説明

ハイブリッド車両およびその制御方法

【課題】 パラレルハイブリッド車両において、モータMG2の制御に起因する振動を抑制し、乗り心地を向上する。
【解決手段】 エンジン、モータMG1、モータMG2および車軸をプラネタリギヤを介して結合する。エンジンおよびモータMG1から出力された動力をモータMG2で補償して要求動力を車軸から出力する。この制御では、まず上記補償に必要なトルクをモータMG2の仮目標トルクとして設定する。この仮目標トルクになまし処理を施して目標トルクを決定する。車両の走行状態に応じてなまし処理の程度を変える。停車中にエンジンの始動が開始された場合は、高い応答性でモータMG2を制御して車軸へのトルク変動を適切に相殺する。通常走行中にはやや低い応答性でモータMG2を制御して運転者のアクセル操作に対し滑らかに出力トルクを変える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関と電動発電機とを有し、少なくとも内燃機関から出力された動力を動力源として走行可能なハイブリッド車両およびその制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、内燃機関と電動発電機とを備えるハイブリッド車両が提案されている。かかるハイブリッド車両としては種々の構成が提案されており、その一つにパラレル・ハイブリッド車両がある。パラレル・ハイブリッド車両では、内燃機関の動力および電動機の動力の双方を車軸に伝達可能である。パラレル・ハイブリッド車両の構成例を図1に示す。
【0003】図1のハイブリッド車両では、エンジン150と、電動発電機MG1,MG2とが備えられている。三者は、プラネタリギヤ120を介して機械的に結合されている。プラネタリギヤ120は、遊星歯車とも呼ばれ以下に示すそれぞれのギヤに結合された3つの回転軸を有している。プラネタリギヤ120を構成するギヤは、中心で回転するサンギヤ121、サンギヤの周辺を自転しながら公転するプラネタリピニオンギヤ123、さらにその外周で回転するリングギヤ122である。プラネタリピニオンギヤ123はプラネタリキャリア124に軸支されている。図1のハイブリッド車両では、エンジン150はプラネタリキャリア124に結合されている。電動発電機MG1はサンギヤ121に結合されている。電動発電機MG2はリングギヤ122に結合されている。リングギヤ122はチェーンベルト129により車軸112に結合されている。
【0004】かかる構成を有するハイブリッド車両では、内燃機関から出力された動力がプラネタリギヤ120で2つに分配される。その一部は機械的な動力として車軸112に伝達される。残余の部分は電動発電機MG1で電力として回生される。両者の分配比率は、プラネタリギヤ120のギヤ比に基づいて定まる。上記ハイブリッド車両では、車軸112の回転数が要求された回転数に一致するような割合で動力を分配する。かかる分配の結果、車軸112に伝達されたトルクが要求値に満たない場合には、電動発電機MG2から不足分のトルクを出力する。電動発電機MG2の駆動には、電動発電機MG1で回生された電力が用いられる。
【0005】かかる作用により、ハイブリッド車両は内燃機関から出力された動力を、車軸112に要求されたトルクおよび回転数からなる動力に変換して走行することができる。また、ハイブリッド車両では、電動発電機MG2の動力を利用して内燃機関を停止したまま走行することもできる。さらに、車両が停止中および走行中のいずれの状態であっても、電動発電機MG1を駆動して内燃機関をモータリングし、始動することもできる。ハイブリッド車両では、こうした種々の状態で動力を出力して走行するために、要求動力に応じて内燃機関、電動発電機MG1,MG2の走行状態を制御する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】パラレル式のハイブリッド車両では、内燃機関および電動発電機MG1から車軸112に出力される動力と要求動力との過不足分を補償するのは電動発電機MG2である。従って、車軸112から要求動力を適切に出力するためには、特に電動発電機MG2の制御を適切に行う必要がある。内燃機関および電動発電機MG1から車軸112に出力される動力は、両者の運転状態に応じて変化する。また、要求動力は運転者の操作によって変化する。車軸112から要求動力を適切に出力するためには、これらの変化に応じた応答性で電動発電機MG2を制御する必要がある。
【0007】従来から提案されているハイブリッド車両では、電動発電機MG2の制御に上述の応答性が十分に考慮されていなかった。そのため、ある走行状態によっては、応答性が過敏となり、要求動力の変化に応じて内燃機関、電動発電機MG1,MG2の走行状態が急激に変動し、振動を発生することがあった。この場合には、運転者の操作の微妙な変動に応じて出力される動力が過敏に変化することに起因する振動も生じることがあった。また、別の走行状態では応答性が低すぎ、電動発電機MG2が上述の過不足分を十分補償しきれずに、振動を発生することもあった。これらの現象は、いずれもハイブリッド車両の乗り心地を低下させていた。かかる現象は、上述した構成のハイブリッド車両に関わらず、いわゆるパラレルハイブリッド車両で共通に生じていた。
【0008】本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、いわゆるパラレルハイブリッド車両において、種々の走行状態において、電動発電機の制御の応答性に起因する振動を抑制する技術を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】上記課題の少なくとも一部を解決するために、本発明では以下の構成を採った。本発明の動力出力装置は、内燃機関と、該内燃機関の出力軸および車軸の双方に結合され双方の軸で入出力される動力を電力のやりとりによって調整可能な動力調整装置と、車軸に機械的に結合された電動発電機とを有し、少なくとも該内燃機関から出力された動力を変換して前記車軸から出力して走行可能なハイブリッド車両であって、前記電動発電機の目標トルクを設定する目標トルク設定手段と、前記ハイブリッド車両の走行状態を特定する特定手段と、前記目標トルクを修正して前記走行状態に応じて予め定められた応答性を達成する目標トルク修正手段と、前記電動発電機の運転を制御して、該設定された目標トルクを出力する電動発電機制御手段とを備えることを要旨とする。
【0010】本発明のハイブリッド車両では、前記電動発電機の制御によって車軸に出力されるトルクを制御することができる。電動発電機の運転は、ハイブリッド車両の走行状態に応じて予め定められた応答性に基づいて目標トルクを修正した上で制御される。応答性とは、電動発電機の目標トルクの変動に対応して実際のトルクが変化する変化率をいう。一般に、要求動力が運転者の指示によって変化する周期および幅は、車両の走行状態に応じて相違する。例えば、車両が走行しているときは、アクセルの踏み込み量が細かな周期で微妙に変動する。車両の走行中に高い応答性で電動発電機を制御すれば、上述の微妙な変動に応じて車軸に出力されるトルクが変動する。滑らかな運転を可能にするためには、上記変動よりも緩い応答性で電動発電機を制御することが望ましい。
【0011】一方、乗員が許容できる振動の程度も車両の走行状態によって変化する。例えば、停車中は走行中に比べてわずかな振動でも敏感に感じる。かかる場合には、電動発電機を制御して、車軸に出力されるトルクの変動を素早く相殺することが望ましい。上記ハイブリッド車両では、車両の走行状態に応じた応答性で電動発電機を制御することができる。従って、各走行状態ごとに、運転者が期待する滑らかな加減速感を実現しつつ、乗員が許容できる範囲に振動を抑制するように電動発電機を運転することができる。この結果、本発明のハイブリッド車両によれば、車両の操作性および乗り心地を大きく向上することができる。
【0012】なお、上記応答性は種々の走行状態に対応して設定することができる。例えば、車両の進行方向に関連した状態、つまり前進中、停車中、後進中で区別して応答性を設定してもよい。また、車輪がスリップした状態にあるか否かで区別して応答性を設定してもよい。さらに、車両が定常的に走行しているか加速または減速中であるかで区別して応答性を設定してもよい。その他種々の走行状態に応じて応答性を定義することができる。
【0013】上記発明では、目標トルクを一旦入力した上で、応答性に基づいてその目標トルクを修正している。これに対し、目標トルクを設定する目標トルク設定手段と、該目標トルクを修正する目標トルク修正手段とを一体的に構成するものとしてもよい。つまり、目標トルクを設定する過程において、上記応答性に基づいた修正を施すものとしてもよい。
