蛍光探傷方法および蛍光探傷装置
【課題】被検体の3次元形状を正確に計測することで、被検体上の傷の大きさおよび位置を高精度に検出できる蛍光探傷方法と装置を提供する。
【解決手段】蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体1を所定の検査位置に配置する配置ステップS1と、暗室内で、蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波を、検査位置の被検体1に照射して被検体1を撮影し、蛍光静止画像5を取得する蛍光静止画像撮影ステップS2と、検査位置の被検体を3次元位置計測し、被検体表面の3次元座標点群8を取得する3次元位置計測ステップS3と、(A)蛍光静止画像3を画像処理して、蛍光部分に相当する蛍光部画像を抽出すると共に、(B)3次元座標点群8をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、(C)蛍光部画像と3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るデータ処理ステップS4、S7と、を有する。
【解決手段】蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体1を所定の検査位置に配置する配置ステップS1と、暗室内で、蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波を、検査位置の被検体1に照射して被検体1を撮影し、蛍光静止画像5を取得する蛍光静止画像撮影ステップS2と、検査位置の被検体を3次元位置計測し、被検体表面の3次元座標点群8を取得する3次元位置計測ステップS3と、(A)蛍光静止画像3を画像処理して、蛍光部分に相当する蛍光部画像を抽出すると共に、(B)3次元座標点群8をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、(C)蛍光部画像と3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るデータ処理ステップS4、S7と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体上の傷の大きさおよび位置を高精度に検出する蛍光探傷装置および蛍光探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料やセラミックス等の非破壊検査法として、蛍光浸透探傷試験が知られている。蛍光浸透探傷試験は、試験体の表面に存在する微細な傷(又は疵)に毛細管現象を利用して蛍光剤を浸透させ、これに近紫外線を照射して蛍光剤を発光させて観察し、傷等の欠陥を肉眼で検査するものである。
【0003】
また、これに類似した非破壊検査法として、蛍光磁粉探傷試験が知られている。蛍光磁粉探傷試験は、強磁性体の試験体を磁化し、蛍光磁粉を表面に適用して、割れなどの傷の部分に吸着された蛍光磁粉を、近紫外線を照射して蛍光磁粉を発光させて観察し、傷等を肉眼で検査するものである。
以下、蛍光浸透探傷試験と蛍光磁粉探傷試験の両方を総称して、「蛍光探傷試験」と呼ぶ。
【0004】
上述した蛍光探傷試験は、一般的に、(1)浸透処理、(2)洗浄処理、(3)現像処理、(4)検査の各工程からなる。しかし、このうち検査工程は、肉眼による目視検査であるため、経験に左右されやすく、かつ手間と時間がかかる問題点がある。そこで、蛍光探傷試験において、画像処理を用いて欠陥を抽出する手段が提案されている(例えば特許文献1〜4、6〜7)。
また、検査工程以外の浸透処理、洗浄処理、現像処理を連続的に処理する手段として特許文献5が開示されている。
被検体の欠陥の大きさを精度良く得るためには、被検体の3次元形状を考慮する必要があるが、3次元形状の表現手段としてボクセル表現が提案されている。(例えば、特許文献8〜9)また、3次元形状の計測手段として、3次元レーザレーダがある。(例えば、非特許文献1)
【0005】
特許文献1の方法は、少なくとも1つの対象被検材を選択するステップと、選択した分析法に基づいて表面欠陥を標示できるようにする指示薬を使用して被検材を前処理するステップと、選択した指示薬に適した適切な照明下に対象被検材を露光するステップと、アーチファクトを除去するよう該画像を処理して検出感度と選択した分析法によって生じる背景ノイズとを決定するステップと、有効パラメータを求め、各有効パラメータについて検出感度を最大にすると共に背景ノイズを最小にできるパラメータ値を決定するステップとを含むものである。
【0006】
特許文献2の方法は、図21に示す装置を用いて、磁化された鋼片の表面に蛍光磁粉を付着させ、該蛍光磁粉に励起光を照射して発せられる蛍光を撮像して疵を探傷する方法において、疵種類に応じて異なる複数の輝度の規準値と、疵種の弁別に使用する特徴量の範囲を限定するための閾値とを予め設定し、各規準値に基づいて撮像信号を2値化した複数の2値化画像を作成し、該2値化画像から所定の特徴量を算出し、該特徴量と予め設定された前記閾値とに基づいて所定の演算を行い、この演算結果に基づいて疵種を弁別するものである。
【0007】
特許文献3の装置は、蛍光磁粉が付着された被検査材の表面に紫外線を照射する照射手段と、該表面を撮像して画像信号を出力する撮像装置と、該画像信号の信号強度を傷判断閾値を比較して前記表面の傷の有無を判断する傷判断手段とを有する蛍光磁粉式自動探傷装置において、前記被検査材の表面各部における前記紫外線の入射条件および前記蛍光磁粉から発せられた光の前記撮像装置に対する入射条件の相違に拘わらず、略同一条件で傷の有無を判断できるように予め定められた該表面各部で異なる傷判断閾値を記憶している記憶手段を備え、前記傷判断手段は該傷判断閾値と対応する部分の画像信号の信号強度とを比較して傷の有無を判断するものである。
【0008】
特許文献4の装置は、図22の模式図に示すように、鋼材253の表層部を磁化する磁化器251,252と、鋼材の表面に磁粉液を散布する噴射ノズル255と、鋼材の被検査面を照明するブラックライト257と、被検査面を撮影ずるITVカメラ258と、ITVカメラの出力信号を画像処理して疵の有無を判別する画像処理装置259とで構成した表面疵自動検査装置において、鋼材253の被検査面に斜めから断続的に可視光を照射する光源部263と、光源部の発光とITVカメラの画像取り込みタイミングを同期させる制御装置264とを具備し、ブラックライト257で照明した時の画像と光源部263の照明を付加した時の画像とから表面疵を検査するものである。
【0009】
特許文献5の装置は、図23の模式図に示すように、複数のワーク361を一定のピッチPで吊り下げて間欠的に水平循環させる水平循環チェーンコンベア362と、該水平循環チェーンコンベアの下部に位置しワークにそれぞれ所定の処理を行うための複数の処理装置364と、該処理装置を上下動させる昇降装置366とを備え、各処理装置の作動を停止し、各処理装置を下降させて、水平循環チェーンコンベアを一定ピッチP移動し、水平循環チェーンコンベアを停止して、各処理装置を上昇させて各処理を行うものである。
【0010】
特許文献6の装置は、図24の模式図に示すように、暗室414内で、検査位置に配置した被検体1にブラックライト416から蛍光探傷用の近紫外線2を照射し、ロングパスフィルタ420を通して被検体を撮影カメラ422で撮影して蛍光静止画像405を取得する。また、時間をずらして同一位置から、被検体1に白色ストロボ418から可視光403を照射し、ロングパスフィルタ420を通して被検体1を撮影カメラ422で撮影して可視静止画像406を取得する。さらに蛍光静止画像405と可視静止画像406を画像処理装置424で画像処理により重ね合わせて重合せ画像407を表示する。
【0011】
特許文献7の装置は、図25の模式図に示すように、暗室514内で、被検体1を旋回装置511に載せて旋回させ検査位置に配置する被検体1にブラックライト516から蛍光探傷用の近紫外線2を照射し、ロングパスフィルタ520を通して複数の位置から被検体1を撮影カメラ522で撮影し複数の蛍光静止画像505を取得する。また、同じ被検体1に白色ストロボ518から可視光503を照射し、同じ複数の位置から被検体1を撮影カメラ522で撮影し複数の可視静止画像506を取得する。さらに蛍光静止画像505と可視静止画像506を画像処理装置524で画像処理によりそれぞれ重ね合わせて複数の重合せ画像を表示装置526で表示する。また蛍光部分を抽出し蛍光部分の位置と大きさを算出する。
【0012】
特許文献8の「三次元情報抽出方法」では、Voxel Votingと呼ばれる方法を用いて計測結果を各ボクセルに投票することで、複数視点からの三次元形状を統合する。更にこの方法では、必要な解像度が得られないボクセルに対しては、ボクセルを更に八分割して階層的にデータを管理する方法を開示している。
【0013】
特許文献9の「環境モデル入力装置」では、各ボクセルに確率値を蓄積する手段を提案している。この手段では、確率を与える頻度に依存せずに環境モデルの統合を行い、正確な環境モデルの作成を可能としている。
非特許文献1の手段では、平面を想定しているものの、確率値を保持するボクセルに対して、計測データに含まれる誤差により発生したボクセルの誤った確率値を正しい値に戻す処理を提案している。
【0014】
【特許文献1】特許第3095958号公報、「浸透探傷による分析方法を自動的に特性化・最適化・検査する方法および装置」
【特許文献2】特許第3440569号公報、「磁粉探傷方法およびその装置」
【特許文献3】特開平06−201656号公報、「蛍光磁粉式自動探傷装置」
【特許文献4】特開平10−282063号公報、「表面疵自動検査装置」
【特許文献5】特開2003−98110号公報、「連続浸透探傷装置」
【特許文献6】特開2007−17376号公報、「蛍光探傷装置および蛍光探傷方法」
【特許文献7】特開2007−17377号公報、「蛍光探傷装置および蛍光探傷方法」
【特許文献8】特許第3170345号公報、「三次元情報抽出方法」
【特許文献9】特開平9−81788号公報、「環境モデル入力装置」
【非特許文献1】関本清英、他、「三次元レーザレーダの開発」、石川島播磨技報Vol.43 No.4(2003−7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
例えば、航空機用のタービン翼やコンプレッサー翼を被検体とする場合、検査領域は例えば、最大約100mm×100mmであり、検査対象となる傷は、例えば、長手方向約0.25mm以上となる。なお、この検査領域と傷の大きさは例示であり、それ以上の領域、或いはそれ以下の傷を対象とする場合もある。
【0016】
蛍光探傷試験において、このような被検体を肉眼により目視検査した場合、従来、上述した検査工程だけでも被検体1個につき約2分間以上の検査時間を要していた。そのため、検査能率が低く、量産に合わせて全数検査することができない問題点があった。
【0017】
また、画像処理を用いてこの検査工程を自動化しようとする場合、被検体表面で発光する蛍光が微弱であるため、蛍光以外の可視光を可能な限り除去して撮影する必要がある。すなわち、外光が入ってこない暗室内で、紫外光を被検体に照射して撮影する。このように可視光が除去された環境下では、蛍光部を明確に撮影することができるが、被検体の形状を明確に撮影することは困難である。そのため、蛍光を発している傷等の欠陥部が被検体のどこに位置するかの判断が難しかった。
また、被検体の形状を同時に撮影するため可視光による照明を用いると、微細な傷の検出が困難または不可能になる問題点があった。
【0018】
さらに、自動搬送装置等を用いて被検体を検査領域に搬送する場合、被検体以外にも蛍光剤が付着することがある。このような場合、撮影した画像上に被検体以外の領域(背景部や非検査領域)の蛍光を検出してしまい、S/N比が低下して微細な傷の検出が困難になる。
【0019】
また、被検体がタービン翼等のように複雑な形状をしている場合、死角の発生により欠陥を見落すおそれがあった。
【0020】
特許文献6、7はこれらの問題を解決または改善できる。複雑な形状をした被検体では、欠陥の寸法および位置を正確に計測することが望まれる。即ち、被検体の欠陥の正確な寸法を得るためには、被検体の3次元形状を計測することが有効であるが、特許文献6のように可視光画像からパターンマッチングにより検査領域を用いる方法では、2次元画像情報のみを利用するため、複雑な3次元形状を十分な精度で求めることが難しい場合がある。また、特許文献7のように複数の可視光画像を用いたステレオ視による方法では、画像上の特徴が局所的にしか現れない場合があり、被検体の表面を十分な密度で形状計測できるとは限らない。また、画像間で被検体上の同一点の対応付けを誤った場合、3次元形状に大きな誤差が発生することがある。
【0021】
そこで、本発明の目的は、被検体の3次元形状を正確に計測することで、被検体上の傷の大きさおよび位置を高精度に検出できる蛍光探傷方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明によると、蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体を所定の検査位置に配置する配置ステップと、
暗室内で、前記蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波を、前記検査位置の被検体に照射して被検体を撮影し、蛍光静止画像を取得する蛍光静止画像撮影ステップと、
前記検査位置の被検体を3次元位置計測し、被検体表面の3次元座標点群を取得する3次元位置計測ステップと、
(A)前記蛍光静止画像を画像処理して、蛍光部分に相当する蛍光部画像を抽出すると共に、(B)前記3次元座標点群をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、(C)前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るデータ処理ステップと、を有することを特徴とする蛍光探傷用データ生成方法が提供される。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によると、被検体を複数の方向から3次元計測することで、該複数の方向の各々について、3次元座標点群を取得し、これら複数の3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う。
【0024】
前記複数の3次元座標点群の取得は、例えば、次のように行える。
被検体を所定の軸心を中心に旋回させる旋回ステップを有し、
被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を3次元位置計測して3次元座標点群を取得し、これら複数の3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う。
なお、3次元計測する距離計測センサの位置を変えることで、被検体を複数の方向から3次元計測するようにしてもよい。この場合、距離計測センサの各位置(および距離計測センサの姿勢)は既知であるとして、当該位置のデータを3次元形状統合処理で使用してよい。
【0025】
上記蛍光探傷方法では、蛍光静止画像から抽出した蛍光部画像と、被検体表面の3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るので、蛍光探傷用データに基づいて傷の有無および傷の位置を検出できる。例えば、蛍光探傷用データにより、蛍光部画像と3次元形状情報とを重ね合わせて3次元表示することで、蛍光探傷試験を行える。
さらに、複数の3次元座標点群を統合することで統計的に被検体の3次元形状を精度良く得ることができるので、前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを精度よく関連付けることができ、その結果、被検体上の傷の大きさおよび傷の位置の精度が向上する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によると、被検体を複数の方向から撮影することで、該複数の方向の各々について、前記蛍光部画像を取得し、これら複数の蛍光部画像から被検体の全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得て、該蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得る。
【0027】
前記複数の蛍光部画像の取得は、例えば、次のように行える。
被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を撮影して前記蛍光部画像を取得し、これら複数の蛍光部画像から被検体の全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得て、該蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得る。
なお、被検体を撮影する撮影カメラの位置を変えることで、被検体を複数の方向から撮影するようにしてもよい。この場合、撮影カメラの各位置(および距離計測センサの姿勢)は既知であるとして、当該位置のデータを全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得るために使用してよい。
【0028】
これにより、被検体の全周または全周の一部に関して総合的に蛍光探傷検査できる。
また、被検体に対し相対的に複数の各方向から取得した前記蛍光部画像を用いるので、死角を無くして傷の検査を行える。
好ましくは、被検体の全周に関する前記蓄積した蛍光部画像と、被検体の全周に関する前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得ることで、精度良く得られた被検体の全周の3次元形状に各方向から撮影した蛍光部を重ね合わせて3次元表示ができるので、被検体の全面をあらゆる角度から総合的に蛍光探傷検査できる。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によると、前記3次元形状情報は、3次元座標点群の各点の位置情報、および、該各点の誤差情報を含む。
【0030】
これにより、3次元位置計測時の誤差を加味して、統計的により精度良く3次元形状を得ることができる。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によると、前記3次元形状統合処理は、
前記被検体を3次元位置計測して取得した3次元座標点群の各座標値を入力するデータ入力ステップと、
被検体の存在する空間領域を、境界表面が互いに直交する直方体からなる複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶する環境モデルを構築するモデル構築ステップと、
ボクセルの内部に前記座標値に対応する代表点とその誤差分布とを設定し記憶するマッチングステップと、
前記ボクセル位置、代表点および誤差分布の少なくともいずれかを3次元形状情報として出力する出力ステップとを有する。
【0032】
このように、被検体の存在する空間領域を、複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶するので、計測対象物が大きい場合であっても、3次元形状データ量をボクセル数に比例する小さいデータサイズに抑えることができる。
また、3次元座標値に対応するボクセルの内部に代表点とその誤差分布を設定し記憶するので、ボクセルの分解能以上の情報を表現することができる。
【0033】
本発明の好ましい実施形態によると、前記モデル構築ステップにおいて、最大のボクセルを必要最小限の分解能に相当する大きさに設定し、かつ単一のボクセル内に複数の被計測点が存在する場合に、単一のボクセル内に単一の被計測点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する。
【0034】
このように、モデル構築ステップにおいて、最大のボクセルを必要最小限の分解能に相当する大きさに設定し、かつ単一のボクセル内に複数の被計測点が存在する場合に、単一のボクセル内に単一の被計測点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割するので、データ量を小さく抑えると同時に、分割後のボクセルと代表点を用いて解像度を更に高めることができる。
特に、三次元形状上の複数の座標値を(例えば、距離計測センサの位置である複数の計測位置を原点とする距離データとして)取得し、該距離データの座標値を、前記代表点の座標値とし、距離データの座標値の計測誤差を代表点の誤差分布とすることにより、正確な座標値と誤差分布を用いて複数回の計測を統計的に統合することができ、一層の精度向上が可能となる。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によると、上記方法は、前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、原点と被計測点の間に物体が存在しないものとして、その間に位置するボクセル内の代表点と誤差分布を再設定もしくは消去する。
【0036】
本発明の好ましい実施形態によると、上記方法は、前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、
該ボクセル内に代表点がない場合に、前記座標値と誤差分布を代表点の座標値と誤差分布として設定する。
【0037】
これにより、代表点の座標値と誤差分布を容易に設定できる。
【0038】
このように、原点と被計測点の間に物体が存在しないものとして、その間に位置するボクセル内の代表点と誤差分布を消去することにより、誤った計測データの影響を取り除くことができる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態によると、上記方法は、前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、
前記ボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、新たに取得した誤差分布と既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、
誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、
誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する。
【0040】
このように、前記ボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、新たに取得した誤差分布と既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する、ことにより、誤差の蓄積を回避しながら高精度な形状を得ることができる。
特に、誤差分布が互いに重複する場合に、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定した結果、代表点が別のボクセルに移動する場合には、既に設定したボクセル内の誤差分布と更に比較することで、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように一貫性を保つことができる。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によると、ボクセルの内部に代表点とその誤差分布に加えて、確率値を併せ持つ。
【0042】
また、各ボクセルに確率値を持たせることによって、誤差分布が代表点の属するボクセルよりも広がっている場合においても、各ボクセルにおける物体の存在有無を、代表点が属するボクセルを見つけ、その誤差分布から再計算させることなく、当該ボクセルの確率値だけで判断できる。
【0043】
本発明の好ましい実施形態によると、前記モデル更新ステップにおいて、前記新たに取得した誤差分布と前記既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から新たな誤差分布と新たな代表点を再設定した結果、新たな代表点が他のボクセル内へ移動したとき、該他のボクセル内に代表点がない場合に、該新たな誤差分布と該新たな代表点を該他のボクセルの内部に設定し、
