説明

磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁気抵抗効果素子の製造方法

【課題】磁気抵抗効果素子の素子特性の向上を図る。
【解決手段】本実施形態の磁気抵抗効果素子は、膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有し、磁化の向きが不変な第2の磁性層92と、膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有し、磁化の向きが可変な第1の磁性層91と、第1及び第2の磁性層91,92との間に設けられた非磁性層93と、を具備し、第1の磁性層92は、Tb、Gd及びDyからなる第1のグループから選択される少なくとも1つの元素とCo及びFeからなる第2のグループから選択される少なくとも1つの元素とを含む磁化膜21を備え、磁化膜21は、アモルファス相29と粒径が1nm以下の結晶28とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁気抵抗効果素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピン注入型MRAMにおいて、垂直磁化膜が用いられた磁気抵抗効果素子は、書き込み電流の低減およびメモリの大容量化に有効である。
【0003】
スピン注入型MRAMに用いられる磁気抵抗効果素子において、参照層に用いられる垂直磁化膜の材料は、記憶層の磁化のシフト調整の観点から、参照層の飽和磁化を小さく設計できる材料であることが望まれる。
【0004】
例えば、アモルファスのTbCoFe膜は、TbとCoFeの組成比を調整することによって、磁化膜の飽和磁化を変えることが可能なため、垂直磁化膜の参照層として有望な材料である。
【0005】
しかし、アモルファスのTbCoFe膜は、垂直磁気異方性における耐熱性が悪い。そのため、磁気抵抗効果素子の部材(例えば、トンネルバリア層)を結晶化させるための加熱処理を、十分な熱量(加熱温度)で実行できない。それゆえ、アモルファスのTbCoFe膜を用いた磁気抵抗効果素子は、素子特性を向上させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−080746号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Nakayama et al., “Spin transfer switching in TbCoFe/CoFeB/MgO/CoFeB/TbCoFe magnetic tunnel junctions with perpendicular anisotropy”, Journal of Applied Physics, vol 103, 07A710 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁気抵抗効果素子の素子特性の向上を図る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態の磁気抵抗効果素子は、膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有し、磁化の向きが不変な第1の磁性層と、膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有し、磁化の向きが可変な第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、を具備し、前記第1の磁性層は、Tb、Gd及びDyからなる第1のグループから選択される少なくとも1つの元素とCo及びFeからなる第2のグループから選択される少なくとも1つの元素とを含む磁化膜を備え、前記磁化膜は、アモルファス相と粒径が0.5nm以上の結晶とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の基本構造を示す断面図。
【図2】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構造を示す断面図。
【図3】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を説明するための一工程図。
【図4】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を説明するための一工程図。
【図5】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の磁気特性を示すグラフ。
【図6】磁気抵抗効果素子の磁性層の断面構造を示す図。
【図7】磁気抵抗効果素子の磁性層の平面構造を示す図。
【図8】磁性層内の元素濃度と磁性層の磁気特性との関係を示すグラフ。
【図9】磁性層内の元素濃度と磁性層の磁気特性との関係を示すグラフ。
【図10】磁性層内の元素濃度と磁性層の磁気特性との関係を示すグラフ。
【図11】磁性層内の元素濃度と磁性層の磁気特性との関係を示すグラフ。
【図12A】磁気抵抗効果素子の磁性層の断面構造を示す図。
【図12B】磁気抵抗効果素子の構造例を示す図。
【図13】図12の磁性層の磁気特性を示す図。
【図14】EELSの分析結果を示すグラフ。
【図15】EELSの分析結果を示すグラフ。
【図16A】第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構造を示す断面図。
【図16B】第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構造を示す断面図。
【図17】第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構造を示す断面図。
【図18】実施形態の適用例のMRAMを示す回路図。
【図19】適用例のMRAMのメモリセルの構造を示す断面図。
【図20】適用例のMRAMのメモリセルの製造方法の一工程を示す断面図。
【図21】適用例のMRAMのメモリセルの製造方法の一工程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、各実施形態に係る磁気抵抗効果素子について詳細に説明する。以下の説明において、同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複する説明は必要に応じて行う。
【0012】
[実施形態]
(1) 基本例
図1を用いて、本実施形態の磁気抵抗効果素子の基本構成について説明する。
【0013】
本実施形態の磁気抵抗効果素子は、2つの磁性層91,92と、2つの磁性膜91,92間に設けられた非磁性層93とを含む。
【0014】
2つの磁性膜91,92は、垂直磁化膜であり、磁性層91,92の磁化は、膜面に対して垂直方向を向いている。
【0015】
2つの磁性層91,92のうち、一方の磁性層92の磁化の向きは、不変にされ(固定され)、他方の磁性層91磁化の向きは、可変にされている。
【0016】
磁性層の磁化の向きを変えるとき、磁気抵抗効果素子1に電流Iwが流される。磁化が可変な磁性層91の磁化の向きは、スピン注入によって、変化される。すなわち、磁性層91の磁化の向きは、スピン偏極した電子が磁性層91の磁化(スピン)に作用することによって、変化する。スピン偏極した電子を含む電流Iwは、磁化の向きを変化させる方向に応じて、磁気抵抗効果素子1を双方向に流れる。
【0017】
2つの磁性層91,92のうち少なくとも一方の磁性層(ここでは、磁性層92)は、その一部分に、テルビウム(Tb)、ガドリニウム(Gd)及びジスプロシウム(Dy)のグループ(第1のグループ)から選択される少なくとも1つの元素と、コバルト(Co)及び鉄(Fe)のグループ(第2のグループ)から選択される少なくとも1つの元素とを含んでいる磁化膜21を、有する。その磁化膜21は、アモルファス相29と結晶28とを含んでいる。磁化膜21内の複数の結晶28は、例えば、粒径(直径、最大寸法)が0.5nm(5Å)以下の結晶(微結晶ともよぶ)である。
【0018】
例えば、磁性層92内の磁化膜21は、TbCoFe膜21である。磁化膜21としてのTbCoFe膜21は、Tb及びCo及びFeのうち少なくとも1つの元素を含むアモルファス相29と、Co及びFeのうち少なくとも1つの元素を含む結晶(結晶粒又は結晶相)28とを含んでいる。例えば、TbCoFe膜21内の結晶28は、膜断面方向に対して、1.2Å(0.12nm)〜1.6Å(0.16nm)の面間隔(第1の面間隔)及び1.9Å(0.19nm)〜2.3Å(0.23nm)の面間隔(第1の面間隔)の結晶構造を有する。
【0019】
尚、磁気抵抗効果素子1内の両方の磁性層91,92が、アモルファス相29と結晶28とを含む磁化膜21を、含んでいてもよい。
【0020】
このように、磁性層92内の磁化膜21が、結晶28とアモルファス相29とを含むことによって、磁化膜(例えば、TbCoFe膜)21の磁気特性が、高温(例えば、300℃以上)の加熱処理に起因して劣化するのを、抑制できる。それゆえ、本実施形態の磁気抵抗効果素子によれば、素子の耐熱性を向上でき、十分な熱量の加熱処理によって、素子の構成部材の結晶化を促進できる。
【0021】
したがって、本実施形態の磁気抵抗効果素子は、素子特性を向上できる。
【0022】
(2) 第1の実施形態
図2乃至図15を参照して、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子について、説明する。
【0023】
(a) 構造
図2を用いて、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子の構造について、説明する。
【0024】
本実施形態の磁気抵抗効果素子1Aは、MTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子1Aである。
【0025】
本実施形態のMTJ素子1Aは、下部電極51、下地層40、第1の磁性層10、非磁性層30、第2の磁性層20、及び上部電極52とを含んでいる。
【0026】
本実施形態のMTJ素子1Aにおいて、第1及び第2の磁性層10,20は、膜面に対して垂直な方向に、大きな磁気異方性を有し、第1及び第2の磁性層10,20の磁化の向きは、膜面に対して垂直になっている。つまり、第1及び第2の磁性層10,20は、垂直磁化膜である。
【0027】
第1の磁性層10は、磁化の向きが可変である。第2の磁性層20は、磁化の向きが不変である。本実施形態において、磁化の向きが可変な磁性層のことを、記録層(磁化自由層、自由層)とよび、磁化の向きが不変な磁性層のことを、参照層(磁化不変層、固定層ともよばれる)とよぶ。
【0028】
記録層10の磁化の向きは、スピン注入(電流の供給)によって、変化される。すなわち、記録層10の磁化の向きは、スピン偏極した電子が、記録層10の磁化(スピン)に作用することによって、変化する。
【0029】
ここで、「参照層20の磁化の向きが不変である」或いは「参照層20の磁化の向きが固定されている」とは、記録層10の磁化方向を反転させるために使用される磁化反転電流(反転しきい値)を、参照層20に流した場合に、参照層20の磁化の向きが変化しないことを意味する。したがって、MTJ素子1において、反転しきい値の大きな磁性層を参照層20として用い、参照層20よりも反転しきい値の小さい磁性層を記録層10として用いることによって、磁化の向きが可変の記録層10と磁化の向きが不変の参照層20とを備えたMTJ素子1が形成される。
