説明

内燃機関の可変動弁装置

【課題】内燃機関の暖機後の低回転低負荷時における燃焼安定性や燃費の悪化を防止でき、内燃機関の運転性能の向上を図ることの可能な内燃機関の可変動弁装置を提供する。
【解決手段】スプリット可変機能を有するカム位相可変機構を備えた内燃機関の可変動弁装置において、内燃機関の運転が所定の極低回転低負荷域にあるときには、第2の吸気バルブの閉弁時期が最遅角位置となる位相よりも進角側(S1)に第2の吸気カムの位相が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の可変動弁装置に係り、吸排気バルブの開閉時期の最適化を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バルブの開閉時期(カムの位相)を変化させる可変動弁装置として、カム位相可変機構を備えた内燃機関(エンジン)が増加してきている。更に、1つの気筒にバルブが複数備えられた内燃機関に上記カム位相可変機構を採用し、内燃機関の運転状態に応じて複数のバルブの一部のみ開閉時期を変化(スプリット)させる技術が開発されている(特許文献1参照)。
このように1つの気筒の複数のバルブの一部のみ開閉時期を変化させることが可能であると、複数のバルブを連続的に開弁させるようにでき、例えば吸気バルブにおいて吸気バルブの開弁期間を広くして自由度の高いバルブ制御を実施でき、内燃機関の運転性能の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−144521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、内燃機関が低回転低負荷状態である場合には、吸気バルブに関して言えば、閉弁時期をより遅角させることでポンピングロスを低減できることから、吸気バルブの閉弁時期については最遅角位置とすることが好ましいと考えられている。これより、上記特許文献1においても、内燃機関が始動時やアイドル運転時等の低回転低負荷状態にあるときには、複数(ここでは二つ)の吸気バルブのうち開閉時期を変化可能な一方を最遅角位置に制御するようにしている。
【0005】
しかしながら、発明者らの研究によれば、温態アイドル運転時等の内燃機関の暖機後の極低回転低負荷時において、複数の吸気バルブのうち開閉時期を変化可能な一方を上記の如く最遅角位置に制御するようにすると、ポンピングロスについては低減されるものの、却って燃焼が不安定になったり燃費が悪化したりする現象が起こることが確認された。このように内燃機関の暖機後の極低回転低負荷時において燃焼安定性や燃費が悪化すると、特にアイドル運転は実施頻度が高いことから、内燃機関の運転性能の向上を十分に図ることができず好ましいことではない。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、内燃機関の暖機後の極低回転低負荷時における燃焼安定性や燃費の悪化を防止でき、内燃機関の運転性能の向上を図ることの可能な内燃機関の可変動弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の内燃機関の可変動弁装置は、1つの気筒に第1の吸気カムにより駆動する第1の吸気バルブと第2の吸気カムにより駆動する第2の吸気バルブとを有し、前記第1の吸気カムに対して前記第2の吸気カムの位相を可変するカム位相可変機構を備えた内燃機関の可変動弁装置において、前記カム位相可変機構を制御する位相可変制御手段を備え、該位相可変制御手段は、前記内燃機関の運転が所定の極低回転低負荷域にあるとき、前記第2の吸気バルブの閉弁時期が最遅角位置となる位相よりも進角側に前記第2の吸気カムの位相を制御することを特徴とする。
【0008】
請求項2の内燃機関の可変動弁装置では、請求項1において、前記第2の吸気バルブの閉弁時期は、前記所定の極低回転低負荷域よりも回転及び負荷が大きい低回転低負荷域で前記最遅角位置とされることを特徴とする。
請求項3の内燃機関の可変動弁装置では、請求項1または2において、前記内燃機関は吸入空気量を調節するスロットルバルブを吸気通路に備え、前記位相可変制御手段は、さらに前記スロットルバルブを前記第2の吸気バルブの閉弁時期が最遅角位置となるときよりも閉じ側に制御することを特徴とする。