該他のボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、該新たな誤差分布と既に設定した該他のボクセル内の誤差分布とを比較し、(A)誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、(B)誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する。
【0044】
これにより、誤差の蓄積を回避しながら高精度な形状に収束させることができる。特に、誤差分布が互いに重複する場合に、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定した結果、代表点が別のボクセルに移動する場合には、既に設定したボクセル内の誤差分布と更に比較することで、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように一貫性を保つことができる。
【0045】
本発明の好ましい実施形態によると、上記方法は、前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、
該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値およびその誤差分布と、既に設定したボクセル内の代表点およびその誤差分布とから、カルマンフィルタにより新たな代表点と誤差分布を取得して再設定する。
【0046】
このように、前記モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値およびその誤差分布と、既に設定したボクセル内の代表点およびその誤差分布とから、カルマンフィルタにより新たな代表点と誤差分布を取得して再設定するので、より真値に近い形状を得ることができる。
特に、カルマンフィルタを用いたモデル更新ステップを繰り返すことで、誤差を含むデータであってもカルマンフィルタの効果により真値に収束した高精度な形状が得られる。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によると、前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力するとともに、該計測値の信頼性または精度を示す指標を、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさに基づいて出力する。
【0048】
また、前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力する際に、該計測値の信頼性または精度を示す指標を、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさに基づいて出力することにより、信頼性の低い計測値を使用せずに、被検体の3次元形状を高い精度で維持することができる。
【0049】
本発明の好ましい実施形態によると、前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力するときに、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさが所定の基準値よりも大きい場合に、該計測値の信頼性または精度が所定の基準よりも低いとして、該ボクセルの前記計測値を出力しない。
【0050】
前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力するときに、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさが所定の基準値よりも大きい場合に、該計測値の信頼性または精度が所定の基準よりも低いとして、該ボクセルの前記計測値を出力装置に出力しないようにすることによって、計測装置を使用する際に、そもそも信頼性の高い計測値のみを扱うことができるようになるため、扱うデータ量を削減することや、信頼性の向上につながる。
【0051】
本発明の好ましい実施形態によると、前記出力ステップにおいて、距離計測センサの位置から距離計測センサが位置計測可能な範囲の環境モデル内のボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力する。
【0052】
前記出力ステップにおいて、距離計測センサの位置から距離計測センサが位置計測可能な範囲の環境モデル内のボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力することによって、従来の距離計測センサの計測値の分解能が粗い場合でも、あたかも精度良くかつ分解能が高い距離計測センサのように利用することが可能となる。このように、より精度の高い3次元形状計測が可能になる。
【0053】
本発明の好ましい実施形態によると、被検体の3D-CADモデルを読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合する。
【0054】
このように、被被検体の3D-CADモデルを読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合することで、両者の形状差異(例えば、たわみや歪み等の変形)を検出できる。これにより、被検体の3次元形状異常検査も蛍光探傷検査と同時に行うことができる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態によると、被検体の検査領域を前記3次元位置計測ステップで得た3次元座標点群情報から特定し、前記蛍光静止画像から検査領域以外の画像を消去する。
【0056】
これにより、被検体以外の領域(背景部や非検査領域)からの蛍光の影響を皆無にできるので、被検体の微細な傷を一層高いS/N比で容易に検出できる。
【0057】
本発明の好ましい実施形態によると、前記蛍光静止画像をモフォロジ処理を中心とする高輝度領域抽出処理して蛍光部分を特定し、蛍光部分の位置と大きさを算出する。
【0058】
これにより、検出した傷の大きさと被検体上の位置を容易に特定できる。
【0059】
また、上記目的を達成するため、本発明によると、所定の検査位置に配置され蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体を囲み内部を蛍光を撮影可能な程度に低い照度下に維持する暗室装置と、
前記蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波を、検査位置の被検体に照射するブラックライトと、
前記電磁波照射時に蛍光発光した被検体を撮影し蛍光静止画像を取得する撮影カメラと、
前記検査位置の被検体を3次元位置計測して3次元座標点群を取得する距離計測センサと、
(A)前記蛍光静止画像を画像処理して、蛍光部分に相当する蛍光部画像を抽出すると共に、(B)前記3次元座標点群をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、(C)前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るデータ処理装置とを備えた、ことを特徴とする蛍光探傷装置が提供される。
【0060】
本発明の好ましい実施形態によると、上記蛍光探傷装置は、所定の検査位置において被検体を保持し所定の軸心を中心に旋回可能な旋回装置を備え、
距離計測センサは、被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を3次元位置計測して3次元座標点群を取得し、
前記データ処理装置は、複数の前記3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う。
【0061】
上記蛍光探傷装置では、蛍光静止画像から抽出した蛍光部画像と、被検体表面の3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るので、蛍光探傷用データに基づいて傷の有無および傷の位置を検出できる。例えば、蛍光探傷用データにより、蛍光部画像と3次元形状情報とを重ね合わせて3次元表示することで、蛍光探傷試験を行える。
さらに、複数の3次元座標点群を統合することで統計的に被検体の3次元形状を精度良く得ることができるので、前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを精度よく関連付けることができ、その結果、被検体上の傷の大きさおよび傷の位置の精度が向上する。
【0062】
本発明の好ましい実施形態によると、撮影カメラは、被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を撮影して前記蛍光部画像を取得し、
前記データ処理装置は、複数の前記蛍光部画像から被検体の全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得て、該蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得る。
【0063】
これにより、被検体の全周または全周の一部に関して総合的に蛍光探傷検査できる。
また、被検体に対し相対的に複数の各方向から取得した前記蛍光部画像を用いるので、死角を無くして傷の検査を行える。
好ましくは、被検体の全周に関する前記蓄積した蛍光部画像と、被検体の全周に関する前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得ることで、精度良く得られた被検体の全周の3次元形状に各方向から撮影した蛍光部を重ね合わせて3次元表示ができるので、被検体の全面をあらゆる角度から総合的に蛍光探傷検査できる。
【0064】
本発明の好ましい実施形態によると、前記3次元形状情報は、3次元座標点群の各点の位置情報、および、該各点の誤差情報を含む。
【0065】
これにより、3次元位置計測時の誤差を加味して、統計的により精度良く3次元形状を得ることができる。
【0066】
本発明の好ましい実施形態によると、前記データ処理装置は、
前記被検体を3次元位置計測して取得した3次元座標点群の各座標値を入力するデータ入力装置と、
被検体の存在する空間領域を、境界表面が互いに直交する直方体からなる複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶する環境モデルを構築するモデル構築装置と、
ボクセルの内部に前記座標値に対応する代表点とその誤差分布とを設定し記憶するマッチング装置と、
前記ボクセル位置、代表点および誤差分布の少なくともいずれかを3次元形状情報として出力するデータ伝達装置とを備える。
【0067】
このように、被検体の存在する空間領域を、複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶するので、計測対象物が大きい場合であっても、3次元形状データ量をボクセル数に比例する小さいデータサイズに抑えることができる。
また、3次元座標値に対応するボクセルの内部に代表点とその誤差分布を設定し記憶するので、ボクセルの分解能以上の情報を表現することができる。
【0068】
本発明の好ましい実施形態によると、前記データ処理装置は、被検体の検査領域を前記3次元位置計測で得た3次元座標点群情報から特定し、前記蛍光静止画像から検査領域以外の画像を消去する。
【0069】
これにより、被検体以外の領域(背景部や非検査領域)からの蛍光の影響を皆無にできるので、被検体の微細な傷を一層高いS/N比で容易に検出できる。
【0070】
本発明の好ましい実施形態によると、前記データ処理装置は、前記蛍光静止画像をモフォロジ処理を中心とする高輝度領域抽出処理して蛍光部分を特定し、蛍光部分の位置と大きさを算出する。
【0071】
これにより、検出した傷の大きさと被検体上の位置を容易に特定できる。
【0072】
本発明の好ましい実施形態によると、前記データ処理装置は、
前記距離計測センサが複数の方向から被検体を3次元計測することで、該複数の方向の各々について取得された3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成し、
被検体の3D-CADモデルを読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合する。
【0073】
このように、被被検体の3D-CADモデル(即ち、被被検体の3次元形状を表す3D-CADデータ)を読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合することで、両者の形状差異(例えば、たわみや歪み等の変形)を検出できる。これにより、被検体の3次元形状異常検査も蛍光探傷検査と同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0074】
上述した本発明によると、複数の3次元座標点群を統合することで統計的に被検体の3次元形状を精度良く得ることができるので、前記蛍光部分と前記3次元形状情報とを精度よく関連付けることができ、その結果、被検体上の傷の大きさおよび傷の位置の精度が向上する。
【0075】
また、誤差を含む距離データを正確な情報に補正する機能を有すると共に、これを繰り返すことにより、長時間の計測に対して高精度な形状に収束する。また、各ボクセルに対応する代表点とその誤差分布を新たな計測点で更新する処理であるため計算量が小さい。さらに、演算は周囲のボクセルへの影響を与えずボクセル内で閉じているため、高速処理が可能である。また、計測データは最大のボクセルが必要最小限の分解能を有するボクセル構造に逐次統合可能であり、メモリサイズは固定サイズを大きく上回ることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0076】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0077】
図1は、被検体1である動翼(A)とベーン(B)の模式図であり、この例では、航空機用コンプレッサーの動翼とベーンを示している。
航空機用コンプレッサーには、それぞれ10種類前後の動翼とベーンが用いられ、それぞれ大きさ、形状が異なっている。また、蛍光探傷検査を必要とする箇所は、通常、翼先端の背側及び腹側であるが、これに限定されず、それ以外の部分を検査することもある。
なお、本発明の被検体は、上述したような航空機用部品に限定されず、自動車部品等、蛍光探傷検査を必要とするあらゆる被検体を対象とすることができる。
【0078】
以下、本発明の被検体1の検査領域が最大約100mm×100mmであり、長手方向約0.25mm以上の傷を検査対象とする場合について説明する。なお、この検査領域と傷の大きさは例示であり、それ以上の領域、或いはそれ以下の傷にも同様に適用することができる。
【0079】
図2は、本発明による蛍光探傷装置の全体構成図である。この図に示すように、本発明の蛍光探傷装置10は、旋回装置11、搬送装置12、暗室装置14、ブラックライト16、ロングパスフィルタ20、撮影カメラ22、距離計測センサ23及びデータ処理装置24を備える。
【0080】
被検体1は、図示しない前工程において、上述した浸透処理、洗浄処理、及び現像処理を行い、蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた状態となっている。蛍光剤は、蛍光浸透探傷試験用の蛍光剤、蛍光磁粉は蛍光磁粉探傷試験用の蛍光磁粉である。従って、本発明は、蛍光浸透探傷試験と蛍光磁粉探傷試験に適用することができる。
【0081】
旋回装置11は、蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体1の一部を保持し、所定の軸心を中心に旋回可能な装置である。例えば、被検体1がタービン又はコンプレッサーの動翼であり、検査領域が翼部である場合、検査領域でない動翼の固定部を保持し、鉛直軸Zを中心に旋回するのがよい。またこの旋回装置11は、旋回角度を数値制御でき、旋回位置9を出力するようになっている。
なおこの構成は必須ではなく、水平軸或いはその他の軸を中心に旋回してもよく、また数値制御を行わずに任意に旋回角度(例えば、180度、90度、60度、30度等)を設定して停止する構成であってもよい。
【0082】
搬送装置12は、例えばベルトコンベア又はローラコンベアであり、蛍光剤を表面に浸透させた被検体1を旋回装置11に保持した状態で、所定の検査位置まで搬入し、搬出する。またこの搬送装置12は、所定の検査位置を検出する位置検出センサ13を備え、検査位置で被検体1を一時停止させる。一時停止の時間は、後述する旋回と撮影に要する時間である。
なお、本発明において、搬送装置12は必須ではなく、被検体1を所定の検査位置に手で運んで配置してもよい。
【0083】
蛍光4はそれほど強い光を発しないため、撮影の際、ある程度の露光時間(例えば1/30秒以上)が必要となる。露光時間が1/30秒、分解能が0.10mm/画素の場合、被検体1の画像のブレを1画素以内に納めるためには、搬送又は旋回の速度を3.0mm/秒以下、つまり停止状態にする必要がある(0.10mm/画素÷1/30秒)。
従って、高精度の静止画像を撮影するため、例えば0.5秒間程度完全に停止するのがよい。また、距離計測センサが3次元位置計測を高精度に行うためには、被検体を停止させるのがよい。
しかし、完全停止は必須ではなく、高精度の静止画像を撮影できる限り、および高精度の3次元位置計測を行える限り、低速で移動してもよい。
また、CCDの感度を高める、蛍光強度を高める、対象とする傷を大きくする、等の手段により、露光時間を短くし、搬送又は旋回を連続してできるようにしてもよい。
【0084】
検査位置は、例えばベルトコンベア又はローラコンベア上に位置し、1m角程度の画像撮影エリアを有し、このエリアを暗室化できるようになっている。
また、本発明による蛍光探傷検査の結果、欠陥候補があると判断された被検体1は、図示しない別のラインに搬送され、目視検査などより詳細な検査を受けるようになっているのがよい。
【0085】
暗室装置14は、検査位置の被検体1を囲み、内部を微細な蛍光を撮影可能な低照度下に維持する。暗室装置14は、遮光布で覆った柔構造の暗幕でも、遮光板で囲んだ剛構造の暗箱でもよい。
また被検体1を暗室装置14内に搬入し、搬出できるように、スリット、開閉ドア等を備え、撮影カメラ22による撮影時に内部を撮影可能な程度に低い照度下に維持するようになっている。撮影可能な低照度は、微弱な蛍光4を検出できるように、可能な限り完全な暗闇であるのがよい。
【0086】
ブラックライト16は、検査位置で停止した被検体1に蛍光探傷用の電磁波(この例では、近紫外線2)を照射する。この例では、ブラックライト16は、波長315〜400nmの近紫外線2を放射する紫外線照射装置である。
このブラックライト16は、連続的に近紫外線2を放射するのが好ましいが、撮影時のみ放射してもよい。また、この例では、1灯のみ設けているが、被検体1の影を防止するため、左右に2つ設けても3灯以上でもよい。 また、露光時間を短くして、搬送又は旋回を連続して行う場合には、通常の写真撮影用のストロボと同様に、極短時間(1/1000秒以下)の照射時間にするのが好ましい。
【0087】
蛍光剤に上記電磁波(この例では、近紫外線2)を放射・照射すると、蛍光4を発する。即ち、蛍光剤は上記電磁波の照射により蛍光発光する。この蛍光4の波長は蛍光剤の特性や外部条件(洗浄液条件や経時変化など)によって変化するが、この例ではピークは500〜550nmの間にある。
【0088】
ロングパスフィルタ20は、波長450〜500nm程度以下の近紫外線2をカットし蛍光4及び可視光を通す光学フィルタである。
通常の蛍光探傷試験では、紫外線フィルタとして、特定の波長のみを透過するバンドパスフィルタを用いる。本発明では、ブラックライト16の反射光を通さないような光学フィルタを使用して、蛍光領域を明確に撮影する。
【0089】
撮影カメラ22は、ロングパスフィルタ20を通して検査位置に停止した被検体1を撮影し、近紫外線照射時の蛍光静止画像5を取得する。
【0090】
撮影カメラ22の視野は、被検体1の検査領域に合わせて、一辺100mm程度に設定する。また、画素数は、視野角100mmに対して長手0.25mmという非常に小さな蛍光領域を抽出する必要がある。
例えば仮に観察対象物の位置で0.10mm/画素となるようにするには、CCDの有効画素数が1000×1000画素以上必要となる(100mm÷0.1mm/画素=1000画素)。
【0091】
このことからビデオ信号(水平信号線480本)を出力するアナログビデオカメラではなく、CCDの有効画素数が1000×1000画素以上のデジタルビデオカメラを使用する。
【0092】
絞りと露光時間は、蛍光領域が明確な画像を撮影するには、絞りを絞って被写界深度を深くし、露光時間を長くとって蛍光を長く受光することが望ましい。しかし、実際の検査ラインでは搬送システムとの兼ね合いで撮影時間=露光時間が制限される。従って、絞りと露光時間は運用条件に合わせて調整できるように、絞りと露光時間を変更可能なカメラおよびレンズを使用するのがよい。
【0093】
レンズは、視野角100mmとし、かつカメラ自身の影が映らないよう部品からカメラを300mm以上離す場合、レンズの焦点距離は20mm以上であれば良い。従ってレンズは、焦点距離が20mm〜50mm程度のものを使用するのがよい。
【0094】
距離計測センサ23は3次元位置計測を行い、3次元座標点群8を取得する。距離計測センサ23と撮影カメラ22とは、両者の配置の関係を予めキャリブレーション等で求めておく。
【0095】
図3は、距離計測センサ23の一例としての三次元レーザレーダ110の構成図である。三次元レーザレーダは、例えば非特許文献1に開示されている。
この図に示すように、三次元レーザレーダ110は、レーダヘッド112と制御器120から構成される。レーザダイオード113から発振されたパルスレーザ光101は、投光レンズ114で平行光102に整形され、ミラー118a,118bと回転・揺動するポリゴンミラー115で二次元方向に走査され、測定対象物に照射される。測定対象物から反射されたパルスレーザ光103は、ポリゴンミラー115を介して受光レンズ116で集光され、光検出器117で電気信号に変換される。
【0096】
制御器120内の時間間隔カウンタ121は、レーザダイオード113のパルス発振タイミングと同期したスタートパルス104と、光検出器117から出力されたストップパルス105の時間間隔を計測する。信号処理ボード122は、反射光が検出された時点の時間間隔t、ポリゴンミラーの回転角度θ、揺動角度φを極座標データ(r,θ,φ)として出力する。
rは計測位置(即ち、レーダヘッド設置位置)を原点とする距離であり、r=c×t/2 の式で求められる。ここでcは光速である。
判定処理ユニット123は、信号処理ボード122からの極座標データを、レーダヘッド設置位置を原点とした三次元空間データ(x,y,z)へ変換して、検出処理を行うようになっている。なおこの図で124はドライブユニットである。
また、ポリゴンミラーの回転角度θ、揺動角度φを変化させて、3次元位置計測を複数回行って、3次元座標点群8(この例では、複数の三次元空間データ(x,y,z))を取得する
【0097】
本実施形態では、距離計測センサ23として、例えば、上述した三次元レーザレーダ110を用いる。しかし、距離計測センサはこれに限定されず、光切断法を用いた距離計測センサやその他の周知の距離計測センサを用いることができる。距離計測精度や、空間分解能が高い距離計測センサが望ましい。
【0098】
図4は、距離計測センサで計測された極座標データと誤差の関係を示す図である。
図4(A)に示すように、任意の計測位置を原点とする極座標値(r,θ,φ)を計測結果として計測する。距離計測センサによる計測結果には、この図に示すような誤差分布が通常存在する。
この誤差分布は、誤差分布のrs,θs,φsでの存在確率をP(rs,θs,φs)とした場合、誤差分布は計測の軸r,θ,φ方向に正規分布しているとし、例えば[数1]の式(1)で表すことができる。ここで、r,θ,φはセンサからの計測値、σr,σθ,σφは標準偏差、Aは規格化定数である。
図4(B)に示すように、誤差分布は、通常r方向に長い切頭円錐形(左図)に内包される分布であるが、遠方においてaとbの差は小さい。従って、この誤差分布を直方体に包含される楕円体として安全サイドに近似することができる。
