説明

車両の空調および制動制御装置

【課題】車両減速中における空調装置の蓄冷器への蓄冷中に、圧縮機による冷媒供給が停止することにより発生する、圧縮機減速トルク消失による制動距離の増加や、乗員の不快感を抑制する。
【解決手段】蓄冷器40に蓄冷中に、それ以上の蓄冷が不可能になり、圧縮機1の作動を停止させたときに、空調用制御装置5から、変速機制御装置54に信号を送信し、無段変速機50の減速比を増加させて、圧縮機減速トルク消失にともなう、最終減速トルクの不足を補う。無段変速機50の代わりに、車両用交流発電機や、モータジェネレータの出力を増加させるように制御しても良いし、自動ブレーキ装置を差動させても良い。また、これら変速機50等のいずれかを選択しても、組み合わせて使用しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の減速時に、運動エネルギを車両用空調装置の圧縮機の動力として回収し、蓄冷器または蒸発器に蓄冷する機構を備える、車両の空調および制動制御装置に関するものである。特に、車両エンジンの回転を車軸に伝える変速機の減速比を、自動的に変更する機構を備えた装置に適用される。
【背景技術】
【0002】
従来は、車両制動時の減速トルクを、乗員のブレーキペダル操作に伴う制動力のみで発生させ、運動エネルギを熱に変換し捨てていた。これを改善して、制動時に必要な減速トルクの一部を、車両用空調装置の圧縮機の動力に割り振ることにより、運動エネルギを回収し、燃費の向上を実現するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、車両の減速時に、車両用空調装置内の蒸発器を冷却する目標温度を、通常時よりも低く設定することにより、蒸発器に蓄冷している。
【0003】
また、蓄冷材を備えた蓄冷器を車両用空調装置内に用いて、車両用空調装置の目標温度を、蓄冷材の凝固温度より低い温度に設定し、車両の減速時に、蓄冷材に蓄冷することで運動エネルギを回収するものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2005−104306号公報
【特許文献2】特開2003−335128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の蓄冷を行う車両用空調装置では、車両の減速中に蓄冷可能容量が一杯になると、それ以上運動エネルギを回収できなくなり、減速トルク(車両の制動力)が急激に減少し、乗員に不安感を与える。また、制動距離が延びる等の運転性能の悪化が発生する。
【0005】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目して成されたものである。その目的は、減速時に、車両の運動エネルギを少なくとも車両用空調装置の圧縮機の動力に利用することにより、車両の運動エネルギを蓄冷と言う形態で回収する車両制動制御装置において、蓄冷可能容量が満容量になるなど圧縮機の動力が減少して、それに伴う減速トルクの不足が発生した場合に、突発的なブレーキ操作、あるいは、制動距離の延長を抑止する車両の空調および制動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明は、車両エンジン(4)により駆動される圧縮機(1)、圧縮機(1)によって作動する冷凍サイクルの冷却能力により、車室内へ送風される空気を冷却する冷房用熱交換器(9)、車室内の空調モードが通常モードにあると判定された場合に、冷房用熱交換器(9)の温度(Te)が目標蒸発器温度(TEO)となるように圧縮機(1)を制御する第1制御状態を実行する第1制御手段(5j)を有する空調制御装置(5)、乗員の操作により、車両の車軸(51)の回転を制動する第1ブレーキ手段(52、61、65)および第1ブレーキ手段(52,61、65)とは別に、車両エンジン(4)の動力を吸収し、車軸(51)の回転を制動する第2ブレーキ手段(50、70、80、90)を有する車両の空調および制動制御装置において、車両の減速状態を検出する減速状態検出手段(5d)と、車室内の空調モードが蓄冷モードにあると判定された場合に、車両が減速状態にあり、かつ、少なくとも冷房用熱交換器(9)における蓄冷が未だ可能な状態にあるとき、冷房用熱交換器(9)の吹出温度が目標蒸発器温度(TEO)よりも低い第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)となるように圧縮機(1)を制御する第2制御状態を実行する第2制御手段(5k)と、蓄冷モードの第2制御状態において、第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)における蓄冷が完了して、それ以上の蓄冷が不可能となったとき、車両エンジン(4)の動力の一部を、前記第2ブレーキ手段(50、70、80、90)により吸収させる第2ブレーキ制御手段(5m)を備えることを特徴としている。
【0007】
この請求項1に記載の発明によれば、減速時の車両の走行エネルギを、少なくとも冷房用熱交換器(9)に蓄冷という形態で有効に回収でき、回収が限界に達したとき(即ち、それ以上の蓄冷が不可能となったとき)、圧縮機で失われる減速トルクを、第2ブレーキ手段で発生させるので、減速トルクの不足が緩和され、突発的なブレーキ操作や制動距離の延長が抑止できる。
【0008】
また、請求項2に記載の発明では、更に、冷房用熱交換器(9)自体、又は該冷房用熱交換器(9)の下流側、に備えられ、冷房用熱交換器(9)により蓄冷される蓄冷手段(40)を有し、第2制御手段(5k)は、車室内の空調モードが蓄冷モードにあると判定された場合に、車両が減速状態にあり、かつ冷房用熱交換器(9)及び蓄冷手段(40)における蓄冷が未だ可能な状態にあるとき、蓄冷手段(40)の温度(Tc)が目標蒸発器温度(TEO)よりも低い第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)となるように圧縮機(1)を制御する第2制御状態を実行することを特徴としている。
【0009】
この請求項2に記載の発明によれば、蓄冷手段を備えているので、より多くの減速時の車両の走行エネルギを、蓄冷という形態で有効に回収できる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明では、第2ブレーキ手段(50、70、80、90)は、車両エンジン(4)の動力を変速して車軸(51)に伝える変速機(50)、車両エンジン(4)の動力で発電してバッテリを充電する車両用交流発電機(70)、車両エンジン(4)によって駆動されて発電すると共に車軸(51)を駆動するモータジェネレータ(80)、及び第1ブレーキ手段(52、61、65)のブレーキ制御装置(52)からのブレーキ制御信号によって、乗員の操作によらず自動的に車両の車軸(51)の回転を制動する自動ブレーキ手段(52、61)のうち、少なくともいずれか1つから構成されていることを特徴としている。
【0011】
この請求項3に記載の発明によれば、変速機(50)、車両用交流発電機(70)、モータジェネレータ(80)、自動ブレーキ手段(52、61)のうちいずれかを用いて、圧縮機で失われる減速トルクの代わりのトルクを発生させるので、減速トルクの不足が緩和され、突発的なブレーキ操作や制動距離の延長が抑止できる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明では、複数の第2ブレーキ手段(50、70、80、90)のうち、少なくとも一つの第2ブレーキ手段、又はそれらを組み合わせた複数の第2ブレーキ手段を選択する選択手段(90)が更に備えられ、第2ブレーキ制御手段(5m)は、蓄冷モードの第2制御状態において、第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)における蓄冷が完了して、それ以上の蓄冷が不可能となったとき、圧縮機(1)で吸収できなくなった車両エンジン(4)の動力の大きさを演算するトルク演算手段(5n)を有し、選択手段(90)は、トルク演算手段(5n)により演算された車両エンジン(4)の動力の大きさに応じて、複数の第2ブレーキ手段(50、70、80、90)の中から、適切な少なくとも一つの第2ブレーキ手段を選択することを特徴としている。
【0013】
この請求項4に記載の発明によれば、演算した前記車両エンジンの動力の大きさに応じて、前記複数の第2ブレーキ手段の少なくともいずれかを選択するから、必要なだけの減速トルクを選択して発生させることができる。
【0014】
また、請求項5に記載の発明では、車両は、車両エンジン(4)の動力で発電してバッテリを充電する車両用交流発電機(70)と、車両エンジン(4)の動力を変速して車軸(51)に伝える変速機(50)を有し、第2ブレーキ手段は、変速機(50)、又は車両用交流発電機(70)から構成されており、第2ブレーキ制御手段(5c)は、変速機(50)の変速状態を切り替えること、又は車両用交流発電機(70)の発電出力を切り替えることにより、圧縮機(1)で吸収できなくなった車両用エンジン(4)の動力の一部を吸収するように制御することを特徴としている。
【0015】
この請求項5に記載の発明によれば、第2ブレーキ制御手段(5c)は、前記変速機(50)の変速状態を切り替えること、又は前記車両用交流発電機(70)の発電出力を切り替えることにより、前記圧縮機(1)で吸収できなくなった前記車両用エンジン(4)の動力の一部を吸収できる。
【0016】
また、請求項6に記載の発明では、車両は、車両エンジン(4)の動力で発電してバッテリを充電する車両用交流発電機(70)と、車両エンジン(4)の動力を変速して車軸(51)に伝える変速機(50)を有し、第2ブレーキ手段は、車両エンジン(4)の動力を変速して車軸(51)に伝える変速機(50)、及び車両エンジン(4)の動力で発電してバッテリを充電する車両用交流発電機(70)から構成されており、第2ブレーキ制御手段(5c)は、変速機(50)の変速状態を切り替えること、及び車両用交流発電機(70)の発電出力を切り替えることにより、圧縮機(1)で吸収できなくなった車両用エンジン(4)の動力の一部を吸収するように制御することを特徴としている。
【0017】
この請求項6に記載の発明によれば、第2ブレーキ制御手段(5c)は、前記変速機(50)の変速状態を切り替えること、及び前記車両用交流発電機(70)の発電出力を切り替えることにより、前記圧縮機(1)で吸収できなくなった前記車両用エンジン(4)の動力の一部を吸収できる。
【0018】
