説明

エンジンの制御装置

【課題】自動停止/再始動装置の作動を妨げることなく、蒸発燃料をエンジンに供給すること。
【解決手段】エンジンの自動停止/再始動と、蒸発燃料のパージ運転とを併用させる。蒸発燃料のパージ条件が成立している時にエンジン停止条件が成立した場合には、パージ制御弁を強制的に閉じる制御手段を設ける。好ましくは、パージ制御弁が強制停止された後、蒸発燃料を掃気する各気筒の掃気処理を実行する。さらに、この各気筒の掃気処理の実行後にピストン停止位置調整処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの制御装置に関し、特に自動停止/再始動装置と蒸発燃料パージ装置とを有するエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、所定の自動停止条件が成立した場合にアイドリング状態にある車両のエンジンを自動停止するととともに、所定の再始動条件が成立した場合には、停止しているエンジンを再始動するエンジンの自動停止/再始動装置を提案している(特許文献1、2)。
【0003】
他方、近年、蒸発燃料による大気汚染防止を図るために様々な対策が講じられるようになってきている。かかる対策としては、燃料タンク内で発生する蒸発燃料外気に放出されないように、キャニスタを介して燃料タンクをエンジンの吸気管に連通するとともに、燃料タンク内を適正に負圧化する負圧密閉タンク装置を備え、所定のパージ条件が成立した場合に燃料タンクから発生する蒸発燃料をパージ制御弁の開閉動作に基づいて前記エンジンにパージ(放出)する蒸発燃料パージ装置がある。
【0004】
かかる蒸発燃料パージ装置をエンジンの自動停止/再始動装置に併用した場合、自動停止条件が成立した後、燃料タンク内の圧力が目標負圧に達する時間が長くなったり、目標負圧に達しない場合があった。そのような状態のまま、エンジンの自動停止を実行すると、未燃燃料が排気通路に排出され、排気性能が低下するという虞があった。そこで、蒸発燃料パージ装置をエンジンの自動停止/再始動装置に併用するに当たり、従来は、燃料タンク内の圧力が所定の圧力よりも高い場合には、エンジンの自動停止条件の成立に拘わらず、エンジンの自動停止を中止するようにしていた(特許文献3)。
【特許文献1】特開2004−293474号公報
【特許文献2】特開2004−124754号公報
【特許文献3】特開2002−213268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当然のことながら、エンジンの自動停止条件が成立しているにも拘わらず、自動停止を中止する場合には、本来の目的である燃料消費量の節約を達成することができず、環境保全の問題にも悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
本発明は上記不具合に鑑みてなされたものであり、自動停止/再始動装置の作動を妨げることなく、蒸発燃料をエンジンに供給することのできるエンジンの制御装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、所定のエンジン停止条件が成立した場合にエンジンを自動停止させ、停止後所定のエンジン再始動条件が成立した場合に前記エンジンを再始動させる自動停止/再始動装置と、所定のパージ条件が成立した場合に燃料タンクから発生する蒸発燃料をパージ制御弁の開閉動作に基づいて前記エンジンにパージする蒸発燃料パージ装置と、前記自動停止/再始動装置並びに前記蒸発燃料パージ装置の動作を制御する制御手段とを備えたエンジンの制御装置において、前記制御手段は、前記パージ条件が成立している時に前記エンジン停止条件が成立した場合には、前記パージ制御弁を強制的に閉じるものであることを特徴とするエンジンの制御装置である。この態様では、エンジンの自動停止前に蒸発燃料パージ装置のパージ制御弁が閉じて蒸発燃料のパージが停止されるので、エンジン自動停止/再始動装置による自動停止制御の過程で未燃燃料が排出されるおそれがなくなる。
【0008】
好ましい態様において、前記制御手段は、前記パージ条件が成立している時に前記エンジン停止条件が成立した場合に、前記パージ制御弁を強制的に閉じた後、各気筒の掃気処理を実行するものである。この態様では、パージ運転によって残留している蒸発燃料を掃気した後、自動停止制御を実行することができるので、より正確な自動停止制御を実行することが可能になる。
【0009】
好ましい態様において、前記制御手段は、所定の掃気終了条件が成立した場合に、前記掃気処理を終了し、エンジンの自動停止制御を開始するものである。この態様では、蒸発燃料の掃気後に速やかにエンジンの自動停止を実行するので、蒸発燃料と供給燃料の双方の消費量改善を図ることができる。
【0010】
好ましい態様において、排気ガスの酸素濃度に関する検出値を前記制御手段に出力する空燃比センサを設け、前記制御手段は、前記酸素濃度検出センサの検出値並びに空燃比フィードバック補正定数の特性に基づいてエンジンの目標空燃比をフィードバック制御するとともに、前記パージ制御弁を強制的に閉じた後の前記空燃比フィードバック補正定数の変化に基づいて前記掃気処理を終了するものである。この態様では、エンジンの目標空燃比をフィードバック制御する際に、空燃比フィードバック補正定数の変化に基づいて蒸発燃料の掃気処理を終了するので、実際の掃気状態を把握することができ、掃気完了時期を適切に把握することができる。
【0011】
好ましい態様において、前記制御手段は、前記再始動条件が成立した時に燃焼によってエンジン本体の再始動を実行するものである。この態様では、再始動時の空燃比を調整するための処理を実行する前にパージ制御弁を強制的に閉じ、各気筒の掃気処理を実行するので、再始動時の空燃比が蒸発燃料によってずれるのを確実に防止することが可能になり、燃料の燃焼による停止時のエンジンを確実に始動させることができる。
【0012】
