説明

電界効果トランジスタおよび半導体装置、ならびにそれらの製造方法

【課題】従来のFETにおいては、電流駆動能力が低下してしまう。
【解決手段】FET20は、半導体基板10上に設けられた電極膜24aと、電極膜24a上に設けられ、当該電極膜24aと共にゲート電極24を構成する応力膜24bと、を備えている。電極膜24aおよび応力膜24bの各々は、金属、窒化金属または金属シリサイドからなる。応力膜24bは、半導体基板10に対して圧縮応力を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタおよび半導体装置、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンおよび多結晶シリコンをそれぞれ半導体基板およびゲート電極の材料として用いた金属−絶縁膜−半導体電界効果トランジスタ(MISFET:Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)は、素子の微細加工技術、各種の成膜技術および不純物制御技術により、その性能を向上させてきた。そして、異なる閾値電圧特性を示す複数のMISFETを組み合わせることで、種々の機能をもつ半導体装置が構成されてきた。特に、素子の微細化に伴う電流駆動能力の向上は、著しい。なお、シリコン酸化膜等の酸化膜がゲート絶縁膜として用いられている場合、MISFETは、特に金属−酸化膜−半導体電界効果トランジスタ(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)とも呼ばれる。
【0003】
本発明に関連する先行技術文献としては、特許文献1〜3および非特許文献1〜4が挙げられる。
【特許文献1】特開2002−93921号公報
【特許文献2】特開2005−57301号公報
【特許文献3】特開2005−303261号公報
【非特許文献1】" Electron Mobility Enhancement in Strained-Si N-type Metal-Oxide- Semiconductor Field-Effect Transistors", J. Welser, J. L. Hoyt, and J. F. Gibbons, IEEE Electron Device Letters, Vol.15, No.3 (1994), p.100-102
【非特許文献2】"Mechanical Stress Effect of Etch-Stop Nitride and its Impact on Deep Submicron Transistor Design", S. Itoh et al., Technical Digest of 2000 International Electron Device Meeting (2000), p.247-250
【非特許文献3】"A 90nm High Volume Manufacturing Logic Technology Featuring Novel 45nm Gate Length Strained Silicon CMOS Transistors", T. Ghani et al., Technical Digest of 2003 International Electron Device Meeting (2003), p.978-980
【非特許文献4】"The Effects of TaN Thickness and Strained Substrate on the Performance and PBTI Characteristics of Poly-Si/TaN/HfSiON MOSFETs", H. -J. Cho et al., Technical Digest of 2004 International Electron Device Meeting (2004), p.503-506
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、素子の微細化に伴いFETのチャネル長が短くなり、ゲート電圧によるチャネル領域の電流制御(電荷制御)が困難になっている。この点、半導体基板のチャネル領域の不純物濃度を上昇させることで、制御性が向上することが知られている。ところが、この方法では、不純物による電荷担体(電子・正孔)の散乱が大きくなり、電流駆動能力が低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるFETは、Nチャネル型のFETであって、半導体基板上に設けられた第1の電極膜と、上記第1の電極膜上に設けられ、当該第1の電極膜と共にゲート電極を構成する第2の電極膜と、を備え、上記第1または第2の電極膜の少なくとも一方は、上記半導体基板に対して圧縮応力を持つ応力膜であり、上記第1および第2の電極膜の各々は、金属、窒化金属または金属シリサイドからなることを特徴とする。
