説明

車両用動力伝達装置の制御装置

【課題】自動変速機の入力軸に動力伝達可能に連結された電動機を備える車両用動力伝達装置において、コースト走行中に被駆動状態から駆動状態に切り替わる際に実行される回転同期制御を伴うコーストダウンシフトの際にガタ打ちに伴うショックを抑制する。
【解決手段】車両10が被駆動状態であるときに変速機入力トルクTATを零に向かって制御する際にその変速機入力トルクTATが零に近づくに伴って、車両状態に基づいて変速機入力トルク変化率が抑制されるので、ガタ打ちに伴う振動が抑制される。また、そのガタ打ちを起振源とするガタ打ち後の振動も抑制される。よって、コースト走行中に被駆動状態から駆動状態に切り替わる際に実行される回転同期制御を伴うコーストダウンシフト時において、ガタ打ちに伴うショック(すなわちガタ打ちショックやガタ打ち後の振動的なショック)や歯打ち音が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機のコーストダウンシフトに際して、自動変速機内の動力伝達経路を解放状態としつつ電動機により変速機入力回転速度を変速後の同期回転速度に同期させる車両用動力伝達装置の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧式摩擦係合装置(以下、係合装置)の係合と解放とにより変速が実行されて複数の変速段が選択的に成立させられる自動変速機と、その自動変速機の入力軸に動力伝達可能に連結された電動機とを備え、自動変速機のコーストダウンシフトに際してその自動変速機内の動力伝達経路を解放状態としつつ電動機から付与される変速機入力トルクにより変速機入力回転速度を変速後の同期回転速度に同期させる回転同期制御を実行する車両用動力伝達装置の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド駆動装置の制御装置がそれである。
【0003】
上記特許文献1には、自動変速機のパワーオフ変速に際して、自動変速機を動力伝達遮断状態とした上ですなわち自動変速機内の解放側係合装置と係合側係合装置とを共に解放状態とするクラッチフリー状態とした上で、そのクラッチフリー状態の間に自動変速機の入力軸に連結された電動機の回転速度を変速後の同期回転速度になるように制御し、電動機が同期回転速度に達した後に、自動変速機の係合油圧を上昇させてパワーオフ変速を完了させる回転同期制御が提案されている。このような回転同期制御では、例えば解放側係合装置が解放された状態で変速機入力回転速度が同期回転速度に向かって確実に変化し、変速機入力回転速度が同期回転速度に達した時点で係合側係合装置が完全係合される為、電動機による同期制御によってクラッチフリー状態中に変速機入力トルクが変化しても出力側ではその影響を受けず、変速ショックが抑制される。また、クラッチツゥクラッチ変速のようなトルクの受け渡しを行わない分複雑な制御が必要とされず、変速ショックを抑制しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−203219号公報
【特許文献2】特開2010−132149号公報
【特許文献3】特開2009−255873号公報
【特許文献4】特開2008−302802号公報
【特許文献5】特開2008−207639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、クラッチフリー状態とする直前の変速機入力トルクがある程度大きなトルクであると、クラッチフリー状態としたときにその変速機入力トルクが自動変速機の出力側に伝達されないことにより、変速機出力トルクが急変してドライバーにショックを与えてしまう可能性がある。その為、クラッチフリー状態とすることに伴う変速機出力トルク変動を抑制する為に、変速機入力トルクが可及的に零となっているときに上記回転同期制御を実行することが望まれる。例えば、電動機による回生を伴うコーストダウンシフトの際には、減速と共に零に向かって低下させられる回生トルク(ここでは変速機入力トルクと同意)の制御指令値が零となった時点から上記回転同期制御(クラッチフリー状態とする為の変速)を開始することが考えられる。しかしながら、変速機入力トルクの制御指令値を零に向かって低下させる際、制御指令値が零[Nm]となっても実際の変速機入力トルク(実変速機入力トルク)は、電動機トルク誤差やイナーシャ分で負側から正側にオーバーシュートする可能性がある。そうすると、例えば自動変速機の出力側の駆動系(例えば出力軸やディファレンシャルギヤ等)における各歯車間の噛み合わせ部分の隙間(ガタ)が、被駆動側での詰まり状態から駆動側での詰まり状態に変化し、歯打ち(ガタ打ち)に伴う車両減速度の急変(ガタ打ちショック)や歯打ち音が発生する可能性がある。この際、変速機入力トルクの制御指令値が零となった時点から上記回転同期制御が開始されると、自動変速機の出力側の駆動系ではクラッチフリー状態とされることにより前段部の慣性が小さくされ、ガタ打ちを起振源とするガタ打ち後の振動が抑制され難く、振動的なショックが残り易い可能性がある。また、クラッチフリーとされる為、電動機が自動変速機の出力側の駆動系から切り離され、電動機を用いて上記ガタ打ち後の振動を抑制する制振制御を行うこともできない。尚、上述したような課題は未公知であり、コースト走行中に変速機入力トルクが負トルクである被駆動状態から変速機入力トルクが正トルクである駆動状態に切り替わるときに(例えば零に向かって低下させられる変速機入力トルクの制御指令値が零となったときに)回転同期制御を伴うコーストダウンシフトを開始する際、ガタ打ちに伴うショック(例えばガタ打ちショックや振動的なショック)や歯打ち音を抑制してドライバビリティを向上させることについて未だ提案されていない。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、自動変速機の入力軸に動力伝達可能に連結された電動機を備える車両用動力伝達装置において、コースト走行中に被駆動状態から駆動状態に切り替わる際に実行される回転同期制御を伴うコーストダウンシフトの際にガタ打ちに伴うショックを抑制することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する為の本発明の要旨とするところは、(a) 油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより変速が実行されて複数の変速段が選択的に成立させられる自動変速機と、その自動変速機の入力軸に動力伝達可能に連結された電動機とを備え、その自動変速機のコーストダウンシフトに際してその自動変速機内の動力伝達経路を解放状態としつつその電動機から付与される変速機入力トルクにより変速機入力回転速度を変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に向かって変化させる回転同期制御を実行する車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) コースト走行中に前記変速機入力トルクが負トルクである被駆動状態からその変速機入力トルクが正トルクである駆動状態に切り替わるときに前記コーストダウンシフトを開始するものであり、(c) 前記被駆動状態であるときに前記変速機入力トルクを零に向かって制御する際にその変速機入力トルクが零に近づくに伴って、車両状態に基づいてその変速機入力トルクのトルク変化率を抑制することにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記被駆動状態であるときに前記変速機入力トルクを零に向かって制御する際にその変速機入力トルクが零に近づくに伴って、車両状態に基づいてその変速機入力トルクのトルク変化率が抑制されるので、コースト走行中に被駆動状態から駆動状態に切り替わるときに発生する可能性がある自動変速機の出力側の駆動系における歯打ち(ガタ打ち)に伴う振動が抑制される。また、そのガタ打ちを起振源とするガタ打ち後の振動も抑制される。よって、コースト走行中に被駆動状態から駆動状態に切り替わる際に実行される回転同期制御を伴うコーストダウンシフト時において、ガタ打ちに伴うショック(すなわちガタ打ちショックやガタ打ち後の振動的なショック)や歯打ち音が抑制される。
【0009】
ここで、好適には、前記車両状態は、前記油圧式摩擦係合装置を作動させる為の作動油の温度、車両減速度、或いは走行用駆動力源として前記電動機に加えてエンジンを含む場合にはそのエンジンの作動状態であり、前記作動油の温度が高い程、前記車両減速度が大きい程、或いは前記エンジンの作動状態が非運転状態から運転状態となると、前記トルク変化率を小さくすることにある。このようにすれば、前記被駆動状態であるときに前記変速機入力トルクを零に向かって制御する際のトルク変化率が適切に抑制されて、上記ガタ打ちに伴うショックや歯打ち音が適切に抑制される。
【0010】
また、好適には、前記車両状態は、前記油圧式摩擦係合装置を作動させる為の作動油の温度、車両減速度、或いは走行用駆動力源として前記電動機に加えてエンジンを含む場合にはそのエンジンの作動状態であり、前記作動油の温度が高い程、前記車両減速度が大きい程、或いは前記エンジンの作動状態が非運転状態から運転状態となると、前記トルク変化率を抑制する開始タイミングを早くすることにある。このようにすれば、上記ガタ打ちに伴うショックや歯打ち音が適切に抑制される。
【0011】
また、好適には、再加速時の応答性が重視される場合には、前記トルク変化率を抑制する開始初期には前記変速機入力トルクの零付近よりそのトルク変化率を増大させ且つその変速機入力トルクの零付近ではそのトルク変化率を抑制することにより、そのトルク変化率を抑制する変更を実施しないときと比較して、その変速機入力トルクを零に到達させるタイミングを可及的に遅延させないことにある。このようにすれば、例えばトルク変化率を抑制することにより変速機入力トルクを零に到達させるタイミングが遅くなってアクセルが踏み込まれてから駆動力が出力されるまでの応答が遅れることに対して、再加速時の応答性が適切に向上される。
【0012】
