説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】ハイブリッド車両において、エンジン制御の影響を受けてモータジェネレータの回転数が変化するような状況においても、電力収支が崩れることによる蓄電装置の過放電や過電流の発生を防止する。
【解決手段】エンジンと動力分割機構を介して接続されたモータジェネレータMG1の回転数が制御上限値N1max付近となった状態(260)から、車両減速に伴い出力部材の回転数が低下するとMG1回転数が制御上限を超えて上昇する状態(270)を回避するために、燃料カット等の出力トルクを低下させるエンジン制御が実行される(280)。この際に、エンジンイナーシャの影響によりMG1回転数が急低下する場合には、モータジェネレータのトルク指令値修正、制御モードの強制切換、および、モータジェネレータへの印加電圧振幅の低下のうちの少なくとも1つを実行して、モータジェネレータ全体での電力収支の崩れを軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関し、より特定的には、エンジンおよび、エンジンと動力分割機構を介して接続されたモータジェネレータを備えるハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンと第1および第2の回転電機(モータジェネレータ)を搭載したハイブリッド車両が提案されている。たとえば、特開平10−238380号公報(特許文献1)には、エンジンと、エンジンに連結され、エンジン回転数を決定するための第1の回転電機(モータジェネレータ)と、車両の駆動力を決定するための第2の回転電機(モータジェネレータ)とを搭載したハイブリッド車両が開示されている。
【0003】
特に、特許文献1では、車両が加速あるいは減速される過渡運転時に、第1および第2のモータジェネレータのトルク指令値を適切に設定することによってエンジンの応答性を向上させる制御装置が開示される。たとえば、エンジンの燃料カット等の車両減速時には、第1のモータジェネレータに対するトルク指令値を増加側に補正するとともに、第2のモータジェネレータに対するトルク指令値を減少側に補正することが開示される。
【0004】
また、特開2006−320039号公報(特許文献2)には、モータ駆動システムにおいて、制御対象となる交流モータの回転数急変時には、モータ回転数の変化比に応じてモータ印加電圧を変化させることによって、モータ電流の制御性を向上する制御構成が開示されている。
【特許文献1】特開平10−238380号公報
【特許文献2】特開2006−320039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるような構成のハイブリッド車両では、燃費向上のためにエンジン回転数を高効率領域に維持するように第1のモータジェネレータの運転状態が制御される。このため、第1のモータジェネレータがその回転数上昇を抑制するように出力トルクを制御されている状態において、燃料カット制御のようなエンジン出力を低下させるようなエンジン制御が実行されると、エンジン回転数低下時のエンジンイナーシャに引っ張られて、第1のモータジェネレータの回転数が急激に低下するおそれがある。特に、高出力のハイブリッド車両では、エンジンパワーの増大に伴ってエンジンイナーシャも大きくなる傾向にあるため、このような問題が発生し易くなる。
【0006】
一方で、ハイブリッド車両では、第1および第2のモータジェネレータの合計電力(消費電力および/または発電電力の和)の過不足分をバッテリ等の蓄電装置の入出力電力で賄うような電力収支となる。このため、この蓄電装置の過充電および過放電を防止し、かつ、蓄電装置と第1および第2のモータジェネレータ間に配置される電力変換器(インバータ、コンバータ等)に過電流が発生しないように、上記合計電力が所定範囲内となるように電力収支を制御することが必要となる。
【0007】
しかしながら、上述のような問題により、第1のモータジェネレータの回転数が急低下した場合には、第1のモータジェネレータによる発電電力の急減をカバーしきれずに電力収支が崩れてしまい、蓄電装置からの過放電を生じさせてしまうおそれがある。
【0008】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、エンジンおよび、エンジンと動力分割機構を介して接続されたモータジェネレータを備えるハイブリッド車両において、エンジン制御の影響を受けてモータジェネレータの回転数が変化するような状況においても、電力収支が崩れることによる蓄電装置の過放電や過電流の発生を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によるハイブリッド車両の制御装置において、ハイブリッド車両は、
エンジンと、第1および第2のモータジェネレータと、動力分割機構と、蓄電装置と、電力変換ユニットとを備える。エンジンは、燃料の燃焼によって作動する。動力分割機構は、エンジンの出力軸、第1のモータジェネレータの出力軸および出力部材とそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、かつ、第1のモータジェネレータによる電力および動力の入出力を伴ってエンジンからの出力の少なくとも一部を出力部材へ出力する。第2のモータジェネレータは、出力部材から駆動輪までの間で動力を加える。電力変換ユニットは、蓄電装置ならびに第1および第2のジェネレータと接続されて双方向の電力変換を行なう。そして、制御装置は、回転数検知手段と、電力収支制御手段とを備える。回転数検知手段は、第1のモータジェネレータの回転数を検知する。電力収支制御手段は、エンジンの出力トルク低下に伴い第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときに、第1および第2のモータジェネレータの入出力電力の和が所定範囲内に制限されるように電力変換ユニットを制御する。
【0010】
好ましくは、動力分割機構は、エンジンの出力軸が結合されたキャリアと、出力部材が結合されたリングギヤと、第1のモータジェネレータの出力軸が結合されたサンギヤとを複数の回転要素として有する遊星歯車機構を含むように構成される。
【0011】
上記ハイブリッド車両の制御装置によれば、エンジンの出力トルク低下に伴い第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときに、第1および第2のモータジェネレータの電力の和が所定範囲内に制限されるように電力変換ユニットを制御することができる。したがって、エンジン制御の影響を受けて第1のモータジェネレータの回転数が低下するような状況においても、モータジェネレータ全体での電力収支が崩れて蓄電装置の過放電や過電流の発生を防止できる。