【0099】
【数1】
【0100】
データ処理装置24は、蛍光静止画像5を取り込む。データ処理装置24は、中央処理装置(CPU)、記憶装置25、入出力装置(例えばキーボード、画像表示装置26)、通信制御装置27を備えたコンピュータであるのがよい。なお、本実施例では、データ処理装置1台の構成であるが、特に画像処理部分を専用の画像処理装置として別途構成しても良い。
データ処理装置24は、3次元座標点群8を取り込み、検査領域を特定し、蛍光静止画像6から検査領域以外の画像を消去する。
さらに、このデータ処理装置24は、蛍光静止画像5をモフォロジ処理を中心とする高輝度領域抽出処理して蛍光部分を特定し、3次元形状情報を基に、蛍光部分の位置と大きさを算出するようになっている。また、データ処理装置24は、蛍光部分に相当する、各方向から得た蛍光部画像を蓄積する。
【0101】
データ処理装置24は、3次元座標点群8の情報から検査領域を特定し、3次元形状情報を作成する。3次元形状情報を得る際、3次元座標点群8の各点の位置情報だけではなく、その誤差情報も加味して、形状の精度を向上させる。また、複数の3次元座標点群を統合して、被検体の全周の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う。
さらに、全周分の蛍光部画像と3次元形状統合処理で得られた全周分の3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを生成する。蛍光探傷用データは、例えば、3次元形状情報を表した座標系を用いた蛍光部画像の各位置の座標を含んでよい。この蛍光探傷用データに基づいて、蓄積された全周分の蛍光部画像と、3次元形状統合処理で得られた全周分の3次元形状情報とを重ねて、3次元的に表示し、蛍光探傷検査を容易に行えるようにする。また、蛍光部分の位置と大きさを算出する。
また、被検体の3D-CADモデルを読み込み、全周分の3次元形状情報と位置・姿勢を照合することによって、両者の形状の差異を検出し、蛍光探傷検査と共に、3次元形状検査も同時に行う。なお、被検体の3D-CADモデルは、被検体の製作時に使用したものであってよい。
【0102】
図5は、本発明による蛍光探傷方法の全体フロー図である。この図に示すように、本発明の蛍光探傷方法は、配置ステップS1、蛍光静止画像撮影ステップS2、3次元位置計測ステップS3、一方向のデータ処理ステップS4、一方向の蛍光探傷評価ステップS5、旋回ステップS6、全周のデータ処理ステップS7、全周の蛍光探傷評価ステップS8、形状照合処理ステップS9及び3次元形状評価ステップS10を有する。なお、データ処理装置24は、図5のステップS4,S5,S7,S8,S9,S10の処理を行ってよい。
【0103】
配置ステップS1では、蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体1を所定の検査位置に配置する。
【0104】
蛍光静止画像撮影ステップS2では、暗室内で、蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波(この例では、近紫外線2)を、検査位置の被検体1に照射して被検体1を撮影し、蛍光静止画像を取得する。この例では、暗室内で、検査位置で停止した被検体1に蛍光探傷用の近紫外線2を照射し、ロングパスフィルタ20を通して被検体1を撮影し、蛍光静止画像5を取得する。
【0105】
3次元位置計測ステップS3では、暗室内で、検査位置で停止した被検体1を距離計測センサー23で計測し、3次元座標点群8を取得する。
【0106】
一方向のデータ処理ステップS4は、高輝度領域抽出処理S41、蛍光部画像蓄積処理S42、検査領域特定処理S43、3次元形状データ処理S44、特定方向からの3次元形状情報と蛍光部画像との重合せS45、検査領域以外の画像部分消去S46および蛍光部分の位置と大きさの算出S47の各ステップを有する。
【0107】
高輝度領域抽出処理S41の中心となるモフォロジ処理では、図6に示すように、位置と明るさの関係を示す原画像(A)をグレースケールで読み込み、これから最小値フィルタ(B)と最大値フィルタ(C)を作製し、原画像との差分(D)を求めて、周囲と比較して明るい部分、すなわち蛍光静止画像5の蛍光部分4aを特定する。また、この特定した蛍光部画像を全周にわたり蓄積する(S42)。なお、モフォロジ処理は、例えば特許文献6に記載されており、本発明では、公知のモフォロジ処理を利用してよい。
【0108】
検査領域特定S43では、3次元座標点群8から被検体1の検査領域を特定する。
すなわち、撮影カメラ22と距離計測センサ23との幾何学的関係を予めキャリブレーションで求めておくことによって、被検体1の3次元座標点群8の各点と蛍光静止画像5の各画素との対応が可能になり、蛍光静止画像の各画素の3次元位置を求めることができる。また、被検体1は、旋回装置11に保持されており、被検体1の表面位置は、旋回装置11の周辺位置に限定される。従って、旋回装置11の周辺位置(例えば、旋回装置11の位置とその近傍付近)を検査領域と特定することにより、これから外れる位置の画像を消去することができる。
【0109】
次いで3次元形状データ処理ステップS44によって、3次元座標点群8から被検体1の表面形状を表す3次元形状情報を作成する。3次元形状情報としては、近傍の点から3角形パッチを構成して表現する方法や、被検体1の存在する空間にボクセルを定義し、そのボクセル内での点群の有無から表現する方法などがある。
【0110】
距離計測センサで得られる計測値の誤差が大きい場合には、特定のある一方向から得られた3次元座標点群8のみから作成した3次元形状情報も大きな誤差を含むことになる。そこで、後述する旋回ステップS6の結果、複数の方向から取得した前記複数の3次元座標点群を統合して、被検体の全周の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を3次元形状データ処理ステップS44内で行う。
【0111】
特に、3次元形状統合処理は、3次元座標点群の各点の位置情報に加え、距離計測センサの誤差モデルを基に、各点の誤差情報も利用することによって、精度を向上させる。
【0112】
図7は、3次元形状統合処理を示すフローチャートである。
3次元形状統合処理をは、三次元形状上の被計測点(即ち、複数の3次元座標点群8)の座標値から三次元形状を復元するための三次元形状の計測方法であり、データ入力ステップSS1、データ補正ステップSS2、モデル構築ステップSS3、マッチングステップSS4、モデル更新ステップSS5及び出力ステップSS6を有する。
なお、これら一連の処理のうち、SS1、SS2、SS4〜SS6は、計測データが得られる毎に実施し、SS3は初めて計測データが得られたときにだけ実施することができる。
【0113】
データ入力ステップSS1では、距離計測センサを用いて、被検体1を3次元位置計測して三次元形状上の座標値をコンピュータの記憶装置に入力する。
なおこのデータ入力ステップSS1において、三次元レーザレーダ110を用いて、三次元形状上(即ち、被検体上)の座標値を,上述の旋回ステップS6により被検体1を回転させながら異なる方向から順次取得するのがよい。
【0114】
距離計測センサとして三次元レーザレーダ110を用いた場合、三次元形状(即ち、被検体1)上の座標値は、任意の計測位置を原点とする距離データであり、極座標値(r,θ,φ)で表される。また、各座標値の誤差分布は、極座標値(r,θ,φ)から演算で求めるか、予め別の入力手段(例えばキーボード)で入力する。
【0115】
データ補正ステップSS2では、距離データの補正処理を行い、距離データの精度を向上させる。また、極座標データと距離計測センサの位置情報から、任意の固定位置を原点とした三次元空間データ(x,y,z)へ変換してもよい。
距離データの補正処理では、孤立点の除去、統計的処理、等を行う。孤立点は、周囲の点から孤立して存在する点であり、計測データは複数の近接する点で構成されることから、孤立点は誤計測と仮定して除去することができる。統計的処理は、計測データが含む誤差分布を考慮して、複数回の計測を統計処理(例えば平均値等)することで、距離の補正を行う。
さらに、対象とする三次元形状が、直線近似又は平面近似できる場合にはこれらを行うのがよい。
【0116】
図8は、ボクセルの分割に八分木を用いた場合のモデル構築ステップの模式図である。
モデル構築ステップSS3では、この図に示すように、三次元形状の存在する空間領域を、境界表面が互いに直交する直方体からなる複数のボクセル106に分割し、各ボクセル位置を記憶する環境モデルを構築する。即ち、環境モデルは各ボクセル位置の情報を含む。
ボクセル106の形状は、各辺の長さが等しい立方体でも、各辺の長さが異なる直方体でもよい。
また、ボクセル106の各辺の長さは、最大のボクセル106を必要最小限の分解能に相当する大きさに設定するのがよい。以下、最大のボクセル106をレベル1のボクセルと呼ぶ。
また、単一のボクセル内に複数の被計測点が存在する場合には、単一のボクセル内に単一の被計測点のみが存在するように、ボクセルを更に八分割して階層的に複数のボクセルに分割する。以下、最大のボクセル106の八分割を1回実施した空間領域をレベル2のボクセル、k回実施した空間領域をレベルk+1のボクセルと呼ぶ。
【0117】
図9は、構築された環境モデルの模式図である。
マッチングステップSS4では、この図に示すように、三次元形状上の座標値に対応するボクセル106の内部に代表点107とその誤差分布108を設定し記憶する。末端のボクセルは計測値の代表点を1つだけ持つことができる。各ボクセルが計測値の代表点とその誤差分布を持つことで、物体の形状を表す。
【0118】
マッチングステップSS4において、代表点の絶対位置は次の式(2)で与えられる。ここで、(x,y,z)は代表点のボクセルでの相対座標、Sx,Sy,Szはレベル1でのボクセルの一辺の大きさ、nx(k),ny(k),nz(k)はレベルkでのボクセルの番地、Lは求める代表点が存在するレベルである。
【0119】
【数2】
【0120】
図10は、本発明におけるボクセルデータのデータ構造を示す図である。
この図において、図10(A)は、各ボクセルデータのメモリレイアウト例である。この図において、矢印はデータへのリンクを表し、値としてはデータへのポインタを保持する。
図10(B)は、レベル2(1,1,0)のボクセルが代表点を持つ場合の例を示している。なおこの図において、nullは空集合を表す。
【0121】
上述したデータ構造の環境モデルは、以下の特徴を有する。
(1)内容:空間を小直方体で分割して各ボクセルに計測点の代表点と誤差分布を保持する。
(2)精度:ボクセル毎に持つ計測点の代表値相当である。
(3)存在:物体の存在の有無を表現できる。
(4)データ量:ボクセルの個数に比例してメモリを必要とするが、サイズ固定である。
(5)点群からの変換:適しており、計算量は少ない。
(6)アクセス速度:シンプルな構造をしているため、要素へのアクセスが高速である。
【0122】
またこの特徴から、上述した環境モデルは、以下の効果A〜Cをすべて満たしている。
効果A:誤差を考慮した表現が可能である。
効果B:必要なメモリ量と計算量が一定量以下である。
効果C:物体の存在だけでなく、物体が存在しないことを表せる。
【0123】
さらに図7において、モデル更新ステップSS5は、マッチングステップSS4の後に実施し、モデル構築ステップSS3で構築した環境モデルを更新する。
【0124】
図11は、モデル更新ステップS5におけるデータ処理フロー図である。この図に示すように、ステップST1で新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、ステップST2で該当するボクセル内に代表点がない(ボクセルが空である)場合には、ステップST3で新たに入力された被計測点の座標値と誤差分布を代表点の座標値と誤差分布として設定(新規に登録)する。
また、このステップST3において、新しい計測位置(原点)と被計測点の間には、原理的に物体が存在しないはずである。従って新しい計測位置(原点)と被計測点の間に位置するボクセル内の代表点と誤差分布を再設定もしくは消去する。
【0125】
図12は、該当するボクセル内に既に設定した代表点がある場合の模式図である。
図11のステップST2で該当するボクセル内に既に設定した代表点がある場合には、ステップST4で新たに取得した誤差分布と既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較する(すなわち異なる点か同一点かを判断する)。
この比較で、誤差分布が互いに重複する場合(図12(A))には、ステップST5で両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな誤差分布の中心を再設定する(すなわち誤差分布を合成する)。
またこの比較で、誤差分布が互いに重複しない場合(図12(B))には、ステップST6、ST7で単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に八分割して階層的に複数のボクセルに分割し新規に登録する。
分割と合成の基準は、例えば誤差分布の一致度から判断する。誤差分布の一致度には例えば、マハラノビス距離のような距離尺度や、尤度のような確率値の尺度を利用できる。また、2つの誤差分布に基づき、両者が同一点を表しているかを統計的検定によって判定してもよい。
【0126】
ステップST5で両誤差分布から新たな誤差分布と新たな誤差分布の中心を再設定した結果、新たな代表点が他のボクセル内へ移動したとき(即ち、ステップST8で、Yes)、ステップST2へ戻り、上述の処理を繰り返す。
なお、図13は、ステップST5で両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな誤差分布の中心を再設定した結果、新たな代表点が他のボクセル内へ移動する場合を示している。
【0127】
図14は、誤差分布が互いに重複する場合(図12(A))の別の模式図である。図11のステップST5において、2つの代表点と誤差分布を合成して新たな代表点と誤差分布を設定する手段として、カルマンフィルタを用いることができる。例えば、二次元の場合に、この図に示すように、2つの代表点をそれぞれx(1),x’(2)、2つの誤差分布をΣ(1)、Σ’(2)とし、これを合成した代表点をx(2)、誤差分布をΣ(2)とすると、代表点x(2)と誤差分布Σ(2)を算出する模式図は図14のようになる。
【0128】
図7において、出力ステップSS6では、ボクセル位置、及び代表点とその誤差分布を3次元形状情報として、データ処理装置24のデータ伝達装置が出力装置(例えば、記憶装置25または画像表示装置26)に出力する。
出力先は、ボクセル位置、及び代表点とその誤差分布を記憶・保持できる適切な記憶装置(この例では、図2の記憶装置25)であってもよい。
なお、出力ステップSS6では、ボクセル位置、及び代表点とその誤差分布を別の装置(例えば制御装置、コンピュータ)に転送してもよく、プリンタで出力してもよい。即ち、出力先は、当該別の装置(例えば制御装置、コンピュータ)であってよい。
また、出力ステップSS6において、ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力するとともに、該計測値の信頼性または精度を示す指標(例えば、数値)を、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさに基づいて、出力してもよい。さらに、出力ステップSS6において、ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力するときに、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさ(広がり)が所定の基準値よりも大きい場合に、該計測値の信頼性または精度が所定の基準よりも低いとして、該ボクセルの前記計測値(即ち、このボクセルの代表点の位置)を出力しないようにしてもよい。
【0129】
また、モデル更新ステップSS5において、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、前記ボクセル内の代表点、および誤差分布が新たに設定されるか、または再設定されるか、または該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割される場合のみ、出力ステップSS6において、当該ボクセルの代表点の位置、誤差分布およびボクセルの位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力してもよい。
【0130】
図7に示した処理の手順は、新たな計測位置において、新しい計測データが得られる度に、処理を繰り返し行い、記憶装置25に結果を格納する。処理を高速化するためには、記憶装置25に容量が許す限り結果を格納することが好ましい。
【0131】
上述した3次元形状統合処理によれば、三次元形状の存在する空間領域を、複数のボクセル106に分割し、各ボクセル位置を記憶装置25等に記憶するので、計測対象物が大きい場合であっても、データ量をボクセル数に比例する小さいデータサイズに抑えることができる。
また、座標値に対応するボクセル106の内部に代表点107とその誤差分布108を設定し記憶するので、ボクセルの分解能以上の情報を表現することができる。
【0132】
また、モデル構築ステップSS3において、最大のボクセル106を必要最小限の分解能に相当する大きさに設定し、かつ単一のボクセル106内に複数の被計測点が存在する場合に、単一のボクセル内に単一の被計測点のみが存在するように、該ボクセルを更に八分割して階層的に複数のボクセルに分割するので、データ量を小さいデータサイズに抑えると同時に、分割後のボクセルと代表点を用いて解像度を更に高めることができる。
【0133】
特に、三次元形状上の複数の座標値を複数の計測位置を原点とする距離データとして取得し、該距離データの座標値を、前記代表点の座標値とし、距離データの座標値の計測誤差を代表点の誤差分布とすることにより、正確な座標値と誤差分布を用いて複数回の計測を統計的に統合することができ、一層の精度向上が可能となる。
図15は、複数の計測位置を原点とする距離データを統合することによって、代表点の誤差分布が縮小し、代表点の精度が向上する様子を示している。このように異なる計測位置(即ち、距離計測センサである3次元計測器の位置)を原点として得られた距離データは誤差分布の向きも異なるので、これらの距離データを環境モデルを介して逐次統合することによって、代表点の誤差分布が縮小し、代表点の位置精度が向上する。なお、図15において、3次元計測後の図はコップの2次元断面を表わした模式図であり、3次元計測後の図の破線はコップの実際表面を表わしている。
【0134】
また、原点と被計測点の間に物体が存在しないものとして、その間に位置するボクセル内の代表点と誤差分布を再設定もしくは消去することにより、誤った計測データを補正もしくは消去することができる。
【0135】
また、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、該ボクセル内に代表点がない場合に、前記座標値と誤差分布を代表点の座標値と誤差分布として設定することにより、代表点の座標値と誤差分布を容易に設定できる。
【0136】
更に、前記ボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、新たに取得した誤差分布と既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、
誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、
誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に八分割して階層的に複数のボクセルに分割する、ことにより、誤差の蓄積を回避しながら高精度な形状に収束させることができる。
【0137】
各ボクセルの確率値は、代表点と誤差分布から算出する。ボクセルの確率値の算出方法は、例えば、図16に示すように、誤差分布の全体に対してボクセルに内包される分布の比から求めることができる。
また、模式図を図17に示すように、2つ以上の誤差分布が交差するような場合は、例えば、それぞれの誤差分布に対する確率値を用いたベイズ推定等により確率値の合成を行う。
【0138】
従って、本3次元形状統合処理によれば、誤差を含む距離データを正確な情報に補正する機能を有すると共に、これを繰り返すことにより、長時間の計測に対して高精度な形状に収束する。なおかつ、本3次元形状統合処理は、各ボクセル106に対応する代表点107とその誤差分布108を新たな計測点で更新する処理であるため計算量が小さい。また、演算は周囲のボクセルへの影響を与えずボクセル内で閉じているため、高速処理が可能である。また、計測データは最大のボクセルが必要最小限の分解能を有するボクセル構造に逐次統合可能であり、メモリサイズは固定サイズを大きく上回ることはない。
【0139】
また、各ボクセルに確率値を持たせることによって、誤差分布が代表点の属するボクセルよりも広がっている場合においても、各ボクセルにおける物体の存在有無を代表点が属するボクセルを見つけ、その誤差分布から再計算させることなく、当該ボクセルの確率値だけで判断できる。
【0140】
また、センサの位置・姿勢に誤差がある場合でも、この誤差分布を計測データの誤差分布に合成して、計測データの絶対誤差を算出することで、対象物体の位置精度を向上させることができる。
【0141】
カルマンフィルタを用いたモデル更新ステップについて、詳しく説明する。
【0142】
カルマンフィルタを用いたモデル更新ステップの場合には、新たに入力された被計測点の座標値およびその誤差分布と、既に設定したボクセル内の代表点およびその誤差分布とから、カルマンフィルタにより新たな代表点と誤差分布を取得して再設定する。
【0143】
各モデル点群の位置m(i)を状態量とし、距離計測センサの計測点の位置を基に、モデルを次式(3)で表現する。なお、本実施例では、m(i)は、ボクセル内部の代表点である(以下、同様)。
【0144】
【数3】
【0145】
式(3)において、
L(j)は、距離計測センサによる計測位置である。例えば、L(j)は、距離計測センサのセンサ座標系において3次元LRF(レーザレンジファインダ)の計測点j(j=1,...,N)の位置L(j)=(xL(j),yL(j),zL(j))tである。ここで、tは転置行列を示す(以下、同様)。
hm(Rr,tr,m(i))は、L(j)に対する観測系モデルである。
Rrは、距離計測センサを搭載した搭載装置のワールド座標系に対する姿勢を表す回転行列Rr=R(θx,θy,θz)である。なお、θx,θy,θzは、それぞれx軸、y軸、z軸周りの回転角を示す(以下、同様)。
trは、距離計測センサを搭載した搭載装置のワールド座標系に対する位置を表す並進ベクトルtr=(x,y,z)である。
vL(i)は、距離計測センサの計測値L(j)に加わる観測ノイズである。
Rsは、センサ座標系の搭載装置座標系に対する回転行列Rs=R(θx,θy,θz)である。
tsは、センサ座標系の搭載装置座標系に対する位置を表す併進ベクトルts=(x,y,z)である。
【0146】
測定対象物は静止しているものであり、測定対象物の位置tr、姿勢Rrを環境モデルに対して固定する。
【0147】
距離計測センサによる計測点群と、環境モデル点群上の点i(即ち、代表点)を対応づける。この対応付けが行われたモデル点群上の点iに対して次式(4)により更新を行う。なお、距離計測センサによる計測点群と対応付けが行われたモデル点群上の代表点m(i)に対してのみ次式(4)により更新を行ってよい。
【0148】
【数4】
【0149】
式(4)において、
添え字kは、離散時刻kでの値であることを表す。
mk(i)について、m’k(i)はmk(i)の更新値(事後推定値)を示し、mk,k−1(i)はm’k−1(i)に基づいたmk(i)の予測値(事前推定値)を示す。なお、環境(測定対象物)は静止しているので、mk,k-1(i)=m’k-1(i)である。