また、前記目的を達成する為の他の発明の要旨とするところは、(a) 油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより変速が実行されて複数の変速段が選択的に成立させられる自動変速機と、その自動変速機の入力軸に動力伝達可能に連結された電動機とを備え、その自動変速機のコーストダウンシフトに際してその自動変速機内の動力伝達経路を解放状態としつつその電動機から付与される変速機入力トルクにより変速機入力回転速度を変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に向かって変化させる回転同期制御を実行する車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) コースト走行中に前記変速機入力トルクが負トルクである被駆動状態からその変速機入力トルクが正トルクである駆動状態に切り替わるときに前記コーストダウンシフトを開始するものであり、(c) 前記コーストダウンシフトに際して、前記油圧式摩擦係合装置を作動させる為の作動油の温度、車両減速度、或いは走行用駆動力源として前記電動機に加えてエンジンを含む場合にはそのエンジンの作動状態で示される車両状態に基づいて、その作動油の温度が高い程、その車両減速度が大きい程、或いはそのエンジンの作動状態が非運転状態から運転状態となると、前記自動変速機内の動力伝達経路の解放状態への切替えを遅らせることにある。
【0013】
このようにすれば、前記コーストダウンシフトに際して、前記油圧式摩擦係合装置を作動させる為の作動油の温度、車両減速度、或いは走行用駆動力源として前記電動機に加えてエンジンを含む場合にはそのエンジンの作動状態で示される車両状態に基づいて、その作動油の温度が高い程、その車両減速度が大きい程、或いはそのエンジンの作動状態が非運転状態から運転状態となると、前記自動変速機内の動力伝達経路の解放状態への切替えが遅らされるので、コースト走行中に被駆動状態から駆動状態に切り替わるときに自動変速機の出力側の駆動系における歯打ち(ガタ打ち)が発生したとしても、そのガタ打ちを起振源とするガタ打ち後の振動が抑制される。よって、コースト走行中に被駆動状態から駆動状態に切り替わる際に実行される回転同期制御を伴うコーストダウンシフト時においてガタ打ちに伴うショック(すなわちガタ打ち後の振動的なショック)や歯打ち音が抑制される。
【0014】
また、好適には、前記車両状態に基づいて、前記コーストダウンシフトを開始する為の変速出力を遅延させるか或いは前記コーストダウンシフトの開始を判断する為の判定車速を低車速側に変更することにより、前記自動変速機内の動力伝達経路の解放状態への切替えを遅らせることにある。このようにすれば、前記コーストダウンシフトに際して前記自動変速機内の動力伝達経路の解放状態への切替えが適切に遅らされる。
【0015】
また、好適には、前記車両状態に基づいて前記コーストダウンシフトに関与する解放側油圧式摩擦係合装置の解放油圧を零に向けて速やかに低下させる前に所定油圧にて所定時間一時的に保持することにより、前記自動変速機内の動力伝達経路の解放状態への切替えを遅らせることにある。このようにすれば、前記コーストダウンシフトに際して前記自動変速機内の動力伝達経路の解放状態への切替えが適切に遅らされる。
【0016】
また、好適には、前記コーストダウンシフトに際して、更に、前記被駆動状態から前記駆動状態への切り替わりに伴って前記自動変速機の出力側に発生する振動を前記電動機により抑制する制振制御を実行することにある。このようにすれば、前記コーストダウンシフトに際して前記自動変速機内の動力伝達経路の解放状態への切替えが遅らされることにより、上記制振制御が適切に実行可能となってガタ打ち後の振動が一層適切に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用される車両を構成する動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明する図である。
【図2】車両用動力伝達装置を説明する骨子図である。
【図3】自動変速機の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図4】電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】変速機入力トルク変化率を抑制する制御作動を実行した場合の一例を説明するタイムチャートである。
【図6】変速機入力トルク変化率や変速機入力トルク変化率変更の開始判定閾値を車両状態に基づいて設定する為のマップの一例を示す図である。
【図7】変速機入力トルク変化率の変更パターンの一例を示す図である。
【図8】解放油圧を一時的に保持する制御作動を実行した場合の一例を説明するタイムチャートである。
【図9】変速出力を遅延するか或いはコーストダウンシフト点車速を低車速側に変更する制御作動を実行した場合の一例を説明するタイムチャートである。
【図10】ドレン油圧保持時間や変速出力遅延時間(或いは変速点低減分)を車両状態に基づいて設定する為のマップの一例を示す図である。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわちコースト走行中に被駆動状態から駆動状態に切り替わる際に実行される回転同期制御を伴うコーストダウンシフト時のガタ打ちに伴うショックを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図12】本発明が適用される別の実施例を説明する概略図である。
【図13】本発明が適用される更に別の実施例を説明する概略図である。
【図14】図13の自動変速機の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、好適には、前記自動変速機は、機械的に複数の変速比が段階的に設定される有段式自動変速機である。例えば、この有段式自動変速機は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式多段変速機により構成される。この遊星歯車式多段変速機における係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の係合装置が広く用いられる。この係合装置を作動させる為の作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源(例えば、エンジンや電動機)により駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、走行用駆動力源とは別に配設された専用の電動モータなどで駆動されるものでも良い。
【0019】
また、好適には、上記係合装置を含む油圧制御回路は、例えばリニアソレノイドバルブの出力油圧を直接的に係合装置の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)にそれぞれ供給することが応答性の点で望ましいが、そのリニアソレノイドバルブの出力油圧をパイロット油圧として用いることによりシフトコントロールバルブを制御して、そのコントロールバルブから油圧アクチュエータに作動油を供給するように構成することもできる。
【0020】
また、好適には、上記リニアソレノイドバルブは、例えば複数の係合装置の各々に対応して1つずつ設けられるが、同時に係合したり係合、解放制御したりすることがない複数の係合装置が存在する場合には、それ等に共通のリニアソレノイドバルブを設けることもできるなど、種々の態様が可能である。また、必ずしも全ての係合装置の油圧制御をリニアソレノイドバルブで行う必要はなく、一部乃至全ての油圧制御をON−OFFソレノイドバルブのデューティ制御など、リニアソレノイドバルブ以外の調圧手段で行っても良い。尚、この明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
【0021】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素と前記差動用電動機に連結された第2回転要素と前記走行用電動機に連結された第3回転要素との3つの回転要素を有する装置である。また、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。また、前記エンジンは、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。
【0022】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明が適用される車両10を構成するエンジン14から駆動輪36までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、エンジン14の出力制御、自動変速機18の変速制御、電動機MGの駆動制御などの為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明する図である。また、図2は、車両用動力伝達装置12(以下、動力伝達装置12という)を説明する骨子図である。尚、トルクコンバータ16や自動変速機18等は中心線(第1軸心RC1)に対して略対称的に構成されており、図2ではその中心線の下半分が省略されている。また、図2中の第1軸心RC1はエンジン14及びトルクコンバータ16等の回転軸心であり、第2軸心RC2は電動機MGの回転軸心である。
【0024】
図1,図2において、動力伝達装置12は、車体にボルト止め等によって取り付けられる非回転部材としてのトランスアクスルケース(T/Aケース)20(以下、ケース20という)を有し、そのケース20内において、エンジン14側から、エンジン断続用クラッチK0、トルクコンバータ16、オイルポンプ22、及び自動変速機18を、第1軸心RC1上において順番にすなわち直列に備え、且つ、その第1軸心RC1と平行な第2軸心RC2回りに回転駆動される電動機MGを備えている。また、動力伝達装置12は、ケース20内において、自動変速機18の出力回転部材である出力歯車24と噛み合うカウンタドリブンギヤ26、ファイナルギヤ対28、及びそのファイナルギヤ対28を介してカウンタドリブンギヤ26に連結された差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)30を備えている。このように構成された動力伝達装置12は、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の車両10に好適に用いられるものである。動力伝達装置12において、エンジン14の動力は、エンジン断続用クラッチK0が係合された場合に、エンジン14とエンジン断続用クラッチK0とを連結するエンジン連結軸32から、エンジン断続用クラッチK0、トルクコンバータ16、自動変速機18、カウンタドリブンギヤ26、ファイナルギヤ対28、差動歯車装置30、及び1対の車軸34等を順次介して1対の駆動輪36へ伝達される。
【0025】
