説明

計測方法、ステージ移動特性の調整方法、露光方法及びデバイス製造方法

【課題】
走査型露光装置を用いる基板上のショット配列の精度を計測する計測方法において、より短時間でショットの配列精度を評価する計測方法を提供する。
【解決手段】
第1の露光においてウェハ上に転写されたショットA(i,j+1), A(i,j)と、そのウェハを90°回転させた第2の露光においてウェハ上に転写されたショットB(i,j), B(i+1,j)とを重畳させ、その重畳領域において、ショットA(i,j+1), B(i+1,j)に含まれる中実箱型マークとショットB(i,j)に含まれる中空箱型マークが重なり合い、ショットA(i,j)に含まれる中空箱型マークとショットB(i,j)に含まれる中実箱型マークが重なり合う。形成した重ね合わせマーク37〜42を、全ての重畳領域内のマークに関して計測し、これら重畳領域を形成する全てのショットの相対的な位置誤差および回転誤差を一括して演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス等のデバイスを製造する際に、原版と基板とを相対的に走査して、原版上のパターンを投影光学系を介して基板に投影する走査型露光装置を用いる基板上のショット配列の精度を計測する計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の素子を製造する際には、基板上に多層の回路パターンを重ねて転写するが、各層に要求される精度の違いから異なる露光装置を用いる場合があり、異なる露光装置間での重ね合わせ精度(マッチング精度)が要求される。
そこで、各露光装置で露光したときの基板内でのショットの配列精度を理想位置に近づけることによって、異なる露光装置間での重ね合わせ精度を向上させることができる。
このため、ショットの配列精度を評価する方法が必要になり、走査型露光装置においては、例えば、以下のようにしてショットの配列精度を評価していた。
図15に示されるように、スリット状の各ショットiが他の4つのショットj,k,l,mと一部重畳する領域を形成するように転写する。
その重畳領域においては、図16に示されるように、ショットiとショットjによって、重ね合わせマーク1、 2を形成し、ショットiとショットkによって、重ね合わせマーク3、4を形成する。
さらに、ショットiとショットlによって、重ね合わせマーク5,6を形成し、ショットiとショットmによって、重ね合わせマーク7,8を形成する。
そこで、重ね合わせマーク1〜8の相対位置を計測して得たデータから最小二乗法を用いて、各ショットi,j,k,l,mの位置誤差εx, εyと回転誤差εθを算出していた。
【特許文献1】特開2005-64268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献1記載の方法では、ショットi,j,k,l,mの大きさがスリット内に収まる必要があるため、ショットi,j,k,l,mの短辺方向に平行に並べるショット数が多くなり、露光およびマーク計測に時間が長くかかった。
そこで、本発明は、走査型露光装置を用いる基板上のショット配列の精度を計測する計測方法において、より短時間でショットの配列精度を評価する計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明の計測方法は、原版と基板とを相対的に走査して、前記原版上のパターンを投影光学系を介して前記基板に投影する露光装置を用いて、前記基板上のショット配列の精度を計測する計測方法において、前記原版に設けられた計測マークを前記基板の複数箇所に転写する第1工程と、第1工程を実行した後、前記基板を保持する基板ステージの移動によって、前記投影光学系の光軸に平行な軸を回転軸として前記基板を90°回転させる回転工程と、前記回転工程を実行した後、前記計測マークが前記第1工程における転写領域と重なるように、前記基板の複数箇所に前記計測マークを転写する第2工程と、前記第1工程における転写領域と前記第2工程における転写領域とが重なる領域内において、前記第1工程で転写された計測マークと前記第2工程で転写された計測マークと第1の重ね合わせマークの位置ずれを計測する第1計測工程と、前記第1計測工程の計測結果に基づいて、前記基板上のショットの位置誤差、回転誤差、及び、ショット配列の直交度の少なくとも1つを算出する算出工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、走査型露光装置を用いる基板上のショット配列の精度を計測する計測方法において、より短時間でショットの配列精度を評価する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、添付図面を参照して本発明に係る実施例について説明する。
図1(a),(b)を参照して、本発明の実施例の走査型露光装置および露光方法について説明する。
