説明

半導体基板の作製方法及び半導体装置の作製方法

【課題】平坦性の高い表面を有する単結晶半導体層を備えた半導体基板の作製方法を提供することを目的の一とする。平坦性の高い単結晶半導体層を備えた半導体基板を用いて信頼性の高い半導体装置を作製することを目的の一とする。
【解決手段】半導体基板の作製工程において、単結晶半導体基板に希ガスイオン照射工程、レーザー照射工程および水素イオン照射工程を行うことで、単結晶半導体基板の所定の深さに大きな結晶欠陥を含有した薄い脆化領域を形成し、剥離加熱工程を行うことで脆化領域より表面側の単結晶半導体層をベース基板に転載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁表面に単結晶半導体層が設けられた半導体基板の作製方法及び半導体装置の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶半導体のインゴットを薄くスライスして作製されるシリコンウエハーに代わり、絶縁表面に薄い単結晶半導体層を設けたシリコン・オン・インシュレータ(Silicon on Insulator、以下、「SOI」ともいう)と呼ばれる半導体基板を使った集積回路が開発されている。SOI基板を使った集積回路は、トランジスタのドレインと基板間における寄生容量を低減し、半導体集積回路の性能を向上させるものとして注目を集めている。
【0003】
SOI基板を作製する方法としては、水素イオン注入剥離法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。水素イオン注入剥離法は、シリコンウエハー表面より水素イオンを添加することによって表面から所定の深さに微小気泡領域を形成した後にシリコンウエハー表面を別のシリコンウエハーに接合する。さらに熱処理を行うことにより、シリコンウエハー中に分布する水素イオンが微小気泡領域に集中して、微小気泡領域が劈開面となり劈開面より表面側のシリコン層が剥離されることで、接合された別のシリコンウエハーに剥離された薄いシリコン層を転載することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−124092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単結晶半導体層を備えた半導体基板を使用して高機能な半導体集積回路を形成するためには、備えられた単結晶半導体層表面に高い平坦性が求められる。
【0006】
このような問題点に鑑み、高機能な半導体集積回路を形成する半導体基板としての実用に耐えうる平坦性の高い表面を有する単結晶半導体層を備えた半導体基板の作製方法を提供することを目的の一とする。
【0007】
平坦性の高い単結晶半導体層を備えた半導体基板を用いて信頼性の高い半導体装置を作製することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
単結晶半導体基板に希ガスイオン照射工程、レーザー照射工程および水素イオン照射工程を行うことで、単結晶半導体基板の所定の深さに大きな結晶欠陥を含有した薄い脆化領域を形成し、剥離加熱工程を行うことで脆化領域より表面側の単結晶半導体層をベース基板に転載する。
【0009】
なお、本明細書における損傷領域とは、希ガスイオン照射により結晶構造に欠陥が生じた領域のことであり、本明細書における脆化領域とは、剥離加熱工程において、体積膨張により劈開面で剥離現象が発生するだけの水素イオンを含有した損傷領域のことである。
【0010】
まず、単結晶半導体基板内に損傷領域を形成するために、単結晶半導体基板表面より希ガスイオン照射工程を行う。希ガスイオンは単結晶半導体基板内に照射した際に結晶構造に与える損傷が大きいため、大きな結晶欠陥を効率よく形成することができる。
【0011】
また、希ガスは不活性であるため、作業時の気体雰囲気や温度を制御する必要が無いため、安全性が高い点も長所として上げられる。
【0012】
損傷領域を形成するために行う希ガスイオン照射工程において、単結晶半導体基板内には入射エネルギーに応じた深さまで到達した希ガスが濃度分布を有して含まれる。この希ガス分布は高濃度な状態でブロードに分布する。よって、損傷領域は、含まれる希ガスの濃度分布に依存するため、単結晶半導体中において損傷領域は、所定の深さ近傍に厚く形成されてしまう。
【0013】
単結晶半導体基板から単結晶半導体層を剥離する工程を、損傷領域において行おうとすると、損傷領域は深さ(膜厚)方向に広く(厚く)分布しており、広い範囲で剥離が生じるため、単結晶半導体層を別のベース基板に転載する際に劈開面が平面とならずに大きな凹凸が発生してしまう。
【0014】
よって、単結晶半導体基板内の損傷領域を膜厚方向に薄くするために、単結晶半導体基板表面よりレーザー照射工程を行う。レーザー照射を行うことにより、希ガスイオン照射によって生じた結晶欠陥を回復し、且つ、損傷領域を膜厚方向に薄くすることができる。
【0015】
レーザーは高精度にエネルギー調整を行えるため、単結晶半導体基板表面から劈開面となる所定の深さまでの範囲のみを選択的に加熱することができる。この加熱により、単結晶半導体基板表面から劈開面となる所定深さまでの範囲が溶融し、再単結晶化が行われる。
【0016】
これにより、所定の深さにおける損傷領域の結晶欠陥状態を維持したまま、所定の深さより浅い損傷領域の結晶欠陥状態を回復し、損傷領域を膜厚方向に薄くすることができる。
【0017】
なお、レーザーは高精度にエネルギー調整を行えるため、損傷領域の膜厚方向に対する厚さを高精度に制御することができる。
【0018】
次に、単結晶半導体基板内に脆化領域を形成するために、単結晶半導体基板表面より水素イオン照射工程を行う。希ガスイオン照射工程にて既に損傷領域が形成されているため、照射する水素イオンは損傷領域に集中しやすく、少ないイオン濃度で効率よく脆化領域を形成することができる。このため、高濃度での水素イオン照射を行う必要がないため、単結晶半導体基板内に形成される結晶欠陥を抑制することができる。
【0019】
また、水素イオンを照射することによって単結晶半導体基板内にはプレートレット欠陥が形成できるため、低温で剥離することができる。
【0020】
次に、劈開面より表面側の単結晶半導体層を接合するベース基板を貼り合わせる。ベース基板と単結晶半導体基板の貼り合わせ強度を強くするため、ベース基板の表面状態は平坦性が高いことが好ましい。
【0021】
最後に、劈開面より表面側の単結晶半導体層を剥離するための剥離加熱工程を行う。
【0022】