エンジン断続用クラッチK0は、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型の油圧式摩擦係合装置であり、オイルポンプ22が発生する油圧を元圧とし動力伝達装置12に設けられた油圧制御回路60によって係合解放制御される。そして、その係合解放制御においてはエンジン断続用クラッチK0の動力伝達可能なトルク容量すなわちエンジン断続用クラッチK0の係合力が、油圧制御回路60内のリニヤソレノイドバルブ等の調圧により例えば連続的に変化させられる。エンジン断続用クラッチK0は、それの解放状態において第1軸心RC1回りに相対回転可能な1対のクラッチ回転部材(クラッチハブ及びクラッチドラム)を備えており、そのクラッチ回転部材の一方(クラッチハブ)はエンジン連結軸32に相対回転不能に連結されている一方で、そのクラッチ回転部材の他方(クラッチドラム)はトルクコンバータ16のポンプ翼車16aに相対回転不能に連結されている。このような構成から、エンジン断続用クラッチK0は、係合状態では、エンジン連結軸32を介してポンプ翼車16aをエンジン14と一体的に回転させる。すなわち、エンジン断続用クラッチK0の係合状態では、エンジン14からの駆動力がポンプ翼車16aに入力される。一方で、エンジン断続用クラッチK0の解放状態では、ポンプ翼車16aとエンジン14との間の動力伝達が遮断される。
【0026】
トルクコンバータ16は、第1軸心RC1回りに回転するように配設され、ポンプ翼車16aに入力された駆動力を自動変速機18側へ流体を介して伝達する流体伝動装置である。このポンプ翼車16aは、エンジン断続用クラッチK0とエンジン連結軸32とを順次介してエンジン14に連結されており、エンジン14からの駆動力が入力され且つ第1軸心RC1回りに回転可能な入力側回転要素である。トルクコンバータ16のタービン翼車16bは、トルクコンバータ16の出力側回転要素であり、自動変速機18の入力軸である変速機入力軸38にスプライン嵌合等によって相対回転不能に連結されている。また、トルクコンバータ16は、ロックアップクラッチ40を備えている。このロックアップクラッチ40は、ポンプ翼車16aとタービン翼車16bとの間に設けられた直結クラッチであり、油圧制御等により係合状態、スリップ状態、或いは解放状態とされる。
【0027】
電動機MGは、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的なエネルギーから電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、電動機MGは、動力源であるエンジン14の代替として、或いはそのエンジン14と共に走行用の駆動力を発生させる動力源として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力や駆動輪36側から入力される被駆動力(機械的エネルギー)から回生により電気エネルギを発生させ、その電気エネルギをインバータ62を介して蓄電装置64に蓄積する等の作動を行う。電動機MGは、第1軸心RC1とは異なる第2軸心RC2を回転軸心としており、第2軸心RC2回りに回転可能な電動機出力軸42や電動機出力ギヤ44、及び第1軸心RC1回りに回転可能な電動機連結ギヤ46等を介して作動的にポンプ翼車16aに連結されている。すなわち、電動機MGとポンプ翼車16aとの間では、電動機出力ギヤ44、電動機連結ギヤ46等を介して相互に動力が伝達される。従って、電動機MGは、エンジン14と同様に、変速機入力軸38に動力伝達可能に連結されている。尚、本実施例では、電動機出力ギヤ44のピッチ円直径は電動機連結ギヤ46のピッチ円直径よりも小さい。すなわち、電動機出力ギヤ44の歯数は電動機連結ギヤ46の歯数よりも少ないので、電動機MGの回転は減速されてポンプ翼車14aに伝達される。換言すれば、電動機MGの出力トルクTMG(以下、電動機トルクTMGという)は増幅されて電動機MGからポンプ翼車16aに伝達される。
【0028】
オイルポンプ22は、ポンプ翼車16aに連結されており、自動変速機18を変速制御したり、ロックアップクラッチ40のトルク容量を制御したり、エンジン断続用クラッチK0の係合・解放を制御したり、車両10の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油圧をエンジン14(或いは電動機MG)により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプである。
【0029】
自動変速機18は、エンジン14から駆動輪36までの動力伝達経路の一部を構成し、複数の油圧式摩擦係合装置の何れかの掴み替えにより(すなわち油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより)変速が実行されて複数の変速段(ギヤ段)が選択的に成立させられる有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式多段変速機である。例えば、公知の車両によく用いられる所謂クラッチツゥクラッチ変速を行うことが可能な有段変速機である。この自動変速機18は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置48と、ラビニヨ型に構成されているダブルピニオン型の第2遊星歯車装置50及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置52とを同軸線上(第1軸心RC1上)に有し、変速機入力軸38の回転を変速して出力歯車24から出力する。この変速機入力軸38は、自動変速機18の入力部材に相当するものであり、本実施例ではトルクコンバータ16のタービン翼車16bによって回転駆動されるタービン軸である。また、出力歯車24は、自動変速機18の出力部材に相当するものであり、カウンタドリブンギヤ26と相互に噛み合いそのカウンタドリブンギヤ26と共に1対のギヤ対を構成している。
【0030】
第1遊星歯車装置48、第2遊星歯車装置50、及び第3遊星歯車装置52は、良く知られているように、サンギヤ、ピニオンギヤを自転及び公転可能に支持するキャリヤ、及びピニオンギヤを介してサンギヤと噛み合うリングギヤによって各々3つの回転要素が構成されている。そして、それら各々3つの回転要素は、直接的に或いは油圧式摩擦係合装置(クラッチC1,C2及びブレーキB1,B2,B3)や一方向クラッチF1を介して間接的(或いは選択的)に、一部が互いに連結されたり、変速機入力軸38、ケース12、或いは出力歯車24に連結されている。
【0031】
上記クラッチC1,C2及びブレーキB1,B2,B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキB或いは係合装置という)は、公知の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される。このように構成されたクラッチC及びブレーキBは、油圧制御回路60によってそれぞれ係合解放制御され、その油圧制御回路60内のリニヤソレノイドバルブ等の調圧によりそれぞれのトルク容量すなわち係合力が例えば連続的に変化させられて、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結する。
【0032】
そして、クラッチC及びブレーキBのそれぞれの係合解放制御により、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて、図3の係合作動表に示すように前進6段、後進1段の各ギヤ段(各変速段)が成立させられる。図3の「1st」乃至「6th」は前進の第1速ギヤ段乃至第6速ギヤ段、「R」は後進ギヤ段、「N」は何れのギヤ段も成立させられないニュートラル状態をを意味しており、各ギヤ段に対応する自動変速機18の変速比γ(=変速機入力回転速度NAT/変速機出力回転速度NOUT)は、第1遊星歯車装置48、第2遊星歯車装置50、及び第3遊星歯車装置52の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。図3の係合作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC及びブレーキBの各作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合、空欄は解放を表している。
【0033】
図1に戻り、車両10には、例えば自動変速機18の変速制御などに関連する動力伝達装置12の制御装置を含む電子制御装置100が備えられている。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置100は、電動機MGの回生制御を含むエンジン14や電動機MGに関するハイブリッド駆動制御、自動変速機18の変速制御、ロックアップクラッチ40のトルク容量制御、エンジン断続用クラッチK0のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてハイブリッド制御用や油圧制御用等に分けて構成される。
【0034】
電子制御装置100には、例えばエンジン回転速度センサ66により検出されたエンジン14の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、タービン回転速度センサ68により検出された自動変速機18の入力回転速度としてのトルクコンバータ16のタービン回転速度Nすなわち変速機入力軸38の回転速度である変速機入力回転速度NATを表す信号、出力軸回転速度センサ70により検出された車速Vに対応する出力歯車24の回転速度である変速機出力回転速度NOUTを表す信号、アクセル開度センサ72により検出された運転者による車両10に対する駆動力要求量(ドライバ要求出力)としてのアクセルペダル74の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、フットブレーキセンサ76により検出された運転者による車両10に対する制動力要求量(ドライバ要求減速度)としてのブレーキペダル78の操作量であるブレーキ操作量Braを表す信号、シフトポジションセンサ80により検出された公知の「P」,「N」,「D」,「R」,「S」ポジション等のシフトレバー82のレバーポジション(シフト操作位置、シフトポジション、操作ポジション)PSHを表す信号、スロットルセンサ84により検出された不図示の電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θTHを表す信号、吸入空気量センサ86により検出されたエンジン14の吸入空気量QAIRを表す信号、加速度センサ88により検出された車両10の前後加速度G(或いは前後減速度G)を表す信号、冷却水温センサ90により検出されたエンジン14の冷却水温THを表す信号、油温センサ92により検出された油圧制御回路60内の作動油の温度(作動油温)THOILを表す信号、バッテリセンサ94により検出された蓄電装置64のバッテリ温度THBATやバッテリ入出力電流(バッテリ充放電電流)IBATやバッテリ電圧VBATを表す信号、電動機回転速度センサ96により検出された電動機MGの回転速度である電動機回転速度NMGを表す信号などが、それぞれ供給される。尚、電子制御装置100は、例えば上記バッテリ温度THBAT、バッテリ充放電電流IBAT、及びバッテリ電圧VBATなどに基づいて蓄電装置64の充電状態(充電容量)SOCを逐次算出する。
