説明

操向支援装置

【課題】ドライバの運転意識に応じて操舵制御と制駆動力制御との制御分担比を適切に設定する操向支援装置を提供する。
【解決手段】操向支援装置を、自車両前方の環境情報を認識する環境認識手段110と、自車両の車両状態を検出する車両状態検出手段130と、操舵機構に操舵力を付与する操舵制御手段190と、左右輪の制駆動力差によりヨーモーメントを発生させる制駆動力制御手段200と、環境認識手段及び車両状態検出手段を用いて目標操向量を設定する目標操向量設定手段140と、目標操向量に基づいて操舵制御手段の目標操舵量及び制駆動力制御手段の目標制駆動力差を設定する操向制御手段180と、ドライバの覚醒度Aを検出する覚醒度検出手段160とを備え、操向制御手段は、覚醒度の低下に応じて、操舵制御手段の制駆動力制御手段に対する制御分担比RSTRを増加させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両前方の環境情報に基づいて車両を操向する操向支援装置に関し、特に操舵機構への操舵力及び左右輪の制駆動力差を所定の制御分担比で制御して車両を操向するものに関する。
【背景技術】
【0002】
操向支援装置は、例えばステレオカメラ等によって取得した自車両前方の環境情報に基づいて、操舵機構に操舵力を付与する操舵支援を行うものである。このような操向支援の例として、走行車線からの自車両の逸脱傾向に応じて自車両を車線中央側へ戻す車線逸脱防止制御や、走行車線内に設定した目標走行軌跡に沿って自車両を走行させる車線維持制御等が挙げられる。
また、このような車両の操向は、操舵機構に操舵力を付与することに代えて、左右輪に制動力、駆動力(以下、「制駆動力」と総称する)の差を与えて、ヨーモーメントを発生させることによっても可能である。
例えば、特許文献1には、車線逸脱防止装置において、逸脱回避方向への進路修正を的確に行うことを目的として、自車両の旋回状態に応じて逸脱回避制御における操舵制御分担量と制動力制御分担量とを算出することによって、横加速度の増加による違和感を防止したものが記載されている。
【0003】
また、操向支援装置は、あくまでもドライバの運転装置を支援または補助するものであり、ドライバの運転意思が低下しているのにも関わらず、操向支援装置の制御に依存して走行を続けることは好ましくない。
ドライバの運転意思を示す指標としては、例えば、覚醒度、漫然度等が挙げられる。覚醒度は、生理的に眠っている状態に近い場合に低下する指標である。漫然度は、ドライバの意思が運転以外に向いている場合に高まる指標である。
【0004】
覚醒度を検出する技術として、例えば特許文献2には、被験者の複数種類の動きを検出するとともに、覚醒度が把握された状態での動きの検出結果に基いて得られた動きと覚醒度との関係を表す時系列データから被験者の覚醒度を推定する覚醒度推定装置等が記載されている。
漫然度を検出する技術として、例えば特許文献3には、ドライバの眼部虹彩位置を撮像した画像から視線方向を検出し、その統計処理値を用いて漫然運転を検出することが記載されている。
【特許文献1】特開2005−178743号公報
【特許文献2】特開2007−312905号公報
【特許文献3】特許第3257310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両のステアリングホイールは、ドライバが操舵機構に舵角を与えて車両ヨーを発生させる手段であるとともに、路面もしくはシステムからの情報をステアリング反力としてドライバに伝える人―機械インターフェイス(HMI)としても機能する。
ドライバの覚醒度が高く、漫然度が低い状態では、操舵機構への操舵力付与制御は、ドライバの操舵操作との干渉が生じやすく、ドライバに違和感を与える場合がある。しかし、ドライバの覚醒度が低下したり、漫然度が向上している場合には、操舵力をステアリングホイール等を介してドライバに伝え、ドライバに警報を与えることは有効であると考えられる。
