説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】絶縁溝と絶縁部材とで構成された絶縁部を有する半導体基板において、反りの発生を抑制する。
【解決手段】ミラーアレイデバイス1は、電極基板4を備えている。電極基板4は、その厚み方向に導通し且つ絶縁部5で囲まれることによって周辺の部分から絶縁された駆動電極41を有している。絶縁部5は、電極基板4の表面4aから形成された絶縁溝51と、電極基板の裏面4bから埋め込まれて絶縁溝51内に突出する絶縁部材52とで構成されている。電極基板4には、電極基板4の応力を緩和するための応力緩和溝6が絶縁部材52が埋め込まれた裏面4b側から形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板を備えた半導体装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの電子機器に半導体装置が使用されており、様々な半導体装置が開発されている。その半導体装置の1つに、半導体基板を備えた半導体装置であって、該半導体基板には厚み方向に導通し且つ周辺の部分から絶縁された導通部が形成されたものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、そのような半導体装置の一例として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスが記載されている。具体的には、特許文献1に係る半導体装置は、MEMSミラーであって、駆動電極が形成された半導体基板と、該半導体基板と対向して設けられたミラーとを備えている。この駆動電極は、絶縁部により囲まれて、その周辺の部分と絶縁されていると共に、半導体基板の厚み方向に導通している。絶縁部は、半導体基板の一方の面から形成された絶縁用の溝(以下、絶縁溝という)と、半導体基板の他方の面から埋め込まれ且つ該絶縁溝内に突出する絶縁部材とで構成されている。このように、絶縁部を絶縁部材だけで構成するのではなく、絶縁溝と絶縁部材とを組み合わせて構成することによって、絶縁部におけるチャージアップを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008−0112038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような絶縁部を有する半導体基板においては、半導体基板の厚み方向において、一部に絶縁部材が埋め込まれ、それ以外の部分に絶縁溝が形成される。このような半導体基板は、厚み方向の一方側の構造と他方側の構造とが異なるため、半導体基板に反りが生じてしまう虞がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、絶縁溝と絶縁部材とで構成された絶縁部を有する半導体基板において、反りの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意研究の結果、半導体基板の反りが絶縁部において生じる応力によるものであることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、半導体基板に前記絶縁部を形成するためには、まず、半導体基板の一方の面に絶縁部材を埋め込むための溝を加工し、該溝に絶縁部材を埋め込み、その後、半導体基板の他方の面から絶縁溝を形成する。このように半導体基板に形成された溝に絶縁部材を埋め込む場合には、異なる部材(即ち、絶縁部材)が溝の表面に形成されたり、高温下で処理が行われたりするため、半導体基板の、絶縁部材が設けられた部分に応力が発生する。
【0009】
例えば、絶縁部材を埋め込む方法として、CVD(Chemical Vapor Deposition)を用いる方法が考えられる。CVDにおいては、半導体基板の溝の表面に、絶縁部材となる物質の粒子が堆積していき、やがて成膜されるが、この際に該膜と半導体基板との間で応力が発生する。また、別の方法として、熱酸化法により溝を酸化膜で埋め込む方法が考えられる。熱酸化法によれば、半導体基板が酸素(又は水蒸気)雰囲気中で加熱される。これにより、溝の表面にシリコン酸化膜が形成され、最終的には、溝がシリコン酸化膜で埋まる。この場合、高温下での処理であるため、半導体基板が常温に戻ると、半導体基板の、絶縁部材が設けられた部分に熱応力が生じる。
【0010】
