説明

Ti膜の成膜方法および成膜装置、ならびに記憶媒体

【課題】CVDによりTi膜を成膜する際に、より低抵抗でかつ抵抗のばらつきが小さいTi膜を成膜することができ、プラズマダメージを小さくすることができるTi膜の成膜方法を提供すること。
【解決手段】チャンバ内にシリコンウエハを配置し、TiClガスおよびHガスを含む処理ガスを導入しつつチャンバ内にプラズマを生成し、そのプラズマにより処理ガスの反応を促進してシリコンウエハ上にTi膜を成膜するにあたり、チャンバ内にシリコンウエハが配置された状態でTiClガスを導入した後、チャンバ内にプラズマを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャンバ内においてシャワーヘッドからTiClガスおよびHガスを吐出させるとともにプラズマを生成して、チャンバ内に配置された被処理基板の表面にCVDによりTi膜を成膜するTi膜の成膜方法および成膜装置、ならびにこのようなTi膜の成膜方法を実施するためのプログラムが記憶された記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造においては、最近の高密度化および高集積化の要請に対応して、回路構成を多層配線構造にする傾向にあり、このため、下層のSi基板と上層の配線層との接続部であるコンタクトホールの電気的接続のための埋め込み技術が重要になっている。
【0003】
このようなコンタクトホールやビアホールの埋め込みに用いられるW膜等の金属配線(プラグ)と下層のSi基板とのオーミックコンタクトをとるために、これらの埋め込みに先立ってコンタクトホールやビアホールの内側にTi膜を成膜し、その後バリア膜としてTiN膜を成膜することが行われている。
【0004】
このようなTi膜は、従来から物理的蒸着(PVD)を用いて成膜されていたが、デバイスの微細化および高集積化の要求にともなってステップカバレッジ(段差被覆性)がより良好な化学的蒸着(CVD)が多用されるようになってきている。
【0005】
Ti膜のCVD成膜に関しては、成膜ガスとしてTiClガス、Hガス、Arガスを用い、これらをシャワーヘッドを介してチャンバへ導入し、半導体ウエハをステージヒーターにより加熱しながら、平行平板電極に高周波電力を印加し、上記ガスをプラズマ化してTiClガスとHガスとを反応させるプラズマCVDによりTi膜を成膜する技術が提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−197219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近時、半導体デバイスはますます微細化されており、それにともなって、コンタクトホールやビアホール内におけるプラグに対するバリア膜の占める割合が増加し、配線抵抗の低減を妨げるようになっている。
【0007】
このため、次世代に向けてより低抵抗なTi膜を形成することが検討されている。しかしながら、従来は、TiClガスが分解して生成するCl(塩素系)ガスに起因して膜の抵抗を十分に低減することが困難であり、抵抗の面内均一性も十分とはいえないのが現状である。
【0008】
また、プラズマを用いる関係上、半導体ウエハに対するプラズマダメージが少なからず存在し、半導体デバイスの微細化にともなって、このようなプラズマダメージが無視し得ないものとなってきている。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、CVDによりTi膜を成膜する際に、より低抵抗でかつ抵抗のばらつきが小さいTi膜を成膜することができるTi膜の成膜方法および成膜装置を提供することを目的とする。
また、CVDによりTi膜を成膜する際に、プラズマダメージを小さくすることができるTi膜の成膜方法および成膜装置を提供することを目的とする。
さらに、そのような方法を実行するためのプログラムを記憶した記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた。その結果、従来のTi膜成膜方法においては、通常、チャンバ内にプラズマを生成した後にTiClガスを導入するが、この方法ではTiClガスがチャンバ内に導入された時点でプラズマにより分解が始まり、シャワーヘッド近傍で分解して生成されたClが先に基板に到達してしまい、Ti成膜初期の膜成長を阻害することが判明した。さらに基板表面に吸着しているCl量が多くなるため、HClとして脱離せずに残存するCl量が多くなり、それが膜中に取り込まれて膜の抵抗が高くなることも判明した。また、分解して生成されたClはチャンバ内のガス流に沿ってウエハ中心から外側へ流れるため、Clの影響は基板の外側ほど大きくなり、抵抗が基板の面内でばらついてしまう。さらに、TiClガスがチャンバへ導入される前にプラズマが生成されることによって、プラズマが直接的に基板上に供給され、基板へのプラズマダメージも助長されることが判明した。
【0011】
そこで、さらに検討を重ねた結果、チャンバ内にプラズマを生成する前にTiClガスを導入することにより、基板表面には最初に主にTiClが吸着し、基板表面に吸着するCl量を低減することができ、さらにプラズマダメージも低減することができることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の観点では、チャンバ内に被処理基板を配置し、TiClガスおよびHガスを含む処理ガスを導入しつつ前記チャンバ内にプラズマを生成し、そのプラズマにより前記処理ガスの反応を促進して被処理基板上にTi膜を成膜するTi膜の成膜方法であって、前記チャンバ内に被処理基板が配置された状態でTiClガスを導入した後、前記チャンバ内にプラズマを生成することを特徴とするTi膜の成膜方法を提供する。
【0013】
上記第1の観点において、TiClガスを導入してからプラズマを生成するまでの時間が2sec以上であることが好ましい。
【0014】
また、上記第1の観点において、プラズマを生成する際のパワーを徐々に上昇させることが好ましい。また、TiClガスを最初第1の流量で導入し、その後第1の流量よりも小流量の成膜のための第2の流量まで徐々に低下させることも好ましい。さらに、プラズマを生成する際のパワーを徐々に上昇させ、かつ、TiClガスを最初第1の流量で導入し、その後第1の流量よりも小流量の第2の流量まで徐々に低下させ、前記TiClガスの流量低下は、前記プラズマを生成する際のパワーの上昇が終了する前に開始するようにすることがより好ましい。これらにおいて、前記プラズマを生成する際のパワーの上昇を開始してから定常状態になるまでの時間が2sec以上であることが好ましい。また、前記TiClガスを第1の流量から第2の流量まで低下させる時間が1sec以上であることが好ましい。さらに、前記第1の流量は16〜100mL/min(sccm)の範囲であり、成膜のための前記第2の流量は1〜30mL/min(sccm)の範囲であることが好ましい。
【0015】
上記第1の観点において、前記処理ガスは、さらにArガスを含むことができる。また、成膜のための前記TiClガスの流量としては、1〜30mL/min(sccm)の範囲を採用することができる。さらに、被処理基板の温度としては、350〜700℃の範囲を採用することができる。さらにまた、成膜処理の際の前記チャンバ内の圧力としては、133〜1330Paの範囲を採用することができる。