【0009】
請求項4の内燃機関の可変動弁装置では、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記カム位相可変機構は、パイプ部材で形成されたアウタカムシャフト内にインナカムシャフトを回動可能に収めて構成され、前記内燃機関のクランク出力により駆動可能なシャフト部材を有し、前記アウタカムシャフトの外周部に前記第1の吸気カムが設けられるとともに、前記アウタカムシャフトの軸心周りに回動可能に前記第2の吸気カムが設けられ、前記アウタカムシャフトと前記インナカムシャフトとの相対変位にて、前記第2の吸気カムの位相が前記第1の吸気カムを基準に可変するよう構成されており、前記位相可変制御手段は、前記シャフト部材の駆動トルク変動が、前記最遅角位置よりも進角側にて該最遅角位置における駆動トルク変動よりも小さくなるような所定の位相範囲内に、前記第2の吸気カムの位相を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1の内燃機関の可変動弁装置によれば、第1の吸気カムに対して第2の吸気カムの位相を可変するスプリット可変機能を有するカム位相可変機構を備えた内燃機関の可変動弁装置において、内燃機関の運転が所定の極低回転低負荷域にあるときには、第2の吸気バルブの閉弁時期が最遅角位置となる位相よりも進角側に第2の吸気カムの位相が制御される。
これにより、極低回転低負荷域においては、スプリット可変機能を有するカム位相可変機構により第2の吸気カムの位相を遅角させて行くと、インテークマニフォールド圧を精密に制御しながらポンピングロスを良好に低下させることができる一方、燃焼安定性や燃費が悪化するという現象が生じるのであるが、このような極低回転低負荷域において第2の吸気バルブの閉弁時期が最遅角位置となる位相よりも進角側に第2の吸気カムの位相が制御されることで、燃焼安定性や燃費の悪化を防止でき、内燃機関の運転性能の向上を図ることができる。
【0011】
請求項2の内燃機関の可変動弁装置によれば、第2の吸気バルブの閉弁時期は、所定の極低回転低負荷域よりも回転及び負荷が大きい低回転低負荷域で最遅角位置とされるので、低回転低負荷域において、第2の吸気バルブの閉弁時期遅延により実圧縮比を低下させてポンピングロスを良好に低減でき、筒内流動強化を進めて燃費を良化させることができる。
請求項3の内燃機関の可変動弁装置によれば、スロットルバルブを第2の吸気バルブの閉弁時期が最遅角位置となるときよりも閉じ側に制御するので、負圧を大きくして燃料の気化を促進させることができ、燃焼安定性や燃費の悪化をさらに防止できる。
【0012】
請求項4の内燃機関の可変動弁装置によれば、パイプ部材で形成されたアウタカムシャフト内にインナカムシャフトを回動可能に収めて構成され、内燃機関のクランク出力により駆動可能なシャフト部材を有したカム位相可変機構において、シャフト部材の駆動トルク変動が最遅角位置よりも進角側にて該最遅角位置における駆動トルク変動よりも小さくなるような所定の位相範囲内に第2の吸気カムの位相を制御するので、シャフト部材の駆動トルク変動が大きいと潤滑油の潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑或いは境界潤滑になり易く駆動フリクションが大きくなり易いのであるが、シャフト部材の駆動トルク変動が小さくなるように第2の吸気カムの位相を制御することで、駆動フリクションを低減でき、燃焼安定性や燃費の悪化を良好に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る内燃機関の可変動弁装置を示す概略構成図である。
【図2】第1のカム位相可変機構と第2のカム位相可変機構との作動制御を行うためのマップである。
【図3】作動制御が低回転低負荷域で行われる場合のエンジンのクランク角と第1の吸気バルブ、第2の吸気バルブ及び排気バルブのバルブリフト量との関係を示す図である。
【図4】第2の吸気バルブの閉弁時期と燃焼安定性、インテークマニフォールド圧(インマニ圧)、ポンピングロス及び燃費との関係を示す図である。
【図5】ストライベック線図である。
【図6】エンジン回転速度Neとバルブフリクションと潤滑油の温度との関係を示す図である。