【0006】
このNチャネル型のFETにおいては、第1または第2の電極膜の少なくとも一方が圧縮応力を持つ応力膜である。この応力膜によりチャネル領域が外方向に引っ張られ、それにより電子移動度が向上する。
【0007】
また、本発明によるFETは、Pチャネル型のFETであって、半導体基板上に設けられた第1の電極膜と、上記第1の電極膜上に設けられ、当該第1の電極膜と共にゲート電極を構成する第2の電極膜と、を備え、上記第1または第2の電極膜の少なくとも一方は、上記半導体基板に対して引張応力を持つ応力膜であり、上記第1および第2の電極膜の各々は、金属、窒化金属または金属シリサイドからなることを特徴としてもよい。
【0008】
このPチャネル型のFETにおいては、第1または第2の電極膜の少なくとも一方が引張応力を持つ応力膜である。この応力膜によりチャネル領域が圧縮され、それにより正孔移動度が向上する。
【0009】
なお、本明細書において引張応力および圧縮応力は、次のように定義される。すなわち、基板上に膜を形成し、その基板面に垂直な単位断面積を通して、断面の一方の側が他の側に及ぼす力が互いに引っ張り合う状態のときの応力が引張応力、その反対の状態の内部応力が圧縮応力である。例えば、膜が縮まろうとしているとき、膜は引張応力を受け、その結果として基板表面には圧縮歪が生じる。膜が広がろうとするとき、膜は圧縮応力を受け、その結果として基板表面には引張歪が生じる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電荷担体の移動度が高いFETおよびそれを備える半導体装置、ならびにそれらの製造方法が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明によるFETおよび半導体装置ならびにそれらの製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
図1は、本発明による半導体装置の一実施形態を示す断面図である。半導体装置1は、Nチャネル型のFET20と、Pチャネル型のFET30とを備えている。これらのFET20,30は、同一の半導体基板10に形成されている。本実施形態において半導体基板10は、シリコン基板である。半導体基板10には、Pウエル領域12、Nウエル領域13、および素子分離領域14が形成されている。FET20およびFET30は、素子分離領域14によって互いに分離されている。素子分離領域14は、例えばSTI(Shallow Trench Isolation)である。
【0013】
FET20は、半導体基板10上に設けられた電極膜24a(第1の電極膜)と、電極膜24a上に設けられ、当該電極膜24aと共にゲート電極24を構成する応力膜24b(第2の電極膜)と、を備えている。電極膜24aおよび応力膜24bの各々は、金属、窒化金属または金属シリサイドからなる。電極膜24aは、半導体基板10のチャネル領域上にゲート絶縁膜25を介して設けられている。応力膜24bは、半導体基板10に対して圧縮応力を有している。この応力膜24bは、スパッタ法によって成膜されることが好ましい。応力膜24bの材料としては、W、Mo、Ti、TaもしくはRu、またはその窒化物等が挙げられる。中でも、スパッタ法によって成膜された、WまたはMoが特に好ましい。
【0014】
これらのゲート電極24およびゲート絶縁膜25、ならびにPウエル領域12中に形成されたソース・ドレイン領域22等によって、FET20が構成されている。また、ゲート電極24の側壁上には、側壁膜26が設けられている。
【0015】
FET30は、半導体基板10上に設けられた電極膜34a(第1の電極膜)と、電極膜34a上に設けられ、当該電極膜34aと共にゲート電極34を構成する応力膜34b(第2の電極膜)と、を備えている。電極膜34aおよび応力膜34bの各々は、金属、窒化金属または金属シリサイドからなる。電極膜34aは、半導体基板10のチャネル領域上にゲート絶縁膜35を介して設けられている。応力膜34bは、半導体基板10に対して引張応力を有している。この応力膜34bは、化学気相成長(CVD)法によって成膜されることが好ましい。応力膜34bの材料としては、W、Mo、Ti、TaもしくはRu、またはその窒化物等が挙げられる。中でも、CVD法によって成膜されたW膜が特に好ましい。