そこで、本発明では、半導体基板に応力緩和溝を形成するようにしたものである。具体的には、本発明は、半導体基板を備えた半導体装置が対象である。そして、前記半導体基板は、その厚み方向に導通し且つ絶縁部で囲まれることによって周辺の部分から絶縁された導通部を有し、前記絶縁部は、前記半導体基板の一方の面から形成された絶縁溝と、該半導体基板の他方の面から該絶縁溝内に達して設けられる絶縁部材とで構成されており、前記半導体基板には、前記半導体基板の応力を緩和するための応力緩和溝が前記絶縁部材の設けられた面側から形成されているものとする。
【0011】
前記の構成によれば、絶縁溝と絶縁部材とで構成された絶縁部が形成された半導体基板において、絶縁部材が設けられた面に応力緩和溝を形成することによって、半導体基板の、絶縁部材が設けられた部分に生じる応力を緩和することができる。
【0012】
また、別の本発明は、半導体基板の一方の面から形成された絶縁溝と該半導体基板の他方の面から該絶縁溝内に達して設けられる絶縁部材とで構成された絶縁部で囲まれることによって周辺の部分から絶縁され且つその厚み方向に導通する導通部を有する半導体基板を備えた半導体装置の製造方法が対象である。そして、前記半導体基板の他方の面に前記絶縁部材を設けるための下溝と、該下溝よりも広い幅を有し且つ前記半導体基板の応力を緩和するための前記応力緩和溝とを前記半導体基板をエッチングすることにより同時に形成する溝形成工程と、前記下溝に前記絶縁部材を設ける溝埋工程と、前記絶縁部材の設けられた半導体基板の一方の面に該絶縁部材が露出するまで前記絶縁溝を形成する絶縁溝形成工程と、を含むものとする。
【0013】
前記の構成によれば、絶縁部材を設けるための下溝と、該下溝よりも広い幅を有する応力緩和溝とをエッチングにより同時に形成することによって、応力緩和溝の方が下溝よりも、幅が広く且つ深く形成される。その結果、応力緩和溝を、前記半導体基板における、前記絶縁部材の設けられた面側から前記絶縁溝の底部を超えるように容易に形成することができると共に、前記溝埋工程において応力緩和溝が絶縁部材を構成する物質で埋められてしまうことを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、半導体基板において、絶縁部材が埋め込まれた面に応力緩和溝を形成することによって、半導体基板の、絶縁部材が設けられた部分に生じる応力を緩和して、半導体基板の反りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態1に係るミラーアレイデバイスの平面図である。
【図2】図1のII−II線における断面図である。
【図3】電極基板の製造工程を説明するための電極基板の断面図であって、(A)は、電極基板の裏面にマスキング処理が施された状態を、(B)は、電極基板にエッチング処理が施された状態を、(C)は、電極基板に熱酸化処理が施された後電極パッドが形成された状態を、(D)は、電極基板に絶縁溝が形成された状態を示す。
【図4】変形例に係る電極基板の平面図である。
【図5】別の変形例に係る電極基板の平面図である。
【図6】実施形態2に係るジャイロスコープの平面図である。
【図7】ジャイロスコープの電極基板の平面図である。
【図8】図6のVIII−VIII線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の例示的な実施形態1に係るミラーアレイデバイスの平面図を、図2は、図1のII−II線における断面図を示す。
【0018】
ミラーアレイデバイス1は、複数のミラー素子10,10,…がアレイ状に配列されて構成されている。各ミラー素子10は、ミラー2と、ベース部材3と、ミラー2をベース部材3に対して支持するためのヒンジ21と、ミラー2及びベース部材3と対向して設けられる電極基板4と、ベース部材3と電極基板4との間に介設されるスペーサ31とを備えている。ミラーアレイデバイス1において、複数のミラー素子10,10,…のベース部材3,3,…は、共通の1つの部材で構成されている。同様に、複数のミラー素子10,10,…の電極基板4,4,…も、共通の1つの部材で構成されている。ミラーアレイデバイス1は、いわゆるMEMSミラーであって、半導体微細加工技術を応用したマイクロマシニング技術で製造されている。このミラーアレイデバイス1は、半導体装置の一例である。
【0019】
ミラー2、ヒンジ21及びベース部材3は、例えば、シリコン基板から形成されている。ミラー2は、平面視略円形の平板状に形成されている。ミラー2は、ヒンジ21を介してベース部材3に揺動可能に支持されている。ミラー2は、電極基板4とは反対側の面が鏡面となっており、該ミラー2に入射する光を反射するように構成されている。尚、「平面視」とは、「基板に対して直交する方向を向いて見たとき」を意味する。
【0020】
