時間TQが負の時間となり、目標弾性力FHを求めることができない。それに対して、現時点Pにおける検出値に基づいて目標弾性力FHを求めて、直ちに出力することもできるが、その場合には、後輪12Rの上下方向力発生装置24Rに対する制御が、実際の後輪12Rのその上下方向の挙動に対して遅れ、プレビュー制御によって振動を良好に抑制することができない。そこで、本実施例においては、余裕時間TPが制御遅れ時間TDと同じになる場合の車速が、式
VSMAx=LW/TD
に従って決定され、実際の車速Vが設定速度VSMAxより大きい場合は、プレビュー制御が行われないようにされている。
【0032】
また、車両の旋回時には、前輪12Fが通った軌跡と後輪12Rが通る軌跡とが異なるため、プレビュー制御が行われても、振動を効果的に抑制することができない。したがって、本実施例においては、操舵部材の操作量である操舵角の絶対値が予め定められた設定値より大きい場合には、プレビュー制御が行われないようにされている。設定値は、直進状態とみなし得る大きさである。
以上のように、本実施例においては、車両の実際の走行速度が上述の設定速度以下であり、かつ、操舵部材の操作角の絶対値が設定値以下である場合には、プレビュー制御を有効に行い得る場合であるとして、原則としてプレビュー制御が行われるが、走行速度が設定速度より大きい場合と、操舵角の絶対値が設定値より大きい場合との少なくとも一方の場合には、プレビュー制御を有効に行うことができないとして、プレビュー制御が行われないようにされている。
【0033】
通常制御が行われる場合には、ばね上加速度センサ196,車高センサ198による検出値に対して、図15に示すような処理が行われる。
制御対象輪12ijに対応して設けられたばね上加速度センサ196による検出値GUは、ノイズ等除去部250に供給される。ノイズ等除去部250は、LPF(ローパスフィルタ)とHPF(ハイパスフィルタ)とを含み、センサによる検出値からノイズ(高周波の振動)を除去し、カットオフ周波数以下の成分を除去する。
ノイズ等除去部250によって処理された振動(ばね上加速度GU)は、ばね上絶対速度演算部252に供給される。ばね上絶対速度演算部252において、ばね上加速度GUが積分されることにより、ばね上絶対速度VUが取得される。ばね上絶対速度GUは、第1フィルタ処理部253に供給される。第1フィルタ処理部253は、バンドパスフィルタを含み、予め定められた周波数領域B(図12参照)の振動を抽出する。後述するように、領域Bは、ばね上速度制御が有効に行われ得る領域であり、この領域Bに属する周波数の振動に対してばね上速度制御が行われ、領域Bに属さない周波数の振動に対してはばね上速度制御が行われない。そこで、第1フィルタ処理部253によって、領域Bから外れた周波数の振動を除去し、領域Bから外れた周波数の振動が生じた場合に誤ってばね上速度制御が行われないようにされているのである。
第1フィルタ処理部253によって処理された振動(ばね上絶対速度VU)は、ばね上用位相進み処理部254に供給され、位相進み処理が施される。ばね上用位相進み処理部254は、図12に示す特性を有するものであり、入力信号の位相を予め決まった位相だけ進ませて出力する。ばね上用位相進み処理部254によって処理された振動(ばね上絶対速度VU)は、目標減衰力決定部256に供給される。
目標減衰力決定部256においては、ばね上絶対速度VUに応じた目標減衰力FUが決定される。目標減衰力FUを決定する際には、ばね上ばね下相対速度(車高値を微分した値)も考慮される。
一方、ばね上速度演算部252によって得られたばね上絶対速度VUは、ばね上変位演算部258に供給されて、積分されてばね上変位XUが得られる。
【0034】
ばね上用位相進み処理部254の特性を図12に示す。
図12において、細い実線M、破線N1、N2は、ばね上用位相進み処理部254による処理が行われない場合において、アクチュエータ124の応答遅れを考慮しない場合の周波数と遅れ時間との関係を表す線である。遅れ時間とは、ばね上絶対速度VUのセンサ検出値GUに対する遅れ時間である。ばね上絶対速度VUは、ばね上絶対速度演算部252において、ばね上加速度センサ196による検出値GUが積分されることにより取得されるため、ばね上加速度センサ196による検出値にGUに対して位相が90°(π/2)遅れる。この位相の遅れを、周波数の各々に基づいて時間に換算した値が遅れ時間なのである。細い実線Mは、このばね上絶対速度VUを取得する場合の遅れ時間と周波数との関係を示す。換言すれば、ばね上絶対速度VUの振動に対しては遅れは0であるため、細い実線の関係を理想の関係と称することができる。2本の細い破線N1、N2は、細い実線Mで表される関係に対して、位相が1/8周期分(π/4)ずれた場合(一方が遅れた場合の関係を示し、他方が進んだ場合の関係を示す)の遅れ時間と周波数との関係を示すものである。実際の振動と制御とで、位相が1/8周期分ずれても、振動の向きと制御の向き(その振動の向きに対応する制御の向き)とが逆にならないため、その振動を抑制し得ることがわかっている。このことから、2本の細い破線N1、N2の間の領域を制御遅れ許容範囲と称することができるのであり、制御に用いられるばね上絶対速度VUについての周波数と遅れ時間との関係が、制御遅れ許容範囲内にある場合には、その制御によって振動が良好に抑制されることがわかる。
【0035】
太い実線X、一点鎖線Yは、アクチュエータ124の応答遅れを考慮した場合の周波数と遅れ時間との関係を表す線である。太い一点鎖線Yは、ばね上用位相進み処理部254による処理が行われない場合の周波数と遅れ時間との関係を示すものであり、太い実線Xは、ばね上位相進み処理252による処理が行われた場合の周波数と遅れ時間との関係を示すものである。
太い一点鎖線Yが示す関係は、原則としては、細い実線Mよりアクチュエータ124の応答遅れ時間だけ遅れ時間が長くなる関係にあるが、ノイズ等除去部250の特性等に起因して周波数が低い領域においては、その遅れ時間が短くなる。太い実線Xが示す関係は、一点鎖線Yが示す関係より、ばね上用位相進み処理部254の特性で決まる位相に対応する時間だけ遅れ時間が短くなった関係を表す。進められる位相(位相角)が周波数の大小に関係なく一定である場合には、周波数が低い場合は高い場合より、位相角に応じた時間が長くなるため、太い一点鎖線Yと太い実線Xとの間の間隔(遅れ時間の差)が、周波数が低い場合に周波数が高い場合より大きくなるのである。
前述のように、太い実線X、一点鎖線Yが表す関係が2本の細い破線の間にある領域が有効な制御が行われる領域である。この有効な制御が行われる領域は、位相進み処理が行われない場合には、領域A(太い一点鎖線Yが制御遅れ許容範囲内に存在する領域)であったが、ばね上用位相進み処理部254の処理によって、領域B(太い実線Xが制御遅れ許容範囲内に存在する領域)となり、より高周波側の領域となった。また、領域Bは、車両の諸元で決まるばね上共振周波数がほぼ中央にある領域である。そのため、領域Bにおいて有効な制御が可能となれば、積載重量の変化に起因してばね上共振周波数が変化しても、その共振周波数の振動を良好に抑制可能となり、乗り心地の向上を図ることが可能となる。
ばね上用位相進み処理部254における位相進みの程度を第3の特性と称する。
【0036】
本実施例においては、図12に示すように、処理部の特性(フィルタ特性)が周波数と遅れ時間との関係に基づいて評価される。従来は、周波数と位相の遅れとの関係に基づいて評価されていたが、位相の遅れの代わりに遅れ時間とすれば、容易にアクチュエータ124の応答遅れを考慮して評価できるという利点がある。アクチュエータ124の遅れ時間は、周波数の大きさに関係なく同じであるため、フィルタ特性を表す関係をアクチュエータ124の応答遅れ時間分だけシフトさせればよいのであり、総合的に遅れ時間と周波数との関係を容易に求めることができ、総合的な遅れ時間に基づいて、フィルタの評価をすることが可能となる。
【0037】
また、図15に示すように、車高センサ198による検出値Hは位相補償処理部260に供給されて、位相補償が行われる。センサの特性により、車高センサ198による検出値は、ばね上加速度センサ196による検出値に対して、予め決められた周波数領域において、位相ずれが生じることがわかっている。そのずれを補償するための処理が施されるのである。
位相補償処理部260によって処理された車高値H(ばね下部46に対するばね上部14の相対変位)は、ばね下変位演算部262に入力される。ばね下変位演算部262には、ばね上変位演算部258の出力値(ばね上変位XU)も入力され、式
XL=XU−H=XU−(XU−XL)
に従ってばね下変位XLが取得される。
取得されたばね下変位XLは、第2フィルタ処理部264を経て特性選択部(フィルタ選択部、処理部選択部と称することもできる。)268に供給される。第2フィルタ処理部264は、第1フィルタ処理部253と同様に、バンドパスフィルタを有するものであり、図13の領域B1、B2を含む領域の周波数の振動を抽出し、領域B1、B2を含む領域から外れた周波数の振動を除去するものである。ばね下変位制御が有効な領域から外れた周波数の振動が生じた場合に、誤って制御が行われないようにされる。
【0038】
特性選択部268は、ばね下部46の実際の振動の周波数が予め定められた周波数しきい値fth(例えば、ばね上共振周波数より大きく、ばね下共振周波数以下の値とすることができる。本実施例においては、領域Bの上限値、例えば、4Hzとされる)以下である場合に、ばね下用第1位相進み処理部(低周波振動用処理部と称することができる。第1の特性を有する)270を選択し、周波数しきい値fthより高い場合に、ばね下用第2位相進み処理部(高周波振動用処理部と称することができる。第2の特性を有する)272を選択する。特性選択部268によって、ばね下用第1位相進み処理部270が選択された場合には、第2フィルタ処理部264によって処理されたばね下変位XLがばね下用第1位相進み処理部270に供給され、第1の特性で、位相進み処理が行われる。ばね下用第2位相進み処理部272が選択された場合には、ばね下用第2位相進み処理部272に供給され、第2の特性で位相進み処理が行われる。第2の特性は、第1、第3の特性より、位相進み角が大きい特性である。本実施例においては、位相進みの程度が、第1の特性、第3の特性、第2の特性の順に大きくされ、位相進み角は、いずれも90°(0.5π)より小さく、それぞれ、60°(0.33π)、50°(0.27π)、85°(0.47π)程度の大きさとされる。
いずれにしても、位相進み処理が施された後には、通常時目標弾性力決定部274に供給される。
【0039】
ばね下用第1位相進み処理部270が有する第1の特性を図13(a)に示し、ばね下用第2位相進み処理部272が有する第2の特性を図13(b)に示す。図13(a)、(b)において、細い実線M、破線N1,N2は、図12に示す場合と同様に、アクチュエータ124の応答遅れを考慮しない場合の周波数と遅れ時間との関係を表す線である。ばね下変位XLは、ばね上絶対速度演算部252、ばね上変位演算部258によって、ばね上加速度センサ196による検出値GUが合計2回積分されて求められるため(ばね下加速度センサによる検出値に基づいて取得される場合も同様に検出値GLが2回積分されることになる)、検出値GUに対して位相が180°(π)遅れることになる。この180°が周波数の各々に基づいて時間に換算され、その換算された遅れ時間と周波数との関係が細い実線Mで表されるのである。2本の細い破線N1,N2は、図12における場合と同様に、細い実線Mで表される遅れ時間に、位相が1/8周期ずれた場合の遅れ時間と周波数との関係と示すものであり、2本の細い破線N1,N2の間の範囲が制御遅れ許容範囲である。
【0040】
太い実線X、一点鎖線Yは、図12における場合と同様に、アクチュエータ124の応答遅れを考慮した場合の周波数と遅れ時間との関係を示す。太い一点鎖線Yは、ばね下用第1,第2位相進み処理部270,272による処理が行われない場合の周波数と遅れ時間との関係を示すものであり、太い実線Xは、それぞれ、ばね下用第1位相進み処理部270による処理、第2位相進み処理部272による処理が行われた場合の周波数と遅れ時間との関係を示すものである。一点鎖線Yの関係より、ばね下用位相進み処理部270,272の特性で決まる位相に対応する時間だけ遅れ時間が短くなった関係となる。
図13(a)、(b)を比較すると、図13(b)に示す特性の方が、位相進みの程度(位相角)が大きい。図13(a)に示す特性の処理(第1特性による位相進み処理)が行われた場合には、有効な制御が行われる領域が領域A′から領域B1に変更されるのに対して、図13(b)に示す特性の処理(第2特性による位相進み処理)が行われた場合には、領域A′から領域B2に変更されるのであり、領域B2の方が領域B1より高周波側に位置することがわかる。
また、領域B1は、ばね上共振周波数を含む領域であり、領域B2は、ばね下共振周波数を含む領域である。このことから、本実施例においては、ばね下部46の振動の周波数が、周波数しきい値fth以下である場合に、第1位相進み処理部270が選択され、周波数しきい値fthより高い場合に、第2位相進み処理部272が選択されるようにしたのである。
【0041】
プレビュー制御が行われる場合には、図16に示す処理が行われる。通常制御が行われる場合(図15の場合)と、同じ処理が行われるブロックにおいては、同じ符号を付して説明を省略する。
ばね上速度制御については、通常制御が行われる場合と同様の処理が行われる。制御対象輪である後輪12Rjのばね上加速度センサ196による検出値GUに基づいてばね上絶対速度VUが取得され、目標減衰力FSが決定される。ばね下変位のプレビュー制御については、制御対象輪12Rjと同じ側の前輪12Fjに対応して設けられたばね上加速度センサ196,車高センサ198による検出値GU,Hに基づいて、前輪12Fjのばね下変位XLが取得される。そして、取得されたばね下変位XLは、第3フィルタ処理部280に供給されて、後述する領域Cに属する周波数の振動が抽出される。プレビュー制御が良好に行われる得る領域Cから外れた周波数の振動を除去し、領域Cから外れた周波数の振動に対してプレビュー制御が行われないようにされる。第3フィルタ処理部280を通過した振動(ばね下変位XL)は、プレビュー対応目標弾性力決定部282に供給され、プレビュー対応目標弾性力が決定される。プレビュー対応目標弾性力決定部282においては、前述のように、入力されたばね下変位XLの位相を、戻り時間TQに対応する位相だけ遅らせる処理が行われ、位相遅れ処理が行われたばね下変位XLに応じた目標弾性力FHが決定される。
プレビュー制御が行われる場合の遅れ時間と周波数との関係は、図13(a)、(b)の太い二点鎖線Zが示す。二点鎖線Zの関係は、一点鎖線Yの関係より、アクチュエータ124の制御遅れ時間TDだけ遅れ時間が短くなった関係である。プレビュー制御においては、アクチュエータ124の制御遅れ時間TDが考慮されるため、制御遅れ時間を実質的になくすことができる。二点鎖線Zが2つの細い細線N1,N2の間に存在する領域Cは、領域B1,B2を含む広い領域である。
【0042】
プレビュー制御が有効である場合には、後輪12Rに対して、目標減衰力決定部256において決定された目標減衰力FSと、プレビュー目標弾性力決定部282において決定された目標弾性力FHとの和が目標上下方向力FB*とされる。図1(a)に示すように、ばね下部46の振動の周波数がしきい値fth以下である場合において、領域Cに属する場合には、ばね上速度制御とばね下変位制御(プレビュー制御)との両方が行われ、領域Cに属さない場合には、プレビュー制御は行われないでばね上速度制御のみが行われる。図1(b)に示すように、ばね下部46の振動の周波数がしきい値fthより大きい場合においては、領域Cに属する場合にはばね上速度制御は行われないでプレビュー制御が行われる。
プレビュー制御が有効でない場合の後輪12Rに対して、あるいは、前輪12Fに対しては、目標減衰力決定部256において決定された目標減衰力FSと、通常目標弾性力決定部274において決定された目標弾性力FHとの和が目標上下方向力FB*とされる。図1(a)に示すように、ばね下部46の振動の周波数がしきい値fth以下である場合において、領域B1に属する場合には、ばね上速度制御とばね下変位制御(通常制御)との両方が行われ、領域B1に属さない場合には、通常のばね下変位制御は行われることなくばね上速度制御のみが行われる。図1(b)に示すように、ばね下部46の振動の周波数がしきい値fthより大きい場合においては、領域B2に属する場合にはばね上速度制御は行われないで、通常のばね下変位制御のみが行われる。
【0043】
図1(a)に示すように、ばね上速度制御とばね下変位制御(通常制御あるいはプレビュー制御)との両方が行われる場合において、ばね上速度制御に用いられるゲイン(ばね上対応ゲイン)GSが0.5とされ、ばね下変位制御に用いられるゲイン(ばね下対応ゲイン)GHが0.8とされる。ばね上速度制御とばね下変位制御との両方が行われる場合には、ばね下対応ゲイン(通常制御が行われる場合もプレビュー制御が行われる場合も含む)GHをばね上対応ゲインGSより大きくした方が、ばね上部14の振動を良好に抑制し得ることが、実験、シミュレーション等により明らかである。
【0044】
前述のように、ばね上速度制御、ばね下変位制御は、それぞれ、実際の振動に対して最大で1/8周期(45°)ずれた位相で行われる。そして、図25(a)に示すように、このずれ(位相角θの絶対値)が大きい場合は小さい場合より、その制御の、その振動(位相角0)に対する寄与分(その振動を抑制するために加えられる力を制御する際のゲインの寄与分)が小さくなることが明らかである。
|θ1|>|θ2|
GScos|θ1|<GScos|θ2|
一方、これらばね上速度制御、ばね下変位制御のゲインを、それぞれ1とした場合には、図25(b)に示すように、その振動を抑制するために加えられる力を制御する際のゲインが大きくなり過ぎる(制御が過剰となる)ため、望ましくない。
GS・cosθS+GH・cosθH>1
GS=GH=1
それに対して、図25(c)に示すように、ばね上速度対応制御とばね下変位対応制御との、それぞれの制御の振動に対するゲインの寄与分の和が1になること、すなわち、式
GS・cosθS+GH・cosθH=1
が成立する大きさとすることが望ましいのである。
上式から、例えば、ばね上速度制御とばね下変位制御とで位相角の絶対値が同じである場合に、ばね下変位制御のゲインを大きくした場合には、ばね上速度制御のゲインを小さくすればよいことがわかる。
以上の事情を考慮して、ばね上部14の振動を良好に抑制し得るように、ばね上速度制御とばね下変位制御とのそれぞれのゲインGS、GHが決定されたのであり、ばね上対応ゲインGS、は0.1〜1.2の範囲から、ばね下対応ゲインGHは0.3〜1.5の範囲からそれぞれ選ばれた値に決定されたのである。
なお、ばね上対応ゲインGSは0.5に限らず、1.2以下、1.0以下、0.8以下の値とすることが望ましく、0.2以上、0.4以上の値とすることが望ましい。ばね下対応ゲインGHは0.8に限らず、1.3以下、1.1以下、0.9以下とすることが望ましく、0.3以上、0.5以上とすることが望ましい。
【0045】
それに対して、図1(b)に示すように、通常のばね下変位制御が行われる場合に使用されるばね下対応ゲインGHは1であるが、プレビュー制御が行われる場合に使用されるゲインGHは0.8である。本実施例においては、プレビュー制御が行われる場合のゲインGHは、周波数の大小に関係なく、常に0.8とされる。
【0046】
以上の制御の実行をフローチャートに使って説明する。フローチャートにおいては、フィルタの処理において実行されることを、プログラムの実行で行われると考えて、ステップを設けた。一連の処理の内容を明らかにするためである。
制御対象輪が前輪12Fである場合には、常時、通常制御が行われる。
制御対象輪が後輪12Rである場合には、図17のフローチャートで表される制御部選択プログラムが、予め定められた設定時間毎に実行される。ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、車両の走行速度Vが検出され、S2において、操舵部材の操舵角θが検出される。そして、S3において、操舵角θの絶対値が直進走行中であるとみなし得る設定値θth以下であるか否かが判定され、S4において、走行速度Vが設定速度VSMAX以下であるか否かが判定される。
