説明

車両の電力制御装置

【課題】例えば、車両が障害物を緊急に回避する緊急回避時に生じる各種アクチュエータにおける電力不足を解消する。
【解決手段】緊急回避時に各アクチュエータで必要となる電力を賄えるように、オルタネータが発電する発電量(Pg)の上限値である発電量Pg1より大きい目標発電量Pg2に発電量の上限値を設定する。オルタネータは、車両の緊急回避時において、ECUによる制御下で、目標発電量(Pg2)を上限値として発電量を一時的に増大させる。オルタネータが発電する発電量が増大することによって、オルタネータから各アクチュエータに供給される電力が増大し、各動作部分を動作させるために十分な駆動力を当該動作部分に供給可能なようにアクチュエータを駆動することが可能である。したがって、アクチュエータにおける電力不足が発生することなく、車両は緊急に障害物200を回避することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両に搭載されたオルタネータ等の発電装置が発電する発電量を制御するための車両の電力制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置では、駆動輪を駆動する交流モータに必要な電力を供給する発電機の界磁を制御する車両用駆動制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、この種の装置では、自動車の緊急操舵時において運転者の操作に対する自動車の追従性が損なわれないようにするために、オルタネータ等の発電機と、電動パワーステアリング装置(EPS)とを電気的に直接接続し、発電機から電動パワーステアリング装置に直接電力を供給する自動車の電源システムが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−206040号公報
【特許文献2】特開2003−137115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された技術によれば、車両の通常走行時には、オルタネータ等の発電機が発電する電力が無駄にならないように発電機による発電量が一定の発電量に制限されているため、緊急回避時に発電機から電動パワーステアリング装置に直接電力を供給したとしても、車両が障害物を回避する緊急回避時に電動パワーステアリング装置等のアクチュエータが必要とする電力を発電機から供給できない場合が生じる虞がある。特に、緊急回避時には、各アクチュエータに対して、通常走行時よりも大きな力又は速度が要求されるため、電動パワーステアリング装置等のアクチュエータにおける電力が不足する発生する可能性が高い。
【0005】
このように、電動パワーステアリング装置等のアクチュエータに電力不足が生じた場合、運転者によるステアリング操作だけでは、障害物を回避可能なように車両の走行状態を制御することが困難になる。また、緊急回避時には、電動パワーステアリング装置だけでなく、例えば、エンジン等の内燃機関におけるスロットル弁、ブレーキ、及びサスペンション等の動作部分の夫々に駆動力を供給するスロットルアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、及びサスペンションアクチュエータ等の各種アクチュエータの動作を協調させることによって車両の走行状態が制御されるため、これら各種アクチュエータが必要とする電力が不足する可能性も高く、車両が障害物を緊急に回避することがより一層困難になる。
【0006】
また、発電機が発電する発電量が制限されているため、これら各種アクチュエータの夫々に供給される電力の供給量を相互に調整したとしても、各種アクチュエータの動作性能を低下させることになり、車両による障害物の緊急回避が困難になる。
【0007】
ここで、緊急回避時より前の車両の通常走行時に予め発電機による発電量を多めに設定しておくことによって、緊急回避時における電力不足を補う方法が考えられるが、車両の通常走行時において無駄になる電力が増大するうえ、バッテリ等の蓄電装置及びオルタネータ等の発電機に要するコストも増大する。したがって、このような方法は、車両のコスト、及びエネルギーの効率的な使用の観点から見れば、好ましい方法であるとは言い難い。
【0008】
よって、本発明は上記問題点等に鑑みてなされたものであり、例えば、車両が障害物を緊急に回避する緊急回避時に、各種アクチュエータが必要とする電力をこれらアクチュエータに供給できる車両の電力制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両の電力制御装置は上記課題を解決するために、車両が障害物を緊急に回避する緊急回避時に動作する動作部分に駆動力を供給するアクチュエータと、前記車両に搭載された内燃機関から出力された動力を用いて発電し、前記アクチュエータに電力を供給する発電装置と、前記車両が前記障害物を回避する緊急度を取得する取得手段と、
該取得された緊急度に基づいて、前記緊急回避時に前記発電装置が発電する発電量が一時的に増大するように、前記発電装置を制御する制御手段とを備える。
【0010】
本発明に係る車両の電力制御装置によれば、車両が障害物を緊急に回避する緊急回避時に動作する動作部分は、例えば、エンジン等の内燃機関におけるスロットル、ブレーキ、サスペンション、電動パワーステアリング装置(EPS)であり、車両の走行状態を制御するために動作する部分である。このような動作部分は、スロットルアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、及びサスペンションアクチュエータ、EPS用のアクチュエータ等の各種アクチュエータから供給される駆動力によって各々駆動される。
【0011】
尚、「緊急回避」とは、車両が走行する走行中に、車両の走行路に突然出現した障害物を回避することをいい、「緊急回避時」とは、車両が障害物を回避するように車両の運転者が車両に対してステアリング、及びブレーキ等の各種動作部分に対して回避操作を行った操作時、若しくは、搭載されたセンサによって障害物が検知された際に、車両の速度及び障害物間の距離に基づいて予め設定された緊急回避条件に車両の走行状態が合致したと判断された時をいう。