【0016】
本発明の第2の観点では、被処理基板を収容するチャンバと、前記チャンバ内で被処理基板を載置する載置台と、前記載置台上の被処理基板を加熱するヒーターと、前記チャンバ内にTiClガスおよびHガスを含む処理ガスを導入するガス導入機構と、前記チャンバ内に処理ガスのプラズマを生成するプラズマ生成機構と、前記チャンバ内を排気する排気手段と、前記チャンバ内での処理を制御する制御機構を有し、前記プラズマ生成機構により生成されたプラズマにより前記処理ガスの反応を促進して被処理基板上にTi膜を成膜するTi膜の成膜装置であって、前記制御機構は、前記チャンバ内に被処理基板が配置された状態でTiClガスを導入させた後、前記チャンバ内にプラズマを生成させるように制御することを特徴とするTi膜の成膜装置を提供する。
【0017】
上記第2の観点において、前記制御機構は、TiClガスを導入してからプラズマを生成するまでの時間が2sec以上となるように制御することが好ましい。
【0018】
また、上記第2の観点において、前記制御機構は、プラズマを生成する際のパワーを徐々に上昇させるように制御するものであることが好ましい。また、前記制御機構は、TiClガスを最初第1の流量で導入させ、その後第1の流量よりも小流量の第2の流量まで徐々に低下させるように制御するものであることも好ましい。さらに、前記制御機構は、プラズマを生成する際のパワーを徐々に上昇させ、かつ、TiClガスを最初第1の流量で導入し、その後第1の流量よりも小流量の第2の流量まで徐々に低下させ、前記TiClガスの流量低下が、前記プラズマを生成する際のパワーの上昇が終了する前に開始されるように制御するものであることがより好ましい。これらにおいて、前記制御機構は、前記プラズマを生成する際のパワーの上昇を開始してから定常状態になるまでの時間が2sec以上となるように制御するものであることが好ましく、また、 前記TiClガスを第1の流量から第2の流量まで低下させる時間が1sec以上となるように制御するものであることが好ましい。
【0019】
さらに、上記第2の観点において、前記ガス導入機構は、TiClガスおよびHガスが供給され、これらが混合された状態で、またはこれらを別個に、前記チャンバ内にシャワー状に吐出するシャワーヘッドを有する構成とすることができる。
【0020】
本発明の第3の観点では、コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、上記第1の観点のいずれかの方法が行われるように、コンピュータに前記成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、チャンバ内にプラズマを生成する前にTiClガスを導入するので、基板表面には最初に主にTiClが吸着し、基板表面に吸着するCl量を低減することができる。このため、膜中のCl量に起因する抵抗値の上昇およびそのばらつきを低下させることができる。また、チャンバ内にプラズマを生成する前にTiClガスを導入して、被処理基板表面に最初に主にTiClを吸着させることにより、プラズマダメージも低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。
以下の説明において、ガスの流量の単位はmL/minを用いているが、ガスは温度および気圧により体積が大きく変化するため、本発明では標準状態に換算した値を用いている。なお、標準状態に換算した流量は通常sccm(Standerd Cubic Centimeter per Minutes)で標記されるためsccmを併記している。ここにおける標準状態は、温度0℃(273.15K)、気圧1atm(101325Pa)の状態である。
【0023】
図1は本発明の一実施形態に係るTi膜の成膜方法を実施するための成膜装置の一例を示す概略断面図である。
【0024】
成膜装置100は平行平板電極に高周波電界を形成することによりプラズマを形成しつつCVDによりTi膜を成膜するプラズマCVD−Ti成膜装置として構成される。
【0025】
この成膜装置100は、略円筒状のチャンバ1を有している。チャンバ1の内部には、被処理基板であるSiウエハ(以下単にウエハと記す)Wを水平に支持するための載置台(ステージ)であるAlNで構成されたサセプタ2がその中央下部に設けられた円筒状の支持部材3により支持された状態で配置されている。サセプタ2の外縁部にはウエハWをガイドするためのガイドリング4が設けられている。また、サセプタ2にはモリブデン等の高融点金属で構成されたヒーター5が埋め込まれており、このヒーター5はヒーター電源6から給電されることにより被処理基板であるウエハWを所定の温度に加熱する。サセプタ2の表面近傍には平行平板電極の下部電極として機能する電極8が埋設されており、この電極8は接地されている。
【0026】
チャンバ1の天壁1aには、絶縁部材9を介して平行平板電極の上部電極としても機能するプリミックスタイプのシャワーヘッド10が設けられている。シャワーヘッド10は、ベース部材11とシャワープレート12とを有しており、シャワープレート12の外周部は、貼り付き防止用の円環状をなす中間部材13を介してベース部材11に図示しないネジにより固定されている。シャワープレート12はフランジ状をなし、その内部に凹部が形成されており、ベース部材11とシャワープレート12との間にガス拡散空間14が形成されている。ベース部材11はその外周にフランジ部11aが形成されており、このフランジ部11aが絶縁部材9に支持されている。シャワープレート12には複数のガス吐出孔15が形成されており、ベース部材11の中央付近には一つのガス導入孔16が形成されている。
【0027】
そして、上記ガス導入孔16は、ガス供給機構20のガスラインに接続されている。
【0028】
ガス供給機構20は、クリーニングガスであるClFガスを供給するClFガス供給源21、Ti化合物ガスであるTiClガスを供給するTiClガス供給源22、Arガスを供給するArガス供給源23、還元ガスであるHガスを供給するHガス供給源24、窒化ガスであるNHガスを供給するNHガス供給源25、Nガスを供給するNガス供給源26を有している。そして、ClFガス供給源21にはClFガス供給ライン27および30bが、TiClガス供給源22にはTiClガス供給ライン28が、Arガス供給源23にはArガス供給ライン29が、Hガス供給源24にはHガス供給ライン30が、NHガス供給源25にはNHガス供給ライン30a、Nガス供給源26にはNガス供給ライン30cが、それぞれ接続されている。そして、各ガスラインにはマスフローコントローラ32およびマスフローコントローラ32を挟んで2つのバルブ31が設けられている。
【0029】