【0012】
また好ましくは、電力収支制御手段は、第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときに、第1のモータジェネレータによる発電電力が増加するように、第1のモータジェネレータの出力トルクの絶対値を変化させる。
【0013】
このような構成とすることにより、第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときには、第1のモータジェネレータによる発電電力が増加するように出力トルクを変化させることによって、第1のモータジェネレータの発電電力が急激に低下することによるモータジェネレータ全体での電力収支の崩れを軽減できる。
【0014】
あるいは好ましくは、電力収支制御手段は、第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときに、第2のモータジェネレータによる消費電力が減少するように、第2のモータジェネレータの出力トルクの絶対値を変化させる。
【0015】
このような構成とすることにより、第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときには、第2のモータジェネレータによる消費電力が減少するように出力トルクを変化させることによって、第1のモータジェネレータの発電電力が低下しても、モータジェネレータ全体での電力収支の崩れを軽減できる。
【0016】
好ましくは、蓄電装置は、直流電圧を入出力するように構成され、電力変換ユニットは、蓄電装置と第1および第2のジェネレータとの間にそれぞれ設けられた第1および第2のインバータを含むように構成され、第1および第2のインバータの各々は、対応のモータジェネレータに矩形波電圧を印加するようにスイッチング制御される第1の制御モードと、パルス幅変調制御に従って対応のモータジェネレータへの印加電圧を制御する第2の制御モードとを選択的に適用される。そして、電力収支制御手段は、第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときに、第1のモータジェネレータの制御モードを強制的に第2の制御モードとする。
【0017】
このような構成とすることにより、第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときには、第1のモータジェネレータを強制的に制御応答性の高い第2の制御モード(パルス幅変調制御)によって制御できるので、制御応答性が相対的に低い第1の制御モード(矩形波電圧制御モード)が適用されることによって、エンジン制御の影響による第1のモータジェネレータの回転数の低下を抑制して、モータジェネレータ全体での電力収支の崩れを軽減することができる。
【0018】
あるいは好ましくは、蓄電装置は、直流電圧を入出力するように構成され、電力変換ユニットは、蓄電装置と直流電源配線との間に設けられて、直流電圧の出力電圧を昇圧して直流電源配線へ出力可能に構成されたコンバータと、直流電源配線と第1および第2のジェネレータとの間にそれぞれ接続されて双方向の電力変換を行なう第1および第2のインバータとを含むように構成される。そして、電力収支制御手段は、第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときに、コンバータに対する直流電源配線への出力電圧指令値を、現在値よりも低下させる。
【0019】
このような構成とすることにより、第1および第2のモータジェネレータを制御する第1および第2のインバータへの入力直流電圧を低下させることにより、第1および第2のモータジェネレータ全体で取扱う電力を低下させることによって、モータジェネレータ全体での電力収支の崩れを軽減することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、エンジンおよび、エンジンと動力分割機構を介して接続されたモータジェネレータを備えるハイブリッド車両において、エンジン制御の影響を受けてモータジェネレータの回転数が変化するような状況においても、電力収支が崩れて蓄電装置の過放電や過電流の発生することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
【0022】
(ハイブリッド車両の構成)
図1は、本発明に従う制御装置を搭載したハイブリッド車両の全体構成を示す概略ブロック図である。
【0023】
図1を参照して、ハイブリッド車両5は、エンジンENGと、モータジェネレータMG1,MG2と、バッテリ10と、電力変換ユニット(PCU:Power Control Unit)20と、動力分割機構PSDと、減速機RDと、前輪70L,70Rと、後輪80L,80Rと、電子制御ユニット(Electrical Control Unit:ECU)30とを備える。本実施の形態に係る制御装置は、たとえばECU30が実行するプログラムにより実現される。なお、図1には、前輪70L,70Rを駆動輪とするハイブリッド車両5が例示されるが、前輪70L,70Rに代えて後輪80L,80Rを駆動輪としてもよい。あるいは、図1に構成に加えて後輪80L,80R駆動用のモータジェネレータをさらに設けて、4WD構成とすることも可能である。
【0024】
エンジンENGが発生する駆動力は、動力分割機構PSDにより、2経路に分割される。一方は、減速機RDを介して前輪70L,70Rを駆動する経路である。もう一方は、モータジェネレータMG1を駆動させて発電する経路である。
【0025】
モータジェネレータMG1は、代表的には三相交流同期電動発電機により構成される。モータジェネレータMG1は、動力分割機構PSDにより分割されたエンジンENGの駆動力により、発電機として発電する。モータジェネレータMG1により発電された電力は、車両の運転状態やバッテリ10のSOC(State Of Charge)の状態に応じて使い分けられる。たとえば、通常走行時や急加速時では、モータジェネレータMG1により発電された電力はそのままモータジェネレータMG2をモータとして駆動させる動力となる。一方、バッテリ10のSOCが予め定められた値よりも低い場合には、モータジェネレータMG1により発電された電力は、電力変換ユニット20により交流電力から直流電力に変換されてバッテリ10に蓄えられる。
【0026】
このモータジェネレータMG1は、エンジンENGを始動する際の始動機としても利用される。エンジンENGを始動する際、モータジェネレータMG1は、バッテリ10から電力の供給を受けて、電動機として駆動する。そして、モータジェネレータMG1は、エンジンENGをクランキングして始動する。