【0016】
これらのゲート電極34およびゲート絶縁膜35、ならびにNウエル領域13中に形成されたソース・ドレイン領域32等によって、FET30が構成されている。また、ゲート電極34の側壁上には、側壁膜36が設けられている。
【0017】
このように、FET20ではゲート絶縁膜25に接して電極膜24aが、FET30ではゲート絶縁膜35に接して電極膜34aが設けられている。ここで、例えばFET20の閾値電圧を0.5V以下にしたい場合、電極膜24aの材料は、仕事関数が3.9〜4.3eVであることが好適である。かかる材料としては、TaN、TaSiN、Al、TaおよびMo等が挙げられる。なお、当該仕事関数は、ゲート絶縁膜25との界面での反応や電荷の平衡を考慮した、実効的な仕事関数であってもよい。より大きな閾値電圧を得たい場合、仕事関数が4.5eV前後になる金属シリサイド等を用いてもよい。
【0018】
同様に、FET30の閾値電圧を0.5V以下にしたい場合、電極膜34aの材料は、仕事関数が4.7〜5.1eVであることが好適である。かかる材料としては、TiN、Pt、Ir、Ru、Re、NiSiおよびNi31Si12等が挙げられる。
【0019】
ここで、各電極膜24a,34aの膜厚は、例えば1〜20nmである。各応力膜24b,34bの膜厚は、例えば20〜50nmである。応力膜24bの膜厚と応力膜34bの膜厚とは、互いに等しくてもよいし、相異なっていてもよい。
【0020】
図2〜図7を参照しつつ、本発明による半導体装置の製造方法の一実施形態として、半導体装置1の製造方法の一例を説明する。この製造方法は、FET20を製造する工程と、FET30を製造する工程とを含む。また、FET20を製造する方法は、半導体基板10上に電極膜24aを形成する工程と、電極膜24a上に応力膜24bを形成する工程とを含む。同様に、FET30を製造する方法は、半導体基板10上に電極膜34aを形成する工程と、電極膜34a上に応力膜34bを形成する工程とを含む。
【0021】
より詳細には、まず、半導体基板10中に、Pウエル領域12、Nウエル領域13および素子分離領域14を形成する(図2(a))。続いて、半導体基板10上に、ゲート絶縁膜25,35となる絶縁膜42を形成する。絶縁膜42としては、シリコン窒化酸化膜、またはそれよりも高い比誘電率を有する、酸化ハフニウム膜、ハフニウムシリコン酸化膜もしくは窒化ハフニウムシリコン酸化膜等を用いることが好適である(図2(b))。
【0022】
次に、絶縁膜42上に、電極膜24aとなる電極膜44aを形成する。その後、Pウエル領域12上の電極膜44aを覆うように、マスクM1を選択的に配置する。マスクM1としては、例えばシリコン酸化膜を用いることができる(図3(a))。続いて、マスクM1を利用して電極膜44aを選択的に除去することにより、Nウエル領域13上の絶縁膜42を露出させる。ここで、電極膜44aを除去するプロセス中にマスクM1が消滅するように、それぞれの膜厚を調整しておくことが好ましい(図3(b))。
【0023】
次に、絶縁膜42および電極膜44a上に、電極膜34aとなる電極膜45aを形成する(図4(a))。続いて、電極膜45a上に、応力膜24bとなる応力膜44bを形成する。この応力膜44bは、室温よりも高い温度でスパッタ法により成膜されることが好ましい。さらに、応力膜44b上にエッチストップ膜46を形成する。ここで、エッチストップ膜46は、後述する応力膜45bに対する選択性を有する膜であることが好ましい。例えば、応力膜45bがCVD法によって成膜されたW膜である場合、エッチストップ膜46として窒化チタン膜を好適に用いることができる(図4(b))。
【0024】
次に、Nウエル領域13上の、応力膜44bおよびエッチストップ膜46を選択的に除去する(図5(a))。続いて、電極膜45aおよびエッチストップ膜46上に、応力膜34bとなる応力膜45bを形成する。この応力膜45bは、室温よりも高い温度でCVD法により成膜されることが好ましい。さらに、応力膜45b上にエッチストップ膜47を形成する。このエッチストップ膜47の材料および厚みは、上述のエッチストップ膜46と同じであることが好ましい(図5(b))。
【0025】