TiClガス供給源22から延びるTiClガス供給ライン28にはClFガス供給源21から延びるClFガス供給ライン27およびArガス供給源23から延びるArガス供給ライン29が接続されている。また、Hガス供給源24から延びるHガス供給ライン30には、NHガス供給源25から延びるNHガス供給ライン30a、Nガス供給源26から延びるNガス供給ライン30cおよびClFガス供給源21から延びるClFガス供給ライン30bが接続されている。TiClガス供給ライン28およびHガス供給ライン30はガス混合部47に接続され、そこで混合された混合ガスがガス配管48を介して上記ガス導入孔16に接続されている。そして、混合ガスは、ガス導入孔16を経てガス拡散空間14に至り、シャワープレート12のガス吐出孔15を通ってチャンバ1内のウエハWに向けて吐出される。
なお、シャワーヘッド10は、TiClガスとHガスとが全く独立してチャンバ1内に供給されるポストミックスタイプであってもよい。
【0030】
シャワーヘッド10には、整合器33を介して高周波電源34が接続されており、この高周波電源34からシャワーヘッド10に高周波電力が供給されるようになっている。高周波電源34から高周波電力を供給することにより、シャワーヘッド10を介してチャンバ1内に供給されたガスをプラズマ化して成膜処理を行う。
【0031】
また、シャワーヘッド10のベース部材11には、シャワーヘッド10を加熱するためのヒーター45が設けられている。このヒーター45にはヒーター電源46が接続されており、ヒーター電源46からヒーター45に給電することによりシャワーヘッド10が所望の温度に加熱される。ベース部材11の上部に形成された凹部にはヒーター45による加熱効率を上げるために断熱部材49が設けられている。
【0032】
チャンバ1の底壁1bの中央部には円形の穴35が形成されており、底壁1bにはこの穴35を覆うように下方に向けて突出する排気室36が設けられている。排気室36の側面には排気管37が接続されており、この排気管37には排気装置38が接続されている。そしてこの排気装置38を作動させることによりチャンバ1内を所定の真空度まで減圧することが可能となっている。
【0033】
サセプタ2には、ウエハWを支持して昇降させるための3本(2本のみ図示)のウエハ支持ピン39がサセプタ2の表面に対して突没可能に設けられ、これらウエハ支持ピン39は支持板40に支持されている。そして、ウエハ支持ピン39は、エアシリンダ等の駆動機構41により支持板40を介して昇降される。
【0034】
チャンバ1の側壁には、チャンバ1と隣接して設けられた図示しないウエハ搬送室との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口42と、この搬入出口42を開閉するゲートバルブ43とが設けられている。
【0035】
成膜装置100の構成部であるヒーター電源6および46、バルブ31、マスフローコントローラ32、整合器33、高周波電源34、駆動機構41等は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えた制御部50に接続されて制御される構成となっている。また、制御部50には、オペレータが成膜装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、成膜装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース51が接続されている。さらに、制御部50には、成膜装置100で実行される各種処理を制御部50の制御にて実現するためのプログラムや、処理条件に応じて成膜装置100の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわち処理レシピが格納された記憶部52が接続されている。処理レシピは記憶部52中の記憶媒体52aに記憶されている。記憶媒体はハードディスク等の固定的なものであってもよいし、CDROM、DVD等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース51からの指示等にて任意の処理レシピを記憶部52から呼び出して制御部50に実行させることで、制御部50の制御下で、成膜装置100での所望の処理が行われる。
【0036】
次に、以上のような成膜装置100における本実施形態に係るTi膜の成膜方法について説明する。
【0037】
本実施形態においては、ウエハWとして、例えば、図2に示すように、Si基板110上に層間絶縁膜111が形成され、層間絶縁膜111にSi基板110の不純物拡散領域110aに達するコンタクトホール112が形成された構造を有するものを用いることができる。
【0038】
このような構造のウエハWにTi膜を形成するには、図3のフローチャートに示すように、まず、チャンバ1内をゲートバルブ43を介して接続されている外部雰囲気と同様に調整した後、ゲートバルブ43を開にして、真空状態の図示しないウエハ搬送室から搬入出口42を介して上記構造を有するウエハWをチャンバ1内へ搬入する(工程1)。そして、Arガスを供給しつつチャンバ1内を所定の真空度に維持しつつ、ウエハWを予備加熱する(工程2)。ウエハWの温度がほぼ安定した時点で、Arガス、HガスおよびTiClガスを図示しないプリフローラインに所定流量で流してプリフローを行う(工程3)。そして、ガス流量および圧力を同じに保ったまま成膜用のラインに切り替え、これらガスをシャワーヘッド10を介してチャンバ1内に導入する(工程4)。
【0039】
そして、Arガス、HガスおよびTiClガスをチャンバ1内に導入開始後、所定時間経過後に、シャワーヘッド10に高周波電源34から高周波電力を印加し、チャンバ1内に導入されたArガス、Hガス、TiClガスのプラズマを生成する(工程5)。そして、ヒーター5により所定温度に加熱されたウエハW上でプラズマ化されたガスを反応させることにより、図4(a)に示すように、Si基板110表面にTi膜113を堆積させる(工程6)。このTiと下地のSiが反応することにより、図4(b)に示すように、TiSi膜114が形成される。
【0040】
従来は、Arガス、Hガスを流してプラズマを生成した後に、TiClを流していた(プリプラズマ)。しかし、プラズマを生成した後にチャンバ1内にTiClガスを導入すると、TiClがシャワーヘッド10からチャンバ1内に導入された時点で、プラズマにより分解が始まり、図5(a)に示すように、シャワーヘッド10近傍で、ClとTiClxに分解される。そして、図5(b)に示すように、より軽いClが先にウエハW(Si基板110)表面に到達する。このようにSi基板110表面に先に到達したClは、表面に吸着し、Ti成膜初期の膜成長を阻害する。すなわち、Ti膜がSi基板上に成膜される場合、反応の活性化エネルギーは0.7eV程度であるが、このエネルギーはSi表面からClがH原子と反応して脱離するエネルギーと一致していることから、ClがSi基板上に吸着している場合には、Tiの成膜反応はClがSi基板上から脱離する過程に律速されていると結論され、吸着しているClがTi膜の成長を阻害するのである。これに対してTi表面からClがH原子と反応して離脱するエネルギーは0.2eV程度と相対的に小さいため、ClがTi表面に吸着している場合には、ClはTiの成膜反応の阻害要因にはならない。そして、Si基板110では、シャワーヘッド10近傍で分解して生成されたClが多く存在しており、このClの一部はHと結合してHClとなってSi基板110から離脱するが、図5(c)に示すように、Si基板110から離脱せずに残存するClが多く存在し、そのClがTi膜中に取り込まれ、膜の抵抗を上昇させる。また、ウエハWの外周部では分解によって生成されるClの量が多くなるので、Ti膜の面内均一性(抵抗の面内均一性)も悪いものとなる。
