説明

変速制御装置

【課題】回生トルクがかかっている際の掛け替え変速において発生しうる戻し変速における変速ショックを回避する技術の実現。
【解決手段】第1の変速段から第2の変速段への変速指令があった後、第1の変速段へ戻す戻し変速指令があった場合に、変速プロセスの進行による入力部材の回転速度の変化が所定の回転変化しきい値未満の範囲では、駆動力源の負方向の出力トルクの絶対値が所定の判定しきい値以上である負トルク状態であることを条件として、第1の変速段への戻し変速プロセスが禁止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも回転電機を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素と、を有し、前記複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより複数の変速段が切り替えられ、前記入力部材の回転速度を各変速段の変速比で変速して前記出力部材に伝達する変速機構を制御するための変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、エンジンと駆動輪との間に変速機構を介装した変速装置が既に知られている。一般に、このような変速装置では、その変速機構において、隣り合う二つの変速段の間で変速段を切り替える際には、摩擦係合要素の係合及び解放が制御され、いわゆる掛け替え変速が行われる。この掛け替え変速では、通常、解放される側の摩擦係合要素は変速動作の初期段階で比較的速やかに完全解放されると共に、係合される側の摩擦係合要素は半係合状態でスリップしながら徐々に係合させられる。このことは、車両のアクセル開度が所定値以下の状態で変速比の小さい変速段への切り替え(アップシフト)が行われる場合にも、当然に当てはまる。
【0003】
これに対して、この特許文献1の変速装置は、制御装置により、車両のアクセル開度が所定値以下で行われるアップシフト時に、変速段の切り替えの際に解放される側の摩擦係合要素となる解放側要素に対する作動油の油圧を、当該解放側要素が係合開始直前とされる解放保障圧と僅かに係合する係合保障圧との間で切り替える解放側摩擦係合要素制御を実行するように構成されている。このような解放側摩擦係合要素制御を実行することにより、車両のアクセル開度が所定値以下の状態でアップシフトが行われるいわゆるオフアップ変速時に、ダウンシフト(変速比の大きい変速段への切り替え)の判断がなされると直ちにダウンシフト動作に移行することが可能となっている。なお、特許文献1の解放側摩擦係合要素制御では、解放側要素に対する作動油の油圧は、当該解放側要素のストロークエンド圧を挟んで所定の圧力幅(ΔP2)で上昇及び低下されることにより、解放保障圧と係合保障圧との間で切り替えられる。このような解放側摩擦係合要素制御では、変速段の切り替えの際には、解放側要素は半係合状態でスリップする状態と完全解放状態とを交互に繰り返すことになる。
【0004】
一方、駆動力源としてエンジンと回転電機とを併用するハイブリッド車両に用いる変速装置の一例として、例えば下記の特許文献2に記載された装置が知られている。このようなハイブリッド車両用の変速装置において、オフアップ変速が行われる場合がある。この場合も、一般的には掛け替え変速が行われ、解放側要素は変速動作の初期段階で比較的速やかに完全に解放されると共に、係合される側の摩擦係合要素は半係合状態でスリップしながら徐々に係合させられる。なお、回転電機は、車両の減速要求に基づいて回生トルク(負トルク)を発生可能に構成されている。
【0005】
ここで、駆動力源としてエンジンのみを備えた通常の車両の場合や、ハイブリッド車両であっても回転電機が回生トルクを出力しない場合等には、オフアップ変速時には入力部材に作用する負トルクが小さく、一般的な掛け替え変速を伴う変速制御を行ったとしても入力部材の回転速度はエンジン内の各部の摩擦力等により減速するだけであり、その変化は緩やかである。そのため、係合される側となる係合側要素を係合させた際に変速ショッ
クが生じることが問題になることはほとんどない。しかし、特許文献2のハイブリッド車両用の変速装置において、アクセル開度が所定値以下の状態でアップシフトが行われる場合に車両の運転者の意思によりブレーキ操作が行われる場合には、回転電機による回生制動が行われる場合がある。そのような場合には、上記のような通常通りの掛け換え変速が行われると、回転電機が出力する比較的大きな負トルク(回生トルク)により入力部材の回転速度は大きく引き下げられて急激に変化し、変速ショックが生じる可能性が高い。そのため、特許文献2に記載された装置では、回転電機が回生を行う際には、回転電機が出力する負トルクの大きさを一定の大きさ以下に制限するように構成されている。これにより、回転電機に駆動連結される入力部材の回転速度が急激に低下して、車両に変速ショックが生じるのを抑制している。
【0006】
ところが、駆動力源としてエンジンと回転電機とを備えたハイブリッド車両のための変速制御装置において、回転電機に回生トルクが発生している際の変速ショックとしては上述した事象だけではなく、変速動力の伝達状況によっては戻し変速時に変速ショックが生じることが判明した。この戻し変速とは、例えば、第1の変速段から第2の変速段への掛け替え変速プロセスにおいて、そのプロセス中に再び第1の変速段へ戻すことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−130453号公報
【特許文献2】特開2008−094332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、例えばオフアップ変速時等、負トルクが入力されている際の掛け替え変速において発生しうる変速ショック、特に戻し変速による変速ショックを回避する技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
少なくとも回転電機を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素と、を有し、前記複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより複数の変速段が切り替えられ、前記入力部材の回転速度を各変速段の変速比で変速して前記出力部材に伝達する変速機構を制御するための、本発明に係る変速制御装置は、上記目的を達成するために、
前記駆動力源の負方向の出力トルクの絶対値が所定の判定しきい値以上である負トルク状態であることを判定する負トルク状態判定部と、
前記変速機構の変速段を変更する指令である変速指令があった場合に、当該変速指令に従って変速段を変更する変速プロセスを実行する変速プロセス実行部と、
第1の変速段から第2の変速段への変速指令があった後、前記変速プロセスの実行中に前記第1の変速段へ戻す戻し変速指令があった場合に、前記変速プロセスの進行による前記入力部材の回転速度の変化が所定の回転変化しきい値未満の範囲では、前記負トルク状態判定部により前記負トルク状態であると判定されたことを条件として、前記第1の変速段への戻し変速プロセスを禁止する戻し変速禁止部とを備えている。
【0010】
この特徴構成によれば、駆動力源の負トルク(回生トルク)時における第1の変速段から第2の変速段への変速指令に基づく変速プロセスの間に発生した、第1の変速段への戻し変速指令に対する許可または禁止の判定に用いる判定条件として、まず以下のものが採用されている;
(1)前記変速プロセスの進行による前記入力部材の回転速度の変化が所定の回転変化しきい値未満の範囲である。
(2)前記駆動力源の負方向の出力トルクの絶対値が所定の判定しきい値以上である負トルク状態である。
