不純物活性化方法、半導体装置の製造方法
【課題】低いシート抵抗を得る不純物活性化方法、および、ソース・ドレイン拡張部を均一な深さで再現性よく形成する製造方法を提供。
【解決手段】半導体基板21において半導体基板21よりも不純物濃度が高いボロンイオン注入層43が形成されており、ボロンイオン注入層43にパルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射して、ボロンイオン注入層43を活性化させる。パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件を変更することにより、パルスレーザー光照射後のボロンイオン注入層43のシート抵抗を制御する。
【解決手段】半導体基板21において半導体基板21よりも不純物濃度が高いボロンイオン注入層43が形成されており、ボロンイオン注入層43にパルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射して、ボロンイオン注入層43を活性化させる。パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件を変更することにより、パルスレーザー光照射後のボロンイオン注入層43のシート抵抗を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリコン基板等の固体試料の表面近傍のみを改質する固体試料の表面改質方法、半導体基板において形成された不純物層を活性化させる不純物活性化方法、および、半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信技術を駆使したマルチメディア時代を迎え、情報処理量や処理速度が増大するとともに、機能が複雑化している。そのため、超大規模集積回路(ULSI)に用いられるMOSトランジスタは、微細化、高密度集積化の一途をたどっている。
【0003】
MOSトランジスタの微細化に伴って生じるショートチャンネル効果の抑制とデバイスの高速化のため、ソース・ドレイン拡張部では極めて浅い接合深さを実現することが原理的に必要不可欠となっている。例えば、デザインルール0.1ミクロン世代のデバイスでの接合深さは50nm、さらに0.05ミクロン世代での接合深さは10nm程度とすることが要求されている。
【0004】
そのため、10nm程度の極めて浅い接合深さに導入された半導体不純物層(極浅接合層)を半導体として活性化させるための技術の開発が必須となっている。また、ソース・ドレイン拡張部の接合深さが浅くなると、寄生抵抗値も上昇するため、デバイスの高速化を達成することが困難となる。すなわち、極めて浅い接合深さ且つ抵抗値の低い接合を形成するという極めて厳しい要求を実現しなくてはならない。このため、極浅接合層への高濃度ドーピング技術と共に、原子拡散を抑制した状態で低抵抗の極浅接合層として電気的に活性化させる技術の成否が、MOSテクノロジーの発展を左右するプロセス限界の一つとなっている。特に、0.1ミクロン世代以降のMOSトランジスタでは、10〜30nm領域の極浅接合層を1kΩ/□以下の低いシート抵抗(面積抵抗率)で実現することが要求されている。
【0005】
これに対して、従来の半導体不純物活性化技術として、瞬時熱アニール法(RTA)ならびにレーザー表面溶融法(ナノ秒パルス照射)が知られているが、これらは何れも熱的なアニール原理に基づく活性化技術である。
【0006】
これらの熱的な原理に基づく活性化技術では、基板深部への不必要な熱拡散が同時に生じるため、特にPMOSトランジスタ(ホウ素(B)ドーパント層を有するトランジスタ)への適用が困難であることが問題となっている。一例として、接合深さ20nmのBドーパント層を典型的な条件[1000℃、10秒]でRTA処理を施して活性化させた場合、Bは40nm程度の深さまで拡散してしまう。
【0007】
この原子拡散を抑制した状態で極浅接合層を形成するための従来技術として、超短パルスレーザー光を照射することにより半導体ドーパント層を低温活性化する技術が知られている(特許文献1参照)。この技術によれば、超短パルスレーザー照射に伴うフォノンの直接あるいは選択励起によりドーパント層を低温活性化し、極浅接合層を形成することができる。なお、フォノンに関する文献としては、非特許文献1〜3がある。
【0008】
一方、極浅接合層の形成において、上記のドーパント層自体の低温活性化技術と並行して、極浅接合層とソース・ドレイン領域を形成するプロセス技術(エレベーティッド ソース・ドレイン技術)が提案されている(特許文献2参照)。該エレベーティッド ソース・ドレイン技術は、国際ロードマップにおける特に10nm以下の深さが要求される世代での主流となることが予測されている(非特許文献4参照)。
【0009】
エレベーティッド ソース・ドレイン技術とは、反応性プラズマエッチングにより半導
体基板のゲート電極周辺に浅い窪みを形成し、この窪み内にドーパントを含むシリコン層をエピタキシャル成長させることにより、極浅の拡張部(極浅接合層)とソース・ドレイン領域を形成する。
【0010】
この製造プロセスでは、10nm程度の浅い窪みの形成において、半導体基板へのイオン注入により表面近傍の10nmオーダーの浅い領域を非晶質化し、ハロゲンガスを用いた反応性プラズマエッチングにおいて結晶相よりも非晶質相の方が選択的にエッチングされることを利用したプロセス技術が提案されている(特許文献3参照)。この技術によれば、イオン注入による非晶質化およびエッチングプロセスに次いで、シリコン層(半導体不純物を含む)を窪みにエピタキシャル成長を用いて埋めることにより、制御性よく極浅接合層を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−338894(2001年12月7日公開)
【特許文献2】特開平8−153688(1996年6月11日公開)
【特許文献3】特開2003−109969(2003年4月11日公開)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】F.Favot and A.D.Corso,“Phys.Rev.B” 60 (1999) p11427
【非特許文献2】中島真一,長谷宗明,溝口幸司,「日本物理学会誌」第53巻、第8号(1999)、pp.607-611
【非特許文献3】足立智,R.M.Koehl and K.A.Nelson、「日本物理学会誌」第54巻、第5号(1999)、pp.357-363
【非特許文献4】International technology Roadmap for Semiconductors, 2001 Edition, Front End Processes
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載したプロセス技術では、量産化に際して解決すべき問題がある。その最大の問題は、超短パルスレーザー光照射に伴う半導体表面の損傷とそれに起因する再現性である。すなわち、量産時には、チップ全体にわたって損傷の無いプロセスを再現性よく行うことが要求されるが、超短パルスレーザー光照射に伴う極めて高い電界強度のために半導体表面のアブレーションが生じやすくなる。なお、アブレーションとは、超短パルスレーザーにより物質が融点を超える温度に加熱され蒸発あるいは昇華が起こり、加熱部が除去される現象のことをいう。特に、接合深さが浅くなるにつれて、半導体表面近傍の損傷のために、極浅のドーパント層自体および電気的特性に与える影響(シート抵抗の増大)は顕著となり、均一な深さの接合を再現性よく形成できなくなっている。
【0014】
また、特許文献3に開示されたプロセス技術では、エピタキシャル成長が安定に行われるためにはシリコンの清浄表面を得る必要があるが、イオン注入により非晶質化を実現しているため、エッチング後の界面にはイオン注入により導入された元素が存在することとなる。注入イオンとして半導体基板と同一の元素を用いる場合であっても、イオン注入における深さ方向のイオン飛程には分布があることから、注入欠陥が界面に残存することが避けられない。つまり、エピタキシャル成長における格子不整合の要因となる異種原子(異種原子の注入により存在)あるいは格子欠陥(同種原子の注入により発生)が界面に残存し、エピタキシャル成長にとって好ましくない界面が形成されるという問題がある。この非晶質化された領域をエッチングして形成された凹部に半導体層を埋め込むため、ソース・ドレイン拡張部を均一な深さで、良質な半導体不純物層をエピタキシャル成長により形成することができない。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、シート抵抗が従来よりも低い不純物活性化方法、および、ソース・ドレイン拡張部を均一な深さで再現性よく形成する半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の不純物活性化方法は、上記の課題を解決するために、半導体基板において該半導体基板よりも不純物濃度が高い不純物層が形成されており、該不純物層にパルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射して、不純物層を活性化させる不純物活性化方法であって、前記パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件を変更することにより、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を制御することを特徴としている。
【0017】
上記の構成によれば、パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件を変更することにより、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を制御する。パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗は、パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件に大きく依存する。したがって、該照射条件を変更して、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を制御することにより、容易にパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を所望の値とし、シート抵抗を減少させることができるという効果を奏する。
【0018】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光のパルス幅と、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記パルス幅に対する前記シート抵抗の勾配が、所定のパルス幅閾値を境に変化し、該パルス幅閾値以下の領域における前記勾配が、パルス幅閾値以上の領域よりも大きく、前記パルス幅閾値以下のパルス幅で、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴としている。
【0019】
上記の構成によれば、パルス幅閾値以下のパルス幅で、不純物層にパルスレーザー光を照射する。そのため、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗をより一層低下させることができるという効果を奏する。
【0020】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光のレーザーフルーエンスとパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記レーザーフルーエンスに対する前記シート抵抗が極小値をとり、前記シート抵抗が略極小値をとるときのレーザーフルーエンスで、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴としている。
【0021】
上記の構成によれば、シート抵抗が略極小値をとるときのレーザーフルーエンスで、不純物層にパルスレーザー光を照射する。そのため、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗をより一層低下させることができるという効果を奏する。
【0022】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光の照射パルス数とパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記照射パルス数に対する前記シート抵抗が極小値をとり、前記シート抵抗が略極小値をとるときの照射パルス数で、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴としている。
【0023】
上記の構成によれば、シート抵抗が略極小値をとるときの照射パルス数で、不純物層にパルスレーザー光を照射する。そのため、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗をより一層低下させることができるという効果を奏する。
【0024】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光の照射の前に、前記不純物層に対して電磁波を照射することにより価電子を伝導帯に励起することを特徴としている。
【0025】
上記の構成によれば、パルスレーザー光を照射する際に、照射対象である不純物層が励起状態となっている。パルスレーザー光を照射する際の不純物層の励起状態が高いほど、パルスレーザー光による励起効果が顕著となり、パルス励起過程が非線形に増大する。したがって、レーザーフルーエンスを増大させることなく(アブレーションを促すことなく)、パルスレーザー光による表面励起を実現することができ、不純物層の活性化を行うことができるという効果を奏する。
【0026】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記電磁波が、前記半導体物質におけるバンドギャップより高いエネルギーに相当する波長を有していることを特徴としている。
【0027】
上記の構成によれば、電磁波が半導体物質に吸収されやすく、容易に不純物層を励起状態にすることができる。これにより、パルスレーザー光による励起効果を一層向上させることができるという効果を奏する。
【0028】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光の偏光が円偏光であることを特徴としている。
【0029】
レーザーフルーエンスが同じである場合、円偏光の方が直線偏光に比べて、電界強度は、(2の平方根)分の1となる。したがって、上記の構成のように、パルスレーザー光の偏光が円偏光であることにより、アブレーションが生じにくくなり、不純物層の表面における損傷を一層低減することができる。
【0030】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記不純物層が形成される際、あるいは、前記不純物層が形成される前に、該不純物層が形成される領域に半導体原子が添加または導入され、非晶質化されていることを特徴としている。
【0031】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記半導体基板がシリコンであり、前記半導体原子がシリコンまたはゲルマニウムであることを特徴としている。
【0032】
上記の構成によれば、不純物層が形成される領域において、プリ・アモルファイゼーションが行われている。これにより、パルスレーザー光照射による活性化時において、不純物イオンの増速拡散が抑制されるために、精度の高い不純物分布制御が可能となるという効果を奏する。
【0033】
また、本発明の半導体装置の製造方法は、上記の課題を解決するために、半導体基板上にゲート絶縁膜を介してゲート電極が形成され、該ゲート電極が形成されたチャンネル領域を挟むように、ソース側高濃度不純物領域およびドレイン側高濃度不純物領域が前記半導体基板に形成された半導体装置の製造方法であって、チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間において、所定の深さに不純物元素を注入して不純物層を形成する不純物層形成工程と、前記不純物層を、上記不純物活性化方法により活性化させる不純物層活性化工程とを含むことを特徴としている。
