ディーゼルエンジンの燃焼制御装置
【課題】移行期間で吸気酸素濃度が減少するほど増加してピークをとり、その後に減少する燃焼騒音特性であっても燃焼騒音を効率良く低減し得る装置を提供する。
【解決手段】予混合燃焼とは異なる燃焼である第2の燃焼形態を行わせる第2の運転領域から、予混合燃焼を主体とした燃焼である第1の燃焼形態を行わせる第1の運転領域に切換わった場合に、吸気酸素濃度が減少して第2所定値と第1所定値との間にある第3所定値に到達するまでは増量されるようにかつその後には吸気酸素濃度が減少するほど減量されるように、パイロット噴射の燃料噴射量を設定するパイロット噴射量設定手段(S21〜S28)と、この設定されたパイロット噴射量を用いて主噴射に先立つパイロット噴射を行うパイロット噴射実行手段とを備える。
【解決手段】予混合燃焼とは異なる燃焼である第2の燃焼形態を行わせる第2の運転領域から、予混合燃焼を主体とした燃焼である第1の燃焼形態を行わせる第1の運転領域に切換わった場合に、吸気酸素濃度が減少して第2所定値と第1所定値との間にある第3所定値に到達するまでは増量されるようにかつその後には吸気酸素濃度が減少するほど減量されるように、パイロット噴射の燃料噴射量を設定するパイロット噴射量設定手段(S21〜S28)と、この設定されたパイロット噴射量を用いて主噴射に先立つパイロット噴射を行うパイロット噴射実行手段とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はディーゼルエンジンの燃焼制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
予混合燃焼への移行時に、燃焼騒音の悪化を防止するためパイロット噴射を行うものがある(特許文献1参照)。
【0003】
これについて説明すると、このものでは予混合燃焼領域と拡散燃焼領域とを予め定めておき、運転条件が拡散燃焼領域から予混合燃焼領域へと切換わったとき、予混合燃焼を行わせている。この場合、拡散燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度と、予混合燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度との間には隔たりがあり、運転領域が切換わったからといって、実際の吸気酸素濃度はステップ的に変化しえず、拡散燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度から予混合燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度へと連続的に変化していく。つまり、拡散燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度から予混合燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度に到達するまでの移行期間で、予混合燃焼を行わせると、吸気酸素濃度が高い分、予混合気が急速に燃焼し燃焼騒音が大きくなる。そこで、上記の移行期間でパイロット噴射を行うことで、燃焼騒音の悪化を防止している。具体的には、上記の移行期間で吸気酸素濃度が減少するほどパイロット噴射量を減少させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−211768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、スモークとNOxの同時低減を図るために様々なタイプの予混合燃焼が開発されており、運転条件が拡散燃焼領域から予混合燃焼領域に切換わった場合に、吸気酸素濃度が拡散燃焼に最適な吸気酸素濃度から減少して予混合燃焼に最適な吸気酸素濃度に落ち着くまでの期間を移行期間として、この移行期間での吸気酸素濃度に対する燃焼騒音の特性を本発明者が調べたところ、吸気酸素濃度が減少するほど増加してピークをとり、その後に減少する燃焼騒音特性のものがあることを見出した。上記特許文献1の技術ではこのように吸気酸素濃度が減少するほど増加してピークをとり、その後に減少する燃焼騒音特性に対しては燃焼騒音を効率良く低減できない。これは、上記特許文献1の技術では、吸気酸素濃度が減少するほど燃焼騒音が小さくなるとみなし、こうした燃焼騒音特性に対応して吸気酸素濃度が減少するほどパイロット噴射量を減少させているためである。
【0006】
そこで本発明は、移行期間で吸気酸素濃度が減少するほど増加してピークをとり、その後に減少する燃焼騒音特性であっても燃焼騒音を効率良く低減し得る装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0008】
本発明は、吸気酸素濃度を検出または推定する吸気酸素濃度検出・推定手段と、吸気酸素濃度を調整し得る吸気酸素濃度調整装置(5)とを備え、第1の運転領域で吸気酸素濃度調整装置(5)を用いて吸気酸素濃度を相対的に小さい第1所定値とした状態で予混合燃焼を主体とした燃焼である第1の燃焼形態を行わせ、第1の運転領域に隣接する第2の運転領域で吸気酸素濃度調整装置(5)を用いて吸気酸素濃度を第1所定値よりも大きい第2所定値とした状態で予混合燃焼とは異なる燃焼である第2の焼形態を行わせ、第2の運転領域から第1の運転領域に切換わった場合に、検出または推定される吸気酸素濃度が減少して第2所定値と第1所定値との間にある第3所定値に到達するまでは増量されるようにかつその後には吸気酸素濃度が減少するほど減量されるように、パイロット噴射の燃料噴射量を設定し、この設定されたパイロット噴射量を用いて主噴射に先立つパイロット噴射を行うように構成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吸気酸素濃度を検出または推定する吸気酸素濃度検出・推定手段と、吸気酸素濃度を調整し得る吸気酸素濃度調整装置とを備え、第1の運転領域で吸気酸素濃度調整装置を用いて吸気酸素濃度を相対的に小さい第1所定値とした状態で予混合燃焼を主体とした燃焼である第1の燃焼形態を行わせ、第1の運転領域に隣接する第2の運転領域で吸気酸素濃度調整装置を用いて吸気酸素濃度を第1所定値よりも大きい第2所定値とした状態で予混合燃焼とは異なる燃焼である第2の燃焼形態を行わせ、第2の運転領域から第1の運転領域に切換わった場合に、検出または推定される吸気酸素濃度が減少して第2所定値と第1所定値との間にある第3所定値に到達するまでは増量されるようにかつその後には吸気酸素濃度が減少するほど減量されるように、パイロット噴射の燃料噴射量を設定し、この設定されたパイロット噴射量を用いて主噴射に先立つパイロット噴射を行うので、吸気酸素濃度が第2所定値から減少して第1所定値に到達するまでの移行期間で吸気酸素濃度が減少するほど増加してピークをとり、その後に減少する燃焼騒音特性であっても燃焼騒音を効率良く低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態のディーゼルエンジンの燃焼制御装置の概略構成図である。
【図2】新しい予混合燃焼によるクランク角度に対する熱発生率の変化を示す特性図である。
【図3】圧縮上死点の直前で主噴射を行ったときの燃焼室内の様子を示す断面図である。
【図4】エンジン回転数とエンジン負荷に対する運転領域図である。
【図5】燃焼制御を説明するためのフローチャートである。
【図6】クランク角度に対する燃焼室内圧力2回微分値の変化を示す特性図である。
【図7】他の例の先行噴射の燃料量の特性図である。
【図8】他の例の先行噴射の噴射開始時期の特性図である。
【図9】C領域からB領域への移行期間でのパイロット噴射量、EGR率、吸気酸素濃度の変化を示すタイミングチャートである。
【図10】移行期間での吸気酸素濃度に対する燃焼騒音、予混合比率の特性図である。
【図11】移行フラグの設定を説明するためのフローチャートである。
【図12】移行期間のパイロット噴射量の設定を説明するためのフローチャートである。
【図13】C領域からB領域への切換時の実際の燃焼形態の切換を説明するためのフローチャートである。
【図14】EGRガス流量の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の一実施形態のディーゼルエンジンの燃焼制御装置の概略構成である。図1において、ディーゼルエンジン(以下、単に「エンジン」と記述する。)1の排気通路40に、排気浄化のため、排気中の粒子状物質であるパティキュレートマター(Particulate Matter)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ16を備える。このディーゼルパティキュレートフィルタ16には、排気空燃比がリーンのときに排気中のNOxをトラップし、トラップしたNOxを排気空燃比がリッチのときに脱離浄化することのできるNOxトラップ触媒および酸化触媒(貴金属)を担持させて、流入する排気成分(NOx、HC、CO)を除去する機能を持たせてもよい。
【0012】
EGR装置(排気還流装置)として、EGR通路4とEGR弁5とを備える。すなわち、排気通路40のうち上流側の排気出口通路40aと吸気通路20の吸気コレクタ20bとを連通するEGR通路4が設けられ、EGR通路4の吸気コレクタ20b接続部にステッピングモータによりその開度が連続的に制御可能なEGR弁5が介装されている。
【0013】
EGR通路4の途中には、EGR通路4を流れる排気を冷却するEGRクーラー17を備える。EGRクーラー17には水量調整手段(電動ファン等の水温調整手段でもよい)44を設けてある。水量調整手段としては、比例ソレノイド型の電磁弁や、ステップモータ等で駆動される制御弁を用いることができる。水量(または水温)を調整することでクーラー17の冷却効率を変化させてEGRガス温度を調整し、エンジン1に流入する作動ガス温度を制御する。この作動ガス温度は、吸気コレクタ20b内に臨んでいる温度センサ41によって検出される。吸気コレクタ20bに導入されるEGRガスの温度はEGRガス温度センサ42により検出される。
【0014】
吸気通路20の上流にエアクリーナ20aを備え、このエアクリーナ20aと吸気コレクタ20bとの間にアクチュエータ(例えばステッピングモータ式)によって開閉駆動される吸気絞り弁6を備える。エアクリーナ20aの下流には、吸入空気量Qairを検出するエアフローメータ7、吸気温度Tairを検出する吸気温度センサ8、吸気圧力Pairを検出する吸気圧力センサ9が配置されている。
【0015】
エンジン1にはコモンレール式の燃料噴射装置10を備える。コモンレール式燃料噴射装置10は、サプライポンプ11と、コモンレール(蓄圧室)14と、気筒毎に設けられる燃料噴射弁15とから大略構成され、サプライポンプ11により加圧された燃料が燃料供給通路12を介してコモンレール14にいったん蓄えられたあと、コモンレール14内の高圧燃料が各気筒の燃料噴射弁15に分配される。
【0016】
上記のコモンレール14には、コモンレール14内の燃料圧力および燃料温度を検出するために、圧力センサ34および温度センサ35が設けられている。また、コモンレール14内の燃料圧力を制御するために、サプライポンプ11からの吐出燃料の一部が圧力制御弁13を介して図示しないオーバーフロー通路から燃料供給通路に戻されるようになっており、この圧力制御弁13がエンジンコントロールユニット30からのデューティ信号に応じてオーバーフロー通路の流路面積を変化させ得るようになっている。これにより、サプライポンプ11からコモンレール14への実質的な燃料吐出量が調整され、コモンレール14内の燃料圧力が制御される。
【0017】
燃焼室に臨んで設けられる燃料噴射弁15は、エンジンコントロールユニット30からのON−OFF信号によって開閉される電子式の噴射弁である。ON信号によって燃料を燃焼室に噴射し、OFF信号によって燃料の噴射を停止する。そして、燃料噴射弁15に指令されるON信号の期間が長いほど燃料噴射量が多くなり、またコモンレール14の燃料圧力が高いほど燃料噴射量が多くなる。コモンレール式燃料噴射装置10によれば、主噴射に先立つ先行噴射やパイロット噴射を容易に行わせることができる。
【0018】
エンジン1の各気筒には筒内圧力を検出する圧力センサ2が設けられている。この圧力センサとして燃焼室内に臨むタイプのものや、座金形状のノッキングセンサタイプのものを用いることができる。エンジン1の適宜位置にエンジンの温度を代表するものとして、冷却水温度を検出する水温センサ31が取り付けられている。
【0019】
エンジンコントロールユニット30には、圧力センサ2の信号(CP)、水温センサ31の信号(冷却水温Tw)、クランク角度センサ32の信号(エンジン回転数Neの基礎となるクランク角度信号)、クランク角度センサ33の信号(気筒判別信号Cy1)、コモンレール14の燃料圧力を検出する圧力センサ34の信号(コモンレール圧力Pcr)、燃料温度センサ35の信号(燃料温度Tf)、負荷に相当するアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ50の信号(アクセル開度(負荷)Acc)、エアフローメータ7の信号(吸入空気量Qair)、吸気温度センサ8の信号(吸気温度Tair)、吸気圧力センサ9の信号(吸気圧力Pair)、作動ガス温度センサ41の信号(Tgas)がそれぞれ入力される。
【0020】
