説明

車両の制御装置

【課題】車体のロール状態を制御する際に、要求される車両の走行状態を維持しつつ、制御のために出力されるトルクが不足してしまうことを回避して、車体のロール状態を適切に制御できる制御装置を提供する。
【解決手段】車輪に付与する駆動トルクおよび制動トルクを算出する制駆動力算出手段と、算出された駆動トルクおよび制動トルクを出力する制駆動力出力手段と、車体のロールを検出するロール検出手段と、車体のロール状態に基づいて駆動トルクおよび制動トルクを配分して出力することでロール状態を制御するロール制御手段とを備えた車両の制御装置において、ロール制御手段によるロール状態の制御が実行される場合に、車輪に付与するトルクが制駆動力出力手段の最大出力トルク以下となるように駆動トルクおよび制動トルクを制御する制駆動力制御手段(ステップS5〜S12)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の車輪に付与するトルクを独立して制御することにより車両の挙動を制御する車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の一形態として、車輪にモータを組み込み、車輪をモータで直接駆動する、いわゆるインホイールモータ方式の車両が開発されている。このインホイールモータ方式の電気自動車の利点として、各車輪(駆動輪)に組み込んだモータを個別に回転制御すること、すなわち各モータを個別に力行制御もしくは回生制御することにより、各駆動輪に付与するの駆動力もしくは制動力を個別に制御して、車両の駆動力および制動力を走行状態に応じて適宜に制御することができる点、また、従来のエンジンやトランスミッションなどのドライブトレーンを排除することにより、車両の室内やトランクルームなどの空間を広くできる点などが挙げられる。
【0003】
そのうち、各車輪に付与する駆動トルクもしくは制動トルクを個別に制御できる点を利用して、左右それぞれの前輪と後輪との間の駆動トルク(もしくは制動トルク)の大きさに差を設けることにより、車体に上下方向の力を生じさせて、旋回時などに生じる車体のロールを抑制する車両駆動力制御装置が、本出願人により提案されている(特願2004−126040号参照)。
【0004】
この提案によるインホイールモータ方式の車両における車体のロールを抑制するロール制御では、車体にロールが生じた際に、車体が沈み込む側の後輪に作用する駆動トルクから前輪に作用する駆動トルクを差し引いた偏差が大きくなるように、前記前後輪に付与する駆動トルクもしくは制動トルクを制御することにより、ロール時に車体が沈み込む側に、車体を持ち上げようとする力を発生させ、また、ロール時に車体が浮き上がる側の後輪に作用する駆動トルクから前輪に作用する駆動トルクを差し引いた偏差が小さくなるように前記前後輪に付与する駆動トルクもしくは制動トルクを制御することにより、ロール時に車体が浮き上がる側に、車体を押し下げようとする力を発生させて、車体のロールが抑制される。
【0005】
具体的には、上記のロール制御が行われる車両は、図4に示すように、各車輪1,2,3,4を車体Boに支持する各サスペンション(図示せず)の車両側面視における各瞬間回転中心C1,C2,C3,C4が、常に車両前後方向における前輪1,2と後輪3,4との間に位置するように構成されている。そして、図4の(a)に示すように、車両Veの進行方向に対して、車両Veを減速もしくは制動する方向の力F2tを前輪2の接地点2aに作用させることのできるトルク(この場合は制動トルク)が前輪2に付与されると、前輪2のサスペンションの瞬間回転中心C2には、鉛直方向上向き(図4の(a)での上方向)の分力F2svを有するF2sが作用する。言い換えると、車体Boには、車輪2のサスペンションを介して車体Boを持ち上げる方向、すなわちロール時の車体Boの沈み込みを抑える方向(図4の(a)での上方向)の力F2svが作用する。同様に、車両Veの進行方向に対して、車両Veを加速する方向の力F4tを後輪4の接地点4aに作用させることのできるトルク(この場合は駆動トルク)が後輪4に付与されると、後輪4のサスペンションの瞬間回転中心C4には、鉛直方向上向きの分力F4svを有するF4sが作用する。言い換えると、車体Boには、車輪4のサスペンションを介して車体Boを持ち上げる方向、すなわちロール時の車体Boの沈み込みを抑える方向の力F4svが作用する。
【0006】
また、図4の(b)に示すように、車両Veの進行方向に対して、車両Veを加速する方向の力F1tを前輪1の接地点1aに作用させることのできるトルク(この場合は駆動トルク)が前輪1に付与されると、前輪1のサスペンションの瞬間回転中心C1には、鉛直方向下向き(図4の(b)での下方向)の分力F1svを有するF1sが作用する。言い換えると、車体Boには、車輪1のサスペンションを介して車体Boを押し下げる方向、すなわちロール時の車体Boの浮き上がりを抑える方向(図4の(b)での下方向)の力F1svが作用する。同様に、車両Veの進行方向に対して、車両Veを減速もしくは制動する方向の力F3tを後輪3の接地点3aに作用させることのできるトルク(この場合は制動トルク)が後輪3に付与されると、後輪3のサスペンションの瞬間回転中心C3には、鉛直方向下向きの分力F3svを有するF3sが作用する。言い換えると、車体Boには、車輪3のサスペンションを介して車体Boを押し下げる方向、すなわちロール時の車体Boの浮き上がりを抑える方向の力F3svが作用する。
【0007】