【0012】
発電装置は、例えば、前記車両に搭載されたエンジン等の内燃機関から出力された動力を用いて発電するオルタネータであり、電力をアクチュエータに供給する。
【0013】
取得手段は、前記車両が前記障害物を回避する緊急度を取得する。このような緊急度は、例えば、センサから得られた当該車両の周辺状況に基づいて数値化された情報を含む信号により具体的に特定される。
【0014】
制御手段は、例えば、エンジンコントロールユニット(ECU)と一体に、或いは別に設けられたレギュレータ等の制御装置であり、取得された緊急度に基づいて、前記緊急回避時に前記発電装置が発電する発電量が一時的に増大するように、前記発電装置を制御する。より具体的には、例えば、センサから供給された緊急回避を示す緊急回避信号、或いは運転者による車両に対する緊急回避操作が行われた旨を示す信号に基づいて特定された緊急度に基づいて、オルタネータ等の発電装置が発電する発電量が増大するようにオルタネータ等の発電装置を制御する。
【0015】
したがって、本発明に係る車両の電力制御装置によれば、車両の緊急回避時に発電装置が発電する発電量が増大するため、発電装置からアクチュエータに供給される電力の供給量が、緊急回避時より前の車両の通常走行時より増大する。よって、アクチュエータは、発電装置が発電する発電量が車両通常走行に応じて制限されている場合に比べて、動作部分の動作性能を低下させることなく、車両が障害物を回避可能なように駆動力を動作部分に供給できる。このように、本発明に係る車両の電力制御装置によれば、予期せぬ障害物が車両の走行路に出現した場合でも、車両は即座に障害物を回避できる。
【0016】
尚、本発明における「一時的に」とは、緊急回避時のみを意味し、車両による緊急回避が終了した際には、発電装置の発電量は、緊急回避時より前の通常の走行時における発電量に戻る。したがって、本発明に係る車両の電力制御装置によれば、緊急回避時に一時的に発電装置の発電量が増大するため、緊急回避時ではない車両の走行時、即ち通常の走行時には、発電装置が発電した電力が無駄になることがなく、内燃機関で出力された動力を効率良く発電に用いることが可能である。
【0017】
本発明に係る車両の電力制御装置の一の態様では、前記制御手段は、前記緊急回避時より前に前記発電装置に設定されていた前記発電量の通常の上限値を該通常の上限値より高い緊急回避時の上限値に設定してもよい。
【0018】
この態様によれば、「通常の上限値」とは、前記緊急回避時より前に前記発電装置に設定されていた発電量の上限値であって、車両の通常走行時に、即ち緊急回避時ではない走行時に、発電装置が発電する電力が無駄にならないように、設定された発電量の上限値をいう。この態様によれば、緊急回避時における発電量の上限値が、通常の上限値より高い発電量に設定されているため、動作部分を動作させるために十分な駆動力を動作部分に供給可能なようにアクチュエータを駆動することが可能である。
【0019】
この態様では、前記制御手段は、前記緊急回避時の緊急度に応じて、前記緊急回避時の上限値を設定してもよい。
【0020】
この態様によれば、緊急度は、制御手段によって特定される、例えば、車両が障害物を回避するように車両の運転者が車両に対してステアリング、及びブレーキ等の各種動作部分に対して行った回避操作の操作速度、より具体的には、運転者から単位時間当たりにステアリングに付与される回転力或いは回転角度の大きさ、又は運転者がブレーキを踏み込む単位時間当たりの踏み込み量に基づいて特定される。また、緊急度は、車両に搭載されたセンサによって障害物が検知された際の車両の速度と、その際の車両及び障害物間の距離等の車両及び障害物の相対的な位置関係とに基づいて特定されてもよい。
【0021】
制御手段は、このような緊急度に応じて、例えば、緊急度が高い場合、即ち緊急回避時にアクチュエータで消費される電力が多い場合には、緊急度が低い場合、即ち、緊急回避時にアクチュエータで消費される電力が相対的に少ない場合に比べて、前記緊急回避時の上限値を高く設定する。
【0022】
したがって、この態様によれば、緊急回避時にアクチュエータで消費される電力より多い電力を確実に発電装置からアクチュエータに供給でき、車両は障害物を確実、且つ即座に回避できる。
【0023】
本発明に係る車両の電力制御装置の他の態様では、前記内燃機関の回転数が変更されることなく前記発電量を変更可能なように、前記動力を前記発電装置に伝達する伝達機構を更に備えていてもよい。
【0024】
この態様によれば、内燃機関の回転数が変更されないため、例えば、内燃機関から出力された動力のうち発電装置に供給されない動力部分によって駆動される駆動輪等の駆動系に供給される供給駆動力が緊急回避時より前と緊急回避時とに亘って変動する変動量を低減でき、運転者が感じる違和感を低減できる。このような変動量としては、例えば、緊急回避時より前と緊急回避時とに亘って内燃機関の回転数の変化に起因して変化する可能性がある車両の速度の変化量が挙げられる。
【0025】
内燃機関から出力された動力を発電装置に伝達する伝達機構は、例えば、内燃機関及び発電装置を機械的に接続するプーリであり、内燃機関から出力された動力のうち発電装置に伝達される動力の割合を規定するプーリ比が制御手段の制御下で変更される。より具体的には、例えば、制御手段の制御下でプーリ等の伝達機構は、オルタネータ等の発電装置の回転数と、エンジン等の内燃機関の回転数との比を変更することができ、前記内燃機関の回転数が変更されることないように内燃機関から出力された動力を発電装置に伝達することが可能である。
【0026】
したがって、この態様によれば、内燃機関の回転数の変化に起因して生じる車両の速度変化を低減することが可能である。尚、伝達機構は、内燃機関から発電装置に動力を伝達可能な機構であれば、上述したプーリに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0027】