本実施例の走査型露光装置は、原版であるレチクル9と基板であるウェハ11とを相対的に走査して、レチクル9上のパターンを投影光学系である投影レンズ10を介してウェハ11に投影する露光装置である。所定のパターンが描画された原版であるレチクル9は、スリット状の細長い照射エリア18を有する。照明光学系22は、照射エリア18に照明光を与え、照射されたレチクル9の描画パターンの一部は投影光学系である投影レンズ10を介して、基板であるウェハ11上の転写領域60に転写される。基板ステージであるウェハステージ12は、ウェハ11を保持し、且つ、投影レンズ10の光軸と直交するxy平面上で移動可能に設けられる。レーザ干渉計15, 16, 17は、ウェハステージ12の位置と回転角度を計測する手段で、反射鏡13, 14は、ウェハステージ12に互いに直交するように固定され、レーザ干渉計15, 16, 17から照射されるレーザを反射する。
【0007】
更に、図1(b)に示されるように、マーク計測部23は、ウェハ11上に転写されたスリット状の細長いショットに含まれる重ね合わせマークを計測する手段である。
また、この露光装置には、ウェハステージ12の移動、照明光学系22による照明光の照射などの露光に関わる動作、さらに、レーザ干渉計15, 16, 17による計測値の演算処理などを行う露光制御部19が設けられている。露光制御部19には、演算処理部20と補正処理部21とを備え、演算処理部20は、マーク計測部23による重ね合わせマークの計測結果から、ウェハ11上に転写された全てのショットの位置誤差と回転誤差とを一括して演算する演算手段を有する。補正処理部21は、演算処理部20により演算された全てのショットの位置誤差と回転誤差とを適正な値に補正して露光制御部19による制御に反映させる補正手段を有する。
【0008】
次に、本実施例の基板上のショット配列の精度を計測する計測方法は、この走査型露光装置を用いて、基板上であるウェハ11上のショット配列の精度を計測する計測方法で、以下の工程から成る。
第1工程では、レチクル9に設けられた計測マークをウェハ11の複数箇所に転写する。
次に、回転工程では、第1工程を実行した後、ウェハ11を保持する基板ステージであるウェハステージ12の移動によって、投影レンズ10の光軸に平行な軸を回転軸としてウェハ11を90°回転させる。この回転により、第1の露光で転写した第1のショットと、第2の露光で転写した第2のショットが、投影レンズ10の光軸に直交する平面内において直角を形成する。
次に、第2工程では、回転工程を実行した後、前記計測マークが第1工程における転写領域と重なるように、ウェハ11の複数箇所に前記計測マークを転写する。
次に、第1計測工程では、第1工程における転写領域と第2工程における転写領域とが重なる領域内において、第1工程で転写された計測マークと第2工程で転写された計測マークと第1の重ね合わせマークの位置ずれを計測する。
次に、算出工程では、第1計測工程の計測結果に基づいて、ウェハ11上のショットの位置誤差、回転誤差、及び、ショット配列の直交度の少なくとも1つを算出する。
【0009】
さらに、本実施例の基板上のショット配列の精度を計測する計測方法は、この走査型露光装置を用いて、基板上であるウェハ11上のショット配列の精度を計測する計測方法で、以下の工程から成る。
前記第1の重ね合わせマークは、前記第1工程における転写領域の長辺に平行に並んだ第1の複数の長辺マークと、前記第2工程における転写領域の短辺に平行に並んだ第2の複数の短辺マークと、による重ね合わせる。
もしくは、前記第1工程における転写領域の短辺に平行に並んだ第1の複数の短辺マークと、前記第2工程における転写領域の長辺に平行に並んだ第2の複数の長辺マークと、による重ね合わせる。
【0010】
本実施例の露光装置により、レチクル9を一定の位置に静止したまま、図2に示されるようにレチクル9上の描画パターンに対応した細長いスリット状の照射エリア18のパターン像の第1のショット100が、ウェハ11上に複数転写される。この第1のショット100には、2つの長辺に平行に並んで、x方向に沿って等間隔で4箇所ずつ、第1の複数の長辺マークであるマーク24,25,26、27、さらに、マーク28,29,30,31が形成されている。マーク25, 26, 27, 31は、中空箱型マークで、マーク24, 28, 29, 30は中実箱型マークである。ここで、マーク24, 28間、25, 26間、27, 31間、29, 30間の距離h,hは全て同じである。
また、パターン像の中心(重心)位置(x軸とy軸の交点)からx方向に距離hの位置にマーク25, 26, 29, 30が、距離dの位置にマーク24, 27, 28, 31が配置されている。また、これらの8つのマーク24,25,26、27、28,29,30,31は、y方向に距離hの位置に4つずつ対称に配置されている。
