説明

内燃機関の燃焼室浄化システム

【課題】燃焼室の露出表面におけるデポジットの堆積を好適に抑制することのできる内燃機関の燃焼室浄化システムを提供する。
【解決手段】内燃機関2の燃焼室10の内部に露出するインジェクタ8の噴口8aの表面に、所定波長領域の光により活性化される酸化チタンを被着して光触媒層20を形成する。この噴口8aに堆積したデポジットの堆積量を推定し、同堆積量が所定量よりも多いことを条件に光触媒層20の活性化が促進されるように内燃機関2の運転状態を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光触媒によって燃焼室内におけるデポジットの堆積を抑制する内燃機関の燃焼室浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
筒内噴射用インジェクタから燃焼室内に直接噴射するようにした内燃機関において、燃料の不完全燃焼等により生じたデポジットがこの筒内噴射用インジェクタの噴口近傍に堆積すると、燃料噴射量や燃料噴霧形状が変化して燃料噴射制御精度の低下を招くようになる。そこで、こうしたデポジットの堆積を抑制するために、例えば特許文献1に記載される燃焼室浄化システムでは、筒内噴射用インジェクタ等、燃焼室内に露出する部材の表面に例えば酸化チタン等の光触媒を被着するようにしている。この内燃機関にあっては、燃焼室内における燃焼によって放出される光によって光触媒を活性化させることによりデポジットを分解するようにしている。
【特許文献1】特開平11−287130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、光触媒は、燃焼火炎光の波長が特定領域内にあるときに活性化し、そのデポジット分解作用が好適に機能するようになる。このため、燃焼火炎光の波長がこの光触媒が活性化する特定領域から大きく外れている場合には、そのデポジット分解作用が殆ど機能しないか、或いは機能したとしてもそのデポジット分解力が低いものになる。このように筒内噴射用インジェクタの噴口に光触媒を披着するようにした従来の燃焼室浄化システムにあっては、確かにデポジットの堆積抑制効果はあるものの、同噴口に堆積したデポジットを光触媒によって効果的に分解するといった点では、なお改善の余地を残すものとなっていた。尚、筒内噴射用インジェクタの噴口に光触媒を披着する場合を例に説明したが、機関バルブ等、燃焼室内に露出する他の部材の表面や燃焼室の側壁に光触媒を披着するようにした場合にあっても、こうした実情は概ね共通したものとなっている。
【0004】
本発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、光触媒を活性化させてそのデポジット分解作用を促進することができ、燃焼室の露出表面におけるデポジットの堆積を好適に抑制することのできる内燃機関の燃焼室浄化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記目的を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の燃焼室内に露出する部材の露出表面に所定波長領域の光により活性化される光触媒を被着し前記露出表面に堆積したデポジットを前記光触媒の光分解を通じて浄化する内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、前記露出表面に堆積したデポジットの堆積量を推定する推定手段と、前記推定手段によって推定された前記デポジットの堆積量が所定量よりも多いことを条件に前記光触媒の活性化が促進されるように前記内燃機関の燃焼状態を変更する燃焼状態変更手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
同構成では、燃焼室の露出表面に堆積するデポジットの堆積量が所定量より多いときに、光触媒の活性化が促進されるように前記内燃機関の燃焼状態を変更するようにしている。このため、光触媒を活性化させてそのデポジットの分解作用を促進することができ、燃焼室の露出表面におけるデポジットの堆積を好適に抑制することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、前記燃焼状態変更手段は前記燃焼室の燃焼火炎光について前記所定波長領域に含まれる波長成分が増大するように前記内燃機関の燃焼状態を変更することを特徴とする。
【0008】
同構成によれば、燃焼室の燃焼火炎光について光触媒が活性化する所定波長領域に含まれる波長成分が増大するように、内燃機関の燃焼状態を変更するようにしている。このため、光触媒を好適に活性化させてそのデポジットの分解作用を促進することができ、燃焼室の露出表面におけるデポジットの堆積を抑制することができる。尚、上記構成において、例えば、デポジット堆積量が所定量より多いときに、燃料噴射量を一定量変化させる等、常に予め定められた所定の処理を通じて内燃機関の燃焼状態を変更する構成を採用することもできるが、燃料噴射量や機関回転速度等、内燃機関の燃焼状態とその燃焼火炎光のスペクトラムとの関係を予め実験等を通じて求めておき、この求められた関係を参照して内燃機関の燃焼状態の変更態様を設定する構成を採用することが、デポジットを効果的に分解してその堆積を抑制するうえでは望ましい。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、前記燃焼状態変更手段は燃料噴射量の変更を通じて前記内燃機関の燃焼状態を変更することを特徴とする。
【0010】
内燃機関の燃焼状態、ひいては燃焼火炎光の波長領域は、燃料噴射量に応じて変化する。この点、上記構成によれば、燃焼火炎光の波長成分を決定するための因子としてその影響の大きい燃料噴射量を変更することにより、燃焼状態を変更するようにしているため、光触媒が活性化する所定波長領域に含まれる燃焼火炎光の波長成分を好適に増大させることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、前記燃焼状態変更手段は前記燃焼室における燃料の燃焼時間が長くなるように前記内燃機関の燃焼状態を変更することを特徴とする。
【0012】
同構成によれば、燃焼室における燃料の燃焼時間が長くなるように内燃機関の燃焼状態を変更するようにしている。このため、光触媒によるデポジットの分解時間を長く確保して光触媒の活性化を促進することができ、燃焼室の露出表面におけるデポジットの堆積を好適に抑制することができる。
【0013】