また、請求項7に記載の発明では、空調制御装置(5)は、更に蓄冷手段(40)における蓄冷が完了しているか否かを判定する蓄冷完了判定手段(5c)と、蓄冷手段(40)の蓄冷状態を制御するための第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)を設定する第1目標温度設定手段(5f)、第2の蓄冷目標温度(TEOD1=6℃)を設定する第2目標温度設定手段(5g)、及び第3の蓄冷目標温度(TEOD3=1℃)を設定する第3目標温度設定手段(5h)を有し、蓄冷手段(40)における蓄冷が完了していないと蓄冷完了判定手段(5c)により判定されたとき、第2制御手段(5k)は、蓄冷手段(40)の温度(Tc)が第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)となるように圧縮機(1)を制御し、蓄冷手段(40)における蓄冷が完了していると蓄冷完了判定手段(5c)により判定されたときであって、かつ車両が減速状態にないと減速状態検出手段(5d)により判定されているときは、第2制御手段(5k)は、蓄冷手段(40)の温度(Tc)が第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)よりも高く、かつ蓄冷手段(40)の蓄冷材の凝固点(8℃)よりも低い、第2の蓄冷目標温度(TEOD2=6℃)となるように圧縮機(1)を制御し、更に、蓄冷手段(40)における蓄冷が完了していると蓄冷完了判定手段(5c)により判定されたときであって、かつ車両が減速状態にあると減速状態検出手段(5d)により判定されているときは、第2制御手段(5k)は、蓄冷手段(40)の温度(Tc)が第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)と同じ温度、又はそれよりも高く、かつ第2の蓄冷目標温度(TEOD2=6℃)よりも低い第3の蓄冷目標温度(TEOD3=1℃)となるように圧縮機(1)を制御し、第2ブレーキ制御手段(5m)は、蓄冷手段(40)の温度(Tc)が第3の蓄冷目標温度(TEOD3=1℃)に達したとき、蓄冷手段(40)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定することを特徴としている。
【0019】
この請求項7に記載の発明によれば、蓄冷状態を制御するための第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)を設定する第1目標温度設定手段(5f)、第2の蓄冷目標温度(TEOD1=6℃)を設定する第2目標温度設定手段(5g)、及び第3の蓄冷目標温度(TEOD3=1℃)を設定する第3目標温度設定手段(5h)を有し、第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)となるように圧縮機(1)を制御し、第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)よりも高く、かつ蓄冷手段(40)の蓄冷材の凝固点(8℃)よりも低い、第2の蓄冷目標温度(TEOD2=6℃)となるように圧縮機(1)を制御し、更に、第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)と同じ温度、又はそれよりも高く、かつ第2の蓄冷目標温度(TEOD2=6℃)よりも低い第3の蓄冷目標温度(TEOD3=1℃)となるように圧縮機(1)を制御するので、制御の各曲面において最適な温度に制御でき、第3の蓄冷目標温度(TEOD3=1℃)に達したとき、蓄冷手段(40)における蓄冷がそれ以上は不可能であると正確に判定することが出来る。
【0020】
また、請求項8に記載の発明では、変速機(50)は、連続的に変速状態を可変できる無段変速機から成り、第2ブレーキ手段は、無段変速機(50)から成り、第2ブレーキ制御手段(5m)は、蓄冷手段(40)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定されたとき、無段変速機(50)の減速比をあらかじめ定めた所定量だけ大きくすることを特徴としている。
【0021】
この請求項8に記載の発明によれば、無段変速機(50)の減速比をあらかじめ定めた所定量だけ大きくすることで、必要な代わりのトルクを得ることが出来る。
【0022】
また、請求項9に記載の発明では、第2制御手段(5k)が圧縮機(1)を第2制御状態で制御することにより、圧縮機(1)が圧縮機減速トルクを発生しているときに、蓄冷手段(40)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定されたとき、第2制御手段(5k)は圧縮機(1)の駆動を停止し、空調制御装置(5)は、圧縮機(1)の駆動停止により消失する前記圧縮機減速トルクの大きさを演算する圧縮機減速トルク演算手段(5n)と、演算された圧縮機減速トルクの大きさに基づいて、減速比を大きくする所定量を演算する減速比演算手段(54a)、及び演算された所定量に基づいて、変速機(50)に減速比制御信号を送る減速比制御手段(54b)を、更に有することを特徴としている。
【0023】
この請求項9に記載の発明によれば、演算された圧縮機減速トルクの大きさに基づいて、減速比を大きくする所定量を演算し、演算された所定量に基づいて、変速機(50)を正確に制御できる。
【0024】
また、請求項10に記載の発明では、圧縮機減速トルク演算手段(5n)による圧縮機減速トルクの演算は、圧縮機(1)の吐出容量制御信号、または、圧縮機(1)を流れる冷媒の流量を用いて行われることを特徴としている。
【0025】
この請求項10に記載の発明によれば、圧縮機減速トルクの演算は、圧縮機(1)の吐出容量制御信号、または、圧縮機(1)を流れる冷媒の流量を用いて容易に実施できる。
【0026】
また、請求項11に記載の発明では、第2ブレーキ手段は、車両エンジン(4)の動力で発電してバッテリを充電する車両用交流発電機(70)から構成されており、第2ブレーキ制御手段(5m)は、少なくとも冷房用熱交換器(9)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定されたとき、車両用交流発電機(70)の界磁電流を増加させることにより、圧縮機(1)で吸収できなくなった車両用エンジン(4)の動力の一部を吸収するように制御することを特徴としている。
【0027】
この請求項11に記載の発明によれば、必要な減速トルクを車両用交流発電機から得ることができる。
【0028】
また、請求項12に記載の発明では、車両は、車両エンジン(4)によって駆動されて発電すると共に車軸(51)を駆動するモータジェネレータ(80)を有し、第2ブレーキ手段は、モータジェネレータ(80)から構成されており、第2ブレーキ制御手段(5m)は、少なくとも冷房用熱交換器(9)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定されたとき、モータジェネレータ(80)の発電出力を増加させることにより、圧縮機(1)で吸収できなくなった車両用エンジン(4)の動力の一部を吸収するように制御することを特徴としている。
【0029】
この請求項12に記載の発明によれば、第2ブレーキ手段をモータジェネレータから構成でき、車両がモータジェネレータを有するものであっても、必要な減速トルクが得られる。
【0030】
また、請求項13に記載の発明では、第2ブレーキ手段は、第1ブレーキ手段(52、61、65)のブレーキ制御装置(52)からのブレーキ制御信号によって、乗員の操作によらず自動的に車両の車軸(51)の回転を制動する自動ブレーキ手段(52、61)から構成されており、第2ブレーキ制御手段(5m)は、少なくとも冷房用熱交換器(9)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定されたとき、自動ブレーキ手段(52、61)によって、車両の車軸(51)の回転を自動的に制動させることを特徴としている。
【0031】
この請求項13記載の発明によれば、自動的にブレーキをかけて、必要な減速トルクを得ることができる。
【0032】
なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図1〜図9を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態における、車両の空調および制動制御装置の全体構成図である。図2は空調用制御装置内のマイクロコンピュータ等で構成された手段を模式的に示すものである。この実施形態においては、車両用空調装置に蓄冷器40が備えられ、可変容量型の圧縮機1により、冷凍サイクルRが運転される。車両の変速機50として無段変速機が使用されている。
【0034】
先ず車両用空調装置について説明する。車両用空調装置の冷凍サイクルRには、冷媒を吸入、圧縮、吐出する圧縮機1が備えられている。この圧縮機1は、可変容量型のものであり空調用制御装置5からの吐出容量制御電流に基づいて、連続的に冷媒流量が制御されている。
【0035】
なお、圧縮機1には、プーリ2とベルト3を介して、車両エンジン4の動力が伝達される。圧縮機1から吐出された高温、高圧の過熱ガス冷媒は、凝縮器6に流入し、図示しない冷却ファンより送風される外気と熱交換して冷却され、凝縮する。この凝縮器6で凝縮した冷媒は、受液器7に流入し、受液器7の内部で、冷媒の気液が分離され、冷凍サイクルR内の余剰冷媒(液冷媒)が、受液器7内に蓄えられる。
【0036】
受液器7からの液冷媒は、膨張弁8により低圧に減圧され、低圧の気液2相状態となる。膨張弁8は、冷房用熱交換器9をなす蒸発器9の出口冷媒の温度を感知する感温部8aを有する温度式膨張弁である。この膨張弁8からの低圧冷媒は、蒸発器9に流入する。
【0037】
この蒸発器9は、車両用空調装置の空調ケース10内に設置され、蒸発器9に流入した低圧冷媒は、空調ケース10内の空気から吸熱して蒸発する。蒸発器9の出口は、圧縮機1の吸入側に結合され、上記したサイクル構成部品によって閉回路を構成している。
【0038】
空調ケース10の内部であって、蒸発器9の上流側には送風機11が配置されている。送風機11は、遠心式送風ファン12と駆動用モータ13を有している。送風ファン12の吸入側には、内外気切替箱14が配置され、この内外気切替箱14内の内外気切替ドア14aは、外気導入口14bと内気導入口14cを選択的に開閉する。
【0039】
これにより、内外気切替箱14内に、外気(車室外空気)、または内気(車室内空気)が切替導入される。内外気切替ドア14aは、サーボモータからなる電気駆動装置14eにより駆動される。
【0040】
空調装置通風系のうち、送風機11下流側に配置される空調ユニット15部は、通常、車室内前部の計器盤内側において、車両幅方向の中央位置に配置され、送風機11部は空調ユニット15部に対して、助手席側にオフセット配置される。
【0041】