例えば、上記判定条件(1)が成立している場合において、判定条件(2)が成立していると、判定対象となっている戻し変速指令は許可されないという戻し変速禁止ルールが設定されていれば、そのような条件下での戻し変速は禁止され、戻し変速指令が出たとしてもそのまま第1の変速段から第2の変速段への変速プロセスが続行される。
これにより、駆動力源が負トルクとなっている場合における変速プロセスにおける戻し変速で生じていた変速ショックは、そのような変速ショックを引き起こすような条件下では戻し変速を禁止することで回避される。
【0011】
なお、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
また、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合要素、例えば摩擦クラッチや噛み合い式クラッチ等が含まれていてもよい。
【0012】
ここで、戻し変速時の変速ショックのさらなる考察から、戻し変速に先立つ変速プロセスにおける摩擦係合要素である係合側要素になんらかのトルク伝達が生じてしまうと、戻し変速時に変速ショックが生じることが判明した。このことから、前記変速プロセスの実行によって係合される側の前記摩擦係合要素である係合側要素のトルク伝達状態を推定する係合側伝達トルク推定部を更に備え、前記戻し変速禁止部は、前記係合側伝達トルク推定部によって前記係合側要素におけるトルク伝達の発生が推定されたことを更なる条件として、前記第1の変速段への戻し変速プロセスを禁止することも好適である。
【0013】
なお、上述した変速プロセスにおける戻し変速での変速ショックは、駆動力源が負トルク状態である場合に限定して生じるわけではなく、駆動力源が正トルク状態である場合にも生じうる。このことから、前記変速プロセスの実行によって解放される側の前記摩擦係合要素である解放側要素の係合圧を推定する解放側係合圧推定部を更に備え、前記戻し変速禁止部は、前記解放側係合圧推定部によって推定される前記解放側要素の係合圧が所定の推定しきい値以下である状態では、前記負トルク状態判定部による判定結果に関わらず、前記第1の変速段への戻し変速プロセスを禁止する構成も、好適な形態の1つとして、提案される。つまり、前記解放側要素の係合圧が所定の推定しきい値以下であるという状態が、駆動力源のトルク状態(正または負)にかかわらず利用できる戻し制御禁止判定条件として採用される。これにより、本発明による変速制御装置による、戻し制御における変速ショックの回避がより広範囲の運転状態において適用可能となる。
【0014】
また、前記負トルク状態判定部が、前記変速プロセスの実行によって解放される側の前記摩擦係合要素である解放側要素の各時点での伝達トルク容量に応じて、当該解放側要素がスリップしない限界のトルク以下に前記判定しきい値を設定することも好適である。解放側要素がスリップし始めてから戻し変速により完全係合状態に戻すと変速ショックが発生しやすい。この構成によれば、各時点での解放側要素のトルク容量に応じて負トルク判定し、戻し変速を禁止するので、できるだけ戻し変速を許容しつつ、解放側要素のスリップを抑制して変速ショックの発生を抑えることができる。
なお、本願では、「スリップ状態」は完全係合状態と完全解放状態との間の半係合状態を意味し、より具体的には、対象となる摩擦係合要素の両側の係合部材が所定の差回転速度を有しつつ入力側回転部材と出力側回転部材との間の駆動力の伝達が行われる状態を意
味する。
【0015】
さらに、前記戻し変速禁止部は、前記第1の変速段から第2の変速段への変速指令があった後、前記第1の変速段へ戻す戻し変速指令があった場合に、(3)前記変速プロセスの進行による前記入力部材の回転速度の変化が前記回転変化しきい値以上の範囲では、前記負トルク状態判定部による判定結果に関わらず、前記第1の変速段への戻し変速プロセスを禁止する、という判定条件を採用することも好適である。
この判定条件(3)は、入力部材の回転速度の変化が設定されている回転変化しきい値以上の範囲なら戻し変速プロセスにおいて変速ショックが生じるという知見に基づくものである。この判定条件は明確であり、この判定条件を、戻し変速の禁止判定ルーチンに組込むことにより、その変速プロセスがより安定したものとなる。
【0016】
前記係合側伝達トルク推定部による係合側伝達トルクの推定を簡単に行うために、前記変速プロセスの開始からの経過時間に基づいて前記係合側要素におけるトルク伝達の発生を推定する構成を採用することは好適である。
また、前記推定しきい値を、前記解放側要素の伝達トルク容量がゼロとなる係合圧に設定することも、このような係合圧はストロークエンド圧とも呼ばれ、種々の油圧制御に利用されるので、好都合である。
【0017】
前述した入力部材の回転速度の変化を検出するための好適な形態として、前記出力部材の回転速度と前記第1の変速段の変速比とに基づいて導出される前記第1の変速段での前記入力部材の回転速度と、実際の前記入力部材の回転速度との差から導出することが提示される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る変速制御装置の構成を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係るAT制御ユニットの構成を示す機能ブロック図である。
【図3】本実施形態に係る負トルク時アップシフトプロセスにおける戻し変速禁止を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】本実施形態に係る負トルク時ダウンシフトプロセスにおける戻し変速禁止を説明するためのタイミングチャートである。
【図5】本実施形態に係る正トルク時アップシフトプロセスにおける戻し変速許可を説明するためのタイミングチャートである。
【図6】本実施形態に係る正トルク時アップシフトプロセスにおける戻し変速禁止を説明するためのタイミングチャートである。
【図7】本実施形態に係る負トルク時変速プロセスにおける戻し変速禁止を判定する処理手順を示すフローチャートである。
【図8】本実施形態に係る戻し変速禁止判定ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態においては、本発明に係る変速制御装置をハイブリッド車両用の変速機構の制御装置に適用した場合を例として説明する。図1は、本実施形態に係る変速制御装置を含む車両用駆動装置の駆動伝達系、変速制御系、油圧制御系の構成を示す模式図である。この図に示すように、本実施形態に係る車両用駆動装置は、概略的には、エンジン11及び回転電機13を駆動力源として備え、これらの駆動力源の駆動力をトルクコンバータ14及び変速機構20を介して車輪16へ伝達する構成となっている。また、この車両用駆動装置は、トルクコンバータ14や変速機構20等の各部に所定油圧の作動油を供給するための油圧回路30を備えている。油圧回路30に対する制御信号の生成を含む変速機構20の制御はオートマチックトランスミッション(以下ATと略称する)制御ユニット6によって行われる。本発明における変速制御装置はこのAT制御ユニット6及び油圧回路30を含む変速機構20を制御対象としている。
【0020】
〔車両用駆動装置の駆動伝達系の構成〕