尚このように、燃料の燃焼時間を長く確保するに際しては、例えばEGR量を増大させて燃焼を緩慢にする構成の他、請求項5に記載される発明によるように、点火時期を遅角側の時期に変更するといった構成を採用することができる。このように点火時期を遅角側の時期に変更することにより、燃焼を緩慢にして燃焼時間を長く確保することができる。因みに、このように点火時期を遅角側の時期に変更した場合には、機関出力の低下が避けられないこととなる。そこで、このように点火時期を変更する構成を採用した場合には、併せて燃料噴射量を増量するなどの処理を併せて実行することによりこうした機関出力の低下を補償することが望ましい。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、前記内燃機関は無段変速機を介してその駆動系に連結されており、前記燃焼状態変更手段により前記内燃機関の燃焼状態が変更されたとき、該燃焼状態の変更により前記内燃機関から前記無段変速機を介して前記駆動系に伝達される駆動力の変化を補償するように前記無段変速機の変速比を変更する変速比変更手段を更に備えることを特徴とする。
【0015】
光触媒の活性化は図るべく内燃機関の燃焼状態を大きく変更すると、内燃機関からその駆動系に伝達される駆動力が変化することとなる。この点、上記構成によれば、こうした駆動力の変化を補償するように無段変速機の変速比を変更するようにしているため、燃焼状態の変更に起因する急激な駆動力の変化を抑制することができるようになる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、前記内燃機関とは別にその駆動系に駆動力を伝達する電動機を備え前記燃焼状態変更手段により内燃機関の燃焼状態が変更されたとき、該燃焼状態の変更により前記内燃機関から前記駆動系に伝達される駆動力の変化を補償するように前記電動機の駆動力を変更する駆動力変更手段を更に備えることを特徴とする。
【0017】
同構成によれば、燃焼状態を変更することに起因して内燃機関から駆動系に伝達される駆動力が変化する場合であっても、これを補償するように電動機の駆動力が変更されるため、燃焼状態の変更に起因する急激な駆動力の変化を抑制することができるようになる。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、前記内燃機関若しくはその駆動系により駆動されて発電する発電機を備え前記燃焼状態変更手段により内燃機関の燃焼状態が変更されたとき、該燃焼状態の変更により前記内燃機関から前記駆動系に伝達される駆動力の変化を補償するように前記発電機の発電量を変更する発電量変更手段を更に備えることを特徴とする。
【0019】
同構成のように、内燃機関或いはその内燃機関の駆動系により駆動されて発電する発電機を備える構成では、内燃機関や駆動系に作用する発電機の負荷を同発電機の発電量に基づいて変更することができる。従って、上記構成によれば、燃焼状態を変更することに起因して内燃機関から駆動系に伝達される駆動力が変化する場合であっても、これを補償するように発電機の発電量、換言すればその負荷が変更されるため、燃焼状態の変更に起因する急激な駆動力の変化を抑制することができるようになる。尚、請求項7に記載の構成に上記請求項8記載の構成を適用する場合、電動機と発電機とを各別に設けることもできるが、これら電動機と発電機とを一体に構成することが簡略化を図る上で望ましい。
【0020】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、前記内燃機関はその噴口が前記燃焼室内に露出して前記光触媒が被着される筒内噴射用インジェクタを備え、機関空燃比の実際値と目標値とが一致するように前記筒内噴射用インジェクタの燃料噴射量をフィードバック制御するものであり、前記推定手段は機関空燃比の実際値と目標値との乖離傾向に基づいてデポジットの堆積量を推定することを特徴とする。
【0021】
筒内噴射用インジェクタを備える内燃機関において、筒内噴射用インジェクタの噴口にデポジットが堆積すると、燃料噴射制御の精度が低下するようになる。具体的には、こうしたデポジットの堆積が発生すると、燃料噴射量の実際量が目標量よりも少なくなる。そしてこの場合、機関空燃比の実際値が目標値から乖離しないように燃料噴射量が増量補正されることとなる。従って、この燃料噴射量の増量補正度合、換言すれば、機関空燃比の実際値と目標値との乖離傾向を監視し、これに基づいて筒内噴射用インジェクタの噴口に堆積するデポジットの堆積量を適切に推定することができるようになる。また、例えば内燃機関の稼動時間或いは燃料噴射量積算値が所定値だけ増大した毎に、筒内噴射用インジェクタの噴口に堆積するデポジットの堆積量が所定量より多くなった旨推定して燃焼状態を変更するようにした構成と比較して、上記構成によれば、機関空燃比に基づいてデポジット堆積量を精度よく推定することができる。従って、デポジット堆積量が所定量以下である場合に機関燃焼状態が不必要に変更されてしまうこと、ひいてはその変更に起因して内燃機関の駆動力が変動することを好適に抑制することができるようになる。
【0022】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、前記推定手段は前記機関空燃比の実際値と目標値との間の定常的な乖離を補償するための空燃比学習値に基づいて前記筒内噴射用インジェクタのデポジット堆積量を推定することを特徴とする。
【0023】
上述したように、筒内噴射用インジェクタの噴口にデポジットが堆積すると、機関空燃比の実際値と目標値との間に乖離が生じるが、こうした乖離は、例えば機関加速時等、内燃機関が過渡運転状態にあるときにおいても生じ得る。このため、機関過渡運転時のように機関空燃比の実際値と目標値とが一時的に乖離する場合と、筒内噴射用インジェクタの噴口にデポジットが堆積したときのように機関空燃比の実際値と目標値とが定常的に乖離する場合とを峻別をし、後者の場合にのみ、上述したような機関燃焼状態の変更を行うようにすることが望ましい。
【0024】
この点、上記構成によれば、前記機関空燃比の実際値と目標値との間の定常的な乖離を補償するため補正係数、いわゆる空燃比学習値に基づいてデポジット堆積量を推定するようにしているため、該推定結果の信頼性を高めることができ、不必要な燃焼状態の変更がなされるのを極力抑制することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる第1の実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。ここで、図1は車輌に搭載される内燃機関2及びその燃焼室を浄化する浄化システムを示す構成図である。
【0026】
まず、内燃機関2の構造について説明する。同図1に示されるように、内燃機関2のシリンダブロック3の内部には複数のシリンダ3a(図1にはその1つを示す)が形成されるとともに、このシリンダ3aの内部には同シリンダ3aの延伸方向に沿って往復動可能なピストン6が設けられている。尚、シリンダブロック3の上方にはシリンダヘッド4が組み付けられており、これらシリンダブロック3、シリンダヘッド4及びピストン6によって燃焼室10が区画されている。
【0027】