本発明に係る車両の電力制御装置の他の態様では、前記制御手段は、前記緊急回避時より前に設定されていた前記内燃機関の回転数より高い目標回転数を設定し、前記内燃機関が前記目標回転数で駆動されるように前記内燃機関を制御してもよい。
【0028】
この態様によれば、緊急回避時に内燃機関の回転数を積極的に高めることによって、内燃機関から出力される動力の出力量を増大させることができ、発電装置が発電する発電量を増大させることが可能である。
【0029】
この態様では、前記制御手段は、前記緊急回避時の緊急度に応じて、前記目標回転数を設定してもよい。
【0030】
この態様によれば、目標回転数は、前記緊急回避時の緊急度に応じて、例えば、緊急回避時において車両が障害物を回避可能なように動作部分を動作させる際に動作部分に要する駆動力をアクチュエータから動作部分に供給できるように、且つ発電装置が発電した電力が無駄にならないように、制御手段の制御下で設定される。この態様における緊急度は、上述した緊急度と同様の意味である。
【0031】
したがって、この態様によれば、発電装置が発電した電力を無駄にすることなく、且つ車両による緊急回避が可能なように、発電装置の発電量を増大させることが可能である。
【0032】
本発明に係る車両の電力制御装置の他の態様では、前記制御手段は、前記緊急回避時における前記車両の走行状態を示す緊急回避時の指標値と、前記緊急回避時より前の走行時における前記車両の走行状態を示す前記緊急回避時より前の指標値との差が小さくなるように、前記目標回転数を設定し、且つ前記車両の変速機構、及び前記アクチュエータの少なくとも一方を制御してもよい。
【0033】
この態様によれば、前記緊急回避時における前記車両の走行状態を示す緊急回避時の指標値と、前記緊急回避時より前の走行時における前記車両の走行状態を示す前記緊急回避時より前の指標値とは、前記緊急回避時、及び前記緊急回避時より前の夫々における車両の速度、並びに、車両の速度が増大する場合及び減速する場合の夫々における車両の単位時間当たりの速度変化を意味する加速度等を含、車両の走行状態を物理的に特定する各種の値を意味する。
【0034】
この態様によれば、例えば、前記緊急回避時における車両の速度と、前記緊急回避時より前の走行時における車両の速度との差が小さくなるように、言い換えれば、車両による緊急回避によって運転者に違和感を与えないように、制御手段は、前記目標回転数を設定し、且つ前記車両の変速機構、及び前記アクチュエータの少なくとも一方を制御してもよい。
【0035】
したがって、この態様によれば、内燃機関の回転数が目標回転数に設定されることによって生じる可能性がある違和感を低減でき、緊急回避時において運転者が感じる違和感を低減することが可能である。
【0036】
この態様では、前記制御手段は、前記発電装置が前記目標回転数に応じた電力を発電でき、前記車両の運転者による前記動作部分に対応する操作部分に対する操作に応じて前記車両が走行するように、少なくとも前記変速機構の段数を変更してもよい。
【0037】
この態様によれば、前記目標回転数に応じて内燃機関から出力された動力に応じて発電装置で発電される電力をいう。目標回転数は、緊急回避時より前における車両の通常の走行時に設定されていた内燃機関の回転数より高いため、内燃機関の回転数の増大に応じて、車両の加速度が変化し、運転者に違和感を与えてしまう虞がある。
【0038】
そこで、この態様では、前記車両の運転者による前記動作部分に対応する操作部分に対する操作に応じて前記車両が走行するように、より具体的には、運転者が緊急回避時にハンドルを操作するハンドル操作、或いは運転者が緊急回避時にブレーキを踏み込むブレーキ操作等の各種操作に応じて、制御手段の制御下で、操作、或いは走行状態に対して違和感が運転者に生じないように、少なくともトランスミッション等の変速機構の段数が変更される。
【0039】
より具体的には、例えば、動作部分の一例がステアリングである場合には、当該ステアリングに対応する操作部分はハンドルとなり、動作部分の一例がブレーキである場合には、当該ブレーキに対応する操作部分はブレーキペダルとなる。
【0040】
また、内燃機関の回転数が緊急回避時より前より高い目標回転数に設定された場合には、回転数の変更に応じて増大する車両の速度の増加量を低減するために、例えば、トランスミッションのシフトレンジを低い段数、即ちレンジに下げるように制御手段はトランスミッションを制御する。尚、変速機構は、CVT(Continuously Variable Trans mission)機構を備えて構成されていてもよい。
【0041】
したがって、この態様によれば、前記車両の運転者による前記動作部分に対応する操作部分に対する操作に応じて前記車両が走行するように変速機構を制御できるため、回転数の増大に応じて生じる可能性がある運転者による車両の操作性、及び違和感を低減することが可能である。
【0042】
本発明に係る車両の電力制御装置の他の態様では、前記動作部分は、前記車両のブレーキであり、前記アクチュエータは、前記ブレーキに前記駆動力を供給するブレーキアクチュエータであり、前記操作部分は、ブレーキペダルであり、前記制御手段は、前記車両の運転者による前記ブレーキペダルに対する操作に応じて前記車両を走行させた場合に、前記発電量を増加させるように前記発電装置を制御すると共に、少なくとも前記車両の車速が変更されるように、前記ブレーキアクチュエータを制御する。
【0043】
この態様によれば、運転者がブレーキペダルを踏んでいる場合に、例えば、変速機構によるシフトダウンだけでは車速を減速できず、ブレーキアクチュエータも作動させる必要がある状況にも対応可能である。
【0044】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下図面を参照しながら、本発明に係る車両の電力制御装置の実施形態を説明する。
【0046】