まず、本実施形態に係る車両用駆動装置の駆動伝達系の構成について説明する。図1に示すように、車両用駆動装置は、車両駆動用の駆動力源としてエンジン11及び回転電機13を備え、エンジン11と回転電機13とが直列に駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置となっている。その際、エンジン11が回転電機13より動力伝達上流側に配置され、エンジン11と回転電機13との間に動力遮断用の遮断クラッチ12が介装されている。変速機構20は、エンジン11及び回転電機13から出力された動力を、そのままあるいは必要に応じて変速して入力して差動ギヤ機構15に出力する。変速機構20における動力伝達を担う動力伝達軸群は、回転電機13とトルクコンバータ14並びに実質的な変速要素群(変速用摩擦係合要素としてのクラッチ及びブレーキ、一方向クラッチやギヤ群)との間の動力伝達を行う入力部材21(以後単に動力の伝達挙動を表す場合には入力側と称することがある)と、当該変速要素群と差動ギヤ機構15の間の動力伝達を行う出力部材22(以後単に動力の伝達挙動を表す場合には出力側と称することがある)とに区分けすることができる。つまり、入力部材21は駆動力源に駆動連結されており、出力部材22は差動ギヤ機構15を介して車輪16に駆動連結されている。そして変速機構20により、入力部材21と出力部材22の間の回転数とトルクの変更を伴う変速動力伝達が行われる。
【0021】
エンジン11は、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエン
ジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、エンジン11のクランクシャフト等の出力回転軸が、遮断クラッチ12を介して下流側に伝達される。
【0022】
回転電機13は、それ自体公知であり、図示しないケースに固定されたステータと、このステータの径方向内側に回転自在に支持されたロータとを有している。この回転電機13のロータは、遮断クラッチ12とトルクコンバータ14とを接続する軸に一体回転するように連結されている。回転電機13は、蓄電装置としてのバッテリ52とインバータユニット51を介して接続されている。この回転電機13は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能である。すなわち、回転電機13は、バッテリ52からの電力供給を受けて力行し、或いはエンジン11や車輪16から伝達される回転駆動力により発電した電力をバッテリ52に蓄電する機能を有する。なお、バッテリ52は蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。
【0023】
この車両用駆動装置では、エンジン11及び回転電機13の双方の回転駆動力を車輪16に伝達して車両を走行させる。その際、回転電機13は、バッテリ52の充電状態により、バッテリ52から供給される電力により駆動力を発生する状態と、エンジン11の回転駆動力により発電する状態と、のいずれともなり得る。また、車両の減速時(減速要求があった時)には、回転電機13は、回生トルクを発生させて車輪16から伝達される回転駆動力により発電する状態となる。回転電機13で発電された電力はバッテリ52に蓄電される。車両の停止状態では、遮断クラッチ12は解放状態とされ、エンジン11及び回転電機13は停止状態とされる。
【0024】
変速機構20の入力部材21の直後には、トルクコンバータ14が配置されている。トルクコンバータ14は、駆動力源としてのエンジン11及び回転電機13からの回転駆動力を、必要に応じてトルク変動させながら変速機構20の変速要素群に伝達する。このトルクコンバータ14は、よく知られているように、図示は省略されているが、入力側回転部材としてのポンプインペラと、出力側回転部材としてのタービンランナと、これらの間に設けられたステータとを備えている。トルクコンバータ14は、内部に充填された作動油を介して、ポンプインペラとタービンランナとの間で駆動力の伝達を行う。
【0025】
なお、トルクコンバータ14は、ポンプインペラとタービンランナとの間の回転差(スリップ)を無くして伝達効率を高めるために、ポンプインペラとタービンランナとを一体回転させるように連結するロックアップクラッチを装備しているが、その図示は省略されている。トルクコンバータ14は、ロックアップクラッチの係合状態では、作動油を介さずに、駆動力源であるエンジン11または回転電機13あるいはその両方の駆動力を直接変速機構20の変速要素群に伝達する。本実施形態においては、基本的にはトルクコンバータ14のロックアップクラッチが係合状態であるはとみなされてよい。ただし、通常走行時での変速段のダウンシフトを行う場合等には、変速動作による衝撃(変速ショック)が車両に生じるのを抑制するため、ロックアップクラッチが解放される。ロックアップクラッチを含むトルクコンバータ14に対する油圧制御は、油圧回路30を通じて行われる。
【0026】
変速機構20は、複数の変速段を有する有段のオートマチックトランスミッションとして構成されており、本実施形態においては、変速機構20は変速比(減速比)の異なる4つの変速段(第1速段、第2速段、第3速段、及び第4速段)を備えている。これらの変速段を構成するため、変速機構20は、遊星歯車機構等の歯車機構と、複数の摩擦係合要素とを備えて構成されている。図1には、複数の摩擦係合要素の一例として、クラッチC1及びブレーキB1が模式的に示されている。これら複数の摩擦係合要素の係合及び解放が油圧回路30を通じて制御される油圧により、4つの変速段が切り替えられる。
【0027】
変速段の切り替えを行う際には、変速前において係合している摩擦係合要素のうちの一つを解放させると共に、変速前において解放されている摩擦係合要素のうちの一つを係合させる。これにより、歯車機構が有する複数の回転要素の回転状態が切り替えられて、変速前の変速段(第1の変速段)から変速後の変速段(第2の変速段)に移行する。変速機構20は、各変速段について設定された所定の変速比で、入力側の動力の回転速度を変速すると共にそのトルクを変換して出力側動力として差動ギヤ装置15へ伝達する。
【0028】
〔油圧制御系〕
次に、上述した車両用駆動装置の油圧制御系について説明する。油圧制御系は、油圧回路とAT制御ユニット6の油圧制御機能部を中核構成要素とする。AT制御ユニット6で生成された制御信号は油圧機器ドライバ33によって油圧機器駆動信号に変換され、油圧回路30を構成する電動オイルポンプ(以下EOPと略称する)31やバルブユニット32に送られる。なお、この油圧回路30には、図示されていないが、エンジン11または回転電機13あるいはその両方の駆動力で動作する機械式ポンプも組み込まれている。但し、機械式ポンプはその動力構成上車両の停止中などでエンジン11と回転電機13が停止している間は駆動しない。EOP31はそのような状況下で機械式ポンプを補助する役割を持つ。
【0029】
また、油圧回路30は、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、遮断クラッチ12、ロックアップクラッチ、トルクコンバータ、及び変速機構20の複数の摩擦係合要素C1、B1、・・・に供給される。
【0030】
ここで、油圧回路30から変速機構20の複数の摩擦係合要素C1、B1、・・・へ供給される圧油は、バルブユニット32を含む油圧回路30を通じてそれぞれ個別に供給される。バルブユニット32は、AT制御ユニット6から油圧機器ドライバ33を介して送られてくる駆動信号に応答して弁開度を調整することにより、AT制御ユニット6で算定された油圧値(指令圧)を各摩擦係合要素C1、B1、・・・で実現させる。
なお、本願では、「摩擦係合要素の伝達トルク容量がゼロとなる係合圧」なる用語が用いられているが、このような係合圧はストロークエンド圧とも呼ばれ、摩擦係合要素がトルクを伝達するかどうかの境界となる油圧を意味している。つまり、油圧がこのストロークエンド圧未満では、摩擦係合要素を構成する複数の摩擦材が油圧の上昇に応じて互いに離間したまま近接し、油圧がストロークエンド圧に到達するとトルクを伝達しない状態で複数の摩擦材が互いに接触する。油圧がストロークエンド圧より大きい場合には、油圧の大きさに応じたトルクを伝達する。
