説明

位置決め装置、露光装置およびデバイス製造方法

【課題】 ステージの移動に伴う反力を質量体を駆動して軽減させつつ、質量体の移動ストロークの縮小を図る。
【解決手段】 質量体を駆動する慣性力付与機構を有する位置決め装置であって、慣性力付与機構は、ステージの移動に伴って発生する反力を軽減するための信号を生成して出力する反力補償制御系と、質量体の位置を計測する位置計測手段の出力に基づいて、蓄積された複数の質量体の相対距離を低減するための信号を生成して出力する位置補償制御系と、位置補償制御系の出力の一部を選択して出力する選択手段とを備え、選択手段の出力に基づいて質量体の駆動が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造のリソグラフィ工程で使用する露光装置、あるいは各種精密加工機あるいは各種精密測定器等での位置決めに好適に使用される位置決め装置、またこの位置決め装置を用いた露光装置やデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子製造に用いられる露光装置として、ステッパと呼ばれる装置とスキャナと呼ばれる装置が知られている。ステッパは、ステージ装置上の半導体ウエハを投影レンズ下でステップ移動させながら、レチクル上に形成されているパターン像を投影レンズでウエハ上に縮小投影し、1枚のウエハ上の複数箇所に順次露光していくものである。スキャナは、ウエハステージ上の半導体ウエハとレチクルステージ上のレチクルとを投影レンズに対して相対移動させ、走査移動中にスリット上の露光光を照射し、レチクルパターンをウエハに投影するものである。ステッパおよびスキャナは、解像度および重ね合わせ精度の性能面から露光装置の主流と見られている。
【0003】
このような露光装置で処理される半導体ウエハについては、半導体素子の大面積化およびコスト低減を図るために、大口径、大サイズの半導体ウエハを用いる傾向にある。また、半導体素子の高集積化と共に、高速かつ高精度なステージの位置合わせ、および高スループット化が切望されている。
【0004】
しかし、従来の露光装置においては、搭載する半導体ウエハの大口径化に対応し、高速・高精度にステージを動かすためには、ステージの動特性の向上を図らなければならない。このため、ガイド剛性を上げる等の必要が生じ、ステージ重量は短にストロークアップによる重量増加分よりさらに増大せざるを得ない。さらに、高スループット化に対応するためにステージの移動加速度および移動速度のアップを図り移動時間の短縮を狙うと、ステージ移動の加速度による加振力はますます大きくなる。そのため、ステージ外部に外乱振動が伝わり、高速・高精度な位置決めが妨げられるおそれがあった。
【0005】
そこで、図16に示すような、質量体を備えたステージ装置が提案されている。
101は、目的物を搭載するXステージである。102は、Xステージ101を搭載し、定盤103に対しY方向に移動可能なYステージである。Yステージ上には、ボールネジ104およびモータ105によって構成されるXステージ駆動機構が設けられ、Xステージ101は、Yステージに対してX方向に移動可能である。定盤103にはボールネジ106およびモータ107によって構成されるYステージ駆動機構が設けられ、Yステージ102は、定盤103に対してY方向に移動可能である。以上の構成によって、Xステージ101は、定盤103に対して、XY方向に位置決めされる。さらに、定盤には、X方向またはY方向に移動可能な質量体108〜111が設けられている。各質量体は、ステージの移動により発生する反力およびモーメントを相殺するように、ボールネジ112〜115およびモータ116〜119により駆動される。
【0006】
ステージを加減速する際に定盤に発生する力を質量体の駆動によって相殺するので、ステージの加速や減速により発生する定盤の振動が吸収される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Xステージが定盤の重心からずれた位置で加速される場合、定盤に発生するモーメントを打消すために、定盤の重心点を挟んで対称側の質量体をステージの重心の移動方向と同方向へ加速度を持たせて駆動する。
【0008】
しかし、Xステージが定盤の重心点を回る動作を続けた場合、質量体の位置がずれていくため、質量体を駆動するためのストロークが必要となる。また、いくら質量体のストロークを長くしても、定盤に発生するモーメントが同一方向のみであれば、結果的に質量体の位置がストロークの最終端まで達してしまう。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、ステージの移動による反力等を軽減させつつ、質量体の移動ストロークの縮小を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の位置決め装置は、基準面を有するステージベースと、
