説明

薄膜トランジスタの製造方法

【課題】良好な生産性を確保しつつ、優れた特性と信頼性の高いゲート絶縁層を有する薄膜トランジスタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板9上にソース領域17、チャンネル領域18、ドレイン領域19を有する活性層11と、ゲート電極層16と、活性層11とゲート電極層16との間に形成されるゲート絶縁層15とを有する薄膜トランジスタであって、ゲート絶縁層15を、活性層11側に形成される第1の酸化珪素膜12と、ゲート電極層16側に形成される第2の酸化珪素膜14と、第1の酸化珪素膜12と第2酸化珪素膜14の間に形成される窒化珪素膜13とで形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化珪素膜をゲート絶縁層とする薄膜トランジスタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より液晶ディスプレイ(LCD)や有機エレクトロルミネッセンス(OLED)等のデバイスには、アモルファスシリコン(a−Si)や窒化珪素膜(SiNx)、酸化珪素膜(SiOx)といった薄膜から形成される、薄膜トランジスタであるアモルファスシリコンTFT(a−SiTFT)、低温ポリシリコンTFT(LTPS−TFT)が利用されている。とりわけ低温ポリシリコンTFTは、アモルファスシリコンTFTよりも高移動度化が可能であり、かつ透明で絶縁性のある例えばガラス基板のような基板上に作製することができる。
【0003】
低温ポリシリコンTFTの代表的な構造としては、例えば図18に示すようなコプレーナ型トランジスタが挙げられる。
コプレーナ型トランジスタの構成は、図18に示すように、透明性及び絶縁性を有するガラス基板100上に、活性層101となる多結晶珪素薄膜が形成される。この活性層101は、N型又はP型不純物がドーピングされてなるソース領域102、チャネル領域103、ドレイン領域104に分けられており、この活性層101を覆うようにゲート絶縁層105が形成され、ゲート電極106がチャネル領域103上に形成される。更に、層間絶縁層107上にソース電極108とドレイン電極109が配置される。
ところで、低温ポリシリコンTFTの製造工程においては、その利用される半導体素子が大面積を必要とするため安価なガラス基板が用いられており、その耐熱性が十分でないため、比較的低温(およそ600℃程度以下)のプロセス温度で作製しなくてはならない。
一方、シリコン単結晶基板を用いたシリコンTFTの製造工程においては、その表面を水蒸気雰囲気中もしくは酸素雰囲気中で表面を高温(900℃〜1100℃程度)酸化することで、ゲート絶縁膜である酸化珪素膜を形成する。この熱酸化により形成されたゲート絶縁膜は、膜中の欠陥が少ない非常に高品質な膜であり、また活性層とゲート絶縁膜の界面もクリーンな状態に保たれるため、ゲート絶縁膜とシリコン基板との界面特性も良質である。
これに対して、上記した従来の低温ポリシリコンTFTの製造方法では、界面特性の良好なゲート絶縁膜を得ることが難しかったが、近年、低温ポリシリコンTFTでも界面特性の良好なゲート絶縁膜を得ることができる製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
上記特許文献1によるゲート絶縁膜の製造方法では、多結晶珪素薄膜上に酸化膜を形成した後に触媒金属を堆積し、600℃以下の酸化雰囲気中で熱処理するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−163193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のような従来の低温ポリシリコンTFTの製造方法では、触媒金属を塗布する工程ならびに熱処理により絶縁層を形成する工程、さらに実用性を考慮し、最終的に触媒金属を活性層から除去する工程があり、生産性が良くなかった。
また、図18に示したような従来の低温ポリシリコンTFT(コプレーナ型トランジスタ)の製造工程では、ゲート絶縁層105の形成前に活性層101(ソース領域102及びドレイン領域104と、チャネル領域103)のパターニング工程が必要となる。このため、この活性層101とゲート絶縁層105の界面特性は、上記したシリコンTFTの製造工程のような良好な特性を得ることが難しかった。