電極基板4は、シリコン基板で構成されている。電極基板4における、ミラー2と対向する部分には、駆動電極41が形成されている。駆動電極41は、ミラー2と同様に、平面視略円形に形成されている。駆動電極41の裏面には、電極パッド42が設けられている。電極パッド42を介して駆動電極41に電圧を印加することによって、ミラー2が静電力によりベース部材3から駆動電極41側へ沈み込むように変位する。電極基板4は、半導体基板及び半導体装置の一例である。
【0021】
駆動電極41は、電極基板4において、その周辺部分と絶縁部5を介して絶縁されている。また、駆動電極41は、電極基板4の厚み方向に導通するようになっている。この駆動電極41は、導通部の一例である。
【0022】
絶縁部5は、平面視で、駆動電極41を囲むように閉じた形状をしている。すなわち、絶縁部5は、平面視略円形に形成されている。さらに詳しくは、絶縁部5は、電極基板4の一方の面4aから形成された絶縁溝(即ち、エアギャップ)51と、電極基板4の他方の面4bから埋め込まれた絶縁部材52とで構成されている。以下、電極基板4の、ミラー2及びベース部材3と対向する面を表面と称し、その反対側の面を裏面と称する。すなわち、絶縁溝51は電極基板4の表面4aから形成されており、絶縁部材52は電極基板4の裏面4bから埋め込まれている。絶縁部材52は、電極基板4の裏面4bから形成された下溝52aに埋め込まれている。詳しくは、絶縁部材52は、電極基板4に形成された下溝52aの内面に熱酸化により形成した熱酸化膜で構成されている。本実施形態では、電極基板4がシリコン基板であるため、絶縁部材52は酸化シリコン(SiO)である。また、絶縁部材52の先端部は、絶縁溝51内に突出している。すなわち、絶縁部材52の先端部52bは、絶縁溝51の底面51aに立設するように構成されている。これら絶縁溝51及び絶縁部材52も、平面視略円形に形成されている。尚、絶縁部5において、前記絶縁部材52の先端部52bが少なくとも該絶縁溝51内に達していればよい。
【0023】
このように絶縁部5が絶縁溝51を含んで構成されているため、絶縁部5におけるチャージアップを防止することができる。また、駆動電極41が電極基板4から切り離されてしまうため、絶縁部5を絶縁溝51だけで構成することはできない。つまり、駆動電極41が電極基板4から完全に切り離されないように、駆動電極41とその周辺の部分とを絶縁部材52で連結しておく必要がある。そして、この絶縁部材52を、絶縁溝51内に突出するように構成することによって、駆動電極41とその周辺の部分とを確実に絶縁することができる。
【0024】
また、電極基板4には、絶縁部材52と電極基板4との間に生じる応力を緩和するための応力緩和溝6が形成されている。応力緩和溝6は、電極基板4の、絶縁部材52が埋め込まれた面側、即ち、裏面4bから形成されている。応力緩和溝6は、絶縁部5の近傍に形成されている。本実施形態においては、応力緩和溝6は、電極基板4のうち、絶縁部5の外側において、絶縁部5に沿って形成されている。すなわち、応力緩和溝6は、絶縁部5と略同形状である平面視略円形をしている。応力緩和溝6の内面及び電極基板4の裏面4bには、絶縁部材52と同様のシリコン酸化膜が形成されている。尚、このシリコン酸化膜はなくてもよい。応力緩和溝6の深さは、裏面4bから絶縁溝51の底面までの距離よりも深くなっている。さらに、応力緩和溝6の深さは、裏面4bからの絶縁部材52の先端までの距離よりも深くなっている。また、応力緩和溝6の幅は、絶縁部材52のための下溝52aよりも広くなっている。ここで、応力緩和溝6の深さ及び幅は、シリコン酸化膜を除いた深さ及び幅を意味する。
【0025】
このように、電極基板4の、絶縁部材52の近傍に応力緩和溝6を形成することによって、電極基板4と絶縁部材52との間で生じる応力を応力緩和溝6により吸収することができる。
【0026】
続いて、電極基板4の製造方法の一例について、図3を参照しながら説明する。
【0027】
まず、図3(A)に示すように、電極基板4となるシリコン基板の一方の面(電極基板4の裏面4bに相当する。以下、裏面4bと称する。)にマスク43を形成する。このマスク43には、下溝52a用のスリット43aと、応力緩和溝6用のスリット43bとが形成されている。このとき、応力緩和溝6用のスリット43bの幅が、下溝52a用のスリット43aの幅よりも広くなっている。
【0028】
次に、図3(B)に示すように、電極基板4に例えばボッシュプロセスを用いたICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングを行う。その結果、電極基板4に下溝52aと応力緩和溝6とが形成される。ここで、応力緩和溝6用のスリット43bの幅が、下溝52a用のスリット43aの幅よりも広いため、応力緩和溝6の方が、下溝52aよりも広く且つ深く形成される。