【0027】
モータジェネレータMG2は、代表的には三相交流同期電動発電機により構成される。モータジェネレータMG2が電動機として駆動される場合には、バッテリ10に蓄えられた電力およびモータジェネレータMG1により発電された電力の少なくともいずれか一方により駆動される。モータジェネレータMG2の駆動力は、減速機RDを介して前輪70L,70Rに伝えられる。これにより、モータジェネレータMG2は、エンジンENGをアシストして車両を走行させたり、モータジェネレータMG2の駆動力のみにより車両を走行させたりする。
【0028】
車両の回生制動時には、減速機RDを介して前輪70L,70RによりモータジェネレータMG2が駆動され、モータジェネレータMG2が発電機として作動させられる。これによりモータジェネレータMG2は、制動エネルギを電気エネルギに変換する回生ブレーキとして作用する。モータジェネレータMG2により発電された電力は、電力変換ユニット20を介してバッテリ10に蓄えられる。
【0029】
バッテリ10は、たとえば、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池により構成される。本発明の実施の形態において、バッテリ10は「蓄電装置」の代表例として示される。すなわち、電気二重層キャパシタ等の他の蓄電装置をバッテリ10に代えて用いることも可能である。バッテリ10は、直流電圧を電力変換ユニット20へ供給するとともに、電力変換ユニット20からの直流電圧によって充電される。
【0030】
電力変換ユニット20は、バッテリ10よって供給される直流電力と、モータを駆動制御する交流電力およびジェネレータによって発電される交流電力との間で双方向の電力変換を行なう。
【0031】
ハイブリッド車両5は、さらに、ハンドル40と、アクセルペダルポジションAPを検出するアクセルポジションセンサ44と、ブレーキペダルポジションBPを検出するブレーキペダルポジションセンサ46と、シフトポジションSPを検出するシフトポジションセンサ48とを備える。
【0032】
ECU30は、エンジンENG、電力変換ユニット20およびバッテリ10と電気的に接続されている。ECU30は、各種センサからの検出信号に基づいて、ハイブリッド車両5が所望の走行状態となるように、エンジンENGの運転状態と、モータジェネレータMG1,MG2の駆動状態と、バッテリ10の充電状態とを統合的に制御する。
【0033】
図2は、図1のハイブリッド車両5におけるパワートレインの詳細を説明するための模式図である。
【0034】
図2を参照して、ハイブリッド車両5のパワートレイン(ハイブリッドシステム)は、モータジェネレータMG2と、モータジェネレータMG2の出力軸160に接続される減速機RDと、エンジンENGと、モータジェネレータMG1と、動力分割機構PSDとを備える。
【0035】
動力分割機構PSDは、図2に示す例では遊星歯車機構により構成されて、クランクシャフト150に軸中心を貫通された中空のサンギヤ軸に結合されたサンギヤ151と、クランクシャフト150と同軸上を回転可能に支持されているリングギヤ152と、サンギヤ151とリングギヤ152との間に配置され、サンギヤ151の外周を自転しながら公転するピニオンギヤ153と、クランクシャフト150の端部に結合され各ピニオンギヤ153の回転軸を支持するプラネタリキャリヤ154とを含む。
【0036】
動力分割機構PSDは、サンギヤ151に結合されたサンギヤ軸と、リングギヤ152に結合されたリングギヤケース155およびプラネタリキャリヤ154に結合されたクランクシャフト150の3軸が動力の入出力軸とされる。そしてこの3軸のうちいずれか2軸へ入出力される動力が決定されると、残りの1軸に入出力される動力は他の2軸へ入出力される動力に基づいて定まる。
【0037】
動力の取出用のカウンタドライブギヤ170がリングギヤケース155の外側に設けられ、リングギヤ152と一体的に回転する。カウンタドライブギヤ170は、動力伝達減速ギヤRGに接続されている。リングギヤケース155は、本発明での「出力部材」に対応する。このようにして、動力分割機構PSDは、モータジェネレータMG1による電力および動力の入出力を伴って、エンジンENGからの出力の少なくとも一部を出力部材へ出力するように動作する。
【0038】
さらに、カウンタドライブギヤ170と動力伝達減速ギヤRGとの間で動力の伝達がなされる。そして、動力伝達減速ギヤRGは、駆動輪である前輪70L、70Rと連結されたディファレンシャルギヤDEFを駆動する。また、下り坂等では駆動輪の回転がディファレンシャルギヤDEFに伝達され、動力伝達減速ギヤRGはディファレンシャルギヤDEFによって駆動される。
【0039】
モータジェネレータMG1は、回転磁界を形成するステータ131と、ステータ131内部に配置され複数個の永久磁石が埋め込まれているロータ132とを含む。ステータ131は、ステータコア133と、ステータコア133に巻回される三相コイル134とを含む。ロータ132は、動力分割機構PSDのサンギヤ151と一体的に回転するサンギヤ軸に結合されている。ステータコア133は、電磁鋼板の薄板を積層して形成されており、図示しないケースに固定されている。
【0040】
モータジェネレータMG1は、ロータ132に埋め込まれた永久磁石による磁界と三相コイル134によって形成される磁界との相互作用によりロータ132を回転駆動する電動機として動作する。またモータジェネレータMG1は、永久磁石による磁界とロータ132の回転との相互作用により三相コイル134の両端に起電力を生じさせる発電機としても動作する。
【0041】
モータジェネレータMG2は、回転磁界を形成するステータ136と、ステータ136内部に配置され複数個の永久磁石が埋め込まれたロータ137とを含む。ステータ136は、ステータコア138と、ステータコア138に巻回される三相コイル139とを含む。
【0042】
ロータ137は、動力分割機構PSDのリングギヤ152と一体的に回転するリングギヤケース155に減速機RDを介して結合されている。ステータコア138は、たとえば電磁鋼板の薄板を積層して形成されており、図示しないケースに固定されている。
【0043】
モータジェネレータMG2は、永久磁石による磁界とロータ137の回転との相互作用により三相コイル139の両端に起電力を生じさせる発電機としても動作する。またモータジェネレータMG2は、永久磁石による磁界と三相コイル139によって形成される磁界との相互作用によりロータ137を回転駆動する電動機として動作する。
【0044】