本発明の課題は、ドライバの運転意識に応じて操舵制御と制駆動力制御との制御分担比を適切に設定する操向支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、自車両前方の環境情報に基づいて自車両を操向する操向支援装置において、自車両前方の環境情報を認識する環境認識手段と、自車両の車両状態を検出する車両状態検出手段と、操舵機構に操舵力を付与する操舵制御手段と、左右輪の制駆動力差を生じさせてヨーモーメントを発生させる制駆動力制御手段と、前記環境認識手段及び前記車両状態検出手段を用いて自車両の目標操向量を設定する目標操向量設定手段と、前記目標操向量に基づいて前記操舵制御手段の目標操舵量及び前記制駆動力制御手段の目標制駆動力差を設定する操向制御手段と、ドライバの覚醒度を検出する覚醒度検出手段とを備え、前記操向制御手段は、前記覚醒度に応じて前記目標操向量に対する前記目標操舵量と前記目標制駆動力差との制御分担比を設定し、前記覚醒度の低下に応じて、前記目標操向量に対する前記目標操舵量の割合が増加するように前記制御分担比を設定することを特徴とする操向支援装置である。
【0007】
請求項2の発明は、前記ドライバの漫然度を検出する漫然度検出手段を備え、前記操向制御手段は、さらに前記漫然度に応じて前記制御分担比を設定し、前記漫然度の向上に応じて前記目標操向量に対する前記目標操舵量の割合が増加するように前記制御分担比を設定することを特徴とする請求項1に記載の操向支援装置である。
請求項3の発明は、前記操向制御手段は、前記覚醒度及び前記漫然度のそれぞれに評価値を設定し、前記覚醒度及び前記漫然度のうち前記評価値が大きいものに基づいて前記制御分担比を設定することを特徴とする請求項2に記載の操向支援装置である。
請求項4の発明は、自車両前方の環境情報に基づいて自車両を操向する操向支援装置において、自車両前方の環境情報を認識する環境認識手段と、自車両の車両状態を検出する車両状態検出手段と、操舵機構に操舵力を付与する操舵制御手段と、左右輪の制駆動力差を生じさせてヨーモーメントを発生させる制駆動力制御手段と、前記環境認識手段及び前記車両状態検出手段を用いて自車両の目標操向量を設定する目標操向量設定手段と、前記目標操向量に基づいて前記操舵制御手段の目標操舵量及び前記制駆動力制御手段の目標制駆動力差を設定する操向制御手段と、ドライバの漫然度を検出する漫然度検出手段とを備え、前記操向制御手段は、前記漫然度に応じて前記目標操向量に対する前記目標操舵量と前記目標制駆動力差との制御分担比を設定し、前記漫然度の向上に応じて前記目標操向量に対する前記目標操舵量の割合が増加するように前記制御分担比を設定することを特徴とする操向支援装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ドライバの覚醒度の低下に応じて目標操向量に対する目標操舵量の割合が増加するように制御分担比が設定されることによって、ドライバに操舵トルクを感じさせて覚醒度低下状態を報知することができ、ドライバの覚醒及び自主的な運転操作を促すことができる。また、覚醒度が低下していない状態では、目標操向量に対する目標操舵量の割合を小さくし、代わって目標制駆動力差の割合を大きくすることができるため、左右輪の制駆動力制御に基づく操向支援を行いつつも、操舵制御によるシステムとドライバとの干渉を防止して、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
(2)ドライバの漫然度の向上に応じて目標操向量に対する目標操舵量の割合が増加するように制御分担比を設定することによって、ドライバに操舵トルクを感じさせて漫然度向上状態を報知することができ、ドライバの漫然度の低下及び自主的な運転操作を促すことができる。また、漫然度が向上していない状態では、目標操向量に対する目標操舵量の割合を小さくし、代わって目標制駆動力差の割合を大きくすることができるため、操舵制御によるシステムとドライバとの干渉を防止して、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