【0006】
その結果、キャリアのトラップ及び散乱が生じ、低温ポリシリコンTFTの特性のひとつであるスレッショルド電圧(閾値電圧)の変位(シフト)が大きくなったり、サブスレッショルドスイング(S値)が大きくなってしまうという問題があった。
そこで本発明は、良好な生産性を確保しつつ、優れた特性と信頼性の高いゲート絶縁層を有する薄膜トランジスタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の薄膜トランジスタのうち請求項1記載の発明は、基板上にソース領域、ドレイン領域、チャンネル領域を有する活性層と、ゲート電極層と、前記活性層と前記ゲート電極層との間に形成されるゲート絶縁層とを有する薄膜トランジスタであって、前記ゲート絶縁層が、前記活性層に接して形成される第1の酸化珪素膜と、この第1の酸化珪素膜と前記ゲート電極層との間に前記第1の酸化珪素膜に接して形成される窒化珪素膜とを含み、前記第1の酸化珪素膜の膜厚が40nm以上50nm以下、前記窒化珪素膜の膜厚が10nm以上20nm以下であることを特徴とする。
【0008】
さらに、請求項2記載の発明は、上記構成に加え、前記窒化珪素膜と前記ゲート電極層との間に第2の酸化珪素膜を有することを特徴とする。
請求項3記載の発明は、前記活性層がポリシリコンで形成されることを特徴とする。
請求項4記載の発明は、前記第1の酸化珪素膜、前記窒化珪素膜の膜厚の比が、4〜5:1〜2であることを特徴とする。
請求項5記載の発明は、前記第1の酸化珪素膜、前記窒化珪素膜、前記第2の酸化珪素膜のそれぞれの膜厚の比が、4〜5:1〜2:4〜5であることを特徴とする。
請求項6記載の発明は、前記ゲート絶縁層全体の層厚が、50nm以上200nm以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の薄膜トランジスタの製造方法のうち請求項7記載の発明は、基板表面に活性層を形成する工程と、前記活性層上に第1の酸化珪素膜を形成する工程と、前記第1の酸化珪素膜上に窒化珪素膜を形成する工程と、前記窒化珪素膜上にゲート電極層を形成する工程とを含み、前記第1の酸化珪素膜を形成する工程においては、圧力調整された反応容器内に珪素原子を含む第1の珪素付与ガス、酸素原子を含む酸素付与ガスのそれぞれの少なくとも一種類ずつを導入して、プラズマCVD法により酸化珪素膜を形成し、前記窒化珪素膜を形成する工程においては、圧力調整された反応容器内に珪素原子を含む第2の珪素付与ガス、窒素原子を含む窒素付与ガス、希釈ガスのそれぞれの少なくとも一種類ずつを導入して、プラズマCVD法により窒化珪素膜を形成し、前記第1の珪素付与ガスと前記酸素付与ガスの組成比が、1:30〜50であり、前記第2の珪素付与ガスは、テトラエトキシオルソシリケートと、ヘキサメチルジシラザンと、モノシランと、ジシランからなる群より選択されるいずれか1種類のガスであり、前記窒素付与ガスは、アンモニア、一酸化窒素、ヒドラジンからなる群より選択されるいずれか1種類のガスであることを特徴とする。
【0010】
請求項8記載の発明は、前記ゲート電極層を形成する工程が、前記窒化珪素膜上に第2の酸化珪素膜を形成後、ゲート電極層を形成する工程であることを特徴とする。
請求項9記載の発明は、前記第1の珪素付与ガスは、テトラエトキシオルソシリケートと、ヘキサメチルジシラザンと、モノシランと、ジシランからなる群より選択されるいずれか1種類のガスであり、前記酸素付与ガスは、酸素、亜酸化窒素、オゾン、二酸化炭素、水からなる群より選択されるいずれか1種類のガスであることを特徴とする。
請求項10記載の発明は、前記酸化珪素膜の成膜時の圧力は80〜200Paであり、基板温度は330〜430℃であることを特徴とする。
請求項11記載の発明は、前記第2の珪素付与ガス、前記窒素付与ガス、前記希釈ガスの組成比が、1:10〜25:10〜30であることを特徴とする。
請求項12記載の発明は、前記窒化珪素膜の成膜時の圧力は200〜400Paであり、基板温度は330〜430℃であることを特徴とする。
請求項13記載の発明は、プラズマCVD法で前記第1の酸化珪素膜、前記第2の酸化珪素膜、前記窒化珪素膜をそれぞれ形成する際の、電極に印加する高周波電圧の周波数が27.1MHzであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の薄膜トランジスタによれば、閾値電圧及びS値を小さくすることができ、優れた特性を有することができる。