【0029】
続いて、図3(C)に示すように、熱酸化法によって、下溝52aをシリコン酸化膜で埋める。すなわち、シリコン基板を酸素(又は水蒸気)雰囲気中で加熱する。これにより、下溝52aの内面にシリコン酸化膜(SiO膜)が形成されていき、最終的には、下溝52aがシリコン酸化膜で埋められる。この下溝52aを埋めているシリコン酸化膜が絶縁部材52を構成する。このとき、電極基板4の裏面4bや応力緩和溝6の内面にもシリコン酸化膜が形成される。ただし、応力緩和溝6の幅は、下溝52aよりも広いため、応力緩和溝6がシリコン酸化膜で埋められることはない。その後、電極基板4の裏面4bのうち、駆動電極41に相当する部分のSiO膜を除去した後に電極パッド42を形成する。
【0030】
その後、図3(D)に示すように、電極基板4の表面4aからエッチングして、絶縁溝51を加工する。エッチングは、絶縁部材52の先端が露出するまで行う。
【0031】
こうして、絶縁溝51と絶縁部材52で構成される絶縁部5によって囲まれた駆動電極41が、電極基板4に形成される。さらに、絶縁部5を囲むようにして、電極基板4の裏面4bに応力緩和溝6が形成される。
【0032】
このように、本実施形態では、絶縁部材52が熱酸化法により形成される。熱酸化法で形成された絶縁部材52は、例えば、CVDにより形成された絶縁部材と比較して、膜質(緻密性、電気特性、膜厚の均一性)が良好であり、絶縁耐圧も高い。その一方で、熱酸化法は、高温下での処理であるため、電極基板4と絶縁部材52との熱膨張係数が異なることも相俟って、電極基板4の、絶縁部材52が設けられた部分に大きな熱応力が発生する。さらに、絶縁部材52が設けられているのは、電極基板4における厚み方向の一部だけである。そのため、電極基板4の厚み方向における絶縁部材52側で膨張が生じて、電極基板4に反りが生じ易くなる。それに対して、本実施形態では、電極基板4のうち、絶縁部材52,52,…が埋め込まれた裏面4bに応力緩和溝6,6,…を形成することによって、絶縁部材52が設けられた部分に生じる熱応力を吸収することができる。その結果、シリコンの結晶欠陥や電極基板4の反りの発生を防止することができる。特に、ミラーアレイデバイス1のように、多くの絶縁部5,5,…が集積した構成においては、有効である。
【0033】
また、応力緩和溝6の深さを、裏面4bから絶縁溝51の底面までの距離よりも深くすることによって、応力緩和溝6を、電極基板4のうち絶縁部材52が埋まっている部分(即ち、裏面4bと絶縁溝51の底面との間の部分)の厚さよりも深く形成することができる。こうすることで、電極基板4のうち絶縁部材52が埋まっている部分に対して、電極基板4の厚み方向と直交する方向には必ず応力緩和溝6が存在することになる。その結果、絶縁部材52が設けられた部分に生じる熱応力を応力緩和溝6でより一層吸収することができる。
【0034】
さらに、電極基板4の製造時に、応力緩和溝6用のスリット43bの幅を、下溝52a用のスリット43aの幅よりも広くすることによって、応力緩和溝6を下溝52aよりも深く且つ広く形成することができる。
【0035】
応力緩和溝6を下溝52aよりも深く形成することによって、応力緩和溝6の深さを裏面4bから絶縁溝51の底面までの距離よりも深くすることができる。すなわち、絶縁部材52の先端は、下溝52aの底に位置する。そして、絶縁溝51は、絶縁部材52の先端が露出するまで掘り込まれる。その結果、応力緩和溝6の深さは、裏面4bから絶縁溝51の底面までの距離よりも深くなる。
【0036】
また、応力緩和溝6を下溝52aよりも広く形成することによって、絶縁部材52を形成する際に応力緩和溝6に特別な処理を施さなくても、応力緩和溝6が埋まってしまうことを防止することができる。すなわち、絶縁部材52を熱酸化法で形成する場合には、電極基板4を構成するシリコン基板が加熱されるため、応力緩和溝6の内面にもシリコン酸化膜が形成される。しかし、応力緩和溝6の方が下溝52aよりも広いため、下溝52aの方が先にシリコン酸化膜で埋まってしまう。その時点で、熱酸化を終了することで、応力緩和溝6が埋まることを防止することができる。
【0037】
さらにまた、絶縁部材52を熱酸化法により形成したシリコン酸化膜で構成することによって、大量の基板を一括して処理することができるため、工程の簡略化を図ることができる。また、絶縁部材52を熱酸化法により形成したシリコン酸化膜で構成することによって、後述するCVDのシリコン酸化膜に比べて、熱酸化膜の方が絶縁耐圧を高く、さらには、パーティクルやピンホールによる絶縁耐圧不良を低減することができる。
