説明

磁気記憶素子および磁気記憶装置

【課題】半選択状態になったデータの誤反転を抑制して信頼性の高い書き込み動作を行うことができる磁気記憶素子およびこれを用いた磁気記憶装置を提供する。
【解決手段】磁化容易軸91とそれに交差する磁化困難軸92とを有する記録層3と、磁化容易軸91の方向と交差する方向に磁界を形成するライト線WTと、記録層3の配置位置において磁化困難軸92の方向と交差する方向に磁界を形成するビット線BLとを備え、記録層3は、ライト線WTとビット線BLとの間に挟まれるように配置されており、ライト線WTおよびビット線BLと記録層3とが積層された積層方向からみた記録層3の平面形状は、積層方向からみてライト線WTが延びる方向に沿うライト線WTの仮想の第1の中心線AWに対して一方側に位置する一方の部分と他方側に位置する他方の部分とを有し、積層方向からみた一方の部分の面積S2が他方の部分の面積S1の1/3以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記憶素子および磁気記憶装置に関し、特に、トンネル磁気抵抗効果を有する磁気記憶素子およびこれを用いた磁気記憶装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗(MR:magnetoresistive)効果は、磁性体に磁界を加えることにより電気抵抗が変化する現象であり、磁界センサや磁気ヘッドなどに利用されている。特に、非常に大きな磁気抵抗効果を示す巨大磁気抵抗(GMR:giant magnetoresistance)効果材料として、Fe/Cr、Co/Cuなどの人工格子膜などが非特許文献1、2で紹介されている。
【0003】
また、強磁性層間の交換結合作用がなくなる程度に厚い非磁性金属層を持つ強磁性層/非磁性層/強磁性層/反強磁性層からなる積層構造を用いた磁気抵抗効果素子が提案されている。この素子では、強磁性層と反強磁性層とが交換結合されて、その強磁性層の磁気モーメントが固定され、他方の強磁性層のスピンのみが外部磁場で容易に反転できるようにされている。これが、いわゆるスピンバルブ膜として知られている素子である。この素子では、2つの強磁性層間の交換結合が弱いために小さな磁場でスピンが反転できる。このため、スピンバルブ膜は上記交換結合膜に比べて高感度の磁気抵抗素子を提供することができる。反強磁性体としては、FeMn、IrMn、PtMnなどが用いられている。このスピンバルブ膜は、用いる際に膜面内方向に電流を流すが、上記のような特徴のために、高密度磁気記録用再生ヘッドに用いられている。
【0004】
一方、膜面に対して垂直方向に電流を流す垂直磁気抵抗効果を利用すると、更に大きな磁気抵抗効果が得られることが、非特許文献3に示されている。
【0005】
さらには、強磁性トンネル接合によるトンネル磁気抵抗(TMR:tunneling magneto-resistive)効果も、非特許文献4に示されている。このトンネル磁気抵抗は、強磁性層/絶縁層/強磁性層からなる3層膜において、外部磁界によって2つの強磁性層のスピンを互いに平行あるいは反平行にすることにより、膜面垂直方向のトンネル電流の大きさが異なることを利用したものである。
【0006】
近年では、GMRおよびTMR素子を、不揮発性磁気記憶半導体装置(MRAM:magnetic random access memory)に利用する研究が、たとえば非特許文献5〜7に示されている。
【0007】
この場合、保磁力の異なる2つの強磁性層で非磁性金属層を挟んだ擬スピンバルブ素子や強磁性トンネル効果素子が検討されている。MRAMへ利用する場合には、これらの素子をマトリックス状に配置し、別に設けた配線に電流を流して磁界を印加し、各素子を構成する2つの磁性層を互いに平行、反平行に制御することにより、"1"、"0"が記録される。読み出しはGMRやTMR効果を利用して行なわれる。
【0008】
MRAMにおいては、GMR効果に対しTMR効果を利用した方が低消費電力であるから、主としてTMR素子を用いることが検討されている。TMR素子を利用したMRAMでは、室温でMR変化率が20%以上と大きく、かつトンネル接合における抵抗が大きいので、より大きな出力電圧が得られる。またTMR素子を利用したMRAMでは、読み出し時にスピン反転をする必要がなく、それだけ小さい電流で読み出しが可能である。このため、TMR素子を利用したMRAMは、高速書き込み・読み出し可能な低消費電力型の不揮発性半導体記憶装置として期待されている。
【0009】
MRAMの書き込み動作においては、TMR素子における強磁性層の磁気特性を制御することが望まれる。具体的には、非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、平行・反平行に制御する技術、および所望のセルにおける一方の磁性層を確実かつ効率的に磁化反転する技術が望まれる。非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、交差する2つの配線を用いて膜面内において均一に平行・反平行に制御する技術は、たとえば特許文献1、3、4および7に示されている。
【0010】
またMRAMでは、高集積化のためにセルの微細化を実施した場合、磁性層の膜面方向の大きさに依存して反磁界により反転磁界が増大する。これにより書き込み時に大きな磁界が必要となり、消費電力も増大する。このため、特許文献2、5、6および7に示されるように強磁性層の形状を最適化し、磁化反転を容易にする技術が提案されている。
【0011】
MRAMにおける高集積化に伴って、磁気記憶素子の微細化を実施した場合、反磁界の影響により書込み時に更に大きな磁界が必要となるため、選択された磁気記憶素子の周辺に及ぼす磁界の影響が大きくなり、誤った磁化反転は顕著になる。これに対処すべく、パーマロイのように高透磁率の材料により被覆した配線を形成し、TMR素子に磁界を集中させることが、例えば後掲する特許文献3で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−273337号公報
【特許文献2】特開2002−280637号公報
【特許文献3】特開2000−353791号公報
【特許文献4】米国特許第6,005,800号明細書
【特許文献5】特開2004−296858号公報
【特許文献6】米国特許第6,570,783号明細書
【特許文献7】特開2005−310971号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】D. H. Mosca et al., "Oscillatory interlayer coupling and giant magnetoresistance in Co/Cu multilayers", Journal of Magnetism and Magnetic Materials 94 (1991) pp.L1-L5
【非特許文献2】S. S. P. Parkin et al., "Oscillatory Magnetic Exchange Coupling through Thin Copper Layers", Physical Review Letters, vol.66, No.16, 22 April 1991, pp.2152-2155
【非特許文献3】W. P. Pratt et al., "Perpendicular Giant Magnetoresistances of Ag/Co Multilayers", Physical Review Letters, vol.66, No.23, 10 June 1991, pp.3060-3063
【非特許文献4】T. Miyazaki et al., "Giant magnetic tunneling effect in Fe/Al2O3/Fe junction", Journal of Magnetism and Magnetic Materials 139 (1995), pp.L231-L234
【非特許文献5】S. Tehrani et al., "High density submicron magnetoresistive random access memory (invited)", Journal of Applied Physics, vol.85, No.8, 15 April 1999, pp.5822-5827
【非特許文献6】S. S. P. Parkin et al., "Exchange-biased magnetic tunnel junctions and application to nonvolatile magnetic random access memory (invited)", Journal of Applied Physics, vol.85, No.8, 15 April 1999, pp.5828-5833
