説明

磁気抵抗効果素子及びそれを搭載した不揮発性磁気メモリ

【課題】高速かつ消費電力が極めて小さい不揮発性メモリを提供する。
【解決手段】不揮発性磁気メモリに、高出力なトンネル磁気抵抗効果素子を装備し、スピントランスファートルクによる書込み方式を適用する。トンネル磁気抵抗効果素子1は、CoとFeとBを含有する体心立方構造の強磁性膜304と、(100)配向した岩塩構造のMgO絶縁膜305と、強磁性膜306とを積層した構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高出力トンネル磁気抵抗素子及びそれを装備した低消費電力不揮発性磁気メモリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のトンネル磁気抵抗効果素子は、Alの酸化物を絶縁膜に用いたトンネル積層膜を用いていた(T. Miyazaki and N. Tezuka, J. Magn. Magn. Mater. 139, L231 (1995))が、Al酸化物は非晶質であるため工業的に使用するための十分な電気的出力信号を得ることができなかった。最近、絶縁膜に酸化マグネシウムを用いたトンネル磁気抵抗効果素子において、上記のAlの酸化物を絶縁体に用いたトンネル磁気抵抗効果素子よりも数倍大きい磁気抵抗比が得られることが報告された(S. Yuasa. et al., Nature Material 3, 868(2004))。また、従来の不揮発性磁気メモリは、MOSFET上にトンネル磁気抵抗効果素子を形成したメモリセルにより構成される。スイッチングはMOSFETを利用し、ビット線とワード線に通電させることにより発生する電流誘起の空間磁場を使ってトンネル磁気抵抗効果素子の磁化方向を回転させ、情報を書込み、トンネル磁気抵抗効果素子の出力電圧により情報を読み出す方式である。また、上記電流誘起の空間磁場を使った磁化回転のほかに、直接磁気抵抗効果素子に電流を流すことにより磁化を回転させるいわゆるスピントランスファートルク磁化反転あるいは同義であるスピン注入磁化反転方式があり、例えば米国特許第5,695,864号明細書あるいは特開2002−305337号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,695,864号明細書
【特許文献2】特開2002−305337号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Magn. Magn. Mater. 139, L231 (1995)
【非特許文献2】Nature Material 3, 868(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
低消費電力不揮発性磁気メモリの実現には、トンネル磁気抵抗効果素子の高出力化とトンネル磁気抵抗効果素子へのスピントランスファートルク磁化反転による書込み方式を同時に満足する技術を開発することが重要な課題である。
【0006】
本発明は、このような要請に応えることのできるトンネル磁気抵抗効果素子及び不揮発性磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、トンネル磁気抵抗効果素子の強磁性膜にBを含むCoあるいはFeの体心立方格子をもつ化合物強磁性膜を用い、また絶縁膜に酸化マグネシウムを用いる。
【0008】
すなわち、本発明によるトンネル磁気抵抗効果素子は、絶縁膜と、その絶縁膜を挟んで設けられた第一の強磁性膜と第二の強磁性膜とを有し、第一の強磁性膜はCoとFeとBを含有する体心立方構造の膜であり、絶縁膜は(100)配向した岩塩構造のMgO膜であることを特徴とする。第二の強磁性膜は、CoとFeとBを含有する体心立方構造の膜であってもよい。また、第一の強磁性膜はCoとFeの組成比(atm%の比)が50:50〜70:30であるのが好ましい。絶縁膜にMgOを適用したトンネル磁気抵抗効果素子では、図8に示すように体心立方構造が安定に存在し、かつCoをFeより多く含むことでトンネル磁気抵抗比に寄与するスピン分極率を向上できるためである。CoとFeとBを含有する体心立方構造の強磁性膜は、膜厚が3nm以下で、Bを10〜30%atm含有するのが好ましい。