このように、希ガスイオン照射工程とレーザー照射工程を行うことにより大きな結晶欠陥を含有した薄い膜厚の損傷領域を形成した後に、損傷領域に水素イオン照射工程を行って脆化領域を形成することで、大きな結晶欠陥を含有した薄い膜厚の脆化領域を形成することができる。よって、剥離加熱工程後に得られる劈開面は、凹凸の小さな平坦性の高いものとなる。
【0023】
本発明の半導体基板の作製方法の一形態は、単結晶半導体基板の一面から希ガスイオンを照射して第一の損傷領域を形成し、単結晶半導体基板の一面からレーザー光を照射して第一の損傷領域の一部を溶融し第二の損傷領域を形成し、単結晶半導体基板の一面から第二の損傷領域に水素イオンを照射して単結晶半導体基板の一面から一定の深さに脆化領域を形成し、単結晶半導体基板とベース基板とを、重ね合わせた状態で、脆化領域を劈開面として、単結晶半導体基板を脆化領域で分離する熱処理を行い、単結晶半導体基板より単結晶半導体層をベース基板上に形成することを特徴とする、半導体基板の作製方法である。
【0024】
本発明の半導体基板の作製方法の他の一形態は、単結晶半導体基板の一面から希ガスイオンを照射して第一の損傷領域を形成し、単結晶半導体基板の一面から第一のレーザー光を照射して第一の損傷領域の一部を溶融し第二の損傷領域を形成し、単結晶半導体基板の一面から第二の損傷領域に水素イオンを照射して単結晶半導体基板の一面から一定の深さに脆化領域を形成し、単結晶半導体基板の一面から第二のレーザー光を照射することにより単結晶半導体基板の一面から脆化領域までの領域を溶融し、単結晶半導体基板とベース基板とを、重ね合わせた状態で、脆化領域を劈開面として、単結晶半導体基板を脆化領域で分離する熱処理を行い、単結晶半導体基板より単結晶半導体層をベース基板上に形成することを特徴とする、半導体基板の作製方法である。
【0025】
本発明の半導体基板の作製方法の他の一形態は、希ガスとしてヘリウムを用いることを特徴とする、半導体基板の作製方法である。
【0026】
本発明の半導体装置の作製方法の一形態は、前述の半導体基板の作製方法により形成された単結晶半導体層を用いて半導体素子を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法である。
【発明の効果】
【0027】
単結晶半導体基板に希ガスイオン照射工程,レーザー照射工程および水素イオン照射工程を行うことで、単結晶半導体基板の所定の深さに大きな結晶欠陥を含有した薄い脆化領域を形成することにより、剥離加熱工程後に得られる劈開面を、凹凸の小さな平坦性の高いものにできる。
【0028】
水素イオン照射前に、希ガスイオン照射およびレーザー照射により薄い損傷領域を予め形成することにより、少ない水素イオン照射で効率よく脆化領域を形成することができるため、水素イオン照射により形成される単結晶半導体基板内の結晶欠陥を抑制することができる。
【0029】
そのような単結晶半導体基板から分離された平坦性の高い単結晶半導体層を用いることにより、高性能及び高信頼性な半導体素子、記憶素子、集積回路などを含む様々な半導体装置を歩留まり良く作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】半導体基板の作製方法を説明する図。
【図2】半導体基板の作製方法を説明する図。
【図3】半導体基板の作製方法を説明する図。
【図4】半導体装置の作製方法を説明する図。
【図5】半導体装置の作製方法を説明する図。
【図6】電子機器を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する本発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0032】
(実施の形態1)
本実施の形態では、半導体基板の作製おいて、高機能な半導体集積回路を形成する半導体基板としての実用に耐えうる、平坦性の高い劈開面を有する単結晶半導体層を備えた半導体基板の作製方法について説明する。
【0033】
まず、単結晶半導体基板100を準備する(図1(A)参照)。なお、ここでは単結晶の半導体基板を用いるが、単結晶層を有する基板が用いてもよい。
【0034】
単結晶半導体基板100としては、例えば、単結晶シリコン基板、単結晶ゲルマニウム基板、単結晶シリコンゲルマニウム基板など、第14族元素でなる単結晶半導体基板を用いることができる。また、ガリウムヒ素やインジウムリン等の化合物半導体基板を用いることもできる。市販のシリコン基板としては、直径5インチ(125mm)、直径6インチ(150mm)、直径8インチ(200mm)、直径12インチ(300mm)、直径16インチ(400mm)サイズの円形のものが代表的である。なお、単結晶半導体基板100の形状は円形に限らず、例えば、矩形等に加工したものであっても良い。また、単結晶半導体基板100は、CZ(チョクラルスキー)法やFZ(フローティングゾーン)法を用いて作製することができる。
【0035】
次に、単結晶半導体基板100の表面には絶縁層102を形成する(図1(B)参照)。なお、汚染物除去の観点から、絶縁層102の形成前に、塩酸過酸化水素水混合溶液(HPM)、硫酸過酸化水素水混合溶液(SPM)、アンモニア過酸化水素水混合溶液(APM)、希フッ酸(DHF)、FPM(フッ酸、過酸化水素水、純水の混合液)等を用いて単結晶半導体基板100の表面を洗浄しておくことが好ましい。希フッ酸とオゾン水を交互に吐出して洗浄してもよい。
【0036】
絶縁層102は、例えば、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜等を単層で、または積層させて形成することができる。上記絶縁層102の作製方法としては、熱酸化法、CVD法、スパッタリング法などがある。また、CVD法を用いて絶縁層102を形成する場合、良好な貼り合わせを実現するためには、テトラエトキシシラン(略称;TEOS:化学式Si(OC)等の有機シランを用いて酸化シリコン膜を形成することが好ましい。
【0037】
本実施の形態では、単結晶半導体基板100に熱酸化処理を行うことにより絶縁層102(ここでは、酸化膜(SiO膜))を形成する。熱酸化処理は、酸化性雰囲気中にハロゲンを添加して行うことが好ましい。
【0038】
例えば、塩素(Cl)が添加された酸化性雰囲気中で単結晶半導体基板100に熱酸化処理を行うことにより、塩素酸化された絶縁層102を形成することができる。この場合、絶縁層102は、塩素原子を含有する膜となる。このような塩素酸化により、外因性の不純物である重金属(例えば、Fe、Cr、Ni、Mo等)を捕集して金属の塩化物を形成し、これを外方に除去して単結晶半導体基板100の汚染を低減させることができる。また、ベース基板200と貼り合わせた後に、ベース基板からのNa等の不純物を固定して、単結晶半導体基板100の汚染を防止できる。