シリンダヘッド4には、燃焼室10に接続される吸気ポート11及び排気ポート12が形成されるとともに、これらポート11,12に対応して吸気弁13、排気弁14がそれぞれ設けられている。この吸気弁13が開・閉弁することにより吸気ポート11と燃焼室10との連通・遮断が切り替えられる一方、排気弁14が開・閉弁することにより排気ポート12と燃焼室10との連通・遮断が切り替えられる。
【0028】
吸気ポート11には吸気通路31が接続されている。内燃機関2の吸気行程の際には、吸気弁13が開弁し、空気が吸気通路31及び吸気ポート11を通じて大気から燃焼室10に吸入される。この吸気通路31にはスロットルバルブ30が配設されており、スロットルバルブ30開弁角度を変更することにより、空気の吸入量を変更することができる。
【0029】
一方、排気ポート12には排気通路32が接続されている。内燃機関2の排気行程の際には、排気弁14が開弁し、燃焼ガスが排気ポート12及び排気通路32を通じて大気に排出される。この排気通路32には触媒装置33が配設されており、同触媒装置33によって排気が浄化される。因みに、この触媒装置33の触媒は所定温度以上に温度上昇しないと十分に活性化されないため、例えば機関始動時等には燃料噴射量の暖気増量補正等の制御が行われる。
【0030】
また、内燃機関2のクランクシャフト5とピストン6とは、コネクティングロッド7によって連結されている。このクランクシャフト5と、例えばプロペラシャフト、ディファレンシャルギア、ドライブシャフト、駆動輪等々を含んで構成される駆動系の入力軸41(プロペラシャフトまたはドライブシャフト)との間には、変速比を連続的に変更可能な無段変速機40が配設されている。この無段変速機40の変速比を変更することにより、クランクシャフト5から入力軸41に伝達される駆動力(トルク)を変化させることができる。
【0031】
また、内燃機関2には、燃焼室10の混合気に着火するための点火プラグ9が各シリンダ3aに対応して設けられている。この点火プラグ9の点火時期は、ノッキングが発生しない範囲で内燃機関2の出力が最も大きくなるように設定されている。尚一般的には、点火時期を早める、即ち進角するほど、燃焼室10内における燃料の燃焼強度が大きくなり機関出力が増大するようになる。一方、点火時期を遅らせる、即ち遅角するほど、燃焼室10内における燃料の燃焼が緩慢になって燃焼時間が長くなるとともに機関出力が低下するようになる。
【0032】
また、内燃機関2には、燃料を噴射するためのインジェクタ8が各シリンダ3aに対応して設けられている。このインジェクタ8は、いわゆる筒内噴射用インジェクタであり、その噴口8aは燃焼室10の内部に露出している。インジェクタ8は高圧燃料ポンプ(図示略)にデリバリパイプ(図示略)を介して接続されている。高圧燃料ポンプによって圧送された燃料は、デリバリパイプから各インジェクタ8に分配され、それらの噴口8aから燃焼室10に直接噴射される。
【0033】
ここで、上述した燃焼室10においては、燃料の不完全燃焼等によりデポジットが生じることがある。そして、このデポジットがインジェクタ8の噴口8aに堆積すると、燃料噴射量や燃料噴霧形状が変化して燃料噴射制御精度の低下を招くこととなる。このため、本実施形態においては、このデポジットの堆積を抑制するために、各インジェクタ8についてそれら噴口8aの表面に酸化チタンを被着して光触媒層20を形成するようにしている。この光触媒層20は、光、即ちここでは燃焼室10の燃焼火炎光により活性化されてOHラジカル等の活性種を生成し、その活性種によって有機化合物であるデポジットを分解することができる。
【0034】
また、こうした光触媒層20は、所定波長領域の光によって活性化され、そのデポジット分解作用を発揮する。このため、例えば図2に示されるように、燃焼火炎光についてその所定波長領域に含まれる波長成分の強度が低いと、光触媒層20の活性化が促進されずそのデポジット分解機能が低下することとなる。
【0035】
そこで、本実施形態にかかる内燃機関の燃焼室浄化システムでは、インジェクタ8の噴口8aに堆積したデポジットの量を推定し、この堆積量が所定量より多いときに、機関運転状態、換言すれば内燃機関の燃焼状態を変更することにより燃焼火炎光について所定波長領域に含まれる波長成分を増大させるようにしている。以下、この燃焼室浄化システムについて詳細に説明する。
【0036】
図1に示されるように、内燃機関2には、機関運転状態等を検出するための各種センサが設けられている。例えば、吸気通路31においてスロットルバルブ30よりも上流側の部分には、単位時間あたりに同吸気通路31を流れる吸入空気の量を検出するエアフローメータ51、及び吸入された空気の温度を検出する吸気温センサ57が設けられている。クランクシャフト5の近傍には、クランクシャフト5の回転速度と回転位相とを検出するクランクセンサ53が設けられている。また、アクセルペダル(図示略)の近傍にはその踏込量(アクセル開度)を検出するアクセルセンサ52が設けられている。シリンダブロック3には機関冷却水温を検出する水温センサ55が設けられている。更に、シリンダブロック3には、内燃機関2のノッキングを検出するノックセンサ56が設けられている。
【0037】
また、排気通路32において触媒装置33よりも上流側の部分には、排気の酸素濃度に基づいて機関空燃比の実際値を検出する空燃比センサ54が設けられている。図3に示されるように、この空燃比センサ54は、排気中の酸素濃度に応じた出力電流が得られるいわゆる限界電流式のセンサであり、機関空燃比が理論空燃比である場合には、その出力電流が「0」になる。また、機関空燃比がリッチになると出力電流は負の方向に大きくなる一方、同機関空燃比がリーンになると出力電流は正の方向に大きくなる。従って、この空燃比センサ54の出力信号に基づき、機関空燃比についてそのリーン度合又はリッチ度合を検出することができる。
【0038】
また、上述した各センサの検出信号は機関制御ユニット100に取り込まれる。この機関制御ユニット100は、これら検出信号に基づいて、インジェクタ8、点火プラグ9、スロットルバルブ30等を制御することにより、内燃機関2の制御を統括して実行する。尚、機関制御ユニット100は、これら各種制御にかかる制御プログラムやその実行に必要となる関数マップ、又はそれに基づく制御結果を記憶するメモリ100aを備えている。
【0039】
次に、機関制御ユニット100による空燃比制御について詳しく説明する。まず、機関制御ユニット100は、アクセルセンサ52によって検出されたアクセルペダルの開度の検出信号を取り込み、この検出信号に基づいてスロットルバルブ30の開度を変更し空気吸入量を変更する。そして、機関制御ユニット100は、エアフローメータ51、吸気温センサ57及びクランクセンサ53の検出信号を取り込み、1サイクルの空気吸入量の実際値を算出する。
【0040】