先ず、図1を参照しながら、本発明に係る車両の電力制御装置の一実施形態を備えた車両の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る車両の電力制御装置を具備してなる車両の主要な構成を示したブロック図である。
【0047】
図1において、例えば四輪操舵車である車両1は、本発明の「制御手段」の一例であるECU(Electronic Control Unit)10、シャフト21、前輪21L及び21R、後輪22L及び22R、ブレーキペダル25、前輪転舵用のアクチュエータ21La及び21Ra、後輪転舵用のアクチュエータ22La及び22Ra、前輪ブレーキ25L及び25R、後輪ブレーキ26L及び26R、ブレーキ用のアクチュエータ25La及び25Ra、ブレーキ用のアクチュエータ26La及び26Ra、ハンドルシャフト26a、電動パワーステアリング装置(EPS)20、ステアリング用のアクチュエータ20a、ハンドル24、サスペンション機構23、サスペンション用のアクチュエータ23a、アクセルペダル27、アクセルペダル用のアクチュエータ27a、本発明の「内燃機関」の一例であるエンジン50、スロットル51、スロットル用のアクチュエータ51a、本発明の「発電装置」の一例であるオルタネータ30、バッテリ70、本発明の「伝達機構」の一例であるプーリ60、ミリ波レーダ31、車速センサ33、並びにステレオカメラ32を備えて構成されている。複数のアクチュエータ20a、21La、21Ra、22La、22Ra、23a、25La、25Ra、26La、26Ra、27a及び51a、オルタネータ30、ECU10、及びプーリ60が、本発明に係る「車両の電力制御装置」の一例を構成している。また、ECU10、ミリ波レーダ31、車速センサ33、及びステレオカメラ32が、本発明の「取得手段」の一例を構成している。
【0048】
前輪21L及び21R、後輪22L及び22R、ブレーキペダル25、前輪ブレーキ25L及び25R、後輪ブレーキ26L及び26R、EPS20、サスペンション機構23、アクセルペダル27、及びスロットル51の夫々は、本発明の「動作部分」の一例であり、車両1が、その走行時に障害物を緊急に回避する緊急回避時に、ECU10の制御下で、或いは運転者の操作に応じて動作する。
【0049】
ECU10は、オルタネータ30の発電動作を制御するレギュレータ等の制御回路、及びメモリを備えて構成されている。ECU10は、エンジン50の動作を制御する。加えて、ECU10は、複数のアクチュエータ20a、21La、21Ra、22La、22Ra、23a、25La、25Ra、26La、26Ra、27a及び51aの夫々から、前輪21L及び21R、後輪22L及び22R、ブレーキペダル25、前輪ブレーキ25L及び25R、後輪ブレーキ26L及び26R、EPS20、サスペンション機構23、アクセルペダル27、及びスロットル51に駆動力が供給されるように、これらアクチュエータの動作を制御する。
【0050】
ECU10は、オルタネータ30、プーリ60、及びバッテリ70の動作を制御する。より具体的には、車両1の走行路に障害物が存在しない通常の走行時には、発電された電力が無駄にならないように、オルタネータ30の発電動作を制御する共に、オルタネータ30によって発電された電力の一部を蓄電可能なようにバッテリ70を制御する。加えて、ECU10は、エンジン50の動作時に、エンジン50から出力された動力をオルタネータ30に伝達するプーリ60の動作を制御する。
【0051】
ECU10は、車両1の走行路に障害物が出現したこと、即ち、車両1の走行状態が障害物を緊急に回避すべき状態に至ったか否かを判断する。より具体的には、ミリ波レーダ31、及びステレオカメラ32によって検知された障害物と車両1との相対的な位置に関する位置情報と、車速センサ33によって検出された車両1の車速Vとに基づいて、車両1が障害物を緊急に回避すべきか否かを判断する。
【0052】
オルタネータ30は、ECU10の制御下で、エンジン50からプーリ60を介して伝達された動力に用いて発電し、発電した電力をバッテリ70に供給すると共に、複数のアクチュエータ20a、21La、21Ra、22La、22Ra、23a、25La、25Ra、26La、26Ra、27a及び51aの夫々に電力を供給する。
【0053】
次に、図2乃至図8を参照しながら、本実施形態に係る車両の電力制御装置による車両の電力制御方法を説明する。図2は、本実施形態に係る車両の電力制御装置によって実行される車両の電力制御方法のフローチャートである。図3は、緊急回避時、及び通常の走行時の夫々における車両の走行状態を図式的に示した概念図である。図4は、動力及び電力の供給路の構成を図式的に示したブロック図である。図5は、アクチュエータの消費電力及びオルタネータによる発電量の変化を図式的に示したグラフである。図6乃至図8は、通常の走行時から緊急回避時に亘るエンジンの回転数Ne及び車両の車速Vの関係を図式的に示したグラフである。
【0054】
図2において、ECU10は、緊急回避フラグ信号Sが生成されたか否かを判断する(ステップS101)。より具体的には、ECU10は、その一部として設けられた緊急回避フラグ信号生成回路が、ミリ波レーダ31、及びステレオカメラ32によって検知された障害物と車両1との相対的な位置に関する位置情報と、車速センサ33によって検出された車両1の車速Vとに基づいて、緊急に障害物を回避すべきである旨を内容とする緊急回避フラグ信号Sを生成したか否かを判断する。緊急回避フラグ信号Sは、例えば、予め設定された緊急回避条件に車両1の走行状態が合致したと判断された際に生成される。緊急回避フラグ信号が生成されなかった場合には、通常の発電量を維持する(ステップS132)。尚、緊急度に関する情報は、緊急回避フラグ信号に含まれていてもよいし、緊急回避フラグ信号を取得したECU10が緊急度を具体的に数値化してもよい。
【0055】