【0034】
上記の構成によれば、不純物層活性化工程において、不純物層を、上記不純物活性化方法により活性化させる。これにより、基板深部への不純物原子の拡散を抑制した状態で表面近傍の不純物層を活性化して、極浅の半導体接合層を形成することができる。それゆえ、半導体装置の性能を向上させることができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0035】
本発明の不純物活性化方法は、パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件を変更することにより、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を制御する。これにより、容易にパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を所望の値とし、シート抵抗を減少させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)〜(g)は、本発明の一参考形態に係る半導体装置の製造工程の流れを説明する断面図である。
【図2】超短パルスレーザー光を固体試料に照射するための照射装置を示す平面図である。
【図3】超短パルスレーザー光が照射されたシリコン単結晶基板の断面写真である。
【図4】超短パルスレーザー光が照射されたシリコン単結晶基板のTEMによる断面写真である。
【図5】シリコン単結晶基板におけるアブレーション率と、超短パルスレーザー光のレーザーフルーエンスとの関係を示すグラフである。
【図6】(a),(b)は、ゲルマニウムが表面に注入されたシリコン単結晶基板における、超短パルスレーザー光の照射前後のTEMによる断面写真である。
【図7】不純物層のシート抵抗を測定するための検査用素子(TEG)の構造を示す断面図である。
【図8】上記TEGのシート抵抗と、超短パルスレーザー光のパルス幅との関係を示すグラフである。
【図9】上記TEGのシート抵抗と、超短パルスレーザー光の規格化レーザーフルーエンスとの関係を示すグラフである。
【図10】上記TEGのシート抵抗と、超短パルスレーザー光のレーザーパルス照射回数との関係を示すグラフである。
【図11】反射型ポンプ−プローブ法を用いて固体試料の表面付近における誘電率の時間分解測定を行う測定装置の平面図である。
【図12】反射型ポンププローブ法による反射率の時間分解測定結果を示すグラフである。
【図13】2個のポンプ光を用いたときの反射率の時間分解測定結果を示すグラフであり、(a)は、該2個のポンプ光を個別に用いて測定したものであり、(b)〜(d)は、該2個のポンプ光の時間差をそれぞれ0フェムト秒、100フェムト秒、170フェムト秒としたときのものである。
【図14】(a)〜(f)は、本発明の他の実施形態に係る半導体装置の製造工程の流れを説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔参考形態1〕
本発明の一参考形態について図2ないし図6に基づいて説明すると以下の通りである。
【0038】
図2は、本参考形態における超短パルスレーザーの照射装置1の平面図である。図2に示されるように、照射装置1は、レーザー発生源2と、偏光器3と、照射光学器4と、チャンバー5とを含んでいる。
【0039】
レーザー発生源2は、パルス幅が10〜1000フェムト秒(周波数帯域幅が1〜100THz)の超短パルスレーザー光を出力するものであり、例えば、チタンサファイアレーザー装置が用いられる。レーザー発生源2は、出力するレーザー光のパルス幅、レーザーフルーエンス、パルス照射回数、レーザー波長を制御することができる。なお、レーザーフルーエンスとは、放射エネルギー密度である。なお、レーザーフルーエンスの制御は、レーザー発生源2から出力されるレーザー光の出力エネルギー値とレーザー光のスポット径とにより行われる。
【0040】
偏光器3は、レーザー発生源2から出力されたレーザー光を偏光するためのものであり、偏光子等から構成される。偏光器3により、レーザー光は、直線偏光、円偏光、または楕円偏光に偏光される。
【0041】
照射光学器4は、偏光器3から出力されたレーザー光を、チャンバー5内の固体試料7に均一に照射させる所定の光学部品で構成される。照射光学器4は、偏光器3を透過したレーザー光を適当な照射コヒーレント電磁波に変換して、固体試料7に照射する。
【0042】
チャンバー5は、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン)雰囲気、還元性雰囲気(例えば、水素)もしくは、1×10−6Torr(1Torr=133.322Pa)以下の真空度に保つ空間である。チャンバー5は、その内部に試料台6を備えている。この試料台6の上に置かれた固体試料7に対して、照射均一器4により均一化されたレーザー光が照射される。
【0043】
<参考例1−1>
上記超短パルスレーザー光の照射装置1を用いて、固体試料の表面近傍を改質した一例を示す。本参考例1では、レーザー発生源2として、チタンサファイアレーザー装置を使用した。照射するレーザー光は、波長800nm、パルス幅100フェムト秒、レーザーフルーエンス250mJ/cm2、ショット数10パルス、パルス繰り返し周波数1kHzとした。また、固体試料7として、シリコン単結晶基板を用いた。
【0044】
図3および図4は、上記条件で超短パルスレーザー光を照射した後のシリコン単結晶基板の表面付近における高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)による格子観察像である。なお、図4は、図3の拡大写真である。
【0045】
図3および図4に示されるように、シリコン単結晶基板の最表面のナノ領域(本参考例では、厚さ24nm程度)において、格子が無秩序化していることが確認でき、結晶相から非晶質相(アモルファス)に変化していることがわかる。また、結晶相と非晶質相との界面がほぼ平らであり、均一化されていることがわかる。
【0046】
このように、シリコン単結晶基板に超短パルスレーザー光を照射することで、表面近傍のナノ領域において、結晶相から非晶質相に改質させることが確認できた。これによると、従来のイオン注入による非晶質化と異なり、他元素が残存することがない。また、イオン注入と比較して、異種原子や注入欠陥のない均一な界面となる。この結果、非晶質相に改質させた領域を反応性プラズマエッチングによりエッチングし、シリコン層(半導体不純物を含む)をその窪みにエピタキシャル成長を用いて埋めることにより、制御性よく極浅接合層を形成することができる。
【0047】
次に、レーザーフルーエンスを変化させたときの1パルス照射当りのアブレーション率を測定した。1パルス照射当りのアブレーション率とは、1パルスの照射(ショット)においてアブレーションにより消失した固体試料7の厚みである。図5は、波長800nm、パルス幅100フェムト秒における測定結果を示すグラフである。図5に示されるように、レーザーフルーエンスが約0.4J/cm2において、レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配が最大となり、このレーザーフルーエンスを閾値として、アブレーション率が急激(急速かつ明瞭)に変化する。すなわち、レーザーフルーエンスが該閾値(ここでは、0.4J/cm2)以下では、アブレーション率が0に近くなり、アブレーションを抑えるとともに、シリコン単結晶基板の表面を結晶相から非晶質相に改質することができる。これにより、非晶質相の厚みをより一層均一化することができる。なお、図3および図4に示した非晶質化は、レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配が最大を示す閾値よりも低い照射条件(レーザーフルーエンス:0.25J/cm2)でレーザー照射を行っている。
【0048】
<参考例1−2>
本参考例は、上記参考例1とは逆に、非晶質相を結晶質に改質させた例である。上記参考例と同様に、レーザー発生源2として、チタンサファイアレーザー装置を使用した。また、固体試料7として、5keVでGeイオンを注入し、厚み約10nmの非晶質層を表面に形成したシリコン単結晶基板を用いた。
【0049】
図6は、超短パルスレーザー光の照射前後における、上記非晶質層が形成されたシリコン単結晶基板の表面付近における高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)による格子観察像である。なお、図6(b)は、図6(a)の拡大写真である。
【0050】
図6に示されるように、超短パルスレーザー光を照射することにより、表面深さ10nmに形成されていた非晶質層が結晶化していることが確認できた。すなわち、非晶質相に超短パルスレーザー光を照射することで、結晶化できることが確認できた。
【0051】
<参考例1−3>
本参考例は、超短パルスレーザー光の照射によるシリコン基板に形成された不純物層の活性化に関するものである。上述したように、活性化された不純物層におけるシート抵抗の低抵抗化が課題となっている。そこで、超短パルスレーザー光の照射によって活性化された不純物層のシート抵抗測定のため、本参考例では、図7に示すような構造を有する検査用素子(Test Element Group:以下、TEGと称する)71を作成した。
【0052】
ここで、TEGの作成方法について説明する。
まず、N型のシリコン単結晶基板11の表面に幅164μm、間隔200μmの2本の電極領域を除く領域にレジストを形成する。そして、該レジストをマスクにして、イオン注入法により、ボロン不純物を15〜100keVの注入エネルギーで、3〜4×1015イオン/cm2注入する。その後、アニール熱処理を行い、電極領域にP+領域13を形成する。
【0053】
次に、レジストでマスクした状態のまま、基板上面にコバルト(Co)薄膜を付着させ、シリコン単結晶基板を加熱する。これにより、コバルトがシリコンと反応してコバルトシリサイド(CoSi2)層14が形成される。
【0054】
その後、レジストを除去したのち、コバルトシリサイド層14が形成された2本の電極領域を除く領域を別のレジストで保護する。そして、該レジストをマスクとして、2本の電極領域間に、ボロン不純物を0.5keVの注入エネルギーで、1×1015イオン/cm2注入し、不純物層16を形成する。
【0055】
そして、レジストを除去することにより、図7に示されるような、P+層13の表面にコバルトシリサイド層14を持つ2つの電極領域と、該2つの電極領域に挟まれた不純物層16とを有するTEG71が形成される。このとき、2つの電極領域間のシート抵抗値は、40kΩ/□と高抵抗を示した。これは、2つの電極領域に挟まれた不純物層16が活性化されていない点、および、2つの電極領域とシリコン単結晶基板11との間がPNPの逆バイアス構造である点による。
【0056】
このようにして形成されたTEG71を固体試料7として、上記照射装置1により、超短パルスレーザー光を所定条件で照射し、不純物層16を活性化させ、2つの電極領域間のシート抵抗を測定した。なお、不純物層16が活性化されると、該不純物層16とP+層13とがオーミックコンタクトすることにより、シート抵抗が低くなる。したがって、2つの電極領域間のシート抵抗を測定することにより、レーザー照射による電気的活性化の効果を評価することができる。
【0057】
図8は、レーザー発生源2としてチタンサファイアレーザー装置を用いて、波長800nm、パルス繰り返し周波数1kHzのレーザー光を照射したときの電極領域間のシート抵抗とパルス幅との関係を示す実験結果である。
【0058】
図8に示されるように、照射するレーザー光のパルス幅を短くするにつれてシート抵抗が低下する。パルス幅が300フェムト秒以下においてシート抵抗は2kΩ/□以下となる。また、パルス幅に対するシート抵抗の勾配は、パルス幅における所定の閾値(図8では、約150フェムト秒)を境に変化する。すなわち、該閾値より短いパルス幅の領域では、閾値よりも長いパルス幅の領域と比較して、パルス幅に対するシート抵抗の勾配が大きくなる。よって、パルス幅を該閾値以下の領域に設定することで、シート抵抗を一層低くすることができる。また、パルス幅を50フェムト秒未満にする場合、該レーザー光の発生に要するコストが高くなるという問題が生じる。
【0059】
以上から、シート抵抗を初期の40kΩ/□から1桁以上低下させるためには、パルス幅を50〜300フェムト秒に設定することが好ましい。さらに、パルス幅に対するシート抵抗の勾配がパルス幅の増大に応じて低くなるときのパルス幅閾値以下にパルス幅を設定することが好ましい。これにより、シート抵抗を低下させることができる。
【0060】
図9は、レーザー発生源としてチタンサファイアレーザー装置を用いて、波長800nm、パルス幅100フェムト秒、パルス繰り返し周波数1kHzのレーザー光を照射したときの不純物層の抵抗値とレーザーフルーエンスとの関係を示す実験結果である。なお、横軸は、使用したチタンサファイアレーザー装置の最大出力エネルギー値におけるレーザーフルーエンス値を1として規格した規格化レーザーフルーエンスである。
【0061】
図9に示されるように、規格化レーザーフルーエンスに対するシート抵抗は、ある値(図9では、規格化レーザーフルーエンス:約0.61)において極小を示すことが確認できた。この現象は、次のような原因によるものである。すなわち、レーザーフルーエンスが極めて小さい領域では、不純物層16の活性化させるのに十分ではないため、シート抵抗は、Bイオン注入時と同程度である。そして、レーザーフルーエンスを大きくしていくと、不純物層16の活性化が起こり、シート抵抗は急激に減少する。さらに、レーザーフルーエンスを大きくすると、デバイスの損傷(非晶質化やアブレーション)が生じるため、シート抵抗は増大する。
【0062】
このように、レーザーフルーエンスに対するシート抵抗は極小値を持つことがわかった。これにより、不純物層16の抵抗値を低抵抗化するためには、該極小値を持つときのレーザーフルーエンスにより、レーザー光照射することが好ましい。
【0063】
図10は、レーザー発生源としてチタンサファイアレーザー装置を用いて、波長800nm、パルス幅100フェムト秒、パルス繰り返し周波数1kHzの超短パルスレーザー光を照射したときのシート抵抗とパルス照射回数との関係を示す実験結果である。なお、該測定は、偏光器3における偏光が直線偏光である場合と、円偏光である場合との2種について行った。
【0064】
図10に示されるように、何れの偏光においても、パルス照射回数に対するシート抵抗値は、極小を示すことがわかった。極小を示すときの照射回数以下の領域では、パルス照射回数が増大するにつれてシート抵抗値が低下する。これは、Bイオン不純物の活性化が進行するためである。一方、極小を示すときの照射回数を越えた領域において、パルス照射回数が増大するにつれてシート抵抗が上昇する。これは、アブレーションが生じるために、不純物が表面近傍から失われるためである。
【0065】
このように、パルス照射回数に対するシート抵抗は極小値を持つことがわかった。これにより、シート抵抗を低抵抗化するためには、該極小値を持つときのパルス照射回数で超短パルスレーザー光照射することが好ましい。
【0066】
また、図10に示されるように、直線偏光と円偏光とを比較すると、円偏光を用いた場合の方が、シート抵抗がより低くなることがわかった。これは、レーザーフルーエンスが同一である場合、円偏光の電界強度は、直線偏光に比べて、(2の平方根)分の1となり、アブレーションが生じにくくなるからである。これにより、照射する超短パルスレーザー光は円偏光であることが好ましい。
【0067】
このように、本参考形態にいれば、イオン注入による異種原子や格子欠陥の残存がなく、界面が均一である固体試料の表面改質方法を提供することができる。
【0068】
そして、本参考形態の表面改質方法は、固体試料に対して、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射し、前記固体試料の表面層のみを、結晶相から非晶質相に、あるいは、非晶質相から結晶相に改質させることを特徴としている。
【0069】
固体試料中において存在する原子間には原子間力が働いている。この原子間力は微小変位に対してフックの法則に従う復元力(バネ力)として働くので、熱運動あるいは外部からの強制振動によって生じる原子の振動は隣の原子へと伝わり連成振動を生じる。これを格子振動といい、固体試料中では量子化されているためフォノンと呼ばれる。さらに、原子の質量、原子間距離ならびに復元力のバネ定数に相当する原子間力は、個々の物質で固有の値を持つため、フォノンの振動数と波数は互いに依存関係にあり、これを分散関係という。