【0014】目標トルク設定手段および目標トルク修正手段は、種々の態様で構成することができ、例えば、前記目標トルク設定手段は、前記車軸から出力すべき要求トルクに対して、前記内燃機関および動力調整装置によって前記車軸に出力されるトルクが過不足するトルクを補償する値を目標トルクとして設定する手段であり、前記目標トルク修正手段は、前記走行状態ごとに定められたなまし処理を施して前記目標トルクを設定する手段であるものとすることができる。
【0015】かかる態様の目標トルク設定手段によって設定されたトルクが電動発電機から出力されれば、内燃機関および動力調整装置から車軸に出力されるトルクを補償して要求トルクを車軸から出力することができる。一方、上記態様の目標トルク修正手段によれば、走行状態ごとに定められた応答性で電動発電機のトルクが変動するように、なまし処理によって目標トルクを修正する。なまし処理の方法としては、種々の方法が適用可能である。例えば、従前に電動発電機が出力していたトルクおよび目標トルク設定手段により設定されたトルクのそれぞれに所定の重み係数を乗じた平均値を修正後の目標トルクとする方法を採ることができる。この場合は、重み係数を走行状態に応じて変更することにより、電動発電機のトルクの応答性を変えることができる。他の方法を適用した場合でも、なまし処理に用いられる所定の係数を変更すれば、走行状態に応じて応答性を変えることができる。上述の態様からなるハイブリッド車両では、目標トルク修正手段として、なまし処理を適用することにより、走行状態に応じて比較的容易に電動発電機のトルクの応答性を変更することができる。
【0016】本発明のハイブリッド車両において、車両の走行状態と、電動発電機のトルクの応答性との関係は、種々の関係で設定可能である。例えば、第1の関係として、前記特定手段が、該ハイブリッド車両の走行状態として、停車中であるか否かを特定する手段である場合に、前記目標トルク修正手段における応答性は、該ハイブリッド車両が停車中の方が走行中よりも高く定められているものとすることができる。
【0017】停車中は車軸に出力されるトルクを一定に維持する必要がある。平坦な場所で停車中であればトルクは値0で一定に維持されるし、上り坂などでは勾配に応じた正の値で一定に維持される。いずれの場合であっても車軸に出力されるトルクが変動すれば車両は振動する。一般に、停車中、乗員は車両の振動に対して非常に敏感である。上述した関係で電動発電機の応答性を設定すれば、停車中は走行中よりも高い応答性で電動発電機を制御することができる。つまり、内燃機関および動力調整装置の運転状態が変化して、両者から車軸に出力されるトルクが変動した場合でも、該変動分を電動発電機で素早く補償することができる。従って、車軸に出力されるトルクをほぼ一定の値に維持することが可能となり、停車中において、内燃機関や動力調整装置の運転状態の変化に起因する振動を抑制することができる。
【0018】停車中は運転者がアクセルの踏み込みなどによって、要求トルクの増減を指示することはほとんどない。従って、上述の関係で停車中における電動発電機の応答性を高めても、運転者の操作に応じて車軸から出力されるトルクが細かく変動して振動を起こす可能性はほとんどない。従って、上記第1の関係で電動発電機の応答性を設定すれば、停車中のハイブリッド車両の乗り心地を大きく向上することができる。
【0019】停車中の応答性を走行中よりどの程度高く設定するかという点については、ハイブリッド車両の具体的な構成に応じて相違する。例えば、内燃機関や動力調整装置から出力されるトルクの変化率などに応じて異なる。従って、ハイブリッド車両の構成に応じて、振動が許容される範囲に収まる応答性を実験等により設定すればよい。応答性を高くするために、目標トルク設定手段により設定された目標トルクを修正せずに電動発電機の制御に用いるものとしてもよい。
【0020】なお、停車中であるか否かの判断は、例えばシフトポジションが停車中にのみ使われるパーキングレンジなどの位置にあるか否かで判断することも可能である。また、前記特定手段は、車速に基づいて車両が停止しているか否かを特定するものとすることもできる。
【0021】シフトポジションが走行中に使用される位置にある場合でも、例えばブレーキを踏んでいる場合など、ハイブリッド車両が停車中である可能性はある。上記特定手段によれば、かかる場合でも車両が停止していることを特定することができるため、より確実に停車中の乗り心地を向上することができる。また、上述の特定手段によれば、車両が完全に停止しておらず、非常に微速で走行している場合も含めて停車中として扱うことができる。非常に微速で走行している場合は、乗員が車両の振動に敏感である。上記特定手段によれば、かかる場合も含めて停車中として扱うことにより、非常に微速で走行している場合の振動をも抑制することができる。
【0022】第2の関係として、前記内燃機関の始動の指示を入力する手段を備えたハイブリッド車両において、前記目標トルク設定手段が、該指示が入力されたときに前記動力調整装置で前記内燃機関をモータリングする際に前記車軸に出力されるトルクを相殺可能なトルクを、目標トルクとして設定する手段であり、前記特定手段が、該ハイブリッド車両の走行状態が停車中かつ前記モータリングが行われている状態であるか否かを特定する手段である場合に、前記目標トルク修正手段における応答性は、該ハイブリッド車両が停車中かつ該モータリングが行われているときの方が、走行中よりも高く設定されているものとすることもできる。
【0023】ハイブリッド車両は、動力調整装置によって内燃機関をモータリングし、内燃機関を始動することがある。この際、内燃機関をモータリングするために動力調整装置から出力されたトルクの反トルクが車軸に出力される。車軸に適切な動力を出力するためには、電動発電機でこの反トルクを相殺する必要がある。特に乗員が車両の振動を感じやすい停車中には、先に説明した通り、車軸に出力されるトルクを一定に維持する必要性が高い。上述した関係で電動発電機の応答性を設定すれば、停車中かつモータリング中である場合は、走行中よりも高い応答性で電動発電機を制御することができる。つまり、動力調整装置による反トルクを速やかに補償することができる。従って、車軸に出力されるトルクの変動を抑制でき、停車中かつモータリング中である場合の乗り心地を向上することができる。
【0024】なお、ハイブリッド車両は、走行中においても動力調整装置で内燃機関をモータリングして、内燃機関を始動することがある。かかる場合でも、モータリング中に反トルクを電動発電機で相殺する必要がある。走行中は停車中ほど振動には敏感でないのが通常であるが、振動が抑制された方が望ましいのはもちろんである。従って、走行中にモータリングが行われている場合には、モータリングが行われていない走行中の応答性よりも高い応答性で電動発電機が制御されるように、目標トルクを設定するものとしてもよい。
【0025】第3の関係として、前記特定手段が、前記車軸に結合された車輪がスリップした状態にあるか否かを特定する手段である場合に、前記目標トルク修正手段における応答性は、該ハイブリッド車両の走行状態が前記スリップした状態にあるときの方が、そうでないときよりも高く設定されているものとすることもできる。
【0026】車輪がスリップした状態は一般に好ましい走行状態とはいえないため、速やかに回復を図る必要がある。車輪のスリップは路面の摩擦力に対して車軸から出力されるトルクが大きすぎるときに生じる。従って、スリップから回復するためには、車軸から出力されるトルクをスリップを生じない程度の値に抑制する必要がある。上記第3の関係で電動発電機の応答性を設定しておけば、スリップが生じた場合に車軸に出力されるトルクを速やかに抑制することができる。従って、短期間でスリップ状態からの回復を図ることができる。
【0027】スリップした場合、車軸の回転数は急激に増加する。このように回転数が急激に増加すると、車軸に動力を伝達する系統中のギヤその他の要素に不要な摩耗などを生じ、寿命を著しく縮めるおそれもある。上述の関係で電動発電機の応答性を設定すれば、スリップから速やかに回復できるため、車両の寿命を縮める状態を回避することができる。なお、上記関係は、車両が前進中であるか後進中であるか、また停車中であるかに関わらず、適用することができる。
【0028】第4の関係として、前記特定手段が、該ハイブリッド車両が前進走行中であるか後進走行中であるかを特定する手段である場合に、前記目標トルク修正手段における応答性は、該ハイブリッド車両が後進走行中であるときの方が、前進走行中よりも低く設定されているものとすることもできる。
【0029】一般に内燃機関の回転方向は、車両が前進中であるか後進中であるかに関わらず一定である。後進する場合、ハイブリッド車両は、内燃機関の回転動力を動力調整装置で電力に置き換えつつ、電動発電機から後進方向の回転動力を出力する。内燃機関からは前進方向の動力が出力されており、電動発電機からは後進方向の動力が出力されている。内燃機関、動力調整装置、および電動発電機でやりとりされる動力のバランスが崩れると、車軸には前後方向にトルク変動が生じ激しい振動を生じる。後進時は、内燃機関の出力する動力と電動発電機の出力する動力の方向が逆であるため、前進時に比べて動力のバランスが崩れやすい。上記第4の関係で電動発電機の応答性を設定すれば、電動発電機の運転状態は比較的緩やかに変化する。従って、内燃機関、動力調整装置、電動発電機でやりとりされる動力のバランスを維持しやすい。この結果、上記関係を適用したハイブリッド車両によれば、後進時の車両の振動を抑制することができ、操作性および乗り心地を大きく向上することができる。