該ステージベースおよび該ステージベースと一体の構造物を支持する除振機構と、該基準面に沿って移動可能なステージと、該ステージベースまたは該構造物に対して移動可能な複数の質量体と該複数の質量体を駆動する質量体駆動機構を備え、該ステージベースまたは該構造物に対して慣性力を付与する慣性力付与機構とを有し、該慣性力付与機構は、前記複数の質量体の位置を計測する位置計測手段と、該ステージの移動に伴って発生する反力を軽減するための信号を生成し該質量体駆動機構に出力する反力補償制御系と、前記位置計測手段の出力に基づいて、前記反力補償制御系に基づいて前記質量体駆動機構を駆動して慣性力を付与したときに蓄積される前記複数の質量体の相対距離を低減するための信号を生成し該質量体駆動機構に出力する位置補償制御系と、前記位置補償制御系の出力の一部を選択して出力する選択手段とを備え、該選択手段の出力に基づいて前記質量体駆動機構が制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の位置決め装置によれば、ステージの移動による反力を軽減させつつ、質量体の移動ストロークの縮小を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を用いて、本発明の特徴や利点を説明する。なお、各図面において、共通または対応する部分には同一の符号を付している。
【0013】
<実施形態1>
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の特徴を最も良く表わす第1実施形態の露光装置の正面図、図2は図1の位置決めステージ装置の上面図である。
【0014】
図中、2は露光転写すべきパターンを有するレチクル、1はレチクル2を露光光で照明する照明部で光源や照明用レンズを含んでいる。3は照明されたレチクル2のパターンをウエハ上に所定の倍率で縮小投影する投影レンズ、4は投影レンズを支持する鏡筒支持体である。
【0015】
5は不図示のウエハを載置するトップステージであり、θ方向、Z方向、α方向およびβ方向に移動可能な構造を有している。6はトップステージ5を搭載しX方向およびY方向に移動可能なXYステージ、7はXYステージ6を静圧気体軸受け部を介してY方向に非接触で支持しX方向に移動可能なように案内する可動ガイド、8は上面に案内面を有しXYステージ6および可動ガイド7を静圧気体軸受部を介してZ方向に非接触で支持するステージベース、10はステージベース8に一体的に取り付けられ可動ガイド7を静圧気体軸受部を介してX方向に非接触で支持しY方向に移動可能なように案内するヨーガイドである。22xはXYステージ6をX方向に駆動するリニアモータの固定子であり、可動ガイド7に固定され、可動子はXYステージ6に取り付けられている。22y1および22y2は可動ガイド7をY方向に駆動するリニアモータの固定子であり、相互に対抗するようにステージベース8に配置固定されている。23y1および23y2は可動ガイド7をY方向に駆動するリニアモータの可動子であり、相互に対向するように可動ガイド7に取り付けられている。
【0016】
9はステージベース8を搭載する定盤であり、定盤9とステージベース8とは一体に固定されている。定盤9と鏡筒支持体4は一体的に結合されている。11は鏡筒支持体4を支持するために4ヶ所に配置されたエアーマウント(除振機構)である。エアーマウント11は、床から鏡筒支持体4および定盤9に伝わる振動を絶縁する。
【0017】
33xは投影レンズ3とXYステージ6との相対位置を計測するためのレーザ干渉計、16aは投影レンズ3の焦点位置とウエハ上面間の距離を計測するフォーカス検出部の投光部、16bは同じくフォーカス検出部の受光部である。これらの投光部16aと受光部16bは各々投影レンズ3に固定されている。
【0018】
13(13x、13y)は定盤9に慣性力を付与するための質量体、14(14x,14y)は質量体13を支持案内するガイドであり、定盤9にそれぞれ固定されている。ここで、定盤9はステージベースと一体となっているため、ガイド14はステージベースに設けても良い。各質量体13を駆動するときに発生する力の作用軸は、トップステージ5、XYステージ6、可動ガイド7をXY方向に駆動するときに発生する力の作用平面とほぼ平行であり、また、作用平面の鉛直方向に対してほぼ一致するように配置されている。また、各質量体の発生する力の作用軸は、ステージベース8、投影レンズ3、鏡筒支持体4等を含む、定盤9と一体に構成された構造物の重心軸Gから離れた位置に配置されており、例えば、対向する質量体13y1、13y2を逆方向に駆動することにより、効果的に構造体にモーメント力を与えることが可能である。