減速機RDは、プラネタリギヤの回転要素の一つであるプラネタリキャリヤ166がケースに固定された構造により減速を行なう。すなわち、減速機RDは、ロータ137の出力軸160に結合されたサンギヤ162と、リングギヤ152と一体的に回転するリングギヤ168と、リングギヤ168およびサンギヤ162に噛み合いサンギヤ162の回転をリングギヤ168に伝達するピニオンギヤ164とを含む。たとえば、サンギヤ162の歯数に対しリングギヤ168の歯数を2倍以上にすることにより、減速比を2倍以上にすることができる。
【0045】
このようにモータジェネレータMG2の回転力は、減速機RDを介して、リングギヤ152,168と一体的に回転する出力部材(リングギヤケース)155に伝達される。すなわち、モータジェネレータMG2は、出力部材155から駆動輪までの間で動力を加えるように構成される。なお、減速機RDの配置を省略して、すなわち減速比を設けることなく、モータジェネレータMG2の出力軸160および出力部材155の間を連結してもよい。
【0046】
電力変換ユニット20は、コンバータ12と、インバータ14,22とを含む。昇圧コンバータ12は、バッテリ10からの直流電圧を電圧変換して電源ラインPLおよび接地ラインGL間に出力する。また、昇圧コンバータ12は、双方向に電圧変換可能に構成されて、電源ラインPLおよび接地ラインGL間の直流電圧をバッテリ10の充電電圧に変換する。
【0047】
インバータ14,22は、電源ラインPLおよび接地ラインGL間の直流電圧を交流電圧に変換してそれぞれモータジェネレータMG2,MG1へ出力する。また、インバータ14,22は、モータジェネレータMG2,MG1によって発電された交流電圧を直流電圧に変換して、電源ラインPLおよび接地ラインGL間に出力する。
【0048】
(モータジェネレータの制御構成)
次に、モータジェネレータMG1,MG2の制御構成について説明する。
【0049】
図3は、モータジェネレータMG1,MG2の制御構成を示す概略ブロック図である。
図3を参照して、電力変換ユニット20は、コンデンサC1,C2と、昇圧コンバータ12と、インバータ14,22と、電流センサ24,28とを含む。
【0050】
図2に示したECU30は、モータジェネレータMG1,MG2の動作指令値であるトルク指令値Tqcom1,Tqcom2ならびに、昇圧コンバータ12の動作指令値である電圧指令値VHrefを生成するHV−ECU32と、昇圧コンバータ12の出力電圧VHが電圧指令値VHrefに追従し、かつ、モータジェネレータMG1,MG2の出力トルクがトルク指令値Tqcom1,Tqcom2に追従するように、昇圧コンバータ12およびインバータ14,22を制御するMG−ECU35とを有する。
【0051】
昇圧コンバータ12は、リアクトルL1と、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。リアクトルL1の一方端は
バッテリ10の電源ラインに接続され、他方端はIGBT素子Q1とIGBT素子Q2との中間点、すなわち、IGBT素子Q1のエミッタとIGBT素子Q2のコレクタとの間に接続される。IGBT素子Q1,Q2は、電源ラインとアースラインとの間に直列に接続される。そして、IGBT素子Q1のコレクタは電源ラインに接続され、IGBT素子Q2のエミッタはアースラインに接続される。また、各IGBT素子Q1,Q2のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD1,D2がそれぞれ接続されている。
【0052】
インバータ14は、U相上下アーム15と、V相上下アーム16と、W相上下アーム17とから成る。U相上下アーム15、V相上下アーム16、およびW相上下アーム17は、電源ラインとアースラインとの間に並列に設けられる。U相上下アーム15は、直列接続されたIGBT素子Q3,Q4から成り、V相上下アーム16は、直列接続されたIGBT素子Q5,Q6から成り、W相上下アーム17は、直列接続されたIGBT素子Q7,Q8から成る。また、各IGBT素子Q3〜Q8のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD3〜D8がそれぞれ接続されている。
【0053】
各相上下アームの中間点は、モータジェネレータMG2の各相コイルの各相端に接続されている。すなわち、U,V,W相の3つのコイルの一端が中性点に共通接続されるとともに、U相コイルの他端がIGBT素子Q3,Q4の中間点に、V相コイルの他端がIGBT素子Q5,Q6の中間点に、W相コイルの他端がIGBT素子Q7,Q8の中間点にそれぞれ接続されている。
【0054】
インバータ22は、インバータ14と同じ構成から成る。
電圧センサ11は、バッテリ10から出力される直流電圧Vbを検出し、その検出した直流電圧VbをMG−ECU35へ出力する。コンデンサC1は、バッテリ10から供給された直流電圧Vbを平滑化し、その平滑化した直流電圧Vbを昇圧コンバータ12へ供給する。
【0055】
昇圧コンバータ12は、コンデンサC1から供給された直流電圧Vbを昇圧してコンデンサC2へ供給する。より具体的には、昇圧コンバータ12は、MG−ECU35から信号PWMCを受けると、信号PWMCによってIGBT素子Q2がオンされた期間に応じて直流電圧Vbを昇圧してコンデンサC2に供給する。
【0056】
また、昇圧コンバータ12は、MG−ECU35から信号PWMCを受けると、コンデンサC2を介してインバータ14および/またはインバータ22から供給された直流電圧を降圧してバッテリ10を充電する。
【0057】
コンデンサC2は、昇圧コンバータ12からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧を、電源ラインPLおよび接地ラインGLを介してインバータ14,22へ供給する。電圧センサ13は、コンデンサC2の両端の電圧、すなわち、昇圧コンバータ12の出力電圧VH(インバータ14,22への入力電圧に相当する。以下同じ。)を検出し、その検出した出力電圧VHをMG−ECU35へ出力する。
【0058】
インバータ14は、コンデンサC2から直流電圧が供給されるとMG−ECU35からの信号PWMI2に基づいて直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータMG2を駆動する。これにより、モータジェネレータMG2は、トルク指令値Tqcom2によって指定されたトルクを発生するように駆動される。
【0059】
また、インバータ14は、ハイブリッド車両5の回生制動時、モータジェネレータMG2が発電した交流電圧をMG−ECU35からの信号PWMI2に基づいて直流電圧に変換し、その変換した直流電圧をコンデンサC2を介して昇圧コンバータ12へ供給する。なお、ここで言う回生制動とは、ハイブリッド車両を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。