【非特許文献7】ISSCC 2001 Dig of Tech. Papers, p.122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
MRAMでは書き込み動作の際に、書き込みされる磁気記憶素子と同一のライト線上に配置された他の磁気記憶素子も半選択状態となる。この半選択状態では、書き込みされる磁気記憶素子と同一のライト線上に配置された他の磁気記憶素子にもライト線電流によって磁界が印加されている。
【0015】
MRAMでは磁気記憶素子の製造工程におけるフォトリソグラフィーおよびエッチングに起因して、行列状に配置された複数のMRAMメモリセル内の各々のメモリセルにおいて磁気記憶素子の記録層の形状にばらつきが発生する。このため、磁気記憶素子の記録層の形状によっては、記録層の磁化を飽和するための磁界が小さくなる。そのため、磁化を飽和するための磁界が小さい記録層では、ライト線電流によって半選択状態となった場合に、ライト線電流の磁界により磁化困難軸の方向に記録層の磁化が飽和する。記録層の磁化が飽和した後、ライト線電流が0になると、記録層の磁化は磁化容易軸に沿う両方向のいずれかになるが、それぞれの確率は理想的には1/2となる。このため、記録層の磁化が制御できなくなるため情報の保持が不可能となる。したがって、磁気記憶素子のデータの誤反転が発生するという問題がある。
【0016】
本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、半選択状態になった磁気記憶素子のデータの誤反転を抑制することにより信頼性の高い書き込み動作を行うことができる磁気記憶素子およびこれを用いた磁気記憶装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の磁気記憶素子は、外部磁界によって磁化方向を変化可能であり、磁化容易軸と磁化容易軸に交差する磁化困難軸とを有する記録層と、記録層の配置位置において磁化容易軸の方向と交差する方向に磁界を形成するための第1導電層と、1導電層と交差する方向に延び、かつ記録層の配置位置において磁化困難軸の方向と交差する方向に磁界を形成するための第2導電層とを備え、記録層は、第1導電層と第2導電層との間に記録層の少なくとも一部が挟まれるように配置されており、第1および第2導電層と記録層とが積層された積層方向からみた記録層の平面形状は、積層方向からみて第1導電層が延びる方向に沿う第1導電層の仮想の第1の中心線に対して一方側に位置する一方の部分と他方側に位置する他方の部分とを有し、積層方向からみた一方の部分の面積が他方の部分の面積の1/3以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、積層方向からみた記録層の平面形状は、積層方向からみて第1導電層が延びる方向に沿う第1導電層の仮想の第1の中心線に対して一方側に位置する一方の部分と他方側に位置する他方の部分とを有し、積層方向からみた一方の部分の面積が他方の部分の面積の1/3以下である。このため、半選択状態において、他方の部分にかかるライト線電流による磁界が小さくなる。そのため、記録層の磁化が飽和しない。したがって、磁気記憶素子はライト線電流が流れる前の磁化の向きを維持できる。そのため、半選択状態になった磁気記憶素子のデータの誤反転を抑制することができる。よって、信頼性の高い書き込み動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置のメモリセルの回路図である。
【図2】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の構成を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における磁気記憶素子の構成を概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態1における強磁性トンネル接合素子の構成を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における記録層の平面形状を示す概略平面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における記録層の位置の説明図であり、磁気記憶素子を積層方向からみたときの図である。
【図7】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第1工程を示す概略断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第2工程を示す概略断面図である。
【図9】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第3工程を示す概略断面図である。
【図10】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第4工程を示す概略断面図(a)と、強磁性トンネル接合素子部分を拡大して示す拡大断面図(b)である。
【図11】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第5工程を示す概略断面図である。
【図12】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の構成を示す概略断面図であって、磁気記憶素子が被覆層を備えた磁気記憶装置の概略断面図である。
【図13】本発明の実施の形態1の比較例1における記録層の位置の説明図であり、磁気記憶素子を積層方向からみたときの図である。
【図14】本発明の実施の形態1の比較例1におけるライト線電流によって磁界が発生した場合の記録層内の磁化分布を示す概略平面図である。
【図15】本発明の実施の形態1におけるライト線電流によって磁界が発生した場合の記録層内の磁化分布を示す概略平面図である。
【図16】本発明の実施の形態1における磁気記憶素子の飽和ビット率と面積比との関係を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態1の比較例2における記録層の位置の説明図であり、磁気記憶素子を積層方向からみたときの図である。
【図18】本発明の実施の形態1の比較例3における記録層の位置の説明図であり、磁気記憶素子を積層方向からみたときの図である。
【図19】本発明の実施の形態2における記録層の平面形状を示す概略平面図である。
【図20】本発明の実施の形態2における記録層の位置の説明図であり、磁気記憶素子を積層方向からみたときの図である。
【図21】本発明の実施の形態2における変形例1の記録層の位置の説明図であり、磁気記憶素子を積層方向からみたときの図である。
【図22】本発明の実施の形態2における変形例2の記録層の平面形状を示す概略平面図である。
【図23】本発明の実施の形態2における磁気記憶素子の変形例2の位置の説明図であり、記録層を積層方向からみたときの図である。
【図24】本発明の実施の形態2における磁気記憶素子の変形例3の位置の説明図であり、記録層を積層方向からみたときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
(メモリセルの回路と構造)
まず、本発明の実施の形態1における磁気記憶装置に関し、磁気記憶装置のメモリセルの回路について説明する。
【0021】
図1を参照して、磁気記憶装置MDでは、1つのメモリセルMC(点線枠内)は、素子選択用トランジスタTRと強磁性トンネル接合素子MMとから構成されている。メモリセルMCはマトリクス状に複数形成されている。
【0022】
磁気記憶素子MEは、強磁性トンネル接合素子MMと、情報の書き換えと読み取りを行うためのライト線WTとビット線BLと含んでいる。素子選択用トランジスタTRは磁気記憶素子MEを制御するための制御素子である。ビット線BLは、一方向(たとえば行)に並んで配置された強磁性トンネル接合素子MMのそれぞれの一端の側に電気的に接続されている。
【0023】
一方、ライト線WTは、他方向(たとえば列)にビット線BLと直交する向きに配置されている。また、その強磁性トンネル接合素子MMの他端の側は、素子選択用トランジスタTRのドレイン側と電気的に接続されている。一方向に並んで配置された複数の素子選択用トランジスタTRのそれぞれのソース側が、ソース線SLによって電気的に接続されている。また、他方向に並んで配置された複数の素子選択用トランジスタTRのそれぞれのゲートが、ワード線WDによって互いに電気的に接続されている。