好ましい態様において、前記制御手段は、当該掃気処理の後、ピストンエンジン本体の自動停止過程において、燃焼再始動に適した位置にピストンを停止させるピストン停止位置調整処理を実行するものである。この態様では、ピストン位置の調整処理が実行される前に蒸発燃料の掃気が実行されるので、パージ経路中に残留している蒸発燃料によってピストンの位置調整が妨げられるおそれがなくなり、燃焼再始動に好適なピストン位置でエンジン本体を停止させる確率を高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、自動停止制御の過程で未燃燃料が排出されるおそれがなくなるので、自動停止/再始動装置の作動を妨げることなく、蒸発燃料をエンジンに供給することができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0015】
図1は本発明の実施の一形態に係るエンジン1の系統図である。
【0016】
図1を参照して、本実施形態のエンジン1に係るエンジン本体10には、複数の気筒11が設けられるとともに、各気筒11の内部には、図略のクランクシャフトに連結されたピストン12が嵌挿されることにより、その上方に燃焼室14が形成されている。各燃焼室14には、点火プラグ15の電極が臨んでいる。
【0017】
エンジン本体10には、前記クランクシャフトのエンジン回転速度Ne並びに回転方向を検出する一対のクランク角センサSW1が設けられている。クランク角センサSW1は、一方から出力される検出信号に基づいてエンジン回転速度Neが検出されるとともに、双方から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランクシャフトの回転方向および位相を検出するようになっている。
【0018】
エンジン本体10のシリンダヘッドには、気筒11毎に燃焼室14に向かって開口する吸気ポート16、排気ポート17がそれぞれ形成されているとともに、これらのポート16、17には、吸気弁18および排気弁19がそれぞれ装備されている。なお、これら吸気弁18および排気弁19には、それぞれ図略の可変開弁タイミング機構が設けられており、開弁タイミングを変更することによって掃気ができるように構成されている。
【0019】
吸気ポート16には、吸気システム20が、排気ポート17には排気システム30がそれぞれ設けられている。
【0020】
吸気システム20は、吸入空気を浄化するエアクリーナ21を上流端に備えている。エアクリーナ21には、エレメント22が内蔵されている。エアクリーナ21の下流側には、スロットルボディ23が設けられている。スロットルボディ23には、吸気システム20内を流通する吸入空気量Qaを調整するスロットルバルブ24が設けられている。そして、スロットルボディ23の下流側には、インテークマニホールド25が設けられ、このインテークマニホールド25の下流端に設けられた分岐吸気通路26が対応する気筒11の吸気ポート16に接続されている。図示の例では、エンジン本体10に直噴式の燃料噴射弁27が設けられている。この吸気システム20には、エアクリーナ21とスロットルボディ23の間にエアフローセンサSW2が配置されている。エアフローセンサSW2は、エレメント22に濾過された吸入空気の吸入空気量Qaを出力するものである。さらに、スロットルボディ23には、当該スロットルバルブ24のスロットル開度TVOを検出するスロットルセンサSW3が設けられている。
【0021】
排気システム30は、排気ポート17に接続されるエキゾーストマニホールド31と、このエキゾーストマニホールド31の下流側に設けられる排気通路32と、この排気通路32の下流側に配置され、当該排気通路32内に排出された既燃ガスを浄化する三元触媒33とが設けられている。そして、この排気システム30には、三元触媒33の上流側に配置されたリニア空燃比センサSW4と、下流側に配置された酸素濃度センサSW5とが設けられている。リニア空燃比センサSW4は、既燃ガスから酸素濃度に概ね比例する信号PFを出力するためのものである。酸素濃度センサSW5は、理論空燃比に相当する酸素濃度で出力電圧が急変するように構成されており、理論空燃比に対し酸素濃度が多いか少ないかをオンオフ的に検出し、信号SFを出力することにより、空燃比のフィードバック制御を実行するためのものである。リニア空燃比センサSW4は、フィードバック制御の実空燃比に相当する出力を演算するものであるのに対し、酸素濃度センサSW5は、浄化後の既燃ガスの酸素濃度に相当する検出値を演算するものである。本実施形態において、エンジンの目標空燃比は、原則として理論空燃比(λ=1)に設定される。
【0022】
燃料噴射弁27に燃料を供給する燃料供給システム40は、燃料タンク41を備え、該燃料タンク41内に、燃料ポンプ42と、低圧側の燃料フィルタ43と、高圧側の燃料フィルタ44と、プレッシャレギュレータ45とが配置されている。そして、燃料タンク41と燃料噴射弁27の間にプレッシャレギュレータ45下流の燃料通路46が接続され、該燃料通路46の途中に高圧燃料ポンプ47が設けられている。燃料は燃料タンク41に収容され、低圧側の燃料フィルタ43を通して燃料ポンプ42により吸い上げられる。そして、高圧側の燃料フィルタ44を通り、プレッシャレギュレータ45で所定圧力に調整されて、燃料通路46を流れ、高圧燃料ポンプ47から供給通路47Aを経て燃料噴射弁27に供給される。この高圧燃料ポンプ47は、カムシャフトにより駆動される構成になっている。なお、図示の例において、高圧燃料ポンプ47には、リリーフ通路47Bが設けられ、このリリーフ通路47Bは、リリーフ弁47Cを介して燃料噴射弁27に接続されている。リリーフ弁47Cは、燃圧が所定値以上になった場合に開弁するように構成されている。
【0023】
