説明

単結晶ダイヤモンド成長用の基材及び単結晶ダイヤモンドの製造方法

【課題】結晶性の高い単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることができ、しかも安価で大面積なダイヤモンドを成長させることができるダイヤモンド成長用基材、及び安価に大面積高結晶性単結晶ダイヤモンドを製造する方法を提供する。
【解決手段】単結晶ダイヤモンドを成長させるための基材10,10’であって、少なくとも、種基材11、11’と、該種基材11、11’の前記単結晶ダイヤモンドを成長させる側にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜、白金膜、ロジウム膜のいずれか12からなり、前記種基材11,11’は、グラファイト11’か、またはベース基材11a上にグラファイト層11bが形成されたものである単結晶ダイヤモンド成長用の基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶ダイヤモンド成長用の基材及び単結晶ダイヤモンドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、5.47eVのワイドバンドギャップで絶縁破壊電界強度も10MV/cmと非常に高い。更に物質で最高の熱伝導率を有することから、これを電子デバイスに用いれば、高出力電子デバイスとして有利である。
一方、ダイヤモンドは、ドリフト移動度も高く、Johnson性能指数を比較しても、半導体の中で最も高速電子デバイスとして有利である。
従って、ダイヤモンドは、高周波・高出力電子デバイスに適した究極の半導体と云われている。
そのため、基材に単結晶のダイヤモンドを利用した各種電子デバイスの研究が進められている。
【0003】
現在、ダイヤモンド半導体作製用の単結晶ダイヤモンドは、多くの場合が高温高圧法(HPHT)で合成されたIb型もしくは純度を高めたIIa型と呼ばれるダイヤモンドである。
しかしながら、HPHTダイヤモンドは結晶性が高いものが得られる一方で大型化が困難で、サイズが大きくなると極端に価格が高くなり、デバイス用基材としての実用化を困難としている。
【0004】
そこで、大面積でかつ安価なダイヤモンド基材を提供するために、気相法によって合成されたCVD単結晶ダイヤモンドも研究されている。
【0005】
最近では単結晶ダイヤモンドとして、HPHT単結晶ダイヤモンド基材上に直接気相合成法でホモエピタキシャル成長させたホモエピタキシャルCVD単結晶ダイヤモンドも報告されている(非特許文献1参照)。
当該方法では、基材と成長した単結晶ダイヤモンドとが同材料のため、それらの分離が困難で、そのために、基材に予めイオン注入が必要であることや、成長後も長時間のウェットエッチング分離処理が必要なことなどコストの面で課題がある。また、得られる単結晶ダイヤモンドの結晶性も基材へのイオン注入があるため、ある程度の低下は生じてしまう問題がある。
【0006】
他の方法としては、単結晶MgO基材(種基材)上にヘテロエピタキシャル成長させた単結晶イリジウム上にCVD法でヘテロエピタキシャル成長させたヘテロエピタキシャルCVD単結晶ダイヤモンドも報告されている(非特許文献2参照)。
しかしながら当該方法では単結晶MgO基板と単結晶イリジウムを介して成長させた単結晶ダイヤモンドとの間で発生する応力(内部応力と熱応力の和)のため、基材と成長させた単結晶ダイヤモンドが細かく割れてしまう問題がある。また、得られる単結晶ダイヤモンドの結晶性も、種基材である入手可能な単結晶MgOの結晶性が充分で無いため、満足のできるレベルではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第20回ダイヤモンドシンポジウム講演要旨集(2006), pp.6−7.
