説明

スパッタ装置及びスパッタ成膜方法

【課題】ターゲット間のクロスコンタミネーションを防止する。
【解決手段】シャッタ機構は、下記(a)〜(c)を同時に満たす様に動作するスパッタ装置。
(a)第1シャッタ板61の第1孔61aと第2シャッタ板62の第3孔62aとの重ね合わせ部が第1ターゲット38下に位置する。
(b)第1シャッタ板61の第2孔61bが第2ターゲット35下に位置し、第2シャッタ板62が第2ターゲット35を覆う。
(c)第1シャッタ板61と第2シャッタ板62とが第3ターゲット(36,37)を覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性多層膜作製装置に関し、特に、磁性多層膜を堆積が連続する複数の膜から成るグループに分け、各グループごとに1つの成膜チャンバを用意し、複数の成膜チャンバの各々でグループごとに成膜を行うようにした磁性多層膜作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果型磁気ヘッドは、磁気感応素子として磁気抵抗効果素子を用いた再生専用の磁気ヘッドであり、ハードディスクドライブ等の再生部として実用化されている。近年、磁気抵抗効果型磁気ヘッドに使用される磁気抵抗効果素子としてTMR素子が採用されつつある。TMR素子はTMR効果(Tunneling Magnetoresistive)を利用した素子である。TMR効果は絶縁体を強磁性体で挟んだトンネル接合で生じる磁気抵抗効果である。TMR素子は、従来のAMR(Anisotropic Magnetroresistive)効果やGMR(Giant Magnetoresistive)効果を利用した素子に比較して、MR比が大きいという利点を有している。MR比は30〜50%である。
【0003】
上記のTMR素子を構成する膜は、基本的に、第1の軟磁性層、絶縁層、第2の軟磁性層、反強磁性層等が順次に積層され、磁性多層膜の構造を有している。かかるTMR素子は、複数の磁性膜の各々については個別にスパッタリングを利用して成膜が行われ、絶縁層については金属の酸化反応で成膜が行われる。
【0004】
上記のごとき磁性多層膜の各層の膜を基板に順次に堆積させるための従来の磁性多層膜作製装置は連続多層成膜で行われていた。図5に従来の代表的なヘッド用のスパッタ成膜装置を示す。このスパッタ成膜装置では、ロボット搬送装置101を内蔵する搬送チャンバ102の周囲に比較的大きな1つの成膜チャンバ103を設け、この成膜チャンバ103の内部に、円を描くような配列で、磁性多層膜を構成する各種の磁性膜を個別にスパッタ堆積させるためのターゲット104A〜104Jが設けられている。ロードチャンバ105から搬入された基板は、さらに搬送チャンバ102内のロボット搬送装置101によって成膜チャンバ103内に導入され、ここで基板への磁性多層膜の製作が行われる。磁性多層膜の製作は、基板を例えば時計回りで移動させることとし、その移動においてターゲット104A〜104Jの各々の下で停止させ、スパッタ成膜することで、行われる。基板上の磁性多層膜は、1つの成膜チャンバ103で、予め定められた順序で配列されたターゲットに基づき、磁性多層膜のすべてを、設定順序に従って下層から順次に連続的に成膜することにより製作される。このスパッタ成膜では、通常、ターゲットは水平に配置され、当該ターゲットの表面に対して基板の表面は対向した状態に配置されている。成膜チャンバ103における磁性多層膜の層数に対応する複数のターゲット104A〜104Jを利用した磁性多層膜の連続多層成膜が終了すると、搬送チャンバ102のロボット搬送装置101によって成膜処理が終了した基板は搬送され、アンロードチャンバ106から搬出される。
【0005】
上記の従来の磁性多層膜の連続多層成膜では、スパッタ成膜装置の構成上、途中で成膜が中断されることなく最下層から最上層の成膜完了まで継続される。一方、半導体デバイスを構成する多層膜の製作は、搬送チャンバを中央にしてその周囲に複数の成膜チャンバを備え、クラスタ型として、複数の成膜チャンバで多層膜の各々を堆積させるように構成されるのが一般的である。このような通常の半導体デバイスに係る多層膜の成膜装置の構成に比較して、従来の代表的な磁性多層膜のスパッタ成膜装置の構成はユニークなものであるといえる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁性多層膜から成る上記TMR素子の磁気ヘッドの量産に適した磁気ヘッド用スパッタ成膜装置の開発では、ユニークな構成ではなく、半導体デバイス製造装置としての一般的構成に適合するような構成の採用が求められている。