また、燃料タンク41に発生した蒸発燃料を吸着捕捉(トラップ)し所定条件成立時にパージして吸気側にパージする蒸発燃料パージ装置として、燃料タンク41の上部には蒸発燃料通路48が接続され、該蒸発燃料通路48の他端は吸着捕捉用の活性炭を収納したキャニスタ49の上部に接続されている。また、キャニスタ49の上部と吸気系のインテークマニホールド25とを結ぶパージ通路50が設けられ、該パージ通路50の途中には、エンジン制御ユニット100の制御によって流量を制御するソレノイド式のパージバルブ51が配設されている。また、キャニスタ49とパージバルブ51の間には液化した蒸発燃料を捕捉するキャッチタンク52が配設されている。キャニスタ49の下部には、パージ用の空気を導入する大気通路53が接続されている。
【0024】
上述した各センサSW1〜SW5、スロットルバルブ24、燃料噴射弁27、並びにEGR開閉弁61は、エンジン制御ユニット100に接続されている。なお、本実施形態においては、エンジン1の運転状態を検出するために、エンジン本体10の冷却水温度を検出する水温センサSW6と、車速を検出する車速センサSW7と、ブレーキの踏み込み量を検出するブレーキセンサSW8とが接続されている。
【0025】
エンジン制御ユニット100は、CPU101、メモリ102、インターフェース103並びにこれらのユニット101〜103を接続するバス104を有している。
【0026】
インターフェース103には、入力要素として、各センサSW1〜SW8を含む各種のセンサが接続されており、これらセンサSW1〜SW8等からの検出信号を受けることによって運転状態を判定できるようになっている。また、インターフェース103には、出力要素として、図略のコントローラや、ドライバと接続されており、これらのユニットを介して吸気弁18および排気弁19の可変開弁タイミング機構、スロットルバルブ24、燃料噴射弁27、並びにパージバルブ51を駆動できるように構成されている。
【0027】
メモリ102には、エンジン全体を制御するためのプログラムやデータが記憶されている。かかるプログラムを詳しくは後述するフローチャートに基づいて実行することにより、エンジン制御ユニット100は、自動停止/再始動装置、およびその制御手段、並びに前記蒸発燃料パージ装置の動作を制御する制御手段を機能的に構成している。
【0028】
メモリ102には、図2の特性図に基づく制御マップが記憶されている。
【0029】
図2は、図1の実施形態に係る要求トルクとエンジン回転速度との関係を示す特性図である。
【0030】
図2を参照して、運転領域毎に蒸発燃料をパージするパージ運転を実行するために、予め実験等で図2のような特性図を設定し、その設定値がメモリ102に制御マップとして、記憶されている。
【0031】
また、メモリ102には、エンジン制御ユニット100がエンジン1の自動停止/再始動装置の制御手段として機能するために、種々の制御マップM1、M2(図8参照)、M3、M4(図9参照)、およびM5(図10参照)が記憶されている。
【0032】
図3は、図1の実施形態に係る運転制御の一例を示すフローチャートである。
【0033】
図3を参照して、この運転制御が実行されると、エンジン制御ユニット100は、まず各種のデータを読み込み、運転状態を把握する(ステップS20)。次いで、エンジン制御ユニット100は、所定のエンジン停止条件が成立しているか否かを判定する(ステップS21)。ここで、所定のエンジン停止条件とは、車速、ブレーキの作動状況、エンジン水温等に基づいて判定される条件であり、例えば車速が所定速度よりも小さく、ブレーキが作動していて、エンジン水温が所定範囲内にあり、さらにエンジン本体10を停止させることに特に不都合のない状況であれば、自動停止条件が成立したものとする。
【0034】
ステップS21におけるエンジン停止条件が成立した場合(ステップS21においてYESの場合)、エンジン制御ユニット100は、エンジン自動停止準備サブルーチンを実行する(ステップS22)。
【0035】
次いでエンジン制御ユニット100は、エンジン1の自動停止サブルーチンを実行する(ステップS23)。
【0036】
次いで、エンジン制御ユニット100は、再始動条件が成立するのを待機する(ステップS24)。ここで、再始動条件とは、停車状態から発進するためにブレーキが解除された場合やアクセル操作等が行われた場合、エアコン等の動作のためにエンジンの運転が必要になった場合等である。再始動条件が成立すると、エンジン制御ユニット100は、エンジン本体10の再始動制御(エンジン燃焼再始動サブルーチン)を実行する(ステップS25)。ここで、本実施形態では、後述するように、燃料の燃焼によってエンジン本体10を一旦逆転させ、その後、正転させる逆転式燃焼再始動方式を採用している。尤もこれに限らず、直ちに正転させる正転式燃焼再始動方式を採用してもよい。また、図略のスタータモータを併用したモータ併用再始動であってもよい。
【0037】
次いで、エンジン制御ユニット100は、通常運転サブルーチンを実行する(ステップS26)。この通常運転サブルーチンにおいて、エンジン制御ユニット100は、エンジン回転速度Ne、エンジン負荷、エンジン水温等による所定のパージ実行条件が成立した時、すなわち図2の特性図に基づく蒸発燃料のパージ運転領域であるか否かを制御マップによって判別し(ステップS261)、パージ運転領域であれば、蒸発燃料のパージ運転サブルーチンを実行する(ステップS262)。
【0038】
パージ実行条件は、例えば所定の低回転/低負荷領域で、エンジン水温が所定値以上で、空燃比フィードバックの実行条件が成立することである。
【0039】
このステップS262のパージ運転サブルーチンでは、パージバルブ51を開き、キャニスタ49にトラップされていた蒸発燃料をパージしてインテークマニホールド25のサージタンクに供給するもので、蒸発燃料のパージ開始時には、パージした蒸発燃料を含む空気の供給量(パージ量)が0からエンジン運転状態に応じた要求量まで漸増するよう、パージ率(エンジンの吸入空気量に対するパージ量の比率)を設定し、設定したパージ率と吸入空気量に応じてパージバルブ51を駆動するためのデューティー比を制御する。また、蒸発燃料のパージ開始時にパージ率を漸増させる制御において、漸増期間の初期はリニア空燃比センサSW4の出力の反転に同期してパージ率を所定量、例えば目標パージ率(要求パージ量に相当するパージ率)の1%ずつ増加させ、漸増期間の後期は所定時間、例えば65ms毎にパージ率を例えば0.025%ずつ増加させる。この場合、蒸発燃料濃度が特に高い蒸発燃料のパージ開始初期には、リニア空燃比センサSW4の出力の反転に同期して且つ長い時間間隔でパージ量が増量されることによって空燃比の変動が抑制され、蒸発燃料濃度が下がる漸増期間の後期には短い時間間隔で速やかに要求量までパージ量が増量される。また、空燃比フィードバックの補正量に基づいて、パージガス中の蒸発燃料の濃度の推定学習が行われる。この学習は、パージ中に空燃比フィードバック補正量の所定回数の平均値をその間の平均パージ率で割った値に基づいて蒸発燃料濃度を推定するものである。そして、この学習した蒸発燃料濃度に応じてパージ補正量が決定される。