次に、Pウエル領域12上の、応力膜45bおよびエッチストップ膜47を選択的に除去する(図6(a))。続いて、エッチストップ膜46,47上に、それぞれハードマスクM2,M3を選択的に配置する。これらのハードマスクM2,M3としては、例えばシリコン窒化膜を用いることができる(図6(b))。なお、同図において電極膜44a上に電極膜45aが残っているが、電極膜44a上の電極膜45aは応力膜44bを形成する工程(図4(b)参照)の前に除去されてもよい。以下では、当該電極膜45aが除去された態様を図示する。
【0026】
次に、ハードマスクM2を利用して、Pウエル領域12上の、エッチストップ膜46、応力膜44b、電極膜44aおよび絶縁膜42を選択的に除去する。また、それと同時に、ハードマスクM3を利用して、Nウエル領域13上の、エッチストップ膜47、応力膜45b、電極膜45aおよび絶縁膜42を選択的に除去する。これにより、ゲート電極24,34およびゲート絶縁膜25,35が形成される。ゲート電極24,34上には、エッチストップ膜46,47、またはエッチストップ膜46,47とハードマスクM2,M3との積層膜が残存している(図7(a))。続いて、側壁膜26,36およびソース・ドレイン領域22,32を形成した後、ソース・ドレイン領域22,32の表面にシリサイドを形成する。以上により、FET20,30、およびそれらを備える半導体装置1が得られる(図7(b))。
【0027】
本実施形態の効果を説明する。Nチャネル型のFET20においては、応力膜24bが圧縮応力を有している。この応力膜24bによりFET20のチャネル領域は外方向に引っ張られ、それにより電子移動度が向上する。一方、Pチャネル型のFET30においては、応力膜34bが引張応力を有している。この応力膜34bによりFET30のチャネル領域は圧縮され、それにより正孔移動度が向上する。よって、電荷担体の移動度が高いFET20,30およびそれを備える半導体装置1、ならびにそれらの製造方法が実現されている。
【0028】
さらに、本実施形態の製造方法によれば、相異なる仕事関数の電極膜24a,34aを形成するとともに、半導体基板10に対して相異なる応力を有する応力膜24b,34bを形成することが可能である。特に、応力膜上に配置するエッチストップ膜をFET20およびFET30の双方に適用することで、微細なゲート電極24,34に加工をすることが容易になる。エッチストップ膜を選択的に除去する工程において、その下地になる応力膜と選択性のある条件を使用することで、ゲート絶縁膜が露出するまでの加工工程のマージンが広がるためである。また、このように相異なる応力膜を形成し分ける手法を利用して、相異なる膜厚の応力膜を形成することも可能である。これにより、非特許文献4において指摘されるゲート電極膜の膜厚による界面特性劣化も抑制される。
【0029】
ところで、特許文献1には、シリコン膜もしくは金属膜からなる単層のゲート電極、またはシリコンおよび金属からなる積層のゲート電極において、Nチャネル型のMOSFETとPチャネル型のMOSFETとで応力を異ならせることが開示されている。しかしながら、この積層構造では、下層が多結晶シリコンであるため、ゲート空乏化の問題を解決できない。また、単層の場合、使用したい仕事関数を持つ材料および成膜方法を適用できない場合が生じる可能性が強い。これに対して、本実施形態においては、ゲート電極の積層構造を構成する第1および第2の電極膜の材料として、金属、窒化金属または金属シリサイドを用いている。特に、仕事関数を決定する下層電極と、ゲート電極全体の応力設計を行う上層電極の構成にすることにより、仕事関数の決定とゲート電極全体の応力設計との独立性を図ることができる。
【0030】
図8は、非特許文献1に開示された半導体装置を示す断面図である。半導体装置100は、Nチャネル型のMOSFET120、およびPチャネル型のMOSFET130を備えている。これらのMOSFET120,130は、歪みシリコン基板110に形成されている。歪みシリコン基板110は、シリコンとゲルマニウムとの混晶膜(SiGe膜)101と、その上に形成されたシリコン膜102とを有している。SiGe膜101は、シリコン膜102のシリコンよりも実効的な格子定数が大きくなるように格子緩和されている。シリコン膜102上には、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜103を介して、多結晶シリコンからなるゲート電極104が設けられている。さらに、シリコン膜102中には、ソース・ドレイン領域105が形成されている。
【0031】