さらに、本発明の薄膜トランジスタの製造方法によれば、良好な生産性を確保しつつ、ゲート絶縁層の膜中の欠陥ならびに珪素薄膜との界面の欠陥密度を大幅に低減して界面特性の良好なゲート絶縁層を有する薄膜トランジスタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る製造方法によって形成された薄膜トランジスタとしてのポリシリコンTFTを示す概略断面図。
【図2】本発明に係るポリシリコンTFTのゲート絶縁層を成膜するためのプラズマCVD装置を示す概略断面図。
【図3】本発明に係るゲート絶縁層と従来のゲート絶縁層のそれぞれの成膜プロセス条件を示す図。
【図4】本発明に係るゲート絶縁層の第1、第3層としての酸化珪素膜の形成時における、成膜温度と成膜速度の関係を示す図。
【図5】本発明に係るゲート絶縁層の第1、第3層としての酸化珪素膜の形成時における、成膜温度とDit、Vfbの関係の関係を示す図。
【図6】本発明に係るゲート絶縁層の第1、第3層としての酸化珪素膜の形成時における、珪素付与ガスに対する酸素ガス組成比と成膜速度の関係を示す図。
【図7】本発明に係るゲート絶縁層の第1、第3層としての酸化珪素膜の形成時における、酸素ガス組成比とDit、Vfbの関係を示す図。
【図8】本発明に係るゲート絶縁層の第1、第3層としての酸化珪素膜を形成時における、プロセス圧力と成膜速度及び基板面内分布の関係を示す図。
【図9】本発明に係るゲート絶縁層の第2層としての窒化珪素膜を形成時における、珪素付与ガスに対する窒素付与ガスとしてのアンモニアガス組成比と成膜速度の関係を示す図。
【図10】本発明に係るゲート絶縁層の第2層としての窒化珪素膜を形成時における、アンモニアガス組成比とDit、Vfbの関係を示す図。
【図11】本発明に係るゲート絶縁層の第2層としての窒化珪素膜を形成時における、珪素付与ガスに対する窒素付与ガスの組成比と、成膜速度と基板面内分布の関係を示す図。
【図12】本発明に係るゲート絶縁層の第2層としての窒化珪素膜を形成時における、プロセス圧力と、成膜速度と基板面内分布の関係を示す図。
【図13】本発明に係るゲート絶縁層の第2層としての窒化珪素膜を形成時における、成膜温度と成膜速度の関係を示す図。
【図14】本発明に係るゲート絶縁層の第2層としての窒化珪素膜を形成時における、成膜温度とDit、Vfbの関係を示す図。
【図15】本発明に係るゲート絶縁層の第1、第2層としての各酸化珪素膜における膜厚と、Dit、Vfbの関係を示す図。
【図16】本発明に係るゲート絶縁層の第2層としての窒化珪素膜における膜厚と、Dit、Vfbの関係を示す図。
【図17】本発明に係るゲート絶縁層と従来のゲート絶縁層を使用した各ポリシリコンTFTにおける、サブスレッショルドスイング値(S値)とスレッショルド電圧(Vth)を示す図。
【図18】従来例に係る製造方法によって形成された薄膜トランジスタとしてのポリシリコンTFTを示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る製造方法によって形成された薄膜トランジスタとしての低温ポリシリコンTFT(以下、ポリシリコンTFTという)を示す概略断面図であり、(a)はゲート絶縁層が第1の酸化珪素膜、窒化珪素膜及び第2の酸化珪素膜の三層積層構造のもの、(b)は第1の酸化珪素膜及び窒化珪素膜の二層積層構造のものを示す。
図1(a)を参照して、本実施形態の薄膜トランジスタは、基板9上にソース領域17、ドレイン領域19、チャンネル領域18を有する活性層11と、ゲート電極層16と、活性層11とゲート電極層16との間に形成されるゲート絶縁層15とを備え、ゲート絶縁層15が、活性層11側に形成される第1の酸化珪素膜12と、ゲート電極層16側に形成される第2の酸化珪素膜14と、第1の酸化珪素膜12と第2酸化珪素膜14の間に形成される窒化珪素膜13とを有している。
【0014】
このような構成の本実施形態の薄膜トランジスタでは、閾値電圧及びS値を小さくすることができる。
また図1(b)に示すように、ゲート絶縁層が第1の酸化珪素膜及び窒化珪素膜の二層構造でも、ゲート絶縁膜の絶縁性が満足するものであれば、図1(a)で示した第2の酸化珪素膜を成膜しなくてもよい。
【0015】
次に本実施形態の製造装置について説明する。
図2は、このポリシリコンTFTのゲート絶縁層を成膜するためのプラズマCVD装置を示す概略断面図である。