【非特許文献2】Jpn.J.Appl.Phys.Vol.35(1996)pp.L1072−L1074
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、結晶性の高い単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることができ、しかも安価で大面積なダイヤモンドを成長させることができるダイヤモンド成長用基材を提供すること、及び安価に大面積高結晶性単結晶ダイヤモンドを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、単結晶ダイヤモンドを成長させるための基材であって、少なくとも、種基材と、該種基材の前記単結晶ダイヤモンドを成長させる側にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜、白金膜、ロジウム膜のいずれかからなり、前記種基材は、グラファイトか、またはベース基材上にグラファイト層が形成されたものであることを特徴とする単結晶ダイヤモンド成長用の基材を提供する。
【0010】
このように、グラファイトまたはベース基材上にグラファイトが形成されたものの表面に、イリジウム(以下Irとも記載)膜、白金(以下Ptとも記載)膜、ロジウム(以下Rhとも記載)膜のいずれかをヘテロエピタキシャル成長した積層基材を単結晶ダイヤモンド成長用の基材とする。
これによって、グラファイト上に高結晶性のIr膜、Pt膜、Rh膜のいずれかが形成された単結晶ダイヤモンド成長用の基材となるため、このようなIr膜、Pt膜やRh膜の表面上には、高結晶性の単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることができる。また、成長させた単結晶ダイヤモンド部分のみをウェットエッチング法や機械的研磨法等を用いて基材から容易に剥離できる。特にウェットエッチングで剥離した後に研磨を行うことによって精度良く分離できるため、基材を再利用することが非常に容易であり、コスト面でも非常に有利である。更に、このような構造の基材であれば、たとえ大面積のものであっても、単結晶ダイヤモンドの成長中に応力が過剰にかかることが抑制されるため、大面積単結晶ダイヤモンドを歩留り良く製造できる基材となっている。
【0011】
ここで、前記ベース基材上にグラファイト層が形成された種基材は、前記グラファイト層が、単結晶シリコン(Si)または単結晶炭化ケイ素(SiC)からなるベース基材の表面上に剥離転写されたものか、前記ベース基材表面にCVD法、スパッター法あるいは熱分解法で形成されたものであることが好ましい。
このように、ベース基材上にグラファイト層が形成された種基材を、ダイヤモンド層との間で主に応力を発生する部分に単結晶ダイヤモンドとの線膨張係数差の比較的小さい単結晶シリコンや単結晶炭化ケイ素を用いて、その上にグラファイト層が剥離転写されたものとするか、その上にグラファイト層がCVD法、スパッター法、熱分解法のいずれかの方法で形成されたものとすることによって、従来のMgO種基材を用いた場合に比べて基材と単結晶ダイヤモンドとの間に発生する応力を小さくすることができる。そのため、単結晶ダイヤモンドや基材が割れる危険性を極力小さくでき、ほとんど無くすことができる。従って、単結晶ダイヤモンドや基材が破壊されることが少なく、より耐久性の高いものとすることができ、また製造歩留りを改善することができるため、安価な単結晶ダイヤモンドを製造することができる。
【0012】
また、前記グラファイト層は、厚み200nm以下の単層グラフェンまたは多層グラフェンからなるものであることが好ましい。
このように、グラファイト層が厚み200nm以下の単層グラフェンまたは多層グラフェンからなるものであれば、グラファイト層の作製が容易なものであり、また形成に長時間が必要とならず、安価なものとすることができる。そしてグラファイト層の結晶性を良好なものとできるため、高結晶性の単結晶ダイヤモンドを成長させることができる基材となる。
【0013】
また、前記単結晶シリコンまたは前記単結晶炭化ケイ素からなるベース基材は、厚みが0.03mm以上20.00mm以下であることが好ましい。
このように、ベース基材の厚さが、0.03mm以上であればハンドリングが容易であり、また、20.00mm以下のものは仕上げ面研磨加工が容易であるとともに、必要以上の厚さとなってコスト高となることもない。
【0014】
そして、前記イリジウム膜、前記白金膜、前記ロジウム膜のいずれかの膜は、前記種基材のグラファイト上にスパッター法でヘテロエピタキシャル成長されたものであることが好ましい。
このように、スパッター法でヘテロエピタキシャル成長されたものとすることで、十分な成長速度で成長させることができるため、生産性高く製造された安価な成長用基材とすることができる。
【0015】
更に、前記イリジウム膜、前記白金膜、前記ロジウム膜のいずれかの膜の厚さが、5Å〜100μmであることが好ましい。
このように、Ir膜、Pt膜、Rh膜のいずれかの膜の厚さが5Å以上あれば膜厚均一性と結晶性が十分に高く、厚さが100μm以下であれば基材や単結晶ダイヤモンドとの間に発生する応力が小さいため、確実に単結晶ダイヤモンドを成長させることができ、さらには安価な基材となる。