また、排気通路40のディーゼルパティキュレートフィルタ16の出口部(入口部でも良い)に排気酸素濃度(O2exh)を検出する酸素濃度(空燃比)センサ43が設けられ、この信号もエンジンコントロールユニット30に入力されている。排気酸素濃度センサ43としては、例えば酸素イオン伝導性固体電解質を用いて、排気酸素濃度を検出するものを用いることができる。
【0021】
エンジンコントロールユニット30では、これらの入力信号に基づいて、燃料噴射の噴射量及び噴射時期制御のための圧力制御弁13へのオーバーフロー通路の開度指令信号や燃料噴射弁15への燃料噴射指令信号、吸気絞り弁6への開度指令信号、EGR弁5への開度指令信号、水量調整手段45への水量調整信号等を出力する。
【0022】
さて、本発明の前提となる予混合燃焼を主体とした燃焼(以下「予混合燃焼」という。)(第1の燃焼形態)について先に説明する。この予混合燃焼は、NOxを低下させるには吸気酸素濃度は低い方が燃焼温度が下がるから良いが、着火の安定性が低下して、着火不良による未燃HCが増えたり、着火が早過ぎて燃焼が拡散的になってスモークが増えたりする、という課題を解決するために新たに考案されたものである。この新しい予混合燃焼形態は、主噴射に先立つ先行噴射を行って着火前の燃焼室内に、ストイキ(理論空燃比)よりリーンの混合気(以下単に「リーン混合気」という。)とストイキよりリッチの混合気(以下単に「リッチ混合気」という。)を偏在させ、リーン混合気とリッチ混合気とが偏在する状況下において燃焼を開始させる点に特徴を有する。
【0023】
ここで従来装置の予混合燃焼について簡単に述べると、スモーク低減のために圧縮工程中の早期に燃料噴射を実行して、均一な予混合気を形成し圧縮上死点近傍で着火燃焼させるという均一予混合燃焼、いわゆるHCCIが提案されている。この燃焼方法ではシリンダ内が低圧で燃料噴霧のペネトレーションが相対的に強く、かつピストンが下降している時期に、ピストンキャビティの外に燃料噴射が行われるため、シリンダ内壁に燃料噴霧が直接衝突し付着してしまう。このため、燃料による潤滑油の希釈、未燃燃料(HC)や不完全燃焼に伴うCO排出増加などの問題が生じる。また、予混合気の着火燃焼時期が不安定となり、着火の際には急激な燃焼となるため、燃焼騒音が増大するという問題がある。
【0024】
また、少量の燃料を主噴射前の上死点近傍でパイロット噴射させて上死点後に予混合燃焼させ、パイロット噴射燃料の燃焼後の膨張行程で、本来圧力、温度が低下して主噴射だけでは燃焼が安定せず、失火するような時期に主噴射燃料を噴射する燃焼方法も提案されている(特許第3613666号公報参照)。この燃焼方法では、パイロット燃料の燃焼後の圧縮上死点後に主噴射を実行するため、パイロット燃料の燃焼によって燃焼室内の温度は上昇するものの、吸気酸素濃度が低下して着火性も相殺されやすい。また本来圧力、温度が低下して主噴射だけでは燃焼が安定せず、失火するような時期に主噴射燃料を噴射するため、噴射時期や燃焼室内温度変動に対する主噴射の着火感度が大きく、噴射時期が変動して遅角したり、吸気温度が低下したりすると簡単に失火して燃焼制御が困難になるという問題がある。
【0025】
一方、燃焼効率を高め、かつ予混合燃焼速度を適正化して急激燃焼による振動騒音の増加を防ぐために、燃料噴射を圧縮工程の早期に1回もしくは複数回実行される早期噴射と、早期噴射終了後の圧縮上死点付近での主噴射とに分割して燃料噴射を実行し、早期噴射による熱発生が終了した後に主噴射による熱発生を生じさせるという燃焼方法が提案されている(特開2004−218612号、特開2003−286879号、特開2004−176593号公報参照)。
【0026】
しかしながら、早期噴射を行う場合には、噴射された燃料が直ぐに着火しないように、シリンダ内が低圧で温度が低い状態で早期噴射が行われるが、早期噴射された燃料と主噴射された燃料の燃焼室内における当量比(混合気濃度)分布を適正にして、かつそれぞれの噴射燃料の着火時期または着火領域を適正にしないかぎり、熱効率を高く維持しつつ燃焼速度を適正化して急激燃焼による振動騒音の増加を防ぐことができないことが分かった。
【0027】
早期噴射された燃料は主噴射に先立って予混合燃焼しやすいが、熱効率を高くするためには、早期噴射と主噴射による熱発生は圧縮上死点から開始させるのが望ましい。早期噴射による燃焼が圧縮上死点前に早期に発現する場合(比較的吸入ガスの酸素濃度が高いか、またはガス温度が高い場合)、早期噴射燃料の燃焼による燃焼室内温度の上昇によって、あるいは早期噴射燃料の燃焼火炎中に主噴射燃料が突入されることによって、主噴射燃料の着火燃焼が促進される。このため、熱効率が低下するだけでなく主噴射燃料の拡散燃焼度が高くなりスモークが増加する。
【0028】
この逆に、早期噴射と主噴射による燃焼が圧縮上死点後に発現する場合に、比較的吸入ガスの温度や酸素濃度が低い場合には、主噴射終了から主噴射燃料の燃焼開始までの予混合期間が長期化して主噴射燃料のリーン化も進み、着火の際には当量比分布がほとんど消失してしまい予混合比率の高い急峻な燃焼となるため燃焼騒音がほとんど低下できないという問題がある。あるいは過渡にリーン化が進んだ場合には主噴射された燃料の着火燃焼時期が不安定となり、このため失火による未燃燃料(HC)の排出や、不完全燃焼に伴うCO悪化などの問題が生じることが分かった。
【0029】
従って、着火時期における熱効率を高く維持しつつ燃焼速度を適正化して急激燃焼による振動騒音の増加を防ぎ、またHCやCO等の未燃成分やスモークの発生を減少させるためには、早期噴射燃料と主噴射燃料の予混合期間または着火時期を制御して、早期噴射燃料を主噴射前に燃焼させないこと、また、主噴射終了から主噴射燃料の燃焼開始までの予混合期間が長期化して主噴射燃料のリーン化が進み過ぎないようにすることが必要、つまり、着火時期における燃焼室内の当量比(混合気濃度)分布を適正化する必要がある。
【0030】
そこで本発明者が、主噴射に先立つ燃料噴射を従来装置では考えられない範囲にまで進角させて実験を行い、また主噴射の噴射時期を圧縮上死点TDCを中心にして進角側や遅角側にばらつかせ、熱発生率(HRR)と燃焼質量割合(Mass Burnt)とを用いた燃焼解析を行った結果、満足のいく新たな予混合燃焼を見出すに至ったのである。
【0031】
なお、上記の「早期噴射」では考えられない進角側の時期で行わせる燃料噴射を「先行噴射」として定義する。すなわち、「先行噴射」と上記の「早期噴射」とは、主噴射に先立つ燃料噴射である点で同じであるが、噴射時期が「早期噴射」では考えられない進角側の時期である点で相違し、かつ後述するように、主噴射量に対する先行噴射量の割合が、主噴射量に対する早期噴射量の割合よりも数倍大きい点でも、「早期噴射」と相違する。
【0032】
この新たな予混合燃焼を図2を参照して説明する。主噴射に先立つ先行噴射(図では「1st Inj.」と表記)では、予備燃焼の混合気を形成するだけでなく、主噴射の燃焼の際の燃焼騒音低減に寄与するリーン混合気をも形成するため、従来装置での予備燃焼目的の早期噴射の噴射量(例えば10%程度)よりも多い燃料(例えば20〜40%)を噴射する。
【0033】
先行噴射燃料による圧縮上死点TDC付近の混合気の多くが燃え易い当量比にならないようにする、つまり予備燃焼を生じる一部の混合気だけを燃え易い当量比とするため、従来装置での予備燃焼目的の早期噴射の噴射時期(例えばBTDC30°より遅い時期)よりもかなり早い時期(例えばBTDC30°以前)に先行噴射を行う。
【0034】
一方、あまりに早い時期に先行噴射を行うと、圧縮上死点TDC付近で先行噴射により形成される混合気が燃焼室内の全体に拡散し過ぎて(希薄化し過ぎて)燃焼が起こらなくなったり、先行噴射の噴射時期から圧縮上死点TDCになるまでの時間が長く、先行噴射時の燃焼室内圧力が低いことから燃料噴霧のペネトレーションが強くなって、燃料噴霧がボア壁に付着したりして、未燃HCが多くなるので、早い時期にするにしても限界がある。従って、この限界から先行噴射の噴射時期は圧縮上死点前(BTDC)60°以後を考えている。従って、図2に示したように、先行噴射の噴射時期を圧縮上死点前(BTDC)60°以後かつ圧縮上死点前(BTDC)30°以前に設定する。
【0035】
このように、先行噴射量は、従来装置での予備燃焼目的の早期噴射量より数倍多いのであるが、この大量の先行噴射燃料を、主噴射(図では「Main Inj.」と表記)を噴き終えるほどの遅い時期(圧縮上死点TDCを過ぎる時期)まで燃焼させないようにするため、従来装置での予備燃焼目的の早期噴射時の酸素濃度(例えば17〜18%程度)より大幅に低下させた酸素濃度(例えば12〜15%)(第1所定値)とする。
【0036】
予混合化させるために主噴射も圧縮上死点TDC前までに噴き終える。特に熱発生を圧縮上死点TDC付近から発生させる(予備燃焼の山が圧縮上死点TDC付近から始まる)と、燃焼騒音が下がり、スモークが改善するという知見を得ている。熱発生を圧縮上死点TDC付近から発生させるには、主噴射を圧縮上死点TDC付近で噴き終える(先行噴射の最適噴射時期も変化することになる)。すなわち、図2に示したように、主噴射の噴射終了時期が圧縮上死点TDCの直前にくるようにする。図3に圧縮上死点TDCの直前で主噴射を行ったときの燃焼室内の様子を示す。
【0037】
次に、新しい予混合燃焼の作用を説明する。
【0038】
先行噴射燃料によるリーン混合気の中では比較的拡散・予混合の遅れている一部の燃え易い当量比のリーン混合気と、主噴射燃料の中で比較的拡散・予混合の進んだ一部の燃えやすい当量比の混合気がTDC付近で低温酸化反応を生じて予備燃焼を形成する。
【0039】
これによって燃焼室内の温度と圧力が上昇すると、主噴射燃料によるリッチ混合気の高温酸化反応が始まる。予備燃焼が終了する頃には、主噴射燃料は燃焼室内における拡散・予混合も進んでいるため比較的燃え易い当量比のリッチ混合気となって、高温酸化反応(拡散的燃焼)を生じ始める。
【0040】
主噴射燃料によるリッチ混合気の高温酸化反応(拡散的燃焼)は、予備燃焼で燃焼しなかった残りのリーン混合気の燃焼(予混合的燃焼)をも生じさせるので、主燃焼はこれらリッチ混合気の燃焼とリーン混合気の燃焼、すなわち拡散的燃焼と予混合的燃焼が混在して構成される。
【0041】
主燃焼を構成する主噴射燃料はリッチ混合気であって拡散的燃焼が主体となるが、比較的拡散・予混合化が進んでいるのでスモークを抑えることができる。また拡散的燃焼が主体であるため燃焼の急峻性、すなわち燃焼騒音も緩和される。
【0042】
その一方で、主燃焼を構成するもう1つの混合気である先行噴射によるリーン混合気は燃焼が穏やかであり、これらが併存することで全体としても燃焼騒音を低下させ、燃焼温度も低下するのでさらにNOxを低減させる。
【0043】
そして、リッチ混合気の燃焼に伴いリーン混合気の燃焼が促され、リーン混合気の燃え残りによる未燃HC排出という問題を招くこともない。
【0044】
つまり、先行噴射燃料によるリーン混合気の中では比較的拡散・予混合の遅れている一部の燃え易い当量比のリーン混合気と、主噴射燃料の中で比較的拡散・予混合の進んだ一部の燃えやすい当量比の混合気によって、圧縮上死点TDC付近で低温酸化反応を生じて予備燃焼を生じさせ、その後、燃焼室内で拡散・予混合の進んだ主噴射によるリッチ混合気と予備燃焼に使われず残った先行噴射によるリーン混合気とで主燃焼を行わせるのである。
【0045】
このような新しい予混合燃焼によれば、次の効果が得られる。
【0046】
新しい燃焼形態では、NOxを低下させるため吸気酸素濃度を大幅に低下させた際、ストイキをはさんで当量比を濃淡分布させた上で着火する(燃焼が始まる)ようにしたので、リッチ混合気が確実に着火して、着火不良による未燃HCを低減することができる。
【0047】
一方、リーン混合気を分布させるための先行噴射を早期(かなり早い時期)に行なうことによって、先行噴射による混合気が圧縮上死点前に燃え易い当量比になるのを防ぎ、先行噴射燃料が早い時期に着火して主噴射の噴射時期に火種になるのを抑え、主噴射燃料の拡散的な燃焼を抑制することができる。
【0048】
吸気酸素濃度は大幅に低下しているので、予混合燃焼するリッチ混合気の燃焼急峻性を緩和することができ、さらにリッチ混合気とリーン混合気とが並存するため、リッチ混合気の予混合燃焼が急峻であっても、リーン混合気の緩慢な燃焼がトータルとしての燃焼の急峻性を抑えて燃焼騒音を低減することができる。
【0049】
その一方で、リーン混合気の燃焼が不完全になる傾向があるが、リッチ混合気の比較的急峻な燃焼が相殺して(リーン混合気の燃焼を促進させるため)燃焼が不完全になるのを防止することができる。
【0050】
さて、新しい予混合燃焼は全ての運転域で実現できるわけでなく、図4に示したように一部の運転領域に限られる。すなわち、エンジン回転数Neとエンジン負荷(例えばアクセル開度Acc)とをパラメータとして、運転領域を低負荷側から大きくA領域、B領域、C領域、D領域の4つに分割し、最も低負荷側のA領域を通常燃焼許可領域、B領域をEGR許可領域でかつ予混合燃焼許可領域、C領域をEGR許可領域でかつ通常燃焼許可領域、D領域をEGR不許可領域でかつ通常燃焼許可領域として定める。ここで、「通常燃焼」とは、従来のディーゼル燃焼、つまり拡散燃焼を主体とする燃焼(以下「拡散燃焼」という。)(第2の燃焼形態)のことで、「予混合燃焼」が上記で説明した新しい予混合燃焼のことである。このように、新しい予混合燃焼はB領域でだけ行う。B領域では吸気酸素濃度をEGR制御によって制御することが可能であるため、EGR制御によってB領域での吸気酸素濃度が上記の第1所定値aとなるように制御する。