【0038】
尚、前述の説明では、絶縁部材52を熱酸化法により形成する場合について説明したが、絶縁部材52を別の方法で形成する場合であっても、同様の作用効果を奏することができる。例えば、熱酸化法以外の方法で、下溝52aを絶縁部材で埋める方法としては、コンフォーマル性が高いCVDを用いる方法がある。つまり、CVDにより下溝52aの内面にシリコン酸化膜を形成する方法が考えられる。この場合、下溝52aの内面に酸化シリコンの粒子が蒸着し、膜を形成する際に、下溝52aの内面と膜との間に応力が発生する。また、CVD処理後に、膜質を上げるために熱処理をすることもあり、その場合には、基板と膜との間に熱応力が発生する。また、別の方法としては、下溝52aに溶融ガラスを流し込む方法が考えられる。つまり、絶縁部材がガラスで構成される。この場合、溶融ガラスは高温であるため、電極基板4が常温に戻ると、電極基板4の、ガラスが設けられた部分に熱応力が生じる。このように熱酸化法以外の方法で下溝52aを絶縁部材で埋める構成であっても、絶縁部材と基板との間に応力が発生する。よって、電極基板4に前記応力緩和溝6を形成することにより、その応力を緩和することができる。
【0039】
また、絶縁部材52は、シリコン酸化膜に限られるものではない。絶縁性が良く且つ埋め込み性が良い絶縁部材であれば、任意の材料を絶縁部材52として適用できる。
【0040】
尚、応力緩和溝6の形状は、前記実施形態に限られるものではない。例えば、図4に示すように、複数の平面視略正方形のミラーをアレイ状に配列したミラーアレイデバイスにおいては、電極基板4Bの駆動電極41Bも平面視略正方形となる。同様に、絶縁溝51Bも絶縁部材52Bも、平面視略正方形に形成される。かかる場合には、応力緩和溝6B,6B,…も、平面視略正方形に形成される。このように、応力緩和溝6は、ミラーアレイデバイス1の絶縁部5の近傍に当該絶縁部5の形状と略同形状に形成されることが好ましい。尚、隣り合う駆動電極41B、41Bにおいて、応力緩和溝6Bが共通化されており、全体としては、応力緩和溝6B,6B,…は、駆動電極41B,41B,…を囲むように碁盤の目状に形成される。
【0041】
また、図4における、応力緩和溝6C,6C,…が交わる部分には、図5に示すように、応力緩和溝6Cを形成しないようにしてもよい。つまり、平面視多角形状に形成され且つ絶縁部5Cに囲まれた導通部41C,41C,…がアレイ状に配列され、隣り合う導通部41C,41Cの重心を通る線分の垂直二等分線に沿って応力緩和溝6C,6C,…を形成する構成においては、複数の応力緩和溝6C,6C,…が交わる部分には、応力緩和溝6Cを形成しなくてもよい。この応力緩和溝6C,6C,…が交わる部分は、多角形状の導通部41C,41C,…の頂点が集まる部分であって、多角形状の導通部41C,41C,…の辺が隣り合う部分よりも絶縁部5Cとの間の距離が大きい。そのため、この部分に応力緩和溝6Cを設けても、絶縁部5Cの応力を緩和する効果が小さい。逆に、この部分に応力緩和溝6Cを形成しないことによって、基板4Cの強度を向上させることができる。つまり、応力緩和効果を低減することなく、基板4Cの強度を向上させることができる。ここで、「多角形」とは、実質的に多角形であればよく、図5に示す導通部41Cのように、頂点がR状に形成されていてもよい。
【0042】
《発明の実施形態2》
次に、例示的な実施形態2に係る2軸のジャイロスコープ200について、図6〜8を参照しながら説明する。図6は、実施形態2に係るジャイロスコープの平面図であり、図7は、ジャイロスコープの電極基板の平面図であり、図8は、図6のVIII−VIII線における断面図である。
【0043】
ジャイロスコープ200は、リング状振動子202と、当該リング状振動子202をcos2θの振動モードで駆動するための駆動電極240と、ベース部材203と、電極基板204と、スペーサ231と、支柱232とを備えている。リング状振動子202は、複数のスポーク221を介して支柱232に支持されている。ジャイロスコープ200は、半導体微細加工技術を応用したマイクロマシニング技術で製造されている。このジャイロスコープ200は、半導体装置の一例である。
【0044】
リング状振動子202、ベース部材203、スポーク221及び支柱232の上部232aは、例えば、シリコン基板から形成されている。
【0045】