このプラズマCVD装置1の反応容器2の上部には、ガスボンベ等の複数のガス源(不図示)等が接続されているガス導入系3が設けられており、反応容器2の下部には、真空ポンプ(不図示)等が接続されている排気系4が設けられている。反応容器2内には、2個の平板状の上部電極5と下部電極6が対向して設置されており、上側に位置する上部電極5には高周波電力をパルス変調させる変調器7を介して外部の高周波電源8が接続され、下側に位置する下部電極6上には成膜が施される基板9が載置され、下部電極6は基板ホルダーも兼ねている。高周波電源8は、上部電極5に対して27.12MHzの高周波電圧を印加するように構成されている。なお、高周波電圧として13.56MHzも可能であるが、上記27.12MHzの高周波電圧の方が、ガスの分解効率が上がり好ましい。
上部電極5は、その前面側(下部電極6側)にシャワープレート10が設けられるように中空部5aを有しており、その中空部5aと連通するようにしてガス導入系3の先端側を接続して、シャワープレート10に形成されている多数のガス噴出口10aから下部電極6上の基板9に向けて均一に原料ガスを噴出させるように構成されている。また、下部電極6は、載置される基板9を所定温度に加熱するヒータ(不図示)が内蔵されており、成膜中はアース電位に維持されるように構成されている。
【0016】
次に、本発明に係るポリシリコンTFTの製造方法について説明する。
先ず、基板9上に減圧熱CVD法やプラズマCVD法などによって非晶質珪素膜を50nmの厚さに成膜した後に、キセノンクロライド(XeCl)エキシマレーザー(波長308nm)又はクリプトンフロライド(KrF)エキシマレーザー(波長248nm)を照射することにより、非晶質珪素膜を結晶化させて結晶性珪素膜であるポリシリコン(Poly−Si)を得ることができる。これをフォトリソグラフィー及びエッチングを用いてパターニングして、活性層11を形成する。
そして、活性層11が形成された基板9を、上記したプラズマCVD装置1の反応容器2内の下部電極6上に載置して、ヒータ(不図示)に通電して抵抗加熱し、基板9を所定温度に加熱する。この際、反応容器2内を排気系4を通して排気して所定の圧力に調整する。
【0017】
そして、ガス導入系3を通して反応容器2内に第1の珪素付与ガスとしてのテトラエトキシオルソシリケート(TEOS)等のシラン系ガスと、酸素等の酸素付与ガスからなる混合ガス(原料ガス)を導入し、シャワープレート10の多数のガス噴出口10aから下部電極6上の基板9に向けて均一に混合ガスを噴出させる。この際、高周波電源8から上部電極5に対して27.12MHzの高周波電圧を印加して、上部電極5と下部電極6との間の空間に放電を発生させて上記混合ガスをプラズマ化し、活性層11上に第1の絶縁層である第1の酸化珪素膜12を40〜50nmの厚さで成膜する。
なお、第1の酸化珪素膜12を成膜する際に、第1の珪素付与ガスとして上記したテトラエトキシオルソシリケート(TEOS)等のシラン系ガス以外にも、例えばモノシランと、ジシランからなる群より選択されるいずれか1種類のガスを用いてもよく、また、酸素付与ガスとして酸素以外にも、例えば亜酸化窒素、オゾン、二酸化炭素、水からなる群より選択されるいずれか1種類のガスを用いることができる。
【0018】
そして、その後、同様にして第2の珪素付与ガスとしてのモノシラン(SiH)等のシラン系ガスと、アンモニア等の窒素付与ガスと、窒素等の希釈ガスからなる混合ガスを導入し、放電により上記混合ガスをプラズマ化して、第1の酸化珪素膜12上に第2の絶縁層である窒化珪素膜13を10〜20nmの厚さで成膜する。
なお、窒化珪素膜13を成膜する際に、第2の珪素付与ガスとしてモノシラン以外にも、例えばテトラエトキシオルソシリケートと、ヘキサメチルジシラザンと、ジシランからなる群より選択されるいずれか1種類のガスを用いてもよく、また、前記窒素付与ガスとしてアンモニア以外にも、例えば一酸化窒素、ヒドラジンからなる群より選択されるいずれか1種類のガスを用いることができる。
【0019】
そして、その後、第1の酸化珪素膜12と同じガス系の混合ガスを導入し、放電により上記混合ガスをプラズマ化して、窒化珪素膜13上に第3の絶縁層である第2の酸化珪素膜14を50nmの厚さで成膜する。そして、これをフォトリソグラフィー及びエッチングを用いてパターニングして、ゲート絶縁層15を形成する。本発明の特徴であるゲート絶縁層15の詳細については後述する。