したがって、上記のように構成された車両の車体Boにロールが生じた際に、車体Boが沈み込む側の前後輪に、上記の図4の(a)に示す状態の駆動トルクもしくは制動トルクを作用させることによって、すなわち、図4の(a)に示す側がロール時に車体Boが沈み込む側である場合に、前輪2のサスペンションの瞬間回転中心C2にF2sが作用するように前輪2のインホイールモータを制御すること、もしくは後輪4のサスペンションの瞬間回転中心C4にF4sが作用するように後輪4のインホイールモータを制御すること、もしくは前輪2のサスペンションの瞬間回転中心C2にF2sが作用し、後輪4のサスペンションの瞬間回転中心C4にF4sが作用するように前後輪2,4のインホイールモータをそれぞれ制御すること、言い換えると、後輪4に付与されるトルクから前輪2に付与されるトルクを差し引いた偏差が大きくなるように前後輪2,4のインホイールモータをそれぞれ制御することによって、車体Boに車体Boを持ち上げる方向、すなわちロール時の車体Boの沈み込みを抑える方向の力Fu(F2svもしくはF4sv、あるいはF2svとF4svとの合力)を生じさせることができる。
【0008】
一方、車体Boが浮き上がる側の前後輪に、上記の図4の(b)に示す状態の駆動トルクもしくは制動トルクを作用させることによって、すなわち、図4の(b)に示す側がロール時に車体Boが沈み込む側である場合に、前輪1のサスペンションの瞬間回転中心C1にF1sが作用するように前輪1のインホイールモータを制御すること、もしくは後輪3のサスペンションの瞬間回転中心C3にF3sが作用するように後輪3のインホイールモータを制御すること、もしくは前輪1のサスペンションの瞬間回転中心C1にF1sが作用し、後輪3のサスペンションの瞬間回転中心C3にF3sが作用するように前後輪1,3のインホイールモータをそれぞれ制御すること、言い換えると、後輪3に付与されるトルクから前輪1に付与されるトルクを差し引いた偏差が小さくなるように前後輪1,3のインホイールモータをそれぞれ制御することによって、車体Boに車体Boを押し下げる方向、すなわちロール時の車体Boの浮き上がりを抑える方向の力Fd(F1svもしくはF3sv、あるいはF1svとF3svとの合力)を生じさせることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように構成されたインホイールモータ方式の車両における制御装置によれば、車体のロール時に車体が沈み込む側に、車体を持ち上げようとする力、すなわちロール時の車体の沈み込みを抑えようとする力を発生させ、また、車体のロール時に車体が浮き上がる側に、車体を押し下げようとする力、すなわちロール時の車体の浮き上がりを抑えようとする力を発生させるように各車輪に付与する駆動トルクもしくは制動トルクを制御することによって、車体のロールを抑制することができる。
【0010】
しかしながら、車両の旋回時における車体のロールを抑制する場合、各車輪のインホイールモータは、走行のための駆動トルクもしくは制動トルクを出力するとともに、ロールを抑制するための駆動トルクもしくは制動トルクを出力することになる。例えば前進走行で旋回する際の旋回内輪側前輪のインホイールモータ、および旋回外輪側後輪のインホイールモータは、走行のための駆動トルクとロール抑制のための駆動トルクとの両方を出力することになる。そのため、それら旋回内輪側前輪および旋回外輪側後輪のインホイールモータにおいては、最大出力以上のモータ出力が要求される場合、すなわちモータ出力が飽和してしまう場合がある。その結果、所望するロール抑制のための駆動トルクを出力することができなくなり、上記のようなロール抑制制御を適正に実行できなくなってしまう場合があった。
【0011】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、各車輪に付与するトルクを個別に制御して車体のロール状態を制御する際に、要求される駆動力もしくは制動力に基づいた車両の走行状態を維持しつつ、ロール状態の制御のために出力されるトルクが不足してしまうことを回避して、車体のロール状態を適切に制御することのできる車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、少なくとも前後輪を独立して車体に支持するサスペンション機構と、車両の駆動力および制動力を得るために各車輪に付与する駆動トルクおよび制動トルクを算出する制駆動力算出手段と、前記制駆動力算出手段により算出された前記駆動トルクおよび制動トルクを出力する制駆動力出力手段と、前記車体のロールを検出するロール検出手段と、前記ロール検出手段により前記ロールが検出された場合に、そのロール状態に基づいて前記駆動トルクおよび制動トルクを前記制駆動力算出手段により算出して前記制駆動力出力手段により配分して出力することで前記ロール状態を制御するロール制御手段とを備えた車両の制御装置において、前記ロール制御手段による前記ロール状態の制御が実行される場合に、前記車輪に付与するトルクが前記制駆動力出力手段の最大出力トルク以下となるように前記駆動トルクおよび制動トルクを制御する制駆動力制御手段を備えていることを特徴とする制御装置である。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記制駆動力制御手段が、前記ロール制御手段による前記ロール状態の制御が実行される場合に、前記制駆動力算出手段により算出された少なくともいずれか一つの前記車輪に付与するトルクが前記制駆動力出力手段の最大出力トルクを超えた場合、前記駆動トルクおよび制動トルクの出力の配分を変更する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0014】