【0009】
本発明による磁気メモリは、トンネル磁気抵抗効果素子と、トンネル磁気抵抗効果素子に流れる電流をオン・オフ制御するスイッチング素子とを備える磁気メモリであり、トンネル磁気抵抗効果素子は、絶縁膜と、絶縁膜を挟んで設けられた第一の強磁性膜と第二の強磁性膜とを有し、第一の強磁性膜はCoとFeとBを含有する体心立方構造の膜であり、絶縁膜は(100)配向した岩塩構造のMgO膜であることを特徴とする。
【0010】
本発明による磁気ランダムアクセスメモリは、複数の磁気メモリセルと、所望の磁気メモリセルを選択する手段とを備える磁気ランダムアクセスメモリであり、磁気メモリセルは、CoとFeとBを含有する体心立方構造の第一の強磁性膜と、(100)配向した岩塩構造のMgO絶縁膜と、第二の強磁性膜とが積層されたトンネル磁気抵抗効果素子を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、高出力なトンネル磁気抵抗効果素子が得られる。また、そのトンネル磁気抵抗効果素子を磁気メモリに装備することにより、高速かつ消費電力が極めて小さい不揮発性メモリを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のトンネル磁気抵抗効果素子の第一の構成例を示した図である。
【図2】本発明のトンネル磁気抵抗効果素子の第二の構成例を示した図である。
【図3】本発明のトンネル磁気抵抗効果素子の第三の構成例を示した図である。
【図4】本発明のトンネル磁気抵抗効果素子の第四の構成例を示した図である。
【図5】本発明のトンネル磁気抵抗効果素子の第五の構成例を示した図である。
【図6】本発明のトンネル磁気抵抗効果素子の第六の構成例を示した図である。
【図7】本発明の磁気メモリセルの構成例を示した図である。
【図8】CoFe100−xの組成に対する結晶構造を示した図である。
【図9】本発明の磁気メモリセルの構成例を示した図である。
【図10】本発明のトンネル磁気抵抗素子のTMR比と熱処理温度依存性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
[実施例1]
図1は、本発明によるトンネル磁気抵抗効果素子の一例を示す断面模式図である。このトンネル磁気抵抗効果素子1は、配向制御膜300、反強磁性膜301、強磁性膜302、非磁性膜303、強磁性膜304、絶縁膜305、強磁性膜306、保護膜307を積層して形成され、適当な温度で熱処理することにより磁気抵抗比が最適化される。本実施例では、トンネル磁気抵抗効果素子はスパッタリング法を用いて作製した。
【0015】
配向制御膜300はNiFe(5nm)により形成したが、Ta(5nm)/NiFe(5nm)の2層膜など、上記反強磁性膜301の配向性を向上させ、安定した反強磁性結合を実現することのできる他の材料を用いてもよい。反強磁性膜301にはMnIr(8nm)を用いたが、膜厚は5〜15nmの範囲で選択可能である。また、MnPt,MnFeなど、Mn化合物で構成される反強磁性膜を用いても安定に反強磁性結合を実現できる。強磁性膜302にはCoFe(2nm)を、非磁性膜303にはRu(0.8nm)を、強磁性膜304には体心立方格子をもつCoFeB(3nm)を用いた。強磁性膜302のCoFeの組成比は、主としてCo組成が50〜90atm%の間で使用した。この組成範囲において、上記反強磁性膜と安定した反強磁性結合を実現できる。強磁性膜302、非磁性膜303、強磁性膜304は、強磁性膜302と強磁性膜304の磁化が反強磁性結合するような材料を選択し、それぞれの膜厚は強磁性膜302と強磁性膜304の磁化の大きさが等しくなるように選択した。絶縁膜305は、岩塩構造をもつ酸化マグネシウム結晶膜を用い、(100)方向に配向した膜である。絶縁膜の膜厚は0.8nm〜3nmの範囲で使用した。強磁性膜306は体心立方格子をもつCoFeB(3nm)を用いた。強磁性膜304と強磁性膜306のCoFeBのCoとFeの組成は50:50〜70:30で使用するのが好ましい。この組成範囲では、図8に示すように、体心立方構造が安定に存在し、かつ絶縁膜305にMgOを適用したトンネル磁気抵抗効果素子1では、CoをFeより多く含むことでトンネル磁気抵抗比に寄与するスピン分極率を向上できるためである。