(3)覚醒度及び漫然度のそれぞれに評価値を設定し、覚醒度及び漫然度のうち評価値が大きいものに基づいて制御分担比を設定することによって、ドライバの状態に応じた適切な制御分担比の設定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、ドライバの運転意識に応じて操舵制御と制駆動力制御との制御分担比を適切に設定する操向支援装置を提供する課題を、ドライバの覚醒度低下又は漫然度向上に応じて、目標操向量に対する操舵力制御の制御分担比を制駆動力制御の制御分担比に対して増加させることによって解決した。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を適用した操向支援装置の実施例について説明する。
図1は、実施例の操向支援装置を備えた車両のシステム構成を示す図である。
本実施例において、車両は、例えば、前2輪を操舵する4輪のエンジン−電気ハイブリッド乗用車である。
【0011】
車両は、左前輪WFL、右前輪WFR、左後輪WRL、右後輪WRR、エンジン10、モータ20、インバータ30、モータ制御ECU40、電動パワーステアリング(EPS)装置50、操向制御ECU100等を備えている。
車両は、左前輪WFL及び右前輪WFRをエンジン10によって駆動するとともに、左後輪WRL及び右後輪WRRに設けられたモータ20によって、加速時のモータアシスト及び減速時の電力回生を行うようになっている。
【0012】
エンジン10は、例えばガソリンエンジン等の内燃機関であって、図示しない変速機、ディファレンシャルギア、ドライブシャフト等の動力伝達機構を介して、左前輪WFL及び右前輪WFRに駆動力を伝達する。
【0013】
モータ20は、左後輪WRL及び右後輪WRRにそれぞれ設けられたインホイールモータである。(左右のモータ20にそれぞれ添え字L、Rを付して図示する。)モータ20は、車両の加速時等に後輪を駆動アシストするとともに、車両の減速時に電力回生を行う。
インバータ30は、図示しないバッテリと電力の授受を行い、駆動アシスト時のモータ20への電力供給、及び、回生時のモータ20からの電力回生を行うものである。
モータ制御ECU40は、インバータ30を制御することによって、モータ20等を含むハイブリッドシステムを統括的に制御するものである。
【0014】
電動パワーステアリング装置50は、左前輪WFL及び右前輪WFRを所定の操向軸線(キングピン)回りに回動させて舵角を付与する図示しない操舵機構に設けられている。電動パワーステアリング装置50は、電動パワーステアリングECU(EPSECU)51、モータ52、操舵角センサ53等を備えて構成されている。
EPSECU51は、電動パワーステアリング装置50を統括的に制御するマイクロコンピュータである。
モータ52は、EPSECU51からの指令に応じて操舵機構に操舵トルクを付与する電動アクチュエータである。
操舵角センサ53は、操舵機構に付与された操舵角(ステア角)を検出するものである。
【0015】
操向制御ECU100は、自車両前方の環境情報及び自車両の走行状態に基いて、操舵機構へ操舵トルクを付与する操舵力制御、及び、モータ20の駆動力又は回生ブレーキ制動力に左右差を生じさせる制駆動力制御を行い、車両を操向するものである。
図2は、操向制御ECU100の構成を示す図である。
操向制御ECU100は、環境認識手段110、目標走行位置設定手段120、自車進行路推定手段130、目標操向量設定手段140、ドライバカメラ150、覚醒度検出手段160、漫然度検出手段170、制御分担比設定手段180、操舵力制御手段190、制駆動力制御手段200等を備えて構成されている。
【0016】
環境認識手段110は、自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両の走行車線の形状等を認識するものである。
環境認識手段110は、ステレオカメラ111、画像処理部112等が接続されている。
ステレオカメラ111は、例えば車両のフロントウインドウ上端部のルームミラー基部付近に設けられた一対のメインカメラ及びサブカメラを備えている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれCCDカメラを有して構成されている。メインカメラ及びサブカメラは、車幅方向に離間して設置されている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれ基準画像及び比較画像を撮像し、これらに係る画像データを画像処理部112に出力する。
