説明

過給機付内燃機関の排気再循環システム

【課題】過給機通過前の排ガスを再循環させる高圧EGR技術を適用した過給機付内燃機関において、過給機通過風量が大きく減少する高EGR率の運転時でも、運転状態に応じて高い過給性能を発揮させる。
【解決手段】内燃機関2からの排ガスを導く排気通路3に対して並列接続された複数の過給機6A,6Bと、複数の過給機6A,6Bより発生する圧縮ガスを内燃機関2に供給するための給気又は掃気通路10と排気通路3とをバイパスするEGR通路25と、EGR通路25を流れる排ガス量の全排ガス量に対する割合であるEGR率を調整する制御を実行する制御装置30とを備え、制御装置30は更に、内燃機関2の負荷及びEGR率に応じて、複数の過給機6A,6Bのそれぞれを動作させるか否かを決定する制御を実行する構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機を備えた内燃機関に適用される排気再循環システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、NOx排出量の低減や燃費の向上を目的として、排ガスを内燃機関に再循環させる技術を適用した内燃機関が知られ、当該技術は一般に「排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation )」と呼ばれている。この内燃機関においては、排気通路と給気又は掃気通路とをバイパスするEGR通路にEGR弁が設けられ、このEGR弁の開度を変えることによってEGR通路を介して再循環される排ガス量を変更可能にしている。内燃機関の制御装置は、図5に示すようにEGR率が増加するとNOx排出量が単純減少するという関係に基づき、NOx排出量が所望値となるようEGR弁の開度を調整する制御を実行する。
【0003】
また、複数の過給機を備えた内燃機関も良く知られている。例えば特許文献1には、内燃機関の回転数に応じて排ガスの流量が変化するという事情に鑑み、互いの容量が異なる2つの過給機を備えた内燃機関が開示されている。この内燃機関には、過給機タービン上流の排ガスを過給機コンプレッサ下流に循環させる、所謂高圧EGR技術が用いられている。
【0004】
この内燃機関の制御装置は、内燃機関の回転数及び燃料噴射量に応じて、小容量の過給機のみを動作させるシングルモード、及び両方の過給機を動作させるツインモードの2つの動作モードから1つを選択的に設定する制御を実行する。これにより、内燃機関の回転数又は燃料噴射量が変化しても、その変化に追従してなるべく高い過給性能が発揮され得るようにしている。
【0005】
なお、シングルモードからツインモードへ動作モードを移行する時には、停止していた大容量の過給機を始動させなければならない。そこで、この内燃機関の制御装置は、ツインモードへの移行時にEGR弁を絞る制御を実行する。これにより、再循環されるべき排ガスが過給機側へ供給され、この大容量の過給機の予回転に必要な流量を確保可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−175114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように従来の制御装置によれば、排気再循環技術を適用した内燃機関に備えられている複数の過給機の動作の制御が、回転数と燃料噴射量のみに基づいて実行されている。しかし、回転数及び燃料噴射量が同じであってもEGR弁の開度が変更されると、過給機側に供給される排ガス量が変更されてしまう。このため、過給機側に実際に供給されている排ガス量に基づいた最適な動作モードを設定することができないおそれがある。
【0008】
また、制御装置が選択的に設定可能な動作モードは2つであり、運転状態に応じた最適な過給性能を発揮することが難しいおそれがある。特に、再循環される排ガス量を変更可能に構成された内燃機関においては、再循環される排ガス量の全排ガス量に対する割合(所謂EGR率)が、過給機側に供給される排ガス量を決める重要な要素であり、このEGR率の変化に応じてキメ細かい過給機の制御を実行可能にすることが求められている。
【0009】
更に、従来の制御装置によれば、動作モードの移行時に過給機を予回転させるに際し、EGR弁の開度を変えて再循環されるべき排ガス量を変更するようにしている。前述したように、EGR弁の開度は元来、NOx排出量を所望値に抑えることを目的にして調整されている。このため、過給機の動作モードの移行のためにEGR弁の開度が変更されると、この元来の目的を達成することができなくなるおそれがある。
【0010】
そこで本発明は、排ガスを再循環させる技術を適用した過給機付内燃機関において、運転状態によらず高い過給性能を発揮させることを目的とし、過給機通過風量が大きく減少する高EGR率の運転時であっても高い過給性能を発揮させることを目的としている。更には、過給機の動作の制御と、EGR率を決める制御との干渉を防ぐことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る過給機付内燃機関の排気再循環システムは、内燃機関からの排ガスを導く排気通路と、前記排気通路に対して並列接続された複数の過給機と、前記複数の過給機より発生する圧縮ガスを前記内燃機関に供給するための給気又は掃気通路と、前記排気通路と前記給気又は掃気通路とをバイパスするEGR通路と、前記EGR通路を流れる排ガス量の全排ガス量に対する割合であるEGR率を調整する制御を実行する制御装置と、を備え、前記制御装置は更に、前記内燃機関の負荷及び前記EGR率に応じて、前記複数の過給機のそれぞれを動作させるか否かを決定する制御を実行する構成であることを特徴としている。
【0012】
このような構成とすることにより、EGR率が変更されて過給機側に供給される排ガス量が変化したとしても、その排ガス量の変化に追従して最適な過給機の動作態様を選択することができるようになる。また、複数の過給機のそれぞれについて、これを動作させるか否かを決定するようにしているため、動作させる過給機の組み合わせが多様化する。このため、内燃機関の負荷及びEGR率に応じて、キメ細く過給機の動作態様を変更することができ、そのときの運転状態に応じてできる限り高い過給性能を発揮させることができるようになる。