Σmk(i)は、ボクセル内部の代表点mk(i)の誤差共分散行列(即ち、上述の誤差分布)である。また、Σmk(i)について、 Σ’mk(i)はΣmk(i)の更新値(事後推定値)を示し、Σmk,k−1(i)はΣ’mk−1(i)に基づいたΣmk(i)の予測値(事前推定値)を示す。センサ座標系において3次元LRFの計測点j(j=1,…,N)の位置をL(j)で表し、その誤差共分散行列をΣL(j)で表す。ここでNは、3次元LRFで得られた計測点の総数である。3次元LRFの誤差モデルとして計測距離に関係ない一定の正規分布を仮定する。センサ座標系のx軸方向にレーザを照射する場合の誤差共分散行列をΣSとする。レーザの照射方向に応じて誤差分布も姿勢を変える。ΣL(j)は、基準の方向に対するレーザ照射方向を回転行列RL(j)を用いてΣL(j)=RL(j)ΣSRLt(j)と表される。計測点jのワールド座標系における位置z(j)、およびその誤差共分散行列Σz(j)は、それぞれz(j)=Rr(RsL(j)+ts)+tr、Σz(j)=RrRsΣL(j)RstRrtと表すことができる。
Kmk(i) は、 mk(i)に対するカルマンゲインである。
hmk(Rrk,trk,mk,k−1(i))は、Lk(j)、i=pk(j)に対するワールド座標系の環境モデルである。i=pk(j)は、計測点jに対応付けられた環境地図(即ち、環境モデル)上の点である。
Hmkは、Lk(j)、i=pk(j)に対するワールド座標系環境モデルのヤコビアン行列であり、次の式(5)で表わされる。
【0150】
【数5】
【0151】
カルマンフィルタの更新過程によって、環境地図のモデル点群の各点(ボクセルの代表点)の位置と誤差共分散行列の更新値m’k(i)、Σ’mk(i)が得られた段階で、環境モデルの更新を以下の手順で行う。
(1)これら更新値m’k(i)、Σ’mk(i)を、新たな代表点、誤差分布として再設定する。
(2)上述(1)の結果、代表点の位置が別のボクセル内に移動した場合、移動先のボクセルが代表点を保持していないときは、移動後の代表点とその誤差共分散行列を移動先のボクセルに保持させ、移動元のボクセルからは代表点等を取り除く。移動先のボクセルが既に代表点を保持しているときには、2つの代表点において、これらの両誤差分布が重複するかを判断する(上述のST4における判断と同様)。その後の処理は、図11のST4以降の処理と同じであってよい。
(3)モデル点群上の代表点m(i)と対応付けが行われなかった距離計測センサによる計測点について、当該計測点が含まれるボクセルが代表点を持たない場合は、計測点とその誤差分布をそのボクセルの代表点と誤差分布として追加し保持する。もし、ボクセル内に既に代表点が存在する場合には、ボクセル内にある対応付けが行われなかった他の複数の計測点を含め、既存の代表点と各計測点とが全て異なるボクセルに含まれるように、ボクセルを分割した上で分割後のボクセルに代表点等を継承させる。
【0152】
上述のカルマンフィルタを用いたモデル更新ステップを繰り返すことで、序々にボクセル内の誤差共分散行列(即ち、誤差分布)の範囲が小さくなるとともに、ボクセルが分割され易くなる。ボクセルが分割されることによって、初期ボクセルのサイズ以下の変化も表現することが可能となる。
図18は、カルマンフィルタを用いたモデル更新ステップにより得られた結果を示す。図19は図18の一部拡大図である。これら図において、初期のボクセルの1辺の長さを100cmとし、再分割数を6分割まで許している。対象が存在している領域では、ボクセルの再分割を繰り返した結果、計測対象を精度良く表現している。対象が存在しない領域ではボクセルの再分割は行われず、必要十分なデータ量で環境を表現できることがわかる。また、各ボクセル内の代表点の誤差分布も小さく、環境地図を高精度で表現できている。このように、誤差を含むデータであってもカルマンフィルタの効果により、真値に収束した結果が得られる。さらに、この方法では計測データ数を増加させることによって標準偏差が小さくなり、精度のさらなる向上が期待できる。
【0153】
また、測定対象物の位置・姿勢は固定しているため、更新を測定対象物の位置・姿勢と独立して行うことができる。なお、距離計測センサによる計測点群と対応付けが行われたモデル点群上の代表点m(i)に対してのみ、上述のカルマンフィルタによる更新を行うことで、大幅な計算コストの削減が可能になる。
【0154】
計測点と環境地図(即ち、環境モデル)との対応付けについて補足説明をする。対応付けは次のように行える。
対象とする計測点jの誤差共分散行列ΣL(j)の範囲(例えば標準偏差の3倍の範囲)と交わる最上位のボクセルとそのボクセルに隣接している最上位のボクセルを求め、下層のボクセルも含めこれらのボクセル内に存在する代表点を対応点の候補とする。ボクセルが階層構造となっているため、この候補点の探索には計算コストはほとんどかからない。このとき、候補となる代表点がない場合には、対応点がないものとみなす。隣接するボクセルも候補に加える理由は、ボクセル内の代表点の位置によっては、誤差共分散行列の範囲が隣接するボクセルまではみ出すことがあるからである。
【0155】
また、上記出力ステップにおいて、前記ボクセル位置、代表点、および誤差分布のすべてを出力しなくてもよく、例えば、これらすべてが無くても3次元形状が把握できる場合や、これらのうち1つ又は2つが必要な場合などにおいては、前記ボクセル位置、代表点、および誤差分布の少なくともいずれかを3次元形状情報として出力してもよい。
【0156】
次いで前記蛍光静止画像5と3次元形状情報を重ね合わせて表示し(S45)、蛍光静止画像5から検査領域以外の画像を消去する(S46)。なお重合せS45は、ステップS46の後に行ってもよい。
【0157】
さらに、蛍光部分4aの3次元形状情報から蛍光部分4aの位置と大きさを算出する(S47)。
その後、被検体1をある特定の方向から見た状態で蛍光探傷評価を行う(S5)。
ある特定の方向のみから状態のみでも、蛍光静止画像5と3次元形状情報の重合せ(S45)や、検査領域以外の画像の消去(S46)、蛍光部分の位置と大きさの算出する(S47)、および蛍光探傷評価(S5)を行うことによって、3次元形状情報の精度が統計的にまだ十分高くない場合でも、被検体1が明らかに許容できない欠陥があると判断された場合は、図示しない別のラインに搬送し、目視検査などの、より詳細な検査を事前に受けることが可能となる。後述する全周のデータ処理S7、および全周の蛍光探傷評価S8をもって、欠陥の判断を行えば処理時間的に足る場合には、S4、S5のステップを省略することができる。
【0158】
旋回ステップS6では、被検体を所定の軸心を中心に旋回させる。
この旋回は、死角が発生しないように、数値制御又はその他の手段(リミットスイッチ等)により、任意に旋回角度(例えば、180度、90度、60度、30度等)を設定するのがよい。
【0159】
この旋回の後、上述したステップS1〜S5を繰り返し、死角ができないように、検査対象物の全面を検査する。各検査結果はすべて、記憶装置25に記憶し、全面を検査した後、全周のデータ処理ステップS7、全周の蛍光探傷評価ステップS8、形状照合処理ステップS9、および3次元形状評価ステップS10に移る。この繰り返し数は、少なくとも2回(旋回角度180度の場合)行うのがよい。
【0160】
全周のデータ処理ステップS7は、全周の3次元形状情報と蛍光部画像との重合せS71、検査領域以外の画像部分消去S72および蛍光部分の位置と大きさの算出S73の各ステップを有する。
なお、一方向のデータ処理ステップS4と全周のデータ処理ステップS7とを含めた概念をデータ処理ステップという。このデータ処理ステップでは、蛍光静止画像を画像処理して、蛍光部画像を抽出すると共に、3次元座標点群をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、蛍光部画像と3次元形状情報とを関連付ける。
【0161】
全周の3次元形状情報と蛍光部画像との重合せステップS71では、各方向から得られた蛍光部蓄積画像と、各方向の3次元座標点群から3次元形状統合処理によって形状精度を高めた3次元形状情報とを重合せることで、被検体1の蛍光部を画像表示装置26に3次元的に表示することができる。評価者も欠陥の判断を被検体1の3次元形状に重ねられた蛍光部を見ながら行うことができる。なお、3次元形状統合処理は、図7を参照して説明した処理であって、当該処理によって、各方向の3次元座標点群から形状精度を高めた被検体の全周にわたる3次元形状情報が得られる。
【0162】
検査領域以外の画像部分消去ステップS72、および蛍光部分の位置と大きさの算出ステップS73は、それぞれS46、S47と同様の処理を行うが、全周の蛍光部画像と3次元形状情報を利用して、3次元的に処理する点が異なる。3次元形状情報は、各方向からの3次元座標点群を統計的に統合しているため、形状精度が向上しており、一般にS73のステップで得た蛍光部分の位置と大きさの方が、S47のステップで得たものよりも精度が高い。
【0163】
全周の評価ステップS8では、全周のデータ処理ステップS7で得られた蛍光部画像、3次元形状データおよび蛍光部分の大きさを画像表示及びプリントアウトし、予め定めた閾値と比較して、被検体1の合否を判断する。この閾値との比較はデータ処理装置24が自動的に行ってもよく、この場合、閾値より小さいまたは大きい箇所を画像表示装置26に、3次元形状情報を利用して3次元的に表示させてもよい。
なお、この画像表示は、異なる位置から取得した画像の重合せ画像をそれぞれ別個に表示しても、複数の方向の画像を順次旋回させながら表示してもよい。3次元形状情報を利用して3次元的に表示しても良い。
この蛍光探傷検査の結果、欠陥候補があると判断された被検体は、図示しない別のラインに搬送され、目視検査などの、より詳細な検査を受ける。
【0164】
形状照合処理ステップS9は、3D−CADモデルの読込みS91、全周の3次元形状情報と3D−CADモデル照合S92、および形状差異部分の抽出S93の各ステップを有する。
【0165】
3D−CADモデルの読込みステップS91では、被検体1の3D−CADモデルデータを読み込み、3次元形状情報と比較できる形式、例えば、3次元座標点群、3角形パッチによる表面形状モデル、ボクセルモデルに変換する。
【0166】
全周の3次元形状情報と3D−CADモデル照合ステップS92では、S91で読み込んだ被検体1の3D−CADモデルデータと、S44の3次元形状統合処理で作成した全周の3次元形状情報とを照合し、両者の位置・姿勢の相対関係を求める。
【0167】
形状差異部分の抽出ステップS93では、S92で位置・姿勢を照合した際に、3D−CADモデルデータと全周の3次元形状情報との間で一致しない部分を、形状差異部分として抽出する。例えば、対応する部分の距離間隔がある一定のしきい値以上ある場合、差異があるものとして抽出する。
【0168】
3次元形状評価ステップS10では、抽出した前記形状差異部分の量やその程度に応じて、予め定めた判定基準に従って、形状の良否を判断する。これによって、蛍光探傷の検査と3次元形状検査が同時に行えるため、検査の効率化が図られる。
【0169】
図20は、本発明による蛍光探傷方法の模式図である。
この図に示すように、本発明の方法では、被検体1を所定の軸心Z(例えば鉛直軸)を中心に旋回させる旋回装置11(ターンテーブルや、吊り下げ運搬時のアームの回転機構など)を用いて、旋回させながら撮影を行うことで死角を減らす。また、撮影カメラ22と距離計測センサ23を用いて蛍光部分の位置と大きさを算出する。
【0170】
従って、死角の発生を防ぐことができ、検査対象物の全面検査が可能となる。また、欠陥の実寸法を正確に計測でき、検査精度が向上する。
【0171】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】被検体である動翼とベーンの模式図である。
【図2】本発明による蛍光探傷装置の全体構成図である。
【図3】非特許文献1に開示された三次元レーザレーダの構成図である。
【図4】距離計測センサで計測された極座標データと誤差の関係を示す図である。
【図5】本発明による蛍光探傷方法の全体フロー図である。
【図6】本発明におけるモフォロジ処理の説明図である。
【図7】3次元形状統合処理を示すフローチャートである。
【図8】モデル構築ステップの模式図である。
【図9】構築された環境モデルの模式図である。
【図10】本発明におけるボクセルデータのデータ構造を示す図である。
【図11】モデル更新ステップにおけるデータ処理フロー図である。
【図12】該当するボクセル内に既に設定した代表点がある場合の模式図である。
【図13】誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から新たな誤差分布と新たな誤差分布の中心を再設定した結果、新たな代表点が他のボクセル内へ移動する場合を示している。
【図14】誤差分布が互いに重複する場合の模式図である。
【図15】複数の計測位置を原点とする距離データを統合することによって、代表点の誤差分布が縮小し、代表点の精度が向上する様子を示す模式図である。
【図16】ボクセルの確率値の算出方法の模式図である。
【図17】誤差分布が互いに重複する場合のボクセルの確率値の算出方法の模式図である。
【図18】カルマンフィルタを用いたモデル更新ステップにより得られた結果を示す。
【図19】図18の一部拡大図である。
【図20】本発明による蛍光探傷方法の模式図である。
【図21】特許文献2の装置の模式図である。
【図22】特許文献4の装置の模式図である。
【図23】特許文献5の装置の模式図である。
【図24】特許文献6の装置の模式図である。
【図25】特許文献7の装置の模式図である。
【符号の説明】
【0173】
1 被検体(検査対象物)、2 近紫外線、
4 蛍光、4a 蛍光部分、5 蛍光静止画像、
6 可視静止画像、7 重合せ画像、8 3次元座標点群、
9 旋回位置(旋回角度情報)、10 蛍光探傷装置、11 旋回装置、
12 搬送装置、13 位置検出センサ、
14 暗室装置(暗幕、暗箱)、16 ブラックライト、
20 ロングパスフィルタ、22 撮影カメラ、23 距離計測センサ
24 データ処理装置(コンピュータ)、25 記憶装置、
26 画像表示装置、27 通信制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体上の傷の大きさおよび位置を高精度に検出する蛍光探傷装置および蛍光探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料やセラミックス等の非破壊検査法として、蛍光浸透探傷試験が知られている。蛍光浸透探傷試験は、試験体の表面に存在する微細な傷(又は疵)に毛細管現象を利用して蛍光剤を浸透させ、これに近紫外線を照射して蛍光剤を発光させて観察し、傷等の欠陥を肉眼で検査するものである。
【0003】
また、これに類似した非破壊検査法として、蛍光磁粉探傷試験が知られている。蛍光磁粉探傷試験は、強磁性体の試験体を磁化し、蛍光磁粉を表面に適用して、割れなどの傷の部分に吸着された蛍光磁粉を、近紫外線を照射して蛍光磁粉を発光させて観察し、傷等を肉眼で検査するものである。
以下、蛍光浸透探傷試験と蛍光磁粉探傷試験の両方を総称して、「蛍光探傷試験」と呼ぶ。
【0004】
上述した蛍光探傷試験は、一般的に、(1)浸透処理、(2)洗浄処理、(3)現像処理、(4)検査の各工程からなる。しかし、このうち検査工程は、肉眼による目視検査であるため、経験に左右されやすく、かつ手間と時間がかかる問題点がある。そこで、蛍光探傷試験において、画像処理を用いて欠陥を抽出する手段が提案されている(例えば特許文献1〜4、6〜7)。
また、検査工程以外の浸透処理、洗浄処理、現像処理を連続的に処理する手段として特許文献5が開示されている。
被検体の欠陥の大きさを精度良く得るためには、被検体の3次元形状を考慮する必要があるが、3次元形状の表現手段としてボクセル表現が提案されている。(例えば、特許文献8〜9)また、3次元形状の計測手段として、3次元レーザレーダがある。(例えば、非特許文献1)
【0005】
特許文献1の方法は、少なくとも1つの対象被検材を選択するステップと、選択した分析法に基づいて表面欠陥を標示できるようにする指示薬を使用して被検材を前処理するステップと、選択した指示薬に適した適切な照明下に対象被検材を露光するステップと、アーチファクトを除去するよう該画像を処理して検出感度と選択した分析法によって生じる背景ノイズとを決定するステップと、有効パラメータを求め、各有効パラメータについて検出感度を最大にすると共に背景ノイズを最小にできるパラメータ値を決定するステップとを含むものである。
【0006】
特許文献2の方法は、図21に示す装置を用いて、磁化された鋼片の表面に蛍光磁粉を付着させ、該蛍光磁粉に励起光を照射して発せられる蛍光を撮像して疵を探傷する方法において、疵種類に応じて異なる複数の輝度の規準値と、疵種の弁別に使用する特徴量の範囲を限定するための閾値とを予め設定し、各規準値に基づいて撮像信号を2値化した複数の2値化画像を作成し、該2値化画像から所定の特徴量を算出し、該特徴量と予め設定された前記閾値とに基づいて所定の演算を行い、この演算結果に基づいて疵種を弁別するものである。
【0007】
特許文献3の装置は、蛍光磁粉が付着された被検査材の表面に紫外線を照射する照射手段と、該表面を撮像して画像信号を出力する撮像装置と、該画像信号の信号強度を傷判断閾値を比較して前記表面の傷の有無を判断する傷判断手段とを有する蛍光磁粉式自動探傷装置において、前記被検査材の表面各部における前記紫外線の入射条件および前記蛍光磁粉から発せられた光の前記撮像装置に対する入射条件の相違に拘わらず、略同一条件で傷の有無を判断できるように予め定められた該表面各部で異なる傷判断閾値を記憶している記憶手段を備え、前記傷判断手段は該傷判断閾値と対応する部分の画像信号の信号強度とを比較して傷の有無を判断するものである。
【0008】
特許文献4の装置は、図22の模式図に示すように、鋼材253の表層部を磁化する磁化器251,252と、鋼材の表面に磁粉液を散布する噴射ノズル255と、鋼材の被検査面を照明するブラックライト257と、被検査面を撮影ずるITVカメラ258と、ITVカメラの出力信号を画像処理して疵の有無を判別する画像処理装置259とで構成した表面疵自動検査装置において、鋼材253の被検査面に斜めから断続的に可視光を照射する光源部263と、光源部の発光とITVカメラの画像取り込みタイミングを同期させる制御装置264とを具備し、ブラックライト257で照明した時の画像と光源部263の照明を付加した時の画像とから表面疵を検査するものである。
【0009】
特許文献5の装置は、図23の模式図に示すように、複数のワーク361を一定のピッチPで吊り下げて間欠的に水平循環させる水平循環チェーンコンベア362と、該水平循環チェーンコンベアの下部に位置しワークにそれぞれ所定の処理を行うための複数の処理装置364と、該処理装置を上下動させる昇降装置366とを備え、各処理装置の作動を停止し、各処理装置を下降させて、水平循環チェーンコンベアを一定ピッチP移動し、水平循環チェーンコンベアを停止して、各処理装置を上昇させて各処理を行うものである。
【0010】
特許文献6の装置は、図24の模式図に示すように、暗室414内で、検査位置に配置した被検体1にブラックライト416から蛍光探傷用の近紫外線2を照射し、ロングパスフィルタ420を通して被検体を撮影カメラ422で撮影して蛍光静止画像405を取得する。また、時間をずらして同一位置から、被検体1に白色ストロボ418から可視光403を照射し、ロングパスフィルタ420を通して被検体1を撮影カメラ422で撮影して可視静止画像406を取得する。さらに蛍光静止画像405と可視静止画像406を画像処理装置424で画像処理により重ね合わせて重合せ画像407を表示する。
【0011】
特許文献7の装置は、図25の模式図に示すように、暗室514内で、被検体1を旋回装置511に載せて旋回させ検査位置に配置する被検体1にブラックライト516から蛍光探傷用の近紫外線2を照射し、ロングパスフィルタ520を通して複数の位置から被検体1を撮影カメラ522で撮影し複数の蛍光静止画像505を取得する。また、同じ被検体1に白色ストロボ518から可視光503を照射し、同じ複数の位置から被検体1を撮影カメラ522で撮影し複数の可視静止画像506を取得する。さらに蛍光静止画像505と可視静止画像506を画像処理装置524で画像処理によりそれぞれ重ね合わせて複数の重合せ画像を表示装置526で表示する。また蛍光部分を抽出し蛍光部分の位置と大きさを算出する。
【0012】
特許文献8の「三次元情報抽出方法」では、Voxel Votingと呼ばれる方法を用いて計測結果を各ボクセルに投票することで、複数視点からの三次元形状を統合する。更にこの方法では、必要な解像度が得られないボクセルに対しては、ボクセルを更に八分割して階層的にデータを管理する方法を開示している。
【0013】
特許文献9の「環境モデル入力装置」では、各ボクセルに確率値を蓄積する手段を提案している。この手段では、確率を与える頻度に依存せずに環境モデルの統合を行い、正確な環境モデルの作成を可能としている。
非特許文献1の手段では、平面を想定しているものの、確率値を保持するボクセルに対して、計測データに含まれる誤差により発生したボクセルの誤った確率値を正しい値に戻す処理を提案している。
【0014】
【特許文献1】特許第3095958号公報、「浸透探傷による分析方法を自動的に特性化・最適化・検査する方法および装置」
【特許文献2】特許第3440569号公報、「磁粉探傷方法およびその装置」
【特許文献3】特開平06−201656号公報、「蛍光磁粉式自動探傷装置」
【特許文献4】特開平10−282063号公報、「表面疵自動検査装置」
【特許文献5】特開2003−98110号公報、「連続浸透探傷装置」
【特許文献6】特開2007−17376号公報、「蛍光探傷装置および蛍光探傷方法」
【特許文献7】特開2007−17377号公報、「蛍光探傷装置および蛍光探傷方法」
【特許文献8】特許第3170345号公報、「三次元情報抽出方法」
【特許文献9】特開平9−81788号公報、「環境モデル入力装置」
【非特許文献1】関本清英、他、「三次元レーザレーダの開発」、石川島播磨技報Vol.43 No.4(2003−7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
例えば、航空機用のタービン翼やコンプレッサー翼を被検体とする場合、検査領域は例えば、最大約100mm×100mmであり、検査対象となる傷は、例えば、長手方向約0.25mm以上となる。なお、この検査領域と傷の大きさは例示であり、それ以上の領域、或いはそれ以下の傷を対象とする場合もある。
【0016】
蛍光探傷試験において、このような被検体を肉眼により目視検査した場合、従来、上述した検査工程だけでも被検体1個につき約2分間以上の検査時間を要していた。そのため、検査能率が低く、量産に合わせて全数検査することができない問題点があった。
【0017】
また、画像処理を用いてこの検査工程を自動化しようとする場合、被検体表面で発光する蛍光が微弱であるため、蛍光以外の可視光を可能な限り除去して撮影する必要がある。すなわち、外光が入ってこない暗室内で、紫外光を被検体に照射して撮影する。このように可視光が除去された環境下では、蛍光部を明確に撮影することができるが、被検体の形状を明確に撮影することは困難である。そのため、蛍光を発している傷等の欠陥部が被検体のどこに位置するかの判断が難しかった。
また、被検体の形状を同時に撮影するため可視光による照明を用いると、微細な傷の検出が困難または不可能になる問題点があった。
【0018】
さらに、自動搬送装置等を用いて被検体を検査領域に搬送する場合、被検体以外にも蛍光剤が付着することがある。このような場合、撮影した画像上に被検体以外の領域(背景部や非検査領域)の蛍光を検出してしまい、S/N比が低下して微細な傷の検出が困難になる。
【0019】
また、被検体がタービン翼等のように複雑な形状をしている場合、死角の発生により欠陥を見落すおそれがあった。
【0020】
特許文献6、7はこれらの問題を解決または改善できる。複雑な形状をした被検体では、欠陥の寸法および位置を正確に計測することが望まれる。即ち、被検体の欠陥の正確な寸法を得るためには、被検体の3次元形状を計測することが有効であるが、特許文献6のように可視光画像からパターンマッチングにより検査領域を用いる方法では、2次元画像情報のみを利用するため、複雑な3次元形状を十分な精度で求めることが難しい場合がある。また、特許文献7のように複数の可視光画像を用いたステレオ視による方法では、画像上の特徴が局所的にしか現れない場合があり、被検体の表面を十分な密度で形状計測できるとは限らない。また、画像間で被検体上の同一点の対応付けを誤った場合、3次元形状に大きな誤差が発生することがある。