【0024】
次に、本実施の形態における磁気記憶装置の構造について説明する。
図2を参照して、半導体基板11におけるメモリセル領域MRでは、素子分離絶縁膜12によって区切られた素子形成領域の表面(半導体基板11の表面)に素子選択用トランジスタTRが形成されている。素子選択用トランジスタTRは、ドレイン領域Dと、ソース領域Sと、ゲート電極本体Gとを主に有している。ドレイン領域D及びソース領域Sは、互いに所定の距離を開けて半導体基板11の表面に形成されている。ドレイン領域D及びソース領域Sは、互いに所定導電型の不純物領域から形成されている。ゲート電極本体Gは、ドレイン領域D及びソース領域Sに挟まれる領域上にゲート絶縁膜GIを介在して形成されている。ゲート電極本体Gの側壁は、サイドウォール状の側壁絶縁膜SIによって覆われている。
【0025】
素子選択用トランジスタTRを覆うように層間絶縁膜13が形成されている。この層間絶縁膜13にはその上面からドレイン領域Dに達する孔が設けられている。この孔内には接続部材14が形成されている。層間絶縁膜13上には、層間絶縁膜15が形成されている。この層間絶縁膜15にはその上面から接続部材14に達する孔と層間絶縁膜13に達する孔とが形成されている。これらの孔の各々にはライト線WTと接続部材16とが形成されている。その接続部材16は、接続部材14によってドレイン領域Dと電気的に接続されている。
【0026】
ライト線WTと接続部材16とを覆うように、層間絶縁膜15上に層間絶縁膜17が形成されている。この層間絶縁膜17にはその上面から接続部材16に達する孔が設けられている。この孔内には接続部材18が形成されている。層間絶縁膜17上には、導電層19と、強磁性トンネル接合素子MMとが形成されている。その導電層19は、接続部材18、16、14によってドレイン領域Dと電気的に接続されている。
【0027】
強磁性トンネル接合素子MMは磁気抵抗効果素子であり、下から順に積層された、固着層1と、非磁性層であるトンネル絶縁層2と、記録層3とを有している。固着層1は、導電層19に接するように形成されている。
【0028】
強磁性トンネル接合素子MMを覆うように保護膜20が形成されており、その保護膜20上に層間絶縁膜21が形成されている。この保護膜20および層間絶縁膜21には、これらの膜20、21を貫通して記録層3に達する孔が設けられている。この孔内には、接続部材23が形成されている。層間絶縁膜21上には、ビット線BLが形成されている。このビット線BLは、接続部材23によって強磁性トンネル接合素子MMに電気的に接続されている。
【0029】
ビット線BLを覆うように層間絶縁膜26が形成されている。その層間絶縁膜26上には、所定の配線層29および絶縁層28が形成されている。
【0030】
一方、半導体基板11における周辺(論理)回路領域RRでは、論理回路を構成するトランジスタTRAが形成されている。このトランジスタTRAは、半導体基板11の表面に互いに所定の距離を置いて形成された1対のソース/ドレイン領域S/Dと、その1対のソース/ドレイン領域S/Dに挟まれる領域上にゲート絶縁膜GIを介して形成されたゲート電極Gとを有している。ゲート電極Gの側壁は、サイドウォール状の側壁絶縁膜SIによって覆われている。
【0031】
このトランジスタTRAの上には、所定の配線層16、25、29と、その各配線層16、25、29を電気的に接続する為の接続部材14、23、27と、層間絶縁膜13、15、17、21、24、26、28とが形成されている。
【0032】
次に、メモリセルの構造についてさらに詳しく説明する。
図3および図4を参照して、情報としての磁化が行われる強磁性トンネル接合素子MMは、ライト線WTとビット線BL(第1導電層および第2導電層)とが交差する領域において、ライト線WTとビット線BLとの間に少なくとも一部が上下方向から挟み込まれるように配置されている。強磁性トンネル接合素子MMは、たとえば固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3の積層構造とされる。固着層1では、磁化の方向が固定されている。また、記録層3は外部磁界によって磁化方向を変化可能であり、記録層3では所定の配線(たとえばビット線BL)に流れる電流によって生じる磁界やスピン偏極した電子の注入によって磁化方向が変化する。
【0033】
その固着層1が、図2に示すように導電層19及び接続部材18、16、14を介して素子選択用トランジスタTRのドレイン領域Dに電気的に接続されている。一方、記録層3側は、接続部材23を介してビット線BLに電気的に接続されている。
【0034】
外部から与えられる磁界によって磁化の向きが変化する記録層3については、一般に、結晶構造や形状などによって磁化しやすい方向がある。この方向はエネルギが低い状態であり、磁化しやすい方向は磁化容易軸(Ea:Easy-axis)と呼ばれる。これに対して、磁化されにくい方向は、磁化困難軸(Ha:Hard-axis)と呼ばれる。
【0035】
図5を参照して、記録層の平面形状の概略について説明する。本実施の形態における記録の平面視上の形状に関する一つの態様として、図5に示すような楕円の形状がある。図5に示すように、記録層3は磁化容易軸91と磁化容易軸91に交差する磁化困難軸92とを有している。記録層3は、磁化容易軸91の方向に沿う平面形状の最大長さLを有する仮想の第1の直線63を有している。すなわち、仮想の第1の直線63は記録層3の磁化容易軸91の方向の長さが最大となる位置に延びており、記録層3は仮想の第1の直線63上で長さ最大長さLを有している。
【0036】
記録層3は、仮想の第1の直線63の第1の中点MP1を通り、かつ磁化困難軸92の方向に沿う平面形状の長さWを有する仮想の第2の直線64を有している。すなわち、仮想の第2の直線64は、仮想の第1の直線63に垂直な直線であり、仮想の第1の直線63の最大長さLの部分を等分するように位置している。中心点CPは、仮想の第2の直線の第2の中点MP2にある。すなわち、中心点CPは、仮想の第1の直線63と仮想の第2の直線64との交点にある。
【0037】
仮想の第2の直線64上に位置する平面形状の両端部を一方端LPおよび他方端RPとする。すなわち、仮想の第2の直線64と記録層3の平面形状の両端部とが交差する交点位置を一方端LPと他方端RPとする。中心点CPは、一方端LPと他方端RPとの間の距離の中点にある。中心点CPと一方端LPとの中点を第3の中点MP3とし、中心点CPと他方端RPとの中点を第4の中点MP4とする。
【0038】
図6を参照して、ライト線WTは、記録層3の配置位置において磁化容易軸91の方向と交差する方向に磁界を形成するためのものである。ライト線WTは仮想の第1の中心線AWに沿って延びている。ビット線BLは、ライト線WTと交差する方向に延び、かつ記録層3の配置位置において磁化困難軸92の方向と交差する方向に磁界を形成するためのものである。ビット線BLは仮想の第2の中心線BWに沿って延びている。
【0039】
記録層3は、磁化容易軸91の方向が仮想の第1の中心線AWの延びる方向と実質的に平行になるように配置されている。すなわち、記録層3は、長手方向が、ライト線WTの延在方向とほぼ平行になるように配置されている。また、記録層3の磁化困難軸92の方向が仮想の第2の中心線BWの延びる方向と実質的に平行になるように配置されている。本実施の形態においては、仮想の第1の中心線AWの延びる方向(ライト線WTの延在方向)と仮想の第2の中心線BWの延びる方向(ビット線BLとのの延在方向)とが互いにほぼ垂直になるように形成されている。
【0040】
ライト線WTおよびビット線BLと記録層3とが積層された積層方向からみた記録層3の平面形状は、積層方向からみてライト線WTが延びる方向に第1の中心線AWに対して一方側に位置する一方の部分と他方側に位置する他方の部分とを有している。積層方向からみた一方の部分の面積S2が他方の部分の面積S1の1/3以下である。一方の部分の面積S2は、仮想の第1の中心線AWの他方端RP側に位置する平面形状の面積であり、他方の部分の面積S1は、仮想の第1の中心線AWの一方端LP側に位置する平面形状の面積である。記録層3は、ライト線WTが形成する磁界のみが作用した場合に、磁化が飽和しないように構成されている。
【0041】
記録層3における中心点CPは、ライト線WTおよびビット線BLと記録層3とが積層された積層方向からみて、ライト線WTとビット線BLとの間に挟まれた領域に配置され、第1の中心線AWからずれて配置されている。記録層3における中心点CPは、積層方向からみて実質的にビット線BLの第2の中心線BW上に配置されている。