【0039】
なお、絶縁層102に含有させるハロゲン原子は塩素原子に限られない。絶縁層102にはフッ素原子を含有させてもよい。単結晶半導体基板100表面をフッ素酸化する方法としては、HF溶液に浸漬させた後に酸化性雰囲気中で熱酸化処理を行う方法や、NFを酸化性雰囲気に添加して熱酸化処理を行う方法などがある。
【0040】
次に、単結晶半導体基板100の一面に対して希ガスイオン照射103を行う。希ガスイオンを電界で加速して単結晶半導体基板100に照射することで、単結晶半導体基板100の所定の深さに結晶構造が損傷した第一の損傷領域104を形成する(図1(C)参照)。
【0041】
第一の損傷領域104が形成される領域の深さは、イオンの運動エネルギー、イオンの質量と電荷、イオンの入射角などによって調節することができる。また、第一の損傷領域104は、イオンの平均侵入深さとほぼ同じ深さの領域に形成される。このため、イオンを照射する深さで、単結晶半導体基板100から分離される単結晶半導体層の厚さを調節することができる。例えば、単結晶半導体層の厚さが、10nm以上500nm以下、好ましくは50nm以上200nm以下程度となるように平均侵入深さを調節すれば良い。
【0042】
当該イオンの照射処理は、イオンドーピング装置やイオン注入装置を用いて行うことができる。イオンドーピング装置の代表例としては、プロセスガスをプラズマ励起して生成された全てのイオン種を被処理体に照射する非質量分離型の装置がある。当該装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離しないで被処理体に照射することになる。これに対して、イオン注入装置は質量分離型の装置である。イオン注入装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離し、ある特定の質量のイオン種を被処理体に照射する。
【0043】
本実施の形態では、希ガスイオン照射として、イオンドーピング装置を用いてヘリウム(He)ガスを単結晶半導体基板100に照射する例について説明する。
【0044】
ヘリウムを原料ガスにする場合、加速電圧を10kV〜100kVの範囲で、ドーズ量を1×1015ions/cm〜5×1016ions/cmの範囲で照射し損傷領域を形成することができる。ヘリウムを原料ガスにすると、質量分離を行わなくてもHeイオンを主なイオンとして照射することができる。
【0045】
単結晶半導体基板にヘリウムイオンのような希ガスイオンを照射した場合、添加されたヘリウムが、シリコン結晶格子内のシリコン原子をノックアウトする(追い出す)ことによって結晶欠陥を含有する第一の損傷領域を作り出す。希ガスイオンはサイズが大きく重量も重いため、大きな欠陥を形成しやすく、よって損傷領域の膜厚を薄くしても剥離がしやすくなる。
【0046】
また、ヘリウムは不活性ガスであるため、イオン照射時の気体雰囲気制御や温度制御が容易であり、作業効率や安全性を向上させることができる。
【0047】
なお、照射する希ガスイオンはヘリウムイオンに限定されない。アルゴンイオンなどを照射しても良い。また、照射する希ガスイオンは一種類に限定されず、複数種類のイオンを添加しても良い。
【0048】
なお、イオンドーピング装置を用いて第一の損傷領域104を形成する場合には、重金属も同時に添加されるおそれがあるが、ハロゲン原子を含有する絶縁層102を介してイオンの照射を行うことによって、これら重金属による単結晶半導体基板100の汚染を防ぐことができる。
【0049】
なお、ヘリウム照射の後に第一の損傷領域にヘリウムを集中させるための熱処理を行ってもよい。この熱処理の温度は、ヘリウムが単結晶半導体基板内から放出されることによるボイドが生じない温度(例えば、200℃以上600℃未満)とする。上記熱処理には、拡散炉、抵抗加熱炉などの加熱炉、RTA(瞬間熱アニール、Rapid Thermal Anneal)装置、マイクロ波加熱装置などを用いることができる。なお、上記温度条件はあくまで一例に過ぎず、開示する発明の一態様がこれに限定して解釈されるものではない。
【0050】
次に、単結晶半導体基板の一面に対してレーザー光105を照射し、単結晶半導体基板の深さ方向も含む照射領域を選択的に溶融させて再単結晶化させることにより、第一の損傷領域の単結晶半導体基板表面側に近い一部において結晶欠陥が回復する。これにより、厚さを薄くした第二の損傷領域106が形成される(図1(D)参照)。
【0051】
次に、単結晶半導体基板の一面に対して水素イオン照射107を行う。水素イオンを電界で加速して単結晶半導体基板100に照射することで、第二の損傷領域106近傍に水素イオンを高濃度に分布させ、剥離加熱処理の際に水素ガス集中による剥離現象が発生する脆化領域108を形成する(図1(E)参照)。
【0052】
当該イオンの照射処理は、イオンドーピング装置やイオン注入装置を用いて行うことができる。イオンドーピング装置の代表例としては、プロセスガスをプラズマ励起して生成された全てのイオン種を被処理体に照射する非質量分離型の装置がある。当該装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離しないで被処理体に照射することになる。これに対して、イオン注入装置は質量分離型の装置である。イオン注入装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離し、ある特定の質量のイオン種を被処理体に照射する。
【0053】
本実施の形態では、イオンドーピング装置を用いて、水素イオンを単結晶半導体基板100に照射する例について説明する。ソースガスとしては水素を含むガスを用いる。照射するイオンについては、Hの比率を高くすると良い。具体的には、H、H、Hの総量に対してHの割合が50%以上(より好ましくは80%以上)となるようにする。Hの割合を高めることで、イオン照射の効率を向上させることができる。
【0054】
ヘリウム照射にて結晶欠陥を含有する第二の損傷領域106が既に形成されているため、照射する水素イオンは第二の損傷領域106に集まりやすく、少ないイオン濃度で効率よく脆化領域108を形成することができるため、水素イオン照射により形成される単結晶半導体基板内の結晶欠陥を抑制することができる。
【0055】
なお、水素イオンを照射することによって単結晶半導体基板内にはプレートレット欠陥が形成できるため、低温で剥離することができる。