【0021】
そこで、本発明の目的は、被検体の3次元形状を正確に計測することで、被検体上の傷の大きさおよび位置を高精度に検出できる蛍光探傷方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明によると、蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体を所定の検査位置に配置する配置ステップと、
暗室内で、前記蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波を、前記検査位置の被検体に照射して被検体を撮影し、蛍光静止画像を取得する蛍光静止画像撮影ステップと、
前記検査位置の被検体を3次元位置計測し、被検体表面の3次元座標点群を取得する3次元位置計測ステップと、
(A)前記蛍光静止画像を画像処理して、蛍光部分に相当する蛍光部画像を抽出すると共に、(B)前記3次元座標点群をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、(C)前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るデータ処理ステップと、を有することを特徴とする蛍光探傷用データ生成方法が提供される。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によると、被検体を複数の方向から3次元計測することで、該複数の方向の各々について、3次元座標点群を取得し、これら複数の3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う。
【0024】
前記複数の3次元座標点群の取得は、例えば、次のように行える。
被検体を所定の軸心を中心に旋回させる旋回ステップを有し、
被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を3次元位置計測して3次元座標点群を取得し、これら複数の3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う。
なお、3次元計測する距離計測センサの位置を変えることで、被検体を複数の方向から3次元計測するようにしてもよい。この場合、距離計測センサの各位置(および距離計測センサの姿勢)は既知であるとして、当該位置のデータを3次元形状統合処理で使用してよい。
【0025】
上記蛍光探傷方法では、蛍光静止画像から抽出した蛍光部画像と、被検体表面の3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るので、蛍光探傷用データに基づいて傷の有無および傷の位置を検出できる。例えば、蛍光探傷用データにより、蛍光部画像と3次元形状情報とを重ね合わせて3次元表示することで、蛍光探傷試験を行える。
さらに、複数の3次元座標点群を統合することで統計的に被検体の3次元形状を精度良く得ることができるので、前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを精度よく関連付けることができ、その結果、被検体上の傷の大きさおよび傷の位置の精度が向上する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によると、被検体を複数の方向から撮影することで、該複数の方向の各々について、前記蛍光部画像を取得し、これら複数の蛍光部画像から被検体の全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得て、該蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得る。
【0027】
前記複数の蛍光部画像の取得は、例えば、次のように行える。
被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を撮影して前記蛍光部画像を取得し、これら複数の蛍光部画像から被検体の全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得て、該蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得る。
なお、被検体を撮影する撮影カメラの位置を変えることで、被検体を複数の方向から撮影するようにしてもよい。この場合、撮影カメラの各位置(および距離計測センサの姿勢)は既知であるとして、当該位置のデータを全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得るために使用してよい。
【0028】
これにより、被検体の全周または全周の一部に関して総合的に蛍光探傷検査できる。
また、被検体に対し相対的に複数の各方向から取得した前記蛍光部画像を用いるので、死角を無くして傷の検査を行える。
好ましくは、被検体の全周に関する前記蓄積した蛍光部画像と、被検体の全周に関する前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得ることで、精度良く得られた被検体の全周の3次元形状に各方向から撮影した蛍光部を重ね合わせて3次元表示ができるので、被検体の全面をあらゆる角度から総合的に蛍光探傷検査できる。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によると、前記3次元形状情報は、3次元座標点群の各点の位置情報、および、該各点の誤差情報を含む。
【0030】
これにより、3次元位置計測時の誤差を加味して、統計的により精度良く3次元形状を得ることができる。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によると、前記3次元形状統合処理は、
前記被検体を3次元位置計測して取得した3次元座標点群の各座標値を入力するデータ入力ステップと、
被検体の存在する空間領域を、境界表面が互いに直交する直方体からなる複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶する環境モデルを構築するモデル構築ステップと、
ボクセルの内部に前記座標値に対応する代表点とその誤差分布とを設定し記憶するマッチングステップと、
前記ボクセル位置、代表点および誤差分布の少なくともいずれかを3次元形状情報として出力する出力ステップとを有する。
【0032】
このように、被検体の存在する空間領域を、複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶するので、計測対象物が大きい場合であっても、3次元形状データ量をボクセル数に比例する小さいデータサイズに抑えることができる。
また、3次元座標値に対応するボクセルの内部に代表点とその誤差分布を設定し記憶するので、ボクセルの分解能以上の情報を表現することができる。
【0033】
本発明の好ましい実施形態によると、前記モデル構築ステップにおいて、最大のボクセルを必要最小限の分解能に相当する大きさに設定し、かつ単一のボクセル内に複数の被計測点が存在する場合に、単一のボクセル内に単一の被計測点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する。
【0034】
このように、モデル構築ステップにおいて、最大のボクセルを必要最小限の分解能に相当する大きさに設定し、かつ単一のボクセル内に複数の被計測点が存在する場合に、単一のボクセル内に単一の被計測点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割するので、データ量を小さく抑えると同時に、分割後のボクセルと代表点を用いて解像度を更に高めることができる。
特に、三次元形状上の複数の座標値を(例えば、距離計測センサの位置である複数の計測位置を原点とする距離データとして)取得し、該距離データの座標値を、前記代表点の座標値とし、距離データの座標値の計測誤差を代表点の誤差分布とすることにより、正確な座標値と誤差分布を用いて複数回の計測を統計的に統合することができ、一層の精度向上が可能となる。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によると、上記方法は、前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、原点と被計測点の間に物体が存在しないものとして、その間に位置するボクセル内の代表点と誤差分布を再設定もしくは消去する。
【0036】
本発明の好ましい実施形態によると、上記方法は、前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、
該ボクセル内に代表点がない場合に、前記座標値と誤差分布を代表点の座標値と誤差分布として設定する。
【0037】
これにより、代表点の座標値と誤差分布を容易に設定できる。
【0038】
このように、原点と被計測点の間に物体が存在しないものとして、その間に位置するボクセル内の代表点と誤差分布を消去することにより、誤った計測データの影響を取り除くことができる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態によると、上記方法は、前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、
前記ボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、新たに取得した誤差分布と既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、
誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、
誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する。
【0040】
このように、前記ボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、新たに取得した誤差分布と既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する、ことにより、誤差の蓄積を回避しながら高精度な形状を得ることができる。
特に、誤差分布が互いに重複する場合に、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定した結果、代表点が別のボクセルに移動する場合には、既に設定したボクセル内の誤差分布と更に比較することで、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように一貫性を保つことができる。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によると、ボクセルの内部に代表点とその誤差分布に加えて、確率値を併せ持つ。
【0042】
また、各ボクセルに確率値を持たせることによって、誤差分布が代表点の属するボクセルよりも広がっている場合においても、各ボクセルにおける物体の存在有無を、代表点が属するボクセルを見つけ、その誤差分布から再計算させることなく、当該ボクセルの確率値だけで判断できる。
【0043】
本発明の好ましい実施形態によると、前記モデル更新ステップにおいて、前記新たに取得した誤差分布と前記既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から新たな誤差分布と新たな代表点を再設定した結果、新たな代表点が他のボクセル内へ移動したとき、該他のボクセル内に代表点がない場合に、該新たな誤差分布と該新たな代表点を該他のボクセルの内部に設定し、
該他のボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、該新たな誤差分布と既に設定した該他のボクセル内の誤差分布とを比較し、(A)誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、(B)誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する。
【0044】
これにより、誤差の蓄積を回避しながら高精度な形状に収束させることができる。特に、誤差分布が互いに重複する場合に、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定した結果、代表点が別のボクセルに移動する場合には、既に設定したボクセル内の誤差分布と更に比較することで、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように一貫性を保つことができる。
【0045】
本発明の好ましい実施形態によると、上記方法は、前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、
該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値およびその誤差分布と、既に設定したボクセル内の代表点およびその誤差分布とから、カルマンフィルタにより新たな代表点と誤差分布を取得して再設定する。
【0046】
このように、前記モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値およびその誤差分布と、既に設定したボクセル内の代表点およびその誤差分布とから、カルマンフィルタにより新たな代表点と誤差分布を取得して再設定するので、より真値に近い形状を得ることができる。
特に、カルマンフィルタを用いたモデル更新ステップを繰り返すことで、誤差を含むデータであってもカルマンフィルタの効果により真値に収束した高精度な形状が得られる。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によると、前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力するとともに、該計測値の信頼性または精度を示す指標を、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさに基づいて出力する。
【0048】
また、前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力する際に、該計測値の信頼性または精度を示す指標を、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさに基づいて出力することにより、信頼性の低い計測値を使用せずに、被検体の3次元形状を高い精度で維持することができる。
【0049】
本発明の好ましい実施形態によると、前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力するときに、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさが所定の基準値よりも大きい場合に、該計測値の信頼性または精度が所定の基準よりも低いとして、該ボクセルの前記計測値を出力しない。
【0050】
前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力するときに、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさが所定の基準値よりも大きい場合に、該計測値の信頼性または精度が所定の基準よりも低いとして、該ボクセルの前記計測値を出力装置に出力しないようにすることによって、計測装置を使用する際に、そもそも信頼性の高い計測値のみを扱うことができるようになるため、扱うデータ量を削減することや、信頼性の向上につながる。
【0051】
本発明の好ましい実施形態によると、前記出力ステップにおいて、距離計測センサの位置から距離計測センサが位置計測可能な範囲の環境モデル内のボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力する。
【0052】
前記出力ステップにおいて、距離計測センサの位置から距離計測センサが位置計測可能な範囲の環境モデル内のボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力することによって、従来の距離計測センサの計測値の分解能が粗い場合でも、あたかも精度良くかつ分解能が高い距離計測センサのように利用することが可能となる。このように、より精度の高い3次元形状計測が可能になる。
【0053】
本発明の好ましい実施形態によると、被検体の3D-CADモデルを読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合する。
【0054】
このように、被被検体の3D-CADモデルを読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合することで、両者の形状差異(例えば、たわみや歪み等の変形)を検出できる。これにより、被検体の3次元形状異常検査も蛍光探傷検査と同時に行うことができる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態によると、被検体の検査領域を前記3次元位置計測ステップで得た3次元座標点群情報から特定し、前記蛍光静止画像から検査領域以外の画像を消去する。
【0056】
これにより、被検体以外の領域(背景部や非検査領域)からの蛍光の影響を皆無にできるので、被検体の微細な傷を一層高いS/N比で容易に検出できる。
【0057】
本発明の好ましい実施形態によると、前記蛍光静止画像をモフォロジ処理を中心とする高輝度領域抽出処理して蛍光部分を特定し、蛍光部分の位置と大きさを算出する。
【0058】
これにより、検出した傷の大きさと被検体上の位置を容易に特定できる。
【0059】
また、上記目的を達成するため、本発明によると、所定の検査位置に配置され蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体を囲み内部を蛍光を撮影可能な程度に低い照度下に維持する暗室装置と、
前記蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波を、検査位置の被検体に照射するブラックライトと、
前記電磁波照射時に蛍光発光した被検体を撮影し蛍光静止画像を取得する撮影カメラと、
前記検査位置の被検体を3次元位置計測して3次元座標点群を取得する距離計測センサと、
(A)前記蛍光静止画像を画像処理して、蛍光部分に相当する蛍光部画像を抽出すると共に、(B)前記3次元座標点群をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、(C)前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るデータ処理装置とを備えた、ことを特徴とする蛍光探傷装置が提供される。
【0060】
本発明の好ましい実施形態によると、上記蛍光探傷装置は、所定の検査位置において被検体を保持し所定の軸心を中心に旋回可能な旋回装置を備え、
距離計測センサは、被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を3次元位置計測して3次元座標点群を取得し、
前記データ処理装置は、複数の前記3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う。
【0061】
上記蛍光探傷装置では、蛍光静止画像から抽出した蛍光部画像と、被検体表面の3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るので、蛍光探傷用データに基づいて傷の有無および傷の位置を検出できる。例えば、蛍光探傷用データにより、蛍光部画像と3次元形状情報とを重ね合わせて3次元表示することで、蛍光探傷試験を行える。
さらに、複数の3次元座標点群を統合することで統計的に被検体の3次元形状を精度良く得ることができるので、前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを精度よく関連付けることができ、その結果、被検体上の傷の大きさおよび傷の位置の精度が向上する。
【0062】
本発明の好ましい実施形態によると、撮影カメラは、被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を撮影して前記蛍光部画像を取得し、
前記データ処理装置は、複数の前記蛍光部画像から被検体の全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得て、該蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得る。
【0063】
これにより、被検体の全周または全周の一部に関して総合的に蛍光探傷検査できる。
また、被検体に対し相対的に複数の各方向から取得した前記蛍光部画像を用いるので、死角を無くして傷の検査を行える。
好ましくは、被検体の全周に関する前記蓄積した蛍光部画像と、被検体の全周に関する前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得ることで、精度良く得られた被検体の全周の3次元形状に各方向から撮影した蛍光部を重ね合わせて3次元表示ができるので、被検体の全面をあらゆる角度から総合的に蛍光探傷検査できる。
【0064】
本発明の好ましい実施形態によると、前記3次元形状情報は、3次元座標点群の各点の位置情報、および、該各点の誤差情報を含む。
【0065】
これにより、3次元位置計測時の誤差を加味して、統計的により精度良く3次元形状を得ることができる。
【0066】
本発明の好ましい実施形態によると、前記データ処理装置は、
前記被検体を3次元位置計測して取得した3次元座標点群の各座標値を入力するデータ入力装置と、
被検体の存在する空間領域を、境界表面が互いに直交する直方体からなる複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶する環境モデルを構築するモデル構築装置と、
ボクセルの内部に前記座標値に対応する代表点とその誤差分布とを設定し記憶するマッチング装置と、
前記ボクセル位置、代表点および誤差分布の少なくともいずれかを3次元形状情報として出力するデータ伝達装置とを備える。
【0067】
このように、被検体の存在する空間領域を、複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶するので、計測対象物が大きい場合であっても、3次元形状データ量をボクセル数に比例する小さいデータサイズに抑えることができる。
また、3次元座標値に対応するボクセルの内部に代表点とその誤差分布を設定し記憶するので、ボクセルの分解能以上の情報を表現することができる。
【0068】
本発明の好ましい実施形態によると、前記データ処理装置は、被検体の検査領域を前記3次元位置計測で得た3次元座標点群情報から特定し、前記蛍光静止画像から検査領域以外の画像を消去する。
【0069】
これにより、被検体以外の領域(背景部や非検査領域)からの蛍光の影響を皆無にできるので、被検体の微細な傷を一層高いS/N比で容易に検出できる。
【0070】
本発明の好ましい実施形態によると、前記データ処理装置は、前記蛍光静止画像をモフォロジ処理を中心とする高輝度領域抽出処理して蛍光部分を特定し、蛍光部分の位置と大きさを算出する。
【0071】
これにより、検出した傷の大きさと被検体上の位置を容易に特定できる。
【0072】
本発明の好ましい実施形態によると、前記データ処理装置は、
前記距離計測センサが複数の方向から被検体を3次元計測することで、該複数の方向の各々について取得された3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成し、
被検体の3D-CADモデルを読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合する。
【0073】
このように、被被検体の3D-CADモデル(即ち、被被検体の3次元形状を表す3D-CADデータ)を読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合することで、両者の形状差異(例えば、たわみや歪み等の変形)を検出できる。これにより、被検体の3次元形状異常検査も蛍光探傷検査と同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0074】