画像処理部112は、ステレオカメラ111が出力した基準画像及び比較画像の画像データをA/D変換した後、所定の画像処理を施して環境認識手段110に出力するものである。この画像処理には、例えば、各カメラの取付位置誤差の補正や、ノイズ除去、階調の適切化などが含まれる。デジタル化された画像は、例えば、垂直方向及び水平方向にマトリクス状に配列された複数の画素を有する。これらの各画素は、それぞれ被写体の明るさに応じた輝度値を有する。
【0017】
環境認識手段110は、基準画像及び比較画像のデータに基づいて、基準画像上の任意の画素又は複数の画素からなるブロックである画素群の視差を検出する。この視差は、ある画素又は画素群の基準画像上の位置と比較画像上の位置とのずれ量である。この視差を用いると、三角測量の原理により、自車両から当該画素に対応する被写体までの距離を算出することができる。
【0018】
また、環境認識手段110は、自車両前方の車線両端部に配置された白線の形状等を認識する。なお、本明細書、特許請求の範囲等において、白線とは、車線の幅方向における端部に引かれた連続線又は破線を示すものとし、実際の色彩が白色以外(例えば燈色など)の線も含むものとする。
図3は、自車両、走行車線及び操向目標位置の平面的配置の一例を示す図である。
環境認識手段110は、基準画像のデータから画素の輝度データに基づいて白線WL部分の画素群を検出する。自車両OVに対する白線WL部分の画素群の方位は、画像データ上の画素位置に基づいて検出される。具体的には、垂直方向における画素位置が路面上に相当する領域を水平方向に走査し、輝度値が急変する箇所を白線WLの輪郭として認識する。そして、当該白線WL部分の画素群の距離を算出することによって、白線WLの位置を検出する。
そして、環境認識手段110は、白線WL位置の検出を連続的に行なって車両の進行方向に複数の車線候補点を設定し、整合のとれない車線候補点を無視するとともに、車線候補点を設定できなかった領域は所定の補完処理を行うことによって、自車両前方の車線形状を認識する。
また、環境認識手段110は、検出された車線形状を用いて、自車両OVの対車線ヨー角を検出する機能を備えている。
【0019】
目標走行位置設定手段120は、環境認識手段110が設定した自車両の走行車線の幅方向における中央に目標走行位置Xcを設定する。
【0020】
自車進行路推定手段130には、車速センサ131、ヨーレートセンサ132が接続されている。
車速センサ131は、各車輪のハブベアリングを保持するハウジングに設けられ、車輪速に応じた車速パルス信号を出力する。この車速パルス信号は、所定の処理を施すことによって、車両の走行速度を求めることができる。
ヨーレートセンサ132は、例えば振動ジャイロ等を用いて、車体の鉛直軸回りの回転速度(ヨーレート)を検出するものである。
自車進行路推定手段130は、車速センサ131、ヨーレートセンサ132等と協働して本発明の車両状態検出手段として機能する。
【0021】
自車進行路推定手段130は、環境認識手段110からの情報、操舵角センサ53、車速センサ131、ヨーレートセンサ132等によって検出される車両の走行状態、及び、既知の車両諸元等に基づいて、自車進行路を推定するものである。
自車進行路の推定は、例えば、車両前方の注視距離Zにおける自車両OVの横位置Xeを算出することによって行う。
自車両OVの重心位置を原点とし、車幅方向へ延びるX軸、及び、車体前方側へ延びるZ軸を有する座標系を用いて以下説明する。
注視距離Zにおける自車両重心の推定横位置Xeは、ハンドル角度αを用いて、以下の式1によって求められる。
【数1】

【0022】
また、自車進行路推定手段130は、上述したハンドル角度を用いた横位置の推定に代えて、以下の式2の通り、ヨーレートセンサ132が検出したヨーレートを用いて横位置を推定することができる。