【0013】
前記排気通路には、前記内燃機関から延びる排気集合通路と、該排気集合通路より互いに分岐して前記複数の過給機の各々に接続される複数の排気分岐通路とが含まれ、前記各排気分岐通路に設けられた排気開閉弁を更に備え、前記制御装置は、動作させるべき過給機に接続された分岐排気通路を開放すると共に、停止させるべき過給機に接続された分岐排気通路を閉鎖するよう、複数の前記排気開閉弁を駆動する制御を実行する構成であってもよい。これにより、上記のように、複数の過給機のそれぞれについてこれを動作させるか否かを選択するための構成を実現することができる。
【0014】
前記給気又は掃気通路には、前記複数の過給機にそれぞれ接続された複数の分岐通路と、前記複数の分岐通路が集合されて前記内燃機関へと延びる集合通路とが含まれ、前記各分岐通路に設けられた開閉弁を更に備え、前記制御装置は、動作させるべき過給機に接続された分岐通路を開放すると共に、停止させるべき過給機に接続された分岐通路を閉鎖するよう、複数の前記開閉弁を駆動する制御を実行する構成であってもよい。これにより、動作させるべき過給機からの圧縮ガスが給気又は掃気通路を介して内燃機関に供給されるようになると共に、停止させるべき過給機にこの圧縮ガスが逆流するのを防ぐことができる。
【0015】
前記排気通路とは独立して設けられ、前記複数の過給機のそれぞれに予回転用の圧縮空気を供給するための圧縮空気通路を更に備え、前記制御装置は、前記過給機の始動に際し、始動すべき過給機に対し、所定期間前記圧縮空気通路を介して予回転用の圧縮空気を供給する制御を実行する構成であってもよい。これにより、始動すべき過給機の予回転に、排ガスを利用する必要がなくなる。つまり、例えばEGR率を小さくして再循環されるべき排ガスを過給機側に回すような必要がなくなる。このように、過給機の動作の制御が、NOx排出量を低減することを目的としたEGR率を決める制御に干渉するのを避けることができる。
【0016】
前記複数の過給機のコンプレッサの各々の下流側に接続され、過給機からの圧縮ガスを大気開放するための複数の逃がし通路と、前記各逃がし通路に設けられた逃がし弁を更に備え、前記制御装置は、前記所定期間が経過する間、前記始動すべき過給機に対応する逃がし通路を開放するよう前記逃がし弁を駆動する制御を実行し、前記所定期間の経過後に当該逃がし通路を閉鎖するよう前記逃がし弁を駆動する制御を実行する構成であってもよい。これにより、始動すべき過給機を予回転させているときに、サージングが発生するのを避けることができる。
【0017】
前記給気又は掃気通路には、前記複数の過給機にそれぞれ接続された複数の分岐通路と、前記複数の分岐通路が集合されて前記内燃機関へと延びる集合通路とが含まれ、前記各分岐通路に設けられた開閉弁と、前記排気通路とは独立して設けられ、前記複数の過給機のそれぞれに予回転用の圧縮空気を供給するための圧縮空気通路と、前記複数の過給機のコンプレッサの各々の下流側に接続され、過給機からの圧縮ガスを大気開放するための複数の逃がし通路と、前記各逃がし通路に設けられた逃がし弁とを更に備え、前記制御装置は、前記過給機の始動に際し、始動すべき過給機に対し、所定期間前記圧縮空気通路を介して予回転用の圧縮空気を供給する制御を実行すると共に、少なくとも前記所定期間が経過する間、前記始動すべき過給機に対応する逃がし通路を開放するよう前記逃がし弁を駆動すると共に前記始動すべき過給機に接続された分岐通路を閉鎖するよう前記開閉弁を駆動する制御を実行し、前記所定期間の経過後に当該逃がし通路を閉鎖するよう前記逃がし弁を駆動すると共に当該分岐通路を開放するよう前記開閉弁を駆動する制御を実行する構成であってもよい。これにより、始動すべき過給機を予回転させているときに、当該過給機のコンプレッサからの圧縮ガスが内燃機関に供給されるのを防ぐことができ、内燃機関の挙動が不安定になるのを避けることができる。また、過給機の予回転時に他の過給機からの圧縮ガスが逆流するのを防止することができ、過給機の予回転を安定して行わせることができる。
【0018】
前記複数の過給機の容量が互いに相違していてもよい。これにより、例えば部分負荷時には容量の小さい過給機を動作させ、中高負荷時には容量の大きい過給機を動作させるなどの制御が実行可能となり、運転状態の変化に関わらず高い過給性能を発揮させることができるようになる。
【0019】
前記制御装置は、前記EGR率を所定の下限値と所定の上限値との間の範囲で調整する制御を実行し、前記複数の過給機のうち最小容量の過給機は、前記内燃機関の負荷が低負荷であり前記EGR率を前記上限値に調整したときに当該過給機まで導かれる排ガスの流量に基づいて、その容量が設定されていてもよい。内燃機関が低負荷であってEGR率が上限値に設定されているときとは、過給機側に供給される排ガスの流量が最も小さくなる状況である。このような状況に合わせて過給機の容量を設定していることにより、このような状況においても高い過給性能を発揮することができるようになる。
【0020】
前記複数の過給機が、第1の過給機と、該第1の過給機と比べて容量の小さい第2の過給機とからなり、前記制御装置は、前記内燃機関の負荷及び前記EGR率に基づいて、前記第1及び第2の過給機の両方を動作させる状態、前記第1の過給機のみを動作させる状態、及び前記第2の過給機のみを動作させる状態のうちいずれか1つの状態を選択する制御を実行する構成であってもよい。これにより、2つの過給機を備える内燃機関において、運転状態に応じた過給機の動作の制御をキメ細かく実行することができる。
【0021】