【0031】
〔制御ユニットの構成〕
図1には、上述したAT制御ユニット6以外に、車両駆動系に関する制御ユニットとして、エンジン11を制御するエンジン制御ユニット4、回転電機13を制御する回転制御ユニット5、ブレーキペダルの操作変位を検出するブレーキペダルセンサ95からの信号に基づいてブレーキ制御を行うブレーキ制御ユニット7が示されている。これらの制御ユニットは車載LAN100で接続されており、相互データ交換可能となっている。各制御ユニットは、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている(不図示)。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、あるいはそれらの両方により、種々の機能をつくりだしている。
【0032】
エンジン制御ユニット4は、エンジン動作点を決定し、当該エンジン動作点でエンジン11を動作させるように制御する処理を行う。ここで、エンジン動作点は、エンジン11の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、エンジン動作点は、車両要求出力(車両要求トルク及びエンジン回転速度に基づいて定まる)と最適燃費とを考慮して決定されるエンジン11の制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。
【0033】
回転電機制御ユニット5は、回転電機13の動作制御をインバータ51を介して行なう機能部である。回転電機制御ユニット5は、回転電機動作点を決定し、当該回転電機動作点で回転電機13を動作させるように制御する処理を行う。ここで、回転電機動作点は、回転電機13の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、回転電機動作点は、車両要求出力とエンジン動作点とを考慮して決定される回転電機13の制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。回転電機制御ユニット5は、バッテリ52から供給される電力により回転電機13に駆動力を発生させる状態と、エンジン11の回転駆動力等により回転電機13に発電させる状態とを切り替える制御も行なう。
【0034】
ここで、トルク指令値が正の場合には回転電機13は回転方向と同方向の駆動トルクを出力して駆動力を発生させ、トルク指令値が負の場合には回転電機13は回転方向とは反対方向の回生トルクを出力して発電する。いずれの場合においても、回転電機13の出力トルク(駆動トルク及び回生トルクを含む)は、回転電機制御ユニット5からのトルク指令値により定まることになる。本実施形態においては、回転電機制御ユニット5により決定された回転電機13のトルク指令値の情報は、AT制御ユニット6にも伝送される。ブレーキ制御ユニット7は、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキペダルセンサ95の検出信号を入力し、この検出信号を評価して油圧ブレーキシステムを制御する。また、ブレーキ制御ユニット7は、ブレーキペダルセンサ95の検出信号に基づいてブレーキ操作データを回転電機制御ユニット5に送り、回転電機13の回生トルクと協調したブレーキ制御を実現する。
【0035】
本願発明の中核構成要素であるAT制御ユニット6には、変速機構20の入力側の回転速度を検知する入力側回転速度センサ93、トルクコンバータ14とトルクコンバータ14より後段の変速要素群との間の回転速度を検知する中間回転速度センサ94、変速機構20の出力側回転速度に対応する車速センサ(出力側回転速度センサ)92、アクセルペダルの操作量検出することによりアクセル開度を検出するアクセル開度検出センサ91などが接続されている。
【0036】
図2に示すように、AT制御ユニット6は、説明を簡単にするために、摩擦係合要素制御モジュール6A、管理モジュール6B、評価モジュール6C、データ入出力部6Dに区分けして図示されているが、その区分けは本願発明を限定するものではなく、プログラム仕様等に応じて自由に変更可能である。摩擦係合要素制御モジュール6Aは、変速機構20を構成しているブレーキやクラッチなどの摩擦係合要素の油圧を制御するための指令圧を生成する。指令圧の生成アルゴリズムはよく知られているので、ここでの説明は省略するが、例えば、摩擦係合要素毎にマップ化された指令圧テーブルに基づいて指令圧を生成して、データ入出力部6Dを介して油圧機器ドライバ33に送り出す。データデータ入出力部6Dは、このAT制御ユニット6の入出力インターフェースであり、上述した各種センサ等からの信号の入力、油圧機器ドライバ33等への制御信号の出力、さらには車載LANを通じての各種データの入出力を行う。
【0037】
摩擦係合要素制御モジュール6Aは、変速プロセスに関連する各摩擦係合要素の油圧制御のための制御信号を生成するが、ここでは、説明を簡単にするため、ある変速段への変速プロセスにおける係合される側の摩擦係合要素(係合側要素)の制御のための第1制御部60と解放される側の摩擦係合要素(解放側要素)の制御のための第2制御部61に便宜上区分けしておく。
【0038】
管理モジュール6Bは、この車両における各種の変速制御プロセスの設定や実行を管理する機能を構築しており、特に本発明に関係する機能部として、変速指令生成部61、変速プロセス実行部62、戻し制御禁止部63が挙げられる。変速指令生成部61は、車両のアクセル開度及び車速に基づいて変速機構20における目標変速段を決定し、決定された目標変速段に応じてバルブユニット32の動作を制御することにより、変速機構20の変速段を切り替える変速指令を生成する。このような目標変速段を生成するため、模式的に図示されている変速マップ60を参照する。車速とアクセル開度の関係線として示される変速マップ60には複数のアップシフト線と複数のダウンシフト線とが設定されている。ここでは、図面スペースの関係上、第1速段と第2速段との間のダウンシフト線とアップシフト線及び第2速段と第3速段との間のダウンシフト線とアップシフト線しか示されていないが、この実施形態の変速機構20は1速から4速の4つの変速段を有している。
【0039】
変速機構20における目標変速段が決定されると、当該決定された目標変速段に応じた変速指令が生成され、最終的に対応する摩擦係合要素が油圧供給を受けて係合状態となり、当該目標変速段が形成される。車速及びアクセル開度が変化して、変速マップ60上でアップシフト線又はダウンシフト線を跨ぐと、変速指令生成部61は、車両のアクセル開度及び車速に基づいて新たな目標変速段を決定し、当該決定された目標変速段に応じた変速指令が生成される。変速プロセス実行部62は、変速指令生成部61によって生成された変速指令に基づいて、変速前において係合していた摩擦係合要素のうちの一つを解放させると共に、変速前において解放されている摩擦係合要素のうちの一つを係合させる変速プロセスの実行を管理する。例えば、変速機構20おける変速段が第3速段から第4速段へとアップシフトされる際には、第一クラッチC1が解放されると共に第一ブレーキB1が係合され、変速段が第4速段から第3速段へとダウンシフトされる際には、第一ブレーキB1が解放されると共に第一クラッチC1が係合されるなお、ここでは、上述したように、摩擦係合要素への制御信号は摩擦係合要素制御モジュール6Aにおいて生成される。
【0040】