この第2の酸化珪素膜14はゲート絶縁膜の絶縁性が満足するものであれば成膜しなくてもよい。
なお、第1、2の酸化珪素膜12、14を形成する混合ガスとしては、シラン系ガス、酸素付与ガスのそれぞれから少なくとも1種類ずつ選んで所定量混合してなる混合ガスを用いており、窒化珪素膜13を形成する混合ガスとしては、シラン系ガス、窒素付与ガス、希釈ガスのそれぞれから少なくとも1種類ずつ選んで所定量混合してなる混合ガスを用いている。
【0020】
次に、上記ゲート絶縁層15(第2の酸化珪素膜14)上に、アルミニウム膜をスパッタ法で250nmの厚さに成膜した後にモリブデン膜50nmをスパッタ法で成膜する。このアルミニウム膜中にはスカンジウムを0.2重量%含有させる。これは、後の工程においてヒロックやウィスカーと呼ばれる針状の突起物が形成されることを抑制するためである。そして、これをフォトリソグラフィー及びエッチングを用いてパターニングすることにより、ゲート電極16を形成する。
そして、ゲート電極16を形成したら次にソース/ドレイン領域を形成するための不純物(一導電型を付与するための不純物)のドーピングを行う。ここでは、Nチャネル型の薄膜トランジスタを得るために、P(リン)のドーピングをプラズマドーピング法によって行う。ドーピングの終了後にアニールを行うことにより、ドーピングされた不純物の活性化とドーピング時の損傷のアニールとを行う。上記の工程において、それぞれソース領域17、チャネル領域18、ドレイン領域19が自己整合的に形成される。
【0021】
次に、ゲート電極16とゲート絶縁層15上に、CVD法(プラズマCVD法、熱CVD法、ECRプラズマCVD法など)により酸化珪素膜20を250nmの厚さで成膜する。そして、これをフォトリソグラフィー及びエッチングを用いてコンタクトホールの形成を行なって層間絶縁層21を形成した後、モリブデン膜をスパッタ法で50nmの厚さに成膜した後にアルミニウム膜300nmを成膜し、ソース電極22とドレイン電極23の形成することにより、図1に示した本発明に係るポリシリコンTFTが得られる。
【0022】
次に、上記した触媒CVD装置1によって製造される本発明に係るゲート絶縁層15の成膜条件等について説明する。
本発明に係るゲート絶縁層15の膜厚は、第1層(第1の酸化珪素膜12):第2層(窒化珪素膜13):第3層(第2の酸化珪素膜14)=50nm:10nm:50nmであり、それぞれの成膜プロセス条件は、図3に示した通りである。なお、比較のために、従来のポリシリコンTFTのゲート絶縁層で使用されているTEOSを原料ガスとした酸化珪素膜の代表的な成膜プロセス条件も併せて図3に示した。なお、成膜速度、基板面内での膜厚分布については、730mm×920mmサイズのガラス基板上に成膜した場合の結果である。また、Vfb(単位:V)は、ゲート絶縁層中の欠陥の量を示す指標としてフラットバンド電圧であり、Dit(単位:cm−2・eV−1)は、ゲート絶縁層と珪素薄膜の界面の欠陥密度を示す指標としての界面準位密度である。また、この場合の基板は、P型のSi[001]単結晶ウェハ(Na=2×1015cm−3)を用いている。
図3に示したように、従来のゲート絶縁層の場合は、TEOSを原料ガスとした酸化珪素膜の成膜速度:80nm/min程度で、基板面内での膜厚分布(10mm端):±7.5%程度である。また、その膜厚を110nmとした場合、Vfb=−1.5〜−2.0Vであり、Dit=8×1011cm−2・eV−1であった。
【0023】
このことを踏まえると、後述する図4〜図16に示す測定結果から、本発明におけるゲート絶縁層の成膜プロセス条件は、ゲート絶縁層の全体の成膜速度:78〜83nm/min程度で、基板面内での膜厚分布(10mm端):±5.5〜7.0%程度である。また、その膜厚を110nmとした場合、Vfb=−1.0〜−1.5Vであり、Dit=4.3×1010〜9.6×1010cm−2・eV−1である。
図4は、第1、第3層としての酸化珪素膜(第1、第2の酸化珪素膜12、14)の形成時における、成膜温度と成膜速度の関係を示す測定結果であり、図5は、酸化珪素膜(第1、第2の酸化珪素膜12、14)の形成時における、成膜温度とDit、Vfbの関係を示す測定結果である。なお、図5において、aはDitであり、bはVfbである。