【0051】
図4に示す縦軸のエンジン負荷[%]を選るには、次のようにすればよい。すなわち、アクセル開度Acc[deg]とスロットル開度TVO[deg]とは1:1に対応させている(アクセルペダルを踏み込んでいないときのアクセル開度がアイドル時のスロットル開度に、アクセルペダルを一杯まで踏み込んだときのアクセル開度が全開時のスロットル開度に対応する)ので、現在のアクセル開度Acc[deg]を最大アクセル開度[deg]で除した値を%表示に変えば、縦軸のエンジン負荷[%]を得ることができる。横軸のエンジン回転数[%]を得るには、現在のエンジン回転数Ne[rpm]を最大回転数[rpm]で除した値を%表示に変えばよい。なお、横軸をエンジン回転数Ne[rpm]、縦軸をアクセル開度Acc[deg]とする運転領域図でもかまわない。
【0052】
エンジンコントロールユニット30によって行われる本発明の燃焼制御を図5のフローチャートを参照して説明する。
【0053】
ステップ1では、筒内圧力CP、吸入空気量Qair、吸入空気温度Tair、吸入空気圧力Pair、水温Tw、エンジン回転数Ne、気筒判別信号Cyl、コモンレール圧力Pcr、燃料温度Tf、アクセル開度Acc、吸入ガス温度Tgas、EGRガス温度Tegr、排気酸素濃度O2exhに対応する信号をそれぞれ読み込む。
【0054】
ステップ2では、エンジン回転数Ne、アクセル開度Accおよび水温Tw等から現在の回転数と負荷、エンジンの温度状態を検出する。
【0055】
ステップ3では、コモンレールによる燃料噴射の目標値を算出し、燃料噴射弁15の駆動制御を実行する。このため、まず圧力制御を行うが、コモンレール圧力制御は、エンジン回転数Neと負荷Accとをパラメータとして、エンジンコントロールユニット30のROMに予め記憶されている所定のマップを検索することによりコモンレール14の目標基準圧力PCR0を求め、この目標基準圧力PCR0が得られるように圧力制御弁13のフィードバック制御を実行する。
【0056】
そして燃料の噴射時期制御を行う。例えばエンジン回転数Neと負荷Accをパラメータとして、パイロット噴射の燃料噴射量Qpilot、主噴射の燃料噴射量Q main、コモンレール圧力(噴射圧力)PCR、パイロット噴射の噴射期間P period、主噴射の噴射期間M period、主噴射の噴射開始時期MIT、パイロット噴射の噴射開始時期PIT等を、エンジンコントロールユニット30のROMに予め記憶されている所定のマップデータを検索してそれぞれ求める。そして、パイロット噴射の燃料噴射量Qpilot、主噴射の燃料噴射量Q mainが供給されるように、クランク角度センサ32のクランク角度信号およびクランク角度センサ33の気筒判別信号Cylに基づいて、パイロット噴射の噴射開始時期PITよりパイロット噴射の噴射期間P periodのあいだ及び、主噴射の噴射開始時期MITより主噴射の噴射期間M periodのあいだ、噴射すべき気筒の燃料噴射弁15を開弁駆動する。
【0057】
ここで、上記パイロット噴射の燃料噴射量Qpilotには、B領域で行う先行噴射の噴射量を、上記パイロット噴射の噴射期間P periodには、B領域で行う先行噴射の噴射期間を、上記パイロット噴射の噴射開始時期PITには、B領域で行う先行噴射の噴射開始時期を含めている。これは、A領域、C領域、D領域うち少なくともC領域でパイロット噴射を行い、B領域で上記の先行噴射を行うのであるが、パイロット噴射を主噴射に先立って行う燃料噴射であると定義すれば、先行噴射もパイロット噴射であるため、先行噴射もパイロット噴射として含めたものである。そして、制御上は、マップよりB領域で検索したパイロット噴射の制御量(噴射量、噴射期間、噴射開始時期)を先行噴射の制御量(噴射量、噴射期間、噴射開始時期)として扱うことになる。
【0058】
ステップ4では、エンジン回転数Neと、エンジン負荷としてのアクセル開度Accとから定まる運転条件が、図4に示すように、予め定められた通常燃焼許可領域(A領域)、EGR許可領域でかつ予混合燃焼許可領域(B領域)、EGR許可領域でかつ通常燃焼許可領域(C領域)、EGR不許可領域でかつ通常燃焼許可領域(D領域)のいずれの領域にあるかを判定する。
【0059】
この判定の結果、運転条件がEGR許可領域でかつ予混合燃焼許可領域(B領域)にあるときだけステップ5に進み、主噴射の予混合制御期間(MPI:主噴射終了と主噴射の燃焼開始との間隔)を検出する。図2に示すように、新しい予混合燃焼では噴射すべき大部分の燃料が噴射された後に、先行噴射の熱発生と主噴射の低温酸化反応が同時に発現し、引き続き主噴射の主燃焼(高温酸化反応)が発現する。すなわち先行噴射によって形成されたリーンな混合気と主噴射によって形成された比較的リッチな混合気とが2つに分かれて混在する状態で着火・燃焼が開始される。言い換えると、予混合制御期間の検出値が予混合制御期間の目標値と一致していれば、新しい予混合燃焼を実現することができる。
【0060】
ここで、主噴射の燃焼開始タイミングを判定する方法としては、図6に示すように筒内圧力CPの燃焼室内圧力2回微分値dP2/dθ2[kPa/deg2]を用いることができる。例えば、図6のように燃焼室内圧力2回微分値が一度負の値となってから再度上昇しゼロ点をクロスするポイントを主噴射の燃焼開始タイミングであると定義して検出する。このようにして主噴射の燃焼開始タイミングを検出することができる。
【0061】
主噴射の燃焼開始タイミングを検出するためのパラメータは燃焼室内圧力2回微分値dP2/dθ2に限定されるものでない。例えば、燃焼室内圧力2回微分値dP2/dθ2に代えて、図2に示した主噴射の主燃焼熱発生率の上昇開始時期dQ/dθ[J/deg]を用いることもできる。この場合にはスライスレベルを設定してスライスレベルのクロスポイントを主噴射の燃焼開始タイミングと定義して検出するのが望ましい。
【0062】
一方、主噴射の噴射終了タイミングは主噴射開始時期MITより主噴射期間M periodの期間が経過したタイミングであり、主噴射開始時期MITと主噴射期間M periodとから求めることができる。
【0063】
ここで、先行噴射の燃料量と先行噴射の噴射開始時期とは簡単は一定値でよいが、先行噴射によるリーン混合気の形成を増加させて燃焼騒音低減効果を高めるため、先行噴射の燃料量は図7に示すように負荷の増大に伴って増加させ、また図8に示すように先行噴射の噴射開始時期を負荷の増大に伴って早めるのが望ましい。また先行噴射は、HCCI燃焼のようにシリンダ内壁に燃料噴霧が直接衝突し付着してしまうような早期に燃料噴射が実行されることは無く、かつ従来の拡散燃焼を基本とするパイロット噴射のように主噴射に近づけて噴射されることも無い。先行噴射の噴射開始時期は先行噴射燃料の殆どがピストンキャビティ内に噴射されるタイミングで行われるのが望ましいが、シリンダ内壁への燃料噴霧の衝突をより確実に防止するため、先行噴射の噴射回数を負荷の増大に伴って増加させてペネトレーションを低下させることも有効である。
【0064】
ステップ6では、予混合制御期間の目標値を算出する。つまり、主噴射燃料の着火時期において、燃焼室内に適度にリーン化された先行噴射燃料の混合気とリーン化されすぎない主噴射燃料の混合気とが2つに分かれて混在するように、予め実験等で求めた予混合制御期間の目標値を、エンジン回転数Neと、エンジン負荷としてのアクセル開度Accとをパラメータとして、エンジンコントロールユニット30のROMに予め記憶させておいたマップデータから検索して求める。
【0065】
検出した予混合制御期間が予混合制御期間目標値と一致していなければ、新しい予混合燃焼を実現することができないので、ステップ7では、検出した予混合制御期間と算出した予混合制御期間目標値との偏差(dMPI)に基づいて着火時期制御を行うことにより新しい予混合燃焼を実現する。具体的には、予混合制御期間検出値が予混合制御期間目標値がよりも長い場合に、着火時期を早めて予混合制御期間を目標値に合わせる。その逆に、予混合制御期間検出値が、予混合制御期間目標値がよりも短い場合には、着火時期を遅らせて予混合制御期間を目標値に合わせる。
【0066】
着火時期を可変制御する手段としては、燃料の噴射時期や噴射圧力を制御したり、吸入ガスの温度や圧力、あるいは圧縮比等を可変制御して圧縮端温度を制御する方法、吸気酸素濃度や残留ガス割合を可変制御する方法があり、これらのいずれかの方法を採用することによって着火時期を任意に制御することが可能である。
【0067】
これで本発明の前提となる新しい予混合燃焼の説明を終える。
【0068】
さて、上記の図4において運転条件がC領域(EGR許可領域でかつ通常燃焼許可領域)からB領域(EGR許可領域でかつ予混合燃焼許可領域)へと切換わる場合に、燃焼騒音が悪化することが判明している。これを解析したところを図9、図10に従って説明する。
【0069】
図9の上段、中段、下段にはC領域からB領域の切換時にパイロット噴射量、EGR率、吸気酸素濃度がどのように変化するのかを示している。また、上段のさらに上部に燃焼形態と運転領域とを示している。
【0070】
運転条件がC領域からB領域へと切換わるのは、t1のタイミングであるので、このt1のタイミングで吸気酸素濃度をC領域での拡散燃焼に最適な値である第2所定値bからB領域での新たな予混合燃焼に最適な値である第1所定値aへとステップ的に低下させる必要がある。ここで、B領域ではEGR弁5(EGR装置)により吸気酸素濃度を調整し得るので、B領域での新たな予混合燃焼に最適な吸気酸素濃度である第1所定値aが得られるように、B領域での目標EGR率eを予め定めている。このため、運転条件がC領域からB領域に切換わるt1のタイミングで、目標EGR率を図9に一点鎖線で示したように、C領域での目標EGR率fからB領域での目標EGR率eへとステップ的に切換えている。
【0071】
しかしながら、エンジンコントロールユニット30からEGR弁アクチュエータ(ステッピングモータ)に目標EGR率eが得られるまでEGR弁5を閉じるように指令しても、指令を受けてから実際にEGR弁5が閉じるまでに応答遅れがある。仮にEGR弁5が応答遅れなく閉じたとしても、EGR弁5から燃焼室までに配管の容積があるため、図9に実線で示したように実際のEGR率は遅れて変化するのであり、t3のタイミングで実際のEGR率が目標EGR率eに到達している。吸気酸素濃度は実際のEGR率に応じて変化するので、図9に実線で示したように実際のEGR率の変化に対応して連続的に減少し、t3のタイミングで第1所定値aに到達する。すなわち、吸気酸素濃度はEGR弁5の応答性や配管の容積などの影響により、t1のタイミングで第2所定値bから第1所定値aへとステップ的に変化し得ず、第1所定値aに向かって徐々に低下し、t3のタイミングでやっと第1所定値aに到達する。
【0072】
図10は、吸気酸素濃度が第2所定値bから第1所定値aまでの吸気酸素濃度に対して、燃焼騒音、予混合比率がどのように変化するのかを実験しまとめた結果である。ここで、予混合比率とは、主噴射燃料の着火タイミングまでに燃焼室内に噴かれている燃料の量を、先行噴射の燃料量と主噴射の燃料量の合計である総燃料量で除した値をパーセントに換算した値である。この予混合比率は吸気酸素濃度が小さくなるほど大きくなっている。
【0073】
一方、燃焼騒音は、吸気酸素濃度が第2所定値bから小さくなるほど大きくなって第3所定値cのときピークをとり、それからは吸気酸素濃度が第1所定値aに向かって小さくなるほど急激に小さくなっている。この第3所定値cを図9に移してみると、t2のタイミングで吸気酸素濃度が第3所定値cに到達することとなる。すると、図9においては、B領域に切換わるt1のタイミングから燃焼騒音が徐々に大きくなってt2のタイミングでピークを採り、t2のタイミングからは燃焼騒音が低下し、吸気酸素濃度が第1所定値aに到達するt3のタイミングで燃焼騒音が無視できるレベルになる、と解析される。すなわち、図10に示したように、第2所定値bより第3所定値cまでの範囲で吸気酸素濃度が減少するほど大きくなり、第3所定値cを過ぎて吸気酸素濃度が減少するほど今度は小さくなる特性の燃焼騒音を防止するには、図9に実線で示したように、B領域への切換タイミングで与えるパイロット噴射量を初期値とし、第2所定値bから第3所定値cまで吸気酸素濃度が低下するほどパイロット噴射量を初期値から増やしてゆき、第3所定値cから第1所定値aまで吸気酸素濃度が低下するほど今度は第3所定値cのときのパイロット噴射量を初期値としてパイロット噴射量をこの初期値から減少させ、吸気酸素濃度が第1所定値aに到達するt3のタイミングでゼロとすることである。
【0074】
B領域への切換タイミングで与えるパイロット噴射量を初期値として、第2所定値bから第3所定値cまでの範囲で吸気酸素濃度が低下するほどパイロット噴射量を初期値から増やしてゆくのは、吸気酸素濃度が第3所定値cに向かって低下するほど燃焼騒音が大きくなるためである。また、第3所定値cから第1所定値aまでの範囲で吸気酸素濃度が低下するほど今度は第3所定値cのときのパイロット噴射量を初期値としてパイロット噴射量をこの初期値から減らしてゆくのは、吸気酸素濃度が第1所定値aに向かって低下するほど燃焼騒音が小さくなるためである。ここでのパイロット噴射の役割は、種火としての役割を果たさせるものである。すなわち、拡散燃焼における予混合気が急激に燃焼することによって燃焼騒音が生じるのであるから、拡散燃焼における予混合気が急激に燃焼する前に種火を作り、これによって、拡散燃焼における予混合気が急激に燃焼しないようにし、燃焼騒音を防止するのである。このように、本発明によれば、図10に示した燃焼騒音の特性に従って、吸気酸素濃度が第2所定値bから第1所定値まで低下する移行期間でのパイロット噴射を行うことで、移行期間の全体にわたって燃焼騒音を防止できることになった。