【図7】第1の吸気バルブと第2の吸気バルブとのスプリット量と吸気カムシャフトに掛かるトルクとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1は本発明に係る内燃機関の可変動弁装置を示す概略構成図であって、エンジン1のシリンダヘッド2内の構造を示す上面図である。
エンジン1は、例えばDOHC式の動弁機構を有する直列4気筒のエンジンである。図1に示すように、シリンダヘッド2の内部に回転自在に支持された排気カムシャフト3及び吸気カムシャフト4には、夫々カムスプロケット5、6が接続され、これらのカムスプロケット5、6はチェーン7を介して図示しないクランクシャフトに連結されている。
【0015】
エンジン1の1つの気筒8には、2つの吸気バルブ9、10と図示しない2つの排気バルブとが設けられている。2つの吸気バルブ9、10は、吸気カムシャフト4に交互に配置された第1の吸気カム11及び第2の吸気カム12により駆動される。詳しくは、2つの吸気バルブのうち第1の吸気バルブ9は第1の吸気カム11に、第2の吸気バルブ10は第2の吸気カム12により駆動される。一方、2つの排気バルブは、排気カムシャフト3に固定されたそれぞれの排気カム13により駆動される。
【0016】
吸気カムシャフト4は、中空状のアウタカムシャフトと、このアウタカムシャフトに挿入されたインナカムシャフトとを備えた2重構造となっている。アウタカムシャフト及びインナカムシャフトは、若干の隙間を有しつつ同心状に配置され、エンジン1のシリンダヘッド2に形成された複数のカムジャーナル23に回動可能に支持されている。
アウタカムシャフトには第1の吸気カム11が固定されている。また、アウタカムシャフトには第2の吸気カム12が回動可能に支持され、当該第2の吸気カム12とインナカムシャフトとはアウタカムシャフトの周方向に延びた長孔を貫通する固定ピンにより固定されている。これより、第1の吸気カム11はアウタカムシャフトの回転により駆動し、第2の吸気カム12はインナシャフトの回転により駆動する。
【0017】
吸気カムシャフト4には、第1のカム位相可変機構30及び第2のカム位相可変機構(本発明に係るカム位相可変機構)31が設けられている。第1のカム位相可変機構30及び第2のカム位相可変機構31には、例えば公知のベーン式油圧アクチュエータが用いられている。ベーン式油圧アクチュエータは、円筒状のハウジング(カバー)内にベーンロータが回動可能に設けられて構成されており、油圧ユニット50から電磁油圧バルブ52、54を経てハウジング内へ供給される作動油量、即ち作動油圧に応じて、ハウジングに対するベーンの回転角度を可変させる機能を有する。
【0018】
第1のカム位相可変機構30は吸気カムシャフト4の前端に設けられており、第1のカム位相可変機構30のハウジングにはカムスプロケット6が固定され、第1のカム位相可変機構30のベーンロータには上記アウタカムシャフトが固定されている。
第2のカム位相可変機構31は吸気カムシャフト4の後端に設けられており、第2のカム位相可変機構31のハウジングにはアウタカムシャフトが固定され、第2のカム位相可変機構31のベーンロータにはインナカムシャフトが固定されている。
【0019】
このような構成により、第1のカム位相可変機構30は、カムスプロケット6に対してアウタカムシャフトの回転角を可変させる機能を有する一方、第2のカム位相可変機構31は、アウタカムシャフトに対してインナカムシャフトの回転角を可変させる機能を有する。即ち、第1のカム位相可変機構30は、排気バルブの開閉時期に対して第1の吸気バルブ9及び第2の吸気バルブ10全体の開閉時期を可変させる機能を有し、第2のカム位相可変機構31は、第1の吸気バルブ9の開閉時期と第2の吸気バルブ10の開閉時期との位相差(スプリット量)を可変させるスプリット可変機能を有する。
【0020】
シリンダヘッド2には、アウタカムシャフトの実回転角を検出する第1のカムセンサ32が取り付けられている。この第1のカムセンサ32からの情報に基づいて、油圧バルブ52の開度を調整し、第1のカム位相可変機構30の作動制御を行うことが可能である。
吸気カムシャフト4の後端はシリンダヘッド2の後壁2aを貫通しており、第2のカム位相可変機構31は、シリンダヘッド2の外方に配置され、アクチュエータカバー40に覆われている。
【0021】