さらに、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、乗員の運転操作と独立して前記制駆動力算出手段および制駆動力出力手段により前記駆動トルクおよび制動トルクを制御する走行安定制御手段を備え、前記制駆動力制御手段が、前記走行安定制御手段による制御が実行される場合に、前記ロール状態を制御するための前記駆動トルクおよび制動トルクの制御を中止する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0015】
またさらに、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記サスペンション機構が、前記車両の側面視の瞬間回転中心が前記前輪と後輪との間に位置するように構成されていて、前記ロール制御手段は、前記制駆動力制御手段により付与する前記前輪と後輪との駆動トルクもしくは制動トルクに差を設けることによって前記ロール状態を制御する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0016】
そして、請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記制駆動力出力手段が、前記前後輪にトルクをそれぞれ独立して付与する電動機の回転を制御することにより前記駆動トルクおよび制動トルクを出力する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、車体のロールが検出されると、各車輪に付与される駆動トルクもしくは制動トルクが、制駆動力算出手段により算出され、制駆動力出力手段により出力されて、サスペンション機構を介して車体に上下方向の力が作用させられることによって、車体のロール状態を制御するロール制御が実行される。このとき、制駆動力出力手段により出力されるトルクが、制駆動力出力手段の最大出力トルク以下となるように制御される。そのため、例えば、走行のための駆動トルクとロール制御のための駆動トルクとを併せて出力する場合に、それらの駆動トルクの和が制駆動力出力手段の最大出力トルクをこえてしまい、所望する駆動トルクを得られずに適切な制御を実行できなくなることを回避できる。その結果、要求される走行状態を維持するための駆動力および制動力を確保しつつ、ロール制御を適切に実行することができる。
【0018】
また、請求項2の発明によれば、ロール制御が実行される際に、制駆動力算出手段により算出された少なくともいずれか一つの車輪に付与されるトルクが、制駆動力出力手段の最大出力トルクを超えた場合、各車輪に付与される駆動トルクおよび制動トルクの出力の配分が変更されて、制駆動力出力手段により出力されるトルクが制駆動力出力手段の最大出力トルク以下となるように制御される。そのため、ロール制御の実行時に、制駆動力出力手段により出力されるトルクが制駆動力出力手段の最大出力トルクをこえてしまい、所望する駆動トルクを得られずに適切な制御を実行できなくなることを回避し、要求される走行状態を維持するための駆動力および制動力を確保しつつ、ロール制御を適切に実行することができる。
【0019】
さらに、請求項3の発明によれば、走行安定制御手段により、例えば旋回時や制動時の車両の挙動を安定させる走行安定制御が実行される場合には、駆動トルクおよび制動トルクを制御してロール状態を制御するロール制御が中止される。そのため、ロール制御に対して走行安定制御を優先して実行することができ、車両の挙動安定性あるいは安全性を確保することができる。
【0020】
またさらに、請求項4の発明によれば、前後輪をそれぞれ車体に支持するサスペンション機構が、その車両側面視の瞬間回転中心が常に車両の前後方向における前輪と後輪との間に位置するように構成され、前輪と後輪とに付与される駆動トルクもしくは制動トルクに差を設けること、すなわち、前輪と後輪とに付与されるトルクの大きさあるいは方向に差を設けること、言い換えると、前輪と後輪とに付与されるトルク(駆動トルクもしくは制動トルク)を互いに相違させることによって、車体に上下方向の力が作用させられる。そのため、前輪に付与する駆動トルクもしくは制動トルクと、後輪に付与する駆動トルクもしくは制動トルクとを、それらの間に少なくとも差を設けて、言い換えるとそれらを互いに相違させて任意の大きさに制御することによって、車体に作用させる上下方向の力を任意に設定することができ、ロール制御を容易に実行することができる。
【0021】
そして、請求項5の発明によれば、前後輪にそれぞれ付与されるトルクが、各車輪に組み込まれた電動機の回転をそれぞれ独立して制御することによって制御される。そのため、ロール制御を容易に実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。まず、この発明を適用した車両の構成および制御系統を図2に示す。この発明を実施するための代表的な形態としては、少なくとも前輪1,2と後輪3,4とを独立して車体Boに支持するサスペンション5と、車両Veの駆動力および制動力を得るために各車輪1,2,3,4に付与する駆動トルクおよび制動トルクを算出する電子制御装置9を主とする制駆動力算出手段と、制駆動力算出手段により算出されて出力される制御信号に基づいて前記駆動トルクおよび制動トルクを出力するモータ6およびインバータ7およびバッテリ8からなる制駆動力出力手段と、サスペンション5のストロークセンサ10の検出値に基づいて車体Boのロールを検出するロール検出手段と、ロール検出手段により車体Boのロールが検出された場合に、そのロール状態に基づいて前記駆動トルクおよび制動トルクを制駆動力算出手段により算出して配分し、モータ6の出力を制御することでロール状態を制御するロール制御手段とを備えている。そして、ロール制御手段によるロール状態の制御が実行される場合に、各車輪1,2,3,4に付与するトルクがモータ6の最大出力トルク以下となるように前記駆動トルクおよび制動トルクを制御する制駆動力制御手段を備えていることを特徴としている。