前記第1の過給機からの圧縮ガスの圧力を調整するための可変ノズルを更に備え、前記制御装置は、前記EGR率が0であるときに、少なくとも前記第1の過給機を動作させ、前記EGR率が0より大きく所定のEGR閾値未満であるときに、少なくとも前記第1の過給機を動作させ、且つ前記第1の過給機からの圧縮ガスの圧力が所定の必要圧力以上となるよう前記可変ノズルを動作させる制御を実行する構成であってもよい。これにより、再循環されるべき排ガス量が0であって、全排ガスが過給機に供給される状況においては、少なくとも大容量の第1の過給機を動作させることにより、できる限り高い過給性能を発揮することができる。この第1の過給機に可変ノズルを設けておけば、EGR率が0から徐々に増加したときに、この可変ノズルの動作によって最適な過給性能が発揮される状態を維持することができる。
【0022】
前記制御装置は、前記内燃機関の負荷が所定の負荷閾値以上であって、前記EGR率が所定のEGR閾値未満であるときに、前記第1及び第2の過給機の両方を動作させ、前記EGR率が前記EGR閾値以上であるときに、前記第1の過給機のみを動作させる制御を実行する構成であってもよい。これにより、内燃機関の負荷が高負荷の状態にあるときにおいて、EGR率が低い又は0であるときには、過給機側に比較的大量の排ガスが供給されるため、2つの過給機を共に動作させることにより高い過給性能を発揮することができる。EGR率が高いときには、小容量の第2の過給機を停止することにより、最適な過給性能が発揮される状態を維持することができる。
【0023】
前記制御装置は、前記内燃機関の負荷が所定の負荷閾値未満であって、前記EGR率が所定のEGR閾値未満であるときに、前記第1の過給機のみを動作させ、前記EGR率が前記EGR閾値以上であるときに、前記第2の過給機のみを動作させる制御を実行する構成であってもよい。これにより、内燃機関の負荷が低負荷の状態にあるときにおいて、EGR率が高いときには、過給機側に供給される排ガスの量が少なくなるため、小容量の第2の過給機のみを動作させることにより高い過給性能を発揮することができる。EGR率が低い又は0であるときには、第2の過給機に替えて第1の過給機のみを動作させることにより、最適な過給性能が発揮される状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明によると、排ガスを再循環させる技術を適用した過給機付内燃機関において、内燃機関の負荷及びEGR率等の運転状態に応じて高い過給性能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る排気再循環システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すシステムの制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】内燃機関の負荷及びEGR率と、過給機の動作態様との対応関係についての説明図である。
【図4】図2に示すターボ制御部が実行するターボ制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】EGR率とNOx排出率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、これら図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1に示す本発明の実施形態に係る排気再循環システム(以下単に「システム」と呼ぶ)1は、過給機を備えた内燃機関2に適用されている。この内燃機関2は、2サイクルエンジン及び4サイクルエンジンの何れでもよく、ガソリンエンジン、ガスエンジン及びディーゼルエンジンの何れでもよい。また、この内燃機関2は、四輪車や船舶等の輸送機だけでなくその他様々な機器の原動機として利用され得る。ここでは便宜的に、舶用2サイクルディーゼルエンジンであるものとして説明する。
【0027】
内燃機関2は図示しない燃焼室を有し、該燃焼室からは排ガスを導くための排気通路3が延びている。排気通路3は、内燃機関2から延びる1系統の集合排気通路4と、この集合排気通路4から互いに分かれて延びる2つの分岐排気通路5A,5Bとを有している。
【0028】
各分岐排気通路5A,5Bには、過給機6A,6Bがそれぞれ接続されている。言い換えると、本システム1は2つの過給機6A,6Bを備えており、これら過給機6A,6Bは、分岐排気通路5A,5Bを介して集合排気通路4に対し並列的に接続されている。
【0029】
これら2つの過給機6A,6Bは互いに容量が相違しており、以降では、大容量の過給機6Aを「第1過給機6A」、小容量の過給機6Bを「第2過給機6B」と呼ぶ。また、第1過給機6Aに接続された分岐排気通路5Aを「第1分岐排気通路5A」、第2過給機6Bに接続された分岐排気通路5Bを「第2分岐排気通路5B」と呼ぶ。
【0030】
第1過給機6Aはタービン7A及びコンプレッサ8Aを有しており、タービン7Aは、第1分岐排気通路5Aを流れる排ガスによって回転される。コンプレッサ8Aは、タービン7Aの回転トルクが伝達されることによって回転し、これによりコンプレッサ8Aで空気が圧縮される。タービン7Aの入口部には、タービン7Aに流入する排ガスの流路断面を変化させる可変ノズル9Aが設けられており、この可変ノズル9Aの動作によってコンプレッサ8Aより流出する圧縮ガスの圧力を調整可能になっている。
【0031】
第2過給機6Bの構造は可変ノズルを有していない点を除いて第1過給機6Aと同一であるため、その重複説明を省略する。図1中の符号7B,8Bは、第2過給機6Bのタービン及びコンプレッサである。
【0032】
過給機6A,6Bには、過給機6A,6Bからの圧縮ガスを内燃機関2の燃焼室へ供給する掃気通路10が接続されている。なお、内燃機関が4サイクルエンジンである場合には、これら過給機は給気通路に接続されることとなる。
【0033】
掃気通路10は、第1過給機6Aのコンプレッサ8A側から延びる第1分岐掃気通路11Aと、第2過給機6Bのコンプレッサ8B側から延びる第2分岐掃気通路11Bと、これら分岐掃気通路11A,11Bが集合して内燃機関2に向けて1系統で延びる集合掃気通路12とを有している。つまり、2つの過給機6A,6Bは、分岐掃気通路11A,11Bを介して集合掃気通路12に対しても並列的に接続されている。
【0034】
