説明

基板冷却方法、基板冷却装置並びに製膜装置

【課題】製膜処理のタクトタイムが短い場合であっても、アンロード室で基板の温度分布が少ない状態とし、基板のそり変形や破損を抑制することができる基板冷却方法、基板冷却装置および製膜装置を提供することを目的とする。
【解決手段】減圧環境下において高温条件で表面に製膜処理が施された基板7を、減圧環境下でアンロード室に受け入れて、基板7の少なくとも一方の面側から、基板7の中央部に冷媒を噴き付けて基板7の冷却を行う第1基板冷却工程と、該第1基板冷却工程を経た基板7をアンロード室から搬出した後に、基板7の一方の面の反対側から、第1基板冷却工程で冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離内側に冷媒を噴き付けて、あるいは、第1基板冷却工程で冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離外側に冷媒を噴き付けて基板の冷却を行いながら基板の面内温度分布を補正する第2基板冷却工程と、を備える基板冷却方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1辺が1m以上の大面積基板に製膜処理を行う製膜装置の基板冷却に関するものである。本願発明は、プラズマ化学蒸着(Plasma Chemical Vapor Deposition:PCVD)、スパッタリング、大気圧熱CVDなどの基板を加熱して製膜する製膜処理装置に利用可能である。
【背景技術】
【0002】
従来より、母材に製膜処理を施す装置として、PCVD装置やスパッタリング装置、大気圧熱CVD装置等の製膜装置が知られている。製膜装置は、基板上に、太陽電池パネル、液晶パネルまたは半導体デバイスなどの薄膜を形成した構成のデバイスの製造等に用いられる。例えば、特許文献1には、基板上に太陽電池パネルの薄膜を形成する製膜装置が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の製膜装置は、真空処理室と、アンロード室とを有している。特許文献1に記載の製膜装置では、真空処理室内を減圧した状態で基板表面に製膜処理が施される。その際、基板は高温に加熱される。製膜処理後の基板は、約150℃の高温状態でアンロード室に送り込まれ、アンロード室内部にベントガスが供給されることによって、冷却され、且つ、大気圧環境に戻される。大気圧に戻された基板は、後段の工程に搬送される。
【0004】
特許文献1では、アンロード室での基板冷却時に、基板の中央部にベントガス(冷媒)を直接噴き付けることで、基板の中央部と周縁部との温度差を生じにくくさせている。それによって、基板に割れや座屈が生じにくくなるため、基板の破損を激減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−123213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の第1実施形態で例示されたPCVD装置は、製膜処理のタクトタイムが4〜5分程度とされる。一方、スパッタリング装置の製膜処理のタクトタイムは2分〜3分程度であり、PCVDと比較して短い。タクトタイムが短いと、アンロード室における基板の冷却時間を十分に取ることができなくなる。冷却不足の基板は、後段の工程への搬送中の基板冷却により、基板周囲温度が低下し易いことから基板面内の温度差が拡大するため、基板が大きく反ることで基板搬送に支障を生じたり、温度分布による熱割れで破損するなどの問題が生じる。
ここで、短いタクトタイムにでも基板冷却が可能とするために冷却能力を向上して早く冷却することを実施すると、今度は基板冷却を行なう基板の中央部分の温度低下が大きくなり過ぎる。そのため、基板周囲温度より中央部分の温度が低下し、基板面内の温度差が拡大して、基板が大きく反る。それによって基板搬送に支障を生じたり、温度分布による熱割れで破損するなどの問題が生じる。
すなわち、以前は基板周囲の温度低下を課題にして基板中央部分の冷却を対策していたが、その後の研究により基板面内の温度差を所定範囲内としながら基板全体温度を冷却する必要があることが判明した。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、製膜処理のタクトタイムが短い場合であっても、アンロード室内ならびにアンロード室から搬出後で基板の温度分布が少ない状態とし、基板のそり変形や基板の破損を抑制することができる基板冷却方法、基板冷却装置および製膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、減圧環境下において高温条件で表面に製膜処理が施された基板を、減圧環境下でアンロード室に受け入れて、前記基板の少なくとも一方の面側から、前記基板の中央部に冷媒を噴き付けて前記基板の冷却を行う第1基板冷却工程と、該第1基板冷却工程を経た前記基板を前記アンロード室から搬出した後に、前記基板の前記一方の面の反対側から、前記第1基板冷却工程で前記冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離内側に冷媒を噴き付けて、あるいは、前記第1基板冷却工程で前記冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離外側に冷媒を噴き付けて前記基板の冷却を行いながら基板の面内温度分布を補正する第2基板冷却工程と、を備える基板冷却方法を提供する。
【0009】
上記発明によれば、第1基板冷却工程で、基板の中央部に冷媒を噴き出すことで、中央部の熱が冷媒によって奪われる。中央部の熱を奪った冷媒は、中央部から周縁部に向けて、基板表面に沿って放射状に流れて、周縁部の冷却に寄与する。周縁部よりも温度低下が生じにくい中央部を、周縁部よりも積極的に冷却するので、中央部と周縁部との温度差を生じにくくさせるとともに、中央部の温度を周縁部の温度よりも低くすることが可能となる。中央部と周縁部との温度差が生じにくくなると、欠陥が多く亀裂発生のもとになり易い基板端部に発生する引っ張り応力が低下し、基板に熱割れや熱座屈による凹変形や凸変形が生じにくい。また、中央部の温度を周縁部の温度よりも低くすることで、基板周縁部の熱伸び量が基板中央部の熱伸び量より大きくなるので、基板端部に発生する応力は圧縮応力となり、基板割れの発生を防止することが可能となる。なお、基板には、片面側からのみ冷媒を噴き付けてもよく、また、より高い冷却効果を求める場合には、両面側から噴き付けてもよい。基板の両面側から冷媒を噴き付けた場合は基板表裏温度差が少なくなるので、表裏温度差に伴う凹変形や凸変形が生じにくいので好ましい。