アクチュエータカバー40には、第2のカム位相可変機構31のベーンロータの回転タイミングを検出することでインナカムシャフトの実回転角を検出する第2のカムセンサ45が取り付けられている。
これより、第2のカムセンサ45からの情報と上記第1のカムセンサ32からの情報とに基づいて、インナカムシャフトとアウタカムシャフトとの実回転角差を検出することができ、この実回転角差に基づいて電磁油圧バルブ54の開度を調整し、第2のカム位相可変機構31の作動制御を行うことが可能である。
【0022】
電子コントロールユニット(ECU)60は、エンジン1の各種制御を行う制御装置であり、CPU、メモリ等から構成されており、入力側には、上記第1のカムセンサ32、第2のカムセンサ45の他、エンジン1のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ(APS)62、エンジン1のクランク角を検出するクランク角センサ64等の各種センサ類が接続され、出力側には、上記電磁油圧バルブ52、54等の他、吸入空気量を調節すべく吸気通路に設けられたスロットルバルブ66等の各種デバイス類が接続されている。なお、APS62により検出されるアクセル開度情報に基づきエンジン負荷が検出され、クランク角センサ64により検出されるクランク角情報に基づきエンジン回転速度Neが検出される。
【0023】
以下、このように構成された本発明に係る内燃機関の可変動弁装置の作用について説明する。
第1のカム位相可変機構30と第2のカム位相可変機構31とは、図2に示すマップに基づき、エンジン1の運転状態、即ちエンジン負荷とエンジン回転速度Neとに応じてECU60により作動制御される(位相可変制御手段)。
図2のマップに示すように、第1のカム位相可変機構30と第2のカム位相可変機構31の作動制御は、エンジン1の始動及び暖機運転を行う領域X、エンジン負荷及びエンジン回転速度Ne共に小さい低回転低負荷域の領域A、エンジン負荷が大きくエンジン回転速度Neが小さい低回転高負荷域の領域B、エンジン回転速度Neが大きい高回転域の領域Cに分けて実施される。
【0024】
先ずエンジン1の始動及び暖機運転に対応する領域Xでは、油圧ユニット50から十分な油圧供給がないので、第1のカム位相可変機構(図中第1VVTで示す)30は最遅角位置に、第2のカム位相可変機構(図中第2VVTで示す)31は最進角位置に固定するロックピンによって位相が維持される。
領域Aでは、上記領域Xでのエンジン1の始動及び暖機時とは異なり、APS62からのアクセル開度情報に基づき、第1のカム位相可変機構30を最遅角位置に制御し、第2のカム位相可変機構31については任意の位相に制御する。具体的には、エンジン回転速度Neが所定値N0以上所定値N1未満である場合は、制御性油圧ユニット50からの油圧供給が少ないので、第1のカム位相可変機構30と第2のカム位相可変機構31を比較すると、位相可変するバルブの数が少ない第2のカム位相可変機構31の方が高い制御性が得られるため、第1のカム位相可変機構30をロックピンによる位相維持、もしくは油圧によって最遅角位置に制御し、第2のカム位相可変機構31については任意の位相に制御する。また、エンジン負荷が所定値L1未満且つエンジン回転速度Neが所定値N1以上所定値N2未満である場合でも、第1のカム位相可変機構30を最遅角位置に制御し、第2のカム位相可変機構31については任意の位相に制御する。
【0025】
領域Bでは、第1のカム位相可変機構30を任意遅角位置に制御し、第2のカム位相可変機構31については最進角位置に制御する。具体的には、APS62からのアクセル開度情報に基づきエンジン負荷が所定値L1以上且つエンジン回転速度Neが所定値N1以上所定値N2未満である場合に、第1のカム位相可変機構30を任意遅角位置に制御し、第2のカム位相可変機構31については最進角位置に制御する。
領域Cでは、上記領域Xでの場合と同様、第1のカム位相可変機構30を最遅角位置に制御し、第2のカム位相可変機構31については最進角位置に制御する。具体的には、エンジン回転速度Neが所定値N2以上である場合に、第1のカム位相可変機構30を最遅角位置に制御し、第2のカム位相可変機構31については最進角位置に制御する。
【0026】