ここで、図1及び図3を参照しながら、車両の緊急回避状態及び通常の走行状態を説明する。図3では、車両1が、通常の走行状態(A)或いは(B)である車両1が、突然出現した障害物を緊急に避ける緊急回避状態(走行状態(C)及び(D))と、再び通常の走行状態(E)及び(F)に戻る走行経路と、障害物の手前で車両1が緊急に停止する停止状態(G)が図示されている。本発明の「緊急回避時」には、緊急回避状態(走行状態(C)及び(D))、及び停止状態(G)の夫々の状態で車両1の走行状態が制御されている期間を含んでおり、予め設定された緊急回避条件に車両1の走行状態が合致したと判断された時点から車両1が通常の走行状態に戻るまでの期間において、車両1による緊急回避が実行される。
【0056】
尚、走行状態(C)及び(D)の夫々における車両1の車速Vc及びVd、並びに加速度αc及びαdの夫々が、本発明の「緊急回避時における前記車両の走行状態を示す緊急回避時の指標値」の一例であり、走行状態(B)における車両1の車速Vb及び加速度αbの夫々が、本発明の「前記緊急回避時より前の走行時における前記車両の走行状態を示す前記緊急回避時より前の指標値」の一例である。
【0057】
図1及び図3において、ECU10の走行状態が走行状態(B)にある際に、ECU10は、ミリ波レーダ31及びステレオカメラ32が検知した障害物200の位置情報を取得する。このような位置情報は、車速Vで走行する走行状態(B)にある車両1と、障害物200との距離dで示される車両1及び障害物200の相対的な位置関係を示す情報である。ECU10の一部を構成する緊急回避フラグ信号生成回路は、車速センサ33で検出された車両1の車速V及び距離dに基づいて緊急回避フラグ信号を生成する。
【0058】
緊急回避フラグ信号が生成されなかった場合、より具体的には、障害物200が車両1の走行路に存在していなかった場合、或いは、車速V及び距離dに基づいて余裕をもって障害物200を回避できるように、又は障害物200の手前で余裕をもって車両1を停止させることができるように、運転者が車両1を操作可能であると判断された場合には、ECU10は、オルタネータ30が発電する発電量が通常の発電量となるようにオルタネータ30の動作を維持する(ステップS132)。
【0059】
緊急回避フラグ信号が生成された場合には、ECU10は、緊急度を特定する(ステップS102)。緊急度は、車両に搭載されたセンサによって障害物が検知された際の車両の速度と、その際の車両及び障害物間の距離等の車両及び障害物の相対的な位置関係とに基づいて特定される。また、緊急度は、車両1が障害物200を回避するように車両1の運転者が車両1においてハンドル24、及びブレーキペダル25等の各種動作部分に対して行った回避操作の操作速度、より具体的には、運転者から単位時間当たりにハンドル24に付与される回転力或いはその回転角度の大きさ、又は運転者がブレーキペダル25を踏み込む単位時間当たりの踏み込み量等に基づいて特定されてもよい。
【0060】
次に、ECU10は、オルタネータ30が発電すべき目標発電量を設定する(ステップS103)。
【0061】
ここで、図4及び図5を参照しながら、目標発電量について説明する。
【0062】
図4において、エンジン50の駆動時には、エンジン50から、前輪21L及び21R等の駆動輪を含む駆動系90と、オルタネータ30とに動力が供給される。車両1の走行状態が通常の走行状態にある場合には、オルタネータ30は、発電量が各種アクチュエータを含む被給電部80が消費する電力及びバッテリ70に充電される電力を超えないように、一定の上限値以下で発電する。バッテリ70は、エンジン50を始動する際に、エンジン50を始動させるスタータを含む被給電部80に電力を供給する。後述するように、車両1の緊急回避時には、通常の走行時より発電量が増大したオルタネータ30から供給された電力が、被給電部80に供給される。
【0063】
図5(a)に示すように、車両1が障害物200を緊急に回避する緊急回避時には、車両1の速度、走行姿勢等を予期せぬ速度及び状態に制御する必要が生じるため、緊急回避時に各種アクチュエータが消費する消費電力Pc2は、通常の走行状態における消費電力Pc1より増大する。より具体的には、例えば、車速Vを急激に変更する、或いは、車両2の走行経路を急激に変更する必要が生じ、各動作部分を駆動するための駆動力は、車両1が通常の走行状態にある場合より大きくなる。
【0064】
したがって、各動作部分に駆動力を供給するアクチュエータ20a、21La、21Ra、22La、22Ra、23a、25La、25Ra、26La、26Ra、27a及び51aの夫々の動作を協調させながら動作させたとしても、これらアクチュエータ全体で消費される消費電力Pc2は、通常の走行時に各アクチュエータで消費されていた消費電力Pc1より増大してしまう。
【0065】
図5(b)に示すように、オルタネータ30が発電する発電量Pgは、車両1の走行状態が通常の走行状態にある場合には、オルタネータ30が発電した電力が無駄にならないように、本発明の「通常の上限値」の典型例である発電量Pg1を上限値として制限されている。しかしながら、緊急回避時において、オルタネータ30の発電量Pgが、発電量Pg1に設定されたままであると、各アクチュエータで消費される消費電力を賄うことができる十分な電力が、オルタネータ30から各アクチュエータに供給されなくなり、各アクチュエータが電力不足に陥る。このような場合、各動作部分を動作させる十分な駆動力が各アクチュエータから各動作部分に供給されなくなり、車両1は緊急に障害物200を回避することができなくなる虞がある。
【0066】
そこで、ECU10は、緊急回避時に各アクチュエータで必要となる電力を賄えるように、オルタネータ30が発電する発電量Pgの上限値である発電量Pg1より大きい、本発明の「緊急回避時の上限値」の一例である目標発電量Pg2に発電量の上限値を設定する。オルタネータ30は、車両1の緊急回避時において、ECU10による制御下で、標発電量Pg2を上限値として発電量を一時的に増大させる。オルタネータ30が発電する発電量が増大することによって、オルタネータ30から各アクチュエータに供給される電力が増大し、動作部分を動作させるために十分な駆動力を動作部分に供給可能なようにアクチュエータを駆動することが可能である。したがって、車両1が緊急に障害物200を回避する緊急回避が可能になる。