【0023】
具体的には、この図2に示す車両Veは、左右の前輪1,2および左右の後輪3,4を有していて、各車輪1,2,3,4は、サスペンション5を介して車両Veの車体Boに支持されている。そして、各車輪1,2,3,4のホイール内部には、それぞれモータ6が組み込まれていている。すなわち、それらの車輪1,2,3,4の各モータ6は、いわゆるインホイールモータであり、各モータ6の回転をそれぞれ独立して制御することにより、各車輪1,2,3,4に付与される駆動力および制動力をそれぞれ独立して制御することができる。これらの各モータ6は、例えば交流同期電動機であり、インバータ7を介してバッテリ8に接続されている。そしてインバータ7は、各モータ6の回転を制御する電子制御装置(ECU)9に接続されている。
【0024】
各モータ6の駆動時には、バッテリ8の直流電力がインバータ7によって交流電力に変換され、その交流電力が各モータ6に供給されることにより各モータ6が力行されて、車輪に駆動トルクが付与される。また、各モータ6は車輪の回転エネルギを利用して回生制御することも可能である。すなわち、各モータ6の回生・発電時には、車輪の回転(運動)エネルギが各モータ6によって電気エネルギに変換され、その際に生じる電力がインバータ7を介してバッテリ8に充電される。このとき、車輪には回生・発電に基づく制動トルクが付与される。
【0025】
このように、各車輪1,2,3,4のモータ6、インバータ7、バッテリ8、ECU9等によって、各車輪1,2,3,4の駆動トルクおよび制動トルクをそれぞれ独立して制御することができる。したがって、これらの各モータ6、インバータ7、バッテリ8、ECU9等が、この発明における制駆動力算出手段および制駆動力出力手段として機能している。
【0026】
モータ6が組み込まれた各車輪1,2,3,4をそれぞれ車体Boに支持するサスペンション5は、例えば、ショックアブソーバを内蔵したストラットおよびコイルスプリングおよびサスペンションアームなどから構成されるストラット形サスペンションや、コイルスプリングおよびショックアブソーバおよび上下のサスペンションアームなどから構成されるウィッシュボーン形サスペンションなどの公知のサスペンション機構であって、それら各種サスペンション機構を適宜に選択して採用することができる。
【0027】
そして、各車輪1,2,3,4のサスペンション5は、いずれも、車両Veの側面視の各瞬間回転中心が、車両Veの前後方向における前輪1,2と後輪3,4との間に位置するように構成されている。すなわち、前述の図4に示すように、車両Veの側面視の各瞬間回転中心C1,C2,C3,C4が、常に車両Veの前後方向における前輪1と後輪3との間、もしくは前輪2と後輪4との間に位置するように構成されている。そのため、前述したように、各車輪1,2,3,4に、図4に示す状態の駆動トルクもしくは制動トルクが付与されるように各モータ6の回転を制御することによって、車体Boに車両Veの上下方向(図4での上下方向)の力、すなわち車体Boを持ち上げる方向、すなわち車体Boがロールした際の車体Boの沈み込みを抑える方向(図4での上方向)の力Fu、もしくは、車体Boを押し下げる方向、すなわち車体Boがロールした際の車体Boの浮き上がりを抑える方向(図4での下方向)の力Fdを作用させることができる。
【0028】
車体Boの各車輪1,2,3,4に対応する所定の位置に、各サスペンション5のストローク量を検出するストロークセンサ10がそれぞれ設けられている。それらの各ストロークセンサ10は、ECU9に接続されていて、そしてそれらの検出結果を基に、ロール量あるいはロール角などの車体Boのロール状態を検出することができるように構成されている。したがって、これらの各ストロークセンサ10、ECU9等は、この発明におけるロール検出手段として機能している。なお、上記のストロークセンサ10に代えて、例えば、車高センサ(図示せず)を車体Boの各車輪1,2,3,4に対応する所定の位置に、あるいは上下加速度センサ(図示せず)を車体Boの各車輪1,2,3,4に対応する所定の位置に設けて、各サスペンション5のストローク量を検出もしくは算出することによって、車体Boのロール状態を検出することも可能である。
【0029】
上記のように、ストロークセンサ10およびECU9等により構成されるロール検出手段によって検出される車体Boのロールに対して、前述の各サスペンション5が、その車両Veの側面視の各瞬間回転中心C1,C2,C3,C4が、それぞれ前輪1,2と後輪3,4との間に位置するように構成されていて、各モータ6、インバータ7、バッテリ8、ECU9等により構成される制駆動力算出手段および制駆動力出力手段を制御して、車体Boの沈み込みを抑える方向の力Fu、もしくは、車体Boの浮き上がりを抑える方向の力Fdを作用させることによって、車体Boのロール状態を、例えば抑制するように、適宜に制御することができる。したがって、これら各サスペンション5、各モータ6、インバータ7、バッテリ8、ECU9等は、この発明におけるロール制御手段として機能している。
【0030】
また、車体Boの各車輪1,2,3,4に対応する所定の位置に、各車輪1,2,3,4のの回転速度を検出する車輪速センサ11がそれぞれ設けられている。それら各車輪速センサ11は、ECU9に接続されていて、各車輪1,2,3,4の回転速度を検出するとともに、それらの検出結果を基に、車体Boの前後方向における速度(車速)、および車体Boの前後方向における加速度(前後加速度)、あるいは各車輪1,2,3,4のスリップ状態やロック状態などの車両Veの走行状態を検出もしくは算出することができるように構成されている。なお、上記の車輪速センサ11に代えて、例えば、各モータ6の回転を制御する制御信号、あるいは各モータ6に供給される電力の電流値などを検出することによって、車速および車体Boの前後加速度等を検出することも可能である。さらに、車体Boの前後加速度は、前後加速度センサ(図示せず)を設けることによって検出することも可能である。