【0016】
強磁性膜304、強磁性膜306に使用できるCoFeB及びCoFeの組成を記載した例を表1に示す。トンネル磁気抵抗効果素子1において大きなTMR比を得るには、強磁性膜304及び強磁性膜306にCoFeBを用い、Co組成は50〜90atm%の間で使用することが望ましいが、CoのFeに対する組成比が0〜50atm%の間で使用することも可能である。このCo組成を使用した場合、TMR比の大きさはCo組成が50〜90atm%の場合に比べて低下するが、トンネル磁気抵抗効果素子に印加する電圧依存性が改善される傾向にある。通常TMR比は印加電圧が大きくなるにつれて減少する傾向を示すが、Co組成0〜50atm%の間の組成では、その減少率が最大で半減できる。
【0017】
上記強磁性膜304と強磁性膜306のCoFeBは、非結晶であってもよく、適当な温度での熱処理により結晶化させてもよい。また、CoFeBの組成比は、体心立方格子となるCo組成が40〜60atm%、B組成が10〜30atm%の間で使用した。さらに、強磁性膜306にはCoFeB以外に、CoFeの単層膜、NiFeの単層膜、CoFe/NiFeあるいはCoFeB/NiFeの2層膜を用いてもよい。このときのCoFeのCo組成は体心立方格子が安定である50atm%としたが、50〜90%の間で使用してよい。Co組成が大きいと、面心立方格子が安定であり、トンネル磁気抵抗比は減少するが、磁気フリー層として保磁力の小さい良好な磁気特性が実現でき、スピントランスファートルク磁化反転の閾値電流密度をそれぞれの磁気モーメントの大きさに対応して変化させることができる。保護膜307は、Ta(5nm)/Ru(5nm)の2層膜で形成した。
【0018】
素子加工にはフォトリソグラフィーとイオンミリングを用い、0.8μm×1.6μmの面積をもつトンネル磁気抵抗効果素子を作製した。このように作製されたトンネル磁気抵抗効果素子のトンネル磁気抵抗比は、熱処理を施すことにより増大させることが可能であり、強磁性膜306にCoFeBを用いた構成では、375℃以上で、1時間程度の熱処理を施すことにより250%に達した。また、絶縁膜305の厚さが0.8nmから3.0nmの範囲では、100%以上のトンネル磁気抵抗比を示した。また、熱処理の温度は400℃まで上昇させても、150%以上の良好な磁気抵抗比を得ることが可能である。特に、熱処理によりCoFeBは結晶化することが確認され、結晶化した後のCoFeBが体心立方格子の結晶構造をもつ場合に、トンネル磁気抵抗比は最も大きくなった。さらに、上記酸化マグネシウムの(100)配向膜は、非晶質の強磁性膜の上にスパッタ法を用いて作製することは可能であるが、多結晶構造をもつ強磁性膜の上にスパッタ法を用いて作製した場合、良好な(100)配向膜を得ることは困難であり、トンネル磁気抵抗比は最大でも50%にとどまった。したがって、強磁性膜304と強磁性膜306が結晶のCoFeBであり、かつ絶縁膜305が(100)配向の結晶の酸化マグネシウムであるトンネル磁気抵抗効果素子1で、200%以上のトンネル磁気抵抗比が得られている素子は、必ず製膜時の強磁性膜304と強磁性膜306は非結晶のCoFeBであって、熱処理の過程を経て作製されたものであることを示している。
【0019】
トンネル磁気抵抗効果素子1は、強磁性膜304をCoFeB、絶縁膜305をMgO、強磁性膜306をCoFeBとし、反強磁性膜301を使用しない構造であり、強磁性膜304と強磁性膜306の磁気異方性のあるいは保磁力の大きさの違いを利用してTMR比を得る積層構造を使用してもよい。例えば、Ta/CoFeB/MgO/CoFeB/Taの積層構造を用い、それぞれの膜において適当な膜厚を選ぶことにより、図10に示すように、熱処理温度450℃において、450%のTMR比を得る。上記CoFeBの組成は、Co:Fe:Bが40:40:20(atm%)である場合に、最大のTMR比を得ることができるが、B組成を0〜30(atm%)として、Co:Feは0〜100atm%の間の任意の組成を選んでもよい。その組成比は表1に示すように、[Co(100−x)Fe(x)](100−y)B(y)、0<x<100(%)、0<y<30(%)の関係にある。表1は、本発明の強磁性膜に使用する可能な材料とその組成例を示した表である。上記Ta以外に融点の高い非晶質膜を使用することも有効である。この場合の構造では、反強磁性膜301に用いられるMn化合物のMnなどの熱拡散がないため、高い熱処理温度でさらに高いTMR比を得る事が可能となる。