【0010】
基板の周縁部は、大気への対流熱伝達により冷却されやすい。そのため、製膜処理された基板は、アンロード室を搬出されて、後段の工程に搬送される過程において基板面内の温度差の拡大が進む。
上記発明によれば、第2基板冷却工程において、第1基板冷却工程で冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離内側に冷媒を噴き付けることで、中央部が冷却される。これにより、基板搬送中に生じる基板面内の温度差の拡大を防止し、基板反りや熱座屈による凹変形や凸変形を抑制することができる。
【0011】
上記発明によれば、第2基板冷却工程において、第1基板冷却工程で冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離外側に冷媒を噴き付けることで、中央部が高範囲に冷却される。また、基板冷却範囲を大きく変えることなく、基板の異なる位置を冷却することにより、第1基板冷却工程後の基板面内の温度分布に対して、第2基板冷却工程により基板冷却を行ないながら基板面内の温度分布を補正することができる。これにより、冷媒の流量を増加して冷却速度を増加させた場合であっても、中央部の過冷却を抑制し、基板面内の温度差を生じにくくさせることができる。
【0012】
上記発明によれば、第2基板冷却工程において、基板の製膜面と反対側である裏面側から冷媒を噴き付けることで、基板に製膜された膜面の酸化及び変質を防止することができる。
【0013】
上記発明の一態様において、前記第2基板冷却工程が、連続しない複数の領域に、それぞれ前記基板の製膜面反対側から前記冷媒を噴き付けて前記基板の冷却を行う冷却ステップを備えることが好ましい。
【0014】
上記発明の一態様によれば、基板の中央部において、連続しない複数の領域が、まだ基板から熱を奪っていない冷媒(換言すると、最も低温の状態の冷媒)によって冷却される。すなわち、基板は、連続しない複数の小領域が積極的に冷却される。このように、基板において積極的に冷却されて熱応力の生じやすい領域が、複数の小領域に分散しているので、基板に生じる熱応力が全体として小さくなり、基板に割れが生じにくくなる。
【0015】
上記発明の一態様において、前記第2基板冷却工程が、前記冷却ステップの後に、前記冷却ステップで冷媒を噴き付けた領域とは異なる領域に冷媒を噴き付けて前記基板の面内温度分布を補正する補正ステップを備えることが好ましい。
あるいは、前記第2基板冷却工程が、前記冷却ステップと同時に、前記基板の製膜面側に向けて、前記冷却ステップで冷媒を噴き付ける領域とは異なる領域に冷媒を噴き付けて前記基板の面内温度分布を補正する補正ステップを備えても良い。
【0016】
上記発明の一態様によれば、補正ステップを備えることで、基板の中央部と周縁部との温度差を所定値以下としながら、所望の温度まで基板温度を下げることができる。これにより、基板冷却速度を向上しながら基板温度分布が所定値以内を維持できるので、基板を安心して扱うことができ、基板の熱座屈変形や破損を抑制することができる。なお、補正ステップは、冷却ステップの後に複数回実施されても良い。
【0017】
本発明は、減圧環境下において高温条件で表面に製膜処理が施された基板を、減圧環境下でアンロード室に受け入れて、前記基板の少なくとも一方の面側から、前記基板の中央部に冷媒を噴き付けて基板を冷却する第1基板冷却装置と、該第1基板冷却装置で冷却された前記基板を前記アンロード室から搬出した後に、前記基板の前記一方の面の反対側から、前記第1基板冷却装置で前記冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離内側に冷媒を噴き付ける、あるいは、前記第1基板冷却装置で前記冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離外側に冷媒を噴き付けて、基板を冷却しながら基板の面内温度分布を補正する第2基板冷却装置と、を備える基板冷却装置を提供する。
【0018】
上記発明によれば、第1基板冷却装置で、基板の中央部に冷媒を噴き出すことで、周縁部よりも温度低下が生じにくい中央部を、周縁部よりも積極的に冷却する。これにより、基板面内の中央部と周縁部との温度差を生じにくくさせるとともに、中央部の温度を周縁部の温度よりも低くすることが可能となる。中央部と周縁部との温度差が生じにくくなると、強度の弱い基板端部に発生する引っ張り応力が低下し、基板に割れや熱座屈による凹変形や凸変形が生じにくい。また、中央部の温度を周縁部の温度よりも低くすることで、基板端部に発生する応力は圧縮応力となり、基板割れの発生を防止することが可能となる。
また、基板の異なる位置を冷却することにより、第1基板冷却工程後の基板面内の温度分布に対して、第2基板冷却工程により基板冷却を行ないながら基板面内の温度分布を補正することができる。これにより、冷媒の流量を増加して冷却速度を増加させた場合であっても、中央部の過冷却を抑制し、基板面内の温度差を生じにくくさせることができる。
上記発明によれば、第2基板冷却工程において、基板の製膜面と反対側の裏面側から冷媒を噴き付けることで、基板に製膜された膜面の酸化及び変質を防止することができる。
【0019】
上記発明の一態様において、前記第2基板冷却装置が、連続しない複数の領域に、それぞれ前記冷媒を噴き付ける、製膜面反対側冷媒噴出部を備えることが好ましい。
【0020】
上記発明の一態様によれば、基板の中央部において、連続しない複数の領域が、まだ基板から熱を奪っていない冷媒(換言すると、最も低温の状態の冷媒)によって冷却される。すなわち、基板は、連続しない複数の小領域が積極的に冷却される。このように、基板において積極的に冷却されて熱応力の生じやすい領域が、複数の小領域に分散しているので、基板に生じる熱応力が全体として小さくなり、基板に割れが生じにくくなる。
【0021】
上記発明の一態様において、前記第2基板冷却装置が、前記製膜面反対側冷媒噴出部によって基板に冷媒が噴き付けられた後、該基板の製膜面反対側から、前記製膜面反対側冷媒噴出部で冷媒を噴き付けた領域とは異なる領域に冷媒を噴き付けて前記基板の面内温度分布を補正する補正冷媒噴出部を備えることが好ましい。
あるいは、前記第2基板冷却装置が、前記基板を挟んで前記製膜面反対側冷媒噴出部と対向する位置に配置され、前記基板の製膜面側に向けて、前記製膜面反対側冷媒噴出部で冷媒を噴き付ける領域とは異なる領域に冷媒を噴き付けて前記基板の面内温度分布を補正する補正冷媒噴出部を備えていても良い。