【0040】
また、パージ中に空燃比フィードバック補正量が所定のしきい値を越えたときは、パージ量の減量処理が行われる。そして、そのしきい値が蒸発燃料濃度の学習完了時と未完了時とで変更される。この変更は、濃度学習の未完了時には濃度学習の完了時に対して上記しきい値を高くするものである。こうして蒸発燃料が供給されることによる空燃比のずれはリニア空燃比センサSW4によって検出され、そのセンサ出力に基づいて空燃比がフィードバック補正される。また、蒸発燃料濃度の学習に基づく燃料噴射量の補正によってフィードバックの応答遅れが補われ、さらに、空燃比フィードバック補正量がしきい値を越えるとパージ量が減量され、その結果、蒸発燃料の供給による空燃比のずれが抑制される。そして、蒸発燃料濃度の濃度学習が完了していない時は、しきい値が高くなることにより、空燃比フィードバック補正量に基づくパージ減量に優先して濃度学習が実行される。
【0041】
蒸発燃料のパージ運転サブルーチン(ステップS262)を実行した場合、またはパージ運転領域でなかった場合(ステップS261において、NOの場合)、エンジン制御ユニット100は、空燃比のフィードバックサブルーチンを実行する(ステップS263)。この空燃比のフィードバックサブルーチンでは、クランク角センサSW1の出力から演算されるエンジン回転速度NeとエアフローセンサSW2の出力から演算される吸入空気量に基づいて基本燃料噴射量を演算し、その基本燃料噴射量を水温センサSW6の出力から演算されるエンジン水温等に応じた各種補正を加え、それにリニア空燃比センサSW4の出力に基づくフィードバック補正を加えることによってエンジン1の空燃比を目標空燃比に収束させるものである。そして、エンジン制御ユニット100は、ステップS20に戻って上述した処理を繰り返す。
【0042】
なお、ステップS21において、エンジン停止条件が成立していないと判定した場合(ステップS21において、NOの場合)、エンジン制御ユニット100は、直ちにステップS26に移行し、上述したステップS261〜S263を実行して、ステップS20以降のステップを繰り返す。
【0043】
図4は、図3におけるエンジン自動停止準備サブルーチンのフローチャートである。
【0044】
図4を参照して、エンジン自動停止準備サブルーチン(ステップS22)において、エンジン制御ユニット100は、まず蒸発燃料のパージ運転を実行しているか否かを判別する(ステップS220)。そして、パージ運転を実行している場合には、パージバルブ51を閉じて、パージ運転を強制終了する(ステップS211)。次いで、エンジン制御ユニット100は、掃気処理を実行する(ステップS222)。この掃気処理では、パージバルブ51を閉じたままの状態で、エンジン運転を継続し、分岐吸気通路26に残存する蒸発燃料を掃気する(燃焼室14で燃焼させる)。
【0045】
次いで、エンジン制御ユニット100は、掃気処理を終了すべきタイミングを待機する(ステップS232)。この掃気処理の終了タイミングとしては、種々の方法で決定することが可能である。
【0046】
図5および図6は、図1の実施形態に係る運転例を示すタイミングチャートである。
【0047】
各図を参照して、これらの運転例では、あるタイミングt1でブレーキが踏まれ、t2で車速が0になって自動停止条件が成立し、蒸発燃料のパージ運転が強制停止された場合を示している。なお、図中のパージ補正量の仮想線は、通常制御(或いは従来技術)の場合を示している。
【0048】
ここで、図5を参照して、本実施形態においては、通常運転サブルーチン(ステップS26)において、空燃比フィードバック制御が実行されていることから(ステップS263)、蒸発燃料のパージ運転が強制停止されると、パージ補正量が0になるとともに、掃気によってリニア空燃比センサSW4の検出値がリッチになるため、空燃比フィードバック補正定数は、タイミングt2以降、過渡的にリッチ側に値が更新され、所定のタイミングt3でリーン側に戻る特性を示す。そこで、本実施形態においては、図4のステップS223の判定を具体化するに当たり、この空燃比フィードバック補正定数の特性を利用し、蒸発燃料のパージ運転を強制的に停止した後、リッチ側に値が更新された空燃比フィードバック補正定数がリーン側に戻ったときにパージ掃気が終了したと判定するように構成されている。
【0049】
他方、別の実施形態として、図6を採用することも可能である。
【0050】
図6を参照して、この実施形態では、エンジン制御ユニット100のタイマー機能を利用し、蒸発燃料のパージ運転を強制終了した後、所定時間経過後に終了判定をするように設定されている。
【0051】
そして、図4のステップS223において、パージ掃気が終了したと判定された場合には、図3のメインルーチンに復帰し、エンジンの自動停止サブルーチン(ステップS23)が実行されることになる。なお、図4のステップS220において、蒸発燃料のパージ運転を実行していないと判定した場合には、エンジン制御ユニット100は、直ちにステップS23に移行する。
【0052】
図7は、図4におけるエンジン自動停止制御サブルーチンのフローチャートである。
【0053】