【0016】
また、本発明では、本発明に記載の単結晶ダイヤモンド成長用の基材の前記イリジウム膜、前記白金膜、前記ロジウム膜側に、予め基材側電極をカソードとした直流放電でダイヤモンド核形成を行うバイアス処理を行い、その後マイクロ波CVD法あるいは直流プラズマCVD法によって単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることを特徴とする単結晶ダイヤモンドの製造方法を提供する。
【0017】
このように、高結晶性の単結晶ダイヤモンドを安価に成長させることができる本発明の単結晶ダイヤモンド成長用基材の表面に、予めバイアス処理を行ってダイヤモンド成長核を形成しておくことで、単結晶ダイヤモンド層をより結晶性よく、十分な成長速度で成長させることができる。
またマイクロ波CVD法又は直流プラズマCVD法によりヘテロエピタキシャル成長させることによって、成長速度を速くすることができるため、製造コストの面で優れた単結晶ダイヤモンドの成長方法とすることができる。
【0018】
ここで、本発明に記載の単結晶ダイヤモンドの製造方法によって成長させた単結晶ダイヤモンドを有する基材から、該成長させた単結晶ダイヤモンドを分離することができる。
本発明に記載の単結晶ダイヤモンドの製造方法によって製造された単結晶ダイヤモンドを有する基材は、単結晶ダイヤモンドを容易に分離することができる。このため、破損したり割れることなく結晶性の良好な単結晶ダイヤモンドを得ることができる。
また、表面のIr膜、Pt膜、Rh膜を研磨して除去することによって種基材として再利用することができる。従って、極めてコスト面で有利である。
【発明の効果】
【0019】
以上で説明した様に、本発明によれば、結晶性の高い単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることができ、しかも安価で大面積なダイヤモンドを成長させることができるダイヤモンド成長用基材が提供され、及び安価に大面積高結晶性単結晶ダイヤモンドを製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の単結晶ダイヤモンド成長用の基材の概略の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述の様に、従来、コスト的に有利なCVD法で単結晶ダイヤモンドを得ようとすると、成長した単結晶ダイヤモンド部分を破損なく容易に分離することができないこと、更には成長させた単結晶ダイヤモンドとして高結晶性で大面積なものを得ることが困難であるという問題があった。
このため、本発明者らは、基材の種類や構造、更には単結晶製造方法について鋭意研究を重ねた。
【0022】
その結果、本発明者らは、グラファイト上に単結晶Ir膜、単結晶Pt膜、単結晶Rh膜をヘテロエピタキシャル成長させた高結晶性材料のものを単結晶ダイヤモンド成長用の基材として用いること、そしてその基材のIr膜、Pt膜、Rh膜上に例えばCVD法で単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させれば、高結晶性な大面積の単結晶ダイヤモンドが得られることを発見した。
【0023】
更に、ダイヤモンド層との間で主に応力を発生する部分のベース基材に線膨張係数差の比較的小さい単結晶シリコンや単結晶炭化ケイ素を用いることで、従来のMgO種基材を用いた場合に比べて応力が小さく、その結果全体が割れることをほとんど無くすことができることを発想した(線膨張係数 ダイヤモンド:1.1×10−6/K、グラファイト:1.2×10−6/K、Si:4.2×10−6/K、SiC:6.6×10−6/K、MgO:13.8×10−6/K)。
そして、成長させた単結晶ダイヤモンドは、例えばウェットエッチング法でおおよその分離が可能であるし、完全に分離したい場合はウェットエッチングにて分離させた後に単結晶ダイヤモンドに残留したIr膜、Pt膜、Rh膜を機械的研磨法で精度良く除去することで高精度に分離可能であることを確認して、本発明を完成させた。
【0024】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1は、本発明の単結晶ダイヤモンド成長用の基材の概略の一例を示した図である。
【0025】
図1(a)に示すように、本発明の単結晶ダイヤモンドを成長させるための基材10は、少なくとも、種基材11と、種基材11の単結晶ダイヤモンドを成長させる側にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜、白金膜、ロジウム膜のいずれかからなる膜12とからなるものであり、種基材11は、ベース基材上の単結晶ダイヤモンドを成長する側にグラファイト層を形成したもの11aからなる。
【0026】
また、本発明の単結晶ダイヤモンド成長用の基材10’は、図1(b)に示すように、少なくとも、種基材11’と、種基材11’の単結晶ダイヤモンドを成長させる側にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜、白金膜、ロジウム膜のいずれかからなる膜12とからなるものであり、種基材11’が、グラファイトからなるものとすることもできる。