Xe=Zγ/2V ・・・(式2)
Xe:注視距離Zにおける自車両重心の推定横位置[m]
Z:注視距離[m]
γ:車両のヨーレート[rad/sec]
【0023】
目標操向量設定手段140は、環境認識手段110、目標走行位置設定手段120、自車進行路推定手段130等を用いて、自車両の目標操向量を設定するものである。目標走行量設定手段140は、例えば、目標走行位置設定手段120が設定した目標走行位置Xcに対する自車進行路推定手段130が推定した自車両の横位置Xeの偏差、及び、自車両OVの対車線ヨー角に応じて、この偏差及びヨー角を低減する方向への目標操向量を設定する。
【0024】
ドライバカメラ150は、ドライバの頭部等の画像を撮像する撮像手段である。ドライバカメラ150は、レンズ等の結像光学系、CCD,CMOS等の固体撮像素子、及び、出力画像データを生成する画像処理部等を備えている。ドライバカメラ150は、例えば、インストルメントパネル、ステアリングコラムカバー部等の内装部材に設けられている。
【0025】
覚醒度検出手段160は、ドライバカメラ150が撮像したドライバの画像を用いて、ドライバの覚醒度Aを検出するものである。覚醒度検出手段160は、例えば、瞬き、欠伸、顔をしかめる等の覚醒度低下時特有のドライバの動作(覚醒度低下動作)を検出した場合には、覚醒度Aが低下しているものと判定する。
また、覚醒度検出手段160は、異なった覚醒度低下動作に重み付けを行ったり、覚醒度低下動作の検出頻度に応じて、ドライバの覚醒度Aを離散的な複数のレベル(例えば、覚醒度が低い順にA1,A2,A3。1〜3が評価値)に層別して検出する。
【0026】
漫然度検出手段170は、ドライバカメラ150としての可視光感知カメラと赤外光感知カメラの2つの画像を用いてドライバの視線方向を検出し、視線方向に基づきドライバの漫然度Lを検出するものである。一般的に、ドライバが漫然運転をしている状況、すなわち前方の一点を眺めているような状況ではドライバの顔の向きは正常運転時とほとんど変わらない。そのため、上述の顔の向きや瞬き等に基づく覚醒度の検出では一義的に漫然状態であるかどうかを判断できない。そこで、本実施例では漫然運転時のドライバの視線方向に着目して漫然度Lを検出する。具体的には漫然運転時は正常運転時よりある特定の方向を注視する傾向にあることから、ドライバの視線方向を検出したうえ、視線の停留時間を計測し、この停留時間に応じて漫然度Lを離散的な複数のレベル(例えば、漫然度が低い順にL1,L2,L3。1〜3が評価値。)に層別して検出する。また、漫然度Lの検出はこの方法に限らず、例えば漫然運転時はバックミラーやサイドミラーの確認頻度が低下することから、ドライバの視線方向を検出した上、所定時間内におけるバックミラーやサイドミラーの確認頻度に応じて漫然度を検出してもよい。
【0027】
制御分担比設定手段180は、覚醒度検出手段160が出力する覚醒度A、及び、漫然度検出手段170が出力する漫然度Lに基づいて、目標操向量設定手段140が設定する目標操向量に対する操舵力制御手段190と制駆動力制御手段200との制御分担比RSTR:RDYC(RSTR+RDYC=1)を設定するものである。制御分担比設定手段180は、本発明にいう操向制御手段として機能する。
制御分担比設定手段180は、覚醒度Aと制御分担比RSTR:RDYCとの関係を蓄積した覚醒度マップ、及び、漫然度Lと制御分担比RSTR:RDYCとの関係を蓄積した漫然度マップを有する。
【0028】
図4は、覚醒度A、漫然度Lと制御分担比RSTR:RDYCとの関係を示す図である。
操舵力制御手段190の制御分担比RSTRは、覚醒度AのA1からA2、A3への向上に応じて段階的に減少するとともに、漫然度LのL1からL2、L3への向上に応じて段階的に増加するよう設定されている。
【0029】
覚醒度An(評価値n=1,2,3)、漫然度Lm(評価値m=1,2,3)である場合に、制御分担比設定手段180は、n>mである場合には、覚醒度マップを用いて覚醒度Anに基づいて制御分担比RSTR:RDYCを設定する。一方、n<mである場合には、漫然度マップを用いて漫然度Lmに基づいて制御分担比RSTR:RDYCを設定する。また、n=mである場合には、覚醒度Anを漫然度Lmより優先し、覚醒度Anに基づいて制御分担比RSTR:RDYCを設定する。