図7を参照して、エンジン自動停止制御サブルーチン(ステップS23)において、エンジン制御ユニット100は、各ピストン12のトルク低減処理を実行する(ステップS231)。このトルク低減処理としては、例えば、点火プラグ15の点火時期をリタードさせることにより実現される。或いは、吸気弁18の閉弁時期を遅らせる方法を採用してもよい。こうすることによって、停止時の空燃比を調整し、再始動時の空燃比制御を精緻にすることができるとともに、エンジン本体10の発生トルクを減少させ、トルク変動を抑制させているので、エンジン停止時の回転速度減少特性のばらつきが減少し、ピストン12が適正位置に停止する確率を向上させることができる。
【0054】
更にエンジン制御ユニット100は、スロットルバルブ24を所定開度開弁する(ステップS232)。スロットルバルブ24の開弁は、吸気量を増大させて気筒11内の既燃ガスの掃気を促進するためになされるものである。
【0055】
続いてエンジン制御ユニット100は、エンジン回転速度Neが燃料カット許容回転速度域(650±10rpm)にあるか否かの判定を実行する(ステップS233)。ここでNOであれば、ステップS231、S232を繰り返し、YESとなるまで待機する。エンジン回転速度Neが燃料カット許容回転速度域(650±10rpm)にあると判定した場合(ステップS233でYESの場合)、燃料噴射弁27からの燃料供給と点火プラグ15の作動を停止(燃料カット)する(ステップS234)。このように本実施形態では、燃料カット許容回転速度域を設け、エンジン回転速度Neが燃料カット許容回転速度域内にある時を狙って燃料カットを行うようにしている。例えばアイドル時のエンジン回転速度Neが650±50rpmにフィードバック制御されているとき、燃料カット許容回転速度域は上記のように650±10rpmに設定される。つまり、アイドル時には650±50rpmの範囲でエンジン回転速度Neにふらつきが発生するところ、その中で650±10rpmの範囲に入った瞬間を狙って燃料カットを行うのである。これは、ピストン12を再始動のための好ましい範囲内で停止させるためになされるもので、燃料カット許容回転速度域で燃料カットを行うと、ピストン12が好ましい範囲内で停止する確率が高くなることが確認されている。各気筒11の掃気処理の終了タイミングでのエンジン回転速度Neが、燃料カット許容回転速度域にあれば、各気筒11の掃気処理の終了タイミングに同期して燃料カットがなされる。しかしそうでない場合は、エンジン回転速度Neが燃料カット許容回転速度域に入るタイミングまで燃料カットが保留される。
【0056】
燃料カット実行した後、エンジン制御ユニット100は、エンジン回転速度Neが予め設定された所定回転速度域(本実施形態では500rpm)以下に低下したか否かを判定する(ステップS235)。仮にエンジン回転速度Neが500rpm以下に達した場合、エンジン制御ユニット100は、スロットルバルブ24を閉じる(ステップS236)。上述したステップS231〜S236によるピストン停止位置調整処理により、気筒11内の空気の圧力を利用して各ピストン12の停止位置が好ましい範囲内となる確率を高めるようにしている。またエンジン回転速度Neが、500rpmを超えている場合には、エンジン回転速度Neが低減するまで、ステップS234の燃料カットを実行し、待機する。
【0057】
続いて、次いでエンジン制御ユニット100は、エンジン本体10が完全に停止するのを待機し(ステップS237)、YESであればピストン12の停止位置を記憶(ステップS238)してメインフローに復帰する。
【0058】
図8から図10は、図4におけるエンジン燃焼再始動サブルーチンのフローチャートである。
【0059】
図8を参照して、この燃焼再始動サブルーチン(ステップS25)において、エンジン制御ユニット100は、水温、停止時間、吸気温度等から、各気筒11の筒内温度を推定する(ステップS251)。そして、エンジン制御ユニット100は、検出されたピストン12の停止位置に基づいて停止時に圧縮行程にある気筒11および停止時に膨張行程にある気筒11内の空気量を算出する(ステップS252)。このステップS252により、停止時に圧縮行程にある気筒11および停止時に膨張行程にある気筒11の燃焼室容積が求められる。また、エンジン本体10の自動停止の際には、ステップS24の制御により、燃料カット後にエンジンが数回転してから停止するので、停止時に膨張行程にある気筒11も新気で満たされた状態にあり、且つ、エンジン停止中に停止時に圧縮行程にある気筒11および停止時に膨張行程にある気筒11の内部は略大気圧となっているので、上記燃焼室容積から新気量が求められることとなる。
【0060】
次に、エンジン制御ユニット100は、ピストン停止位置が、停止時に圧縮行程にある気筒11における所定の燃焼停止範囲(圧縮上死点前60〜80°クランク角度)のうち、比較的下死点側であるか否かを判定する(ステップS253)。
【0061】
ステップS253でYESと判定した場合、エンジン制御ユニット100は、ステップS254に移行して、上記ステップS252で算出された停止時に圧縮行程にある気筒11の空気量に対してλ(空気過剰率)>1なる空燃比(例えば空燃比=20程度)となるように燃料を噴射させる(1回目の燃料噴射)。この空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒1回目用空燃比マップM1から求められる。λ>1というリーン空燃比とすることにより、停止時に圧縮行程にある気筒11内の空気量が比較的多いときであっても、逆転方向のための燃焼エネルギーが過多となることなく、逆転し過ぎることを防止している。
【0062】
一方、ステップS253でNOと判定した場合、エンジン制御ユニット100は、ステップS255に移行して、ステップS252で算出された停止時に圧縮行程にある気筒11の空気量に対してλ≦1なる空燃比となるように燃料を噴射させる(1回目の燃料噴射)。この空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒1回目用空燃比マップM2から求められる。λ≦1という理論空燃比ないしはそれよりリッチ空燃比とすることにより、停止時に圧縮行程にある気筒11内の空気量が比較的少ないときであっても、逆転方向のための燃焼エネルギーを充分得ることができる。