【0019】
図3は慣性力付与機構の詳細構成を示す断面図である。図中、51は質量体13を1軸方向に支持案内する静圧気体軸受、52は質量体を駆動するリニアモータの可動子であり質量体に固定されている。53はリニアモータの固定子であり、その両端あるいは一方の端がガイド14に固定されている。このとき、リニアモータの駆動力の作用軸と、質量体の重心位置がほぼ一致していることが望ましい。そのため本実施例では、前記用件を満たすため、筒状の質量体を採用しているが、質量体の形状はこれに限られるものではない。
【0020】
図4は、本実施例の露光装置のXYステージ用測定系(レーザ計測システム)の配置を示す斜視図であり、図1のトップステージ5の周辺のレーザ干渉計33x等の部分を詳細に表わした図である。
【0021】
図中、31は光源であるレーザヘッド、32xおよび32yは図1のトップステージ5に取り付けられた反射ミラー、33xはX方向を計測する干渉計、33θはトップステージ5のヨーイングすなわち投影レンズの光軸に対するθ方向を計測する干渉計である。34x、34y、34θは干渉縞を電気信号に変換するレシーバであり、34xはX方向用、34yはY方向用、34θはθ方向用である。
【0022】
図5は本実施形態の制御系のシステム図である。
【0023】
図中、61は図3で示したX、Y、θレーザ測定システムであり、トップステージ5が搭載されたXYステージ6の位置および各質量体13の位置を測定する。62はXYステージ6、トップステージ5および各質量体13の位置信号をフィードバックし各駆動軸に所定の動作指令を行うコントローラである。63はコントローラ62の指令信号を基にリニアモータ固定子22xおよび22yのコイル部に電流を流しXYステージ6をドライブとするドライバである。64はコントローラからの指令により質量体13(13x、13y)をドライブとするドライバである。65はトップステージ5の各駆動軸をドライブするドライバである。質量体13の駆動制御は、質量体13の位置あるいは加速度を計測し(不図示)フィードバックすることで行われる。
【0024】
上記構成において、まず露光すべきウエハ(不図示)をトップステージ5に載置し、不図示の外部コントローラからXYステージ6およびトップステージ5に駆動信号を与え、上記ウエハを投影レンズ3下の所定の位置および姿勢に駆動する。ここで、上記ウエハのX方向、Y方向、Z方向および各軸の回転方向(それぞれα方向、β方向、θ方向)の目標とする位置に対する偏差が、レーザ計測システムの出力を基に外部コントローラにより計算され、各々の駆動部にフィードバックされ、ウエハは所定の位置および姿勢に位置決め制御される。露光後、次の所定の位置に移動し露光する動作を繰り返す。XYステージ6の移動は、所定の速度曲線にならうようにコントローラ62からリニアモータドライバ63に指令信号が与えられ、リニアモータが前記指令信号に応じた駆動力を発生することにより行われる。前記駆動力の大きさはXYステージ6の質量と所定の加減速度とで決まる慣性力と等しく、その駆動反力がステージベース8に作用し定盤9に伝わる。このとき、コントローラ62からは質量体駆動用ドライバ64に前記駆動反力を打ち消すように指令信号が与えられ、質量体13x、13yが定盤9の変位を極力抑えるように駆動される。
【0025】
図6を用いて、ステージをY方向に駆動したときの駆動信号について説明する。
【0026】
XYステージ6とトップステージ5等を含むY方向移動体を駆動するときにリニアモータ固定子22y1、22y2が受ける反力をFy1、Fy2とし、質量体13y1、13y2を駆動して発生させる反力をRy1、Ry2とする。また、定盤9と一体の構造物の重心Gからリニアモータ固定子が受ける反力までの距離をそれぞれLy1、Ly2とし、重心Gから質量体を駆動して発生させる反力までの距離をそれぞれly1、ly2とする。このとき、反力Ry1、Ry2は以下の連立方程式の解として求められる。
Ry1+Ry2=−(Fy1+Fy2)
−Ry1×ly1+Ry2×ly2=−(−Fy1×Ly1+Fy2×Ly2)
第1の式は力の釣り合い式であり、第2の式は回転トルクのつりあい式である。上式を満たすように質量体13y1、13y2を適切に駆動すると、XYステージ6とトップステージ5等を含むY方向移動体を駆動する際に、定盤9を含む構造体が受ける反力および回転トルクは打消され、また、防振マウント11により支持される全ての質量の重心は一定位置に保たれる。
【0027】