【0030】
操舵力制御手段190は、EPSECU51を介してモータ52を制御し、操舵機構に操舵トルクを付与することによって車両を操向するものである。ここで付与される目標操舵トルク、目標舵角等は、目標操向量設定手段140が設定した目標操向量、及び、制御分担比設定手段180が設定する制御分担比RSTR:RDYCに基づいて設定される。
目標操舵トルクは、以下の式3によって求められる。
【数2】

【0031】
制駆動力制御手段200は、モータ制御ECU40を介してインバータ30を制御し、左右後輪の制動力差又は駆動力差を発生させることによって、車両にヨーモーメントを発生させて操向するものである。ここで発生させる目標ヨーモーメントは、目標操向量設定手段140が設定した目標操向量、及び、制御分担比設定手段180が設定する制御分担比RSTR:RDYCに基づいて設定される。
目標ヨーモーメントは、以下の式4によって求められる。
【数3】

【0032】
また、左後輪のモータ20L、右後輪のモータ20Rへの指令値(目標出力トルク)は、それぞれ以下の式5、式6によって求められる。
【数4】

【0033】
次に、実施例の操向支援装置における操向支援制御について説明する。
図5は、操向支援制御時の動作を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:環境認識・車線情報を計測>
環境認識手段110は、自車両OV前方の環境を認識し、車線形状等の情報を計測する。また、目標走行位置設定手段120は、認識された車線の中央部に目標走行位置Xcを設定する。
その後、ステップS02に進む。
【0034】
<ステップS02:車両状態計測>
車速センサ131、ヨーレートセンサ132、操舵角センサ53等の各センサは、自車進行路の推定に必要な車両の状態量を計測し、自車進行路推定手段130に提供する。
その後、ステップS03に進む。
【0035】
<ステップS03:自車進行路推定>
自車進行路推定手段130は、ステップS02で取得した車両の状態量に基づいて、上述した式1等を用いて自車進行路の推定を行い、注視距離Zにおける推定横位置Xeを演算する。
その後、ステップS04に進む。
【0036】
<ステップS04:制御目標値算出>
目標操向量設定手段140は、目標走行位置Xcに対する自車両推定横位置Xeの横方向偏差、及び、自車両OVの対車線ヨー角を算出し、制御目標値である目標操向量を算出する。
その後、ステップS05に進む。
【0037】
<ステップS05:ドライバ状態量、ドライバ視覚情報計測>
覚醒度検出手段160及び漫然度検出手段170は、ドライバカメラ150が撮像した画像に基づいて、覚醒度A及び漫然度Lの検出に必要なドライバ状態量及び視覚情報を計測する。
その後、ステップS06に進む。
【0038】
<ステップS06:ドライバ覚醒度レベルA、漫然度レベルL算出>
覚醒度検出手段160は、ドライバの覚醒度An(n=1,2,3)を検出する。
また、漫然度検出手段170は、ドライバの漫然度Lm(m=1,2,3)を検出する。
その後、ステップS07に進む。
【0039】
<ステップS07:覚醒度・漫然度優先判定>
制御分担比設定手段180は、覚醒度Anと漫然度Lmのレベルを比較し、覚醒度Anのレベルが漫然度Lmのレベル以上であるとき(n≧mのとき)は、覚醒度Anを優先してステップS08に進み、その他の場合は漫然度Lmを優先してステップS09に進む。
【0040】
<ステップS08:覚醒度マップに基づいて制御分担比を設定>
制御分担比設定手段180は、覚醒度Anに基づいて、覚醒度マップを用いて制御分担比RSTR:RDYCを設定する。
その後、ステップS10に進む。
【0041】
<ステップS09:漫然度マップに基づいて制御分担比を設定>
制御分担比設定手段180は、漫然度Lmに基づいて、漫然度マップを用いて制御分担比RSTR:RDYCを設定する。
その後、ステップS10に進む。
【0042】