パターン像を、第1の露光において、例えば、図3(a)に示されるショット配列のように、x方向にピッチ2(d+h)、y方向にピッチ2dで複数個の第1のショット100をウェハ11上に転写する。
上記工程においてパターン像が解像したウェハ11を、ウェハステージ12上の吸着固定台から一旦、取り外す。さらに、第1の露光時のウェハ11の固定状態に対して、投影光学系である投影レンズ10の光軸に平行な軸を回転軸として90°反時計回りに回転させた状態で再びウェハステージ12上の吸着固定台に装着する。この回転動作の結果、ウェハ11上に転写されたショットのパターン像のショット100は、図3(b)に破線で示した配列となる。
【0011】
次に、ウェハ11に対してグローバルアライメントを行った後、第2の露光において、図3(b)の実線で示されるように、x方向にピッチ2d、y方向にピッチ2(d+h)で第2のショット101をウェハ11上に転写する。その結果、第1の露光で転写した縦長の第1のショット100の上下部分が第2の露光で転写した横長の第2のショット101とで、第1の重ね合わせ領域を持つ配列となる。このショット配列において、第2の露光で転写された第2のショット32は、第2の露光で転写された第2のショット33, 35と左右の短辺において重畳領域を形成する。
さらに、第2のショット32は、第1の露光で転写された第1のショット34, 36の短辺と、上下の長辺の一部が重なる形で第1の重ね合わせ領域を形成している。また、第2の露光で転写された全てのショット101について、第2の露光で転写された少なくとも1つの隣接ショット101と、また、第1の露光で転写された少なくとも1つのショット100とで第1の重ね合わせ領域を形成している。
図4に示される第1のショットAと第2のショットBとの第1の重ね合わせマーク37,38,41,42は、以下の重ね合わせである。即ち、図2の第1のショット100の長辺に平行に並んだ第1の複数の長辺マーク24,25,26,27:28,29,30,31と、第2のショット101の短辺に平行に並んだ第2の複数の短辺マーク24,28:27,31と、による重ね合わせである。又は、第1のショット100の短辺に平行に並んだ第1の複数の短辺マーク24,28および27,31と、第2のショット101の長辺に平行に並んだ第2の複数の長辺マーク24,25,26,27:28,29,30,31と、による重ね合わせでもよい。マーク計測部23は、上記のように形成された重畳領域内の重ね合わせマークの相対距離を計測し、演算処理部20は、後述するようにウェハ上11に転写された全てのショット100,101の位置誤差と回転誤差とを一括して演算する。
【0012】
さらに、本実施例の基板上のショット配列の精度を計測する計測方法は、以下の工程を有する。
第2計測工程において、前記第1工程における転写領域同士もしくは第2工程における転写領域同士の重ね合わせ領域内において、第1工程もしくは第2工程で転写された計測マーク同士の第2の重ね合わせマークの位置ずれを計測する。
さらに、前記第1計測工程による結果と、第2計測工程による結果にも基づいて、ウェハ上11のショットの位置誤差、回転誤差、及び、ショット配列の直交度の少なくとも1つを算出する。
図3、図4に示されるように第1のショット同士、即ち、第1のショット100,100、A,Aが重なる第2の重ね合わせ領域内の第2の重ね合わせマーク37,38,39,40,41、42を計測し第2計測工程の結果を出す。もしくは、第2のショット同士、即ち、第2のショット101,101、B,Bが重なる第2の重ね合わせ領域内の第2の重ね合わせマーク37,38,39,40,41、42を計測し第2計測工程の結果を出す。さらに、前記第1計測工程の結果に加えて第2計測工程の結果にも基づいて、全ての第1のショットおよび前記第2のショットの位置誤差、回転誤差、ショット配列の直交度の少なくとも1つを算出する。
【0013】
さらに、第2の重ね合わせマークは、第1工程における転写領域の短辺に平行に並んだ第1の複数の短辺マークと、第1の複数の短辺マークに相対して前記短辺に平行に並んだ他の前記第1のショットの第1の複数の短辺マークと、による重ね合わせである。
もしくは、第2工程における転写領域の短辺に平行に並んだ第2の複数の短辺マークと、第2の複数の短辺マークに相対して短辺に平行に並んだ他の第2のショットの第2の複数の短辺マークと、による重ね合わせである。
図4に示される第2の重ね合わせマークの内、ショットB(i, j)に対して隣接するショットA(i, j+1)との間で重畳する第2の重ね合わせマークは、重ね合わせマーク37、 38、41、42である。この第2の重ね合わせマークは、図2の第1のショット100の短辺に平行に並んだ第1の複数の短辺マーク24,28:27,31と、第1の複数の短辺マーク24,28:27,31に相対して短辺に平行に並んだ他の第1のショット100の第1の複数の短辺マークと、による重ね合わせである。