そして、機関制御ユニット100は空気吸入量の実際値と機関空燃比の目標値とに基づいて燃料噴射量のベース値、即ち基本燃料噴射量QBASEを算出する。尚、機関空燃比の目標値は、内燃機関の動力性能や排出ガス浄化等を考慮して設定される。通常の機関運転状態では、この機関空燃比の目標値は空気と混合された燃料が完全燃焼する空燃比、即ち理論空燃比に設定される。
【0041】
また、機関空燃比を精度よくその目標値に維持して排出ガスを浄化するために、空燃比フィードバック制御が行われている。因みに、機関始動時から所定時間が経過するまでは排気通路32の触媒装置33を早期に活性化するために、燃料噴射量の暖気増量補正が行われているため、空燃比フィードバック制御は停止される。また、機関出力を確保するために、機関空燃比の目標値をリッチに設定する高負荷運転時にも空燃比フィードバック制御は停止される。
【0042】
この空燃比フィードバック制御にかかる一連の処理ではまず、空燃比センサ54の検出結果、即ち機関空燃比の実際値とその目標値との偏差ΔRAFに基づいて空燃比のフィードバック補正係数FAFが以下の演算式(1)を通じて算出される。
【0043】

FAF←1.0+KP・(ΔRAF) ・・・(1)
KP:補正係数(比例ゲイン)

このフィードバック補正係数FAFは、機関運転状態及び機関空燃比の目標値から求められる基本燃料噴射量QBASEが機関空燃比の実際値をその目標値に一致させるものとして適切な値となるようにこれを補正するためのものである。ここでは、このフィードバック補正係数FAFを基本燃料噴射量QBASEに乗じてその燃料噴射量にかかる補正を行うものとしているため、機関空燃比の実際値とその目標値との間に乖離傾向が全く存在していない場合には、このフィードバック補正係数FAFはその基準値「1.0」に収束する。
【0044】
一方、機関空燃比の実際値がその目標値よりもリーンである場合には、上式(1)の右辺第2項は正の値になり、フィードバック補正係数FAFは「1.0」よりも大きな値に設定される。従ってこの場合には、このフィードバック補正係数FAFに基づいて燃料噴射量の増量補正が行われることとなる。
【0045】
他方、機関空燃比の実際値がその目標値よりもリッチである場合には、上式(1)の右辺第2項は負の値になるため、フィードバック補正係数FAFは「1.0」よりも小さな値に設定される。従ってこの場合には、このフィードバック補正係数FAFに基づいて燃料噴射量の減量補正が行われることとなる。
【0046】
このように機関空燃比の実際値と目標値との間の偏差ΔRAFに基づき、それに見合う大きさのフィードバック補正係数FAFが算出されることにより、機関空燃比の実際値と目標値との間の乖離が補償されるように燃料噴射量が適切な量に設定されるようになる。
【0047】
ここで、インジェクタ8の噴口8aにデポジットが堆積することに起因して、基本燃料噴射量QBASEと、機関空燃比の実際値を目標値と一致させるのに必要な燃料噴射量との間に定常的な偏差が生じている場合には、上記フィードバック補正係数FAFはその基準値「1.0」から乖離するようになる。このように制御対象値とその目標値との間に定常的な偏差が生じている場合に、上式(1)にて求められるようなフィードバック補正係数FAF、即ち偏差ΔRAFの大きさに比例して変化する、いわゆる比例項に、その定常偏差を補償する機能を持たせることは制御の安定性を確保するうえでは好ましくない。
【0048】
そこで、空燃比フィードバック制御にあっては、こうした定常偏差が生じている場合には、空燃比学習値による補正を併せて行われている。即ちまず、その定常偏差を補償するための補正量(以下、これを「空燃比学習値KG」と称する)をその定常偏差の大きさに基づいて求めるようにしている。そして、この空燃比学習値KGに基づく燃料噴射量補正を通じて上記定常偏差を補償する一方、外乱による機関空燃比の実際値と目標値との一時的な乖離については、これをフィードバック補正係数FAFに基づく燃料噴射量補正を通じて補償するようにしている。
【0049】
具体的には、空燃比フィードバック制御が行われる場合には、以下の演算式(2)に基づいて空燃比学習値KGの更新が行われ、その更新値が新たな空燃比学習値KGの値として機関制御ユニット100のメモリ100aに記憶される。
【0050】

KG←KI・ΣΔRAF(i) ・・・(2)
KI:補正係数(積分ゲイン)

ここで、上式(2)の「ΣΔRAF」は、予め定められた所定期間における上記偏差ΔRAFの積算値であり、添え字「i」はその所定期間中の各制御周期において算出される偏差ΔRAFの値をそれぞれ示している。同式(2)から明らかなように、仮にフィードバック補正係数FAFに基づく燃料噴射量補正が実行されている場合に、機関空燃比の実際値と目標値との間に定常的な偏差が存在していると、空燃比学習値KGは徐々に増大し或いは減少するようになる。
【0051】
そして、こうした空燃比学習値KGの学習更新が行われることにより、機関空燃比の実際値と目標値との間に定常的な偏差が存在する傾向が生じても、その傾向は空燃比学習値KGに基づく燃料噴射量補正を通じて打ち消されるようになる。
【0052】
即ち、空燃比学習値KGが求められた後、次の演算式(3)に基づいて最終的な燃料噴射量QINJが算出される。

QINJ←QBASE・(FAF+KG) ・・・(3)

ここで、インジェクタ8の噴口8aに堆積したデポジットの量が多くなるほど、インジェクタ8による燃料噴射が妨げられるため、機関空燃比の実際値が理論空燃比からリーン側に乖離する、即ちフィードバック補正係数FAF及び空燃比学習値KGが大きくなる傾向がある。本実施形態にかかる燃焼室浄化システムでは、空燃比学習値KGに基づきデポジットの堆積量を推定するようにしている。以下、図4のフローチャートを参照して燃焼室を浄化する処理の手順について説明する。
【0053】
図4に示される一連の処理は、機関制御ユニット100により所定の制御周期をもって繰り返し実行される。この処理ではまず、ステップS100において、水温センサ55、アクセルセンサ52等から取り込んだ検出信号に基づいて内燃機関2の運転状態を判断し、空燃比フィードバック制御を開始する条件が満たされているか否かを判断する。内燃機関2の運転状態が機関始動後の暖機状態である場合や高負荷運転時等である場合には、空燃比フィードバック制御を行わないため、一連の処理を一旦終了する。一方、内燃機関2の運転状態が空燃比フィードバック制御の実行可能な状態である場合には、ステップS110に進む。
【0054】
ステップS110では、機関空燃比の実際値と目標値との偏差ΔRAFを算出し、更に上述した演算式(1)に基づいてフィードバック補正係数FAFを算出する。そしてこのフィードバック補正係数FAFをメモリ100aに記憶した後、ステップS120に進む。
【0055】
ステップS120では、上述した演算式(2)に基づいて空燃比学習値KGを更新し、これをメモリ100aに記憶する。そして、ステップS130に進み、空燃比学習値KGがその上限値KGLよりも大きいか否かを判断する。ここで、空燃比学習値KGの上限値KGLは、インジェクタ8の噴口8aに堆積したデポジットの量が所定量より多くなり、それに起因する悪影響が無視できない状態になったことを判断するための値であり、実験等を通じて予め求められてメモリ100aにより記憶されている。