【0007】
また将来、不揮発性半導体メモリとして、メモリ集積度の向上および高速書換え性能の点で、TMR素子に類似した磁性多層膜構造を有するMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory等)の需要が高くなる。かかる需要に応じて、磁性多層膜の製作を通常の半導体デバイスメーカが行う場合、1つの大きな成膜チャンバで連続して多層成膜する従来の装置構成は、通常の半導体デバイス製作方式に比較して違和感のあるものである。そこで半導体メーカが自社の半導体ラインでMRAMを製作することを考慮すると、半導体ラインに適した構成(クラスタシステム)を有する磁性多層膜作製装置が求められる。
【0008】
また従来の磁性多層膜の連続成膜は、基板上の最下層から最上層まで中断されることなく継続して成膜しなければならず、一度に多数の磁性膜を堆積させるため、MR比の向上の点で制約を受けるというおそれがある。
【0009】
さらに、MRAMの生産では、磁気ヘッドの生産に比較してより高い生産性が求められる。前述の従来の代表的な磁性多層膜作成装置の構成によれば、連続多層成膜であるために、生産性の向上を期待することが困難である。
【0010】
本発明の目的は、上記の問題に鑑み、TMR素子から成る磁気ヘッドやMRAM等の生産において、通常な構成であって特に半導体デバイスメーカによる磁性多層膜の製作に適した構成を有し、さらに膜性能を高めることができかつ生産性を向上できる磁性多層膜作製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る磁性多層膜作製装置は、上記の目的を達成するために、次のように構成される。
【0012】
第1の磁性多層膜作製装置(請求項1に対応)は、基板上に複数の磁性膜や非磁性膜を含む多層膜の各層を順次に積層状態で堆積して磁性多層膜を作製する磁性多層膜作製装置であり、複数の磁性膜を複数のグループに分け、複数のグループの各々は連続して積層状態で堆積される複数の磁性膜から成る。複数のグループの各々に含まれる複数の磁性膜は同じ成膜チャンバで基板に順次に堆積させるように構成される。
【0013】
上記の磁性多層膜作製装置によれば、多層の磁性膜を特定の基準に基づき複数のグループに分けてスパッタ成膜することを可能にし、これにより多数の成膜チャンバを備えたクラスタ型の磁性多層膜作製装置の構成を実現している。磁性多層膜の作製においてクラスタシステムの実現は半導体製造メーカの方式に合致するものである。
【0014】
第2の磁性多層膜作製装置(請求項2に対応)は、上記の構成において、好ましくは、複数のグループの各々に対応して1つの成膜チャンバが設けられ、グループの数に対応する個数の複数の成膜チャンバが備えられる。複数のグループに分けることができた磁性多層膜の成膜は、グループごとに成膜処理を行うことが好ましく、グループに属する複数の磁性膜は共通の同じ成膜チャンバでスパッタリングを利用して連続的に成膜される。
【0015】
第3の磁性多層膜作製装置(請求項3に対応)は、上記の構成において、好ましくは、磁性膜を形成するための複数の成膜チャンバの他に、他の性質の膜を形成するための成膜チャンバを備えるように構成される。磁性多層膜では、その途中の段階で酸化膜を形成する処理が必要であるので、かかる成膜チャンバは別途に用意される。クラスタ型の成膜装置であるので、中央に位置する搬送チャンバの周囲に他の成膜チャンバを設けることが可能となる。
【0016】
第4の磁性多層膜作製装置(請求項4に対応)は、上記の構成において、好ましくは、複数の成膜チャンバは、基板搬送装置を備えた中央に位置する搬送チャンバの周囲に配置されるように構成される。クラスタシステムの成膜装置が実現され、このことは半導体方式との融合を図ることを可能する。
【0017】