【0020】
【表1】

【0021】
上記のように、製膜時非晶質であった強磁性膜304と強磁性膜306を熱処理により結晶化させてトンネル磁気抵抗効果素子1を作製する方法は、従来の方法とは異なる。ただし、強磁性膜306にCoFe単層膜、NiFe単層膜、CoFe/NiFe膜を使用したトンネル磁気抵抗効果素子1では、これらの強磁性膜306は製膜時から結晶質であり、熱処理により強磁性膜304のみが結晶化することになる。強磁性膜306にCoFe単層膜、NiFe単層膜、CoFe/NiFe膜を使用したトンネル磁気抵抗効果素子1の最大のトンネル磁気抵抗比は、それぞれ、200%、40%、150%であった。
【0022】
[実施例2]
図2は、本発明によるトンネル磁気抵抗効果素子の他の例を示す断面模式図である。このトンネル磁気抵抗効果素子2は、配向制御膜300、強磁性膜306、絶縁膜305、強磁性膜304、非磁性膜303、強磁性膜302、反強磁性膜301、保護膜307を積層して形成した。特に強磁性膜306及び強磁性層膜304にCoFeBを用いた場合、その結晶構造は体心立方格子であり、絶縁膜305は(100)に高配向した岩塩構造をもつMgOである。
【0023】
本構成のトンネル磁気抵抗効果素子2では、強磁性膜306は、配向絶縁膜300に隣接して作製され平坦性に優れているため、実施例1の構造に比べて強磁性膜306の軟磁気特性が向上する。例えば、結晶化した後のCoFeBの保磁力が実施例1に比べて半減する。絶縁膜305も平坦な膜に形成される。しかし、反強磁性膜301がトンネル磁気抵抗効果素子2の積層方向の上方に製膜されるため、当該膜の配向性が実施例1に比べ劣化するため反強磁性結合が弱くなり、実施例1に比べ耐熱処理特性が劣化し、400℃の熱処理によりトンネル磁気抵抗比は減少する傾向を示す。トンネル磁気抵抗効果素子2の作製方法、それぞれの膜に使用した材料は実施例1と同様である。また、このトンネル磁気抵抗効果素子2によって得られた磁気抵抗比は、実施例1とほぼ同様の200%であった。
【0024】
[実施例3]
図3は、本発明によるトンネル磁気抵抗効果素子の他の例を示す断面模式図である。このトンネル磁気抵抗効果素子3は、図1に示したトンネル磁気抵抗効果素子1の構成において、強磁性膜306の上に、非磁性膜308、強磁性膜309、反強磁性膜310、保護膜307を、この順に積層したものに相当する。
【0025】
本実施例では、非磁性膜308にRu(6nm)を、強磁性膜309にCoFe(2nm)を、反強磁性膜310にMnIr(8nm)を用いた。強磁性膜309のCoFeの組成比は、反強磁性膜310との間に反強磁性結合が安定して実現できるCo組成が50〜90%の間で使用した。非磁性膜308はRu(6nm)以外に、強磁性膜306と強磁性膜309の間の磁気的な結合が消失する材料、膜厚を選択してもよい。トンネル磁気抵抗効果素子3の作製方法、配向制御膜300、反強磁性膜301、強磁性膜302、非磁性膜303、強磁性膜304、絶縁膜305、強磁性膜306、保護膜307に使用した材料は、実施例1と同様である。特に強磁性膜306及び強磁性層膜304にCoFeBを用いた場合、その結晶構造は体心立方格子であり、絶縁膜305は(100)に高配向した岩塩構造をもつMgOである。
【0026】
本実施例で得られた磁気抵抗比は150%であり、実施例1に比べ若干小さくなるが、非磁性膜308と強磁性膜309の界面で起きるスピン依存反射のため強磁性膜306に作用するスピントルクの効率を増大させることが可能であり、実施例1に比べスピントルク磁化反転の閾値電流密度がおよそ3分の2程度低減できる。
【0027】
[実施例4]
図4は、本発明によるトンネル磁気抵抗効果素子の他の例を示す断面模式図である。このトンネル磁気抵抗効果素子4は、図2のトンネル磁気抵抗効果素子2の構成において、強磁性膜306と配向制御膜300の間に、配向制御膜300側から反強磁性膜310、強磁性膜309、非磁性膜308を、この順に積層したものに相当する。