また、質量体13y1、13y2の質量を、トップステージ5、XYステージ6および可動ガイド7を合わせたY方向移動体の質量に対して大きくすれば、質量体13y1、13y2の必要な駆動ストロークを小さくすることができると共に、質量体13y1、13y2を駆動するために必要なエネルギーは小さくすることが可能である。
【0028】
しかし、図7に示したように、XYステージ6を含む移動体が、重心Gの周りを一方向に回るような駆動を行った場合には、上式第2式を満たすためには、質量体13y1、13y2を互いに反対方向に移動し続けなければならない。すなわち、XYステージ6を含む移動体の回転トルクの累積総和が0となるような駆動パターンでない限り、質量体13y1、13y2の相対位置は離れていき、結果的には無限大のストロークが必要となってしまう。このため、ストロークが所定の値に収まるように制限する必要がある。
【0029】
図8は、質量体の駆動の制御ブロック図である。
41、42は、XYステージ6等の位置および移動に伴い発生する並進方向の反力(慣性力)や回転方向の反力(回転トルク)から質量体13y1、13y2の駆動目標値を発生させる目標値発生手段である。43は、質量体が発生する慣性力が所定の目標値になるように制御する慣性力コントローラである。44は、質量体が発生する回転トルクが所定の目標値になるように制御する回転トルクコントローラである。45は、質量体13y1、13y2の相対距離が0となるように制御する相対距離コントローラ(第1コントローラ)である。46は、回転トルクコントローラ44の選択手段(第2選択手段)であり、詳細は後述する。47は、相対距離コントローラ45の選択手段(第1選択手段)であり、詳細は後述する。
【0030】
図中、実線の矢印で示された制御系は重心・反力補償系(反力補償制御系)であり、ステージの移動に伴って発生する並進方向の反力を打消すための質量体の制御系を表わす。また、点線はトルク補償系(反力補償制御系)であり、ステージの移動に伴って発生する回転方向の反力を打消すための質量体の制御系を表わす。また、太線は引き戻し補償系(位置補償制御系)であり、質量体の相対距離(位置ずれ)を軽減するための質量体の制御系を表わす。
【0031】
選択手段47により相対距離コントローラを有効にすると、質量体13y1、13y2の相対距離が0となる。これにより、質量体の移動範囲を制限することができる。しかし、同時に本来発生すべきでない回転トルクも発生させることになり、定盤9を含む構造体に振動を与えてしまう。また、選択手段46、47の両方を同時に有効にすると、コントローラ44、45が互いに反対の動作を行おうとするため、制御系が有効に機能しなくなってしまう。したがって選択手段46、47を適切に用いることにより、XYステージ6等の移動による反力を打消すと共に、質量体の相対距離が蓄積されないようにする必要がある。このように制御するには、以下のような方法がある。
【0032】
1.選択手段46をハイパスフィルタ、選択手段47をローパスフィルタとする
これらのフィルタのカットオフ周波数を防振マウント11の有効な周波数と同程度もしくは低く設定しておく。これにより、相対距離コントローラ45が機能することによって発生してしまう回転トルクや、回転トルクコントローラ44で除去できない回転トルクは、低周波成分の回転トルクであり、防振マウントにより吸収することが可能である。つまり、構造体に発生する回転トルクの高周波成分は質量体の移動によって除去し、低周波成分は防振マウントにより除去することができる。また、回転トルクを除去しつつ、相対距離コントローラが低周波数で有効に働いているため、徐々に質量体の相対距離を0に近づけることができる。
【0033】
2.選択手段46、47に不感帯またはリミッタを設定する
選択手段の不感帯の幅、リミッタのリミットを露光に影響しない振動レベルと同程度に設定しておく。これにより、相対距離コントローラが機能することによって発生してしまう回転トルクや回転トルクコントローラで除去できない振動は、露光に影響しない振動レベルにすることができ、露光に悪影響を与えない。つまり、露光に影響を与える振動や振幅の大きな振動等の高レベル振動を質量体の移動によって除去すると共に、相対距離コントローラが露光に影響を与えないようなレベルで有効に作動することができ、徐々に質量体の相対距離を徐々に0に近づけることができる。
【0034】
3.選択手段46、47を要求精度により切り替える
選択手段46を露光中等の高精度が要求されるときは有効に作動させ、非露光中などの比較的精度が要求されないときは無効となるように切り替える。また、選択手段47を露光中等は無効であり、非露光中等は有効に作動するように切り替える。これにより、露光中には回転トルクコントローラ44により質量体を駆動することで構造体の振動を軽減させ、非露光中等には相対距離コントローラによって露光中の動作で蓄積された質量体の相対距離を0にするようにすることができる。