【0035】
また、電子制御装置100からは、例えばエンジン14の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号S、電動機MGの作動を制御する為の電動機制御指令信号S、エンジン断続用クラッチK0や自動変速機18のクラッチC及びブレーキBの油圧アクチュエータを制御する為に油圧制御回路60に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させる為の油圧指令信号Sなどが、それぞれ出力される。
【0036】
図4は、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、有段変速制御部すなわち有段変速制御手段102は、自動変速機18の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段102は、車速Vと自動変速機18の出力トルク(変速機出力トルク)TOUT(或いはアクセル開度Acc等)とを変数として予め記憶されたアップシフト線及びダウンシフト線を有する公知の関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速V及びアクセル開度Acc等に対応する自動変速機18の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速機18の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速機18の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速機18の自動変速制御を実行する。このとき、有段変速制御手段102は、例えば図3に示す係合作動表に従って変速段が達成されるように、自動変速機18の変速に関与する係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)Sを、すなわち自動変速機18の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することにより例えばクラッチツゥクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路60へ出力する。油圧制御回路60は、その指令Sに従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速機18の変速が実行されるように、油圧制御回路60内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0037】
ハイブリッド制御部すなわちハイブリッド制御手段104は、エンジン14の駆動を制御するエンジン駆動制御手段としての機能と、インバータ62を介して電動機MGによる駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0038】
具体的には、ハイブリッド制御手段104は、例えばエンジン14を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行う場合には、エンジン断続用クラッチK0を係合させ、それによりエンジン14からの駆動力をポンプ翼車14aに伝達させる。また、ハイブリッド制御手段104は、このエンジン走行の際には、必要に応じてポンプ翼車14aに作動的に連結されている電動機MGにアシストトルクを出力させる。一方で、ハイブリッド制御手段104は、例えばエンジン14を停止させ電動機MGを走行用の駆動力源とするEV走行(モータ走行)を行う場合には、エンジン断続用クラッチK0を解放させ、それによりエンジン14とトルクコンバータ16との間の動力伝達経路を遮断すると共に、電動機MGに走行用の駆動力を出力させる。
【0039】
また、ハイブリッド制御手段104は、例えば走行中の車両10が一時的に停車する等の車両停止中には、エンジン断続用クラッチK0を解放させてエンジン14を停止させ、電動機MGによりオイルポンプ22を回転駆動させると共に、電動機MGにクリープトルクを出力させる。このクリープトルクを出力させる際には、電動機MGからの駆動力がトルクコンバータ16を介して駆動輪36に伝達されるので、乗員の違和感を抑制するようにそのクリープトルクを出力させる制御が容易である。
【0040】
また、ハイブリッド制御手段104は、例えばエンジン14を始動させる際には、エンジン断続用クラッチK0を係合させて電動機トルクTMGによりエンジン14を回転させエンジン始動を行う。EV走行中にエンジン14を始動させる場合も同様であり、その場合には、車両走行の為の出力にエンジン始動の為の出力を上乗せした電動機出力を電動機MGに出力させる。
【0041】
また、ハイブリッド制御手段104は、例えばアクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やブレーキペダル78の操作によるホイールブレーキ作動時などには、燃費を向上(燃料消費率を低減)させる為にエンジン14を非駆動状態にして、駆動輪36から伝達される車両10の運動エネルギを電動機MGにより電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的には、駆動輪36からエンジン14側へ伝達される逆駆動力により電動機MGを回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち電動機発電電流をインバータ62を介して蓄電装置64へ充電する回生制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段104は上記回生制御を実行する回生制御手段として機能する。この回生制御は、例えば蓄電装置64の充電容量SOCやブレーキ操作量Braに応じた制動力を得る為の油圧ブレーキ(ホイールブレーキ)による制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。具体的には、車両10のコースト走行時にはブレーキ操作量Braに応じた目標減速度G(ドライバ要求減速度)が設定され、その目標減速度Gが達成されるように制動トルク(制動力)が発生させられる。この制動力は、例えば回生やエンジンブレーキや油圧ブレーキ等により得られ、制動開始から車両停止までの車速Vの低下等に応じて制動力配分される。
【0042】
ここで、アクセルペダル74を踏み込まないコースト走行中に車速Vの減速に伴ってダウンシフト線を横切ると有段変速制御手段102により自動変速機18のダウンシフト(所謂コーストダウンシフト、コーストダウン変速)が実行される。このコーストダウンシフトに際して、同期制御部すなわち回転同期制御手段106は、例えば自動変速機18内の動力伝達経路を解放状態として自動変速機18を動力伝達遮断状態と略等しい状態(すなわちコーストダウンシフトに関与する係合装置が実質的にトルク容量を持たない状態)としつつ、電動機MGから付与される変速機入力トルクTATにより変速機入力回転速度NATをダウンシフト前の同期回転速度からダウンシフト後の同期回転速度に向かって変化させる回転同期制御すなわちダウンシフト後の同期回転速度に同期させる回転同期制御を実行する。
【0043】
具体的には、回転同期制御手段106は、コーストダウンシフトに関与する解放側係合装置と係合側係合装置とを共に解放状態とするクラッチフリーによりこのコーストダウンシフトを実行するクラッチフリー変速実行指令を有段変速制御手段102へ出力する。有段変速制御手段102は、コーストダウンシフトに際して、上記クラッチフリー変速実行指令に従って、例えば解放側係合装置の解放油圧指令値をダウンシフト開始時点で零にし且つダウンシフト過渡期間中は係合側係合装置の係合油圧指令値を低圧待機圧とする指令を油圧制御回路60へ出力する。加えて、回転同期制御手段106は、変速機入力回転速度NATをコーストダウンシフト後の同期回転速度に向かって上昇させる回転同期実行指令をハイブリッド制御手段104へ出力する。ハイブリッド制御手段104は、コーストダウンシフトに際して、上記回転同期実行指令に従って、例えば現在の変速機入力回転速度NAT(=電動機回転速度NMG)と目標回転速度(コーストダウンシフト後の同期回転速度=変速機出力回転速度NOUT×ダウンシフト後の変速段における自動変速機18の変速比γ)との偏差から、比例項、微分項、または積分項からなる所定の制御式によって得られる変速機入力トルクTATの制御量を算出し、その制御量が得られるように、変速機入力トルクTATを制御する。ハイブリッド制御手段104は、例えば電動機トルクTMGのみによって変速機入力トルクTATを制御する。但し、蓄電装置64の充電容量SOCから算出した電動機MGの出力可能パワーが回転同期制御を実施するに必要な所定パワーを越えない場合には、ハイブリッド制御手段104は、例えば電動機トルクTMGのみに替えて、電動機トルクTMGとエンジントルクTとの合計トルク、或いはエンジントルクTのみによって変速機入力トルクTATを制御する。そして、有段変速制御手段102は、変速機入力回転速度NATがダウンシフト後の同期回転速度に到達すると、自動変速機18の係合側係合装置の係合油圧指令値を急激に上昇させる指令を油圧制御回路60へ出力して係合側係合装置を係合することにより、コーストダウンシフトを完了させる。
【0044】
尚、上記所定の制御式は、例えば変速機入力回転速度NATがダウンシフト前の同期回転速度からダウンシフト後の同期回転速度へ向かって、所定の回転変化(傾き)にて上昇する為の予め実験的に求められて設定されたフィードバック制御式である。また、上記所定の回転変化は、例えば変速ショックの抑制と変速時間の短縮とが両立するように予め実験的に求められて設定された傾きである。この所定の回転変化は、例えばコーストダウンシフト時のコースト走行状態がフットブレーキオフであるかやブレーキオンであるかや走行路の勾配等によって異なる車両減速度Gに基づいて変化させても良い。このような場合には、例えば上記所定の制御式における各ゲインの数値が変更される。
