説明

インホイールモータ

【課題】モータを冷却することができるとともに、部品点数の増加を抑制でき、かつ、構造の複雑化を抑制することの可能なインホイールモータを提供する。
【解決手段】タイヤ3が取り付けられるホイール2と、ホイール2と動力伝達可能に接続されかつ、ホイール2と同軸上に配置されたモータ6とを有する、インホイールモータにおいて、流体の圧力により動作し、かつ、ホイール2に制動力を与えるブレーキユニット21と、ブレーキユニット21に供給される流体が通る第1の通路43と、ブレーキユニット21から排出された流体が通る第2の通路35,46とが設けられており、第1の通路43または第2の通路46の少なくとも一方の通路を通る流体によりモータ6を冷却する構成を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の各車輪毎にモータが設けられており、その車輪を駆動する動力をモータで発生し、あるいは車輪に与える制動力をモータで発生することのできるモータを備えた、インホイールモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用のインホイールモータは、車輪の近傍に設けられて車輪に動力を伝達する駆動力源である。このため、車輪とモータとが別の箇所に配置されている場合のように、そのモータから車輪に至る動力伝達経路に、プロペラシャフトまたはデファレンシャルなどの動力伝達機構を設けずに済み、車両の構成を簡素化することができる。そのインホイールモータの一例が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されたインホイールモータは、ハウジングと、ハウジング内に配置されたステータおよびロータと、ロータに連結されたモータ軸とを有しており、モータ軸にホイールが取り付けられている。また、ハウジング外部にはリザーバタンクが設けられており、リザーバタンクには冷却用の冷媒が貯溜されている。さらにハウジングには冷媒が流れる流路が設けられており、リザーバタンクから出た冷媒が、流路を通過してリザーバタンクに戻されるように構成されている。このようにして、インホイールモータを冷媒で冷却することができるとされている。なお、車両用のインホイールモータは、特許文献2にも記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−147204号公報
【特許文献2】特開2005−75006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたインホイールモータでは、冷媒を貯溜するためにリザーバタンクを専用に設けるとともに、冷媒が通る流路を専用に設けなければならず、部品点数が多くなりかつ構造が複雑化する恐れがあった。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、モータを冷却することができるとともに、部品点数の増加を抑制でき、かつ、構造の複雑化を抑制することの可能なインホイールモータを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、タイヤが取り付けられるホイールと、このホイールと動力伝達可能に接続されかつ、前記ホイールと同軸上に配置されたモータとを有する、インホイールモータにおいて、流体の圧力により動作し、かつ、前記ホイールに制動力を与えるブレーキユニットと、このブレーキユニットに供給される前記流体が通る第1の通路と、前記ブレーキユニットから排出された前記流体が通る第2の通路とが設けられており、前記第1の通路または第2の通路の少なくとも一方の通路を通る流体により前記モータを冷却する構成を有していることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記モータを支持する支持部材が設けられており、前記ブレーキユニットは、前記ホイールと一体回転するように取り付けられたブレーキディスクと、前記流体の圧力により動作し、かつ、前記ブレーキディスクを挟み付けるブレーキパッドと、このブレーキパッドを支持するキャリパとを有しており、前記キャリパが前記支持部材に取り付けられていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2の構成に加えて、前記第1の通路および第2の通路が共に前記キャリパに接続されており、前記キャリパから前記第2の通路に排出された流体を冷却する冷却装置が設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの構成に加えて、前記冷却装置は、前記流体と冷媒との間で熱交換をおこなわせることにより、前記流体を冷却する構成を有しており、前記冷媒に流れを生じさせる流体機械が設けられており、前記モータは、前記ホイールの動力を電力に変換して回生制動力を発生する構成を有しており、前記モータにより発電された電力で流体機械が駆動される構成を有していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、モータの動力をホイールに伝達し、あるいは、ホイールの運動エネルギをモータで電力に変換することも可能である。また、流体の圧力によりブレーキユニットを動作させて、ホイールに制動力を与えることが可能である。さらに、第1の通路を通ってブレーキユニットに供給される流体、または第2の通路を通ってブレーキユニットに供給される流体により、モータを冷却することができる。したがって、モータを冷却する流体を貯溜するタンクまたは流路を専用に設けずに済み、部品点数の増加を抑制でき、かつ、構造の複雑化を抑制できる。