上述した本発明によると、複数の3次元座標点群を統合することで統計的に被検体の3次元形状を精度良く得ることができるので、前記蛍光部分と前記3次元形状情報とを精度よく関連付けることができ、その結果、被検体上の傷の大きさおよび傷の位置の精度が向上する。
【0075】
また、誤差を含む距離データを正確な情報に補正する機能を有すると共に、これを繰り返すことにより、長時間の計測に対して高精度な形状に収束する。また、各ボクセルに対応する代表点とその誤差分布を新たな計測点で更新する処理であるため計算量が小さい。さらに、演算は周囲のボクセルへの影響を与えずボクセル内で閉じているため、高速処理が可能である。また、計測データは最大のボクセルが必要最小限の分解能を有するボクセル構造に逐次統合可能であり、メモリサイズは固定サイズを大きく上回ることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0076】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0077】
図1は、被検体1である動翼(A)とベーン(B)の模式図であり、この例では、航空機用コンプレッサーの動翼とベーンを示している。
航空機用コンプレッサーには、それぞれ10種類前後の動翼とベーンが用いられ、それぞれ大きさ、形状が異なっている。また、蛍光探傷検査を必要とする箇所は、通常、翼先端の背側及び腹側であるが、これに限定されず、それ以外の部分を検査することもある。
なお、本発明の被検体は、上述したような航空機用部品に限定されず、自動車部品等、蛍光探傷検査を必要とするあらゆる被検体を対象とすることができる。
【0078】
以下、本発明の被検体1の検査領域が最大約100mm×100mmであり、長手方向約0.25mm以上の傷を検査対象とする場合について説明する。なお、この検査領域と傷の大きさは例示であり、それ以上の領域、或いはそれ以下の傷にも同様に適用することができる。
【0079】
図2は、本発明による蛍光探傷装置の全体構成図である。この図に示すように、本発明の蛍光探傷装置10は、旋回装置11、搬送装置12、暗室装置14、ブラックライト16、ロングパスフィルタ20、撮影カメラ22、距離計測センサ23及びデータ処理装置24を備える。
【0080】
被検体1は、図示しない前工程において、上述した浸透処理、洗浄処理、及び現像処理を行い、蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた状態となっている。蛍光剤は、蛍光浸透探傷試験用の蛍光剤、蛍光磁粉は蛍光磁粉探傷試験用の蛍光磁粉である。従って、本発明は、蛍光浸透探傷試験と蛍光磁粉探傷試験に適用することができる。
【0081】
旋回装置11は、蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体1の一部を保持し、所定の軸心を中心に旋回可能な装置である。例えば、被検体1がタービン又はコンプレッサーの動翼であり、検査領域が翼部である場合、検査領域でない動翼の固定部を保持し、鉛直軸Zを中心に旋回するのがよい。またこの旋回装置11は、旋回角度を数値制御でき、旋回位置9を出力するようになっている。
なおこの構成は必須ではなく、水平軸或いはその他の軸を中心に旋回してもよく、また数値制御を行わずに任意に旋回角度(例えば、180度、90度、60度、30度等)を設定して停止する構成であってもよい。
【0082】
搬送装置12は、例えばベルトコンベア又はローラコンベアであり、蛍光剤を表面に浸透させた被検体1を旋回装置11に保持した状態で、所定の検査位置まで搬入し、搬出する。またこの搬送装置12は、所定の検査位置を検出する位置検出センサ13を備え、検査位置で被検体1を一時停止させる。一時停止の時間は、後述する旋回と撮影に要する時間である。
なお、本発明において、搬送装置12は必須ではなく、被検体1を所定の検査位置に手で運んで配置してもよい。
【0083】
蛍光4はそれほど強い光を発しないため、撮影の際、ある程度の露光時間(例えば1/30秒以上)が必要となる。露光時間が1/30秒、分解能が0.10mm/画素の場合、被検体1の画像のブレを1画素以内に納めるためには、搬送又は旋回の速度を3.0mm/秒以下、つまり停止状態にする必要がある(0.10mm/画素÷1/30秒)。
従って、高精度の静止画像を撮影するため、例えば0.5秒間程度完全に停止するのがよい。また、距離計測センサが3次元位置計測を高精度に行うためには、被検体を停止させるのがよい。
しかし、完全停止は必須ではなく、高精度の静止画像を撮影できる限り、および高精度の3次元位置計測を行える限り、低速で移動してもよい。
また、CCDの感度を高める、蛍光強度を高める、対象とする傷を大きくする、等の手段により、露光時間を短くし、搬送又は旋回を連続してできるようにしてもよい。
【0084】
検査位置は、例えばベルトコンベア又はローラコンベア上に位置し、1m角程度の画像撮影エリアを有し、このエリアを暗室化できるようになっている。
また、本発明による蛍光探傷検査の結果、欠陥候補があると判断された被検体1は、図示しない別のラインに搬送され、目視検査などより詳細な検査を受けるようになっているのがよい。
【0085】
暗室装置14は、検査位置の被検体1を囲み、内部を微細な蛍光を撮影可能な低照度下に維持する。暗室装置14は、遮光布で覆った柔構造の暗幕でも、遮光板で囲んだ剛構造の暗箱でもよい。
また被検体1を暗室装置14内に搬入し、搬出できるように、スリット、開閉ドア等を備え、撮影カメラ22による撮影時に内部を撮影可能な程度に低い照度下に維持するようになっている。撮影可能な低照度は、微弱な蛍光4を検出できるように、可能な限り完全な暗闇であるのがよい。
【0086】
ブラックライト16は、検査位置で停止した被検体1に蛍光探傷用の電磁波(この例では、近紫外線2)を照射する。この例では、ブラックライト16は、波長315〜400nmの近紫外線2を放射する紫外線照射装置である。
このブラックライト16は、連続的に近紫外線2を放射するのが好ましいが、撮影時のみ放射してもよい。また、この例では、1灯のみ設けているが、被検体1の影を防止するため、左右に2つ設けても3灯以上でもよい。 また、露光時間を短くして、搬送又は旋回を連続して行う場合には、通常の写真撮影用のストロボと同様に、極短時間(1/1000秒以下)の照射時間にするのが好ましい。
【0087】
蛍光剤に上記電磁波(この例では、近紫外線2)を放射・照射すると、蛍光4を発する。即ち、蛍光剤は上記電磁波の照射により蛍光発光する。この蛍光4の波長は蛍光剤の特性や外部条件(洗浄液条件や経時変化など)によって変化するが、この例ではピークは500〜550nmの間にある。
【0088】
ロングパスフィルタ20は、波長450〜500nm程度以下の近紫外線2をカットし蛍光4及び可視光を通す光学フィルタである。
通常の蛍光探傷試験では、紫外線フィルタとして、特定の波長のみを透過するバンドパスフィルタを用いる。本発明では、ブラックライト16の反射光を通さないような光学フィルタを使用して、蛍光領域を明確に撮影する。
【0089】
撮影カメラ22は、ロングパスフィルタ20を通して検査位置に停止した被検体1を撮影し、近紫外線照射時の蛍光静止画像5を取得する。
【0090】
撮影カメラ22の視野は、被検体1の検査領域に合わせて、一辺100mm程度に設定する。また、画素数は、視野角100mmに対して長手0.25mmという非常に小さな蛍光領域を抽出する必要がある。
例えば仮に観察対象物の位置で0.10mm/画素となるようにするには、CCDの有効画素数が1000×1000画素以上必要となる(100mm÷0.1mm/画素=1000画素)。
【0091】
このことからビデオ信号(水平信号線480本)を出力するアナログビデオカメラではなく、CCDの有効画素数が1000×1000画素以上のデジタルビデオカメラを使用する。
【0092】
絞りと露光時間は、蛍光領域が明確な画像を撮影するには、絞りを絞って被写界深度を深くし、露光時間を長くとって蛍光を長く受光することが望ましい。しかし、実際の検査ラインでは搬送システムとの兼ね合いで撮影時間=露光時間が制限される。従って、絞りと露光時間は運用条件に合わせて調整できるように、絞りと露光時間を変更可能なカメラおよびレンズを使用するのがよい。
【0093】
レンズは、視野角100mmとし、かつカメラ自身の影が映らないよう部品からカメラを300mm以上離す場合、レンズの焦点距離は20mm以上であれば良い。従ってレンズは、焦点距離が20mm〜50mm程度のものを使用するのがよい。
【0094】
距離計測センサ23は3次元位置計測を行い、3次元座標点群8を取得する。距離計測センサ23と撮影カメラ22とは、両者の配置の関係を予めキャリブレーション等で求めておく。
【0095】
図3は、距離計測センサ23の一例としての三次元レーザレーダ110の構成図である。三次元レーザレーダは、例えば非特許文献1に開示されている。
この図に示すように、三次元レーザレーダ110は、レーダヘッド112と制御器120から構成される。レーザダイオード113から発振されたパルスレーザ光101は、投光レンズ114で平行光102に整形され、ミラー118a,118bと回転・揺動するポリゴンミラー115で二次元方向に走査され、測定対象物に照射される。測定対象物から反射されたパルスレーザ光103は、ポリゴンミラー115を介して受光レンズ116で集光され、光検出器117で電気信号に変換される。
【0096】
制御器120内の時間間隔カウンタ121は、レーザダイオード113のパルス発振タイミングと同期したスタートパルス104と、光検出器117から出力されたストップパルス105の時間間隔を計測する。信号処理ボード122は、反射光が検出された時点の時間間隔t、ポリゴンミラーの回転角度θ、揺動角度φを極座標データ(r,θ,φ)として出力する。
rは計測位置(即ち、レーダヘッド設置位置)を原点とする距離であり、r=c×t/2 の式で求められる。ここでcは光速である。
判定処理ユニット123は、信号処理ボード122からの極座標データを、レーダヘッド設置位置を原点とした三次元空間データ(x,y,z)へ変換して、検出処理を行うようになっている。なおこの図で124はドライブユニットである。
また、ポリゴンミラーの回転角度θ、揺動角度φを変化させて、3次元位置計測を複数回行って、3次元座標点群8(この例では、複数の三次元空間データ(x,y,z))を取得する
【0097】
本実施形態では、距離計測センサ23として、例えば、上述した三次元レーザレーダ110を用いる。しかし、距離計測センサはこれに限定されず、光切断法を用いた距離計測センサやその他の周知の距離計測センサを用いることができる。距離計測精度や、空間分解能が高い距離計測センサが望ましい。
【0098】
図4は、距離計測センサで計測された極座標データと誤差の関係を示す図である。
図4(A)に示すように、任意の計測位置を原点とする極座標値(r,θ,φ)を計測結果として計測する。距離計測センサによる計測結果には、この図に示すような誤差分布が通常存在する。
この誤差分布は、誤差分布のrs,θs,φsでの存在確率をP(rs,θs,φs)とした場合、誤差分布は計測の軸r,θ,φ方向に正規分布しているとし、例えば[数1]の式(1)で表すことができる。ここで、r,θ,φはセンサからの計測値、σr,σθ,σφは標準偏差、Aは規格化定数である。
図4(B)に示すように、誤差分布は、通常r方向に長い切頭円錐形(左図)に内包される分布であるが、遠方においてaとbの差は小さい。従って、この誤差分布を直方体に包含される楕円体として安全サイドに近似することができる。
【0099】
【数1】
【0100】
データ処理装置24は、蛍光静止画像5を取り込む。データ処理装置24は、中央処理装置(CPU)、記憶装置25、入出力装置(例えばキーボード、画像表示装置26)、通信制御装置27を備えたコンピュータであるのがよい。なお、本実施例では、データ処理装置1台の構成であるが、特に画像処理部分を専用の画像処理装置として別途構成しても良い。
データ処理装置24は、3次元座標点群8を取り込み、検査領域を特定し、蛍光静止画像6から検査領域以外の画像を消去する。
さらに、このデータ処理装置24は、蛍光静止画像5をモフォロジ処理を中心とする高輝度領域抽出処理して蛍光部分を特定し、3次元形状情報を基に、蛍光部分の位置と大きさを算出するようになっている。また、データ処理装置24は、蛍光部分に相当する、各方向から得た蛍光部画像を蓄積する。
【0101】
データ処理装置24は、3次元座標点群8の情報から検査領域を特定し、3次元形状情報を作成する。3次元形状情報を得る際、3次元座標点群8の各点の位置情報だけではなく、その誤差情報も加味して、形状の精度を向上させる。また、複数の3次元座標点群を統合して、被検体の全周の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う。
さらに、全周分の蛍光部画像と3次元形状統合処理で得られた全周分の3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを生成する。蛍光探傷用データは、例えば、3次元形状情報を表した座標系を用いた蛍光部画像の各位置の座標を含んでよい。この蛍光探傷用データに基づいて、蓄積された全周分の蛍光部画像と、3次元形状統合処理で得られた全周分の3次元形状情報とを重ねて、3次元的に表示し、蛍光探傷検査を容易に行えるようにする。また、蛍光部分の位置と大きさを算出する。
また、被検体の3D-CADモデルを読み込み、全周分の3次元形状情報と位置・姿勢を照合することによって、両者の形状の差異を検出し、蛍光探傷検査と共に、3次元形状検査も同時に行う。なお、被検体の3D-CADモデルは、被検体の製作時に使用したものであってよい。
【0102】
図5は、本発明による蛍光探傷方法の全体フロー図である。この図に示すように、本発明の蛍光探傷方法は、配置ステップS1、蛍光静止画像撮影ステップS2、3次元位置計測ステップS3、一方向のデータ処理ステップS4、一方向の蛍光探傷評価ステップS5、旋回ステップS6、全周のデータ処理ステップS7、全周の蛍光探傷評価ステップS8、形状照合処理ステップS9及び3次元形状評価ステップS10を有する。なお、データ処理装置24は、図5のステップS4,S5,S7,S8,S9,S10の処理を行ってよい。
【0103】
配置ステップS1では、蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体1を所定の検査位置に配置する。
【0104】
蛍光静止画像撮影ステップS2では、暗室内で、蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波(この例では、近紫外線2)を、検査位置の被検体1に照射して被検体1を撮影し、蛍光静止画像を取得する。この例では、暗室内で、検査位置で停止した被検体1に蛍光探傷用の近紫外線2を照射し、ロングパスフィルタ20を通して被検体1を撮影し、蛍光静止画像5を取得する。
【0105】
3次元位置計測ステップS3では、暗室内で、検査位置で停止した被検体1を距離計測センサー23で計測し、3次元座標点群8を取得する。
【0106】
一方向のデータ処理ステップS4は、高輝度領域抽出処理S41、蛍光部画像蓄積処理S42、検査領域特定処理S43、3次元形状データ処理S44、特定方向からの3次元形状情報と蛍光部画像との重合せS45、検査領域以外の画像部分消去S46および蛍光部分の位置と大きさの算出S47の各ステップを有する。
【0107】
高輝度領域抽出処理S41の中心となるモフォロジ処理では、図6に示すように、位置と明るさの関係を示す原画像(A)をグレースケールで読み込み、これから最小値フィルタ(B)と最大値フィルタ(C)を作製し、原画像との差分(D)を求めて、周囲と比較して明るい部分、すなわち蛍光静止画像5の蛍光部分4aを特定する。また、この特定した蛍光部画像を全周にわたり蓄積する(S42)。なお、モフォロジ処理は、例えば特許文献6に記載されており、本発明では、公知のモフォロジ処理を利用してよい。
【0108】
検査領域特定S43では、3次元座標点群8から被検体1の検査領域を特定する。
すなわち、撮影カメラ22と距離計測センサ23との幾何学的関係を予めキャリブレーションで求めておくことによって、被検体1の3次元座標点群8の各点と蛍光静止画像5の各画素との対応が可能になり、蛍光静止画像の各画素の3次元位置を求めることができる。また、被検体1は、旋回装置11に保持されており、被検体1の表面位置は、旋回装置11の周辺位置に限定される。従って、旋回装置11の周辺位置(例えば、旋回装置11の位置とその近傍付近)を検査領域と特定することにより、これから外れる位置の画像を消去することができる。
【0109】
次いで3次元形状データ処理ステップS44によって、3次元座標点群8から被検体1の表面形状を表す3次元形状情報を作成する。3次元形状情報としては、近傍の点から3角形パッチを構成して表現する方法や、被検体1の存在する空間にボクセルを定義し、そのボクセル内での点群の有無から表現する方法などがある。
【0110】
距離計測センサで得られる計測値の誤差が大きい場合には、特定のある一方向から得られた3次元座標点群8のみから作成した3次元形状情報も大きな誤差を含むことになる。そこで、後述する旋回ステップS6の結果、複数の方向から取得した前記複数の3次元座標点群を統合して、被検体の全周の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を3次元形状データ処理ステップS44内で行う。
【0111】
特に、3次元形状統合処理は、3次元座標点群の各点の位置情報に加え、距離計測センサの誤差モデルを基に、各点の誤差情報も利用することによって、精度を向上させる。
【0112】
図7は、3次元形状統合処理を示すフローチャートである。
3次元形状統合処理をは、三次元形状上の被計測点(即ち、複数の3次元座標点群8)の座標値から三次元形状を復元するための三次元形状の計測方法であり、データ入力ステップSS1、データ補正ステップSS2、モデル構築ステップSS3、マッチングステップSS4、モデル更新ステップSS5及び出力ステップSS6を有する。
なお、これら一連の処理のうち、SS1、SS2、SS4〜SS6は、計測データが得られる毎に実施し、SS3は初めて計測データが得られたときにだけ実施することができる。
【0113】
データ入力ステップSS1では、距離計測センサを用いて、被検体1を3次元位置計測して三次元形状上の座標値をコンピュータの記憶装置に入力する。
なおこのデータ入力ステップSS1において、三次元レーザレーダ110を用いて、三次元形状上(即ち、被検体上)の座標値を,上述の旋回ステップS6により被検体1を回転させながら異なる方向から順次取得するのがよい。
【0114】
距離計測センサとして三次元レーザレーダ110を用いた場合、三次元形状(即ち、被検体1)上の座標値は、任意の計測位置を原点とする距離データであり、極座標値(r,θ,φ)で表される。また、各座標値の誤差分布は、極座標値(r,θ,φ)から演算で求めるか、予め別の入力手段(例えばキーボード)で入力する。
【0115】
データ補正ステップSS2では、距離データの補正処理を行い、距離データの精度を向上させる。また、極座標データと距離計測センサの位置情報から、任意の固定位置を原点とした三次元空間データ(x,y,z)へ変換してもよい。
距離データの補正処理では、孤立点の除去、統計的処理、等を行う。孤立点は、周囲の点から孤立して存在する点であり、計測データは複数の近接する点で構成されることから、孤立点は誤計測と仮定して除去することができる。統計的処理は、計測データが含む誤差分布を考慮して、複数回の計測を統計処理(例えば平均値等)することで、距離の補正を行う。
さらに、対象とする三次元形状が、直線近似又は平面近似できる場合にはこれらを行うのがよい。
【0116】
図8は、ボクセルの分割に八分木を用いた場合のモデル構築ステップの模式図である。
モデル構築ステップSS3では、この図に示すように、三次元形状の存在する空間領域を、境界表面が互いに直交する直方体からなる複数のボクセル106に分割し、各ボクセル位置を記憶する環境モデルを構築する。即ち、環境モデルは各ボクセル位置の情報を含む。
ボクセル106の形状は、各辺の長さが等しい立方体でも、各辺の長さが異なる直方体でもよい。
また、ボクセル106の各辺の長さは、最大のボクセル106を必要最小限の分解能に相当する大きさに設定するのがよい。以下、最大のボクセル106をレベル1のボクセルと呼ぶ。
また、単一のボクセル内に複数の被計測点が存在する場合には、単一のボクセル内に単一の被計測点のみが存在するように、ボクセルを更に八分割して階層的に複数のボクセルに分割する。以下、最大のボクセル106の八分割を1回実施した空間領域をレベル2のボクセル、k回実施した空間領域をレベルk+1のボクセルと呼ぶ。
【0117】
図9は、構築された環境モデルの模式図である。
マッチングステップSS4では、この図に示すように、三次元形状上の座標値に対応するボクセル106の内部に代表点107とその誤差分布108を設定し記憶する。末端のボクセルは計測値の代表点を1つだけ持つことができる。各ボクセルが計測値の代表点とその誤差分布を持つことで、物体の形状を表す。
【0118】
マッチングステップSS4において、代表点の絶対位置は次の式(2)で与えられる。ここで、(x,y,z)は代表点のボクセルでの相対座標、Sx,Sy,Szはレベル1でのボクセルの一辺の大きさ、nx(k),ny(k),nz(k)はレベルkでのボクセルの番地、Lは求める代表点が存在するレベルである。
【0119】
【数2】
【0120】
図10は、本発明におけるボクセルデータのデータ構造を示す図である。
この図において、図10(A)は、各ボクセルデータのメモリレイアウト例である。この図において、矢印はデータへのリンクを表し、値としてはデータへのポインタを保持する。
図10(B)は、レベル2(1,1,0)のボクセルが代表点を持つ場合の例を示している。なおこの図において、nullは空集合を表す。
【0121】
上述したデータ構造の環境モデルは、以下の特徴を有する。
(1)内容:空間を小直方体で分割して各ボクセルに計測点の代表点と誤差分布を保持する。
(2)精度:ボクセル毎に持つ計測点の代表値相当である。
(3)存在:物体の存在の有無を表現できる。
(4)データ量:ボクセルの個数に比例してメモリを必要とするが、サイズ固定である。
(5)点群からの変換:適しており、計算量は少ない。
(6)アクセス速度:シンプルな構造をしているため、要素へのアクセスが高速である。
【0122】
またこの特徴から、上述した環境モデルは、以下の効果A〜Cをすべて満たしている。
効果A:誤差を考慮した表現が可能である。
効果B:必要なメモリ量と計算量が一定量以下である。
効果C:物体の存在だけでなく、物体が存在しないことを表せる。
【0123】
さらに図7において、モデル更新ステップSS5は、マッチングステップSS4の後に実施し、モデル構築ステップSS3で構築した環境モデルを更新する。
【0124】
図11は、モデル更新ステップS5におけるデータ処理フロー図である。この図に示すように、ステップST1で新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、ステップST2で該当するボクセル内に代表点がない(ボクセルが空である)場合には、ステップST3で新たに入力された被計測点の座標値と誤差分布を代表点の座標値と誤差分布として設定(新規に登録)する。
また、このステップST3において、新しい計測位置(原点)と被計測点の間には、原理的に物体が存在しないはずである。従って新しい計測位置(原点)と被計測点の間に位置するボクセル内の代表点と誤差分布を再設定もしくは消去する。
【0125】
図12は、該当するボクセル内に既に設定した代表点がある場合の模式図である。
図11のステップST2で該当するボクセル内に既に設定した代表点がある場合には、ステップST4で新たに取得した誤差分布と既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較する(すなわち異なる点か同一点かを判断する)。