【0031】
そして、ブレーキペダル(図示せず)の踏み込み量(踏み込み角度)あるいは踏み込み圧力を検出するブレーキペダルセンサ12、また、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(踏み込み角度)あるいは踏み込み圧力を検出するアクセルペダルセンサ13、また、ステアリングホイールの操舵方向および操舵角量を検出する舵角センサ14がそれぞれ設けられている。これらのブレーキペダルセンサ12およびアクセルペダルセンサ13および舵角センサ14は、それぞれECU9に接続されていて、それらの検出結果を基に、車両Veの走行状態を検出もしくは算出するとともに、それらの検出結果に基づいて、各モータ6、あるいはパワーステアリング用の油圧ポンプ(図示せず)もしくは電動モータ(図示せず)などが適宜に制御されるように構成されている。
【0032】
前述したように、この発明は、各車輪1,2,3,4に付与する駆動トルクもしくは制動トルクを個別に制御して車体Boのロール状態を制御する際に、要求される駆動力もしくは制動力に基づいた車両の走行状態を維持しつつ、トルクが不足してしまうことを回避して、車体のロール状態を適切に制御することを目的としていて、そのために、この発明の制御装置は以下の制御を実行するように構成されている。
【0033】
図1は、この発明の制御装置による制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、先ず、車体Boのロール状態に応じて各車輪1,2,3,4に付与する駆動トルクもしくは制動トルクを制御し、車体Boのロール状態を所望する状態に制御するロール制御が実行されるかもしくは実行中であるか否かが判断される(ステップS1)。すなわち、前述のストロークセンサ10等により車体Boのロールが検出が検出されて、ロール制御が実行されるかもしくは実行中であるか否かが判断される。ロール制御が実行されないもしくは実行中でないことによって、このステップS1で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わずに、このルーチンを一旦終了する。
【0034】
一方、ロール制御が実行されるかもしくは実行中であることによって、ステップS1で肯定的に判断された場合には、ステップS2へ進み、例えばVSC装置やABS装置などを作動させて、旋回時や制動時の車両Veの挙動を安定させる走行安定制御が実行されるかもしくは実行中であるか否かが判断される。走行安定制御が実行されるかもしくは実行中であることによって、このステップS2で肯定的に判断された場合は、以降の制御は行わずに、このルーチンを一旦終了する。すなわち、ロール制御が中止される。
【0035】
これは、VSC装置やABS装置などが作動させられる走行安定制御が実行されるような場合においては、車両Veの走行状態もしくは走行中の路面状態が、例えば、高速での急旋回状態であったり、急制動時であったり、あるいは走行路面が摩擦係数が低く車輪がスリップし易い低μ路であったりすることにより、車両Veの駆動力および制動力を安定して得ることができなくなり、その結果、車体Boのロール状態を制御するロール制御を適正に実行できない場合がある。そのため、車両Veの走行安定制御が実行される場合もしくは実行中である場合には、ロール制御を中止することによって、ロール制御が不適切に行われてしまうことを回避できるとともに、走行中の車両Veの挙動を安定させるための走行安定制御を優先して実行することができ、車両Veの挙動安定性あるいは安全性を確保することができる。
【0036】
一方、走行安定制御が実行されないもしくは実行中でないことによって、ステップS2で否定的に判断された場合には、ステップS3へ進み、ロール制御のための車両Veの前後力、すなわちロール制御のための車両Veの駆動力もしくは制動力(制駆動力)Fxrが算出される。
【0037】
これは、ストロークセンサ10の検出値などに基づいて求められる車体Boのロール状態に基づいて、車体Boのロール状態を制御するため、例えば車体Boのロールを抑制するための車両Veの制駆動力Fxrが求められる。あるいは、例えば各車輪1,2,3,4の各車輪速センサ11、および舵角センサ14の検出値から、各車輪1,2,3,4の回転速度、車両Veの車速、ステアリングホイールの舵角(操舵方向および操舵角)等が求められ、それら各車輪1,2,3,4の回転速度と車速と舵角とに基づいて、車両Veの旋回時に車体Boに生じるロールのロール角もしくはロール量が推定されて、そのロール角もしくはロール量に基づいて、車体Boのロール状態を制御するための車両Veの制駆動力Fxrが求められる。
【0038】
続いて、加減速制御のための車両Veの前後力、すなわち車両Veに対する運転者の加速要求もしくは減速要求に基づいて車両Veに要求される加減速制御のための車両Veの駆動力もしくは制動力(制駆動力)Fxaが算出される(ステップS4)。例えば、ブレーキペダルセンサ12、あるいはアクセルペダルセンサ13による検出値に基づいて、車両Veの加減速走行状態を制御するための制駆動力Fxaが求められる。
【0039】
ロール制御のための制駆動力Fxrと加減速制御のための制駆動力Fxaとが求められると、それら制駆動力Fxr,Fxaの和「Fxr+Fxa」が、車両Veに生じさせる制駆動力の上限値として定めた上限制駆動力Fxmaxよりも大きいか否かが判断される(ステップS5)。
【0040】