さらに、管理モジュール6Bには、本発明に最も関係する機能部として、戻し変速禁止部63が含まれている。この戻し変速禁止部63は、第1の変速段から第2の変速段への変速指令があった後、前記第1の変速段へ戻す戻し変速指令があった場合に、条件に応じて前記第1の変速段への戻し変速プロセスを禁止する機能を有する。後で詳しく述べるが、例えば、変速プロセスの進行による変速機構20の入力部材21の回転速度の変化が所定の回転変化しきい値未満の範囲では、駆動力源の負方向の出力トルクの絶対値が所定の判定しきい値以上である負トルク状態が検出されていることを条件として、戻し変速が禁止される。
【0041】
評価モジュール6Cは、各種センサからの入力信号や他の制御モジュールから受け取ったデータに基づいて、変速プロセスで取り扱われる伝達動力の状態(速度、トルク、回転数など)を算定、評価する機能を有する。特に本発明に関係する機能として、負トルク状態判定部65、回転評価部66、係合側伝達トルク推定部67、解放側係合圧推定部68が挙げられる。負トルク状態判定部65の代表的な機能は、駆動力源の負方向の出力トルクの絶対値が所定の判定しきい値以上である負トルク状態であることを判定することであり、その判定結果は、戻し変速禁止部63で利用される。その際、前記判定しきい値は、解放側要素の伝達トルク容量に応じて、この解放側要素がスリップしない限界のトルク以下に設定される。より具体的には、変速プロセス中の解放側要素の伝達トルク容量以下の固定値に設定する。これにより、負トルク状態と判定されていない状態では解放側要素がスリップしていないことが保証される。
【0042】
回転評価部66の代表的な機能は、変速機構20の入力部材21の回転速度の変化が所定の回転変化しきい値未満の範囲に入っているかどうかを評価することである。この回転変化しきい値は、例えば、回転センサの精度等に応じて変化を検出できる最小の回転速度の変化量、例えば50rpmとすることができる。また、入力部材21の回転速度の変化は、一例として、変速機構20の出力部材22の回転速度と変速元となる変速段(第1の変速段)の変速比とに基づいて導出される第1の変速段での入力部材21の回転速度と、実際の入力部材21の回転速度との差から導出される。
【0043】
係合側係合トルク推定部67の代表的な機能は、係合側要素のトルク伝達状態を推定することである。例えば、この係合側要素におけるトルク伝達の発生が推定されたという情報は、戻し変速禁止部63での戻し変速の禁止のための条件として利用される。このトルク伝達の発生を直接検出するのは容易ではないので、当該係合側要素に係る変速プロセスの開始からの所定の経過時間に基づいてこの係合側要素におけるトルク伝達の発生を推定すると利点がある。ここでの所定の経過時間は実験的手法によってかなり正確に求めることができる。
【0044】
解放側係合圧推定部68の代表的な機能は、解放側要素の係合圧を推定することである。この解放側要素の係合圧も、戻し変速禁止部63での戻し変速の禁止のための条件として利用される。例えば、戻し変速禁止部62は、この解放側係合圧推定部68によって推定される解放側要素の係合圧が所定の推定しきい値以下である状態では、負トルク状態判定部65による判定結果に関わらず、第1の変速段への戻し変速プロセスを禁止する。その際、好ましくは、上記推定しきい値は解放側要素の伝達トルク容量がゼロとなる係合圧に設定される。
【0045】
まず、タイミングチャートを用いて負トルク時の変速プロセスにおける戻し変速禁止を説明する前に、第1の変速段から第2の変速段へのアップシフト変速プロセスの基本的な挙動を説明する。変速プロセスでは、変速プロセス実行部62により、図3における解放側油圧曲線で示されるような解放側要素に対する解放側油圧制御と、図3における係合側油圧曲線で示されるような係合側要素に対する係合側油圧制御とが実行される。解放側油圧制御の中核は、変速プロセスの全体に亘って解放側要素をスリップ状態に維持させる制御であり、待機制御、変化率制御、回転速度制御、及び解放制御の各制御ステップからなる。
また、係合側油圧制御の中核は、変速プロセスの全体に亘って入力部材21の回転速度を適切に変化させるように係合側油圧を変化させる制御であり、第一係合制御及び第二係合制御の各制御ステップを経て実行される。
変速プロセスは、解放側要素がスリップを開始した時点から出力部材22の回転速度に変速段の切替後の変速比を乗算した回転速度と入力部材21の回転速度との間の回転速度差が所定値以下となって同期した時点までの期間となる。また、変速プロセスは、解放側要素がスリップを開始した時点から係合側要素の両側の入力側回転部材と出力側回転部材が同期した時点までの期間となる。
【0046】
〔解放側油圧制御〕
待機制御では、車両のアクセル開度及び車速に基づいて目標変速段のアップシフトが要求されると、一定時間が経過するまで解放側油圧を出力トルクに応じた保持圧とする。このときの待機時間は、内部タイマにより監視される。
アップシフト要求後一定時間が経過すると、次に変化率制御が実行される。この変化率制御は、回転電機5の出力トルクの大きさに応じた変化率で解放側油圧を低下させる。本例では、更に回転電機5が負のトルク(回生トルク)を出力している場合には、出力トルクが小さいほど(回生トルクが大きいほど)解放側油圧を低下させる変化率の絶対値が小さくされ、出力トルクが大きいほど(回生トルクが小さいほど)解放側油圧を低下させる変化率の絶対値は大きくされる。この間、解放側要素は完全には係合も解放もしていない半係合状態に維持される。これにより、解放側要素の両係合部材が所定の回転速度差を有するスリップ状態に維持されたままで、駆動力の伝達が行われる。
【0047】
変速プロセス実行中は、変速プロセス実行部62が変速動作の進行度を監視する。
変速動作の進行度は、変速プロセスにおいて変速段の切り替えがどの程度進行したかを表す指標となる。中間軸回転速度センサ94により検出される回転速度、出力軸回転速度センサ92により検出される出力部材22の実際の回転速度、及び変速前後の各変速段の変速比に基づいて変速進行度が導出される。
変化率制御は、進行度が所定割合に到達する時点を切替点とし、当該切替点まで実行される。例えば、変速動作が50%進行した(進行度50%)時点を切替点とし、当該切替点まで変化率制御が実行される。変速動作が50%進行して切替点に達すると、次に回転速度制御が実行される。この回転速度制御では、入力部材21の回転速度が、変速プロセスの各時点における目標回転速度となるように解放側油圧を変化させる。
【0048】
目標回転速度から、更に各時点における目標回転加速度(目標回転速度変化率)が導出される。各時点における目標回転速度は二次曲線で表される経時軌跡を描くように設定されるので、各時点における目標回転加速度は、その絶対値が変速動作の終点に向かって直線的に徐々に小さくなり、最終的にはゼロとなるように設定される。解放側油圧制御では、入力部材21の実際の回転加速度が、各時点における目標回転加速度に追従するように解放側油圧を変化させる。変速プロセスの各時点における目標回転加速度と実際の回転加速度とを比較し、これらの間に偏差が生じている場合には、当該偏差を打ち消す方向に入力部材21の実際の回転加速度が変化するように解放側油圧を変化させる。この間、解放側要素は、上記のとおり完全には係合も解放もされない半係合状態に維持され、スリップ状態に維持されている。回転速度制御は、変化率制御からの切替の後、目標回転速度と入力部材21の実際の回転速度との間の回転速度差が所定値以下となるまで実行される。
【0049】
〔係合側油圧制御〕
係合側油圧制御では、まず実質的な変速プロセスに入る前に、係合側油圧を変化させるための基準となる基準油圧変化量を決定する。ここで、基準油圧変化量は、入力部材21の回転速度を所定の目標回転加速度で変化させるのに必要な油圧変化量である。基準油圧変化量は、目標回転加速度と所定の係数との乗算値として導出される。ここで、入力部材21の目標回転加速度は、変速段の切り替えに要する目標時間を表す予め設定された目標変速時間と、変速段の切り替え前後における入力部材21の回転速度の差を表す回転速度変化幅と、に基づいて決定される。すなわち、回転速度変化幅を目標変速時間で除算した除算値として入力部材21の目標回転加速度が導出される。