【0022】
上記発明の一態様によれば、補正冷媒噴出部を備えることで、基板の中央部と周縁部との温度差を所定値以下としながら、所望の温度まで基板温度を下げることができる。これにより、基板冷却速度を向上しながら基板温度分布が所定値以内を維持できるので、基板を安心して扱うことができるようになるため、基板の熱座屈変形や破損を抑制することができる。なお、補正冷媒噴出部は、製膜面反対側冷媒噴出部の後段側に複数配置されても良い。
【0023】
本発明は、減圧環境下、且つ、高温条件下で基板表面に製膜処理する真空処理室と、前記真空処理室で製膜処理された基板を減圧環境下で受け入れて、前記基板を冷却しつつ大気圧状態に戻すアンロード室と、前記アンロード室及びその後段に、請求項5乃至請求項8のいずれかに記載の基板冷却装置を備える製膜装置を提供する。
【0024】
上記発明によれば、基板に割れや熱座屈変形を生じさせずに、基板を短時間で冷却することができるため、基板をスムーズに搬送できて可動率が上昇するとともに歩留りが向上する。
【発明の効果】
【0025】
本発明にかかる基板冷却方法、基板冷却装置、及び製膜装置によれば、製膜処理のタクトタイムが短い場合であっても、基板を短時間で冷却する際に、第2基板冷却工程により基板冷却を行ないながら基板面内の温度分布を補正することで、基板温度分布が所定値以内を維持できる。このため基板には熱変形や熱応力が生じにくくすることができ、基板の割れや熱座屈変形につながりにくいので、基板をスムーズに搬送できて可動率が上昇するとともに歩留りが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態に係る製膜装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】第1基板冷却装置の構成を例示する図である。
【図3】ベント管の断面構成を示す図である。
【図4】実施例1の第1基板冷却工程における基板とベントガス噴出部との位置関係を示す図である。
【図5】実施例1の第2基板冷却工程における基板と噴出ノズルとの位置関係を示す図である。
【図6】従来の製膜装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【図7】実施例2の第2基板冷却工程における基板と噴出ノズルとの位置関係を示す図である。
【図8】実施例1及び実施例2について、基板位置と熱伝達率及び基板温度との関係を示す図である。
【図9】第3実施形態に係る製膜装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【図10】第4実施形態に係る第2基板冷却装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【図11】第4実施形態の変形例に係る第2基板冷却装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態にかかる製膜装置及び基板冷却装置について、図面を用いて説明する。
製膜装置としては、主として、複数の処理室を直列に並べたインライン型と、中央の基板搬送共通室の周辺に複数の処理室を並列に並べたクラスタ型があるが、本実施形態では、本発明の技術をインライン型の製膜装置に適用した場合について説明する。クラスタ型の製膜装置においては基板搬送方法などに違いが生じるも、基板冷却や基板変形については同様な状況であり同等に対応することができる。
【0028】
図1に、本実施形態にかかる製膜装置の構成を概略的に示す。本実施形態にかかる製膜装置1は、スパッタリング法により基板上に太陽電池パネルの薄膜の一部を形成する装置とされ、本実施形態では裏面電極用に銀薄膜を製膜するものである。製膜装置1は、真空処理室2と、アンロード室3と、基板搬送装置4と、基板冷却装置(第1基板冷却装置5及び第2基板冷却装置6)と、を備えている。
【0029】
真空処理室1は、本実施形態では銀薄膜を例えば150nm〜500nmの所定膜厚で製膜するものであり、減圧環境下で銀ターゲットにアルゴンプラズマを作用させて、基板表面に銀薄膜の製膜処理を施す製膜ユニットと、製膜ユニットを通過する基板の製膜面と反対側である裏面側部に設けられた基板加熱ヒータを有している(不図示)。
【0030】
アンロード室3は、真空処理室1に隣接して設けられている。アンロード室3は、真空処理室1から基板7を受け入れる搬入口8と、アンロード室3から基板7を搬出する搬出口9とを備えている。搬入口8及び搬出口9には、ゲート弁としての開閉機構が設けられている。アンロード室3は、搬入口8及び搬出口9を閉じた状態では、内部の気密が保たれるようになっている。
【0031】
アンロード室3の後段には、アンロード室3から搬出されて、後段の処理工程へ基板7を搬送する搬送経路10が設けられている。搬送経路10は大気環境とされ、基板7にゴミなどの異物化付着しないように搬送経路10の周囲は壁面で囲まれたクリーンベンチとなっていてもよい。
【0032】
基板搬送装置4は、真空処理室1、アンロード室3、及びアンロード室3の後段の搬送経路10を介して基板7を後段の処理工程に搬送可能に設けられている。基板搬送装置4は、例えば、基板の上下端をそれぞれ支持する上部支持ローラ4a及び下部支持ローラ4bと、図示しない下部支持ローラ駆動装置から構成されている。搬送経路10内に設けられる支持ローラ本体は、基板7に直接接触して回転することで基板7を移動させるものであり、約100℃の基板7と接触することで軟化変形することなく、また摩耗発塵の少ない超高分子量ポリエチレン(UPE)などの樹脂からなる。
基板搬送装置4は、基板7を、鉛直方向(Z)より5°〜15°、より好ましくは7°〜12°傾斜させ、基板の製膜面を上(Z方向上側)に向けて保持し、上部支持ローラ4aは基板の製膜面と反対側である裏面側の基板端付近を支持する。このように基板7を傾斜させることで、基板7を拘束することなく基板に作用する重力の傾斜角度のsin成分を利用して安定的に支持しながら搬送を行うことができる。傾斜角度が5°より小さいと上部支持ローラ4aで基板7を支持する力が少なく不安定な状態となり、下部支持ローラ4bから基板7が脱輪(落下)する可能性が生じる。一方、傾斜角度が15°より大きいと上部支持ローラ4aで基板7を支持する力が大きくなり安定な状態になるが、搬送経路10の床面積が増加し、装置の大型化を招くので好ましくない。
【0033】