【0056】
含まれる水素の濃度分布については、第二の損傷領域106の膜厚方向に対する中央付近に水素濃度ピークが形成されるように照射を行うことが好ましいが、水素イオンは第二の損傷領域106に集まりやすいので、この限りではない。
【0057】
なお、イオンドーピング装置を用いて高濃度イオン分布領域を形成する場合には、重金属も同時に添加されるおそれがあるが、ハロゲン原子を含有する絶縁層102を介してイオンの照射を行うことによって、これら重金属による単結晶半導体基板100の汚染を防ぐことができる。
【0058】
また、水素イオン照射の後に結晶欠陥を回復させるための熱処理を行ってもよい。この熱処理の温度は、脆化領域108において水素集中により剥離が生じない温度(例えば、200℃以上400℃未満)とする。上記熱処理には、拡散炉、抵抗加熱炉などの加熱炉、RTA(瞬間熱アニール、Rapid Thermal Anneal)装置、マイクロ波加熱装置などを用いることができる。なお、上記温度条件はあくまで一例に過ぎず、開示する発明の一態様がこれに限定して解釈されるものではない。
【0059】
次に、ベース基板200を準備する。ベース基板200としては、絶縁体でなる基板を用いることができる。具体的には、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスのような電子工業用に使われる各種ガラス基板、石英基板が挙げられる。
【0060】
本実施の形態では、ベース基板200としてガラス基板を用いる場合について説明する。ベース基板200として大面積化が可能で安価なガラス基板を用いることにより、低コスト化を図ることができる。
【0061】
上記ベース基板200に関しては、その表面をあらかじめ洗浄しておくことが好ましい。具体的には、ベース基板200に対して、塩酸過酸化水素水混合溶液(HPM)、硫酸過酸化水素水混合溶液(SPM)、アンモニア過酸化水素水混合溶液(APM)、希フッ酸(DHF)、FPM(フッ酸、過酸化水素水、純水の混合液)等を用いて超音波洗浄を行う。このような洗浄処理を行うことによって、ベース基板200表面の平坦性向上や、ベース基板200表面に残存する研磨粒子の除去などが実現される。
【0062】
なお、ベース基板200の表面に、ベース基板に含まれるナトリウム(Na)等の不純物が単結晶半導体層に拡散することを防ぐためのバリア層を形成してもよい。
【0063】
次に、単結晶半導体基板100と、ベース基板200を対向させ、絶縁層102とベース基板200の表面とを密着させる。これにより、単結晶半導体基板100と、ベース基板200とが貼り合わされる(図2(A)参照)。
【0064】
貼り合わせの際には、ベース基板200または単結晶半導体基板100の一箇所に、0.001N/cm以上100N/cm以下、例えば、1N/cm以上20N/cm以下の圧力を加えることが望ましい。圧力を加えて、貼り合わせ面を接近、密着させると、密着させた部分においてベース基板200と絶縁層102の接合が生じ、当該部分を始点として自発的な接合がほぼ全面におよぶ。この接合には、ファンデルワールス力や水素結合が作用しており、常温で行うことができる。
【0065】
なお、単結晶半導体基板100とベース基板200とを貼り合わせる前には、貼り合わせに係る表面について、表面処理を行うことが好ましい。表面処理を行うことで、単結晶半導体基板100とベース基板200との界面での接合強度を向上させることができる。
【0066】
表面処理としては、ウェット処理、ドライ処理、またはウェット処理とドライ処理の組み合わせ、を用いることができる。また、異なるウェット処理どうしを組み合わせて用いても良いし、異なるドライ処理どうしを組み合わせて用いても良い。
【0067】
なお、貼り合わせの後には、接合強度を増加させるための熱処理を行ってもよい。この熱処理の温度は、脆化領域108において分離が生じない温度(例えば、200℃以上400℃未満)とする。また、この温度範囲で加熱しながら、絶縁層102とベース基板200とを接合させてもよい。上記熱処理には、拡散炉、抵抗加熱炉などの加熱炉、RTA(瞬間熱アニール、Rapid Thermal Anneal)装置、マイクロ波加熱装置などを用いることができる。なお、上記温度条件はあくまで一例に過ぎず、開示する発明の一態様がこれに限定して解釈されるものではない。
【0068】
次に、剥離加熱処理を行うことにより、単結晶半導体基板100を脆化領域において分離して、ベース基板200上に、絶縁層102を介して単結晶半導体層110を分離する(図2(B)参照)。図2(B)の分離例は一例であり、脆化領域108に沿って絶縁層102が分離される場合もある。
【0069】
以上の工程により、平坦性が高くかつ結晶欠陥の少ない良好な特性を有する単結晶半導体層110が単結晶半導体基板100からベース基板200に転載され、高機能な半導体集積回路を形成する半導体基板としての実用に耐えうる単結晶半導体層を備えた半導体基板を得ることができる(図2(C)参照)。
【0070】
なお、上記分離の際の熱処理温度は、できる限り低いものであることが望ましい。分離の際の温度が低いほど、単結晶半導体層110の表面荒れを抑制できるためである。具体的には、例えば、上記分離の際の熱処理御温度は、300℃以上600℃以下、好ましくは300℃以上500℃以下とすると、より効果的である。
【0071】
なお、単結晶半導体基板100を分離した後には、単結晶半導体層110に対して、100℃以上の温度で熱処理を行い、単結晶半導体層110中に残存する水素の濃度を低減させてもよい。
【0072】
ベース基板に設けられた単結晶半導体層110からトランジスタなどの半導体素子を作製することで、ゲート絶縁層の薄膜化およびゲート絶縁層の局在界面準位密度を低減することができる。また単結晶半導体層110の膜厚を薄くすることで、ベース基板上に、単結晶半導体層で完全空乏型のトランジスタを作製することができる。
【0073】
また、本実施の形態において、単結晶半導体基板100として単結晶シリコン基板を適用した場合は、単結晶半導体層110として単結晶シリコン層を得ることができる。また、本実施の形態に係る半導体基板の製造方法は、プロセス温度を700℃以下とすることができるため、ベース基板200としてガラス基板を適用することができる。すなわち、従来の薄膜トランジスタと同様にガラス基板上に形成することができ、かつ単結晶シリコン層を単結晶半導体層に適用することができる。これらのことにより、高速動作が可能で、サブスレッショルド値が低く、電界効果移動度が高く、低消費電圧で駆動可能など高性能、高信頼性のトランジスタをガラス基板等のベース基板上に作製することができる。