このため本システム1によれば、各過給機6A,6Bは、内燃機関2から排出されて排気通路3を流れる排ガスのエネルギーを使って空気を圧縮し、その高温の圧縮ガスを掃気通路10を介して内燃機関2へと供給することができる。集合掃気通路12にはエアクーラ13が設けられており、過給機6A,6Bからの高温の圧縮ガスは、このエアクーラ13において冷却された上で内燃機関2に供給されるようになっている。
【0035】
本システム1は、第1分岐排気通路5Aを開閉する第1排気開閉弁14Aと、第2分岐排気通路5Bを開閉する第2排気開閉弁14Bとを備えている。第1排気開閉弁14Aが第1分岐排気通路5Aを開放する状態にあると、第1分岐排気通路5Aを介して排ガスが第1過給機6Aに供給され、第1過給機6Aを動作させることができる。逆に第1排気開閉弁14Aが第1分岐排気通路5Aを閉鎖する状態にあると、第1過給機6Aを停止させることができる。第2排気開閉弁14Bの状態と、第2過給機6Bの動作との関係もこれと同様である。
【0036】
また、各分岐排気通路5A,5Bには、圧縮器15が発生する圧縮空気を蓄圧するリザーバ16から延びる過給機予回転用の圧縮空気通路17が接続されている。この予回転用の圧縮空気通路17は、リザーバ16から延びる集合圧縮空気通路18と、集合圧縮空気通路18から分岐して第1分岐排気通路5Aに接続された第1分岐圧縮空気通路19Aと、第2分岐排気通路5Bに接続された第2分岐圧縮空気通路19Bとを有している。
【0037】
なお、リザーバ16は過給機の予回転に専用のものとしてもよいし、他の機器を駆動するためのものと併用されていてもよい。船舶には、圧縮空気を利用して駆動される機器が多数あり、これに対応してリザーバが配設されている。そのため、内燃機関2近傍に配置されたリザーバの一つを、過給機の予回転に容易に利用可能であり、過給機の予回転に専用のリザーバを設ける必要性が少ない。
【0038】
各分岐圧縮空気通路19A,19Bの下流端は、第1分岐排気通路5A及び第2分岐排気通路5Bにそれぞれ接続されており、リザーバ16に蓄えられている圧縮空気を各過給機6A,6Bのタービン7A,7Bに供給することができる。言い換えると、2つの過給機6A,6Bは、分岐排気通路5A,5B及び分岐圧縮空気通路19A,19Bを介し、リザーバ16に対して並列的に接続されている。
【0039】
本システム1は、第1分岐圧縮空気通路19Aを開閉する第1圧縮空気開閉弁20Aと、第2分岐圧縮空気通路19Bを開閉する第2圧縮空気開閉弁20Bとを備えている。第1圧縮空気開閉弁20Aが第1分岐圧縮空気通路19Aを開放する状態にあると、圧縮空気が第1過給機6Aのタービン7Aに供給され、該圧縮空気によってタービン7Aを回転させることができる。逆に第1圧縮空気開閉弁20Aが第1分岐圧縮空気通路19Aを閉鎖する状態にあると、圧縮空気をタービン7Aへ供給することができなくなる。なお、第2圧縮空気開閉弁19Bの状態と、第2過給機6Bのタービン7Bの動作との関係もこれと同様である。
【0040】
過給機6A,6Bのコンプレッサ8A,8Bに接続されている各分岐掃気通路11A,11Bには、圧縮ガスを大気に開放するための第1及び第2逃がし通路22A,22Bがそれぞれ接続されており、本システム1は、第1逃がし通路22Aを開閉する第1逃がし弁23Aと、第2逃がし通路22Bを開閉する第2逃がし弁23Bとを備えている。第1逃がし弁23Aが第1逃がし通路22Aを開放する状態にあると、第1分岐掃気通路11A内の圧縮ガスが第1逃がし通路22Aを介して外部に放出される。逆に、第1逃がし弁23Aが第1逃がし通路22Aを閉鎖する状態にあると、第1分岐掃気通路11A内の圧縮ガスが外部に放出されるのを防止することができる。更に、本システム1は、第1分岐掃気通路11Aを開閉する第1掃気開閉弁24Aと、第2分岐掃気通路11Bを開閉する第2掃気開閉弁24Bとを備えている。第1掃気開閉弁24Aが第1分岐掃気通路11Aを開放する状態にあると、第1分岐掃気通路11A内の圧縮ガスを集合掃気通路12へ供給することができる。逆に第1掃気開閉弁24Aが第1分岐掃気通路11Aを閉鎖する状態にあると、第1分岐掃気通路11A内の圧縮ガスを集合掃気通路12へ供給することができなくなる。なお、第2逃がし弁23B及び第2掃気開閉弁24Bの状態と、第2分岐掃気通路11B内の圧縮ガスの挙動との関係もこれと同様である。
【0041】
集合排気通路4は、EGR通路25を介して集合掃気通路12とバイパス接続されている。このため、内燃機関2からの排ガスは、各過給機6A,6Bを経由することなく、このEGR通路25を介して掃気通路10へと導かれ、内燃機関2へと再循環され得るようになっている。すなわち、本システム1は、EGR通路が排気通路のうち過給機に対して上流側の部分と、給気又は掃気通路のうち過給機に対して下流側の部分とをバイパスする所謂高圧EGRの技術が適用されており、そのためコンプレッサ8A,8Bの汚損を防ぎながら排ガスを再循環することができるなどの利点を有している。
【0042】
このEGR通路25上にはEGR弁26、スクラバ27、ブロア28、及びEGRエアクーラ29が排気通路3側からこの順で介在している。EGR弁26は例えばバタフライバルブ等によって構成されてその開度が可変となっており、EGR弁26の開度を変更することによってEGR率が変更され得るようになっている。この「EGR率」とは、燃焼室より排気通路3に送り込まれた全排ガス量に対し、EGR通路25を介して内燃機関2へと再循環された排ガス量の割合である。図5を参照して前述したように、EGR率を増加させることにより、NOx排出率を減少させることができる。その一方、本システム1は所謂高圧EGRの技術を適用しているため、EGR率を増加させると過給機6A,6B側に供給される排ガス量の減少を招くこととなる。
【0043】