【0041】
これに対して、本実施形態の場合には、TiClガスをArガスおよびHガスとともにチャンバ1内に導入してからプラズマを生成するため(プリTiCl)、図6(a)に示すように、最初にTiClがウエハW(Si基板110)表面に到達して吸着し、その後にプラズマが生成される。このため、プラズマを生成して成膜している際には、図6(b)に示すように、TiClが吸着していた分、相対的にClの吸着量が減少し、図6(c)に示すように、Si基板110の表面でHClとなって脱離せずに残存するClは僅かである。このため、Ti膜中に取り込まれるCl量が少なく、低抵抗のTi膜が得られるとともに、Ti膜の面内均一性(抵抗の面内均一性)も良好なものとなる。
【0042】
さらに、ウエハW(Si基板100)の表面にTiClを吸着させてからプラズマを生成するため、その表面をプラズマから保護することができ、成膜初期に発生するプラズマによる素子破壊等のプラズマダメージを低減することもできる。
【0043】
このときのTiClの導入がプラズマよりも先行すること(プリTiCl)による効果は、TiClの流量によらず発揮され、先行する時間(プリTiCl時間)は2sec以上が好ましい。また、プリTiCl時間が120secよりも長くなると、成膜に要する時間が長くなり過ぎて生産性が低下するため好ましくない。一方、後述するようにTiClガス分圧の好ましい範囲は、0.018〜26Paであるから、プリTiClの際にウエハW表面に流通させるTiClガスの暴露量(TiClガス分圧×プリTiCl時間)は、0.036[Pa・sec]以上、3120[Pa・sec]以下が好ましい。
【0044】
Ti膜の低抵抗化および抵抗の均一化の観点からは、プラズマを生成する際に、図7に示すように、高周波(RF)パワーを徐々に上昇させて行く(RFランプアップ)ことが好ましい。これにより、成膜初期に発生するClを低減することができる。すなわち、成膜初期にはSi基板(ウエハ)表面が露出しているため、Clが非常に吸着しやすくなっているが、このようにRFランプアップを行って初期のCl発生量を低減することによりSi基板表面に吸着するCl量を少なくすることができ、結果として成膜されたTi膜の抵抗値およびそのばらつきを低減することができる。また、最初に大きなパワーを供給しないことにより、プラズマダメージの低減にも寄与する。
【0045】
この際のRFランプアップの効果は、TiClの流量によらず発揮されるが、このRFランプアップの時間(すなわちパワーを上昇させ始めてから目標のパワーまで到達するまでの時間)が2sec以上が好ましい。例えばパワーが500W程度の場合、ランプアップ時間が2secまではTi膜の抵抗値の均一性が急激に上昇し、それ以上で飽和する傾向にある。
【0046】
このようなTi膜の抵抗値およびそのばらつきと、プラズマダメージは、TiClの流量自体にも依存して変化する。例えば、TiClの流量が標準的な12mL/min(sccm)に対して、20mL/min(sccm)に上昇させると、Clの発生量が多くなるため、Ti膜の抵抗値およびそのばらつきは大きくなる傾向にあるが、逆に、Si基板に最初に吸着するTiCl量が増加するため、プラズマダメージが低減する傾向となる。
【0047】
したがって、Ti膜の抵抗値およびそのばらつきを悪化させずに、プラズマダメージをより低減させるためには、図8に示すように、最初にTiClの流量をより多い流量の第1の流量、例えば20mL/min(sccm)とし、その後、より少ない目標流量(定常流量)である第2の流量、例えば12mL/min(sccm)とすることが考えられる。しかし、この流量の変化を急激に行った場合には、プラズマ状態が大きく変化し、プラズマが不安定となって所望の成膜をできないおそれがある。このため、第1の流量から第2の流量まで徐々にTiCl流量を低下させること(TiClランプダウン)が好ましい。このTiClランプダウン時間(初期の大流量から定常流量へ低下させるまでの時間)は、プラズマ状態の変化を小さくする観点から長いほうが好ましく、1sec以上が好ましい。また、第1の流量は16〜100mL/min(sccm)が好ましく、定常流量(成膜のための流量)である第2の流量は1〜30mL/min(sccm)が好ましい。この流量の範囲内で、第1の流量が第2の流量よりも大流量となるように適宜流量が決定されることが好ましい。第2の流量のより好ましい範囲は1〜14mL/min(sccm)である。
【0048】
上記RFランプアップとTiClランプダウンとは、組み合わせることが好ましい。このように、初期のCl発生量を低減する効果があるRFランプアップと、Clの発生源であるTiClガスの流量自体を減らすTiClランプダウンを組み合わせることにより、より大きな効果を得ることができる。この場合に、最初にTiClの流量を多くすることにより、プラズマダメージを低減することができるが、RFランプアップが終了するまでにTiClランプダウンを開始させなければ、Cl発生量が多くなってTi膜の抵抗値およびそのばらつきを悪化させてしまう。したがって、RFランプアップを開始してからTiClランプダウンを開始するまでの開始ずれ時間が小さいほうが望ましく、図9に示すように、TiClランプダウンは、RFランプアップが終了する前に開始することが好ましい。つまり開始ずれ時間がRFランプアップ時間よりも短いことが好ましい。例えば、RFランプアップ時間が2secのときは、開始ずれ時間は2sec未満であることが好ましい。
【0049】
その他の条件に関しては以下の通りである。高周波電源34のパワーは、大きすぎるとプラズマダメージが大きくなり、小さすぎるとTi膜の面内均一性(抵抗値)が悪化してしまうことから、その点を考慮して好ましい範囲が規定される。また、TiCl流量は、成膜に適した範囲内でTi膜の抵抗値およびそのばらつき、ならびにプラズマダメージを考慮して好ましい範囲が規定される。TiCl流量が多すぎても少なすぎてもTi膜の抵抗値やばらつきが悪化するため、好ましくない。チャンバ1内の圧力は、圧力が低いほどプラズマダメージが低下するが、圧力が低下しすぎると著しくTi膜の面内均一性(抵抗値)が悪化してしまうことから、その点を考慮して好ましい範囲が規定される。圧力が高くなりすぎるとTi膜の抵抗値が高くなってしまうため好ましくない。また、成膜の際のウエハWの温度は、低くなりすぎるとTi膜の塩素濃度が高くなり、抵抗値およびそのばらつきが大きくなり、高くなると成膜の再現性が悪化すると共にパーティクルが発生しやすくなるので、成膜可能な範囲内で低いことが好ましい。
【0050】
これらの具体的な好ましい範囲は、以下の通りである。
高周波電力のパワー:200〜1000W
TiCl流量(成膜のための流量):1〜30mL/min(sccm)より好ましくは1〜14mL/min(sccm)
チャンバ内圧力:133〜1330Pa(1〜10Torr)
成膜の際のウエハ温度:350〜700℃
【0051】
Arガス流量、Hガス流量は、従来のTi膜成膜と同様であり、その好ましい範囲は以下の通りである。
Arガス流量:500〜2000mL/min(sccm)