即ち、エンジン負荷及びエンジン回転速度Ne共に小さい領域Aでは、第1のカム位相可変機構30を最遅角位置に固定して第2のカム位相可変機構31を優先的に制御するようにし、エンジン負荷が大きくエンジン回転速度Neが小さい領域Bでは、第2のカム位相可変機構31を最進角位置に固定して第1のカム位相可変機構30を優先的に制御するようにし、エンジン回転速度Neが大きい領域Cでは、第1のカム位相可変機構30及び第2のカム位相可変機構31をそれぞれ最遅角位置、最進角位置に固定するようにしている。
【0027】
このように第1のカム位相可変機構30及び第2のカム位相可変機構31の少なくともいずれか一方を固定して他方を制御するようにすると、作動油圧の供給を第1のカム位相可変機構30及び第2のカム位相可変機構31の双方へ同時にすることなく第1のカム位相可変機構30及び第2のカム位相可変機構31の少なくとも一方に限定でき、領域A、B、Cのいずれにおいても、作動油圧の供給変動の発生を抑え、第1のカム位相可変機構30及び第2のカム位相可変機構31をともに安定して精度よく制御できる。
【0028】
これにより、第1の吸気バルブ9と第2の吸気バルブ10とを連続的に滑らかに自由に作動させて開弁期間を広くでき、エンジン1において、インテークマニフォールド圧を精密に制御しながらポンピングロスを良好に低下させるようにでき、エンジン出力の向上と燃費の低減とを図ることができる。
ところで、エンジン負荷及びエンジン回転速度Ne共に小さい上記領域Aでは、第2のカム位相可変機構31についてみると、領域Aの中心部分では最遅角位置に制御する一方、領域Aの外周部分では矢視の如く中心部分から離れるほど進角させて任意の遅角位置に制御するようにしている。
【0029】
また、図2に破線で示すように、領域Aは、さらにエンジン負荷及びエンジン回転速度Ne共に極めて小さい領域A1とそれ以外の領域A2とに分けられており、領域A1が温態アイドル域も含む暖機後の極低回転低負荷域を示し、領域A2が通常の低回転低負荷域を示している。
領域A1の極低回転低負荷域は、領域Aの中心部分から離れた領域Aの外周部分に位置することから、この極低回転低負荷域である領域A1では、上述した如く第1のカム位相可変機構30については最遅角位置に制御する一方、第2のカム位相可変機構31については最遅角位置ではなく、これよりも進角側の任意の遅角位置に制御する。
【0030】
ここで図3を参照すると、作動制御が上記領域Aで行われる場合のエンジン1のクランク角と第1の吸気バルブ9、第2の吸気バルブ10及び排気バルブのバルブリフト量との関係が示されており、(a)が例えば領域Xでのエンジン1の始動及び暖機時と同様に第2のカム位相可変機構31を最進角位置に制御して第1の吸気バルブ9と第2の吸気バルブ10との閉時期を進角側とし、実圧縮比を高めることで着火性を高め、燃焼安定を図る場合、(b)が領域A1の極低回転低負荷域で第2のカム位相可変機構31を任意の遅角位置に制御し、吸気バルブの閉弁時期遅延によりポンピングロス低減しつつ、第1と第2の吸気バルブの開弁期間がずれることによる筒内流動強化と閉弁時期による実圧縮比のバランスにより燃焼安定化と高めて、燃費を良化させる場合、(c)が領域A2のうち領域Aの中心部分で第2のカム位相可変機構31を最遅角位置に制御して第1の吸気バルブ9の開閉時期と第2の吸気バルブ10の開閉時期の位相差、即ちスプリット量を最大にし、吸気バルブの閉弁時期遅延による実圧縮比を最も低下させ、ポンピングロスも最も低減し、筒内流動強化を進めて、燃費を良化させる場合をそれぞれ示している。
【0031】
このように領域A1の極低回転低負荷域において第2のカム位相可変機構31を最遅角位置ではなく任意の遅角位置に制御するのは、極低回転低負荷域で第2のカム位相可変機構31を最遅角位置にして第1の吸気バルブ9と第2の吸気バルブ10とのスプリット量を最大にすると、却って燃焼安定性が悪化し、それに伴い燃費が悪化する傾向にあることが確認されたことに基づいている。
図4を参照すると、第2の吸気バルブ10の閉弁時期と燃焼安定性、インテークマニフォールド圧(インマニ圧)、ポンピングロス及び燃費との関係が実験値として示されているが、同図によれば、第2のカム位相可変機構31ひいては第2の吸気バルブ10の閉弁時期を遅角させて行くと、インテークマニフォールド圧を精密に制御しながらポンピングロスを良好に低下させることができる一方、燃焼安定性の悪化に合わせて燃費が悪化していることが分かる。