または、図2の第2のショット101の短辺に平行に並んだ第2の複数の短辺マーク24,28:27,31と、第2の複数の短辺マーク24,28:27,31に相対して短辺に平行に並んだ他の第2のショット101の第2の複数の短辺マークと、による重ね合わせでもよい。
この第2の重ね合わせマーク37、38、41、42は、中空箱型マークの重心位置を基準とした中実箱型マークの重心位置(dx1(i, j), dy1(i,
j))、(dx2(i, j), dy2(i, j))、(dx3(i, j),
dy3(i, j))、(dx4(i, j), dy4(i, j))がx軸方向とy軸方向について計測される。
また、ショットB(i,
j)に隣接するショットB(i+1, j), A(i, j)との間で重畳する第2の重ね合わせマーク39、40から計測されたx軸方向とy軸方向の計測値を各々 (dx5(i,
j), dy5(i, j))、(dx6(i, j), dy6(i, j))と定義する。
このとき、ショットB(i, j), A(i, j+1), B(i+1, j), A(i, j)の全ての第1のショット、第2のショットの位置誤差と、z軸まわりの回転誤差を各々、以下のように定義する。
すなわち、(εx(i, j), εy(i, j), εθ(i, j)), (γx(i, j+1), γy(i, j+1), γθ(i, j+1)), (εx(i+1, j), εy(i+1, j), εθ(i+1, j)), (γx(i,
j), γy(i, j), γθ(i, j)) と定義する。また、レチクル9の投影像の歪み、あるいは、ステージ駆動スケールによって生じた各重ね合わせマーク毎に一定な固有の誤差を、δx1, δx2, δx3, δx4, δx5, δx6, δy1, δy2, δy3, δy4, δy5, δy6と定義する。
【0014】
更に、各々の第1および第2の重ね合わせマークを計測するときに生じる丸め誤差等の不規則な誤差をζx1(i, j), ζx2(i, j), ζx3(i, j), ζx4(i, j), ζx5(i, j), ζx6(i, j), ζy1(i, j), ζy2(i, j), ζy3(i, j), ζy4(i, j), ζy5(i, j), ζy6(i, j)と定義すれば、以下の(1)〜(12)式の関係が成立する。
【0015】
【数1−12】

上記式(1)〜(12)では、全ての重ね合わせマークが完備した縦長ショットの数がNaとする。
一方、横長ショットで、重ね合わせマークの形成に関わったショットの数がNbであったとすると、全ショット数はNa+Nbである。ショット毎にx方向とy方向、θ方向の3つが未知であるから、これに各重ね合わせマークに固有の誤差を加えると、未知数の数は3(Na+Nb)+12となる。
【0016】
一方、方程式の数は、次のように求められる。
縦長ショットと横長ショットの重ね合わせによる重ね合わせマークの数は、4Naである。また、横長ショットの配列の行数をRbとすると、横長ショット同士の隣接による重ね合わせによる重ね合わせマークの数は、2(Nb―Rb)となる。各重ね合わせマークにx, y方向の計測値が得られるので、重ね合わせマークの計測値の数は、8Na+4(Nb―Rb)となる。重ね合わせマークの計測値1つにつき1つの方程式が成り立つので、全ての計測値に関連した方程式の数は、8Na+4(Nb―Rb)である。
ここで、上記のすべての未知数を、上記の方程式を使って求解しようとすると、不定な連立方程式になって求解できない。このため、縦長ショットの位置誤差γx(i, j) ,γy(i, j) と回転誤差γθ(i, j)の平均値とx, y各方向の配列傾き、配列のスケール誤差、また横長ショットの位置誤差εx(i, j) ,εy(i, j) と回転誤差εθ(i, j)の平均値を一定値に定める必要がある。
そこで、以下の式(13)〜(22)の10個の方程式を加える。
【0017】
【数13−22】

式(13)は、縦長ショットの全体のx方向のシフト量を0と定義する。
式(14)は、縦長ショットの全体のy方向のシフト量を0と定義する。
式(15)は、縦長ショットの全体の回転誤差を0と定義する。
式(16)は、縦長ショットの全体のx方向の倍率を0と定義する。
式(17)は、縦長ショットの全体のy方向の倍率を0と定義する。
式(18)は、縦長ショットの全体のx軸に対する配列の傾きを0と定義する。
式(19)は、縦長ショットの全体のy軸に対する配列の傾きを0と定義する。
式(20)は、横長ショットの全体のx方向のシフト量を0と定義する。
式(21)は、横長ショットの全体のy方向のシフト量を0と定義する。
式(22)は、横長ショットの全体の回転誤差を0と定義すること。
但し、Σは、縦長ショット、横長ショットのそれぞれにおいて、配列を求めようとするすべてのショットの行列番号(i, j)についての総和である。
また、Xγ(i, j)とYγ(i, j)は、ショットA(i, j)の中心のウェハ11の座標位置を示し、第1の露光で転写された全てのショット100の総和が零になるよう調整されたものである。