【0075】
これに対して、予混合燃焼領域への切換時の燃焼騒音の悪化を防止するため、吸気酸素濃度が予混合燃焼に最適な吸気酸素濃度に到達するまでの移行期間で実際のEGR率が増加するほどパイロット噴射量を減少させるようにする従来装置がある。しかしながら、この従来装置を本発明の対象としている移行期間にそのまま適用したのでは、燃焼騒音の悪化を効果的に防止することができない。すなわち、従来装置を本発明の対象としている移行期間にそのまま適用すると、パイロット噴射量の特性は図9に一点鎖線で示したようになり、実EGR率が増えるほどパイロット噴射量を減少することとなる。しかしながら、図10に示した燃焼騒音の特性によれば、図9において吸気酸素濃度が第2所定値bから第3所定値cまで低下するあいだ燃焼騒音が増大してゆくので、これに対応するには本発明のようにパイロット噴射量を増やしてゆかなければならないところ、従来装置では、この逆にパイロット噴射量を減らしてゆくのであるから燃焼騒音を効果的に抑制できないのである。
【0076】
また、本発明では、運転条件がB領域に切換わるt1のタイミングで新しい予混合燃焼へと切換えるのではなく、t1のタイミング以降もC領域での拡散燃焼をそのまま継続し、吸気酸素濃度が第1所定値aに到達するt3のタイミングでC領域での拡散燃焼から新しい予混合燃焼に切換える(図9参照)。
【0077】
次に、エンジンコントロールユニット30で実行されるこの制御内容を図11、図12、図13のフローチャートを参照して詳述する。
【0078】
まず、図11は移行フラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
【0079】
ステップ11では、エンジン負荷としてのアクセル開度Accと、エンジン回転数Neとを読み込み、ステップ12でエンジン負荷とエンジン回転数から定まる運転条件が、図4で示したC領域からB領域に切換わったか否かをみる。運転条件がC領域からB領域に切換わったタイミングになければそのまま今回の処理を終了する。
【0080】
一方、運転条件がC領域からB領域に切換わったときには、ステップ12からステップ13に進んで移行フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)=1とする。なお、運転条件がC領域からB領域に切換わったタイミングで図示しないEGR制御ルーチンにおいて目標EGR率がC領域での目標EGR率fからB領域での目標EGR率eへとステップ的に大きくなる(図9の一点鎖線参照)。
【0081】
図12は吸気酸素濃度が第2所定値bから減少して第1所定値aに落ち着くまでの期間である移行期間でパイロット噴射量を設定するためのもので、図11に続けて一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
【0082】
ステップ21では移行フラグ(図11により設定済み)をみる。移行フラグ=0であるときには、そのまま今回の処理を終了する。
【0083】
一方、移行フラグ=1であるときには、移行期間にあると判断し、ステップ21よりステップ22に進んで吸気酸素濃度センサにより検出される吸気酸素濃度O2intを読み込む。ここで、吸気酸素濃度O2intを検出するため、吸気酸素濃度センサを吸気コレクタ20bに設けておく。
【0084】
ステップ23では、吸気酸素濃度O2intと第3所定値cを比較する。第3所定値cは、移行期間中に燃焼騒音がピークを採るときの吸気酸素濃度である。第3所定値cは適合により予め定めておく。吸気酸素濃度O2intが第3所定値cより大きいときには、ステップ24に進み、移行フラグ=1となる直前のC領域でのパイロット噴射量を初期値としてパイロット噴射量を増量する。例えば、C領域でのパイロット噴射量をPiQ0とすると、B領域に切換わった初回(移行開始タイミング)はこれに増量係数αを乗算した値をパイロット噴射量として、つまり
PiQ=α×PiQ0 …(1)
の式により移行開始タイミングでのパイロット噴射量PiQを計算し、その後は、
PiQ=α×PiQ(前回) …(2)
ただし、PiQ(前回):PiQの前回値、
の式によりパイロット噴射量PiQを増量側に更新する。上記(1)式、(2)式の増量係数αは1より大きな値であり予め適合しておく。
【0085】
吸気酸素濃度O2intが第3所定値cより大きいときにはステップ24を繰り返す、つまり増量係数αを用いて上記(2)式を繰り返すことで、パイロット噴射量PiQが増えてゆく。
【0086】
やがて、ステップ23で吸気酸素濃度O2intが第3所定値c以下になるとステップ25に進み、吸気酸素濃度O2intと第1所定値aを比較する。第1所定値aは、B領域での燃焼に最適に最適な吸気酸素濃度である。すなわち、前述したように第1所定値aは、主噴射が終了するまで低温酸化反応が生じないような吸気酸素濃度で、予め定めている。吸気酸素濃度O2intが第1所定値aより大きいときにはステップ26に進み、吸気酸素濃度が第3所定値c以下となる直前のタイミングでのパイロット噴射量を初期値としてパイロット噴射量を減量する。例えば、前回のパイロット噴射量に減量係数βを乗算した値をパイロット噴射量として、つまり
PiQ=β×PiQ(前回) …(3)
ただし、PiQ(前回):PiQの前回値、
の式によりパイロット噴射量PiQを減量側に更新する。上記(3)式の減量係数βは1より小さな正の値で予め適合しておく。
【0087】
吸気酸素濃度O2intが第2所定値bより大きいときにはステップ26を繰り返す、つまり減量係数βを用いて上記(3)式を繰り返すことで、パイロット噴射量PiQが減少してゆく。
【0088】
やがて、ステップ25で吸気酸素濃度O2intが第2所定値b以下になると移行期間が終了した、つまりこれ以上パイロット噴射を行うのは不要であると判断し、ステップ27に進んでパイロット噴射量PiQ=0とすると共に、移行フラグ=0とする。ステップ29では燃焼形態切換フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)=1とする。
【0089】
実施形態では、吸気酸素濃度が第3所定値cより大きいか小さいかによってパイロット噴射を増量してゆくのか減量してゆくのかを定めているが、これに限られない。例えば、吸気酸素濃度と実EGR率とは1:1に対応するので、図9に示したように、第3所定値cに対応する実EGR率gを求めることができる。この第3所定値cに対応する実EGR率gを第3所定値gとすれば、実EGR率とこの第3所定値gを比較し、実EGR率が第3所定値gより小さい場合に、パイロット噴射量を増量してゆき、実EGR率が第3所定値g以上となればパイロット噴射量を減量してゆけばよい。また、実EGR率がB領域での目標EGR率eに到達したとき、移行期間の終了であると判定する。
【0090】
ここで、実EGR率としては目標EGR率の荷重平均値を用いるか、次のようにして推定する。すなわち、EGR弁5の開度と、EGR弁5の前後差圧から図14を内容とするマップを検索することによりEGR弁5を流れるEGRガス流量を算出し、このEGRガス流量と、エアフローメータ7により検出される新気流量との比を実EGR率として求める。
【0091】
図13はB領域に切換わった後もC領域での拡散燃焼を継続し、移行期間が終了したタイミングで新しい予混合燃焼に切換えるためのもので、図12に続けて一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。なお、図13は運転条件がC領域からB領域へと切換わった後に実行するものとする。
【0092】
ステップ31ではエンジン負荷としてのアクセル開度と、エンジン回転数とから定まる運転条件がB領域にあるか否か、ステップ32では燃焼形態切換フラグ(図12により設定済み)=1であるか否かをみる。運転条件がB領域にないときにはそのまま今回の処理を終了する。
【0093】
運転条件がB領域にあっても燃焼形態切換フラグ=0であればまだ移行期間が終了していないと判断し、ステップ33に進んで、C領域での拡散燃焼を実行する。運転条件がB領域にありかつ燃焼形態切換フラグ=1であれば移行期間が終了したと判断し、ステップ34に進んで、新しい予混合燃焼を実行する。すなわち、運転条件がB領域に切換わったからといって直ぐに新しい予混合燃焼を実行するのではなく、移行期間中はC領域での拡散燃焼を継続し、移行期間の終了後に新しい予混合燃焼を実行する。
【0094】
そして、移行期間が終了するまでC領域での拡散形態を行いつつ図12で設定した移行期間でのパイロット噴射量PiQを用いて主噴射に先立つパイロット噴射を行わせる。なお、図9においてt1のタイミングまでC領域での拡散燃焼が行われるが、この拡散燃焼を実現するためのパイロット噴射は上記の図5に従って行われ、t1のタイミングからt3のタイミング直前までは、パイロット噴射の噴射時期はそのままでパイロット噴射の噴射量が図12で設定した移行期間でのパイロット噴射量PiQに置き換わってパイロット噴射が行われることになる。
【0095】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0096】
本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、吸気酸素濃度センサ(吸気酸素濃度検出手段)と、EGR弁5(吸気酸素濃度調整装置)とを備え、B領域(第1の運転領域)でこのEGR弁5を用いて吸気酸素濃度を相対的に小さい第1所定値aとした状態で予混合燃焼(第1の燃焼形態)を行わせ(図5のステップ1〜3参照)、B領域に隣接するC領域(第2の運転領域)でEGR弁5を用いて吸気酸素濃度を第1所定値aよりも大きい第2所定値bとした状態で拡散燃焼(第2の燃焼形態)を行わせ(図5のステップ1〜3参照)、C領域からB領域に切換わった場合に、検出される吸気酸素濃度が減少して第2所定値bと第1所定値aとの間にある第3所定値cに到達するまでは増量されるようにかつその後には吸気酸素濃度が減少するほど減量されるように、パイロット噴射の燃料噴射量を設定し(図12のステップ21〜28参照)、この設定されたパイロット噴射量を用いてパイロット噴射を行う(図13のステップ31、32、33参照)ので、吸気酸素濃度が第2所定値bから減少して第1所定値aに到達するまでの移行期間で吸気酸素濃度が減少するほど増加してピークをとり、その後に減少する燃焼騒音特性であっても燃焼騒音を効率良く低減することができる。
【0097】
本実施形態(請求項2に記載の発明)によれば、吸気酸素濃度が第2所定値bから減少して第1所定値aに到達するまでの移行期間で拡散燃焼(第2の燃焼形態)を継続し、吸気酸素濃度が第1所定値aに到達したとき、予混合燃焼(第1の燃焼形態)に切換えるので(図13のステップ31、32、33、ステップ31、32、34参照)、C領域(第2の運転領域)からB領域(第1の運転領域)に切換わったタイミングで予混合燃焼(第1の燃焼形態)に切換える場合よりも燃焼騒音の悪化を抑制できる。
【0098】
本実施形態(請求項3に記載の発明)によれば、吸気酸素濃度調整装置はEGR率を調整し得るEGR弁5であり、吸気酸素濃度推定手段は吸気酸素濃度を実際のEGR率に基づいて推定するので、吸気酸素濃度を直接検出せずとも吸気酸素濃度を推定することができる。
【0099】
本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、第1所定値aは、主噴射が終了するまで低温酸化反応が生じないような吸気酸素濃度であり、圧縮工程中に主噴射に先立つ先行噴射を行った後、主噴射を行って、リーン混合気とリッチ混合気とを偏在させた予混合気を形成したところで燃焼を開始させるので、NOxを低下させるため吸気酸素濃度を大幅に低下させた状態でもリッチ混合気が確実に着火して、着火不良による未燃HCを低減することができる。
【0100】
一方、本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、リーン混合気を分布させるための先行噴射を早期(かなり早い時期)に行なうことによって、先行噴射による混合気が圧縮上死点前に燃え易い当量比になるのを防ぎ、先行噴射燃料が早い時期に着火して主噴射の噴射時期に火種になるのを抑え、主噴射燃料の拡散的な燃焼を抑制することができる。
【0101】
本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、吸気酸素濃度は大幅に低下しているので、予混合燃焼するリッチ混合気の燃焼急峻性を緩和することができ、さらにリッチ混合気とリーン混合気とが並存するため、リッチ混合気の予混合燃焼が急峻であっても、リーン混合気の緩慢な燃焼がトータルとしての燃焼の急峻性を抑えて燃焼騒音を低減することができる。
【0102】