図4に示す測定結果から明らかなように、成膜温度を上げると成膜速度が低下し生産性が落ちる。また、図5に示す結果から明らかなように、Ditは成膜温度が上がると減少して界面の欠陥密度が低下するが、430℃程度以上で概ね一定値になる。一方、Vfbは成膜温度が上がると上昇して層内の欠陥量の減少を示すが、430℃以上で一定値となる。なお、基板の耐熱温度ならびに装置材料の都合上から450℃程度以下が好ましい。
このため、酸化珪素膜(第1、第2の酸化珪素膜12、14)の成膜速度を高く維持し、Ditを低く、Vfbを高く成膜するためには、330℃〜430℃程度の範囲で成膜することが好ましい。
【0024】
図6は、酸化珪素膜(第1、第2の酸化珪素膜12、14)の形成時における、珪素付与ガスに対する酸素ガス組成比と成膜速度の関係を示す測定結果であり、図7は、酸化珪素膜(第1、第2の酸化珪素膜12、14)の形成における、酸素ガス組成比とDit、Vfbの関係を示す測定結果である。なお、図7において、aはDitであり、bはVfbである。
図6に示す結果から明らかなように、酸素ガス組成比を上げると成膜速度が低下し生産性が落ちる。また、図7に示す結果から明らかなように、Ditは酸素ガス組成比が上がると減少して界面の欠陥密度が低下し、酸素ガス組成比が30以下で急激に低下して、50以上で概ね一定値となる。一方、Vfbは酸素ガス組成比が上がると上昇して層内の欠陥量の減少を示すが、30以下で急激に上昇し50以上で概ね一定値となる。
このため、酸化珪素膜(第1、第2の酸化珪素膜12、14)の成膜速度を高く維持し、Ditを低く、Vfbを高く成膜するためには、珪素付与ガスに対する酸素ガス組成比が30〜50の範囲で成膜することが好ましい。
【0025】
図8は、酸化珪素膜(第1、第2の酸化珪素膜12、14)を形成時における、プロセス圧力と成膜速度及び基板面内分布の関係を示す測定結果である。なお、図8において、aは成膜速度、bは基板面内分布である。この測定結果から明らかなように、プロセス圧力を上げると成膜速度が減少する。また、基板面内分布は、プロセス圧力125Pa付近で最小値を取る。
このため、酸化珪素膜(第1、第2の酸化珪素膜12、14)の基板面内分布を小さくするためには、プロセス圧力80〜200Pa程度の範囲で成膜することが好ましい。
図9は、窒化珪素膜(第2の絶縁層としての窒化珪素膜13)の形成時における、珪素付与ガスに対する窒素付与ガスとしてのアンモニアガス組成比と成膜速度の関係を示す測定結果であり、図10は、窒化珪素膜(第2の絶縁層としての窒化珪素膜13)の形成時における、アンモニアガス組成比とDit、Vfbの関係を示す測定結果である。なお、図10において、aはDitであり、bはVfbである。
【0026】
図9に示す測定結果から明らかなように、アンモニアガス組成比を上げると成膜速度が低下し生産性が落ちる。また、図10に示す結果から明らかなように、アンモニアガス組成比が上がるとDitは減少して界面の欠陥密度が低下し、アンモニアガス組成比が20程度までDitは急激に低下して、20以上で概ね一定値となる。一方、Vfbはアンモニアガス組成比が上がると上昇して層内の欠陥量の減少を示すが、20程度まで急激に上昇し20以上で概ね一定値となる。
したがって、窒化珪素膜(第2の絶縁層としての窒化珪素膜13)の成膜速度を高く維持し、Ditを低く、Vfbを高く成膜するためには、アンモニアガス組成比が10〜25程度の範囲で成膜することが好ましい。
図11は、窒化珪素膜(第2の絶縁層としての窒化珪素膜13)の形成時における、珪素付与ガスに対する窒素ガス(希釈ガス)の組成比と、成膜速度と基板面内分布の関係を示す測定結果である。なお、図11において、aは成膜速度であり、bは基板面内分布である。
【0027】
図11に示す測定結果から明らかなように、窒素ガスの組成比を上げると成膜速度が減少する。また、基板面内分布は、窒素ガスの組成比20付近で最小値を取る。このため、窒化珪素膜(第2の絶縁層としての窒化珪素膜13)の基板面内分布を小さくするためには、窒素ガスの組成比10〜30程度の範囲で成膜することが好ましい。
図12は、窒化珪素膜(第2の絶縁層としての窒化珪素膜13)の形成時における、プロセス圧力と、成膜速度と基板面内分布の関係を示す測定結果である。なお、図12において、aは成膜速度であり、bは基板面内分布である。