【0032】
極低回転低負荷域で第2のカム位相可変機構31を遅角させていくと燃焼安定性や燃費が悪化するのは、ポンピングロス低減による効果よりも、実圧縮比が低下することによる燃焼悪化と、筒内流動が強化され過ぎたための熱損失増大が要因と考えられる。
これより、極低回転低負荷域では、第2のカム位相可変機構31を最遅角位置ではなく任意の遅角位置、例えば図4において燃焼安定性や燃費が最も良くなる位置S1或いは位置S1辺りの所定の位相範囲内の位置に制御するようにしている。
【0033】
加えて、第2のカム位相可変機構31を最遅角位置ではなく任意の遅角位置、例えば図4において燃焼安定性や燃費が最も良くなる位置S1或いは位置S1辺りの所定の位相範囲内の位置に制御する場合では、併せてスロットルバルブ66を閉じ側に制御する。これにより、インテークマニフォールド圧ひいては燃焼室内の負圧が大きくなり、燃料の気化を促進させることができ、燃焼安定性をさらに向上させることができる。
また、極低回転低負荷域で第2のカム位相可変機構31を遅角させていくと燃焼安定性や燃費が悪化するのは、さらには吸気カムシャフト4や吸気バルブ9、10での潤滑油の潤滑状態が変動することによるフリクション増大のためとも考察され、以下説明する。
【0034】
図5を参照すると、潤滑油の粘度、摺動速度及び変動荷重{(粘度)×(摺動速度)/(変動荷重)}と潤滑状態との関係を示す所謂ストライベック線図が示されているが、同図から分かるように、潤滑油の粘度が小さくなるほど、摺動速度が小さくなるほど、変動荷重が大きくなるほど潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑または境界潤滑となり、摩擦係数μが大きくなる。
バルブ駆動フリクションは図6のとおり、エンジン回転速度Neが極低回転になるほどバルブ駆動フリクションは上昇する傾向にあり、さらに極低回転域では潤滑油の温度が高く潤滑油の粘度が低いほどバルブ駆動フリクションが大きくなる傾向にあり、一般的なフリクションと反対となる。
【0035】
これは、上記図5に基づけば、暖機後の極低回転低負荷域では、そもそもエンジン回転速度Neが小さく滑り速度が遅いために境界潤滑もしくは混合潤滑になり易く、潤滑油の温度が高く潤滑油の粘度が低いほど境界潤滑もしくは混合潤滑になり易いため、摩擦係数μが大きくなり、バルブ駆動フリクションが増大したものである。これにより、さらに燃費が悪化する。
加えて、極低回転低負荷域において吸気カムシャフト4を駆動する際に変動荷重が生じる。吸気カム駆動トルクを示す図7には、第1の吸気バルブ9と第2の吸気バルブ10とのスプリット量と吸気カムシャフト(シャフト部材)4に掛かるトルクの振幅での最大トルク値(実線)及び最小トルク値(破線)を示しており、第2の吸気バルブ10の閉弁時期がスプリット量の大きい最遅角位置である場合よりもスプリット量がそれほど大きくない上記位置S1辺りの方が、吸気カムシャフト4を駆動する最大トルクは小さく、トルク振幅、即ち変動荷重が小さいことが分かる。
【0036】
即ち、上記図5に基づけば、スプリット量の大きな最遅角位置である場合には吸気カムシャフト4を駆動するトルク変動荷重が大きいために吸気カムシャフト4を駆動するシステムまたは、吸気カムシャフト4を回転支持する部位の潤滑状態が境界潤滑もしくは混合潤滑になり易く、摩擦係数μが大きくなってバルブ駆動フリクションが増大し、燃費を悪化させるといえ、一方、スプリット量がそれほど大きくない上記位置S1辺りでは、吸気カムシャフト4を駆動するトルク変動荷重は小さく流体潤滑を確保し易く、摩擦係数μが小さく維持されて駆動フリクションは小さくなり、燃費の悪化が防止される。
【0037】
このような理由からも、極低回転低負荷域では、上述の如く第2のカム位相可変機構31を最遅角位置ではなく、これよりも進角側の任意の遅角位置、例えば図4において第2の吸気バルブ10の閉弁時期遅延によるポンピングロス低減と第1の吸気バルブ9及び第2の吸気バルブ10の開弁期間がずれることによる筒内流動強化と閉弁時期による実圧縮比のバランスが良く燃焼が安定し且つバルブ駆動フリクションが小さく燃費が最も良くなる位置S1或いは位置S1辺りの所定の位相範囲内の位置に制御することで、低回転低負荷域、特に極低回転低負荷域において、エンジン1の低燃費と運転性能のバランスを向上させることができる。