【0045】
このように、自動変速機18のコーストダウンシフト過程では、自動変速機18内の動力伝達経路を解放状態として変速機入力トルクTATにより変速機入力回転速度NATをダウンシフト後の回転速度に同期させる変速時同期制御が行われる。これにより、例えば自動変速機18のコーストダウンシフトの進行による影響(例えば解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とに伴う回転速度変化)が可及的に抑制される為、変速ショックが抑制される。つまり、クラッチフリー状態での変速(クラッチフリー変速)であることから、回転同期制御時に変速機入力トルクTATが変化しても、自動変速機18の出力側(例えば変速機出力トルクTOUT)ではその影響が抑制され、変速ショックが抑制される。また、例えばクラッチツゥクラッチ変速のような解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによるトルクの受け渡しを行わない分複雑な制御が必要とされず、ばらつきに強く、又変速ショックを抑制し易い。
【0046】
ところで、コーストダウンシフトを実行する際、変速機入力トルクTATがある程度大きなトルクであると、クラッチフリー状態としたときにその変速機入力トルクTATが自動変速機18の出力側に伝達されないことにより、例えば変速機出力トルクTOUT(車両減速度Gも同意)が急変してドライバーにショックを与えてしまう可能性がある。そこで、本実施例では、回転同期制御手段106は、クラッチフリー状態とすることに伴う変速機出力トルクTOUTの変動(すなわち車両減速度Gの変動)を抑制する為に、変速機入力トルクTATが零となっているときに前記回転同期制御を実行する。具体的には、回転同期制御手段106は、電動機MGによる回生を伴うコーストダウンシフトの際には、減速と共に零に向かって低下させられる回生トルク(ここでは変速機入力トルクTATと同意)の制御指令値が零となった時点から上記回転同期制御を開始する。従って、有段変速制御手段102は、コースト走行中に変速機入力トルクTATが負トルクである被駆動状態からその変速機入力トルクTATが正トルクである駆動状態に切り替わるときにコーストダウンシフトを開始する。
【0047】
つまり、車両10においては、アクセルオフの減速走行時(コースト走行時)に駆動力源が減速トルクを出力する(変速機入力トルクTATが負トルクとなる)被駆動車速領域と、コースト走行時に駆動力源がクリープトルクを出力する(変速機入力トルクTATが正トルク或いは零となる)駆動車速領域とが予め求められて設定されている。よって、ハイブリッド制御手段104は、コースト走行中の被駆動車速領域では、被駆動車速領域と駆動車速領域とが切り替わる被駆動・駆動切替車速点にて変速機入力トルクTATの制御指令値を零とするように、車速Vの低下に従って変速機入力トルクTATの制御指令値を例えば一定のトルク変化率で低下させる。従って、本実施例では、変速機入力トルクTATの制御指令値が零となる被駆動・駆動切替車速点をコーストダウンシフトの開始を判断する為の判定車速(コーストダウンシフト点車速)に設定する。これにより、有段変速制御手段102は、コースト走行中に変速機入力トルクTATの制御指令値が零とされた時点からコーストダウンシフトを開始する。
【0048】
変速機入力トルクTATの制御指令値を零に向かって低下させる際、その制御指令値が零[Nm]となっても実変速機入力トルクTATは、電動機トルク誤差やエンジントルク変動(爆発変動、ダンパとの共振等)やイナーシャ分で負側から正側にオーバーシュートする可能性がある。そうすると、例えば自動変速機18の出力側の駆動系(例えば出力歯車24、差動歯車装置30等)における各歯車間の噛み合わせ部分の隙間(ガタ)が、被駆動側での詰まり状態から駆動側での詰まり状態に変化し、ガタ打ちに伴う車両減速度Gの急変(ガタ打ちショック)や歯打ち音が発生する可能性がある(図5−A部参照)。加えて、本実施例では、変速機入力トルクTATの制御指令値が零となった時点から上記回転同期制御を開始するので、クラッチフリー状態とされることにより自動変速機18の出力側の駆動系では前段部の慣性が小さくされ、上記ガタ打ちを起振源とするガタ打ち後の振動が抑制され難く、振動的なショックが残り易い可能性がある(図5−B部参照)。また、クラッチフリー変速である為、電動機MGが自動変速機18の出力側の駆動系から切り離され、電動機MGを用いて上記ガタ打ち後の振動を抑制する制振制御を行うこともできない。
【0049】
そこで、トルク変化率変更部すなわちトルク変化率変更手段108は、車両10が被駆動状態であるときに変速機入力トルクTATを零に向かって制御する際にその変速機入力トルクTATが零に近づくに伴って(すなわち減速中に車速Vが被駆動・駆動切替車速点付近となったときには)、車両状態に基づいて変速機入力トルクTATのトルク変化率(変速機入力トルク変化率)を抑制する。つまり、トルク変化率変更手段108は、変速機入力トルクTATを零に向かって制御する際の変速機入力トルク変化率を、上記ガタ打ちに伴うショック(例えばガタ打ちショックや振動的なショック)や歯打ち音を抑制する為の予め実験的に求められて設定された車両状態に基づいた変速機入力トルク変化率に変更する指令をハイブリッド制御手段104へ出力する。
【0050】
図5は、トルク変化率変更手段108による変速機入力トルク変化率を抑制(変更)する制御作動を実行した場合の一例を説明するタイムチャートである。図5において、t1時点以前では、被駆動・駆動切替車速点(t2時点)にて変速機入力トルクTATの制御指令値が零とされるようにその変速機入力トルクTATの制御指令値が一定のトルク変化率で低下させられる。そして、t1時点以降では、車両状態に基づいた変速機入力トルク変化率とされて、変速機入力トルク変化が緩やかにされる。また、t2時点からコーストダウンシフトが開始され、回転同期制御により変速が進行させられて、t4時点にてそのコーストダウンシフトが終了させられる。変速機入力トルク変化率を変更しない場合(破線)は、変速機入力トルクTATの制御指令値が零とされたt2時点にて比較的大きなガタ打ちに伴う振動(A部)が発生し、そのガタ打ちを起振源とするガタ打ち後の振動(B部)も比較的大きくされ、比較的大きなガタ打ちに伴うショックや歯打ち音が発生する。これに対して、車両状態に基づいた変速機入力トルク変化率に変更された場合(実線)は、変速機入力トルクTATの制御指令値が零とされたt3時点にて1発目に発生するガタ打ちに伴う振動が抑制されると共にそのガタ打ち後の振動も抑制され、ガタ打ちに伴うショックや歯打ち音が抑制される。
【0051】
上記車両状態に基づいた変速機入力トルク変化率は、作動油温THOIL、車両減速度G、或いはエンジン14の作動状態などの車両状態と変速機入力トルク変化率とを変数とする予め実験的に求められて設定された図6(a)に示すような関係(マップ)から実際の車両状態に基づいて設定される。図6(a)において、作動油温THOILが高い程、油圧指令値に対する実油圧の応答性が良く、コーストダウンシフト開始時にクラッチフリー状態になり易いことから、自動変速機18の出力側から見た前段部のイナーシャが小さくなり易く、ガタ打ち後の振動が収束され難いので、変速機入力トルク変化率が小さくされている。また、車両減速度Gが大きい程、減速時に変速機入力トルク変化率が大きくなり、イナーシャを含めたトルクが変速機入力トルクとして入り易いので、変速機入力トルク変化率が小さくされている。また、エンジン14の作動状態が非運転状態から運転状態となると(すなわちモータ走行からエンジン走行(ENG走行)となると)、エンジン14の爆発変動トルク分が変速機入力トルクとして入り易く、モータ走行と比較して大きなガタ打ちに伴う振動が発生し易いと考えられるので、変速機入力トルク変化率が小さくされている。尚、上記非運転状態は、エンジン14が回転しているか回転停止しているかに拘わらず、少なくともエンジン14が爆発していない状態であり、コースト走行中ではエンジン14を回転停止状態としたモーター走行が想定される。また、上記運転状態は、エンジン14が爆発して自立回転している状態であり、コースト走行中ではエンジンアイドリング状態でのエンジン走行が想定される。
【0052】
また、変速機入力トルク変化率の変更開始タイミング(時点)に対応する変速機入力トルク変化率変更の開始判定閾値は、作動油温THOIL、車両減速度G、或いはエンジン14の作動状態などの車両状態と変速機入力トルク変化率変更の開始判定閾値とを変数とする予め実験的に求められて設定された図6(b)に示すような関係(マップ)から実際の車両状態に基づいて設定される。つまり、変速機入力トルク変化率変更の開始判定閾値は、零に向かって低下させられる変速機入力トルクTATの実制御指令値と零値との差分に基づいて変速機入力トルク変化率の変更開始を判定する為の閾値であって、この開始判定閾値が大きい程変更開始タイミングが早くされる。図6(b)において、上記図6(a)におけるマップ設定と同様の観点から、作動油温THOILが高い程、車両減速度Gが大きい程、或いはエンジン14の作動状態が非運転状態から運転状態となると、ガタ打ちに伴う振動が発生し難いように変速機入力トルク変化率変更の開始判定閾値が大きくされ、変速機入力トルク変化率の変更開始タイミングが早くされている。尚、上記減速中に車速Vが被駆動・駆動切替車速点付近となったときとは、零に向かって低下させられる変速機入力トルクTATの実制御指令値と零値との差分が上記開始判定閾値以下になったときである。
【0053】
また、上記車両状態に基づいた変速機入力トルク変化率は、一定値でなくても良い。図7は、変速機入力トルク変化率の変更パターンの一例を示す図である。図7において、図7(a)は、図5と同様に、車両状態に基づいた変速機入力トルク変化率を一定の変化率とした場合である。また、図7(b)は、車両状態に基づいた変速機入力トルク変化率を複数種類の変化率とした場合であり、変速機入力トルクTATの制御指令値が零に近づく程、変化率が小さくされている。このような場合、例えば図6(a),(b)に示すようなマップが各々複数種類設定される。また、図7(c)は、車両状態に基づいた変速機入力トルク変化率を徐々に変化する変化率とした場合であり、変速機入力トルクTATの制御指令値が零に近づく程、変化率が徐々に小さくされている。このような場合、例えば変速機入力トルクTATの実制御指令値と零値との差分と変速機入力トルク変化率とを変数とする予め実験的に求められて設定された図6(c)に示すような関係(マップ)から上記差分に基づいて徐々に変化する変速機入力トルク変化率が設定される。この図6(c)に示すマップでは、上記差分が小さくなる程、すなわち変速機入力トルクTATの制御指令値が零に近づく程、変速機入力トルク変化率を変更しない場合と比較して徐々に小さくなる変速機入力トルク変化率が設定される。