図12に示す測定結果から明らかなように、プロセス圧力を上げると成膜速度が減少し、基板面内分布はプロセス圧力250Pa付近で最小値を取る。このため、窒化珪素膜(第2の絶縁層としての窒化珪素膜13)の基板面内分布を小さくするためには、プロセス圧力200〜400Pa程度の範囲で成膜することが好ましい。
【0028】
図13は、窒化珪素膜(第2の絶縁層としての窒化珪素膜13)の形成時における、成膜温度と成膜速度の関係を示す測定結果であり、図14は、窒化珪素膜(第2の絶縁層としての窒化珪素膜13)の形成時における、成膜温度とDit、Vfbの関係を示す測定結果である。なお、図14において、aはDitであり、bはVfbである。
図13に示す測定結果から明らかなように、成膜温度を上げると成膜速度が低下し生産性が落ちる。また、図14に示す結果から明らかなように、Ditは成膜温度が上がると減少して界面の欠陥密度が低下するが、430℃程度以上で概ね一定値になる。一方、Vfbは成膜温度が上がると上昇して層内の欠陥量の減少を示すが、430℃程度以上で一定値となる。なお、基板の耐熱温度から450℃程度以下が好ましい。
このため、窒化珪素膜((第2の絶縁層としての窒化珪素膜13)の成膜速度を高く維持し、Ditを低く、Vfbを高く成膜するためには、330℃〜430℃程度の範囲で成膜することが好ましい。
【0029】
図15は、本発明におけるゲート絶縁層15の第1、第3層(第1、第2の酸化珪素膜12、14)における膜厚と、Dit、Vfbの関係を示す測定結果である。図16は、本発明におけるゲート絶縁層15の第2層(窒化珪素膜13)における膜厚と、Dit、Vfbの関係を示す測定結果である。なお、図15、図16において、aはDitであり、bはVfbである。
図15、図16に示す測定結果から明らかなように、第2層(窒化珪素膜13)の膜厚を10〜20nmとした場合に、第1、第3層(第1、第2の酸化珪素膜12、14)の膜厚がそれぞれ40〜50nmの範囲で良質な膜質(Ditが低く、かつVfbが高い)のゲート絶縁層を得ることができた。
【0030】
また、上記した本発明に係るゲート絶縁層15と、TEOSを原料ガスとした酸化珪素膜からなる従来のゲート絶縁層をそれぞれ有する上記ポリシリコンTFTを製造した場合における、サブスレッショルドスイング値(S値、単位:V/dec)とスレッショルド電圧(Vth、単位:V)を測定したところ、図17に示すような測定結果が得られた。なお、このときの各ゲート絶縁層の成膜プロセス条件は、図3の場合と同様である。
図17に示す測定結果から明らかなように、本発明に係る3層構造のゲート絶縁層(第1の酸化珪素膜12、窒化珪素膜13、第2の酸化珪素膜14)15を成膜することにより、従来の単層構造のゲート絶縁層(酸化珪素膜)に比べて、サブスレッショルドスイング値(S値)を小さく、かつスレッショルド電圧(Vth)の小さい高性能なポリシリコンTFTを作製することができる。
【0031】
このように、発明に係る製造方法によれば、良好な生産性を確保しつつ、優れた特性(低い基板温度(450℃程度以下)にてゲート絶縁層の膜中の欠陥ならびに珪素薄膜との界面の欠陥密度を大幅に低減した)のゲート絶縁層を有するポリシリコンTFTを得ることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 CVD装置
2 反応容器
5 上部電極
6 下部電極
9 基板
12 第1の酸化珪素膜
13 窒化珪素膜
14 第2の酸化珪素膜
15 ゲート絶縁層
16 ゲート電極
21 層間絶縁層
22 ソース電極
23 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にソース領域、ドレイン領域、チャンネル領域を有する活性層と、ゲート電極層と、前記活性層と前記ゲート電極層との間に形成されるゲート絶縁層とを有する薄膜トランジスタであって、
前記ゲート絶縁層が、前記活性層に接して形成される第1の酸化珪素膜と、この第1の酸化珪素膜と前記ゲート電極層との間に前記第1の酸化珪素膜に接して形成される窒化珪素膜とを含み、