【0030】本発明のハイブリッド車両における動力調整装置は、種々の構成を適用可能であり、例えば、前記電動発電機を第1の電動発電機とし、前記動力調整装置は、3つの回転軸を有し、該回転軸のうち2つの回転軸が前記出力軸および車軸に結合されたプラネタリギヤと、該プラネタリギヤの残余の回転軸に結合された第2の電動発電機からなる装置であるものとすることができる。
【0031】かかる構成の動力調整装置によれば、内燃機関から出力された動力は、プラネタリギヤで車軸に伝達される動力と、第2の電動発電機に伝達される動力に分配することができる。また、内燃機関から出力された動力と第2の電動発電機から出力された動力とをプラネタリギヤで併合して、車軸に伝達することもできる。従って、第2の電動発電機への電力のやりとりによって、上記構成からなる動力調整装置は、内燃機関の出力軸および車軸の双方の軸で入出力される動力を調整することができる。
【0032】また、前記動力出力装置は、前記出力軸に結合された第1のロータと、前記車軸に結合された第2のロータとからなる対ロータ電動機であるものとすることもできる。
【0033】かかる構成の動力調整装置によれば、内燃機関から出力された動力を、第1のロータと第2のロータ間に作用する電磁的な結合を通じて、車軸に伝達することができる。この際、対ロータ電動機への電力のやりとりによって、第1のロータおよび第2のロータ間の滑りを調整することができる。つまり、内燃機関の出力軸および車軸の回転数を調整することにより、両軸の動力を調整することができる。かかる作用により、上記対ロータ電動機は、内燃機関の出力軸および車軸の双方の軸で入出力される動力を調整可能な動力調整装置として機能する。
【0034】通常、ハイブリッド車両は、複数の車軸を有している。本発明のハイブリッド車両は、動力調整装置および電動発電機が同じ側の車軸に結合された構成を採用することが可能である。また、前記動力調整装置が結合された車軸と、前記電動発電機が結合された車軸とは異なる車軸であり、それぞれの車軸に結合された車輪から動力を出力することにより4輪駆動可能な構成を採ることも可能である。当然、動力調整装置および電動発電機を一方の車軸に結合された構成とした上で、更に他の車軸に電動発電機を結合して4輪駆動可能な構成を採るものとしても構わない。
【0035】本発明は以下に示す構成を採ることもできる。つまり、内燃機関と、該内燃機関の出力軸および車軸の双方に結合され双方の軸で入出力される動力を電力のやりとりによって調整可能な動力調整装置と、車軸に機械的に結合された電動発電機とを有し、少なくとも該内燃機関から出力された動力を変換して前記車軸から出力して走行可能なハイブリッド車両であって、前記電動発電機の目標トルクを設定する目標トルク設定手段と、該目標トルクをなまし処理により修正するトルク修正手段と、前記ハイブリッド車両の走行状態を特定する特定手段と、前記ハイブリッド車両が予め定めた所定の走行状態にあるときは、前記トルク修正手段による目標トルクの修正を禁止する禁止手段と、前記電動発電機の運転を制御して、該設定された目標トルクを出力する電動発電機制御手段とを備えるハイブリッド車両としての構成である。
【0036】一般にハイブリッド車両の運転中には、車軸に出力されるトルクが滑らかに変動することが要求される走行状態を取ることが多い。上記態様のハイブリッド車両によれば、電動発電機の目標トルクをなまし処理して修正することにより、出力されるトルクを滑らかに変動させることができる。ところが、先に説明した通り、ハイブリッド車両の走行状態によっては、なまし処理を施して電動発電機の目標トルクを設定した場合、電動発電機の応答性が低く、車両が振動することがある。上記態様のハイブリッド車両によれば、所定の走行状態にあるときは、禁止手段によりなまし処理を禁止することができる。従って、上記ハイブリッド車両は、車両の走行状態に応じて適切なトルクを出力することができる。
【0037】なまし処理を禁止すべき走行状態としては、例えば、車両が停車中である場合や、車両がスリップ状態にある場合が挙げられる。また、車両が停車中において内燃機関が始動されている時にのみなまし処理を禁止するものとしてもよい。なお、前記トルク修正手段は、車両の走行状態に応じてなまし処理の程度を変えるものとすることもできる。例えば、後進中は前進走行中よりも応答性が低くなるようになまし処理を施すこともできる。
【0038】本発明は、以下に示すハイブリッド車両の制御方法としても構成することができる。即ち、内燃機関と、該内燃機関の出力軸および車軸の双方に結合され双方の軸で入出力される動力を電力のやりとりによって調整可能な動力調整装置と、車軸に機械的に結合された電動発電機とを有し、該内燃機関から出力された動力を前記車軸から出力して走行可能なハイブリッド車両の制御方法であって、(a)前記電動発電機の目標トルクを設定する工程と、(b)前記ハイブリッド車両の走行状態を特定する工程と、(c)前記走行状態に応じて予め定められた応答性に基づいて許容される範囲に前記目標トルクを修正する工程と、(d)前記電動発電機の運転を制御して、該設定された目標トルクを出力する工程とを備える制御方法である。
【0039】かかる制御方法によって、ハイブリッド車両の運転を制御すれば、先にハイブリッド車両の発明として説明した作用と同様の作用によって、車両の操作性および乗り心地に優れた制御を実現することができる。
【0040】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
(1)実施例の構成:はじめに、本発明の実施例としてのハイブリッド車両の構成を説明する。図1はこのハイブリッド車両の動力を出力する動力系統の構成を示す説明図である。動力系統に備えられたエンジン150は通常のガソリンエンジンであり、クランクシャフト156を回転させる。エンジン150の運転はEFIECU170により制御されている。EFIECU170は内部にCPU、ROM、RAM等を有するワンチップ・マイクロコンピュータであり、CPUがROMに記録されたプログラムに従い、エンジン150の燃料噴射量その他の制御を実行する。
【0041】動力系統には、他にモータMG1,MG2が備えられている。モータMG1,MG2は、同期電動発電機として構成され、外周面に複数個の永久磁石を有するロータ132,142と、回転磁界を形成する三相コイル131,141が巻回されたステータ133,143とを備える。ステータ133,143はケース119に固定されている。モータMG1,MG2のステータ133,143に巻回された三相コイル131,141は、それぞれ駆動回路191,192を介してバッテリ194に接続されている。駆動回路191,192は、各相ごとにスイッチング素子としてのトランジスタを2つ1組で備えたトランジスタインバータである。駆動回路191,192は制御ユニット190に接続されている。制御ユニット190からの制御信号によって駆動回路191,192のトランジスタがスイッチングされるとバッテリ194とモータMG1,MG2との間に電流が流れる。モータMG1,MG2はバッテリ194からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この走行状態を力行と呼ぶ)、ロータ132,142が外力により回転している場合には三相コイル131,141の両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ194を充電することもできる(以下、この走行状態を回生と呼ぶ)。
【0042】エンジン150とモータMG1,MG2はそれぞれプラネタリギヤ120を介して機械的に結合されている。プラネタリギヤ120は、サンギヤ121,リングギヤ122,プラネタリピニオンギヤ123を有するプラネタリキャリア124から構成されている。本実施例のハイブリッド車両では、エンジン150のクランクシャフト156はダンパ130を介してプラネタリキャリア軸127に結合されている。ダンパ130はクランクシャフト156に生じる捻り振動を吸収するために設けられている。モータMG1のロータ132は、サンギヤ軸125に結合されている。モータMG2のロータ142は、リングギヤ軸126に結合されている。リングギヤ122の回転は、チェーンベルト129を介して車軸112および車輪116R,116Lに伝達される。