【0054】
上記図7(a),(b),(c)では、変速機入力トルク変化率を変更しない場合と比較して、制御指令値の零[Nm]到達時点が遅延させられる。そうすると、アクセルを踏み込まれた再加速時に駆動力の出力が遅くなる可能性がある。そこで、本実施例では、再加速時の応答性が重視される場合には、図7(d)に示すように、変速機入力トルク変化率を変更開始初期には変速機入力トルクTATの制御指令値の零付近よりも増大させ且つその制御指令値の零付近では抑制することにより、変速機入力トルク変化率を変更しない場合と比較して、変速機入力トルクTATの制御指令値を零に到達させるタイミングを可及的に遅延させない。このような場合も、例えば前記図6(c)と同様に、予め実験的に求められて設定された図6(d)に示すような関係(マップ)から変速機入力トルクTATの実制御指令値と零値との差分に基づいて徐々に変化する変速機入力トルク変化率が設定される。この図6(d)に示すマップでは、上記差分が大きな変更開始初期では変速機入力トルク変化率を変更しない場合よりも大きな変速機入力トルク変化率が設定され、上記差分が小さな変速機入力トルクTATの制御指令値の零付近では、上記差分が小さくなる、程変速機入力トルク変化率を変更しない場合と比較して急激に小さくなる変速機入力トルク変化率が設定される。尚、再加速時の応答性が重視される場合とは、例えば通常走行時と比較して、燃費性能よりも走行性能(動力性能)を重視した走行様式とする公知のスポーツモードが選択されたときなどである。
【0055】
また、図5に示すようなトルク変化率変更手段108による変速機入力トルク変化率を抑制する制御態様に替えて、或いは加えて、コーストダウンシフトに際して前記車両状態に基づいて自動変速機18内の動力伝達経路の解放状態への切替え(すなわちクラッチフリーへの切替え)を遅らせても良い。つまり、コースト走行中に変速機入力トルクTATの制御指令値が零となったときに開始されたコーストダウンシフトにおけるクラッチフリーへの切替えに比較して、前記車両状態に基づいてクラッチフリー状態への切替えを遅らせる。
【0056】
具体的には、図4に戻り、クラッチフリー切替遅延部すなわちクラッチフリー切替遅延手段110は、コーストダウンシフトに際して、前記車両状態に基づいて、作動油温THOILが高い程、車両減速度Gが大きい程、或いはエンジン14の作動状態が非運転状態から運転状態となると、クラッチフリーへの切替えを遅延させる指令を有段変速制御手段102(回転同期制御手段106)へ出力する。より具体的には、クラッチフリー切替遅延手段110は、車両状態に基づいて、有段変速制御手段102によるコーストダウンシフトを開始する為の変速出力を遅延させるか或いはそのコーストダウンシフトの開始を判断する為の判定車速(すなわち被駆動・駆動切替車速点に対応したコーストダウンシフト点車速)を低車速側に変更することにより、コースト走行中に変速機入力トルクTATの制御指令値が零となったときに開始するコーストダウンシフトにおいてクラッチフリー状態への切替えを実行した場合に比較して、実質的にクラッチフリー状態への切替えを遅らせる。或いは、クラッチフリー切替遅延手段110は、車両状態に基づいてコーストダウンシフトに関与する解放側係合装置の解放油圧を零に向けて速やかに低下させる前に所定油圧にて所定時間一時的に保持させることにより、コースト走行中に変速機入力トルクTATの制御指令値が零となったときに開始するコーストダウンシフトにおいてクラッチフリー状態への切替えを実行した場合に比較して、実質的にクラッチフリー状態への切替えを遅らせる。上記所定油圧は、クラッチフリー状態にはならない程度で且つ電動機MGによる回転同期制御に影響を与えない程度(変速進行が遅延しない程度)のトルク容量が確保される油圧として予め実験的に求められて設定された油圧指令値である。尚、この所定油圧は、予め設定された一定値であっても良いし、車両状態に応じて変更される値であっても良い。
【0057】
図8は、クラッチフリー切替遅延手段110による解放油圧(ドレン油圧)を一時的に保持させる制御作動を実行した場合の一例を説明するタイムチャートである。図8において、被駆動・駆動切替車速点(t1時点)にて変速機入力トルクTATの制御指令値が零とされるようにその変速機入力トルクTATの制御指令値が一定のトルク変化率で低下させられる。そして、t1時点からコーストダウンシフトが開始され、回転同期制御により変速が進行させられて、t2時点にてそのコーストダウンシフトが終了させられる。このコーストダウンシフトの際、変速出力(変速開始)初期において解放油圧指令値は速やかに零に低下させられるのではなく、所定油圧にて所定時間一時的に保持される。解放油圧を保持しない場合(破線)は、変速機入力トルクTATの制御指令値が零とされたt1時点にて比較的大きなガタ打ちに伴う振動(A部)が発生し、そのガタ打ちを起振源とするガタ打ち後の振動(B部)も比較的大きくされ、比較的大きなガタ打ちに伴うショックや歯打ち音が発生する。これに対して、解放油圧を保持する場合(実線)は、t1時点では解放油圧を保持しない場合と同様にガタ打ちに伴う1発目の振動が発生したとしても、クラッチフリーにはならない程度にトルク容量が残っていることからクラッチフリー状態と比較して自動変速機18の出力側から見た前段部のイナーシャが小さくなり難く、ガタ打ち後の振動が収束され易いので、そのガタ打ち後の振動は抑制され、ガタ打ち後の振動的なショックや歯打ち音が抑制される。
【0058】
図9は、クラッチフリー切替遅延手段110による変速出力を遅延させる制御作動或いはコーストダウンシフト点車速を低車速側に変更させる制御作動を実行した場合の一例を説明するタイムチャートである。図9において、被駆動・駆動切替車速点(t1時点)にて変速機入力トルクTATの制御指令値が零とされるようにその変速機入力トルクTATの制御指令値が一定のトルク変化率で低下させられる。そして、本来は上記制御指令値が零とされたt1時点で出力される変速出力がt2時点まで遅延させられ、t2時点からコーストダウンシフトが開始される。その後、回転同期制御により変速が進行させられてコーストダウンシフトが終了させられるが、この変速終了時点も変速開始時点と同様に、t3時点からt4時点へ遅延させられる。変速出力を遅延しない場合(破線)は、変速機入力トルクTATの制御指令値が零とされたt1時点にて比較的大きなガタ打ちに伴う振動(A部)が発生し、そのガタ打ちを起振源とするガタ打ち後の振動(B部)も比較的大きくされ、比較的大きなガタ打ちに伴うショックや歯打ち音が発生する。これに対して、変速出力を遅延する場合(実線)は、t1時点では変速出力を遅延しない場合と同様にガタ打ちに伴う1発目の振動が発生したとしても、t2時点まではクラッチフリー状態とされないことからクラッチフリー状態と比較して自動変速機18の出力側から見た前段部のイナーシャが小さくなり難く、ガタ打ち後の振動が収束され易いので、そのガタ打ち後の振動は抑制され、ガタ打ち後の振動的なショックや歯打ち音が抑制される。
【0059】
前記解放油圧を所定油圧にて所定時間一時的に保持するドレン油圧保持時間は、作動油温THOIL、車両減速度G、或いはエンジン14の作動状態などの車両状態とドレン油圧保持時間とを変数とする予め実験的に求められて設定された図10(a)に示すような関係(マップ)から実際の車両状態に基づいて設定される。また、コーストダウンシフトの変速出力を遅延させる変速出力遅延時間(或いはコーストダウンシフト点車速を低車速側に変更する変速点低減分)は、上記車両状態と変速出力遅延時間(或いは変速点低減分)とを変数とする予め実験的に求められて設定された図10(b)に示すような関係(マップ)から実際の車両状態に基づいて設定される。上記ドレン油圧保持時間や変速出力遅延時間(或いは変速点低減分)が長い(大きい)程、自動変速機18内の動力伝達経路の解放状態への切替え(すなわちクラッチフリー状態への切替え)が遅らされる。図10(a)、(b)において、前記図6(a)におけるマップ設定と同様の観点から、作動油温THOILが高い程、車両減速度Gが大きい程、或いはエンジン14の作動状態が非運転状態から運転状態となると、ガタ打ち後の振動が抑制され易いようにドレン油圧保持時間や変速出力遅延時間(或いは変速点低減分)が長くされ(大きくされ)、クラッチフリー状態への切替えが遅らされている。
【0060】
また、図8,9に示すようなクラッチフリー切替遅延手段110によるクラッチフリー状態への切替えを遅延させる制御態様では、クラッチフリー状態とされるまでは電動機MGを用いて前記ガタ打ち後の振動を抑制する制振制御を行うことが可能となる。そこで、ハイブリッド制御手段104は、クラッチフリー切替遅延手段110によりクラッチフリー状態への切替えが遅延させられている間に、電動機MGによる制振制御を実行しても良い。例えば、ハイブリッド制御手段104は、変速機入力回転速度NATと変速機出力回転速度NOUTとの差分ΔN(=NOUT−NAT)を検出し、その差分ΔNに対応する捩れ振動分を電動機トルクTMGを用いてフィードバック制御により抑制することで上記電動機MGによる制振制御を実行する。
【0061】
図11は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわちコースト走行中に被駆動状態から駆動状態に切り替わる際に実行される回転同期制御を伴うコーストダウンシフト時のガタ打ちに伴うショックを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0062】