【0030】
本実施形態のMTJ素子は、例えば、スピン注入磁化反転方式によって、記録層10と参照層20との相対的な磁化の向きが反転される。
【0031】
記録層10の磁化の向きと参照層20の磁化の向きとを平行状態にする場合、つまり、記録層10の磁化の向きを参照層20の磁化の向きと同じにする場合、記録層10から参照層20に向かって流れる電流が、MTJ素子1Aに供給される。この場合、電子は、トンネルバリア層30を経由して、参照層20から記録層10に向かって移動する。参照層20及びトンネルバリア層30を通過した電子のうち、マジョリティーな電子(スピン偏極した電子)は、参照層20の磁化(スピン)の向きと同じ向きを有している。このスピン偏極した電子のスピン角運動量(スピントルク)が、記録層10の磁化に印加され、記録層10の磁化の向きが反転する。この平行配列のとき、MTJ素子1の抵抗値は最も小さくなる。
【0032】
記録層10の磁化の向きと参照層20の磁化の向きとを反平行状態にする場合、つまり、記録層10の磁化の向きを参照層20の磁化の向きに対して反対にする場合、参照層20から記録層10に向かって流れる電流が、MTJ素子1Aに供給される。この場合、電子は、記録層10から参照層20に向かって移動する。参照層20の磁化の向きと反平行のスピンをもつ電子は、参照層20によって反射される。反射された電子は、スピン偏極した電子として、記録層10に注入される。このスピン偏極した電子(反射された電子)のスピン角運動量が、記録層10の磁化に印加され、記録層10の磁化の向きは、参照層20の磁化の向きと反対(反平行配列)になる。この反平行配列のとき、MTJ素子1の抵抗値は最も大きくなる。
【0033】
図2のMTJ素子1Aは、参照層20が、非磁性層30を挟んで記録層10上方に積層されたトップピン型のMTJ素子である。
【0034】
以下では、本実施形態のMTJ素子1Aにおいて、記録層10及び参照層20は、多層構造を有する。以下において、部材Aと部材Bとの多層構造(又は積層構造)を示す場合に、“A/B”と表記する。これは、“/”の左側の部材“A”が、“/”の右側の部材“B”上に積層されていることを示している。
【0035】
下部電極51は、基板(図示せず)上に設けられる。
【0036】
下部電極51は、Ta/Cu/Taからなる多層構造を有する。
下部電極51の最下層のタンタル(Ta)膜は、150Å(15nm)の膜厚を有する。下部電極51の最上層のTa膜は、200Å(20nm)の膜厚を有する。2つのTa膜に挟まれた銅(Cu)膜は、350Å(35nm)の膜厚を有する。
【0037】
下地層40は、原子稠密面を有する。これによって、大きな垂直磁気異方性の記録層10が形成される。例えば、下地層40は、Pd/Ir/Ruからなる多層構造を有する。最下層のルテニウム(Ru)膜の膜厚は、50Å(5nm)である。イリジウム(Ir)膜の膜厚は、50Å(5nm)である。パラジウム(Pd)膜の膜厚は、2Å(0.2nm)である。Ru膜は、Ir膜及びPd膜の結晶配向を制御するために、例えば、hcp(0001)面(c軸方向)に結晶配向している。Ir膜及びPd膜は、記録層10に対して、記録層の垂直磁気異方性を向上させる効果を有する。Ir膜及びPd膜の膜厚を調整することによって、記録層10の垂直磁気異方性の大きさを変化させることができる。尚、下地層40のPd膜は、記録層10の一部とみなしてもよい。
【0038】
記録層10は、下地層40上に設けられている。記録層10は、CoFeB/Ta/CoB/Coの多層構造を有している。最下層のコバルト(Co)膜は、下地層40のPd膜上面に接触している。Co膜11は、垂直磁化膜である。Co膜11の膜厚は、例えば。5Å(0.5nm)である。Co膜11上には、コバルト−ボロン(CoB)膜が設けられている。CoB膜の膜厚は、例えば、4Å(0.4nm)である。CoB膜12上には、タンタル(Ta)膜が設けられている。Ta膜は、例えば、3Å(0.3nm)の膜厚を有している。Ta膜上には、コバルト−鉄−ボロン(CoFeB)膜が設けられている。CoFeB膜の膜厚は、例えば、8Åである。
【0039】
記録層10のうち、CoFeB/Ta/CoBからなる多層構造のように、垂直磁化膜(ここでは、Co膜)11と記録層10との近傍の部分12は、界面層とよばれる場合もある。尚、Ta膜とCo膜との間のCoB膜の代わりに、CoFeB膜が用いられてもよい。また、最上層のCoFeBの代わりに、FeB膜が用いられてもよい。また、界面層12内のTa膜の代わりに、タングステン(W)膜、ニオブ(Nb)膜、又は、モリブデン(Mo)膜が用いられてもよい。
【0040】
Ta膜上に形成されたCoFeB膜は、記録層10の磁化の向きと参照層20の磁化の向きが平行の場合と反平行の場合とで生じる抵抗差(又はMR比)を大きくするために、用いられている。但し、CoFeB膜の厚さを厚くすると、記録層10の垂直磁気異方性が劣化するため、膜厚を適切な大きさにすることが好ましい。Ta膜上のCoFeB膜の膜厚は、7Å(0.7nm)〜12Å(1.2nm)の範囲であることが好ましい。
【0041】
また、Ta膜は、Pd原子が非磁性層30へ拡散するのを抑制し、その結果として、MR比の向上に寄与する。但し、Ta膜が厚くなると、Ta原子が非磁性層30に拡散し、MR比を低下させてしまう。そのため、Ta膜の膜厚は、5Å(0.5nm)以下であることが好ましい。
【0042】
Ta膜の下方に形成されたCoB膜(或いはCoFeB膜)及びCo膜は、記録層10の垂直磁気異方性の大きさに寄与する。ただし、CoB膜(或いはCoFeB膜)及びCo膜の膜厚を厚くすると、記録層10に対するスピン注入による磁化反転電流が大きくなる。そのため、CoB膜(或いはCoFeB膜)及びCo膜の膜厚は、それぞれ、10Å(1.0nm)以下であることが好ましい。
【0043】
CoFeB/Ta/CoB層も、垂直磁気異方性を示すのはもちろんである。
【0044】
非磁性層30は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)膜である。MgO膜のような絶縁膜が用いられた非磁性層30は、トンネルバリア層とよばれる。以下では、非磁性層のことを、トンネルバリア層30とよぶ。トンネルバリア層30としてのMgO膜は、10Å(1nm)の膜厚を有する。
【0045】
例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化チタン(TiO)、酸化バナジウム(VO)、酸化ニオブ(NbO)が、非磁性層に用いられてもよい。MgOを含むこれらの酸化物は、塩化ナトリウム(NaCl)構造を有する。
【0046】
これらのNaCl構造を有する酸化物が非磁性層(トンネルバリア層)として用いられる場合、(001)面(又は方位)及びそれに等価な面(又は方位)に配向していることが好ましい。
【0047】
参照層20は、トンネルバリア層30上に設けられている。本実施形態において、参照層20は、TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeBからなる多層構造を有する。
【0048】
参照層20内の最下層のCoFeB膜25は、トンネルバリア層(MgO膜)30に接触する。最下層のCoFeB膜25の膜厚は、15Å(1.5nm)程度である。Ta膜26は、2つのCoFeB膜25,27に挟まれている。Ta膜26の膜厚は、3Å(0.3nm)程度である。Ta膜26上のCoFeB膜27は、4Åの膜厚を有する。
【0049】
参照層20内の最上層のTbCoFe膜21は、例えば、120Å(12nm)の膜厚を有する。TbCoFe膜21は、垂直磁化膜である。TbCoFe膜におけるTbの組成比は、例えば、13atomic%であるが、この値に限定されない。TbCoFe膜におけるTbの組成比は、10atomic%以上であることが好ましい。また、TbCoFe膜におけるTbの組成比が、20atomic%以上に設定されることで、垂直磁化膜21の磁化の向きと界面層22の磁化の向きとを反平行することが可能になる。これによって、参照層20から記録層10に印加される漏れ磁場を低減できる。参照層20から記録層10に印加される漏れ磁場は、記録層10の磁化反転磁場を変化させ、記録層10の熱擾乱耐性を劣化させるため、漏れ磁場はゼロであることが望ましい。
【0050】
参照層20から記録層10に印加される漏れ磁場は、上部電極52と参照層20との間、或いは、下地層40と下部電極15との間に、参照層20の磁化の向きに対して反平行に磁化が向いている垂直磁化膜(バイアス層)が挿入されることによって、ゼロにできる。
【0051】
TbCoFe膜におけるTbの組成比を20atmic%以上にすることによって、参照層20から記録層10へ印加される漏れ磁場をゼロにするためのバイアス層を挿入しなくともよくなる。これによって、MTJ素子の薄膜化が可能になり、膜の積層方向におけるMTJ素子の寸法を低減できる。
【0052】
参照層20は、記録層10と同様に、垂直磁化膜(第1の磁化膜)21とトンネルバリア層30との界面近傍で、界面層22を含む。上記の参照層20において、CoFeB/Ta/CoFeB膜25,26,27が、参照層20内の界面層22に相当する。界面層(第2の磁化膜)22も、膜面に対して垂直な磁気異方性を有する。
【0053】
本実施形態において、界面層22内にTa膜(又は、W膜、Nb膜、Mo膜)26のことを、挿入膜ともよぶ。
【0054】
尚、参照層20及び記録層10中の界面層において、Co、Fe及びBを含む合金膜であれば、CoFeB膜とは異なる膜が界面層の構成要素として用いられてもよい。
【0055】
上部電極52は、参照層20上に設けられる。上部電極52は、Ru/Taの積層構造を有する。上部電極52下層のTa膜は、50Å(5nm)程度の膜厚を有する。Ta膜は、参照層20のTbCoFe膜21に接触する。Ta膜上には、Ru膜が積層されている。Ru膜の膜厚は、200Å(20nm)である。
【0056】
尚、本実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)内の各膜は、互いに隣接する膜の構成元素をわずかに含む場合や、隣接する2つ膜の構成元素の化合物層が2つの膜の界面に薄く形成する場合があるのはもちろんである。
【0057】
第1の実施形態の磁気抵抗効果素子1Aにおいて、参照層(第2の磁性層)20は、TbCoFe膜21を含んでいる。
【0058】
TbCoFe膜21は、Tb及びCo及びFeのうち少なくとも1つの元素を含むアモルファス相29と、Co及びFeのうち少なくとも1つの元素を含む結晶(結晶粒又は結晶相)28とを含んでいる。TbCoFe膜21内の結晶28は、例えば、粒径が0.5nm(5Å)以上の結晶である。以下では、1nm以下の粒径を有する結晶粒/結晶相のことを、微結晶とよぶ。例えば、微結晶の粒径は、磁性層内に含まれる複数の微結晶の平均粒径で規定される。
【0059】
例えば、TbCoFe膜21の微結晶は、膜断面方向に対して、1.2Å(0.12nm)〜1.6Å(0.16nm)の面間隔及び1.9Å(0.19nm)〜2.3Å(0.23nm)の面間隔の結晶構造を有する。