【0074】
なお、本明細書に開示する発明において、半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能しうる装置を指す。本発明を用いて半導体素子(トランジスタ、メモリ素子やダイオードなど)を含む回路を有する装置や、プロセッサ回路を有するチップなどの半導体装置を作製することができる。
【0075】
本明細書に開示する発明は表示機能を有する装置である半導体装置(表示装置ともいう)にも用いることができ、半導体装置としては、エレクトロルミネセンス(以下「EL」ともいう。)と呼ばれる発光を発現する有機物、無機物、若しくは有機物と無機物の混合物を含む層を、電極間に介在させた発光素子とトランジスタとが接続された半導体装置(発光表示装置)や、液晶材料を有する液晶素子(液晶表示素子)を表示素子として用いる半導体装置(液晶表示装置)などがあげられる。本明細書において、表示装置とは表示素子を有する装置のことを指し、表示装置は、基板上に表示素子を含む複数の画素やそれらの画素を駆動させる周辺駆動回路が形成された表示パネル本体のことも含む。さらに、フレキシブルプリントサーキット(FPC)やプリント配線基盤(PWB)が取り付けられたもの(ICや抵抗素子や容量素子やインダクタやトランジスタなど)も含んでもよい。さらに、偏光板や位相差板などの光学シートを含んでいても良い。さらに、バックライト(導光板やプリズムシートや拡散シートや反射シートや光源(LEDや冷陰極管など)を含んでいても良い)を含んでいても良い。
【0076】
なお、表示素子や半導体装置は、様々な形態及び様々な素子を用いることができる。例えば、EL素子(有機EL素子、無機EL素子又は有機物及び無機物を含むEL素子)、電子放出素子、液晶素子、電子インク、グレーティングライトバルブ(GLV)、プラズマディスプレイ(PDP)、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)、圧電セラミックディスプレイ、カーボンナノチューブ、など、電気磁気的作用によりコントラストが変化する表示媒体を適用することができる。なお、EL素子を用いた半導体装置としてはELディスプレイ、電子放出素子を用いた半導体装置としてはフィールドエミッションディスプレイ(FED)やSED方式平面型ディスプレイ(SED:Surface−conduction Electron−emitter Disply)など、液晶素子を用いた半導体装置としては液晶ディスプレイ、透過型液晶ディスプレイ、半透過型液晶ディスプレイ、反射型液晶ディスプレイ、電子インクを用いた半導体装置としては電子ペーパーがある。
【0077】
本明細書に開示された方法により作製された半導体基板を用いることにより、高性能及び高信頼性な半導体基板及び半導体装置を歩留まり良く作製することができる。
【0078】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1において、単結晶半導体基板よりベース基板へ単結晶半導体層を接合する工程の異なる例を示す。従って、実施の形態1と同一部分又は同様な機能を有する部分の繰り返しの説明は省略する。
【0079】
本実施の形態は、実施の形態1と同様に単結晶半導体基板100に絶縁層102を形成し、希ガスイオン照射工程、レーザー照射工程および水素イオン照射工程を行い膜厚の薄い脆化領域108を形成した後に、結晶欠陥を回復するための第二のレーザー照射工程を行うものであり、図3(A)は図1(E)に対応している。
【0080】
脆化領域108が形成された単結晶半導体基板100の一面に対してレーザー光109を照射する(図3(B)参照)。これにより、脆化領域108における結晶の欠陥はそのままの状態に維持しながら、脆化領域108より浅い領域における結晶の欠陥のみを回復することができる。このため、本実施の形態により作製された単結晶半導体層110を使用することにより、劈開面近傍の結晶欠陥が極めて少ない単結晶半導体層を備えた半導体基板を作製することができる。
【0081】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることができる。
【0082】
(実施の形態3)
本実施の形態では、薄型で高性能な半導体素子を有する半導体集積回路を実装し、歩留まりよく作製することを目的とした半導体装置の作製方法の一例としてCMOS(相補型金属酸化物半導体:Complementary Metal Oxide Semiconductor)に関して図4及び図5を用いて説明する。なお、実施の形態1と同一部分又は同様な機能を有する部分の繰り返しの説明は省略する。
【0083】
図4(A)は、ベース基板200上に絶縁層102、単結晶半導体層110が形成されている。図4(A)は、図2(C)と対応している。なお、ここでは実施の形態1で図2(C)に示す構成の半導体基板を適用する例を示すが、本明細書で示すその他の構成の半導体基板も適用できる。
【0084】
単結晶半導体層110には、分離した単結晶半導体基板の導電型(含まれる一導電型を付与する不純物元素)によって、しきい値電圧を制御するためにnチャネル型電界効果トランジスタ及びpチャネル型電界効果トランジスタの形成領域に合わせて、硼素、アルミニウム、ガリウムなどのp型を付与する不純物元素、若しくはリン、砒素などのn型を付与する不純物元素を添加してもよい。不純物元素のドーズ量は1×1012ions/cmから1×1014ions/cm程度で行えば良い。
【0085】
単結晶半導体層110をエッチングして、半導体素子の配置に合わせて島状に分離した単結晶半導体層1205、1206を形成する(図4(B)参照。)。
【0086】
単結晶半導体層上の酸化膜を除去し、単結晶半導体層1205、1206を覆うゲート絶縁層1207を形成する。本実施の形態における単結晶半導体層1205、1206は平坦性が高いため、単結晶半導体層1205、1206上に形成されるゲート絶縁層が薄膜のゲート絶縁層であっても被覆性よく覆うことができる。従ってゲート絶縁層の被覆不良による特性不良を防ぐことができ、高信頼性の半導体装置を歩留まりよく作製することができる。ゲート絶縁層1207の薄膜化は、トランジスタを低電圧で高速に動作させる効果がある。
【0087】