S3,4の判定がいずれもYESである場合には、プレビュー制御が有効に行われ得ると考えられるため、S5において、プレビュー制御が選択される。それに対して、S3,4の判定のいずれか一方がNOである場合、すなわち、旋回中である場合、あるいは、車速Vが設定速度VSMAXより大きい場合には、プレビュー制御が有効に行われないと考えられるため、S6において、通常制御が選択される。
【0047】
プレビュー制御が選択された場合には、図18のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラムが実行される。S11において、目標減衰力FSが決定され、S12において、プレビュー対応目標弾性力FHが決定される。S13において、目標減衰力FSと目標弾性力FHとの和が目標上下方向力FB*とされる。S14において、目標上下方向力FB*に対応する目標回転角θM*が取得され、目標回転角θM*に基づいて供給電流量i*が決定される。そして、供給電流量i*、目標上下方向力FB*の大きさ、変化の状態等に基づいて制御指令値が作成されて、出力される。
FB* =FS+FH
θM* =f(FB*)
i*=g(θM* )
f、gは、予め定められた関数を表す。
【0048】
S14の制御指令値の出力は、図23のフローチャートに従って行われる。S121において、目標上下方向力FB*の絶対値が増加しているか否かが判定される。増加している場合には、S122において、供給電流i*を表す制御指令値がインバータ178FLに出力される。
それに対して、増加していない場合、すなわち、減少しているか、ほぼ一定である場合には、S123において、目標上下方向力FB*の絶対値がしきい値Fth以上であるか否かが判定される。しきい値Fth以上である場合には、S124において、ブレーキモードが選択され、その旨を表す制御指令値が出力される。しきい値Fthより小さい場合には、S125において、フリーモードが選択され、その旨を表す制御指令値が出力される。
図24に示すように、目標上下方向力FB*の絶対値が大きくなる場合には、電動モータ140が通電状態とされるが、絶対値が小さくなる場合には、電流が供給されない。車輪12に加えられる荷重により、ばね上ばね下の間を基準状態に戻そうとする力が、第2ロアアーム46、L字形バー120を介してアクチュエータ124に加えられるため、供給電流の制御を行わなくても、基準位置に戻される。また、アクチュエータ124は正逆効率積が小さく、外部入力の影響を受け難いものであるが、フリーモードが設定されれば、外部入力によって作動させられ基準位置に戻される。このように、上下方向力の絶対値を小さくする場合に電流が供給されないようにすれば、消費電力の低減を図ることができる
また、目標上下方向力FB*の絶対値が大きい場合には、ブレーキモードが設定されるため、外力によって、急激に上下方向力の絶対値が小さくされることを回避することができる。
さらに、目標上下方向力FB*の絶対値を小さくする場合には、エネルギ回生を行うことも可能であり、そのようにすれば、さらに、エネルギ効率を向上させることができる。
また、目標上下方向力FB*の絶対値を小さくする場合に通電状態とされないため、アクチュエータ124の回転方向を、電流制御が行われる場合に比較して、速やかに逆向きにすることが可能となり、応答性の低下を抑制することができる。
なお、図24においては、ばね上部14の振動の周波数とばね下部46の振動の周波数とが同じであると仮定して記載した。
【0049】
後輪について通常制御が選択された場合、あるいは、前輪については、図19のフローチャートで表される通常制御プログラムが実行される。
S21において、目標減衰力FSが決定され、S22において、通常時目標弾性力FHが決定され、S23において、これらの和が目標上下方向力FB*として決定され、S24において、S14と同様に制御指令値が作成されて出力される。
【0050】
S11,21の目標減衰力の決定は、図20のフローチャートで表される目標減衰力決定ルーチンに従って行われる。
S51において、制御対象輪(前輪である場合も後輪である場合もある)12ijのばね上加速度GU、車高Hが検出される。S52において、ばね上加速度GUが積分されることにより、ばね上絶対速度VUが求められ、車高値Hを微分することによりばね上ばね下相対速度VSが求められる。なお、ばね上加速度GUについてはノイズ等を除去する処理が行われた後に積分され、車高値Hについては位相補償処理が行われた後に微分される。
S53において、ばね上部14の振動の周波数fが、図16(a)に示す領域B(ばね上絶対速度VUに基づく制御が有効に行われる領域)に属するか否かが判定される。領域Bから外れている場合には、ばね上速度制御が行われることがないため、S54において、目標減衰力FSは0とされる。
本実施例においては、バンドパスフィルタを通過した振動が領域Bに属する振動であり、除去された振動が領域Bから外れた振動である。
それに対して、領域Bに属する場合には、S55において、ばね上絶対速度VUに対して、第3の特性で位相進み処理が行われ、その後、目標減衰力が決定される。
S56において、ばね上絶対速度VUと相対速度VSとの積の値が正であるか負であるかが判定され、正である場合には、S57において、減衰係数C*がCMID(予め定められた値)とされ、負である場合には、S58において、減衰係数C*がCMIN(予め定められた値)とされる。そして、S59において、ゲインGSが0.5とされ、S60において、目標減衰力FSが、式
FS=−GS・C*・VU
に従って求められる。
なお、減衰係数C*を決定する際に使用される相対速度VSは、ばね上絶対速度VUと同様に位相進み処理が施されたものを使用することが望ましい。
【0051】
S12のプレビュー対応目標弾性力の決定は、図21のフローチャートで表されるプレビュー対応目標弾性力決定ルーチンに従って行われる。
S71において、制御対象輪が左後輪12RLである場合には、左前輪12FLのばね上加速度GU、車高Hが検出され、制御対象輪が右後輪12RRである場合には、右前輪FRのばね上加速度GU、車高Hが検出される。S72において、上述の場合と同様に、前輪12Fのばね下変位XLが取得され、S73において、ばね下部46の周波数fが、プレビュー制御が有効に行われる領域C内にあるか否かが判定される。領域Cから外れている場合には、S74において、プレビュー目標弾性力FHが0とされる。
領域C内にある場合には、S75において余裕時間TPが求められ、S76において戻り時間TQが求められ、S77において、S72において取得されたばね下変位XLの位相を、戻り時間TQを周波数fで換算した位相だけ遅らせる。そして、S78において、位相を遅らせたばね下変位XL、弾性係数K、ゲインGHからプレビュー対応目標弾性力が求められる。ゲインGHは、0.8である。
FH=GH・K・XL
なお、プレビュー対応目標弾性力が決定される際に、ばね下変位については、位相進み処理が行われることがない。
【0052】
S22の通常時目標弾性力の決定は、図22のフローチャートで表される通常時目標弾性力決定ルーチンに従って行われる。
S101において、制御対象輪12ijのばね上加速度GU、車高Hが取得され、S102において、同様に、ばね下変位XLが取得される。S103において、ばね下部46の振動の周波数fが取得され、S104において、しきい値fthより大きい(高周波側)か否かが判定される。周波数は、予め定められた設定時間内にばね下部46の変位XLが0になった回数に基づいて取得したり、周波数がしきい値fthより大きい振動を通過するフィルタを利用して、そのフィルタを通過した出力が設定レベルより大きいか否かにより、入力振動の周波数がしきい値fthより大きいか否かを取得したりすることができる。
そして、ばね下部46の振動の周波数fがしきい値fth以下である場合には、S105において、周波数fが領域B1に属するか否かが判定される。領域B1から外れている場合には、S106において目標弾性力FHが0とされ、領域B1に属する場合には、S107において、ばね下用第1位相進み処理部(低周波振動用処理部)270によって位相進み処理が行われる。ばね下用第1位相進み処理部270が選択され、第1の特性によって位相進み処理が行われるのである。S108において、ゲインGHが0.8とされて、S109において、目標弾性力FHが決定される。
FH=GH・K・XL
【0053】
それに対して、ばね下部46の振動の周波数fがしきい値fthより大きく、S104の判定がNOである場合には、S110において、周波数fが領域B2に属するか否かが判定される。領域B2から外れている場合には、S106において、目標弾性力FHは0とされ、領域B2に属する場合には、S111において、ばね下変位XHの位相進み処理がばね下用第2位相進み処理部(高周波振動用処理部)272において行われる。ばね下第2位相進み処理部272が選択されて、第2の特性で、位相進み処理が行われるのであり、進められる位相は大きい。S112において、ゲインGHが1とされ、S109において、目標弾性力FHが求められる。
【0054】
以上のように、本実施例においては、ばね上共振周波数付近の振動が生じた場合には、ばね上速度に応じた制御と、ばね下変位に応じた制御との両方が行われるため、ばね上部14の振動を良好に抑制することができる。この場合において、ばね下変位に基づく制御については、原則として、プレビュー制御が行われるため、ばね下部46の振動を良好に抑制することができ、それによって、ばね上部14の振動を良好に抑制することができる。
また、プレビュー制御が行われない場合であっても、位相進み処理が施されたばね下変位が用いられるため、ばね上共振周波数付近のばね下部46の振動を良好に抑制することが可能となり、乗り心地の向上を図ることができる。
さらに、位相進み処理によって、車両の諸元で決まるばね上共振周波数がほぼ中央に位置する領域において、ばね上速度、ばね下変位に応じた制御が可能となるため、積載重量の変化に起因してばね上共振周波数が多少変化しても、その共振周波数の振動を良好に抑制することが可能となる。
また、位相進みが大きい特性の処理部272と、位相進みが小さい特性の処理部270とを設け、高周波数の振動が生じた場合に位相進みが大きい特性の処理部272が選択され、低周波数の振動が生じた場合に位相進みが小さい特性の処理部270が選択されるため、高周波数の振動が生じても、低周波数の振動が生じても、ばね下部46の振動を良好に抑制することができ、それによって、ばね上部14の振動を抑制することが可能となる。
さらに、ばね上絶対速度に応じた制御とばね下変位に応じた制御との両方が行われる場合に、それぞれのゲインが1より小さい値とされるため、それぞれのゲインが1とされる場合に比較して、アクチュエータ124の目標回転角θM*が過大となり、消費エネルギが過大となることを回避することができる。
【0055】
以上のように、本実施例においては、ばね上加速度センサ196,車高センサ198,サスペンション制御装置168に含まれるノイズ等除去部250,位相補償処理部260,ばね上絶対速度演算部252,ばね上変位演算部258,ばね下変位演算部262等(図20のS51,52、図21のS71,72、図22のS101,102等を記憶する部分、実行する部分等)により振動取得装置が構成される。振動取得装置のうちばね上加速度センサ196,ノイズ等除去部250,ばね上絶対速度演算部252等(図20のS51,52を記憶する部分、実行する部分等)によりばね上振動取得部が構成され、ばね上加速度センサ196,車高センサ198,ノイズ等除去部250,位相補償処理部260,ばね上絶対速度演算部252,ばね上変位演算部258,ばね下変位演算部262等(図21のS71,72、図22のS101,102等を記憶する部分、実行する部分等)によりばね下振動取得部が構成される。
また、ばね上用位相進み処理部254,ばね下用第1位相進み処理部270,ばね下用第2位相進み処理部272等(図20のS55,図22のS107,111を記憶する部分、実行する部分等)により処理装置が構成され、サスペンション制御装置168の図17のフローチャートで表される制御部選択プログラム、図18、19のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラム、通常制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等によりサスペンション制御部が構成される。サスペンション制御部は、発生装置制御部でもある。
さらに、サスペンション制御部のうち、図19のS22〜24、図22のS105〜109を記憶する部分、実行する部分等により低周波振動時ばね下制御部が構成され、図19のS22〜24,図22のS109〜112を記憶する部分、実行する部分等により高周波振動時ばね下制御部が構成され、図18,19のS11,13,14,21,23,24を記憶する部分、実行する部分等によりばね上制御部が構成される。
【0056】
特性選択部268(図22のフローチャートのS104,107,111を記憶する部分、実行する部分等)は周波数対応特性選択部でもある。また、特性選択部268は、周波数対応制御部選択部でもある。処理装置における特性を選択することにより、その特性で処理された振動に基づく制御が行われるからである。
さらに、図17のフローチャートで表される制御部選択プログラムを記憶する部分、実行する部分等により、有効性対応制御部選択部が構成される。
また、図20のフローチャートのS59,60、図18のS11,13,14,図19のS21,23,24を記憶する部分、実行する部分等によりばね上ゲイン使用制御部が構成され、図22のフローチャートのS108,112,109、図19のS22〜24を記憶する部分、実行する部分等によりばね下ゲイン使用制御部が構成される。
【0057】
なお、サスペンションの制御の態様は、上記実施例におけるそれに限らない。例えば、ばね下部46の振動を抑制するために、ばね下絶対速度VLに応じた減衰力の制御が行われるようにすることもできる。
その場合には、目標上下方向力FB*が、式
FB*=−GU・C*・VU−GL・CL・VL
に従って求められる。減衰係数CLは、予め定められた定数とすることができ、ゲインGLは、上記実施例における場合と同様に、0.8あるいは1とすることができる。また、ばね上速度制御において使用される減衰係数C*を予め定められた固定値とすることもできる。
また、上下方向力の制御については、フィードバック制御が行われるようにすることもできる。
さらに、上記実施例においては、ばね下部46の変位XLが、ばね上加速度センサ196による検出値と車高センサ196による検出値とに基づいて取得されるようにされていたが、ばね下加速度センサを設け、ばね下加速度センサによる検出値GLを2回積分することにより取得されるようにするもできる。この場合には、ばね下部46の振動の周波数は、ばね下加速度センサによる検出値GL、あるいは、それを演算した値(ばね下絶対速度VL、ばね下変位XL)に基づいて取得することもできる。また、ばね下部46の振動の周波数は、ばね上部14の振動に基づいて取得することも可能である。例えば、ばね下部46の振動とばね上部14の振動との間には、予め定められた伝達関数で表される関係が成立するため、その伝達関数と、ばね下部46とばね上部14とのいずれか一方の振動とに基づけば他方の振動を取得することができるのであり、他方の振動の周波数を取得することができる。
また、位相進み処理部254,270,272は、フィルタを含むものであっても、電気回路から構成されるものであってもよい。
さらに、振動取得装置によって取得された振動の処理は、プログラムの実行に従って行われるようにしても、ハード回路の構成によって実行されるようにしてもよい。
【0058】
また、上記実施例においては、ばね上速度制御もばね下変位制御も上下方向力発生装置24の制御によって行われるようにされていたが、ばね上速度制御がショックアブソーバ22の制御によって行われ、ばね下変位制御が上下方向力発生装置24の制御によって行われるようにすることもできる。
本実施例においては、上下方向力発生装置24を制御する際の目標上下方向力FB*が通常目標弾性力決定部274とプレビュー目標弾性力決定部266とのいずれか一方において決定された値FHとされる(FB*=FH)。また、この場合のゲインは、上記実施例における場合と同様の値としたり、常に1としたりすることができる。
ばね上速度制御がショックアブソーバ22において行われる場合の一例を図26の減衰特性制御プログラムを表すフローチャートに基づいて簡単に説明する。
S151において、制御対象輪12ijのばね上加速度GU、車高Hが検出され、S152において、ばね上絶対速度VU、相対速度VSが取得され、S153において、ばね上部14の振動の周波数fがショックアブソーバ22の応答性等で決まる制御可能な周波数領域E内にあるか否かが判定される。制御可能な領域Eから外れている場合には、S154において、供給電流量は予め定められた値(例えば、0)とされ、制御可能な領域E内にある場合には、S153の判定がYESとなって、S155において位相進み処理が行われる。位相進みの程度が小さいものである。S156〜159において、ばね上絶対速度VUと相対速度VSとの積の値に基づいて、目標減衰係数C*が決定される。本実施例においては、積の値が正の場合には、目標減衰係数C*が
C*=C・VU/VS
とされ、負の場合には、
C*=CMIN
とされる。そして、S157において、決定された目標減衰係数C*が得られる大きさの供給電流量i*が決定されて、出力される。
i*=h(C*)
hは関数を表す。供給電流量i*が制御指令値に対応し、制御指令値i*がインバータ222に出力される。
ショックアブソーバ22の制御においては、減衰係数C*の増加・減少とは関係なく、電動モータ90に電流が供給される。電動モータ90における消費電力は小さいからである。
また、ショックアブソーバ22の応答性は上下方向力発生装置24における応答性と比較して高いため、位相進み処理を行うことは不可欠ではない。しかし、位相進み処理が行われることによって、制御遅れを非常に小さくしたり、0としたりすることができる。
さらに、制御可能な周波数領域Eは、上下方向力発生装置24における領域より広くなるため、広い周波数領域の振動に対して有効なばね上速度制御を行うことが可能となる。
【0059】
さらに、本発明が適用されるサスペンション装置は上記実施例におけるそれに限らない。例えば、ばね下部46と、ばね上部14との間に、コイルスプリング20と、液圧シリンダ装置とが並列に設けられたサスペンション装置に適用することもできる。液圧シリンダ装置の液圧を制御することにより、ばね下部46とばね上部14との間に作用する上下方向力を制御することが可能となる。
【0060】
また、本発明は、図27に示すサスペンションの制御にも適用することができる。
本実施例においては、上下方向力発生装置370がL字形バーの代わりに直線状のロッド372を含む。直線状のロッド372の一端部がアクチュエータ374に連結され、他端部がリンク部材378を介してばね下部380に連結される。アクチュエータ374はばね上部としての車体382に取り付けられており、ばね上部382とばね下部380との間に、直線状のロッド372が配設されることになる。ばね上部382とばね下部380との間には、コイルスプリング384が設けられ、コイルスプリング384と弾性部材としての直線状のロッド372とが並列に設けられることになる。
アクチュエータ374は、電動モータと減速機とを含み、直線状のロッド372が、減速機を介して電動モータの出力軸に連結され、電動モータの駆動によりモータトルクTMが加えられる。また、直線状のロッド372において、モータトルクTMと曲げモーメントL・FB*とが等しくなるため、反力FB*は、式
FB*=TM/L
で求められる大きさとなる。反力FB*は、上下方向力発生装置370によって、ばね下部380に加えられる力FB*の反力である。
アクチュエータ374は、インバータ390を介して、コンピュータを主体とするコントローラ392に接続される。コントローラ392には、上記実施例における場合と同様に、ばね上加速度センサ、車高センサ、操舵角センサ、ブレーキECU等が接続されており、コントローラ392の指令に基づいてインバータ390が制御され、電動モータ374の出力トルクが制御される。