シリコン膜102は、格子定数がより大きいSiGe膜101の上にエピタキシャル成長させられているため、歪まされている。この例では、実効電界移動度により性能比較し、通常のシリコン基板に形成したMOSFETと比べて+80%の性能向上が見られている。しかしながら、このような歪みシリコン基板110は、通常のシリコン基板よりもコストが高いという問題がある。
【0032】
図9は、非特許文献2に開示された半導体装置を示す断面図である。半導体装置200は、Nチャネル型のMOSFET220、およびPチャネル型のMOSFET230を備えている。シリコン基板210上には、ゲート絶縁膜203を介してゲート電極204が設けられている。さらに、シリコン基板210中には、ソース・ドレイン領域205が形成されている。
【0033】
さらに、ゲート電極204およびソース・ドレイン領域205を覆うように、プラズマシリコン窒化膜206が形成されている。このプラズマシリコン窒化膜206は、シリコン基板210に対して引張応力を有している。それにより、MOSFET220の電子電流駆動能力を向上させている。しかしながら、その一方で、MOSFET230の正孔移動度は低下してしまっている。
【0034】
図10は、非特許文献3に開示された半導体装置を示す断面図である。半導体装置300は、Nチャネル型のMOSFET320、およびPチャネル型のMOSFET330を備えている。シリコン基板310上には、ゲート絶縁膜303を介してゲート電極304が設けられている。さらに、シリコン基板310中には、ソース・ドレイン領域305が形成されている。ゲート電極304およびソース・ドレイン領域305を覆うように、シリコン基板310に対して引張応力を持つプラズマシリコン窒化膜306が形成されている。このプラズマシリコン窒化膜306は、MOSFET320にのみ設けられている。
【0035】
さらに、MOSFET330のソース・ドレイン領域305には、シリコンよりも格子定数が大きいSiGeが埋め込まれている(点線L1で囲まれた領域)。それによりMOSFET330のチャネル領域を圧縮させて、正孔移動度を向上させている。しかしながら、かかる構造では、製造工程が複雑になり、コストが上昇するという問題がある。
【0036】
また、非特許文献4には、多結晶シリコンをゲート電極にした場合に生じるゲート容量を低下させるために、金属膜をゲート絶縁膜上に配置することが開示されている。その例として、多結晶シリコンとTaNとの積層膜からなるゲート電極が挙げられている。この例では、3nmのTaN膜に多結晶シリコンを積層し、ソース・ドレインの不純物活性化の熱処理をすることで、TaNが多結晶シリコンと反応して界面準位密度が増加するという問題が提示されている。また、TaN膜厚を5nm、10nmとした場合、ゲート容量、フラットバンド電圧が変化し、厚い膜厚であるほど、素子寿命(Positive bias temperature instability)も向上することが報告されている。しかしながら、同文献に記載の金属をゲート電極とした場合、その金属膜の厚みの揺らぎが素子特性に影響しやすいという問題がある。
【0037】
また、特許文献2には、nMOSFETのゲート電極の圧縮応力をpMOSFETのそれより大きくすることが開示されている。しかし、同文献においては、pMOSEFTにも圧縮応力を持つゲート電極膜を適用することになる。これに対して、本実施形態では、pMOSEFTには、引張応力を持つゲート電極膜を設けている。さらに、複数の膜でゲート電極を構成し、そのうち1つ以上の膜応力を圧縮応力または引張応力として、ゲート電極全体がその応力を持つようにする点について、同文献には開示されていない。ゲート絶縁膜との相性を考慮すると、ゲート絶縁膜に接する膜応力を目的の応力にできない場合があるが、かかる場合であっても、本実施形態によれば、その上の層で全体の応力を決定することが可能となる。
【0038】
また、特許文献3には、nMOSEFTに圧縮応力を持つゲート電極を、pMOSFETに引張応力を持つゲート電極を設けることが開示されている。しかし、圧縮応力膜をシリサイドとしている点およびゲート電極膜が単層である点で、本実施形態と相違している。
【0039】
図11〜図15を参照しつつ、本発明による半導体装置の製造方法の他の実施形態を説明する。まず、半導体基板10中に、Pウエル領域12、Nウエル領域13および素子分離領域14を形成する。その後、半導体基板10上に、熱酸化またはCVD法等により、犠牲ゲート絶縁膜52を形成する。犠牲ゲート絶縁膜52の材料は、好ましくは、例えばシリコン酸化膜である。また、犠牲ゲート絶縁膜52の膜厚は、1〜5nm程度が好ましく、例えば2nmとする(図11(a))。