図11において、先ず、トルク変化率変更手段108に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えば減速中に車速Vが被駆動・駆動切替車速点付近となったか否かが判定される。例えば、零に向かって低下させられる変速機入力トルクTATの実制御指令値と零値との差分が前記開始判定閾値以下になったか否かが判定される。このS10の判断が肯定される場合は同じくトルク変化率変更手段108に対応するS20において、例えばコースト走行中の変速機入力トルク変化率が図6(a)に示すようなマップから実際の車両状態(作動油温THOIL、車両減速度G、或いはエンジン14の作動状態)に基づいて設定された新たな変速機入力トルク変化率に変更される(図5参照)。次いで、有段変速制御手段102に対応するS30において、例えば2→1コーストダウンシフト中か否かが判定される。このS30の判断が肯定される場合はクラッチフリー切替遅延手段110に対応するS40において、例えば車両状態(作動油温THOIL、車両減速度G、或いはエンジン14の作動状態)に基づいて解放側係合装置の解放油圧が零に向けて速やかに低下させられる前に所定油圧に変更され、その所定油圧にて所定時間一時的に保持させられる(図8参照)。一方で、上記S30の判断が否定される場合は同じくクラッチフリー切替遅延手段110に対応するS50において、例えば車両状態(作動油温THOIL、車両減速度G、或いはエンジン14の作動状態)に基づいて、コーストダウンシフトを開始する為の変速出力が遅延させられるか或いはコーストダウンシフト点車速が低車速側に変更される(図9参照)。他方、上記S10の判断が否定される場合はS60において、例えば上記S20、上記S40、或いは上記S50にて実行される制御以外の他の通常時制御が実行される。
【0063】
上述のように、本実施例によれば、車両10が被駆動状態であるときに変速機入力トルクTATを零に向かって制御する際にその変速機入力トルクTATが零に近づくに伴って、車両状態(例えば作動油温THOIL、車両減速度G、或いはエンジン14の作動状態)に基づいて変速機入力トルク変化率が抑制されるので、ガタ打ちに伴う振動が抑制される。また、そのガタ打ちを起振源とするガタ打ち後の振動も抑制される。よって、コースト走行中に被駆動状態から駆動状態に切り替わる際に実行される回転同期制御を伴うコーストダウンシフト時において、前記ガタ打ちに伴うショック(すなわちガタ打ちショックやガタ打ち後の振動的なショック)や歯打ち音が抑制される。
【0064】
また、本実施例によれば、作動油温THOILが高い程、車両減速度Gが大きい程、或いはエンジン14の作動状態が非運転状態から運転状態となると、変速機入力トルク変化率を小さくするので、変速機入力トルクTATを零に向かって制御する際の変速機入力トルク変化率が適切に抑制されて、前記ガタ打ちに伴うショックや歯打ち音が適切に抑制される。
【0065】
また、本実施例によれば、作動油温THOILが高い程、車両減速度Gが大きい程、或いはエンジン14の作動状態が非運転状態から運転状態となると、変速機入力トルク変化率を抑制する開始タイミングを早くするので、前記ガタ打ちに伴うショックや歯打ち音が適切に抑制される。
【0066】
また、本実施例によれば、再加速時の応答性が重視される場合には、変速機入力トルク変化率を抑制する変更を実施しないときと比較して、変速機入力トルクTATを零に到達させるタイミングを可及的に遅延させないので、例えば変速機入力トルク変化率を抑制することにより変速機入力トルクTATを零に到達させるタイミングが遅くなってアクセルペダル74が踏み込まれてから駆動力が出力されるまでの応答が遅れることに対して、再加速時の応答性が適切に向上される。
【0067】
また、本実施例によれば、コーストダウンシフトに際して、車両状態(例えば作動油温THOIL、車両減速度G、或いはエンジン14の作動状態)に基づいて、作動油温THOILが高い程、車両減速度Gが大きい程、或いはエンジン14の作動状態が非運転状態から運転状態となると、自動変速機18内の動力伝達経路の解放状態への切替えが遅らされるので、前記ガタ打ちが発生したとしても、そのガタ打ちを起振源とするガタ打ち後の振動が抑制される。よって、コースト走行中に被駆動状態から駆動状態に切り替わる際に実行される回転同期制御を伴うコーストダウンシフト時において、前記ガタ打ちに伴うショック(すなわちガタ打ち後の振動的なショック)や歯打ち音が抑制される。
【0068】
また、本実施例によれば、前記車両状態に基づいて、コーストダウンシフトの変速出力を遅延させるか或いはコーストダウンシフト点車速を低車速側に変更することにより、自動変速機18内の動力伝達経路の解放状態への切替えを遅らせるので、コーストダウンシフトに際して自動変速機18内の動力伝達経路の解放状態への切替えが適切に遅らされる。
【0069】
また、本実施例によれば、前記車両状態に基づいて解放側係合装置の解放油圧を零に向けて速やかに低下させる前に所定油圧にて所定時間一時的に保持することにより、自動変速機18内の動力伝達経路の解放状態への切替えを遅らせるので、コーストダウンシフトに際して自動変速機18内の動力伝達経路の解放状態への切替えが適切に遅らされる。
【0070】
また、本実施例によれば、自動変速機18内の動力伝達経路の解放状態への切替えが遅らされるコーストダウンシフトに際して、電動機MGによる制振制御を実行するので、前記ガタ打ち後の振動が一層適切に抑制される。
【0071】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0072】
前述の実施例1では、車両10は、走行用の駆動力源としてエンジン14と電動機MGとを備えるハイブリッド車両であったが、これに替えて、他の形式の車両にも本発明を適用することができる。つまり、クラッチフリー変速を実施することが可能な自動変速機と、その自動変速機の入力軸に動力伝達可能に連結された力行及び回生可能な電動機とを備える車両であれば良い。
【0073】
図12は、本発明が適用される別の実施例を説明する概略図である。図12において、車両200は、例えばクラッチフリー変速を実施することが可能な自動変速機18と、駆動力源として自動変速機18の変速機入力軸38に動力伝達可能に連結された力行及び回生可能な電動機MGとを備える電気自動車である。この車両200では、駆動力源にエンジン14を備えておらず、電動機MGのみを走行用の駆動力源とする為、ハイブリッド制御手段104はエンジン14及び電動機MGを用いたハイブリッド駆動制御に替えて、電動機MGを用いた回生制御を含む電動機駆動制御を実行する。これにより、車両200では、車両10と同様に、自動変速機18のコーストダウンシフトに際して、クラッチフリー状態としつつ電動機MGによる回転同期制御を実行するクラッチフリー変速を実施することが可能である。従って、車両200においても、車両10と同様に、車両200が被駆動状態であるときに変速機入力トルクTATを零に向かって制御する際にその変速機入力トルクTATが零に近づくに伴って、前記車両状態に基づいて変速機入力トルク変化率を抑制する。また、コーストダウンシフトに際して前記車両状態に基づいて自動変速機18内の動力伝達経路の解放状態への切替え(すなわちクラッチフリー状態への切替え)を遅らせることもできる。
【0074】
上述のように、本実施例によれば、前述の実施例と同様に、電動機MGと自動変速機18とを備えているので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0075】
図13は、本発明が適用される更に別の実施例を説明する概略図である。図13において、車両300は、動力伝達装置310として自動変速機312と、その自動変速機312の変速機入力軸314に動力伝達可能に連結された差動部316とを備えている。この動力伝達装置310は、例えば車両300において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸318に連結された走行用の動力源としてのエンジン14の動力を駆動輪36へ伝達する。
【0076】
差動部316は、動力分配機構320と、動力分配機構320に動力伝達可能に連結されて動力分配機構320の差動状態を制御する為の差動用電動機として機能する第1電動機M1と、変速機入力軸314と一体的に回転するように動力伝達可能に連結されている電動機としての第2電動機M2とを備える電気的な差動装置である。尚、変速機入力軸314は自動変速機312の入力側回転部材であるが、差動部316の出力側回転部材にも相当するものである。
【0077】
第1電動機M1及び第2電動機M2は、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。例えば、第1電動機M1はエンジン14の反力を受け持つ為のジェネレータ(発電)機能及びモータ(電動機)機能を備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能する為の電動機機能及び駆動輪36側からの逆駆動力から回生により電気エネルギを発生させる発電機能を備える。
【0078】
動力分配機構320は、エンジン14に動力伝達可能に連結された差動機構であって、例えばシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置322を主体として構成されており、入力軸318に入力されたエンジン14の出力を機械的に分配する機械的機構である。この動力分配機構320においては、差動部キャリヤCA0はエンジン14に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は変速機入力軸314に連結されている。このように構成された動力分配機構320は、差動部遊星歯車装置322の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能な差動状態とされる。動力分配機構320が差動状態とされると差動部316も差動状態とされ、差動部316はその変速比γ0(入力軸318の回転速度/変速機入力軸314の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構320が差動状態とされると、動力分配機構320(差動部316)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の一方又は両方の運転状態(動作点)が制御されることにより、動力分配機構320の差動状態、すなわち入力軸318の回転速度(エンジン回転速度N)と変速機入力軸314の回転速度の差動状態が制御される。
【0079】
車両300では、例えば第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ62を通して蓄電装置64や第2電動機M2へ供給するので、エンジン14の動力の主要部は機械的に変速機入力軸314へ伝達されるが、エンジン14の動力の一部は第1電動機M1の発電の為に消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ62を通してその電気エネルギが蓄電装置64や第2電動機M2へ供給され、電気エネルギによりその第2電動機M2から出力される駆動力が変速機入力軸314へ伝達される。この発電に係る第1電動機M1による電気エネルギの発生から駆動に係る第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン14の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。