ガス流量:1000〜5000mL/min(sccm)
なお、Ti膜成膜の時間は、得ようとする膜厚に応じて適宜設定される。
【0052】
またTiClガスの分圧は、(チャンバ内圧力)×(TiClガス流量)/(TiClガス流量+Arガス流量+Hガス流量)であることから、0.018〜26Paが好ましい範囲とすることができる。
【0053】
以上のようにしてTi膜の成膜を行った後、必要に応じてTi膜の窒化処理を実施してもよい。この窒化処理では、上記Ti堆積工程が終了後、TiClガスを停止し、HガスおよびArガスを流したままの状態とし、チャンバ1内を適宜の温度に加熱しつつ、窒化ガスとしてNHガスを流すとともに、高周波電源34からシャワーヘッド40に高周波電力を印加して処理ガスをプラズマ化し、プラズマ化した処理ガスによりウエハWに成膜したTi薄膜の表面を窒化する。
【0054】
窒化処理の好ましい条件は、以下の通りである。
高周波パワー:200〜1000W
Arガス流量:500〜2000mL/min(sccm)
ガス流量:500〜5000mL/min(sccm)
NHガス流量:100〜2000mL/min(sccm)
チャンバ内圧力:133〜1330Pa(1〜10Torr)
成膜の際のウエハ温度:350〜700℃
なお、この工程は必須ではないが、Ti膜の酸化防止等の観点から実施することが好ましい。
【0055】
Ti膜成膜後または窒化処理後、チャンバ1内をゲートバルブ43を介して接続されている外部雰囲気と同様に調整した後、ゲートバルブ43を開にして、搬入出口42を介して図示しないウエハ搬送室へウエハWを搬出する。
【0056】
このようにして、Ti膜の成膜および必要に応じて窒化処理を所定枚のウエハに対して行った後、チャンバ1のクリーニングを行う。この処理は、チャンバ1内にウエハが存在しない状態で、チャンバ1内にClFガス供給源21からClFガス供給ライン27および30bを介してClFガスを導入し、シャワーヘッド10を適当な温度に加熱しながらドライクリーニングを行うことにより行う。
【0057】
次に、本発明の効果を実際に確認した実験について説明する。
(実験1)
ここでは、図1の装置を用い、Arガス、Hガス、TiClガスをチャンバ内に導入してからプラズマを生成するまでの時間(プリTiCl時間)を0〜5secの間で変化させてTi膜を成膜し、成膜したTi膜の抵抗値およびそのばらつきを求めた。
【0058】
このときの成膜条件は、以下の通りとした。
・Ti成膜
サセプタ温度:550℃(ウエハ温度:540℃)
チャンバ内圧力:667Pa(5Torr)
TiCl流量:12mL/min(sccm)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
流量:4000mL/min(sccm)
高周波電力のパワー:800W
成膜時間:35sec
膜厚:10nm
・窒化
サセプタ温度:550℃(ウエハ温度:540℃)
チャンバ内圧力:667Pa(5Torr)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
流量:2000mL/min(sccm)
NH流量:1500mL/min(sccm)
高周波電力のパワー:800W
成膜時間:35sec
【0059】
結果を図10に示す。図10は、横軸にプリTiCl時間をとり、縦軸にウエハ表面でのCl濃度および抵抗値のばらつきをとって、これらの関係を示すグラフである。この図に示すように、プリTiClを行うことにより、プリTiCl時間:0sec(プリTiClなし)の場合よりもウエハ表面のCl濃度が低く、抵抗値のばらつき(1σ%)も小さくなることが確認された。また、プリTiClが2secと5secにおけるCl濃度は同等であり、プリTiClを2sec以上行うことによって、安定して抵抗値およびそのばらつきの小さいTi膜が得られることが確認された。なお、Cl濃度測定に際しては、成膜初期に表面に吸着しているCl量の測定を行うため、Tiの成膜時間は2secとした。
【0060】
(実験2)
ここでは、図1の装置を用い、以下の3種類のシーケンスにてRFランプアップの影響を確認した。
シーケンス1では、TiCl流量を12mL/min(sccm)にし、RFランプアップ時間を0secおよび2secにしてTi膜の成膜を行った。
シーケンス2では、TiCl流量を20mL/min(sccm)にし、RFランプアップ時間を0secおよび2secにしてTi膜の成膜を行った。
シーケンス3では、TiCl流量を20mL/min(sccm)にし、RFランプアップ時間を0〜5secにし、高周波電力のパワーが定常状態になった後、TiClランプダウンをTiCl流量が2secで12mL/min(sccm)となる条件でTi膜の成膜を行った。
【0061】
そして、これらのシーケンスで成膜したTi膜の抵抗値の面内ばらつきを把握した。シーケンス1,2のタイミングチャートを図11(a)に示し、シーケンス3のタイミングチャートを図11(b)に示す。なお、いずれのシーケンスにおいても、プリTiCl時間を5secとした。
【0062】
その他の条件としては、以下のように、Ti成膜の際のチャンバ内圧力を500Pa(3.75Torr)、高周波電力のパワーを500W、成膜時間を26sec、窒化の際の時間を30secとした以外は、実験1と同じ条件とした。
・Ti成膜
サセプタ温度:550℃(ウエハ温度:535℃)
チャンバ内圧力:500Pa(3.75Torr)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
流量:4000mL/min(sccm)
高周波電力のパワー:500W
成膜時間:26sec
・窒化
サセプタ温度:550℃(ウエハ温度:540℃)
チャンバ内圧力:667Pa(5Torr)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
流量:2000mL/min(sccm)
NH流量:1500mL/min(sccm)
高周波電力のパワー:800W
成膜時間:30sec
【0063】
結果を図12に示す。この図に示すように、TiCl流量によらず、ランプアップを2sec以上行うと抵抗値Rsの面内ばらつきが5%以下となり、Ti膜の面内均一性を改善できることが確認された。シーケンス3の結果から判断すると、ランプアップ時間は2sec以上で飽和することがわかった。また、抵抗値のばらつきはTiCl流量が少ないほど良好になる傾向にあるが、TiClランプダウンすることにより、初期の流量が20mL/min(sccm)であっても、抵抗値のばらつきが12mL/min(sccm)のときよりも大きくならず、むしろ小さくなる傾向であることが確認された。
【0064】
(実験3)
ここでは、図1の装置を用い、RFランプアップとTiClランプダウンの組み合わせの影響を確認した。RFランプアップを0W→500Wとし、TiClランプダウンを20mL/min(sccm)→12mL/min(sccm)としてそれぞれ2secに設定し、図13(a)に示すように、これらを完全にオーバーラップさせたシーケンスを基準とし、図13(b)に示す、TiClランプダウンの開始を遅らせた「開始ずれ時間」を0〜5secの間で変化させた。そして、これらのシーケンスで成膜したTi膜の抵抗値の面内ばらつきを把握した。なお、いずれのシーケンスにおいても、プリTiCl時間を5secとした。