【0060】
インバータ22は、コンデンサC2から直流電圧が供給されるとMG−ECU35からの信号PWMI1に基づいて直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータMG1を駆動する。これにより、モータジェネレータMG1は、トルク指令値Tqcom1によって指定されたトルクを発生するように駆動される。
【0061】
電流センサ24は、モータジェネレータMG1に流れるモータ電流MCRT1を検出し、その検出したモータ電流MCRT1をMG−ECU35へ出力する。電流センサ28は、モータジェネレータMG2に流れるモータ電流MCRT2を検出し、その検出したモータ電流MCRT2をMG−ECU35へ出力する。
【0062】
また、モータジェネレータMG1,MG2には、ロータ回転角を検出する回転角センサ25,29がさらに設けられる。回転角センサ25によって検出されたモータジェネレータMG1のロータ回転角θ(1)および回転角センサ29によって検出されたモータジェネレータMG2のロータ回転角θ(2)は、MG−ECU35およびHV−ECU32へ伝達される。
【0063】
MG−ECU35は、バッテリ10から出力された直流電圧Vbを電圧センサ11から受け、モータ電流MCRT1,MCRT2をそれぞれ電流センサ24,28から受け、昇圧コンバータ12の出力電圧VH(すなわち、インバータ14,22への入力電圧)を電圧センサ13から受け、ロータ回転角θ(1),θ(2)を回転角センサ25,29から受ける。さらに、HV−ECU32より、動作指令値である、電圧指令値VHrefおよびトルク指令値Tqcom1,Tqcom2を受ける。なお、ロータ回転角θ(1),θ(2)に基づいて、MG1回転数Nm1(rpm)およびMG2回転数Nm2(rpm)を求めることができる。
【0064】
そして、MG−ECU35は、出力電圧VH、モータ電流MCRT2およびトルク指令値Tqcom2に基づいて、後述する方法によりインバータ14がモータジェネレータMG2を駆動するときにインバータ14のIGBT素子Q3〜Q8をスイッチング制御するための信号PWMI2を生成し、その生成した信号PWMI2をインバータ14へ出力する。また、MG−ECU35は、出力電圧VH、モータ電流MCRT1およびトルク指令値Tqcom1に基づいて、後述する方法によりインバータ22がモータジェネレータMG1を駆動するときにインバータ22のIGBT素子をスイッチング制御するための信号PWMI1を生成し、その生成した信号PWMI1をインバータ22へ出力する。
【0065】
さらに、MG−ECU35は、電圧指令値VHrefと、少なくとも直流電圧Vbおよび出力電圧VHに基づいて、昇圧コンバータ12のIGBT素子Q1,Q2をスイッチング制御するための信号PWMCを生成して昇圧コンバータ12へ出力する。
【0066】
図4は、各モータジェネレータの制御モードを概略的に説明する図である。
図4に示すように、本発明の実施の形態では、モータジェネレータMG1,MG2の制御、すなわち、インバータ14,22における電力変換について、3つの制御モードを切換えて使用する。
【0067】
正弦波PWM制御は、一般的なPWM制御として用いられるものであり、各相上下アー素子のオン・オフを、正弦波状の電圧指令値と搬送波(代表的には三角波)との電圧比較に従って制御する。この結果、上アーム素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、電気角360°の期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティ比が制御される。周知のように、正弦波PWM制御モードでは、この基本波成分振幅をインバータ入力電圧の約0.61倍程度までしか高めることができない。
【0068】
一方、矩形波電圧制御では、電気角360°の期間内で、ハイレベル期間およびローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分を交流電動機印加する。これにより、変調率は0.78まで高められる。
【0069】
過変調PWM制御は、上記電圧指令値の振幅を歪ませた上で上記正弦波PWM制御と同様のPWM制御を行なうものである。この結果、基本波成分を歪ませることができ、変調率を正弦波PWM制御モードでの最高変調率(約0.61)から0.78の範囲まで高めることができる。
【0070】
モータジェネレータMG1,MG2では、回転数や出力トルクが増加すると誘起電圧が高くなるため、必要となる線間電圧(モータ必要電圧)が高くなる。昇圧コンバータ12の出力電圧VHはこのモータ必要電圧よりも高く設定する必要がある。その一方で、昇圧コンバータ12の出力電圧VHには限界値(VH最大電圧)が存在する。
【0071】
したがって、モータ必要電圧がVH最大電圧より低い領域では、正弦波PWM制御または過変調PWM制御によるPWM制御モードが適用されて、ベクトル制御に従ったモータ電流のフィードバック制御によって出力トルクがトルク指令値Tqcom1,Tqcom2に制御される。その一方で、モータ必要電圧がVH最大電圧に達すると、出力電圧VHをVH最大電圧に設定した上で矩形波電圧制御モードが適用される。矩形波電圧制御では、基本波成分の振幅が固定されるため、トルク実績値とトルク指令値との偏差に基づく、矩形波電圧パルスの位相制御によってトルク制御が実行される。
【0072】
(MG1の過回転保護および本実施の形態による電力収支制御)
上述のように構成されたハイブリッド車両では、動力分割機構PSDによる差動動作により、モータジェネレータMG1の回転数、エンジンENGの回転数および出力部材(リングギヤケース)155の回転数は、図5の共線図に示されるように、出力部材155に対するモータジェネレータMG1およびエンジンENGの回転数差が、一定比率を維持するように、それぞれの回転数が変化する。
【0073】
このため、いずれかの要素の回転数の変化が他の要素の回転数に影響を及ぼすこととなり、特に、イナーシャの大きい高出力エンジンを搭載したハイブリッド車両では、モータジェネレータMG1の高回転時に実行されるMG1過回転保護制御時に、エンジン回転数低下の影響を受けてMG1回転数が急激に低下する問題が発生する可能性がある。
【0074】
図5は、MG1過回転保護制御およびその際の問題点を説明する図である。図5(a)には上記問題点を説明するための共線図が示され、図5(b)には、上記問題点の発生時における動作波形例が示される。
【0075】
図5(a)を参照して、通常の走行時には、車速に対応して決定される出力部材155の回転数に対して、エンジン回転数が燃費の良い領域となるように、モータジェネレータMG1の回転数(以下、単にMG1回転数とも称する)が制御される。