上下方向力の目標値FB*は、上記各実施例における場合と同様に、ばね下変位に応じた弾性力FHと、ばね上絶対速度に応じた減衰力FSとの和とすることができる。
FB*=(G・K・XL)+(−G・C・VU)
【0061】
以上、複数の態様について記載したが、サスペンションの構造、サスペンション制御の内容は上記実施例には限らない等、本発明は、前記に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施例であるサスペンションシステムにおいてサスペンション制御が行われる場合の周波数領域を示す図である。
【図2】上記サスペンションシステム全体を概念的に示す図である。
【図3】上記サスペンションシステムに含まれる上下方向力発生装置の側面図である。
【図4】上記サスペンションシステムに含まれるショックアブソーバの断面図である。
【図5】上記ショックアブソーバの詳細な断面図である。
【図6】上記サスペンションに含まれる上下方向力発生装置の平面図である。
【図7】上記上下方向力発生装置のアクチュエータの断面図である。
【図8】上記上下方向力発生装置の作動を表す図である。
【図9】上記アクチュエータの電動モータを制御するインバータの回路図である。
【図10】上記インバータの作動状態を示す図である。
【図11】上記サスペンションシステムに含まれるサスペンション制御装置を概念的に示す回路図である。
【図12】上記サスペンション制御装置のばね上用位相進み処理部の特性を概念的に示す図である。
【図13】(a)上記サスペンション制御装置のばね下用第1位相進み処理部の特性を概念的に示す図である。(b)上記サスペンション制御装置のばね下用第2位相進み処理部の特性を概念的に示す図である。
【図14】上記サスペンションシステムにおいて行われるプレビュー制御の内容を説明するための図である。
【図15】上記サスペンション制御装置を表すブロック図の一部である。
【図16】上記サスペンション制御装置を表すブロック図の別の部分である。
【図17】上記サスペンション制御装置の記憶部に記憶された制御部選択プログラムを表すフローチャートである。
【図18】上記サスペンション制御装置の記憶部に記憶されたプレビュー制御プログラムを表すフローチャートである。
【図19】上記サスペンション制御装置の記憶部に記憶された通常制御プログラムを示すフローチャートである。
【図20】上記プレビュー制御プログラム、通常制御プログラムの一部を示すフローチャートである(S11、S21の目標減衰力決定)。
【図21】上記プレビュー制御プログラムの別の一部を示すフローチャートである(S12の目標弾性力決定)
【図22】上記通常制御プログラムの別の一部を示すフローチャートである(S22の目標弾性力決定)。
【図23】上記プレビュー制御プログラム、通常制御プログラムのさらに別の一部を示すフローチャートである(S14,24の制御指令値の出力)
【図24】上記制御指令値を示す図である。
【図25】上記ばね上速度制御、ばね下変位制御が行われる場合のゲインの決定方法を概念的に示す図である。
【図26】上記サスペンション制御装置の記憶部に記憶された別のプログラム(ばね上制御プログラム)を表すフローチャートである。
【図27】上記サスペンションシステムに含まれる別のサスペンションの構造を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0063】
12:車輪 14:車体 20:コイルスプリング 22:ショックアブソーバ 24:上下方向力発生装置 46:第2ロアアーム 56:減衰特性制御装置 90:電動モータ 122:L字形バー 124:アクチュエータ 130:シャフト部 132:アーム部 140:電動モータ 168:サスペンションECU 170:上下方向力発生装置ECU 172ショックアブソーバECU 178:インバータ 222:インバータ 196:ばね上加速度センサ 198:車高センサ 254:ばね上用位相進み処理部 256:目標減衰力決定部 268:特性選択部 270:ばね下用第1位相進み処理部 272:ばね下用第2位相進み処理部 274:通常時目標弾性力決定部 282:プレビュー対応目標弾性力決定部 370:上下方向力発生装置 372:直線状のロッド 374:アクチュエータ 390:インバータ 392:サスペンションECU
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションの制御に関するものであり、特に、振動取得装置によって取得された振動の処理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の位相補償フィルタ手段を備え、ばね上部の共振周波数が高い場合には位相遅れが小さい特性のフィルタ手段を選択し、共振周波数が低い場合には位相遅れが大きい特性のフィルタ手段を選択することが記載されている。荷重が小さく、共振周波数が高い場合には、位相遅れが小さいフィルタ手段を選択することにより、応答性を向上させ、良好な制振効果を得ることができる。
特許文献2には、位相遅れ手段と位相進み手段とを備え、ばね上部の周波数が設定周波数以上である場合に位相進み手段を選択し、設定周波数より低い場合に位相遅れ手段を選択することが記載されている。それによって、乗り心地の向上を図ることができる。
特許文献3には、ばね上部とばね下部との間に、サスペンションスプリング、ショックアブソーバおよび上下方向力発生装置が互いに並列に設けられた場合において、上下方向力発生装置が、ばね下部の絶対速度とばね上部の絶対速度とに基づいて制御される場合に、ばね下対応ゲインとばね上対応ゲインとの各々が、サスペンションスプリングおよびショックアブソーバの分担分を考慮して決定されることが記載されている。
特許文献4〜6には、ばね上部の振動等に基づいて減衰特性を制御することが記載されている。
【特許文献1】特開平8−258529号公報
【特許文献2】特開平5−319056号公報
【特許文献3】特開平7−89321号公報
【特許文献4】特開平7−32838号公報
【特許文献5】特開平5−201224号公報
【特許文献6】特公平3−16281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、サスペンションシステムにおいて、振動取得装置によって取得された振動の処理を特許文献1,2に記載の態様とは異なる態様で行うことにより、高周波数の振動が生じた場合にも、低周波数の振動が生じた場合にも、良好に抑制可能とすることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0004】
請求項1に記載のサスペンションシステムは、(a)車両のばね上部とばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動を取得する振動取得装置と、(b)その振動取得装置によって取得された振動について位相進み処理を行うものであって、互いに位相進みの程度が異なる複数の特性を有する処理装置と、(c)前記ばね上部と前記ばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動の周波数に基づいて前記複数の特性のうちの1つを選択する特性選択部と、(d)その特性選択部によって選択された特性で前記処理装置により処理された振動を用いて前記ばね上部と前記ばね下部との間のサスペンションを制御するサスペンション制御部とを含むものとされる。
車両のサスペンションシステムにおいて、車両のばね上部とばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動が取得され、取得された振動に対して、位相進み処理が処理装置において行われ、その処理された値に基づいてサスペンションの制御が行われる。サスペンション制御において、その制御に用いられるアクチュエータの応答遅れ等に起因して、実際の振動に対して制御が遅れる。特に、応答遅れが大きいアクチュエータが用いられる場合には、振動を良好に抑制することが困難な場合がある。このような場合に、振動取得装置によって得られた振動に対して位相進み処理を施し、その処理された振動に基づいてアクチュエータが制御されるようにすれば、制御遅れを抑制することが可能となる。しかし、例えば、処理装置の位相進みの程度(特性)を、ばね上共振周波数付近の振動を抑制する場合に適した程度とした場合には、ばね上共振周波数付近の振動を良好に抑制することができるが、ばね下共振周波数付近の振動を良好に抑制することができない。逆に、処理装置の特性を、ばね下共振周波数付近の振動を抑制するのに適した程度とした場合には、ばね上共振周波数付近の振動を良好に抑制することができないという問題が生じる。そこで、本請求項1に記載のサスペンションシステムにおいては、処理装置を、互いに位相の進みの程度が異なる複数の特性を有するものとし、ばね上部とばね下部との少なくとも一方の振動の周波数に基づいて複数の特性のうちの1つが選択されるようにした。その結果、車両に、ばね上共振周波数付近の振動が生じても、ばね下共振周波数付近の振動が生じても、振動を良好に抑制することが可能となり、乗り心地を向上させることができる。
それに対して、前述のように、特許文献1に記載のサスペンションシステムにおいても、特許文献2に記載のサスペンションシステムにおいても、位相の進みの程度が互いに異なる複数の位相進みフィルタを含むものではなく、互いに特性が異なる複数の位相進みフィルタから1つが選択されることもない。この点において、本発明とは異なる。
振動取得装置は、1つのセンサを含むものとしたり、複数のセンサを含むものとしたりすることができる。振動取得装置が1つのセンサを含む場合において、(i)その1つのセンサによる検出値をそのまま、ばね上部とばね下部との少なくとも一方の振動(以下、車両に生じる振動と略称することがある)として取得するものとしたり、(ii)1つのセンサによる検出値にノイズ除去、カットオフ周波数以下の振動の除去等の処理を施した値を車両に生じた振動として取得するものとしたり、(iii)1つのセンサによる検出値を微分、あるいは、積分した値を車両に生じた振動として取得するものとしたり、(iv)これらのうちの2つ以上の処理や演算が実行されることによって得られた値を振動として取得するものとしたりすることができる。また、複数のセンサを含む場合において、(i)複数のセンサによる検出値を演算することにより車両に生じた振動を取得するものとしたり、(ii)複数のセンサによる検出値、あるいは、演算値に対して上述のノイズ除去等の処理を施した値を車両に生じた振動として取得するものとしたりすることができる。具体的には、(i)ばね上加速度センサを含み、そのばね上加速度センサによる検出値にノイズ除去等の処理を施した値をばね上加速度として取得するものとしたり、(ii)そのばね上加速度を積分して、ばね上部の絶対速度を取得するものとしたり、(iii)ばね上加速度センサおよび上下ストロークセンサ(ばね上部とばね下部との間のストロークを検出するセンサ)を含み、ばね上加速度センサによる検出値を2回積分した値から、上下ストロークセンサによる検出値を引いた値をばね下部の変位として取得するものとしたりすることができる。
振動の周波数は、周波数取得装置によって取得される。周波数取得装置は、ばね上部の振動の周波数を取得するものであっても、ばね下部の振動の周波数を取得するものであってもよい。周波数取得装置は、ばね上部(あるいはばね下部)の変位の変化、絶対速度の変化等に基づいて取得するものとしたり、フィルタ(例えば、バンドパスフィルタ)を使用して取得するものとしたりすることができる。例えば、予め定められた設定時間内に変位が0(基準位置にある)になった回数、絶対速度が0(振幅の絶対値が極大、あるいは極小の位置にある)になった回数等に基づけば、周波数を取得することができる。また、設定周波数範囲の振動を通過させるバンドフィルタを用い、通過した出力が設定値以上である場合には、その振動の周波数が設定周波数領域内であることを取得することができる。
サスペンションの制御は、ばね上部の振動に基づいて行われる場合、ばね下部の振動に基づいて行われる場合、これらの両方に基づいて行われる場合等がある。
処理装置は、入力信号(振動取得装置によって取得された振動)に対して位相進み処理を行うものであり、互いに位相の進みの程度が異なる複数の特性を有する。処理装置は、互いに特性が異なる複数の処理部を含むものであっても、互いに異なる複数の特性を有する1つの処理部を含むものであってもよい。処理装置は、例えば、微分要素を含む1つ以上のフィルタを含むものとすることができるのであり、互いに異なる特性の複数のフィルタを含むものとしたり、1つのフィルタであって、異なる特性で処理可能なものを含むものとしたりすることができる。例えば、フィルタがディジタルフィルタである場合には、その演算に用いられる係数の1つ以上を変更すれば、特性を変更することができる。また、特性を連続的に変更することも可能である。
特性選択部は、処理装置が複数の処理部を含む場合には、複数の処理部のうちの1つを選択する。処理部を選択することによって特性を選択したことになる。処理装置が1つの処理部を含む場合には、その処理部が有する複数の特性のうちの1つを選択する。ディジタルフィルタを含む場合には、1つ以上の係数等を選択あるいは決定することにより特性が選択されたことになる。また、サスペンションの制御が、ばね上部の振動に基づいて行われる場合には、ばね上部の振動の周波数に基づいて特性を選択し、ばね下部の振動に基づいて行われる場合には、ばね下部の振動の周波数に基づいて選択することができるが、それに限らない。ばね下部の振動とばね上部の振動との間には、予め定められた関係があるため、いずれか一方の振動の周波数に基づいて他方の振動の周波数を取得することができる。
【特許請求可能な発明】
【0005】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組を、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0006】
(1)車両のばね上部とばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動を取得する振動取得装置と、
その振動取得装置によって取得された振動について位相進み処理を行うものであって、互いに位相進みの程度が異なる複数の特性を有する処理装置と、
前記ばね上部と前記ばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動の周波数に基づいて前記複数の特性のうちの1つを選択する特性選択部と、
その特性選択部によって選択された特性で前記処理装置により処理された振動を用いて前記ばね上部と前記ばね下部との間のサスペンションを制御するサスペンション制御部と
を含むことを特徴とするサスペンションシステム(請求項1)。
(2)前記振動取得装置が、前記ばね下部の上下方向の振動を取得するばね下振動取得部を含み、前記処理装置が、第1の特性と、その第1の特性より位相の進みの程度が大きい第2の特性とを含み、前記特性選択部が、前記周波数が予め定められた設定周波数より低い場合に前記第1の特性を選択し、前記周波数が前記設定周波数以上である場合に前記第2の特性を選択する周波数対応特性選択部を含む(1)項に記載のサスペンションシステム。
本サスペンションシステムにおいては、ばね下部の振動の周波数に基づいて処理装置の特性が選択される。特許文献1,2に記載のサスペンションシステムにおいてはばね上部の振動の周波数に基づいて特性が選択されるのであり、この点が異なる。
(3)前記サスペンション制御部が、(a)前記周波数が前記設定周波数より低い場合に、前記処理装置によって前記第1の特性で処理された前記ばね下部の振動に基づいて前記サスペンションを制御する低周波振動時ばね下制御部と、(b)前記周波数が前記設定周波数以上である場合に、前記処理装置によって前記第2の特性で処理された前記ばね下部の振動に基づいて前記サスペンションを制御する高周波振動時ばね下制御部とを含む(2)項に記載のサスペンションシステム(請求項2)。
周波数が高い振動が生じた場合に、位相進みの程度が大きい特性が選択される。位相進みの程度が大きい特性で処理が行われ、その処理された振動に基づいてサスペンションの制御が行われる。その結果、周波数が高い振動を良好に抑制することができる。
周波数が低い振動が生じた場合に、位相進みの程度が小さい特性が選択されて、位相進みの程度が小さい特性で処理が行われる。その処理値に基づいたサスペンション制御により、周波数が低い振動を良好に抑制することができる。
以上のように、低周波数の振動が生じた場合に第1の特性が選択され、高周波数の振動が生じた場合に第2の特性が選択されるようにすれば、周波数が高い振動が生じても、周波数が低い振動が生じても、振動を良好に抑制することが可能となる。
(4)前記振動取得装置が、前記ばね上部の上下方向の振動を取得するばね上振動取得部を含み、前記処理装置が、位相の進みの程度が前記第2の特性より小さい第3の特性を有し、前記サスペンション制御部が、前記処理装置によって第3の特性で処理された前記ばね上部の上下方向の振動を使用して前記サスペンションを制御するばね上制御部を含む(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のサスペンションシステム(請求項3)。
ばね上共振周波数は、ばね下共振周波数より低いのが普通である。そのため、ばね上部の振動を抑制するためにサスペンション制御が行われる場合には、位相進みの程度が小さい第3の特性が選択され、その第3の特性で処理された値に基づいてサスペンション制御が行われる。なお、第3の特性は、第2の特性より位相進みの程度が小さい特性であるが、第1の特性と位相進みの程度を同じとしても、異ならせてもよい。
(5)当該サスペンションシステムが、(a)前記周波数が前記設定周波数より低い場合に、前記ばね上制御部と前記低周波振動時ばね下制御部とを選択する手段と、(b) 前記周波数が前記設定周波数以上である場合に、前記高周波振動時ばね下制御部を選択する手段との少なくとも一方を含む周波数対応制御部選択部を含む(4)項に記載のサスペンションシステム(請求項4)。
ばね上部の振動が、その振動の周波数の大小と関係なく、処理装置によって第3の特性で処理される場合には、ばね上制御部によって、ばね上部の周波数の高い振動を抑制することが困難である。
それに対して、高周波数の振動が生じた場合に、高周波振動時ばね下制御部によって、ばね下部の高周波数の振動が抑制されれば、それによって、ばね上部の高周波数の振動を抑制することが可能となる。
また、振動の周波数が低い場合には、ばね上制御部と低周波振動時ばね下制御部との両方が実行される。ばね上制御部によってばね上部の振動が抑制されるとともに、低周波振動時ばね下制御部によってばね下部の振動が抑制されるため、ばね上部の振動を良好に抑制することができ、乗り心地の向上を図ることができる。さらに、たとえ、ばね上制御部によってばね上部の振動を充分に抑制できない場合であっても、低周波振動時ばね下制御部によってばね下部の振動が抑制されるため、それによって、ばね上部の振動を良好に抑制することが可能となる。
なお、設定周波数以上の振動が生じた場合には、高周波振動時ばね下制御部とばね上制御部とのいずれか一方が択一的に選択されるようにすることもできる。設定周波数の大きさによっては、ばね上制御部による制御が有効な場合があるからである。
(6)当該サスペンションシステムが、(a)前記周波数がばね上共振周波数を含む領域にある場合に、前記ばね上制御部と前記低周波振動時ばね下制御部とを選択する手段と、(b)前記周波数がばね下共振周波数を含む領域にある場合に、前記高周波振動時ばね下制御部を選択する手段との少なくとも一方を含む共振周波数対応制御部選択部を含む(4)項または(5)項に記載のサスペンションシステム。
(7)前記第1の特性を、ばね上共振周波数を含む周波数の振動を抑制可能な振動を出力する特性とし、前記第2の特性を、ばね下共振周波数を含む周波数の振動を抑制可能な振動を出力する特性とした(2)項ないし(6)項のいずれか1つに記載のサスペンションシステム。