【0050】
係合側油圧制御では、導出された目標回転加速度に基づいて、入力部材21の実際の回転加速度が目標回転加速度に追従するように、係合側要素に対する油圧(係合側油圧)を変化させる第一係合制御を実行する。このような第一係合制御を実行するため、変速プロセスの開始時における係合側油圧を基準とし、変速プロセスの進行度と回転電機5の出力トルクとに応じて予め設定された所定の変化係数と、基準油圧変化量とに基づいて係合側油圧を変化させる。変速プロセスの進行度及び回転電機5の出力トルクと変化係数との関係はマップテーブルに設定されている。
変化係数は、回転電機5の出力トルクが変速プロセスの全体に亘って一定値に保たれるという条件の下では、変速プロセスの最初の段階では当該変速プロセスが進行するに従って大きくなると共に、変速プロセスの最後の段階では当該変速プロセスが進行するに従って小さくなる値に設定されている。
【0051】
つまり、係合側油圧制御では、変速プロセスの開始時における係合側油圧を基準として、変速プロセスの進行度と回転電機5の出力トルクとに基づいて決まる変化係数と、基準油圧変化量と、に基づいて係合側油圧を変化させる。例えば、基準油圧変化量と変化係数Gとを乗算して得られる乗算値を、変速プロセスの進行度及び回転電機5の出力トルクに応じた係合側油圧の変化量として導出し、これを変速プロセスの開始時における係合側油圧に加算することにより、変速プロセスの各時点における係合側油圧の指令値を決定することができる。係合側油圧制御では、このように決定された係合側油圧の指令値に追従するように実際の係合側油圧を変化させる。これにより、係合側油圧は、回転電機5が出力する負トルク(回生トルク)の絶対値が小さいほど大きい変化幅で、変速プロセスの進行に伴って上昇〜固定〜低下〜緩低下となる態様で変化する。なお、変速プロセスの開始時における係合側油圧は、当該係合側油圧を僅かに上昇させることにより速やかに係合側要素を係合させることができる係合開始直前の圧である。このような第一係合制御は、解放側油圧制御による解放側油圧の低下に同調して実行される。
【0052】
ところで、回転電機5が出力する負トルク(回生トルク)の絶対値が小さいほど、解放側要素をスリップ状態に維持させることにより入力部材21の回転速度の低下が緩慢となって変速時間が徒に長くなる可能性がある。変速時間が長くなって間延びすると、変速フィーリングが悪化する可能性がある。この点、上記のように係合側基準油圧に従って係合側油圧を制御する構成を採用することで、解放側要素をスリップ状態に維持することで緩慢となりがちな入力部材21の回転速度の低下を係合側油圧の変化により補助して、目標変速時間内で変速動作を適切に終了させることが容易となっている。
第一係合制御は、特別変速制御移行条件が満たされている限り、切替後目標回転速度と入力部材21の回転速度との間の回転速度差が所定値以下となるまで実行される。
【0053】
変速段の切り替え後の回転速度差が所定値以下となった場合には、次に第二係合制御が実行される。この第二係合制御では、回転速度差が所定値以下となって変速プロセスが終了した後で係合側要素を完全係合状態とさせるように係合側油圧を制御する。本実施形態ではこの第二係合制御により、変速プロセスが終了した後で、係合側油圧は完全係合圧まで一気に上昇させる。
【0054】
次に、戻し変速禁止部63による、図3に示された負トルク状態でのアップシフトプロセスにおける戻し変速禁止を説明する。ここで示されているタイミングチャートは横軸が時間経過であり、その時間経過が変速初期段階と変速最終段階に区分けされており、さらに変速初期段階は初期第1段階と初期第2段階に区分けされている。初期第1段階は、第1の変速段(例えば第3速)から第2の変速段(例えば第4速)への変速プロセスの開始時から係合側要素におけるトルク伝達が発生する時点までの領域を意味している。初期第2段階は、変速プロセスの進行による入力部材21の回転速度の変化が所定の回転変化しきい値未満を維持している領域である。変速最終段階は、変速プロセスの進行による入力部材21の回転速度の変化が回転変化しきい値以上であって、この変速プロセスが完了するまでの領域である。本願発明では、変速最終段階の領域においてのみではなく、新規の上述した判定条件を採用して定義された初期第2段階の領域においても条件に応じて戻し変速が禁止される。これにより、変速最終段階以前での戻し変速で生じていた変速ショックが回避されることになった。
【0055】
負トルク状態でのアップシフトプロセスにおける初期第1段階での戻し変速は、図3の下側に示された3つのアップシフトタイムチャート線の一番目のタイムチャート線で表されている。図示の例では、変速プロセスの全域にわたって、負トルク状態判定部65により、負トルク状態であると判定されていることとする。
初期第1段階では、変速プロセスの進行による入力部材21の回転速度の変化が実質的にゼロであるので、入力部材21の回転速度変化は回転変化しきい値未満となっており、かつ係合側要素の係合圧は所定のしきい値まで上がるほどの時間が経過しておらず、係合側要素におけるトルク伝達は発生していない。また、解放側要素については待機制御が実行されて、解放側要素はスリップしない係合状態に維持されている。すなわち、初期第1段階の範囲では、係合側要素におけるトルク伝達の発生推定されないことにより、第1の変速段から第2の変速段への変速プロセス開始(タイムチャート線の立ち上がり)の後に発生した第1の変速段への戻り変速は許可されている(タイムチャート線の立ち下がり)。
【0056】
つづく初期第2段階では、変速プロセスの進行による入力部材21の回転速度の変化が僅かに生じているが、回転変化しきい値未満となっている。さらには、係合側要素の伝達トルク容量がゼロより大きくなり、係合側要素におけるトルク伝達が発生している。解放側要素については変化率制御が実行され、解放側要素の結合圧が所定値以下となった後に解放側要素がスリップ状態とされる。すなわち、初期第2段階では、変速プロセスの進行による入力部材21の回転速度の変化が回転変化しきい値未満であって、負トルク状態判定部65により負トルク状態と判定されており、また係合側要素におけるトルク伝達の発生が推定されることにより、戻し変速は禁止される。従って、2番目のアップシフトタイムチャート線で表されているように、戻し変速指令が発生したにもかかわらず、この戻し変速は実行されない。禁止された戻し変速の仮想的な解放側油圧と係合側油圧の挙動が点線で示されている。またアップシフトタイムチャート線での禁止された第1の変速段への戻り変速は点線で示された立ち下がりで示されている。
【0057】
変速最終段階では、負トルク状態判定部65により負トルク状態と判定されていたとしても、変速プロセスの進行による入力部材21の回転速度の変化が回転変化しきい値以上となることにより、戻し変速は禁止される。従って、3番目のアップシフトタイムチャート線で表されているように、戻し変速指令が発生したにもかかわらず、この戻し変速は実行されない。
【0058】
負トルク状態でのダウンシフトプロセスにおける戻し変速禁止の様子は、図4のタイムチャートに示されている。図3に示す負トルク状態でのアップシフトプロセスと同様に、初期第1段階、初期第2段階、及び変速最終段階に区分けされた各領域における、初期第2段階と変速最終段階とで戻し変速は禁止されている。
【0059】