<ステップS10:操舵トルク指示値算出>
操舵制御手段190は、上述した式3を用いて目標操舵トルクを算出し、EPSECU51に対して指示値を出力し、モータ52によって操舵機構に操舵トルクを付与させる。
その後、ステップS11に進む。
【0043】
<ステップS11:各輪駆動力指示値算出>
制駆動力制御手段200は、上述した式4乃至式6を用いて左右後輪のモータ20L、20Rの目標操舵トルクを算出し、モータ制御ECU40に対して指示値を出力し、各モータ20L,20Rによって車両にヨーモーメントを発生させる。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0044】
以上説明した実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ドライバの覚醒度Aの低下に応じて操舵制御手段190の制御分担比RSTRを増加させることによって、ドライバに操舵トルクを感じさせて覚醒度低下状態を報知することができ、ドライバの覚醒及び自主的な運転操作を促すことができる。また、覚醒度Aが低下していない状態では、操舵制御手段190の制御分担比RSTRを低くすることができるため、システムとドライバとの干渉を防止して、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
(2)ドライバの漫然度Lの向上に応じて操舵制御手段190の制御分担比RSTRを増加させることによって、ドライバに操舵トルクを感じさせて漫然度向上状態を報知することができ、ドライバの漫然度の低下及び自主的な運転操作を促すことができる。また、漫然度Lが向上していない状態では、操舵制御手段190の制御分担比RSTRを低くすることができるため、システムとドライバとの干渉を防止して、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
(3)覚醒度A及び漫然度Lのそれぞれに評価値1〜3を設定し、覚醒度A及び漫然度Lのうち評価値が大きいものに基づいて制御分担比RSTR:RDYCを設定することによって、ドライバの状態に応じた適切な制御分担比の設定を行うことができる。
【0045】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施例は、覚醒度及び漫然度に基いて操舵力制御と制駆動力制御との制御分担比を設定しているが、本発明はこれに限らず、覚醒度又は漫然度のいずれか一方にのみ基いて制御分担比を設定してもよい。この場合、覚醒度の低下とともに、または、漫然度の向上とともに操舵力制御の制駆動力制御に対する制御分担比を増加させるようにするとよい。
(2)覚醒度及び漫然度を検出する方法は、実施例のものに限定されず、適宜変更することができる。例えば、ドライバによって入力される操舵トルクの履歴を検出し、入力操舵トルクが所定値以下の状態の継続時間に基づいて覚醒度を検出するようにしてもよい。
(3)上述した実施例では、左右のインホイールモータのトルク差によってヨーモーメントを発生させているが、本発明はこれに限らず、エンジン等の駆動力を左右不均等配分するトルク配分装置を用いて、左右駆動輪に駆動力差を与えてヨーモーメントを発生させる駆動力制御と、操舵機構に操舵力を付与する操舵制御との制御分担比設定にも適用することができる。また、左右輪のサービスブレーキ又はパーキングブレーキの動的制動でのブレーキ制動力差によってヨーモーメントを発生させる制動力制御と、操舵制御との制御分担比設定にも適用することができる。
(4)実施例では、環境認識手段はステレオカメラを用いて車線形状を検出しているが、本発明はこれに限らず、例えばナビゲーション装置等のために準備された地図データ及び自車位置の測位情報に基づいて車線形状を検出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明を適用した操向支援装置の実施例を備えた車両のシステム構成を示す図である。
【図2】図1の操向支援装置の操向制御ECU100の構成を示す図である。
【図3】自車両、走行車線及び操向目標位置の平面的配置の一例を示す図である。