ばね上共振周波数とばね下共振周波数との両方の成分を含む振動が生じることは殆どない。そのため、第1特性と、第2特性とのいずれか一方が択一的に選択されるようにすれば、いずれの振動が生じても、振動を良好に抑制することができ、乗り心地の低下を抑制することができる。
ばね上共振周波数は、ばね上重量を含む車両の諸元によって決まるが、積載重量が変わると変化する。そのため、第1の特性は、標準的な積載状態で決まる共振周波数がほぼ中央に位置する範囲の領域の振動を出力する特性とすることが望ましい。その結果、積載重量が変化して共振周波数が変化しても、ばね上部の振動を良好に抑制することが可能となる。
(8)前記ばね上制御部が、ばね上対応ゲインを使用して前記サスペンションを制御するばね上対応ゲイン使用制御部を含み、前記低周波振動時ばね下制御部が、前記サスペンションを前記ばね上制御部と前記低周波振動時ばね下制御部との両方によって制御する場合に、前記ばね上対応ゲインより大きいばね下対応ゲインを使用して前記サスペンションを制御するばね下ゲイン使用制御部を含む(4)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のサスペンションシステム(請求項5)。
ばね上制御部による制御と低周波振動時ばね下制御部による制御との両方が行われる場合において、低周波振動時ばね下制御部において使用されるゲインが、ばね上制御部において使用されるゲインより大きくされる。実験あるいはシミュレーション等により、ばね上制御部による制御とばね下制御部による制御との両方が行われる場合に、ばね下制御部において使用されるゲインが、ばね上制御部において使用されるゲインより大きい方が、大きな制振効果が得られるからである。
(9)前記ばね上対応ゲインを、0.1〜1.5から選択された値とし、前記ばね下対応ゲインを、0.3〜1.5の間の値であって、かつ、前記ばね上対応ゲインより大きい値から選択された値とした(8)項に記載のサスペンションシステム。
ばね上対応ゲインは、1.2以下、1.0以下、0.8以下の値とすることが望ましく、0.2以上、0.4以上の値とすることが望ましい。ばね下対応ゲインは、1.3以下、1.1以下、0.9以下とすることが望ましく、0.3以上、0.5以上とすることが望ましい。
ばね上対応ゲイン、ばね下対応ゲインを、それぞれ1より小さい値とすれば、1以上の値とした場合より、アクチュエータの出力を小さくすることができ、消費エネルギの低減を図ることができる。
ゲインは、予め定められた固定値としたり、振動の状態と車両の走行状態との少なくとも一方で決まる可変値としたりすることができる。
(10)前記振動取得装置が、前記車両に設けられた少なくとも1つのセンサを含み、そのセンサによる検出対象部より前記車両の後方にある制御対象輪の前記ばね下部の上下方向の振動を、そのセンサによる検出値に基づいて予測するばね下振動予測部を含み、前記サスペンション制御部が、前記制御対象輪のサスペンションを、前記ばね下振動予測部によって予測された前記ばね下部の上下方向の振動に基づいて制御するプレビュー制御部を含む(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載のサスペンションシステム。
(11)当該サスペンションシステムが、前記プレビュー制御部による制御が有効である場合に、前記プレビュー制御部と前記ばね上制御部とを選択し、前記プレビュー制御部による制御が有効でない場合に、(i)前記ばね上制御部と、(ii)前記高周波振動時ばね下制御部と前記低周波振動時ばね下制御部とのいずれか一方との少なくとも一方を選択する有効性対応制御部選択部を含む(10)項に記載のサスペンションシステム(請求項6)。
(12)前記ばね下振動予測部が、前記制御対象輪の振動を、前記センサによる検出値の位相を、車両の走行速度と、アクチュエータの制御遅れ時間とで決まる時間に対応する位相だけ遅らせて取得する位相遅れ対応予測部を含む(10)項または(11)項に記載のサスペンション制御装置。
プレビュー制御は、センサが路面センサである場合において、そのセンサによって凹凸が検出された路面と同じ路面を制御対象輪が通ること、あるいは、センサが前輪側の上下方向の振動を検出するセンサである場合において、そのセンサによって検出された振動に応じた路面を、制御対象輪である後輪が通ること(前輪に生じた振動と同じ振動が後輪にも起きること)が前提である。
それに対して、車両が旋回している場合には、センサによる検出対象部の軌跡と制御対象輪の軌跡とが異なるのが普通であり、プレビュー制御を良好に行うことができない場合がある。また、〔実施例〕において詳述するように、車両の走行速度が非常に早い場合には、制御指令値を作成できない場合がある。
そこで、本実施例においては、車両が旋回状態にあることと、車速が予め定められた設定速度より大きくなったこととの少なくとも一方の場合には、プレビュー制御を効果的に行うことができない状態にあると判定され、プレビュー制御が行われないようにされている。
本項に記載のサスペンションシステムにおいては、プレビュー制御が行われない場合に、ばね上制御部による制御が行われる場合、ばね下制御部による制御が行われる場合、ばね上制御部による制御とばね下制御部による制御との両方が行われる場合がある。いずれにしても、プレビュー制御が行われない場合であっても振動を良好に抑制することが可能となる。
(13)前記サスペンションが、前記ばね下部と前記ばね上部との間に設けられ、上下方向の力を発生させる上下方向力発生装置を含み、前記サスペンション制御部が、その上下方向力発生装置を電気的に制御して、前記上下方向力を制御する発生装置制御部を含む(1)項ないし(12)項のいずれか1つに記載のサスペンションシステム(請求項7)。
上下方向力発生装置は、ばね下部とばね上部との間に設けられ、上下方向の力を発生させるものである。上下方向の力とは、上下方向の成分を有する方向の力であり、車両の上下方向であっても、車両の上下方向に対して多少傾いた方向であってもよい。
上下方向力発生装置によって発生させられる上下方向力の向きは、ばね下部の車体、車輪に対する連結部の構造、上下方向力発生装置とばね下部との連結の状態等で決まる。ばね下部が上下方向に回動可能に連結されており、前後方向、幅方向の移動(あるいは回動)が許容されていない場合には、発生させられる力は上下方向の力であると考えることができる。
上下方向力は、後述するように、減衰力としたり、弾性力としたりすることができる。
(14)前記上下方向力発生装置が、減衰力を発生させる減衰力発生装置を含み、前記振動取得装置が、制御対象輪に対応する前記ばね上部の上下方向の絶対速度と、ばね上部とばね下部との上下方向の相対速度とを取得するものであり、前記発生装置制御部が、(a)(i)前記ばね上部の絶対速度と(ii)ばね上部とばね下部との相対速度との少なくとも一方に基づいて目標減衰力を決定する目標減衰力決定部と、(b)前記減衰力発生装置を制御して、その目標減衰力決定部によって決定された目標減衰力を出力させる減衰力制御部とを含む(13)項に記載のサスペンション制御装置。
上下方向力発生装置の制御により減衰力が発生させられ、それによって上下方向の振動が抑制される。減衰力は、ばね上部の上下方向の絶対速度に応じた大きさとしても、ばね上部とばね下部との相対速度に応じた大きさとしてもよい。減衰係数は、ばね上絶対速度と相対速度との少なくとも一方に基づいて取得することができる。
なお、減衰力は、ばね下絶対速度に応じた大きさとすることもできる。その場合には、減衰係数は一定の値とすることができる。
(15)前記上下方向力発生装置が、弾性力を発生させる弾性力発生装置を含み、前記振動取得装置が、前記ばね上部の上下方向の変位と、ばね上部とばね下部との相対変位とに、ばね下部の変位を取得するものであり、前記発生装置制御部が、(a)前記ばね下部の変位に基づいて目標弾性力を決定する目標弾性力決定部と、(b)前記弾性力発生装置を制御して、その目標弾性力決定部によって決定された目標弾性力を出力させる弾性力制御部とを含む(13)項または(14)項に記載のサスペンション制御装置。
上下方向力発生装置の制御により、弾性力が発生させられ、それによって、制御対象輪の上下方向の振動が抑制される。
(16)前記上下方向力発生装置が、(a)前記ばね下部と前記ばね上部とのいずれか一方に一端部が連結され、他方に他端部が連結された弾性部材と、(b)前記弾性部材を復元力に抗して弾性変形させる駆動源とを含み、前記発生装置制御装置が、前記弾性部材の弾性変形量を変化させて、前記上下方向力を制御する弾性変形量制御部を含む(13)項ないし(15)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
(17)前記弾性部材が、前記車両の前後方向に延びた第1バー部と幅方向に延びた第2バー部とを含む概してL字形を成したバーであり、前記駆動源が、前記L字形のバーの第1バー部と第2バー部とのいずれか一方を、それの軸線回りに回転させて、捩りモーメントを加える電動モータを含む(16)項に記載のサスペンション制御装置。
(18)前記弾性部材が、前記車両の前後方向に延びた第1バー部と幅方向に延びた第2バー部とのいずれか一方から成るロッドであり、前記駆動源が、前記ロッドに曲げモーメントを加える電動モータを含む(16)項または(17)項に記載のサスペンション制御装置。
弾性部材は、上下方向から見た場合に、L字形を成した部材であっても、直線状に延びた部材であってもよい。換言すれば、上下方向に湾曲した形状であっても差し支えない。
(19)前記ばね下部と前記ばね上部との間に、前記上下方向力発生装置と並列に、その上下方向力発生装置に含まれる弾性部材とは別の弾性部材としてのサスペンションスプリングが設けられた(13)項ないし(18)項のいずれか1つに記載のサスペンション制御装置。
ばね下部とばね上部との間に、上下方向力発生装置の弾性部材と、その弾性部材とは別の弾性部材であるサスペンションスプリングとが設けられる。上下方向力発生装置に含まれる弾性部材は、前述のように、駆動源により弾性変形させられ、上下方向力が発生させられるが、サスペンションスプリングは、駆動源によって弾性変形させられるのではなく、車輪に加えられる荷重等により弾性変形させられる。
車輪に加えられる荷重は、サスペンションスプリングと弾性部材とが受ける。しかし、駆動源の非作動状態において、弾性部材が弾性変形していない状態においては、弾性部材には力が発生せず、荷重はサスペンションスプリングが受ける。この状態が上下方向力発生装置の駆動源の基準状態である。基準状態は、車輪に加えられる荷重で決まり、荷重が大きい場合は小さい場合よりばね上ばね下間の距離が短くなる。
基準状態から、例えば、駆動源の電動モータを一方向に回転させた場合には、ばね上部とばね下部との間の距離が大きくなる。サスペンションスプリングの弾性力が小さくなるが、弾性部材の弾性力が大きくされるのであり、これらの和は、荷重に応じた大きさに維持される。サスペンションスプリングの弾性力の向きと弾性部材の弾性力の向きとは同じである。
基準状態から、電動モータを他方向に回転させた場合には、ばね上部とばね下部との間の距離が小さくなる。サスペンションスプリングの弾性力が大きくなり、弾性部材のその逆向きの弾性力が大きくされる。サスペンションスプリングの弾性力の向きと弾性部材の弾性力の向きとは逆となる。
弾性部材がL字形のバーである場合には、第1バー部と第2バー部との一方(以下、シャフト部と称する)が軸線回りに回転させられると、他方(以下、アーム部と称する)が回動させられ、それによって、ばね上ばね下間の距離が変化する。また、シャフト部が捩られると、シャフト部に加えられる捩りモーメント(電動モータによって加えられたトルクと同じ)とアーム部に加えられる曲げモーメントとが等しくなるため、それで決まる大きさの上下方向力がばね下部に加えられる。
弾性部材が直線状のロッドである場合には、ロッドに電動モータによって加えられたトルクと曲げモーメントとが等しくなるため、それで決まる大きさの上下方向力がばね下部に加えられる。
弾性部材がL字形のバーである場合と直線状のロッドである場合とを比較すると、いずれにおいても、電動モータによって弾性部材に加えられるトルクと曲げモーメントとが等しくなる大きさに応じた上下方向力が発生させられる点については同じである(捩り応力と曲げ応力とが、同時に許容応力に達することが前提)。
また、弾性部材がL字形のバーである場合には、シャフト部の軸線回りの回転によりアーム部が回動させられるのに対して、直線状のロッドである場合には、直線状のロッドが直接電動モータによって回動させられる。そのため、直線状のロッドの長さとL字形のバーのアーム部の長さとが同じである場合には、L字形のバーとした方が、直線状のロッドとする場合に比較して、駆動源を、車体(ばね上部)の車輪から離れた部分に設けることができるという利点がある。
【実施例】
【0007】
以下、本発明の一実施例であるサスペンション制御装置を含むサスペンションシステムについて説明する。
図2,3において、車両の前後左右の各車輪12FR、FL、RL、RRとばね上部としての車体14(以下、ばね上部と称する場合や、車体と称する場合がある)との間にサスペンション16が設けられる。
サスペンション16は、サスペンションスプリングとしてのコイルスプリング20FR、FL、RL、RR、ショックアブソーバ(以下、アブソーバと略称する場合がある)22FR、FL、RL、RR、上下方向力発生装置24FR、FL、RL、RR等を含む。以下、車輪の位置を表す添え字FR、FL、RL、RRはこれらを区別する必要がある場合に記載するが、区別する必要がない場合には記載しない。また、前輪側と後輪側とを区別する必要が場合に、添え字F、Rを付すことがある。さらに、前後左右の車輪のうちの任意の一輪を表す場合において、それが同じ車輪であること表す場合に、添え字ij(i=F、R j=R、L)を付すことがある。
図3に示すように、サスペンション16は、第1アッパアーム40,第2アッパアーム42,第1ロアアーム44,第2ロアアーム46,トーコントロールアーム48等の複数のサスペンションアームを含む。本実施例において、サスペンション16はマルチリンク式とされている。これら5本のサスペンションアーム40,42,44,46,48は、それぞれの一端部において、車体14に回動可能に連結され、他端部において、車輪12を相対回転可能に保持するアクスルキャリア50に回動可能に連結されている。アクスルキャリア50は、車体14に、それら5本のアーム40,42,44,46,48により予め定められた軌跡に沿って上下方向に相対移動可能とされる。
【0008】
ショックアブソーバ22は、図4に示すように、車体14と、ばね下部としての第2ロアアーム46との間に、原則的に、上下方向に相対移動不能、かつ、揺動可能に連結されている。ショックアブソーバ22は、減衰特性制御装置56を含み、減衰特性が連続的に制御可能とされている。
ショックアブソーバ22は、ハウジング60とピストン62とを含み、ハウジング60において第2ロアアーム46に連結され、ピストン62のピストンロッド64において、マウント部54を介して車体14に連結される。ピストンロッド64は、中間部において、ハウジング60の蓋部66にシール68を介して摺接させられる。
ハウジング60は、図5に示すように、外筒71と内筒72とを含み、それらの間がバッファ室74とされる。上述のピストン62は、その内筒72の内側に液密かつ摺動可能に嵌合されているのであり、内筒72の内側が、上室75と下室76とに仕切られる。
ピストン62には、上室75と下室76とを接続する接続通路77、78が同心状に複数個ずつ設けられる(図5には、そのうちの2つずつが記載されている)。ピストン62の下面に配設された弁板79、上面に配設された弁板80、81は、それぞれ、ピストンロッド64に設けられた段部、ナットによって支持されている。
弁板79は、外周側にある接続通路78の開口は覆わないが、内周側にある接続通路77の開口を覆う大きさであり、上室75と下室76との液圧差が設定値以上となり、開弁圧以上の力が作用すると撓められ、上室75から下室76への作動液の流れを許容する。弁板79,接続通路77の開口部等によりリーフバルブ84が構成される。
弁板80、81は上下方向に重ねて設けられる。弁板80が接続通路78の開口を覆い、弁板80,81の接続通路77の開口に対応する部分には開口部が形成されている。下室76と上室75との液圧差が設定値以上になり、開弁圧以上の力が作用すると撓められ、下室76から上室75へ向かう作動液の流れを許容する。弁板80,81、接続通路78の開口部等によりリーフバルブ86が構成される。
下室76と上述のバッファ室74との間には、リーフバルブを備えたベースバルブ本体88が設けられる。
【0009】
減衰特性制御装置56は、図4に示すように、電動モータ90,電動モータ90の回転を直線運動に変換する運動変換機構91,調整ロッド92等を含む。ピストンロッド64の内部には、それの軸線方向に延びた貫通穴94が形成され、その貫通穴94に調整ロッド92が配設される。調整ロッド92は、上端部において運動変換機構91の出力部材に連結されており、電動モータ90の回転に伴ってピストンロッド64に対して直線的に相対移動させられる。電動モータ90の回転角度はモータ回転角センサ96によって検出される。
図5に示すように、貫通穴94は段付き形状を成しており、上部が大径部98、下部が小径部100とされる。小径部100において下室76に開口し、大径部98において接続通路102を介して上室75と連通させられる。上室75と下室76とは、貫通穴94,接続通路102によって互いに連通させられる。
一方、調整ロッド92の中間部の外径は大径部98の内径より小さく、かつ、小径部100の内径より大きくされており、下端部106の外径は下方にいくにつれて漸減させられる(例えば、下端部106の形状を円錐形状とすることができる)。調整ロッド92は、中間部が大径部98に位置し、下端部106が大径部98と小径部100との段差部付近に位置する状態で配設される。
調整ロッド92の下端部106の外周面と、大径部98と小径部100との段部の周縁107との間の隙間(開口面積)が、調整ロッド92(下端部106)のピストンロッド64に対する相対位置の変化に伴って、連続的に変化させられる。調整ロッド92の相対位置は、電動モータ90の回転角度からわかる。電動モータ90の制御により開口面積が制御されるのであり、調整ロッド76の下端部106、周縁107を含む貫通穴94の内周面等により流量制御弁(可変絞り)108が構成される。
なお、貫通穴94の接続通路102が接続された部分より上方にはシール部材109が設けられ、貫通穴94の内周面と調整ロッド92の外周面との間が液密に保たれる。
【0010】
例えば、ばね上部14と第2ロアアーム46(車輪12)とを接近させる向きの力、すなわち、ピストン62をハウジング60に対して相対的に下方へ移動させる向きの力が加えられた場合には、下室76の液圧が高くなる。
下室76の作動液の一部が貫通穴94の可変絞り108を通って上室75へ流れる。また、弁板80(81)に加えられる液圧差に応じた力が開弁圧以上となり、リーフバルブ86が開状態に切り換えられると、接続通路78を経て作動液が上室75へ流れる。さらに、ベースバルブ体88のリーフバルブを経てバッファ室74へ流出する。ショックアブソーバ22の減衰特性は、主として、可変絞り108の開口面積で決まる。作動液が可変絞り108を流れる際に加えられる抵抗力は、流速が同じである場合には、可変絞り108の開口面積が小さくなるほど大きくなる。本実施例においては、ショックアブソーバ全体において、減衰係数が所望の大きさとなるように、電動モータ90の制御により、可変絞り108の開口面積が制御される。
【0011】
逆に、ばね上部14と第2ロアアーム46(車輪12)とを離間させる向きの力、すなわち、ピストン62をハウジング60に対して相対的に上方に移動させる向きの力が加えられた場合には、上室75の液圧が高くなる。
上室75内の作動液の一部が貫通穴94の可変絞り108を通って下室76へ流れる。また、弁板79に加えられる力が開弁圧以上になるとリーフバルブ84が開状態に切り換えられて、接続通路77を経て下室76に作動液が流れる。また、バッファ室74の作動液の一部がベースバルブ体88のリーフバルブを経て流入する。減衰特性は、可変絞り108の開口面積の制御によって制御される。
なお、ピストン62の移動速度(作動液の流速)が同じ場合には、減衰特性(減衰係数)の制御により減衰力が制御されるため、減衰特性の制御を減衰力の制御であると考えることもできる。