【0035】
4.選択手段46、47を質量体の位置により切り替える
選択手段46を、質量体13y1、13y2の絶対位置または相対位置が所定の値以内であるときは有効とし、所定の値を超えてストロークリミットに近づいたときは無効となるように切り替える。また、選択手段47を、質量体13y1、13y2の絶対位置または相対位置が所定の値以内であるときは無効とし、所定の値を越えてストロークリミットに近づいたときは有効になるように切り替える。これにより、質量体のストロークが足りなくなるような事態が起こらない限り、回転トルクコントローラ44により質量対を駆動することで回転トルクを除去することができる。
【0036】
5.上記4つの手段を複数組み合わせて用いる
例えば、選択手段46を露光中等は有効であり、非露光中等はハイパスフィルタまたは不感帯とする切り替え手段とし、選択手段47を露光中等は無効であり、非露光中等はローパスフィルタまたはリミッタとする切り替え手段とする。これにより、非露光中等には相対距離コントローラ45により質量体の相対距離を徐々に0に近づけることができ、急激に質量体を駆動することにより大きな回転トルクを発生させて構造体を揺らすこともない。また、露光中には回転トルクコントローラ44により質量体を駆動することで、高周波成分や高レベルの振動を除去することはもちろん、低周波成分や低レベルの振動も除去することができる。
【0037】
X方向駆動時においても同様に質量体13x1、13x2を駆動することにより、トップステージ5とXYステージ6の移動によるX方向の反力を打消すことができる。このとき、回転トルクについては、質量体13x、質量体13yのいずれを用いて除去してもよい。この場合、回転トルクの除去を受け持たない側は、慣性力コントローラ42のみを具備すれば良いため、コントローラが簡単になると共にストロークも短くなる。また、質量体の回転トルクの除去を質量体13xおよび13yの両方を用いても良く、このときは、回転トルクを除去するために必要な質量体のストロークが分散されるので、質量体のストロークを短くすることができる。質量体13x、13yの両方を用いて回転トルクを除去するような構成であれば、一方の質量体の絶対位置または相対位置が所定の値を超えたときに、質量体の絶対位置または相対位置を戻しながら、他方の質量体を用いて回転トルクを除去するようにすれば良い。
【0038】
なお、上述の説明では、回転トルク除去時に生じる質量体の位置ずれを補償しているが、質量体の位置ずれが蓄積されて質量体がストローク範囲以上に移動することは、並進方向の慣性力を除去するときにも想定される。そのため、上述した質量体の引き戻し補償系(位置補償制御系)を、回転トルク制御系(反力補償制御系)だけでなく、定盤に発生する並進方向の慣性力を打消すための重心・反力補償系(反力補償制御系)に用いても良い。
【0039】
以上述べたように、本実施形態によれば、XYステージの加減速時に定盤9に作用するX方向、Y方向およびθ方向の駆動反力は、質量体13x、13yを反対方向に駆動し逆向きの駆動反力を発生させることにより打消され、鏡筒支持体4に伝達される振動を軽減させることができる。また、質量体13x、13yをそれぞれX方向駆動反力、Y方向駆動反力の作用軸上に配置することによって、回転トルクの発生を防止することができる。したがって、防振マウントに支持された装置全体および装置に搭載された機構系各部の固有振動の励起を抑制することができる。なお、除振マウントは、エアーマウントに限られるものではなく、振動を除去する機能があるものであれば良い。特に、アクティブマウントであれば、除去できる振動の範囲が広がり、質量体の位置ずれを補償するときに有利である。
【0040】
また、本実施形態によれば、回転トルク除去のために生じる質量体13x、13yの位置ずれは、ステージの位置決め精度や露光装置の露光精度に影響を与えないように戻すように制御することで、質量体の駆動ストロークを小さくすることができる。なお、質量体がストローク範囲以上に移動することは、回転トルク除去時だけでなく、並進方向の慣性力を除去するときにも想定される。そのため、上述した選択手段を用いた質量体の制御を、定盤に発生する並進方向の慣性力を打消すための質量体の制御に用いても良い。この場合、図8の引き戻し補償系(位置補償制御系)をトルク補償系だけでなく、重心・反力補償系に設けることが望ましい。
【0041】
<実施形態2>
図9は、本発明の第2実施形態の露光装置の正面図であり、図10は図9に用いられるステージ部分の上面図である。
【0042】
同図において、前述の実施形態と同じ部材には同一の番号をつけている。
【0043】