第1基板冷却装置5は、アンロード室3内に設けられている。第1基板冷却装置5は、アンロード室3内にベントガスを供給し、基板7を冷却しつつ大気圧に戻す役割を有している。ベントガスとしては、窒素、空気、Arなどが挙げられる。本実施形態では、温度が高い状態のため銀薄膜に厚い酸化膜が生じないように窒素を用いてベントを行なう。
【0034】
第1基板冷却装置5は、ベントガス噴出部と、ベントガス供給源と、ベントガス管路とから構成されている。ベントガス供給源(図2の16参照)は、ベントガス管路(図2の14参照)を介してベントガス噴出部(図2の11参照)にベントガスを供給可能に接続されている。
【0035】
ベントガス噴出部は、間隔をあけて略平行に並べられた複数のベント管から構成されている。複数のベント管は、ベント管同士が間隔をあけて略平行に並べられている。ベント管には、長手方向に沿って同じ向きに開口された複数の噴出口(図2の13参照)が設けられている。噴出口の口径は、各噴出口から略同じ流量でベントガスが噴出されるようベント管の内径よりも十分に小さな口径であり大きな圧力損出を生じるよう設定されている。噴出口同士の間隔、ベント管同士の間隔、及びベント管の本数は、適宜設定される。本実施形態では、基板7において各噴出口からベントガスを直接噴き付けられる領域同士が離散し過ぎて基板の温度分布が大きくならないように、ベント管同士の間の間隔が定められている。
ベントガス墳出部は、ベントガス管路に対して着脱可能にして設けられており、冷却対象の基板7のサイズや冷却条件に応じて、適切な形状のものに交換可能とされている。
【0036】
第1基板冷却装置5は、少なくとも一方の面側から基板の中央部にベントガスを噴き付けて、基板を冷却することができるよう配置される。中央部とは基板の各辺長の約60%より内側の基板中央領域とされる。
【0037】
本実施形態において、第1基板冷却装置は、ベントガス噴出部A(図2の11A参照)及びベントガス噴出部B(図2の11B参照)を備えている。ベントガス噴出部A及びベントガス噴出部Bには、それぞれベントガス管路A,B(図2の14A,B参照)を介してベントガス噴出部A,Bにベントガスを供給可能にベントガス供給部A,B(図2の16A,B参照)が接続されている。
【0038】
ベントガス噴出部A及びベントガス噴出部Bは、それぞれ基板を挟んで対向する位置に配置されている。ベントガス噴出部A及びベントガス噴出部Bは、基板の両面からそれぞれ基板の中央部にベントガスを噴き付けて、基板を冷却することができる。両面から基板に冷媒を噴き付ける場合、ベントガス噴出部Aの各噴出口の位置と、ベントガス噴出部Bの各噴出口の位置とをずらすと局所的な基板温度分布が更に少なくなるので好ましい。
【0039】
図2に、第1基板冷却装置15の構成を例示する。同図において、基板7の対向する2辺の方向をX方向とし、これに直交する2辺の方向をY方向として説明する。同図では、簡略化のためベント管を3本としたが特に限定するものではない。
例えば、ベントガス噴出部11Aでベント管12Aの長手方向をX方向に沿って配置した場合、ベントガス噴出部11Bではベント管12Bの長手方向をY方向に沿って配置することで、ベントガス噴出部Aの各噴出口13Aの位置と、ベントガス噴出部Bの各噴出口13Bの位置とを異ならせることができる。ベント管(12A,12B)の一端部には、ベントガスを分配するベント管ヘッダー(15A,15B)からベントガス管路(14A,14B)を介して冷媒供給源であるベントガス供給源(16A,16B)がそれぞれ接続されている。ベント管(12A,12B)の他端部は、支持部材(17A,17B)によって支持されている。
【0040】
基板の薄膜が形成された製膜面側にベントガスを噴き付ける場合、ベントガス噴出部の噴出口を、基板面と反対側に向け、噴出口の周囲にガス誘導プレート18を配置することが好ましい。図2では、ベントガス噴出部11Aの噴出口13Aは、基板と反対側に向けて配置されている。図3に、ベント管12Aの断面構成を示す。噴出口13Aの周囲にはガス誘導プレート18が配置されている。ガス誘導プレート18によって、噴出されたベントガスは拡散されながら誘導されて基板面側により均一に噴き付けられるようになっている。ガス誘導プレート18は断面が半円状であり、噴出口13Aを閉塞しないように配置されている。ガス誘導プレート18は、ベント管12Aと同様に、ベントガス管路14Aと支持部材17Aとによって固定されている。
【0041】
基板は、既述のように表面が製膜処理されているため、噴出口から直接のベントガスが噴き付けられると、ベントガス中に含まれる微粒子の衝突によって膜面に損傷が生じることがある。上記構成とすることで、ベントガスが噴出し直後の高ガス流速の勢いを減衰させることができるため、微粒子の衝突による膜の損傷を防止することができる。
なお、基板の製膜面と反対側の裏面側にベントガスを噴き付ける場合は、ベントガス噴出部の噴出口を基板側に向け、噴出口から噴出されたベントガスを直接基板に噴き付けても良い。
【0042】
第2基板冷却装置6は、アンロード室3の後段の搬送経路10中に設けられている。第2基板冷却装置6は、冷媒供給手段(不図示)及び冷媒噴出部19を含む。冷媒供給手段は、冷媒噴出部19に冷媒を供給可能に接続されていて、冷媒は窒素、空気、Arなどが利用されるが大気雰囲気であることから、安価性と安全性から通常はフィルタで塵埃を除外した空気を利用する。冷媒噴出部19は、基部20に接続した複数の噴出ノズル21に略均一に冷媒が分配される構成とされる。噴出ノズル21は、第1基板冷却装置5で冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離内側の連続しない複数の領域に冷媒を噴き付け可能に、基板7の製膜面と反対側の裏面側に配置される。
【0043】
所定距離内側とは、基板の各辺長の約40%〜60%に相当する基板中心領域とすると良い。そのようにすることで基板全体の温度分布を少なくし、基板反り変形を抑制し、基板搬送を支障なく実施するようにできる。本実施形態では、基部20が第1基板冷却装置5のベントガス噴出部と同等の大きさ、もしくは若干内側領域とされ、噴出ノズル21は、基部の四隅にそれぞれ設けられている。噴出ノズル21と基板7との距離は冷媒の流量と冷却能力などに応じて適宜設定され、基板中心領域の冷却を促進する。
【0044】
次に、本実施形態に係る製膜装置における基板冷却方法を説明する。
本実施形態で製膜処理される基板は、一辺が1m以上である大型のガラス基板とされる。