【0060】
尚、TbCoFe膜21において、ガドリニウム(Gd)やジスプロシウム(Dy)がさらに添加されてもよい。また、TbCoFe膜21のTbの代わりに、GdやDyが用いられてもよい。参照層20の垂直磁化膜21にGdやDyが用いられた場合においても、その垂直磁化膜21は、アモルファス相29と結晶28とを含む。また、Co又はFeの代わりに、ニッケル(Ni)やマンガン(Mn)が、アモルファス相29と結晶28とを含む垂直磁化膜21に用いられてもよい。
【0061】
参照層20内の垂直磁化膜(ここでは、TbCoFe膜)21が、アモルファス相29と結晶28とを含むことによって、参照層20に、300℃以上の熱が与えられても、TbCoFe膜21の全体が結晶化することはなくなる。つまり、アモルファス相29と結晶28とを含むTbCoFe膜21に高温(300℃以上)の加熱処理が施されても、ランダムに配向した結晶28によってアモルファス相29の結晶化が抑制され、加熱によるTbCoFe膜21の磁気特性の劣化は、抑制される。
【0062】
それゆえ、本実施形態の磁気抵抗効果素子は、耐熱性が向上し、例えば、結晶化のための加熱処理において、十分な熱を磁気抵抗効果素子の構成部材に与えることができる。
【0063】
したがって、本実施形態の磁気抵抗効果素子によれば、磁気抵抗効果素子の素子特性を向上できる。
【0064】
(b) 製造方法
図3及び図4を用いて、本実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法について、説明する。図3及び図4は、磁気抵抗効果素子の製造方法における断面工程図をそれぞれ示している。尚、ここでは、図2の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の構造を例示するが、これに限定されず、素子に用いられる材料の組み合わせや材料の組成は、適宜変更可能であるのは、もちろんである。
【0065】
図3に示されるように、基板100上に、下部電極を形成するための電極層51Aが、例えば、スパッタ法を用いて、形成される。電極層51Aは、Ta/Cu/Taの多層構造を有する。
【0066】
下地層40Aが、例えば、スパッタ法を用いて、電極層51A上に堆積される。
【0067】
下地層40Aは、原子稠密面を有する。例えば、下地層40Aは、Pd/Ir/Ruからなる多層構造を有する。
【0068】
記憶層となる磁性層10Aが、下地層40A上に、例えば、スパッタ法を用いて、堆積される。磁性層10Aは、例えば、CoFeB/Ta/CoB/Coからなる多層構造を有する。磁性層10Aが原子稠密面を有する下地層40A上に堆積されることによって、垂直磁気異方性を有する磁性層10Aが形成される。
【0069】
磁性層10A上に、非磁性層(トンネルバリア層)30Aが、堆積される。非磁性層30Aは、例えば、MgO膜である。
【0070】
非磁性層30A上に、参照層を形成するための磁性層20Aが堆積される。磁性層20Aは、多層構造を有する。非磁性層30A上に、参照層の界面層となる層25A,26A,27Aが堆積される。界面層は、例えば、CoFeB膜の堆積中にTa膜が挿入されることによって形成される。すなわち、非磁性層30A上に、CoFeB膜25Aが堆積される。CoFeB膜25A上には、Ta膜26Aが堆積される。Ta膜26A上には、CoFeB膜27Aが堆積される。これによって、CoFeB/Ta/CoFeBからなる多層構造の界面層25A,26A,27Aが、非磁性層30A上に、形成される。
【0071】
CoFeB膜27A上に、多層膜21Aが堆積される。多層膜21Aは、第1の膜23と第2の膜24とが交互に積層された構造を有する。第1の膜23は、第2の膜24上に積層される。
【0072】
界面層(CoFeB膜)27A上に形成される磁性層が、TbCoFe膜である場合、例えば、第1の膜23には、CoFe膜が用いられ、第2の膜24には、TbCo膜が用いられる。ここでは、第1の膜23のことを、CoFe膜23とよび、第2の膜24のことを、TbCo膜24とよぶ。CoFe膜23は、TbCo膜24上に積層される。また、CoFe膜23がTbCo膜24上に積層された構造のことを、CoFe/TbCo膜ともしめす。CoFe膜23は、例えば、3Å(0.3nm)程度の膜厚になるように堆積され、TbCo膜24は、例えば、3Å(0.3nm)程度の膜厚になるように、堆積される。
【0073】
1組のCoFe/TbCo膜23,24を1周期とする場合、例えば、20周期のCoFe/TbCo膜23,24が、非磁性層30A上方(界面層上)に積層される。尚、多層膜21A内のCoFe/TbCo膜の周期数(積層数)は、形成される磁性層(ここでは、TbCoFe膜)の膜厚に応じて変化するのはもちろんである。
【0074】
また、多層膜21A内の第1及び第2の膜23,24の組み合わせは、形成される磁性層の主成分及び組成に応じて、適宜変更可能である。形成される参照層がTbCoFe膜である場合、上述のTbCo膜とCoFe膜との積層膜のほかに、例えば、TbFe膜とCoFe膜との積層膜、TbCo膜とFe膜との積層膜、TbCo膜とCo膜との積層膜、TbFe膜とCo膜との積層膜、TbFe膜とFe膜との積層膜、TbCoFe膜とFe膜との積層膜、TbCoFe膜とCo膜との積層膜、或いは、TbCoFe膜とCoFe膜との積層膜が、多層膜21Aに用いられてもよい。尚、ここでは、組成の異なる2種類の膜23,24が、多層膜21Aに用いられているが、組成の異なる3種類以上の膜が、多層膜21Aに用いられてもよい。
【0075】
多層膜21Aの垂直磁気異方性を保持させるために、多層膜21AにおけるTbの組成比は10atomic%以上であることが好ましい。多層膜21AにおけるTbの組成比が10atomic%以上になる場合、第2の膜24としてのTbCo膜におけるTbの組成比は25atomic%以上となる。そのため、第2の膜24としてのTbCo膜におけるTbの組成比は25atomic%以上であることが好ましい。
【0076】
Tbを含む膜の代わりに、Dy又はGdを含む膜を、多層膜21Aに用いてもよい。一例としては、DyCo膜とCoFe膜との積層膜や、GdCo膜とCoFe膜との積層膜が、多層膜21Aとして用いられる。また、膜内のTbの一部がDy又はGdに置換された膜、即ち、TbとDyの両方を含む膜、或いは、TbとGdの両方を含む膜が、多層膜21Aに用いられてもよい。一例としては、TbDyCo膜とFe膜との積層膜や、TbGdCo膜とFe膜との積層膜が用いられる。
【0077】
多相膜21A上に、上部電極を形成するための電極層52Aが、例えば、スパッタ法を用いて、形成される。電極層52Aは、Ru/Taの積層構造を有する。
【0078】
これによって、磁気抵抗効果素子(MTJ素子)を形成するための積層体が、基板上に形成される。尚、形成される磁気抵抗効果素子の構造に応じて、各層の積層順序が異なるのはもちろんである。
【0079】
この後、基板100上に堆積された積層体に対して、加熱処理が実行される。加熱処理は、例えば、300℃〜400℃程度の加熱温度で、30分程度実行される。
【0080】
界面層27A上の多層膜21A内の各膜(ここでは、CoFe/TbCo膜)23,24は、熱エネルギーが与えられることによって、Co及びFe及びTbの相互拡散が生じる。これによって、図4に示されるように、界面層27A上に、参照層の垂直磁化膜としてのTbCoFe膜21が形成される。
【0081】
TbCoFe膜21は、アモルファス相29と結晶(結晶粒又は結晶相)28とを含む。アモルファス相29は、Tb及びCo及びFeのうち少なくとも1種類の元素を含み、結晶28は、Co及びFeのうち少なくとも1種類の元素を含む。アモルファス相及び結晶をそれぞれ形成する元素の種類は、磁化膜21内の膜23,24の構成元素の種類に応じて変化するのはもちろんである。
【0082】
尚、加熱処理によらず、堆積時の温度上昇や膜の界面における原子の拡散(原子のマイグレーション)によって、CoFe/TbCo膜が堆積された時点で、結晶28が多層膜21A内に析出する場合も起こりうるのはもちろんである。
【0083】
結晶28は、その粒径が0.5nm以上の結晶である。TbCoFe膜21の微結晶28は、膜断面方向に対して、1.2Å(0.12nm)〜1.6Å(0.16nm)の面間隔及び1.9Å(0.19nm)〜2.3Å(0.23nm)の面間隔の結晶構造を有する。
【0084】
このように、結晶構造が異なる(ランダムな)結晶28が磁化膜(ここでは、TbCoFe膜)21内に形成されることによって、結晶構造の異なる結晶28が互いに干渉しあい、熱処理による結晶粒の粗大化が抑制され、且つ、磁化膜21のアモルファス相29の結晶化が抑制される。それゆえ、磁化膜21の全体が結晶化することはない。また、磁化膜21がアモルファス相29と微細な結晶28とを含むことによって、MTJ素子が形成された後の工程で加熱処理(例えば、層間絶縁膜の堆積)が行われても、垂直磁化膜21のアモルファス相29の結晶化や微結晶の分解/再結晶化はほとんど生じない。
それゆえ、アモルファス相29と微結晶28とを含むTbCoFe膜は、磁気特性が劣化することなしに、大きな垂直磁気異方性を有する。
【0085】
粒径が0.5nm(5Å)以上の結晶を磁化膜21内に形成するために、CoFe膜23の膜厚が2nmより厚くなると、CoFe膜は面内磁化膜となる。それに起因して、CoFe膜を用いて形成される記録層10の垂直磁気異方性が、劣化する。それゆえ、多層膜内のCoFe膜23の膜厚は、上述の3Å〜4Åのように、20Å(2nm)以下の厚さで形成されることが好ましい。また、多層膜内のCoFe膜23及びTbCo膜24の膜厚は、形成される結晶28の粒径に依存するので、20Å(2nm)以下の厚さで形成されることが好ましい。
【0086】
この加熱処理によって、トンネルバリア層30Aや第1の磁性層10Aの結晶化が促進される。例えば、トンネルバリア層30AとしてのMgO膜は、(001)面の配向性が向上する。また、第1の磁性層10A内の界面層12は、結晶化したトンネルバリア層30Aに対して格子整合し、結晶化することによって、高いMR比を有するMTJ素子を形成することが可能になる。
【0087】
この後、基板100上の膜51A,40A,10A,30A,20A,52Aが、例えば、フォトリソグラフィー技術及びRIE(Reactive Ion Etching)法を用いて、加工され、図2に示される磁気抵抗効果素子(MTJ素子)1Aが形成される。
【0088】
尚、加熱処理は、磁気抵抗効果素子を所定の形状にした後に、実行されてもよい。
【0089】
以上のように、本実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法は、耐熱性の高い垂直磁化膜(例えば、TbCoFe膜)21を含む磁気抵抗効果素子を形成できる。
【0090】
したがって、本実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法によれば、素子特性の向上した磁気抵抗効果素子を提供できる。
【0091】
(c) 特性
図5乃至図15を参照して、本実施形態の磁気抵抗効果素子1Aの特性について、説明する。
【0092】
(c−1) 垂直磁化膜の結晶構造及び特性
図5は、本実施形態のMTJ素子1AのMR比(Magnetic Resistance ratio)を示している。
【0093】