【0043】実施例のハイブリッド車両の運転全体は制御ユニット190により制御されている。制御ユニット190は、EFIECU170と同様、内部にCPU、ROM、RAM等を有するワンチップ・マイクロコンピュータである。制御ユニット190はEFIECU170と接続されており、両者は種々の情報を伝達し合うことが可能である。制御ユニット190は、エンジン150の制御に必要となるトルク指令値や回転数の指令値などの情報をEFIECU170に送信することにより、エンジン150の運転を間接的に制御することができる。また、駆動回路191,192のスイッチングを制御することにより、モータMG1,MG2の運転を直接制御することができる。制御ユニット190はこうして、動力出力装置全体の運転を制御している。かかる制御を実現するために制御ユニット190には、種々のセンサ、例えば、運転者によるアクセルの踏み込み量を検出するためのアクセルペダルポジションセンサ165、シフトレバーの位置を検出するシフトポジションセンサ167、および車軸112の回転数を知るためのセンサ144などが設けられている。リングギヤ軸126と車軸112は機械的に結合されているため、本実施例では、車軸112の回転数を知るためのセンサ144をリングギヤ軸126に設け、モータMG2の回転を制御するためのセンサと共通にしている。
【0044】(2)基本的動作:かかるハイブリッド車両の基本的な動作を説明するために、まずプラネタリギヤ120の動作について説明する。プラネタリギヤ120は、上述した3つの回転軸のうち、2つの回転軸の回転数およびトルク(以下、両者をまとめて回転状態とよぶ)が決定されると残余の回転軸の回転状態が決まるという性質を有している。各回転軸の回転状態の関係を次式(1)に示す。
【0045】
Nr=(1+ρ)Nc−ρNs;
Nc=(Nr+ρNs)/(1+ρ);
Ns=(Nc−Nr)/ρ+Nc;
Ts=ρ/(1+ρ)×Tc;
Tr=1/(1+ρ)×Tc …(1)
【0046】ここで、Ns,Tsはサンギヤ軸125の回転数およびトルク、Nr,Trはリングギヤ軸126の回転数およびトルク、Nc,Tcはプラネタリキャリア軸127の回転数およびトルクである。また、ρは次式で表される通り、サンギヤ121とリングギヤ122のギヤ比である。ρ=サンギヤ121の歯数/リングギヤ122の歯数
【0047】本実施例のハイブリッド車両は、プラネタリギヤ120の作用に基づいて、種々の状態で走行することができる。例えば、ハイブリッド車両が走行を始めた比較的低速な状態では、エンジン150を停止したまま、モータMG2を力行することにより車軸112に動力を伝達して走行する。同様にエンジン150をアイドル運転したまま走行することもある。
【0048】ハイブリッド車両が所定の速度に達すると、制御ユニット190はモータMG1を力行して出力されるトルクによってエンジン150をモータリングして始動する。このとき、モータMG1の反力トルクがプラネタリギヤ120を介してリングギヤ122にも出力される。制御ユニット190はこの反力トルクを相殺しつつ要求動力を車軸112から出力するようにモータMG2の運転を制御する。
【0049】エンジン150が運転している状態では、その動力を種々の回転数およびトルクの回転状態に変換して車軸112から出力し、走行する。エンジン150を運転してプラネタリキャリア軸127を回転させると、上式(1)を満足する条件下で、サンギヤ軸125およびリングギヤ軸126が回転する。リングギヤ軸126の回転による動力はそのまま車輪116R,116Lに伝達される。サンギヤ軸125の回転による動力はモータMG1で電力として回生することができる。一方、モータMG2を力行すれば、リングギヤ軸126を介して車輪116R,116Lに動力を出力することができる。エンジン150からリングギヤ軸126に伝達されるトルクが不足する場合にはモータMG2を力行することによりトルクをアシストする。モータMG2を力行するための電力にはモータMG1で回生した電力およびバッテリ149に蓄えられた電力を用いる。制御ユニット190は車軸112から出力すべき要求動力に応じてモータMG1,MG2の運転を制御する。
【0050】本実施例のハイブリッド車両は、エンジン150を運転したまま後進することもできる。エンジン150を運転すると、プラネタリキャリア軸127は前進時と同方向に回転する。このとき、モータMG1を制御してプラネタリキャリア軸127の回転数よりも高い回転数でサンギヤ軸125を回転させると、上式(1)から明らかな通り、リングギヤ軸126は後進方向に反転する。制御ユニット190は、モータMG2を後進方向に回転させつつ、その出力トルクを制御して、ハイブリッド車両を後進させる。
【0051】プラネタリギヤ120は、リングギヤ122が停止した状態で、プラネタリキャリア124およびサンギヤ121を回転させることが可能である。従って、車両が停止した状態でもエンジン150は運転可能である。例えば、バッテリ194の残容量が少なくなれば、エンジン150を運転し、モータMG1を回生運転することにより、バッテリ194を充電することができる。車両が停止しているときにモータMG1を力行すれば、そのトルクによってエンジン150をモータリングし、始動することができる。このとき、制御ユニット190はモータMG2を制御して、モータMG1の反力トルクを相殺する。
【0052】ところで、本実施例のハイブリッド車両では、車両の車速とエンジン150の回転数との間に一定の制限が設けられている。図2にこの制限を示す。図中の使用可能領域に示す通り、エンジン150の回転数に応じて走行可能な車速の範囲が制限されている。かかる制限は、プラネタリギヤ120の各ギヤの回転数についての機械的な制限に基づくものである。例えば、エンジン150が停止している状態で車両が走行している場合、プラネタリギヤでは、ギヤ比ρは1よりも小さいから、サンギヤ121はリングギヤ122の回転数よりも高い回転数で回転する。リングギヤ122の回転数がさらに大きくなると、場合によってはサンギヤ121の回転数が機械的な限界を超える可能性もある。同じ車速で走行している場合であっても、エンジン150が回転している場合には、サンギヤ121の回転数はそれに応じて低くなる。本実施例のハイブリッド車両では、かかる制限に基づき、エンジン150から動力を出力する必要がない場合であっても、いわゆるアイドル状態でエンジン150を運転することがある。
【0053】(3)トルク制御処理:次に、本実施例におけるトルク制御処理について説明する。トルク制御処理とは、エンジン150およびモータMG1、MG2を制御して、要求されたトルクおよび回転数からなる動力を車軸112から出力する処理をいう。本実施例におけるトルク制御処理のフローチャートを図3に示す。このルーチンは制御ユニット190内のCPU(以下、単にCPUという)によって、タイマ割り込みにより所定時間毎に繰り返し実行される。
【0054】トルク制御ルーチンが開始されると、CPUは最初に走行状態判定処理を実行する(ステップS10)。先に説明した通り、本実施例のハイブリッド車両は、内燃機関、モータMG1,MG2を種々の状態で運転して、走行することができる。三者の運転状態は、ハイブリッド車両の走行状態に応じて使い分けられる。かかる使い分けをするために、CPUはトルク制御ルーチンが開始されると、車両の走行状態を判定するのである。
【0055】図4に走行状態判定処理ルーチンのフローチャートを示す。この処理では、CPUは、まずシフトポジションを入力する(ステップS15)。シフトポジションは図1に示したシフトポジションセンサ167で検出することができる。本実施例では、シフトポジションとして、駐車時に使用するPレンジ、前進走行時に使用するDレンジ、Bレンジ、後進時に使用するRレンジ、およびニュートラルが用意されている。同時にCPUは車速および前輪回転数Nf、後輪回転数Nrを入力する(ステップS20,S25)。
【0056】次に、CPUは以下の手順で車両の走行状態を判断する。まず、シフトポジションがPレンジであるか否かを判定する(ステップS30)。また、車速が所定の速度V1よりも小さいか否かを判定する(ステップS35)。これらの条件のうち一方を満たしていれば、停車中であると判定する(ステップS40)。判定結果は走行状態を示す所定のフラグに停車中を意味するコードを入力することにより記憶される。
【0057】所定の速度V1は車両が停車していると見て差し支えない程度の微速に予め設定されている。シフトポジションのみならず、車速をも用いて停車中であるか否かを判定することにより、Dレンジ、Bレンジなどのシフトポジションでブレーキを踏んで停車している場合も含めて適切に停車中か否かの判定を行うことができる。
【0058】ステップS30およびS35の双方の条件を満たさない場合には、次に、前輪回転数Nfと後輪回転数Nrの差の絶対値が所定の値N1よりも大きいか否かを判定する(ステップS45)。上記絶対値が所定の値N1よりも大きい場合には、いずれかの車輪がスリップしているものと判定する(ステップS50)。判定結果は上述のフラグに記憶される。所定の値N1は、このようにスリップが生じているか否かの判定基準となる値である。例えば、通常の走行時に生じ得る前後輪の回転数差の最大値を値N1とすることができる。