なお、スクラバ27は排ガスの脱塵、脱硫及び冷却を行い、再循環される排ガスの清浄化に寄与するデバイスである。ブロア28は排ガスを昇圧するためのデバイスである。舶用ディーゼルエンジンにおいては再循環される排ガスの圧力よりも掃気圧のほうが高くなりがちであるため、掃気通路への再循環に際して排ガスの圧力をこのブロアによって掃気圧程度に高めることにより、排ガスの再循環を円滑に行わせることができる。なお、ブロア28の駆動源は、電動モータでもよいし内燃機関2のクランク軸でもよく、また上記第1及び第2過給機6A,6Bとは別の過給機であってもよい。そして、排気通路3からEGR通路25に流入した高温の排ガスはEGRエアクーラ29において冷却された上で掃気通路10を介して内燃機関2まで再循環されるようになっている。
【0044】
次に、図2を参照して本システム1の制御系について説明する。本システム1は、内燃機関2の動作を統括的に制御するコントローラ30を備えている。コントローラ30は、外部のセンサ及び制御対象のデバイス等と情報の入出力を行うための入出力インターフェース(図示せず)、制御プログラムや入力した情報を記憶するメモリ(図示せず)、及びこの制御プログラムを実行するCPU(図示せず)を有している。この制御プログラムには、例えば、内燃機関2の負荷を制御するための処理手順を指示する負荷制御のプログラム、EGR率を調整するための処理手順を指示するEGR制御のプログラム、及び過給機6A,6Bの動作を制御するための処理手順を指示するターボ制御のプログラム等が含まれる。即ち、コントローラ30はその機能ブロックとして、内燃機関2の負荷を制御する負荷制御部31、EGR率を調整する制御を実行するEGR制御部32、及び過給機6A,6Bの動作の制御を実行するターボ制御部33を有している。コントローラ30は、これら制御部31〜33により実行される制御において参照すべきシステム1の運転状態を検知する種々のセンサと接続されており、これらセンサより運転状態を表す信号がコントローラ30へと出力されるよう構成されている。
【0045】
また、コントローラ30は、各制御部31〜33により実行される制御の対象となるデバイスとして、可変ノズル9A、各排気開閉弁14A,14B、予回転用の各圧縮空気開閉弁20A,20B、各逃がし弁23A,23B、各掃気開閉弁24A,24B、EGR弁26、及び燃料噴射装置35と接続されている。ここで挙げた弁はそれぞれ電気又は空気的手段を用いて駆動され得る弁である。但し、常開弁であるか常閉弁であるかは限定されない。
【0046】
負荷制御部31は、システム1の運転状態を表す入力信号に応じて燃料噴射量の指令値を求め、該指令値の燃料噴射量が燃焼室に噴射されるよう燃料噴射装置35の動作を制御する。これによりコントローラ30への入力信号に応じて内燃機関2の負荷を制御することができる。
【0047】
EGR制御部32は、図5に示す関係性に基づきNOx排出率が所望値となるようEGR率を調整すべくEGR弁26の開度の指令値を求め、EGR弁26の開度が該指令値となるようEGR弁26を駆動する制御を実行する。これにより内燃機関2からのNOx排出量を所望値に抑えることができるようになる。内燃機関2を舶用2サイクルディーゼルエンジンとする本実施形態においては、EGR制御部32により、EGR率が例えば0%から30%の範囲で調整される。
【0048】
ターボ制御部33は、内燃機関2の負荷及びEGR率に応じて、第1及び第2過給機6A,6Bのそれぞれを動作させるか否かを決定し、該決定に基づいて過給機6A,6Bの動作を制御する構成となっている。つまり、ターボ制御部33は、内燃機関2の負荷及びEGR率に応じて、第1及び第2排気開閉弁14A,14Bを駆動制御、及び可変ノズル9Aの駆動制御を実行する構成となっている。更にターボ制御部33は、後述するように、予回転用の各圧縮空気開閉弁20A,20B、各逃がし弁23A,23B、各掃気開閉弁24A,24Bの駆動制御も併せて実行する構成となっている。ターボ制御部33は、内燃機関2の負荷を検知するために負荷制御部31が求めた燃料噴射量の指令値を参照し、EGR率を検知するためにEGR制御部32が求めたEGR弁26の開度の指令値を参照する構成となっている。
【0049】
図3には内燃機関2の負荷及びEGR率と、過給機の動作態様との対応関係を示している。ターボ制御部33は、内燃機関2の負荷が「高負荷」及び「低負荷」の2つの状態のうち何れであるのかに基づき、且つEGR率が「EGR無し」、「低EGR」、「中EGR」及び「高EGR」の4つの状態のうち何れであるのかに基づいて、動作させる過給機を決定する。「高負荷」とは、内燃機関2の負荷がコントローラ30に予め記憶された所定の負荷閾値以上であることを表し、「低負荷」とは該負荷閾値未満であることを表している。「EGR無し」とは、EGR弁26が全閉しておりEGR率が0であって全排ガスが過給機6A,6B側に供給される状態であることを表し、「低EGR」とは、EGR率が0より大きくコントローラ30に予め記憶された所定の第1EGR閾値未満であることを表し、「高EGR」とは、EGR率が該第1EGR閾値よりも大きい値である所定の第2EGR閾値以上であることを表し、「中EGR」は、EGR率が第1EGR閾値以上第2EGR閾値未満であることを表している。
【0050】
内燃機関2の負荷が「高負荷」である場合において、EGR率が「EGR無し」及び「低EGR」であれば、第1及び第2過給機6A,6Bの両方を動作させる。但し、「EGR無し」であれば、第1過給機6Aの可変ノズル9Aの開度を全開状態にする。「低EGR」であれば、可変ノズル9Aを動作させ、可変ノズル9Aの開度を全開状態よりも小さい所定の開度にする。EGR率が「中EGR」及び「高EGR」であれば、第1過給機6Aのみ動作させて第2過給機6Bを停止させる。但し、「中EGR」であれば、第1過給機6Aの可変ノズル9Aの開度を全開状態にする。「高EGR」であれば、可変ノズル9Aを動作させ、可変ノズル9Aの開度を全開状態よりも小さい所定の開度にする。
【0051】
内燃機関2の負荷が「低負荷」である場合において、EGR率が「EGR無し」及び「低EGR」であれば、第1過給機6Aのみを動作させて第2過給機6Bを停止させる。と同時に、可変ノズル9Aの開度を全開状態よりも小さい所定の開度にする。「高EGR」であれば、第2過給機6Bのみ動作させて第1過給機6Aを停止させる。
【0052】