前記第1の酸化珪素膜の膜厚が40nm以上50nm以下、前記窒化珪素膜の膜厚が10nm以上20nm以下であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記窒化珪素膜と前記ゲート電極層との間に第2の酸化珪素膜を有することを特徴とする請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記活性層がポリシリコンで形成される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記第1の酸化珪素膜、前記窒化珪素膜の膜厚の比が、4〜5:1〜2である、ことを特徴とする請求項1記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記第1の酸化珪素膜、前記窒化珪素膜、前記第2の酸化珪素膜のそれぞれの膜厚の比が、4〜5:1〜2:4〜5である、ことを特徴とする請求項2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
前記ゲート絶縁層全体の層厚が、50nm以上200nm以下である、ことを特徴とする請求項1〜5に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項7】
基板表面に活性層を形成する工程と、
前記活性層上に第1の酸化珪素膜を形成する工程と、
前記第1の酸化珪素膜上に窒化珪素膜を形成する工程と、
前記窒化珪素膜上にゲート電極層を形成する工程とを含み、
前記第1の酸化珪素膜を形成する工程においては、圧力調整された反応容器内に珪素原子を含む第1の珪素付与ガス、酸素原子を含む酸素付与ガスのそれぞれの少なくとも一種類ずつを導入して、プラズマCVD法により酸化珪素膜を形成し、
前記窒化珪素膜を形成する工程においては、圧力調整された反応容器内に珪素原子を含む第2の珪素付与ガス、窒素原子を含む窒素付与ガス、希釈ガスのそれぞれの少なくとも一種類ずつを導入して、プラズマCVD法により窒化珪素膜を形成し、
前記第1の珪素付与ガスと前記酸素付与ガスの組成比が、1:30〜50であり、
前記第2の珪素付与ガスは、テトラエトキシオルソシリケートと、ヘキサメチルジシラザンと、モノシランと、ジシランからなる群より選択されるいずれか1種類のガスであり、
前記窒素付与ガスは、アンモニア、一酸化窒素、ヒドラジンからなる群より選択されるいずれか1種類のガスである、ことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記ゲート電極層を形成する工程が、前記窒化珪素膜上に第2の酸化珪素膜を形成後、ゲート電極層を形成する工程であることを特徴とする請求項7記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
前記第1の珪素付与ガスは、テトラエトキシオルソシリケートと、ヘキサメチルジシラザンと、モノシランと、ジシランからなる群より選択されるいずれか1種類のガスであり、
前記酸素付与ガスは、酸素、亜酸化窒素、オゾン、二酸化炭素、水からなる群より選択されるいずれか1種類のガスである、ことを特徴とする請求項7又は8に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項10】
前記酸化珪素膜の成膜時の圧力は80〜200Paであり、基板温度は330〜430℃である、ことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項11】
前記第2の珪素付与ガス、前記窒素付与ガス、前記希釈ガスの組成比が、1:10〜25:10〜30である、ことを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項12】
前記窒化珪素膜の成膜時の圧力は200〜400Paであり、基板温度は330〜430℃である、ことを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項13】
プラズマCVD法で前記第1の酸化珪素膜、前記第2の酸化珪素膜、前記窒化珪素膜をそれぞれ形成する際の、電極に印加する高周波電圧の周波数が27.1MHzである、ことを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−119691(P2012−119691A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−278653(P2011−278653)
【出願日】平成23年12月20日(2011.12.20)
【分割の表示】特願2006−519508(P2006−519508)の分割
【原出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】