まず、真空処理室2において、減圧環境下、高温条件で基板を製膜処理する。製膜処理された基板は150℃以上の高温状態であるため、第1基板冷却工程及び第2基板冷却工程によって冷却する。
【0045】
(第1基板冷却工程)
アンロード室3は、真空処理室2内と同程度の減圧環境としておく。アンロード室3の搬入口8を開放し、真空処理室2にて製膜処理した基板7を基板搬送装置4によってアンロード室3に搬入する。搬入口8を閉鎖した後、第1基板冷却装置5によってベントガスを注入し、アンロード室3内を大気圧状態に戻す。
【0046】
第1基板冷却装置5のベントガス墳出部を基板7の中央部に対向して配置し、基板の両面側からベントガスを噴き付ける。周縁部よりも冷却されにくい中央部にベントガスを噴き付けることで中央部の熱がベントガスによって奪われる。中央部の熱を奪ったベントガスは、中央部から周縁部に向けて、基板表面に沿って放射状に流れて、基板周縁部の冷却に寄与する。
【0047】
そのようにすることで、基板の周縁部よりも温度低下が生じにくい中央部が、周縁部よりも積極的に冷却されるため、中央部と周縁部との温度差が生じにくくなる。これにより、基板7の冷却中に基板7に生じる熱変形や熱応力が小さくなるため、アンロード室3内およびアンロード室3から搬出直後の基板7に温度分布による割れ発生や凹型または凸型へ熱座屈変形して基板搬送に支障を生じることを防止することが可能となる。
【0048】
ベントガス噴出部11A,Bは、基板7に略平行な同一平面上に配置する。それにより基板7においてベントガスが当てられる偏りが少なく基板周囲へと拡散することで、ベントガスが当たる領域が広くなり、基板の周縁部に直接ベントガスが当たらなくても、基板全体が冷却されることになる。
【0049】
ベントガス噴出部11A,Bは、ベント管12A,Bがそれぞれ平行に配置された構成とされるので、基板7においてベントガスが噴き付けられる領域は、基板と略相似形状の四角形とすることが好ましい。このため、基板7において、ベントガスによって冷却される領域と周縁までの距離が基板7の全周にわたってほぼ同一となるため、各部で冷却条件が等しくなり、冷却むらが生じにくい。
【0050】
ベントガス噴出部11A,Bによって、基板の中央部に、表裏の両面側からベントガスが噴き付けられる。表裏の両面側からベントガスが噴き付けられるので、基板7の表裏温度差の発生が抑制され、基板の反り発生を抑制することができる。
【0051】
次に、基板上でのベントガスが噴き付けられる位置について説明する。
ベントガスは、基板の中央部内においてベント管の噴出口に対応する位置に噴き付けられる。製膜面側では、ベント管Aの配置に対応して、X方向に平行な複数本の線状にベントガスが噴き付けられる。一方、製膜面と反対側の裏面側では、ベント管Bの配置に対応して、Y方向に平行な複数の線状に含まれる連続しない領域にベントガスが噴き付けられる。即ち、基板の製膜面側と裏面側とで、局所部分に注目すると異なる領域にベントガスが噴き付けられる。
【0052】
このようにして、基板7の表裏で異なる位置にベントガスが噴き付けられることによって、中央部を満遍なく均一に冷却することに効果が得られる。逆に基板の表裏で同じ位置にベントガスが噴き付けられた場合、ベントガスが噴き付けられた領域が集中的に冷却されるので、その周囲のベントガスが直接には噴き付けられない領域との間に局所的な温度差が増大することがある。このような局所的な温度差が発生した部分に基板の欠陥が存在すると、基板の熱割れの一因となり得る。これに対し、本実施の形態では、基板の表裏で異なる位置にベントガスを噴き付けることで、基板の熱割れ発生を、より確実に防止することができる。
【0053】
一方、基板の中央部にベントガスを噴き付けることで、周縁部よりも中央部が低温となるため、基板端部に働く力が、周縁部から中央部へ向かう圧縮応力となる。基板は周縁の端面部分の欠陥部分が引張応力で拡大することで熱割れを生じ易いことより、基板周縁部に圧縮応力を設けることで基板が割れるにくくなる。即ち、基板7の割れが防止される。
【0054】
(第2基板冷却工程)
第1基板冷却工程によりアンロード室3内を大気圧状態に戻したのち、基板搬送装置4にて基板7をアンロード室内から後段の搬送経路10へと搬出する。その後、基板7の製膜面と反対側の裏面側から、第1基板冷却工程で冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離内側に冷媒を噴き付けて基板の冷却を行う。すなわち、第1基板冷却工程による基板の中央部を主体にした基板冷却範囲を更に冷却を実施するが、局所的には冷却部分が異なっている。4本の各ノズル21の径は50mm〜150mm、ノズル先端と基板との距離を250mm〜400mmとした構成において、冷媒(空気)の流量は基板面積1mあたり5〜20m/min程度、冷却時間を80秒とすることが好ましい。第2基板冷却工程では、後の処理工程までの搬送中に自然放冷で冷却した基板面内の温度差が大きくならないよう、基板冷却範囲を大きく変えることなく異なる位置に冷媒(空気)を噴き付けながら、基板の面内温度分布を補正し、基板温度を100℃以下となるまで冷却することが好ましい。
またアンロード室から搬出された直後の基板は、やや高温状態で大気にさらされる。裏面側から冷媒を噴き付けることで、基板に形成された薄膜(本実施形態では銀薄膜)の表面の過剰な酸化や変質を抑制することができる。
第1基板冷却工程と第2基板冷却工程は基板を移動させた別の場所で実施されることから、タクトタイムを延長させることなく順次処理される基板を冷却することができる。すなわち、基板冷却工程を2段階とすることで、短時間で基板の中央部を主体とした冷却が可能となる。
【0055】
(実施例1)
第1実施形態に従って、大型のガラス基板(1.4m×1.1m)に製膜処理を施し、その後基板を冷却した。
【0056】
第1基板冷却工程では、基板7の製膜面側(表面側)及び製膜面と反対側(裏面側)から基板の中央部にベントガスとして窒素ガスを噴き付けた。図4に、第1基板冷却工程における基板7とベントガス噴出部11との位置関係を示す。同図は、裏面側から基板を平面視したものである。実施例1では、6本のベント管12(長さ600mm)からなるベントガス噴出部11を、基板7の中央部800mm×600mmに配置した。ベント時間は40秒とした。
【0057】