【0070】
固体試料に光を照射した場合、局所的な温度上昇(熱的結合)あるいは誘電分極の擾乱(光弾性結合)により、光と結合した弾性歪みが生じる。この弾性歪みを外力として、フォノン振動数の領域にある光(電磁波)を固体試料に照射すると、誘導ラマン散乱により位相のそろったコヒーレントフォノンを励起することが可能である。例えば、シリコン単結晶において知られているフォノンの分散関係(非特許文献1参照)によると、フォノンの振動数は10GHz〜10THzの間に存在するが、その周波数帯域内におけるコヒーレント電磁波として、10GHz〜100GHzの周波数帯域(ミリ波領域)ではジャイロトロン等のミリ波発振管を用いることが可能であるのに対し、100GHz〜10THzの周波数帯はテラヘルツ輻射と呼ばれる未開拓の電磁波領域で、単一の発振源では実現されていない。
【0071】
そこで、10GHz〜100GHzの周波数帯域ではジャイロトロン等により得られるミリ波領域のコヒーレント電磁波を固体試料に照射し、コヒーレント電磁波による交番電界により固体試料表面の誘電分極をコヒーレントに振動させることによって、フォノンの励起が可能である。
【0072】
さらに、100GHz〜10THzのテラヘルツ輻射と呼ばれる電磁波領域では、周波数がω1およびω2(ω1>ω2)で波長がわずかに異なる2つのコヒーレント電磁波を結晶に入射させ、ω0をフォノンの振動周波数として、その周波数差ω1−ω2が
ω1−ω2=ω0 (1)
を満たすようにすると、誘導散乱が生じてコヒーレントフォノンが発生する。このため、ω0よりも広いスペクトル幅(周波数帯域幅)をもつコヒーレント電磁波源を用いると、
スペクトル内の異なる周波数成分どうしが、式(1)を満たすω1とω2の役割を果たすため、単一のコヒーレント電磁波源でこの条件が満足される。この原理に基づくコヒーレントフォノン励起に関する研究は、励起されたフォノンのイメージングをはじめとする物性研究でも用いられている(非特許文献2,3参照)。
【0073】
また、コヒーレント電磁波ビームにおけるパルス幅(Δt)と周波数帯域幅(Δω)は、Δt・Δω < 2ln2 / π (2)
を満たすため、例えばチタンサファイアレーザー装置等を用いて発生させることが可能な、パルス幅が10〜1000フェムト秒のコヒーレント電磁波は、周波数帯域幅が1〜100THzとなり、周波数領域で差周波を用いることにより式(1)を満足することが可能である。
【0074】
このため、本参考形態では、上記の構成のように、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射することで、固体試料の表面層のみを原子再配列を選択に行い、結晶相から非晶質相、あるいは、非晶質相から結晶相に改質させる。それゆえ、イオン注入することなく固体試料の表面を改質することができる。それゆえ、他イオンの残存がなく、界面が均一な改質層を形成することができるという効果を奏する。
【0075】
さらに、本参考形態の固体試料の表面改質方法は、上記の構成に加えて、パルスレーザー光の照射による前記固体試料のアブレーション率と、前記パルスレーザー光のレーザーフルーエンスとの関係において、レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配が最大値を示すときのレーザーフルーエンスをレーザーフルーエンス閾値とし、前記レーザーフルーエンス閾値以下のレーザーフルーエンスで、固体試料にパルスレーザー光を照射することを特徴としている。
【0076】
上記の構成によれば、レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配が最大値を示すときのレーザーフルーエンスをレーザーフルーエンス閾値とし、前記レーザーフルーエンス閾値以下のレーザーフルーエンスで、固体試料にパルスレーザー光を照射する。レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配は、所定のレーザーフルーエンス閾値で急速かつ明瞭に変化し、最大値をもつ。したがって、レーザーフルーエンス閾値以下のレーザーフルーエンスで、固体試料にパルスレーザー光を照射することにより、アブレーション率を低くすることができる。これにより、改質した層における損傷を一層低減することができるという効果を奏する。
【0077】
さらに、本参考形態の固体試料の表面改質方法は、上記の構成に加えて、前記固体試料が半導体物質であり、前記パルスレーザー光の照射の前に、前記半導体物質に電磁波を照射することにより価電子を伝導帯に励起することを特徴としている。
【0078】
上記の構成によれば、固体試料が半導体物質であり、パルスレーザー光の照射の前に、半導体物質において、価電子が伝導帯に励起される。そのため、パルスレーザー光を照射する際に、照射対象である半導体物質は、励起状態となっている。パルスレーザー光を照射する際の半導体物質の励起状態が高いほど、パルスレーザー光による励起効果が顕著となり、パルス励起過程が非線形に増大する。したがって、レーザーフルーエンスを増大させることなく(アブレーションを促すことなく)、パルスレーザー光による表面励起を実現することができ、半導体物質の表面を結晶質から非晶質、あるいは、非晶質から結晶質に改質させることができるという効果を奏する。
【0079】
さらに、本参考形態の固体試料の表面改質方法は、上記の構成に加えて、前記電磁波が、前記半導体物質におけるバンドギャップより高いエネルギーに相当する波長を有していることを特徴としている。
【0080】
上記の構成によれば、電磁波が半導体物質に吸収されやすく、容易に半導体物質を励起状態にすることができる。これにより、パルスレーザー光による励起効果を一層向上させることができるという効果を奏する。
【0081】
さらに、本参考形態の固体試料の表面改質方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光の偏光が円偏光であることを特徴としている。
【0082】
レーザーフルーエンスが同じである場合、円偏光の方が直線偏光に比べて、電界強度は、(2の平方根)分の1となる。したがって、上記の構成のように、パルスレーザー光の偏光が円偏光であることにより、アブレーションが一層生じにくくなるという効果を奏する。
【0083】
以上のように、本参考形態の固体試料の表面改質方法は、固体試料に対して、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射し、前記固体試料の表面層のみを、結晶質から非晶質に、あるいは、非晶質から結晶質に改質させるため、イオン注入による異種原子や格子欠陥の残存がなく、界面が均一である改質層を固体試料の表面に形成することができるという効果を奏する。
【0084】
このように、本参考形態の固体試料の表面改質方法によれば、他イオンの残存がなく、界面が均一な改質層を形成することができる。よって、例えば、半導体装置のように極浅接合層を形成する際の非晶質層の形成に適用することができる。
【0085】
〔実施形態1〕
上記参考形態では、固体試料7に対して、超短パルスレーザー光を照射し、固体試料7の表面を励起状態にして、改質(結晶相から非晶質相への改質など)および不純物層16の活性化を行った。一般に、表面を励起状態とするには、レーザーフルーエンスを増大すればよいが、上述したように、アブレーションが生じて好ましくない。本実施形態は、アブレーションを抑制した上で、さらに、固体試料7の表面の励起をより一層促進する形態である。
【0086】
すなわち、本実施形態では、超短パルスレーザー光の照射に先立って、半導体物質である固体試料7において、電磁波を照射することにより、価電子を伝導帯に励起させる。励起させる方法としては、マルチフォトン(多光子)過程などがあり、好ましくは固体試料7に吸収されやすい波長(つまり、固体試料7が有するバンドギャップより高い光子エネルギーに相当する波長)の光を照射させる方法がある。このように、予め価電子帯から伝導帯(導電帯)への励起を行うことにより、超短パルスレーザー光を照射する際の表面の励起状態が高い状態となり、超短パルスレーザー光による励起効果が一層顕著となる。
【0087】
超短パルスレーザー光の照射に先立って、予め固体試料7にバンドギャップ以上の光子エネルギーを有する波長の光を照射させる上記励起効果の根拠となる実施例について説明する。
【0088】
<実施例1−1>
超短パルスレーザー光照射により励起された最表面の電子状態あるいはフォノンの振動励起状態の緩和過程を調べるため、反射型ポンプ−プローブ法を用いて固体試料の表面付近における誘電率の時間分解測定を行った。これは、誘電率変化の情報をプローブ信号に含まれる反射率の変化として検知する時間分解測定法であり、固体試料にポンプ光による擾乱を与え、ポンプ光に対して時間差を持つプローブ光(ポンプ光よりも十分弱い強度で照射)の反射率の変化を測定する。
【0089】
図11は、反射型ポンプ−プローブ法を用いて固体試料の表面付近における誘電率の時間分解測定を行う測定装置の平面図である。図11に示されるように、チタンサファイアレーザー装置により構成される超短パルスレーザー装置52からの超短パルスレーザー光を、ハーフミラー56a・56b・56cにより分岐して2つのポンプ光と1つのプローブ光に分ける。そして、コーナーキューブ55a・55b・55cを装着したステージをステッピングモータ(図示しない)で駆動することにより光路差を調整する。そして、ポンプ光とプローブ光とは、レンズ54により集光され、固体試料7に照射する。ここで、ポンプ光とプローブ光の時間差をスキャンして、プローブ光の微分反射率の時間変化を測定した。さらに、拡大光学系(図示しない)とCCDカメラ51で試料表面の観察を行い、超短パルスレーザー光の照射前後で該照射に伴うアブレーション等の変化が生じていないことを確かめた。なお、He−Neレーザー装置53は、上記の表面観察における照明と光学系のアライメント用に設置されているものである。
【0090】
なお、固体試料7として、N型のシリコン(100)単結晶基板を用いた。また、超短パルスレーザー装置52から照射されるレーザー光を、波長800nm、パルス幅100フェムト秒、パルス繰り返し周波数1kHzとした。
【0091】
図12は、反射型ポンププローブ法による反射率の時間分解測定結果を示すグラフである。なお、図12は、励起用のポンプ光として1個のパルスのみを用いているときのグラフである。ポンプ光が照射された時刻から最初に立ち上がる信号(図中、時間0.5ピコ秒におけるピークにあたる)は、照射パルスと同程度の幅を有している。その後、約0.5ピコ秒で立ち上がりピーク(図中、時間1.0ピコ秒付近のピークにあたる)を迎える成分は、2ピコ秒以上の長い時定数(1/e:eは自然対数の底)で減衰している。この2ピコ秒以上の長い時定数で減衰する成分は、導電帯へ光励起されたキャリアによる電子−正孔プラズマの生成と、バンド端等への緩和に伴う電気感受率あるいは誘電率の時間変化を示している。
【0092】
図13は、励起用のポンプ光の数を増やして2個のパルス(ポンプ光A、ポンプ光B)を用いた際の反射率の時間変化を示すグラフである。
【0093】
図13(a)は、ポンプ光Aとポンプ光Bとの各々のポンプ光を、個別に用いて測定した反射率の時間変化である。ここでは、2つのポンプ光による複合励起過程の効果を調べるため、ポンプAとポンプBとの時間差を0フェムト秒、100フェムト秒、170フェムト秒とし、反射率の時間変化を測定し、測定結果をそれぞれ図13(b)〜(d)に示す。
【0094】
図13(b)〜(d)に示されるように、いずれの時間差においても、図13(a)に示す波形の単純な足し合わせよりも、高い波高値を示している。すなわち、ポンプ光が照射される際の表面の励起状態が高いほど、励起効果が顕著となり、超短パルスレーザー励起過程が非線形に増大することを示している。
【0095】
以上の測定結果から、超短パルスレーザー光の照射に先だって、電磁波(光)を照射することにより、マルチフォトン(多光子)過程、あるいは、バンドギャップ以上の光子エネルギーを有する電磁波(光)の吸収過程(直接吸収ないし間接吸収)を介して、価電子が伝導帯に励起される。その結果、表面の励起状態が向上し、超短パルスレーザー光の照射に伴う励起効果が顕著となり、アブレーションを抑制した状態で、超短パルスレーザー照射による表面の励起をより一層向上させることができる。
【0096】
〔参考形態2〕
次に、上記参考形態1において説明した結晶相を非晶質化する参考例を利用して、pチャネル型MOSFETを製造する製造方法について説明する。なお、本参考形態は、nチャンネル型MOSFETの製造方法にも適用することができる。
【0097】
図1は、本参考形態におけるpチャネル型MOSFETの製造方法を示す半導体基板の断面図である。
【0098】
図1(a)に示すように、半導体基板(例えば、シリコン)21において、素子分離絶縁層22を形成した後、ゲート絶縁膜に使用する絶縁層(例えば、高誘電率酸化膜:Y2O3, La2O3, ZrO2, HfO2など)、ゲート電極材料層(例えば、不純物を含む多結晶質シリコンや多結晶質SiGe、あるいは金属材料Pt、Ir、Ni、Coや導電性窒化物TaN、WNなど)及び電極保護層(例えば、ポリシリコン、Al等の金属で、反応性エッチングに適し、かつ超短パルスレーザー光に対して吸収の大きい材料)を形成する。その後、フォトリソグラフィーによるレジストのパターニングと反応性イオンエッチングを行うことにより、半導体基板21上にゲート絶縁膜23、ゲート電極24、電極保護膜25を形成する。なお、半導体基板21において、ゲート電極24およびゲート絶縁膜23が形成されている領域がチャンネル領域となる。
【0099】
次に、図1(b)に示すように、半導体基板21を上記照射装置1のチャンバー5内の試料台6に設置し、超短パルスレーザー光を半導体基板21の表面に照射する。例えば、チタンサファイアレーザー光(波長800nm、パルス幅100フェムト秒)を半導体基板21の表面に照射する。このとき、図5に示したように、レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配が最大値を示す閾値以下(本参考形態では、400mJ/cm2以下)のレーザーフルーエンスでレーザー光を半導体基板21の表面に照射することで、半導体基板21の表面におけるアブレーションを抑制することができる。
【0100】
これにより、例えば図3および図4に示すように、半導体基板の表面領域のみが非晶質化され、図1(b)に示すように、半導体基板21と電極保護膜25との表面は、それぞれ非晶質化層26a・26bとなる。
【0101】
続いて、ハロゲン系の反応性プラズマを用いたエッチングプロセスを半導体基板21に対して施すことにより、上記で形成された非晶質層26a・26bを選択的にエッチングして除去する。その結果、図1(c)に示すように、該半導体基板21の表面には凹部27が形成される。なお、該凹部27の深さは、図1(b)において照射する超短パルスレーザー光のレーザーフルーエンスを変化させることで、数nmから30nm程度まで調整することができる。
【0102】
次いで、半導体基板21をCVD装置に搬送し、表面に形成されている自然酸化膜を除去する。その直後に、半導体不純物(本参考形態では、p型であるのでボロン)を含有する半導体層を、上記のエッチングで非晶質層26aが除去された凹部27に埋込み、図1(d)に示すように、半導体埋込層28を形成する。この行程により、ゲート絶縁膜23付近に深さが数nmから30nm程度のS/D拡張部(ソース・ドレイン拡張部)が形成される。
【0103】
次に、半導体基板21全体にゲート電極24の上面程度まで、絶縁膜を形成した後、Chemical-Mechanical Polishing (以下、CMPと記す)を用いて、ゲート電極の高さで平坦化する。その結果、電極保護膜25が除去される。続いて、反応性イオンエッチングによりエッチングすることにより、図1(e)に示すように、ゲート電極24の側壁部にサイドウォール29が形成される。このサイドウォール29は、この後にDeep拡散層を形成する際のイオン注入時において、S/D拡張部を保護するマスクとなる。
【0104】