【0065】
なお、この実験では、上記実験1、2とは異なり、サセプタ温度を、より抵抗値にばらつきが出やすい640℃に上昇させた。条件を以下に示す。
・Ti成膜
サセプタ温度:640℃(ウエハ温度:610℃)
チャンバ内圧力:500Pa(3.75Torr)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
流量:4000mL/min(sccm)
高周波電力のパワー:500W
成膜時間:26sec
・窒化
サセプタ温度:640℃(ウエハ温度:620℃)
チャンバ内圧力:667Pa(5Torr)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
流量:2000mL/min(sccm)
NH流量:1500mL/min(sccm)
高周波電力のパワー:800W
成膜時間:30sec
【0066】
結果を図14に示す。この図に示すように、「開始ずれ時間」が2sec以下、すなわち、RFランプアップが終了するまでにTiClランプダウンを開始することにより、Ti膜の抵抗値Rsの面内ばらつきが1σで10%以下と良好になることが確認された。このことは、TiClガスを大流量で流し続けている状態でRFランプアップを終了させるよりも、初期のCl発生量を低減する効果があるRFランプアップと、Clの発生源であるTiClガスの流量自体を減らすTiClランプダウンを組み合わせることにより、より大きな効果を得ることができることを示している。逆に、RFランプアップとTiClランプダウンがオーバーラップしない場合、すなわち「開始ずれ時間」が2secを超えると、Ti膜の抵抗値Rsばらつきが悪化する傾向にある。
【0067】
(実験4)
ここでは、図1の装置を用い、TiClランプダウンの際の時間(TiClランプダウン時間)の影響を把握した。具体的には、以下の4種類の条件によりTi膜を成膜し、プラズマの安定性を把握した。
条件1では、標準条件として、TiClの流量を20mL/min(sccm)とし、そのままの流量で維持した。
条件2では、TiClの流量を最初20mL/min(sccm)とし、ランプダウンせずに12mL/min(sccm)に低下させた。
条件3では、TiClの流量を最初20mL/min(sccm)とし、TiClランプダウン時間を1secとして12mL/min(sccm)に低下させた。
条件4では、TiClの流量を最初20mL/min(sccm)とし、TiClランプダウン時間を2secとして12mL/min(sccm)に低下させた。
【0068】
いずれの条件においても、プリTiCl時間を5secとし、他の条件を以下の通りとした。
サセプタ温度:640℃(ウエハ温度:610℃)
チャンバ内圧力:500Pa(3.75Torr)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
流量:4000mL/min(sccm)
高周波電力のパワー:500W
成膜時間:30sec
【0069】
結果を図15、16に示す。図15は、横軸にTiClランプダウン時間をとり、縦軸にプラズマ電位(Vpp)の変動(1σ%)をとって、これらの関係を示すグラフであり、図16は、横軸にTiClランプダウン時間をとり、縦軸に自己バイアス電圧(Vdc)の変動(1σ%)をとって、これらの関係を示すグラフである。これらプラズマ電位(Vpp)の変動および自己バイアス電圧(Vdc)の変動はプラズマ安定性の指標である。なお、プラズマ電位(Vpp)の安定性および自己バイアス電圧(Vdc)の安定性は、いずれもTiCl流量を変化させ始めた時点から3sec間のVppおよびVdcの変動を示している。
【0070】
これらの図に示すように、条件1のTiClを20mL/min(sccm)のままにしているほうが、条件2のTiClを20mL/min(sccm)からランプダウンなしに12mL/min(sccm)に低下させるものよりもVpp、Vdcの変動が小さく、TiCl流量の変動によりプラズマ安定性が悪化する傾向にあるが、条件3、4のように1sec以上のTiClランプダウンを行うことにより、Vpp、Vdcの変動が小さくなり、プラズマがより安定することが確認された。また、TiClランプダウンが2secになるとVppの変動がより小さくなり、Vdcの変動は流量を変動させないときと同程度に小さくなって、プラズマの安定性が流量を変動させないときとほぼ匹敵するものとなることが確認された。
【0071】
(実験5)
ここでは、種々の条件にてTi膜を成膜して、デバイスに対するプラズマダメージを評価した。評価には、図17に示すデバイスを用いた。すなわち、p型Si基板上にゲート酸化膜(Tox:熱酸化膜)、リンを不純物として導入したPoly−Si電極を形成してMOS構造を形成し、Poly−Si電極上に酸化膜(TEOS)を形成した後にPoly−Si電極上の酸化膜部分にホールを形成したものを用いた。MOSデバイスの不良の判定は、膜厚4.0nmのゲート酸化膜において、Poly−Si電極と基板間に−5V印加した際のリーク電流密度JgがJg(A/μm)>1×10−9A/μmを不良と判定した。
【0072】
まず、Ti膜の成膜において、従来条件であるプラズマを先に生成してからTiClガスをチャンバ内に導入するシーケンス (プリプラズマ) と、プリTiClとの比較を行った。プリプラズマは、プラズマを生成してから1秒後にTiClを導入し、プリTiClでは、プリTiCl時間を5secとし、いずれも成膜時間は26secとした。また、成膜初期のダメージをより明確にするために、プリTiCl(プリTiCl時間:5sec)において成膜時間を3secに短縮したものについても同様に評価した。
【0073】
このときの他の成膜条件は以下の通りとした。
サセプタ温度:640℃(ウエハ温度:620℃)
チャンバ内圧力:667Pa(5Torr)
TiCl流量:12mL/min(sccm)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
流量:4000mL/min(sccm)
高周波電力のパワー:800W
【0074】
結果を図18に示す。図18は、横軸にアンテナ比(ARR)をとり、縦軸に全体を100%とした時の歩留まりをとって、これらの関係を示す図である。ここでのアンテナ比は、[ホール部分の面積]×[ホール数]とアクティブ面積(1μm)との比率([ホール部分の面積]×[ホール数]/[アクティブ面積])を示しており、ホール数1000個で開口径が0.25μm(ARR=49.1)と0.35μm(ARR=96.2)のものと、ホール数10000個で開口径が0.20μm(ARR=314)と0.25μm(ARR=491)のものを用いている。なお、ARRはダメージの受けやすさを示す指標であり、ARRが大きいほどダメージを受けやすくなる。
【0075】
図18のARR49.1のところを見ると、従来のプリプラズマの場合には歩留まりが20%程度であるのに対し、プリTiClでは歩留まりが80%を超えており、プリTiClにより、プラズマダメージが大きく低減することが確認された。また、図18に示すように、成膜時間3secの場合でも成膜時間26secと同等のダメージとなっており、プラズマを生成させ始める初期の制御が重要であるといえる。