このように本実施形態では、「低負荷」である場合にはEGR率が「EGR無し」、「低EGR」及び「高EGR」の3つの状態のうち何れであるのかに基づいて過給機の動作態様が決定されるようにしている。内燃機関2の負荷が「低負荷」であって、EGR率が上記のようにして定義される「中EGR」である場合には、図3に示す「低EGR」である場合と同じ動作態様が決定されてもよいし、「高EGR」である場合と同じ動作態様が決定されてもよい。なお、内燃機関2の負荷が「高負荷」であるときと「低負荷」であるときとで、EGR率の状態を区分するために用いるEGR閾値の値を異ならせてもよい。
【0053】
このように、ターボ制御部33は、EGR率が0であるときには、少なくとも第1過給機6Aを動作させ、EGR率が0より大きく所定のEGR閾値未満であるときに、少なくとも第1過給機6Aを動作させると共に、可変ノズル9Aを動作させる制御を実行する構成となっている。このように、再循環されるべき排ガス量が0であって、全排ガスが過給機側に供給される状況においては、少なくとも大容量の第1過給機6Aを動作させることにより、高い過給性能を発揮することができる。EGR率が0から僅かに増加して「低EGR」の状態になったときには可変ノズル9Aを動作させるが、このときに所定の必要掃気圧となるようにして可変ノズル9Aを動作させることにより、EGR率の変化に追従して最適な過給性能が発揮される状態を維持することができる。
【0054】
また、ターボ制御部33は、内燃機関2の負荷が「高負荷」であって、EGR率が「低EGR」又は「EGR無し」であるときには、両方の過給機6A,6Bを動作させ、EGR率が「中EGR」又は「高EGR」であるときには、第1過給機6Aのみを動作させる制御を実行する構成となっている。これにより、「高負荷」であって「低EGR」又は「EGR無し」であるときには、過給機側に比較的大量の排ガスが供給されるため、2つの過給機6A,6Bを共に動作させることにより高い過給性能を発揮することができる。「中EGR」又は「高EGR」であるときには、小容量の第2過給機6Bを停止することにより、最適な過給性能が発揮される状態を維持することができる。
【0055】
また、ターボ制御部33は、内燃機関2の負荷が「低負荷」であって、EGR率が「低EGR」又は「EGR無し」であるときには、第1過給機6Aのみを動作させ、EGR率が「高EGR」であるときには、第2過給機6Bのみを動作させる制御を実行する構成となっている。これにより、「低負荷」であって「高EGR」であるときには、過給機側に供給される排ガスの量が少なくなるため、小容量の第2過給機6Bのみを動作させることにより高い過給性能を発揮することができる。「低EGR」又は「EGR無し」であるときには、第2過給機6Bに替えて大容量の第1過給機6Aのみを動作させることにより、最適な過給性能が発揮される状態を維持することができる。
【0056】
このように「低負荷」且つ「高EGR」であるときとは、本システム1において過給機側に導かれる排ガス量が最も少なくなるときである。この状況で過給機側に導かれる排ガスの流量をシステム1の設計段階で予め把握しておき、該流量に基づいて第2過給機6Bの容量を設定しておくことが好ましい。これにより、排ガス量が最も少なくなるような状況においても、高い過給性能を維持することができるようになる。
【0057】
ここで、図3の括弧内の数字は、「高負荷」且つ「EGR無し」である場合の全排ガス量を10としたときの、各過給機6A,6Bに供給される排ガス量の許容値を表している。言い換えると、各過給機6A,6Bは括弧内の数字の分まで排ガスを流せる容量があるということである。このように「高負荷」且つ「EGR無し」である場合には、本システム1において過給機側に供給される排ガス量が最大となる。「低負荷」且つ「高EGR」である場合には、同排ガス量が最小となるが、ここではその排ガス量が上記最大の排ガス量の20%となるとする。小容量の第2過給機6Bの容量は、このような状況において高い過給性能を発揮し得るように設定される。但し、この割合は単に一例を示すものであり、この値の変化に応じて第2過給機6Bの容量も適宜変更される。
【0058】
そして、第1及び第2過給機6A,6Bの容量の合計が、過給機側に導かれる排ガス量が最大となる「高負荷」且つ「EGR無し」である場合に高い過給性能を発揮し得るように設定される。第2過給機6Bはこの最大の排ガス量の20%を分担するとしているため、第1過給機6Aの容量は、残りの80%が供給される状況において高い過給性能を発揮し得るように設定されることとなる。
【0059】
このように、前述した過給機6A,6Bの動作態様は、内燃機関2の負荷及びEGR率に応じて決まる過給機側への排ガス供給量に加えて、各過給機6A,6Bの容量に基づいて、決定される。
【0060】
「低負荷」且つ「EGR無し」又は「低EGR」である場合には、過給機側に供給される排ガス量が減るので、第1過給機6Aのみを動作させ、この排ガス量の推移に応じて可変ノズル9Aの開度を変更することにより、できる限り高い過給機性能を維持可能となる。
【0061】
次に、図4を参照してターボ制御部33が実行するターボ制御の処理手順について説明する。図4に示すフローは、ターボ制御部33によって所定の制御周期毎に繰り返し実行されるようになっている。まずターボ制御部33は、負荷制御部31及びEGR制御部32からの入力に従って内燃機関2の負荷及びEGR率を検知する(ステップS1)。そして、検知した負荷及びEGR率をそれぞれ負荷閾値及びEGR閾値と比較し(ステップS2)、内燃機関2の負荷が「高負荷」及び「低負荷」の何れの状態に該当するのかを導出すると共に、EGR率が「EGR無し」、「低EGR」、「中EGR」及び「高EGR」のうち何れの状態に該当するのかを導出する(ステップS3)。
【0062】
次に、ターボ制御部33は、今回導出された状態が前回導出された状態から変化しているか否かを判断する(ステップS4)。状態に変化がなければ(S4:NO)、処理を終了して現在設定されている過給機の動作態様を継続する。状態に変化があるときには(S4:YES)、今回導出された状態と、図3に示した対応関係とに従って、新たな過給機の動作態様を選定する(ステップS5)。
【0063】