【0063】
本実施形態においては、エンジン本体10を自動停止させる際に、ステップS22で各気筒11の掃気処理を実行し、その後、ステップS23においてピストン停止位置調整処理(ステップS231〜S236)を実行しているので、ステップS254またはS255での演算は、極めて精緻なものとなる。
【0064】
次に、エンジン制御ユニット100はステップS256に移行し、停止時に圧縮行程にある気筒11への1回目燃料噴射から気化時間を考慮して設定した時間の経過後に、当該気筒に対して点火を行う。そして、点火してから所定時間内にクランク角センサSW1のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、エンジン制御ユニット100はピストン12が動いたか否かを判定する(ステップS257)。
【0065】
このステップS257において、YESと判定されてピストン12が動いたことが確認すると、エンジン制御ユニット100は、次のステップに進む。
【0066】
他方、ステップS257において、NOと判定されて失火によりピストン12が動かなかったことを確認した場合には、エンジン制御ユニット100は、停止時に圧縮行程にある気筒11に対して再点火を実行し(ステップS258)、ステップS257の判定を繰り返す。
【0067】
図9を参照して、ステップS257において、YESと判定されてピストン12が動いたことを確認すると、エンジン制御ユニット100は、ピストン停止位置およびステップS251で推定した筒内温度に基づいて、停止時に膨張行程にある気筒11に対する分割燃料噴射の分割比(前段噴射(1回目)と後段噴射(2回目)との比率)を算出する(ステップS2512)。停止時に膨張行程にある気筒11におけるピストン停止位置が下死点寄りであるほど、また筒内温度が高いほど、後段の噴射比率を大きくする。
【0068】
次に、エンジン制御ユニット100は、ステップS252で算出した停止時に膨張行程にある気筒11の空気量に対して所定の空燃比(λ≦1)となるように燃料噴射量を算出する(ステップS2513)。この際の空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒用空燃比マップM3から求められる。本実施形態においては、エンジン本体10を自動停止させる際に、ステップS22で各気筒11の掃気処理を実行し、その後、ステップS23においてピストン停止位置調整処理(ステップS231〜S236)を実行しているので、このステップS2513での演算は、極めて精緻なものとなる。
【0069】
次に、エンジン制御ユニット100は、ステップS2512で算出された分割比とステップS2513で算出された停止時に膨張行程にある気筒11への燃料噴射量とによって、停止時に膨張行程にある気筒11に対する前段(1回目)の燃料噴射量を算出し、噴射する(ステップS2514)。
【0070】
次に、エンジン制御ユニット100は、ステップS251で推定された筒内温度に基づき、停止時に膨張行程にある気筒11に対する後段(2回目)の燃料噴射タイミングを算出する(ステップS2515)。この2回目の噴射タイミングは、ピストン12が上死点側への移動(エンジンの逆転方向)を開始した後の、筒内空気が圧縮されている時期であるとともに、噴射燃料の気化潜熱が圧縮圧力を効果的に減少させる(ピストン12を可及的に上死点へ近づける)ように、且つこの2回目の噴射燃料が点火時期までに気化する時間が可及的に長くなるように設定される。
【0071】
次に、エンジン制御ユニット100は、ステップS2515で算出された2回目の噴射タイミングの燃料噴射量を算出し、燃料噴射弁27に算出した量の燃料を噴射させる(ステップS2516)。この停止時に膨張行程にある気筒11への2回目の燃料噴射後、エンジン制御ユニット100は、所定のディレー時間経過後に点火プラグ15を駆動する(ステップS2517、S2518)。所定のディレー時間はピストンの停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒点火ディレーマップM4から求められる。この点火による停止時に膨張行程にある気筒11での初回燃焼により、エンジンは逆転方向から正転方向に転ずる。従って停止時に圧縮行程にある気筒11のピストン12は上死点側に移動し、内部のガス(ステップS256の点火によって燃焼した既燃ガス)を圧縮し始める。
【0072】
ステップS2518による停止時に膨張行程にある気筒11での点火後、エンジン制御ユニット100は、再度、点火してから所定時間内にクランク角センサSW1のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、ピストン12が動いたか否かを判定する(ステップS2519)。このステップS2518において、YESと判定されてピストン12が動いたことを確認すると、エンジン制御ユニット100は、次のステップに移行する。
【0073】
他方、ステップS2519において、NOと判定されて失火によりピストン12が動かなかったことを確認した場合には、エンジン制御ユニット100は、停止時に圧縮行程にある気筒11に対して再点火を実行し(ステップS2522)、ステップS2519の判定を繰り返す。
【0074】
次に、図10を参照して、ステップS2519において、YESと判定されてピストン12が動いたことが確認されると、エンジン制御ユニット100は、停止時に圧縮行程にある気筒11に対し、燃料気化時間を考慮に入れた量の2回目の燃料を燃料噴射弁27に噴射させる(ステップS2521)。この際の燃料噴射量は、1回目の噴射量と合計した量に基づく全体の空燃比が可燃空燃比(下限は7〜8)よりもさらにリッチ(例えば6程度)になるように、ピストンの停止位置に応じて予め設定された停止時に圧縮行程にある気筒11への2回目用空燃比マップM5から求められる。この停止時に圧縮行程にある気筒11への2回目の噴射燃料の気化潜熱によって、停止時に圧縮行程にある気筒11の1回目の圧縮上死点付近の圧縮圧力が低減するので、当該1回目の圧縮上死点を容易に越えることができる。