第5の磁性多層膜作製装置(請求項5に対応)は、上記の構成において、好ましくは、グループに含まれる複数の磁性膜を形成するため成膜チャンバには、グループに含まれる複数の磁性膜に対応する複数のターゲットが配置され、成膜チャンバでは底面の中央に基板が回転状態で配置され、複数のターゲットは基板に向くように傾斜して設けられる。1つの成膜チャンバでスパッタリングにて複数種類の磁性膜を堆積させかつ効率よく、高い性能の磁性膜を堆積させるには、斜め成膜の構成が好ましい。
【0018】
第6の磁性多層膜作製装置(請求項6に対応)は、上記の構成において、好ましくは、成膜チャンバで、複数のターゲットの前面には個別に回転する2枚のシャッタ板から成る二重シャッタ機構を設けたことを特徴とする。二重シャッタ機構を設けることにより、同一の成膜チャンバ内に設けられたターゲット間のクロスコンタミネエーションを防止することができる。
【0019】
第7の磁性多層膜作製装置(請求項7に対応)は、上記の構成において、好ましくは、複数のグループの形成で、上記多層膜に含まれる金属酸化層とそれに続く磁性膜の間で分離を行ってグループを作ると共に、さらに、反強磁性膜とそれに続く磁性層は同じグループとして同一の成膜チャンバで連続して成膜を行うように構成される。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明で明らかなように本発明によれば、TMR素子から成る磁気ヘッドやMRAM等の磁性多層膜の製作において、多層膜を複数のグループに分けグループごとの磁性膜を共通の1つの成膜チャンバでスパッタ成膜するようにしたため、磁性多層膜作製装置について、半導体多層膜作製装置としてはノーマルなクラスタ型成膜装置の構成を実現でき、特に半導体メーカの半導体方式に適した磁性多層膜製作装置を実現でき、さらに膜性能を高めることができ、生産性を向上できる。また二重シャッタ機構を備えることによりターゲット間のクロスコンタミネーションを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は本発明に係る磁性多層膜作製装置の代表的な構成を示し、内部機構の概略構成が判明する程度に示された平面図である。この磁性多層膜作製装置10はクラスタ型であり、複数の成膜チャンバを備えている。ロボット搬送装置11が備えられた搬送チャンバ12が中央位置に設置されている。ロボット搬送装置11は、伸縮自在なアーム13と基板を搭載するためのハンド14とを備えている。アーム13の基端部は搬送チャンバ12の中心部12aに回転自在に取り付けられている。
【0023】
磁性多層膜作製装置10の搬送チャンバ12には、ロード/アンロードチャンバ15,16が設けられている。ロード/アンロードチャンバ15によって、外部から磁性多層膜作製装置10に処理対象の基板を搬入すると共に、磁性多層膜の成膜処理が終了した基板を磁性多層膜作製装置10から外部へ搬出する。ロード/アンロードチャンバ16も同じ機能を有し、ロード/アンロードチャンバ16を経由して搬入された基板は、同チャンバから搬出される。ロード/アンロードチャンバを2つ設けた理由は、2つのチャンバを交互に使い分けることにより、生産性を高めるためである。
【0024】
この磁性多層膜作製装置10では、搬送チャンバ12の周囲に、3つの成膜チャンバ17A,17B,17Cと、1つの酸化膜成膜チャンバ18と、1つのクリーンニングチャンバ19とが設けられている。2つのチャンバの間には、両チャンバを隔離し、かつ必要に応じて開閉自在なゲートバルブ20が設けられている。なお各チャンバには真空排気機構、原料ガス導入機構、電力供給機構等が付設されているが、それらの図示は省略されている。
【0025】
成膜チャンバ17A,17B,17Cの各々は、グループに属する複数の磁性膜を同じチャンバ内で連続して成膜するための成膜チャンバである。この実施形態によれば、基板上に堆積される磁性多層膜を下側から3つのグループA,B,Cに分け、各グループごとの複数の磁性膜を1つの共通の成膜チャンバで堆積させるように構成している。これによりクラスタ型の磁性多層膜作製装置が実現されている。A,B,Cでグループ化され、各グループに属する複数の磁性膜を堆積させる成膜チャンバ17A,17B,17Cの各々ではスパッタリングを利用したPVD(Physical Vapor Deposition)法によって磁性膜を堆積する。
【0026】