【0028】
本実施例では、非磁性膜308にRu(6nm)を、強磁性膜309にCoFe(2nm)を、反強磁性膜310にMnIr(8nm)を用いた。強磁性膜309のCoFeの組成比は、反強磁性膜310との間に反強磁性結合が安定して実現できるCo組成が50〜90%の間で使用した。非磁性膜308はRu(6nm)以外に、強磁性膜306と強磁性膜309の間の磁気的な結合が消失する材料、膜厚を選択してもよい。トンネル磁気抵抗効果素子4の作製方法、配向制御膜300、反強磁性膜301、強磁性膜302、非磁性膜303、強磁性膜304、絶縁膜305、強磁性膜306、保護膜307に使用した材料は、実施例2と同様である。特に強磁性膜306及び強磁性層膜304にCoFeBを用いた場合、その結晶構造は体心立方格子であり、絶縁膜305は(100)に高配向した岩塩構造をもつMgOである。
【0029】
本実施例で得られた磁気抵抗比は140%であり、実施例2に比べ若干小さくなるが、非磁性膜308と強磁性膜309の界面で起きるスピン依存反射のため強磁性膜306に作用するスピントルクの効率を増大させることが可能であり、実施例2に比べスピントルク磁化反転の閾値電流密度がおよそ3分の2程度低減できる。
【0030】
[実施例5]
図5は、本発明によるトンネル磁気抵抗効果素子の他の例を示す断面模式図である。このトンネル磁気抵抗効果素子5は、図3に示したトンネル磁気抵抗効果素子3の構成において反強磁性膜310のない素子に相当する。
【0031】
本実施例では、非磁性膜308にRu(8nm)を用いた。非磁性膜308はRu(8nm)以外に、強磁性膜306と強磁性膜309の間の反強磁性的な結合が消失する材料、膜厚を選択してもよい。トンネル磁気抵抗効果素子5の作製方法、配向制御膜300、反強磁性膜301、強磁性膜302、非磁性膜303、強磁性膜304、絶縁膜305、強磁性膜306、強磁性膜309、保護膜307に使用した材料は、実施例3と同様である。特に強磁性膜306及び強磁性層膜304にCoFeBを用いた場合、その結晶構造は体心立方格子であり、絶縁膜305は(100)に高配向した岩塩構造をもつMgOである。得られた磁気抵抗比は、実施例3とほぼ同様で150%程度である。
【0032】
本構成では、実施例3と同様に強磁性膜306に作用するスピントラスファートルクの効率が実施例1よりも増大し、スピントランスファートルクを用いた磁化回転が低電流で実現できる。さらに、実施例3に対して反強磁性膜310がないため、熱処理によるMnの拡散が抑制され、実施例3に比べ磁気抵抗比の耐熱性が向上する。
【0033】
[実施例6]
図6は、本発明によるトンネル磁気抵抗効果素子の他の例を示す断面模式図である。このトンネル磁気抵抗効果素子6は、図4に示したトンネル磁気抵抗効果素子4の構成において反強磁性膜310のない素子に相当する。
【0034】
本実施例では、非磁性膜308にRu(8nm)を用いた。非磁性膜308はRu(8nm)以外に、強磁性膜306と強磁性膜309の間の反強磁性的な結合を消失できる得られる材料、膜厚を選択してもよい。トンネル磁気抵抗効果素子6の作製方法、配向制御膜300、反強磁性膜301、強磁性膜302、非磁性膜303、強磁性膜304、絶縁膜305、強磁性膜306、強磁性膜309、保護膜307に使用した材料は、実施例4と同様である。特に強磁性膜306及び強磁性層膜304にCoFeBを用いた場合、その結晶構造は体心立方格子であり、絶縁膜305は(100)に高配向した岩塩構造をもつMgOである。得られた最大の磁気抵抗比は実施例4とほぼ同様であり、140%程度であった。
【0035】
本構成では、強磁性膜306に作用するスピントラスファートルクの効率が実施例4よりも増大し、スピントランスファートルクを用いた磁化回転が低電流で実現できる。さらに、実施例4に対して反強磁性膜310がないため、熱処理によるMnの拡散が抑制され、実施例4に比べ磁気抵抗比の耐熱性が向上する。
【0036】
[実施例7]
図7は、本発明による磁気メモリセルの構成例を示す断面模式図である。この磁気メモリセルは、メモリセルとして実施例1〜実施例6に示したトンネル磁気抵抗効果素子10を搭載している。
【0037】