【0056】
空燃比学習値KGが上限値KGL以下である場合には、インジェクタ8の噴口8aにおけるデポジットの堆積量が所定堆積量以下であるため処理を一旦終了する。一方、空燃比学習値KGが上限値KGLよりも大きい場合には、インジェクタ8の噴口8aにおけるデポジットの堆積量が所定堆積量よりも多いと判断し、ステップS140に進む。
【0057】
ステップS140では、燃焼室10における燃焼火炎光について、光触媒層20、即ち酸化チタンが活性化する所定波長領域に含まれる波長成分が所定の強度を有しているか否かを機関運転状態に基づいて判断する。
【0058】
具体的には、燃焼室10における燃焼火炎光について、光触媒層20が活性化する所定波長領域に含まれる波長成分が所定の強度を有するようになる機関運転状態(以下、「光触媒活性化領域」)が燃料噴射量及び機関回転速度をパラメータとして予め実験等を通じて求められている。図5は、この燃料噴射量及び機関回転速度と光触媒活性化領域との関係を示す関数マップである。また、図6は図5の点A、点Bにより示される各機関運転状態における燃焼火炎光のスペクトラムを示している。同図に示されるように、機関運転状態が光触媒活性化領域にある場合(図5の点B、図6の破線)においては、同機関運転状態が光触媒活性化領域外にある場合(図5の点A、図6の破線)と比較して、光触媒層20が活性化する所定波長領域に含まれる波長の光成分の強度が強くなる。
【0059】
ステップS140では、図5に示される関数マップを参照し、燃料噴射量及び機関回転速度に基づいて内燃機関の運転状態(燃焼状態)が光触媒活性化領域にあるか否かを判断する。そして、機関運転状態が光触媒活性化領域にある旨判断したときには(ステップS140:NO)、この一連の処理を一旦終了する。一方、機関運転状態が光触媒活性化領域にない旨判断したときには(ステップS140:YES)、ステップSステップS150に進む。
【0060】
ステップS150では、光触媒の活性化が促進されるように、燃料噴射量を変更すること(燃焼状態変更手段)により内燃機関2の運転状態を変更する。具体的には、例えば図5の点Aにて示される機関運転状態が点Bにて示される機関運転状態まで移行するように、機関回転速度を監視しつつ燃料噴射量を増量補正する。尚、このように燃料噴射量を増量補正する場合、機関空燃比が理論空燃比よりも強制的にリッチ側に変更されるため、空燃比フィードバック制御は一時的に停止される。
【0061】
そして、ステップS160に進み、運転状態の変更によって内燃機関2から入力軸41に伝達される駆動力の変化が補償されるように、無段変速機40の変速比を変更する(変速比変更手段)。即ち、内燃機関2から入力軸41に伝達される駆動力が運転状態の変更によって増大する場合、その駆動力の増大を打ち消すように無段変速機40の変速比を低減する。一方、運転状態の変更により内燃機関2から入力軸41に伝達される駆動力の減少を打ち消すように無段変速機40の変速比を増大する。
【0062】
以上説明した第1の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)インジェクタ8の噴口8aに堆積するデポジットの堆積量が所定量より多いとき、光触媒層20の活性化が促進されるように内燃機関2の運転状態を変更するようにしている。具体的には、機関運転状態(燃料噴射量及び機関回転速度)に基づいて光触媒活性化領域を予め実験等を通じて求めておき、燃焼火炎光について光触媒層20が活性化する所定波長領域に含まれる波長成分が増大するように、内燃機関2の運転状態を変更するようにしている。その結果、光触媒層20を活性化させてそのデポジットの分解作用を促進することができ、インジェクタ8の噴口8aにおけるデポジットの堆積を好適に抑制することができるようになる。
【0063】
(2)燃焼火炎光の波長成分を決定する因子として影響の大きい燃料噴射量を変更することにより、運転状態を変更するようにしているため、光触媒層20が活性化する所定波長領域に含まれる燃焼火炎光の波長成分を好適に増大させることができる。
【0064】
(3)更に、デポジットの堆積を抑制するために機関運転状態を変更する際には、その機関運転状態の変更に起因する駆動力の変化を無段変速機40の変速比を変更することにより補償するようにしているため、運転状態の変更に起因する急激な駆動力の変化を抑制することができるようになる。
【0065】
(4)インジェクタ8を備える内燃機関2において、インジェクタ8の噴口8aにデポジットが堆積すると、燃料噴射制御の精度が低下するようになる。具体的には、こうしたデポジットの堆積が発生すると、燃料噴射量の実際量が目標量よりも少なくなる。従って、この燃料噴射量の増量補正度合、換言すれば、機関空燃比の実際値と目標値との乖離傾向を監視することにより、これに基づいてインジェクタ8の噴口8aに堆積するデポジットの堆積量を適切に推定することができるようになる。また、このようにデポジット堆積量を精度よく推定することができるため、デポジット堆積量が所定量以下である場合に機関運転状態が不必要に変更されてしまうこと、ひいてはその変更に起因して駆動力が変動することを好適に抑制することができるようになる。
【0066】
(5)機関過渡運転時のように機関空燃比の実際値と目標値とが一時的に乖離する場合と、インジェクタ8の噴口8aにデポジットが堆積したときのように機関空燃比の実際値と目標値とが定常的に乖離する場合とを峻別をし、後者の場合にのみ、上述したような機関運転状態の変更を行うようにしている。具他的には、機関空燃比の実際値と目標値との間の定常的な乖離を補償するための空燃比学習値KGに基づいてデポジット堆積量を推定するようにしているため、機関空燃比の実際値と目標値とが定常的に乖離する場合のみ機関運転状態の変更を行うことができる。その結果、推定結果の信頼性を高めることができ、不必要な運転状態の変更がなされるのを極力抑制することができるようになる。
【0067】
(第2の実施形態)
以下、本発明にかかる第2の実施形態について、上記第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0068】
第1の実施形態では、内燃機関2と車輌の入力軸41との間に設けられた無段変速機40の変速比を変更することによって、内燃機関2から入力軸41に伝達される駆動力の変化を補償するようにしている。これに対して、本実施形態では、内燃機関2とは別に入力軸41に駆動力を伝達する電動機と内燃機関2により駆動されて発電する発電機とを備えるハイブリッド駆動系を搭載した車輌を前提とし、その電動機の駆動力や発電機の発電量を変更することによって、上述した機関運転状態の変更に起因する内燃機関2の駆動力変化を補償するようにしている。