次に、フォトレジストによりマスクを行い、図1(f)に示すように、該pチャンネル型S/D領域を形成する箇所のみに、B(ボロン)イオンを注入する。注入条件は、例えば、加速エネルギーが5keVのボロンイオンを、1平方cm当たりのドーズ量にして5×1015イオンである。ボロンイオンを注入後、赤外線ランプあるいはフラッシュランプを用いた急速加熱・急速降温プロセスによりアニール処理を施すことにより、図1(f)に示すように、pチャンネル型S/D領域の主要部であるDeep拡散層30が形成される。また、同時に、サイドウォール29によりマスクされていた半導体埋込層28の一部は、極浅接合層であるS/D拡張部31となる。
【0105】
最後に、高融点金属(例えば、Co,Niなど)膜形成と熱プロセスにより、Deep拡散層30の表面に、シリサイド層32を形成し、低抵抗のオーミックコンタクト電極を形成する。その後、サイドウォールならびに素子分離絶縁膜上に存在する未反応の高融点金属を、薬液処理を用いたサリサイドプロセスにより除去することにより、図1(g)に示すように、数nm〜30nm程度の浅いS/D拡張部31を有するpチャンネル型MOSFETが形成される。
【0106】
なお、上記の製造方法では、半導体基板21の非晶質化に超短パルスレーザー照射を用いるプロセスを、凹部27および半導体埋込層28の形成に適用した。形成された半導体埋込層28は、最終的に、その一部がS/D拡張部31として残る。しかしながら、レジスト等のマスクを用いて、半導体基板21に超短パルスレーザーを照射し、S/D拡張部について浅い凹部を、Deep拡散層について深い凹部を形成し、該凹部に半導体埋込層を形成してもよい。この場合、深い凹部に形成された半導体埋込層をそのままDeep拡散層として使用できる。この場合、図1(f)で示したイオン注入処理を行う必要がなくなる。
【0107】
また、ゲート電極24をポリシリコンで形成している場合、ゲート電極24上にもシリサイド層を形成してもよい。
【0108】
以上のように、本参考形態による半導体装置の製造方法は、半導体基板21上にゲート絶縁膜23を介してゲート電極24が形成され、該ゲート電極24が形成されたチャンネル領域を挟むように、ソース側高濃度不純物領域およびドレイン側高濃度不純物領域となるDeep拡散層30が半導体基板21に形成された半導体装置の製造方法であって、チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間に、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射し、非晶質層26aを形成する非晶質層形成工程と、前記半導体基板に対して前記非晶質層を選択的にエッチングして凹部28を形成する凹部形成工程と、前記凹部28に半導体基板よりも不純物濃度が高い半導体層28を埋め込み、ソース・ドレイン拡張部31を形成するソース・ドレイン拡張部形成工程とを含む。
【0109】
本参考形態による製造方法により形成されるMOSFETでは、従来技術のように半導体基板表面の非晶質化にGeイオン注入を用いていないため、非晶質層の選択的エッチング後の表面にイオン注入による第二元素が存在することがない。また、注入イオンを半導体基板と同一の元素を用いる場合であっても、従来技術ではイオン注入における深さ方向のイオン飛程には分布があることから注入欠陥が界面に残存するという問題があった。しかしながら、本参考形態によれば、図3および図4に示したように、非晶質相の深さは均一であり、埋込行程でのエピタキシャル成長に適した界面を形成することが可能である。さらに、S/D拡張部31の低抵抗化においても有利となる。
【0110】
このように、本参考形態の半導体装置の製造方法は、半導体基板上にゲート絶縁膜を介してゲート電極が形成され、該ゲート電極が形成されたチャンネル領域を挟むように、ソース側高濃度不純物領域およびドレイン側高濃度不純物領域が前記半導体基板に形成された半導体装置の製造方法であって、チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間に、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射し、非晶質層を形成する非晶質層形成工程と、前記半導体基板に対して前記非晶質層を選択的にエッチングして凹部を形成する凹部形成工程と、前記凹部に半導体基板よりも不純物濃度が高い半導体層を埋め込み、ソース・ドレイン拡張部を形成するソース・ドレイン拡張部形成工程とを含むことを特徴としている。
【0111】
上記の構成によれば、非晶質層形成工程において、チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間に、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射し、非晶質層を形成する。これにより、イオン注入を行うことなく、半導体基板の表面に非晶質層を形成することができる。そのため、凹部形成工程において形成される凹部にイオンが残存することがない。また、イオン注入の場合、注入欠陥が界面に残存することがあるが、パルスレーザー光を照射する場合、均一にレーザー光を照射することができるため、界面が均一となる。よって、ソース・ドレイン拡張部形成工程により形成されるソース・ドレイン拡張部は、エピタキシャル成長において格子不整合の原因となる異種原子あるいは格子欠陥が界面に残存することなく、良質な半導体不純物層をエピタキシャル成長により形成するのに適した界面を形成することができる。これにより、半導体装置の性能を向上させることができるという効果を奏する。
【0112】
〔実施形態2〕
次に、上記参考形態1の参考例3において説明した超短パルスレーザー光の照射による不純物層の活性化を利用して、pチャネル型MOSFETを製造する製造方法について説明する。なお、本実施形態は、nチャンネル型MOSFETの製造方法にも適用することができる。
【0113】
図14は、本実施形態におけるpチャネル型MOSFETの製造方法を示す半導体基板の断面図である。
【0114】
まず、上記参考形態2と同様に、素子分離絶縁層22を形成した半導体基板21上にゲート絶縁膜23、ゲート電極24、電極保護膜25を形成する(図14(a)参照)。
【0115】
次に、図14(b)に示すように、次の行程で形成するS/D拡張部に相当する領域であり、ゲート電極を囲む部分をレジスト41によりマスクする。そして、半導体基板21の表面にボロンイオンを注入する。注入条件は、例えば、加速エネルギーが5keV、1平方cm当たりのドーズ量5×1015である。ボロンイオンを注入後、赤外線ランプあるいはフラッシュランプを用いた急速加熱・急速降温プロセスによりアニール処理を施し、図14(b)に示すように、pチャネル型S/D領域の主要部であるDeep拡散層42が形成される。なお、アニール処理の前に、レジスト41をアッシングプロセスにより除去しておく。
【0116】
続いて、半導体基板21上のpチャネル領域以外の部分をフォトレジストによりマスクし、図14(c)及び(d)に示すように、該pチャネル領域においてゲート絶縁膜23、ゲート電極24ならびに電極保護膜25をマスクにして、自己整合的にボロンイオンを注入して、ボロンイオン注入層43を形成する。注入条件は、例えば、加速エネルギー0.2keV、1平方cm当たりのドーズ量4×1015である。なお、ゲート絶縁膜23、ゲート電極24ならびに電極保護膜25によるシャドーイングを防止するため、半導体基板21の表面に対し約60度の入射角にてソース側とドレイン側の両側からイオン注入する。これにより、半導体基板21の表面から5nm程度の深さを有するS/D拡張部43が形成される。
【0117】
なお、ボロンイオンを注入する前に、ゲルマニウムイオンを、例えば、加速エネルギー5keV、1平方cm当たりのドーズ量1×1015で、半導体基板21の表面に対し約60度の入射角にてソース側とドレイン側の両側からイオン注入するプリ・アモルファイゼーション(pre-amorphization)を行ってもよい。その結果、半導体基板21の表面から深さ5nm程度の領域の半導体が非晶質化されて、非晶質層となり、同時に半導体基板21に導入されたボロンイオンも、半導体基板21の表面から5nm程度の深さを有するボロンイオン注入層43が形成される。プリ・アモルファイゼーションを行うと、イオン注入時のチャネリングおよび活性化時の増速拡散が抑制されるために、精度の高い不純物分布制御が可能となる。
【0118】
次に、上記照射装置1を用いて、超短パルスレーザー光(例えば、波長800nm、パルス幅100フェムト秒のチタンサファイアレーザー光)を半導体基板21の表面に照射する。このとき、レーザーフルーエンス、照射回数および偏光に関して、図8ないし図10で示したTEGにおける実験結果を基に、シート抵抗がより小さくなる最適な条件で行うことが好ましい。これにより、S/D拡張部におけるシート抵抗を一層低くすることができ、1kΩ/□以下にすることができる。
【0119】
ここで、超短パルスレーザー光を照射する際、ドーパントであるボロンの深さ方向ならびに半導体基板21の表面と平行な方向への拡散に顕著な影響を与えない程度の温度、例えば、約500度℃以下の温度に半導体基板21を保つことが好ましい。特に、約500℃の温度に保たれた半導体基板21に対して超短パルスレーザー光を照射することにより、接合リークを低減することが可能である。
【0120】
また、上述の電極保護膜25がゲート電極24の上に形成されているため、超短パルスレーザー光の半導体基板21への照射において、ゲート電極24におけるアブレーションなどによる損傷を防止することができる。
【0121】
このようにして超短パルスレーザー光を半導体基板21に照射することにより、図14(e)に示すように、半導体基板21の表面から5nm程度の注入深さを有するボロンイオン注入層43が電気的に活性化され、S/D拡張部となり、浅いpn接合が形成される。
【0122】
次に、半導体基板21全体にゲート電極24の高さ程度まで絶縁膜を形成した後、CMPによりゲート電極24の高さで平坦化する。その結果、電極保護膜25が除去される。続いて、反応性イオンエッチングでエッチングすることにより、図14(f)に示すように、ゲート電極24の側壁部にサイドウォール29が形成される。
【0123】
最後に、高融点金属(例えば、Co, Niなど)膜形成と熱プロセスにより、S/D領域のDeep拡散層42の表面に、シリサイド層32を形成し、低抵抗のオーミックコンタクト電極を形成する。その後、サイドウォール29ならびに素子分離絶縁膜22上に存在する未反応の高融点金属を、薬液処理を用いたシリサイドプロセスにより除去する。これにより、図14(f)に示すように、注入深さが5nm程度の極めて浅いS/D拡張部を有するp型MOSFETが形成される。
【0124】
以上のように、本実施形態の半導体装置の製造方法は、半導体基板21上にゲート絶縁膜23を介してゲート電極24が形成され、該ゲート電極24が形成されたチャンネル領域を挟むように、ソース側高濃度不純物領域およびドレイン側高濃度不純物領域となるDeep拡散層42が半導体基板21に形成された半導体装置の製造方法であって、チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間において、所定の深さに不純物元素を注入して不純物層43を形成する不純物層形成工程と、不純物層43を、上記実施形態1に記載した方法により活性化させる不純物層活性化工程とを含むことを特徴としている。これにより、活性化された不純物層のシート抵抗を、例えば1kΩ/□以下と低くすることができる。
【0125】
なお、参考形態2,実施形態2において、上記実施形態1で説明したように、超短パルスレーザー光の照射に先だって、予め基板材料のバンドギャップ以上の光子エネルギーを有する波長の光を照射することにより表面の電子状態を励起してもよい。これにより、アブレーションを抑制した状態で超短パルスレーザー光による結晶相から非晶質相への改質または不純物層の活性化を実現してもよい。
【0126】
本発明は上述した各参考形態及び各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる参考形態及び実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の不純物活性化方法によれば、シート抵抗を減少させることができるため、半導体装置の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0128】
7 固体試料
16 不純物層
21 半導体基板
24 ゲート電極
30・42 Deep拡散層(拡散層)
31 S/D拡張部(ソース・ドレイン拡張部)
32 シリサイド層(電極部)
43 ボロンイオン注入層(不純物層)
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリコン基板等の固体試料の表面近傍のみを改質する固体試料の表面改質方法、半導体基板において形成された不純物層を活性化させる不純物活性化方法、および、半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信技術を駆使したマルチメディア時代を迎え、情報処理量や処理速度が増大するとともに、機能が複雑化している。そのため、超大規模集積回路(ULSI)に用いられるMOSトランジスタは、微細化、高密度集積化の一途をたどっている。
【0003】
MOSトランジスタの微細化に伴って生じるショートチャンネル効果の抑制とデバイスの高速化のため、ソース・ドレイン拡張部では極めて浅い接合深さを実現することが原理的に必要不可欠となっている。例えば、デザインルール0.1ミクロン世代のデバイスでの接合深さは50nm、さらに0.05ミクロン世代での接合深さは10nm程度とすることが要求されている。
【0004】
そのため、10nm程度の極めて浅い接合深さに導入された半導体不純物層(極浅接合層)を半導体として活性化させるための技術の開発が必須となっている。また、ソース・ドレイン拡張部の接合深さが浅くなると、寄生抵抗値も上昇するため、デバイスの高速化を達成することが困難となる。すなわち、極めて浅い接合深さ且つ抵抗値の低い接合を形成するという極めて厳しい要求を実現しなくてはならない。このため、極浅接合層への高濃度ドーピング技術と共に、原子拡散を抑制した状態で低抵抗の極浅接合層として電気的に活性化させる技術の成否が、MOSテクノロジーの発展を左右するプロセス限界の一つとなっている。特に、0.1ミクロン世代以降のMOSトランジスタでは、10〜30nm領域の極浅接合層を1kΩ/□以下の低いシート抵抗(面積抵抗率)で実現することが要求されている。
【0005】
これに対して、従来の半導体不純物活性化技術として、瞬時熱アニール法(RTA)ならびにレーザー表面溶融法(ナノ秒パルス照射)が知られているが、これらは何れも熱的なアニール原理に基づく活性化技術である。
【0006】
これらの熱的な原理に基づく活性化技術では、基板深部への不必要な熱拡散が同時に生じるため、特にPMOSトランジスタ(ホウ素(B)ドーパント層を有するトランジスタ)への適用が困難であることが問題となっている。一例として、接合深さ20nmのBドーパント層を典型的な条件[1000℃、10秒]でRTA処理を施して活性化させた場合、Bは40nm程度の深さまで拡散してしまう。
【0007】
この原子拡散を抑制した状態で極浅接合層を形成するための従来技術として、超短パルスレーザー光を照射することにより半導体ドーパント層を低温活性化する技術が知られている(特許文献1参照)。この技術によれば、超短パルスレーザー照射に伴うフォノンの直接あるいは選択励起によりドーパント層を低温活性化し、極浅接合層を形成することができる。なお、フォノンに関する文献としては、非特許文献1〜3がある。
【0008】
一方、極浅接合層の形成において、上記のドーパント層自体の低温活性化技術と並行して、極浅接合層とソース・ドレイン領域を形成するプロセス技術(エレベーティッド ソース・ドレイン技術)が提案されている(特許文献2参照)。該エレベーティッド ソース・ドレイン技術は、国際ロードマップにおける特に10nm以下の深さが要求される世代での主流となることが予測されている(非特許文献4参照)。
【0009】
エレベーティッド ソース・ドレイン技術とは、反応性プラズマエッチングにより半導
体基板のゲート電極周辺に浅い窪みを形成し、この窪み内にドーパントを含むシリコン層をエピタキシャル成長させることにより、極浅の拡張部(極浅接合層)とソース・ドレイン領域を形成する。
【0010】