【0018】
この結果、式(1)〜(22)で表される方程式の数は、8Na+4(Nb―Rb)+10個となる。また、上記したように、この連立方程式における未知数は全部で3(Na+Nb)+12個存在する。ここで、3(Na+Nb)+12個の全ての未知数で構成される、行数3(Na+Nb)+12の列ベクトルをuとする。
さらに、式(13)〜(22)の右辺を含めた8Na+4(Nb-Rb)+10個の既知の数で構成される、行数8Na+4(Nb―Rb)+10の列ベクトルをdとすると、求解するための連立方程式は、行列Mを用いて、式(23)のように表すこととなる。
d=Mu ・・・(23)
ここで、行列Mは、行数8Na+4(Nb―Rb)+10,列数3(Na+Nb)+12の行列である。
【0019】
式(24, (25)が同時に成り立つときは、ζx1(i, j)等の不規則な誤差を全て零として、未知数を一意的に求めることができる。
rank(M)=rank(M,d)・・・(24)
rank(M)=3(Na+Nb)+1・・・(25)
式(26, (27)が同時に成り立つときは最小二乗法を用いることにより、ζx1(i, j)等の不規則な誤差の二乗和が最小となるように、未知数を求解することができる。
rank(M)<rank(M,d) ・・・(26)
rank(M)=3(Na+Nb)+12・・・(27)
但し、式(24)〜(26)において、rank(M)は行列Mの階数を意味し、式(24), (26)において、行列(M, d)は拡大係数行列を意味するものとする。
演算処理部20において、以上のようにして数学的な演算手段を用いて一括した演算処理を行うことにより、ウェハ11上に転写された全てのショット100,101の相対的な位置誤差と回転誤差が算出できる。
【0020】
次に、図5に示されるように以下の方向を定義する。
縦長ショットの配列方向43は、ウェハ11において、第1の露光時にウェハステージ12が、x方向に駆動することによって形成する方向である。縦長ショットの配列方向44は、ウェハステージ12が、y方向に駆動することによって形成する方向である。
横長ショットの配列方向45は、第2の露光時にウェハステージ12が、x方向に駆動することによって形成する方向である。横長ショットの配列方向46は、ウェハステージ12が、y方向に駆動することによって形成する方向である。第2の露光で転写された各ショット101について、そのショット101のウェハ座標(Xε(i,j),Yγ(i,j))を定義すると、Xε(i,j)と前記のy方向の位置誤差εy(i,
j)を用いて回帰直線を求めることで、直線44と直線45の相対角度Wθxが求められる。
同様にして、Yγ(i,j)と前記のy方向の位置誤差εy(i, j)を用いて、直線43と直線46の相対角度Wθyが求められる。
【0021】
また、ウェハ11において縦長ショットが形成するショット配列の直交度Wθ1と横長ショットが形成するショット配列の直交度Wθ2を定義すると、式(28)が成立する。
Wθ1= Wθ2−Wθy+Wθx ・・・(28)
第1の露光時と第2の露光時で、ウェハステージ12のx方向,y方向の駆動方向は変わらないことから、式(29)が成立する。
Wθ1+Wθ2=π・・・ (29)
式(28),(29)を連立させることにより、式(26)のように、Wθ2が求まる。
Wθ2= 1/2(Wθy−Wθx+π)・・・(30)
以上のような演算処理を行うことにより、演算処理部20ではステージのx方向の移動方向とy方向の移動方向のなす角度のずれ、すなわちショット配列の直交度を求めることができる。
この結果を踏まえて計算すると、既述のショットの位置誤差は、ショット配列の直交度の情報を含んだものにすることができる。補正処理部21ではこの演算処理部20により演算された全てのショットの位置誤差と回転誤差を、後述の方法のように適正な値に補正して露光制御部19による制御、例えばウェハステージ12の移動制御(位置補正)に反映させる。
上記工程で得られたショットの位置誤差と回転誤差は、ウェハステージ12の駆動位置に対応して離散的な計測値であるが、ウェハステージ12の移動制御に反映させるためには、ウェハステージ12の駆動位置に対して連続的な補正値を作成しなければならない。
【0022】
次に、本実施例のステージ移動特性の調整方法は、前記計測方法による計測結果に基づいてウェハ11を保持するウェハステージ12の移動特性を補正する。
ここで、連続的な補正値の作成方法について説明する。