【0042】
積層方向からみたライト線WTの幅は、中心点CPと一方端LPとの間の距離および中心点CPと他方端RPとの間の距離の双方よりも大きく、一方端LPと他方端RPとの間の距離の2倍の距離よりも小さく形成されている。ライト線WTの第1の中心線AWは、積層方向からみて第4の中点MP4上を通っている。なお、ライト線WTの仮想の第1の中心線AWは、積層方向からみて第3の中点MP3上を通っていてもよい。
【0043】
他方端RPは、積層方向からみてライト線WTとビット線BLとの間に挟まれて配置されている。一方端LPは、積層方向からみてライト線WTとビット線BLとの間に挟まれて配置されていない。
(メモリセルの動作)
次に、メモリセルの動作について説明する。
【0044】
図2を参照して、読み出し動作は、特定のメモリセルの強磁性トンネル接合素子MMに所定の電流を流し、磁化の向きによる抵抗値の違いを検知することによって行われる。まず、特定のメモリセルの選択用トランジスタTRがON状態とされて、所定のセンス信号がビット線BLから特定の強磁性トンネル接合素子MMを経て、接続部材18、16、14および選択用トランジスタTRを介してソース線SLに伝わる。
【0045】
このとき、強磁性トンネル接合素子MMにおける記録層3と固着層1の磁化の向きが同じ向き(平行)の場合では抵抗値が相対的に低く、記録層3と固着層1の磁化の向きが互いに反対向き(反平行)の場合では抵抗値が相対的に高くなる。トンネル磁気抵抗効果素子は、記録層3と固着層1との各磁化方向が平行の場合には抵抗値が小さくなり、かつ記録層3と固着層1との各磁化方向が反平行の場合には抵抗値が大きくなる特性を有している。
【0046】
これにより、強磁性トンネル接合素子MMの磁化の向きが平行の場合では、ソース線SLに流れるセンス信号の強度は所定の参照メモリセルの信号強度より大きくなる。一方、強磁性トンネル接合素子MMの磁化の向きが反平行の場合では、センス信号の強度は所定の参照メモリセルの信号強度より小さくなる。こうして、センス信号の強度が所定の参照メモリセルの信号強度よりも大きいか小さいかによって、特定のメモリセルに書き込まれた情報が「0」であるか「1」であるかが判定されることになる。
【0047】
書き込み(書き換え)動作については、ビット線BLとライト線WTに所定の電流を流し、強磁性トンネル接合素子MMを磁化(磁化反転)することによって行われる。まず、選択されたビット線BLとライト線WTのそれぞれに所定の電流を流すことによってビット線BLとライト線WTのまわりにはそれぞれ電流の流れの方向に対応した磁界(図6の矢印53aおよび54a)が生じる。選択されたビット線BLとライト線WTとが交差する領域に位置する強磁性トンネル接合素子MMには、ビット線BLを流れる電流によって生じた磁界とライト線WTを流れる電流によって生じた磁界との合成磁界(図6の矢印55a)が作用することになる。
【0048】
このとき、その合成磁界によって、強磁性トンネル接合素子MMの記録層3が固着層1の磁化の方向と同じ向きに磁化される態様と、記録層3が固着層1の磁化の方向とは反対の向きに磁化される態様とがある。こうして、記録層3と固着層1の磁化の向きが同じ向き(平行)の場合と互いに反対向き(反平行)の場合とが実現されて、この磁化の向きが「0」または「1」に対応する情報として記録されることになる。
(磁気記憶装置の製造方法)
次に、上述した磁気記憶素子および磁気記憶装置の製造方法の一例について説明する。
【0049】
図7〜図11は、本実施の形態における磁気記憶装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。まず、図7を参照して、半導体基板11の主表面における所定の領域に素子分離絶縁膜12を形成することによって、メモリセル領域MRおよび周辺回路領域RRが形成される。そのメモリセル領域MRおよび周辺回路領域RRに位置する半導体基板11の表面にゲート絶縁膜GIを介してゲート電極本体Gが形成される。そのゲート電極本体Gなどをマスクとして半導体基板11の表面に所定導電型の不純物を導入することにより、不純物領域からなるドレイン領域Dおよびソース領域Sと、1対のソース/ドレイン領域S/Dが形成される。こうして、メモリセル領域MRでは、ゲート電極G、ドレイン領域Dおよびソース領域Sを含む素子選択用トランジスタTRが形成され、周辺回路領域RRでは、論理回路を構成するトランジスタTRAが形成される。
【0050】
その素子選択用トランジスタTRおよびトランジスタTRAを覆うように、たとえばCVD(Chemical Vapor Deposition)法により層間絶縁膜13が形成される。その層間絶縁膜13に対して所定の写真製版およびエッチングを施すことによって、半導体基板11の表面を露出するコンタクトホール13a、13bが形成される。そのコンタクトホール13a、13bを充填するように層間絶縁膜13上に例えばタングステン層(図示せず)が形成される。そのタングステン層に対してCMP(Chemical Mechanical Polishing)処理を施すことによって、層間絶縁膜13の上面上に位置するタングステン層の部分が除去される。
【0051】
図8を参照して、上記のタングステン層の除去により、コンタクトホール13a、13b内の各々にタングステン層が残存されて接続部材14が形成される。
【0052】
図9を参照して、たとえばCVD法により層間絶縁膜13上にさらに層間絶縁膜15が形成される。その層間絶縁膜15に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは、ライト線および所定の配線層を形成するための開口部15a、15bが形成される。また、周辺回路領域RRでは、所定の配線層を形成するための開口部15cが層間絶縁膜15に形成される。その開口部15a、15b、15cを充填するように、層間絶縁膜15上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にCMP処理を施すことによって、層間絶縁膜15の上面上に位置する銅層が除去されて、開口部15a、15b、15c内に銅層が残存される。これにより、メモリセル領域MRでは開口部15a内に接続部材16、開口部15b内にライト線WTが形成される。また周辺回路領域RRでは開口部15c内に配線層16が形成される。
【0053】
なお、開口部15a、15b、15cを充填する銅層の形成においては、銅層と層間絶縁膜との反応を防止するための反応防止層が積層される場合がある。さらに、図12を参照して、配線電流磁界を所定の磁気記憶素子へ集中させるため、ライト線WTを被覆するようにライト線WTより高い透磁率を有する材料により構成されている被覆層HRが形成されてもよい。
【0054】
図10(a)および(b)を参照して、層間絶縁膜15上に例えばCVD法によりさらに層間絶縁膜17が形成される。その層間絶縁膜17に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、接続部材16の表面を露出するコンタクトホール17aが形成される。そのコンタクトホール17a内を充填するように層間絶縁膜17上に例えば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にたとえばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜17の上面上に位置する銅層が除去され、コンタクトホール17a内に銅層が残存されて接続部材18が形成される。
【0055】
次に、メモリセル領域MRにおける層間絶縁膜17の上に、導電層19と強磁性トンネル接合素子MMとが形成される。その強磁性トンネル接合素子MMは、固着層1と、トンネル絶縁層2と、記録層3との積層膜から構成される。まず、固着層1となる膜として、例えば膜厚約20nmの白金マンガン膜(反強磁性層)と膜厚約3nmのコバルト合金膜(強磁性層)が順次形成される。次に、トンネル絶縁層2となる膜として、たとえば膜厚約1nmのアルミニウム酸化膜が形成される。そして、記録層3としては、たとえば膜厚約3nmのニッケル合金膜が形成される(いずれも図示せず)。なお、白金マンガン膜、コバルト合金膜、アルミニウム酸化膜、ニッケル合金膜は、たとえばスパッタ法によって形成される。
【0056】