この製造プロセスでは、10nm程度の浅い窪みの形成において、半導体基板へのイオン注入により表面近傍の10nmオーダーの浅い領域を非晶質化し、ハロゲンガスを用いた反応性プラズマエッチングにおいて結晶相よりも非晶質相の方が選択的にエッチングされることを利用したプロセス技術が提案されている(特許文献3参照)。この技術によれば、イオン注入による非晶質化およびエッチングプロセスに次いで、シリコン層(半導体不純物を含む)を窪みにエピタキシャル成長を用いて埋めることにより、制御性よく極浅接合層を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−338894(2001年12月7日公開)
【特許文献2】特開平8−153688(1996年6月11日公開)
【特許文献3】特開2003−109969(2003年4月11日公開)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】F.Favot and A.D.Corso,“Phys.Rev.B” 60 (1999) p11427
【非特許文献2】中島真一,長谷宗明,溝口幸司,「日本物理学会誌」第53巻、第8号(1999)、pp.607-611
【非特許文献3】足立智,R.M.Koehl and K.A.Nelson、「日本物理学会誌」第54巻、第5号(1999)、pp.357-363
【非特許文献4】International technology Roadmap for Semiconductors, 2001 Edition, Front End Processes
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載したプロセス技術では、量産化に際して解決すべき問題がある。その最大の問題は、超短パルスレーザー光照射に伴う半導体表面の損傷とそれに起因する再現性である。すなわち、量産時には、チップ全体にわたって損傷の無いプロセスを再現性よく行うことが要求されるが、超短パルスレーザー光照射に伴う極めて高い電界強度のために半導体表面のアブレーションが生じやすくなる。なお、アブレーションとは、超短パルスレーザーにより物質が融点を超える温度に加熱され蒸発あるいは昇華が起こり、加熱部が除去される現象のことをいう。特に、接合深さが浅くなるにつれて、半導体表面近傍の損傷のために、極浅のドーパント層自体および電気的特性に与える影響(シート抵抗の増大)は顕著となり、均一な深さの接合を再現性よく形成できなくなっている。
【0014】
また、特許文献3に開示されたプロセス技術では、エピタキシャル成長が安定に行われるためにはシリコンの清浄表面を得る必要があるが、イオン注入により非晶質化を実現しているため、エッチング後の界面にはイオン注入により導入された元素が存在することとなる。注入イオンとして半導体基板と同一の元素を用いる場合であっても、イオン注入における深さ方向のイオン飛程には分布があることから、注入欠陥が界面に残存することが避けられない。つまり、エピタキシャル成長における格子不整合の要因となる異種原子(異種原子の注入により存在)あるいは格子欠陥(同種原子の注入により発生)が界面に残存し、エピタキシャル成長にとって好ましくない界面が形成されるという問題がある。この非晶質化された領域をエッチングして形成された凹部に半導体層を埋め込むため、ソース・ドレイン拡張部を均一な深さで、良質な半導体不純物層をエピタキシャル成長により形成することができない。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、シート抵抗が従来よりも低い不純物活性化方法、および、ソース・ドレイン拡張部を均一な深さで再現性よく形成する半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の不純物活性化方法は、上記の課題を解決するために、半導体基板において該半導体基板よりも不純物濃度が高い不純物層が形成されており、該不純物層にパルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射して、不純物層を活性化させる不純物活性化方法であって、前記パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件を変更することにより、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を制御することを特徴としている。
【0017】
上記の構成によれば、パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件を変更することにより、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を制御する。パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗は、パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件に大きく依存する。したがって、該照射条件を変更して、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を制御することにより、容易にパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を所望の値とし、シート抵抗を減少させることができるという効果を奏する。
【0018】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光のパルス幅と、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記パルス幅に対する前記シート抵抗の勾配が、所定のパルス幅閾値を境に変化し、該パルス幅閾値以下の領域における前記勾配が、パルス幅閾値以上の領域よりも大きく、前記パルス幅閾値以下のパルス幅で、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴としている。
【0019】
上記の構成によれば、パルス幅閾値以下のパルス幅で、不純物層にパルスレーザー光を照射する。そのため、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗をより一層低下させることができるという効果を奏する。
【0020】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光のレーザーフルーエンスとパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記レーザーフルーエンスに対する前記シート抵抗が極小値をとり、前記シート抵抗が略極小値をとるときのレーザーフルーエンスで、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴としている。
【0021】
上記の構成によれば、シート抵抗が略極小値をとるときのレーザーフルーエンスで、不純物層にパルスレーザー光を照射する。そのため、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗をより一層低下させることができるという効果を奏する。
【0022】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光の照射パルス数とパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記照射パルス数に対する前記シート抵抗が極小値をとり、前記シート抵抗が略極小値をとるときの照射パルス数で、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴としている。
【0023】
上記の構成によれば、シート抵抗が略極小値をとるときの照射パルス数で、不純物層にパルスレーザー光を照射する。そのため、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗をより一層低下させることができるという効果を奏する。
【0024】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光の照射の前に、前記不純物層に対して電磁波を照射することにより価電子を伝導帯に励起することを特徴としている。
【0025】
上記の構成によれば、パルスレーザー光を照射する際に、照射対象である不純物層が励起状態となっている。パルスレーザー光を照射する際の不純物層の励起状態が高いほど、パルスレーザー光による励起効果が顕著となり、パルス励起過程が非線形に増大する。したがって、レーザーフルーエンスを増大させることなく(アブレーションを促すことなく)、パルスレーザー光による表面励起を実現することができ、不純物層の活性化を行うことができるという効果を奏する。
【0026】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記電磁波が、前記半導体物質におけるバンドギャップより高いエネルギーに相当する波長を有していることを特徴としている。
【0027】
上記の構成によれば、電磁波が半導体物質に吸収されやすく、容易に不純物層を励起状態にすることができる。これにより、パルスレーザー光による励起効果を一層向上させることができるという効果を奏する。
【0028】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光の偏光が円偏光であることを特徴としている。
【0029】
レーザーフルーエンスが同じである場合、円偏光の方が直線偏光に比べて、電界強度は、(2の平方根)分の1となる。したがって、上記の構成のように、パルスレーザー光の偏光が円偏光であることにより、アブレーションが生じにくくなり、不純物層の表面における損傷を一層低減することができる。
【0030】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記不純物層が形成される際、あるいは、前記不純物層が形成される前に、該不純物層が形成される領域に半導体原子が添加または導入され、非晶質化されていることを特徴としている。
【0031】
さらに、本発明の不純物活性化方法は、上記の構成に加えて、前記半導体基板がシリコンであり、前記半導体原子がシリコンまたはゲルマニウムであることを特徴としている。
【0032】
上記の構成によれば、不純物層が形成される領域において、プリ・アモルファイゼーションが行われている。これにより、パルスレーザー光照射による活性化時において、不純物イオンの増速拡散が抑制されるために、精度の高い不純物分布制御が可能となるという効果を奏する。
【0033】
また、本発明の半導体装置の製造方法は、上記の課題を解決するために、半導体基板上にゲート絶縁膜を介してゲート電極が形成され、該ゲート電極が形成されたチャンネル領域を挟むように、ソース側高濃度不純物領域およびドレイン側高濃度不純物領域が前記半導体基板に形成された半導体装置の製造方法であって、チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間において、所定の深さに不純物元素を注入して不純物層を形成する不純物層形成工程と、前記不純物層を、上記不純物活性化方法により活性化させる不純物層活性化工程とを含むことを特徴としている。
【0034】
上記の構成によれば、不純物層活性化工程において、不純物層を、上記不純物活性化方法により活性化させる。これにより、基板深部への不純物原子の拡散を抑制した状態で表面近傍の不純物層を活性化して、極浅の半導体接合層を形成することができる。それゆえ、半導体装置の性能を向上させることができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0035】
本発明の不純物活性化方法は、パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件を変更することにより、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を制御する。これにより、容易にパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を所望の値とし、シート抵抗を減少させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)〜(g)は、本発明の一参考形態に係る半導体装置の製造工程の流れを説明する断面図である。
【図2】超短パルスレーザー光を固体試料に照射するための照射装置を示す平面図である。
【図3】超短パルスレーザー光が照射されたシリコン単結晶基板の断面写真である。
【図4】超短パルスレーザー光が照射されたシリコン単結晶基板のTEMによる断面写真である。
【図5】シリコン単結晶基板におけるアブレーション率と、超短パルスレーザー光のレーザーフルーエンスとの関係を示すグラフである。
【図6】(a),(b)は、ゲルマニウムが表面に注入されたシリコン単結晶基板における、超短パルスレーザー光の照射前後のTEMによる断面写真である。
【図7】不純物層のシート抵抗を測定するための検査用素子(TEG)の構造を示す断面図である。
【図8】上記TEGのシート抵抗と、超短パルスレーザー光のパルス幅との関係を示すグラフである。
【図9】上記TEGのシート抵抗と、超短パルスレーザー光の規格化レーザーフルーエンスとの関係を示すグラフである。
【図10】上記TEGのシート抵抗と、超短パルスレーザー光のレーザーパルス照射回数との関係を示すグラフである。
【図11】反射型ポンプ−プローブ法を用いて固体試料の表面付近における誘電率の時間分解測定を行う測定装置の平面図である。
【図12】反射型ポンププローブ法による反射率の時間分解測定結果を示すグラフである。
【図13】2個のポンプ光を用いたときの反射率の時間分解測定結果を示すグラフであり、(a)は、該2個のポンプ光を個別に用いて測定したものであり、(b)〜(d)は、該2個のポンプ光の時間差をそれぞれ0フェムト秒、100フェムト秒、170フェムト秒としたときのものである。
【図14】(a)〜(f)は、本発明の他の実施形態に係る半導体装置の製造工程の流れを説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔参考形態1〕
本発明の一参考形態について図2ないし図6に基づいて説明すると以下の通りである。
【0038】
図2は、本参考形態における超短パルスレーザーの照射装置1の平面図である。図2に示されるように、照射装置1は、レーザー発生源2と、偏光器3と、照射光学器4と、チャンバー5とを含んでいる。
【0039】
レーザー発生源2は、パルス幅が10〜1000フェムト秒(周波数帯域幅が1〜100THz)の超短パルスレーザー光を出力するものであり、例えば、チタンサファイアレーザー装置が用いられる。レーザー発生源2は、出力するレーザー光のパルス幅、レーザーフルーエンス、パルス照射回数、レーザー波長を制御することができる。なお、レーザーフルーエンスとは、放射エネルギー密度である。なお、レーザーフルーエンスの制御は、レーザー発生源2から出力されるレーザー光の出力エネルギー値とレーザー光のスポット径とにより行われる。
【0040】
偏光器3は、レーザー発生源2から出力されたレーザー光を偏光するためのものであり、偏光子等から構成される。偏光器3により、レーザー光は、直線偏光、円偏光、または楕円偏光に偏光される。
【0041】
照射光学器4は、偏光器3から出力されたレーザー光を、チャンバー5内の固体試料7に均一に照射させる所定の光学部品で構成される。照射光学器4は、偏光器3を透過したレーザー光を適当な照射コヒーレント電磁波に変換して、固体試料7に照射する。
【0042】
チャンバー5は、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン)雰囲気、還元性雰囲気(例えば、水素)もしくは、1×10−6Torr(1Torr=133.322Pa)以下の真空度に保つ空間である。チャンバー5は、その内部に試料台6を備えている。この試料台6の上に置かれた固体試料7に対して、照射均一器4により均一化されたレーザー光が照射される。
【0043】
<参考例1−1>
上記超短パルスレーザー光の照射装置1を用いて、固体試料の表面近傍を改質した一例を示す。本参考例1では、レーザー発生源2として、チタンサファイアレーザー装置を使用した。照射するレーザー光は、波長800nm、パルス幅100フェムト秒、レーザーフルーエンス250mJ/cm2、ショット数10パルス、パルス繰り返し周波数1kHzとした。また、固体試料7として、シリコン単結晶基板を用いた。