【0059】次に、CPUはシフトポジションがRレンジであるか否かを判定する(ステップS55)。Rレンジであれば、後進中であると判定し(ステップS60)、そうでなければ前進中であると判定する(ステップS65)。判定結果は上述のフラグに記憶される。以上の処理によって車両の走行状態を特定すると、CPUは走行状態判定処理ルーチンを終了し、トルク制御ルーチンに戻る。
【0060】なお、実際には、走行状態判定処理ルーチンでは、他にも種々の走行状態を判定している。例えば、内燃機関を運転せずに走行するEV走行、内燃機関を始動するモードでの走行などの判定も行っている。これらの判定は、車速やバッテリ194の充電状態など種々の条件に基づいて判定される。かかる判定処理の詳細な説明は省略する。
【0061】走行状態が判定されると、CPUは車軸112の目標回転数Nd*、目標トルクTd*を設定する(ステップS100)。目標回転数Nd*およびトルクTd*は、現在の車速やアクセルの踏み込み量などに応じて設定される。こうして設定された目標回転数Nd*およびトルクTd*に基づいて、CPUはエンジン150の要求動力Pe*を設定する(ステップS110)。エンジン150の要求動力Pe*は、車両の走行状態に応じて異なる。走行状態は、走行状態判定処理で設定されたフラグに記憶されたコードによって検出することができる。車両が停車中やEV走行中の場合は、車軸112の目標回転数Nd*およびトルクTd*に関わらずエンジン150の要求動力Pe*は基本的には値0となる。但し、かかる場合であってもバッテリ194を充電する必要が生じた場合には、エンジン150の要求動力Pe*として充電に要する動力が設定される。
【0062】ハイブリッド車両が通常走行している場合には、エンジン150の要求動力Pe*は、車軸112の目標回転数Nd*、トルクTd*の積で求められる走行動力と、バッテリ194から充放電される電力と、補機の駆動に要する電力との総和により求められる。例えば、バッテリ194から余剰の電力を放電する必要がある場合には、エンジン150への要求動力Pe*をその分減少させることができる。また、エアコンなどの補機を動作させる場合には、走行動力の他に補機用の電力に相当する動力をエンジン150から余分に出力する必要がある。
【0063】こうしてエンジン150への要求動力Pe*が設定されるとCPUはエンジン150の運転ポイント、即ち目標回転数Ne*、目標トルクTe*を設定する(ステップS120)。エンジン150の運転ポイントは、基本的には運転効率が最もよくなる運転ポイントをマップから選択することにより設定される。
【0064】図5にエンジン150の運転ポイントと運転効率の関係を示す。図中の曲線Bは、エンジン150が運転可能な回転数およびトルクの限界値を示している。図5においてα1%、α2%等で示される曲線は、それぞれエンジン150の効率が一定となる等効率線であり、α1%、α2%の順に効率が低くなっていくことを示している。図5に示す通り、エンジン150は比較的限定された運転ポイントで効率が高く、その周囲の運転ポイントでは徐々に効率が低下していく。
【0065】図5中、C1−C1、C2−C2、およびC3−C3で示されている曲線は、エンジン150から出力される動力が一定の曲線であり、エンジン150の運転ポイントは要求動力に応じてこれらの曲線上で選択することになる。C1−C1、C2−C2、C3−C3の順に要求動力が低い状態を示している。例えば、エンジン150への要求動力Pe*が曲線C1−C1で表される動力に相当する場合、エンジン150の運転ポイントは、曲線C1−C1上で運転効率が最も高くなるA1点に設定される。同様にC2−C2曲線上ではA2点に、C3−C3曲線上ではA3点で運転ポイントを選択する。曲線C1−C1,C2−C2,C3−C3上における、エンジン150の回転数と運転効率の関係を図6に示す。なお、図6中の曲線は、説明の便宜上、図5中の3本を例示しているが、要求出力に応じて無数に引くことができる曲線であり、エンジン150の運転ポイントA1点等も無数に選択することができるものである。このようにエンジン150の運転効率の高い点をつなぐことにより描いた曲線が図5中の曲線Aであり、これを動作曲線と呼ぶ。
【0066】エンジン150の要求動力Pe*が値0である場合、エンジン150は停止またはアイドル走行状態となる。例えばハイブリッド車両がモータMG2からの動力のみで走行する場合や、降坂時などがかかる走行状態に該当する。エンジン150が停止するかアイドル運転となるかについては、種々の条件に基づいて設定される。先に図2で説明した制限に基づき、比較的高い車速では、エンジン150をアイドル運転する。また、エンジン150の暖機が必要と判断された場合などもアイドル運転をする。
【0067】以上の処理により設定されたエンジン150の運転ポイントに基づいて、CPUはモータMG1の目標回転数N1*,トルクT1*を設定する(ステップS130)。エンジン150、即ちプラネタリキャリア軸127の目標回転数N1*と、車軸112つまりリングギヤ軸126の目標回転数Nd*が設定されているため、上式(1)によって、サンギヤ軸125つまりモータMG1の目標回転数N1*を設定することができる。
【0068】モータMG1の目標トルクT1*の設定は、ハイブリッド車両の走行状態に応じて異なる。ハイブリッド車両が停車中である場合やEV走行している場合には、モータMG1の目標トルクT1*は値0となる。エンジン始動時、つまりモータMG1でエンジン150をモータリングするとき、エンジン150の回転数が自立運転に適した所定の回転数に達するまでは、モータMG1の目標トルクT1*は開ループ制御によって予め定められた値に設定される。
【0069】エンジン150が自立運転している状態では、モータMG1の目標トルクT1*は基本的にはいわゆる比例積分制御によって設定される。モータMG1の現在の回転数と、上述の目標回転数N1*との偏差に基づいて目標トルクT1*を設定するのである。現在の回転数が目標回転数N1*よりも低い場合には目標トルクT1*は正のトルクとなるし、逆の場合には負のトルクとなる。トルクT1*を設定する際に用いられるゲインは、実験などにより設定可能である。
【0070】CPUは以上の処理で設定されたエンジン150の運転ポイントおよびモータMG1の運転ポイントに基づいてモータMG2の運転ポイント、つまり目標回転数N2*、目標トルクT2*を設定する(ステップS200)。モータMG2の目標回転数N2*はリングギヤ軸126の目標回転数Nd*と等しい。
【0071】目標トルクT2*は車軸112への目標トルクTd*およびモータMG1からの反力トルクなどに基づいて、MG2目標トルク設定処理ルーチンにより設定される。この設定処理ルーチンのフローチャートを図7R>7に示した。この処理では、CPUは車軸の目標トルクTd*を入力する(ステップS205)。次に、MG1の反力トルクとしてリングギヤ軸126に出力されるトルクstepを求める(ステップS210)。エンジン150が運転している場合、トルクstepはエンジン150からリングギヤ軸126に出力されるトルクと言い換えることもできる。トルクstepは、先に示した式(1)に、エンジン150のトルクまたはモータMG1の出力トルクを代入した時のリングギヤ122のトルクTrに等しい。
【0072】次に、CPUはこれらのトルクTd*、stepの差分、つまり「Td*−step」によっってモータMG2の仮目標トルクTmを設定する(ステップS215)。こうして設定された仮目標トルクTmは、車軸112から目標トルクTd*を出力するためにモータMG2が出力すべきトルクに等しい。
【0073】本実施例では、後述する通り、車両の走行状態に応じてなまし処理を施してモータMG2の目標トルクT2*を決定している。なまし処理とは、適切な応答性が得られるように、目標トルクT2*の変化率を抑制する処理をいう。なまし処理による変化率の抑制の程度は「なましパラメータ」によって決まる。CPUは車両の走行状態に応じて、このなましパラメータPを設定する(ステップS220)。本実施例で使用したなましパラメータを図8に示す。図示する通り、車両の走行状態に応じてなましパラメータが定まる。なましパラメータは後進時に最大値8となる。停車時、スリップ時は最も小さい値1となる。なましパラメータが値1である場合は、なまし処理を施さないのと等価である。通常走行時は、両者の中間の値3となる。なましパラメータが大きくなるほど、モータMG2の目標トルクの変化率が抑制されることを意味している。
【0074】こうして車両の走行状態に応じてなましパラメータPが設定されると、CPUは仮目標トルクTmになまし処理を施してモータMG2の目標トルクT2*を設定する。具体的には、次式を演算することにより目標トルクT2*を設定する(ステップS225)。