この比較で、誤差分布が互いに重複する場合(図12(A))には、ステップST5で両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな誤差分布の中心を再設定する(すなわち誤差分布を合成する)。
またこの比較で、誤差分布が互いに重複しない場合(図12(B))には、ステップST6、ST7で単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に八分割して階層的に複数のボクセルに分割し新規に登録する。
分割と合成の基準は、例えば誤差分布の一致度から判断する。誤差分布の一致度には例えば、マハラノビス距離のような距離尺度や、尤度のような確率値の尺度を利用できる。また、2つの誤差分布に基づき、両者が同一点を表しているかを統計的検定によって判定してもよい。
【0126】
ステップST5で両誤差分布から新たな誤差分布と新たな誤差分布の中心を再設定した結果、新たな代表点が他のボクセル内へ移動したとき(即ち、ステップST8で、Yes)、ステップST2へ戻り、上述の処理を繰り返す。
なお、図13は、ステップST5で両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな誤差分布の中心を再設定した結果、新たな代表点が他のボクセル内へ移動する場合を示している。
【0127】
図14は、誤差分布が互いに重複する場合(図12(A))の別の模式図である。図11のステップST5において、2つの代表点と誤差分布を合成して新たな代表点と誤差分布を設定する手段として、カルマンフィルタを用いることができる。例えば、二次元の場合に、この図に示すように、2つの代表点をそれぞれx(1),x’(2)、2つの誤差分布をΣ(1)、Σ’(2)とし、これを合成した代表点をx(2)、誤差分布をΣ(2)とすると、代表点x(2)と誤差分布Σ(2)を算出する模式図は図14のようになる。
【0128】
図7において、出力ステップSS6では、ボクセル位置、及び代表点とその誤差分布を3次元形状情報として、データ処理装置24のデータ伝達装置が出力装置(例えば、記憶装置25または画像表示装置26)に出力する。
出力先は、ボクセル位置、及び代表点とその誤差分布を記憶・保持できる適切な記憶装置(この例では、図2の記憶装置25)であってもよい。
なお、出力ステップSS6では、ボクセル位置、及び代表点とその誤差分布を別の装置(例えば制御装置、コンピュータ)に転送してもよく、プリンタで出力してもよい。即ち、出力先は、当該別の装置(例えば制御装置、コンピュータ)であってよい。
また、出力ステップSS6において、ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力するとともに、該計測値の信頼性または精度を示す指標(例えば、数値)を、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさに基づいて、出力してもよい。さらに、出力ステップSS6において、ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力するときに、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさ(広がり)が所定の基準値よりも大きい場合に、該計測値の信頼性または精度が所定の基準よりも低いとして、該ボクセルの前記計測値(即ち、このボクセルの代表点の位置)を出力しないようにしてもよい。
【0129】
また、モデル更新ステップSS5において、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、前記ボクセル内の代表点、および誤差分布が新たに設定されるか、または再設定されるか、または該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割される場合のみ、出力ステップSS6において、当該ボクセルの代表点の位置、誤差分布およびボクセルの位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力してもよい。
【0130】
図7に示した処理の手順は、新たな計測位置において、新しい計測データが得られる度に、処理を繰り返し行い、記憶装置25に結果を格納する。処理を高速化するためには、記憶装置25に容量が許す限り結果を格納することが好ましい。
【0131】
上述した3次元形状統合処理によれば、三次元形状の存在する空間領域を、複数のボクセル106に分割し、各ボクセル位置を記憶装置25等に記憶するので、計測対象物が大きい場合であっても、データ量をボクセル数に比例する小さいデータサイズに抑えることができる。
また、座標値に対応するボクセル106の内部に代表点107とその誤差分布108を設定し記憶するので、ボクセルの分解能以上の情報を表現することができる。
【0132】
また、モデル構築ステップSS3において、最大のボクセル106を必要最小限の分解能に相当する大きさに設定し、かつ単一のボクセル106内に複数の被計測点が存在する場合に、単一のボクセル内に単一の被計測点のみが存在するように、該ボクセルを更に八分割して階層的に複数のボクセルに分割するので、データ量を小さいデータサイズに抑えると同時に、分割後のボクセルと代表点を用いて解像度を更に高めることができる。
【0133】
特に、三次元形状上の複数の座標値を複数の計測位置を原点とする距離データとして取得し、該距離データの座標値を、前記代表点の座標値とし、距離データの座標値の計測誤差を代表点の誤差分布とすることにより、正確な座標値と誤差分布を用いて複数回の計測を統計的に統合することができ、一層の精度向上が可能となる。
図15は、複数の計測位置を原点とする距離データを統合することによって、代表点の誤差分布が縮小し、代表点の精度が向上する様子を示している。このように異なる計測位置(即ち、距離計測センサである3次元計測器の位置)を原点として得られた距離データは誤差分布の向きも異なるので、これらの距離データを環境モデルを介して逐次統合することによって、代表点の誤差分布が縮小し、代表点の位置精度が向上する。なお、図15において、3次元計測後の図はコップの2次元断面を表わした模式図であり、3次元計測後の図の破線はコップの実際表面を表わしている。
【0134】
また、原点と被計測点の間に物体が存在しないものとして、その間に位置するボクセル内の代表点と誤差分布を再設定もしくは消去することにより、誤った計測データを補正もしくは消去することができる。
【0135】
また、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、該ボクセル内に代表点がない場合に、前記座標値と誤差分布を代表点の座標値と誤差分布として設定することにより、代表点の座標値と誤差分布を容易に設定できる。
【0136】
更に、前記ボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、新たに取得した誤差分布と既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、
誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、
誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に八分割して階層的に複数のボクセルに分割する、ことにより、誤差の蓄積を回避しながら高精度な形状に収束させることができる。
【0137】
各ボクセルの確率値は、代表点と誤差分布から算出する。ボクセルの確率値の算出方法は、例えば、図16に示すように、誤差分布の全体に対してボクセルに内包される分布の比から求めることができる。
また、模式図を図17に示すように、2つ以上の誤差分布が交差するような場合は、例えば、それぞれの誤差分布に対する確率値を用いたベイズ推定等により確率値の合成を行う。
【0138】
従って、本3次元形状統合処理によれば、誤差を含む距離データを正確な情報に補正する機能を有すると共に、これを繰り返すことにより、長時間の計測に対して高精度な形状に収束する。なおかつ、本3次元形状統合処理は、各ボクセル106に対応する代表点107とその誤差分布108を新たな計測点で更新する処理であるため計算量が小さい。また、演算は周囲のボクセルへの影響を与えずボクセル内で閉じているため、高速処理が可能である。また、計測データは最大のボクセルが必要最小限の分解能を有するボクセル構造に逐次統合可能であり、メモリサイズは固定サイズを大きく上回ることはない。
【0139】
また、各ボクセルに確率値を持たせることによって、誤差分布が代表点の属するボクセルよりも広がっている場合においても、各ボクセルにおける物体の存在有無を代表点が属するボクセルを見つけ、その誤差分布から再計算させることなく、当該ボクセルの確率値だけで判断できる。
【0140】
また、センサの位置・姿勢に誤差がある場合でも、この誤差分布を計測データの誤差分布に合成して、計測データの絶対誤差を算出することで、対象物体の位置精度を向上させることができる。
【0141】
カルマンフィルタを用いたモデル更新ステップについて、詳しく説明する。
【0142】
カルマンフィルタを用いたモデル更新ステップの場合には、新たに入力された被計測点の座標値およびその誤差分布と、既に設定したボクセル内の代表点およびその誤差分布とから、カルマンフィルタにより新たな代表点と誤差分布を取得して再設定する。
【0143】
各モデル点群の位置m(i)を状態量とし、距離計測センサの計測点の位置を基に、モデルを次式(3)で表現する。なお、本実施例では、m(i)は、ボクセル内部の代表点である(以下、同様)。
【0144】
【数3】
【0145】
式(3)において、
L(j)は、距離計測センサによる計測位置である。例えば、L(j)は、距離計測センサのセンサ座標系において3次元LRF(レーザレンジファインダ)の計測点j(j=1,...,N)の位置L(j)=(xL(j),yL(j),zL(j))tである。ここで、tは転置行列を示す(以下、同様)。
hm(Rr,tr,m(i))は、L(j)に対する観測系モデルである。
Rrは、距離計測センサを搭載した搭載装置のワールド座標系に対する姿勢を表す回転行列Rr=R(θx,θy,θz)である。なお、θx,θy,θzは、それぞれx軸、y軸、z軸周りの回転角を示す(以下、同様)。
trは、距離計測センサを搭載した搭載装置のワールド座標系に対する位置を表す並進ベクトルtr=(x,y,z)である。
vL(i)は、距離計測センサの計測値L(j)に加わる観測ノイズである。
Rsは、センサ座標系の搭載装置座標系に対する回転行列Rs=R(θx,θy,θz)である。
tsは、センサ座標系の搭載装置座標系に対する位置を表す併進ベクトルts=(x,y,z)である。
【0146】
測定対象物は静止しているものであり、測定対象物の位置tr、姿勢Rrを環境モデルに対して固定する。
【0147】
距離計測センサによる計測点群と、環境モデル点群上の点i(即ち、代表点)を対応づける。この対応付けが行われたモデル点群上の点iに対して次式(4)により更新を行う。なお、距離計測センサによる計測点群と対応付けが行われたモデル点群上の代表点m(i)に対してのみ次式(4)により更新を行ってよい。
【0148】
【数4】
【0149】
式(4)において、
添え字kは、離散時刻kでの値であることを表す。
mk(i)について、m’k(i)はmk(i)の更新値(事後推定値)を示し、mk,k−1(i)はm’k−1(i)に基づいたmk(i)の予測値(事前推定値)を示す。なお、環境(測定対象物)は静止しているので、mk,k-1(i)=m’k-1(i)である。
Σmk(i)は、ボクセル内部の代表点mk(i)の誤差共分散行列(即ち、上述の誤差分布)である。また、Σmk(i)について、 Σ’mk(i)はΣmk(i)の更新値(事後推定値)を示し、Σmk,k−1(i)はΣ’mk−1(i)に基づいたΣmk(i)の予測値(事前推定値)を示す。センサ座標系において3次元LRFの計測点j(j=1,…,N)の位置をL(j)で表し、その誤差共分散行列をΣL(j)で表す。ここでNは、3次元LRFで得られた計測点の総数である。3次元LRFの誤差モデルとして計測距離に関係ない一定の正規分布を仮定する。センサ座標系のx軸方向にレーザを照射する場合の誤差共分散行列をΣSとする。レーザの照射方向に応じて誤差分布も姿勢を変える。ΣL(j)は、基準の方向に対するレーザ照射方向を回転行列RL(j)を用いてΣL(j)=RL(j)ΣSRLt(j)と表される。計測点jのワールド座標系における位置z(j)、およびその誤差共分散行列Σz(j)は、それぞれz(j)=Rr(RsL(j)+ts)+tr、Σz(j)=RrRsΣL(j)RstRrtと表すことができる。
Kmk(i) は、 mk(i)に対するカルマンゲインである。
hmk(Rrk,trk,mk,k−1(i))は、Lk(j)、i=pk(j)に対するワールド座標系の環境モデルである。i=pk(j)は、計測点jに対応付けられた環境地図(即ち、環境モデル)上の点である。
Hmkは、Lk(j)、i=pk(j)に対するワールド座標系環境モデルのヤコビアン行列であり、次の式(5)で表わされる。
【0150】
【数5】
【0151】
カルマンフィルタの更新過程によって、環境地図のモデル点群の各点(ボクセルの代表点)の位置と誤差共分散行列の更新値m’k(i)、Σ’mk(i)が得られた段階で、環境モデルの更新を以下の手順で行う。
(1)これら更新値m’k(i)、Σ’mk(i)を、新たな代表点、誤差分布として再設定する。
(2)上述(1)の結果、代表点の位置が別のボクセル内に移動した場合、移動先のボクセルが代表点を保持していないときは、移動後の代表点とその誤差共分散行列を移動先のボクセルに保持させ、移動元のボクセルからは代表点等を取り除く。移動先のボクセルが既に代表点を保持しているときには、2つの代表点において、これらの両誤差分布が重複するかを判断する(上述のST4における判断と同様)。その後の処理は、図11のST4以降の処理と同じであってよい。
(3)モデル点群上の代表点m(i)と対応付けが行われなかった距離計測センサによる計測点について、当該計測点が含まれるボクセルが代表点を持たない場合は、計測点とその誤差分布をそのボクセルの代表点と誤差分布として追加し保持する。もし、ボクセル内に既に代表点が存在する場合には、ボクセル内にある対応付けが行われなかった他の複数の計測点を含め、既存の代表点と各計測点とが全て異なるボクセルに含まれるように、ボクセルを分割した上で分割後のボクセルに代表点等を継承させる。
【0152】
上述のカルマンフィルタを用いたモデル更新ステップを繰り返すことで、序々にボクセル内の誤差共分散行列(即ち、誤差分布)の範囲が小さくなるとともに、ボクセルが分割され易くなる。ボクセルが分割されることによって、初期ボクセルのサイズ以下の変化も表現することが可能となる。
図18は、カルマンフィルタを用いたモデル更新ステップにより得られた結果を示す。図19は図18の一部拡大図である。これら図において、初期のボクセルの1辺の長さを100cmとし、再分割数を6分割まで許している。対象が存在している領域では、ボクセルの再分割を繰り返した結果、計測対象を精度良く表現している。対象が存在しない領域ではボクセルの再分割は行われず、必要十分なデータ量で環境を表現できることがわかる。また、各ボクセル内の代表点の誤差分布も小さく、環境地図を高精度で表現できている。このように、誤差を含むデータであってもカルマンフィルタの効果により、真値に収束した結果が得られる。さらに、この方法では計測データ数を増加させることによって標準偏差が小さくなり、精度のさらなる向上が期待できる。
【0153】
また、測定対象物の位置・姿勢は固定しているため、更新を測定対象物の位置・姿勢と独立して行うことができる。なお、距離計測センサによる計測点群と対応付けが行われたモデル点群上の代表点m(i)に対してのみ、上述のカルマンフィルタによる更新を行うことで、大幅な計算コストの削減が可能になる。
【0154】
計測点と環境地図(即ち、環境モデル)との対応付けについて補足説明をする。対応付けは次のように行える。
対象とする計測点jの誤差共分散行列ΣL(j)の範囲(例えば標準偏差の3倍の範囲)と交わる最上位のボクセルとそのボクセルに隣接している最上位のボクセルを求め、下層のボクセルも含めこれらのボクセル内に存在する代表点を対応点の候補とする。ボクセルが階層構造となっているため、この候補点の探索には計算コストはほとんどかからない。このとき、候補となる代表点がない場合には、対応点がないものとみなす。隣接するボクセルも候補に加える理由は、ボクセル内の代表点の位置によっては、誤差共分散行列の範囲が隣接するボクセルまではみ出すことがあるからである。
【0155】
また、上記出力ステップにおいて、前記ボクセル位置、代表点、および誤差分布のすべてを出力しなくてもよく、例えば、これらすべてが無くても3次元形状が把握できる場合や、これらのうち1つ又は2つが必要な場合などにおいては、前記ボクセル位置、代表点、および誤差分布の少なくともいずれかを3次元形状情報として出力してもよい。
【0156】
次いで前記蛍光静止画像5と3次元形状情報を重ね合わせて表示し(S45)、蛍光静止画像5から検査領域以外の画像を消去する(S46)。なお重合せS45は、ステップS46の後に行ってもよい。
【0157】
さらに、蛍光部分4aの3次元形状情報から蛍光部分4aの位置と大きさを算出する(S47)。
その後、被検体1をある特定の方向から見た状態で蛍光探傷評価を行う(S5)。
ある特定の方向のみから状態のみでも、蛍光静止画像5と3次元形状情報の重合せ(S45)や、検査領域以外の画像の消去(S46)、蛍光部分の位置と大きさの算出する(S47)、および蛍光探傷評価(S5)を行うことによって、3次元形状情報の精度が統計的にまだ十分高くない場合でも、被検体1が明らかに許容できない欠陥があると判断された場合は、図示しない別のラインに搬送し、目視検査などの、より詳細な検査を事前に受けることが可能となる。後述する全周のデータ処理S7、および全周の蛍光探傷評価S8をもって、欠陥の判断を行えば処理時間的に足る場合には、S4、S5のステップを省略することができる。
【0158】
旋回ステップS6では、被検体を所定の軸心を中心に旋回させる。
この旋回は、死角が発生しないように、数値制御又はその他の手段(リミットスイッチ等)により、任意に旋回角度(例えば、180度、90度、60度、30度等)を設定するのがよい。
【0159】
この旋回の後、上述したステップS1〜S5を繰り返し、死角ができないように、検査対象物の全面を検査する。各検査結果はすべて、記憶装置25に記憶し、全面を検査した後、全周のデータ処理ステップS7、全周の蛍光探傷評価ステップS8、形状照合処理ステップS9、および3次元形状評価ステップS10に移る。この繰り返し数は、少なくとも2回(旋回角度180度の場合)行うのがよい。
【0160】
全周のデータ処理ステップS7は、全周の3次元形状情報と蛍光部画像との重合せS71、検査領域以外の画像部分消去S72および蛍光部分の位置と大きさの算出S73の各ステップを有する。
なお、一方向のデータ処理ステップS4と全周のデータ処理ステップS7とを含めた概念をデータ処理ステップという。このデータ処理ステップでは、蛍光静止画像を画像処理して、蛍光部画像を抽出すると共に、3次元座標点群をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、蛍光部画像と3次元形状情報とを関連付ける。
【0161】
全周の3次元形状情報と蛍光部画像との重合せステップS71では、各方向から得られた蛍光部蓄積画像と、各方向の3次元座標点群から3次元形状統合処理によって形状精度を高めた3次元形状情報とを重合せることで、被検体1の蛍光部を画像表示装置26に3次元的に表示することができる。評価者も欠陥の判断を被検体1の3次元形状に重ねられた蛍光部を見ながら行うことができる。なお、3次元形状統合処理は、図7を参照して説明した処理であって、当該処理によって、各方向の3次元座標点群から形状精度を高めた被検体の全周にわたる3次元形状情報が得られる。
【0162】
検査領域以外の画像部分消去ステップS72、および蛍光部分の位置と大きさの算出ステップS73は、それぞれS46、S47と同様の処理を行うが、全周の蛍光部画像と3次元形状情報を利用して、3次元的に処理する点が異なる。3次元形状情報は、各方向からの3次元座標点群を統計的に統合しているため、形状精度が向上しており、一般にS73のステップで得た蛍光部分の位置と大きさの方が、S47のステップで得たものよりも精度が高い。
【0163】
全周の評価ステップS8では、全周のデータ処理ステップS7で得られた蛍光部画像、3次元形状データおよび蛍光部分の大きさを画像表示及びプリントアウトし、予め定めた閾値と比較して、被検体1の合否を判断する。この閾値との比較はデータ処理装置24が自動的に行ってもよく、この場合、閾値より小さいまたは大きい箇所を画像表示装置26に、3次元形状情報を利用して3次元的に表示させてもよい。
なお、この画像表示は、異なる位置から取得した画像の重合せ画像をそれぞれ別個に表示しても、複数の方向の画像を順次旋回させながら表示してもよい。3次元形状情報を利用して3次元的に表示しても良い。
この蛍光探傷検査の結果、欠陥候補があると判断された被検体は、図示しない別のラインに搬送され、目視検査などの、より詳細な検査を受ける。
【0164】
形状照合処理ステップS9は、3D−CADモデルの読込みS91、全周の3次元形状情報と3D−CADモデル照合S92、および形状差異部分の抽出S93の各ステップを有する。
【0165】
3D−CADモデルの読込みステップS91では、被検体1の3D−CADモデルデータを読み込み、3次元形状情報と比較できる形式、例えば、3次元座標点群、3角形パッチによる表面形状モデル、ボクセルモデルに変換する。
【0166】
全周の3次元形状情報と3D−CADモデル照合ステップS92では、S91で読み込んだ被検体1の3D−CADモデルデータと、S44の3次元形状統合処理で作成した全周の3次元形状情報とを照合し、両者の位置・姿勢の相対関係を求める。
【0167】
形状差異部分の抽出ステップS93では、S92で位置・姿勢を照合した際に、3D−CADモデルデータと全周の3次元形状情報との間で一致しない部分を、形状差異部分として抽出する。例えば、対応する部分の距離間隔がある一定のしきい値以上ある場合、差異があるものとして抽出する。
【0168】
3次元形状評価ステップS10では、抽出した前記形状差異部分の量やその程度に応じて、予め定めた判定基準に従って、形状の良否を判断する。これによって、蛍光探傷の検査と3次元形状検査が同時に行えるため、検査の効率化が図られる。
【0169】
図20は、本発明による蛍光探傷方法の模式図である。
この図に示すように、本発明の方法では、被検体1を所定の軸心Z(例えば鉛直軸)を中心に旋回させる旋回装置11(ターンテーブルや、吊り下げ運搬時のアームの回転機構など)を用いて、旋回させながら撮影を行うことで死角を減らす。また、撮影カメラ22と距離計測センサ23を用いて蛍光部分の位置と大きさを算出する。
【0170】
従って、死角の発生を防ぐことができ、検査対象物の全面検査が可能となる。また、欠陥の実寸法を正確に計測でき、検査精度が向上する。
【0171】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】被検体である動翼とベーンの模式図である。
【図2】本発明による蛍光探傷装置の全体構成図である。
【図3】非特許文献1に開示された三次元レーザレーダの構成図である。
【図4】距離計測センサで計測された極座標データと誤差の関係を示す図である。
【図5】本発明による蛍光探傷方法の全体フロー図である。
【図6】本発明におけるモフォロジ処理の説明図である。
【図7】3次元形状統合処理を示すフローチャートである。
【図8】モデル構築ステップの模式図である。
【図9】構築された環境モデルの模式図である。
【図10】本発明におけるボクセルデータのデータ構造を示す図である。
【図11】モデル更新ステップにおけるデータ処理フロー図である。
【図12】該当するボクセル内に既に設定した代表点がある場合の模式図である。
【図13】誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から新たな誤差分布と新たな誤差分布の中心を再設定した結果、新たな代表点が他のボクセル内へ移動する場合を示している。
【図14】誤差分布が互いに重複する場合の模式図である。