その一方で、本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、リーン混合気の燃焼が不完全になる傾向があるが、リッチ混合気の比較的急峻な燃焼が相殺して(リーン混合気の燃焼を促進させるため)燃焼が不完全になるのを防止することができる。
【0103】
本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、主噴射を圧縮上死点の直前で噴き終えるので、燃焼騒音が下がるだけでなくスモークをも低減できる。
【符号の説明】
【0104】
1 エンジン
5 EGR弁(吸気酸素濃度調整装置)
15 燃料噴射弁
30 エンジンコントロールユニット
【技術分野】
【0001】
この発明はディーゼルエンジンの燃焼制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
予混合燃焼への移行時に、燃焼騒音の悪化を防止するためパイロット噴射を行うものがある(特許文献1参照)。
【0003】
これについて説明すると、このものでは予混合燃焼領域と拡散燃焼領域とを予め定めておき、運転条件が拡散燃焼領域から予混合燃焼領域へと切換わったとき、予混合燃焼を行わせている。この場合、拡散燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度と、予混合燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度との間には隔たりがあり、運転領域が切換わったからといって、実際の吸気酸素濃度はステップ的に変化しえず、拡散燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度から予混合燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度へと連続的に変化していく。つまり、拡散燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度から予混合燃焼を行わせるときの吸気酸素濃度に到達するまでの移行期間で、予混合燃焼を行わせると、吸気酸素濃度が高い分、予混合気が急速に燃焼し燃焼騒音が大きくなる。そこで、上記の移行期間でパイロット噴射を行うことで、燃焼騒音の悪化を防止している。具体的には、上記の移行期間で吸気酸素濃度が減少するほどパイロット噴射量を減少させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−211768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、スモークとNOxの同時低減を図るために様々なタイプの予混合燃焼が開発されており、運転条件が拡散燃焼領域から予混合燃焼領域に切換わった場合に、吸気酸素濃度が拡散燃焼に最適な吸気酸素濃度から減少して予混合燃焼に最適な吸気酸素濃度に落ち着くまでの期間を移行期間として、この移行期間での吸気酸素濃度に対する燃焼騒音の特性を本発明者が調べたところ、吸気酸素濃度が減少するほど増加してピークをとり、その後に減少する燃焼騒音特性のものがあることを見出した。上記特許文献1の技術ではこのように吸気酸素濃度が減少するほど増加してピークをとり、その後に減少する燃焼騒音特性に対しては燃焼騒音を効率良く低減できない。これは、上記特許文献1の技術では、吸気酸素濃度が減少するほど燃焼騒音が小さくなるとみなし、こうした燃焼騒音特性に対応して吸気酸素濃度が減少するほどパイロット噴射量を減少させているためである。
【0006】
そこで本発明は、移行期間で吸気酸素濃度が減少するほど増加してピークをとり、その後に減少する燃焼騒音特性であっても燃焼騒音を効率良く低減し得る装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0008】
本発明は、吸気酸素濃度を検出または推定する吸気酸素濃度検出・推定手段と、吸気酸素濃度を調整し得る吸気酸素濃度調整装置(5)とを備え、第1の運転領域で吸気酸素濃度調整装置(5)を用いて吸気酸素濃度を相対的に小さい第1所定値とした状態で予混合燃焼を主体とした燃焼である第1の燃焼形態を行わせ、第1の運転領域に隣接する第2の運転領域で吸気酸素濃度調整装置(5)を用いて吸気酸素濃度を第1所定値よりも大きい第2所定値とした状態で予混合燃焼とは異なる燃焼である第2の焼形態を行わせ、第2の運転領域から第1の運転領域に切換わった場合に、検出または推定される吸気酸素濃度が減少して第2所定値と第1所定値との間にある第3所定値に到達するまでは増量されるようにかつその後には吸気酸素濃度が減少するほど減量されるように、パイロット噴射の燃料噴射量を設定し、この設定されたパイロット噴射量を用いて主噴射に先立つパイロット噴射を行うように構成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吸気酸素濃度を検出または推定する吸気酸素濃度検出・推定手段と、吸気酸素濃度を調整し得る吸気酸素濃度調整装置とを備え、第1の運転領域で吸気酸素濃度調整装置を用いて吸気酸素濃度を相対的に小さい第1所定値とした状態で予混合燃焼を主体とした燃焼である第1の燃焼形態を行わせ、第1の運転領域に隣接する第2の運転領域で吸気酸素濃度調整装置を用いて吸気酸素濃度を第1所定値よりも大きい第2所定値とした状態で予混合燃焼とは異なる燃焼である第2の燃焼形態を行わせ、第2の運転領域から第1の運転領域に切換わった場合に、検出または推定される吸気酸素濃度が減少して第2所定値と第1所定値との間にある第3所定値に到達するまでは増量されるようにかつその後には吸気酸素濃度が減少するほど減量されるように、パイロット噴射の燃料噴射量を設定し、この設定されたパイロット噴射量を用いて主噴射に先立つパイロット噴射を行うので、吸気酸素濃度が第2所定値から減少して第1所定値に到達するまでの移行期間で吸気酸素濃度が減少するほど増加してピークをとり、その後に減少する燃焼騒音特性であっても燃焼騒音を効率良く低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態のディーゼルエンジンの燃焼制御装置の概略構成図である。
【図2】新しい予混合燃焼によるクランク角度に対する熱発生率の変化を示す特性図である。
【図3】圧縮上死点の直前で主噴射を行ったときの燃焼室内の様子を示す断面図である。
【図4】エンジン回転数とエンジン負荷に対する運転領域図である。
【図5】燃焼制御を説明するためのフローチャートである。
【図6】クランク角度に対する燃焼室内圧力2回微分値の変化を示す特性図である。
【図7】他の例の先行噴射の燃料量の特性図である。
【図8】他の例の先行噴射の噴射開始時期の特性図である。
【図9】C領域からB領域への移行期間でのパイロット噴射量、EGR率、吸気酸素濃度の変化を示すタイミングチャートである。
【図10】移行期間での吸気酸素濃度に対する燃焼騒音、予混合比率の特性図である。
【図11】移行フラグの設定を説明するためのフローチャートである。
【図12】移行期間のパイロット噴射量の設定を説明するためのフローチャートである。
【図13】C領域からB領域への切換時の実際の燃焼形態の切換を説明するためのフローチャートである。
【図14】EGRガス流量の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の一実施形態のディーゼルエンジンの燃焼制御装置の概略構成である。図1において、ディーゼルエンジン(以下、単に「エンジン」と記述する。)1の排気通路40に、排気浄化のため、排気中の粒子状物質であるパティキュレートマター(Particulate Matter)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ16を備える。このディーゼルパティキュレートフィルタ16には、排気空燃比がリーンのときに排気中のNOxをトラップし、トラップしたNOxを排気空燃比がリッチのときに脱離浄化することのできるNOxトラップ触媒および酸化触媒(貴金属)を担持させて、流入する排気成分(NOx、HC、CO)を除去する機能を持たせてもよい。
【0012】
EGR装置(排気還流装置)として、EGR通路4とEGR弁5とを備える。すなわち、排気通路40のうち上流側の排気出口通路40aと吸気通路20の吸気コレクタ20bとを連通するEGR通路4が設けられ、EGR通路4の吸気コレクタ20b接続部にステッピングモータによりその開度が連続的に制御可能なEGR弁5が介装されている。
【0013】
EGR通路4の途中には、EGR通路4を流れる排気を冷却するEGRクーラー17を備える。EGRクーラー17には水量調整手段(電動ファン等の水温調整手段でもよい)44を設けてある。水量調整手段としては、比例ソレノイド型の電磁弁や、ステップモータ等で駆動される制御弁を用いることができる。水量(または水温)を調整することでクーラー17の冷却効率を変化させてEGRガス温度を調整し、エンジン1に流入する作動ガス温度を制御する。この作動ガス温度は、吸気コレクタ20b内に臨んでいる温度センサ41によって検出される。吸気コレクタ20bに導入されるEGRガスの温度はEGRガス温度センサ42により検出される。
【0014】
吸気通路20の上流にエアクリーナ20aを備え、このエアクリーナ20aと吸気コレクタ20bとの間にアクチュエータ(例えばステッピングモータ式)によって開閉駆動される吸気絞り弁6を備える。エアクリーナ20aの下流には、吸入空気量Qairを検出するエアフローメータ7、吸気温度Tairを検出する吸気温度センサ8、吸気圧力Pairを検出する吸気圧力センサ9が配置されている。
【0015】
エンジン1にはコモンレール式の燃料噴射装置10を備える。コモンレール式燃料噴射装置10は、サプライポンプ11と、コモンレール(蓄圧室)14と、気筒毎に設けられる燃料噴射弁15とから大略構成され、サプライポンプ11により加圧された燃料が燃料供給通路12を介してコモンレール14にいったん蓄えられたあと、コモンレール14内の高圧燃料が各気筒の燃料噴射弁15に分配される。
【0016】
上記のコモンレール14には、コモンレール14内の燃料圧力および燃料温度を検出するために、圧力センサ34および温度センサ35が設けられている。また、コモンレール14内の燃料圧力を制御するために、サプライポンプ11からの吐出燃料の一部が圧力制御弁13を介して図示しないオーバーフロー通路から燃料供給通路に戻されるようになっており、この圧力制御弁13がエンジンコントロールユニット30からのデューティ信号に応じてオーバーフロー通路の流路面積を変化させ得るようになっている。これにより、サプライポンプ11からコモンレール14への実質的な燃料吐出量が調整され、コモンレール14内の燃料圧力が制御される。
【0017】
燃焼室に臨んで設けられる燃料噴射弁15は、エンジンコントロールユニット30からのON−OFF信号によって開閉される電子式の噴射弁である。ON信号によって燃料を燃焼室に噴射し、OFF信号によって燃料の噴射を停止する。そして、燃料噴射弁15に指令されるON信号の期間が長いほど燃料噴射量が多くなり、またコモンレール14の燃料圧力が高いほど燃料噴射量が多くなる。コモンレール式燃料噴射装置10によれば、主噴射に先立つ先行噴射やパイロット噴射を容易に行わせることができる。
【0018】
エンジン1の各気筒には筒内圧力を検出する圧力センサ2が設けられている。この圧力センサとして燃焼室内に臨むタイプのものや、座金形状のノッキングセンサタイプのものを用いることができる。エンジン1の適宜位置にエンジンの温度を代表するものとして、冷却水温度を検出する水温センサ31が取り付けられている。
【0019】
エンジンコントロールユニット30には、圧力センサ2の信号(CP)、水温センサ31の信号(冷却水温Tw)、クランク角度センサ32の信号(エンジン回転数Neの基礎となるクランク角度信号)、クランク角度センサ33の信号(気筒判別信号Cy1)、コモンレール14の燃料圧力を検出する圧力センサ34の信号(コモンレール圧力Pcr)、燃料温度センサ35の信号(燃料温度Tf)、負荷に相当するアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ50の信号(アクセル開度(負荷)Acc)、エアフローメータ7の信号(吸入空気量Qair)、吸気温度センサ8の信号(吸気温度Tair)、吸気圧力センサ9の信号(吸気圧力Pair)、作動ガス温度センサ41の信号(Tgas)がそれぞれ入力される。
【0020】
また、排気通路40のディーゼルパティキュレートフィルタ16の出口部(入口部でも良い)に排気酸素濃度(O2exh)を検出する酸素濃度(空燃比)センサ43が設けられ、この信号もエンジンコントロールユニット30に入力されている。排気酸素濃度センサ43としては、例えば酸素イオン伝導性固体電解質を用いて、排気酸素濃度を検出するものを用いることができる。
【0021】
エンジンコントロールユニット30では、これらの入力信号に基づいて、燃料噴射の噴射量及び噴射時期制御のための圧力制御弁13へのオーバーフロー通路の開度指令信号や燃料噴射弁15への燃料噴射指令信号、吸気絞り弁6への開度指令信号、EGR弁5への開度指令信号、水量調整手段45への水量調整信号等を出力する。
【0022】