T2* = (P−1)Tmo/P+Tm/Pここで、Tmoは前回にこのルーチンが実行された時に設定された目標トルクT2*の値である。本実施例では、仮目標トルクTmが前回の目標トルクTmoからの変化率を抑制することでなまし処理を施している。なお、なましパラメータは、ハイブリッド車両の乗り心地などに応じて実験などにより設定することができる。
【0075】CPUはこうして設定された目標トルクT2*が、モータMG2が出力可能な最大トルクTmaxよりも大きいか否かを判定する(ステップS230)。最大トルクTmaxを超える場合には目標トルクT2*を最大トルクTmaxに補正する(ステップS235)。最大トルクTmax以下である場合には、次に目標トルクT2*がモータMG2が出力可能な最小トルクTminよりも小さいか否かを判定する(ステップS240)。最小トルクTminをよりも小さい場合には目標トルクT2*を最小トルクTminに補正する(ステップS245)。ここで、最大トルクTmaxは、モータMG2が電動機として作用する場合に許容される正の限界トルクであり、モータMG2の定格、バッテリ194の充電状態、モータMG2の温度に応じて設定される値である。最小トルクTminはモータMG2が発電機として作用する場合に許容される負の限界トルクであり、最大トルクTmaxと同様、モータMG2の定格、バッテリ194の充電状態、モータMG2の温度に応じて設定される。CPUはステップS230〜S245の処理によって、モータMG2の出力トルクがこれらの限界トルクを超えないよう、上下限処理を施しているのである。
【0076】こうして設定された運転ポイントに従って、CPUはモータMG1,MG2およびエンジン150の運転を制御する(ステップS300)。モータMG1,MG2の制御は設定された目標回転数と目標トルクとに応じて各モータの三相コイル131,141に印加する電圧が設定され、現時点での印加電圧との偏差に応じて、駆動回路191,192のトランジスタのスイッチングを行うのである。同期モータを制御する方法については、周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0077】エンジン150についても、設定された運転ポイントで運転するための制御処理は周知であるため、ここでは説明を省略する。但し、実際にエンジン150の制御を行うのはEFIECU170である。従って、トルク制御ルーチンでのステップS700における処理では、制御ユニット190からEFIECU170にエンジン150の運転ポイント等の必要な情報を送信する処理が行われる。かかる情報を送信することにより制御ユニット190のCPUは間接的にエンジン150の運転を制御する。以上の処理によって本実施例のハイブリッド車両は、走行状態に応じて適切な動力を車軸112から出力して走行することができる。
【0078】以上で説明した本実施例のハイブリッド車両によれば、車両の走行状態に応じてなましパラメータを変えることによって、異なる応答性でモータMG2を制御することができる。この結果、各走行状態に応じて、モータMG2の制御に起因して生じる車両の振動を抑制することができる。
【0079】停車中の制御を例にとって説明する。停車中は乗員が車両の振動を敏感に感じやすい。停車中にエンジン150の運転が停止している場合、およびエンジン150がアイドル回転数で定常的に運転している場合には、リングギヤ122に出力されるトルクが一定であるため、車両の振動を生じにくい。停車中にモータMG1を力行してエンジン150をモータリングする際には、先に示した式(1)に従ってモータMG1の反トルクがリングギヤ122に出力される。この反トルクを相殺するトルクをモータMG2から出力しなければ、車軸112にトルクが出力され、車両の振動を引き起こす。
【0080】モータMG2の応答性が比較的低く、上記反トルクを十分相殺できない場合のトルクの変化の様子を図9に示す。図示する通り、最初エンジン150が停止しており、時刻t1にモータMG1でトルクを出力してエンジン150のモータリングが開始された場合を考える。モータリングが開始されるとモータMG1のトルクはモータリングに必要な値Tsまで所定の傾斜で増加する。この傾斜は予め設定された傾斜である。モータMG1の出力するトルクは、サンギヤ121からプラネタリキャリア124、およびエンジン150のクランクシャフト156に伝達される。エンジン150はこのトルクによって図示する通り回転数が増す。
【0081】一方、モータMG1から出力されたトルクの一部はリングギヤ122に伝達される。停車中は車軸112に要求されるトルクTd*は値0であるから、モータMG2はリングギヤ122に伝達されたトルクを相殺するトルクを出力する。モータMG1からのトルクを相殺するためには、モータMG1のトルク変動に追随できる応答性でモータMG2を制御する必要がある。モータMG2の応答性が低い場合には、モータMG1からのトルクを十分に相殺することができず、図9のT01で示す通り、車軸にトルクが出力される。モータMG1からエンジン150を正転させるトルクが出力されている場合、本実施例のハイブリッド車両では、車両を後進させる側のトルクがリングギヤ122を介して出力される。モータMG1のトルクがモータリング時の目標トルクTsで一定値になれば、応答性が低くてもモータMG2で反力を十分に相殺することができるため、車軸112に出力されるトルクは値0となる。
【0082】時刻t2においてエンジン150の回転数が点火に対応した回転数rsに至ると、モータMG1は一定のトルクTsを出力するのを中断し、エンジン150の回転数を維持するためのトルクを出力する。かかるトルクは例えばエンジン150の回転数に基づく比例制御によって設定することができる。エンジン150は点火されて自立運転を開始するから、図示する通り、モータMG1のトルクは急激に低下することにより、モータMG1からリングギヤ122に出力されていたトルクが急激に低下する。
【0083】モータMG2の応答性が低い場合には、モータMG1からリングギヤ122に出力されていたトルクが低下しても、しばらくの間モータMG2は比較的大きな前進側のトルクを出力し続ける。モータMG1からトルクTsが出力されていた区間において、その反トルクを相殺するために出力していたトルクを継続して出力する。かかる状態では、前進側のトルクが過剰となるため、図9中のT02に示す通り、車軸112からは前輪側のトルクが出力される。モータMG1のトルクの変動周期が比較的長くなると、モータMG2は十分にその反トルクを相殺可能となる。
【0084】このようにモータMG2の応答性が低い場合には、エンジン150の始動を開始する時点で車軸112に運転者が意図しないトルクが出力される。このトルクは図9に示す通り、後進および前進の双方向に出力され、車両を振動させる。この振動は、モータMG1のトルク変化に対してモータMG2から出力されるトルクが十分に追随できないことが原因である。モータMG2の応答性を十分に高くすれば、図9に示したトルクの出力を抑制することができる。本実施例では、かかる観点から、図8に示した通り、停車中はなましパラメータを最も応答性が高い状態に設定している。従って、停車中にエンジン150の始動が行われた場合でもその反トルクを十分に相殺することができ、車両の振動を抑制することができる。
【0085】同様にして本実施例は他の走行状態でも、モータMG2の応答性をそれぞれ適切な値に設定している。例えば、通常走行中は図8に示す通り、モータMG2の応答性を若干低くしてある。通常の走行中においても、エンジン150およびモータMG1からリングギヤ122に出力されるトルクを速やかに補償して車軸112から出力するという観点からは、モータMG2の応答性は高い方が望ましい。ところが、通常走行中には運転者がアクセルを操作する。定常的に走行しようとする場合であっても、アクセルの踏み込み量は微妙に変動するのが通常である。モータMG2の応答性を停車中と同様に高い状態に設定しておくと、かかる微妙な変動に応じて車軸112から出力されるトルクが変動して、車両の振動を招く。本実施例では、通常走行中はモータMG2の応答性をやや低めに設定することにより、かかる振動を抑制することができる。
【0086】本実施例のハイブリッド車両では、後進時にはモータMG2の応答性を更に低くしている。後進時であってもエンジン150は前進時と同方向に回転し、前進方向のトルクを出力する。モータMG1によって、サンギヤ121の回転数をプラネタリキャリア124の回転数よりも高くすれば、リングギヤ122は後進方向に回転する。モータMG2からは後進方向のトルクを出力する。後進時は、このようにエンジン150の出力するトルクとモータMG2が出力するトルクの方向が相違しているため、エンジン150、モータMG1,MG2からの動力のバランスが崩れると、車両の振動が生じやすい状態にある。本実施例のハイブリッド車両では、後進時には前進時よりもモータMG2の応答性を低く設定しているため、モータMG2の運転状態が比較的緩やかに変化する。従って、後進時に上記三者の動力のバランスが崩れにくくなり、車両の振動を抑制することができる。