【0044】
図3および図4は、上記条件で超短パルスレーザー光を照射した後のシリコン単結晶基板の表面付近における高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)による格子観察像である。なお、図4は、図3の拡大写真である。
【0045】
図3および図4に示されるように、シリコン単結晶基板の最表面のナノ領域(本参考例では、厚さ24nm程度)において、格子が無秩序化していることが確認でき、結晶相から非晶質相(アモルファス)に変化していることがわかる。また、結晶相と非晶質相との界面がほぼ平らであり、均一化されていることがわかる。
【0046】
このように、シリコン単結晶基板に超短パルスレーザー光を照射することで、表面近傍のナノ領域において、結晶相から非晶質相に改質させることが確認できた。これによると、従来のイオン注入による非晶質化と異なり、他元素が残存することがない。また、イオン注入と比較して、異種原子や注入欠陥のない均一な界面となる。この結果、非晶質相に改質させた領域を反応性プラズマエッチングによりエッチングし、シリコン層(半導体不純物を含む)をその窪みにエピタキシャル成長を用いて埋めることにより、制御性よく極浅接合層を形成することができる。
【0047】
次に、レーザーフルーエンスを変化させたときの1パルス照射当りのアブレーション率を測定した。1パルス照射当りのアブレーション率とは、1パルスの照射(ショット)においてアブレーションにより消失した固体試料7の厚みである。図5は、波長800nm、パルス幅100フェムト秒における測定結果を示すグラフである。図5に示されるように、レーザーフルーエンスが約0.4J/cm2において、レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配が最大となり、このレーザーフルーエンスを閾値として、アブレーション率が急激(急速かつ明瞭)に変化する。すなわち、レーザーフルーエンスが該閾値(ここでは、0.4J/cm2)以下では、アブレーション率が0に近くなり、アブレーションを抑えるとともに、シリコン単結晶基板の表面を結晶相から非晶質相に改質することができる。これにより、非晶質相の厚みをより一層均一化することができる。なお、図3および図4に示した非晶質化は、レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配が最大を示す閾値よりも低い照射条件(レーザーフルーエンス:0.25J/cm2)でレーザー照射を行っている。
【0048】
<参考例1−2>
本参考例は、上記参考例1とは逆に、非晶質相を結晶質に改質させた例である。上記参考例と同様に、レーザー発生源2として、チタンサファイアレーザー装置を使用した。また、固体試料7として、5keVでGeイオンを注入し、厚み約10nmの非晶質層を表面に形成したシリコン単結晶基板を用いた。
【0049】
図6は、超短パルスレーザー光の照射前後における、上記非晶質層が形成されたシリコン単結晶基板の表面付近における高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)による格子観察像である。なお、図6(b)は、図6(a)の拡大写真である。
【0050】
図6に示されるように、超短パルスレーザー光を照射することにより、表面深さ10nmに形成されていた非晶質層が結晶化していることが確認できた。すなわち、非晶質相に超短パルスレーザー光を照射することで、結晶化できることが確認できた。
【0051】
<参考例1−3>
本参考例は、超短パルスレーザー光の照射によるシリコン基板に形成された不純物層の活性化に関するものである。上述したように、活性化された不純物層におけるシート抵抗の低抵抗化が課題となっている。そこで、超短パルスレーザー光の照射によって活性化された不純物層のシート抵抗測定のため、本参考例では、図7に示すような構造を有する検査用素子(Test Element Group:以下、TEGと称する)71を作成した。
【0052】
ここで、TEGの作成方法について説明する。
まず、N型のシリコン単結晶基板11の表面に幅164μm、間隔200μmの2本の電極領域を除く領域にレジストを形成する。そして、該レジストをマスクにして、イオン注入法により、ボロン不純物を15〜100keVの注入エネルギーで、3〜4×1015イオン/cm2注入する。その後、アニール熱処理を行い、電極領域にP+領域13を形成する。
【0053】
次に、レジストでマスクした状態のまま、基板上面にコバルト(Co)薄膜を付着させ、シリコン単結晶基板を加熱する。これにより、コバルトがシリコンと反応してコバルトシリサイド(CoSi2)層14が形成される。
【0054】
その後、レジストを除去したのち、コバルトシリサイド層14が形成された2本の電極領域を除く領域を別のレジストで保護する。そして、該レジストをマスクとして、2本の電極領域間に、ボロン不純物を0.5keVの注入エネルギーで、1×1015イオン/cm2注入し、不純物層16を形成する。
【0055】
そして、レジストを除去することにより、図7に示されるような、P+層13の表面にコバルトシリサイド層14を持つ2つの電極領域と、該2つの電極領域に挟まれた不純物層16とを有するTEG71が形成される。このとき、2つの電極領域間のシート抵抗値は、40kΩ/□と高抵抗を示した。これは、2つの電極領域に挟まれた不純物層16が活性化されていない点、および、2つの電極領域とシリコン単結晶基板11との間がPNPの逆バイアス構造である点による。
【0056】
このようにして形成されたTEG71を固体試料7として、上記照射装置1により、超短パルスレーザー光を所定条件で照射し、不純物層16を活性化させ、2つの電極領域間のシート抵抗を測定した。なお、不純物層16が活性化されると、該不純物層16とP+層13とがオーミックコンタクトすることにより、シート抵抗が低くなる。したがって、2つの電極領域間のシート抵抗を測定することにより、レーザー照射による電気的活性化の効果を評価することができる。
【0057】
図8は、レーザー発生源2としてチタンサファイアレーザー装置を用いて、波長800nm、パルス繰り返し周波数1kHzのレーザー光を照射したときの電極領域間のシート抵抗とパルス幅との関係を示す実験結果である。
【0058】
図8に示されるように、照射するレーザー光のパルス幅を短くするにつれてシート抵抗が低下する。パルス幅が300フェムト秒以下においてシート抵抗は2kΩ/□以下となる。また、パルス幅に対するシート抵抗の勾配は、パルス幅における所定の閾値(図8では、約150フェムト秒)を境に変化する。すなわち、該閾値より短いパルス幅の領域では、閾値よりも長いパルス幅の領域と比較して、パルス幅に対するシート抵抗の勾配が大きくなる。よって、パルス幅を該閾値以下の領域に設定することで、シート抵抗を一層低くすることができる。また、パルス幅を50フェムト秒未満にする場合、該レーザー光の発生に要するコストが高くなるという問題が生じる。
【0059】
以上から、シート抵抗を初期の40kΩ/□から1桁以上低下させるためには、パルス幅を50〜300フェムト秒に設定することが好ましい。さらに、パルス幅に対するシート抵抗の勾配がパルス幅の増大に応じて低くなるときのパルス幅閾値以下にパルス幅を設定することが好ましい。これにより、シート抵抗を低下させることができる。
【0060】
図9は、レーザー発生源としてチタンサファイアレーザー装置を用いて、波長800nm、パルス幅100フェムト秒、パルス繰り返し周波数1kHzのレーザー光を照射したときの不純物層の抵抗値とレーザーフルーエンスとの関係を示す実験結果である。なお、横軸は、使用したチタンサファイアレーザー装置の最大出力エネルギー値におけるレーザーフルーエンス値を1として規格した規格化レーザーフルーエンスである。
【0061】
図9に示されるように、規格化レーザーフルーエンスに対するシート抵抗は、ある値(図9では、規格化レーザーフルーエンス:約0.61)において極小を示すことが確認できた。この現象は、次のような原因によるものである。すなわち、レーザーフルーエンスが極めて小さい領域では、不純物層16の活性化させるのに十分ではないため、シート抵抗は、Bイオン注入時と同程度である。そして、レーザーフルーエンスを大きくしていくと、不純物層16の活性化が起こり、シート抵抗は急激に減少する。さらに、レーザーフルーエンスを大きくすると、デバイスの損傷(非晶質化やアブレーション)が生じるため、シート抵抗は増大する。
【0062】
このように、レーザーフルーエンスに対するシート抵抗は極小値を持つことがわかった。これにより、不純物層16の抵抗値を低抵抗化するためには、該極小値を持つときのレーザーフルーエンスにより、レーザー光照射することが好ましい。
【0063】
図10は、レーザー発生源としてチタンサファイアレーザー装置を用いて、波長800nm、パルス幅100フェムト秒、パルス繰り返し周波数1kHzの超短パルスレーザー光を照射したときのシート抵抗とパルス照射回数との関係を示す実験結果である。なお、該測定は、偏光器3における偏光が直線偏光である場合と、円偏光である場合との2種について行った。
【0064】
図10に示されるように、何れの偏光においても、パルス照射回数に対するシート抵抗値は、極小を示すことがわかった。極小を示すときの照射回数以下の領域では、パルス照射回数が増大するにつれてシート抵抗値が低下する。これは、Bイオン不純物の活性化が進行するためである。一方、極小を示すときの照射回数を越えた領域において、パルス照射回数が増大するにつれてシート抵抗が上昇する。これは、アブレーションが生じるために、不純物が表面近傍から失われるためである。
【0065】
このように、パルス照射回数に対するシート抵抗は極小値を持つことがわかった。これにより、シート抵抗を低抵抗化するためには、該極小値を持つときのパルス照射回数で超短パルスレーザー光照射することが好ましい。
【0066】
また、図10に示されるように、直線偏光と円偏光とを比較すると、円偏光を用いた場合の方が、シート抵抗がより低くなることがわかった。これは、レーザーフルーエンスが同一である場合、円偏光の電界強度は、直線偏光に比べて、(2の平方根)分の1となり、アブレーションが生じにくくなるからである。これにより、照射する超短パルスレーザー光は円偏光であることが好ましい。
【0067】
このように、本参考形態にいれば、イオン注入による異種原子や格子欠陥の残存がなく、界面が均一である固体試料の表面改質方法を提供することができる。
【0068】
そして、本参考形態の表面改質方法は、固体試料に対して、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射し、前記固体試料の表面層のみを、結晶相から非晶質相に、あるいは、非晶質相から結晶相に改質させることを特徴としている。
【0069】
固体試料中において存在する原子間には原子間力が働いている。この原子間力は微小変位に対してフックの法則に従う復元力(バネ力)として働くので、熱運動あるいは外部からの強制振動によって生じる原子の振動は隣の原子へと伝わり連成振動を生じる。これを格子振動といい、固体試料中では量子化されているためフォノンと呼ばれる。さらに、原子の質量、原子間距離ならびに復元力のバネ定数に相当する原子間力は、個々の物質で固有の値を持つため、フォノンの振動数と波数は互いに依存関係にあり、これを分散関係という。
【0070】
固体試料に光を照射した場合、局所的な温度上昇(熱的結合)あるいは誘電分極の擾乱(光弾性結合)により、光と結合した弾性歪みが生じる。この弾性歪みを外力として、フォノン振動数の領域にある光(電磁波)を固体試料に照射すると、誘導ラマン散乱により位相のそろったコヒーレントフォノンを励起することが可能である。例えば、シリコン単結晶において知られているフォノンの分散関係(非特許文献1参照)によると、フォノンの振動数は10GHz〜10THzの間に存在するが、その周波数帯域内におけるコヒーレント電磁波として、10GHz〜100GHzの周波数帯域(ミリ波領域)ではジャイロトロン等のミリ波発振管を用いることが可能であるのに対し、100GHz〜10THzの周波数帯はテラヘルツ輻射と呼ばれる未開拓の電磁波領域で、単一の発振源では実現されていない。
【0071】
そこで、10GHz〜100GHzの周波数帯域ではジャイロトロン等により得られるミリ波領域のコヒーレント電磁波を固体試料に照射し、コヒーレント電磁波による交番電界により固体試料表面の誘電分極をコヒーレントに振動させることによって、フォノンの励起が可能である。
【0072】
さらに、100GHz〜10THzのテラヘルツ輻射と呼ばれる電磁波領域では、周波数がω1およびω2(ω1>ω2)で波長がわずかに異なる2つのコヒーレント電磁波を結晶に入射させ、ω0をフォノンの振動周波数として、その周波数差ω1−ω2が
ω1−ω2=ω0 (1)
を満たすようにすると、誘導散乱が生じてコヒーレントフォノンが発生する。このため、ω0よりも広いスペクトル幅(周波数帯域幅)をもつコヒーレント電磁波源を用いると、
スペクトル内の異なる周波数成分どうしが、式(1)を満たすω1とω2の役割を果たすため、単一のコヒーレント電磁波源でこの条件が満足される。この原理に基づくコヒーレントフォノン励起に関する研究は、励起されたフォノンのイメージングをはじめとする物性研究でも用いられている(非特許文献2,3参照)。
【0073】
また、コヒーレント電磁波ビームにおけるパルス幅(Δt)と周波数帯域幅(Δω)は、Δt・Δω < 2ln2 / π (2)
を満たすため、例えばチタンサファイアレーザー装置等を用いて発生させることが可能な、パルス幅が10〜1000フェムト秒のコヒーレント電磁波は、周波数帯域幅が1〜100THzとなり、周波数領域で差周波を用いることにより式(1)を満足することが可能である。
【0074】
このため、本参考形態では、上記の構成のように、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射することで、固体試料の表面層のみを原子再配列を選択に行い、結晶相から非晶質相、あるいは、非晶質相から結晶相に改質させる。それゆえ、イオン注入することなく固体試料の表面を改質することができる。それゆえ、他イオンの残存がなく、界面が均一な改質層を形成することができるという効果を奏する。
【0075】
さらに、本参考形態の固体試料の表面改質方法は、上記の構成に加えて、パルスレーザー光の照射による前記固体試料のアブレーション率と、前記パルスレーザー光のレーザーフルーエンスとの関係において、レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配が最大値を示すときのレーザーフルーエンスをレーザーフルーエンス閾値とし、前記レーザーフルーエンス閾値以下のレーザーフルーエンスで、固体試料にパルスレーザー光を照射することを特徴としている。
【0076】
上記の構成によれば、レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配が最大値を示すときのレーザーフルーエンスをレーザーフルーエンス閾値とし、前記レーザーフルーエンス閾値以下のレーザーフルーエンスで、固体試料にパルスレーザー光を照射する。レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配は、所定のレーザーフルーエンス閾値で急速かつ明瞭に変化し、最大値をもつ。したがって、レーザーフルーエンス閾値以下のレーザーフルーエンスで、固体試料にパルスレーザー光を照射することにより、アブレーション率を低くすることができる。これにより、改質した層における損傷を一層低減することができるという効果を奏する。
【0077】
さらに、本参考形態の固体試料の表面改質方法は、上記の構成に加えて、前記固体試料が半導体物質であり、前記パルスレーザー光の照射の前に、前記半導体物質に電磁波を照射することにより価電子を伝導帯に励起することを特徴としている。
【0078】
上記の構成によれば、固体試料が半導体物質であり、パルスレーザー光の照射の前に、半導体物質において、価電子が伝導帯に励起される。そのため、パルスレーザー光を照射する際に、照射対象である半導体物質は、励起状態となっている。パルスレーザー光を照射する際の半導体物質の励起状態が高いほど、パルスレーザー光による励起効果が顕著となり、パルス励起過程が非線形に増大する。したがって、レーザーフルーエンスを増大させることなく(アブレーションを促すことなく)、パルスレーザー光による表面励起を実現することができ、半導体物質の表面を結晶質から非晶質、あるいは、非晶質から結晶質に改質させることができるという効果を奏する。