なお、図5と図6は、正トルク状態でのアップシフトプロセスにおける戻し変速の様子を示すタイムチャートである。本実施形態において、正トルク状態とは、負トルク状態推定部65により負トルク状態と推定されていない状態である。図5は戻し変速が許可された状況を示すものであり、図6は戻し変速が禁止された状況を示すものである。ここでも、上記と同様の判定条件を採用して初期第1段階と初期第2段階とからなる変速初期段階と変速最終段階とに区分けされて定義されている。ここで採用される特徴的な戻し変速を禁止する判定条件は、解放側係合圧推定部68によって推定される解放側要素の係合圧が、所定の推定しきい値以下であるかどうかである。ここでは、推定しきい値は、解放側要素の伝達トルク容量がゼロとなる係合圧として設定されている。この推定しきい値に対応する油圧は、図5、図6に破線で示されている。戻し変速指令の発生時にこの条件が成立していれば、その戻し変速は禁止され、成立していなければ、他の条件により戻し変速が禁止されない限り、その戻し変速は許可される。正トルク時のアップシフトプロセスにおける戻し変速では、前述したような負トルク時のシフトプロセスとは異なり、負トルク状態判定部65による判定結果は利用されない。従って、変速最終段階の領域では戻し変速は禁止されているが、初期第2段階の領域において解放側油圧が限界油圧を超えるという条件が成立する限りにおいて、戻し変速が許可される。この点が、負トルク状態の戻し変速禁止処理とは異なっている。なお、初期第1段階では、係合側のトルク伝達の発生が推定されないので戻し変速は許可される。
【0060】
図示は省略するが、正トルク状態でのダウンシフトプロセスでは、上述の正トルク状態でのアップシフトプロセスと同様、変速最終段階の領域では戻し変速は禁止であるが、初期第2段階の領域において解放側油圧が推定しきい値を超えるという条件が成立する限りにおいて、戻し変速が許可され、処理第1段階では戻し変速は許可される。
【0061】
次に、図7と図8のフローチャートを参照して、変速プロセスの処理手順の一例を説明する。図7は、変速プロセスの全体的な処理手順を示すフローチャートである。図8は、図7の処理手順において利用される戻し変速段の許可または禁止を判定するルーチンを示すフローチャートである。
まず、変速指令の発生がチェックされる(#02)。変速指令が発生した場合(#02Yes分岐)、この変速指令を受け、変速内容が評価される(#04)。この変速内容の評価には、(1)元変速段としての第1の変速段と変速先としての第2の変速段の特定、(2)特定された変速段から変速段への変速プロセスにおいて、油圧制御の対象となる係合側要素と解放側要素の特定、言い換えると、係合側要素及び解放側要素に作用する油圧を制御する油圧バルブの特定、(3)特定された油圧バルブに対する制御マップの選定、(4)選定された制御マップに基づく油圧バルブの制御手順が含まれる。その後、評価された変速内容に基づく変速制御が開始される(#06)。変速制御の開始に伴って、戻し変速指令が発生するかどうかがチェックされる(#08)。戻し変速指令が発生した場合(#08Yes分岐)、戻し変速フラグがチェックされる(#10)。この戻し変速フラグは、戻し変速の許可または禁止を示すもので、後で説明する戻し変速禁止判定ルーチン(#100)によって設定される。
【0062】
戻し変速禁止判定ルーチンによって設定される戻し変速フラグの内容が許可」の場合、予め設定されている油圧制御ルーチンに基づいて戻し変速制御が開始される(#12)。戻し変速制御が完了すると(#14Yes分岐)、一旦この変速処理ルーチンを終了する。戻し変速禁止判定ルーチンによって設定される戻し変速フラグの内容が「禁止」の場合、受け取った戻し変速の戻し先の変速段をメモリに一時的に待避させておき(#16)、当初の変速制御を続行する(#18)。その後、この変速制御の完了がチェックされる(#20)。そして、変速制御が続行している限りは、再びステップ#08に戻って、戻し変速指令の発生をチェックする。変速制御が完了すれば(#20Yes分岐)、メモリに一時的に待避させられた戻し変速段が存在しているかどうかチェックされる(#22)。待避させられた戻し変速段がなければ(#22No分岐)、一旦この変速処理ルーチンを終了する。待避させられた戻し変速段が存在していれば(#22Yes分岐)、待避させていた戻し変速段を変速先とする変速指令を生成し(#24)、ステップ#06に戻って、新たな変速プロセスとして、待避させておいた変速段への変速制御を行う。なお、変速制御の実行中に、一度発生した戻し変速指令が取り消されるケースも考えられる。そのようなケースに備え、メモリに一時的に待避させた戻し変速段は、戻し変速指令がなくなると(#08No分岐)、キャンセルされる(#17)。
【0063】
次に、図8のフローチャートを用いて戻し変速禁止判定ルーチン(#100)を説明する。
このルーチンは、変速指令が発生しているかどうかチェックし(#101)、変速指令の発生と同時に以下のステップを実行する。まず、入力部材21の回転速度の変化が回転変化しきい値未満か否かがチェックされる(#102)。この回転変化しきい値未満かどうかの判定は、前述した回転評価部66によって評価される。入力部材21の回転速度の変化が回転変化しきい値以上である場合には(#102No分岐)、戻し変速フラグに「禁止」が設定される(#107)。入力部材21の回転速度の変化が回転変化しきい値未満である場合には(#102Yes分岐)、さらに、解放側油圧が推定しきい値以下か否かを判定する(#103)。この推定しきい値は、前述した解放側係合圧推定部68によって推定され、解放側要素の伝達トルク容量がゼロとなる係合圧に対応する。解放側油圧が推定しきい値以下である場合には(#103Yes分岐)、戻し変速フラグに「禁止」が設定される(#107)。解放側油圧が推定しきい値より大きい場合には(#103No分岐)、さらに、係合側要素におけるトルク伝達の発生が推定されたか否かがチェックされる(#104)。このトルク伝達発生の推定は係合側係合トルク推定部67によって行われる。このようなトルク伝達の発生の推定は、係合側要素に与えられている油圧指令値や実際の油圧検出から求めることができるが、実際的には、直接の油圧を検出するよりは、タイマ等により、バルブ操作の開始からの時間によって係合側要素における油圧を推定する方法が好都合である。まだ係合側要素におけるトルク伝達が発生していないと推定された場合、つまりまだタイマ値が所定値に達していない場合(#104No分岐)、戻し変速フラグに「許可」が設定される(#106)。既に係合側要素におけるトルク伝達が発生していると推定された場合、つまりタイマ値が所定値に達している場合(#104Yes分岐)、さらに負トルク状態判定部65によって負方向の出力トルクの絶対値が所定の判定しきい値以上である負トルク状態が判定されているかどうかチェックされる(#105)。なお、本実施形態では、判定しきい値は解放側要素の伝達トルク容量に基づいて解放側要素がスリップしない限界のトルク以下に設定されている。従って、負トルク状態と判定されていなければ、解放側要素はスリップしておらず、完全係合状態となっている。一方負トルク状態が判定されている場合には解放側要素がスリップしている可能性がある。負トルク状態が判定されていると(#105Yes分岐)、戻し変速フラグに「禁止」が設定される(#107)。負トルク状態が判定されていないと(#105No分岐)、戻し変速フラグに「許可」が設定される(#106)。
【0064】
ステップ#106または#107で戻し変速フラグに「許可」または「禁止」が設定されると、今回の変速プロセスが完了しているかどうかチェックされる(#108)。変速プロセスが完了していなければ(#108No分岐)、ステップ#102に戻り、戻し変速フラグの設定ルーチンを実行し、変速プロセスが完了すると(#108Yes分岐)、一旦このルーチンを終了する。