ゲート絶縁層1207は酸化珪素、若しくは酸化珪素と窒化珪素の積層構造で形成すればよい。ゲート絶縁層1207は、プラズマCVD法や減圧CVD法により絶縁膜を堆積することで形成しても良いし、プラズマ処理による固相酸化若しくは固相窒化で形成すると良い。単結晶半導体層を、プラズマ処理により酸化又は窒化することにより形成するゲート絶縁層は、緻密で絶縁耐圧が高く信頼性に優れているためである。例えば、亜酸化窒素(NO)をArで1〜3倍(流量比)に希釈して、10〜30Paの圧力にて3〜5kWのマイクロ波(2.45GHz)電力を印加して単結晶半導体層1205、1206の表面を酸化若しくは窒化させる。この処理により1nm〜10nm(好ましくは2nm〜6nm)の絶縁膜を形成する。さらに亜酸化窒素(NO)とシラン(SiH)を導入し、10〜30Paの圧力にて3〜5kWのマイクロ波(2.45GHz)電力を印加して気相成長法により酸化窒化シリコン膜を形成してゲート絶縁層を形成する。固相反応と気相成長法による反応を組み合わせることにより界面準位密度が低く絶縁耐圧の優れたゲート絶縁層を形成することができる。
【0088】
また、ゲート絶縁層1207として、二酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、二酸化チタン、五酸化タンタルなどの高誘電率材料を用いても良い。ゲート絶縁層1207に高誘電率材料を用いることにより、ゲートリーク電流を低減することができる。
【0089】
ゲート絶縁層1207上にゲート電極層1208及びゲート電極層1209を形成する(図4(C)参照。)。ゲート電極層1208、1209は、スパッタリング法、蒸着法、CVD法等の手法により形成することができる。ゲート電極層1208、1209はタンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ネオジム(Nd)から選ばれた元素、又は前記元素を主成分とする合金材料もしくは化合物材料で形成すればよい。また、ゲート電極層1208、1209としてリン等の不純物元素をドーピングした多結晶シリコン膜に代表される半導体膜や、AgPdCu合金を用いてもよい。
【0090】
単結晶半導体層1206を覆うマスク1211を形成する。マスク1211及びゲート電極層1208をマスクとして、n型を付与する不純物元素1210を添加し、第一のn型不純物領域1212a、1212bを形成する(図4(D)参照。)。本実施の形態では、不純物元素を含むドーピングガスとしてホスフィン(PH)を用いる。ここでは、第一のn型不純物領域1212a、1212bに、n型を付与する不純物元素が1×1017〜5×1018atoms/cm程度の濃度で含まれるように添加する。本実施の形態では、n型を付与する不純物元素としてリン(P)を用いる。
【0091】
次に、マスク1211を除去した後に、単結晶半導体層1205を覆うマスク1214を形成する。マスク1214、ゲート電極層1209をマスクとしてp型を付与する不純物元素1213を添加し、第一のp型不純物領域1215a、1215bを形成する(図4(E)参照。)。本実施の形態では、不純物元素としてボロン(B)を用いるため、不純物元素を含むドーピングガスとしてはジボラン(B)などを用いる。
【0092】
マスク1214を除去し、ゲート電極層1208及び1209の側面にサイドウォール構造の側壁絶縁層1216a乃至1216d、ゲート絶縁層1233a及び1233bを形成する(図5(A)参照。)。側壁絶縁層1216a乃至1216dは、ゲート電極層1208、1209を覆う絶縁層を形成した後、これをRIE(Reactive ion etching:反応性イオンエッチング)法による異方性のエッチングによって絶縁層を加工し、ゲート電極層1208、1209の側壁に自己整合的にサイドウォール構造の側壁絶縁層1216a乃至1216dを形成すればよい。ここで、絶縁層について特に限定はないが、TEOS(Tetraethyl−Ortho−Silicate)若しくはシラン等と、酸素若しくは亜酸化窒素等とを反応させて形成した段差被覆性のよい酸化珪素であることが好ましい。絶縁層は熱CVD、プラズマCVD、常圧CVD、バイアスECRCVD、スパッタリング等の方法によって形成することができる。ゲート絶縁層1233a、1233bはゲート電極層1208、1209、及び側壁絶縁層1216a乃至1216dをマスクとしてゲート絶縁層1207をエッチングして形成することができる。
【0093】
また、本実施の形態では、絶縁層をエッチングする際、ゲート電極層上の絶縁層を除去し、ゲート電極層を露出させるが、絶縁層をゲート電極層上に残すような形状に側壁絶縁層1216a乃至1216dを形成してもよい。また、後工程でゲート電極層上に保護膜を形成してもよい。このようにゲート電極層を保護することによって、エッチング加工する際、ゲート電極層の膜減りを防ぐことができる。また、ソース領域及びドレイン領域にシリサイドを形成する場合、シリサイド形成時に成膜する金属膜とゲート電極層とが接しないので、金属膜の材料とゲート電極層の材料とが反応しやすい材料であっても、化学反応や拡散などの不良を防止することができる。エッチング方法は、ドライエッチング法でもウェットエッチング法でもよく、種々のエッチング方法を用いることができる。本実施の形態では、ドライエッチング法を用いる。エッチング用ガスとしては、Cl、BCl、SiClもしくはCClなどを代表とする塩素系ガス、CF、SFもしくはNFなどを代表とするフッ素系ガス又はOを適宜用いることができる。
【0094】
次に単結晶半導体層1206を覆うマスク1218を形成する。マスク1218、ゲート電極層1208、側壁絶縁層1216a、1216bをマスクとしてn型を付与する不純物元素1217を添加し、第二のn型不純物領域1219a、1219b、第三のn型不純物領域1220a、1220bが形成される。本実施の形態では、不純物元素を含むドーピングガスとしてPHを用いる。ここでは、第二のn型不純物領域1219a、1219bにn型を付与する不純物元素が5×1019〜5×1020atoms/cm程度の濃度で含まれるように添加する。また、単結晶半導体層1205にチャネル形成領域1221が形成される(図5(B)参照。)。
【0095】
第二のn型不純物領域1219a、1219bは高濃度n型不純物領域であり、ソース、ドレインとして機能する。一方、第三のn型不純物領域1220a、1220bは低濃度不純物領域であり、LDD(LightlyDoped Drain)領域となる。第三のn型不純物領域1220a、1220bはゲート電極層1208に覆われていないLoff領域に形成されるため、オフ電流を低減する効果がある。この結果、さらに信頼性の高く、低消費電力の半導体装置を作製することができる。
【0096】
次に、マスク1218を除去し、単結晶半導体層1205を覆うマスク1223を形成する。マスク1223、ゲート電極層1209、側壁絶縁層1216c、1216dをマスクとして、p型を付与する不純物元素1222を添加し、第二のp型不純物領域1224a、1224b、第三のp型不純物領域1225a、1225bを形成する。