【0076】
次に、プラズマダメージに対する高周波電力のパワー、チャンバ内圧力、TiCl4流量の影響を把握した。標準の条件(条件1)を、以下のように設定した。
(条件1)
サセプタ温度:640℃(ウエハ温度:620℃)
チャンバ内圧力:667Pa(5Torr)
TiCl流量:12mL/min(sccm)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
流量:4000mL/min(sccm)
高周波電力のパワー:800W
プリTiCl時間:5sec
成膜時間:26sec
【0077】
条件2では、標準条件である条件1に対して、高周波電力のパワーのみを400Wに低減させた。
条件3では、標準条件である条件1に対して、高周波電力のパワーを400Wに低減させ、かつTiCl流量を12mL/min(sccm)から20mL/min(sccm)に増加させた。
条件4では、標準条件である条件1に対して、高周波電力のパワーを400Wに低減させ、かつ圧力を667Pa(5Torr)から500Pa(3.75Torr)に低下させた。
【0078】
結果を図19に示す。図19も図18と同様、横軸にアンテナ比(ARR)をとり、縦軸に全体を100%とした時の歩留まりをとって、これらの関係を示す図である。この図に示すように、ARR96.2や314のところで見ると、高周波電力のパワーを400Wに低減した条件2では、歩留まりが2倍となっており、プラズマダメージが半減することがわかる。また、TiCl流量を増加させた条件3、圧力を低減した条件4では、同じARR96.2や314でほぼ歩留まりが100%となっており、プラズマダメージをほぼなくすことができることが確認された。
【0079】
以上のように、プリTiClを行った上で、条件設定を適正化することによりプラズマダメージを低減することができ、特にTiClの流量を上昇させることは、簡易なプラズマダメージ低減手法であると考えられるが、上記実験2の結果(図12参照)より、TiClの流量を上昇させると、Ti膜の抵抗値およびそのばらつきが大きくなる。この点も考慮すると、TiClランプダウンと組み合わせるのがよく、さらにはRFランプアップを組み合わせるのがよいことが予想される。したがって、プリTiClにTiClランプダウン、RFランプアップを組み合わせたものについてダメージを評価した。また、プラズマダメージは、上記のようにチャンバ内圧力に影響されるとともに、ウエハ温度にも影響されることが予想されることから、サセプタ温度、チャンバ内圧力も変動させた。
【0080】
具体的には、まず標準の条件(条件A)を、以下のように設定した。
(条件A)
サセプタ温度:640℃(ウエハ温度:620℃)
チャンバ内圧力:667Pa(5Torr)
TiCl流量:12mL/min(sccm)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
流量:4000mL/min(sccm)
高周波電力のパワー:800W
プリプラズマ
成膜時間:26sec
【0081】
条件Bでは、条件Aに対して、サセプタ温度を550℃(ウエハ温度:540℃)に低下させ、成膜時間を30secにした。
条件Cでは、条件Aに対して、サセプタ温度を550℃(ウエハ温度:540℃)に低下させ、さらにチャンバ内圧力を500Pa(3.75Torr)に低下させ、プリプラズマから5secのプリTiClとした。
条件Dでは、条件Cにさらに、TiCl流量を20mL/min(sccm)から12mL/min(sccm)へランプダウン(2sec)すること、および高周波電力を0Wから500Wへランプアップ(2sec)すること(開始ずれ時間0sec)を加えたものとした。
【0082】
その結果を図20に示す。この図20も図18、19と同様、横軸にアンテナ比(ARR)をとり、縦軸に全体を100%とした時の歩留まりをとって、これらの関係を示す図である。この図に示すように、ARR96.2や314のところで見ると、温度低下やチャンバ内圧力低下はプラズマダメージ低減にそれなりに効果があるが、プリTiClを行った上で、さらにTiClランプダウン、RFランプアップを行うことにより、プラズマダメージをほぼなくすことができ、上述の実験2にあるようにTi膜の抵抗値およびそのばらつきを小さくできることから、その効果が極めて大きいことが確認された。
【0083】
なお、これら実験においては温度測定はサセプタに埋設された熱電対で行ったが、サセプタ温度が550℃のとき、チャンバ内圧力が667Pa(5Torr)ではウエハ温度が540℃、500Pa(3.75Torr)ではウエハ温度が535℃であり、サセプタ温度が640℃のとき、チャンバ内圧力が667Pa(5Torr)ではウエハ温度が620℃、500Pa(3.75Torr)ではウエハ温度が610℃であることを予め把握した。
【0084】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば上記実施形態では、シャワーヘッドに高周波電力を印加することにより高周波電界を形成してプラズマを生成したが、サセプタに高周波電力を印加してもよく、また、プラズマ生成機構もこのような平行平板型のプラズマ形成機構に限るものではない。
【0085】
また、上記実施形態ではシリコンウエハ(シリコン基板)上にTi膜を成膜する場合について示したが、ウエハ上に形成したポリシリコン上に成膜する等、これに限るものではない。さらに、被処理基板としては、半導体ウエハに限らず例えば液晶表示装置(LCD)用基板、ガラス基板、セラミックス基板等の他の基板であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施形態に係るTi膜の成膜方法の実施に用いる成膜装置の一例を示す概略断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係るTi膜の成膜方法の実施に用いるウエハの構造例を示す断面図
【図3】Ti成膜の際の工程を示すフローチャート。
【図4】Ti膜成膜後およびシリサイド化後のウエハの状態を示す断面図。
【図5】従来のTi膜成膜のメカニズムを説明するための模式図。
【図6】本発明の一実施形態に係るTi膜の成膜方法によりTi膜を成膜する際のメカニズムを説明するための模式図。
【図7】RFランプアップを説明するためのタイミングチャート。
【図8】TiClランプダウンを説明するためのタイミングチャート。
【図9】RFランプアップとTiClランプダウンとを組み合わせた状態を示すタイミングを示すタイミングチャート。
【図10】実験1の結果を示すグラフ。
【図11】実験2のシーケンスを説明するためのタイミングチャート。
【図12】実験2の結果を示すグラフ。
【図13】実験3のシーケンスを説明するためのタイミングチャート。
【図14】実験3の結果を示すグラフ。
【図15】実験4の結果を示すグラフ。
【図16】実験4の結果を示すグラフ。
【図17】実験5において、プラズマダメージを評価するために用いたデバイスの構造を示す模式図。
【図18】実験5において、プラズマダメージに及ぼすプリTiClの影響を示すグラフ。