【0069】
ここで、まず図7を参照してハイブリッド駆動系80の構造並びにその駆動態様について説明する。同図7に示されるように、内燃機関2のクランクシャフト5は、動力分割機構60に接続されている。この動力分割機構60には、電動機64及び発電機61が接続されるとともに、変速機構70を介して入力軸41が接続されている。この動力分割機構60により、クランクシャフト5の駆動力を2経路に分割することができる。即ち、内燃機関2の駆動力は、変速機構70を介して入力軸41に直接伝達されて車輌を駆動するために利用される一方、発電機61に伝達されて同発電機61により交流電力を発生させるために利用される。尚、この発電機61の負荷、即ち内燃機関2に作用する発電機61の負荷は同発電機61における発電量を調整することにより変更することができる。そして、発電機61において発生した交流電力はインバータ62により直流電力に転換され、バッテリ63に充電される。
【0070】
また、インバータ62には、電動機64が接続されており、バッテリ63の直流電力はインバータ62を介して交流電力に転換され、電動機64を駆動するために利用される。そして、この電動機64の駆動力は動力分割機構60を介して入力軸41に伝達される。
【0071】
こうしたハイブリッド駆動系80において、発電機61の発電量や、電動機64の駆動力等は、機関制御ユニット100により統括して制御されている。即ち、機関制御ユニット100は発電機61の発電量を変更することにより発電機61の負荷を変更するとともに、バッテリ63の放電量を制御することにより電動機64の駆動力を変更する。
【0072】
そして、機関制御ユニット100は、車輌の運転状態に応じて上述したように発電機61の発電量やバッテリ63の放電量等を適切に制御することにより、内燃機関2をその機械効率が最も高くなる運転領域(以下、「最適運転領域」と称する)にて運転させて、同内燃機関2の燃費向上を図るようにしている。このために、機関制御ユニット100はハイブリッド駆動系80の運転モードを以下の複数のモードから適宜選択して切り替えるようにしている。
【0073】
[1]発電モード
車輌を走行させるための要求駆動力が内燃機関2を最適運転領域で運転させたときに発生する駆動力よりも小さい場合やバッテリ63の充電量が所定値以下になった場合、内燃機関2を最適運転領域で運転させるとともに、発電機61の負荷を適切な大きさに設定する。これにより、発電機61を通じて内燃機関2の余分な駆動力を電気エネルギに変換しこれをバッテリ63に保存する。
【0074】
[2]駆動モード
車輌を走行させるための要求駆動力が内燃機関2を最適運転領域で運転させたときに発生する駆動力よりも大きい場合、内燃機関2を最適運転領域で運転させるとともに、バッテリ63の放電量を適切な大きさに設定することにより、電動機64の駆動力を内燃機関2の補助駆動力として入力軸41に伝達する。
【0075】
[3]停止モード
車輌を走行させるための要求駆動力が内燃機関2を最適運転領域で運転させたときに発生する駆動力と等しい場合、発電機61による発電及び電動機64による駆動力の発生をいずれも停止させる。従って、車輌は内燃機関2の駆動力のみによって走行することとなる。
【0076】
上述した運転モード[1]〜[3]の他、電動機64の駆動力のみにより車輌を走行させるモードや、制動エネルギ回収モード等、内燃機関2の運転が停止する運転モードも存在するが、このように内燃機関2が停止する場合には、燃焼室浄化処理を実行することができないため、これら各モードの説明については割愛する。
【0077】
上述したように、燃焼室を浄化するための処理は、図4に示される一連の手順に従って行われるが、本実施形態ではステップS160の処理態様が第1の実施形態と異なっている。次に、本実施形態にかかる同ステップS160の処理について詳しく説明する。
【0078】
本実施形態にかかるステップS160では、運転状態の変更による内燃機関2の駆動力の変化量に基づき、その時点の走行モードに対応する駆動力補償制御を行う。
[1]発電モード
運転状態の変更に際して燃料噴射量を増量した場合には、内燃機関2から入力軸41に伝達される駆動力の増大を補償するように発電機61の負荷を増大させる。一方、燃料噴射量を減少した場合には、内燃機関2から入力軸41に伝達される駆動力の減少を補償するように発電機61の負荷を減少させる(発電量変更手段)。
【0079】
[2]駆動モード
運転状態の変更に際して燃料噴射量を増量した場合には、内燃機関2から入力軸41に伝達される駆動力の増大を補償するようにバッテリ63の放電量を減少させて電動機64の駆動力を減少させる。一方、燃料噴射量を減少した場合には、内燃機関2から入力軸41に伝達される駆動力の減少を補償するようにバッテリ63の放電量を増大して電動機64の駆動力を増大させる(駆動力変更手段)。
【0080】
[3]停止モード
運転状態の変更に際して燃料噴射量を増量した場合には、発電機61による発電を開始し、入力軸41に伝達される駆動力の増大を補償するように発電機61の負荷を設定する。一方、燃料噴射量を減少した場合には、バッテリ63による放電を開始し、内燃機関2から入力軸41に伝達される駆動力の減少を補償するようにバッテリ63の放電量を設定して電動機64を駆動する。
【0081】
以上説明した第2の実施形態によれば、第1の実施形態の効果(1)、(2)、(4)、(5)及び以下の効果(6)が得られるようになる。
(6)運転状態を変更することに起因して内燃機関2から入力軸41に伝達される駆動力が変化する場合であっても、電動機64の駆動力又は発電機61の負荷を変化させてこれを補償するようにしているため、運転状態の変更に起因する急激な駆動力の変化を抑制することができるようになる。
【0082】
(第3の実施形態)
以下、本発明にかかる第3の実施形態について、上記第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0083】
第1の実施形態では、燃料噴射量を変更することによって光触媒層20が活性化するように内燃機関2の運転状態を変更するようにしているが、本実施形態では、内燃機関2の点火時期を変更することによって内燃機関2の運転状態を変更し、光触媒層20を活性化させるようにしている。
【0084】
本実施形態にかかる燃焼室浄化処理は、図4に示される一連の手順に従って行われるが、ステップS130以降における各ステップの処理態様が第1の実施形態とは異なっている。
【0085】
具体的には、空燃比学習値KGがその上限値KGLよりも大きくなり、デポジット堆積量が所定量よりも多いと判断された場合(ステップS130:YES)、ステップS140の判断処理を行うことなく、ステップS150に進む。そして、ステップS150において、内燃機関2の点火時期を所定クランク角だけ遅角側の時期に変更する。この際の点火時期遅角量は、機関運転状態を極端に悪化させない範囲で極力大きい値に設定される。このように点火時期を遅角することにより、燃焼室10における燃焼が緩慢になり、混合気の燃焼時間が長くなるため、光触媒層20によるデポジットの分解時間がより長く確保されることとなる。