【0065】
〔その他の実施形態〕
(1)図8で示した戻し変速段の許可または禁止を判定するルーチンは、入力部材21の回転速度の変化状態や上記した負トルク状態の判定などを、入力パラメータとして戻し変速の許可または禁止を出力する関数テーブルで構築することもできる。
(2)上述した実施形態では、正トルク時の変速プロセスにおける戻し変速の禁止・許可の判定基準として用いられて推定しきい値は一定値ではなく、変速機構20によって伝達される動力の回転速度やトルクの状態によって変化するものとしてもよい。
(3)負トルク状態判定部65で用いられる判定しきい値は、解放側要素がスリップしない限界のトルク以下にすることが変速ショックを回避するために好適であるが、必ずしも一定値でなくともよい。負トルク状態判定部65が、変速プロセスの実行によって解放される側の摩擦係合要素である解放側要素の各時点での伝達トルク容量に応じて、当該解放側要素がスリップしない限界のトルク以下に判定しきい値を設定するような構成を採用することができる。この判定しきい値を、例えば、変速プロセスの進行によって変化する解放側要素の伝達トルク容量にだけでなく、その他の動力伝達状況に応じて、あるいはそれらの組み合わせに応じて可変とすることも可能である。
(4)上記の実施形態では、初期第1段階において係合側伝達トルク推定部67によって係合側要素におけるトルク伝達の発生が推定されていないことにより戻し変速を許可されていた。これに対し、係合側要素におけるトルク伝達の発生が推定されていないか否かという判定をせずに、入力部材21の回転速度の変化が所定の回転変化しきい値未満でかつ負トルク状態であるという判定条件だけで、戻し変速の禁止と許可を判定し、初期第1段階おいても戻し変速が禁止される可能性があるという構成も本発明の好適な実施形態の1つである。
(5)入力部材21の回転速度の変化は、出力部材22の回転速度と第1の変速段の変速比とに基づいて導出される第1の変速段での入力部材21の回転速度と、実際の入力部材21の回転速度との差から好適に導出することができる。入力部材回転速度変化導出アルゴリズムとして、これに代えて、入力側回転速度センサ93によって検出される入力部材21の回転速度を微分して回転加速度を算出し、この回転加速度から入力部材回転速度変化を導出するアルゴリズムを採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、エンジン及び車両の減速要求に基づいて回生トルクを発生可能な回転電機に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素を有し、複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより複数の変速段が切り替えられ、入力部材の回転速度を各変速段の変速比で変速して出力部材に出力する変速機構と、を備えた変速機構を制御するための変速制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
6:AT制御ユニット
6A:摩擦係合要素制御モジュール
6B:管理モジュール
6C:評価モジュール
61:変速指令生成部
62:変速プロセス実行部
63:戻し制御禁止部
65:負トルク状態判定部
66:回転評価部
67:係合側伝達トルク推定部
68:解放側係合圧推定部
11:エンジン
13:回転電機
20:変速機構
21:入力部材
22:出力部材
30:油圧回路
32:バルブユニット
91:アクセルか開度センサ
C1:ブレーキまたはクラッチ(摩擦係合要素)
B1:ブレーキまたはクラッチ(摩擦係合要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも回転電機を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素と、を有し、前記複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより複数の変速段が切り替えられ、前記入力部材の回転速度を各変速段の変速比で変速して前記出力部材に伝達する変速機構を制御するための変速制御装置であって、
前記駆動力源の負方向の出力トルクの絶対値が所定の判定しきい値以上である負トルク状態であることを判定する負トルク状態判定部と、
前記変速機構の変速段を変更する指令である変速指令があった場合に、当該変速指令に従って変速段を変更する変速プロセスを実行する変速プロセス実行部と、
第1の変速段から第2の変速段への変速指令があった後、前記変速プロセスの実行中に前記第1の変速段へ戻す戻し変速指令があった場合に、前記変速プロセスの進行による前記入力部材の回転速度の変化が所定の回転変化しきい値未満の範囲では、前記負トルク状態判定部により前記負トルク状態であると判定されたことを条件として、前記第1の変速段への戻し変速プロセスを禁止する戻し変速禁止部と、
を備える変速制御装置。
【請求項2】
前記変速プロセスの実行によって係合される側の前記摩擦係合要素である係合側要素のトルク伝達状態を推定する係合側伝達トルク推定部を更に備え、
前記戻し変速禁止部は、前記係合側伝達トルク推定部によって前記係合側要素におけるトルク伝達の発生が推定されたことを更なる条件として、前記第1の変速段への戻し変速プロセスを禁止する請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
前記変速プロセスの実行によって解放される側の前記摩擦係合要素である解放側要素の係合圧を推定する解放側係合圧推定部を更に備え、
前記戻し変速禁止部は、前記解放側係合圧推定部によって推定される前記解放側要素の係合圧が所定の推定しきい値以下である状態では、前記負トルク状態判定部による判定結果に関わらず、前記第1の変速段への戻し変速プロセスを禁止する請求項1又は2に記載の変速制御装置。
【請求項4】
前記負トルク状態判定部は、前記変速プロセスの実行によって解放される側の前記摩擦係合要素である解放側要素の各時点での伝達トルク容量に応じて、当該解放側要素がスリップしない限界のトルク以下に前記判定しきい値を設定する請求項1から3のいずれか一項に記載の変速制御装置。
【請求項5】
前記戻し変速禁止部は、前記第1の変速段から第2の変速段への変速指令があった後、前記第1の変速段へ戻す戻し変速指令があった場合に、前記変速プロセスの進行による前記入力部材の回転速度の変化が前記回転変化しきい値以上の範囲では、前記負トルク状態判定部による判定結果に関わらず、前記第1の変速段への戻し変速プロセスを禁止する請求項1から4のいずれか一項に記載の変速制御装置。
【請求項6】
前記係合側伝達トルク推定部は、前記変速プロセスの開始からの経過時間に基づいて前記係合側要素におけるトルク伝達の発生を推定する請求項2に記載の変速制御装置。
【請求項7】
前記推定しきい値が、前記解放側要素の伝達トルク容量がゼロとなる係合圧に設定されている請求項3に記載の変速制御装置。
【請求項8】
前記入力部材の回転速度の変化は、前記出力部材の回転速度と前記第1の変速段の変速比とに基づいて導出される前記第1の変速段での前記入力部材の回転速度と、実際の前記入力部材の回転速度との差から導出される請求項1から7のいずれか一項に記載の変速制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−41999(P2012−41999A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184821(P2010−184821)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】