ロール制御は、車両Veの走行中すなわち加減速制御実行中に併せて行われる制御であるため、ロール制御が実行される際には、前述したように、加減速制御のために出力される制駆動力Fxaとロール制御のために出力される制駆動力Fxrとが重畳して、モータ6の最大出力以上のモータ出力が必要とされる場合がある。例えば加減速制御のための駆動力とロール制御のための駆動力とが併せて出力されるモータ6において、あるいは加減速制御のための制動力とロール制御のための制動力とが併せて出力されるモータ6においては、それらの駆動力あるいは制動力を得るためにいずれかの車輪に付与される駆動トルクあるいは制動トルクの総和が、モータ6の最大出力トルクを超えてしまう場合がある。その場合、所望する駆動トルクあるいは制動トルクを出力することができなくなる、すなわち加減速制御とロール制御とを実行するために要求される駆動力あるいは制動力を得ることができず、適切な制御を実行することができなくなる可能性がある。
【0041】
このことを図3を用いて具体的に説明する。図3は、旋回走行中の車両Veにおける各車輪1,2,3,4の位置で作用する駆動力もしくは制動力を模式的に示す図であって、車両Veが図3上で左旋回で走行している状態を示している。したがって、左前輪1および左後輪3が旋回内輪となって、右前輪2および右後輪4が旋回外輪となっている。
【0042】
図3の(a),(b)は、旋回走行中の車両Veにおいて、加減速制御のための制駆動力Fxaと、ロール制御のための制駆動力Fxrとが各車輪1,2,3,4に作用している状態であって、図3の(a)は、共に駆動力が作用する左前輪1および右後輪4で駆動力Fxaと駆動力Fxrとを生じさせるモータ6のモータ出力が飽和した状態、すなわち駆動力「Fxa+Fxr」を生じさせるためにモータ6で出力するトルクが、モータ6の出力トルクの上限(最大出力トルク)と等しくなった状態を示している。この状態、あるいは駆動力「Fxa+Fxr」を生じさせるためにモータ6で出力するトルクがモータ6の出力トルクの上限以下の状態であれば、加減速制御およびロール制御とも所望する大きさの制駆動力Fxa,Fxrをそれぞれ得ることができ、加減速制御およびロール制御を適切に行うことができる。
【0043】
これに対して、図3の(b)に示すような状態、すなわち、図3の(a)に示したモータ6のモータ出力が飽和した状態から更に加速要求があり駆動力Fxaが増大された状態では、駆動力Fxaが増加した分、駆動力Fxrが不足してしまう。すなわち、
ΔFx=Fxa+Fxr−Fxmax ・・・・・(1)
として表されるΔFxの分だけ制駆動力が不足することになり、ロール制御を適切に行うことができなくなる。
【0044】
そこでこの発明に係る制御装置では、前述ステップS5で、ロール制御が実行される際の制駆動力「Fxr+Fxa」が上限制駆動力Fxmaxよりも大きいか否かを判断し、制駆動力「Fxr+Fxa」が上限制駆動力Fxmaxを超える場合に、各車輪1,2,3,4に付与されるモータ6の出力トルクの配分を変更することにより、制駆動力「Fxr+Fxa」が上限制駆動力Fxmax以下となるように、モータ6が出力する駆動トルクおよび制動トルクが制御されるように構成されている。
【0045】
したがって、ロール制御が実行される際の制駆動力「Fxr+Fxa」が上限制駆動力Fxmax以下であることによって、前述のステップS5で否定的に判断された場合は、ステップS6へ進み、追加制駆動力Fxa2が「0」とされる。すなわち、この場合は制駆動力の追加、配分の変更を行う必要がないため、当初の制駆動力「Fxr+Fxa」のままで加減速制御とロール制御とが実行される。
【0046】
一方、ロール制御が実行される際の制駆動力「Fxr+Fxa」が上限制駆動力Fxmaxよりも大きいことによって、ステップS5で肯定的に判断された場合には、ステップS7へ進み、追加制駆動力Fxa2が、右前輪(旋回外輪)2および左後輪(旋回内輪)3に追加される。
【0047】
この場合に追加される追加制駆動力Fxa2について、再び図3、および図4の模式図を用いて説明する。前述の図3の(b)に示すように、制駆動力「Fxr+Fxa」が上限制駆動力Fxmaxを超えて、制駆動力Fxrが不足すると、図3の(c)に示すように、その不足分を補うための追加制駆動力Fxa2が、右前輪(旋回外輪)2および左後輪(旋回内輪)3に追加される。図4に示すように、前輪1,2の各サスペンション5の瞬間回転中心C1,C2と前輪1,2の接地点1a,2aとを結ぶ直線の方向と水平方向との成す角度をθf、後輪3,4の各サスペンション5の瞬間回転中心C3,C4と後輪3,4の接地点3a,4aとを結ぶ直線の方向と水平方向との成す角度をθrとすると、前述の(1)式に示す制駆動力の不足分が生じた際に、ロール制御を実行するために不足するロールモーメントΔT1は、左右輪のトレッドをLとすると、
ΔT1=(Fxa+Fxr−Fxmax)×θr×L/2
+(Fxa+Fxr−Fxmax)×θf×L/2 ・・・・・(2)として算出される。
【0048】
この不足するロールモーメントΔT1を、右前輪(旋回外輪)2の追加駆動力および左後輪(旋回内輪)3の追加制動力(=Fxa2)で生じさせる場合、次の式で表されるロールモーメントΔT2が発生する。
ΔT2=Fxa2×(θr−θf)×L/2 ・・・・・(3)したがって、不足するロールモーメントΔT1をロールモーメントΔT2で補う場合に必要な追加制駆動力Fxa2は、上記の(1)ないし(3)式により、
Fxa2=(Fxa+Fxr−Fxmax)×(θr+θf)/(θr−θf) ・・・・・(4)
として求めることができる。
【0049】