【0040】
次に、犠牲ゲート絶縁膜52上に、犠牲ゲート電極膜54およびハードマスク膜56を堆積する。犠牲ゲート電極膜54の材料は、好ましくは、多結晶シリコンまたは非晶質シリコンである。シリコンを用いた場合、犠牲ゲート絶縁膜52との間で高いエッチング選択性を得られるので、後の工程で犠牲ゲート電極膜54をエッチングで除去し易くなる。犠牲ゲート電極膜54の成膜には、CVD法を好適に用いることができる。また、非晶質シリコンを用いた場合、この犠牲ゲート電極膜54の加工時に、結晶面方位の影響を抑制し、加工端部の直線性劣化を抑制することが可能になる。これにより、多量の素子を集積する場合、素子特性の統計ばらつきを抑制する効果が期待できる。犠牲ゲート電極膜54の膜厚は、素子寸法によるが、例えば50nm程度が好ましい。一方、ハードマスク膜56は、シリコン窒化膜またはシリコン酸化膜であることが好ましい。ここでは、シリコン窒化膜を用いる。ハードマスク膜56の膜厚は、例えば30nm程度が好ましい(図11(b))。
【0041】
次に、公知のリソグラフィ技術と加工技術によって、ハードマスク膜56および犠牲ゲート電極膜54とを選択的に除去する。続いて、ソース・ドレインエクステンション58を形成する。必要に応じて、いわゆる短チャネル効果抑制のためにウエルと同じ導電型を得る不純物を、"Halo"、"pocket"注入として導入してもよい。ソース・ドレインエクステンション58の形成には、低エネルギーのイオン注入を好適に用いることができる。nMOSFET(図中左側のMOSFET)では、Asを1kV以下の加速エネルギーで注入することが好ましい。一方、pMOSFET(図中右側のMOSFET)では、BFやInを同様に低加速エネルギーで注入することが好ましい。その後、ゲート側壁膜60を形成する(図12(a))。ゲート側壁膜60は、例えば、シリコン窒化膜を40nm形成し、その下地であるシリコン、シリコン酸化膜との選択性が高い条件にて、エッチバックすることで得られる。
【0042】
次に、ソース・ドレイン領域62を形成する。さらに、そのソース・ドレイン領域62の表面に、シリサイド層64を形成する(図12(b))。ソース・ドレイン領域62は、イオン注入により形成することができる。nMOSFETにはAsイオン、pMOSFETにはBまたはBFイオンを好適に用いることができる。イオン注入後、1000℃程度の高温でアニールすることで、注入した不純物を電気的に活性化させる。シリサイド層64は、好ましくは、例えばNiSi層である。NiSi層は、例えば、Niをスパッタ法で成膜し、450℃程度の温度で熱処理することで得られる。Siとの反応に寄与しないNiは、硫酸、または塩酸と過酸化水素水との混合水溶液によって除去する。
【0043】
次に、プラズマCVD法等により、層間絶縁膜66を成膜する。その後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)により平坦化し、ハードマスク膜56の上面を露出させる(図13(a))。続いて、選択的に配置されたレジストマスクM4を用いて、pMOSFETのハードマスク膜56、犠牲ゲート電極膜54、犠牲ゲート絶縁膜52を除去する。これにより、ゲート絶縁膜およびゲート電極膜用の溝68が形成される(図13(b))。
【0044】
次に、レジストマスクM4を除去した後、pMOSFETのゲート絶縁膜70とゲート電極膜72を成膜する。ここでゲート電極膜72は少なくとも2層以上の層からなり、そのうち少なくとも1層が引張応力を持ち、ゲート電極膜72全体で引張応力を示すものとする(図14(a))。続いて、CMPまたはエッチバック等の技術を適用して、ゲート電極として必要な領域以外にあるゲート絶縁膜70およびゲート電極膜72を選択的に除去する(図14(b))。
【0045】
次に、pMOSFETのゲート電極膜72を覆うように保護膜74を形成する(図15(a))。保護膜74は、シリコン酸化膜であることが好ましい。この保護膜74をマスクとして用い、nMOSFETのハードマスク膜56、犠牲ゲート電極膜54および犠牲ゲート絶縁膜52を、pMOSFETの場合と同様に除去する。さらに、ゲート絶縁膜80、ゲート電極膜82および保護膜84を形成する。以上により、半導体装置が得られる(図15(b))。
【0046】