干渉計16, 17の光軸の平行度に誤差があると、ウェハステージ12がx軸方向に駆動する際、x軸の駆動距離に比例してz軸回りの姿勢(回転角度)が変化する。また、反射鏡13, 14の鏡面の直交度に誤差があると、ウェハステージ12は反射鏡13, 14の鏡面と平行に駆動するので、駆動軸の直交度において、前記誤差と同量の誤差が生じる。前記の回転角度の誤差および直交度の誤差は、原理上、ウェハステージ12の駆動位置に対して線形的なものであるから、ウェハステージ12の駆動位置に応じて線形的かつ連続的な補正値を作成する。また、反射鏡13, 14の鏡面の平坦度によって、ウェハステージ12がx軸,y軸方向に駆動する際、駆動軸の直線性において、それぞれの反射鏡の平坦度と同量の誤差が生じる。この理由に起因するx軸の直線性はいずれのy座標においても共通であり、同様にy軸の直線性はいずれのx座標においても共通である。従って、x軸の直線性は、全てのy座標におけるy方向位置ずれの値を平均化し、y軸の直線性は全てのx座標におけるx方向位置ずれの値を平均化することによって算出できる。このようにして算出した、反射鏡13, 14の平坦度に由来するx軸とy軸の直線性は、位置誤差に関する離散的なデータ系列である。しかし、データが無い範囲については、連続した2点の計測値を直線で結び、あるいは、複数点の計測値を曲線近似などして、連続的な補正値を算出できる。
【0023】
上記の線形的な回転誤差,直交度の誤差,ウェハステージ12のy座標(或いはx座標)に共通なx軸(或いはy軸)の直線性は、それぞれ、干渉計16, 17の平行度,反射鏡13, 14の直交度,反射鏡13, 14の平坦度に起因する。このため、前記構成部品の取付精度や加工精度が本実施例の計測精度以上のものでない限り、補正が必要となる。前記原因以外にも、ショットの位置誤差もしくは回転誤差に影響を及ぼす場合がある。即ち、干渉計16, 17のxy平面内での平行度、反射鏡13, 14の直交度と平坦度、反射鏡13, 14とウェハ11上の露光位置との相対距離関係が、何らかの原因により、ウェハステージ12の駆動位置に相関して変化する場合である。このような場合でも、本実施例の計測結果を考慮しながら補正をすることができ、ショットの位置誤差や回転誤差が、x座標とy座標の双方に相関して変化するようなときは、平面近似を用いることにより、連続的な補正値を算出できる。
【0024】
上述の一連の流れは、露光後の現像工程を不要としてパターン像を自動生成する、いわゆる、潜像レジストをウェハ11に用いることで、第1の露光から補正値の反映までの一連の動作を、ソフトウエア制御による自動化によって行う。なお、このレジストとしては、ジアゾナフトキノン、ノボラック系樹脂等の溶解阻害剤から成るレジスト、ノボラック系樹脂、ポリビニールフェノール系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂等と、光酸発生剤から成る化学増幅型レジスト等を用いることができる。
以上説明したように本実施例によれば、ショットの位置誤差と回転誤差を短時間に計測できる。また、上記の計測結果に基づいてウェハステージ12の位置に応じた適切なるウェハステージ12の直線性と回転誤差の補正を行い、マッチング精度を高める調整を短時間で実現でき、半導体デバイスを製造する所要時間は、より短くなる。
【0025】
次に、図6、図7、図8を参照して、本発明に係る実施例2を説明する。
本実施例2は、図2に示されるパターン像のショット100に対して、図6に示されるマーク47、48、49、50のようにマーク配置場所は変えずに中空箱型マークと中実箱型マークの種類を変更したパターン像のショット102を用いる。さらに、図7及び図8に示されるように第1の露光および第2の露光の両者において、x方向およびy方向のショット102,103の配置のステップ幅を共に2dとした。この場合、図7に示されるように第2の露光で転写されたショット51は、第1の露光で転写されたショット52と交差する形で重畳領域を形成し、第1の露光で転写されたショット52, 53は互いに短辺同士で重畳領域を形成している。これは、第1の露光および第2の露光いずれにおいてもショット102,103のx方向及びy方向のステップ幅が2dである。このため、求めたいショット配列のステップ幅がx方向およびy方向共に同じ一定値にする場合、そのステップ幅で2回分のデータが得られるため、より正確な計測と補正を行うことができる。
なお、第1の露光と第2の露光で、ステップ幅のみならず、ショット102,103のレイアウトを全く同じにできるので、特定のショットレイアウトにおけるショット配列を求めたいときに、より正確な計測と補正が期待できる。
【0026】
次に、図9、図10、図11を参照して、本発明の実施例3を説明する。
本実施例3は、図2に示されるのパターン像のショット100に対して、図9に示されるように、パターン像のショット104の中心位置からx方向に距離(d−h)の位置にマーク54、55、56、57を追加する。さらに、図10及び図11に示されるように、第1の露光において転写したマーク104と、第2の露光において転写したマーク105が重なるように配置する。即ち、第1の露光および第2の露光の両者において、x方向およびy方向のショット104、105の配置のステップ幅を共に2dとする。この場合もまた、第1の露光・第2の露光いずれにおいてもショット104、105のx方向及びy方向のステップ幅が2dである。このため、求めたいショット配列のステップ幅がx方向およびy方向共に同じ一定値にする場合、そのステップ幅で2回分のデータが得られるため、より正確な計測と補正を行うことができる。