【0011】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、流体の圧力によりブレーキパッドが動作し、このブレーキパッドによりブレーキディスクが挟み付けられて制動力が発生する。また、キャリパがハウジングに取り付けられているため、第1の通路および第2の通路の取り回しを簡略化できる。
【0012】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、キャリパから第2の通路に排出された流体を、冷却装置により冷却することができる。したがって、モータの熱を奪って温度が上昇した流体を、冷却装置により効率的に冷却できる。また、キャリパから排出された流体を冷却するため、キャリパに供給される前に、流体の粘度が高まることを防止できる。したがって、第1の通路における流体の管路抵抗が増加することはなく、ブレーキパッドの動作性が低下せずに済む。
【0013】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、輸送機械により冷媒が流れて、流体と冷媒との間で熱交換をおこなわせることにより、流体を冷却することができる。また、ホイールの動力をモータで電力に変換して回生制動力を発生させ、モータにより発電された電力で流体機械を駆動することができる。したがって、流体機械を駆動するために専用の動力を用意せずに済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明に係るインホイールモータは、車輪を支持するサスペンション形式が、ストラット形式またはダブルウィッシュボーン形式またはスイングアーム形式またはマルチリンク形式のいずれであっても、この発明を適用可能である。すなわち、左右のサスペンションが独立して上下方向に動作する、独立懸架式サスペンションに用いることが可能である。この発明においては、モータが、支持部材を介して車体により支持されている。支持部材は、車体に取り付けられるアーム、またはストラット(あるいはマックファーソン)と呼ばれるショックアブソーバ、または中空のハウジング、枠形状のフレームまたはブラケットなどのいずれでもよい。前記モータの出力軸とホイールとが動力伝達可能に接続されている。また、ホイールと出力軸とが同軸上に配置されている。ホイールと出力軸との接続構造は、出力軸とホイールとが一体回転する接続構造、または、出力軸とホイールとの間の回転数の比が1未満、または1を越える値となるように、変速機を介在させてホイールと出力軸とを接続する構造のいずれでもよい。
【0015】
この発明におけるインホイールモータは、前輪または後輪のいずれにも適用可能である。この発明において、モータは具体的には電動モータである。また、モータとして、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備したモータ・ジェネレータを用いることが可能である。この発明において、流体は非圧縮性流体である。また、ブレーキユニットは、流体圧により制動力が制御されるものであり、油圧式のブレーキユニット空気圧式のブレーキユニットのいずれでもよい。この発明において、冷却装置は、前記流体と冷媒との間で熱交換をおこなわせることにより、流体を冷却する構成を有しており、冷媒は空気または液体のいずれでもよい。また用いる流体機械は、圧縮機(コンプレッサ)または送風機のいずれでもよい。送風機としては、ファンまたはブロワでもよい。例えば、電動機によりファンを駆動させて、冷媒としての空気の流れを生じさせることが可能である。また、電動機によりコンプレッサを駆動させ、冷媒としての液体を流れを生じさせる構成の、周知の蒸気圧縮式の冷凍システムを形成することも可能である。この発明において、第1の通路および第2の通路は流体が流れる流路であり、第1の通路および第2の通路は、熱伝導性を有する材料により構成された配管により構成することができる。この配管には、パイプ、チューブ、ホース、油路などが含まれる。
【0016】