C−MOS11は、2つのn型半導体12,13と一つのp型半導体14からなる。n型半導体12にドレインとなる電極21が電気的に接続され、電極41及び電極47を介してグラウンドに接続されている。n型半導体13には、ソースとなる電極22が電気的に接続されている。さらに23はゲート電極であり、このゲート電極23のON/OFFによりソース電極22とドレイン電極21の間の電流をON/OFF制御する。上記ソース電極22に電極45、電極44、電極43、電極42、電極46が積層され、電極46を介してトンネル磁気抵抗効果素子10の配向制御膜300が接続されている。
【0038】
ビット線212は上記トンネル磁気抵抗効果素子10の保護膜307に接続されている。本実施例の磁気メモリセルでは、トンネル磁気抵抗効果素子10に流れる電流、いわゆるスピントランスファートルクによりトンネル磁気抵抗効果素子10の強磁性膜306の磁化方向を回転し、磁気的情報を記録する。また、前記のスピントランスファートルクを用いずに、ビット線212とワード線を兼ねる電極47に電流を流し、その周りに作られる磁界を用いてトンネル磁気抵抗効果素子10の強磁性膜306の磁化方向を回転し、磁気的情報を記録してもよい。スピントランスファートルクにより書込みを行った場合、書込み時の電力は電流磁界を用いた場合に比べ百分の一程度まで低減可能である。
【0039】
図9は、上記磁気メモリセルを配置した不揮発性磁気メモリの構成例を示す図である。ゲート電極23とビット線212がメモリセル100に電気的に接続されている。前記実施例に記載した磁気メモリセルを配置することにより前記磁気メモリは低消費電力で動作が可能であり、ギガビット級の高密度磁気メモリを実現可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…トンネル磁気抵抗効果素子、2…トンネル磁気抵抗効果素子、3…トンネル磁気抵抗効果、4…トンネル磁気抵抗効果素子、5…トンネル磁気抵抗効果素子、6…トンネル磁気抵抗効果素子、10…トンネル磁気抵抗効果素子、11…トランジスタ、12…第一のn型半導体、13…第二のn型半導体、14…p型半導体、21…ドレイン電極、211…書込みワード線、212…ビット線、22…ソース電極、23…ゲート電極、300…配向制御膜、301…反強磁性膜、302…強磁性膜、303…非磁性膜、304…強磁性膜、305…絶縁膜、306…強磁性膜、307…保護膜、308…非磁性膜、309…強磁性膜、310…反強磁性膜、41…電極、42…電極、43…電極、44…電極、45…電極、46…電極、47…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁膜と、前記絶縁膜を挟んで設けられた第一の強磁性膜と第二の強磁性膜とを有するトンネル磁気抵抗効果素子において、
前記第一の強磁性膜及び第二の磁性膜は、CoとFeとBを含有し、Co組成が50〜90atm%の体心立方構造の膜であり、
前記絶縁膜は(100)配向した岩塩構造のMgO膜であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、
配向制御膜と、前記配向制御膜の上に順に積層された反強磁性膜、第三の強磁性膜、非磁性膜を有し、前記非磁性膜の上に前記第一の強磁性膜、絶縁膜及び第二の強磁性膜が順に積層され、
前記第三の強磁性膜の磁化方向は前記反強磁性膜によって固定され、前記第三の強磁性膜と前記第一の強磁性膜とは前記非磁性膜を介して反強磁性結合していることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
請求項2記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記第二の強磁性膜の上に第二の非磁性膜と第四の強磁性膜と第二の反強磁性膜がこの順に積層され、前記第四の強磁性膜の磁化方向は前記第二の反強磁性膜によって固定されていることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