さて、本発明の前提となる予混合燃焼を主体とした燃焼(以下「予混合燃焼」という。)(第1の燃焼形態)について先に説明する。この予混合燃焼は、NOxを低下させるには吸気酸素濃度は低い方が燃焼温度が下がるから良いが、着火の安定性が低下して、着火不良による未燃HCが増えたり、着火が早過ぎて燃焼が拡散的になってスモークが増えたりする、という課題を解決するために新たに考案されたものである。この新しい予混合燃焼形態は、主噴射に先立つ先行噴射を行って着火前の燃焼室内に、ストイキ(理論空燃比)よりリーンの混合気(以下単に「リーン混合気」という。)とストイキよりリッチの混合気(以下単に「リッチ混合気」という。)を偏在させ、リーン混合気とリッチ混合気とが偏在する状況下において燃焼を開始させる点に特徴を有する。
【0023】
ここで従来装置の予混合燃焼について簡単に述べると、スモーク低減のために圧縮工程中の早期に燃料噴射を実行して、均一な予混合気を形成し圧縮上死点近傍で着火燃焼させるという均一予混合燃焼、いわゆるHCCIが提案されている。この燃焼方法ではシリンダ内が低圧で燃料噴霧のペネトレーションが相対的に強く、かつピストンが下降している時期に、ピストンキャビティの外に燃料噴射が行われるため、シリンダ内壁に燃料噴霧が直接衝突し付着してしまう。このため、燃料による潤滑油の希釈、未燃燃料(HC)や不完全燃焼に伴うCO排出増加などの問題が生じる。また、予混合気の着火燃焼時期が不安定となり、着火の際には急激な燃焼となるため、燃焼騒音が増大するという問題がある。
【0024】
また、少量の燃料を主噴射前の上死点近傍でパイロット噴射させて上死点後に予混合燃焼させ、パイロット噴射燃料の燃焼後の膨張行程で、本来圧力、温度が低下して主噴射だけでは燃焼が安定せず、失火するような時期に主噴射燃料を噴射する燃焼方法も提案されている(特許第3613666号公報参照)。この燃焼方法では、パイロット燃料の燃焼後の圧縮上死点後に主噴射を実行するため、パイロット燃料の燃焼によって燃焼室内の温度は上昇するものの、吸気酸素濃度が低下して着火性も相殺されやすい。また本来圧力、温度が低下して主噴射だけでは燃焼が安定せず、失火するような時期に主噴射燃料を噴射するため、噴射時期や燃焼室内温度変動に対する主噴射の着火感度が大きく、噴射時期が変動して遅角したり、吸気温度が低下したりすると簡単に失火して燃焼制御が困難になるという問題がある。
【0025】
一方、燃焼効率を高め、かつ予混合燃焼速度を適正化して急激燃焼による振動騒音の増加を防ぐために、燃料噴射を圧縮工程の早期に1回もしくは複数回実行される早期噴射と、早期噴射終了後の圧縮上死点付近での主噴射とに分割して燃料噴射を実行し、早期噴射による熱発生が終了した後に主噴射による熱発生を生じさせるという燃焼方法が提案されている(特開2004−218612号、特開2003−286879号、特開2004−176593号公報参照)。
【0026】
しかしながら、早期噴射を行う場合には、噴射された燃料が直ぐに着火しないように、シリンダ内が低圧で温度が低い状態で早期噴射が行われるが、早期噴射された燃料と主噴射された燃料の燃焼室内における当量比(混合気濃度)分布を適正にして、かつそれぞれの噴射燃料の着火時期または着火領域を適正にしないかぎり、熱効率を高く維持しつつ燃焼速度を適正化して急激燃焼による振動騒音の増加を防ぐことができないことが分かった。
【0027】
早期噴射された燃料は主噴射に先立って予混合燃焼しやすいが、熱効率を高くするためには、早期噴射と主噴射による熱発生は圧縮上死点から開始させるのが望ましい。早期噴射による燃焼が圧縮上死点前に早期に発現する場合(比較的吸入ガスの酸素濃度が高いか、またはガス温度が高い場合)、早期噴射燃料の燃焼による燃焼室内温度の上昇によって、あるいは早期噴射燃料の燃焼火炎中に主噴射燃料が突入されることによって、主噴射燃料の着火燃焼が促進される。このため、熱効率が低下するだけでなく主噴射燃料の拡散燃焼度が高くなりスモークが増加する。
【0028】
この逆に、早期噴射と主噴射による燃焼が圧縮上死点後に発現する場合に、比較的吸入ガスの温度や酸素濃度が低い場合には、主噴射終了から主噴射燃料の燃焼開始までの予混合期間が長期化して主噴射燃料のリーン化も進み、着火の際には当量比分布がほとんど消失してしまい予混合比率の高い急峻な燃焼となるため燃焼騒音がほとんど低下できないという問題がある。あるいは過渡にリーン化が進んだ場合には主噴射された燃料の着火燃焼時期が不安定となり、このため失火による未燃燃料(HC)の排出や、不完全燃焼に伴うCO悪化などの問題が生じることが分かった。
【0029】
従って、着火時期における熱効率を高く維持しつつ燃焼速度を適正化して急激燃焼による振動騒音の増加を防ぎ、またHCやCO等の未燃成分やスモークの発生を減少させるためには、早期噴射燃料と主噴射燃料の予混合期間または着火時期を制御して、早期噴射燃料を主噴射前に燃焼させないこと、また、主噴射終了から主噴射燃料の燃焼開始までの予混合期間が長期化して主噴射燃料のリーン化が進み過ぎないようにすることが必要、つまり、着火時期における燃焼室内の当量比(混合気濃度)分布を適正化する必要がある。
【0030】
そこで本発明者が、主噴射に先立つ燃料噴射を従来装置では考えられない範囲にまで進角させて実験を行い、また主噴射の噴射時期を圧縮上死点TDCを中心にして進角側や遅角側にばらつかせ、熱発生率(HRR)と燃焼質量割合(Mass Burnt)とを用いた燃焼解析を行った結果、満足のいく新たな予混合燃焼を見出すに至ったのである。
【0031】
なお、上記の「早期噴射」では考えられない進角側の時期で行わせる燃料噴射を「先行噴射」として定義する。すなわち、「先行噴射」と上記の「早期噴射」とは、主噴射に先立つ燃料噴射である点で同じであるが、噴射時期が「早期噴射」では考えられない進角側の時期である点で相違し、かつ後述するように、主噴射量に対する先行噴射量の割合が、主噴射量に対する早期噴射量の割合よりも数倍大きい点でも、「早期噴射」と相違する。
【0032】
この新たな予混合燃焼を図2を参照して説明する。主噴射に先立つ先行噴射(図では「1st Inj.」と表記)では、予備燃焼の混合気を形成するだけでなく、主噴射の燃焼の際の燃焼騒音低減に寄与するリーン混合気をも形成するため、従来装置での予備燃焼目的の早期噴射の噴射量(例えば10%程度)よりも多い燃料(例えば20〜40%)を噴射する。
【0033】
先行噴射燃料による圧縮上死点TDC付近の混合気の多くが燃え易い当量比にならないようにする、つまり予備燃焼を生じる一部の混合気だけを燃え易い当量比とするため、従来装置での予備燃焼目的の早期噴射の噴射時期(例えばBTDC30°より遅い時期)よりもかなり早い時期(例えばBTDC30°以前)に先行噴射を行う。
【0034】
一方、あまりに早い時期に先行噴射を行うと、圧縮上死点TDC付近で先行噴射により形成される混合気が燃焼室内の全体に拡散し過ぎて(希薄化し過ぎて)燃焼が起こらなくなったり、先行噴射の噴射時期から圧縮上死点TDCになるまでの時間が長く、先行噴射時の燃焼室内圧力が低いことから燃料噴霧のペネトレーションが強くなって、燃料噴霧がボア壁に付着したりして、未燃HCが多くなるので、早い時期にするにしても限界がある。従って、この限界から先行噴射の噴射時期は圧縮上死点前(BTDC)60°以後を考えている。従って、図2に示したように、先行噴射の噴射時期を圧縮上死点前(BTDC)60°以後かつ圧縮上死点前(BTDC)30°以前に設定する。
【0035】
このように、先行噴射量は、従来装置での予備燃焼目的の早期噴射量より数倍多いのであるが、この大量の先行噴射燃料を、主噴射(図では「Main Inj.」と表記)を噴き終えるほどの遅い時期(圧縮上死点TDCを過ぎる時期)まで燃焼させないようにするため、従来装置での予備燃焼目的の早期噴射時の酸素濃度(例えば17〜18%程度)より大幅に低下させた酸素濃度(例えば12〜15%)(第1所定値)とする。
【0036】
予混合化させるために主噴射も圧縮上死点TDC前までに噴き終える。特に熱発生を圧縮上死点TDC付近から発生させる(予備燃焼の山が圧縮上死点TDC付近から始まる)と、燃焼騒音が下がり、スモークが改善するという知見を得ている。熱発生を圧縮上死点TDC付近から発生させるには、主噴射を圧縮上死点TDC付近で噴き終える(先行噴射の最適噴射時期も変化することになる)。すなわち、図2に示したように、主噴射の噴射終了時期が圧縮上死点TDCの直前にくるようにする。図3に圧縮上死点TDCの直前で主噴射を行ったときの燃焼室内の様子を示す。
【0037】
次に、新しい予混合燃焼の作用を説明する。
【0038】
先行噴射燃料によるリーン混合気の中では比較的拡散・予混合の遅れている一部の燃え易い当量比のリーン混合気と、主噴射燃料の中で比較的拡散・予混合の進んだ一部の燃えやすい当量比の混合気がTDC付近で低温酸化反応を生じて予備燃焼を形成する。
【0039】
これによって燃焼室内の温度と圧力が上昇すると、主噴射燃料によるリッチ混合気の高温酸化反応が始まる。予備燃焼が終了する頃には、主噴射燃料は燃焼室内における拡散・予混合も進んでいるため比較的燃え易い当量比のリッチ混合気となって、高温酸化反応(拡散的燃焼)を生じ始める。
【0040】
主噴射燃料によるリッチ混合気の高温酸化反応(拡散的燃焼)は、予備燃焼で燃焼しなかった残りのリーン混合気の燃焼(予混合的燃焼)をも生じさせるので、主燃焼はこれらリッチ混合気の燃焼とリーン混合気の燃焼、すなわち拡散的燃焼と予混合的燃焼が混在して構成される。
【0041】
主燃焼を構成する主噴射燃料はリッチ混合気であって拡散的燃焼が主体となるが、比較的拡散・予混合化が進んでいるのでスモークを抑えることができる。また拡散的燃焼が主体であるため燃焼の急峻性、すなわち燃焼騒音も緩和される。
【0042】
その一方で、主燃焼を構成するもう1つの混合気である先行噴射によるリーン混合気は燃焼が穏やかであり、これらが併存することで全体としても燃焼騒音を低下させ、燃焼温度も低下するのでさらにNOxを低減させる。
【0043】
そして、リッチ混合気の燃焼に伴いリーン混合気の燃焼が促され、リーン混合気の燃え残りによる未燃HC排出という問題を招くこともない。
【0044】
つまり、先行噴射燃料によるリーン混合気の中では比較的拡散・予混合の遅れている一部の燃え易い当量比のリーン混合気と、主噴射燃料の中で比較的拡散・予混合の進んだ一部の燃えやすい当量比の混合気によって、圧縮上死点TDC付近で低温酸化反応を生じて予備燃焼を生じさせ、その後、燃焼室内で拡散・予混合の進んだ主噴射によるリッチ混合気と予備燃焼に使われず残った先行噴射によるリーン混合気とで主燃焼を行わせるのである。
【0045】
このような新しい予混合燃焼によれば、次の効果が得られる。
【0046】
新しい燃焼形態では、NOxを低下させるため吸気酸素濃度を大幅に低下させた際、ストイキをはさんで当量比を濃淡分布させた上で着火する(燃焼が始まる)ようにしたので、リッチ混合気が確実に着火して、着火不良による未燃HCを低減することができる。
【0047】
一方、リーン混合気を分布させるための先行噴射を早期(かなり早い時期)に行なうことによって、先行噴射による混合気が圧縮上死点前に燃え易い当量比になるのを防ぎ、先行噴射燃料が早い時期に着火して主噴射の噴射時期に火種になるのを抑え、主噴射燃料の拡散的な燃焼を抑制することができる。
【0048】
吸気酸素濃度は大幅に低下しているので、予混合燃焼するリッチ混合気の燃焼急峻性を緩和することができ、さらにリッチ混合気とリーン混合気とが並存するため、リッチ混合気の予混合燃焼が急峻であっても、リーン混合気の緩慢な燃焼がトータルとしての燃焼の急峻性を抑えて燃焼騒音を低減することができる。
【0049】
その一方で、リーン混合気の燃焼が不完全になる傾向があるが、リッチ混合気の比較的急峻な燃焼が相殺して(リーン混合気の燃焼を促進させるため)燃焼が不完全になるのを防止することができる。
【0050】
さて、新しい予混合燃焼は全ての運転域で実現できるわけでなく、図4に示したように一部の運転領域に限られる。すなわち、エンジン回転数Neとエンジン負荷(例えばアクセル開度Acc)とをパラメータとして、運転領域を低負荷側から大きくA領域、B領域、C領域、D領域の4つに分割し、最も低負荷側のA領域を通常燃焼許可領域、B領域をEGR許可領域でかつ予混合燃焼許可領域、C領域をEGR許可領域でかつ通常燃焼許可領域、D領域をEGR不許可領域でかつ通常燃焼許可領域として定める。ここで、「通常燃焼」とは、従来のディーゼル燃焼、つまり拡散燃焼を主体とする燃焼(以下「拡散燃焼」という。)(第2の燃焼形態)のことで、「予混合燃焼」が上記で説明した新しい予混合燃焼のことである。このように、新しい予混合燃焼はB領域でだけ行う。B領域では吸気酸素濃度をEGR制御によって制御することが可能であるため、EGR制御によってB領域での吸気酸素濃度が上記の第1所定値aとなるように制御する。
【0051】
図4に示す縦軸のエンジン負荷[%]を選るには、次のようにすればよい。すなわち、アクセル開度Acc[deg]とスロットル開度TVO[deg]とは1:1に対応させている(アクセルペダルを踏み込んでいないときのアクセル開度がアイドル時のスロットル開度に、アクセルペダルを一杯まで踏み込んだときのアクセル開度が全開時のスロットル開度に対応する)ので、現在のアクセル開度Acc[deg]を最大アクセル開度[deg]で除した値を%表示に変えば、縦軸のエンジン負荷[%]を得ることができる。横軸のエンジン回転数[%]を得るには、現在のエンジン回転数Ne[rpm]を最大回転数[rpm]で除した値を%表示に変えばよい。なお、横軸をエンジン回転数Ne[rpm]、縦軸をアクセル開度Acc[deg]とする運転領域図でもかまわない。