本発明によるFETおよび半導体装置ならびにそれらの製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態においてはNチャネル型のFETおよびPチャネル型のFETが1つずつ設けられた半導体装置を示したが、Nチャネル型のFETおよびPチャネル型のFETが複数ずつ設けられていてもよい。また、Nチャネル型のFETおよびPチャネル型のFETの双方が半導体装置に設けられていることは必須ではなく、何れか一方のみが設けられていてもよい。
【0047】
また、上記実施形態においてはゲート電極が2つの膜からなる例を示したが、ゲート電極は3つ以上の膜からなっていてもよい。例えば、図1において各応力膜24b,34b上に、TiN膜等が形成されていてもよい。そうすることにより、リソグラフィにおけるレジストの密着性を向上させることができる。このようにゲート電極が3つ以上の膜からなる場合、それらの膜のうち少なくとも1つが応力膜であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明による半導体装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】(a)および(b)は、本発明による半導体装置の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図3】(a)および(b)は、本発明による半導体装置の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図4】(a)および(b)は、本発明による半導体装置の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図5】(a)および(b)は、本発明による半導体装置の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図6】(a)および(b)は、本発明による半導体装置の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図7】(a)および(b)は、本発明による半導体装置の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図8】従来の半導体装置を示す断面図である。
【図9】従来の半導体装置を示す断面図である。
【図10】従来の半導体装置を示す断面図である。
【図11】(a)および(b)は、本発明による半導体装置の製造方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図12】(a)および(b)は、本発明による半導体装置の製造方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図13】(a)および(b)は、本発明による半導体装置の製造方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図14】(a)および(b)は、本発明による半導体装置の製造方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図15】(a)および(b)は、本発明による半導体装置の製造方法の他の実施形態を示す工程図である。
【符号の説明】
【0049】
1 半導体装置
10 半導体基板
12 Pウエル領域
13 Nウエル領域
14 素子分離領域
20 FET
22 ソース・ドレイン領域
24 ゲート電極
24a 電極膜
24b 応力膜
25 ゲート絶縁膜
26 側壁膜
30 FET
32 ソース・ドレイン領域
34 ゲート電極
34a 電極膜
34b 応力膜
35 ゲート絶縁膜
36 側壁膜
42 絶縁膜
44a 電極膜
44b 応力膜
45a 電極膜
45b 応力膜
46 エッチストップ膜
47 エッチストップ膜
52 犠牲ゲート絶縁膜
54 犠牲ゲート電極膜
56 ハードマスク膜
58 ソース・ドレインエクステンション
60 ゲート側壁膜
62 ソース・ドレイン領域
64 シリサイド層
66 層間絶縁膜
68 溝
70 ゲート絶縁膜
72 ゲート電極膜
74 保護膜
80 ゲート絶縁膜
82 ゲート電極膜
84 保護膜
M1 マスク
M2 ハードマスク
M3 ハードマスク
M4 レジストマスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nチャネル型の電界効果トランジスタであって、
半導体基板上に設けられた第1の電極膜と、
前記第1の電極膜上に設けられ、当該第1の電極膜と共にゲート電極を構成する第2の電極膜と、を備え、
前記第1または第2の電極膜の少なくとも一方は、前記半導体基板に対して圧縮応力を持つ応力膜であり、