図1にこの発明に係るインホイールモータの構造の一例を模式的に示してある。例えば、車両の車輪が4輪ある場合、少なくとも1つの車輪に対してインホイールモータを設けることが可能であるが、図1では便宜上、1つの車輪1にインホイールモータを適用した例が示されている。図1に示す車輪1は、ホイール2と、このホイール2の周囲に取り付けられるタイヤ3とを有している。また、ホイール2は、環状のホイールディスク4と、ホイールディスク4の外周部に接合されたリム5とから構成されている。このリム5は円筒形状に構成されており、このリム5の外周にタイヤ3が取り付けられる。このホイール2と同軸上に、具体的には、リム5の内側にモータ6が配置されている。
【0017】
このモータ6は、主として、車両を走行させる駆動トルクを出力するためのものであり、モータ6はハウジング7の内部に収納されている。図2にはハウジング7の内部の構成の具体例が示されており、このハウジング7は回転軸線A1を中心として配置された円筒部8と、円筒部8における回転軸線A1に沿った方向の両端を塞ぐように設けられた蓋部9,10とを有している。前記回転軸線A1に沿った方向で、ホイール2に近い位置に設けられた蓋部9には軸孔11が形成されている。このハウジング7は、ロアアーム12およびアッパアーム13を介して車体14に取り付けられている。また、車体14とハウジング7との間には、緩衝装置、具体的にはショックアブソーバおよびスプリングなどが設けられている。したがって、ハウジング7は、車体14に対して上下方向、言い換えれば高さ方向に相対移動可能である。前記モータ6としては、例えば、交流型の誘導モータを用いることが可能であり、モータ6はハウジング7に固定されたステータ14と、回転可能に設けられたロータ15とを有する。ステータ14は電磁鋼板にコイルを巻いて構成されている。
【0018】
一方、車体14には、電源16およびインバータ17が設けられており、電源16とモータ6との間で電力の授受が可能となるように、電気回路が形成されている。前記電源16には、蓄電装置および発電機が含まれる。この蓄電装置としては、二次電池、つまり、バッテリまたはキャパシタを用いることができる。なお、発電機には燃料電池が含まれる。ロータ15は回転軸線A1を中心として回転可能となるように、軸受(図示せず)により支持されている。そして、回転軸線A1を中心とする半径方向で、ロータ15の外側にステータ14が配置されている。このロータ15には出力軸17が動力伝達可能に接続されている。この具体例では、ロータ15と出力軸17とが一体回転するように連結されている。この出力軸17が軸孔11を通りハウジング7の外部に延ばされており、出力軸17がホイールハブ18に動力伝達可能に連結されている。ホイールハブ18は、円板形状のボス部19と、ボス部19の外周端から回転軸線A1に沿った方向に延ばされた円筒部20とを有している。そして、出力軸17とボス部19とが接続されている。そして、このホイールハブ18と前記ホイールディスク4とが一体回転するように連結されている。
【0019】
前記円筒部20の内径はハウジング7の外径よりも大きく構成されており、ハウジング7の外側を取り囲むように円筒部20が配置されている。また、前記ハウジング7の外側にブレーキユニット21が設けられている。このブレーキユニット21は、ホイールハブ18に制動力を与える機構である。このブレーキユニット21は、キャリパ22とブレーキパッド23と前記円筒部20とを有している。すなわち、ハウジング7の外面にキャリパ22が取り付けられ、前記円筒部20を内周側および外周側から挟み付けるブレーキパッド23が、キャリパ22に設けられている。このキャリパ22およびブレーキパッド23の構成は、従来の車両用ディスクブレーキと同様であって、各ブレーキパッド23毎に、油圧室およびピストン(図示せず)が設けられており、その油圧室の油圧でピストンを押すことにより、ブレーキパッド23で円筒部20を挟み付けて摩擦力を生じさせる、すなわち制動力を与えるように構成されている。なお、各ピストンおよびそれぞれのブレーキパッド23は、ピストンシール(図示せず)の弾性復帰力で後退移動させるようになっている。
【0020】
さらに、車体14にはコントロールユニットが設けられている。このコントロールユニット24の構成を図3に示す。コントロールユニット24は、キャリパ22に設けられた油圧室25の油圧を制御する機構である。このコントロールユニット24の具体的な構成を説明する。まず、オイルパン26が設けられており、このオイルパン26にはブレーキ液が貯溜されている。このブレーキ液としては、例えば非鉱油系の油を用いることが可能である。また、オイルパン26内のブレーキ液を吸入して吐出するポンプ27が設けられている。このポンプ27は動力源により駆動される流体機械であり、ポンプ27としては、往復型ポンプまたは回転型ポンプのいずれを用いてもよい。前記ポンプ27の吸入口28は油路29を介してオイルパン26に接続され、ポンプ27の吐出口30には油路31が接続されている。ポンプ27を駆動する動力源としては、例えば電動機を用いることが可能であり、ブレーキペダル32の操作に基づいて、電動機の駆動・停止が制御されるように構成されている。
【0021】