【0027】
このように、グラファイトまたは、ベース基材上にグラファイト層が形成されたものの表面にIr膜、Pt膜、Rh膜をヘテロエピタキシャル成長させた積層基材を単結晶ダイヤモンド成長用の基材とすることによって、高結晶性のIr膜、Pt膜、Rh膜を有する単結晶ダイヤモンド成長用の基材となっている。従って、このような高結晶性のIr膜、Pt膜、Rh膜の表面上には、高結晶性の単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることができる。
そして、基材上にヘテロエピタキシャル成長させた単結晶ダイヤモンドは、ウェットエッチング法や機械的研磨法等を用いて基材から容易に剥離できる。特にウェットエッチングで剥離した後に研磨を行うことによって単結晶ダイヤモンド側に残留したIr膜、Pt膜、Rh膜を精度良く分離できる。また剥離が容易なため、基材を再利用することが非常に容易である。そのため、単結晶ダイヤモンドの製造を同じ基材から繰り返して製造することができるため、高結晶性の高品質の単結晶ダイヤモンドを安く製造することができる。
更に、このような構造の基材であれば、たとえ大面積のものであっても、単結晶ダイヤモンドの成長中に応力が過剰にかかることが抑制されるため、大面積単結晶ダイヤモンドを歩留り良く製造できる基材となっている。
【0028】
ここで、単結晶シリコンまたは単結晶炭化ケイ素からなるベース基材11aの厚みを、0.03mm以上20.00mm以下とすることができる。
このように、ベース基材の厚さが、0.03mm以上であればハンドリングが容易であり、扱いが容易である。また、20.00mm以下のものは両面研磨等も良好に行うことができるため仕上げ面研磨加工が容易であり、使用できる表面状態レベルに容易に仕上げることが可能である。また、必要以上の厚さを有することに伴うコスト高となることも抑制できる。
【0029】
ここで、ベース基材11a上にグラファイト層11bが形成された種基材11は、グラファイト層11bが単結晶シリコンまたは単結晶炭化ケイ素からなるベース基材11aの表面上に剥離転写されたものか、単結晶シリコンまたは単結晶炭化ケイ素からなるベース基材11aの表面にCVD法、スパッター法あるいは熱分解法で形成されたものとすることができる。
【0030】
このベース基材上へのグラファイト層の形成は、単結晶Siをベース基材に用いた場合は、例えば800〜1000℃程度の温度でCVD法、スパッター法、熱分解法等の方法により金属触媒膜上で行うことが可能であり、良好な特性のグラファイト層が形成されたものとすることができる。
そして、単結晶SiCをベース基材に用いた場合であれば、例えば1200℃程度以上の高温で熱処理する方法で容易に得られたものとすることができる。
また、単にベース基材上にグラファイト結晶からテープで剥がして分離して剥離転写することによってもグラファイト層は得られる。
【0031】
このように、ベース基材上にグラファイト層が形成された種基材を、ダイヤモンド層との間で主に応力を発生する部分に単結晶ダイヤモンドとの線膨張係数差の比較的小さい単結晶シリコンや単結晶炭化ケイ素を用いて、単結晶シリコンまたは単結晶炭化ケイ素からなるベース基材上にグラファイト層が剥離転写されたものとするか、またはその上にグラファイト層がCVD法、スパッター法、熱分解法のいずれかの方法で形成された単結晶ダイヤモンド成長用の基材では、従来のMgO等の種基材を用いた場合に比べて基材と単結晶ダイヤモンドとの間に発生する応力が小さくなる。そのため、単結晶ダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長中に単結晶ダイヤモンドや基材が割れる危険性が極力小さなものとなる。よって、基材を繰り返し使用でき、また単結晶ダイヤモンドの製造歩留りを改善することができる。
また下地となるベース基材の大口径化が非常に容易であり、成長させる単結晶ダイヤモンドの大口径化も容易である。
【0032】
また、グラファイト層は、厚み200nm以下の単層グラフェンまたは多層グラフェンからなるものとすることができる。
このように、グラファイト層を、グラフェン(Graphene)と呼ばれる単層のものから厚み200nmまでに形成した多層グラフェンの範囲で形成されたものとすることによって、基材面内の結合連続性が高く均一性が良好であり、単結晶ダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長用の基材に非常に適当である。そしてこの多層グラフェンの厚みが200nm以下であれば、単結晶ダイヤモンドを成長させた場合に単結晶ダイヤモンドの結晶欠陥の密度が急激に増加する危険性もなく、良好な結晶性の単結晶ダイヤモンドが得られる。
【0033】
そして、Ir膜、Pt膜、Rh膜のいずれかからなる膜12は、種基材11のグラファイト層11b若しくはグラファイト11’上にスパッター法でヘテロエピタキシャル成長されたものとすることができる。