図中、15はステージベース8を支持するために4ヶ所に配置された防振マウントである。12は、防振マウント11を介して鏡筒支持体4を支持し、かつマウント15を介してステージベース8を支持する基台である。質量体13を支持案内するガイド14x1、14x2、14y1、14y2は、ステージベース8にそれぞれ固定されている。各質量体13を駆動するときに発生する力の作用軸は、トップステージ5、XYステージ6、可動ガイド7をXY方向に駆動するときに発生する力の作用平面と平行であり、また、作用平面の鉛直方向に対してほぼ一致するように配置されている。また、各質量体の発生する力の作用軸は、ステージベース8と一体に固定された構造物の重心軸Gから離れて配置されており、例えば、対向する質量体13y1、13y2を逆方向に駆動することにより、効果的に構造体に回転方向の慣性力を与えることが可能である。
【0044】
上記の構成の露光装置においても、第1実施形態と同様にXYステージ6およびトップステージ5を所定の位置に移動するときの加減速に応じて質量体13(13x、13y)を駆動しステージベース8に慣性力を付与することにより、ステージベース8に励起される振動を軽減することができ、防振マウント15に支持されたウエハステージ系の固有振動が励起されない。また、鏡筒支持体4は防振マウント15および防振マウント11によりウエハステージと振動絶縁されているため、装置機構系各部の固有振動が励起されず、投影レンズ、レーザ計測システムおよびフォーカス検出システムに振動が伝達されない。
【0045】
さらに、図8と同様の制御系を用いることにより、質量体のストロークを短くすることができる。
【0046】
本実施形態の露光装置によっても、前述の実施形態と同様の効果が得られるので、高速高精度な位置決めを達成できる。
【0047】
<実施形態3>
図11は、本発明の第3実施形態の露光装置に用いられるステージ部分の上面図である。
同図において、前述の実施形態と同じ部材には同一の番号をつけている。
【0048】
図中、13x、13y1、13y2は、定盤9に慣性力を付与するための質量体である。14x、14y1、14y2は、質量体13x、13y1、13y2を支持案内するガイドであり、定盤9にそれぞれ固定されている。各質量体13を駆動するときに発生する力の作用軸は、トップステージ5、XYステージ6、可動ガイド7をXY方向に駆動するときに発生する力の作用平面と平行であり、また、作用平面の鉛直方向に対してはほぼ一致するように配置されている。また、各質量体の発生する力の作用軸は、ステージベース8、投影レンズ3、鏡筒支持体4等を含む、定盤9と一体に固定された構造物の重心軸Gから離れて配置されており、効果的に構造体に回転方向の慣性力を与えることが可能である。
【0049】
上記の構成の露光装置において、XYステージをX方向に駆動するときに発生する駆動反力を打消すときは、質量体13xを駆動するが、質量体が片側にしかついていないために、回転トルク成分については補償することができない。そこで、回転トルク成分については、13y1、13y2を駆動することにより補償する。XYステージをY方向に駆動するときは、質量体13y1、13y2を駆動することにより反力を打消す。
【0050】
さらに、図8と同様の制御系を用いることにより、質量体のストロークを短くすることができる。
【0051】
本実施形態の露光装置によっても、前述の実施形態と同様の効果が得られるので、高速高精度な位置決めを達成できる。
【0052】
<実施形態4>
図12は、本発明の第4実施形態の露光装置に用いられるステージ部分の上面図である。
同図において、前述の実施形態と同じ部材には同一の番号を付けている。
【0053】
図中、13a、13b、13cは、定盤9に慣性力を付与するための質量体である。14a、14b、14cは、質量体13a、13b、13cを支持案内するガイドであり、定盤9にそれぞれ固定されている。各質量体13を駆動するときに発生する力の作用軸は、トップステージ5、XYステージ6、可動ガイド7をXY方向に駆動するときに発生する力の作用平面と平行であり、また、作用平面の鉛直方向に対してはほぼ一致するように配置されている。また、各質量体の発生する力の作用軸は、ステージベース8、投影レンズ3、鏡筒支持体4等を含む、定盤9と一体に固定された構造物の重心軸Gから離れて配置されており、例えば13bと13cを逆方向に駆動すれば、構造体に回転方向の慣性力を与えることが可能である。
【0054】
上記の構成において、各質量体の駆動方向は、必ずしもX軸Y軸とは一致していないため、XYステージの移動方向によらず、3つの質量体を適切に駆動して、慣性力および回転トルクを補償する必要がある。
【0055】
本実施形態においても、図8と同様の制御系を用いることにより、質量体のストロークを短くすることができる。