空調ケース10内で、蒸発器9の下流側には、後述の蓄冷器40、エアミックスドア19が順次配置されている。このエアミックスドア19の下流側には、車両エンジン4の温水(冷却水)を熱源として空気を加熱する暖房用熱交換器(温水式ヒータコア)20が設置されている。
【0042】
そして、この温水式ヒータコア20の側方(上方部)には、温水式ヒータコア20をバイパスして空気(冷風)を流すバイパス通路21が形成されている。エアミックスドア19は回動可能な板状ドアであり、サーボモータからなる電気駆動装置22により駆動される。
【0043】
エアミックスドア19は、温水式ヒータコア20を通過する温風と、バイパス通路21を通過する冷風との風量割合を調整するものであって、この冷温風の風量割合の調整により、車室内への吹出空気温度を調整する。従って、この実施形態においては、エアミックスドア19により、車室内への吹出空気の温度調整手段が構成される。
【0044】
温水式ヒータコア20の下流側には、下側から上方へ延びる温風通路23が形成され、この温風通路23からの温風と、バイパス通路21からの冷風が、空気混合部24で混合されて、所望温度の空気が作り出される。
【0045】
さらに、空調ケース10内で、空気混合部24の下流側に吹出モード切替部が構成されている。すなわち、空調ケース10の上面部には、デフロスタ開口部25が形成され、このデフロスタ開口部25は、図示しないデフロスタダクトを介して、車両フロントガラス内面に空気を吹き出すものである。デフロスタ開口部25は、回動自在な板状のデフロスタドア26により開閉される。
【0046】
また、空調ケース10の上面部で、デフロスタ開口部25より車両後方側の部位に、フェイス開口部27が形成され、このフェイス開口部27は、図示しないフェイスダクトを介して、車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出すものである。フェイス開口部27は、回動自在な板状のフェイスドア28により開閉される。
【0047】
また、空調ケース10において、フェイス開口部27の下側部位に、フット開口部29が形成され、このフット開口部29は、車室内乗員の足元に向けて空気を吹き出すものである。フット開口部29は、回動自在な板状のフットドア30により開閉される。
【0048】
上記した吹出モードドア26、28、30は、共通のリンク機構(図示せず)に連結され、このリンク機構を介して、サーボモータからなる電気駆動装置31により駆動される。また、蒸発器9の温度センサ32は、空調ケース10内で、蒸発器9の空気吹出直後の部位に配置され、蒸発器吹出温度Teを検出する。また、蓄冷器40の温度センサ33は、蓄冷器40の空気吹出直後の部位に配置され、蓄冷器40吹出温度Tcを検出する。
【0049】
通常の空調装置と同様に、蒸発器9の吹出温度は、温度センサ32の検出信号(蒸発器吹出温度Te)に基づき、可変容量型の圧縮機1の吐出容量を調整することにより、目標蒸発器温度TEOとなるように制御されている。
【0050】
蓄冷器40の温度センサ33の検出信号(蓄冷器40吹出温度Tc)は、蓄冷完了の判定のため、エアミックスドア19の開度制御のために用いられる。蓄冷器40の吹出温度Tcの値によって、エアミックスドア19の開度補正が行われる。
【0051】
空調用制御装置5には、上記の蒸発器9の温度センサ32、蓄冷器40の温度センサ33の他に、空調制御のために、内気温Tr、外気温Tam、日射量Ts、温水温度Tw等を検出する周知のセンサ群35から、検出信号が入力される。また、車室内計器盤近傍に設置される空調制御パネル36には、乗員により操作される操作スイッチ群37が備えられ、この操作スイッチ群37の操作信号も、空調用制御装置5に入力される。
【0052】
この操作スイッチ群37としては、温度設定信号Tsetを発生する温度設定スイッチ37a、風量切替信号を発生する風量スイッチ37b、吹出モード信号を発生する吹出モードスイッチ37c、内外気切替信号を発生する内外気切替スイッチ37d、圧縮機1のオンオフ信号を発生するエアコンスイッチ37e等が設けられている。
【0053】
ここで、フルエアコンスイッチ37fの投入時は、圧縮機1のオン信号を出すとともに、常に車両エンジン4の稼働要求信号を出して、停車時にも、車両エンジン4の運転状態を継続させる。これに反し、エアコンスイッチ37eの投入時は、圧縮機1のオン信号を出すのみで、車両エンジン4の稼働要求信号は出さない。
【0054】
さらに、空調用制御装置5は、エンジン用制御装置38に接続されており、エンジン用制御装置38から空調用制御装置5には、車両エンジン4の回転数信号、車速信号、アクセルペダル踏み込み量信号等が入力される。
【0055】
エンジン用制御装置38は、周知のごとく車両エンジン4の運転状況等を検出するセンサ群(図示せず)からの信号に基づいて、車両エンジン4への燃料噴射量、点火時期等を総合的に制御するものであり、変速機50も制御する。さらに、本発明の対象とするエコラン車、ハイブリッド車においては、フルエアコンスイッチ37fの非投入時に、車両エンジン4の回転数信号、車速信号、ブレーキ信号等に基づいて停車状態を判定すると、エンジン用制御装置38は、点火装置の電源遮断、燃料噴射の停止等により、車両エンジン4を自動的に停止させる。
【0056】
また、エンジン4停止後、運転者がアクセルペダルを踏み込む等の発進操作を行うと、エンジン用制御装置38は、車両の発進操作状態をアクセルペダルセンサ62からのアクセル信号等に基づいて判定して、車両エンジン4を自動的に始動させる。なお、空調用制御装置5は、フルエアコンスイッチ37fがONの場合、車両エンジン4停止後の蓄冷器吹出温度Tcの上昇等に基づいて、エンジン再稼働要求の信号を出力する。
【0057】
空調用制御装置5およびエンジン用制御装置38は、CPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータと、その周辺回路にて構成されるものである。空調用制御装置5は、車両エンジン4の停止許可、停止禁止の信号や、エンジン4停止後の再稼働要求の信号を出力するエンジン制御信号出力部、圧縮機1の吐出容量制御部、内外気切替ドア14aによる内外気吸込制御部、送風機11の風量制御部、エアミックスドア19による温度制御部、開口部25、27、29の切替による吹出モード制御部等を有している。
【0058】
次に、蓄冷器40の具体的な構成について説明する。蓄冷器40は、図1に示すように蒸発器9と同一の前面面積となる形状を有し、蒸発器9通過後の冷風の全量(空調ケース10内風量の全量)が通過する熱交換器構成となっている。これにより、蓄冷器40は、空調ケース10内の空気流れ方向Aに対して、厚さ寸法の小さい薄型構造とすることができる。
【0059】
図4は、蓄冷器40の具体的な熱交換器構成を例示するものである。2枚の伝熱プレート41、42には、それぞれ空気(冷風)流れ方向Aに沿って交互に、凸面部41a、42aが形成されている。この凸面部41a、42aが形成されていない伝熱プレート41、42の面(平面部)が互いに相手側の伝熱プレート41、42の平面部に当接されて、ろう付け等により接合されている。これにより、凸面部41a、42aの内側に密閉空間43を有するチューブ45が形成され、密閉空間43内に蓄冷材44を収納するようになっている。
【0060】
なお、図4において、紙面垂直方向は、空調ケース10内への蓄冷器40の配置状態における上下方向である。従って、伝熱プレート41、42の凸面部41a、42a、および、その内側の密閉空間43も、空調ケース10内の上下方向に延びる形状である。そのため、伝熱プレート41、42の表面に発生する凝縮水は、凸面部41a、42aに沿って重力にて下方へ落下することができる。
【0061】
また、図4には、チューブ45を2組しか図示していないが、実際には、蓄冷器40が蒸発器9と同一の前面面積を持っているので、チューブ45が図4の矢印B方向(空気流れ方向Aと直交方向)に多数組積層されている。
【0062】
この多数組のチューブ45の上下両端部に、チューブ相互間の当接部を設けて、チューブ45相互間に所定間隔の空気通路46を保持するようになっている。そして、各チューブ45の伝熱プレート41、42相互間、および、チューブ45相互間の当接部等を、一体に接合(ろう付け)することにより、蓄冷器40全体を、1つの熱交換器構造として一体化することができる。
【0063】
この実施形態においては、蓄冷器40の主目的が、車両用空調装置における夏場の冷房用であって、蓄冷器40の吹出温度Tcを、15℃程度以下の温度に抑えたいこと、蒸発器9のフロスト防止のために、0℃より高い温度で凝固すること、蓄冷器40構成材質(アルミニュウム)に対する腐食防止作用が得られる等の理由から、蓄冷材44の具体的材質として、凝固点T0=8℃付近のパラフィンを選定している。
【0064】
次に、上記構成において、第1実施形態の作動を説明する。図1において、車両エンジン4により圧縮機1を駆動することにより、冷凍サイクルRが運転され、膨張弁8にて減圧された低温低圧の気液2相冷媒が蒸発器9に流入する。ここで、送風機11の送風空気から吸熱して、低圧冷媒が蒸発することにより送風空気が冷却、除湿されて、冷風となる。
【0065】
蒸発器9の温度は、可変容量型の圧縮機1の制御により、目標温度となる目標蒸発器温度TEOに維持される。ここで、TEOは、後述のように、空調モードの選択に応じて決定されるものであって、TEOを0℃より高い温度とすることにより、蒸発器9のフロストを防止することができる。
【0066】
そして、蒸発器9通過後の冷風が、次には、蓄冷器40の多数組のチューブ45相互間に形成される所定間隔の空気通路46を通過する。ここで、空気通路46の蛇行状の形態により冷風流れを乱して、空気側の熱伝達率を向上できるので、空気通路46を冷風が通過する間に伝熱プレート41、42を介して蓄冷材(パラフィン)44を効果的に冷却できる。そして、蓄冷材44が冷却されて、常温時の液相状態から固相状態に凝固し、凝固潜熱の形態で蓄冷を行うことができる。
【0067】
このため、エコラン車のように、信号待ち等の停車時(エンジン4動力不要時)に、エンジン4を自動的に停止する車両において、停車時に、冷凍サイクルRの圧縮機1が停止状態になっても、車室内への吹出空気温度を、蓄冷材(パラフィン)44の蓄冷量(凝固潜熱)を用いて、比較的低温状態に維持することができる。従って、夏期冷房時における停車時に、圧縮機1の停止に伴う車室内への吹出温度の急上昇を抑制して、冷房フィーリングの悪化を防止できる。
【0068】
次に、この実施形態による蓄冷挙動を具体的に説明する。車両用空調装置においては、送風機11からの送風空気を、先ず最初に、蒸発器9にて冷却、除湿し、その後、エアミックスドア19の開度を調整して、冷風と温風を混合することにより、車室内への吹出温度を目標吹出温度TAOに制御している。その場合に、例えば、TAO=12℃という比較的高い温度であっても、蓄冷材44の蓄冷を極力短時間で完了するためには、本発明に言う目標温度である目標蒸発器温度TEOをできる限り低い温度に設定する必要がある。