【0012】
前記コイルスプリング20は、図4に示すように、ショックアブソーバ22のハウジング60の中間部に設けられた下部リテーナ110と、マウント部54に防振ゴム112を介して設けられた上部リテーナ114との間に配設される。ハウジング60は第2ロアアーム46に支持され、マウント部54において車体14に取り付けられるため、コイルスプリング20は、第2ロアアーム46と車体14との間に、ショックアブソーバ22と並列に設けられることになる。
なお、ピストンロッド64のハウジング60の内部に位置する部分には、弾性部材116が設けられ、その弾性部材116の上面が蓋部66の下面に当接することによってリバウンド方向(車輪と車体との離間方向)の移動限度が規定される。また、ハウジング60の蓋部66の上面が防振ゴム112に当接することによってバウンド方向(車輪と車体との接近方向)の移動限度が規定される。弾性部材116,あるいは、弾性部材116および蓋部66の下面によってリバウンド側のストッパが構成され、防振ゴム112,あるいは、防振ゴム112および蓋部66の上面によってリバウンド側のストッパが構成される。
【0013】
上下方向力発生装置24は、図3,6に示すように、上下方向から見た場合に、概してL字形を成したバー122(弾性部材の一態様であり、以下、L字形バーと略称する)と、そのL字形バー122を軸線Ls回りに回転させるアクチュエータ(駆動源の一態様である)124とを含む。L字形バー122は、概ね車幅方向に延びるシャフト部130と、シャフト部130と交差して概ね車両の後方に延びるアーム部132とを含み、一体的に力を伝達可能に(例えば、1本のバーを曲げて)製造されたものである。アクチュエータ124は取付部134において車体14に固定される。
L字形バー122は、それのシャフト部130のアーム部132が設けられた側とは反対側の端部において、アクチュエータ124に連結されることにより車体14に支持され、アーム部側の端部において、取付具136によって車体14に、シャフト部130の軸線Ls回りの回転を許容する状態で支持される。また、アーム部132のシャフト部130とは反対側の端部は、リンクロッド137を介して、第2ロアアーム46に連結されている。リンクロッド137は、一端部において、第2ロアアーム46に設けられたリンクロッド連結部138に揺動可能に連結され、他端部において、L字形バー122のアーム部132の端部に揺動可能に連結されている。
【0014】
図7に示すように、アクチュエータ124は、電動モータ140と減速機142とを含み、L字形バー122のシャフト部130が、減速機142を介して電動モータ140の出力軸に連結される。シャフト部130には、電動モータ140の回転が減速して伝達される。
ハウジング144には、電動モータ140と減速機142とが直列に設けられる。電動モータ140の出力軸(回転軸)146,減速機142の出力軸148は、それぞれ、ハウジング144にベアリング150,152を介して相対回転可能に保持される。また、これら出力軸146,148は中空とされており、これらの内側に、シャフト部130が挿入される。シャフト部130は、ブッシュ型軸受け153を介してハウジング144に相対回転可能に保持される。
電動モータ140は、ハウジング144の内周面に設けられた複数のコイル154と、出力軸146と、出力軸146に設けられた複数の永久磁石155(永久磁石155は出力軸146の外周面に設けても、埋め込んでもよい。)とを含む。電動モータ140は、3相のDCブラシレスモータとされており、電動モータ140の回転角度はモータ回転角センサ156により検出される。
減速機142は、ハーモニックギヤ機構として構成されるものであり、波動発生器(ウェーブジェネレータ)157,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)158およびリングギヤ(サーキュラスプライン)160を含む。波動発生器157は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボールベアリングとを含み、モータ出力軸146の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ158は、筒部が弾性変形可能なカップ形状をなすものであり、筒部の外周面に複数の歯(本減速機142では、400歯)が形成されており、底部に形成された孔にL字形バー122のシャフト部130が嵌合され、一体的に回転可能とされている。リングギヤ160は、概してリング状をなして内周に複数の歯(本減速機142においては、402歯)が形成されたものであり、ハウジング144に固定されている。フレキシブルギヤ158は、その筒部が波動発生器157の外周側に位置し、楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ160と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。
【0015】
波動発生器157が1回転(360度回転)、すなわち、電動モータ140の出力軸146が1回転させられると、フレキシブルギヤ158とリングギヤ160とが、2歯分だけ相対回転させられ、シャフト部130が回転させられる。本実施例においては、フレキシブルギヤ158のシャフト部130と一体的に回転可能な部分が減速機142の出力軸148とされる。
減速機142の減速比は、1/200であり、比較的大きい。電動モータ140の回転速度に対して減速機142の出力軸148の回転速度が小さく、その結果、アクチュエータ124の制御遅れが大きくなる(電動モータ140に制御指令値を出力してから、シャフト部130にトルクが加えられるまでの間の時間が長い)。
【0016】
一方、アクチュエータ124の正効率ηPを、ある外部入力に抗してL字形バー122のシャフト部130を回転させるのに必要な最小のモータ力に対するその外部入力の比率と定義し、逆効率ηNを、ある外部入力によってもアクチュエータ124が回転させられない最小のモータ力の、その外部入力に対する比率と定義した場合に、アクチュエータ力(アクチュエータ124に外部から加えられる力であり、アクチュエータトルクと考えてることもできる)をFa、電動モータ140が発生させる力であるモータ力(モータトルクと考えることができる。)をFmとすれば、正効率ηP,逆効率ηNは、下式のように表現できる。
ηP=Fa/Fm
ηN=Fm/Fa
正効率ηP、逆効率ηPは、アクチュエータ力Faが同じ大きさであっても、正効率特性下において必要な電動モータ140のモータ力FmPと、逆効率特性下において必要なモータ力FmNとで異なる(FmP>FmN)。また、電動モータ140の正効率ηPと逆効率ηNとの積(正逆効率積ηP・ηNと称する)は、ある大きさの外部入力に抗してアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力と、その外部入力によってもアクチュエータが動作させられないために必要なモータ力との比(FmN/FmP)と考えることができる。
そして、正逆効率積ηP・ηNが小さい程、正効率特性下において必要な電動モータのモータ力FmPに対して、逆効率特性下において必要なモータ力FmNが小さくなるのであり、動かされ難いアクチュエータであると考えることができる。
本実施例においては、アクチュエータの正逆効率積ηP・ηNが小さいものとされているため、L字形バー122に加えられる力を保持するのに、小さい電流でよいという利点がある。
【0017】
前述のように、ばね下部46とばね上部14との間には、コイルスプリング20,ショックアブソーバ22,弾性部材としてのL字形バー122が互いに並列に設けられる。そのため、車輪12に加えられる荷重は、これらコイルスプリング20,ショックアブソーバ22,L字形のバー122が協働して受けることになる。電動モータ140に電流が供給されていない場合には、L字形バー122には力が発生させられていないため、荷重がコイルスプリング20とショックアブソーバ22とによって受けられる(主としてコイルスプリング20が受けるため、以下、コイルスプリング20が受けると記載する)。この状態を、本実施例においては、電動モータ140の回転角度が0の基準状態(アクチュエータ124の基準状態)とする。
【0018】
この基準状態から、電動モータ140が駆動させられると、電動モータ140のトルクがシャフト部130に加えられる。アーム部132が回動させられ、シャフト部130が捩られる。なお、電動モータ140の回転角度とアクチュエータ124の回転角度(減速機142の出力)とは1対1に対応する。制御指令値は後述するように電動モータ140の回転角度の目標値である。
図8(a)に示すように(図8においては、電動モータ140の回転、アーム部132の回動、ばね下部46の回動の関係を理解し易い状態で記載した。そのため、L字形バー122の実際の姿勢とは異なる)、アクチュエータ124がP方向に回転角θMA回転させられた場合において、アーム132部がθA回動させられた場合には、それによって、ばね上ばね下間の距離が大きくなる。アーム部132がP方向に回動角θA回動させられると、ばね上ばね下間のストロークは、θA(sinθA)に応じた距離だけ大きくなり、サスペンションスプリング20の弾性力は、その分、小さくなる。
また、シャフト部130は、アクチュエータ124の回転角θMAからアーム部132の回動角θAを引いた角度で捩られる。シャフト部130に加えられる捩りモーメントTM(アクチュエータ124によって加えられるトルク)と、アーム部132に生じる曲げモーメントとは等しいため、式
TM=FB・L・・・(1)
が成立する。ここで、Lはアーム部132の長さであり、FBはアーム部132に加えられる力(第2ロアアーム46に加えられる力の反力)であり、FB・Lが、アーム部132に生じる曲げモーメントである。第2ロアアーム46には、下向きの力(下向きの成分を有する力)が加えられる。
一方、シャフト部130の捩りモーメントTMは、剪断弾性係数GS、断面2次極モーメントIPとした場合に、式
TM=GS・IP・(θMA−θA)・・・(2)
が成立する。
(1)式、(2)式から、
FB=GS・IP・(θMA−θA)/L・・・(3)
が成立し、第2ロアアーム46に加えられる力(上下方向力に対応し、アーム部132に加えられる力に対応する)は、捩り角(θMA−θA)に比例した大きさになることがわかる。
また、アクチュエータ124の回転角θMAとアーム部132の回転角θAとの間(車高の変化量)には、予め定められた関係がある。
以上の事情から、アクチュエータ124の回転角θMAが決まれば、ばね上ばね下間の距離の変化量および第2ロアアーム46に加えられる力FBが決まるのであり、本実施例においては、第2ロアアーム46に加えられる上下方向力(L字形バー122によって加えられる上下方向力)が、所望の大きさとなるように、電動モータ140の回転角θMが制御される。
なお、前述のように、シャフト部130は、アーム部132の近傍において車体14に保持されているため、シャフト部130の曲げを考慮する必要はない。
また、弾性部材をL字形バー122としたため、直線状のロッドとする場合に比較して、アクチュエータ124を車体14の車輪12から離れた部分に設けることができ、車輪近傍の設計の自由度を向上させることができる。
【0019】
図8(b)に示すように、電動モータ140(アクチュエータ124)をQ方向に回転させた場合には、アーム部132は、矢印Q方向にθA回動させられる。ばね上ばね下間のストロークが小さくなり、コイルスプリング20によって発生させられる力が大きくなる。シャフト部130は、(θMA−θA)でQ方向に捩られ、第2ロアアーム46には、ばね上ばね下間のストロークが小さくなる向きの上下方向力が加えられる。L字形アーム122によって第2ロアアーム46に加えられる力の向きは、コイルスプリング20によって加えられる向きと逆向きとなる。
この場合においても、電動モータ140の回転角θMの制御により、第2ロアアーム46に加えられる上下方向力が制御される。
図8(a)、(b)から、電動モータ140の回転方向によって上下方向力の向きが決まり、電動モータ140の回転角θMの大きさ(回転角の絶対値と称することもある)によって上下方向力の大きさ、および、ばね上ばね下間の距離(あるいは距離の変化量)が決まる。
【0020】
本実施例において、ショックアブソーバ22,上下方向力発生装置24等は、図11に示すサスペンション制御ユニット168によって制御される。サスペンション制御ユニット168は、上下方向力発生装置制御ユニット(ECU)170と、アブソーバ制御ユニット(ECU)172とを含む。上下方向力発生装置制御ユニット170によって、L字形バー122によって第2ロアアーム46に加えられる上下方向力が制御され、アブソーバ制御ユニット172によってショックアブソーバ22において発生させられる減衰力が制御される。
上下方向力発生装置制御ユニット170は、実行部173、入出力部174、記憶部175を備えたコンピュータを主体とするコントローラ176と、駆動回路としてのインバータ178とを含み、コントローラ176の入出力部174には、上記モータ回転角センサ156、ばね上加速度センサ196,車高センサ198、操舵部材の操舵量(本実施例においては図示しないステアリングホイールの操舵角)を検出する操舵角センサ204等が接続されるとともに、上述のインバータ178が接続される。ばね上加速度センサ196は、車体14のマウント部54に設けられ、ばね上部14の上下方向の加速度を検出する。車高センサ198は、ばね上部14のばね下部46に対する上下方向の変位(ばね上ばね下間の距離)を検出する。ばね上加速度センサ196,車高センサ198は、前後左右の各輪12FL、FR、RL、RRに対応してそれぞれ設けられる。記憶部175には、複数のテーブル、プログラム等が記憶されている。
【0021】
アブソーバ制御ユニット172も、同様に、実行部210、入出力部211、記憶部212等を含むコンピュータを主体とするコントローラ220と、駆動回路としてのインバータ222とを含み、入出力部211には、ばね上加速度センサ196,車高センサ198、操舵角センサ204、モータ回転角センサ96等が接続されるとともに、上述のインバータ222が接続される。
ブレーキ制御ユニット224も、同様に、コンピュータを主体とするコントローラを含む。ブレーキ制御ユニット224には、各輪12FR、FL、RR、RLの回転速度を検出する車輪速センサ226が接続され、これら車輪速センサ226による検出値に基づいて車両の走行速度やスリップ状態が取得される。
これら上下方向力発生装置制御ユニット170、アブソーバ制御ユニット172,ブレーキ制御ユニット224等は互いにCAN(Car Area Network)を介して接続され、ブレーキ制御ユニット224において取得された車両の走行速度を表す情報、前後左右の各輪12FL、FR、RL、RRのスリップ状態を表す情報等が上下方向力発生装置制御ユニット170,アブソーバ制御ユニット172等に供給される。
【0022】
なお、上下方向力発生装置ECU170のコントローラ176,アブソーバECU172のコントローラ220は、各輪毎に(各インバータ毎に)、それぞれ個別に設けることもできる。
【0023】
図9に示すように、電動モータ140は、Δ結線された3相のDCブラシレスモータであり、各相(U,V,W)に対応してそれぞれ通電端子230u,230v,230w(以下、総称して「通電端子230」という場合がある)を有している。
インバータ178は、各通電端子、つまり各相(U,V,W)ごとに、high(正)側,low(負)側に対応して、設けられた2つずつのスイッチング素子(UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLC)と、これらスイッチング素子を切り換えるスイッチング素子切換回路とを含む。スイッチング素子切換回路は、電動モータ140に設けられた3つのホール素子HA,HB,HC(図では、Hと表記している)の検出信号により回転角(電気角)を判断し、その回転角に基づいて6つのスイッチング素子の各々のON/OFFの切り換えを行う。なお、インバータ178は、コンバータ232を介してバッテリ236に接続される。
このように、電動モータ140には、コンバータ232によって制御された一定の電圧が加えられるため、電動モータ140への供給電力量は、供給電流量を変更することによって変更される。供給電流量の変更は、インバータ178においてPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
上記のように構成されたインバータ178の作動状態を制御することにより、電動モータ140の作動モードが変更される。作動モードには、バッテリ236から電動モータ140への電力の供給が行われる制御通電モード、電力の供給が行われないスタンバイモード,ブレーキモード,フリーモードがある。
【0024】
制御通電モードにおいて、図9,10に示すように、いわゆる120゜通電矩形波駆動と呼ばれる方式にて、各スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのON/OFFが、電動モータ140の回転角に応じて切り換えられる。この場合において、high側の各スイッチング素子UHC,VHC,WHCに対してはデューティ制御が実行されないが、low側の各スイッチング素子ULC,VLC,WLCに対してデューティ制御が実行される。そのデューティ比が変更されることにより、電動モータ140への供給電流量が変更される。図10における「1*」は、デューティ制御されることを示している。各スイッチング素子の切換形態は、電動モータ140の回転方向に応じて異なっており、便宜的に、時計回り方向(CW方向)と反時計回り(CCW方向)と称する。
制御通電モードにおいては、電動モータ140への供給電力が制御され、それによって、トルクの向きおよび大きさが制御される。
【0025】
スタンバイモードにおいては、各スイッチング素子の切り換えが実行されても、実際にはバッテリ236から電動モータ140への電力が供給されることがない。
図10に示すように、制御通電モードにおける場合と比較すると、high側に存在する各スイッチ素子WHC,VHC,UHCは、制御通電モータにおける場合と同様に切り換えられるが、low側に存在する各スイッチング素子ULC,VLC,WLCのいずれにおいても、デューティ比が0とされるのであり、low側のスイッチング素子ULC,VLC,WLCは、常時、OFF状態(開状態)とされる。その結果、本モードでは、電動モータ140に電力が供給されないことになる。図10における「0*」は、そのことを示している。スタンバイモードは、本発明の実施例とは関係がないため、詳細な説明を省略する。
ブレーキモードにおいては、スイッチング素子のON/OFFにより、電動モータ140の各通電端子が相互に導通させられる。このモードは、全端子間導通モードの一種と考えることができる。電動モータ140の回転角に拘わらず、スイッチング素子のうちのhigh側,low側の一方(本実施例においては、low側)に配置されたすべてのものが閉状態に維持され、high側,low側の他方(本実施例においては、high側)に配置されたすべてのものが開状態に維持される。ON状態とされたhigh側のスイッチング素子UHC,VHC,WHCにより、電動モータ140の各相は短絡させられた状態となる。本モードにおいては、短絡制動の効果が得られることになる。
フリーモードにおいては、スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのすべてが、OFF状態(開状態)とされる。本モードにおいては、電動モータ140はフリーの状態となる。
【0026】
以上のように、インバータ178におけるスイッチング素子の切換え制御により、電動モータ140(アクチュエータ124)の作動が制御され、それによって、L字形バー122によってばね下部46に加えられる上下方向の力FBが制御される。
上下方向力FBの向きは基準位置からの電動モータ140の回転方向で決まり、上下方向力FBの大きさは、電動モータ140の回転角の大きさによって制御される。前述のように、電動モータ140の回転角θMと上下方向力FBの大きさとの間には予め定められた関係があるため、これらの間の関係に基づいて、上下方向力FBが所望の向きおよび大きさとなるように、目標回転角θM*(回転方向と大きさ)が決まる。