その後、そのニッケル合金膜、アルミニウム酸化膜、コバルト合金膜および白金マンガン膜に所定の写真製版およびエッチングを施すことによって、固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3を備えた所定形状の強磁性トンネル接合素子MMが形成されることになる。一般的に、エッチング後のレジストパターン除去においてドライプロセス(アッシング)を用いる場合には酸素を主成分とするガスが使用される。好ましくは、固着層1、記録層3の構成材料に対して酸化性でないガス、たとえば水素、窒素、アンモニア、およびそれらの混合ガスを用い、固着層1、記録層3の酸化が抑制される。
【0057】
なお、固着層1は、反強磁性層/強磁性層/非磁性層/強磁性層の積層構造とする場合がある。また、記録層3は、磁気特性の異なる強磁性膜の積層や強磁性層/非磁性層/強磁性層の積層構造としても問題ない。
【0058】
図11を参照して、強磁性トンネル接合素子MMがその後のプロセスによってダメージを受けないように、強磁性トンネル接合素子MMを覆うように保護膜20が形成される。その保護膜20を覆うように層間絶縁膜17上にたとえばCVD法によりさらに層間絶縁膜21が形成される。メモリセル領域MRでは、その層間絶縁膜21および保護膜20に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、記録層3の表面を露出するコンタクトホール21aが形成される。また周辺回路領域RRでは、その層間絶縁膜21および層間絶縁膜17に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、配線層16の表面に達するコンタクトホール21bが形成される。これらのコンタクトホール21a、21b内を充填するように層間絶縁膜21上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にたとえばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜21の上面上に位置する銅層が除去され、コンタクトホール21a、21b内の各々に銅層が残存されて接続部材23が形成される。
【0059】
その層間絶縁膜21を覆うように層間絶縁膜21上にたとえばCVD法によりさらに層間絶縁膜24が形成される。その層間絶縁膜24に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは層間絶縁膜24にビット線を形成するための開口部が形成され、周辺回路領域RRでは層間絶縁膜24に開口部24aが形成される。これらの開口部内を充填するように層間絶縁膜24上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層に例えばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜24の上面上に位置する銅層が除去され、ビット線用の開口部内に銅層が残存されてビット線BLが形成され、開口部24a内には銅層が残存されて配線層25が形成される。
【0060】
なお上記においてはシングルダマシン法について説明したが、層間絶縁膜21の形成後に、さらに層間絶縁膜24を形成し、それらの層間絶縁膜21、24に対して、デュアルダマシン法により所定の接続部材と配線層が形成されてもよい。この場合、まず層間絶縁膜24に対して所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは、ビット線を形成するための開口部(図示せず)が形成される。周辺回路領域RRでは、配線層を形成するための開口部24aが形成される。次に、層間絶縁膜21に対して所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは、強磁性トンネル接合素子MMの記録層3の表面に達するコンタクトホール21aが形成される。周辺回路領域RRでは、配線層16の表面に達するコンタクトホール21bが形成される。なお、層間絶縁膜21、24にコンタクトホールを形成した後に、層間絶縁膜24に開口部24aなどが形成されてもよい。
【0061】
次に、コンタクトホール21a、21bおよび開口部24aなどの内部を充填するように層間絶縁膜24上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層に例えばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜24の上面上に位置する銅層の部分が除去される。これにより、メモリセル領域MRでは、コンタクトホール21a内を埋め込んで記録層3に電気的に接続される接続部材23が形成されると共に、開口部内にはその接続部材23に電気的に接続されるビット線BLが形成される。なお、接続部材23を用いなくても、ビット線BLと記録層3とが電気的に接続できれば問題はない。一方、周辺回路領域RRでは、コンタクトホール21b内に配線層16に電気的に接続される接続部材23が形成されるとともに、開口部24a内には接続部材23に電気的に接続される配線層25が形成される。
【0062】
図2を参照して、上記で形成されたビット線BLおよび配線層25を覆うように、層間絶縁膜24上に、さらに層間絶縁膜26が形成される。周辺回路領域RRにおいては層間絶縁膜26に孔が形成され、その孔に接続部材27が形成される。この層間絶縁膜26上にさらに層間絶縁膜28が形成される。その層間絶縁膜28に開口部が形成され、その開口部に配線層29が形成される。
【0063】
なお上記においてはシングルダマシン法について説明したが、層間絶縁膜26の形成後に、さらに層間絶縁膜28を形成し、それらの層間絶縁膜26、28に対して、上記と同様にデュアルダマシン法により接続部材27と配線層29が形成されてもよい。
【0064】
以上により、本実施の形態の磁気記憶装置MDが製造される。
なお、上述した磁気記憶装置MDの製造方法では、接続部材14などとして、タングステン層を例に挙げて説明したが、たとえばシリコンが適用されてもよい。また、銅、チタンあるいはタンタルなどの金属が適用されてもよい。さらに、このような金属の合金やこのような金属の窒化物なども適用することができる。また、接続部材14などの形成方法としてCMP法あるいはRIE法を例に挙げて説明したが、例えばメッキ法、スパッタリング法、CVD法などが適用されてもよい。金属として銅を適用する場合には、いわゆるダマシン法を適用することができ、接続部材14と並行して配線層を形成することもできる。
【0065】
また、ライト線WTの形成方法としてシングルダマシン法を例に挙げて説明したが、ライト線WTを接続部材14と同時に形成する場合には、デュアルダマシン法を適用することもできる。さらに、配線材料としてシリコン、タングステン、アルミニウム、チタンなどの金属、そのような金属の合金あるいはそのような金属の化合物を適用することによって、ドライエッチングによる配線の形成も可能になる。
【0066】
また配線層と配線層との間に介在する層間絶縁膜の膜厚は適用デバイスによって異なることになるが、この磁気記憶装置MDでは、当該膜厚はたとえば約40nmである。
【0067】
また強磁性トンネル接合素子MMのトンネル絶縁層2としてアルミニウム酸化物を例に挙げて説明したが、トンネル絶縁層2としては非磁性材料が好ましい。たとえばアルミニウム、シリコン、タンタル、マグネシウムなどの金属の酸化物、その金属の窒化物、シリケートなどに代表されるその金属の合金酸化物、あるいはその合金の窒化物などがトンネル絶縁層2として好ましい。また、そのトンネル絶縁層2は、膜厚約0.3〜5nm程度の比較的薄い膜として形成されることが好ましい。なお、トンネル絶縁層2に換えて非磁性金属材料を用いる場合には、いわゆる膜面に対して垂直方向の巨大磁気抵抗効果を利用することもできる。
【0068】
さらに、強磁性トンネル接合素子MMの固着層1として白金マンガン合金膜とコバルト鉄合金膜との積層構造を例に挙げ、記録層3としてニッケル鉄合金膜を例に挙げたが、固着層1および記録層3については、たとえばニッケル、鉄および/またはコバルトを主成分とする強磁性材料が好ましい。さらに、その強磁性材料の磁気特性向上と熱的安定性のため、それら強磁性材料にホウ素、窒素、シリコン、モリブデンなどの添加物が導入されてもよい。特に、記録層3に対しては、記録層3上に記録層3の磁気特性を改善する体心立方型、ルチル型、塩化ナトリウム型、閃亜鉛鉱型の結晶構造を有する結晶性材料薄膜を積層する、および/またはタンタル、ルテニウムなどの酸化防止膜を積層するなどして、磁気特性の向上・安定化を図ることも可能である。さらに、ハーフメタルと呼ばれるNiMnSb、Co2Mn(Ge,Si)、Co2Fe(Al,Si)、(Zn,Mn)Fe24などを適用することも可能である。ハーフメタルでは一方のスピンバンドにエネルギギャップが存在するので、非常に大きな磁気効果を得ることができ、その結果、大きな信号出力を得ることができる。