図5は、300℃、325℃及び350℃の加熱処理をそれぞれ30分間施して、本実施形態のMTJ素子を形成した場合のMR比の変化を示している。
【0094】
図5に示されるように、各温度の加熱処理が施されることによって、本実施形態のMTJ素子は、100%以上のMR比を有する。
【0095】
そして、350℃の熱処理が本実施形態のMTJ素子に施されても、加熱により劣化が生じずに、本実施形態のMTJ素子は高いMR比(例えば、150%以上)を有することが示されている。
【0096】
図6及び図7は、MTJ素子の垂直磁化膜のTEM(Transmission Electron Microscope)による観測結果が示されている。垂直磁化膜は、例えば、TbCoFe膜である。
【0097】
図6のTEM画像は、暗視野像の測定結果を示している。
図6の(a)は、面間隔d=1.9Å(0.19nm)〜2.3Å(0.23nm)に相当する回折スポットにTEMの対物絞りを設定した場合における、本実施形態のTbCoFe膜の断面TEM画像(暗視野像)を示している。
【0098】
図6の(b)は、面間隔d=1.2Å(0.12nm)〜1.6Å(0.16nm)に相当する回折スポットにTEMの対物絞りを設定した場合における、本実施形態のTbCoFe膜の断面TEM画像(暗視野像)を示している。
【0099】
図7は、本実施形態のTbCoFe膜の平面方向のTEM画像による回折リングが示されている。
【0100】
上述したように(図3参照)、垂直磁化膜としてのTbCoFe膜(第1の磁化膜)21は、膜の堆積時、例えば、TbCo膜(3Å程度)24とCoFe膜(3Å程度)23とを20周期程度交互に積層することによって、形成される。
【0101】
図6の(a)及び(b)に示されるような対物絞りの設定条件において、1nm程度の白い斑点が、膜内で同程度に分布していることが観測される。上記の設定条件下において、TEMによって観測された白い斑点は、結晶粒(結晶相)に相当する。
これは、TbCoFe膜21は面間隔(第1の面間隔)がd=1.2Å(0.12nm)〜1.6Å(0.16nm)に相当する結晶と面間隔(第2の面間隔)がd=1.9Å(0.19nm)〜2.3Å(0.23nm)に相当する結晶とを含んでいる、ことを示している。
【0102】
図7の回折リングの位置から、TbCoFe膜が含んでいる結晶は、膜の面内方向に対して平行方向の格子定数が2.4Å(0.24nm)〜2.5Å(0.25nm)程度のhcp(hexagonal close packed lattice)構造を有していると考えられる。
【0103】
回折リングの半値幅(FWHM:Full With Half Maximum)から、TbCoFe膜が含んでいる結晶は、膜の面内方向に対して平行方向の平均結晶粒径が3nm(30Å)と考えられる。
【0104】
さらに、図7の(b)に示されるように、ハローな(ぼやけた)回折リングが観測される。それゆえ、上記の設定条件下のTEM画像において、白い斑点以外の部分(例えば、灰色の部分)は、アモルファス相であると考えられる。
【0105】
これらのTEMを用いた観測結果より、本実施形態の磁気抵抗効果素子に用いられるTbCoFe膜21は、アモルファス相と0.5nm以上の結晶粒径を有する結晶とを含んでいる膜であることが、示される。
【0106】
図5に示されたように、本実施形態のTbCoFe膜を含むMTJ素子は、素子に300℃以上の加熱処理が施されても、加熱による特性劣化を生じずに、100%以上のMR比を示す。つまり、本実施形態のMTJ素子は、TbCoFe膜が垂直磁化膜として用いられていても、高い温度耐性を有する。
【0107】
上述のように、本実施形態において、組成の異なる膜(ここでは、TbCo膜とCoFe膜)を交互に積層することによって形成されるTbCoFe膜内に、ランダムに配向した結晶28が析出される。析出した結晶28によって、ピニングサイトが形成される。
【0108】
膜内にランダムに配向した複数の結晶28は、膜内のアモルファス相29を不連続にする、又は、1つのアモルファス相29の大きさ(体積)を小さくする。この結果として、アモルファス相29は結晶化しにくくなる。或いは、膜内にランダムに含まれる結晶28が、アモルファス相29の構成原子が加熱により規則的に再配列するのを抑制する。それゆえ、大きい熱量がTbCoFe膜21に与えられたとしても、TbCoFe膜21の結晶構造の変化、つまり、アモルファス相29の結晶化は、膜内の結晶28によって抑制されると考えられる。その結果、アモルファス相29が有する垂直磁気異方性は、300℃以上の加熱処理が施されても、保持される。
【0109】
これらのことから、加熱処理がMTJ素子に施されても、熱によるTbCoFe膜の劣化が生じず、TbCoFe膜を含むMTJ素子の特性劣化が抑制されると考えられる。
【0110】
このように、本実施形態のMTJ素子は、TbCoFe膜21がアモルファス相29と0.5nm以上の結晶28とを含むことによって、そのTbCoFe膜21を有するMTJ素子の耐熱性が確保される。
したがって、本実施形態の磁気抵抗効果素子によれば、素子特性を向上できる。
【0111】
(c−2) 垂直磁化膜の組成比と磁気特性との関係
図8乃至図11を用いて、本実施形態のMTJ素子1Aに含まれる垂直磁化膜(ここでは、TbCoFe膜)21の組成と磁化膜の磁気特性との関係について、述べる。尚、図8乃至図11に示される数値は一例であって、図8乃至図11に示される数値に、本実施形態が限定されるものではない。
【0112】
図8及び図9は、TbCoFe膜を形成するためのCoFe膜23におけるFeの組成比と磁気特性との関係を示している。図8及び図9に示されるように、TbCoFe膜21は、CoFe膜23が含むFeの濃度を変化させることで、磁気特性を変化させることができる。例えば、CoFe膜23中のFeの組成比を増加させることで、TbCoFe膜の飽和磁化Ms、保磁力Hc及び垂直磁気異方性定数Kuを増加させることができる。
【0113】
より具体的な一例としては、TbCoFe膜を形成するために、TbCo膜とCoFe膜とが積層された場合に、CoFe膜中のFeの濃度を増加させることによって、TbCoFe膜の磁気特性を向上できる。
【0114】
図8は、TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeBからなる構造の磁性層(界面層を含む参照層)において、TbCoFe膜を形成するためのCoFe膜23におけるCoに対するFeの組成比に対する磁性層の保磁力の依存性を示している。
図8に示されるグラフの縦軸は、磁性層の保磁力Hc(単位:Oe)を示している。図8に示されるグラフの横軸は、TbCoFe膜を形成するためのCoFe/TbCo積層膜における各CoFe膜中のFeの濃度(単位:vol.%)を示している。
【0115】
図9は、TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeBからなる構造の磁性層(界面層を含む参照層)において、TbCoFe膜を形成するためのCoFe膜23におけるCoに対するFeの組成比に対する磁性層の飽和磁化の依存性を示している。
図9に示されるグラフの縦軸は、磁性層の飽和磁化Ms(単位:emu/cc)を示している。図9に示されるグラフの横軸は、TbCoFe膜を形成するためのCoFe/TbCo積層膜における各CoFe膜中のFeの濃度(単位:vol.%)を示している。
【0116】
尚、図8及び図9において、CoFe/TbCo積層膜において、CoFe膜が、Feを含まない場合(Fe:0vol.%の場合)、又は、Coを含まない場合(Fe:100vol.%)も示されている。CoFe膜がFeを含まない場合、垂直磁化膜を形成するための積層膜の構造はCo/TbCoとなる。また、CoFe膜がCoを含まない場合、垂直磁化膜を形成するための積層膜の構造はFe/TbCoとなる。
【0117】
図8に示されるように、CoFe/TbCo積層膜中のFeの濃度が増加することによって、磁性層(参照層)の保磁力は向上する。また、図9に示されるように、CoFe/TbCo積層膜中のFeの濃度が増加することによって、磁性層(参照層)の飽和磁化は向上する。
【0118】
このように、TbCoFe膜(TbCoFe膜を形成するための積層膜)中のFeの濃度を増加させることによって、磁性層(垂直磁化膜)の保磁力及び飽和磁化を向上でき、それに伴って、磁性層の垂直磁気異方性定数Kuを増加できる。
【0119】
TbCoFe膜(又は、TbFe膜)が垂直磁化の参照層に用いられる場合において、垂直磁気異方性定数Kuの増加は、参照層の熱擾乱耐性を向上させることに貢献する。
それゆえ、本実施形態のMTJ素子において、記録層10の磁化の向きを変化させる(データを書き込む)際に、参照層20に印加されるスピントルクによって参照層20の磁化が反転しないようにできる。
【0120】
又、図10及び図11に示されるように、TbCoFe膜21は、膜21内のTbの組成を変化させることで、磁気特性を変化させることもできる。
例えば、TbCoFe膜21中のTbの組成を変化させることで、TbCoFe膜の飽和磁化Msを変化させることができる。
【0121】
図10は、TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeBからなる構造の磁性層(界面層を含む参照層)において、TbCoFe膜21中のTbの組成比に対する磁性層の保磁力の依存性を示している。
図10に示されるグラフの縦軸は、磁性層の保磁力Hc(単位:Oe)を示している。図10に示されるグラフの横軸は、TbCoFe膜21中のTbの濃度(単位:atmic%)を示している。
【0122】
図11は、TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeBからなる構造の磁性層(界面層を含む参照層)において、TbCoFe膜21中のTbの組成比に対する磁性層の飽和磁化の依存性を示している。
図11に示されるグラフの縦軸は、磁性層の飽和磁化Ms(単位:emu/cc)を示している。図11に示されるグラフの横軸は、TbCoFe膜21中のTbの濃度(単位:atm.%)を示している。
【0123】
図10及び図11に示されるように、TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeBからなる積層構造の磁性層の保磁力Hcは、TbCoFe膜21中のTbの濃度が所定の値まで増加すると、最大値を示す。TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeB層の保磁力Hcが最大値となるTb膜の濃度を、保障点とよぶ。図10において、TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeB層の保障点は、Tbの濃度が20atmic%〜22atmic%程度のときである。TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeB層のTb膜の濃度が保障点を越えると、TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeB層の保磁力Hcは低下する。
【0124】
TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeB構造の磁性層の保障点までの保磁力Hcの増加にともなって、TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeB層の飽和磁化Msは低下する。そして、保障点(Tb濃度:20atmic%程度)を越えると、TbCoFe/CoFeB/Ta/CoFeB層の飽和磁化Msは増加する。
【0125】
MTJ素子において、参照層20から記録層10へ印加される漏れ磁場が低減されることが好ましい。そのため、参照層20の飽和磁化Msの大きさを、小さくすることが好ましい。本実施形態のMTJ素子によれば、TbCoFe膜21中のTbの濃度を調整することによって、TbCoFe膜21を含む参照層20の飽和磁化を小さくすることができる。
【0126】
図8及び図9に示されるように、TbCoFe膜21中のFeの濃度を増加すると、保磁力Hc及び飽和磁化Msの両方が増加する。
図10及び図11に示されるように、TbCoFe膜21中のTbの濃度をその保障点まで増加させた場合、TbCoFe膜21の保磁力Hcは増加し、その一方で、TbCoFe膜21の飽和磁化Msは、低下する。
【0127】
したがって、図8乃至図11に示されるように、TbCoFe膜の構成元素の組成比を変化させることによって、所定の磁気特性を有する磁性層(参照層又は記録層)を形成できる。
【0128】
また、本実施形態のTbCoFe膜21を含む参照層20の膜厚は、TbCoFe膜を形成するための積層膜(例えば、CoFe/TbCo膜)の積層周期を少なくすることで、薄くできる。
【0129】
上述の例において、CoFe/TbCo膜が、20周期にわたって積層された場合が示されている。TbCo膜の膜厚が3Å(0.3nm)、CoFe膜の膜厚が3Å(0.3nm)である場合、20周期のCoFe/TbCo膜を形成すると、120Å(12nm)のTbCoFe膜が形成される。5周期のCoFe/TbCo膜を形成し、30Å(3nm)の膜厚を有するTbCoFe膜が形成された場合においても、そのTbCoFe膜21は、垂直磁気異方性を示す。
【0130】
TbCoFe膜21の膜厚が30Å程度であっても、そのTbCoFe膜21は、アモルファス相と結晶とを含む。それゆえ、TbCoFe膜を形成するための積層膜の周期数が低減されて、TbCoFe膜が薄くなっても、本実施形態のMTJ素子に用いられるTbCoFe膜21は、高い耐熱性を有する。
【0131】
このように、周期数(積層数)を少なくすることによって、参照層(TbCoFe膜)の膜厚を低減できる。これにともなって、MTJ素子の形成時に生じるアスペクト比(MTJ素子の上面と基板との段差)を小さくでき、MTJ素子の加工難度を低減できる。
【0132】
尚、TbCoFe膜21を形成するための積層膜の組み合わせとして、TbCo膜とCoFe膜との積層構造に限定されない。例えば、TbFe膜とCoFe膜との積層膜、TbCo膜とFe膜との積層膜、TbCo膜とCo膜との積層膜、TbFe膜とCo膜との積層膜、TbFe膜とFe膜との積層膜、TbCoFe膜とFe膜との積層膜、TbCoFe膜とCo膜との積層膜、或いは、TbCoFe膜とCoFe膜との積層膜が、TbCoFe膜を形成するための多層膜21Aに用いられてもよい。
【0133】
また、TbCoFe膜21において、Tbの代わりに、Dyが用いられてもよい。この場合、DyCoFe膜が、図2に示されるMTJ素子1Aの参照層20として、用いられる。TbCoFe膜21中のTbの一部を、Dyに置換してもよい。この場合、TbDyCoFe膜が、MTJ素子1Aの参照層20として、用いられる。TbCoFe膜21中のTbの一部又は全部を、Dyに置換することによって、MTJ素子のMR比を向上できる。
【0134】
さらに、TbCoFe膜21において、Tbの代わりに、Gdが用いられてもよい。この場合、GdCoFe膜が、図2に示されるMTJ素子1Aの参照層20として、用いられる。TbCoFe膜21中のTbの一部を、Gdに置換してもよい。この場合、TbGdCoFe膜が、MTJ素子1Aの参照層20として、用いられる。TbCoFe膜21中のTbの一部又は全部を、Gdに置換することによって、MTJ素子のキュリー温度Tcを向上できる。
【0135】
DyCoFe膜、TbDyCoFe膜、GdCoFe膜またはGdTbCoFe膜においても、これらの膜は、アモルファス相と平均結晶粒径が1nm以下、0.5nm以上の結晶とを含む。
【0136】
以上のように、アモルファス相と結晶とを含む垂直磁化膜(例えば、TbCoFe膜)の組成を調整することによって、磁気抵抗効果素子に用いられる磁性層の磁気特性を制御できる。
【0137】
したがって、本実施形態の磁気抵抗効果素子によれば、素子特性を向上できる。
【0138】
(d) 参照層の界面層の構造
図12A乃至図15を用いて、参照層内の界面層の構造について、説明する。
【0139】
図2に示されるように、磁気抵抗効果素子(MTJ素子)において、TbCoFe膜21とトンネルバリア層30(例えば、MgO膜)との間に、界面層22が設けられている。このように、参照層20内に界面層22が設けられることによって、MTJ素子のMR比は向上する。
【0140】
界面層22として、例えば、CoFeB膜が用いられる。成膜直後の加熱処理を行っていない状態(as-deposit)のCoFeB膜は、アモルファス構造を有する。TbCoFe膜とMgO膜との間に、単層のCoFeB膜が設けられた場合、CoFeB膜に加熱処理が施されることによって、CoFeB膜がMgO膜を下地層として、bcc(001)面及びそれに等価な面に沿って結晶配向する。このCoFeB膜の結晶化によって、MTJ素子のMR比が向上する。
【0141】
しかし、加熱処理の温度が350℃以上になると、結晶化したCoFeB膜がTbCoFe膜に対する下地層として機能し、アモルファスのTbCoFe膜(微結晶を含まないTbCoFe膜)も、bcc(001)面及びそれに等価な面に結晶配向する。その結果として、アモルファスのTbCoFe膜の垂直磁気異方性が劣化する。
【0142】
図12Aは、加熱温度及び界面層の構造を変化させた場合におけるMTJ素子のTEMによる観測結果を示している。図12Bは、TEMによる観測に用いたMTJ素子の構造を示している。
【0143】
観測に用いられたMTJ素子の構造は、以下に通りである。
【0144】
下部電極51は、基板(図示せず)上に設けられている。下部電極51は、W膜51a上にTa膜51bが積層された構造を有する。Ta膜51bの膜厚は、50Å(5nm)である。
【0145】
下部電極51上には、下地層40が設けられている。下地層40は、Ru膜40a上にIr膜40bが積層された構造を有する。Ru膜40aの膜厚は50Å(5nm)程度に設定され、Ir膜40bの膜厚は30Å(3nm)程度に設定される。下地層40は、原子稠密面を有する。Ru膜40aは、Ir膜40bの結晶配向を制御するため、hcp(0001)面(方位)に結晶配向している
下地層40上には、多層構造の記録層10が設けられる。記録層10は、界面層12を有する。
【0146】
多層構造の記録層において、記録層10の界面層12と下地層40との間に、PdCo膜11が設けられている。PdCo膜は、垂直磁化膜である。
【0147】
PdCo膜11は、膜の堆積時、Pd膜とCo膜との積層膜を堆積することによって、形成される。Pd膜とCo膜との積層膜は、2周期分のPd/Co積層膜から形成される。つまり、膜の堆積時、Pd/Coの積層膜は、2つのCo膜と2つのPd膜とからなっている。膜の堆積時において、各Co膜は、3.5Å(0.35nm)の膜厚を有するように堆積され、各Pd膜は、3.5Å(0.35nm)の膜厚を有するように、堆積される。膜の堆積時、Co膜が積層構造の最下層となり、Co膜が下地層の上面に接触するように堆積される。
【0148】
PdCo膜11上に、記録層10の界面層12が設けられている。記録層10の界面層12は、CoFeB/Ta/CoFeBからなる構造を有する。下層(PdCo膜側)のCoFeB膜15aは、5Å(0.5nm)の膜厚を有する。上層(非磁性層側)のCoFeB膜15cは、9Å(0.9nm)の膜厚を有する。2つのCoFeB膜に挟まれたTa膜15bは、3Å(0.3nm)の膜厚を有する。
【0149】
記録層10は、原子稠密面を有する下地層上に形成されることによって、垂直磁化膜となる。
【0150】
記録層10の界面層12上には、トンネルバリア層(非磁性層)としてのMgO膜30が設けられている。MgO膜30は、10Å(1nm)の膜厚を有する。MgO膜30は、(001)面及びそれに等価な面(例えば、(002)面など)に結晶配向している。尚、MgO膜が(001)面に結晶配向しているということは、MgO膜が[001]方位(<001>方位)に配向していることと等価なのはもちろんである。
【0151】
MgO膜30上には、参照層20’が設けられている。参照層20’は、界面層22とTbCoFe膜21’とを含んでいる。
【0152】
参照層20’の界面層22は、TbCoFe膜21’とMgO膜30との間に設けられている。本実施形態において、界面層22は、CoFeB/Ta/CoFeBからなる多層構造を有する。つまり、本実施形態において、界面層22は、2つのCoFeB膜25,27間に、Ta膜が挿入された構造を有する。
【0153】
下層(非磁性層側)のCoFeB膜25は、12Å(1.2nm)の膜厚を有する。上層のCoFeB膜27は、5Å(0.5nm)の膜厚を有する。2つのCoFeB膜に挟まれたTa膜26は、3Å(0.3nm)の膜厚を有する。
【0154】
界面層22の最下層のCoFeB膜25は、(001)面配向したMgO膜(トンネルバリア層)30に接触する。
【0155】
界面層22上に、TbCoFe膜21’が設けられている。TbCoFe膜は、120Åの膜厚を有する。
【0156】
TbCoFe膜21’上に、上部電極52が設けられている。上部電極52は、Ru膜52bとTa膜52aとの積層構造を有する。下層のTa膜52aは、50Å(5nm)の膜厚を有し、上層のRu膜52bは、200Å(20nm)の膜厚を有している。
【0157】
尚、加熱処理の影響を比較するため、参照層20’の界面層22内にTa膜26が挿入されたサンプルのほかに、参照層20’の界面層22内にTa膜が挿入されないサンプルが、作製及び測定されている。
【0158】
図12Aにおいて、300℃の加熱処理が30分間施されたサンプルと、350℃の加熱処理が30分間の加熱処理が施されたサンプルとが示されている。
【0159】
図12Aの(a)及び(b)は、参照層20’の界面層22のCoFeB膜内にTa膜が挿入されていないサンプルのTEMによる断面画像を示している。図12Aの(a)は300℃の加熱処理が施されたサンプルであり、図12Aの(b)は350℃の加熱処理が施されたサンプルである。
【0160】
図12Aの(c)及び(b)は、本実施形態における参照層の界面層を用いたサンプル、つまり、参照層20’の界面層22のCoFeB膜25,27内にTa膜26が挿入されたサンプルのTEMによる断面画像を示している。図12Aの(c)は300℃の加熱処理が施されたサンプルであり、図12Aの(d)は350℃の加熱処理が施されたサンプルである。
【0161】