θM*=f(FB*)
電動モータ140への供給電流量iは、原則として、電動モータ140の目標回転角θM*が得られる大きさとされる。本実施例においては、フィードフォワード制御が行われるのであり、目標回転角θM*に基づいて、供給電流量i*が決定される。
i*=g(θM*)
後述するように、上下方向力の目標値FB*の絶対値が増加する場合には、この供給電流i*(符号を有する)が制御指令値に対応する。供給電流i*の大きさ(絶対値)に基づいて、電動モータ140を駆動するためのデューティ比が決定される。また、この供給電流i*の符号が電動モータ140のトルクの向き(回転方向)に対応する。それらデューティ比および回転方向についての制御指令値がインバータ178に出力されると、インバータ178において、スイッチング素子の制御が行われる。
それに対して、上下方向力の目標値FB*の絶対値が保持または減少させられる場合には、供給電流i*を表す制御指令値が出力されるのではなく、ブレーキモード、フリーモードに切り換えることを表す制御指令値が出力される。
【0027】
本実施例において、原則として、上下方向力発生装置24については、ばね上部14の上下方向の速度(以下、ばね上絶対速度と称する)VUに基づく減衰力制御(ばね上速度制御、スカイフック理論に基づく制御と称することもできる)と、ばね下部46の変位(以下、ばね下変位と称する)XLに基づく弾性力制御(ばね下変位制御、強制入力低減制御と称することもできる)との両方が行われる。換言すれば、目標上下方向力FB*が、ばね上絶対速度VUに応じた減衰力FSとばね下変位XLに応じた弾性力FHとの和とされ、目標上下方向力FB*が得られるように、上下方向力発生装置24が制御されるのである。
FB*=FS+FH
前輪側の上下方向力発生装置24Fについては、その制御対象輪12Fjのばね上絶対速度に基づく減衰力制御と、その制御対象輪12Fjのばね下変位に基づく弾性力制御とが行われる。いわゆる通常制御(センサ196,198によって上下挙動が検出される検出対象車輪と、上下方向力が制御される制御対象車輪とが同じである制御をいう)が行われる。
後輪側の上下方向力発生装置24Rについては、原則として、その制御対象輪12Rjのばね上絶対速度に基づく減衰力制御と、前輪(検出対象輪)12Fjのばね下変位に基づく弾性力制御とが行われる。制御対象車輪が検出対象車輪より後方にある場合に、検出対象車輪の上下方向の挙動に基づいて制御対象輪の上下挙動を予測し、その予測した上下挙動に基づく制御をプレビュー制御と称するが、ばね下変位制御としてプレビュー制御が行われるのである。しかし、プレビュー制御によってばね下部46の上下方向の振動を効果的に抑制できない場合には通常制御が行われる。このように、後輪側の上下方向力発生装置24Rについては、プレビュー制御を含む制御が行われるのであるが、以下、プレビュー制御を含む制御も単にプレビュー制御と称する。
【0028】
ばね上速度制御は、よく知られた制御であるが、ばね上絶対速度VUと、ばね上ばね下間の相対速度VSとの積の値が正である場合に、中間の大きさの減衰力を発生させて、負の値である場合に、減衰力を小さくする制御である。
本実施例においては、ばね上絶対速度VUと、ばね上ばね下間の相対速度VSとの積の値が正である場合(VU・VS>0)には、減衰係数C*が予め定められた中間の値CMIDとされ、積の値が負である場合(VU・VS<0)には、減衰係数C*が小さい値CMINとされる。
そして、減衰係数C*とばね上絶対速度VUとで決まる大きさの減衰力が発生させられる。減衰力は、ばね上絶対速度VUの向きと逆向きである。
FS=−GS・C*・VU
ゲインGSについては後述する。
【0029】
ばね下変位制御は、ばね下部46の振動を抑制して、ばね上部14の上下方向の振動を抑制する制御である。ばね下変位XLが基準位置より下方であり、ばね上ばね下間の距離が大きくなると、コイルスプリング20の弾性力が小さくなる。そのため、荷重が一定である場合に、ばね上部14が下方へ移動し、振動が生じる。それに対して、コイルスプリング20の弾性力の減少分を、上下方向力発生装置24によって発生させれば、ばね下部46の変位に伴うばね上部14の変位を抑制することができる。ばね下変位制御において、ばね下部46の変位が基準位置より下方である場合には、目標弾性力FHの向きは下方となる。
ばね下変位XLが基準位置より上方である場合には、目標弾性力FHの向きは上方とされる。ばね上ばね下間の距離が小さくなると、コイルスプリング20の弾性力が増加するため、その増加分に応じた弾性力とは逆向きの力を、上下方向力発生装置24によって発生させて、ばね下部46の上下方向の振動に伴うばね上部14の振動を抑制するのである。
FH=GH・K・XL
弾性係数Kは、コイルスプリング20の弾性係数、L字形のバー122のばね定数、シャフト部130の剪断係数、断面二次モーメント、アーム部132の曲げ剛性等のうちの1つ以上で決まる固定値である。
ゲインGHについては後述する。
【0030】
プレビュー制御は、図14(a)〜(c)に示すように、前輪12FL、FRが通った路面と同じ路面を後輪12RL、RRが通る場合には、前輪12FL、FRに加えられた路面入力と同じ入力を後輪12RL、RRも受け、前輪12FL、FRのばね下部46FL、FRの上下方向の挙動と同じ挙動が所定の時間が経過した後に、後輪12RL、RRのばね下部46RL、RRに生じることを前提とした制御である。
本実施例においては、図14(b)に示すように、時点P(現時点)におけるセンサ196,198の検出値に基づいてばね下変位XLが取得され、その取得されたばね下変位XLの位相を、後述する戻り時間TQに対応する位相だけ遅らせる処理が行われ、その位相遅れ処理が行われたばね下変位XLに応じた目標弾性力FHが求められて、直ちに(時点Pにおいて)出力される。その目標弾性力FHに応じた制御は、制御遅れ時間TDの経過後(時点Q)に実行されるが、時点Qにおける後輪12Rのばね下部46Rの上下方向の挙動は、時点R(時点Pより戻り時間前)の前輪12Fの上下方向の挙動と同じ挙動となる。実際の上下方向の挙動と、制御とが一致するため、後輪12Rのばね下部46の振動を良好に抑制することが可能となる。
【0031】
戻り時間は、ホイールベースLWを車速Vで割って得られる余裕時間TPから遅れ時間TDを引いた時間TQである。
TP=LW/VS
TQ=TP−TD
余裕時間TPは、同じ路面の凹凸を、前輪12Fが通過してから後輪12Rが通過するまでの時間であり、図14(c)に示すように、同じ車両について(ホイールベースLWが同じである場合)は、車速Vが大きい場合は小さい場合より短くなる。
余裕時間TPが制御遅れ時間TD以上である場合、すなわち、戻り時間TQが0以上である場合には、目標弾性力FHを作成することができ、プレビュー制御を有効に行うことができるが、車速が大きくなり、余裕時間TPが制御遅れ時間TDより短くなると、戻り時間TQが負の時間となり、目標弾性力FHを求めることができない。それに対して、現時点Pにおける検出値に基づいて目標弾性力FHを求めて、直ちに出力することもできるが、その場合には、後輪12Rの上下方向力発生装置24Rに対する制御が、実際の後輪12Rのその上下方向の挙動に対して遅れ、プレビュー制御によって振動を良好に抑制することができない。そこで、本実施例においては、余裕時間TPが制御遅れ時間TDと同じになる場合の車速が、式
VSMAx=LW/TD
に従って決定され、実際の車速Vが設定速度VSMAxより大きい場合は、プレビュー制御が行われないようにされている。
【0032】
また、車両の旋回時には、前輪12Fが通った軌跡と後輪12Rが通る軌跡とが異なるため、プレビュー制御が行われても、振動を効果的に抑制することができない。したがって、本実施例においては、操舵部材の操作量である操舵角の絶対値が予め定められた設定値より大きい場合には、プレビュー制御が行われないようにされている。設定値は、直進状態とみなし得る大きさである。
以上のように、本実施例においては、車両の実際の走行速度が上述の設定速度以下であり、かつ、操舵部材の操作角の絶対値が設定値以下である場合には、プレビュー制御を有効に行い得る場合であるとして、原則としてプレビュー制御が行われるが、走行速度が設定速度より大きい場合と、操舵角の絶対値が設定値より大きい場合との少なくとも一方の場合には、プレビュー制御を有効に行うことができないとして、プレビュー制御が行われないようにされている。
【0033】
通常制御が行われる場合には、ばね上加速度センサ196,車高センサ198による検出値に対して、図15に示すような処理が行われる。
制御対象輪12ijに対応して設けられたばね上加速度センサ196による検出値GUは、ノイズ等除去部250に供給される。ノイズ等除去部250は、LPF(ローパスフィルタ)とHPF(ハイパスフィルタ)とを含み、センサによる検出値からノイズ(高周波の振動)を除去し、カットオフ周波数以下の成分を除去する。
ノイズ等除去部250によって処理された振動(ばね上加速度GU)は、ばね上絶対速度演算部252に供給される。ばね上絶対速度演算部252において、ばね上加速度GUが積分されることにより、ばね上絶対速度VUが取得される。ばね上絶対速度GUは、第1フィルタ処理部253に供給される。第1フィルタ処理部253は、バンドパスフィルタを含み、予め定められた周波数領域B(図12参照)の振動を抽出する。後述するように、領域Bは、ばね上速度制御が有効に行われ得る領域であり、この領域Bに属する周波数の振動に対してばね上速度制御が行われ、領域Bに属さない周波数の振動に対してはばね上速度制御が行われない。そこで、第1フィルタ処理部253によって、領域Bから外れた周波数の振動を除去し、領域Bから外れた周波数の振動が生じた場合に誤ってばね上速度制御が行われないようにされているのである。
第1フィルタ処理部253によって処理された振動(ばね上絶対速度VU)は、ばね上用位相進み処理部254に供給され、位相進み処理が施される。ばね上用位相進み処理部254は、図12に示す特性を有するものであり、入力信号の位相を予め決まった位相だけ進ませて出力する。ばね上用位相進み処理部254によって処理された振動(ばね上絶対速度VU)は、目標減衰力決定部256に供給される。
目標減衰力決定部256においては、ばね上絶対速度VUに応じた目標減衰力FUが決定される。目標減衰力FUを決定する際には、ばね上ばね下相対速度(車高値を微分した値)も考慮される。
一方、ばね上速度演算部252によって得られたばね上絶対速度VUは、ばね上変位演算部258に供給されて、積分されてばね上変位XUが得られる。
【0034】
ばね上用位相進み処理部254の特性を図12に示す。
図12において、細い実線M、破線N1、N2は、ばね上用位相進み処理部254による処理が行われない場合において、アクチュエータ124の応答遅れを考慮しない場合の周波数と遅れ時間との関係を表す線である。遅れ時間とは、ばね上絶対速度VUのセンサ検出値GUに対する遅れ時間である。ばね上絶対速度VUは、ばね上絶対速度演算部252において、ばね上加速度センサ196による検出値GUが積分されることにより取得されるため、ばね上加速度センサ196による検出値にGUに対して位相が90°(π/2)遅れる。この位相の遅れを、周波数の各々に基づいて時間に換算した値が遅れ時間なのである。細い実線Mは、このばね上絶対速度VUを取得する場合の遅れ時間と周波数との関係を示す。換言すれば、ばね上絶対速度VUの振動に対しては遅れは0であるため、細い実線の関係を理想の関係と称することができる。2本の細い破線N1、N2は、細い実線Mで表される関係に対して、位相が1/8周期分(π/4)ずれた場合(一方が遅れた場合の関係を示し、他方が進んだ場合の関係を示す)の遅れ時間と周波数との関係を示すものである。実際の振動と制御とで、位相が1/8周期分ずれても、振動の向きと制御の向き(その振動の向きに対応する制御の向き)とが逆にならないため、その振動を抑制し得ることがわかっている。このことから、2本の細い破線N1、N2の間の領域を制御遅れ許容範囲と称することができるのであり、制御に用いられるばね上絶対速度VUについての周波数と遅れ時間との関係が、制御遅れ許容範囲内にある場合には、その制御によって振動が良好に抑制されることがわかる。
【0035】
太い実線X、一点鎖線Yは、アクチュエータ124の応答遅れを考慮した場合の周波数と遅れ時間との関係を表す線である。太い一点鎖線Yは、ばね上用位相進み処理部254による処理が行われない場合の周波数と遅れ時間との関係を示すものであり、太い実線Xは、ばね上位相進み処理252による処理が行われた場合の周波数と遅れ時間との関係を示すものである。
太い一点鎖線Yが示す関係は、原則としては、細い実線Mよりアクチュエータ124の応答遅れ時間だけ遅れ時間が長くなる関係にあるが、ノイズ等除去部250の特性等に起因して周波数が低い領域においては、その遅れ時間が短くなる。太い実線Xが示す関係は、一点鎖線Yが示す関係より、ばね上用位相進み処理部254の特性で決まる位相に対応する時間だけ遅れ時間が短くなった関係を表す。進められる位相(位相角)が周波数の大小に関係なく一定である場合には、周波数が低い場合は高い場合より、位相角に応じた時間が長くなるため、太い一点鎖線Yと太い実線Xとの間の間隔(遅れ時間の差)が、周波数が低い場合に周波数が高い場合より大きくなるのである。
前述のように、太い実線X、一点鎖線Yが表す関係が2本の細い破線の間にある領域が有効な制御が行われる領域である。この有効な制御が行われる領域は、位相進み処理が行われない場合には、領域A(太い一点鎖線Yが制御遅れ許容範囲内に存在する領域)であったが、ばね上用位相進み処理部254の処理によって、領域B(太い実線Xが制御遅れ許容範囲内に存在する領域)となり、より高周波側の領域となった。また、領域Bは、車両の諸元で決まるばね上共振周波数がほぼ中央にある領域である。そのため、領域Bにおいて有効な制御が可能となれば、積載重量の変化に起因してばね上共振周波数が変化しても、その共振周波数の振動を良好に抑制可能となり、乗り心地の向上を図ることが可能となる。
ばね上用位相進み処理部254における位相進みの程度を第3の特性と称する。
【0036】
本実施例においては、図12に示すように、処理部の特性(フィルタ特性)が周波数と遅れ時間との関係に基づいて評価される。従来は、周波数と位相の遅れとの関係に基づいて評価されていたが、位相の遅れの代わりに遅れ時間とすれば、容易にアクチュエータ124の応答遅れを考慮して評価できるという利点がある。アクチュエータ124の遅れ時間は、周波数の大きさに関係なく同じであるため、フィルタ特性を表す関係をアクチュエータ124の応答遅れ時間分だけシフトさせればよいのであり、総合的に遅れ時間と周波数との関係を容易に求めることができ、総合的な遅れ時間に基づいて、フィルタの評価をすることが可能となる。
【0037】
また、図15に示すように、車高センサ198による検出値Hは位相補償処理部260に供給されて、位相補償が行われる。センサの特性により、車高センサ198による検出値は、ばね上加速度センサ196による検出値に対して、予め決められた周波数領域において、位相ずれが生じることがわかっている。そのずれを補償するための処理が施されるのである。
位相補償処理部260によって処理された車高値H(ばね下部46に対するばね上部14の相対変位)は、ばね下変位演算部262に入力される。ばね下変位演算部262には、ばね上変位演算部258の出力値(ばね上変位XU)も入力され、式
XL=XU−H=XU−(XU−XL)
に従ってばね下変位XLが取得される。
取得されたばね下変位XLは、第2フィルタ処理部264を経て特性選択部(フィルタ選択部、処理部選択部と称することもできる。)268に供給される。第2フィルタ処理部264は、第1フィルタ処理部253と同様に、バンドパスフィルタを有するものであり、図13の領域B1、B2を含む領域の周波数の振動を抽出し、領域B1、B2を含む領域から外れた周波数の振動を除去するものである。ばね下変位制御が有効な領域から外れた周波数の振動が生じた場合に、誤って制御が行われないようにされる。
【0038】
特性選択部268は、ばね下部46の実際の振動の周波数が予め定められた周波数しきい値fth(例えば、ばね上共振周波数より大きく、ばね下共振周波数以下の値とすることができる。本実施例においては、領域Bの上限値、例えば、4Hzとされる)以下である場合に、ばね下用第1位相進み処理部(低周波振動用処理部と称することができる。第1の特性を有する)270を選択し、周波数しきい値fthより高い場合に、ばね下用第2位相進み処理部(高周波振動用処理部と称することができる。第2の特性を有する)272を選択する。特性選択部268によって、ばね下用第1位相進み処理部270が選択された場合には、第2フィルタ処理部264によって処理されたばね下変位XLがばね下用第1位相進み処理部270に供給され、第1の特性で、位相進み処理が行われる。ばね下用第2位相進み処理部272が選択された場合には、ばね下用第2位相進み処理部272に供給され、第2の特性で位相進み処理が行われる。第2の特性は、第1、第3の特性より、位相進み角が大きい特性である。本実施例においては、位相進みの程度が、第1の特性、第3の特性、第2の特性の順に大きくされ、位相進み角は、いずれも90°(0.5π)より小さく、それぞれ、60°(0.33π)、50°(0.27π)、85°(0.47π)程度の大きさとされる。
いずれにしても、位相進み処理が施された後には、通常時目標弾性力決定部274に供給される。
【0039】
ばね下用第1位相進み処理部270が有する第1の特性を図13(a)に示し、ばね下用第2位相進み処理部272が有する第2の特性を図13(b)に示す。図13(a)、(b)において、細い実線M、破線N1,N2は、図12に示す場合と同様に、アクチュエータ124の応答遅れを考慮しない場合の周波数と遅れ時間との関係を表す線である。ばね下変位XLは、ばね上絶対速度演算部252、ばね上変位演算部258によって、ばね上加速度センサ196による検出値GUが合計2回積分されて求められるため(ばね下加速度センサによる検出値に基づいて取得される場合も同様に検出値GLが2回積分されることになる)、検出値GUに対して位相が180°(π)遅れることになる。この180°が周波数の各々に基づいて時間に換算され、その換算された遅れ時間と周波数との関係が細い実線Mで表されるのである。2本の細い破線N1,N2は、図12における場合と同様に、細い実線Mで表される遅れ時間に、位相が1/8周期ずれた場合の遅れ時間と周波数との関係と示すものであり、2本の細い破線N1,N2の間の範囲が制御遅れ許容範囲である。
【0040】
太い実線X、一点鎖線Yは、図12における場合と同様に、アクチュエータ124の応答遅れを考慮した場合の周波数と遅れ時間との関係を示す。太い一点鎖線Yは、ばね下用第1,第2位相進み処理部270,272による処理が行われない場合の周波数と遅れ時間との関係を示すものであり、太い実線Xは、それぞれ、ばね下用第1位相進み処理部270による処理、第2位相進み処理部272による処理が行われた場合の周波数と遅れ時間との関係を示すものである。一点鎖線Yの関係より、ばね下用位相進み処理部270,272の特性で決まる位相に対応する時間だけ遅れ時間が短くなった関係となる。
図13(a)、(b)を比較すると、図13(b)に示す特性の方が、位相進みの程度(位相角)が大きい。図13(a)に示す特性の処理(第1特性による位相進み処理)が行われた場合には、有効な制御が行われる領域が領域A′から領域B1に変更されるのに対して、図13(b)に示す特性の処理(第2特性による位相進み処理)が行われた場合には、領域A′から領域B2に変更されるのであり、領域B2の方が領域B1より高周波側に位置することがわかる。
また、領域B1は、ばね上共振周波数を含む領域であり、領域B2は、ばね下共振周波数を含む領域である。このことから、本実施例においては、ばね下部46の振動の周波数が、周波数しきい値fth以下である場合に、第1位相進み処理部270が選択され、周波数しきい値fthより高い場合に、第2位相進み処理部272が選択されるようにしたのである。
【0041】
プレビュー制御が行われる場合には、図16に示す処理が行われる。通常制御が行われる場合(図15の場合)と、同じ処理が行われるブロックにおいては、同じ符号を付して説明を省略する。