【0087】本実施例のハイブリッド車両によれば、スリップ時にはモータMG2の応答性を高くしている。スリップ時には車軸112の回転数が急激に増す。本実施例のハイブリッド車両では、図2に示した通り、車速、つまりリングギヤ122の回転数とエンジン150の回転数との間に一定の制限が設けられている。かかる制限を外れた場合には、先に説明した通り、サンギヤ121の回転数が高くなり過ぎて、看過し得ない程、消耗する可能性がある。スリップは車両にとって好ましい走行状態ではないという理由とともに、車両の寿命を著しく縮める可能性を回避するためにも速やかに回復する必要がある。スリップ状態から回復するためには、車軸から出力されるトルクをスリップが生じない程度に低減させることが必要である。本実施例のハイブリッド車両では、スリップ時にはモータMG2の応答性を高く設定している。従って、車軸112に出力される動力を速やかに低下させることができ、スリップ状態から短期間で回復することができる。
【0088】以上に示した通り、本実施例のハイブリッド車両によれば、それぞれの走行状態に応じてモータMG2の応答性を変えることにより、各走行状態ごとに適切なトルク制御を実現することができる。この結果、本実施例のハイブリッド車両によれば、車両の操作性および乗り心地を大きく向上することができる。
【0089】なお、上記ハイブリッド車両では、図8に示した4つの走行状態に応じてモータMG2の応答性を変えている。これに対して、さらに多くの走行状態に対応して応答性を変えるものとしてもよい。例えば、通常走行中であってもエンジン150の始動時にはモータMG2の応答性を高めるものとしてもよい。また、通常走行時、および後進時において、エンジン150が運転しているか否かに応じて応答性を変えるものとしてもよい。
【0090】上記ハイブリッド車両では、図7に示した通り、モータMG2の仮目標トルクTmを一旦設定した後、なまし処理を施すことによって制御に供する目標トルクT2*を設定している。モータMG2の応答性を変えるための処理は、必ずしもなまし処理に依る必要はない。また、仮目標トルクを設定した後、応答性に応じた修正を施すという2段階で目標トルクT2*を設定する必要もない。例えば、図7のステップS215の算出式において、走行状態に応じた比例係数を乗じることにより、1段階で走行状態に応じた目標トルクT2*を設定するものとしてもよい。
【0091】上述のトルク制御ルーチンでは、エンジン150およびモータMG1の運転状態を設定した後、車軸112に要求トルクが出力されるように、モータMG2で補償している。これに対し、エンジン150およびモータMG2の運転状態を設定した後、モータMG1でトルクの補償をするように制御ルーチンを構成することも可能である。かかる構成においては、モータMG2の応答性に代えて、モータMG1の応答性を車両の走行状態に応じて変更することもできる。
【0092】(4)第2実施例:次に、本発明の第2実施例としてのハイブリッド車両について説明する。第2実施例のハイブリッド車両のハードウェア構成は、第1実施例と同様である。トルク制御ルーチンおよび走行状態判定処理ルーチンも第1実施例と同様である。第2実施例では、MG2目標トルク設定処理ルーチンの内容が第1実施例と相違する。
【0093】第2実施例におけるMG2目標トルク設定処理ルーチンのフローチャートを図10に示す。この処理が開始されると、CPUはまず車軸目標トルクTd*を入力し(ステップS505)、MG1,エンジンからの反力トルクstepを算出する(ステップS510)。これらの処理内容は、第1実施例と同様である(図7のステップS205,S210参照)。
【0094】次に、CPUはなまし処理を禁止すべきか否かを判定する(ステップS515)。この処理は、ハイブリッド車両の走行状態に基づいて行われる。第1実施例で説明した通り、走行状態判定処理ルーチンによりハイブリッド車両の走行状態が判定され、その結果は所定のフラグに記憶されている。CPUはこのフラグにより特定される走行状態が、なまし処理を施すことを禁止すべき走行状態であるか否かを判定する。なまし処理を禁止すべき走行状態は、予め定められており、制御ユニット190内のROMに記憶されている。本実施例では、図8に示した走行状態のうち、停車中およびスリップをなまし処理が禁止すべき走行状態に相当する。
【0095】なまし処理を禁止すべき状態に該当しない場合には、CPUは仮目標トルクTmを設定し(ステップS525)、なましパラメータPを設定した上で(ステップS530)、なまし処理を行ってMG2の目標トルクT2*を設定する(ステップS535)。これらの処理は、第1実施例における処理と同様である(図7のステップS215〜S225参照)。
【0096】なまし処理を禁止すべき状態に該当する場合には、CPUは車軸の目標トルクTd*と反力トルクstepの差分「Td*−step」により、MG2の目標トルクT2*を設定する。これは、上記仮目標トルクTmに相当する。つまり、反力トルクstepを補償して要求トルクTd*を車軸から出力するために、MG2が出力すべきトルク値である。なまし処理を禁止すべき状態に該当する場合には、かかるトルクを直接MG2の目標値とするのである。
【0097】こうして設定された目標トルクT2*に対して、第1実施例と同様の上下限処理を施す(ステップS540〜S555)。以上の処理によってMG2の目標トルクT2*が決定されるとCPUはMG2目標トルク設定処理ルーチンを終了してトルク制御ルーチンに戻る。以下の処理は第1実施例と同様である。
【0098】第2実施例のハイブリッド車両によれば、例えば通常走行時などでは、なまし処理を施すことにより、第1実施例と同様、滑らかな運転を実現することができる。一方、停車中やスリップなどの走行状態では、なまし処理を禁止することにより、車軸に出力されるトルクを高い応答性で制御することができる。
【0099】本発明を適用するハイブリッド車両の構成としては、図1に示した構成の他、種々の構成が可能である。図1では、モータMG2がリングギヤ軸126に結合されているが、モータMG2がエンジン150のクランクシャフト156に結合された構成をとることもできる。第1の変形例としての構成を図11に示す。図11R>1では、エンジン150,モータMG1,MG2のプラネタリギヤ120に対する結合状態が図1の実施例と相違する。プラネタリギヤ120のサンギヤ121にモータMG1が結合され、プラネタリキャリアにエンジン150のクランクシャフトが結合されている点では図1と同じである。図11では、モータMG2がリングギヤではなくエンジン150のクランクシャフトに直接結合されている点で図1の実施例と相違する。
【0100】かかる構成においても、エンジン150およびモータMG1の運転状態に応じて、要求動力が車軸112から出力されるようにモータMG2で補償することができるため、本発明を適用することができる。もちろん、逆にモータMG1で補償することも可能である。従って、モータMG1の応答性を走行状態に応じて変える態様で本発明を適用することもできる。
【0101】また、本発明は別の構成のハイブリッド車両に適用することもできる。第2の変形例としての構成を図12に示す。このハイブリッド車両では、プラネタリギヤ120およびモータMG1に代えて、クラッチモータCMを備える。クラッチモータとは、相対的に回転可能なインナロータ202およびアウタロータ204を備える対ロータ電動機である。図12に示す通り、インナロータ202はエンジン150のクランクシャフト156に結合され、アウタロータ204は車軸112に結合されている。アウタロータ204には、スリップリング206を介して電力が供給される。アウタロータ204側の軸にはモータMG2も結合されている。その他の構成は、図1で示したハイブリッド車両と同様である。
【0102】エンジン150から出力された動力は、クラッチモータCMを介して車軸112に伝達することができる。クラッチモータCMは、インナロータ202とアウタロータ204との間に電磁的な結合を介して動力を伝達する。この際、アウタロータ204の回転数がインナロータ202の回転数よりも低ければ、両者の滑りに応じた電力をクラッチモータCMで回生することができる。逆に、クラッチモータCMに電力を供給すれば、インナロータ202の回転数を増速して車軸112に出力することができる。エンジン150からクラッチモータCMを介して出力されたトルクが車軸112から出力すべき要求トルクと一致しない場合には、モータMG2で補償することができる。また、クラッチモータを力行すれば、エンジン150をモータリングして始動することができる。モータリング時の反トルクはモータMG2で相殺することができる。
【0103】モータMG2の役割は、本実施例のハイブリッド車両(図1)と同様である。従って、第2の変形例のハイブリッド車両においても、本発明を適用することができる。