図12の(a)及び(b)に示されるように、参照層20’の界面層22のCoFeB膜内にTa膜が挿入されていない場合、350℃の加熱処理が施されたサンプル(図12Aの(b))は、300℃の加熱処理が施されたサンプル(図12Aの(a))に比較して、TbCoFe膜21’とCoFeB膜27との界面が、上方(TbCoFe膜21’側)に移動している。すなわち、図12Aの(b)に示されるように、界面層22の膜厚が、図12Aの(a)のサンプルの界面層22の膜厚に比較して、厚くなっている。
これは、350℃の加熱処理が施された場合、(001)配向したMgO膜30が界面層22に対して下地層となって、界面層22が(001)面に結晶配向し、界面層22の結晶化に伴って、界面層22側のTbCoFe膜21a’が加熱処理によって、bcc(001)面及び(001)面に等価な面に結晶配向したことを示している。TbCoFe膜21’のうち、上部電極側のTbCoFe膜21b’は、結晶化の影響が小さい。
【0162】
これに対して、図12の(c)及び(d)に示されるように、参照層20’の界面層22のCoFeB膜25,27内にTa膜26が挿入された場合(本実施形態の場合)、350℃の加熱処理が施されても、TbCoFe膜21’とCoFeB膜27との界面の位置及びTbCoFe膜21’の膜厚は、ほとんど変化していない。それゆえ、界面層のCoFeB膜内にTa膜が挿入されることによって、(001)配向したMgO層を下地層としたTbCoFe膜21’の結晶成長は、抑制される。
【0163】
図13は、TEMによる観測が行われたMTJ素子の磁気特性をそれぞれ示している。
図13の(a)及び(b)は、参照層20の界面層22にTa膜が挿入されていない場合の素子の磁気特性が示している。図13の(a)及び(b)は、図12Aの(a)及び(b)のサンプルにそれぞれ対応する。図13の(a)は、300℃の加熱処理が施されたMTJ素子(磁性層)の磁気特性が示され、図13の(b)は、350℃の加熱処理が施されたMTJ素子の磁気特性が示されている。
【0164】
図13の(c)及び(d)は、参照層20の界面層22にTa膜26が挿入されたMTJ素子の磁気特性が示されている。図13の(c)及び(d)は、図12Aの(c)及び(d)のサンプルにそれぞれ対応する。図13の(c)は、300℃の加熱処理が施されたMTJ素子(磁性層)の磁気特性が示され、図13の(d)は、350℃の加熱処理が施されたMTJ素子の磁気特性が示されている。
【0165】
図13に示される磁気特性は、各MTJ素子のM−H曲線が示されている。
【0166】
図13の(a)〜(d)の各グラフにおいて、グラフの横軸は印加磁場H(単位:kOe)に対応し、グラフの縦軸はMTJ素子(磁性層)の磁化M(単位:emu)に対応する。
【0167】
図13の(b)に示されるように、MTJ素子に施される加熱処理の温度が350℃程度になると、素子の垂直磁気異方性が劣化することがわかる。
【0168】
図13の(b)に示されるように、垂直磁気特性が劣化すると、MTJ素子の記録保持エネルギーの低下、素子特性のばらつきの増加、書込み電流の増加、読み出し出力の低下を引き起こされるため、MTJ素子及びそれを用いたメモリの動作特性及び信頼性において大きな問題となる。
【0169】
一方、図13の(d)に示されるように、界面層22としてのCoFeB膜25,57内にTa膜26が挿入されることによって、350℃程度の加熱処理が実行された場合においても、素子の垂直磁気異方性はほとんど劣化しない。
【0170】
それゆえ、本実施形態のように、参照層20’の界面層22としてのCoFeB膜25,27内にTa膜26が挿入されることによって、高温(例えば、350℃以上)の加熱処理が実行される場合においても、参照層20’におけるTbCoFe膜21’(垂直磁化膜)の(001)面への結晶化が抑制される。それゆえ、参照層の垂直磁気異方性の劣化を抑制することが可能となる。
【0171】
図14及び図15は、電子エネルギー損失分光(EELS:Electron Energy-Loss Spectroscopy)の測定結果を示している。図14は、300℃の加熱処理が30分間実行された場合におけるMTJ素子のEELSの測定結果が示されている。図15は、350℃の加熱処理が30分間実行された場合におけるMTJ素子のEELSの測定結果が示されている。
【0172】
図14及び図15において、各グラフの横軸は、膜の積層方向における素子の上面から深さ(単位:nm)に対応し、各グラフの縦軸は検出された信号強度(任意単位)に対応している。
【0173】
図14の(a)及び図15の(a)は、界面層22内にTa膜26が設けられていないMTJ素子のEELSの分析結果が示され、図14の(b)及び図15の(b)は、界面層22内にTa膜26が設けられている本実施形態のMTJ素子のEELSの分析結果が示されている。
【0174】
図14及び図15において、Mgの検出強度が強く示されている位置(深さ)が、素子内のMgO膜の位置に相当する。
【0175】
図14の(a)及び図15の(a)のように、界面層内にTa膜が設けられていない場合、Tb(グラフ中の実線)が、Mgの検出ピークが現れる箇所(グラフ中のA1又はB1で示される領域)に検出されている。これは、MgO膜、又は、MgO膜とCoFeB膜との界面近傍に、Tbが拡散していること示している。
【0176】
一方で、図14の(b)及び図15の(b)のように、界面層22内にTa膜26が設けられている場合、350℃の加熱処理が施されても、Tb(グラフ中の実線)はMgの検出ピークが現れる箇所(領域A2,B2)において、ほとんど検出されない。つまり、Ta膜26を界面層22中に設ける(挿入する)ことによって、TbCoFe膜21’内のTbがMgO膜30内又はその近傍に拡散するのを抑制できる。
【0177】
このように、界面層22としてのCoFeB膜25,27に挿入されたTa膜26は、TbCoFe膜21’が含んでいるTbが、界面層(CoFeB膜)とトンネルバリア層(MgO膜)30との界面に、拡散するのを抑制する。界面層22内のTa膜26は、Tbに対する拡散防止膜として機能する。
【0178】
以上のように、参照層20の界面層22としてCoFeB膜25,27内にTa膜26が挿入されることによって、TbCoFe膜21’の結晶化を抑制しつつ、界面層22内のCoFeB膜の結晶性を向上できる。これとともに、界面層22がTa膜26を含む多層構造を有することによって、TbCoFe膜内のTbがトンネルバリア層(MgO膜)内又トンネルバリア層近傍に拡散するのを抑制できる。
【0179】
したがって、本実施形態のMTJ素子は高いMR比を得ることができる。
【0180】
ここでは、2つのCoFeB膜25,27の間に、Ta膜26が設けられている場合が示されているが、高融点金属であれば、Ta膜26の代わりに、タングステン(W)またはニオブ(Nb)膜又はモリブデン(Mo)膜が用いられてもよい。Ta膜(又はW膜、Nb膜、Mo膜)は、例えば、CoFeB膜の堆積中に、in−situで挿入される。
【0181】
尚、CoFeB膜27は設けられなくともよい。この場合、垂直磁化膜21と界面層25との間に金属膜26が設けられた構造となり、TbCoFe膜とTa膜(又はW膜、Nb膜、Mo膜)とが接触する。このように、CoFeB膜27が無くとも、本実施形態のMTJ素子は、高いMR比を得ることができる。
【0182】
Ta膜26を挟んでいる2つのCoFeB膜25,27において、トンネルバリア層30側のCoFeB膜25と垂直磁化膜21側のCoFeB膜27とで、Co、Fe及びBの組成比がそれぞれ異なっていてもよい。例えば、CoB膜又はCoFe膜が、CoFeB膜の代わりに用いられてもよい。また、界面層22に、CoFeB膜が用いられている場合が示されているが、他の材料を用いてもよい。
【0183】
ここでは、TbCoFe膜が参照層内に形成された場合が例示されているが、Tbの代わりにGdやDyが用いられた場合においても、同様の効果が得られるのはもちろんである。
【0184】
(e) むすび
MTJ素子及びMTJ素子を用いた磁気メモリ(例えば、MRAM)の製造工程において、非磁性層(例えば、MgO膜)や記憶層の結晶性の改善のためや、構成部材の形成のため、高温(例えば、350℃以上)のプロセス条件下に、磁性層及びMTJ素子が曝される場合がある。そのような高温の加熱処理によって、MTJ素子の磁性層としてのアモルファスの垂直磁化膜が劣化し、MTJ素子の特性が劣化してしまう。
【0185】
本実施形態のMTJ素子の磁性層(例えば、参照層)に、アモルファス相と結晶とを含む垂直磁化膜(例えば、TbCoFe膜)が用いられる。これによって、素子の耐熱性が向上し、加熱による悪影響を受けずに、素子特性の向上を図れる。
【0186】
また、TbCoFe膜とトンネルバリア層との間に界面層が設けられる場合がある。本実施形態のMTJ素子において、この界面層(例えば、CoFeB膜)内に、Ta膜(又はW膜)が挿入され、例えば、CoFeB/Ta/CoFeB膜などのように、Ta膜又はW膜を含む多層構造の界面層が形成される。
Ta膜(又はW膜又はNb膜又はMo膜)が界面層22に挿入されることによって、界面層の結晶化に伴ってアモルファスの垂直磁化膜(例えば、TbCoFe膜)が結晶化することや、TbCoFe膜中のTbがトンネルバリア層(例えば、MgO膜)内や界面層とトンネルバリア層との界面近傍に拡散することを抑制できる。
【0187】
したがって、本実施形態に係る垂直磁化型の磁気抵抗効果素子は、加熱処理が実行されても、素子特性の劣化は生じない。
【0188】
以上のように、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子は、素子特性を向上できる。
【0189】
(3) 第2の実施形態
図16A及び図16Bを用いて、第2の実施形態の磁気抵抗効果素子について、説明する。尚、第2の実施形態の磁気抵抗効果素子において、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子と実質的に同じ部材に関しては、詳細な説明は省略する。
【0190】
第1の実施形態の磁気抵抗効果素子は、トップピン型のMTJ素子が示され、トンネルバリア膜の下方に、垂直磁化の記録層が設けられている。
【0191】
図16Aに示されるように、第2の実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)は、ボトムピン型のMTJ素子である。すなわち、第1の実施形態とは反対に、本実施形態のMTJ素子1Bは、記録層10が、トンネルバリア膜30上に設けられている。参照層20が、トンネルバリア層30を挟んで、記録層10下方に設けられている。参照層20は、垂直磁化膜21と界面層22とを含む。第1の実施形態と同様に、本実施形態においても、垂直磁化膜(例えば、TbCoFe膜)21は、アモルファス相29と結晶28とを含んでいる。
【0192】
また、図16Bに示されるように、アモルファス相29と結晶28とを含む垂直磁化膜は、磁化の向きが可変な磁性層(記録層)に用いられてもよい。
【0193】
さらに、本実施形態の磁気抵抗効果素子1B,1Cにおいて、界面層22内には、Ta膜(又は、又はW膜又はNb膜又はMo膜)が設けられている。
【0194】
したがって、第2の実施形態の磁気抵抗効果素子1B,1Cは、第1の実施形態と同様に、垂直磁化型の磁気抵抗効果素子の特性を向上できる。
【0195】
(4) 第3の実施形態