そして、現在設定されている過給機の動作態様と、新たに選定された過給機の動作態様とを比較し、これに基づいて現在は停止しているものの新たに選定された動作態様に従って始動させる必要のある過給機が存在するのか否かを判断する(ステップS6)。つまり、前回の処理の実行から所定制御周期が経過する間において、例えば「高負荷」且つ「高EGR」から「高負荷」且つ「低EGR」へと状態が変化した場合、新たに第2過給機6Bを始動させる必要がある。他方、例えば「高負荷」且つ「EGR無し」から「高負荷」且つ「低EGR」へと状態が変化した場合には、過給機の動作態様は変更されるものの新たに始動させる必要のある過給機は存在しない。
【0064】
始動させる必要のある過給機が存在しない場合には(S6:NO)、選定された動作態様に従って各排気開閉弁14A,14B及び各掃気開閉弁24A,24B、可変ノズル9Aの駆動制御を実行し(ステップS10)、処理を終了する。
【0065】
新たに始動させる必要のある過給機が存在する場合には(S6:YES)、この過給機に対応する予回転用の分岐圧縮空気通路及び逃がし通路を開放するよう分岐圧縮空気開閉弁及び逃がし弁をそれぞれ駆動制御する(ステップS7)。そして、これらの駆動制御を実行してから所定時間が経過したか否かを判断する(ステップS8)。
【0066】
上記のように各通路が開閉された状態が所定時間継続している間、リザーバ16からの圧縮空気が始動させるべき過給機へと供給され、この過給機のタービンが圧縮空気によって予回転されるようになる。これによりコンプレッサも予回転され、空気が圧縮される。この予回転で発生した圧縮空気の圧力は稼動中の内燃機関2の必要掃気圧よりも低くなりがちである。そこで、掃気通路からコンプレッサへの逆流を防ぐため、分岐掃気通路の掃気開閉弁を閉鎖状態にして過給機を内燃機関2から遮断する。同時に逃がし弁を開状態として逃がし通路を開放し、予回転で発生した低圧の圧縮空気を逃がすことで、サージングの発生を防いでいる。また、予回転のために利用する圧縮空気は排気通路3とは独立した系統より供給されるため、過給機の予回転のために排ガスを利用しなくてもよくなる。そのため、過給機の始動に由来してEGR率が影響を受けることがなく、過給機の始動がEGR制御に干渉するのを避けることができ、NOx排出量を所望値に維持することができる。
【0067】
ステップS8において所定時間が経過したと判断されると(S8:YES)、分岐圧縮空気通路及び逃がし通路を閉鎖するよう圧縮空気開閉弁及び逃がし弁をそれぞれ駆動制御し(ステップS9)、ステップS10に進んで、分岐排気通路及び分岐掃気通路を開放するよう排気開閉弁及び掃気開閉弁をそれぞれ駆動制御し、処理を終了する。これにより、排気通路3内の排ガスが予回転した過給機に供給され、この過給機が排ガスの流量に基づいてスムーズに動作するようになる。
【0068】
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記の構成は本発明の範囲内において適宜変更可能である。過給機の数は2個に限られず、排気通路と、掃気又は給気通路とにそれぞれ並列的に接続された3個以上の過給機がシステムに備えられていてもよい。また、可変ノズルを備える過給機の個数は1個に限られず、複数の過給機に可変ノズルが備えられていてもよい。また、過給機の容量は必ずしも互いに相違していなくてもよく、各過給機の容量が互いに同じであってもよい。
【0069】
また、EGR通路上のスクラバ、ブロア、EGRエアクーラは必要に応じて設けられるものであり、適宜省略可能である。
【0070】
本実施形態では、内燃機関を舶用2サイクルディーゼルエンジンに適用するとしたが、他の用途の4サイクルエンジン又はガソリンエンジンに適用してもよい。但し、ディーゼルエンジンは、三元触媒を利用してNOx排出率の低減を図るガソリンエンジンと比べ、EGR率がより高く設定される傾向にあり、EGR率を入力パラメータとして過給機の動作態様を決めるという本システムを好適に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、過給機通過前の排ガスを再循環させる高圧EGR技術を適用した過給機付内燃機関において、運転状態に応じて高い過給性能を発揮させることができるという作用効果を奏し、例えば舶用ディーゼルエンジンに適用すると有益である。
【符号の説明】
【0072】
1 排気再循環システム
2 内燃機関
3 排気通路
4 集合排気通路
5A,5B 分岐排気通路
6A 第1過給機
6B 第2過給機
9A 可変ノズル
10 掃気通路
11A,11B 分岐掃気通路
12 集合掃気通路
14A,14B 排気開閉弁
16 リザーバ
17 圧縮空気通路
22A,22B 逃がし通路
23A,23B 逃がし弁
24A,24B 掃気開閉弁
25 EGR通路
26 EGR弁
30 コントローラ
33 ターボ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からの排ガスを導く排気通路と、
前記排気通路に対して並列接続された複数の過給機と、
前記複数の過給機より発生する圧縮ガスを前記内燃機関に供給するための給気又は掃気通路と、
前記排気通路の前記過給機の上流側と前記給気又は掃気通路の前記過給機の下流側とをバイパスするEGR通路と、
前記EGR通路を流れる排ガス量の全排ガス量に対する割合であるEGR率を調整する制御を実行する制御装置と、を備え、
前記制御装置は更に、前記内燃機関の負荷及び前記EGR率に応じて、前記複数の過給機のそれぞれを動作させるか否かを決定する制御を実行する構成であることを特徴とする過給機付内燃機関の排気再循環システム。
【請求項2】
前記排気通路には、前記内燃機関から延びる排気集合通路と、該排気集合通路より互いに分岐して前記複数の過給機の各々に接続される複数の排気分岐通路とが含まれ、
前記各排気分岐通路に設けられた排気開閉弁を更に備え、
前記制御装置は、動作させるべき過給機に接続された分岐排気通路を開放すると共に、停止させるべき過給機に接続された分岐排気通路を閉鎖するよう、複数の前記排気開閉弁を駆動する制御を実行する構成であることを特徴とする請求項1に記載の過給機付内燃機関の排気再循環システム。