【0086】
そして、ステップS160に進み、第1の実施形態と同様に、点火時期の遅角により内燃機関2から入力軸41に伝達される駆動力の減少が補償されるように無段変速機40の変速比を増大させた後、この一連の処理を一旦終了する。
【0087】
以上説明した第3の実施形態によれば、第1の実施形態の効果(3)〜(5)及び以下の効果(7)が得られるようになる。
(7)点火時期を遅角側の時期に変更することにより、燃焼室10における燃料の燃焼時間が長くなるように内燃機関2の運転状態を変更するようにしている。このため、光触媒層20によるデポジットの分解時間を長く確保することができ、インジェクタ8の噴口8aにおけるデポジットの堆積を好適に抑制することができる。
【0088】
尚、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・第1及び第2の実施形態では、機関空燃比を理論空燃比よりも強制的にリッチ側に変更するようにしたが、燃料噴射量の増量補正に併せて吸入空気量を変更し、機関空燃比を理論空燃比のまま維持するようにしてもよい。尚この場合、燃料火炎光のスペクトラムが機関空燃比をリッチ側に変更する場合とは異なるものとなる。このため、図5に示される関数マップは、機関空燃比を理論空燃比のまま維持すること前提にして求めるようにする。
【0089】
・第1の実施形態では、燃料噴射量及び機関回転速度をパラメータとする機関運転状態を光触媒層20が活性化される光触媒活性化領域と同領域外との2つの領域に区分するようにしたが、機関運転状態を活性化程度に基づいて複数の領域に区分するようにしてもよい。具体的には例えば、機関運転状態を光触媒層20の活性化程度が大きい順に第1の領域、第2の領域、第3の領域に区分し、デポジット堆積量が所定量より多い旨の判断がなされたときの機関運転状態が第3の領域にある場合にはこれを第2の領域に移行させ、また同機関運転状態が第2の領域にある場合にはこれを第1の領域に移行させる、といった構成を採用することもできる。
【0090】
・上記実施形態では、空燃比学習値に基づいてインジェクタ8の噴口8aにおけるデポジットの堆積量を推定しているが、フィードバック補正係数等、機関空燃比の実際値が目標値空燃比から乖離する傾向を示すその他のパラメータに基づいてデポジットの堆積量を推定することもできる。
【0091】
・燃焼室10内に露出するインジェクタ8以外の部材の露出表面に酸化チタン等の光触媒を披着するとともに、その部材の露出表面に堆積したデポジットの量が所定量より多いときに機関運転状態を変更して光触媒の活性化を促進するようにしてもよい。例えば、燃焼室10の内壁におけるデポジットの堆積を抑制するために、燃焼室10の内壁に光触媒を披着した場合には、ノッキング抑制制御における点火時期を監視し、これに基づいてデポジットの堆積量を推定することができる。具体的には、ノッキング抑制制御において、ノックセンサ56を通じてノッキングを検出する毎に、実点火時期を燃料噴射量及び機関回転速度に基づいて設定される基本点火時期から所定角度ずつ遅角側の時期に変更する一方、所定期間内にノッキングが検出されない場合には、実点火時期を所定角度ずつ進角する。ここで、燃焼室10の内壁にデポジットが堆積すると、燃焼室の実容積が減少するため、内燃機関2の圧縮比が増大する。そのため、ノッキングが発生し易くなり、実点火時期が基本点火時期から大きく遅角側の時期に乖離することとなる。そこで、この実点火時期と基本点火時期との偏差、即ち点火時期遅角量が所定量より大きいときに燃焼室10の内壁に堆積したデポジットの堆積量が所定量より多いと判断して内燃機関2の運転状態を変更する。こうした構成によれば、燃焼室10の内壁におけるデポジットの堆積を好適に抑制することができるようになる。
【0092】
・第2の実施形態では、発電機61とバッテリ63によって駆動される電動機64とを双方を備えているが、発電機61及び電動機64のいずれか一方を備える構成を採用することもできる。例えば、発電機61のみを備える場合にあっても、発電モード等の走行モードで運転状態の変化による内燃機関2の駆動力の変化を補償することができる。一方、電動機64のみを備える場合にあっても、駆動モード等の走行モードで運転状態の変化による内燃機関2の駆動力の変化を補償することができる。また、第2の実施形態では、発電機61と電動機64とを各別に備えるハイブリッド駆動系80を例示したが、これら発電機61と電動機64とが一体とされたモータジェネレータを採用することもできる。こうした構成によれば、ハイブリッド駆動系についてその構成の簡素化を図ることができる。
【0093】
・第2の実施形態では、電動機64の駆動力の変更又は発電機61の負荷の変更によって運転状態の変更による内燃機関2の駆動力の変化を補償するようにしている。これに加えて、ハイブリッド駆動系80と入力軸41との間に無段変速機40を更に備える構成を採用することもできる。このようにハイブリッド駆動系80と無段変速機40とを組み合わせた構成によれば、無段変速機40の変速比を変更することによって運転状態の変更による内燃機関2の駆動力の変化を補償することもできるため、より広い範囲内でその駆動力の変化を補償することができる。従って、より広い範囲内で運転状態を変更することが可能となり、光触媒層20を確実に活性化させて、デポジットの堆積を効果的に抑制することができるようになる。
【0094】
・第3の実施形態では、点火時期の遅角による内燃機関2の駆動力の減少を補償するために、無段変速機40の変速比を増大するようにしている。これに対して、無段変速機40の変速比を変更せず、或いはその変速比の変更と併せて点火時期の遅角による内燃機関2の駆動力の減少を補償するように燃焼室10への燃料噴射量を増量してもよい。
【0095】
そして、ハイブリッド駆動系80が備えられた場合には、電動機64の駆動力の増大や、発電機61の発電負荷の減少等によって内燃機関2の駆動力の減少を補償することもできる。また、上述したように、ハイブリッド駆動系80と無段変速機40とを組み合わせた構造を採用してもよい。
【0096】
・上記実施形態では、無段変速機40の変速比を変更する等、運転状態の変更による内燃機関2の駆動力の変化を補償する処理を実行するようにしたが、同処理を省略した構成であっても、光触媒層20の活性化を促進することはできる。
【0097】
・第3の実施形態では、点火時期を遅角することにより、燃焼時間を延長させるようにしているが、例えばEGR量を増大させることより燃焼を緩慢にして燃焼時間の延長を図ることもできる。
【0098】
・上記実施形態では、光触媒層を酸化チタンにより形成する場合を例示したが、この光触媒層は例えば酸化亜鉛等、酸化チタン以外の材料により形成することもできる。