このように、Ir膜、Pt膜、Rh膜を例えば、R.F.マグネトロンスパッター法でヘテロエピタキシャル成長されたものとすることで、Ir膜、Pt膜、Rh膜を十分な成長速度で成長させたものとすることができ、生産性高く製造された安価な成長用基材とすることができる。
【0034】
更に、Ir膜、Pt膜、Rh膜のいずれかからなる膜12の厚さを、5Å〜100μmとすることができる。
このように、Ir膜、Pt膜、Rh膜の厚さが5Å以上あれば、膜厚均一性や結晶性が十分に高いものとすることができる。また、厚さが100μm以下であれば、基材や単結晶ダイヤモンドとの間に発生する応力を小さいものとすることができるため、確実に基材上に単結晶ダイヤモンドを成長させることができ、また安価なものとすることができる。
【0035】
次に、上記単結晶ダイヤモンド成長用の基材を用いた本発明の単結晶ダイヤモンドの製造方法について説明するが、もちろんこれらに限定されない。
【0036】
まず、上記単結晶ダイヤモンド成長用の基材を準備し、その基材のIr膜、Pt膜、Rh膜側の表面に、予め基材側電極をカソードとした直流放電でダイヤモンド核形成を行うバイアス処理を行う。
このバイアス処理は、例えば、特開2007−238377号公報に記載されている様な、バイアス処理と呼ばれる方法で前処理を行って、Ir、Pt、Rh表面に方位の揃ったダイヤモンド成長核を形成するものとすることができる。
【0037】
続いて、当該バイアス処理済みの基材に対して、マイクロ波CVD法あるいは直流プラズマCVD法により単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることによって単結晶ダイヤモンドを製造することができる。
【0038】
このように、高結晶性の単結晶ダイヤモンドを安価に成長させることができる本発明の単結晶ダイヤモンド成長用基材の表面に、予めバイアス処理を行ってダイヤモンド成長核を形成しておくことで、単結晶ダイヤモンド層を結晶性よく、十分な成長速度で成長させることができる。そしてマイクロ波CVD法又は直流プラズマCVD法によりヘテロエピタキシャル成長させることによって、成長速度を速くすることができるため、製造コストの面で非常に優れた単結晶ダイヤモンドの成長方法となる。
【0039】
その後、成長させた単結晶ダイヤモンドを有する基材から、成長させた単結晶ダイヤモンドを分離することができる。
このCVD後に基材から単結晶ダイヤモンド部分のみを分離するには、例えば、熱混酸などのウエットエッチ液に浸けて、単結晶ダイヤモンド/Ir膜とグラファイト、グラファイト/Si、グラファイト/SiCとの2つに分離した後に、機械的研磨法で残ったIr膜を除去することによって行うことができる。
また、一度にIr/グラファイト、Ir/グラファイト/Si、Ir/グラファイト/SiCを機械的研磨法で除去して、単結晶ダイヤモンドのみを得ることもできる。
【0040】
基材上に成長させて得られた、もしくはこのようにして分離して得られた成長単結晶ダイヤモンドは、高結晶性かつ大面積で、デバイス用途でも好適に使用可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
直径25.0mm、厚みが0.38mmで、方位(0001)の片面研磨加工単結晶6H−SiCをベース基材として用意した。
そして、このベース基材に対してアルゴン雰囲気中で1650℃×3hの熱処理を行って、ベース基材の表面に厚み10nm程度の多層のグラフェンを形成した。
【0042】
次に、このベース基材上に多層グラフェンを形成した種基材にIr膜をヘテロエピタキシャル成長させた。
製膜は、Irをターゲットとした、R.F.マグネトロンスパッター法で、Arガス6×10−2Torr(8Pa)、基材温度700℃の条件で単結晶Ir膜厚が1.5μmになるまでスパッターして仕上げた。
また、バイアス処理及びDCプラズマCVDを行う際の電気的導通のために、基材温度を100℃とした他は同じ条件で、裏面にもIrを1.5μm成長させた。
【0043】
次に、この単結晶ダイヤモンド成長用の基材の単結晶Ir膜の表面にダイヤモンドの核を形成するためのバイアス処理を行った。
先ず、基材をバイアス処理装置の負電圧印加電極(カソード)上にセットし、真空排気を行った。次に、基材を600℃に加熱してから、3vol.%水素希釈メタンガスを導入し、圧力を120Torr(1.6×10Pa)とした。それから、バイアス処理を行った。すなわち、両電極間にDC電圧を印加して、所定の直流電流を流した。
【0044】
そして最後に、このバイアス処理済みの基材上に、DCプラズマCVD法によって900℃で30h単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させた。
【0045】
成長終了後、ベルジャーから取り出した製造物は、割れのないダイヤモンド/Ir/グラフェン/6H−SiCの積層構造であった。
そこで、熱混酸中2hエッチングして、ダイヤモンド/Irとグラフェン/6H−SiCとに分離した。その後、更に機械的研磨法で、裏面のIr膜を除去して、単結晶ダイヤモンドの自立構造とした。表面も仕上げ研磨を行ってデバイス用途でも使用できるレベルの面粗さに仕上げた。
【0046】