グループAに属する磁性膜を成膜する成膜チャンバ17Aでは例えばTa,NiFeまたはNiFeCr(Seed層:この層は省略できる),PtMnまたはPdPtMnまたはIrMn(アンチフェロ層:反強磁性層),CoFeの各磁性膜が所定順序で連続的に堆積される。このため、成膜チャンバ17Aでは、その底部中央の基板ホルダ21上に配置された基板22に対し、天井部にTa,NiFeまたはNiFeCr,PtMnまたはPdPtMnまたはIrMn,CoFeのそれぞれに対応する4つのターゲット23〜26が取り付けられている。なお図1において、成膜チャンバ17Aの内部を所要の真空状態にするための真空排気機構、ターゲット23〜26のスパッタに要する電力を供給するための機構、プラズマを生成するための機構等の図示は省略されており、このことは他の成膜チャンバ等でも同じである。
【0027】
グループBに属する磁性膜を成膜する成膜チャンバ17Bでは例えばCoFe,Ru,Alの磁性膜が所定順序で連続的に堆積される。このため、成膜チャンバ17Bでも、上記と同様に、その底部中央の基板ホルダ27上に配置された基板28に対し、天井部にCoFe,Ru,Alのそれぞれに対応するターゲット29〜32が取り付けられている。
【0028】
グループCに属する磁性膜を成膜する成膜チャンバ17Cでは例えばTa,NiFe,CoFe,Cuの各磁性膜が所定順序で連続的に堆積される。このため、成膜チャンバ17Cでも、上記と同様に、その底部中央の基板ホルダ33上に配置された基板34に対し、天井部にTa,NiFe,CoFe,Cuのそれぞれに対応する4つのターゲット35〜38が取り付けられている。
【0029】
酸化膜成膜チャンバ18では、金属層を酸化する表面化学反応が行われる。この表面化学反応では、プラズマ酸化、自然酸化、オゾン酸化、紫外線−オゾン酸化、ラジカル酸素などが使用される。酸化膜成膜チャンバ18で、39は基板ホルダ、40は基板である。
【0030】
クリーンニングチャンバ19では、イオンビームエッチング機構とRFスパッタエッチング機構が設けられ、表面平坦化が行われる。クリーンニングチャンバ19で、41は基板ホルダ、42は基板である。
【0031】
上記の構成を有する磁性多層膜製作装置10において、ロード/アンロードチャンバ15を通して内部に搬入された基板43は、ロボット搬送装置11によって、成膜チャンバ17A,17B,17C、酸化膜成膜チャンバ18と、クリーンニングチャンバ19のそれぞれに、作製対象である磁性多層膜デバイスに応じて予め定められた順序で導入され、各チャンバでは所定の成膜やエッチング等の処理が行われる。作製対象の磁性多層膜デバイスとしては、MRAM、TMRヘッド、アドバンスド(改良型)GMRなどが存在する。
【0032】
図2に磁性多層膜構造を有する上記のデバイスの例を示す。図2で(A)は8層のMRAMを示し、(B)は10層のTMRヘッドまたはMRAMを示し、(C)は13層のアドバンスドGMRを示している。
【0033】
図2(A)によれば、8層のMRAMは、最下層の第1層から最上層の第8層に向かってTa,CoFe,Ru,CoFe,Al−O,CoFe,NiFe,Taの順序で磁性膜が積層されている。この積層状態においてTa(第1層)とCoFe(第2層)がグループAに属し、Ru(第3層)とCoFe(第4層)とAl−O(第5層)がグループBに属し、CoFe(第6層)とNiFe(第7層)とTa(第8層)がグループCに属している。なお第1層のTaの下でクリーニング(図中記号「Cl.」で示す)のエッチングが行われる。また第5層のAl−Oと第6層のCoFeの間ではAl膜の酸化処理(図中記号「Ox.」で示す)が行われ、これによりAl−OはAl酸化膜となる。なお、Al酸化膜(Al−O)は、AlターゲットのO2ガスによるリアクティブスパッタリング法によって作製してもよい。このことは他の多層膜の場合にも同様である。
【0034】
図2(B)によれば、10層のTMRヘッドまたはMRAMは、最下層の第1層から最上層の第10層に向かってTa,NiFe,PtMn,CoFe,Ru,CoFe,Al−O,CoFe,NiFe,Taの順序で磁性膜が積層されている。この積層状態において、Ta(第1層)とNiFe(第2層)とPtMn(第3層)とCoFe(第4層)がグループAに属し、Ru(第5層)とCoFe(第6層)とAl−O(第7層)がグループBに属し、CoFe(第8層)とNiFe(第9層)とTa(第10層)がグループCに属している。なお第1層のTaの下でクリーニング(Cl.)のエッチングが行われる。また第7層のAl−Oと第8層のCoFeの間では酸化処理(Ox.)が行われ、Al−OはAl酸化膜となる。図2(A)に示した8層のMRAMと比較すると、第2層および第3層としてNiFe,PtMnの磁性膜層が加入された点で異なり、その他の多層の層構造の配列は同じである。