【0075】
なお、この停止時に圧縮行程にある気筒11への2回目の燃料噴射は、専ら筒内の圧縮圧力を低減させるためになされるものであって、これに対する点火、燃焼は行われない(可燃空燃比よりもリッチなので自着火も起こらない)。この不燃燃料は、その後、排気通路32の三元触媒33において吸蔵されている酸素と反応し、無害化される。
【0076】
停止時に圧縮行程にある気筒11での2回目の噴射燃料は燃焼しないので、停止時に膨張行程にある気筒11での最初の燃焼に続く次の燃焼は、停止時に吸気行程にある気筒11での燃焼である。停止時に吸気行程にある気筒11のピストン12が2回目の圧縮上死点を越えるためのエネルギーとして、停止時に膨張行程にある気筒11における初回燃焼のエネルギーの一部が充てられる。つまり停止時に膨張行程にある気筒11における初回燃焼のエネルギーは、停止時に圧縮行程にある気筒11が1回目の圧縮上死点を乗り超えるためと、その後、停止時に吸気行程にある気筒11が2回目の圧縮上死点を越えるためとの両方に供される。
【0077】
従って、円滑な始動のためには停止時に吸気行程にある気筒11が2回目の圧縮上死点を越える際の負荷が小さいことが望ましい。その場合には、小さなエネルギーで2回目の圧縮上死点を超えることができる。以下のフローは、次の停止時に吸気行程にある気筒11での燃焼を行うにあたり、可及的に小さなエネルギーで2回目の圧縮上死点を越えるための制御である。
【0078】
まず、エンジン制御ユニット100は筒内空気密度を推定し、その推定値から停止時に吸気行程にある気筒11の空気量を算定する(ステップS2522)。次にエンジン制御ユニット100は、ステップS251で推定した筒内温度に基づいて、自着火防止のための空燃比補正値を算出する(ステップS2523)。すなわち自着火が起こると、その燃焼によって2回目の圧縮上死点に至る前にピストン12を下死点側に押し戻す力(逆トルク)が発生する。これはその分2回目の圧縮上死点を越えるためのエネルギーを多く消費するので望ましくない。そこでこの逆トルクを抑制するために空燃比をリーン寄りのリッチに補正し、自着火が起こらないようにするのである。
【0079】
次に、エンジン制御ユニット100は、ステップS2522で算定した停止時に吸気行程にある気筒11の空気量と、ステップS2523で算出した空燃比補正値を考慮した空燃比とから、停止時に吸気行程にある気筒11への燃料噴射量を算出する(ステップS2524)。
【0080】
本実施形態においては、エンジン本体10を自動停止させる際に、ステップS22で各気筒11の掃気処理を実行し、その後、ステップS23においてピストン停止位置調整処理(ステップS231〜S236)を実行しているので、これらステップS2522〜S2524での演算は、極めて精緻なものとなる。
【0081】
そして停止時に吸気行程にある気筒11に対する燃料噴射が実行される。この燃料噴射は、その気化潜熱によって圧縮圧力が低減するように(つまり2回目の圧縮上死点を越えるための必要エネルギーを低減するように)、圧縮行程の後期まで遅延してなされる(ステップS2525)。その遅延量は、エンジンの自動停止期間、吸気温度、エンジン水温等に基いて算出される。
【0082】
他方、エンジン制御ユニット100は、ステップS2519において、クランク角センサSW1のエッジを検出したタイミングを起点として検査タイミングを算出し(ステップS2526)、このタイミングに至るのを待機する(ステップS2527)。
【0083】
次いで、算出された検査タイミングにおけるエンジン回転速度(検査時エンジン回転速度)Neが必要エンジン回転速度(例えば200rpm)を下回っていないかどうか判定する(ステップS2528)。この判定で、検査時エンジン回転速度Neが必要エンジン回転速度以上である場合(ステップS2528でYESの場合)、エンジン制御ユニット100は、2回目の圧縮上死点を超えると判断し、蒸発燃料のパージ実行を許可し(ステップS2529)、メインルーチンに復帰する。
【0084】
他方、ステップS2530の判定で、必要エンジン回転速度Neに満たないと判定した場合には、スタータモータ併用駆動制御を実行する(ステップS25210)。
【0085】
なお、スタータモータ併用駆動制御自身は、公知の技術を利用できるので、詳細な説明は省略する。
【0086】
以上説明したように、本実施形態においては、エンジン本体10の自動停止前にパージ制御弁としてのパージバルブ51が閉じて、蒸発燃料のパージが停止されるので、自動停止制御の過程で未燃燃料が排出されるおそれがなくなる。
【0087】
また、本実施形態では、パージバルブ51を強制的に閉じた後、各気筒11の掃気処理を実行している(図4参照)。このため本実施形態では、パージ運転によって残留している蒸発燃料を掃気した後、自動停止制御を実行することができるので、より正確な自動停止制御を実行することが可能になる。
【0088】
また、本実施形態では、所定の掃気終了条件が成立した場合に、前記掃気処理を終了し、エンジン本体10の自動停止制御を開始するものである(図5、図6参照)。このため本実施形態では、蒸発燃料の掃気後に速やかにエンジン本体10の自動停止を実行するので、蒸発燃料と供給燃料の双方の消費量改善を図ることができる。
【0089】
また、本実施形態では、図4および図5で示したように、排気ガスの酸素濃度に関する検出値をエンジン制御ユニット100に出力するリニア空燃比センサSW4を設け、このリニア空燃比センサSW4の検出値に基づいてエンジン1の目標空燃比をフィードバック制御するとともに、パージバルブ51を強制的に閉じた後、空燃比フィードバック補正定数の変化に基づいて前記掃気処理を終了するものである。このため本実施形態では、実際の掃気状態を把握することができ、掃気完了時期を適切に把握することができる。
【0090】