【0069】
ここで、蓄冷材44の蓄冷は、図1のように蒸発器9通過後の冷風により行う。よって、蓄冷材44を極力短時間で蓄冷完了するためには、蒸発器吹出温度Teをできる限り低くするのであるが、Te<0℃にすると、蒸発器9のフロスト(凝縮水の凍結)が発生して、蒸発器9の冷却能力を低下させるという問題を生じる。
【0070】
そこで、この実施形態では、蓄冷材44の蓄冷完了を判定し、蓄冷完了後は、目標蒸発器温度(TEO)を、急速蓄冷のための第1目標温度となる初期蓄冷目標蒸発器温度TEOB1より高い温度の、第2目標温度となる蓄冷維持目標蒸発器温度TEOB2に切り替える。ここで、TEOB2は、蓄冷材44の蓄冷(凝固)状態を維持するために、蓄冷材44の凝固点T0(8℃)より若干低い温度(例えば、6℃)に設定する。
【0071】
次に、この実施形態による具体的な蓄冷制御を、図2及び図3を参照して説明する。まず、図2は、空調用制御装置5の模式的な制御ブロック図であり、図3は、空調用制御装置5のマイクロコンピュータにより実行されるフローチャートである。車両エンジン4のイグニッションスイッチがオンされて、空調用制御装置5に電源が供給された状態において、図1に示す空調制御パネル36の操作スイッチ群37のエアコンスイッチ37eが投入されると、このフローチャートに示される制御がスタートする。
【0072】
先ず、ステップS100では、フラグ、タイマー等の初期化がなされ、次のステップS110で、センサ32、33、センサ群35からの検出信号、操作スイッチ群37の操作信号、エンジン用制御装置38からの車両運転信号(アクセルペダル踏み込み量)等を読み込む。
【0073】
続いて、ステップS120にて、車室内へ吹き出される空調風の目標吹出温度TAOを算出する。このステップS120は、図2における目標吹出温度(TAO)算出手段5aに対応する。この目標吹出温度TAOは、車両の空調熱負荷条件が変動しても、車室内を温度設定スイッチ37aの設定温度Tsetに維持するために必要な吹出温度であり、下記数式1に基づいて算出される。
【0074】
(数1)TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C
但し、Tr:センサ群35の内気センサにより検出される内気温、Tam:センサ群35の外気センサにより検出される外気温、Ts:センサ群35の日射センサにより検出される日射量、Kset、Kr、Kam、Ks:制御ゲイン、C:補正用の定数である。
【0075】
次に、ステップS130にて空調モードが通常モードであるか、蓄冷モードであるか、放冷モードであるかを選択(判定)する。ここで、通常モードと蓄冷モードは、車両エンジン4稼働中(車両走行中)に設定するモードであって、この通常モードと蓄冷モードの選択(判定)は、具体的には上記目標吹出温度TAOと、空調制御パネル36のエアコンスイッチ37eおよびフルエアコンスイッチ37fの操作状態とに基づいて行うことができる。このステップS130は、図2における空調モード判定手段5bに対応する。
【0076】
すなわち、フルエアコンスイッチ37fの投入時には、前述のごとく車両エンジン4の稼働要求信号が出されて、停車時にも車両エンジン4の稼働状態が継続されるので、蓄冷モードが不要であり、従って、TAOの如何にかかわらず、通常モードを選択する。また、エアコンスイッチ37eの投入時において、TAOが暖房域に相当する所定温度(例えば、35℃)以上であるときは、蓄冷モードが不要であるので、やはり通常モードを選択する。
【0077】
これに反し、エアコンスイッチ37eの投入時においてTAOが暖房域に相当する所定温度(例えば、35℃)より低いときは、冷房必要域であり、蓄冷モードが必要となるので、蓄冷モードを選択する。ここで、別の選択方式として、例えば、空調制御パネル36の操作スイッチ群37として、蓄冷スイッチを追加して、この蓄冷スイッチの投入時だけ、蓄冷モードを選択し、蓄冷スイッチの非投入時は、常に通常モードを選択するようにしてもよい。
【0078】
このように、通常モードにおいて、図2の第1制御手段5j(ステップS210)により、圧縮機1の吐出容量(即ち、蒸発器の吹出温度)を制御している状態を、第1制御状態という。
【0079】
また、停車時にエンジン4(圧縮機1)が停止し、かつ、エアコンスイッチ37eが投入されているときは、放冷モードを選択する。そして、通常モードが選択されたときは、ステップS140にて、通常モード時の本発明に言う目標温度となる目標蒸発器温度TEOAを決定する。この通常モード時の目標蒸発器温度TEOAは、空調環境条件により決定される空調に必要な目標値であって、この実施形態では、図5に示す第1目標蒸発器温度TEOA1と、図6に示す第2目標蒸発器温度TEOA2に基づいて決定する。
【0080】
即ち、車両エンジン4稼働中における通常モード時(蓄冷モードでないとき)では、上記第1、第2目標蒸発器温度TEOA1、TEOA2のうち、低い温度の方を最終的に、通常モード時の目標蒸発器温度TEOA として決定する。第1目標蒸発器温度TEOA1は、TAOの上昇につれて高くなるように決定する。このステップS140は、図2におけるTEOA決定手段5eに対応する。
【0081】
従って、TEOA1=f(TAO)として表すことができる。なお、第1目標蒸発器温度TEOA1は、本例では12°Cが上限になっている。また、第2目標蒸発器温度TEOA2は、外気温Tamに対応して決定されるものであって、TEOA2=f(Tam)として表すことができる。このTEOA2は、外気温Tamの中間温度域(例えば、18°C〜25°C)では冷房、除湿の必要性が低下するので、第2目標蒸発器温度TEOA2を高く(例えば12°C)して、圧縮機1の稼働率を低減することにより、車両エンジン4の省動力を図る。
【0082】
一方、外気温Tamが25°Cを越える夏期の高温時には、冷房能力確保のため、TEOA2を外気温度Tamの上昇に反比例して低下させる。また、外気温Tamが18°Cより低くなる低温域では、窓ガラス曇り防止のための除湿能力確保のために、TEOA2を外気温Tamの低下とともに低下させる。
【0083】
次に、図3のステップS170にて送風機11により送風される空気の目標送風量BLWを上記TAOに基づいて算出する。この目標送風量BLWは、周知の算出方法により算出することができる。通常上記TAOの高温側(最大暖房側)および低温側(最大冷房側)で、目標風量を大きくし、上記TAOの中間温度域で目標風量BLWを小さくする。
【0084】
次に、ステップS180にて内外気モードを決定する。この内外気モードは、例えば、上記TAOが低温側から高温側へ上昇するにつれて、全内気モード→内外気混入モード→全外気モードと切替設定する。但し、蓄冷モード時において、蓄冷完了までの間は、上記条件とは関係なく、常に強制的に内気モードとすれば、冷房負荷の低減により急速蓄冷の効果を向上できる。
【0085】
次に、ステップS190にて、上記TAOに応じて吹出モードを決定する。この吹出モードは、周知のごとく、TAOが低温側から高温側へ上昇するにつれて、フェイスモード→バイレベルモード→フットモードと切替設定される。
【0086】
次に、ステップS200にて、エアミックスドア19の目標開度SWを、上記TAO、蓄冷器40吹出温度Tc、及び温水温度Twに基づいて算出する。ここで、エアミックスドア19の目標開度SW は、エアミックスドア19の最大冷房位置(図1の実線位置)を0%とし、エアミックスドア19の最大暖房位置(図1の一点鎖線位置)を100%とする百分率で表される。
【0087】
次に、ステップS210に進み、目標蒸発器温度TEOA と温度センサ32により検出される蒸発器吹出温度Teとを比較して可変容量型の圧縮機1の吐出容量制御電流を決定し、圧縮機1の吐出容量を制御する。すなわち、蒸発器吹出温度Teが目標蒸発器温度TEOAより低下すると、吐出容量を減らす方向に、また蒸発器吹出温度TeがTEOAより高くなると、吐出容量を増やす方向に圧縮機1の制御電流を制御する。このステップS210は、図2の第1制御手段5jに対応するもので、空調モードが通常モードであると判定されたときに、圧縮機の吐出容量を制御することにより、蒸発器吹出温度Teが目標蒸発器温度TEOAとなるように制御するものである。
【0088】
次に、ステップS220に進み、空調側条件に基いて、エンジン制御信号(前述の車両エンジン4の停止許可、停止禁止、車両エンジン4停止後の再稼働要求の信号などの図1の信号SG1)を決定する。なお、このステップS220が図2の第2ブレーキ制御手段5mに対応するもので、その作動は後述する。
【0089】
次に、ステップS230に進み、上記各ステップで決定された各制御信号を、各制御対象部に出力する。すなわち、ステップS170の目標風量BLW、ステップS180の内外気モード、ステップS190の吹出モード、ステップS200の目標開度SWが得られるように、送風機11の回転数、内外気ドア14a、吹出モードドア26、28、30、エアミックスドア19の操作位置を制御する。
【0090】
更に、ステップS210(図2における第1制御手段5j)で決定された圧縮機1の制御電流に基づいて、圧縮機1の吐出容量が制御され、これにより、蒸発器吹出温度Teを、通常時の目標蒸発器温度TEOAに制御する。また、ステップS220で決定された、図1のエンジン用制御装置38への信号SG1を出力する。
【0091】
一方、ステップS130(空調モード判定手段5b)で蓄冷モードが選択(判定)されたときは、本発明の目標温度である蓄冷用目標蒸発器温度TEOBを、次のように決定する。ステップS240で、まず、蓄冷材44の蓄冷、すなわち、凝固が完了したか判定する。この判定は、具体的には蓄冷器40吹出温度Tcが、蓄冷材凝固温度T0(8℃)より低い温度に低下したかを判定する。
【0092】
但し、この実施形態では、第2目標温度となる蓄冷維持目標蒸発器温度TEOB2を、前述のように6℃に設定しているので、蓄冷器40の吹出温度がこの第2目標温度よりも低くなったとき(Tc<6℃)、蓄冷完了とする。このステップS240は、図2における蓄冷完了判定手段5cに対応しており、蓄冷材の凝固が完了した状態に基づいて蓄冷の完了を判定する。
【0093】
従って、Tcが6℃以上であるときは、蓄冷完了判定手段5c(ステップS240)は、蓄冷が完了していないと判定し、図2における第1目標温度設定手段5fに対応するステップS250に進み、蒸発器の目標温度を、第1目標温度である初期蓄冷TEOB1=1℃に設定する。このように、ステップS250(第1目標温度設定手段5f)は、ステップS240(蓄冷完了判定手段5c)において、蓄冷材の蓄冷が完了していないと判定されたときに、蒸発器の目標温度(TEOB)を、蓄冷材の凝固温度(8℃)より低い第1目標温度(TEOB1=1℃)に設定している。