【0079】
さらに、本参考形態の固体試料の表面改質方法は、上記の構成に加えて、前記電磁波が、前記半導体物質におけるバンドギャップより高いエネルギーに相当する波長を有していることを特徴としている。
【0080】
上記の構成によれば、電磁波が半導体物質に吸収されやすく、容易に半導体物質を励起状態にすることができる。これにより、パルスレーザー光による励起効果を一層向上させることができるという効果を奏する。
【0081】
さらに、本参考形態の固体試料の表面改質方法は、上記の構成に加えて、前記パルスレーザー光の偏光が円偏光であることを特徴としている。
【0082】
レーザーフルーエンスが同じである場合、円偏光の方が直線偏光に比べて、電界強度は、(2の平方根)分の1となる。したがって、上記の構成のように、パルスレーザー光の偏光が円偏光であることにより、アブレーションが一層生じにくくなるという効果を奏する。
【0083】
以上のように、本参考形態の固体試料の表面改質方法は、固体試料に対して、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射し、前記固体試料の表面層のみを、結晶質から非晶質に、あるいは、非晶質から結晶質に改質させるため、イオン注入による異種原子や格子欠陥の残存がなく、界面が均一である改質層を固体試料の表面に形成することができるという効果を奏する。
【0084】
このように、本参考形態の固体試料の表面改質方法によれば、他イオンの残存がなく、界面が均一な改質層を形成することができる。よって、例えば、半導体装置のように極浅接合層を形成する際の非晶質層の形成に適用することができる。
【0085】
〔実施形態1〕
上記参考形態では、固体試料7に対して、超短パルスレーザー光を照射し、固体試料7の表面を励起状態にして、改質(結晶相から非晶質相への改質など)および不純物層16の活性化を行った。一般に、表面を励起状態とするには、レーザーフルーエンスを増大すればよいが、上述したように、アブレーションが生じて好ましくない。本実施形態は、アブレーションを抑制した上で、さらに、固体試料7の表面の励起をより一層促進する形態である。
【0086】
すなわち、本実施形態では、超短パルスレーザー光の照射に先立って、半導体物質である固体試料7において、電磁波を照射することにより、価電子を伝導帯に励起させる。励起させる方法としては、マルチフォトン(多光子)過程などがあり、好ましくは固体試料7に吸収されやすい波長(つまり、固体試料7が有するバンドギャップより高い光子エネルギーに相当する波長)の光を照射させる方法がある。このように、予め価電子帯から伝導帯(導電帯)への励起を行うことにより、超短パルスレーザー光を照射する際の表面の励起状態が高い状態となり、超短パルスレーザー光による励起効果が一層顕著となる。
【0087】
超短パルスレーザー光の照射に先立って、予め固体試料7にバンドギャップ以上の光子エネルギーを有する波長の光を照射させる上記励起効果の根拠となる実施例について説明する。
【0088】
<実施例1−1>
超短パルスレーザー光照射により励起された最表面の電子状態あるいはフォノンの振動励起状態の緩和過程を調べるため、反射型ポンプ−プローブ法を用いて固体試料の表面付近における誘電率の時間分解測定を行った。これは、誘電率変化の情報をプローブ信号に含まれる反射率の変化として検知する時間分解測定法であり、固体試料にポンプ光による擾乱を与え、ポンプ光に対して時間差を持つプローブ光(ポンプ光よりも十分弱い強度で照射)の反射率の変化を測定する。
【0089】
図11は、反射型ポンプ−プローブ法を用いて固体試料の表面付近における誘電率の時間分解測定を行う測定装置の平面図である。図11に示されるように、チタンサファイアレーザー装置により構成される超短パルスレーザー装置52からの超短パルスレーザー光を、ハーフミラー56a・56b・56cにより分岐して2つのポンプ光と1つのプローブ光に分ける。そして、コーナーキューブ55a・55b・55cを装着したステージをステッピングモータ(図示しない)で駆動することにより光路差を調整する。そして、ポンプ光とプローブ光とは、レンズ54により集光され、固体試料7に照射する。ここで、ポンプ光とプローブ光の時間差をスキャンして、プローブ光の微分反射率の時間変化を測定した。さらに、拡大光学系(図示しない)とCCDカメラ51で試料表面の観察を行い、超短パルスレーザー光の照射前後で該照射に伴うアブレーション等の変化が生じていないことを確かめた。なお、He−Neレーザー装置53は、上記の表面観察における照明と光学系のアライメント用に設置されているものである。
【0090】
なお、固体試料7として、N型のシリコン(100)単結晶基板を用いた。また、超短パルスレーザー装置52から照射されるレーザー光を、波長800nm、パルス幅100フェムト秒、パルス繰り返し周波数1kHzとした。
【0091】
図12は、反射型ポンププローブ法による反射率の時間分解測定結果を示すグラフである。なお、図12は、励起用のポンプ光として1個のパルスのみを用いているときのグラフである。ポンプ光が照射された時刻から最初に立ち上がる信号(図中、時間0.5ピコ秒におけるピークにあたる)は、照射パルスと同程度の幅を有している。その後、約0.5ピコ秒で立ち上がりピーク(図中、時間1.0ピコ秒付近のピークにあたる)を迎える成分は、2ピコ秒以上の長い時定数(1/e:eは自然対数の底)で減衰している。この2ピコ秒以上の長い時定数で減衰する成分は、導電帯へ光励起されたキャリアによる電子−正孔プラズマの生成と、バンド端等への緩和に伴う電気感受率あるいは誘電率の時間変化を示している。
【0092】
図13は、励起用のポンプ光の数を増やして2個のパルス(ポンプ光A、ポンプ光B)を用いた際の反射率の時間変化を示すグラフである。
【0093】
図13(a)は、ポンプ光Aとポンプ光Bとの各々のポンプ光を、個別に用いて測定した反射率の時間変化である。ここでは、2つのポンプ光による複合励起過程の効果を調べるため、ポンプAとポンプBとの時間差を0フェムト秒、100フェムト秒、170フェムト秒とし、反射率の時間変化を測定し、測定結果をそれぞれ図13(b)〜(d)に示す。
【0094】
図13(b)〜(d)に示されるように、いずれの時間差においても、図13(a)に示す波形の単純な足し合わせよりも、高い波高値を示している。すなわち、ポンプ光が照射される際の表面の励起状態が高いほど、励起効果が顕著となり、超短パルスレーザー励起過程が非線形に増大することを示している。
【0095】
以上の測定結果から、超短パルスレーザー光の照射に先だって、電磁波(光)を照射することにより、マルチフォトン(多光子)過程、あるいは、バンドギャップ以上の光子エネルギーを有する電磁波(光)の吸収過程(直接吸収ないし間接吸収)を介して、価電子が伝導帯に励起される。その結果、表面の励起状態が向上し、超短パルスレーザー光の照射に伴う励起効果が顕著となり、アブレーションを抑制した状態で、超短パルスレーザー照射による表面の励起をより一層向上させることができる。
【0096】
〔参考形態2〕
次に、上記参考形態1において説明した結晶相を非晶質化する参考例を利用して、pチャネル型MOSFETを製造する製造方法について説明する。なお、本参考形態は、nチャンネル型MOSFETの製造方法にも適用することができる。
【0097】
図1は、本参考形態におけるpチャネル型MOSFETの製造方法を示す半導体基板の断面図である。
【0098】
図1(a)に示すように、半導体基板(例えば、シリコン)21において、素子分離絶縁層22を形成した後、ゲート絶縁膜に使用する絶縁層(例えば、高誘電率酸化膜:Y2O3, La2O3, ZrO2, HfO2など)、ゲート電極材料層(例えば、不純物を含む多結晶質シリコンや多結晶質SiGe、あるいは金属材料Pt、Ir、Ni、Coや導電性窒化物TaN、WNなど)及び電極保護層(例えば、ポリシリコン、Al等の金属で、反応性エッチングに適し、かつ超短パルスレーザー光に対して吸収の大きい材料)を形成する。その後、フォトリソグラフィーによるレジストのパターニングと反応性イオンエッチングを行うことにより、半導体基板21上にゲート絶縁膜23、ゲート電極24、電極保護膜25を形成する。なお、半導体基板21において、ゲート電極24およびゲート絶縁膜23が形成されている領域がチャンネル領域となる。
【0099】
次に、図1(b)に示すように、半導体基板21を上記照射装置1のチャンバー5内の試料台6に設置し、超短パルスレーザー光を半導体基板21の表面に照射する。例えば、チタンサファイアレーザー光(波長800nm、パルス幅100フェムト秒)を半導体基板21の表面に照射する。このとき、図5に示したように、レーザーフルーエンスに対するアブレーション率の勾配が最大値を示す閾値以下(本参考形態では、400mJ/cm2以下)のレーザーフルーエンスでレーザー光を半導体基板21の表面に照射することで、半導体基板21の表面におけるアブレーションを抑制することができる。
【0100】
これにより、例えば図3および図4に示すように、半導体基板の表面領域のみが非晶質化され、図1(b)に示すように、半導体基板21と電極保護膜25との表面は、それぞれ非晶質化層26a・26bとなる。
【0101】
続いて、ハロゲン系の反応性プラズマを用いたエッチングプロセスを半導体基板21に対して施すことにより、上記で形成された非晶質層26a・26bを選択的にエッチングして除去する。その結果、図1(c)に示すように、該半導体基板21の表面には凹部27が形成される。なお、該凹部27の深さは、図1(b)において照射する超短パルスレーザー光のレーザーフルーエンスを変化させることで、数nmから30nm程度まで調整することができる。
【0102】
次いで、半導体基板21をCVD装置に搬送し、表面に形成されている自然酸化膜を除去する。その直後に、半導体不純物(本参考形態では、p型であるのでボロン)を含有する半導体層を、上記のエッチングで非晶質層26aが除去された凹部27に埋込み、図1(d)に示すように、半導体埋込層28を形成する。この行程により、ゲート絶縁膜23付近に深さが数nmから30nm程度のS/D拡張部(ソース・ドレイン拡張部)が形成される。
【0103】
次に、半導体基板21全体にゲート電極24の上面程度まで、絶縁膜を形成した後、Chemical-Mechanical Polishing (以下、CMPと記す)を用いて、ゲート電極の高さで平坦化する。その結果、電極保護膜25が除去される。続いて、反応性イオンエッチングによりエッチングすることにより、図1(e)に示すように、ゲート電極24の側壁部にサイドウォール29が形成される。このサイドウォール29は、この後にDeep拡散層を形成する際のイオン注入時において、S/D拡張部を保護するマスクとなる。
【0104】
次に、フォトレジストによりマスクを行い、図1(f)に示すように、該pチャンネル型S/D領域を形成する箇所のみに、B(ボロン)イオンを注入する。注入条件は、例えば、加速エネルギーが5keVのボロンイオンを、1平方cm当たりのドーズ量にして5×1015イオンである。ボロンイオンを注入後、赤外線ランプあるいはフラッシュランプを用いた急速加熱・急速降温プロセスによりアニール処理を施すことにより、図1(f)に示すように、pチャンネル型S/D領域の主要部であるDeep拡散層30が形成される。また、同時に、サイドウォール29によりマスクされていた半導体埋込層28の一部は、極浅接合層であるS/D拡張部31となる。
【0105】
最後に、高融点金属(例えば、Co,Niなど)膜形成と熱プロセスにより、Deep拡散層30の表面に、シリサイド層32を形成し、低抵抗のオーミックコンタクト電極を形成する。その後、サイドウォールならびに素子分離絶縁膜上に存在する未反応の高融点金属を、薬液処理を用いたサリサイドプロセスにより除去することにより、図1(g)に示すように、数nm〜30nm程度の浅いS/D拡張部31を有するpチャンネル型MOSFETが形成される。
【0106】
なお、上記の製造方法では、半導体基板21の非晶質化に超短パルスレーザー照射を用いるプロセスを、凹部27および半導体埋込層28の形成に適用した。形成された半導体埋込層28は、最終的に、その一部がS/D拡張部31として残る。しかしながら、レジスト等のマスクを用いて、半導体基板21に超短パルスレーザーを照射し、S/D拡張部について浅い凹部を、Deep拡散層について深い凹部を形成し、該凹部に半導体埋込層を形成してもよい。この場合、深い凹部に形成された半導体埋込層をそのままDeep拡散層として使用できる。この場合、図1(f)で示したイオン注入処理を行う必要がなくなる。
【0107】
また、ゲート電極24をポリシリコンで形成している場合、ゲート電極24上にもシリサイド層を形成してもよい。
【0108】
以上のように、本参考形態による半導体装置の製造方法は、半導体基板21上にゲート絶縁膜23を介してゲート電極24が形成され、該ゲート電極24が形成されたチャンネル領域を挟むように、ソース側高濃度不純物領域およびドレイン側高濃度不純物領域となるDeep拡散層30が半導体基板21に形成された半導体装置の製造方法であって、チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間に、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射し、非晶質層26aを形成する非晶質層形成工程と、前記半導体基板に対して前記非晶質層を選択的にエッチングして凹部28を形成する凹部形成工程と、前記凹部28に半導体基板よりも不純物濃度が高い半導体層28を埋め込み、ソース・ドレイン拡張部31を形成するソース・ドレイン拡張部形成工程とを含む。
【0109】
本参考形態による製造方法により形成されるMOSFETでは、従来技術のように半導体基板表面の非晶質化にGeイオン注入を用いていないため、非晶質層の選択的エッチング後の表面にイオン注入による第二元素が存在することがない。また、注入イオンを半導体基板と同一の元素を用いる場合であっても、従来技術ではイオン注入における深さ方向のイオン飛程には分布があることから注入欠陥が界面に残存するという問題があった。しかしながら、本参考形態によれば、図3および図4に示したように、非晶質相の深さは均一であり、埋込行程でのエピタキシャル成長に適した界面を形成することが可能である。さらに、S/D拡張部31の低抵抗化においても有利となる。
【0110】
このように、本参考形態の半導体装置の製造方法は、半導体基板上にゲート絶縁膜を介してゲート電極が形成され、該ゲート電極が形成されたチャンネル領域を挟むように、ソース側高濃度不純物領域およびドレイン側高濃度不純物領域が前記半導体基板に形成された半導体装置の製造方法であって、チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間に、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射し、非晶質層を形成する非晶質層形成工程と、前記半導体基板に対して前記非晶質層を選択的にエッチングして凹部を形成する凹部形成工程と、前記凹部に半導体基板よりも不純物濃度が高い半導体層を埋め込み、ソース・ドレイン拡張部を形成するソース・ドレイン拡張部形成工程とを含むことを特徴としている。
【0111】
上記の構成によれば、非晶質層形成工程において、チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間に、パルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射し、非晶質層を形成する。これにより、イオン注入を行うことなく、半導体基板の表面に非晶質層を形成することができる。そのため、凹部形成工程において形成される凹部にイオンが残存することがない。また、イオン注入の場合、注入欠陥が界面に残存することがあるが、パルスレーザー光を照射する場合、均一にレーザー光を照射することができるため、界面が均一となる。よって、ソース・ドレイン拡張部形成工程により形成されるソース・ドレイン拡張部は、エピタキシャル成長において格子不整合の原因となる異種原子あるいは格子欠陥が界面に残存することなく、良質な半導体不純物層をエピタキシャル成長により形成するのに適した界面を形成することができる。これにより、半導体装置の性能を向上させることができるという効果を奏する。