【0076】
また、ハイブリッド車両5のパワートレインでは、モータジェネレータMG1およびMG2の各電力(消費電力を正値で示し発電電力を負値で示す)の合計電力と、各部位での損失電力と、バッテリ10の入出力電力(放電電力を正値で示し充電電力を負値で示す)との総和が0となるように電力収支となる。したがって、モータジェネレータMG1およびMG2の合計電力が所定範囲内となるように、第1および第2のモータジェネレータの動作(出力トルク等)を制限することによって、蓄電装置の過充電および過放電、ならびに、電力変換ユニット20での過電流の発生を防止するための電力収支制御が、たとえばHV−ECU32(図3)により実行される。
【0077】
ここで、共線図260のように、MG1回転数が制御上限値N1maxに近づいているケースにおいて、ブレーキペダル操作等によりハイブリッド車両5が減速されると、共線図270に示されるように、減速に伴う出力部材155の回転数低下によって、MG1回転数が制御上限値N1maxを超過して部品保護に問題を来たすような領域まで上昇する可能性がある。
【0078】
このようなMG1過回転を防止するために、モータジェネレータMG1はMG1回転数の上昇を抑制するように大きいトルクを出力し、加えて、共線図280に示されるように、燃料カット等のエンジン制御によりエンジンの出力トルクを低減して、エンジンの回転数を低下させて全体の回転数を低下させることによって、MG1回転数を低下させるMG1過回転保護制御が実行される。この状態においても、モータジェネレータMG1の発電電力が増加するので、モータジェネレータMG2での消費電力を必要に応じて増加させることにより、上記電力収支制御が行なわれる。
【0079】
しかしながら、高出力エンジン等、エンジンイナーシャが大きい場合には、共線図270から共線図280へ遷移するためのMG1過回転保護制御によって、エンジン回転数を低下させると、この減速方向のエンジンイナーシャに引っ張られて、MG1回転数が急低下するおそれがある。また、モータジェネレータMG1は、エンジンが高出力、高トルクであるほど、MG1回転数を低下させる方向に大きな出力トルクを発生しているので、上記のようなエンジン制御の影響が大きいとMG1回転数の急低下が発生し易くなる。
【0080】
この結果、モータジェネレータMG1による発電電力が急激に低下して、上記電力収支が崩れる可能性がある。さらに、MG1回転数の急低下に伴う差動動作によりMG2回転数が急上昇すると、モータジェネレータMG2の消費電力が急激に増大するので、電力収支はさらに大きく崩れる可能性がある。図5(b)には、このような状況での動作波形例が示される。
【0081】
図5(b)を参照して、MG1回転数の上昇に伴い、MG1制御モードが正弦波PWMから、過変調PWM、矩形波電圧制御へと変化する。そして、矩形波電圧制御が適用される高回転領域からMG1回転数が急減するのに応答して、上述した電力収支の崩れによりバッテリ10の入出力電流であるバッテリ電流が急増してしまうことが理解される。
【0082】
このように、本発明の実施の形態によるハイブリッド車両では、エンジンの出力トルク低下による過回転保護制御の際に、MG1回転数の急低下をトリガとして電力収支が崩れることにより、バッテリ10からの出力電流が急増して、バッテリ10の過放電あるいは電力変換ユニット20での過電流の発生を招く可能性がある。
【0083】
したがって、本発明の実施の形態によるハイブリッド車両の制御装置では、MG1過回転保護制御の際に、以下のような電力収支制御の実行により電力収支が崩れることを防止する。
【0084】
図6は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車両の制御装置によるMG1過回転保護制御時の電力収支制御構成を説明する概略ブロック図である。図6に示される各ブロックの機能は、HV−ECU32がハードウェア的あるいはソフトウェア的な処理を実行することによって実現される。
【0085】
図6を参照して、MG1回転数検出部300は、回転角センサ25によって検出されたロータ回転角θ(1)に基づき、MG1回転数Nm1(rpm)を検出する。なお、回転角センサ25については、ロータ回転角θ(1)をモータ電流、電圧等から推定することにより、省略してもよい。回転数低下検出部310は、MG1回転数検出部300によって検出されたMG1回転数Nm1および、エンジン制御信号(代表的には燃料カット制御を指示するF/C信号)に基づいて、エンジンENGの出力トルク低下に伴いMG1回転数Nm1が急低下したときに、検出フラグFLをオンする。
【0086】
検出フラグFLは、MG1回転数Nm1が、所定の単位時間内に所定値以上低下することにより、すなわち所定の減速度以上でMG1回転数が低下したことによってオンされる。なお、エンジンENGの出力トルク低下を検知する信号は、F/C信号に限定されず、エンジン制御に用いる他の制御信号等を用いることも可能である。
【0087】
電力収支制御部320は、検出フラグFLのオン時に、モータジェネレータMG1および/またはMG2のトルク指令値修正、昇圧コンバータ12の電圧指令値VHref修正、ならびに、モータジェネレータMG1の制御モード切換指示のうちの少なくとも1つを実行する。
【0088】
図7は、本実施の形態によるMG1回転数低下時の電力収支制御の第1の例を説明するフローチャートである。
【0089】
図7を参照して、HV−ECU32は、ステップS100では、回転角センサ25の出力に基づきMG1回転数Nm1を検出する。すなわち、ステップS100の動作は図6のMG1回転数検出部300の機能に相当する。
【0090】
さらに、HV−ECU32は、ステップS110により、エンジンENGの出力トルク低下に伴うMG1回転数Nm1の急低下が発生しているかどうかを判定する。すなわち、ステップS110の処理は、図6の回転数低下検出部310の機能に相当する。
【0091】
HV−ECU32は、MG1の回転数が急低下している場合(S110のYES判定時)、すなわち検出フラグFLのオン時には、ステップS120により、モータジェネレータMG1発電電力が増加する方向に、MG1のトルク指令値Tqcom1を修正する。または、HV−ECU32は、モータジェネレータMG2での消費電力が減少する方向に、トルク指令値Tqcom2を修正する。あるいは、HV−ECU32は、ステップS120では、上述したトルク指令値Tqcom1の修正および、トルク指令値Tqcom2の修正の両方を実行する。すなわち、ステップS100の動作は図6の電力収支制御部320の機能に相当する。
【0092】