【0094】
これに対し、前述のように蓄冷器40の吹出温度が第2目標温度よりも低くなったとき(Tc<6℃)、蓄冷が完了したと判定し、ステップS260に進み、車両が減速状態にあるかを判定する。この車両の減速状態は、この実施形態では、アクセルペダル踏み込み量に基づいて行うようになっており、アクセルペダル踏み込み量がゼロになると、車両が減速状態にあると判定する。このステップS260は、図2における減速状態検出手段5dに対応している。
【0095】
車両が減速状態でないとき、すなわち、加速状態または定速走行状態であるときは、ステップS270に進み、第2目標温度である蓄冷維持TEOB2=6℃を設定する。このステップS270は、図2における第2目標温度設定手段5gに対応するもので、蓄冷完了判定手段5cにおいて、蓄冷材の蓄冷が完了したと判定され、かつ、減速状態検出手段5dが、減速状態を検出していないときに、蒸発器の目標温度を、第1目標温度(TEOB1=1℃)より高く、かつ、凝固温度(8℃)より低い第2目標温度(TEOB2=6℃)に設定する。
【0096】
一方、車両が減速状態にあるときは、ステップS250に進み、蒸発器の目標温度を、蓄冷維持目標意温度より低い第3目標温度である初期蓄冷TEOB1=1℃に設定する。すなわち、車両減速時は、蓄冷が完了していても、初期蓄冷TEOB1=1℃に設定する。このステップS250は、図2における第3目標温度設定手段5hに対応するもので、蓄冷完了判定手段5cが蓄冷材の蓄冷完了を、かつ減速状態検出手段5dが減速状態を検出しているときに、蒸発器の目標温度を、第2目標温度(蓄冷維持TEOB2=6℃)よりも低い、第3目標温度(初期蓄冷TEOB3=TEOB1=1℃)に設定している。
【0097】
なお、この実施形態では、第3目標温度(TEOB3)を、第1目標温度(TEOB1)と同じ1℃としているので、ステップS260の判定がYESの場合、ステップS250に進むようにプログラムが設定されている。しかし、この第3目標温度(TEOB3)は、1℃以外の値でもよいため、そのような場合(例えば、TEOB3=2℃)、ステップS260の判定がYESのとき、ステップS250とは別のステップ(図示せず)に進み、その別のステップで、第3目標温度(TEOB3=2℃)を設定するようにしてもよい。
【0098】
このように、ステップS130(空調モード判定手段5b)において、蓄冷モード又は蓄冷維持モードと判定された場合、蒸発器吹出温度の目標温度(TEOB)が、蓄冷材44の蓄冷状態および車両の減速状態に応じて、第1目標温度(TEOB1)、第2目標温度(TEOB2)、及び第3目標温度(TEOB3=TEOB1)として設定される。そして通常モードの場合と同様に、ステップS170からS230の処理が実行されることになる。
【0099】
即ち、第1目標温度設定手段5f、第2目標温度設定手段5g、及び第3目標温度設定手段5hにより設定された第1乃至第3目標温度(TEOB1〜TEOB3)は、図2における第2制御手段5kにインプットされ、第1制御手段5jと同様に、圧縮機の吐出容量を制御すること(圧縮機への電流制御)により、蒸発器吹出温度Teを第1乃至第3目標温度(TEOB1〜TEOB3)に制御するものである。
【0100】
以上により、蓄冷開始当初には、第1目標温度である、初期蓄冷TEOB1=1℃を設定することにより、蒸発器吹出温度Te=1℃を目標とした可変容量型の圧縮機1の制御が行われる。これにより、蒸発器吹出温度Teが略1℃という低温に制御され、この略1℃の低温冷風により、蓄冷材44の急速蓄冷を実現できる。具体的には、蓄冷材44:凝固点T0=8℃のパラフィンを、300cc用い、略1℃の低温冷風により、蓄冷材44を冷却した場合に、約1分間で蓄冷材44の蓄冷(凝固)を完了できる。
【0101】
一方、蓄冷完了後の車両の加速状態又は定速走行状態においては、初期蓄冷TEOB1=1℃から、第2目標温度である蓄冷維持TEOB2=6℃に、TEOを引き上げる。これにより、蓄冷材44の蓄冷状態を維持しつつ、しかも、圧縮機1の駆動に必要な仕事量を、初期蓄冷TEOB1=1℃のときに比較して、大幅に引き下げて、圧縮機1の駆動動力を低減できる。
【0102】
更に、車両減速時には、蓄冷が完了していても、第2目標温度(6℃)よりも低い第3目標温度TEOB3=TEOB1=1℃に設定するから、初期蓄冷時と同様に、1℃の低温冷風により、蓄冷材44を更に冷却して、顕熱分の蓄冷量を増加できる。このように、車両減速時に、第2目標温度(6℃)よりも低い第3目標温度(1℃)を設定して、圧縮機を制御する状態を、第2制御状態という。また、第2目標温度(6℃)よりも低い第3目標温度(初期蓄冷TEOB1=1℃)を設定することは、同時に、蒸発器9、および、蒸発器9の凝縮水の温度も引き下げて、蒸発器9、および、蒸発器凝縮水への顕熱分の蓄冷量を増加できる。
【0103】
しかも、車両減速時には、車両自身の慣性動力にて車両が走行するため、車両エンジン4の燃料カット制御が行われる。従って、圧縮機1は実質上、車両の慣性動力を回収して駆動される状態になる。この結果、車両減速時に、蓄冷材44、蒸発器9および蒸発器凝縮水への顕熱分の蓄冷量を意図的に増加しておくことにより、蓄冷器40搭載に伴う圧縮機1動力の増加を効果的に低減できる。
【0104】
また、車両減速時には、蓄冷が完了していても第2目標温度(6℃)よりも低い第3目標温度である初期蓄冷TEOB1=1℃を設定して、蓄冷していく(第2制御状態)。しかし、蓄冷器40の吹出温度Tcが、この第3目標温度(1℃)以上低い温度になると、蓄冷できなくなり、圧縮機1の吐出容量を実質的にゼロにする。その結果、圧縮機1による車両の減速トルクが無くなる。つまり圧縮機1で車両エンジン4の動力の一部が吸収できなくなる。第2制御手段5kにより、圧縮機1への制御電流がゼロに制御されるとき、その情報が第2ブレーキ制御手段5mに伝達され、ステップS220にて決定される信号SG1をが、空調用制御装置5からエンジン用制御装置38に送信される。
【0105】
そして、エンジン用制御装置38は、変速機制御手段54を介して、無段変速機50に制御信号を送り、減速比を増加させる。これにより、圧縮機1で吸収できなくなった車両エンジン4の動力の一部、言い換えれば、減速トルクを、車両エンジン4のエンジンブレーキの増加により補う。
【0106】
次に、図3のステップS130で、放冷モードが選択されたときは、ステップS280に進み、放冷モードにおける限界蓄冷器温度TCOを決定する。この限界TCOは、放冷モードにおける蓄冷器40の温度、具体的には、蓄冷器40の吹出温度Tcの上昇により、湿度変化、温度変化、臭い発生、窓曇り発生を乗員に感じさせない、知覚限界点の温度(上限値)であり、所定温度、例えば12℃に固定しても良い。あるいは、この限界TCOを、放冷モードにおける環境変化に応じて補正してもよい。
【0107】
そして、放冷モードでは、ステップS220において、蓄冷器の温度センサ33により検出される蓄冷器40吹出温度Tcと、上記限界TCOとを比較し、Tc<限界TCOである間は、車両エンジン4の停止許可の信号を継続する。これにより、車両エンジン4の停止状態、すなわち、放冷モードが継続される。このステップS220は、図2における第3制御手段5lに対応している。
【0108】
放冷モードの継続により、蓄冷器40の吹出温度Tcが上昇して、Tc≧限界TCOの関係になると、第3制御手段5lは、ステップS220において、車両エンジン4稼働要求の信号を出力し、車両エンジン4を再起動させ、圧縮機1の作動による蒸発器9の冷房作用を再開させる。従って、放冷モードが終了する。
【0109】
次に、図1を用いて、上記構成からなる第1実施形態の、変速機50による減速トルクの増加を更に詳しく説明する。この実施形態の4サイクル内燃機関からなる車両エンジン4は、無段変速機50と差動装置60とを介して、車軸51に動力を伝達する。無段変速機50はエンジン用制御装置38からの信号により減速比(変速比)を切り替える。乗員が加速するときに踏み込む図示しないアクセルペダルには、アクセルペダルセンサ62が備えられ、このセンサ62の信号がエンジン用制御装置38に入力されている。
【0110】
また、減速するときに乗員が踏み込む図示しないブレーキペダルには、ブレーキペダルセンサ65が設けられ、このセンサ65の信号は、ブレーキ用制御装置52に入力されている。そしてブレーキ用制御装置52は、油圧を制御して車軸51近くのブレーキ61を作動させる。よってブレーキ用制御装置52、ブレーキ61、およびブレーキペダルセンサ65で第1ブレーキ手段を構成している。
【0111】
次に、車両エンジン4の動力を変速して、車両の車軸51に伝える、無段変速機50は、エンジン用制御装置38内の、マイクロプロセッサ等で構成された変速機制御手段54から制御される。そして、変速機50の出力が、差動装置60内の差動ギアを通して、車軸51に伝えられる。この変速機50が、車軸51の回転を制動する本発明に言う第2ブレーキ手段を構成する。
【0112】
そして、車両エンジン4の動力により、冷媒を圧縮する圧縮機1を備え、冷媒の気化熱を空調に使用すると共に、蓄冷することができる構成を備える。ここにおいて、空調用制御装置5は前記車室内が所望の空調状態である設定温度となるように、目標温度を設定して前記圧縮機1を制御して前記冷房用熱交換器9を冷却する。
【0113】
図2の第2ブレーキ制御手段5mは、第2制御手段5kによる第2制御状態(車両減速時における第3目標温度TEOB3に向けた制御状態)のときに、蓄冷器40の吹出温度Tcが第3目標温度より低い温度に達したときに(もうそれ以上は冷やせない状態になったときに)第2制御状態での圧縮機1の制御が限界に達したと判定する。
【0114】
そして、第2ブレーキ手段を成す変速機50は、空調制御装置5からの信号SG1に基づく変速機50の制御信号により、変速機50の変速状態を切り替えて、圧縮機1で吸収できなくなった少なくとも一部の動力を、圧縮機1の代わりに吸収させる。
【0115】
そして、エンジン用制御装置38内の変速機制御手段54からの制御信号により、無段変速機50の減速比が、あらかじめ定めた所定量だけ大きくなるよう制御される。この所定量は、固定値でも良いが、さまざまのファクタで変更できる可変量が望ましく、マップ制御によって関係するファクタから演算する。
【0116】
次に、図7に示すこの実施形態のタイムチャートに基づいて、この実施形態の作動を説明する。乗員のアクセル操作(アクセル解除)により、車両の減速状態に先立って、前記アクセルを解除した時点t1から、エンジン出力軸減速トルクτaが増大していく(図7(a)参照)。このエンジン出力軸減速トルクτaは、車両エンジン4の出力軸に作用する減速トルクから、圧縮機1によって車両エンジン4の出力軸に作用する減速トルクを除いた減速トルクであり、減速側を図7(a)上側(+側)として表示している。
【0117】