【0097】
第二のp型不純物領域1224a、1224bにp型を付与する不純物元素が1×1020〜5×1021atoms/cm程度の濃度で含まれるように添加する。本実施の形態では、第三のp型不純物領域1225a、1225bは、側壁絶縁層1216c、1216dにより、自己整合的に第二のp型不純物領域1224a、1224bより低濃度となるように形成する。また、単結晶半導体層1206にチャネル形成領域1226が形成される(図5(C)参照。)。
【0098】
第二のp型不純物領域1224a、1224bは高濃度p型不純物領域であり、ソース、ドレインとして機能する。一方、第三のp型不純物領域1225a、1225bは低濃度不純物領域であり、LDD(LightlyDoped Drain)領域となる。第三のp型不純物領域1225a、1225bはゲート電極層1209に覆われていないLoff領域に形成されるため、オフ電流を低減する効果がある。この結果、さらに信頼性の高く、低消費電力の半導体装置を作製することができる。
【0099】
マスク1223を除去し、不純物元素を活性化するために加熱処理、強光の照射、又はレーザー光の照射を行ってもよい。活性化と同時にゲート絶縁層へのプラズマダメージやゲート絶縁層と単結晶半導体層との界面へのプラズマダメージを回復することができる。
【0100】
次に、基板上に層間絶縁層を形成する。本実施の形態では、層間絶縁層を保護膜となる水素を含む絶縁膜1227と、絶縁層1228との積層構造とする。絶縁膜1227と絶縁層1228は、スパッタ法、またはプラズマCVDを用いた窒化珪素膜、窒化酸化珪素膜、酸化窒化珪素膜、酸化珪素膜でもよく、他の珪素を含む絶縁膜を単層または3層以上の積層構造として用いても良い。
【0101】
さらに、窒素雰囲気中で、300〜550℃で1〜12時間の熱処理を行い、単結晶半導体層を水素化する工程を行う。好ましくは、400〜500℃で行う。この工程は層間絶縁層である絶縁膜1227に含まれる水素により単結晶半導体層のダングリングボンドを終端する工程である。本実施の形態では、410℃で1時間加熱処理を行う。
【0102】
絶縁膜1227、絶縁層1228としては他に窒化アルミニウム(AlN)、酸化窒化アルミニウム(AlON)、窒素含有量が酸素含有量よりも多い窒化酸化アルミニウム(AlNO)または酸化アルミニウム、ダイアモンドライクカーボン(DLC)、窒素含有炭素(CN)、ポリシラザン、その他の無機絶縁性材料を含む物質から選ばれた材料で形成することができる。また、シロキサン樹脂を用いてもよい。なお、シロキサン樹脂とは、Si−O−Si結合を含む樹脂に相当する。シロキサンは、シリコン(Si)と酸素(O)との結合で骨格構造が構成される。置換基として、有機基(例えばアルキル基、アリール基)やフルオロ基を用いてもよい。有機基は、フルオロ基を有していてもよい。また、有機絶縁性材料を用いてもよく、有機材料としては、ポリイミド、アクリル、ポリアミド、ポリイミドアミド、レジスト又はベンゾシクロブテンを用いることができる。平坦性のよい塗布法によって形成される塗布膜を用いてもよい。
【0103】
絶縁膜1227、絶縁層1228は、ディップ、スプレー塗布、ドクターナイフ、ロールコーター、カーテンコーター、ナイフコーター、CVD法、蒸着法等を採用することができる。液滴吐出法により絶縁膜1227、絶縁層1228を形成してもよい。液滴吐出法を用いた場合には材料液を節約することができる。また、液滴吐出法のようにパターンが転写、または描写できる方法、例えば印刷法(スクリーン印刷やオフセット印刷などパターンが形成される方法)なども用いることができる。
【0104】
次に、レジストからなるマスクを用いて絶縁膜1227、絶縁層1228に単結晶半導体層に達するコンタクトホール(開口)を形成する。エッチングは、用いる材料の選択比によって、一回で行っても複数回行っても良い。エッチングによって、絶縁膜1227、絶縁層1228を除去し、ソース領域又はドレイン領域である第二のn型不純物領域1219a、1219b、第二のp型不純物領域1224a、1224bに達する開口を形成する。エッチングは、ウェットエッチングでもドライエッチングでもよく、両方用いてもよい。ウェットエッチングのエッチャントは、フッ素水素アンモニウム及びフッ化アンモニウムを含む混合溶液のようなフッ酸系の溶液を用いるとよい。エッチング用ガスとしては、Cl、BCl、SiClもしくはCClなどを代表とする塩素系ガス、CF、SFもしくはNFなどを代表とするフッ素系ガス又はOを適宜用いることができる。また用いるエッチング用ガスに不活性気体を添加してもよい。添加する不活性元素としては、He、Ne、Ar、Kr、Xeから選ばれた一種または複数種の元素を用いることができる。
【0105】
開口を覆うように導電膜を形成し、導電膜をエッチングして各ソース領域又はドレイン領域の一部とそれぞれ電気的に接続するソース電極層又はドレイン電極層として機能する配線層1229a及び1229b、並びに1230a及び1230bを形成する。配線層は、PVD法、CVD法、蒸着法等により導電膜を成膜した後、所望の形状にエッチングして形成することができる。また、液滴吐出法、印刷法、電解メッキ法等により、所定の場所に選択的に導電層を形成することができる。更にはリフロー法、ダマシン法を用いても良い。配線層の材料は、Ag、Au、Cu、Ni、Pt、Pd、Ir、Rh、W、Al、Ta、Mo、Cd、Zn、Fe、Ti、Zr、Ba等の金属、及びSi、Ge、又はその合金、若しくはその窒化物を用いて形成する。また、これらの積層構造としても良い。
【0106】
以上の工程でCMOS構造のnチャネル型薄膜トランジスタであるトランジスタ1231及びpチャネル型薄膜トランジスタであるトランジスタ1232を含む半導体装置を作製することができる(図5(D)参照。)。図示しないが、本実施の形態はCMOS構造であるため、トランジスタ1231とトランジスタ1232とは電気的に接続している。
【0107】
本実施の形態に限定されず、トランジスタはチャネル形成領域が一つ形成されるシングルゲート構造でも、二つ形成されるダブルゲート構造もしくは三つ形成されるトリプルゲート構造であっても良い。
【0108】
以上のように、単結晶半導体層は単結晶半導体基板より分離された層を用いるため、結晶性が極めて高い。
【0109】
従って、薄型の高性能な半導体装置を歩留まり良く作製することができる。
【0110】
本実施の形態は、実施の形態1乃至2のいずれか一と適宜組み合わせることができる。