これにより、モータジェネレータMG1,MG2の合計電力が急激に増加(電力消費方向へ変化)することを抑制できるので、エンジンの出力トルク低下に伴いMG2回転数が急低下した場合にも、電力収支崩れを軽減できる。この結果、バッテリ10からの出力電流が急増して、バッテリ10の過放電あるいは電力変換ユニット20での過電流が発生することを防止できる。
【0093】
図8は、本実施の形態によるMG1回転数低下時の電力収支制御の第2の例を説明するフローチャートである。
【0094】
図8を参照して、HV−ECU32は、図7と同様のステップS100およびS110を実行し、MG1の回転数が急低下している場合(S110のYES判定時)には、ステップS130により、昇圧コンバータ12の電圧指令値VHrefを現在値より低下させる。
【0095】
これにより、昇圧コンバータ12の出力電圧VH、すなわち、モータジェネレータMG1,MG2への印加電圧の振幅を低下させて、モータジェネレータMG1,MG2で取扱うエネルギを比例的に減少させることができる。この結果、バッテリ10からの出力電流Ibを速やかに減少できるので、バッテリ10の過放電あるいは電力変換ユニット20での過電流の発生を防止できる。
【0096】
さらに、HV−ECU32は、ステップS140により、ステップS130によるインバータ入力電圧VHの低下に合わせて、モータジェネレータMG2のトルク指令値Tqcom2を修正する。
【0097】
図9に示される、モータジェネレータの出力トルク制御特性を参照して、さらに説明を進める。モータジェネレータMG1は高回転であり矩形波電圧制御モードで制御されており、モータジェネレータMG1の出力トルクは、印加電圧の電圧位相および昇圧コンバータ12の出力電圧(インバータ入力電圧)VHに応じて変化する。一方、モータジェネレータMG2は低〜中回転でありPWM制御モードで運転されており、モータジェネレータMG2の出力トルクは、インバータ入力電圧VHが変化しても、HV−ECU32のトルク指令どおりに制御できる。
【0098】
インバータ入力電圧VHが低下すると、インバータ22による制御とは無関係にモータジェネレータMG1の出力トルクは低下することになる。たとえば、図9では、ステップS140での処理によってインバータ入力電圧VHするのに伴い、モータジェネレータMG1の出力トルクはΔT低下する。これに伴い、モータジェネレータMG1の発電電力は、ΔT×Nm1×(2π/60)だけ低下することになる。
【0099】
したがって、このモータジェネレータMG1の発電電力の低下量に対応させて、モータジェネレータMG2のトルク指令値Tqcom2を修正することにより、昇圧コンバータ12の出力電圧VHの低下に伴って、モータジェネレータMG2の消費電力を減少させることが可能となる。なお、トルク指令値Tqcom2の修正量については、電圧指令値VHrefの低下分と対応して算出することが可能である。たとえば、修正量ΔTq2は、下記(a)式に従って算出することができる。
【0100】
ΔTq2=[C2容量×VH×VHref変化率+ΔT×Nm1×(2π/60)]/[Nm2×(2π/60)]−Tqcom2 ・・・(a)
図10は、本実施の形態によるMG1回転数低下時の電力収支制御の第3の例を説明するフローチャートである。
【0101】
図10を参照して、HV−ECU32は、図7と同様のステップS100およびS110を実行し、MG1の回転数が急低下している場合(S110のYES判定時)には、ステップS150により、モータジェネレータMG1を制御するインバータ22の制御モードを強制的にPWM制御モードに設定する。
【0102】
図5の共線図から理解されるように、MG1過回転保護制御が実行されるケースでは、モータジェネレータMG1は高回転領域となっている。したがって、ステップS110がYES判定となるような場面では、モータジェネレータMG1の制御モードは,矩形波電圧制御モードである。
【0103】
しかしながら、矩形波電圧制御モードは、高回転領域で高出力を得るためには好都合であるものの、モータジェネレータへの印加電圧の電圧振幅については固定されており、電圧位相のみを制御可能であるので、その制御応答性は、電圧振幅および電圧位相の両方を制御可能なPWM制御モードよりは低下する。また、MG1回転数が急低下する状況であることを鑑みれば、制御モードを矩形波電圧制御モードからPWM制御モードへ直ちに変化させても悪影響を発生しない。
【0104】
したがって、HV−ECU32は、MG1回転数の急低下が検出された場合には、モータジェネレータの動作状態(代表的には、電圧・電流)のフィードバックに基づいた通常の制御モード切換判定を待つことなく、フィードフォワード的に直ちにモータジェネレータMG1の制御モードをPWM制御モードに切換える。これにより、より制御応答性の高い制御モードを速やかに適用することができる。
【0105】
この結果、制御応答遅れの影響により、MG1回転数の低下が大きくなってMG1の発電電力がさらに低下して、電力収支が大きく崩れるのを防止できる。すなわち、モータジェネレータMG1の制御遅れによって、MG1回転数の急低下をトリガとした電力収支の崩れを軽減して、バッテリ10の過放電あるいは電力変換ユニット20での過電流の発生を防止することができる。
【0106】
図11には、図10に示した第3の例による電力収支制御の効果を示す実験結果が示される。
【0107】
図11(a)に示されるように、第3の例による電力収支制御が適用されない場合には、矩形波電圧制御が適用される高回転状態から、MG1回転数が急低下してMG1制御モードがPWM制御へ変化する際に、MG1回転数の急低下をトリガとした電力収支の崩れによってバッテリ電流が急増している。一方、図11(b)には、第3の例による電力収支制御の適用時に、図11(a)の場合と同様のMG1回転数の急低下を発生させた場合の動作波形が示される。図11(b)から理解されるように、MG1回転数の急低下時に、フィードフォワード的にMG1制御モードをPWM制御モードへ切換えることによって、電力収支の崩れを抑制してバッテリ電流の急増が回避される。
【0108】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明に従う制御装置を搭載したハイブリッド車両の全体構成を示す概略ブロック図である
【図2】図1のハイブリッド車両のパワートレインの詳細を説明する模式図である。
【図3】モータジェネレータの制御構成を示す概略ブロック図である。
【図4】各モータジェネレータの制御モードを概略的に説明する図である。
【図5】ハイブリッド車両でのMG1過回転保護制御およびその際の問題点を説明する共線図および動作波形図である
【図6】本発明の実施の形態によるハイブリッド車両の制御装置によるMG1過回転保護制御時の電力収支制御構成を説明する概略ブロック図である。