ばね上速度制御については、通常制御が行われる場合と同様の処理が行われる。制御対象輪である後輪12Rjのばね上加速度センサ196による検出値GUに基づいてばね上絶対速度VUが取得され、目標減衰力FSが決定される。ばね下変位のプレビュー制御については、制御対象輪12Rjと同じ側の前輪12Fjに対応して設けられたばね上加速度センサ196,車高センサ198による検出値GU,Hに基づいて、前輪12Fjのばね下変位XLが取得される。そして、取得されたばね下変位XLは、第3フィルタ処理部280に供給されて、後述する領域Cに属する周波数の振動が抽出される。プレビュー制御が良好に行われる得る領域Cから外れた周波数の振動を除去し、領域Cから外れた周波数の振動に対してプレビュー制御が行われないようにされる。第3フィルタ処理部280を通過した振動(ばね下変位XL)は、プレビュー対応目標弾性力決定部282に供給され、プレビュー対応目標弾性力が決定される。プレビュー対応目標弾性力決定部282においては、前述のように、入力されたばね下変位XLの位相を、戻り時間TQに対応する位相だけ遅らせる処理が行われ、位相遅れ処理が行われたばね下変位XLに応じた目標弾性力FHが決定される。
プレビュー制御が行われる場合の遅れ時間と周波数との関係は、図13(a)、(b)の太い二点鎖線Zが示す。二点鎖線Zの関係は、一点鎖線Yの関係より、アクチュエータ124の制御遅れ時間TDだけ遅れ時間が短くなった関係である。プレビュー制御においては、アクチュエータ124の制御遅れ時間TDが考慮されるため、制御遅れ時間を実質的になくすことができる。二点鎖線Zが2つの細い細線N1,N2の間に存在する領域Cは、領域B1,B2を含む広い領域である。
【0042】
プレビュー制御が有効である場合には、後輪12Rに対して、目標減衰力決定部256において決定された目標減衰力FSと、プレビュー目標弾性力決定部282において決定された目標弾性力FHとの和が目標上下方向力FB*とされる。図1(a)に示すように、ばね下部46の振動の周波数がしきい値fth以下である場合において、領域Cに属する場合には、ばね上速度制御とばね下変位制御(プレビュー制御)との両方が行われ、領域Cに属さない場合には、プレビュー制御は行われないでばね上速度制御のみが行われる。図1(b)に示すように、ばね下部46の振動の周波数がしきい値fthより大きい場合においては、領域Cに属する場合にはばね上速度制御は行われないでプレビュー制御が行われる。
プレビュー制御が有効でない場合の後輪12Rに対して、あるいは、前輪12Fに対しては、目標減衰力決定部256において決定された目標減衰力FSと、通常目標弾性力決定部274において決定された目標弾性力FHとの和が目標上下方向力FB*とされる。図1(a)に示すように、ばね下部46の振動の周波数がしきい値fth以下である場合において、領域B1に属する場合には、ばね上速度制御とばね下変位制御(通常制御)との両方が行われ、領域B1に属さない場合には、通常のばね下変位制御は行われることなくばね上速度制御のみが行われる。図1(b)に示すように、ばね下部46の振動の周波数がしきい値fthより大きい場合においては、領域B2に属する場合にはばね上速度制御は行われないで、通常のばね下変位制御のみが行われる。
【0043】
図1(a)に示すように、ばね上速度制御とばね下変位制御(通常制御あるいはプレビュー制御)との両方が行われる場合において、ばね上速度制御に用いられるゲイン(ばね上対応ゲイン)GSが0.5とされ、ばね下変位制御に用いられるゲイン(ばね下対応ゲイン)GHが0.8とされる。ばね上速度制御とばね下変位制御との両方が行われる場合には、ばね下対応ゲイン(通常制御が行われる場合もプレビュー制御が行われる場合も含む)GHをばね上対応ゲインGSより大きくした方が、ばね上部14の振動を良好に抑制し得ることが、実験、シミュレーション等により明らかである。
【0044】
前述のように、ばね上速度制御、ばね下変位制御は、それぞれ、実際の振動に対して最大で1/8周期(45°)ずれた位相で行われる。そして、図25(a)に示すように、このずれ(位相角θの絶対値)が大きい場合は小さい場合より、その制御の、その振動(位相角0)に対する寄与分(その振動を抑制するために加えられる力を制御する際のゲインの寄与分)が小さくなることが明らかである。
|θ1|>|θ2|
GScos|θ1|<GScos|θ2|
一方、これらばね上速度制御、ばね下変位制御のゲインを、それぞれ1とした場合には、図25(b)に示すように、その振動を抑制するために加えられる力を制御する際のゲインが大きくなり過ぎる(制御が過剰となる)ため、望ましくない。
GS・cosθS+GH・cosθH>1
GS=GH=1
それに対して、図25(c)に示すように、ばね上速度対応制御とばね下変位対応制御との、それぞれの制御の振動に対するゲインの寄与分の和が1になること、すなわち、式
GS・cosθS+GH・cosθH=1
が成立する大きさとすることが望ましいのである。
上式から、例えば、ばね上速度制御とばね下変位制御とで位相角の絶対値が同じである場合に、ばね下変位制御のゲインを大きくした場合には、ばね上速度制御のゲインを小さくすればよいことがわかる。
以上の事情を考慮して、ばね上部14の振動を良好に抑制し得るように、ばね上速度制御とばね下変位制御とのそれぞれのゲインGS、GHが決定されたのであり、ばね上対応ゲインGS、は0.1〜1.2の範囲から、ばね下対応ゲインGHは0.3〜1.5の範囲からそれぞれ選ばれた値に決定されたのである。
なお、ばね上対応ゲインGSは0.5に限らず、1.2以下、1.0以下、0.8以下の値とすることが望ましく、0.2以上、0.4以上の値とすることが望ましい。ばね下対応ゲインGHは0.8に限らず、1.3以下、1.1以下、0.9以下とすることが望ましく、0.3以上、0.5以上とすることが望ましい。
【0045】
それに対して、図1(b)に示すように、通常のばね下変位制御が行われる場合に使用されるばね下対応ゲインGHは1であるが、プレビュー制御が行われる場合に使用されるゲインGHは0.8である。本実施例においては、プレビュー制御が行われる場合のゲインGHは、周波数の大小に関係なく、常に0.8とされる。
【0046】
以上の制御の実行をフローチャートに使って説明する。フローチャートにおいては、フィルタの処理において実行されることを、プログラムの実行で行われると考えて、ステップを設けた。一連の処理の内容を明らかにするためである。
制御対象輪が前輪12Fである場合には、常時、通常制御が行われる。
制御対象輪が後輪12Rである場合には、図17のフローチャートで表される制御部選択プログラムが、予め定められた設定時間毎に実行される。ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、車両の走行速度Vが検出され、S2において、操舵部材の操舵角θが検出される。そして、S3において、操舵角θの絶対値が直進走行中であるとみなし得る設定値θth以下であるか否かが判定され、S4において、走行速度Vが設定速度VSMAX以下であるか否かが判定される。
S3,4の判定がいずれもYESである場合には、プレビュー制御が有効に行われ得ると考えられるため、S5において、プレビュー制御が選択される。それに対して、S3,4の判定のいずれか一方がNOである場合、すなわち、旋回中である場合、あるいは、車速Vが設定速度VSMAXより大きい場合には、プレビュー制御が有効に行われないと考えられるため、S6において、通常制御が選択される。
【0047】
プレビュー制御が選択された場合には、図18のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラムが実行される。S11において、目標減衰力FSが決定され、S12において、プレビュー対応目標弾性力FHが決定される。S13において、目標減衰力FSと目標弾性力FHとの和が目標上下方向力FB*とされる。S14において、目標上下方向力FB*に対応する目標回転角θM*が取得され、目標回転角θM*に基づいて供給電流量i*が決定される。そして、供給電流量i*、目標上下方向力FB*の大きさ、変化の状態等に基づいて制御指令値が作成されて、出力される。
FB* =FS+FH
θM* =f(FB*)
i*=g(θM* )
f、gは、予め定められた関数を表す。
【0048】
S14の制御指令値の出力は、図23のフローチャートに従って行われる。S121において、目標上下方向力FB*の絶対値が増加しているか否かが判定される。増加している場合には、S122において、供給電流i*を表す制御指令値がインバータ178FLに出力される。
それに対して、増加していない場合、すなわち、減少しているか、ほぼ一定である場合には、S123において、目標上下方向力FB*の絶対値がしきい値Fth以上であるか否かが判定される。しきい値Fth以上である場合には、S124において、ブレーキモードが選択され、その旨を表す制御指令値が出力される。しきい値Fthより小さい場合には、S125において、フリーモードが選択され、その旨を表す制御指令値が出力される。
図24に示すように、目標上下方向力FB*の絶対値が大きくなる場合には、電動モータ140が通電状態とされるが、絶対値が小さくなる場合には、電流が供給されない。車輪12に加えられる荷重により、ばね上ばね下の間を基準状態に戻そうとする力が、第2ロアアーム46、L字形バー120を介してアクチュエータ124に加えられるため、供給電流の制御を行わなくても、基準位置に戻される。また、アクチュエータ124は正逆効率積が小さく、外部入力の影響を受け難いものであるが、フリーモードが設定されれば、外部入力によって作動させられ基準位置に戻される。このように、上下方向力の絶対値を小さくする場合に電流が供給されないようにすれば、消費電力の低減を図ることができる
また、目標上下方向力FB*の絶対値が大きい場合には、ブレーキモードが設定されるため、外力によって、急激に上下方向力の絶対値が小さくされることを回避することができる。
さらに、目標上下方向力FB*の絶対値を小さくする場合には、エネルギ回生を行うことも可能であり、そのようにすれば、さらに、エネルギ効率を向上させることができる。
また、目標上下方向力FB*の絶対値を小さくする場合に通電状態とされないため、アクチュエータ124の回転方向を、電流制御が行われる場合に比較して、速やかに逆向きにすることが可能となり、応答性の低下を抑制することができる。
なお、図24においては、ばね上部14の振動の周波数とばね下部46の振動の周波数とが同じであると仮定して記載した。
【0049】
後輪について通常制御が選択された場合、あるいは、前輪については、図19のフローチャートで表される通常制御プログラムが実行される。
S21において、目標減衰力FSが決定され、S22において、通常時目標弾性力FHが決定され、S23において、これらの和が目標上下方向力FB*として決定され、S24において、S14と同様に制御指令値が作成されて出力される。
【0050】
S11,21の目標減衰力の決定は、図20のフローチャートで表される目標減衰力決定ルーチンに従って行われる。
S51において、制御対象輪(前輪である場合も後輪である場合もある)12ijのばね上加速度GU、車高Hが検出される。S52において、ばね上加速度GUが積分されることにより、ばね上絶対速度VUが求められ、車高値Hを微分することによりばね上ばね下相対速度VSが求められる。なお、ばね上加速度GUについてはノイズ等を除去する処理が行われた後に積分され、車高値Hについては位相補償処理が行われた後に微分される。
S53において、ばね上部14の振動の周波数fが、図16(a)に示す領域B(ばね上絶対速度VUに基づく制御が有効に行われる領域)に属するか否かが判定される。領域Bから外れている場合には、ばね上速度制御が行われることがないため、S54において、目標減衰力FSは0とされる。
本実施例においては、バンドパスフィルタを通過した振動が領域Bに属する振動であり、除去された振動が領域Bから外れた振動である。
それに対して、領域Bに属する場合には、S55において、ばね上絶対速度VUに対して、第3の特性で位相進み処理が行われ、その後、目標減衰力が決定される。
S56において、ばね上絶対速度VUと相対速度VSとの積の値が正であるか負であるかが判定され、正である場合には、S57において、減衰係数C*がCMID(予め定められた値)とされ、負である場合には、S58において、減衰係数C*がCMIN(予め定められた値)とされる。そして、S59において、ゲインGSが0.5とされ、S60において、目標減衰力FSが、式
FS=−GS・C*・VU
に従って求められる。
なお、減衰係数C*を決定する際に使用される相対速度VSは、ばね上絶対速度VUと同様に位相進み処理が施されたものを使用することが望ましい。
【0051】
S12のプレビュー対応目標弾性力の決定は、図21のフローチャートで表されるプレビュー対応目標弾性力決定ルーチンに従って行われる。
S71において、制御対象輪が左後輪12RLである場合には、左前輪12FLのばね上加速度GU、車高Hが検出され、制御対象輪が右後輪12RRである場合には、右前輪FRのばね上加速度GU、車高Hが検出される。S72において、上述の場合と同様に、前輪12Fのばね下変位XLが取得され、S73において、ばね下部46の周波数fが、プレビュー制御が有効に行われる領域C内にあるか否かが判定される。領域Cから外れている場合には、S74において、プレビュー目標弾性力FHが0とされる。
領域C内にある場合には、S75において余裕時間TPが求められ、S76において戻り時間TQが求められ、S77において、S72において取得されたばね下変位XLの位相を、戻り時間TQを周波数fで換算した位相だけ遅らせる。そして、S78において、位相を遅らせたばね下変位XL、弾性係数K、ゲインGHからプレビュー対応目標弾性力が求められる。ゲインGHは、0.8である。
FH=GH・K・XL
なお、プレビュー対応目標弾性力が決定される際に、ばね下変位については、位相進み処理が行われることがない。
【0052】
S22の通常時目標弾性力の決定は、図22のフローチャートで表される通常時目標弾性力決定ルーチンに従って行われる。
S101において、制御対象輪12ijのばね上加速度GU、車高Hが取得され、S102において、同様に、ばね下変位XLが取得される。S103において、ばね下部46の振動の周波数fが取得され、S104において、しきい値fthより大きい(高周波側)か否かが判定される。周波数は、予め定められた設定時間内にばね下部46の変位XLが0になった回数に基づいて取得したり、周波数がしきい値fthより大きい振動を通過するフィルタを利用して、そのフィルタを通過した出力が設定レベルより大きいか否かにより、入力振動の周波数がしきい値fthより大きいか否かを取得したりすることができる。
そして、ばね下部46の振動の周波数fがしきい値fth以下である場合には、S105において、周波数fが領域B1に属するか否かが判定される。領域B1から外れている場合には、S106において目標弾性力FHが0とされ、領域B1に属する場合には、S107において、ばね下用第1位相進み処理部(低周波振動用処理部)270によって位相進み処理が行われる。ばね下用第1位相進み処理部270が選択され、第1の特性によって位相進み処理が行われるのである。S108において、ゲインGHが0.8とされて、S109において、目標弾性力FHが決定される。
FH=GH・K・XL
【0053】
それに対して、ばね下部46の振動の周波数fがしきい値fthより大きく、S104の判定がNOである場合には、S110において、周波数fが領域B2に属するか否かが判定される。領域B2から外れている場合には、S106において、目標弾性力FHは0とされ、領域B2に属する場合には、S111において、ばね下変位XHの位相進み処理がばね下用第2位相進み処理部(高周波振動用処理部)272において行われる。ばね下第2位相進み処理部272が選択されて、第2の特性で、位相進み処理が行われるのであり、進められる位相は大きい。S112において、ゲインGHが1とされ、S109において、目標弾性力FHが求められる。
【0054】
以上のように、本実施例においては、ばね上共振周波数付近の振動が生じた場合には、ばね上速度に応じた制御と、ばね下変位に応じた制御との両方が行われるため、ばね上部14の振動を良好に抑制することができる。この場合において、ばね下変位に基づく制御については、原則として、プレビュー制御が行われるため、ばね下部46の振動を良好に抑制することができ、それによって、ばね上部14の振動を良好に抑制することができる。
また、プレビュー制御が行われない場合であっても、位相進み処理が施されたばね下変位が用いられるため、ばね上共振周波数付近のばね下部46の振動を良好に抑制することが可能となり、乗り心地の向上を図ることができる。
さらに、位相進み処理によって、車両の諸元で決まるばね上共振周波数がほぼ中央に位置する領域において、ばね上速度、ばね下変位に応じた制御が可能となるため、積載重量の変化に起因してばね上共振周波数が多少変化しても、その共振周波数の振動を良好に抑制することが可能となる。
また、位相進みが大きい特性の処理部272と、位相進みが小さい特性の処理部270とを設け、高周波数の振動が生じた場合に位相進みが大きい特性の処理部272が選択され、低周波数の振動が生じた場合に位相進みが小さい特性の処理部270が選択されるため、高周波数の振動が生じても、低周波数の振動が生じても、ばね下部46の振動を良好に抑制することができ、それによって、ばね上部14の振動を抑制することが可能となる。
さらに、ばね上絶対速度に応じた制御とばね下変位に応じた制御との両方が行われる場合に、それぞれのゲインが1より小さい値とされるため、それぞれのゲインが1とされる場合に比較して、アクチュエータ124の目標回転角θM*が過大となり、消費エネルギが過大となることを回避することができる。
【0055】
以上のように、本実施例においては、ばね上加速度センサ196,車高センサ198,サスペンション制御装置168に含まれるノイズ等除去部250,位相補償処理部260,ばね上絶対速度演算部252,ばね上変位演算部258,ばね下変位演算部262等(図20のS51,52、図21のS71,72、図22のS101,102等を記憶する部分、実行する部分等)により振動取得装置が構成される。振動取得装置のうちばね上加速度センサ196,ノイズ等除去部250,ばね上絶対速度演算部252等(図20のS51,52を記憶する部分、実行する部分等)によりばね上振動取得部が構成され、ばね上加速度センサ196,車高センサ198,ノイズ等除去部250,位相補償処理部260,ばね上絶対速度演算部252,ばね上変位演算部258,ばね下変位演算部262等(図21のS71,72、図22のS101,102等を記憶する部分、実行する部分等)によりばね下振動取得部が構成される。
また、ばね上用位相進み処理部254,ばね下用第1位相進み処理部270,ばね下用第2位相進み処理部272等(図20のS55,図22のS107,111を記憶する部分、実行する部分等)により処理装置が構成され、サスペンション制御装置168の図17のフローチャートで表される制御部選択プログラム、図18、19のフローチャートで表されるプレビュー制御プログラム、通常制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等によりサスペンション制御部が構成される。サスペンション制御部は、発生装置制御部でもある。
さらに、サスペンション制御部のうち、図19のS22〜24、図22のS105〜109を記憶する部分、実行する部分等により低周波振動時ばね下制御部が構成され、図19のS22〜24,図22のS109〜112を記憶する部分、実行する部分等により高周波振動時ばね下制御部が構成され、図18,19のS11,13,14,21,23,24を記憶する部分、実行する部分等によりばね上制御部が構成される。
【0056】
特性選択部268(図22のフローチャートのS104,107,111を記憶する部分、実行する部分等)は周波数対応特性選択部でもある。また、特性選択部268は、周波数対応制御部選択部でもある。処理装置における特性を選択することにより、その特性で処理された振動に基づく制御が行われるからである。