【0038】
なお、図7では吸気カム駆動トルクを示したが、DOHCの場合は吸気カム駆動トルクと排気カム駆動トルクとに基づいて、V型エンジンではバンク間を合成したトルクがクランクによって駆動するトルクとなるため、これらの合成した駆動トルクに基づいて第2のカム位相可変機構31を制御するようにしてもよい。
以上で本発明に係る内燃機関の可変動弁装置の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。
【0039】
例えば、上記実施形態では、第1の吸気バルブ9の開閉時期と第2の吸気バルブ10の開閉時期との位相差(スプリット量)を可変する第2のカム位相可変機構31の他に、第1の吸気バルブ9及び第2の吸気バルブ10全体の開閉時期を可変する第1のカム位相可変機構30を備えているが、第2のカム位相可変機構31のみ備えたエンジンであっても本発明を良好に適用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 エンジン
2 シリンダヘッド
4 吸気カムシャフト
9 第1の吸気バルブ
10 第2の吸気バルブ
11 第1の吸気カム
12 第2の吸気カム
30 第1のカム位相可変機構
31 第2のカム位相可変機構(本発明に係るカム位相可変機構)
50 油圧ユニット
52 電磁油圧バルブ
54 電磁油圧バルブ
60 電子コントロールユニット(ECU)
62 アクセル開度センサ(APS)
64 クランク角センサ
66 スロットルバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの気筒に第1の吸気カムにより駆動する第1の吸気バルブと第2の吸気カムにより駆動する第2の吸気バルブとを有し、前記第1の吸気カムに対して前記第2の吸気カムの位相を可変するカム位相可変機構を備えた内燃機関の可変動弁装置において、
前記カム位相可変機構を制御する位相可変制御手段を備え、
該位相可変制御手段は、前記内燃機関の運転が所定の極低回転低負荷域にあるとき、前記第2の吸気バルブの閉弁時期が最遅角位置となる位相よりも進角側に前記第2の吸気カムの位相を制御することを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
【請求項2】
前記第2の吸気バルブの閉弁時期は、前記所定の極低回転低負荷域よりも回転及び負荷が大きい低回転低負荷域で前記最遅角位置とされることを特徴とする、請求項1記載の内燃機関の可変動弁装置。
【請求項3】
前記内燃機関は吸入空気量を調節するスロットルバルブを吸気通路に備え、
前記位相可変制御手段は、さらに前記スロットルバルブを前記第2の吸気バルブの閉弁時期が最遅角位置となるときよりも閉じ側に制御することを特徴とする、請求項1または2記載の内燃機関の可変動弁装置。
【請求項4】
前記カム位相可変機構は、
パイプ部材で形成されたアウタカムシャフト内にインナカムシャフトを回動可能に収めて構成され、前記内燃機関のクランク出力により駆動可能なシャフト部材を有し、前記アウタカムシャフトの外周部に前記第1の吸気カムが設けられるとともに、前記アウタカムシャフトの軸心周りに回動可能に前記第2の吸気カムが設けられ、前記アウタカムシャフトと前記インナカムシャフトとの相対変位にて、前記第2の吸気カムの位相が前記第1の吸気カムを基準に可変するよう構成されており、
前記位相可変制御手段は、
前記シャフト部材の駆動トルク変動が、前記最遅角位置よりも進角側にて該最遅角位置における駆動トルク変動よりも小さくなるような所定の位相範囲内に、前記第2の吸気カムの位相を制御することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか記載の内燃機関の可変動弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−99391(P2011−99391A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254909(P2009−254909)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】