【図7】本実施の形態によるMG1回転数低下時の電力収支制御の第1の例を説明するフローチャートである。
【図8】本実施の形態によるMG1回転数低下時の電力収支制御の第2の例を説明するフローチャートである。
【図9】モータジェネレータの出力トルク制御特性を示す概念図である。
【図10】本実施の形態によるMG1回転数低下時の電力収支制御の第3の例を説明するフローチャートである。
【図11】本実施の形態によるMG1回転数低下時の電力収支制御の第3の例による効果を示す実験結果の波形図である
【符号の説明】
【0110】
5 ハイブリッド車両、10 バッテリ(蓄電装置)、11,13 電圧センサ、12 昇圧コンバータ、14,22 インバータ、15,16,17 各相上下アーム、20 電力変換ユニット、24,28 電流センサ、25,29 回転角センサ、40 ハンドル、44 アクセルポジションセンサ、46 ブレーキペダルポジションセンサ、48 シフトポジションセンサ、70L,70R 前輪(駆動輪)、80L,80R 後輪、131,136 ステータ、132,137 ロータ、133,138 ステータコア、134,139 三相コイル、150 クランクシャフト、151 サンギヤ(PSD)、152 リングギヤ(PSD)、153 ピニオンギヤ(PSD)、154 プラネタリキャリヤ(PSD)、155 リングギヤケース(出力部材)、160 MG2出力軸、162 サンギヤ(RD)、164 ピニオンギヤ(RD)、166 プラネタリキャリヤ(RD)、168 リングギヤ(RD)、170 カウンタドライブギヤ、260,270,280 共線図、300 回転数検出部、310 回転数低下検出部、320 電力収支制御部、C1,C2 コンデンサ、D1〜D8 ダイオード、DEF ディファレンシャルギヤ、ENG エンジン、FL 検出フラグ、L1 リアクトル、MCRT1,MCRT2 モータ電流、MG1,MG2 モータジェネレータ、N1max 制御上限値(MG1回転数)、Nm1 MG1回転数、PSD 動力分割機構、PWMC,PWMI1,PWMI2 スイッチング制御信号、Q1〜Q8 IGBT素子、RD 減速機、RG 動力伝達減速ギヤ、Tqcom1,Tqcom2 トルク指令値、Vb 直流電圧、VH コンバータ出力電圧(インバータ入力電圧)、VHref 電圧指令値、ΔT トルク低下量、θ(1),θ(2) ロータ回転角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、前記エンジンの出力軸、第1のモータジェネレータの出力軸および出力部材とそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、かつ、前記第1のモータジェネレータによる電力および動力の入出力を伴って前記エンジンからの出力の少なくとも一部を前記出力部材へ出力する動力分割機構と、前記出力部材から駆動輪までの間で動力を加える第2のモータジェネレータと、蓄電装置ならびに前記第1および前記第2のジェネレータと接続されて双方向の電力変換を行なう電力変換ユニットとを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記第1のモータジェネレータの回転数を検知する回転数検知手段と、
前記エンジンの出力トルク低下に伴い前記第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときに、前記第1および第2のモータジェネレータの入出力電力の和が所定範囲内に制限されるように前記電力変換ユニットを制御するための電力収支制御手段とを備える、ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記電力収支制御手段は、前記第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときに、前記第1のモータジェネレータによる発電電力が増加するように、前記第1のモータジェネレータの出力トルクの絶対値を変化させる、請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記電力収支制御手段は、前記第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときに、前記第2のモータジェネレータによる消費電力が減少するように、前記第2のモータジェネレータの出力トルクの絶対値を変化させる、請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記蓄電装置は、直流電圧を入出力し、
前記電力変換ユニットは、前記蓄電装置と前記第1および第2のジェネレータとの間にそれぞれ設けられた第1および第2のインバータを含み、
前記第1および第2のインバータの各々は、対応の前記モータジェネレータに矩形波電圧を印加するようにスイッチング制御される第1の制御モードと、パルス幅変調制御に従って対応の前記モータジェネレータへの印加電圧を制御する第2の制御モードとを選択的に適用され、
前記電力収支制御手段は、前記第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときに、前記第1のモータジェネレータの制御モードを強制的に前記第2の制御モードとする、請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記蓄電装置は、直流電圧を入出力し、
前記電力変換ユニットは、
前記蓄電装置と直流電源配線との間に設けられて、前記直流電圧の出力電圧を昇圧して前記直流電源配線へ出力可能に構成されたコンバータと、
前記直流電源配線と前記第1および第2のジェネレータとの間にそれぞれ接続されて双方向の電力変換を行なう第1および第2のインバータとを含み、
前記電力収支制御手段は、前記第1のモータジェネレータの回転数が所定以上低下したときに、前記コンバータに対する前記直流電源配線への出力電圧指令値を、現在値よりも低下させる、請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記動力分割機構は、前記エンジンの出力軸が結合されたキャリアと、前記出力部材が結合されたリングギヤと、前記第1のモータジェネレータの出力軸が結合されたサンギヤとを前記複数の回転要素として有する遊星歯車機構を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−247273(P2008−247273A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93187(P2007−93187)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】