上記のようにして、追加制駆動力Fxa2が求められると、ステップS8へ進み、ロール制御が実行される際の制駆動力「−Fxr+Fxa+Fxa2」、すなわち右前輪(旋回外輪)2で発生させられる制駆動力が上限制駆動力Fxmaxよりも大きいか否かが判断される。制駆動力「−Fxr+Fxa+Fxa2」が上限制駆動力Fxmax以下であることによって、このステップS8で否定的に判断された場合は、ステップS9へ進み、左後輪(旋回内輪)3の制駆動力が「−Fxr+Fxa−Fxa2」に設定され、その制駆動力「−Fxr+Fxa−Fxa2」を生じさせるために左後輪(旋回内輪)3に付与されるモータ6の駆動トルクおよび制動トルクが制御されて出力される。
【0050】
また、併せて、右前輪(旋回外輪)2の制駆動力が「−Fxr+Fxa+Fxa2」に、左前輪(旋回内輪)1の制駆動力が「Fxr+Fxa−Fxa2」に、右後輪(旋回外輪)4の制駆動力が「Fxr+Fxa−Fxa2」に、それぞれ設定され、それらの制駆動力を生じさせるために各車輪1,2,4に付与されるモータ6の駆動トルクおよび制動トルクがそれぞれ制御されて出力される(ステップS10)。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0051】
上記のステップS9,S10で設定される制駆動力と、それらの制駆動力が車両Veに作用した際に発生する車両Veの前後方向の加速度との関係を図5に示す。図5の(a)ないし(d)は、それぞれ左前輪(旋回内輪)1、右前輪(旋回外輪)2、左後輪(旋回内輪)3、右後輪(旋回外輪)4における制駆動力と前後加速度との関係を示している。上記のように、この発明の制御装置によれば、ロール制御が実行される際の制駆動力「Fxr+Fxa」が上限制駆動力Fxmaxよりも大きくなると、ロール制御を実行するために不足する制駆動力が追加制駆動力Fxa2として求められ、その追加制駆動力Fxa2が、モータ6の出力トルクに余裕がある右前輪(旋回外輪)2および左後輪(旋回内輪)3に付加されるように右前輪(旋回外輪)2および左後輪(旋回内輪)3のモータ6の出力が制御される。そのため、ロール制御が実行される際の制駆動力「Fxr+Fxa」が上限制駆動力Fxmaxよりも大きくなり、左前輪(旋回内輪)1および右後輪(旋回外輪)4のモータ6の出力トルクが飽和した場合であっても、図5の(b),(c)に示すように、右前輪(旋回外輪)2および左後輪(旋回内輪)3にロール制御のための前後加速度を発生させることができ、ロール制御を適切に実行することができる。
【0052】
図1のフローチャートに戻り、制駆動力「−Fxr+Fxa+Fxa2」、すなわち右前輪(旋回外輪)2で発生させられる制駆動力が上限制駆動力Fxmaxよりも大きいことによって、ステップS8で肯定的に判断された場合には、ステップS11へ進み、左後輪(旋回内輪)3の制駆動力が「4Fxa−3Fxmax」に設定され、その制駆動力「4Fxa−3Fxmax」を生じさせるために左後輪(旋回内輪)3に付与されるモータ6の駆動トルクおよび制動トルクが制御されて出力される。
【0053】
また、併せて、右前輪(旋回外輪)2、左前輪(旋回内輪)1、右後輪(旋回外輪)4の制駆動力が「Fxmax」に、それぞれ設定され、それらの制駆動力を生じさせるために各車輪1,2,4に付与されるモータ6の駆動トルクおよび制動トルクがそれぞれ制御されて出力される(ステップS12)。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0054】
すなわち、右前輪(旋回外輪)2で発生させられる制駆動力「−Fxr+Fxa+Fxa2」が上限制駆動力Fxmaxよりも大きい場合は、その右前輪(旋回外輪)2を含めて、左前輪(旋回内輪)1、右後輪(旋回外輪)4の三輪のモータ6の出力トルクが飽和した状態であるため、モータ6の出力トルクに余裕のある左後輪(旋回内輪)3だけにロール制御のための制駆動力(この場合は制動力3Fxmax)を作用させるのである。
【0055】
以上のように、この発明に係る制御装置によれば、例えば車両Veの旋回走行時に、車体Boのロールが検出されると、そのロール状態を制御するため、各車輪1,2,3,4に付与される駆動トルクもしくは制動トルクが各モータ6により出力される。すると、各サスペンション5を介して車体Boに上下方向の力が作用させられることによって、車体Boのロール状態を制御するロール制御が実行される。このとき、各モータ6により出力されるトルクが、モータ6の最大出力トルク以下となるように制御される。
【0056】
より具体的には、車体Boのロール制御が実行される際に各モータ6により出力される少なくともいずれか一つのモータ6のトルクが、モータ6の最大出力トルクを超えた場合、その場合の制駆動トルクの不足分が求められ、その不足分を余裕のある車輪のモータ6で出力して補うように、各車輪1,2,3,4に付与される駆動トルクおよび制動トルクの出力の配分が変更されて、モータ6により出力されるトルクが最大出力トルク以下となるように制御される。そのため、走行のための駆動トルクとロール制御のための駆動トルクとを併せて出力する場合に、それらの駆動トルクの和がモータ6の最大出力トルクをこえてしまい、所望する駆動トルクを得られずに適切な制御を実行できなくなることを回避できる。その結果、要求される走行状態を維持するための駆動トルクおよび制動トルクを確保しつつ、車体Boのロール制御を適切に実行することができる。
【0057】
また、例えばVSC装置やABS装置などによる旋回時や制動時の車両の挙動を安定させる走行安定制御が実行される場合には、駆動トルクおよび制動トルクを制御してロール状態を制御するロール制御が中止される。そのため、ロール制御に対して走行安定制御を優先して実行することができ、車両Veの挙動安定性あるいは安全性を確保することができる。