【0069】
固着層1では、反強磁性層と強磁性層との積層構造とすることで、磁化方向をより固定することができる。つまり、反強磁性層が強磁性層のスピンの向きを固定することで、強磁性層の磁化の方向が一定に保たれる。反強磁性層としては、鉄などの強磁性材料または貴金属の少なくとも1つと、マンガンとの化合物が好ましい。
【0070】
なお、上述した製造方法では、固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3をそれぞれスパッタリング法によって形成する場合を例に挙げた。しかし、固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3のそれぞれは、スパッタリング法の他にも、たとえばMBE(Molecular Beam Epitaxy)法、化学気相成長法あるいは蒸着法などにより形成することも可能である。
【0071】
また、上述した磁気記憶装置MDの製造方法では、強磁性トンネル接合素子MMの固着層1と接続部材18との間に導電層19がある場合について説明したが、固着層1と接続部材18とが直接接続されていてもよい。また、接続部材18を介さずに配線層16とその導電層19とを直接接続させた構造としてもよい。この場合、その導電層19は、固着層1と平面視において重なるように固着層1の平面形状と同じ形状に形成されてもよい。その導電層19の材料として、低抵抗の金属、たとえば白金、ルテニウム、銅、アルミニウム、タンタル等を適用することが好ましい。また、導電層19の膜厚としては、その導電層の上に形成される固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3の平坦性が損なわれないように、たとえば300nm以下にすることが好ましい。
【0072】
なお、固着層1を記録層3と平面視において同じ大きさに形成する場合には、導電層19が接続部材14と接続されるように導電層19を固着層1よりも平面視において大きく形成する必要がある。このように導電層19が固着層1よりも平面的に大きく形成されたとしても、何ら問題はない。
【0073】
このように層間絶縁膜15と強磁性トンネル接合素子MMとの間に所定の導電層19を介在させることによって、接続部材18をたとえば銅により形成した場合には、強磁性トンネル接合素子MMをエッチングによってパターニングする際に、銅の接続部材18が腐食するのを阻止することもできる。また、その導電層19に固着層1の抵抗よりも低い抵抗からなる材料を適用することで、読み出しの際の電流の経路の抵抗を下げることができ、読み出し速度の向上を図ることもできる。
【0074】
また、さらに、上述した本実施の形態の磁気記憶装置MDでは、強磁性トンネル接合素子MMが形成された後の工程において強磁性トンネル接合素子MMがダメージを受けるのを防止するために、強磁性トンネル接合素子MMを覆うように保護膜20を形成する場合を例に挙げて説明した。製造工程において強磁性トンネル接合素子MMが被る可能性のあるダメージとしては、たとえば層間絶縁膜を形成する際の熱処理がある。層間絶縁膜としてシリコン酸化膜を形成する場合、約400℃程度の酸化雰囲気のもとでシリコン酸化膜が形成されることになる。
【0075】
このとき、酸化雰囲気のもとで磁性膜が酸化するおそれがあり、これによって、強磁性トンネル接合素子MMの磁気特性が劣化してしまうことがある。強磁性トンネル接合素子MMを、シリコン窒化膜や酸化アルミニウム膜等の保護膜20により被覆することで、保護膜20はこの酸化のバリアとして機能して強磁性トンネル接合素子MMを保護することができる。
【0076】
また、このような酸化を防ぐために、層間絶縁膜が、シリコン窒化膜などの非酸化性雰囲気のもとで成膜可能な薄膜と、酸化性絶縁膜との2層構造とされてもよい。この場合、2層構造の層間絶縁膜のうち、シリコン窒化膜が強磁性トンネル接合素子MMの保護膜となる。
【0077】
さらに、保護膜20としては、絶縁性金属窒化物、絶縁性金属炭化物およびFeよりも酸化物生成自由エネルギが低い金属の酸化処理によって形成した金属酸化物のうち少なくとも1つの材料を含む膜が好ましい。このような材料を用いることにより、少なくとも、Feを含む磁性材料薄膜を用いた磁気記憶装置の製造工程における酸化工程中に強磁性トンネル接合素子MMが酸化するのを抑制することができる。その結果、製造が容易でかつ動作特性が安定した磁気記憶装置を得ることができる。
(作用効果)
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
【0078】
最初に、書込み動作の際に書き込みされる磁気記憶素子MEと同一のライト線WT上に配置された他の磁気記憶素子MEが選択された場合(ライト線WTによる半選択状態)について説明する。この半選択状態では、記録層3にライト線WTに流れるライト線電流IWTによる磁化困難軸92の方向の磁界が印加される。
【0079】
まず、本実施の形態の比較例1におけるライト線WTによる半選択状態での記録層の磁化について説明する。図13を参照して、比較例1の記録層3は本実施の形態と同様の形状を有している。比較例1では、記録層3の中心点CPが第1の中点MP1と第2の中点MP2上にある。すなわち、中心点CPがビット線BLとライト線WTの交点に存在している。
【0080】
図14を参照して、図13に示す比較例1の記録層3に対して十分に大きいライト線電流IWTが流れて記録層3の面内において磁界が発生した場合の記録層3における磁化の分布を説明する。この場合、記録層3の面内において、実質的に均一な磁界が印加され、記録層3における磁化は、全てライト線電流IWTによる磁界方向へと飽和する。この状態でライト線電流IWTが0になると、記録層3の磁化は磁化容易軸91に沿って、図中上向き若しくは下向きとなるが、それぞれの確率は理想的には1/2となる。すなわち、記録層3の磁化が飽和されたことにより、記録層3の磁化が制御できなくなるため情報の保持が不可能となる。したがって、ライト線WTによる半選択状態で誤ってデータの反転が発生する。
【0081】
続いて、本実施の形態におけるライト線WTによる半選択状態での記録層3の磁化について説明する。なお、ライト線電流IWTは比較例1と同様の大きさとする。
【0082】
図15を参照して、本実施の形態の記録層3の中心点CPは、ライト線WTの仮想の中心線AWからずれて配置されている。このため、記録層3における磁化困難軸92の方向には、不均一な磁界が印加されている。なお、中心点CPはビット線BLの仮想の中心線BW上にあるため、磁化容易軸91の方向に沿う仮想の第1の直線63上の磁界は実質的に均一である。
【0083】
これにより、記録層3の他方の部分(一方端LP側)においては磁化が飽和しておらず、仮想の第1の直線63に対して非対称な磁化分布となっている。これは、記録層3の他方の部分においては、ライト線電流IWTにより発生する磁界が小さく、ライト線電流IWTが流れる前の磁化の向きを維持しているためである。この場合には、ライト線電流IWTの通電を停止した場合(ライト線電流IWTを0にした場合)でも磁気記憶素子MEが元来有していた情報は維持される。
【0084】
そして、本実施の形態の磁気記憶素子MEによれば、積層方向からみた記録層3の平面形状は、積層方向からみてライト線WTが延びる方向に沿う第1の中心線AWに対して一方側に位置する一方の部分と他方側に位置する他方の部分とを有し、積層方向からみた一方の部分の面積S2が他方の部分の面積S1の1/3以下である。これにより、半選択状態となった記録層3の磁化反転をほぼ0にすることができる。したがって、半選択状態になった磁気記憶素子MEのデータの誤反転を抑制することができる。よって、信頼性の高い書き込み動作を行うことができる。以下にその理由を詳細に説明する。
【0085】
表1は、一方の部分の面積S2と他方の部分の面積S1との面積比(S2/S1)と、飽和ビット率との関係を示している。なお、ビットは1つの磁気記憶素子MEを意味している。飽和ビット率は、ライト線WTによる半選択状態で記録層3の磁化が飽和する確率を示している。
【0086】
飽和ビット率は以下のように求められた。記録層3の膜面での発生磁界について、マックスウェル方程式を各座標ごとに解くことにより(電磁界解析)、ライト線電流IWTを流した際の記録層3の面内の磁界が計算された。記録層3の飽和磁界の分布が正規分布に従うとして、各位置ごとに飽和磁界に達したビットの存在確率が計算された。なお、計算に用いたライト線電流IWTは、ライト線WT上にある全てのビットを飽和し得る値が便宜的に使用された。このようにして、飽和ビット率が求められた。
【0087】
【表1】

【0088】