【0104】さらに、本実施例のハイブリッド車両ではエンジン150,モータMG1,MG2から構成される動力系統が前車軸112に備えられている構成とした。これに対し、モータMG2を後車軸に結合した構成を採用するものとしてもよい。かかる構成例を図13に示す。図示する通り、モータMG2が前車軸112ではなく、後車軸112Rに結合される。かかる構成のハイブリッド車両では、前車軸112から出力される動力に対して、前車軸112および後車軸112Rの両者から出力される動力が要求動力に一致するようにモータMG2で補償することができる。従って、本発明をモータMG2の制御に適用することができる。もちろん、かかる構成において、上記補償をモータMG1で行うものとすれば、モータMG1に本発明を適用することもできる。
【0105】以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。例えば、上記実施例では、ソフトウェアにより種々の制御を実行しているが、これらをハードウェアによって実現するものとしても構わない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例としてのハイブリッド車両の概略構成を示す構成図である。
【図2】車速とエンジン回転数の制限を説明する説明図である。
【図3】トルク制御ルーチンのフローチャートである。
【図4】走行状態判定処理ルーチンのフローチャートである。
【図5】エンジンの運転ポイントと運転効率との関係を示すグラフである。
【図6】要求動力一定の場合の、エンジン回転数と運転効率との関係を示すグラフである。
【図7】MG2目標トルク設定処理ルーチンのフローチャートである。
【図8】なましパラメータの設定を示す説明図である。
【図9】エンジン始動時の回転数およびトルクの変動を示す説明図である。
【図10】第2実施例としてのMG2目標トルク設定処理ルーチンのフローチャートである。
【図11】本実施例のハイブリッド車両の第1の変形構成例を示す説明図である。
【図12】本実施例のハイブリッド車両の第2の変形構成例を示す説明図である。
【図13】本実施例のハイブリッド車両の第3の変形構成例を示す説明図である。
【符号の説明】
112,112R…車軸
116R,116L…車輪
117R,117L…車輪
119…ケース
120…プラネタリギヤ
121…サンギヤ
121…ρ=サンギヤ
122…リングギヤ
123…プラネタリピニオンギヤ
124…プラネタリキャリア
125…サンギヤ軸
126…リングギヤ軸
127…プラネタリキャリア軸
129…チェーンベルト
130…ダンパ
131…三相コイル
132…ロータ
133…ステータ
141…三相コイル
142…ロータ
143…ステータ
144…センサ
149…バッテリ
150…エンジン
156…クランクシャフト
165…アクセルペダルポジションセンサ
167…シフトポジションセンサ
190…制御ユニット
191,192…駆動回路
194…バッテリ
202…インナロータ
204…アウタロータ
206…スリップリング
MG1,MG2,MG3…モータ
CM…クラッチモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内燃機関と、該内燃機関の出力軸および車軸の双方に結合され双方の軸で入出力される動力を電力のやりとりによって調整可能な動力調整装置と、車軸に機械的に結合された電動発電機とを有し、少なくとも該内燃機関から出力された動力を変換して前記車軸から出力して走行可能なハイブリッド車両であって、前記電動発電機の目標トルクを設定する目標トルク設定手段と、前記ハイブリッド車両の走行状態を特定する特定手段と、前記目標トルクを修正して前記走行状態に応じて予め定められた応答性を達成する目標トルク修正手段と、前記電動発電機の運転を制御して、該設定された目標トルクを出力する電動発電機制御手段とを備えるハイブリッド車両。
【請求項2】 請求項1記載のハイブリッド車両であって、前記目標トルク設定手段は、前記車軸から出力すべき要求トルクに対して、前記内燃機関および動力調整装置によって前記車軸に出力されるトルクが過不足するトルクを補償する値を目標トルクとして設定する手段であり、前記目標トルク修正手段は、前記走行状態ごとに定められたなまし処理を施して前記目標トルクを設定する手段であるハイブリッド車両。
【請求項3】 請求項1記載のハイブリッド車両であって、前記特定手段は、該ハイブリッド車両の走行状態として、停車中であるか否かを特定する手段であり、前記目標トルク修正手段における応答性は、該ハイブリッド車両が停車中の方が走行中よりも高く定められているハイブリッド車両。
【請求項4】 前記特定手段は、車速に基づいて車両が停止しているか否かを特定する請求項3記載のハイブリッド車両。
【請求項5】 請求項1記載のハイブリッド車両であって、さらに、前記内燃機関の始動の指示を入力する手段を備え、前記目標トルク設定手段は、該指示が入力されたときに前記動力調整装置で前記内燃機関をモータリングする際に前記車軸に出力されるトルクを相殺可能なトルクを、目標トルクとして設定する手段であり、前記特定手段は、該ハイブリッド車両の走行状態が停車中かつ前記モータリングが行われている状態であるか否かを特定する手段であり、前記目標トルク修正手段における応答性は、該ハイブリッド車両が停車中かつ該モータリングが行われているときの方が、走行中よりも高く設定されているハイブリッド車両。
【請求項6】 請求項1記載のハイブリッド車両であって、前記特定手段は、前記車軸に結合された車輪がスリップした状態にあるか否かを特定する手段であり、前記目標トルク修正手段における応答性は、該ハイブリッド車両の走行状態が前記スリップした状態にあるときの方が、そうでないときよりも高く設定されているハイブリッド車両。
【請求項7】 請求項1記載のハイブリッド車両であって、前記特定手段は、該ハイブリッド車両が前進走行中であるか後進走行中であるかを特定する手段であり、前記目標トルク修正手段における応答性は、該ハイブリッド車両が後進走行中であるときの方が、前進走行中よりも低く設定されているハイブリッド車両。
【請求項8】 請求項1記載のハイブリッド車両であって、前記電動発電機を第1の電動発電機とし、前記動力調整装置は、3つの回転軸を有し、該回転軸のうち2つの回転軸が前記出力軸および車軸に結合されたプラネタリギヤと、該プラネタリギヤの残余の回転軸に結合された第2の電動発電機からなる装置であるハイブリッド車両。
【請求項9】 請求項1記載のハイブリッド車両であって、前記動力出力装置は、前記出力軸に結合された第1のロータと、前記車軸に結合された第2のロータとからなる対ロータ電動機であるハイブリッド車両。
【請求項10】 前記動力調整装置が結合された車軸と、前記電動発電機が結合された車軸とは異なる車軸であり、それぞれの車軸に結合された車輪から動力を出力することにより4輪駆動可能な請求項1記載のハイブリッド車両。
【請求項11】 内燃機関と、該内燃機関の出力軸および車軸の双方に結合され双方の軸で入出力される動力を電力のやりとりによって調整可能な動力調整装置と、車軸に機械的に結合された電動発電機とを有し、少なくとも該内燃機関から出力された動力を変換して前記車軸から出力して走行可能なハイブリッド車両であって、前記電動発電機の目標トルクを設定する目標トルク設定手段と、該目標トルクをなまし処理により修正するトルク修正手段と、前記ハイブリッド車両の走行状態を特定する特定手段と、前記ハイブリッド車両が予め定めた所定の走行状態にあるときは、前記トルク修正手段による目標トルクの修正を禁止する禁止手段と、前記電動発電機の運転を制御して、該設定された目標トルクを出力する電動発電機制御手段とを備えるハイブリッド車両。
【請求項12】 内燃機関と、該内燃機関の出力軸および車軸の双方に結合され双方の軸で入出力される動力を電力のやりとりによって調整可能な動力調整装置と、車軸に機械的に結合された電動発電機とを有し、該内燃機関から出力された動力を前記車軸から出力して走行可能なハイブリッド車両の制御方法であって、(a)前記電動発電機の目標トルクを設定する工程と、(b)前記ハイブリッド車両の走行状態を特定する工程と、(c)前記走行状態に応じて予め定められた応答性を達成するように前記目標トルクを修正する工程と、(d)前記電動発電機の運転を制御して、該設定された目標トルクを出力する工程とを備える制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2000−78705(P2000−78705A)
【公開日】平成12年3月14日(2000.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−263973
【出願日】平成10年9月1日(1998.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】