図17を用いて、第3の実施形態の磁気抵抗効果素子について、説明する。尚、第3の実施形態の磁気抵抗効果素子において、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子と実質的に同じ部材に関しては、詳細な説明は省略する。
【0196】
本実施形態の磁気抵抗効果素子1Dは、バイアス層59が、参照層20に隣接して設けられていることが、第1及び第2の実施形態の磁気抵抗効果素子と異なる。バイアス層59と参照層58との間には、非磁性層58が設けられている。参照層20の底面(第1の面)はトンネルバリア層30に接触し、参照層20の上面(第2の面)は非磁性層58に接触する。
【0197】
バイアス層58は、垂直磁化の磁性層である。例えば、バイアス層58の磁化の向きは、参照層の磁化の向きと反対になっている。バイアス層58は、参照層20からの漏れ磁場の影響で、記録層10の保磁力Hcがシフトし、参照層と記録層との磁化の向きの関係が平行状態と反平行状態とで、それらの熱安定性が変化するのを防止する。
【0198】
バイアス層58の材料として、参照層として例示した垂直磁化膜を用いることができる。つまり、バイアス層58は、参照層20内の垂直磁化膜21と同様に、アモルファス相29と結晶28とを含む磁化膜を用いて、形成される。
【0199】
参照層20とバイアス層59との間の非磁性層58の材料は、参照層20の磁化の向きとバイアス層59の磁化の向きが反平行である場合に安定な交換バイアスが形成されるような材料から、選択されることが好ましい。非磁性層58の材料は、非磁性の金属であることが好ましく、例えば、非磁性層58の材料は、Ru、銀(Ag)及びCuから選択される。
【0200】
また、非磁性層58を介した参照層20とバイアス層59との反平行結合を増加させるために、参照層20及びバイアス層59としての垂直磁化膜と非磁性層58(例えば、Ru)との間に、CoFe、Co、Fe、CoFeB、CoB、FeBなどの界面層が設けられてもよい。これによって、参照層20とバイアス層59との反平行結合を強化できる。
【0201】
したがって、第3の実施形態の磁気抵抗効果素子は、第1及び第2の実施形態の磁気抵抗効果素子と同様に、垂直磁化型の磁気抵抗効果素子の素子特性を向上できる。
【0202】
[適用例]
図18乃至図21を参照して、第1乃至第3の実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の適用例について、説明する。
【0203】
上述の実施形態のMTJ素子は、磁気メモリ、例えば、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)のメモリ素子として、用いられる。本適用例のMRAMとして、スピン注入型MRAM(Spin-torque transfer MRAM)を例示する。
【0204】
(a) 構成
図18は、MRAMのメモリセルアレイ及びその近傍の回路構成を示す図である。
【0205】
図18に示されるように、メモリセルアレイ9は、複数のメモリセルMCを含む。
【0206】
複数のメモリセルMCは、メモリセルアレイ9内にアレイ状に配置される。メモリセルアレイ9内には、複数のビット線BL,bBL及び複数のワード線WLが設けられている。ビット線BL,bBLはカラム方向に延在し、ワード線WLはロウ方向に延在する。2本のビット線BL,bBLは、1組のビット線対を形成している。
【0207】
メモリセルMCは、ビット線BL,bBL及びワード線WLに接続されている。
【0208】
カラム方向に配列されている複数のメモリセルMCは、共通のビット線対BL,bBLに接続されている。ロウ方向に配列されている複数のメモリセルMCは、共通のワード線WLに接続されている。
【0209】
メモリセルMCは、例えば、1つの磁気抵抗効果素子(MTJ素子)1と、1つの選択スイッチ2とを含む。メモリセルMC内のMTJ素子1には、第1乃至第3の実施形態で述べられたMTJ素子が用いられる。以下では、第1の実施形態のMTJ素子がMRAMに用いられた場合について説明するが、第2及び第3の実施形態のMTJ素子がMRAMに用いられてもよいのは、もちろんである。
【0210】
選択スイッチ2は、例えば、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor)である。以下では、選択スイッチ2としての電界効果トランジスタのことを、選択トランジスタ2とよぶ。
【0211】
MTJ素子1の一端は、ビット線BLに接続されて、MTJ素子1の他端は、選択トランジスタ2の電流経路の一端(ソース/ドレイン)に接続されている。選択トランジスタ2の電流経路の他端(ドレイン/ソース)は、ビット線bBLに接続されている。選択トランジスタ2の制御端子(ゲート)は、ワード線WLに接続されている。
【0212】
ワード線WLの一端は、ロウ制御回路4に接続される。ロウ制御回路4は、外部からのアドレス信号に基づいて、ワード線の活性化/非活性化を制御する。
【0213】
ビット線BL,bBLの一端及び他端には、カラム制御回路3A,3Bが接続される。カラム制御回路3A,3Bは、外部からのアドレス信号に基づいて、ビット線の活性化/非活性化を制御する。
【0214】
書き込み回路5A,5Bは、カラム制御回路3A,3Bを介して、ビット線の一端及び他端に接続される。書き込み回路5A,5Bは、書き込み電流を生成するための電流源や電圧源などのソース回路、書き込み電流を吸収するためのシンク回路を、それぞれ有する。
【0215】
スピン注入型MRAMにおいて、書き込み回路5A,5Bは、データの書き込み時、外部から選択されたメモリセル(以下、選択セル)に対して、書き込み電流Iwを供給する。書き込み回路5A,5Bは、選択セルに書き込むデータに応じて、書き込み電流IwをメモリセルMC内のMTJ素子1に双方向に流す。即ち、書き込むデータに応じて、ビット線BLからビット線bBLに向かう書き込み電流Iw、或いは、ビット線bBLからビット線BLに向かう書き込み電流Iwが、書き込み回路5A,5Bから出力される。
【0216】
読み出し回路6A,6Bは、カラム制御回路3A,3Bを介して、ビット線BL,bBLの一端及び他端に接続される。読み出し回路6A,6Bは、読み出し電流を発生する電圧源又は電流源や、読み出し信号の検知及び増幅を行うセンスアンプ、データを一時的に保持するラッチ回路などを含んでいる。読み出し回路6A,6Bは、データの読み出し時、選択セルに対して、読み出し電流を供給する。読み出し電流の電流値は、読み出し電流によって記録層の磁化が反転しないように、書き込み電流Iwの電流値(反転しきい値)より小さい。
【0217】
読み出し電流が供給されたMTJ素子1の抵抗値の大きさに応じて、読み出しノードにおける電流値又は電位が異なる。この抵抗値の大きさに応じた変動量に基づいて、MTJ素子1が記憶するデータが判別される。
【0218】
尚、図18に示される例において、読み出し回路6A,6Bは、カラム方向の両端に設けられているが、1つの読み出し回路が、一端にのみ設けられてもよい。
【0219】
図19は、メモリセルアレイ9内に設けられるメモリセルMCの構造の一例を示す断面図である。
【0220】
メモリセルMCは、半導体基板70のアクティブ領域AA内に形成される。アクティブ領域AAは、半導体基板70の素子分離領域に埋め込まれた絶縁膜71によって、区画されている。
【0221】
MTJ素子1の上端は、上部電極52を介してビット線76(BL)に接続される。また、MTJ素子1の下端は、下部電極51、コンタクトプラグ72Bを介して、選択トランジスタ2のソース/ドレイン拡散層64に接続される。選択トランジスタ2のソース/ドレイン拡散層63は、コンタクトプラグ72Aを介してビット線75(bBL)に接続される。
【0222】
ソース/ドレイン拡散層64及びソース/ドレイン拡散層63間のアクティブ領域AA表面上には、ゲート絶縁膜61を介して、ゲート電極62が形成される。ゲート電極62は、ロウ方向に延在し、ワード線WLとして用いられる。
【0223】
尚、MTJ素子1は、プラグ72B直上に設けられているが、中間配線層を用いて、コンタクトプラグ直上からずれた位置(例えば、選択トランジスタのゲート電極上方)に配置されてもよい。
【0224】
図19において、1つのアクティブ領域AA内に1つのメモリセルが設けられた例が示されている。しかし、2つのメモリセルが1つのビット線bBL及びソース/ドレイン拡散層23を共有するように、2つのメモリセルがカラム方向に隣接して1つのアクティブ領域AA内に設けられてもよい。これによって、メモリセルMCのセルサイズが縮小される。
【0225】
図19において、選択トランジスタ2は、プレーナ構造の電界効果トランジスタが示されているが、電界効果トランジスタの構造は、これに限定されない。例えば、RCAT(Recess Channel Array Transistor)やFinFETなどのように、3次元構造の電界効果トランジスタが、選択トランジスタとして用いられてもよい。RCATは、ゲート電極が、半導体領域内の溝(リセス)内にゲート絶縁膜を介して埋め込まれた構造を有する。FinFETは、ゲート電極が、短冊状の半導体領域(フィン)にゲート絶縁膜を介して立体交差した構造を有する。
【0226】
第1乃至第3の実施形態で述べたように、各実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)は、高温(350℃程度)に対する耐熱性を有し、MTJ素子の素子特性を向上できる。
即ち、低抵抗状態(平行状態)のMTJ素子と高抵抗状態(反平行状態)のMTJ素子との抵抗値の差が大きい。それゆえ、2つの定常状態における電位又は電流の変動量の差が大きくなり、メモリ素子としてのMTJ素子が記憶するデータを、高い信頼性で読み出せる。したがって、本実施形態のMTJ素子を用いたMRAMは、MRAMにおけるデータ読み出しの信頼性を向上できる。
【0227】
(b) 製造方法
図20及び図21を用いて、本適用例のMRAM内のメモリセルの製造方法について説明する。
【0228】
図20及び図21は、MRAMの各製造工程における、メモリセルMCのカラム方向に沿う断面をそれぞれ示している。
【0229】
図20に示されているように、半導体基板70内に、例えば、STI(Shallow Trench Isolation)構造の素子分離絶縁膜71が埋め込まれ、素子分離領域が形成される。この素子分離領域の形成によって、アクティブ領域AAが、半導体基板70内に区画される。
【0230】
そして、半導体基板70のアクティブ領域AA上に、メモリセルMCの選択トランジスタ2が形成される。選択トランジスタの形成工程について、以下のとおりである。
【0231】
アクティブ領域AA表面上に、ゲート絶縁膜61が形成される。ゲート絶縁膜61は、例えば、熱酸化法によって形成されたシリコン酸化膜である。次に、導電層(例えば、ポリシリコン層)が、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、ゲート絶縁膜21上に形成される。
【0232】
導電層は、例えば、フォトリソグラフィー技術及びRIE(Reactive Ion Etching)法を用いて、所定のパターンに加工される。これによって、ゲート電極62がゲート絶縁膜61上に形成される。ゲート電極62をワード線として用いるために、ゲート電極62はロウ方向に延在するように形成される。それゆえ、ゲート電極62は、ロウ方向に沿って配列する複数の選択トランジスタで共有される。