【0111】
(実施の形態4)
実施の形態3で作製された半導体装置を適用することで、様々な電子機器に本発明を実施できる。
【0112】
その様な電子機器としては、ビデオカメラ、デジタルカメラ等のカメラ、ヘッドマウントディスプレイ(ゴーグル型ディスプレイ)、カーナビゲーション、プロジェクタ、カーステレオ、パーソナルコンピュータ、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話または電子書籍等)などが挙げられる。それらの一例を図6に示す。
【0113】
また、マイクロプロセッサ、RFIDタグ、IDタグ、ICタグ、ICチップ、RFタグ、無線タグ、電子タグまたは無線チップとも呼ばれる非接触でデータの送受信を行うことのできる演算機能を備えた半導体装置などにも本発明を適用することができる。
【0114】
図6(A)に示す携帯情報端末機器は、本体9201、表示部9202等を含んでいる。実施の形態3の半導体装置を適用することによって、高性能でかつ信頼性の高い携帯情報端末機器を提供することができる。
【0115】
図6(B)に示すデジタルビデオカメラは、表示部9701、表示部9702等を含んでいる。実施の形態3の半導体装置を適用することによって、高性能でかつ信頼性の高いデジタルビデオカメラを提供することができる。
【0116】
図6(C)に示す携帯電話機は、本体9101、表示部9102等を含んでいる。実施の形態3の半導体装置を適用することによって、高性能でかつ信頼性の高い携帯電話機を提供することができる。
【0117】
図6(D)に示す携帯型のテレビジョン装置は、本体9301、表示部9302等を含んでいる。実施の形態3の半導体装置を適用することによって、高性能でかつ信頼性の高い携帯型のテレビジョン装置を提供することができる。またテレビジョン装置としては、携帯電話機などの携帯端末に搭載する小型のものから、持ち運びをすることができる中型のもの、また、大型のもの(例えば40インチ以上)まで、幅広いものに、本発明の半導体装置を適用することができる。
【0118】
図6(E)に示す携帯型のコンピュータは、本体9401、表示部9402等を含んでいる。実施の形態3の半導体装置を適用することによって、高性能でかつ信頼性の高い携帯型のコンピュータを提供することができる。
【符号の説明】
【0119】
100 単結晶半導体基板
102 絶縁層
103 希ガスイオン照射
104 第一の損傷領域
105 レーザー光
106 第二の損傷領域
107 水素イオン照射
108 脆化領域
109 レーザー光
110 単結晶半導体層
200 ベース基板
1205 単結晶半導体層
1206 単結晶半導体層
1207 ゲート絶縁層
1208 ゲート電極層
1209 ゲート電極層
1210 n型を付与する不純物元素
1211 マスク
1212a 第一のn型不純物領域
1212b 第一のn型不純物領域
1213 p型を付与する不純物元素
1214 マスク
1215a 第一のp型不純物領域
1215b 第一のp型不純物領域
1216a 側壁絶縁層
1216b 側壁絶縁層
1216c 側壁絶縁層
1216d 側壁絶縁層
1217 n型を付与する不純物元素
1218 マスク
1219a 第二のn型不純物領域
1219b 第二のn型不純物領域
1220a 第三のn型不純物領域
1220b 第三のn型不純物領域
1221 チャネル形成領域
1222 p型を付与する不純物元素
1223 マスク
1224a 第二のp型不純物領域
1224b 第二のp型不純物領域
1225a 第三のp型不純物領域
1225b 第三のp型不純物領域
1226 チャネル形成領域
1227 絶縁膜
1228 絶縁層
1229a 配線層
1229b 配線層
1230a 配線層
1230b 配線層
1231 トランジスタ
1232 トランジスタ
1233a ゲート絶縁層
1233b ゲート絶縁層
9101 本体
9102 表示部
9201 本体
9202 表示部
9301 本体
9302 表示部
9401 本体
9402 表示部
9701 表示部
9702 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶半導体基板の一面に対して希ガスイオンを照射して前記単結晶半導体基板内に第一の損傷領域を形成し、
前記単結晶半導体基板の一面に対してレーザー光を照射して前記第一の損傷領域の一部を溶融し第二の損傷領域を形成し、
前記単結晶半導体基板の一面を介して前記第二の損傷領域に水素イオンを照射して前記単結晶半導体基板の一面から一定の深さに脆化領域を形成し、
前記単結晶半導体基板とベース基板とを、重ね合わせた状態で、前記脆化領域を劈開面として、前記単結晶半導体基板を前記脆化領域で分離する熱処理を行い、前記単結晶半導体基板より単結晶半導体層を前記ベース基板上に形成することを特徴とする半導体基板の作製方法。
【請求項2】
単結晶半導体基板の一面に対して希ガスイオンを照射して前記単結晶半導体基板内に第一の損傷領域を形成し、
前記単結晶半導体基板の一面に対して第一のレーザー光を照射して前記第一の損傷領域の一部を溶融し第二の損傷領域を形成し、
前記単結晶半導体基板の一面を介して前記第二の損傷領域に水素イオンを照射して前記単結晶半導体基板の一面から一定の深さに脆化領域を形成し、
前記単結晶半導体基板の一面から第二のレーザー光を照射して前記単結晶半導体基板の一面と前記脆化領域間の領域を溶融し、
前記単結晶半導体基板とベース基板とを、重ね合わせた状態で、前記脆化領域を劈開面として、前記単結晶半導体基板を前記脆化領域で分離する熱処理を行い、前記単結晶半導体基板より単結晶半導体層を前記ベース基板上に形成することを特徴とする半導体基板の作製方法。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれか一項において、前記希ガスイオンとしてヘリウムイオンが用いられることを特徴とする半導体基板の作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の半導体基板の作製方法において形成する前記単結晶半導体層を用いて半導体素子を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−228681(P2011−228681A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74507(P2011−74507)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】