【0067】
尚、発電量Pg2は、車両1が障害物を回避する際の緊急度に応じて設定されてもよく、緊急回避時に、オルタネータ30が発電する発電量Pgを緊急度に応じて設定された発電量Pg2まで増大させることによって、緊急回避時に各アクチュエータで消費される消費電力より多い電力を確実にオルタネータ30から各アクチュエータに供給でき、車両1は確実、且つ即座に障害物を回避できる。
【0068】
再びに、図2において、ECU10は、運転者による操作を判定する(ステップS104)。より具体的には、運転者が緊急回避時に運転者がハンドル24を操作した際におけるハンドル24の回転角或いは回転速度、或いはブレーキペダル25の踏み込み量、或いは運転者がアクセルペダル27を踏み込む踏み込み量を各種センサを介して検出する。
【0069】
次に、ECU10は、オルタネータ30が目標発電量Pg2を発電可能なように、エンジン回転数Neを変更するか否かを判断する(ステップS105)。
【0070】
エンジン回転数Neを変更しないと判断された場合には、ECU10は、エンジン50のエンジン回転数Neが変更されることなく且つオルタネータ30の発電量Pgを変更可能なように、即ち、発電量Pgが増大するように、プーリ60のプーリ比を変更する(ステップS121)。エンジン50から出力された動力をオルタネータ30に伝達するプーリ60は、エンジン50及びオルタネータ30を機械的に相互に接続しており、エンジン50から出力された動力のうちオルタネータ30に伝達される動力の割合を規定するプーリ比がECU10の制御下で変更される。より具体的には、プーリ60は、オルタネータ30の回転数と、エンジン回転数Neとの比を変更することができ、エンジン回転数Neの増大或いは減少が生じないように、動力をエンジン50からオルタネータ30に伝達できる。
【0071】
プーリのプーリ比を変更することによって、エンジン50から出力された動力のうちオルタネータ30に供給されない動力部分によって駆動される駆動輪等の駆動系に供給される供給駆動力が緊急回避時より前と緊急回避時とに亘って変動する変動量を低減でき、運転者が感じる車両の違和感を低減できる。より具体的には、例えば、緊急回避時より前と緊急回避時とに亘ってエンジン50のエンジン回転数Neの変化に起因して変化する可能性がある車両1の速度の変化量が低減され、加速度の変化に起因して運転者が感じる違和感を低減できる。尚、プーリ60の代わりに他の伝達機構を用いて動力をオルタネータ30に伝達することも可能である。
【0072】
他方、ステップS105においてエンジン回転数Neを変更すると判断された場合、ECU10は、緊急回避時より前に設定されていた通常のエンジン回転数N0より高い目標回転数N1(図6乃至図8参照。)を設定し(ステップS111)、エンジン50が目標回転数N1で駆動されるようにエンジン50を制御する。緊急回避時にエンジン50のエンジン回転数Neを積極的に高めることによって、エンジン50から出力される動力の出力量を増大させることができ、オルタネータ30が発電する発電量を増大させることが可能である。
【0073】
このような目標回転数N1は、上述した緊急度と同様に特定された緊急度に応じて、設定されてもよい。このような緊急度に応じて目標回転数N1を設定することによって、緊急回避時にオルタネータ30が発電した電力を無駄にすることなく、且つ車両1による緊急回避が可能なようにオルタネータ30の発電量を制限できる。
【0074】
ここで、目標回転数N1に応じてエンジン50から動力が出力された場合、目標回転数N1は、緊急回避時より前における車両1の通常の走行時に設定されていたエンジン50のエンジン回転数N0より高いため、エンジン回転数Neの増大に応じて、車両1の速度が変化し、運転者に違和感を与えてしまう虞がある。
【0075】
そこで、ECU10は、ステップS111及び続くステップS112において、図3に示した車速Vb、Vc及びVd相互の値の差が小さくなるように、或いは、加速度αb、αc及びαd相互の値の差が小さくなるように目標回転数N1を設定し、且つ本発明の「変速機構」の一例であるトランスミッション75、並びにアクチュエータ20a、21La、21Ra、22La、22Ra、23a、25La、25Ra、26La、26Ra、27a及び51aの少なくとも一方を制御する。
【0076】
これにより、エンジン50のエンジン回転数Neが目標回転数N1に設定し、エンジン回転数Neが増大することによって生じる可能性がある車両1の車速の変化を低減でき、緊急回避時において運転者が覚える違和感を低減することが可能である。
【0077】
次に、ステップS112におけるトランスミッション75のシフトレンジの制御について説明する。ステップS112では、ECU10が、オルタネータ30が目標回転数N1に応じた電力を発電でき、車両1の運転者による各動作部分に対応する操作部分に対する操作に応じて車両1が走行するように、トランスミッション75の段数、即ちシフトレンジを変更する。以下では、ブレーキペダル25及びアクセルペダル27の夫々が、本発明の「操作部分」の一例である。
【0078】
図6では、運転者が緊急回避時にアクセルペダル27を踏み込む踏み込み量を減らした場合、より具体的には、例えば、アクセルをオフした場合におけるシフトレンジの推移状態の一例を示している。尚、図6乃至図8では、1速、2速、3速、4速及び5速の夫々のシフトレンジについて、エンジン回転数Ne及び車速Vの関係を示す特性線の夫々を特性線SR1、SR2、SR3、SR4及びSR5で示している。
【0079】
図6に示すように、例えば、緊急回避時より前の通常の走行時(例えば、図3に示した走行状態(B))において、トランスミッション75のシフトレンジが5速に設定されている状態で、車速V及びエンジン回転数Neの夫々が車速V0及びエンジン回転数N0に設定されている。即ち、緊急回避時より前の通常の走行時における車両1の走行状態、より具体的には、車速V及びエンジン回転数Neにより特定される車両1の走行状態は、特性線SR5上において車速V0及びエンジン回転数N0によって特定された点P0に対応している。