【0112】
〔実施形態2〕
次に、上記参考形態1の参考例3において説明した超短パルスレーザー光の照射による不純物層の活性化を利用して、pチャネル型MOSFETを製造する製造方法について説明する。なお、本実施形態は、nチャンネル型MOSFETの製造方法にも適用することができる。
【0113】
図14は、本実施形態におけるpチャネル型MOSFETの製造方法を示す半導体基板の断面図である。
【0114】
まず、上記参考形態2と同様に、素子分離絶縁層22を形成した半導体基板21上にゲート絶縁膜23、ゲート電極24、電極保護膜25を形成する(図14(a)参照)。
【0115】
次に、図14(b)に示すように、次の行程で形成するS/D拡張部に相当する領域であり、ゲート電極を囲む部分をレジスト41によりマスクする。そして、半導体基板21の表面にボロンイオンを注入する。注入条件は、例えば、加速エネルギーが5keV、1平方cm当たりのドーズ量5×1015である。ボロンイオンを注入後、赤外線ランプあるいはフラッシュランプを用いた急速加熱・急速降温プロセスによりアニール処理を施し、図14(b)に示すように、pチャネル型S/D領域の主要部であるDeep拡散層42が形成される。なお、アニール処理の前に、レジスト41をアッシングプロセスにより除去しておく。
【0116】
続いて、半導体基板21上のpチャネル領域以外の部分をフォトレジストによりマスクし、図14(c)及び(d)に示すように、該pチャネル領域においてゲート絶縁膜23、ゲート電極24ならびに電極保護膜25をマスクにして、自己整合的にボロンイオンを注入して、ボロンイオン注入層43を形成する。注入条件は、例えば、加速エネルギー0.2keV、1平方cm当たりのドーズ量4×1015である。なお、ゲート絶縁膜23、ゲート電極24ならびに電極保護膜25によるシャドーイングを防止するため、半導体基板21の表面に対し約60度の入射角にてソース側とドレイン側の両側からイオン注入する。これにより、半導体基板21の表面から5nm程度の深さを有するS/D拡張部43が形成される。
【0117】
なお、ボロンイオンを注入する前に、ゲルマニウムイオンを、例えば、加速エネルギー5keV、1平方cm当たりのドーズ量1×1015で、半導体基板21の表面に対し約60度の入射角にてソース側とドレイン側の両側からイオン注入するプリ・アモルファイゼーション(pre-amorphization)を行ってもよい。その結果、半導体基板21の表面から深さ5nm程度の領域の半導体が非晶質化されて、非晶質層となり、同時に半導体基板21に導入されたボロンイオンも、半導体基板21の表面から5nm程度の深さを有するボロンイオン注入層43が形成される。プリ・アモルファイゼーションを行うと、イオン注入時のチャネリングおよび活性化時の増速拡散が抑制されるために、精度の高い不純物分布制御が可能となる。
【0118】
次に、上記照射装置1を用いて、超短パルスレーザー光(例えば、波長800nm、パルス幅100フェムト秒のチタンサファイアレーザー光)を半導体基板21の表面に照射する。このとき、レーザーフルーエンス、照射回数および偏光に関して、図8ないし図10で示したTEGにおける実験結果を基に、シート抵抗がより小さくなる最適な条件で行うことが好ましい。これにより、S/D拡張部におけるシート抵抗を一層低くすることができ、1kΩ/□以下にすることができる。
【0119】
ここで、超短パルスレーザー光を照射する際、ドーパントであるボロンの深さ方向ならびに半導体基板21の表面と平行な方向への拡散に顕著な影響を与えない程度の温度、例えば、約500度℃以下の温度に半導体基板21を保つことが好ましい。特に、約500℃の温度に保たれた半導体基板21に対して超短パルスレーザー光を照射することにより、接合リークを低減することが可能である。
【0120】
また、上述の電極保護膜25がゲート電極24の上に形成されているため、超短パルスレーザー光の半導体基板21への照射において、ゲート電極24におけるアブレーションなどによる損傷を防止することができる。
【0121】
このようにして超短パルスレーザー光を半導体基板21に照射することにより、図14(e)に示すように、半導体基板21の表面から5nm程度の注入深さを有するボロンイオン注入層43が電気的に活性化され、S/D拡張部となり、浅いpn接合が形成される。
【0122】
次に、半導体基板21全体にゲート電極24の高さ程度まで絶縁膜を形成した後、CMPによりゲート電極24の高さで平坦化する。その結果、電極保護膜25が除去される。続いて、反応性イオンエッチングでエッチングすることにより、図14(f)に示すように、ゲート電極24の側壁部にサイドウォール29が形成される。
【0123】
最後に、高融点金属(例えば、Co, Niなど)膜形成と熱プロセスにより、S/D領域のDeep拡散層42の表面に、シリサイド層32を形成し、低抵抗のオーミックコンタクト電極を形成する。その後、サイドウォール29ならびに素子分離絶縁膜22上に存在する未反応の高融点金属を、薬液処理を用いたシリサイドプロセスにより除去する。これにより、図14(f)に示すように、注入深さが5nm程度の極めて浅いS/D拡張部を有するp型MOSFETが形成される。
【0124】
以上のように、本実施形態の半導体装置の製造方法は、半導体基板21上にゲート絶縁膜23を介してゲート電極24が形成され、該ゲート電極24が形成されたチャンネル領域を挟むように、ソース側高濃度不純物領域およびドレイン側高濃度不純物領域となるDeep拡散層42が半導体基板21に形成された半導体装置の製造方法であって、チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間において、所定の深さに不純物元素を注入して不純物層43を形成する不純物層形成工程と、不純物層43を、上記実施形態1に記載した方法により活性化させる不純物層活性化工程とを含むことを特徴としている。これにより、活性化された不純物層のシート抵抗を、例えば1kΩ/□以下と低くすることができる。
【0125】
なお、参考形態2,実施形態2において、上記実施形態1で説明したように、超短パルスレーザー光の照射に先だって、予め基板材料のバンドギャップ以上の光子エネルギーを有する波長の光を照射することにより表面の電子状態を励起してもよい。これにより、アブレーションを抑制した状態で超短パルスレーザー光による結晶相から非晶質相への改質または不純物層の活性化を実現してもよい。
【0126】
本発明は上述した各参考形態及び各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる参考形態及び実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の不純物活性化方法によれば、シート抵抗を減少させることができるため、半導体装置の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0128】
7 固体試料
16 不純物層
21 半導体基板
24 ゲート電極
30・42 Deep拡散層(拡散層)
31 S/D拡張部(ソース・ドレイン拡張部)
32 シリサイド層(電極部)
43 ボロンイオン注入層(不純物層)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板において該半導体基板よりも不純物濃度が高い不純物層が形成されており、
該不純物層にパルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射して、不純物層を活性化させる不純物活性化方法であって、
前記パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件を変更することにより、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を制御することを特徴とする不純物活性化方法。
【請求項2】
前記パルスレーザー光のパルス幅と、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記パルス幅に対する前記シート抵抗の勾配が、所定のパルス幅閾値を境に変化し、該パルス幅閾値以下の領域における前記勾配が、パルス幅閾値以上の領域よりも大きく、
前記パルス幅閾値以下のパルス幅で、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴とする請求項1に記載の不純物活性化方法。
【請求項3】
前記パルスレーザー光のレーザーフルーエンスとパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記レーザーフルーエンスに対する前記シート抵抗が極小値をとり、
前記シート抵抗が略極小値をとるときのレーザーフルーエンスで、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴とする請求項1に記載の不純物活性化方法。
【請求項4】
前記パルスレーザー光の照射パルス数とパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記照射パルス数に対する前記シート抵抗が極小値をとり、
前記シート抵抗が略極小値をとるときの照射パルス数で、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴とする請求項1に記載の不純物活性化方法。
【請求項5】
前記パルスレーザー光の照射の前に、前記不純物層に対して電磁波を照射することにより価電子を伝導帯に励起することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の不純物活性化方法。
【請求項6】
前記電磁波が、前記半導体基板におけるバンドギャップより高いエネルギーに相当する波長を有していることを特徴とする請求項5に記載の不純物活性化方法。
【請求項7】
前記パルスレーザー光の偏光が円偏光であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の不純物活性化方法。
【請求項8】
前記不純物層が形成される際、あるいは、前記不純物層が形成される前に、該不純物層が形成される領域に半導体原子が添加または導入され、非晶質化されていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の不純物活性化方法。
【請求項9】
前記半導体基板がシリコンであり、前記半導体原子がシリコンまたはゲルマニウムであることを特徴とする請求項8に記載の不純物活性化方法。
【請求項10】
半導体基板上にゲート絶縁膜を介してゲート電極が形成され、該ゲート電極が形成されたチャンネル領域を挟むように、ソース側高濃度不純物領域およびドレイン側高濃度不純物領域が前記半導体基板に形成された半導体装置の製造方法であって、
チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間において、所定の深さに不純物元素を注入して不純物層を形成する不純物層形成工程と、
前記不純物層を、請求項1から9の何れか1項に記載の不純物活性化方法により活性化させる不純物層活性化工程とを含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項1】
半導体基板において該半導体基板よりも不純物濃度が高い不純物層が形成されており、
該不純物層にパルス幅が10〜1000フェムト秒のパルスレーザー光を照射して、不純物層を活性化させる不純物活性化方法であって、
前記パルスレーザー光におけるパルス幅、レーザーフルーエンスおよび照射パルス数を含む照射条件を変更することにより、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗を制御することを特徴とする不純物活性化方法。
【請求項2】
前記パルスレーザー光のパルス幅と、パルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記パルス幅に対する前記シート抵抗の勾配が、所定のパルス幅閾値を境に変化し、該パルス幅閾値以下の領域における前記勾配が、パルス幅閾値以上の領域よりも大きく、
前記パルス幅閾値以下のパルス幅で、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴とする請求項1に記載の不純物活性化方法。
【請求項3】
前記パルスレーザー光のレーザーフルーエンスとパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記レーザーフルーエンスに対する前記シート抵抗が極小値をとり、
前記シート抵抗が略極小値をとるときのレーザーフルーエンスで、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴とする請求項1に記載の不純物活性化方法。
【請求項4】
前記パルスレーザー光の照射パルス数とパルスレーザー光照射後の不純物層のシート抵抗との関係において、前記照射パルス数に対する前記シート抵抗が極小値をとり、
前記シート抵抗が略極小値をとるときの照射パルス数で、不純物層にパルスレーザー光を照射することを特徴とする請求項1に記載の不純物活性化方法。
【請求項5】
前記パルスレーザー光の照射の前に、前記不純物層に対して電磁波を照射することにより価電子を伝導帯に励起することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の不純物活性化方法。
【請求項6】
前記電磁波が、前記半導体基板におけるバンドギャップより高いエネルギーに相当する波長を有していることを特徴とする請求項5に記載の不純物活性化方法。
【請求項7】
前記パルスレーザー光の偏光が円偏光であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の不純物活性化方法。
【請求項8】
前記不純物層が形成される際、あるいは、前記不純物層が形成される前に、該不純物層が形成される領域に半導体原子が添加または導入され、非晶質化されていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の不純物活性化方法。
【請求項9】
前記半導体基板がシリコンであり、前記半導体原子がシリコンまたはゲルマニウムであることを特徴とする請求項8に記載の不純物活性化方法。
【請求項10】
半導体基板上にゲート絶縁膜を介してゲート電極が形成され、該ゲート電極が形成されたチャンネル領域を挟むように、ソース側高濃度不純物領域およびドレイン側高濃度不純物領域が前記半導体基板に形成された半導体装置の製造方法であって、
チャンネル領域とソース側高濃度不純物領域との間、およびチャンネル領域とドレイン側高濃度不純物領域との間において、所定の深さに不純物元素を注入して不純物層を形成する不純物層形成工程と、
前記不純物層を、請求項1から9の何れか1項に記載の不純物活性化方法により活性化させる不純物層活性化工程とを含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【図4】
【図6】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【図4】
【図6】
【公開番号】特開2011−14914(P2011−14914A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163253(P2010−163253)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【分割の表示】特願2004−134000(P2004−134000)の分割
【原出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(505402581)株式会社イー・エム・ディー (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【分割の表示】特願2004−134000(P2004−134000)の分割
【原出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(505402581)株式会社イー・エム・ディー (16)
【Fターム(参考)】
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