電極基板204は、シリコン基板で構成されている。電極基板204における、リング状振動子202と対向する部分には、12個の電極241a,241b,…が形成されている。12個の電極241a,241b,…は、それぞれ平面視略長方形に形成されている。これら12個の電極241a,241b,…は、支柱232を中心とする円周上に30°ずつずれて配置されている。詳しくは、図7に示すΩ1方向の角速度を検出するための第1検出電極241a,241a,…が、支柱232を中心とする円周上に120°ずつの間隔で3つ配置されている。また、第1検出電極241a,241a,…とは逆位相となる位置、即ち、第1検出電極241a,241a,…のそれぞれから60°の間隔を空けた位置に3つの第2検出電極241b,241b,…が配置されている。さらに、図7に示すΩ2方向の角速度を検出するための第3検出電極241c,241c,…が、第1検出電極241a,241a,…のそれぞれから周方向の一方側へ(図7では時計周りの方向へ)90°の間隔を空けて配置されている。また、第3検出電極241c,241c,…とは逆位相となる位置、即ち、第3検出電極241c,241c,…のそれぞれから60°の間隔を空けた位置に3つの第4検出電極241d,241d,…が配置されている。以下、第1〜第4検出電極241a,241b,…について、電極の種類を区別しない場合には、「電極241」と総称する。この電極基板204は、半導体基板及び半導体装置の一例である。
【0046】
電極241の裏面には、電極パッド242が設けられている。電極241は、電極基板204において、その周辺部分と絶縁部205を介して絶縁されている。また、電極241は、電極基板204の厚み方向に導通するようになっている。この電極241は、導通部の一例である。
【0047】
絶縁部205は、平面視で、電極241を囲むように閉じた形状(具体的には、略長方形状)をしている。絶縁部205の構成は、実施形態1の絶縁部5と同様であり、電極基板204の表面204aから形成された絶縁溝251と、電極基板204の裏面204bから埋め込まれた絶縁部材252とで構成されている。
【0048】
また、支柱232も、絶縁部205を介してその周辺部分と絶縁されている。支柱232の絶縁部205は、平面視略円形に形成されている。
【0049】
そして、電極基板204には、電極基板204の、絶縁部材252が設けられた部分に生じる応力を緩和するための応力緩和溝206,206,…が形成されている。応力緩和溝206,206,…は、電極基板204の、絶縁部材252が埋め込まれた面側、即ち、裏面204bから形成されている。応力緩和溝206,206,…は、絶縁部205の近傍に形成されている。本実施形態においては、応力緩和溝206は、電極基板204のうち、絶縁部205の外側に形成されている。詳しくは、応力緩和溝206,206,…は、支柱232と、電極241,241,…の、支柱232側の短辺との間において、平面視略円形に形成された応力緩和溝206と、電極241,241,…の、支柱232と反対側の短辺を囲む平面視略円形の応力緩和溝206と、隣り合う電極241,241の長辺の間を、内側の円形の応力緩和溝206から外側の円形の応力緩和溝206まで放射状に延びる直線状の応力緩和溝206とを含んでいる。応力緩和溝206の内面及び電極基板204の裏面204bには、絶縁部材252と同様のシリコン酸化膜が形成されている。応力緩和溝206の深さは、裏面204bから絶縁溝251の底面までの距離よりも深くなっている。さらに、応力緩和溝206の深さは、裏面204bからの絶縁部材252の先端までの距離よりも深くなっている。また、応力緩和溝206の幅は、絶縁部材252のための下溝252aよりも広くなっている。
【0050】
本実施形態によれば、電極基板204のうち、絶縁部材252,252,…が埋め込まれた裏面204bに応力緩和溝206,206,…を形成することによって、絶縁部材252が設けられた部分に生じる熱応力を吸収することができる。その結果、シリコンの結晶欠陥や電極基板204の反りの発生を防止することができる。
【0051】
《その他の実施形態》
本発明は、前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0052】
すなわち、ミラーアレイデバイスやジャイロスコープに限られず、導通部を有する半導体基板を備えた半導体装置であれば、任意の構成に前記応力緩和溝を適用することができる。さらには、絶縁部5,5B,5C,205で分離される部分は、電極に限られるものではない。つまり、基板の一方の面から他方の面側へ電気を導通させる部分であればよい。すなわち、半導体基板を領域ごとに電気的に分離する構造、即ち、素子分離する構造であれば、前記の構成を適用できる。
【0053】