・上記実施形態では、機関空燃比の実際値が目標値から乖離する傾向等に基づいてデポジットの堆積量を推定して、その推定された堆積量が所定量よりも多くなったとき燃焼室浄化処理を行うようにしている。これに対して、所定期間毎に燃焼室浄化処理を実行する、即ち、所定期間が経過したことをもってデポジットの堆積量が所定量よりも多い旨判断する構成を採用することもできる。
【0099】
・上記実施形態に加えて、光触媒を活性化する補助手段として、光ファイバーやミラー等を介して燃焼室10の外部の光を燃焼室10の内部に導入することもできる。こうした構造によれば、酸化チタンの活性化が更に促進されるため、燃焼室10におけるデポジットの堆積を更に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】内燃機関及び燃焼室浄化システムを示す構成図。
【図2】燃焼火炎光のスペクトラムと光触媒を活性化できる光の波長領域との関係を示す図。
【図3】空燃比センサの出力電流と空燃比との関係を示す図。
【図4】燃焼室浄化処理についてその処理手順を示すフローチャート。
【図5】燃料噴射量及び機関回転速度とそれらに基づいて設定される光触媒活性化領域との関係を示す関数マップ。
【図6】運転状態の変化に伴う燃焼火炎光のスペクトラムの変化を示す図。
【図7】ハイブリッド駆動系の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0101】
2…内燃機関、3…シリンダブロック、3a…シリンダ、4…シリンダヘッド、5…クランクシャフト、6…ピストン、7…コネクティングロッド、8…インジェクタ、8a…噴口、9…点火プラグ、10…燃焼室、11…吸気ポート、12…排気ポート、13…吸気弁、14…排気弁、20…光触媒層、30…スロットルバルブ、31…吸気通路、32…排気通路、33…触媒装置、40…無段変速機、41…入力軸、51…エアフローメータ、52…アクセルセンサ、53…クランクセンサ、54…空燃比センサ、55…水温センサ、56…ノックセンサ、57…吸気温センサ、60…動力分割機構、61…発電機、62…インバータ、63…バッテリ、64…電動機、70…変速機構、80…ハイブリッド駆動系、100…機関制御ユニット、100a…メモリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室内に露出する部材の露出表面に所定波長領域の光により活性化される光触媒を被着し前記露出表面に堆積したデポジットを前記光触媒の光分解を通じて浄化する内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、
前記露出表面に堆積したデポジットの堆積量を推定する推定手段と、前記推定手段によって推定された前記デポジットの堆積量が所定量よりも多いことを条件に前記光触媒の活性化が促進されるように前記内燃機関の燃焼状態を変更する燃焼状態変更手段とを備える
ことを特徴とする内燃機関の燃焼室浄化システム。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、
前記燃焼状態変更手段は前記燃焼室の燃焼火炎光について前記所定波長領域に含まれる波長成分が増大するように前記内燃機関の燃焼状態を変更する
ことを特徴とする内燃機関の燃焼室浄化システム。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、
前記燃焼状態変更手段は燃料噴射量の変更を通じて前記内燃機関の燃焼状態を変更する
ことを特徴とする内燃機関の燃焼室浄化システム。
【請求項4】
請求項1に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、
前記燃焼状態変更手段は前記燃焼室における燃料の燃焼時間が長くなるように前記内燃機関の燃焼状態を変更する
ことを特徴とする内燃機関の燃焼室浄化システム。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、
前記燃焼状態変更手段は内燃機関の点火時期を遅角側の時期に変更する
ことを特徴とする内燃機関の燃焼室浄化システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、
前記内燃機関は無段変速機を介してその駆動系に連結されており、
前記燃焼状態変更手段により前記内燃機関の燃焼状態が変更されたとき、該燃焼状態の変更により前記内燃機関から前記無段変速機を介して前記駆動系に伝達される駆動力の変化を補償するように前記無段変速機の変速比を変更する変速比変更手段を更に備える
ことを特徴とする内燃機関の燃焼室浄化システム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、
前記内燃機関とは別にその駆動系に駆動力を伝達する電動機を備え
前記燃焼状態変更手段により内燃機関の燃焼状態が変更されたとき、該燃焼状態の変更により前記内燃機関から前記駆動系に伝達される駆動力の変化を補償するように前記電動機の駆動力を変更する駆動力変更手段を更に備える
ことを特徴とする内燃機関の燃焼室浄化システム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、
前記内燃機関若しくはその駆動系により駆動されて発電する発電機を備え
前記燃焼状態変更手段により内燃機関の燃焼状態が変更されたとき、該燃焼状態の変更により前記内燃機関から前記駆動系に伝達される駆動力の変化を補償するように前記発電機の発電量を変更する発電量変更手段を更に備える
ことを特徴とする内燃機関の燃焼室浄化システム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、
前記内燃機関はその噴口が前記燃焼室内に露出して前記光触媒が被着される筒内噴射用インジェクタを備え、機関空燃比の実際値と目標値とが一致するように前記筒内噴射用インジェクタの燃料噴射量をフィードバック制御するものであり、前記推定手段は機関空燃比の実際値と目標値との乖離傾向に基づいてデポジットの堆積量を推定する
ことを特徴とする内燃機関の燃焼室浄化システム。
【請求項10】
請求項9に記載の内燃機関の燃焼室浄化システムにおいて、
前記推定手段は前記機関空燃比の実際値と目標値との間の定常的な乖離を補償するための空燃比学習値に基づいて前記筒内噴射用インジェクタのデポジット堆積量を推定する
ことを特徴とする内燃機関の燃焼室浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−309167(P2007−309167A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137654(P2006−137654)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】