【0058】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS3,S4の機能的手段が、この発明の制駆動力算出手段に相当する。また、ステップS5ないしS12の機能的手段が、この発明のロール制御手段および制駆動力制御手段に相当する。
【0059】
なお、この発明は、上記の具体例に限定されないのであって、具体例では、各車輪の駆動トルクおよび制動トルクを独立して制御する手段として、各車輪の内部に配置されたモータ、すなわち各車輪のホイール内部に組み込まれたいわゆるインホイールモータの回転を制御することにより前記駆動トルクおよび制動トルクを出力する例を示しているが、この具体例以外に、例えば、各車輪に対応させて車体に設置されたモータの出力をドライブシャフト等を介して各車輪にそれぞれ伝達し、各車輪の駆動トルクを独立して制御する機構であってもよい。また、例えば、モータや内燃機関などの動力源が出力する動力を各車輪毎に可変分配できるような機構(例えばトルクスプリット機構など)を採用することもできる。そして、各車輪の制動トルクを独立して制御する手段として、各車輪毎に設けられた制動装置を乗員による制動操作とは別に自動制御できる機構を採用することも可能である。
【0060】
また、上記の具体例では、旋回時に生じる車体のロール状態を制御の対象とした例を示しているが、例えば、路面の凹凸や強風(横風)の影響などの他の要因により生じる車体のロール状態を制御の対象とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明の制御装置による制御例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明の制御装置を適用可能な車両の構成および制御系統を模式的に示す概念図である。
【図3】この発明の制御装置によるロール制御の実行時における車両の駆動力および制動力を模式的に示す図である。
【図4】この発明の制御装置を適用可能な構成の車両におけるサスペンション機構の車両側面視の各瞬間回転中心と、ロール制御の実行時に車両各部に作用する力および挙動とを説明するための模式図である。
【図5】この発明の制御装置によるロール制御の実行時における車両の駆動力および制動力と前後加速度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1,2…前輪、 3,4…後輪、 5…サスペンション、 6…モータ(インホイールモータ)、 7…インバータ、 8…バッテリ、 9…電子制御装置(ECU)、 10…ストロークセンサ、 11…車輪速センサ、 12…ブレーキペダルセンサ、 13…アクセルペダルセンサ、 14…舵角センサ、 Ve…車両、 Bo…車体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後輪を独立して車体に支持するサスペンション機構と、車両の駆動力および制動力を得るために各車輪に付与する駆動トルクおよび制動トルクを算出する制駆動力算出手段と、前記制駆動力算出手段により算出された前記駆動トルクおよび制動トルクを出力する制駆動力出力手段と、前記車体のロールを検出するロール検出手段と、前記ロール検出手段により前記ロールが検出された場合に、そのロール状態に基づいて前記駆動トルクおよび制動トルクを前記制駆動力算出手段により算出して前記制駆動力出力手段により配分して出力することで前記ロール状態を制御するロール制御手段とを備えた車両の制御装置において、
前記ロール制御手段による前記ロール状態の制御が実行される場合に、前記車輪に付与するトルクが前記制駆動力出力手段の最大出力トルク以下となるように前記駆動トルクおよび制動トルクを制御する制駆動力制御手段を備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制駆動力制御手段は、前記ロール制御手段による前記ロール状態の制御が実行される場合に、前記制駆動力算出手段により算出された少なくともいずれか一つの前記車輪に付与するトルクが前記制駆動力出力手段の最大出力トルクを超えた場合、前記駆動トルクおよび制動トルクの出力の配分を変更する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
乗員の運転操作と独立して前記制駆動力算出手段および制駆動力出力手段により前記駆動トルクおよび制動トルクを制御する走行安定制御手段を備え、
前記制駆動力制御手段は、前記走行安定制御手段による制御が実行される場合に、前記ロール状態を制御するための前記駆動トルクおよび制動トルクの制御を中止する手段を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記サスペンション機構は、前記車両の側面視の瞬間回転中心が前記前輪と後輪との間に位置するように構成されていて、
前記ロール制御手段は、前記制駆動力制御手段により付与する前記前輪と後輪との駆動トルクもしくは制動トルクに差を設けることによって前記ロール状態を制御する手段を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制駆動力出力手段は、前記前後輪にトルクをそれぞれ独立して付与する電動機の回転を制御することにより前記駆動トルクおよび制動トルクを出力する手段を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−131212(P2007−131212A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327261(P2005−327261)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】