【0035】
図2(C)によれば、13層のアドバンスドGMRは、最下層の第1層から最上層の第13層に向かってTa,NiFeCr,PtMn,CoFe,Ru,CoFe,NOL(Nano Oxide Layer:CoFe−O等),CoFe,Cu,CoFe,NiFe,Cu,Taの順序で磁性膜が積層されている。この積層状態において、Ta(第1層)とNiFeCr(第2層)とPtMn(第3層)とCoFe(第4層)がグループAに属し、Ru(第5層)とCoFe(第6層)とNOL(第7層)がグループBに属し、CoFe(第8層)とCu(第9層)とCoFe(第10層)とNiFe(第11層)とCu(第12層)とTa(第13層)がグループCに属している。なお第1層のTaの下でクリーニング(Cl.)のエッチングが行われる。また第6層のCoFeと第8層のCoFeの間では酸化処理(Ox.)が行われ、その結果、第7層として極薄い酸化膜のNOL(Nano Oxide Layer)が形成される。
【0036】
上記のごとく、製作対象としての磁性多層膜デバイスは、いずれのものも、積層された磁性膜を3つのグループA,B,Cに分け、各グループに属する複数の磁性膜を連続して堆積させて成膜を行っている。グループAに属する磁性膜は成膜チャンバ17Aで順次に成膜され、グループBに属する磁性膜は成膜チャンバ17Bで順次に成膜され、グループCに属する磁性膜は成膜チャンバ17Cで成膜される。さらに酸化膜の成膜は酸化膜成膜チャンバ18で成膜され、クリーニングのエッチングはクリーニングチャンバ19で実施される。
【0037】
上記多層磁気膜製作装置10において上記の8層のMRAMを製作するときには、装置内に搬入された基板は、最初にクリーニングチャンバ19に導入されイオンビーム等で基板表面の平坦化のためのエッチング処理が行われ、次に成膜チャンバ17Aに導入されてグループAの第1層と第2層が各ターゲットを順次に用いて連続してスパッタで堆積され、次に成膜チャンバ17Bに導入されてグループBの第2層から第5層が各ターゲットを順次に用いて連続してスパッタで堆積され、次に酸化膜成膜チャンバ18に導入されて酸化膜(アルミナ層)が形成され、最後に成膜チャンバ17Cに導入されグループCの第6層から第8層が各ターゲットを順次に用いて連続してスパッタにより堆積される。
【0038】
上記の磁性多層膜作製装置10において、図2を参照して前述した10層のTMRヘッド/MRAMあるいは13層のアドバンスドGMRを作製するときにも、上記と同様に行われる。磁性多層膜は、グループごとに、対応する成膜チャンバ17A,17B,17Cでスパッタ成膜が連続して行われる。
【0039】
従来では前述のごとく1つの大型の成膜チャンバで多層の磁性膜を最下層から最上層まで連続して堆積させて製作していた磁性多層膜を、当該磁性多層膜を特定の複数のグループに分割しグループごとの複数の磁性膜を異なる環境による成膜チャンバを用いて成膜できるという知見を見出し、そこで、この知見に基づいて上記のごとく複数のスパッタ成膜用の成膜チャンバを用いて多層の磁性膜をグループに分割して成膜し、クラスタ型の磁性多層膜作製装置を実現する。多層の磁性膜の分割の仕方としては、図2に示すごとく、3つのグループA,B,Cに分けることが好ましいが、これに限定されるものではない。グループの分け方の基準としては、好ましくは、金属酸化膜(例えばAl−O)とそれに続く磁性層との間で分離を行うと共に、アンチフェロ(Anti−Ferro)層(反強磁性層、例えばPtMn層)とそれに続く磁性層(主にCoFe層)は必ず同一の成膜チャンバ内で連続して成膜を行うということである。さらに成膜チャンバを分離する観点としては、途中に酸化プロセスが入る場合には、酸化プロセスの前後で積層を分離することが好ましい。さらに各成膜チャンバによる積層数ができる限り均等に配分されることも考慮される必要がある。
【0040】