請求項2記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記第二の強磁性膜の上に第二の非磁性膜と第四の強磁性膜がこの順に積層されていることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、
配向制御膜を有し、前記配向制御膜の上に前記第一の強磁性膜、絶縁膜及び第二の強磁性膜が順に積層され、
更に、前記第二の強磁性膜の上に非磁性膜、第三の強磁性膜、反強磁性膜が順に積層され、
前記第三の強磁性膜の磁化方向は前記反強磁性膜によって固定され、前記第三の強磁性膜と前記第一の強磁性膜とは前記非磁性膜を介して反強磁性結合していることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
請求項5記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記配向制御膜と前記第一の強磁性膜の間に、第二の反強磁性膜と第四の強磁性膜と第二の非磁性膜がこの順に積層され、前記第四の強磁性膜の磁化方向は前記第二の反強磁性膜によって固定されていることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
請求項5記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記配向制御膜と前記第一の強磁性膜の間に、第四の強磁性膜と第二の非磁性膜がこの順に積層されていることを特徴とするトンネル磁気抵抗素子。
【請求項8】
トンネル磁気抵抗効果素子と、前記トンネル磁気抵抗効果素子に流れる電流をオン・オフ制御するスイッチング素子とを備える磁気メモリにおいて、
前記トンネル磁気抵抗効果素子は、絶縁膜と、前記絶縁膜を挟んで設けられた第一の強磁性膜と第二の強磁性膜とを有し、前記第一の強磁性膜及び第二の磁性膜はCoとFeとBを含有し、Co組成が50〜90atm%の体心立方構造の膜であり、前記絶縁膜は(100)配向した岩塩構造のMgO膜であることを特徴とする磁気メモリ。
【請求項9】
請求項8記載の磁気メモリにおいて、スピントランスファートルクにより磁気情報を記録することを特徴とする磁気メモリ。
【請求項10】
複数の磁気メモリセルと、所望の磁気メモリセルを選択する手段とを備える磁気ランダムアクセスメモリにおいて、
前記磁気メモリセルは、CoとFeとBを含有し、Co組成が50〜90atm%である体心立方構造の第一の強磁性膜と、(100)配向した岩塩構造のMgO絶縁膜と、CoとFeとBを含有し、Co組成が50〜90atm%である体心立方構造の第二の強磁性膜とが積層されたトンネル磁気抵抗効果素子を含むことを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項11】
請求項10記載の磁気ランダムアクセスメモリにおいて、スピントランスファートルクにより磁気情報を記録することを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項12】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記絶縁膜は前記第二の強磁性膜の上に形成され、前記第一の強磁性膜は前記絶縁膜の上に形成されていることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項13】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記絶縁膜は結晶構造を有することを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−12756(P2013−12756A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181783(P2012−181783)
【出願日】平成24年8月20日(2012.8.20)
【分割の表示】特願2006−181979(P2006−181979)の分割
【原出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、高機能・超低消費電力メモリの開発 委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】