更に、実施例2の場合に比べ、ショット数や計測マークの数が減少するので、露光および計測に要する時間の短縮をすることができる。
【0027】
次に、図6、図12、図13を参照して、本発明の実施例4を説明する。
本実施例4は、図6に示されるパターン像のショット102を用いて、図12及び図13に示されるように、第2の露光において、ショット102の長辺方向の並びの位相をずらす。さらに、第1の露光で転写されたショット102同士の重畳領域や、第2の露光で転写されたショット102同士の重畳領域を形成しない場合である。この場合は、ショット102の長辺方向において、ショット102が配置されている座標の密度が高まるため、高密度のショット配列で計測したいときに有用である。
【0028】
次に、図14を参照して、本発明の実施例5を説明する。
本実施例5は、図2に示されるパターン像のショット100に対して、図14に示されるように、ショット106において重畳領域に形成するマークの数を増加した場合、すなわち、マーク106a,106bを増加した場合である。本実施例5によれば、第1及び第1の重ね合わせマークを計測する時の誤差である、ζx1(i, j), ζx2(i, j), ζx3(i, j), ζx4(i, j), ζx5(i, j), ζx6(i, j), ζy1(i, j), ζy2(i, j), ζy3(i, j), ζy4(i, j), ζy5(i, j), ζy6(i, j)の影響を小さくし、推定精度を高める。
【0029】
(デバイス製造方法の実施例)
デバイス(半導体集積回路素子、液晶表示素子等)は、前述のいずれかの実施例の露光装置を使用して、感光剤を塗布した基板(ウェハ、ガラスプレート等)を露光する工程と、その基板を現像する工程と、他の周知の工程と、を経ることにより製造される。他の周知の工程には、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等を含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る実施例の走査型露光装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係る実施例1で用いられるレチクルパターンの説明図である。
【図3】本発明に係る実施例1のショットの全体配置図である。
【図4】本発明に係る実施例1のショット配置の部分拡大図である。
【図5】本発明に係る実施例1でショット配列の直交度を求める際の概念図である。
【図6】本発明に係る実施例2で用いられるレチクルパターンの説明図である。
【図7】本発明に係る実施例2のショット配置の部分拡大図である。
【図8】本発明に係る実施例2のショットの全体配置図である。
【図9】本発明に係る実施例3で用いるレチクルパターンの説明図である。
【図10】本発明に係る実施例3のショット配置の部分拡大図である。
【図11】本発明に係る実施例3のショットの全体配置図である。
【図12】本発明に係る実施例4のショット配置の部分拡大図である。
【図13】本発明に係る実施例4のショットの全体配置図である。
【図14】本発明に係る実施例5で用いるレチクルパターンの説明図である。
【図15】ショットの位置誤差と回転を計測する従来例のショットの全体配置図である。
【図16】ショットの位置誤差と回転を計測する従来例のショットの配置の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0031】
1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8 重畳した重ね合わせマーク
9 レチクル(原版) 10 投影レンズ(投影光学系)
11 ウェハ(基板) 12 ウェハステージ(基板ステージ)
13 レーザ干渉計反射鏡 14 レーザ干渉計反射鏡
15, 16, 17 レーザ干渉計 18 レチクル上の照射領域
19 露光制御部 20 演算処理部(演算手段)
21 補正処理部(補正手段) 22 照明光学系
23 マーク計測部(計測手段) 24, 28, 29, 30 中実箱型マーク
25, 26, 27, 31 中空箱型マーク
32 第2の露光で転写された、任意のショット
33, 34, 35, 36 第2の露光で転写されたショットと一部で重畳するショット
37, 38, 39, 40, 41, 42 重畳した重ね合わせマーク
43 第1の露光時にウェハステージがx方向に駆動することによって形成する、縦長ショットの配列方向