また異なる成膜チャンバ17A,17B,17Cのそれぞれで同じ磁性膜(CoFe等)を堆積させることもあるが、1つのチャンバは1回通過させる成膜手順を採用することにより、成膜の効率化を高めている。また上記構成のクラスタ型磁性多層膜作製装置の構成によれば、各種の多層膜構造を有する磁性膜デバイスの製作に対処することができる。
【0041】
上記のごとく磁性多層膜をグループに分離してグループごとに異なる成膜チャンバでスパッタ成膜を行うことによって、次のように膜の性能の向上することができる。例えば基板上において、下側から、Ta(5nm),NiFe(2nm),PtMn(20nm),CoFe(2nm),Ru(0.85nm),CoFe(2.5nm),Cu(3nm),CoFe(1nm),NiFe(3nm),Ta(3nm)の順で積層されるスピンバルブGMR膜に関して、全層を連続的に成膜した場合には7.39%のMR比を得ることができる。これに対して、PtMn層(第3層)とCoFe層(第4層)の間で中断して分離成膜を行う場合にはMR比が6.67%に低下する。そのため、反強磁性層とそれに続く磁性層の成膜は同一の成膜チャンバ内で連続的に成膜することが好ましい。さらに、Ru層(第5層)とCoFe層(第6層)の間で中断して分離成膜を行う場合にはMR比が7.45%となり、CoFe層(第6層)とCu層(第7層)の間で中断して分離成膜を行う場合にはMR比が7.66%となり、Cu層(第7層)とCoFe層(第8層)の間で中断して分離成膜を行う場合にはMR比が7.67%となる。これらの場合には、MR比を向上させる界面である。このようなことから、全層を同一の成膜チャンバで連続的に成膜する必要性は必ずしもなく、特性の向上、および生産性を考慮すると、磁性多層膜をグループに分け、成膜チャンバを複数用意し、分離成膜することが望ましい。
【0042】
次に成膜チャンバ17A,17B,17Cの各々に設けられる特徴的な構造を図3を参照してより詳しく説明する。図3の(A)は例えば成膜チャンバ17Cの平面図であり、(B)は特徴的構造を示すその縦断面図である。図3において、図1で説明した要素と実質的に同一の要素には同一の符号を付している。成膜チャンバ17Cの容器51の天井部52には前述の通り4つのターゲット35〜38が設けられている。これらのターゲット35〜38は天井部52において傾斜した状態にて取り付けられている。成膜チャンバ17Cの底面部の中央に回転自在に設けられた基板ホルダ33は基板34を水平状態にて搭載している。基板34へのスパッタ成膜のとき基板34は回転状態にある。なお基板ホルダ33上の基板34の周囲にはリング状のマグネット53が設置されている。傾斜して設けられたターゲット35〜38は、それぞれ、下方で水平に配置された基板34の上面に対して向くような姿勢にて配置されている。これらのターゲットと基板34の間にはシャッタ機構54が配置されている。シャッタ機構54は二重のシャッタを有している。シャッタ機構54の動作によって、4つのターゲット35〜38のうちスパッタ成膜に使用されるターゲットが選択される。かかる構成によって、スパッタされたターゲット物質の斜め入射を実現し、多層成膜において高均一な膜厚分布を達成し、かつターゲット相互の汚染や磁性膜同士で汚染が生じるのを防止している。
【0043】
図4を参照してシャッタ機構54の構造と動作を概念的により詳しく説明する。シャッタ機構54は二重回転シャッタとして構成されている。この図示例では、4つのターゲット37〜38は説明簡略のために平行に配置した状態を示している。シャッタ機構54は、2枚のシャッタ板61,62を実質的に平行に配置し、それぞれを個別に軸63の周りに自在に回転できるように設けられている。シャッタ板61には直径方向に並んだ2つの孔61a,61bが形成され、シャッタ板62には1つの孔62aが形成されている。図3に示された状態では、ターゲット38に対してシャッタ板61の孔61aとシャッタ板62の孔62aの位置を重ねることによりターゲット38を利用したスパッタ成膜が行われ、回転中の基板34の表面に所定の磁性膜を堆積させる。このときターゲット36,37は2枚のシャッタ板61,62で覆われ、スパッタされたターゲット物質が付着されるのを防止される。またターゲット35はシャッタ板61では孔61bに対向しているが、シャッタ板62で覆われているので、同様に保護される。上記のごとく二重回転シャッタから成るシャッタ板61,62によってターゲット間のクロスコンタミネーションを防止するようにしている。
【0044】