【図15】複数の計測位置を原点とする距離データを統合することによって、代表点の誤差分布が縮小し、代表点の精度が向上する様子を示す模式図である。
【図16】ボクセルの確率値の算出方法の模式図である。
【図17】誤差分布が互いに重複する場合のボクセルの確率値の算出方法の模式図である。
【図18】カルマンフィルタを用いたモデル更新ステップにより得られた結果を示す。
【図19】図18の一部拡大図である。
【図20】本発明による蛍光探傷方法の模式図である。
【図21】特許文献2の装置の模式図である。
【図22】特許文献4の装置の模式図である。
【図23】特許文献5の装置の模式図である。
【図24】特許文献6の装置の模式図である。
【図25】特許文献7の装置の模式図である。
【符号の説明】
【0173】
1 被検体(検査対象物)、2 近紫外線、
4 蛍光、4a 蛍光部分、5 蛍光静止画像、
6 可視静止画像、7 重合せ画像、8 3次元座標点群、
9 旋回位置(旋回角度情報)、10 蛍光探傷装置、11 旋回装置、
12 搬送装置、13 位置検出センサ、
14 暗室装置(暗幕、暗箱)、16 ブラックライト、
20 ロングパスフィルタ、22 撮影カメラ、23 距離計測センサ
24 データ処理装置(コンピュータ)、25 記憶装置、
26 画像表示装置、27 通信制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体を所定の検査位置に配置する配置ステップと、
暗室内で、前記蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波を、前記検査位置の被検体に照射して被検体を撮影し、蛍光静止画像を取得する蛍光静止画像撮影ステップと、
前記検査位置の被検体を3次元位置計測し、被検体表面の3次元座標点群を取得する3次元位置計測ステップと、
(A)前記蛍光静止画像を画像処理して、蛍光部分に相当する蛍光部画像を抽出すると共に、(B)前記3次元座標点群をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、(C)前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るデータ処理ステップと、を有することを特徴とする蛍光探傷用データ生成方法。
【請求項2】
被検体を複数の方向から3次元計測することで、該複数の方向の各々について、3次元座標点群を取得し、これら複数の3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光探傷方法。
【請求項3】
被検体を複数の方向から撮影することで、該複数の方向の各々について、前記蛍光部画像を取得し、これら複数の蛍光部画像から被検体の全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得て、該蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得る、ことを特徴とする請求項2に記載の蛍光探傷方法。
【請求項4】
前記3次元形状情報は、3次元座標点群の各点の位置情報、および、該各点の誤差情報を含む、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項5】
前記3次元形状統合処理は、
前記被検体を3次元位置計測して取得した3次元座標点群の各座標値を入力するデータ入力ステップと、
被検体の存在する空間領域を、境界表面が互いに直交する直方体からなる複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶する環境モデルを構築するモデル構築ステップと、
ボクセルの内部に前記座標値に対応する代表点とその誤差分布とを設定し記憶するマッチングステップと、
前記ボクセル位置、代表点および誤差分布の少なくともいずれかを3次元形状情報として出力する出力ステップとを有する、ことを特徴とする請求項2または3に記載の蛍光探傷方法。
【請求項6】
前記モデル構築ステップにおいて、最大のボクセルを必要最小限の分解能に相当する大きさに設定し、かつ単一のボクセル内に複数の被計測点が存在する場合に、単一のボクセル内に単一の被計測点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する、ことを特徴とする請求項5に記載の蛍光探傷方法。
【請求項7】
前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、原点と被計測点の間に物体が存在しないものとして、その間に位置するボクセル内の代表点と誤差分布を再設定もしくは消去する、ことを特徴とする請求項5または6に記載の蛍光探傷方法。
【請求項8】
前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、
該ボクセル内に代表点がない場合に、前記座標値と誤差分布を代表点の座標値と誤差分布として設定する、ことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項9】
前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、
前記ボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、新たに取得した誤差分布と既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、
誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、
誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する、ことを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項10】
ボクセルの内部に代表点とその誤差分布に加えて、確率値を併せ持つ、ことを特徴とする請求項5乃至9のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項11】
前記モデル更新ステップにおいて、前記新たに取得した誤差分布と前記既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から新たな誤差分布と新たな代表点を再設定した結果、新たな代表点が他のボクセル内へ移動したとき、該他のボクセル内に代表点がない場合に、該新たな誤差分布と該新たな代表点を該他のボクセルの内部に設定し、
該他のボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、該新たな誤差分布と既に設定した該他のボクセル内の誤差分布とを比較し、(A)誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、(B)誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する、ことを特徴とする請求項9に記載の蛍光探傷方法。
【請求項12】
前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、
該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値およびその誤差分布と、既に設定したボクセル内の代表点およびその誤差分布とから、カルマンフィルタにより新たな代表点と誤差分布を取得して再設定する、ことを特徴とする請求項5に記載の蛍光探傷方法。
【請求項13】
前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力するとともに、該計測値の信頼性または精度を示す指標を、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさに基づいて出力する、ことを特徴とする請求項5乃至12のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項14】
前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力するときに、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさが所定の基準値よりも大きい場合に、該計測値の信頼性または精度が所定の基準よりも低いとして、該ボクセルの前記計測値を出力しない、ことを特徴とする請求項5乃至13のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項15】
前記出力ステップにおいて、距離計測センサの位置から距離計測センサが位置計測可能な範囲の環境モデル内のボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力する、ことを特徴とする請求項5乃至14のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項16】
被検体の3D-CADモデルを読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合する、ことを特徴とする請求項2乃至15のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項17】
所定の検査位置に配置され蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体を囲み内部を蛍光を撮影可能な程度に低い照度下に維持する暗室装置と、
前記蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波を、検査位置の被検体に照射するブラックライトと、
前記電磁波照射時に蛍光発光した被検体を撮影し蛍光静止画像を取得する撮影カメラと、
前記検査位置の被検体を3次元位置計測して3次元座標点群を取得する距離計測センサと、
(A)前記蛍光静止画像を画像処理して、蛍光部分に相当する蛍光部画像を抽出すると共に、(B)前記3次元座標点群をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、(C)前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るデータ処理装置とを備えた、ことを特徴とする蛍光探傷装置。
【請求項18】
所定の検査位置において被検体を保持し所定の軸心を中心に旋回可能な旋回装置を備え、
距離計測センサは、被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を3次元位置計測して3次元座標点群を取得し、
前記データ処理装置は、複数の前記3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う、ことを特徴とする請求項17に記載の蛍光探傷装置。
【請求項19】
撮影カメラは、被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を撮影して前記蛍光部画像を取得し、
前記データ処理装置は、複数の前記蛍光部画像から被検体の全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得て、該蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得る、ことを特徴とする請求項18に記載の蛍光探傷装置。
【請求項20】
前記3次元形状情報は、3次元座標点群の各点の位置情報、および、該各点の誤差情報を含む、ことを特徴とする請求項17乃至19のいずれかに記載の蛍光探傷装置。
【請求項21】
前記データ処理装置は、
前記被検体を3次元位置計測して取得した3次元座標点群の各座標値を入力するデータ入力装置と、
被検体の存在する空間領域を、境界表面が互いに直交する直方体からなる複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶する環境モデルを構築するモデル構築装置と、
ボクセルの内部に前記座標値に対応する代表点とその誤差分布とを設定し記憶するマッチング装置と、
前記ボクセル位置、代表点および誤差分布の少なくともいずれかを3次元形状情報として出力するデータ伝達装置とを備える、ことを特徴とする請求項17に記載の蛍光探傷装置。
【請求項22】
前記データ処理装置は、
前記距離計測センサが複数の方向から被検体を3次元計測することで、該複数の方向の各々について取得された3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成し、
被検体の3D-CADモデルを読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合する、ことを特徴とする請求項17に記載の蛍光探傷装置。
【請求項1】
蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体を所定の検査位置に配置する配置ステップと、
暗室内で、前記蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波を、前記検査位置の被検体に照射して被検体を撮影し、蛍光静止画像を取得する蛍光静止画像撮影ステップと、
前記検査位置の被検体を3次元位置計測し、被検体表面の3次元座標点群を取得する3次元位置計測ステップと、
(A)前記蛍光静止画像を画像処理して、蛍光部分に相当する蛍光部画像を抽出すると共に、(B)前記3次元座標点群をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、(C)前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るデータ処理ステップと、を有することを特徴とする蛍光探傷用データ生成方法。
【請求項2】
被検体を複数の方向から3次元計測することで、該複数の方向の各々について、3次元座標点群を取得し、これら複数の3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光探傷方法。
【請求項3】
被検体を複数の方向から撮影することで、該複数の方向の各々について、前記蛍光部画像を取得し、これら複数の蛍光部画像から被検体の全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得て、該蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得る、ことを特徴とする請求項2に記載の蛍光探傷方法。
【請求項4】
前記3次元形状情報は、3次元座標点群の各点の位置情報、および、該各点の誤差情報を含む、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項5】
前記3次元形状統合処理は、
前記被検体を3次元位置計測して取得した3次元座標点群の各座標値を入力するデータ入力ステップと、
被検体の存在する空間領域を、境界表面が互いに直交する直方体からなる複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶する環境モデルを構築するモデル構築ステップと、
ボクセルの内部に前記座標値に対応する代表点とその誤差分布とを設定し記憶するマッチングステップと、
前記ボクセル位置、代表点および誤差分布の少なくともいずれかを3次元形状情報として出力する出力ステップとを有する、ことを特徴とする請求項2または3に記載の蛍光探傷方法。
【請求項6】
前記モデル構築ステップにおいて、最大のボクセルを必要最小限の分解能に相当する大きさに設定し、かつ単一のボクセル内に複数の被計測点が存在する場合に、単一のボクセル内に単一の被計測点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する、ことを特徴とする請求項5に記載の蛍光探傷方法。
【請求項7】
前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、原点と被計測点の間に物体が存在しないものとして、その間に位置するボクセル内の代表点と誤差分布を再設定もしくは消去する、ことを特徴とする請求項5または6に記載の蛍光探傷方法。
【請求項8】
前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、
該ボクセル内に代表点がない場合に、前記座標値と誤差分布を代表点の座標値と誤差分布として設定する、ことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項9】
前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値に対応するボクセルを探索し、
前記ボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、新たに取得した誤差分布と既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、
誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、
誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する、ことを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項10】
ボクセルの内部に代表点とその誤差分布に加えて、確率値を併せ持つ、ことを特徴とする請求項5乃至9のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項11】
前記モデル更新ステップにおいて、前記新たに取得した誤差分布と前記既に設定したボクセル内の誤差分布とを比較し、誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から新たな誤差分布と新たな代表点を再設定した結果、新たな代表点が他のボクセル内へ移動したとき、該他のボクセル内に代表点がない場合に、該新たな誤差分布と該新たな代表点を該他のボクセルの内部に設定し、
該他のボクセル内に既に設定した代表点がある場合に、該新たな誤差分布と既に設定した該他のボクセル内の誤差分布とを比較し、(A)誤差分布が互いに重複する場合に、両誤差分布から、または、両誤差分布とボクセル内に既に設定した代表点と新たに入力された被計測点の座標値から、新たな誤差分布と新たな代表点を再設定し、(B)誤差分布が互いに重複しない場合に、単一のボクセル内に単一の代表点のみが存在するように、該ボクセルを更に分割して階層的に複数のボクセルに分割する、ことを特徴とする請求項9に記載の蛍光探傷方法。
【請求項12】
前記マッチングステップの後に、前記環境モデルを更新するモデル更新ステップを有し、
該モデル更新ステップにおいて、新たに入力された被計測点の座標値およびその誤差分布と、既に設定したボクセル内の代表点およびその誤差分布とから、カルマンフィルタにより新たな代表点と誤差分布を取得して再設定する、ことを特徴とする請求項5に記載の蛍光探傷方法。
【請求項13】
前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力するとともに、該計測値の信頼性または精度を示す指標を、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさに基づいて出力する、ことを特徴とする請求項5乃至12のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項14】
前記出力ステップにおいて、前記ボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力装置に出力するときに、該ボクセルの内部の誤差分布の大きさが所定の基準値よりも大きい場合に、該計測値の信頼性または精度が所定の基準よりも低いとして、該ボクセルの前記計測値を出力しない、ことを特徴とする請求項5乃至13のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項15】
前記出力ステップにおいて、距離計測センサの位置から距離計測センサが位置計測可能な範囲の環境モデル内のボクセルの代表点の位置を三次元形状の計測値として出力する、ことを特徴とする請求項5乃至14のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項16】
被検体の3D-CADモデルを読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合する、ことを特徴とする請求項2乃至15のいずれかに記載の蛍光探傷方法。
【請求項17】
所定の検査位置に配置され蛍光剤又は蛍光磁粉を表面に浸透又は吸着させた被検体を囲み内部を蛍光を撮影可能な程度に低い照度下に維持する暗室装置と、
前記蛍光剤又は蛍光磁粉を蛍光発光させるための蛍光探傷用の電磁波を、検査位置の被検体に照射するブラックライトと、
前記電磁波照射時に蛍光発光した被検体を撮影し蛍光静止画像を取得する撮影カメラと、
前記検査位置の被検体を3次元位置計測して3次元座標点群を取得する距離計測センサと、
(A)前記蛍光静止画像を画像処理して、蛍光部分に相当する蛍光部画像を抽出すると共に、(B)前記3次元座標点群をデータ処理して、3次元形状情報を作成し、(C)前記蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得るデータ処理装置とを備えた、ことを特徴とする蛍光探傷装置。
【請求項18】
所定の検査位置において被検体を保持し所定の軸心を中心に旋回可能な旋回装置を備え、
距離計測センサは、被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を3次元位置計測して3次元座標点群を取得し、
前記データ処理装置は、複数の前記3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成する3次元形状統合処理を行う、ことを特徴とする請求項17に記載の蛍光探傷装置。
【請求項19】
撮影カメラは、被検体の複数の旋回位置の各々について、前記検査位置に対して固定された箇所から被検体を撮影して前記蛍光部画像を取得し、
前記データ処理装置は、複数の前記蛍光部画像から被検体の全周または全周の一部に関する蛍光部画像を得て、該蛍光部画像と前記3次元形状情報とを関連付けた蛍光探傷用データを得る、ことを特徴とする請求項18に記載の蛍光探傷装置。
【請求項20】
前記3次元形状情報は、3次元座標点群の各点の位置情報、および、該各点の誤差情報を含む、ことを特徴とする請求項17乃至19のいずれかに記載の蛍光探傷装置。
【請求項21】
前記データ処理装置は、
前記被検体を3次元位置計測して取得した3次元座標点群の各座標値を入力するデータ入力装置と、
被検体の存在する空間領域を、境界表面が互いに直交する直方体からなる複数のボクセルに分割し、各ボクセル位置を記憶する環境モデルを構築するモデル構築装置と、
ボクセルの内部に前記座標値に対応する代表点とその誤差分布とを設定し記憶するマッチング装置と、
前記ボクセル位置、代表点および誤差分布の少なくともいずれかを3次元形状情報として出力するデータ伝達装置とを備える、ことを特徴とする請求項17に記載の蛍光探傷装置。
【請求項22】
前記データ処理装置は、
前記距離計測センサが複数の方向から被検体を3次元計測することで、該複数の方向の各々について取得された3次元座標点群を統合して、被検体の全周または全周の一部の3次元形状情報を作成し、
被検体の3D-CADモデルを読み込み、該3D-CADモデルと、前記全周または全周の一部の3次元形状情報とを位置および姿勢に関して照合する、ことを特徴とする請求項17に記載の蛍光探傷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2008−309603(P2008−309603A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157100(P2007−157100)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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