【0052】
エンジンコントロールユニット30によって行われる本発明の燃焼制御を図5のフローチャートを参照して説明する。
【0053】
ステップ1では、筒内圧力CP、吸入空気量Qair、吸入空気温度Tair、吸入空気圧力Pair、水温Tw、エンジン回転数Ne、気筒判別信号Cyl、コモンレール圧力Pcr、燃料温度Tf、アクセル開度Acc、吸入ガス温度Tgas、EGRガス温度Tegr、排気酸素濃度O2exhに対応する信号をそれぞれ読み込む。
【0054】
ステップ2では、エンジン回転数Ne、アクセル開度Accおよび水温Tw等から現在の回転数と負荷、エンジンの温度状態を検出する。
【0055】
ステップ3では、コモンレールによる燃料噴射の目標値を算出し、燃料噴射弁15の駆動制御を実行する。このため、まず圧力制御を行うが、コモンレール圧力制御は、エンジン回転数Neと負荷Accとをパラメータとして、エンジンコントロールユニット30のROMに予め記憶されている所定のマップを検索することによりコモンレール14の目標基準圧力PCR0を求め、この目標基準圧力PCR0が得られるように圧力制御弁13のフィードバック制御を実行する。
【0056】
そして燃料の噴射時期制御を行う。例えばエンジン回転数Neと負荷Accをパラメータとして、パイロット噴射の燃料噴射量Qpilot、主噴射の燃料噴射量Q main、コモンレール圧力(噴射圧力)PCR、パイロット噴射の噴射期間P period、主噴射の噴射期間M period、主噴射の噴射開始時期MIT、パイロット噴射の噴射開始時期PIT等を、エンジンコントロールユニット30のROMに予め記憶されている所定のマップデータを検索してそれぞれ求める。そして、パイロット噴射の燃料噴射量Qpilot、主噴射の燃料噴射量Q mainが供給されるように、クランク角度センサ32のクランク角度信号およびクランク角度センサ33の気筒判別信号Cylに基づいて、パイロット噴射の噴射開始時期PITよりパイロット噴射の噴射期間P periodのあいだ及び、主噴射の噴射開始時期MITより主噴射の噴射期間M periodのあいだ、噴射すべき気筒の燃料噴射弁15を開弁駆動する。
【0057】
ここで、上記パイロット噴射の燃料噴射量Qpilotには、B領域で行う先行噴射の噴射量を、上記パイロット噴射の噴射期間P periodには、B領域で行う先行噴射の噴射期間を、上記パイロット噴射の噴射開始時期PITには、B領域で行う先行噴射の噴射開始時期を含めている。これは、A領域、C領域、D領域うち少なくともC領域でパイロット噴射を行い、B領域で上記の先行噴射を行うのであるが、パイロット噴射を主噴射に先立って行う燃料噴射であると定義すれば、先行噴射もパイロット噴射であるため、先行噴射もパイロット噴射として含めたものである。そして、制御上は、マップよりB領域で検索したパイロット噴射の制御量(噴射量、噴射期間、噴射開始時期)を先行噴射の制御量(噴射量、噴射期間、噴射開始時期)として扱うことになる。
【0058】
ステップ4では、エンジン回転数Neと、エンジン負荷としてのアクセル開度Accとから定まる運転条件が、図4に示すように、予め定められた通常燃焼許可領域(A領域)、EGR許可領域でかつ予混合燃焼許可領域(B領域)、EGR許可領域でかつ通常燃焼許可領域(C領域)、EGR不許可領域でかつ通常燃焼許可領域(D領域)のいずれの領域にあるかを判定する。
【0059】
この判定の結果、運転条件がEGR許可領域でかつ予混合燃焼許可領域(B領域)にあるときだけステップ5に進み、主噴射の予混合制御期間(MPI:主噴射終了と主噴射の燃焼開始との間隔)を検出する。図2に示すように、新しい予混合燃焼では噴射すべき大部分の燃料が噴射された後に、先行噴射の熱発生と主噴射の低温酸化反応が同時に発現し、引き続き主噴射の主燃焼(高温酸化反応)が発現する。すなわち先行噴射によって形成されたリーンな混合気と主噴射によって形成された比較的リッチな混合気とが2つに分かれて混在する状態で着火・燃焼が開始される。言い換えると、予混合制御期間の検出値が予混合制御期間の目標値と一致していれば、新しい予混合燃焼を実現することができる。
【0060】
ここで、主噴射の燃焼開始タイミングを判定する方法としては、図6に示すように筒内圧力CPの燃焼室内圧力2回微分値dP2/dθ2[kPa/deg2]を用いることができる。例えば、図6のように燃焼室内圧力2回微分値が一度負の値となってから再度上昇しゼロ点をクロスするポイントを主噴射の燃焼開始タイミングであると定義して検出する。このようにして主噴射の燃焼開始タイミングを検出することができる。
【0061】
主噴射の燃焼開始タイミングを検出するためのパラメータは燃焼室内圧力2回微分値dP2/dθ2に限定されるものでない。例えば、燃焼室内圧力2回微分値dP2/dθ2に代えて、図2に示した主噴射の主燃焼熱発生率の上昇開始時期dQ/dθ[J/deg]を用いることもできる。この場合にはスライスレベルを設定してスライスレベルのクロスポイントを主噴射の燃焼開始タイミングと定義して検出するのが望ましい。
【0062】
一方、主噴射の噴射終了タイミングは主噴射開始時期MITより主噴射期間M periodの期間が経過したタイミングであり、主噴射開始時期MITと主噴射期間M periodとから求めることができる。
【0063】
ここで、先行噴射の燃料量と先行噴射の噴射開始時期とは簡単は一定値でよいが、先行噴射によるリーン混合気の形成を増加させて燃焼騒音低減効果を高めるため、先行噴射の燃料量は図7に示すように負荷の増大に伴って増加させ、また図8に示すように先行噴射の噴射開始時期を負荷の増大に伴って早めるのが望ましい。また先行噴射は、HCCI燃焼のようにシリンダ内壁に燃料噴霧が直接衝突し付着してしまうような早期に燃料噴射が実行されることは無く、かつ従来の拡散燃焼を基本とするパイロット噴射のように主噴射に近づけて噴射されることも無い。先行噴射の噴射開始時期は先行噴射燃料の殆どがピストンキャビティ内に噴射されるタイミングで行われるのが望ましいが、シリンダ内壁への燃料噴霧の衝突をより確実に防止するため、先行噴射の噴射回数を負荷の増大に伴って増加させてペネトレーションを低下させることも有効である。
【0064】
ステップ6では、予混合制御期間の目標値を算出する。つまり、主噴射燃料の着火時期において、燃焼室内に適度にリーン化された先行噴射燃料の混合気とリーン化されすぎない主噴射燃料の混合気とが2つに分かれて混在するように、予め実験等で求めた予混合制御期間の目標値を、エンジン回転数Neと、エンジン負荷としてのアクセル開度Accとをパラメータとして、エンジンコントロールユニット30のROMに予め記憶させておいたマップデータから検索して求める。
【0065】
検出した予混合制御期間が予混合制御期間目標値と一致していなければ、新しい予混合燃焼を実現することができないので、ステップ7では、検出した予混合制御期間と算出した予混合制御期間目標値との偏差(dMPI)に基づいて着火時期制御を行うことにより新しい予混合燃焼を実現する。具体的には、予混合制御期間検出値が予混合制御期間目標値がよりも長い場合に、着火時期を早めて予混合制御期間を目標値に合わせる。その逆に、予混合制御期間検出値が、予混合制御期間目標値がよりも短い場合には、着火時期を遅らせて予混合制御期間を目標値に合わせる。
【0066】
着火時期を可変制御する手段としては、燃料の噴射時期や噴射圧力を制御したり、吸入ガスの温度や圧力、あるいは圧縮比等を可変制御して圧縮端温度を制御する方法、吸気酸素濃度や残留ガス割合を可変制御する方法があり、これらのいずれかの方法を採用することによって着火時期を任意に制御することが可能である。
【0067】
これで本発明の前提となる新しい予混合燃焼の説明を終える。
【0068】
さて、上記の図4において運転条件がC領域(EGR許可領域でかつ通常燃焼許可領域)からB領域(EGR許可領域でかつ予混合燃焼許可領域)へと切換わる場合に、燃焼騒音が悪化することが判明している。これを解析したところを図9、図10に従って説明する。
【0069】
図9の上段、中段、下段にはC領域からB領域の切換時にパイロット噴射量、EGR率、吸気酸素濃度がどのように変化するのかを示している。また、上段のさらに上部に燃焼形態と運転領域とを示している。
【0070】
運転条件がC領域からB領域へと切換わるのは、t1のタイミングであるので、このt1のタイミングで吸気酸素濃度をC領域での拡散燃焼に最適な値である第2所定値bからB領域での新たな予混合燃焼に最適な値である第1所定値aへとステップ的に低下させる必要がある。ここで、B領域ではEGR弁5(EGR装置)により吸気酸素濃度を調整し得るので、B領域での新たな予混合燃焼に最適な吸気酸素濃度である第1所定値aが得られるように、B領域での目標EGR率eを予め定めている。このため、運転条件がC領域からB領域に切換わるt1のタイミングで、目標EGR率を図9に一点鎖線で示したように、C領域での目標EGR率fからB領域での目標EGR率eへとステップ的に切換えている。
【0071】
しかしながら、エンジンコントロールユニット30からEGR弁アクチュエータ(ステッピングモータ)に目標EGR率eが得られるまでEGR弁5を閉じるように指令しても、指令を受けてから実際にEGR弁5が閉じるまでに応答遅れがある。仮にEGR弁5が応答遅れなく閉じたとしても、EGR弁5から燃焼室までに配管の容積があるため、図9に実線で示したように実際のEGR率は遅れて変化するのであり、t3のタイミングで実際のEGR率が目標EGR率eに到達している。吸気酸素濃度は実際のEGR率に応じて変化するので、図9に実線で示したように実際のEGR率の変化に対応して連続的に減少し、t3のタイミングで第1所定値aに到達する。すなわち、吸気酸素濃度はEGR弁5の応答性や配管の容積などの影響により、t1のタイミングで第2所定値bから第1所定値aへとステップ的に変化し得ず、第1所定値aに向かって徐々に低下し、t3のタイミングでやっと第1所定値aに到達する。
【0072】
図10は、吸気酸素濃度が第2所定値bから第1所定値aまでの吸気酸素濃度に対して、燃焼騒音、予混合比率がどのように変化するのかを実験しまとめた結果である。ここで、予混合比率とは、主噴射燃料の着火タイミングまでに燃焼室内に噴かれている燃料の量を、先行噴射の燃料量と主噴射の燃料量の合計である総燃料量で除した値をパーセントに換算した値である。この予混合比率は吸気酸素濃度が小さくなるほど大きくなっている。
【0073】
一方、燃焼騒音は、吸気酸素濃度が第2所定値bから小さくなるほど大きくなって第3所定値cのときピークをとり、それからは吸気酸素濃度が第1所定値aに向かって小さくなるほど急激に小さくなっている。この第3所定値cを図9に移してみると、t2のタイミングで吸気酸素濃度が第3所定値cに到達することとなる。すると、図9においては、B領域に切換わるt1のタイミングから燃焼騒音が徐々に大きくなってt2のタイミングでピークを採り、t2のタイミングからは燃焼騒音が低下し、吸気酸素濃度が第1所定値aに到達するt3のタイミングで燃焼騒音が無視できるレベルになる、と解析される。すなわち、図10に示したように、第2所定値bより第3所定値cまでの範囲で吸気酸素濃度が減少するほど大きくなり、第3所定値cを過ぎて吸気酸素濃度が減少するほど今度は小さくなる特性の燃焼騒音を防止するには、図9に実線で示したように、B領域への切換タイミングで与えるパイロット噴射量を初期値とし、第2所定値bから第3所定値cまで吸気酸素濃度が低下するほどパイロット噴射量を初期値から増やしてゆき、第3所定値cから第1所定値aまで吸気酸素濃度が低下するほど今度は第3所定値cのときのパイロット噴射量を初期値としてパイロット噴射量をこの初期値から減少させ、吸気酸素濃度が第1所定値aに到達するt3のタイミングでゼロとすることである。
【0074】
B領域への切換タイミングで与えるパイロット噴射量を初期値として、第2所定値bから第3所定値cまでの範囲で吸気酸素濃度が低下するほどパイロット噴射量を初期値から増やしてゆくのは、吸気酸素濃度が第3所定値cに向かって低下するほど燃焼騒音が大きくなるためである。また、第3所定値cから第1所定値aまでの範囲で吸気酸素濃度が低下するほど今度は第3所定値cのときのパイロット噴射量を初期値としてパイロット噴射量をこの初期値から減らしてゆくのは、吸気酸素濃度が第1所定値aに向かって低下するほど燃焼騒音が小さくなるためである。ここでのパイロット噴射の役割は、種火としての役割を果たさせるものである。すなわち、拡散燃焼における予混合気が急激に燃焼することによって燃焼騒音が生じるのであるから、拡散燃焼における予混合気が急激に燃焼する前に種火を作り、これによって、拡散燃焼における予混合気が急激に燃焼しないようにし、燃焼騒音を防止するのである。このように、本発明によれば、図10に示した燃焼騒音の特性に従って、吸気酸素濃度が第2所定値bから第1所定値まで低下する移行期間でのパイロット噴射を行うことで、移行期間の全体にわたって燃焼騒音を防止できることになった。
【0075】