次に、基板7をアンロード室3から搬送経路へ搬出し、第2基板冷却装置によって基板の裏面側から冷媒として空気を80秒間噴き付けた。図5に、第2基板冷却工程における基板7と噴出ノズル21との位置関係を示す。同図は、裏面側から基板を平面視したものであり、点線で囲われた部分は第1基板冷却工程でベントガス噴出部が配置されていた位置を示している。実施例1では、噴出ノズル21(ノズル噴出孔径φ90)をベントガス噴出部が配置されていた領域の内側、基板の中央部600mm×450mmの四隅にそれぞれ配置して基板冷却範囲を大きく変えることなく、基板の異なる位置を冷却した。これにより、第1基板冷却工程後の基板面内の温度分布に対して、第2基板冷却工程により基板冷却を行ないながら基板面内の温度分布を補正する。
【0058】
実施例1では、第1基板冷却工程において200℃程度だった基板を160℃未満まで冷却することができた。このとき基板の中央部と周縁部との温度差は29℃であり、アンロード室3から搬出した基板7において、基板面内温度分布が大きくなると発生する熱座屈による凹変形・凸変形や、熱応力による破損はなかった。
【0059】
実施例1では、第2基板冷却工程において約160℃の基板を100℃以下まで冷却することができた。このとき基板の中央部と周縁部との温度差は30℃以内であり、冷却後の基板において、熱座屈変形や熱応力破損の発生はなかった。
これにより、短いタクトタイムの規定範囲の中で、第1基板冷却工程で40秒、第2基板冷却工程で80秒の基板冷却という、別場所での2段階冷却を実施することで、基板7を200℃程度から100℃以下まで熱座屈変形や熱応力破損を発生させることなく、基板を冷却することができた。
【0060】
(比較例1)
従来の製膜装置を用いて、大型のガラス基板(1.4m×1.1m)に製膜処理を施し、その後基板を冷却した。図6に、従来の製膜装置22の構成を概略的に示す。従来の製膜装置22は、第1基板冷却装置23が基板7の全面にベントガスを噴き付ける構造とされ、第2基板冷却装置を含まない以外は、実施例1で用いた製膜装置1と同様の構成とした。
【0061】
比較例1では、第2基板冷却工程を実施しなくても基板温度を100℃以下まで冷却できるように、実施例1よりも第1基板冷却工程におけるベントガス流量を増加させるとともに、ベントガス噴出部11を略基板サイズへと大型化させて、ベントガスを噴き付ける冷却領域を基板全体になるようにして基板を冷却した。
比較例1は、ベントガス流量増加でベント時間の短縮に寄与するものの、基板7の周縁部の温度が大きく低下し、基板面内温度差が50℃以上となり、基板のバックリング変形(熱座屈による凸変形)を生じ、基板搬送装置の基板支持部である下部支持ローラ4bから基板下部が外れて搬送障害が発生した。
【0062】
第1基板冷却工程において、基板全体を均一に冷却することが理想であるが、基板冷却装置を大型化しない対策も必要である。実施例1では基板7の中央部に冷媒を噴きつければよいため、基板冷却装置を比較例1より大型化しなくてすむ。
【0063】
[第2実施形態]
第1実施形態に係る製膜装置1で基板を冷却した場合、第2基板冷却装置6における基板7の中央部に噴き付ける冷媒(空気)の流量を増加させすぎると、基板中央領域が過剰に冷却されることで、再度基板の面内温度差が大きくなり、基板の熱座屈変形を発生する可能性がある。
【0064】
ガラス基板(1.4m×1.1m×t4mm)に対して対称となる放物線状温度分布を設定してシミュレーション計算を実施した。基板の中央部の温度が端部の温度より高い場合、座屈許容温度差は≦14℃となった。一方、基板の中央部の温度が端部の温度より低い場合、座屈許容温度差は≦12℃となった。
なお、上記結果は、放物線状対称温度分布の計算のため座屈許容温度差が小さいが、実際の温度分布は非対象であるため、許容温度差は少し大きくなることをご留意されたい。実施例1では、温度差を30℃以内とすることで、熱座屈変形が生じないことが確認されている。
【0065】
上記シミュレーション計算結果から、基板中央部または周縁部のいずれか一方のみが低温となり基板面内に温度差が大きく付くと、熱座屈変形を起こし基板が凹変形・凸変形を発生して基板下部の支持部分に反りが生じて基板搬送に支障をきたすことが懸念される。また、基板面内の温度分布の許容温度差もほとんど変わらず同じであることが判明した。すなわち、第2基板冷却装置で中央部を過剰に冷却しすぎないことも重要となる。但し、基板温度が高い状況では基板割れ抑制には基板周囲に引張り応力が生じないよう、基板周囲端部温度を中央部分より温度差が大きく付いて低くならない工夫も必要である。
【0066】
本実施形態に係る製膜装置は、第2基板冷却装置が異なる以外は、第1実施形態と同様の構成とされる。本実施形態において、第2基板冷却装置の噴出ノズルは、第1基板冷却装置で冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離外側の連続しない複数の領域に冷媒を噴き付け可能に配置される。そうすることにより、中央部を広範囲に冷却することができるため、中央部が過剰に冷却されることを抑制できる。
【0067】
(実施例2)
実施例2では、第2基板冷却装置の噴出ノズルの配置が異なる以外は、実施例1と同様に製膜及び基板冷却を実施した。図7に、第2基板冷却工程における基板7と噴出ノズル21との位置関係を示す。同図は、裏面側から基板を平面視したものであり、点線の四角で囲われた部分は第1基板冷却装置のベント管12が配置されていた位置を示している。同図において点線の丸で囲われた部分は、実施例1において噴出ノズル21が配置される位置を示す。実施例2では、噴出ノズル(ノズル噴出孔径φ90)24をベントガス噴出部11が配置されていた領域の+100mm外側、基板の中央部800mm×450mmの四隅にそれぞれ配置した。
【0068】
実施例2では、第2基板冷却工程によって、約160℃の基板を100℃以下まで冷却することができた。このとき基板7の中央部と周縁部との温度差は30℃以内であり、アンロード室3から搬出した基板において、熱座屈変形や破損の発生はなかった。
【0069】
図8に、実施例1及び実施例2について、基板位置と熱伝達率及び基板温度との関係を示す。同図において、横軸が基板位置、左縦軸が熱伝達率、右縦軸が基板温度、破線矢印が実施例1の噴出ノズル21の位置、実線矢印が実施例2の冷媒噴出ノズル24の位置、●が実施例1の熱伝達率、▲が実施例2の熱伝達率である。
【0070】
図8によれば、実施例1では基板の中央部の熱伝達率が周縁部の熱伝達率よりも高かった。一方、実施例2では、基板の中央部の熱伝達率が周縁部の熱伝達率よりも低くなった。これにより、実施例2のように冷媒噴出ノズルを基板の中央部の外側に配置することで、中央部の過冷却を抑制できて基板面内の温度分布を補正し、基板全体の均一冷却に効果があることが確認された。よって、実施例2では、より基板が熱座屈変形しにくくなるため、基板の熱座屈変形や破損の発生はなくなり基板変形による基板支持部である下部支持ローラ4bから基板下部が外れて基板搬送装置4からの脱落することがなく、基板を安定に搬送することが可能となる。