このエンジン出力軸減速トルクτaは、減速が進行すると共に、即ち、車両エンジン4の回転数の低下に伴って減少して行く。図7(b)のXは、所定量の冷媒流量を送り出して、蒸発器を冷却しているときの可変容量型の圧縮機1の駆動状態を示し、Yは、蒸発器の冷却が限界に達して吐出流量を実質的にゼロにした状態(非駆動状態)を示している。図7(c)におけるτbは、圧縮機1が制動力を車両エンジン4に付与するトルクであるところの圧縮機減速トルクを示している。
【0118】
圧縮機1の制御期間中においては、圧縮機減速トルク発生時期τb1と、圧縮機減速トルク消失時期τb2とが存在する。圧縮機減速トルク発生時期τb1には、圧縮機減速トルクτbを発生している。τb1の期間中において、第2制御状態で圧縮機減速トルクτbを発生しているとき、蓄冷器40の吹出温度Tcが第3目標温度(TEOB3)に達し、第2制御状態での圧縮機1の制御が限界になると、圧縮機が非駆動状態となり、圧縮機減速トルクτbが消失する。その後、圧縮機減速トルク消失時期τb2が開始される。
【0119】
図7(d)のGrは、全トランスミッション減速比を示している。ここでいう全トランスミッション減速比Grは、変速機50の減速作用と差動装置60内の作動ギヤの減速作用を併せて考え、変速機50と差動装置60とを一つの統合された変速機(統合変速機と呼ぶことにする)として考えたときの、統合変速機の減速比である。
【0120】
この実施形態の無段変速機の場合は、減速比Grが、車軸51の回転速度の減少と共にわずかに増加して行き、時点t4の車両停止後は、減速比Grが急に上昇する特性を持っている。
【0121】
図7(e)のτdは、車両エンジン4から車軸51までの間の減速トルクであり、図1のブレーキ61を、乗員の操作により作動させたときの、ブレーキ減速トルクを除いたものであり、このトルクτdをエンジン車軸減速トルクτdと呼ぶことにする。そして、このエンジン車軸減速トルクτdは下記の数式2で示される。
【0122】
(数式2)τd=(τa+τb)×Gr
このように、エンジン車軸減速トルクτdは、エンジン出力軸減速トルクτaと、圧縮機減速トルクτbと、統合変速機の減速比Grに関わり、圧縮機減速トルクτbが消失すると、少なくなる性質のものである。そして統合変速機の減速比Grの変化による影響を受ける。
【0123】
第1ブレーキ手段となる通常のブレーキは、図1のブレーキペダルの踏み込みを検出するブレーキペダルセンサ65からの信号を、ブレーキ用制御装置52が検知して、図示しない油圧機構によりブレーキ61に摩擦力を発生させてブレーキ踏み込み量に応じて車軸51を制動する。図7に示すブレーキ減速トルクτeは、この乗員のブレーキ踏み込み量に対応している。
【0124】
ここで、比較例を、図8に示して説明する。圧縮機減速トルクτbが、実質的に消失したときに(図8(c)のt2の時点)、P1部分(図8(e))で、エンジン車軸減速トルクτdが急に落ち込むので、車両の加速感が発生し、不快に感じた乗員によるフットブレーキの踏み足しがP2部分で行われる(図8(f))。このため多少の遅延時間の後にブレーキ減速トルクτeが増加する(図8(f))。
【0125】
言い換えれば、圧縮機1を駆動して、蓄冷を継続していくと、蓄冷容量が蓄冷器40の容量一杯になる時点t2が存在する。この時点t2にて圧縮機1を停止するか、または、圧縮機1に供給する動力を実質ゼロに減少させることが必要となる。このとき、比較例での制御では、圧縮機1を停止すると、減少した圧縮機減速トルクτbに、乗員がP2部分で反応し、ブレーキペダルの踏み込み力をP2部分で増加させて、ブレーキ減速トルクτeが増加する。
【0126】
このため、人間の反応速度の遅れによりにより,減速度の低下した時期である時点t2から時点t3までの時期が発生し、図8(h)の破線のように車両速度Sdが変化して停止すべきところが、実線のように車両速度Sdが変化して、制動距離が増加することになる。
【0127】
よって、エンジン車軸減速トルクτdと、ブレーキ減速トルクτeとを合成したトルクである最終減速トルクτf(τf=τd+τe)に、落ち込み部分P3が発生する(図8(g))。この比較例での落ち込み部分P3を埋める制御が、この実施形態における制御であり、図7に戻って説明する。
【0128】
この実施形態では、前述したように、車両減速時には、蓄冷が完了していても、第2目標温度(6℃)よりも低い第3目標温度(TEOB3=TEOB1=1℃)を、設定して、第2制御状態において蓄冷していくが、これ以上低い温度になると、蓄冷できなくなり、可変容量型の圧縮機1は、冷媒流量を実質的にゼロにする(t2)。その結果、圧縮機1による減速トルクが無くなる。よって、このときに、図3のステップS220にて決定される信号SG1を、空調用制御装置5からエンジン用制御装置38に送信する。
【0129】
そして、エンジン用制御装置38内の図1に示す変速機制御手段54が、無段変速機50に制御信号を送り、無段変速機50の減速比を増加させる。これにより、統合変速機の減速比Grが、図7(d)のP4部分で上昇し、エンジン車軸減速トルクτdの落ち込みが抑制される結果(図7(e))、最終減速トルクτfにも実質的に落ち込みがP5部分で発生せず(図7(g))、不快な加速感が発生しない。よって、乗員の付加的なブレーキ操作が無くても制動距離が延びず図7(h)の実線のように、車両速度Sdが変化する。
【0130】
言い換えれば、この実施形態では、時点t2で、変速機50により変速して、エンジンブレーキの効果を高めることにより、最終減速トルクの変動を抑制し、制動距離が実質的に延びないようにしている。また、急に制動力が低下することによる、乗員の不安感が発生しない。
【0131】
なお、空調用制御装置5内での圧縮機減速トルクτbの演算は、省略してもよく、圧縮機1による車両の減速トルクが無くなったときに、信号SG1を空調用制御装置5からエンジン用制御装置38に送信し、エンジン用制御装置38から無段変速機50に制御信号を送り、変速機50の減速比をあらかじめ定めた固定量増加させても良い。
【0132】
しかし、この実施形態では、図9に示すように、圧縮機減速トルクτbを、空調用制御装置5内の圧縮機減速トルク演算手段5nにより演算する。この演算されたトルクτbの大きさに応じて、エンジン用制御装置38内の変速機制御手段54における減速比演算手段54aが、可変量となる減速比を演算する。そして演算した値に応じた制御信号を、減速比制御手段54bで作り出して、無段変速機50に入力し、無段変速機50の減速比を可変量分だけ増加させている。なお、圧縮機減速トルクτbの演算は、可変容量を決定する圧縮機の制御電流に基づいて、マップ演算により行っても良いし、冷媒の吐出容量を流量計で実測して、実測した流量に基づくマップ演算により行っても良い。
【0133】
(第1実施形態の変形例)
上述の一実施形態では、アクセルペダルの踏み込み量がゼロになることに基づいて、車両の減速状態を判定しているが、車両の減速状態を、車速の低下に伴う慣性スイッチの動きで検出するか、または、ブレーキペダルの踏み込み等の情報に基づいて判定してもよい。
【0134】
上述の一実施形態では、蒸発器9により、車室内吹出空気を冷却する冷房用熱交換器9を構成しているが、蒸発器により水等の冷却媒体(ブライン)を冷却し、この冷却媒体が循環するブライン式の冷房用熱交換器を、空調ユニットの空気通路内に設置し、ブライン式の冷房用熱交換器により車室内吹出空気を冷却する車両用空調装置に対しても、本発明は同様に適用できる。
【0135】
上述の一実施形態では、蒸発器9の温度を検出する温度検出手段として、蒸発器吹出空気温度Teを検出する温度センサ32を用いているが、蒸発器9の冷媒通路壁面温度や、フィン表面温度を検出する温度センサを用いてもよい。また、蓄冷器40の温度を検出する温度検出手段として、蓄冷器40の吹出空気温度Tcを検出する温度センサ33を用いているが、蓄冷器40の壁面温度等を検出する温度センサを用いてもよい。
【0136】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、特に第1実施形態と異なる部分について図10を用いて説明する。上述の実施形態においては、第2ブレーキ手段として変速機50を採用したが、この第2実施形態では、車両エンジン4によりプーリとベルトとを介して駆動される車両用交流発電機70を第2ブレーキ手段として用いる。
【0137】
車両用交流発電機70は、例えば固定子側に三相交流巻線が巻回され、回転子側に界磁電流がブラシを介して流れ、三相全波整流回路で交流出力を直流に変換して、車両内のバッテリを充電する。界磁電流は所望の出力電圧になるようにレギュレータと呼ばれる車両用交流発電機内の電圧調整器によって調整されている。
【0138】
空調用制御装置5内の第2ブレーキ制御手段5m(図2)は、第2制御手段5kによる第2制御状態での圧縮機1の制御が限界に達したと判定したときに、空調用制御装置5から車両用交流発電機70内のレギュレータに信号を送り、車両用交流発電機70の界磁電流を増加させて、車両用交流発電機70の出力を増加させる。
【0139】
この結果、圧縮機1で吸収しきれなくなった、少なくとも一部の動力を、車両用交流発電機に吸収させ、図7の圧縮機減速トルクτbの減少に代わる減速トルクを発生させて、最終減速トルクτfの落ち込みを抑制する。
【0140】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、特に第1実施形態と異なる部分について、図11を用いて説明する。この実施形態は、電気自動車の一種であるハイブリッドカーについてのものである。なお図1及び図2を援用する。
【0141】
この車両は、少なくとも車両エンジン4によって駆動されて発電すると共に、車軸51を駆動するモータジェネレータ80を有する。そして始動時において、モータジェネレータ80は始動直後のスムーズは発進のために、車軸51に、図示しない変速機を介して、回転動力を供給する。
【0142】
加速時等の走行時には、車両エンジン4からも直接車軸51に動力伝達する。また減速時には、車軸51によってモータジェネレータ80を駆動し、走行用バッテリ81を充電して回生制動を行う。
【0143】
この実施形態の第2ブレーキ手段は、モータジェネレータ80からなり、図2における第2ブレーキ制御手段5mは、第2制御手段5cによる第2制御状態での圧縮機1の制御が限界に達したと判定したときに、エンジン用制御装置38を介して、あるいは、直接的に、モータジェネレータの界磁電流を増加させ、発電電流を増加させて、圧縮機1で吸収しきれなくなった少なくとも一部の動力を、モータジェネレータ80のバッテリ充電出力として吸収する。