【0056】
本実施形態においても、前述の実施形態と同様の効果が得られるので、高速高精度な位置決めを達成できる。
【0057】
<実施形態5>
図13は、本発明の第5実施形態の露光装置に用いられるステージ部分の上面図である。
同図において、前述の実施形態と同じ部材には同一の番号をつけている。
【0058】
本実施形態においては、X軸方向に移動する質量体を具備していない。また、質量体13y1、13y2の移動方向と平行な方向が、スキャン露光装置の走査方向となっている。
【0059】
本実施形態の特徴としては、スキャン露光方向と平行に移動可能な質量体を2つを、前述した実施形態と同様に駆動することにより、スキャン露光中に発生する駆動反力と回転トルクを打消すことができる。X軸方向のステージの移動については、反力を補償することはできないが、スキャン露光中の走査方向はY軸方向であるため、X軸方向については防振マウントにより露光時に振動が減衰されていれば良い。
【0060】
本実施形態においても、図8と同様の制御系を用いることにより、質量体のストロークを短くすることができる。
【0061】
本実施形態によれば、ステージ装置を簡略化できるほか、前述の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0062】
<実施形態6>
次に上記説明した露光装置を利用した半導体デバイスの製造方法の実施例を説明する。図14は半導体デバイス(ICやLSI等の半導体チップ、あるいは液晶パネルやCCD等)の製造フローを示す。ステップ1(回路設計)では半導体デバイスの回路設計を行なう。ステップ2(マスク製作)では設計した回路パターンを形成したマスクを製作する。ステップ3(ウエハ製造)ではシリコン等の材料を用いてウエハを製造する。ステップ4(ウエハプロセス)は前工程と呼ばれ、上記用意したマスクとウエハを用いて、リソグラフィ技術によってウエハ上に実際の回路を形成する。ステップ5(組み立て)は後工程と呼ばれ、ステップ14によって作製されたウエハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の工程を含む。ステップ6(検査)ではステップ5で作製された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行なう。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、これが出荷(ステップS7)される。
【0063】
図15は上記ウエハプロセスの詳細なフローを示す。ステップ11(酸化)ではウエハの表面を酸化させる。ステップ12(CVD)ではウエハ表面に絶縁膜を形成する。ステップ13(電極形成)ではウエハ上に電極を蒸着によって形成する。ステップ14(イオン打込み)ではウエハにイオンを打ち込む。ステップ15(レジスト処理)ではウエハに感光剤を塗布する。ステップ16(露光)では上記説明した露光装置によってマスクの回路パターンをウエハに焼付露光する。ステップ17(現像)では露光したウエハを現像する。ステップ18(エッチング)では現像したレジスト像以外の部分を削り取る。ステップ19(レジスト剥離)ではエッチングが済んで不要となったレジストを取り除く。これらのステップを繰り返し行なうことによって、ウエハ上に多重に回路パターンが形成される。本実施例の製造方法を用いれば、従来は製造が難しかった高集積度の半導体デバイスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1実施形態の露光装置の正面図
【図2】第1実施形態の位置決めステージ装置の上面図
【図3】慣性力付与機構の断面図
【図4】第1実施形態の測定系の斜視図
【図5】第1実施形態の制御系のシステム図
【図6】第1実施形態の駆動説明図
【図7】ステージが重心周りに駆動したときの質量体の移動に関する説明図
【図8】質量体駆動制御ブロック図
【図9】第2実施形態の露光装置の正面図
【図10】第2実施形態の露光装置に用いられるステージ部分の上面図
【図11】第3実施形態の露光装置に用いられるステージ部分の上面図
【図12】第4実施形態の露光装置に用いられるステージ部分の上面図
【図13】第5実施形態の露光装置に用いられるステージ部分の上面図
【図14】半導体デバイス製造フロー図
【図15】ウエハプロセスフロー図
【図16】従来のステージ装置の上面図
【符号の説明】
【0065】
1 照明部
2 レチクル
3 投影レンズ
4 鏡筒支持体
5 トップステージ
6 XYステージ
7 可動ガイド
8 ステージベース
9 定盤
10 ヨーガイド
11 エアーマウント
13 質量体
14 ガイド
16 フォーカス検出部
22 リニアモータ固定子