44 第1の露光時にウェハステージがy方向に駆動することによって形成する、縦長ショットの配列方向
45 第2の露光時にウェハステージがx方向に駆動することによって形成する、横長ショットの配列方向
46 第2の露光時にウェハステージがy方向に駆動することによって形成する、横長ショットの配列方向
47, 48, 49, 50 種類を変更した重ね合わせマーク
51 第2の露光で転写された任意のショット
52 第2の露光で転写されたショットと重畳領域を形成する、第1の露光で転写されたショット
53 第1の露光で転写されたショットと短辺同士で重畳領域を形成する、第1の露光で転写されたショット
54, 55, 56, 57 追加した重ね合わせマーク
60 ウェハ上の転写領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原版と基板とを相対的に走査して、前記原版上のパターンを投影光学系を介して前記基板に投影する露光装置を用いて、前記基板上のショット配列の精度を計測する計測方法において、
前記原版に設けられた計測マークを前記基板の複数箇所に転写する第1工程と、
第1工程を実行した後、前記基板を保持する基板ステージの移動によって、前記投影光学系の光軸に平行な軸を回転軸として前記基板を90°回転させる回転工程と、
前記回転工程を実行した後、前記計測マークが前記第1工程における転写領域と重なるように、前記基板の複数箇所に前記計測マークを転写する第2工程と、
前記第1工程における転写領域と前記第2工程における転写領域とが重なる領域内において、前記第1工程で転写された計測マークと前記第2工程で転写された計測マークと第1の重ね合わせマークの位置ずれを計測する第1計測工程と、
前記第1計測工程の計測結果に基づいて、前記基板上のショットの位置誤差、回転誤差、及び、ショット配列の直交度の少なくとも1つを算出する算出工程と、を有することを特徴とする計測方法。
【請求項2】
前記第1工程における転写領域同士もしくは前記第2工程における転写領域同士の重ね合わせ領域内において、前記第1工程もしくは前記第2工程で転写された計測マーク同士の第2の重ね合わせマークの位置ずれを計測する第2計測工程を有し、
前記第1計測工程による結果と、前記第2計測工程による結果にも基づいて、前記基板上のショットの位置誤差、回転誤差、及び、ショット配列の直交度の少なくとも1つを算出することを特徴とする請求項1記載の計測方法。
【請求項3】
前記第1の重ね合わせマークは、前記第1工程における転写領域の長辺に平行に並んだ第1の複数の長辺マークと、前記第2工程における転写領域の短辺に平行に並んだ第2の複数の短辺マークと、による重ね合わせ、もしくは、
前記第1工程における転写領域の短辺に平行に並んだ第1の複数の短辺マークと、前記第2工程における転写領域の長辺に平行に並んだ第2の複数の長辺マークと、による重ね合わせの内、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の計測方法。
【請求項4】
前記第2の重ね合わせマークは、前記第1工程における転写領域の短辺に平行に並んだ前記第1の複数の短辺マークと、前記第1の複数の短辺マークに相対して前記短辺に平行に並んだ他の前記第1のショットの第1の複数の短辺マークと、による重ね合わせ、もしくは、
前記第2工程における転写領域の短辺に平行に並んだ第2の複数の短辺マークと、前記第2の複数の短辺マークに相対して前記短辺に平行に並んだ他の前記第2のショットの第2の複数の短辺マークと、による重ね合わせの内、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2または3に記載の計測方法。
【請求項5】
露光後の現像工程を不要とするレジストを前記基板に用いることを特徴とする請求項1に記載の計測方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の計測方法による計測結果に基づいて前記基板を保持する基板ステージの移動特性を補正することを特徴とするステージ移動特性の調整方法。
【請求項7】
請求項6に記載のステージ移動特性の調整方法を用いて移動特性が調整された前記ステージを用いて、
前記ステージに保持された前記基板を露光することを特徴とする露光方法。
【請求項8】
請求項7に記載の露光方法を用いて基板を露光する工程と、
前記基板を現像する工程と、
該現像された基板を用いて、デバイスを形成する工程と、を備えることを特徴とするデバイス製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−259966(P2009−259966A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105837(P2008−105837)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】