【0144】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態を、特に第1実施形態と異なる部分について、図1及び図2を援用して説明する。前述の実施形態においては、第2ブレーキ手段として変速機50や回転電機を使用したが、第4実施形態では、自動ブレーキ手段を用いる。つまり、この実施形態の第2ブレーキ手段は、ブレーキ制御装置52からの自動ブレーキ制御信号によって、乗員のブレーキペダルの操作によらずに、自動的に車軸51の回転を制動する自動ブレーキ手段である。このような自動ブレーキ手段は、車間距離を実測して車両同士が接近したときに、自動的に後続車両内でブレーキをかけるなどの作動を行うものとして周知である。
【0145】
この実施形態での自動ブレーキ手段は、図2の第2制御手段5kによる第2制御状態での圧縮機1の制御が限界に達したと判定したときに、空調用制御装置5から出された信号SG1を、エンジン用制御装置38を介して、ブレーキ用制御装置52が受け取り、図示しない油圧機構を自動制御して自動的に車軸51のブレーキ61を作動させて、制動させるものである。
【0146】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について、特に第1実施形態と異なる部分について図12を用いて説明する。以上の実施形態においては、第2ブレーキ手段として、単一の手段を用いたが、複数の手段を併用したほうが、大きな減速トルクを生じるので、併用することを妨げない。
また、単一の手段では、必要な減速トルクが充分に得られないとか、減速トルクが大きすぎるという問題がある。
【0147】
例えば、変速機50の変速段数が限られている場合は、一段減速すると、大きなエンジンブレーキや変速機50内での減速トルクが発生する場合もある。また、車両用交流発電機やモータジェネレータの場合は、バッテリの充電状態に発電出力、つまり、発生する減速トルクの大きさが左右される。
【0148】
よって、この実施形態は、複数の手段を第2ブレーキ手段として用い、状況に応じて組み合わせ使用、あるいは、単独使用することを選択するようにしたものである。図12において、空調用制御装置5内の第2ブレーキ制御手段5mは、可変容量型の圧縮機1の吐出容積制御電流の大きさを検出する。そして、第2ブレーキ制御手段5mは、検出した値から圧縮機減速トルクτbの大きさを求め、この圧縮機減速トルクτbの大きさを、選択手段となる選択装置90に入力する。
【0149】
ここで、第2ブレーキ手段としては、複数の手段が使用され、変速機50、車両用交流発電機70、ブレーキ用制御装置52を使用した自動ブレーキ手段である。そして、選択装置90は、時々刻々、車両用交流発電機70が取り得る負荷増加量をバッテリの充電状態から把握している。その上で、演算された圧縮機減速トルクτbの大きさが、選択装置90に入力されると、この演算された圧縮機減速トルクτbの大きさに合致する第2ブレーキ手段の組み合わせを選択する。
【0150】
このためには、演算された圧縮機減速トルクτbの大きさと、選択される手段の種類がマップに記載され、マップ制御を用いて、いずれかの手段を選択する。ここで、必要とされる減速トルクが大きい場合は、同時に複数の手段を、第2ブレーキ手段として作動させ、減速トルクが小さい場合は、単独の手段で第2ブレーキ手段を作動させる。
【0151】
図12では、変速機50、車両用交流発電機70、自動ブレーキ手段の組み合わせが、第2ブレーキ手段として使用可能であり、必要とされる減速トルクの大きさの順に、変速機と車両用交流発電機と自動ブレーキ手段との3手段併用制御、変速機と車両用交流発電機との2手段併用制御、変速機単独制御、車両用交流発電機単独制御、自動ブレーキ手段単独制御が選択される。
【0152】
この場合、単独制御では、自動ブレーキ手段が最後に選択され、極力、変速機単独制御、車両用交流発電機単独制御等の、他の手段の制御が優先される。これは、通常のブレーキ操作よりも、エンジンブレーキが優先されるのと同じ理由である。また、減速時の車両の持つ動力をすぐに熱エネルギとして放散するよりも、回生してまずバッテリに充電したほうが、エネルギ効率が良いためである。
【0153】
(その他の実施形態)
なお、乗員による突発的なブレーキ操作をなくすために、最終減速トルクτfが、図7のP5部分のように一定であり、落ち込みの無い平坦なことが好ましいが、図8の比較例で述べたように、P3部分で最終減速トルクが落ち込むよりは、むしろ最終減速トルクが大きくなるよう、変速機等を制御することが好ましい。これは、最終減速トルクの変動が除去できない場合は、制動力が増加する側に制御することで安全側に制御できるからである。しかしながら、多少の最終減速トルクの落ち込みは本発明の範囲内であり、変化の前後で最終減速トルクの変動が小さくなるよう制御できれば良い。
【0154】
また圧縮機は、可変容量型にかかわらず、固定容量型圧縮機を用いて、車両エンジンの回転力を変速可能なカップリングで自動変速して、固定容量型圧縮機の回転数を自在に制御しながら、回転駆動できるものを使用しても良い。要はクラッチでオンオフして、冷媒流量が流れたり流れなかったりを常に繰り返すものでなく、空調負荷に応じて滑らかに冷媒流量を制御できるものであれば良い。
【0155】
また、変速機は、無段変速機でなくても良く、その他の自動変速機を用いても良いが、変速比を他段階で変えられるものが好ましい。
【0156】
また、第2ブレーキ制御手段は、第2制御手段による第2制御状態での圧縮機の制御が限界に達したと判定したときに、第2ブレーキ手段に信号を発して、圧縮機で吸収しきれなくなった少なくとも一部の動力を、第2ブレーキ手段に吸収させるが、この限界の設定は、変速機等を制御する場合は、早めに信号が出るように設定した方がよい。従って、車両用空調装置の制御上での実際の限界よりも、余裕を持った時点で、限界との信号を出しても良いし、限界値に近づく変化分が速いこと検出して、微分制御により事前に限界との信号を出しても良い。
【0157】
また、本発明の蓄冷は冷房用熱交換器だけでも可能であるが、上記のように蓄冷材を使用すると、一層の蓄冷が可能になる。また、蓄冷手段は、蓄冷材を備えた独立した蓄冷器である必要はなく、冷房用熱交換器自体に蓄冷材を組み込んだものであっても良い。
【0158】
また、冷房用熱交換器だけで蓄冷するときは、空調装置として必要な冷却度合いよりも更にフロスト直前まで冷房用熱交換器が冷却される。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】本発明の第1実施形態による、車両の空調および制動制御装置の全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に用いる、空調用制御装置の概要を示す、模式構成図である。
【図3】第1実施形態に用いる、空調用制御装置の作動を説明する、フローチャートである。
【図4】第1実施形態に用いる、蓄冷器の構造を示す、一部断面図である。
【図5】第1実施形態での、空調用制御装置の目標温度設定に用いる、第1目標蒸発器温度を説明するグラフである。
【図6】第1実施形態での、空調用制御装置の目標温度設定に用いる、第2目標蒸発器温度を説明するグラフである。
【図7】本発明の第1実施形態による、車両の空調および制動制御装置の、制動時の作動を示すタイムチャートである。
【図8】本発明の比較例における、制動時の作動を示すタイムチャートである。
【図9】本発明の第1実施形態において、圧縮機減速トルクを演算して、無段変速機を制御する状態を示す模式構成図である。
【図10】本発明の第2実施形態を示し、第2ブレーキ手段として、車両用交流発電機を用いた場合の模式構成図である。
【図11】本発明の第3実施形態を示し、第2ブレーキ手段として、モータジェネレータを用いた場合の模式構成図である。
【図12】本発明の第5実施形態による、車両の空調および制動制御装置の概要を示す、模式構成図である。
【符号の説明】
【0160】
1 圧縮機
4 車両エンジン
5 空調制御手段を構成する空調用制御装置
5b 空調モード判定手段
5f 第1目標温度設定手段
5g 第2目標温度設定手段
5h 第3目標温度設定手段
5j 第1制御手段
5k 第2制御手段
5l 第3制御手段
5m 第2ブレーキ制御手段
5n トルク演算手段
5c 蓄冷完了判定手段
5d 減速状態検出手段
9 冷房用熱交換器を成す蒸発器
11 送風機
32 蒸発器の温度センサ
33 蓄冷器の温度センサ
38 エンジン用制御装置
40 蓄冷器
44 蓄冷材
50 変速機
51 車軸
52 ブレーキ用制御装置
54 変速機制御装置
60 差動装置
52、61、65 第1ブレーキ手段
50、70、80、90 第2ブレーキ手段
70 車両用交流発電機
80 モータジェネレータ
90 選択手段を構成する選択装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両エンジン(4)により駆動される圧縮機(1)、
前記圧縮機(1)によって作動する冷凍サイクルの冷却能力により、車室内へ送風される空気を冷却する冷房用熱交換器(9)、
車室内の空調モードが通常モードにあると判定された場合に、前記冷房用熱交換器(9)の温度(Te)が目標蒸発器温度(TEO)となるように前記圧縮機(1)を制御する第1制御状態を実行する第1制御手段(5j)を有する空調制御装置(5)、
乗員の操作により、前記車両の車軸(51)の回転を制動する第1ブレーキ手段(52、61、65)、および
前記第1ブレーキ手段(52,61、65)とは別に、前記車両エンジン(4)の動力を吸収し、前記車軸(51)の回転を制動する第2ブレーキ手段(50、70、80、90)を有する車両の空調および制動制御装置において、
車両の減速状態を検出する減速状態検出手段(5d)と、
車室内の空調モードが蓄冷モードにあると判定された場合に、前記車両が減速状態にあり、かつ、少なくとも前記冷房用熱交換器(9)における蓄冷が未だ可能な状態にあるとき、前記冷房用熱交換器(9)の吹出温度が前記目標蒸発器温度(TEO)よりも低い第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)となるように前記圧縮機(1)を制御する第2制御状態を実行する第2制御手段(5k)と、
前記蓄冷モードの第2制御状態において、前記第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)における蓄冷が完了して、それ以上の蓄冷が不可能となったとき、前記車両エンジン(4)の動力の一部を、前記第2ブレーキ手段(50、70、80、90)により吸収させる第2ブレーキ制御手段(5m)を備えることを特徴とする車両の空調および制動制御装置。
【請求項2】
更に、前記冷房用熱交換器(9)自体、又は該冷房用熱交換器(9)の下流側、に備えられ、前記冷房用熱交換器(9)により蓄冷される蓄冷手段(40)を有し、