前記第1および第2の電極膜の各々は、金属、窒化金属または金属シリサイドからなることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項2】
Pチャネル型の電界効果トランジスタであって、
半導体基板上に設けられた第1の電極膜と、
前記第1の電極膜上に設けられ、当該第1の電極膜と共にゲート電極を構成する第2の電極膜と、を備え、
前記第1または第2の電極膜の少なくとも一方は、前記半導体基板に対して引張応力を持つ応力膜であり、
前記第1および第2の電極膜の各々は、金属、窒化金属または金属シリサイドからなることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電界効果トランジスタにおいて、
前記第1または第2の電極膜のうち第2の電極膜が、前記応力膜である電界効果トランジスタ。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載の電界効果トランジスタにおいて、
前記第2の電極膜は、タングステン、モリブデン、チタン、タンタルもしくはルテニウム、またはその窒化物からなる電界効果トランジスタ。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の電界効果トランジスタを備える半導体装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置において、
複数の前記電界効果トランジスタを備える半導体装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の半導体装置において、
相異なる厚みの前記第2の電極膜を有する複数の前記電界効果トランジスタを備える半導体装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電界効果トランジスタと、請求項2に記載の電界効果トランジスタとを備える半導体装置。
【請求項9】
Nチャネル型の電界効果トランジスタを製造する方法であって、
半導体基板上に第1の電極膜を形成する工程と、
前記第1の電極膜上に、当該第1の電極膜と共にゲート電極を構成する第2の電極膜を形成する工程と、を含み、
前記第1または第2の電極膜の少なくとも一方は、前記半導体基板に対して圧縮応力を持つ応力膜であり、
前記第1および第2の電極膜の各々は、金属、窒化金属または金属シリサイドからなることを特徴とする電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電界効果トランジスタの製造方法において、
前記応力膜は、室温よりも高い温度でスパッタ法により成膜される電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項11】
Pチャネル型の電界効果トランジスタを製造する方法であって、
半導体基板上に第1の電極膜を形成する工程と、
前記第1の電極膜上に、当該第1の電極膜と共にゲート電極を構成する第2の電極膜を形成する工程と、を含み、
前記第1または第2の電極膜の少なくとも一方は、前記半導体基板に対して引張応力を持つ応力膜であり、
前記第1および第2の電極膜の各々は、金属、窒化金属または金属シリサイドからなることを特徴とする電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の電界効果トランジスタの製造方法において、
前記応力膜は、室温よりも高い温度で化学気相成長法により成膜される電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項13】
請求項9または10に記載の方法により前記Nチャネル型の電界効果トランジスタを製造する工程と、
請求項11または12に記載の方法により前記Pチャネル型の電界効果トランジスタを製造する工程と、を含み、
前記Nチャネル型および前記Pチャネル型の電界効果トランジスタは、同一の前記半導体基板に形成される半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−117963(P2008−117963A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300487(P2006−300487)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】