図16は表1の各値を示している。図16および表1を参照して、一方の部分の面積S1と他方の部分の面積S2との面積比(S2/S1)が1/3以下の場合には、ライト線WTによる半選択状態で記録層3の磁化が飽和した割合を示す飽和ビット率がほぼ0になる。そのため、ライト線WTによる半選択状態でデータの誤反転を抑制することができるという知見が得られた。
【0089】
また、本実施の形態の磁気記憶素子MEによれば、記録層3はライト線WTが形成する磁界のみが作用した場合に磁化が飽和しないように構成されているため、半選択状態になった磁気記憶素子MEのデータの誤反転を抑制することができる。
【0090】
次に、磁気記憶素子MEが、書込み動作において選択された場合について説明する。
ライト線WTから発生する磁界の記録層3と同一面上の成分は、ライト線WTの仮想の第1の中心線AWの直上付近で最大となる。
【0091】
図17を参照して、本実施の形態の比較例2では、積層方向からみて中心点CPがライト線WTとビット線BLとの間になく、ライト線WTの仮想の第1の中心線AWが中心点CPと他方端RPとの間にない。この場合は、ライト線電流IWTによって発生する記録層3の膜面方向における最大の磁界は、記録層3に印加されないため、書込み動作に必要とされるライト線電流IWTは増大する。さらに、中心点CPが積層方向からライト線WTとビット線BLとの間にないことから、記録層3の中心に印加される磁界が小さくなり、書き込み動作に必要とされるライト線電流IWTは増大する。
【0092】
一方、本実施の形態の磁気記憶素子MEによれば、中心点CPは積層方向からみてライト線WTとビット線BLとの間に挟まれた領域に配置され、かつ積層方向からみてライト線WTの第1の中心線AWからずれて配置されている。そのため、記録層3の内部にライト線電流IWTによる最大の磁界が印加されることから、ライト線電流IWTを大きくしなくても書き込み動作が可能である。このため、書き込み動作の際のライト線電流IWTの増大を抑制することができる。よって、ライト線電流IWTを増大することなく、半選択状態になった磁気記憶素子MEのデータの誤反転を抑制することができる。
【0093】
また、本実施の形態の磁気記憶素子MEによれば、中心点CPは、積層方向からみてビット線BLが延びる方向に沿うビット線BLの仮想の第2の中心線BW上に配置されている。このため、書き込み動作の際にビット線BLの電流によって記録層3の中心に印加される磁界が大きくなる。そのため、書き込み動作の際のビット線BLの電流の増大を抑制することができる。したがって、ビット線BLの電流とライト線電流IWTとの合成磁界の増大を抑制することができる。
【0094】
上記より、ライト線電流IWTの増大を抑制し、記録層3の磁化の飽和を防ぐためには、ライト線WTの仮想の第1の中心線AWは、中心点CPと一方端LP、中心点CPと他方端RPのそれぞれの中点付近を通過することが望ましい。さらに、中心点CPは、積層方向においてライト線WTとビット線BLとの間にある必要があることから、ライト線WTの幅は、中心点CPと一方端LPとの間の距離と、中心点CPと他方端RPとの間の距離よりも大きいことが望ましい。しかしながら、ライト線WTの幅が広すぎると、ライト線電流IWTによって記録層3に実質的に均一な磁界が発生するため、記録層3の磁化が飽和する。
【0095】
図18を参照して、本実施の形態の比較例2では、記録層3の一方端LPから他方端RPまでの距離に対し、ライト線WTの幅は2.5倍である。この場合は、記録層3に実質的に均一な磁界が発生する。
【0096】
本実施の形態の磁気記憶素子MEによれば、積層方向からみたライト線WTの幅は、中心点CPと一方端LPとの間の距離および中心点CPと他方端RPとの間の距離の双方よりも大きく、かつ一方端LPと他方端RPとの間の距離の2倍の距離よりも小さく、かつ積層方向からみてライト線WTの第1の中心線AWは、中心点CPと一方端LPとの第3の中点MP3および中心点CPと他方端RPとの第4の中点MP4のいずれかを通る。
【0097】
これにより、中心点CPと一方端LPとの間の距離および中心点CPと他方端RPとの間の距離の双方よりも積層方向からみたライト線WTの幅が大きいため、中心点CPを積層方向においてライト線WTとビット線BLとの間に位置させることができる。また、一方端LPと他方端RPとの間の距離の2倍の距離よりも積層方向からみたライト線WTの幅が小さいため、記録層3に実質的に均一な磁界が発生することを防ぐことができる。また、積層方向からみてライト線WTの第1の中心線AWは、中心点CPと一方端LPとの第3の中点MP3および中心点CPと他方端RPとの第4の中点MP4のいずれかを通るため、ライト線電流IWTの増大を抑制しつつ、記録層3の磁化の飽和を防ぐことができる。
【0098】
本実施の形態の磁気記憶素子MEによれば、ライト線WTを被覆し、かつライト線WTより高い透磁率を有する材料により構成されている被覆層HRをさらに備えている。これにより、ライト線WTから発生する磁束が集中することから急峻な磁界分布が得られるため、さらにライト線電流IWTの増大を抑制しつつ、半選択状態になった磁気記憶素子MEのデータの誤反転を抑制することができる。
【0099】
本実施の形態の磁気記憶装置MDによれば、上記の磁気記憶素子MEと、磁気記憶素子MEを制御するための素子選択用トランジスタTRとを備えている。これにより、半選択状態になった磁気記憶素子のデータの誤反転を抑制することにより信頼性の高い書き込み動作を行うことができる磁気記憶素子MEを用いた磁気記憶装置MDを提供することができる。
【0100】
本実施の形態によれば、特にMRAMのマトリクス内で記録層3の特性にばらつきがある場合において、ライト線電流IWTを増大することなく、半選択状態になった記録層3の磁化反転を防ぐことが可能である。このため、実用的観点からは、マトリクス状に並んだ磁気記憶素子MEの記録層3のばらつきに起因したデータの反転を抑制できる構成が好ましい。
【0101】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2は、実施の形態1と比較して記録層3の形状が主に異なっている。
【0102】
図19を参照して、本実施の形態の記録層3の平面形状は、仮想の第1の直線63に関して非対称であり、仮想の第2の直線64に対して対象な形状を有している。第1の中点MP1と中心点CPとに挟まれた直線の領域を直線領域SRとする。
【0103】
記録層3の平面形状は、仮想の第1の直線63に対して、一方端LP側の面積が小さく、他方端RP側の面積が大きくなるよう構成されている。
【0104】
図20を参照して、積層方向からみて記録層3の平面形状は、ライト線WTの第1の中心線AWに対して非対称であり、かつビット線BLの第2の中心線BWに対して対称に配置されている。第1の中点MP1と中心点CPとの直線領域SRは、積層方向からみてライト線WTとビット線BLとの間に挟まれた領域に配置されている。直線領域SRは積層方向からみてライト線WTの第1の中心線AWと交差しない位置に配置されている。
【0105】
ライト線WTの仮想の第1の中心線AWに対して中心点CPよりも第1の中点MP1は離れて配置されている。ライト線WTの仮想の第1の中心線AWは、中心点CPと他方端RPとの中点MP4上を通っている。他方端RPは、積層方向からみてライト線WTとビット線BLとの間に挟まれて配置されている。一方端LPは、積層方向からみてライト線WTとビット線BLとの間に挟まれて配置されていない。
【0106】
なお、本実施の形態のこれ以外の構成などは、上述した実施の形態1の構成と同一であるため同一の要素については同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0107】
また、図21を参照して、本実施の形態の変形例1の記録層3は、本実施の形態の記録層3と磁化容易軸91の方向に対して線対称の形状であってもよい。この変形例1では、第1の中点MP1と他方端RPとの距離が小さいため、その配置の余裕度が小さい。そのため、たとえばフォトリソグラフィーにおいて、各層間の重ね合わせにずれが発生した場合には、半選択状態になった磁気記憶素子MEのデータの誤反転を抑制することが難しい。これを考慮した場合は、図20に示す本実施の形態の方が好ましい。
【0108】
また、図22を参照して、本実施の形態の変形例2の記録層3では、仮想の第2の直線64の方向に凹型の部分を有していてもよい。図23を参照して、この変形例2では、一方端LPは積層方向からみてライト線WTとビット線BLとの間に配置されている。また、磁化容易軸91に沿う方向における記録層3の両端部は、積層方向においてライト線WTとビット線BLとの間に配置されていない。また、この変形例2でも記録層3は磁化容易軸91の方向に対して線対称の形状であってもよい。