【請求項3】
前記給気又は掃気通路には、前記複数の過給機にそれぞれ接続された複数の分岐通路と、前記複数の分岐通路が集合されて前記内燃機関へと延びる集合通路とが含まれ、
前記各分岐通路に設けられた開閉弁を更に備え、
前記制御装置は、動作させるべき過給機に接続された分岐通路を開放すると共に、停止させるべき過給機に接続された分岐通路を閉鎖するよう、複数の前記開閉弁を駆動する制御を実行する構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の過給機付内燃機関の排気再循環システム。
【請求項4】
前記排気通路とは独立して設けられ、前記複数の過給機のそれぞれに予回転用の圧縮空気を供給するための圧縮空気通路を更に備え、
前記制御装置は、前記過給機の始動に際し、始動すべき過給機に対し、所定期間前記圧縮空気通路を介して予回転用の圧縮空気を供給する制御を実行する構成であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の過給機付内燃機関の排気再循環システム。
【請求項5】
前記複数の過給機のコンプレッサの各々の下流側に接続され、過給機からの圧縮ガスを大気開放するための複数の逃がし通路と、前記各逃がし通路に設けられた逃がし弁とを更に備え、
前記制御装置は、前記所定期間が経過する間、前記始動すべき過給機に対応する逃がし通路を開放するよう前記逃がし弁を駆動する制御を実行し、前記所定期間の経過後に当該逃がし通路を閉鎖するよう前記逃がし弁を駆動する制御を実行する構成であることを特徴とする請求項4に記載の過給機付内燃機関の排気再循環システム。
【請求項6】
前記給気又は掃気通路には、前記複数の過給機にそれぞれ接続された複数の分岐通路と、前記複数の分岐通路が集合されて前記内燃機関へと延びる集合通路とが含まれ、
前記各分岐通路に設けられた開閉弁と、前記排気通路とは独立して設けられ、前記複数の過給機のそれぞれに予回転用の圧縮空気を供給するための圧縮空気通路と、前記複数の過給機のコンプレッサの各々の下流側に接続され、過給機からの圧縮ガスを大気開放するための複数の逃がし通路と、前記各逃がし通路に設けられた逃がし弁とを更に備え、
前記制御装置は、
前記過給機の始動に際し、始動すべき過給機に対し、所定期間前記圧縮空気通路を介して予回転用の圧縮空気を供給する制御を実行すると共に、
少なくとも前記所定期間が経過する間、前記始動すべき過給機に対応する逃がし通路を開放するよう前記逃がし弁を駆動すると共に前記始動すべき過給機に接続された分岐通路を閉鎖するよう前記開閉弁を駆動する制御を実行し、前記所定期間の経過後に当該逃がし通路を閉鎖するよう前記逃がし弁を駆動すると共に当該分岐通路を開放するよう前記開閉弁を駆動する制御を実行する構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の過給機付内燃機関の排気再循環システム。
【請求項7】
前記複数の過給機の容量が互いに相違することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の過給機付内燃機関の排気再循環システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記EGR率を所定の下限値と所定の上限値との間の範囲で調整する制御を実行し、
前記複数の過給機のうち最小容量の過給機は、前記内燃機関の負荷が低負荷であり前記EGR率を前記上限値に調整したときに当該過給機まで導かれる排ガスの流量に基づいて、その容量が設定されていることを特徴とする請求項7に記載の過給機付内燃機関の排気再循環システム。
【請求項9】
前記複数の過給機が、第1の過給機と、該第1の過給機と比べて容量の小さい第2の過給機とからなり、
前記制御装置は、前記内燃機関の負荷及び前記EGR率に基づいて、前記第1及び第2の過給機の両方を動作させる状態、前記第1の過給機のみを動作させる状態、及び前記第2の過給機のみを動作させる状態のうちいずれか1つの状態を選択する制御を実行する構成であることを特徴とする請求項7又は8に記載の過給機付内燃機関の排気再循環システム。
【請求項10】
前記第1の過給機からの圧縮ガスの圧力を調整するための可変ノズルを更に備え、
前記制御装置は、
前記EGR率が0であるときに、少なくとも前記第1の過給機を動作させ、
前記EGR率が0より大きく所定のEGR閾値未満であるときに、少なくとも前記第1の過給機を動作させ、且つ前記第1の過給機からの圧縮ガスの圧力が所定の必要圧力以上となるよう前記可変ノズルを動作させる制御を実行する構成であることを特徴とする請求項9に記載の過給機付内燃機関の排気再循環システム。
【請求項11】
前記制御装置は、前記内燃機関の負荷が所定の負荷閾値以上であって、
前記EGR率が所定のEGR閾値未満であるときに、前記第1及び第2の過給機の両方を動作させ、
前記EGR率が前記EGR閾値以上であるときに、前記第1の過給機のみを動作させる制御を実行する構成であることを特徴とする請求項9又は10に記載の過給機付内燃機関の排気再循環システム。
【請求項12】
前記制御装置は、前記内燃機関の負荷が所定の負荷閾値未満であって、
前記EGR率が所定のEGR閾値未満であるときに、前記第1の過給機のみを動作させ、
前記EGR率が前記EGR閾値以上であるときに、前記第2の過給機のみを動作させる制御を実行する構成であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の過給機付内燃機関の排気再循環システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−236475(P2010−236475A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87090(P2009−87090)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】