【0071】
[第3実施形態]
本実施形態に係る製膜装置は、アンロード室の後段に、アンロード室に隣接して設けられたクリーンブースを備え、且つ、第2基板冷却装置の構成が異なる以外は、第1実施形態と同様の構成とされる。
【0072】
図9に、本実施形態に係る製膜装置25の構成を概略的に示す。同図において、第1実施形態と同様の構成については、記載を省略した。
クリーンブース26は、アンロード室3の後段側に接続されている。クリーンブース26は、フィルター27、排気口(不図示)、および第2基板冷却装置を備えている。フィルター27は、クリーンブース26の上部の天井部分に設けられている。フィルター27としては、例えばHEPAフィルターが用いられ、塵埃を除外した清浄な空気をクリーンブース26内へ供給する。排気口は、第2基板冷却装置が噴出する冷媒(空気)およびフィルター27から取り入れた空気を系外へ排出可能にするもので、クリーンブース26の下方に設けられ、クリーンブース26内部を清浄に保ち、基板7への塵埃の付着を抑制している。
【0073】
第2基板冷却装置は、基板の裏面側(製膜面反対側)への冷媒噴出部(上流側冷媒噴出部28及び下流側冷媒噴出部29)を含み、クリーンブース26内に設けられている。各冷媒噴出部(28,29)にはそれぞれ冷媒供給手段(不図示)が接続されている。
上流側冷媒噴出部28は、基部30に複数の噴出ノズル31が設けられた構成とされる。噴出ノズル31は、第1基板冷却装置で冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離内側または所定距離外側の連続しない複数の領域に冷媒(塵埃を除外した空気)を噴き付け可能に、基板7の裏面側に向けて配置される。
【0074】
下流側冷媒噴出部29は、上流側冷媒噴出部28よりも下流側に配置されている。下流側冷媒噴出部29は、基部32に複数の噴出ノズル33が設けられた構成とされる。噴出ノズル33は、上流側冷媒噴出部28で冷媒を噴き付けた領域とは異なる領域に冷媒(塵埃を除外した空気)を噴き付け可能に基板7の裏面側に向けて配置される。なお、下流側冷媒噴出部29の下流側に更に別の下流側冷媒噴出部が複数設けられても良い。
【0075】
例えば、上流側冷媒噴出部28の噴出ノズル31が第1基板冷却装置で冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離内側に設けられた場合、下流側冷媒噴出部29の噴出ノズル33は上流側冷媒噴出部28の噴出ノズル31よりも周縁部側に配置する。
例えば、上流側冷媒噴出部28の噴出ノズル31が第1基板冷却装置で冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離外側に設けられた場合、下流側冷媒噴出部29の噴出ノズル33は上流側冷媒噴出部28の噴出ノズル31よりも中央寄りに配置する。
【0076】
本実施形態に係る製膜装置を用いた基板冷却方法を説明する。
本実施形態において、アンロード室3にて第1基板冷却工程を経た基板7を、アンロード室3から搬出しクリーンブース26内へと搬入する。上流側冷媒噴出部28の位置まで基板7を搬送した後、一時停止して基板7の裏面側に冷媒(塵埃を除外した空気)を噴き付ける。次に、下流側冷媒噴出部29の位置まで基板7を搬送した後、一時停止して基板7の裏面側に冷媒(塵埃を除外した空気)を噴き付け、基板面内の温度分布を補正する。
【0077】
後段の処理工程までの搬送経路内に第2基板冷却装置を設けたことで、製膜処理のタクトタイムが短い装置に適用した場合でも、合計した基板冷却時間を取ることができ、基板7を時間的に余裕を持って冷却することが可能となる。
【0078】
(実施例3)
第3実施形態に従って、大型のガラス基板(1.4m×1.1m)に製膜処理を施し、その後基板を冷却した。第1基板冷却工程を、実施例1と同様に実施した。次に、基板をアンロード室から大気下へ搬出してクリーンブース内へと移し、上流側冷媒噴出部28及び下流側冷媒噴出部29によって基板7の裏面側から冷媒(塵埃を除外した空気)を各80秒間噴き付けた。
【0079】
実施例3によれば、第2基板冷却工程では、約160℃の基板を80℃以下まで冷却することができた。このとき基板の中央部と周縁部との温度差は30℃以内であり、アンロード室3から搬出した基板7において、熱座屈変形や破損の発生はなかった。
これにより、短いタクトタイムの規定範囲の中で、第1基板冷却工程で40秒、第2基板冷却工程では、上流側冷媒噴出部28及び下流側冷媒噴出部29で各80秒の基板冷却と十分に余裕を持った冷却を行ない、合計して各別場所での3段階冷却を実施することで、基板7を200℃程度から80℃以下まで熱座屈変形や熱応力破損を発生させることなく、基板を冷却することができた
【0080】
[第4実施形態]
本実施形態に係る製膜装置は、第2基板冷却装置の構成が異なる以外は第3実施形態と同様の構成とされる。本実施形態に係る製膜装置は、例えば、最表面にGaドープZnO(GZO)や酸化チタン膜などの酸化や変質しない材質からなる薄膜が形成された基板を冷却対象とする。
【0081】
図10に、本実施形態に係る第2基板冷却装置の構成を概略的に示す。
第2基板冷却装置は、裏面側冷媒噴出部(製膜面反対側冷媒噴出部)34及び製膜面側冷媒噴出部35を含み、クリーンブース内に設けられている。各冷媒噴出部にはそれぞれ冷媒供給手段(不図示)が接続されている。
裏面側冷媒噴出部34は、基部36に複数の噴出ノズル37が設けられた構成とされる。噴出ノズルは、第1基板冷却装置で冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離内側または所定距離外側の連続しない複数の領域に冷媒を噴き付け可能に、基板7の裏面側に向けて配置される。
なお、裏面側冷媒噴出部34は、ノズル型に限定されず、図11に示すようなマニホールド型であって良い。
【0082】
製膜面側冷媒噴出部35は、基板7を挟んで裏面側冷媒噴出部34と対向する位置に配置されている。製膜面側冷媒噴出部35は、基部38に噴出ノズル39が設けられた構成とされる。噴出ノズル39は、裏面側冷媒噴出部34で冷媒を噴き付けた領域とは異なる領域に冷媒を噴き付け可能に、基板7の製膜面側に向けて配置される。