ソース/ドレイン拡散層63,64が、半導体基板70内に形成される。拡散層63,64は、ゲート電極62をマスクに用いて、例えば、砒素(As)、リン(P)などの不純物をイオン注入法によって、半導体基板70内に注入することによって、形成される。
以上の工程によって、半導体基板70上に、選択トランジスタ2が形成される。尚、ゲート電極62及び拡散層63,64上面にシリサイド層を形成する工程が、さらに追加されてもよい。
【0233】
そして、第1の層間絶縁膜79Aが、例えば、CVD法を用いて、選択トランジスタ2を覆うように、半導体基板70上に堆積される。層間絶縁膜33の上面は、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いて、平坦化される。
【0234】
層間絶縁膜79A内に、ソース/ドレイン拡散層63の上面が露出するように、コンタクトホールが形成される。形成されたコンタクトホール内に、例えば、タングステン(W)又はモリブデン(Mo)が充填され、コンタクトプラグ72Aが形成される。
【0235】
金属膜が、層間絶縁膜79A及びコンタクトプラグ72上に堆積される。堆積された金属膜は、フォトリソグラフィー技術及びRIE法を用いて、所定の形状に加工される。これによって、選択トランジスタ2の電流経路に接続されるビット線75(bBL)が形成される。
【0236】
この後、第2の層間絶縁膜79Bが、例えば、CVD法によって、層間絶縁膜79A及びビット線75B上に、堆積される。そして、ソース/ドレイン拡散層64の表面が露出するように、層間絶縁膜79A,79B内に、コンタクトホールが形成される。そのコンタクトホール内に、スパッタ法又はVD法によって、コンタクトプラグ72Bが埋め込まれる。
【0237】
層間絶縁膜79B上及びコンタクトプラグ72B上に、図3及び図4を用いて説明したのと実質的に同様に、本実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)1Aの構成部材が、順次堆積される。層間絶縁膜79B及びコンタクトプラグ72Bが、MTJ素子1Aを形成するための基板として用いられる。
【0238】
そして、MTJ素子が加工された後に、層間絶縁膜(例えば、SiO)79Cが、例えば、CVD法を用いて形成される。
【0239】
層間絶縁膜79Cの堆積中において、加工されたMTJ素子1Aは、例えば、300℃以上の温度条件下に曝される。
【0240】
上述したように、本実施形態のMTJ素子1Aの磁性層(例えば、参照層)内の垂直磁化膜(例えば、TbCoFe膜)は、アモルファス相と微結晶(1nm以下の結晶)とを含んでいる。本実施形態のMTJ素子1Aにおけるアモルファス相と微結晶とを含むTbCoFe膜21は、高温(350℃以上)に対して耐熱性を有している。そのため、高温の熱が与えられても、TbCoFe膜の全体が結晶化し、アモルファス相が消失することはない。それゆえ、TbCoFe膜21の結晶化に起因してMTJ素子の特性が劣化するのを抑制できる。
【0241】
また、TbCoFe膜21とトンネルバリア層30との間に、Ta膜が挿入された界面層(例えば、CoFeB/Ta/CoFeB膜)が設けられている。これによって、層間絶縁膜の堆積時の熱によって、TbCoFe膜21中のTbが、トンネルバリア層30内及びトンネルバリア層30と参照層20との界面近傍に拡散するのを抑制できる。
【0242】
この後、層間絶縁膜79C上に、周知の技術によって、ビット線BLが形成される。
【0243】
以上の製造工程によって、適用例としてMRAMのメモリセルが形成される。
【0244】
図18乃至図21を用いて説明したように、本実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)は、MRAMに適用できる。上述のように、本実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)によれば、素子特性の向上したMTJ素子を提供できる。
【0245】
したがって、本適用例のMRAMは、本実施形態の磁気抵抗効果素子を用いることによって、メモリの動作特性及び信頼性を向上できる。
【0246】
[その他]
第1乃至第3の実施形態の磁気抵抗効果素子は、素子特性を向上できる。
【0247】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0248】
1:磁気抵抗効果素子、10:第1の磁性層(記録層)、20:第2の磁性層(参照層)、21:TbCoFe膜、28:微結晶、29:アモルファス相、30:非磁性層(トンネルバリア層)、22:界面層、26:挿入膜、40:下地層、51,52:電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有し、磁化の向きが不変な第1の磁性層と、
膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有し、磁化の向きが可変な第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を具備し、
前記第1の磁性層は、Tb、Gd及びDyからなる第1のグループから選択される少なくとも1つの元素とCo及びFeからなる第2のグループから選択される少なくとも1つの元素とを含む磁化膜を備え、
前記磁化膜は、アモルファス相と粒径が0.5nm以上の結晶とを含む、ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記結晶は、前記磁化膜の断面方向において、1.2Åから1.6Åまでの第1の面間隔、又は、1.9Åから2.3Åまでの第2の面間隔を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記結晶は、前記第2のグループから選択される少なくとも1つの元素を含み、
前記アモルファス相は、前記第1のグループから選択される少なくとも1つの元素と前記第2のグループから選択される少なくとも1つの元素とを含み、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記第2のグループの元素において、Co及びFeの両方が前記第1の磁性層に含まれる場合、Feの濃度がCoの濃度よりも高い、ことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記第1の磁性層は、前記磁化膜と前記非磁性層との間に設けられたCo及びFeから選択される少なくとも1つの元素を含む界面層を有し、前記界面層の内部に、Ta膜及びW膜及びNb膜及びMo膜から選択される少なくとも1つの金属膜が挿入されている、ことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第1の磁性層は、前記磁化膜と前記非磁性層との間に設けられたCo及びFeから選択される少なくとも1つの元素を含む界面層を有し、且つ、前記磁化膜と前記界面層との間にTa膜及びW膜及びNb膜及びMo膜から選択される少なくとも1つの金属膜が挿入されている、ことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有し、磁化の向きが不変な第1の磁性層と、
膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有し、磁化の向きが可変な第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を具備し、
前記第1の磁性層は、Tb、Gd及びDyからなる第1のグループから選択される少なくとも1つの元素とCo及びFeからなる第2のグループから選択される少なくとも1つの元素とを含む磁化膜と、前記磁性膜と前記非磁性層との間の界面層と、を含み、
前記界面層の内部に、Ta膜及びW膜及びNb膜及びMo膜から選択される少なくとも1つの金属膜が挿入されている、ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子を含むメモリセルを具備する磁気メモリ。
【請求項9】
基板上に、Tb、Dy及びGdからなる第1のグループの中から選択される少なくとも1つの元素とCo及びFeからなる第2のグループの中から選択される少なくとも1つの元素を含む第1の膜と前記第2のグループの中から選択される少なくとも1つの元素を含む第2の膜との多層膜を有する第1の磁性体と、第2の磁性体と、前記第1の磁性体と前記第2の磁性体との間の非磁性体と、を含む積層体を、形成する工程と、
前記積層体を加工して、膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有する第1の磁性層と、膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有する第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間の非磁性層と、を含む磁気抵抗効果素子を形成する工程と、
を具備する磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1の磁性層は、アモルファス相と粒径が0.5nm以上の結晶とを含むことを特徴とする請求項9に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1の膜は、2nm以下の膜厚を有し、前記第1のグループから選択される少なくとも1つの元素を25atomic%以上含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項12】
前記積層体の形成時において、前記非磁性体側に配置され、且つ、Co及びFe及びBからなる第3のグループから選択される少なくとも2つの元素を含む第3の膜と、前記多層膜側に配置され、且つ、前記第3のグループから選択される少なくとも2つの元素を含む第4の膜と、前記第3の膜と前記第4の膜との間に配置され、且つ、Ta及びW及びNb及びMoからなる第4のグループから選択される少なくとも1つの元素を含む第5の膜と、を有する界面層を、前記非磁性体と前記多層膜との間に形成する工程と、
をさらに具備する請求項9乃至11のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項13】
前記積層体の形成時において、前記非磁性体側に配置され、且つ、Co及びFe及びBからなる第3のグループから選択される少なくとも2つの元素を含む第3の膜と、前記第3の膜と前記多層膜との間に配置され、且つ、Ta及びW及びNb及びMoからなる第4のグループから選択される少なくとも1つの元素を含む第4の膜と、を有する界面層を、前記非磁性体と前記多層膜との間に形成する工程と、
をさらに具備する請求項9乃至11のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−64903(P2012−64903A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210180(P2010−210180)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】