また、本実施形態では、再始動条件が成立した時に燃焼によってエンジン本体10の再始動を実行するものであるところ、再始動時の空燃比を調整するための処理を実行する前にパージバルブ51を強制的に閉じ、各気筒11の掃気処理を実行するので、再始動時の空燃比が蒸発燃料によってずれるのを確実に防止することが可能になり、燃料の燃焼による停止時のエンジンを確実に始動させることができる。
【0091】
また本実施形態では、掃気処理の後、エンジン本体10の自動停止過程において、燃焼再始動に適した位置にピストン12を停止させるピストン停止位置調整処理(ステップS231〜S236)を実行するものである。このようにピストン位置の調整処理が実行される前に蒸発燃料の掃気が実行されるので、本実施形態では、パージ経路中に残留している蒸発燃料によってピストン12の位置調整が妨げられるおそれがなくなり、燃焼再始動に好適なピストン位置でエンジン本体10を停止させる確率を高めることが可能になる。
【0092】
従って本実施形態によれば、自動停止制御の過程で未燃燃料が排出されるおそれがなくなるので、自動停止/再始動の作動を妨げることなく、蒸発燃料をエンジンに供給することができるという顕著な効果を奏する。
【0093】
上述した実施形態は、本発明の好ましい具体例を示したものに過ぎず、本発明は上述した実施形態に限定されない。
【0094】
例えば、パージ運転の有無に拘わらず、エンジン本体10の自動停止に先立って掃気処理を実行してもよい。その場合には、掃気処理の終了を図6で示したタイマーによって実行すればよい。
【0095】
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施の一形態に係るエンジンの系統図である。
【図2】図1の実施形態に係る要求トルクとエンジン回転速度との関係を示す特性図である。
【図3】図1の実施形態に係る運転制御の一例を示すフローチャートである。
【図4】図3におけるエンジン自動停止準備サブルーチンのフローチャートである。
【図5】図1の実施形態に係る運転例を示すタイミングチャートである。
【図6】図1の実施形態に適用可能な別の実施形態に係る運転例を示すタイミングチャートである。
【図7】図4におけるエンジン自動停止制御サブルーチンのフローチャートである。
【図8】図4におけるエンジン燃焼再始動サブルーチンのフローチャートである。
【図9】図4におけるエンジン燃焼再始動サブルーチンのフローチャートである。
【図10】図4におけるエンジン燃焼再始動サブルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0097】
1 エンジン
10 エンジン本体
20 吸気システム
27 燃料噴射弁
30 排気システム
40 燃料供給システム
41 燃料タンク
48 蒸発燃料通路
49 キャニスタ
50 パージ通路
51 パージバルブ(パージ制御弁の一例)
100 エンジン制御ユニット
SW4 リニア空燃比センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のエンジン停止条件が成立した場合にエンジンを自動停止させ、停止後所定のエンジン再始動条件が成立した場合に前記エンジンを再始動させる自動停止/再始動装置と、
所定のパージ条件が成立した場合に燃料タンクから発生する蒸発燃料をパージ制御弁の開閉動作に基づいて前記エンジンにパージする蒸発燃料パージ装置と、
前記自動停止/再始動装置並びに前記蒸発燃料パージ装置の動作を制御する制御手段と
を備えたエンジンの制御装置において、
前記制御手段は、前記パージ条件が成立している時に前記エンジン停止条件が成立した場合には、前記パージ制御弁を強制的に閉じるものである
ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンの制御装置において、
前記制御手段は、前記パージ条件が成立している時に前記エンジン停止条件が成立した場合に、前記パージ制御弁を強制的に閉じた後、各気筒の掃気処理を実行するものである
ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項2記載のエンジンの制御装置において、
前記制御手段は、所定の掃気終了条件が成立した場合に、前記掃気処理を終了し、エンジンの自動停止制御を開始するものである
ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項2または3記載のエンジンの制御装置において、
排気ガスの酸素濃度に関する検出値を前記制御手段に出力する空燃比センサを設け、
前記制御手段は、前記酸素濃度検出センサの検出値並びに空燃比フィードバック補正定数の特性に基づいてエンジンの目標空燃比をフィードバック制御するとともに、前記パージ制御弁を強制的に閉じた後の前記空燃比フィードバック補正定数の変化に基づいて前記掃気処理を終了するものである
ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項2から4の何れか1項に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御手段は、前記再始動条件が成立した時に燃焼によってエンジン本体の再始動を実行するものである
ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項6】
請求項5記載のエンジンの制御装置において、
前記制御手段は、当該掃気処理の後、ピストンエンジン本体の自動停止過程において、燃焼再始動に適した位置にピストンを停止させるピストン停止位置調整処理を実行するものである
ことを特徴とするエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−45527(P2008−45527A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224303(P2006−224303)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】