得られた単結晶ダイヤモンドは、ラマン分光、XRDロッキングカーブ、断面TEM、カソードルミネッセンス(CL)で評価したところ、充分な結晶性であることが確認できた。
【0047】
(比較例1)
種基材として、5.0mm角、厚みが0.5mmで方位(111)の両面研磨加工単結晶MgOを使用し、かつグラフェン層を形成しなかった以外は、実施例と同様に、Ir成長、バイアス処理を行って、基材を用意し、その上にDCプラズマCVD法での単結晶ダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長を行った。
【0048】
ベルジャーを開けて、チャンバー内の製造物を見ると、基材および単結晶ダイヤモンド部分共に1mm角程度の細かい破片に割れていた。
この破片一つを取って、結晶性を評価したところ、ラマン半値幅も広く、断面TEMでも転位欠陥が多く存在するなど、デバイス用途では不充分なレベルであった。
【0049】
(比較例2)
厚みが120μmのMgO基板を使用することの他は、比較例1と同様に、Ir成長、バイアス処理を行って、基材を用意し、その上にDCプラズマCVD法での単結晶ダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長を行った。
【0050】
ベルジャーを開けて、チャンバー内の製造物を見ると、基材および単結晶ダイヤモンド部分共に1mm角程度の細かい破片に割れていた。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0052】
10,10’…単結晶ダイヤモンド成長用の基材、
11…種基材、 11’…種基材(グラファイト)、 11a…ベース基材、 11b…グラファイト層、
12…イリジウム膜、白金膜、ロジウム膜のいずれかからなる膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶ダイヤモンドを成長させるための基材であって、少なくとも、
種基材と、該種基材の前記単結晶ダイヤモンドを成長させる側にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜、白金膜、ロジウム膜のいずれかからなり、
前記種基材は、グラファイトか、またはベース基材上にグラファイト層が形成されたものであることを特徴とする単結晶ダイヤモンド成長用の基材。
【請求項2】
前記ベース基材上にグラファイト層が形成された種基材は、前記グラファイト層が、単結晶シリコン(Si)または単結晶炭化ケイ素(SiC)からなるベース基材の表面上に剥離転写されたものか、前記ベース基材表面にCVD法、スパッター法あるいは熱分解法で形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の単結晶ダイヤモンド成長用の基材。
【請求項3】
前記グラファイト層は、厚み200nm以下の単層グラフェンまたは多層グラフェンからなるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の単結晶ダイヤモンド成長用の基材。
【請求項4】
前記単結晶シリコンまたは前記単結晶炭化ケイ素からなるベース基材は、厚みが0.03mm以上20.00mm以下であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の単結晶ダイヤモンド成長用の基材。
【請求項5】
前記イリジウム膜、前記白金膜、前記ロジウム膜のいずれかの膜は、前記種基材のグラファイト上にスパッター法でヘテロエピタキシャル成長されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド成長用の基材。
【請求項6】
前記イリジウム膜、前記白金膜、前記ロジウム膜のいずれかの膜の厚さが、5Å〜100μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド成長用の基材。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド成長用の基材の前記イリジウム膜、前記白金膜、前記ロジウム膜側に、予め基材側電極をカソードとした直流放電でダイヤモンド核形成を行うバイアス処理を行い、その後マイクロ波CVD法あるいは直流プラズマCVD法によって単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることを特徴とする単結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の単結晶ダイヤモンドの製造方法によって成長させた単結晶ダイヤモンドを有する基材から、該成長させた単結晶ダイヤモンドを分離することを特徴とする単結晶ダイヤモンドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−1394(P2012−1394A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138027(P2010−138027)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】