さらに、前記実施形態では、応力緩和溝6,6B,6C,206は、絶縁部5,5B,5C,205の外側にしか形成されていないが、絶縁部5,5B,5C,205の内側、即ち、導通部である電極41,41B,41C,241に形成してもよい。
【0054】
また、前記実施形態では、応力緩和溝6,206の深さが、電極基板4,204の裏面4b,204bから絶縁溝51,251の底面51a,251aまでの距離よりも深くなっているが、これに限られるものではない。すなわち、応力緩和溝6,206の深さは、電極基板4,204の裏面4b,204bから絶縁溝51,251の底面51a,251aまでの距離と同じであってもよいし、電極基板4,204の裏面4b,204bから絶縁溝51,251の底面51a,251aまでの距離よりも浅くてもよい。ただし、絶縁部材52,252が設けられた部分に生じる応力を十分に緩和する観点からは、応力緩和溝51,251の深さが、電極基板4,204の裏面4b,204bから絶縁溝51,251の底面51a,251aまでの距離よりも深くなっていることが好ましい。
【0055】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明は、半導体基板を備えた半導体装置及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 ミラーアレイデバイス(半導体装置)
4,4B,4C 電極基板(半導体基板)
4a 表面(一方の面)
4b 裏面(他方の面)
41 駆動電極(導通部)
5,5B,5C 絶縁部
51,51B,51C 絶縁溝
52,52C,52C 絶縁部材
52a 下溝
6,6B,6C 応力緩和溝
200 ジャイロスコープ(半導体装置)
204 電極基板(半導体基板)
204a 表面(一方の面)
204b 裏面(他方の面)
241a 駆動電極(導通部)
241b 検出電極(導通部)
205 絶縁部
251 絶縁溝
252 絶縁部材
252a 下溝
206 応力緩和溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板を備えた半導体装置であって、
前記半導体基板は、その厚み方向に導通し且つ絶縁部で囲まれることによって周辺の部分から絶縁された導通部を有し、
前記絶縁部は、前記半導体基板の一方の面から形成された絶縁溝と、該半導体基板の他方の面から該絶縁溝内に達して設けられる絶縁部材とで構成されており、
前記半導体基板には、前記半導体基板の応力を緩和するための応力緩和溝が前記絶縁部材の設けられた面側から形成されている半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記応力緩和溝の深さは、前記絶縁部材の設けられた面から前記絶縁溝の底部までの距離よりも深い半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体装置において、
前記絶縁部材は、前記半導体基板に形成された下溝に設けられており、
前記応力緩和溝は、前記下溝よりも幅が広い半導体装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1つに記載の半導体装置において、
前記絶縁部材は、前記半導体基板を熱酸化させた熱酸化膜で構成されている半導体装置。
【請求項5】
半導体基板の一方の面から形成された絶縁溝と該半導体基板の他方の面から該絶縁溝内に達して設けられる絶縁部材とで構成された絶縁部で囲まれることによって周辺の部分から絶縁され且つその厚み方向に導通する導通部を有する半導体基板を備えた半導体装置の製造方法であって、
前記半導体基板の他方の面に前記絶縁部材を設けるための下溝と、該下溝よりも広い幅を有し且つ前記半導体基板の応力を緩和するための前記応力緩和溝とを前記半導体基板をエッチングすることにより同時に形成する溝形成工程と、
前記下溝に前記絶縁部材を設ける溝埋工程と、
前記絶縁部材の設けられた半導体基板の一方の面に該絶縁部材が露出するまで前記絶縁溝を形成する絶縁溝形成工程と、を含む半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置の製造方法において、
前記溝埋工程は、前記半導体基板を熱酸化させることによって前記下溝に前記絶縁部材を設ける半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−143518(P2011−143518A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7266(P2010−7266)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【Fターム(参考)】