前述の実施形態では、磁性多層膜を3つのグループに分けたため3つの成膜チャンバ17A,17B,17Cを設けるようにしたが、グループの分け数は任意であり、成膜チャンバの数は任意に設定することができる。また多層の磁性膜の堆積順序も前述の実施形態に限定されず、任意設定することができる。
【0045】
多層の磁性膜のスパッタ成膜をグループに分割し、1つの成膜チャンバで連続成膜する磁性膜の数を少なくしたため、膜の平坦性を良好にすることができ、膜質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る磁性多層膜作製装置の代表的な実施形態の構成を示す平面図である。
【図2】作製対象である磁性多層膜の積層構造の3つの例とそのグループ化(A,B,C)を説明する図である。
【図3】本発明に係る磁性多層膜作製装置の1つの成膜チャンバの構成を概略的に示す平面図(A)と縦断面図(B)を示す図である。
【図4】本発明による二重シャッタ機構を概略的に示す説明図である。
【図5】従来の代表的な磁性多層膜作製装置の平面図である。
【符号の説明】
【0047】
10 磁性多層膜作製装置
11 ロボット制御装置
12 搬送チャンバ
17A〜17C 成膜チャンバ
18 成膜チャンバ
19 クリーニングチャンバ
54 シャッタ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ターゲット、第2ターゲット及び第3ターゲットを有する複数ターゲット機構、
基板を支持するための基板ホルダ、及び
前記複数ターゲット機構と前記基板ホルダとの間に設置したシャッタ機構であって、第1孔及び第2孔を有する第1シャッタ板及び第3孔を有する第2シャッタ板を備え、且つ該第1シャッタ板と該第2シャッタ板とが同軸に個別に回転可能に設置されたシャッタ機構、をチャンバ内に有し、
該シャッタ機構は、下記(a)〜(c)を同時に満たす様に動作することを特徴とするスパッタ装置。
(a)前記第1シャッタ板の第1孔と前記第2シャッタ板の第3孔との重ね合わせ部が前記第1ターゲット下に位置する。
(b)前記第1シャッタ板の第2孔が前記第2ターゲット下に位置し、前記第2シャッタ板が該第2ターゲットを覆う。
(c)前記第1シャッタ板と前記第2シャッタ板とが前記第3ターゲットを覆う。
【請求項2】
前記ターゲットは、前記基板ホルダに対して傾斜して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記第2のシャッタ板の孔の面積と形状は、前記ターゲットの面積と形状に一致することを特徴とする請求項1または2に記載のスパッタ装置。
【請求項4】
第1ターゲット、第2ターゲット及び第3ターゲットを有する複数ターゲット機構、
基板を支持するための基板ホルダ、及び
前記複数ターゲット機構と前記基板ホルダとの間に設置したシャッタ機構であって、第1孔及び第2孔を有する第1シャッタ板及び第3孔を有する第2シャッタ板を備え、且つ、該第1シャッタ板と該第2シャッタ板とが同軸に個別に回転可能に設置されたシャッタ機構、
をチャンバ内に有する、スパッタ装置を用いたスパッタ成膜方法であって、
下記(a)〜(c)を同時に満たす様に前記シャッタ機構を動作させて、前記第1ターゲットをスパッタすることを特徴とするスパッタ成膜方法。
(a)前記第1シャッタ板の第1孔と前記第2シャッタ板の第3孔との重ね合わせ部が前記第1ターゲット下に位置する。
(b)前記第1シャッタ板の第2孔が前記第2ターゲット下に位置し、前記第2シャッタ板が該第2ターゲットを覆う。
(c)前記第1シャッタ板と前記第2シャッタ板とが前記第3ターゲットを覆う。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−41105(P2009−41105A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217793(P2008−217793)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【分割の表示】特願2000−365696(P2000−365696)の分割
【原出願日】平成12年11月30日(2000.11.30)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】