【0080】
ここで、トランスミッション75のシフトレンジを5速に設定したままで、エンジン回転数N0から目標回転数N1までエンジン回転数Neを増大させると、特性線SR5に沿って車速Vは車速V0から増大してしまう。したがって、アクセルペダル27をオフすることによって、車両1の車速Vを車速V0に維持する、或いは車速Vが車速V0より減速するように、運転者がアクセルペダル27を操作したとしても、運転者が意図した車速からずれた車速Vで車両1が走行してしまい、そのずれに起因して車両1の操作性、或いは運転者に違和感を生じる。
【0081】
そこで、ECU10は、ステップS112において、エンジン回転数Neがエンジン回転数N0からエンジン回転数N1に変更されたとしても、車速Vが車速V0に維持されるように、例えば、5速より低いシフトレンジである2速にトランスミッション75のシフトレンジをシフトダウンする。したがって、車両1の緊急回避時におけるエンジン回転数Ne及び車速Vの相互関係は、特性線SR2によって規定される。本例では、緊急回避時における車両1の走行状態は、特性線SR2上において目標回転数N1及び車速V0で規定される点P1に対応しており、オルタネータ30による発電量を増大させるためにエンジン回転数Neを目標回転数N1まで増大させた場合でも、車速Vは、通常の走行時における車速V0に維持される。よって、緊急回避時における違和感の発生を低減することができる。
【0082】
尚、本例では、トランスミッション75として連続的にシフトレンジが可能であるCVT機構を用いることによって、シフトレンジを5速から2速に一足飛びに変更する場合に比べて、エンジン回転数Neの増大に対して滑らかに車速Vを制御することが可能である。加えて、ECU10の制御下において、シフトレンジを5速から2速にシフトダウンするだけでなく、目標回転数N1及び車速V0で車両1が走行するように、ブレーキアクチュエータ25La、25Ra、26La及び26Raの夫々が制御されてもよい。
【0083】
次に、図7を参照しながら、運転者がアクセルペダル27を踏み込んだ場合におけるシフトレンジの推移を説明する。図7は、運転者が緊急回避時にアクセルペダル27を踏み込む踏み込み量を増やした場合、より具体的には、アクセルをオンした場合におけるシフトレンジの推移状態の一例を示している。本例では、車両1の通常の走行状態におけるシフトレンジは4速に設定されている。
【0084】
図7に示すように、車両1の走行状態が通常の走行状態にある場合、その走行状態は、特性線SR4上の点P0に対応している。車両1の緊急回避時に、シフトレンジを4速に維持したままでエンジン回転数Neを目標回転数N1まで増大させた場合、車両1の走行状態は、目標回転数N1及び車速V1aで特定される点P1aに対応する。しかしながら、アクセルペダル27の踏み込む量に対して加速度がつきすぎ、アクセルペダル27の踏み込む量に対応して運転者が意図した車速V1bより高い車速V1aに車速V0が変更された場合、車両1の操作性に関して違和感が生じる。
【0085】
そこで、本例では、緊急回避時において運転者による操作に応じた所望の車速V1bに車速Vが設定されるように、ECU10は、例えば、シフトレンジを4速から3速にシフトダウンし、緊急回避時における車両1の走行状態を特性線SR3上の点P1bに対応させる。これにより、エンジン回転数Neの増大によってオルタネータ30による発電量を増やすと共に、通常の走行状態及び緊急回避時における走行状態相互における車両1の操作性の変化及び違和感を低減することができる。尚、このような場合においても、ECU10の制御下において、シフトレンジを4速から3速にシフトダウンするだけでなく、車速V1bで車両1が走行するように、ブレーキアクチュエータ25La、25Ra、26La及び26Raの夫々が制御されてもよい。
【0086】
次に、図8を参照しながら、運転者がブレーキペダル25を踏み込んだ場合におけるシフトレンジの推移を説明する。図8は、運転者が緊急回避時にブレーキペダル25を踏み込む踏み込み量を増やした場合、より具体的には、ブレーキをオンした場合におけるシフトレンジの推移状態の一例を示している。本例では、車両1の通常の走行状態におけるシフトレンジは4速に設定されている。
【0087】
図8に示すように、車両1の走行状態が通常の走行状態にある場合、その走行状態は、特性線SR4上の点P0に対応している。車両1の緊急回避時に、シフトレンジを4速に維持したままでエンジン回転数Neを目標回転数N1まで増大させると特性線SR4に沿って点P2aまで車速Vが大きくなり、運転者によるブレーキ操作、より具体的には、例えばブレーキペダル25に対する操作に応じた減速感と異なる加速が生じてしまう。
【0088】
そこで、本例では、緊急回避時において運転者による操作に応じた所望の車速V2bに車速Vが設定され、且つ、運転者によるブレーキ操作に応じた所望の減速感が生じるように、ECU10は、例えば、シフトレンジを4速から2速にシフトダウンし、緊急回避時における車両1の走行状態を特性線SR2上の点P2bに対応させる。これにより、エンジン回転数Neの増大によってオルタネータ30による発電量を増やすと共に、所望の減速感を生じさせつつ車速Vを車速V2bに設定でき、通常の走行状態及び緊急回避時における走行状態相互における車両1の操作性の変化及び違和感を低減することができる。
【0089】
尚、ECU10の制御下において、シフトレンジを4速から2速にシフトダウンするだけでなく、車速Vが車速V2bになるようにブレーキアクチュエータ25La、25Ra、26La及び26Raの夫々が制御されてもよい。
【0090】
再び、図2において、ステップS112又はステップ121が終了した後、再度ステップS101以降の手順が実行される。尚、ECU10は、ステップS101からステップ112、S121及びS132までの手順を車両の走行時に常時繰り返して実行し、車両1による緊急回避に備えて待機状態に維持される。
【0091】