【図19】実験5において、プラズマダメージに及ぼす高周波電力のパワー、TiClの流量、チャンバ内圧力の影響を示すグラフ。
【図20】実験5において、プラズマダメージに及ぼすRFランプアップとTiClランプダウンの影響を示すグラフ。
【符号の説明】
【0087】
1…チャンバ
2…サセプタ
5…ヒーター
10…シャワーヘッド
20…ガス供給機構
22…TiClガス供給源
23…Arガス供給源
24…Hガス供給源
34…高周波電源
38…排気装置
50…制御部
52…記憶部
52a…記憶媒体
100…成膜装置
110…Si基板
111…層間絶縁膜
112…コンタクトホール
113…Ti膜
114…シリサイド
W……半導体ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に被処理基板を配置し、TiClガスおよびHガスを含む処理ガスを導入しつつ前記チャンバ内にプラズマを生成し、そのプラズマにより前記処理ガスの反応を促進して被処理基板上にTi膜を成膜するTi膜の成膜方法であって、
前記チャンバ内に被処理基板が配置された状態でTiClガスを導入した後、前記チャンバ内にプラズマを生成することを特徴とするTi膜の成膜方法。
【請求項2】
TiClガスを導入してからプラズマを生成するまでの時間が2sec以上であることを特徴とする請求項1に記載のTi膜の成膜方法。
【請求項3】
プラズマを生成する際のパワーを徐々に上昇させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のTi膜の成膜方法。
【請求項4】
TiClガスを最初第1の流量で導入し、その後第1の流量よりも小流量の成膜のための第2の流量まで徐々に低下させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のTi膜の成膜方法。
【請求項5】
プラズマを生成する際のパワーを徐々に上昇させ、かつ、
TiClガスを最初第1の流量で導入し、その後第1の流量よりも小流量の第2の流量まで徐々に低下させ、
前記TiClガスの流量低下は、前記プラズマを生成する際のパワーの上昇が終了する前に開始することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のTi膜の成膜方法。
【請求項6】
前記プラズマを生成する際のパワーの上昇を開始してから定常状態になるまでの時間が2sec以上であることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか1項に記載のTi膜の成膜方法。
【請求項7】
前記TiClガスを第1の流量から第2の流量まで低下させる時間が1sec以上であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のTi膜の成膜方法。
【請求項8】
前記第1の流量は16〜100mL/min(sccm)の範囲であり、前記第2の流量は1〜30mL/min(sccm)の範囲であることを特徴とする請求項4、請求項5、および請求項7のいずれか1項に記載のTi膜の成膜方法。
【請求項9】
前記処理ガスは、さらにArガスを含むことを特徴とする請求項1から請求項8に記載のTi膜の成膜方法。
【請求項10】
成膜のための前記TiClガスの流量は、1〜30mL/min(sccm)の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のTi膜の成膜方法。
【請求項11】
被処理基板の温度は、350〜700℃の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項12】
成膜処理の際の前記チャンバ内の圧力は、133〜1330Paの範囲であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のTi膜の成膜方法。
【請求項13】
被処理基板を収容するチャンバと、
前記チャンバ内で被処理基板を載置する載置台と、
前記載置台上の被処理基板を加熱するヒーターと、
前記チャンバ内にTiClガスおよびHガスを含む処理ガスを導入するガス導入機構と、
前記チャンバ内に処理ガスのプラズマを生成するプラズマ生成機構と、
前記チャンバ内を排気する排気手段と、
前記チャンバ内での処理を制御する制御機構を有し、
前記プラズマ生成機構により生成されたプラズマにより前記処理ガスの反応を促進して被処理基板上にTi膜を成膜するTi膜の成膜装置であって、
前記制御機構は、前記チャンバ内に被処理基板が配置された状態でTiClガスを導入させた後、前記チャンバ内にプラズマを生成させるように制御することを特徴とするTi膜の成膜装置。
【請求項14】
前記制御機構は、TiClガスを導入してからプラズマを生成するまでの時間が2sec以上となるように制御することを特徴とする請求項13に記載のTi膜の成膜装置。
【請求項15】
前記制御機構は、プラズマを生成する際のパワーを徐々に上昇させるように制御することを特徴とする請求項13または請求項14に記載のTi膜の成膜装置。
【請求項16】
前記制御機構は、TiClガスを最初第1の流量で導入させ、その後第1の流量よりも小流量の第2の流量まで徐々に低下させるように制御することを特徴とする請求項13から請求項15のいずれか1項に記載のTi膜の成膜装置。
【請求項17】
前記制御機構は、
プラズマを生成する際のパワーを徐々に上昇させ、かつ、
TiClガスを最初第1の流量で導入し、その後第1の流量よりも小流量の第2の流量まで徐々に低下させ、
前記TiClガスの流量低下が、前記プラズマを生成する際のパワーの上昇が終了する前に開始されるように制御することを特徴とする請求項13または請求項14に記載のTi膜の成膜装置。
【請求項18】
前記制御機構は、前記プラズマを生成する際のパワーの上昇を開始してから定常状態になるまでの時間が2sec以上となるように制御することを特徴とする請求項15から請求項17のいずれか1項に記載のTi膜の成膜装置。
【請求項19】
前記制御機構は、前記TiClガスを第1の流量から第2の流量まで低下させる時間が1sec以上となるように制御することを特徴とする請求項16または請求項17に記載のTi膜の成膜装置。
【請求項20】
前記ガス導入機構は、TiClガスおよびHガスが供給され、これらが混合された状態で、またはこれらを別個に、前記チャンバ内にシャワー状に吐出するシャワーヘッドを有することを特徴とする請求項13から請求項19のいずれか1項に記載のTi膜の成膜装置。
【請求項21】
コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、請求項1から請求項12のいずれかの方法が行われるように、コンピュータに前記成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2010−111888(P2010−111888A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283373(P2008−283373)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】