【0080】
自動変速機312は、前述の実施例1の自動変速機18と同様に、エンジン14から駆動輪36への動力伝達経路の一部を構成しており、複数の遊星歯車装置を備えて機械的に複数の変速比が段階的に設定される有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式多段変速機である。自動変速機312は、例えばクラッチC1,C2,C3及びブレーキB1,B2のそれぞれの係合解放制御により、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて、図14の係合作動表に示すように前進4段、後進1段の各ギヤ段(各変速段)が成立させられる。
【0081】
本実施例においては、変速機入力軸314に動力伝達可能に連結された第2電動機M2を有する差動部316と、差動部316に動力伝達可能に連結されたエンジン14とを備える。これにより、例えば第2電動機M2の出力トルクであるM2トルクTM2のみ、M2トルクTM2とエンジントルクTとの合計トルク、或いはエンジントルクTのみを自動変速機312の入力軸トルク(変速機入力トルクTAT)として制御することが可能である。尚、変速機入力トルクTATとなるエンジントルクTは、例えば差動部316を介して機械的に変速機入力軸314へ伝達されるエンジン直達トルクである。
【0082】
このように構成された車両300では、車両10と同様に、コースト走行時やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させる為にエンジン14を非駆動状態にして、駆動輪36から伝達される車両300の運動エネルギを第2電動機M2により電気エネルギに変換する回生制御を実行する。また、自動変速機312のコーストダウンシフトに際して、クラッチフリー状態としつつ第2電動機M2による回転同期制御を実行するクラッチフリー変速を実施することが可能である。従って、車両300においても、車両10と同様に、車両300が被駆動状態であるときに変速機入力トルクTATを零に向かって制御する際にその変速機入力トルクTATが零に近づくに伴って、前記車両状態に基づいて変速機入力トルク変化率を抑制する。また、コーストダウンシフトに際して前記車両状態に基づいて自動変速機312内の動力伝達経路の解放状態への切替え(すなわちクラッチフリー状態への切替え)を遅らせることもできる。
【0083】
上述のように、本実施例によれば、前述の実施例と同様に、第2電動機M2と自動変速機312とを備えているので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
【0084】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は実施例相互を組み合わせて実施可能であると共にその他の態様においても適用される。
【0085】
例えば、前述の図11に示すフローチャートでは、図5に示すようなトルク変化率変更手段108による変速機入力トルク変化率を抑制する制御態様(ステップS20)と、図8,9に示すようなクラッチフリー切替遅延手段110によるクラッチフリー状態への切替えを遅延させる制御態様(ステップS40,S50)とが組み合わされて実施されているが、上記各制御態様は必ずしも組み合わせて実施する必要はなく、各制御態様(ステップS20,S40,S50)を独立して実施したり、各々適宜組み合わせて実施しても構わない。
【0086】
また、前述の実施例において、流体式伝動装置としてトルクコンバータ16が用いられていたが、このトルクコンバータ16は必ずしも設けられなくても良く、またトルクコンバータ16に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式伝動装置が用いられてもよい。
【0087】
また、前述の実施例の図13によれば、差動部316と自動変速機312は直列に連結されているが、動力伝達装置310全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部316と自動変速機312とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0088】
また、前述の実施例では、コーストダウンシフトとして第2速ギヤ段から第1速ギヤ段への2→1コーストダウンシフトを例示したが、これに限らず、例えば3→2コーストダウンシフトや第3速ギヤ段から第1速ギヤ段への跳びコーストダウンシフト等であっても構わない。要は、回転同期制御が実施されるコーストダウンシフトであれば本発明を適宜適用することができる。
【0089】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0090】
12:車両用動力伝達装置
14:エンジン
18,312:自動変速機
38,314:変速機入力軸(自動変速機の入力軸)
100:電子制御装置(制御装置)
B:ブレーキ(油圧式摩擦係合装置)
C:クラッチ(油圧式摩擦係合装置)
MG:電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより変速が実行されて複数の変速段が選択的に成立させられる自動変速機と、該自動変速機の入力軸に動力伝達可能に連結された電動機とを備え、該自動変速機のコーストダウンシフトに際して該自動変速機内の動力伝達経路を解放状態としつつ該電動機から付与される変速機入力トルクにより変速機入力回転速度を変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に向かって変化させる回転同期制御を実行する車両用動力伝達装置の制御装置であって、
コースト走行中に前記変速機入力トルクが負トルクである被駆動状態から該変速機入力トルクが正トルクである駆動状態に切り替わるときに前記コーストダウンシフトを開始するものであり、
前記被駆動状態であるときに前記変速機入力トルクを零に向かって制御する際に該変速機入力トルクが零に近づくに伴って、車両状態に基づいて該変速機入力トルクのトルク変化率を抑制することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記車両状態は、前記油圧式摩擦係合装置を作動させる為の作動油の温度、車両減速度、或いは走行用駆動力源として前記電動機に加えてエンジンを含む場合には該エンジンの作動状態であり、
前記作動油の温度が高い程、前記車両減速度が大きい程、或いは前記エンジンの作動状態が非運転状態から運転状態となると、前記トルク変化率を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記車両状態は、前記油圧式摩擦係合装置を作動させる為の作動油の温度、車両減速度、或いは走行用駆動力源として前記電動機に加えてエンジンを含む場合には該エンジンの作動状態であり、
前記作動油の温度が高い程、前記車両減速度が大きい程、或いは前記エンジンの作動状態が非運転状態から運転状態となると、前記トルク変化率を抑制する開始タイミングを早くすることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
再加速時の応答性が重視される場合には、前記トルク変化率を抑制する開始初期には前記変速機入力トルクの零付近より該トルク変化率を増大させ且つ該変速機入力トルクの零付近では該トルク変化率を抑制することにより、該トルク変化率を抑制する変更を実施しないときと比較して、該変速機入力トルクを零に到達させるタイミングを可及的に遅延させないことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより変速が実行されて複数の変速段が選択的に成立させられる自動変速機と、該自動変速機の入力軸に動力伝達可能に連結された電動機とを備え、該自動変速機のコーストダウンシフトに際して該自動変速機内の動力伝達経路を解放状態としつつ該電動機から付与される変速機入力トルクにより変速機入力回転速度を変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に向かって変化させる回転同期制御を実行する車両用動力伝達装置の制御装置であって、
コースト走行中に前記変速機入力トルクが負トルクである被駆動状態から該変速機入力トルクが正トルクである駆動状態に切り替わるときに前記コーストダウンシフトを開始するものであり、
前記コーストダウンシフトに際して、前記油圧式摩擦係合装置を作動させる為の作動油の温度、車両減速度、或いは走行用駆動力源として前記電動機に加えてエンジンを含む場合には該エンジンの作動状態で示される車両状態に基づいて、該作動油の温度が高い程、該車両減速度が大きい程、或いは該エンジンの作動状態が非運転状態から運転状態となると、前記自動変速機内の動力伝達経路の解放状態への切替えを遅らせることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記車両状態に基づいて、前記コーストダウンシフトを開始する為の変速出力を遅延させるか或いは前記コーストダウンシフトの開始を判断する為の判定車速を低車速側に変更することにより、前記自動変速機内の動力伝達経路の解放状態への切替えを遅らせることを特徴とする請求項5に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記車両状態に基づいて前記コーストダウンシフトに関与する解放側油圧式摩擦係合装置の解放油圧を零に向けて速やかに低下させる前に所定油圧にて所定時間一時的に保持することにより、前記自動変速機内の動力伝達経路の解放状態への切替えを遅らせることを特徴とする請求項5に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記コーストダウンシフトに際して、更に、前記被駆動状態から前記駆動状態への切り替わりに伴って前記自動変速機の出力側に発生する振動を前記電動機により抑制する制振制御を実行することを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−86763(P2012−86763A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236831(P2010−236831)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】