また、ブレーキペダル23の踏力が伝達される油路33が設けられており、その油路33と前記油路31との間にバルブ34が設けられている。このバルブ34は、油路33と油路31とを接続するポート(図示せず)を有している。そして、ブレーキペダル23が踏み込まれていない場合は、バルブ34のポートが閉じられて油路33と油路31とが遮断され、ブレーキペダル32が踏み込まれた場合はバルブ34のポートが開放されて油路31と油路33とが接続されるように構成されている。前記油路31は、前記油圧室24に接続されており、その油圧室25には油路35が接続されている。また、車体14にはオイルクーラ36が設けられている。このオイルクーラ36は、ブレーキ液を冷却する冷却装置であり、ブレーキ液と冷媒との間で熱交換をおこなわせることにより、ブレーキ液を冷却する構成を有している。例えば、オイルクーラ36としては、電動機37により流体機械49を駆動する構成のものを用いることが可能である。例えば、電動機37により流体機械(ファン)49を駆動させて、冷媒としての空気に対流を生じさせ、その空気とブレーキ液との間で熱交換をおこなわせる空冷式のオイルクーラを用いることが可能である。これに対して、電動機37により流体機械(コンプレッサ)49を駆動させ、冷媒としての液体を流れを生じさせる構成の、周知の蒸気圧縮式の冷凍システムを形成することも可能である。この電動機37には前記電源16から電力を供給可能である。
【0022】
このオイルクーラ36の入口38には前記油路35が接続され、オイルクーラ36の出口39には油路40が接続されている。この油路40はオイルパン26に接続されており、この油路40にはバルブ41が設けられている。このバルブ41はポート(図示せず)を有しており、ブレーキペダル32が踏み込まれている場合はバルブ41のポートが開放され、ブレーキペダル32が踏み込まれていない場合は、バルブ41のポートが閉じられるように、バルブ41が構成されている。なお、前記バルブ41は、ブレーキペダル32に加えられる踏力が、機械的な伝動装置、例えば、ワイヤ、ケーブル、リンクなどにより伝達されて、ポートが開閉されるように構成されていてもよい。なお、ブレーキペダル32の操作を検知するセンサ(図示せず)と、センサの信号を処理する電子制御装置(図示せず)と、バルブ41のポート開閉を制御するアクチュエータ(例えばソレノイド)とを設けておき、センサの検知信号を電子制御装置で処理し、この電子制御装置によりアクチュエータを制御して、そのアクチュエータによりバルブ41のポートを開閉するように構成することも可能である。
【0023】
つぎに、前記油路31,35を形成する配管について説明する。前記のように、ハウジング7は、車体14に対して上下方向に相対移動可能に設けられているため、油圧室25に接続された油路31,35を構成する配管は、ハウジング7と車体14とが相対移動しても、ブレーキ液を輸送できる構成となっている。具体的には、油路31のうち、車体14に設けられている部分は、金属製のブレーキチューブ42により構成されている。また、油路31のうち、キャリパ22およびハウジング7に取り付けられている領域も、金属製のブレーキチューブ43により構成されている。これに対して、油路31であってブレーキチューブ42とブレーキチューブ43とを接続する領域は、ゴム材料を主体とするフレキシブルホース44により構成されている。また、油路35のうち、車体14に設けられている領域は、金属製のブレーキチューブ45により構成され、油路35のうち、キャリパ22およびハウジング7に取り付けられている領域も、金属製のブレーキチューブ46により構成されている。これに対して、油路35のうち、ブレーキチューブ45とブレーキチューブ46とを接続する領域は、ゴム材料を主体とするフレキシブルホース47により構成されている。上記のフレキシブルホースは、ブレーキチューブに比べて可撓性に優れている。また、ブレーキチューブを構成する金属としては、鋼が用いられている。
【0024】
そしてこの具体例では、ブレーキチューブ内を通るブレーキ液と、モータ7との間で熱交換をおこなうことが可能となるように、ブレーキチューブの取り回しが構成されている。図2にはブレーキチューブの取り回しの具体例1が示されている。図2においては、ハウジング7に孔48が形成されており、その孔48を経由してハウジング7内にブレーキチューブ43,46の一部が配置されている。具体的には、モータ7のうち、車両の高さ方向で最も高い部分、つまり、ロータ14と円筒部8との間にブレーキチューブ43,46の一部が配置されている。また、ブレーキチューブ43,46の取り回しの具体例2を図4に示す。図4においては、ハウジング7に孔48が形成されており、その孔48を経由してハウジング7内にブレーキチューブ43,46の一部が配置されている。具体的には、ハウジング7内でモータ6の周囲を取り囲むように、ブレーキチューブ43,46が円筒部8の内周面に沿って配置されている。さらに、ブレーキチューブ43,46の取り回しの具体例3を図5に示す。図5においては、ブレーキチューブ43,46が共にハウジング7の外側、具体的には円筒部8の外側に巻き付けられている。ブレーキチューブ43,46を円筒部8に巻き付ける回数は、1回でもよいし、2回以上でもよい。