以上説明したように、本実施形態に係る車両の電力制御装置によれば、車両1の緊急回避時にオルタネータ30が発電する発電量が増大するため、オルタネータ30から各アクチュエータに供給される電力の供給量が、緊急回避時より前の車両1の通常走行時より増大する。よって、アクチュエータは、オルタネータ30が発電する発電量が車両1の通常走行に応じて制限されている場合に比べて、EPS等の動作部分の動作性能を低下させることなく、車両1が障害物を回避可能なように駆動力を各動作部分に供給できる。このように、本実施形態に係る車両の電力制御装置を備えた車両1によれば、予期せぬ障害物が車両1の走行路に出現した場合でも、車両1は即座に障害物を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本実施形態に係る車両の電力制御装置を具備してなる車両の主要な構成を示したブロック図である。
【図2】本実施形態に係る車両の電力制御装置によって実行される車両の電力制御方法のフローチャートである。
【図3】緊急回避時、及び通常の走行時の夫々における車両の走行状態を図式的に示した概念図である。
【図4】動力及び電力の供給路の構成を図式的に示したブロック図である。
【図5】アクチュエータの消費電力及びオルタネータによる発電量の変化を図式的に示したグラフである。
【図6】通常の走行時から緊急回避時に亘るエンジンの回転数Ne及び車両の車速Vの関係を図式的に示したグラフ(その1)である。
【図7】通常の走行時から緊急回避時に亘るエンジンの回転数Ne及び車両の車速Vの関係を図式的に示したグラフ(その2)である。
【図8】通常の走行時から緊急回避時に亘るエンジンの回転数Ne及び車両の車速Vの関係を図式的に示したグラフ(その3)である。
【符号の説明】
【0093】
1・・・車両、10・・・ECU、20・・・EPS、20a,21La,21Ra,22La,22Ra,23a,25La,25Ra,26La,26Ra,27a,51a・・・アクチュエータ、30・・・オルタネータ、50・・・エンジン、60・・・プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が障害物を緊急に回避する緊急回避時に動作する動作部分に駆動力を供給するアクチュエータと、
前記車両に搭載された内燃機関から出力された動力を用いて発電し、前記アクチュエータに電力を供給する発電装置と、
前記車両が前記障害物を回避する緊急度を取得する取得手段と、
該取得された緊急度に基づいて、前記緊急回避時に前記発電装置が発電する発電量が一時的に増大するように、前記発電装置を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする車両の電力制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記緊急回避時より前に前記発電装置に設定されていた前記発電量の通常の上限値を該通常の上限値より高い緊急回避時の上限値に設定すること
を特徴とする請求項1に記載の車両の電力制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記緊急回避時の緊急度に応じて、前記緊急回避時の上限値を設定すること
を特徴とする請求項2に記載の車両の電力制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の回転数が変更されることなく前記発電量を変更可能なように、前記動力を前記発電装置に伝達する伝達機構を更に備えたこと
を特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の車両の電力制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記緊急回避時より前に設定されていた前記内燃機関の回転数より高い目標回転数を設定し、前記内燃機関が前記目標回転数で駆動されるように前記内燃機関を制御すること
を特徴とする請求項1に記載の車両の電力制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記緊急回避時の緊急度に応じて、前記目標回転数を設定すること
を特徴とする請求項5に記載の車両の電力制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記緊急回避時における前記車両の走行状態を示す緊急回避時の指標値と、前記緊急回避時より前の走行時における前記車両の走行状態を示す前記緊急回避時より前の指標値との差が小さくなるように、前記目標回転数を設定し、且つ前記車両の変速機構、及び前記アクチュエータの少なくとも一方を制御すること
を特徴とする請求項5又は6に記載の車両の電力制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記発電装置が前記目標回転数に応じた電力を発電でき、前記車両の運転者による前記動作部分に対応する操作部分に対する操作に応じて前記車両が走行するように、少なくとも前記変速機構の段数を変更すること
を特徴とする請求項7に記載の車両の電力制御装置。
【請求項9】
前記動作部分は、前記車両のブレーキであり、
前記アクチュエータは、前記ブレーキに前記駆動力を供給するブレーキアクチュエータであり、
前記操作部分は、ブレーキペダルであり、
前記制御手段は、前記車両の運転者による前記ブレーキペダルに対する操作に応じて前記車両を走行させた場合に、前記発電量を増加させるように前記発電装置を制御すると共に、少なくとも前記車両の車速が変更されるように、前記ブレーキアクチュエータを制御すること
を特徴とする請求項7に記載の車両の電力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−143349(P2009−143349A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321971(P2007−321971)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】