【0083】
本実施形態に係る製膜装置を用いた基板冷却方法を説明する。
本実施形態において、アンロード室3にて第1基板冷却工程を経た基板7を、アンロード室3から搬出しクリーンブース内へと搬入する。裏面側冷媒噴出部34と製膜面側冷媒噴出部35との間に基板の中央部が挟まれる位置まで基板7を搬送した後、一時停止して基板7の両面に冷媒を噴き付ける。このとき、製膜面側冷媒噴出部35は、裏面側冷媒噴出部34とは基板面内の異なる位置に冷媒を噴き付けるため、基板の面内温度分布を補正する役割を果たす。
【0084】
後段の処理工程までの搬送経路に第2基板冷却装置を設けたことで、製膜処理のタクトタイムが短い装置に適用した場合でも、基板冷却時間を取ることができ、基板を時間的に余裕を持って冷却することが可能となる。
【0085】
(実施例4)
第4実施形態に従って、大型のガラス基板(1.4m×1.1m)に製膜処理を施し、その後基板を冷却した。第1基板冷却工程を、実施例1と同様に実施した。次に、基板をアンロード室から大気下へ搬出してクリーンブース内へと移し、第2基板冷却装置によって両面から基板に冷媒(塵埃を除外した空気)を80秒間噴き付けた。
【0086】
実施例3によれば、第2基板冷却工程では、約160℃の基板を80℃以下まで冷却することができた。このとき基板の中央部と周縁部との温度差は30℃以内であり、アンロード室から搬出した基板において、熱座屈変形や破損の発生はなかった。
【符号の説明】
【0087】
1,22,25 製膜装置
2 真空処理室
3 アンロード室
4 基板搬送装置
5,15,23 第1基板冷却装置
6 第2基板冷却装置
7 基板
8 搬入口
9 搬出口
10 搬送経路
11A,11B ベントガス噴出部
12A,12B ベント管
13A,13B 噴出口
14A,14B ベントガス管路
15A,15B ベント管ヘッダー
16A,16B 冷媒供給源
17A,17B 支持部材
18 ガス誘導プレート
19 冷媒噴出部
20,30,32,36,38 基部
21 噴出ノズル(第1実施形態)
24 噴出ノズル(第2実施形態)
26 クリーンブース
27 フィルター
28 上流側冷媒噴出部
29 下流側冷媒噴出部
31 噴出ノズル(第3実施形態、上流側)
33 噴出ノズル(第3実施形態、下流側)
34 裏面側冷媒噴出部
35 製膜面側冷媒噴出部
37 噴出ノズル(第4実施形態、裏面側)
39 噴出ノズル(第4実施形態、製膜面側)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧環境下において高温条件で表面に製膜処理が施された基板を、減圧環境下でアンロード室に受け入れて、前記基板の少なくとも一方の面側から、前記基板の中央部に冷媒を噴き付けて前記基板の冷却を行う第1基板冷却工程と、
該第1基板冷却工程を経た前記基板を前記アンロード室から搬出した後に、前記基板の前記一方の面の反対側から、前記第1基板冷却工程で前記冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離内側に冷媒を噴き付けて、あるいは、前記第1基板冷却工程で前記冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離外側に冷媒を噴き付けて、
前記基板の冷却を行いながら基板の面内温度分布を補正する第2基板冷却工程と、
を備える基板冷却方法。
【請求項2】
前記第2基板冷却工程が、連続しない複数の領域に、それぞれ前記基板の製膜面反対側から前記冷媒を噴き付けて前記基板の冷却を行う冷却ステップを備える請求項1に記載の基板冷却方法。
【請求項3】
前記第2基板冷却工程が、前記冷却ステップの後に、前記冷却ステップで冷媒を噴き付けた領域とは異なる領域に冷媒を噴き付けて前記基板の面内温度分布を補正する補正ステップを備える請求項2に記載の基板冷却方法。
【請求項4】
前記第2基板冷却工程が、前記冷却ステップと同時に、前記基板の製膜面側に向けて、前記冷却ステップで冷媒を噴き付ける領域とは異なる領域に冷媒を噴き付けて前記基板の面内温度分布を補正する補正ステップを備える請求項2に記載の基板冷却方法。
【請求項5】
減圧環境下において高温条件で表面に製膜処理が施された基板を、減圧環境下でアンロード室に受け入れて、前記基板の少なくとも一方の面側から、前記基板の中央部に冷媒を噴き付けて基板を冷却する第1基板冷却装置と、
該第1基板冷却装置で冷却された前記基板を前記アンロード室から搬出した後に、前記基板の前記一方の面の反対側から、前記第1基板冷却装置で前記冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離内側に冷媒を噴き付ける、あるいは、前記第1基板冷却装置で前記冷媒を噴き付けた領域の縁から所定距離外側に冷媒を噴き付けて、
基板を冷却しながら基板の面内温度分布を補正する第2基板冷却装置と、
を備える基板冷却装置。
【請求項6】
前記第2基板冷却装置が、連続しない複数の領域に、それぞれ前記冷媒を噴き付ける、製膜面反対側冷媒噴出部を備える請求項5に記載の基板冷却装置。
【請求項7】
前記第2基板冷却装置が、前記製膜面反対側冷媒噴出部によって基板に冷媒が噴き付けられた後、該基板の製膜面反対側から、前記製膜面反対側冷媒噴出部で冷媒を噴き付けた領域とは異なる領域に冷媒を噴き付けて前記基板の面内温度分布を補正する補正冷媒噴出部を備える請求項6に記載の基板冷却装置。
【請求項8】
前記第2基板冷却装置が、
前記基板を挟んで前記製膜面反対側冷媒噴出部と対向する位置に配置され、前記基板の製膜面側に向けて、前記製膜面反対側冷媒噴出部で冷媒を噴き付ける領域とは異なる領域に冷媒を噴き付けて前記基板の面内温度分布を補正する補正冷媒噴出部を備える請求項6に記載の基板冷却装置。
【請求項9】
減圧環境下、且つ、高温条件下で基板表面に製膜処理する真空処理室と、
前記真空処理室で製膜処理された基板を減圧環境下で受け入れて、前記基板を冷却しつつ大気圧状態に戻すアンロード室と、
前記アンロード室及びその後段に、請求項5乃至請求項8のいずれかに記載の基板冷却装置を備える製膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−180551(P2012−180551A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43299(P2011−43299)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】