【0025】
つぎに、この具体例の作用を説明する。アクセルペダル(図示せず)および車速に基づいて、モータ6の出力が制御される。具体的には、電源16から電力がモータ6に供給されると、モータ6が電動機として機能し、車輪1で駆動力が発生する。また、ブレーキペダル32が踏み込まれていない場合はポンプ27が駆動される。このため、オイルパン26のブレーキ液がオイルポンプ27に吸入され、かつ、油路31に吐出される。ブレーキペダル32が踏み込まれている場合はバルブ34のポートが閉じられ、かつ、バルブ41のポートが開放される。そのため、油路31に吐出されたブレーキ液はキャリパ21の油圧室25に供給され、その油圧室25から油路35に排出される。この時、ブレーキチューブ43,46内のブレーキ液と、モータ7との間で熱交換がおこなわれ、モータ7が冷却される。
【0026】
前記具体例1および具体例2では、モータ7の熱がハウジング7内に放散され、その熱がブレーキチューブ43,46を介してブレーキ液に伝達される。また、具体例3では、モータ7の熱がハウジング7内に放散され、その熱がハウジング7を経由してハウジング7の外部に放散される。ついで、その熱がブレーキチューブ43,46を介してブレーキ液に伝達される。このようにして、モータ7が冷却されるとともに、温度が上昇したブレーキ液は、オイルクーラ36で冷却される。このオイルクーラ36で冷却されたブレーキ液は、油路40を経由してオイルパン26に排出される。このように、ブレーキペダル32が踏み込まれていない場合は、バルブ41のポートが開放されるため、油路40のブレーキ液がオイルパン26に排出されるため、油圧室25の油圧は上昇しない。なお、ブレーキペダル32が踏み込まれていない場合におけるブレーキ液の循環経路を、図3に破線で示す。
【0027】
一方、ブレーキペダル32が踏み込まれた場合は、ポンプ27が停止され、かつ、バルブ34のポートが開放され、かつ、バルブ41のポートが閉じられる。また、ブレーキペダル32の踏み込みにより油路33の油圧が上昇し、その油圧が油路31に伝達される。前記のように、バルブ41のポートが閉じられているため、キャリパ22の油圧室25の油圧が上昇し、ブレーキパッド23により円筒部20が挟み付けられて、制動力が発生する。なお、ブレーキペダル32が踏み込まれている場合におけるブレーキ液の流れを、図3に実線で示す。また、ブレーキペダル32が踏み込まれた場合は、モータ6を発電機として機能させ、車輪1の運動エネルギによりモータ6で発電をおこない回生制動力を発生させることも可能である。なお、ブレーキペダル32が踏み込まれている場合も、ブレーキ液によりモータ6を冷却する作用は、前述の場合と同じである。
【0028】
このように、ブレーキユニット21を動作させるブレーキ液を利用し、かつ、ブレーキチューブ43,46を利用して、モータ6を冷却することができる。つまり、モータ6を冷却する冷媒を蓄えておくタンクを専用で設けずに済み、かつ、その冷媒を流通させるために専用の通路を設けずに済む。したがって、部品点数の増加を抑制できかつ、構造の複雑化を抑制できる。また、キャリパ22がハウジング7の外側に取り付けられているため、ブレーキチューブ43,46の通路の取り回しを簡略化できる。さらに、ブレーキ液の循環方向で、油圧室25よりも下流側で、ブレーキ液をオイルクーラ36により冷却する構成となっている。したがって、モータ6の熱を奪って温度が上昇したブレーキ液を、オイルクーラ36により効率的に冷却できる。また、油圧室25から排出されたブレーキ液を冷却するため、油圧室25にブレーキ液が供給される前に、油路31でブレーキ液の粘度が高まることを防止できる。したがって、油路31におけるブレーキ液の管路抵抗が増加することはなく、ブレーキパッド23の動作性が低下せずに済む。さらにまた、車輪1の動力をモータ6で電力に変換して回生制動力を発生させ、モータ6により発電された電力で電動機37を駆動することができる。したがって、電動機37を駆動するために専用の動力を用意せずに済む。また、オイルクーラ36は電動機37により冷媒が流れる構成であるため、車両が停止している場合でも、ブレーキ液をオイルクーラ36で冷却することが可能である。
【0029】
さらに具体例1ないし3では、油圧室25に接続された2つのブレーキチューブ43,46内のブレーキ液と、モータ6との間で熱交換をおこなうことが可能に構成されているが、油圧室25にブレーキ液を供給するブレーキチューブ43、または油圧室25からブレーキ液を排出するブレーキチューブ46のいずれか一方を流れるブレーキ液と、モータ6との間で熱交換をおこなうように構成することも可能である。また、前記具体例では、ブレーキチューブ43,46をハウジング7とは別部材で構成しているが、ハウジング7自体に油路または通路を設け、その通路または油路をブレーキ液が通るように構成することも可能である。