23 リニアモータ可動子
31 レーザヘッド
32 反射ミラー
33 レーザ干渉系
34 レシーバ
51 静圧軸受
52 リニアモータ可動子
53 リニアモータ固定子
41、42 目標値発生手段
43 慣性力コントローラ
44 回転トルクコントローラ
45 相対距離コントローラ
46 選択手段
47 選択手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準面を有するステージベースと、
該ステージベースおよび該ステージベースと一体の構造物を支持する除振機構と、
該基準面に沿って移動可能なステージと、
該ステージベースまたは該構造物に対して移動可能な複数の質量体と該複数の質量体を駆動する質量体駆動機構を備え、該ステージベースまたは該構造物に対して慣性力を付与する慣性力付与機構とを有し、
該慣性力付与機構は、前記複数の質量体の位置を計測する位置計測手段と、該ステージの移動に伴って発生する反力を軽減するための信号を生成し該質量体駆動機構に出力する反力補償制御系と、前記位置計測手段の出力に基づいて、前記反力補償制御系に基づいて前記質量体駆動機構を駆動して慣性力を付与したときに蓄積される前記複数の質量体の相対距離を低減するための信号を生成し該質量体駆動機構に出力する位置補償制御系と、前記位置補償制御系の出力の一部を選択して出力する選択手段とを備え、該選択手段の出力に基づいて前記質量体駆動機構が制御されることを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記慣性力付与機構は、並進方向及び回転方向の慣性力を付与するものであり、前記位置補償制御系は前記反力補償制御系に基づいて前記質量体駆動機構を駆動して前記回転方向の慣性力を付与したときに蓄積される前記複数の質量体の相対距離を低減するための信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記選択手段はローパスフィルタであることを特徴とする請求項1または2に記載の位置決め装置。
【請求項4】
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は、前記除振機構が有効に作用する周波数と同じ、もしくはそれよりも低く設定されることを特徴とする請求項3に記載の位置決め装置。
【請求項5】
前記反力補償制御系の出力の一部を選択して出力する第2選択手段を備えることを特徴とする請求項3または4に記載の位置決め装置。
【請求項6】
前記第2選択手段はハイパスフィルタであることを特徴とする請求項5に記載の位置決め装置。
【請求項7】
前記選択手段に所定の信号を除去するリミッタまたは不感帯が設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の位置決め装置。
【請求項8】
前記第1選択手段及び前記第2選択手段の出力のうち前記質量体駆動機構の制御に用いる出力を切り替える切り替え手段を備えることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一方に記載の位置決め装置。
【請求項9】
前記切り替え手段は、前記位置計測手段の出力に基づいて切り替えることを特徴とする請求項8に記載の位置決め装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の位置決め装置を用いて、レチクルステージ装置またはウエハステージ装置のうちの少なくとも一方を構成することを特徴とする露光装置。
【請求項11】
請求項7に記載の位置決め装置を用いてレチクルステージ装置またはウエハステージ装置のうちの少なくとも一方を構成する露光装置であって、前記リミッタまたは不感帯により露光に影響を与える振動レベルが除去されることを特徴とする露光装置。
【請求項12】
請求項10または11に記載の露光装置を用意する工程と、
前記露光装置を用いてレチクルパターンをウエハ上に投影する工程と、ウエハに感光剤を塗布する工程と、露光したウエハを現像する工程とを有することを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−134252(P2008−134252A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305992(P2007−305992)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【分割の表示】特願平11−4069の分割
【原出願日】平成11年1月11日(1999.1.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】