さらに、図17のフローチャートで表される制御部選択プログラムを記憶する部分、実行する部分等により、有効性対応制御部選択部が構成される。
また、図20のフローチャートのS59,60、図18のS11,13,14,図19のS21,23,24を記憶する部分、実行する部分等によりばね上ゲイン使用制御部が構成され、図22のフローチャートのS108,112,109、図19のS22〜24を記憶する部分、実行する部分等によりばね下ゲイン使用制御部が構成される。
【0057】
なお、サスペンションの制御の態様は、上記実施例におけるそれに限らない。例えば、ばね下部46の振動を抑制するために、ばね下絶対速度VLに応じた減衰力の制御が行われるようにすることもできる。
その場合には、目標上下方向力FB*が、式
FB*=−GU・C*・VU−GL・CL・VL
に従って求められる。減衰係数CLは、予め定められた定数とすることができ、ゲインGLは、上記実施例における場合と同様に、0.8あるいは1とすることができる。また、ばね上速度制御において使用される減衰係数C*を予め定められた固定値とすることもできる。
また、上下方向力の制御については、フィードバック制御が行われるようにすることもできる。
さらに、上記実施例においては、ばね下部46の変位XLが、ばね上加速度センサ196による検出値と車高センサ196による検出値とに基づいて取得されるようにされていたが、ばね下加速度センサを設け、ばね下加速度センサによる検出値GLを2回積分することにより取得されるようにするもできる。この場合には、ばね下部46の振動の周波数は、ばね下加速度センサによる検出値GL、あるいは、それを演算した値(ばね下絶対速度VL、ばね下変位XL)に基づいて取得することもできる。また、ばね下部46の振動の周波数は、ばね上部14の振動に基づいて取得することも可能である。例えば、ばね下部46の振動とばね上部14の振動との間には、予め定められた伝達関数で表される関係が成立するため、その伝達関数と、ばね下部46とばね上部14とのいずれか一方の振動とに基づけば他方の振動を取得することができるのであり、他方の振動の周波数を取得することができる。
また、位相進み処理部254,270,272は、フィルタを含むものであっても、電気回路から構成されるものであってもよい。
さらに、振動取得装置によって取得された振動の処理は、プログラムの実行に従って行われるようにしても、ハード回路の構成によって実行されるようにしてもよい。
【0058】
また、上記実施例においては、ばね上速度制御もばね下変位制御も上下方向力発生装置24の制御によって行われるようにされていたが、ばね上速度制御がショックアブソーバ22の制御によって行われ、ばね下変位制御が上下方向力発生装置24の制御によって行われるようにすることもできる。
本実施例においては、上下方向力発生装置24を制御する際の目標上下方向力FB*が通常目標弾性力決定部274とプレビュー目標弾性力決定部266とのいずれか一方において決定された値FHとされる(FB*=FH)。また、この場合のゲインは、上記実施例における場合と同様の値としたり、常に1としたりすることができる。
ばね上速度制御がショックアブソーバ22において行われる場合の一例を図26の減衰特性制御プログラムを表すフローチャートに基づいて簡単に説明する。
S151において、制御対象輪12ijのばね上加速度GU、車高Hが検出され、S152において、ばね上絶対速度VU、相対速度VSが取得され、S153において、ばね上部14の振動の周波数fがショックアブソーバ22の応答性等で決まる制御可能な周波数領域E内にあるか否かが判定される。制御可能な領域Eから外れている場合には、S154において、供給電流量は予め定められた値(例えば、0)とされ、制御可能な領域E内にある場合には、S153の判定がYESとなって、S155において位相進み処理が行われる。位相進みの程度が小さいものである。S156〜159において、ばね上絶対速度VUと相対速度VSとの積の値に基づいて、目標減衰係数C*が決定される。本実施例においては、積の値が正の場合には、目標減衰係数C*が
C*=C・VU/VS
とされ、負の場合には、
C*=CMIN
とされる。そして、S157において、決定された目標減衰係数C*が得られる大きさの供給電流量i*が決定されて、出力される。
i*=h(C*)
hは関数を表す。供給電流量i*が制御指令値に対応し、制御指令値i*がインバータ222に出力される。
ショックアブソーバ22の制御においては、減衰係数C*の増加・減少とは関係なく、電動モータ90に電流が供給される。電動モータ90における消費電力は小さいからである。
また、ショックアブソーバ22の応答性は上下方向力発生装置24における応答性と比較して高いため、位相進み処理を行うことは不可欠ではない。しかし、位相進み処理が行われることによって、制御遅れを非常に小さくしたり、0としたりすることができる。
さらに、制御可能な周波数領域Eは、上下方向力発生装置24における領域より広くなるため、広い周波数領域の振動に対して有効なばね上速度制御を行うことが可能となる。
【0059】
さらに、本発明が適用されるサスペンション装置は上記実施例におけるそれに限らない。例えば、ばね下部46と、ばね上部14との間に、コイルスプリング20と、液圧シリンダ装置とが並列に設けられたサスペンション装置に適用することもできる。液圧シリンダ装置の液圧を制御することにより、ばね下部46とばね上部14との間に作用する上下方向力を制御することが可能となる。
【0060】
また、本発明は、図27に示すサスペンションの制御にも適用することができる。
本実施例においては、上下方向力発生装置370がL字形バーの代わりに直線状のロッド372を含む。直線状のロッド372の一端部がアクチュエータ374に連結され、他端部がリンク部材378を介してばね下部380に連結される。アクチュエータ374はばね上部としての車体382に取り付けられており、ばね上部382とばね下部380との間に、直線状のロッド372が配設されることになる。ばね上部382とばね下部380との間には、コイルスプリング384が設けられ、コイルスプリング384と弾性部材としての直線状のロッド372とが並列に設けられることになる。
アクチュエータ374は、電動モータと減速機とを含み、直線状のロッド372が、減速機を介して電動モータの出力軸に連結され、電動モータの駆動によりモータトルクTMが加えられる。また、直線状のロッド372において、モータトルクTMと曲げモーメントL・FB*とが等しくなるため、反力FB*は、式
FB*=TM/L
で求められる大きさとなる。反力FB*は、上下方向力発生装置370によって、ばね下部380に加えられる力FB*の反力である。
アクチュエータ374は、インバータ390を介して、コンピュータを主体とするコントローラ392に接続される。コントローラ392には、上記実施例における場合と同様に、ばね上加速度センサ、車高センサ、操舵角センサ、ブレーキECU等が接続されており、コントローラ392の指令に基づいてインバータ390が制御され、電動モータ374の出力トルクが制御される。
上下方向力の目標値FB*は、上記各実施例における場合と同様に、ばね下変位に応じた弾性力FHと、ばね上絶対速度に応じた減衰力FSとの和とすることができる。
FB*=(G・K・XL)+(−G・C・VU)
【0061】
以上、複数の態様について記載したが、サスペンションの構造、サスペンション制御の内容は上記実施例には限らない等、本発明は、前記に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施例であるサスペンションシステムにおいてサスペンション制御が行われる場合の周波数領域を示す図である。
【図2】上記サスペンションシステム全体を概念的に示す図である。
【図3】上記サスペンションシステムに含まれる上下方向力発生装置の側面図である。
【図4】上記サスペンションシステムに含まれるショックアブソーバの断面図である。
【図5】上記ショックアブソーバの詳細な断面図である。
【図6】上記サスペンションに含まれる上下方向力発生装置の平面図である。
【図7】上記上下方向力発生装置のアクチュエータの断面図である。
【図8】上記上下方向力発生装置の作動を表す図である。
【図9】上記アクチュエータの電動モータを制御するインバータの回路図である。
【図10】上記インバータの作動状態を示す図である。
【図11】上記サスペンションシステムに含まれるサスペンション制御装置を概念的に示す回路図である。
【図12】上記サスペンション制御装置のばね上用位相進み処理部の特性を概念的に示す図である。
【図13】(a)上記サスペンション制御装置のばね下用第1位相進み処理部の特性を概念的に示す図である。(b)上記サスペンション制御装置のばね下用第2位相進み処理部の特性を概念的に示す図である。
【図14】上記サスペンションシステムにおいて行われるプレビュー制御の内容を説明するための図である。
【図15】上記サスペンション制御装置を表すブロック図の一部である。
【図16】上記サスペンション制御装置を表すブロック図の別の部分である。
【図17】上記サスペンション制御装置の記憶部に記憶された制御部選択プログラムを表すフローチャートである。
【図18】上記サスペンション制御装置の記憶部に記憶されたプレビュー制御プログラムを表すフローチャートである。
【図19】上記サスペンション制御装置の記憶部に記憶された通常制御プログラムを示すフローチャートである。
【図20】上記プレビュー制御プログラム、通常制御プログラムの一部を示すフローチャートである(S11、S21の目標減衰力決定)。
【図21】上記プレビュー制御プログラムの別の一部を示すフローチャートである(S12の目標弾性力決定)
【図22】上記通常制御プログラムの別の一部を示すフローチャートである(S22の目標弾性力決定)。
【図23】上記プレビュー制御プログラム、通常制御プログラムのさらに別の一部を示すフローチャートである(S14,24の制御指令値の出力)
【図24】上記制御指令値を示す図である。
【図25】上記ばね上速度制御、ばね下変位制御が行われる場合のゲインの決定方法を概念的に示す図である。
【図26】上記サスペンション制御装置の記憶部に記憶された別のプログラム(ばね上制御プログラム)を表すフローチャートである。
【図27】上記サスペンションシステムに含まれる別のサスペンションの構造を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0063】
12:車輪 14:車体 20:コイルスプリング 22:ショックアブソーバ 24:上下方向力発生装置 46:第2ロアアーム 56:減衰特性制御装置 90:電動モータ 122:L字形バー 124:アクチュエータ 130:シャフト部 132:アーム部 140:電動モータ 168:サスペンションECU 170:上下方向力発生装置ECU 172ショックアブソーバECU 178:インバータ 222:インバータ 196:ばね上加速度センサ 198:車高センサ 254:ばね上用位相進み処理部 256:目標減衰力決定部 268:特性選択部 270:ばね下用第1位相進み処理部 272:ばね下用第2位相進み処理部 274:通常時目標弾性力決定部 282:プレビュー対応目標弾性力決定部 370:上下方向力発生装置 372:直線状のロッド 374:アクチュエータ 390:インバータ 392:サスペンションECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のばね上部とばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動を取得する振動取得装置と、
その振動取得装置によって取得された振動について位相進み処理を行うものであって、互いに位相進みの程度が異なる複数の特性を有する処理装置と、
前記ばね上部と前記ばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動の周波数に基づいて前記複数の特性のうちの1つを選択する特性選択部と、
その特性選択部によって選択された特性で前記処理装置により処理された振動を用いて前記ばね上部と前記ばね下部との間のサスペンションを制御するサスペンション制御部と
を含むことを特徴とするサスペンションシステム。
【請求項2】
前記振動取得装置が、前記ばね下部の上下方向の振動を取得するばね下振動取得部を含み、前記処理装置が、第1の特性と、その第1の特性より位相の進みの程度が大きい第2の特性とを含み、前記特性選択部が、前記ばね下部の振動の周波数が予め定められた設定周波数より低い場合に前記第1の特性を選択し、前記周波数が前記設定周波数以上である場合に前記第2の特性を選択する周波数対応特性選択部を含み、前記サスペンション制御部が、(a)前記周波数が前記設定周波数より低い場合に、前記処理装置によって前記第1の特性で処理された前記ばね下部の振動に基づいて前記サスペンションを制御する低周波振動時ばね下制御部と、(b)前記周波数が前記設定周波数以上である場合に、前記処理装置によって前記第2の特性で処理された前記ばね下部の振動に基づいて前記サスペンションを制御する高周波振動時ばね下制御部とを含む請求項1に記載のサスペンションシステム。
【請求項3】
前記振動取得装置が、前記ばね上部の上下方向の振動を取得するばね上振動取得部を含み、前記処理装置が、位相の進みの程度が前記第2の特性より小さい第3の特性を有し、前記サスペンション制御部が、前記処理装置によって前記第3の特性で処理された前記ばね上部の上下方向の振動を使用して前記サスペンションを制御するばね上制御部を含む請求項2に記載のサスペンションシステム。
【請求項4】
当該サスペンションシステムが、(a)前記周波数が前記設定周波数より低い場合に、前記ばね上制御部と前記低周波振動時ばね下制御部とを選択する手段と、(b)前記周波数が前記設定周波数以上である場合に、前記高周波振動時ばね下制御部を選択する手段との少なくとも一方を含む周波数対応制御部選択部を含む請求項3に記載のサスペンションシステム。
【請求項5】
前記ばね上制御部が、ばね上対応ゲインを使用して前記サスペンションを制御するばね上対応ゲイン使用制御部を含み、前記低周波振動時ばね下制御部が、前記サスペンションを前記ばね上制御部と前記低周波振動時ばね下制御部との両方によって制御する場合に、前記ばね上対応ゲインより大きいばね下対応ゲインを使用して前記サスペンションを制御するばね下ゲイン使用制御部を含む請求項4に記載のサスペンションシステム。
【請求項6】
前記振動取得装置が、前記車両に設けられた少なくとも1つのセンサを含み、そのセンサによる検出対象部より前記車両の後方にある制御対象輪の前記ばね下部の上下方向の振動を、そのセンサによる検出値に基づいて予測するばね下振動予測部を含み、前記サスペンション制御部が、前記制御対象輪のサスペンションを、前記ばね下振動予測部によって予測された前記ばね下部の上下方向の振動に基づいて制御するプレビュー制御部を含み、当該サスペンションシステムが、前記プレビュー制御部による制御が有効である場合に、前記プレビュー制御部と前記ばね上制御部とを選択し、前記プレビュー制御部による制御が有効でない場合に、(i)前記ばね上制御部と、(ii)前記高周波振動時ばね下制御部と前記低周波振動時ばね下制御部とのいずれか一方との少なくとも一方を選択する有効性対応制御部選択部を含む請求項3ないし5のいずれか1つに記載のサスペンションシステム。
【請求項7】
前記サスペンションが、前記ばね下と前記ばね上との間に設けられ、上下方向の力を発生させる上下方向力発生装置を含み、前記サスペンション制御部が、その上下方向力発生装置を電気的に制御して、前記上下方向力を制御する発生装置制御部を含む請求項1ないし6のいずれか1つに記載のサスペンションシステム。
【請求項1】
車両のばね上部とばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動を取得する振動取得装置と、
その振動取得装置によって取得された振動について位相進み処理を行うものであって、互いに位相進みの程度が異なる複数の特性を有する処理装置と、
前記ばね上部と前記ばね下部との少なくとも一方の上下方向の振動の周波数に基づいて前記複数の特性のうちの1つを選択する特性選択部と、
その特性選択部によって選択された特性で前記処理装置により処理された振動を用いて前記ばね上部と前記ばね下部との間のサスペンションを制御するサスペンション制御部と
を含むことを特徴とするサスペンションシステム。
【請求項2】
前記振動取得装置が、前記ばね下部の上下方向の振動を取得するばね下振動取得部を含み、前記処理装置が、第1の特性と、その第1の特性より位相の進みの程度が大きい第2の特性とを含み、前記特性選択部が、前記ばね下部の振動の周波数が予め定められた設定周波数より低い場合に前記第1の特性を選択し、前記周波数が前記設定周波数以上である場合に前記第2の特性を選択する周波数対応特性選択部を含み、前記サスペンション制御部が、(a)前記周波数が前記設定周波数より低い場合に、前記処理装置によって前記第1の特性で処理された前記ばね下部の振動に基づいて前記サスペンションを制御する低周波振動時ばね下制御部と、(b)前記周波数が前記設定周波数以上である場合に、前記処理装置によって前記第2の特性で処理された前記ばね下部の振動に基づいて前記サスペンションを制御する高周波振動時ばね下制御部とを含む請求項1に記載のサスペンションシステム。
【請求項3】
前記振動取得装置が、前記ばね上部の上下方向の振動を取得するばね上振動取得部を含み、前記処理装置が、位相の進みの程度が前記第2の特性より小さい第3の特性を有し、前記サスペンション制御部が、前記処理装置によって前記第3の特性で処理された前記ばね上部の上下方向の振動を使用して前記サスペンションを制御するばね上制御部を含む請求項2に記載のサスペンションシステム。
【請求項4】
当該サスペンションシステムが、(a)前記周波数が前記設定周波数より低い場合に、前記ばね上制御部と前記低周波振動時ばね下制御部とを選択する手段と、(b)前記周波数が前記設定周波数以上である場合に、前記高周波振動時ばね下制御部を選択する手段との少なくとも一方を含む周波数対応制御部選択部を含む請求項3に記載のサスペンションシステム。
【請求項5】
前記ばね上制御部が、ばね上対応ゲインを使用して前記サスペンションを制御するばね上対応ゲイン使用制御部を含み、前記低周波振動時ばね下制御部が、前記サスペンションを前記ばね上制御部と前記低周波振動時ばね下制御部との両方によって制御する場合に、前記ばね上対応ゲインより大きいばね下対応ゲインを使用して前記サスペンションを制御するばね下ゲイン使用制御部を含む請求項4に記載のサスペンションシステム。
【請求項6】
前記振動取得装置が、前記車両に設けられた少なくとも1つのセンサを含み、そのセンサによる検出対象部より前記車両の後方にある制御対象輪の前記ばね下部の上下方向の振動を、そのセンサによる検出値に基づいて予測するばね下振動予測部を含み、前記サスペンション制御部が、前記制御対象輪のサスペンションを、前記ばね下振動予測部によって予測された前記ばね下部の上下方向の振動に基づいて制御するプレビュー制御部を含み、当該サスペンションシステムが、前記プレビュー制御部による制御が有効である場合に、前記プレビュー制御部と前記ばね上制御部とを選択し、前記プレビュー制御部による制御が有効でない場合に、(i)前記ばね上制御部と、(ii)前記高周波振動時ばね下制御部と前記低周波振動時ばね下制御部とのいずれか一方との少なくとも一方を選択する有効性対応制御部選択部を含む請求項3ないし5のいずれか1つに記載のサスペンションシステム。
【請求項7】
前記サスペンションが、前記ばね下と前記ばね上との間に設けられ、上下方向の力を発生させる上下方向力発生装置を含み、前記サスペンション制御部が、その上下方向力発生装置を電気的に制御して、前記上下方向力を制御する発生装置制御部を含む請求項1ないし6のいずれか1つに記載のサスペンションシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2009−132237(P2009−132237A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309187(P2007−309187)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]