【0030】
また、各具体例では、モータ6を収納するハウジング7が設けられており、そのハウジング7にキャリパ22が取り付けられているが、ハウジングではなく枠形状のフレームまたはブラケットによりモータを支持する構成とし、このフレームまたはブラケットを、車体に対して上下動可能に取り付けることも可能である。この場合、フレームまたはブラケットにキャリパ22を取り付ければよい。ここで、この具体例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、タイヤ3が、この発明のタイヤに相当し、ホイール2が、この発明のホイールに相当し、モータ6が、この発明のモータに相当し、ハウジング7およびロアアーム13およびアッパアーム12が、この発明における支持部材に相当し、ブレーキユニット21が、この発明のブレーキユニットに相当し、ブレーキチューブ43および油路31が、この発明における「第1の通路」に相当し、ブレーキチューブ46および油路35が、この発明における「第2の通路」に相当し、円筒部20が、この発明のブレーキディスクに相当し、ブレーキパッド23が、この発明におけるブレーキパッドに相当し、キャリパ22が、この発明のキャリパに相当し、オイルクーラ36が、この発明の冷却装置に相当し、ファンおよびコンプレッサが、この発明の流体機械に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明のインホイールモータを示す断面図である。
【図2】この発明に用いるブレーキユニットおよびコントロールユニットの構成を示す模式図である。
【図3】この発明のインホイールモータにおいて、ブレーキチューブの取り回しの具体例1を示す図である。
【図4】この発明のインホイールモータにおいて、ブレーキチューブの取り回しの具体例2を示す図である。
【図5】この発明のインホイールモータにおいて、ブレーキチューブの取り回しの具体例3を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
2…ホイール、 3…タイヤ、 6…モータ、 7…ハウジング、 12…アッパアーム、 13…ロアアーム、 20…円筒部、 21…ブレーキユニット、 22…キャリパ、 23…ブレーキパッド、 31,35…油路、 36…オイルクーラ、 43,46…ブレーキチューブ、 49…流体機械。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤが取り付けられるホイールと、このホイールと動力伝達可能に接続されかつ、前記ホイールと同軸上に配置されたモータとを有する、インホイールモータにおいて、
流体の圧力により動作し、かつ、前記ホイールに制動力を与えるブレーキユニットと、このブレーキユニットに供給される前記流体が通る第1の通路と、前記ブレーキユニットから排出された前記流体が通る第2の通路とが設けられており、前記第1の通路または第2の通路の少なくとも一方の通路を通る流体により前記モータを冷却する構成を有していることを特徴とするインホイールモータ。
【請求項2】
前記モータを支持する支持部材が設けられており、前記ブレーキユニットは、前記ホイールと一体回転するように取り付けられたブレーキディスクと、前記流体の圧力により動作し、かつ、前記ブレーキディスクを挟み付けるブレーキパッドと、このブレーキパッドを支持するキャリパとを有しており、前記キャリパが前記支持部材に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のインホイールモータ。
【請求項3】
前記第1の通路および第2の通路が共に前記キャリパに接続されており、前記キャリパから前記第2の通路に排出された流体を冷却する冷却装置が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のインホイールモータ。
【請求項4】
前記冷却装置は、前記流体と冷媒との間で熱交換をおこなわせることにより、前記流体を冷却する構成を有しており、前記冷媒に流れを生じさせる流体機械が設けられており、前記モータは、前記ホイールの動力を電力に変換して回生制動力を発生する構成を有しており、前記モータにより発電された電力で前記流体機械が駆動される構成を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインホイールモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−113722(P2009−113722A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291225(P2007−291225)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】