前記第2制御手段(5k)は、前記車室内の空調モードが蓄冷モードにあると判定された場合に、前記車両が減速状態にあり、かつ前記冷房用熱交換器(9)及び前記蓄冷手段(40)における蓄冷が未だ可能な状態にあるとき、前記蓄冷手段(40)の温度(Tc)が前記目標蒸発器温度(TEO)よりも低い第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)となるように前記圧縮機(1)を制御する第2制御状態を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両の空調および制動制御装置。
【請求項3】
前記第2ブレーキ手段(50、70、80、90)は、
前記車両エンジン(4)の動力を変速して前記車軸(51)に伝える変速機(50)、
前記車両エンジン(4)の動力で発電してバッテリを充電する車両用交流発電機(70)、
前記車両エンジン(4)によって駆動されて発電すると共に前記車軸(51)を駆動するモータジェネレータ(80)、及び
前記第1ブレーキ手段(52、61、65)のブレーキ制御装置(52)からのブレーキ制御信号によって、前記乗員の操作によらず自動的に前記車両の車軸(51)の回転を制動する自動ブレーキ手段(52、61)のうち、少なくともいずれか1つから構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の空調および制動制御装置。
【請求項4】
前記複数の第2ブレーキ手段(50、70、80、90)のうち、少なくとも一つの第2ブレーキ手段、又はそれらを組み合わせた複数の第2ブレーキ手段を選択する選択手段(90)が更に備えられ、
前記第2ブレーキ制御手段(5m)は、前記蓄冷モードの第2制御状態において、前記第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)における蓄冷が完了して、それ以上の蓄冷が不可能となったとき、前記圧縮機(1)で吸収できなくなった前記車両エンジン(4)の動力の大きさを演算するトルク演算手段(5n)を有し、
前記選択手段(90)は、前記トルク演算手段(5n)により演算された前記車両エンジン(4)の動力の大きさに応じて、前記複数の第2ブレーキ手段(50、70、80、90)の中から、適切な少なくとも一つの第2ブレーキ手段を選択することを特徴とする請求項3に記載の車両の空調および制動制御装置。
【請求項5】
前記車両は、前記車両エンジン(4)の動力で発電してバッテリを充電する車両用交流発電機(70)と、前記車両エンジン(4)の動力を変速して前記車軸(51)に伝える変速機(50)を有し、
前記第2ブレーキ手段は、前記変速機(50)、又は前記車両用交流発電機(70)から構成されており、
前記第2ブレーキ制御手段(5c)は、前記変速機(50)の変速状態を切り替えること、又は前記車両用交流発電機(70)の発電出力を切り替えることにより、前記圧縮機(1)で吸収できなくなった前記車両用エンジン(4)の動力の一部を吸収するように制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の空調および制動制御装置。
【請求項6】
前記車両は、前記車両エンジン(4)の動力で発電してバッテリを充電する車両用交流発電機(70)と、前記車両エンジン(4)の動力を変速して前記車軸(51)に伝える変速機(50)を有し、
前記第2ブレーキ手段は、前記車両エンジン(4)の動力を変速して前記車軸(51)に伝える変速機(50)、及び前記車両エンジン(4)の動力で発電してバッテリを充電する前記車両用交流発電機(70)から構成されており、
前記第2ブレーキ制御手段(5c)は、前記変速機(50)の変速状態を切り替えること、及び前記車両用交流発電機(70)の発電出力を切り替えることにより、前記圧縮機(1)で吸収できなくなった前記車両用エンジン(4)の動力の一部を吸収するように制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の空調および制動制御装置。
【請求項7】
前記空調制御装置(5)は、更に
前記蓄冷手段(40)における蓄冷が完了しているか否かを判定する蓄冷完了判定手段(5c)と、
前記蓄冷手段(40)の蓄冷状態を制御するための第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)を設定する第1目標温度設定手段(5f)、第2の蓄冷目標温度(TEOD1=6℃)を設定する第2目標温度設定手段(5g)、及び第3の蓄冷目標温度(TEOD3=1℃)を設定する第3目標温度設定手段(5h)を有し、
前記蓄冷手段(40)における蓄冷が完了していないと前記蓄冷完了判定手段(5c)により判定されたとき、前記第2制御手段(5k)は、前記蓄冷手段(40)の温度(Tc)が前記第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)となるように前記圧縮機(1)を制御し、
前記蓄冷手段(40)における蓄冷が完了していると前記蓄冷完了判定手段(5c)により判定されたときであって、かつ前記車両が減速状態にないと前記減速状態検出手段(5d)により判定されているときは、前記第2制御手段(5k)は、前記蓄冷手段(40)の温度(Tc)が前記第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)よりも高く、かつ前記蓄冷手段(40)の蓄冷材の凝固点(8℃)よりも低い、前記第2の蓄冷目標温度(TEOD2=6℃)となるように前記圧縮機(1)を制御し、
更に、前記蓄冷手段(40)における蓄冷が完了していると前記蓄冷完了判定手段(5c)により判定されたときであって、かつ前記車両が減速状態にあると前記減速状態検出手段(5d)により判定されているときは、前記第2制御手段(5k)は、前記蓄冷手段(40)の温度(Tc)が前記第1の蓄冷目標温度(TEOD1=1℃)と同じ温度、又はそれよりも高く、かつ前記第2の蓄冷目標温度(TEOD2=6℃)よりも低い第3の蓄冷目標温度(TEOD3=1℃)となるように前記圧縮機(1)を制御し、
前記第2ブレーキ制御手段(5m)は、前記蓄冷手段(40)の温度(Tc)が前記第3の蓄冷目標温度(TEOD3=1℃)に達したとき、前記蓄冷手段(40)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定することを特徴とする請求項2に記載の車両の空調および制動制御装置。
【請求項8】
前記変速機(50)は、連続的に変速状態を可変できる無段変速機から成り、
前記第2ブレーキ手段は、前記無段変速機(50)から成り、
前記第2ブレーキ制御手段(5m)は、前記冷房用熱交換器(9)又は前記蓄冷手段(40)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定されたとき、前記無段変速機(50)の減速比をあらかじめ定めた所定量だけ大きくすることを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一項に記載の車両の空調および制動制御装置。
【請求項9】
前記第2制御手段(5k)が前記圧縮機(1)を前記第2制御状態で制御することにより、前記圧縮機(1)が圧縮機減速トルクを発生しているときに、前記冷房用熱交換器(9)又は前記蓄冷手段(40)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定されたとき、前記第2制御手段(5k)は前記圧縮機(1)の駆動を停止し、
前記空調制御装置(5)は、
前記圧縮機(1)の駆動停止により消失する前記圧縮機減速トルクの大きさを演算する圧縮機減速トルク演算手段(5n)と、
演算された前記圧縮機減速トルクの大きさに基づいて、前記減速比を大きくする前記所定量を演算する減速比演算手段(54a)、および
前記演算された前記所定量に基づいて、前記変速機(50)に減速比制御信号を送る減速比制御手段(54b)を、更に有することを特徴とする請求項8に記載の車両の空調および制動制御装置。
【請求項10】
前記圧縮機減速トルク演算手段(5n)による前記圧縮機減速トルクの演算は、前記圧縮機(1)の吐出容量制御信号、または、前記圧縮機(1)を流れる冷媒の流量を用いて行われることを特徴とする請求項9記載の車両の空調および制動制御装置。
【請求項11】
前記第2ブレーキ手段は、前記車両エンジン(4)の動力で発電してバッテリを充電する車両用交流発電機(70)から構成されており、
前記第2ブレーキ制御手段(5m)は、前記冷房用熱交換器(9)又は前記蓄冷手段(40)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定されたとき、前記車両用交流発電機(70)の界磁電流を増加させることにより、前記圧縮機(1)で吸収できなくなった前記車両用エンジン(4)の動力の一部を吸収するように制御することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の車両の空調および制動制御装置。
【請求項12】
前記車両は、前記車両エンジン(4)によって駆動されて発電すると共に前記車軸(51)を駆動するモータジェネレータ(80)を有し、
前記第2ブレーキ手段は、前記モータジェネレータ(80)から構成されており、
前記第2ブレーキ制御手段(5m)は、少なくとも前記冷房用熱交換器(9)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定されたとき、前記モータジェネレータ(80)の発電出力を増加させることにより、前記圧縮機(1)で吸収できなくなった前記車両用エンジン(4)の動力の一部を吸収するように制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の空調および制動制御装置。
【請求項13】
前記第2ブレーキ手段は、前記第1ブレーキ手段(52、61、65)のブレーキ制御装置(52)からのブレーキ制御信号によって、前記乗員の操作によらず自動的に前記車両の車軸(51)の回転を制動する自動ブレーキ手段(52、61)から構成されており、
前記第2ブレーキ制御手段(5m)は、少なくとも前記冷房用熱交換器(9)における蓄冷がそれ以上は不可能であると判定されたとき、前記自動ブレーキ手段(52、61)によって、前記車両の車軸(51)の回転を自動的に制動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の空調および制動制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−30497(P2010−30497A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196308(P2008−196308)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】