【0109】
また、図23を参照して、本実施の形態の変形例3の記録層3では、積層方向からみてライト線WTとビット線BLとの間に平面形状の全てが挟まれていてもよい。この変形例3では、一方端LPは積層方向からみてライト線WTとビット線BLとの間に配置されている。この変形例3では、ライト線WTの製造工程において、段差が発生した場合においても、その影響を防ぐことが可能である。
【0110】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態では、記録層3においては、第1の中点MP1は磁化容易軸91の方向に沿う平面形状の最大長さLを有する仮想の第1の直線63の中点であり、中心点CPは磁化困難軸92の方向に沿う平面形状の長さWを有する仮想の第2の直線64の中点である第2の中点MP2にあるため、直線領域SRでは磁化容易軸91方向の長さが長くなる。そのため、直線領域SRではライト線電流IWTによる磁界の影響が大きくなる。したがって、第1の中点MP1と中心点CPとで挟まれた領域である直線領域SRに磁界を印加することで、書き込みの際に効率的な磁化反転が可能となる。すなわち、記録層3が磁化容易軸91に対して非対称な形状の場合は、第1の中点MP1と中心点CPとを結ぶ直線領域SRを実施の形態1での中心点CPと同様に考えることによって同様な効果を得ることが可能である。
【0111】
本実施の形態の磁気記憶素子MEによれば、積層方向からみて記録層3の平面形状がライト線WTの第1の中心線AWに対して非対称であるため、形状による磁気異方性の影響により、記録層3の磁化分布は磁化容易軸91に対して非対称となる。そのため、記録層3の一方端LP側または他方端RP側においては、さらに磁化が飽和しなくなる。したがって、記録層3形状とライト線電流IWTにより印加される磁界がともに仮想の第1の中心線AWに対して非対称であるため、ライト線WTにより半選択となった記録層3の誤反転をより防止することができる。
【0112】
また、本実施の形態の磁気記憶素子MEによれば、ライト線WTの仮想の第1の中心線AWに対して中心点CPよりも第1の中点MP1は離れて配置されているため、一方端LPまたは他方端RPと直線領域SRとの距離を確保することができるため、その配置の余裕度が大きくなる。そのため、たとえばフォトリソグラフィーにおいて、各層間の重ね合わせにずれが発生した場合でも、半選択状態になった磁気記憶素子MEのデータの誤反転を抑制することができる。
【0113】
また、本実施の形態の磁気記憶素子MEによれば、積層方向からみてライト線WTとビット線BLとの間に平面形状の全てが挟まれているため、ライト線WTの製造工程において段差が発生した場合においても、その影響を防ぐことができる。
【0114】
また、上述した磁気記憶素子MEおよび磁気記憶装置MDでは、1つのメモリセルに1つの磁気記憶素子MEを設けたメモリセルを例に挙げて説明したが、1つのメモリセルに2つ以上の磁気記憶素子MEを設けてもよく、また、それらのメモリセルが互いに積層されていてもよい。
【0115】
上記の各実施の形態は、適時組み合わせることができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【符号の説明】
【0116】
1 固着層、2 トンネル絶縁層、3 記録層、11 半導体基板、12 素子分離絶縁膜、13,15,17,21,24,26,28 層間絶縁膜、13a,17a,21a,21b コンタクトホール、14,16,18,23,27 接続部材、15a,15b,15c,24a 開口部、16,25,29 配線層、19 導電層、20 保護膜、28 絶縁層、63 仮想の第1の直線、64 仮想の第2の直線、91 磁化容易軸、92 磁化困難軸、AW 仮想の第1の中心線、BL ビット線、BW 仮想の第2の中心線、CP 中心点、D ドレイン領域、G ゲート電極、GI ゲート絶縁膜、HR 被覆層、IWT ライト線電流、LP 一方端、MC メモリセル、MD 磁気記憶装置、ME 磁気記憶素子、MM 強磁性トンネル接合素子、MP1 第1の中点、MP2 第2の中点、MP3 第3の中点、MP4 第4の中点、MR メモリセル領域、RP 他方端、RR 周辺回路領域、S ソース領域、S/D ソース/ドレイン領域、S1 他方の部分の面積、S2 一方の部分の面積、SI 側壁絶縁膜、SL ソース線、SR 直線領域、TR 素子選択用トランジスタ、TRA トランジスタ、WD ワード線、WT ライト線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部磁界によって磁化方向を変化可能であり、磁化容易軸と前記磁化容易軸に交差する磁化困難軸とを有する記録層と、
前記記録層の配置位置において前記磁化容易軸の方向と交差する方向に磁界を形成するための第1導電層と、
前記1導電層と交差する方向に延び、かつ前記記録層の配置位置において前記磁化困難軸の方向と交差する方向に磁界を形成するための第2導電層とを備え、
前記記録層は、前記第1導電層と前記第2導電層との間に前記記録層の少なくとも一部が挟まれるように配置されており、前記第1および第2導電層と前記記録層とが積層された積層方向からみた前記記録層の平面形状は、前記積層方向からみて前記第1導電層が延びる方向に沿う前記第1導電層の仮想の第1の中心線に対して一方側に位置する一方の部分と他方側に位置する他方の部分とを有し、
前記積層方向からみた前記一方の部分の面積が前記他方の部分の面積の1/3以下である、磁気記憶素子。
【請求項2】
前記記録層は、前記第1導電層が形成する前記磁界のみが作用した場合に、磁化が飽和しないように構成されている、請求項1に記載の磁気記憶素子。
【請求項3】
前記磁化容易軸の方向に沿う前記平面形状の最大長さを有する仮想の第1の直線の第1の中点を通り、かつ前記磁化困難軸の方向に沿う前記平面形状の長さを有する仮想の第2の直線の第2の中点にある中心点は、前記積層方向からみて前記第1導電層と前記第2導電層との間に挟まれた領域に配置され、かつ前記積層方向からみて前記第1導電層の前記第1の中心線からずれて配置されている、請求項1または2に記載の磁気記憶素子。
【請求項4】
前記中心点は、前記積層方向からみて前記第2導電層が延びる方向に沿う前記第2導電層の仮想の第2の中心線上に配置されている、請求項3に記載の磁気記憶素子。
【請求項5】
前記第2の直線上に位置する前記平面形状の両端部を一方端および他方端としたときに、
前記積層方向からみた前記第1導電層の幅は、前記中心点と前記一方端との間の距離および前記中心点と前記他方端との間の距離の双方よりも大きく、かつ前記一方端と前記他方端との間の距離の2倍の距離よりも小さく、かつ
前記積層方向からみて前記第1導電層の前記第1の中心線は、前記中心点と前記一方端との第3の中点および前記中心点と前記他方端との第4の中点のいずれかを通る、請求項3または4に記載の磁気記憶素子。
【請求項6】
前記積層方向からみて前記平面形状が前記第1導電層の前記第1の中心線に対して非対称であり、かつ前記第2の導電層の前記第2の中心線に対して対称に配置されており、
前記第1の中点と前記中心点との直線領域は、前記積層方向からみて前記第1導電層と前記第2導電層との間に挟まれた領域に配置され、かつ前記積層方向からみて前記第1導電層の前記第1の中心線と交差しない位置に配置されている、請求項3〜5のいずれかに記載の磁気記憶素子。
【請求項7】
前記第1導電層の前記第1の中心線に対して前記中心点よりも前記第1の中点は離れて配置されている、請求項6に記載の磁気記憶素子。
【請求項8】
前記積層方向からみて前記第1導電層と前記第2導電層との間に前記平面形状の全てが挟まれている、請求項1〜7のいずれかに記載の磁気記憶素子。
【請求項9】
前記第1導電層を被覆し、かつ前記第1導電層より高い透磁率を有する材料により構成されている被覆層をさらに備えた、請求項1〜8のいずれかに記載の磁気記憶素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の磁気記憶素子と、
前記磁気記憶素子を制御するための制御素子とを備えた、磁気記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−210830(P2011−210830A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75349(P2010−75349)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】