【図4】図1の操向支援装置における覚醒度、漫然度と制御分担比との関係を示す図である。
【図5】図1の操向支援装置における操向支援制御を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0047】
10 エンジン 20(20L,20R) モータ
30 インバータ 40 モータ制御ECU
50 電動パワーステアリング(EPS)装置
51 電動パワーステアリング(EPS)ECU
52 モータ 53 操舵角センサ
100 操向制御ECU 110 環境認識手段
111 ステレオカメラ 112 画像処理部
120 目標走行位置設定手段 130 自車進行路推定手段
131 車速センサ 132 ヨーレートセンサ
140 目標操向量設定手段 150 ドライバカメラ
160 覚醒度検出手段 170 漫然度検出手段
180 制御分担比設定手段 190 操舵力制御手段
200 制駆動力制御手段
FL 左前輪 WFR 右前輪
RL 左後輪 WRR 右後輪
OV 自車両 WL 白線
Xc 目標走行位置 Xe 自車両推定横位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両前方の環境情報に基づいて自車両を操向する操向支援装置において、
自車両前方の環境情報を認識する環境認識手段と、
自車両の車両状態を検出する車両状態検出手段と、
操舵機構に操舵力を付与する操舵制御手段と、
左右輪の制駆動力差を生じさせてヨーモーメントを発生させる制駆動力制御手段と、
前記環境認識手段及び前記車両状態検出手段を用いて自車両の目標操向量を設定する目標操向量設定手段と、
前記目標操向量に基づいて前記操舵制御手段の目標操舵量及び前記制駆動力制御手段の目標制駆動力差を設定する操向制御手段と、
ドライバの覚醒度を検出する覚醒度検出手段と
を備え、
前記操向制御手段は、前記覚醒度に応じて前記目標操向量に対する前記目標操舵量と前記目標制駆動力差との制御分担比を設定し、前記覚醒度の低下に応じて、前記目標操向量に対する前記目標操舵量の割合が増加するように前記制御分担比を設定すること
を特徴とする操向支援装置。
【請求項2】
前記ドライバの漫然度を検出する漫然度検出手段を備え、
前記操向制御手段は、さらに前記漫然度に応じて前記制御分担比を設定し、前記漫然度の向上に応じて前記目標操向量に対する前記目標操舵量の割合が増加するように前記制御分担比を設定すること
を特徴とする請求項1に記載の操向支援装置。
【請求項3】
前記操向制御手段は、前記覚醒度及び前記漫然度のそれぞれに評価値を設定し、前記覚醒度及び前記漫然度のうち前記評価値が大きいものに基づいて前記制御分担比を設定すること
を特徴とする請求項2に記載の操向支援装置。
【請求項4】
自車両前方の環境情報に基づいて自車両を操向する操向支援装置において、
自車両前方の環境情報を認識する環境認識手段と、
自車両の車両状態を検出する車両状態検出手段と、
操舵機構に操舵力を付与する操舵制御手段と、
左右輪の制駆動力差を生じさせてヨーモーメントを発生させる制駆動力制御手段と、
前記環境認識手段及び前記車両状態検出手段を用いて自車両の目標操向量を設定する目標操向量設定手段と、
前記目標操向量に基づいて前記操舵制御手段の目標操舵量及び前記制駆動力制御手段の目標制駆動力差を設定する操向制御手段と、
ドライバの漫然度を検出する漫然度検出手段と
を備え、
前記操向制御手段は、前記漫然度に応じて前記目標操向量に対する前記目標操舵量と前記目標制駆動力差との制御分担比を設定し、前記漫然度の向上に応じて前記目標操向量に対する前記目標操舵量の割合が増加するように前記制御分担比を設定すること
を特徴とする操向支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−58691(P2010−58691A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227068(P2008−227068)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】