これに対して、予混合燃焼領域への切換時の燃焼騒音の悪化を防止するため、吸気酸素濃度が予混合燃焼に最適な吸気酸素濃度に到達するまでの移行期間で実際のEGR率が増加するほどパイロット噴射量を減少させるようにする従来装置がある。しかしながら、この従来装置を本発明の対象としている移行期間にそのまま適用したのでは、燃焼騒音の悪化を効果的に防止することができない。すなわち、従来装置を本発明の対象としている移行期間にそのまま適用すると、パイロット噴射量の特性は図9に一点鎖線で示したようになり、実EGR率が増えるほどパイロット噴射量を減少することとなる。しかしながら、図10に示した燃焼騒音の特性によれば、図9において吸気酸素濃度が第2所定値bから第3所定値cまで低下するあいだ燃焼騒音が増大してゆくので、これに対応するには本発明のようにパイロット噴射量を増やしてゆかなければならないところ、従来装置では、この逆にパイロット噴射量を減らしてゆくのであるから燃焼騒音を効果的に抑制できないのである。
【0076】
また、本発明では、運転条件がB領域に切換わるt1のタイミングで新しい予混合燃焼へと切換えるのではなく、t1のタイミング以降もC領域での拡散燃焼をそのまま継続し、吸気酸素濃度が第1所定値aに到達するt3のタイミングでC領域での拡散燃焼から新しい予混合燃焼に切換える(図9参照)。
【0077】
次に、エンジンコントロールユニット30で実行されるこの制御内容を図11、図12、図13のフローチャートを参照して詳述する。
【0078】
まず、図11は移行フラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
【0079】
ステップ11では、エンジン負荷としてのアクセル開度Accと、エンジン回転数Neとを読み込み、ステップ12でエンジン負荷とエンジン回転数から定まる運転条件が、図4で示したC領域からB領域に切換わったか否かをみる。運転条件がC領域からB領域に切換わったタイミングになければそのまま今回の処理を終了する。
【0080】
一方、運転条件がC領域からB領域に切換わったときには、ステップ12からステップ13に進んで移行フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)=1とする。なお、運転条件がC領域からB領域に切換わったタイミングで図示しないEGR制御ルーチンにおいて目標EGR率がC領域での目標EGR率fからB領域での目標EGR率eへとステップ的に大きくなる(図9の一点鎖線参照)。
【0081】
図12は吸気酸素濃度が第2所定値bから減少して第1所定値aに落ち着くまでの期間である移行期間でパイロット噴射量を設定するためのもので、図11に続けて一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
【0082】
ステップ21では移行フラグ(図11により設定済み)をみる。移行フラグ=0であるときには、そのまま今回の処理を終了する。
【0083】
一方、移行フラグ=1であるときには、移行期間にあると判断し、ステップ21よりステップ22に進んで吸気酸素濃度センサにより検出される吸気酸素濃度O2intを読み込む。ここで、吸気酸素濃度O2intを検出するため、吸気酸素濃度センサを吸気コレクタ20bに設けておく。
【0084】
ステップ23では、吸気酸素濃度O2intと第3所定値cを比較する。第3所定値cは、移行期間中に燃焼騒音がピークを採るときの吸気酸素濃度である。第3所定値cは適合により予め定めておく。吸気酸素濃度O2intが第3所定値cより大きいときには、ステップ24に進み、移行フラグ=1となる直前のC領域でのパイロット噴射量を初期値としてパイロット噴射量を増量する。例えば、C領域でのパイロット噴射量をPiQ0とすると、B領域に切換わった初回(移行開始タイミング)はこれに増量係数αを乗算した値をパイロット噴射量として、つまり
PiQ=α×PiQ0 …(1)
の式により移行開始タイミングでのパイロット噴射量PiQを計算し、その後は、
PiQ=α×PiQ(前回) …(2)
ただし、PiQ(前回):PiQの前回値、
の式によりパイロット噴射量PiQを増量側に更新する。上記(1)式、(2)式の増量係数αは1より大きな値であり予め適合しておく。
【0085】
吸気酸素濃度O2intが第3所定値cより大きいときにはステップ24を繰り返す、つまり増量係数αを用いて上記(2)式を繰り返すことで、パイロット噴射量PiQが増えてゆく。
【0086】
やがて、ステップ23で吸気酸素濃度O2intが第3所定値c以下になるとステップ25に進み、吸気酸素濃度O2intと第1所定値aを比較する。第1所定値aは、B領域での燃焼に最適に最適な吸気酸素濃度である。すなわち、前述したように第1所定値aは、主噴射が終了するまで低温酸化反応が生じないような吸気酸素濃度で、予め定めている。吸気酸素濃度O2intが第1所定値aより大きいときにはステップ26に進み、吸気酸素濃度が第3所定値c以下となる直前のタイミングでのパイロット噴射量を初期値としてパイロット噴射量を減量する。例えば、前回のパイロット噴射量に減量係数βを乗算した値をパイロット噴射量として、つまり
PiQ=β×PiQ(前回) …(3)
ただし、PiQ(前回):PiQの前回値、
の式によりパイロット噴射量PiQを減量側に更新する。上記(3)式の減量係数βは1より小さな正の値で予め適合しておく。
【0087】
吸気酸素濃度O2intが第2所定値bより大きいときにはステップ26を繰り返す、つまり減量係数βを用いて上記(3)式を繰り返すことで、パイロット噴射量PiQが減少してゆく。
【0088】
やがて、ステップ25で吸気酸素濃度O2intが第2所定値b以下になると移行期間が終了した、つまりこれ以上パイロット噴射を行うのは不要であると判断し、ステップ27に進んでパイロット噴射量PiQ=0とすると共に、移行フラグ=0とする。ステップ29では燃焼形態切換フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)=1とする。
【0089】
実施形態では、吸気酸素濃度が第3所定値cより大きいか小さいかによってパイロット噴射を増量してゆくのか減量してゆくのかを定めているが、これに限られない。例えば、吸気酸素濃度と実EGR率とは1:1に対応するので、図9に示したように、第3所定値cに対応する実EGR率gを求めることができる。この第3所定値cに対応する実EGR率gを第3所定値gとすれば、実EGR率とこの第3所定値gを比較し、実EGR率が第3所定値gより小さい場合に、パイロット噴射量を増量してゆき、実EGR率が第3所定値g以上となればパイロット噴射量を減量してゆけばよい。また、実EGR率がB領域での目標EGR率eに到達したとき、移行期間の終了であると判定する。
【0090】
ここで、実EGR率としては目標EGR率の荷重平均値を用いるか、次のようにして推定する。すなわち、EGR弁5の開度と、EGR弁5の前後差圧から図14を内容とするマップを検索することによりEGR弁5を流れるEGRガス流量を算出し、このEGRガス流量と、エアフローメータ7により検出される新気流量との比を実EGR率として求める。
【0091】
図13はB領域に切換わった後もC領域での拡散燃焼を継続し、移行期間が終了したタイミングで新しい予混合燃焼に切換えるためのもので、図12に続けて一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。なお、図13は運転条件がC領域からB領域へと切換わった後に実行するものとする。
【0092】
ステップ31ではエンジン負荷としてのアクセル開度と、エンジン回転数とから定まる運転条件がB領域にあるか否か、ステップ32では燃焼形態切換フラグ(図12により設定済み)=1であるか否かをみる。運転条件がB領域にないときにはそのまま今回の処理を終了する。
【0093】
運転条件がB領域にあっても燃焼形態切換フラグ=0であればまだ移行期間が終了していないと判断し、ステップ33に進んで、C領域での拡散燃焼を実行する。運転条件がB領域にありかつ燃焼形態切換フラグ=1であれば移行期間が終了したと判断し、ステップ34に進んで、新しい予混合燃焼を実行する。すなわち、運転条件がB領域に切換わったからといって直ぐに新しい予混合燃焼を実行するのではなく、移行期間中はC領域での拡散燃焼を継続し、移行期間の終了後に新しい予混合燃焼を実行する。
【0094】
そして、移行期間が終了するまでC領域での拡散形態を行いつつ図12で設定した移行期間でのパイロット噴射量PiQを用いて主噴射に先立つパイロット噴射を行わせる。なお、図9においてt1のタイミングまでC領域での拡散燃焼が行われるが、この拡散燃焼を実現するためのパイロット噴射は上記の図5に従って行われ、t1のタイミングからt3のタイミング直前までは、パイロット噴射の噴射時期はそのままでパイロット噴射の噴射量が図12で設定した移行期間でのパイロット噴射量PiQに置き換わってパイロット噴射が行われることになる。
【0095】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0096】
本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、吸気酸素濃度センサ(吸気酸素濃度検出手段)と、EGR弁5(吸気酸素濃度調整装置)とを備え、B領域(第1の運転領域)でこのEGR弁5を用いて吸気酸素濃度を相対的に小さい第1所定値aとした状態で予混合燃焼(第1の燃焼形態)を行わせ(図5のステップ1〜3参照)、B領域に隣接するC領域(第2の運転領域)でEGR弁5を用いて吸気酸素濃度を第1所定値aよりも大きい第2所定値bとした状態で拡散燃焼(第2の燃焼形態)を行わせ(図5のステップ1〜3参照)、C領域からB領域に切換わった場合に、検出される吸気酸素濃度が減少して第2所定値bと第1所定値aとの間にある第3所定値cに到達するまでは増量されるようにかつその後には吸気酸素濃度が減少するほど減量されるように、パイロット噴射の燃料噴射量を設定し(図12のステップ21〜28参照)、この設定されたパイロット噴射量を用いてパイロット噴射を行う(図13のステップ31、32、33参照)ので、吸気酸素濃度が第2所定値bから減少して第1所定値aに到達するまでの移行期間で吸気酸素濃度が減少するほど増加してピークをとり、その後に減少する燃焼騒音特性であっても燃焼騒音を効率良く低減することができる。
【0097】
本実施形態(請求項2に記載の発明)によれば、吸気酸素濃度が第2所定値bから減少して第1所定値aに到達するまでの移行期間で拡散燃焼(第2の燃焼形態)を継続し、吸気酸素濃度が第1所定値aに到達したとき、予混合燃焼(第1の燃焼形態)に切換えるので(図13のステップ31、32、33、ステップ31、32、34参照)、C領域(第2の運転領域)からB領域(第1の運転領域)に切換わったタイミングで予混合燃焼(第1の燃焼形態)に切換える場合よりも燃焼騒音の悪化を抑制できる。
【0098】
本実施形態(請求項3に記載の発明)によれば、吸気酸素濃度調整装置はEGR率を調整し得るEGR弁5であり、吸気酸素濃度推定手段は吸気酸素濃度を実際のEGR率に基づいて推定するので、吸気酸素濃度を直接検出せずとも吸気酸素濃度を推定することができる。
【0099】
本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、第1所定値aは、主噴射が終了するまで低温酸化反応が生じないような吸気酸素濃度であり、圧縮工程中に主噴射に先立つ先行噴射を行った後、主噴射を行って、リーン混合気とリッチ混合気とを偏在させた予混合気を形成したところで燃焼を開始させるので、NOxを低下させるため吸気酸素濃度を大幅に低下させた状態でもリッチ混合気が確実に着火して、着火不良による未燃HCを低減することができる。
【0100】
一方、本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、リーン混合気を分布させるための先行噴射を早期(かなり早い時期)に行なうことによって、先行噴射による混合気が圧縮上死点前に燃え易い当量比になるのを防ぎ、先行噴射燃料が早い時期に着火して主噴射の噴射時期に火種になるのを抑え、主噴射燃料の拡散的な燃焼を抑制することができる。
【0101】
本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、吸気酸素濃度は大幅に低下しているので、予混合燃焼するリッチ混合気の燃焼急峻性を緩和することができ、さらにリッチ混合気とリーン混合気とが並存するため、リッチ混合気の予混合燃焼が急峻であっても、リーン混合気の緩慢な燃焼がトータルとしての燃焼の急峻性を抑えて燃焼騒音を低減することができる。
【0102】
その一方で、本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、リーン混合気の燃焼が不完全になる傾向があるが、リッチ混合気の比較的急峻な燃焼が相殺して(リーン混合気の燃焼を促進させるため)燃焼が不完全になるのを防止することができる。
【0103】
本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、主噴射を圧縮上死点の直前で噴き終えるので、燃焼騒音が下がるだけでなくスモークをも低減できる。
【符号の説明】
【0104】
1 エンジン
5 EGR弁(吸気酸素濃度調整装置)
15 燃料噴射弁
30 エンジンコントロールユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気酸素濃度を検出または推定する吸気酸素濃度検出・推定手段と、
吸気酸素濃度を調整し得る吸気酸素濃度調整装置と、
第1の運転領域でこの吸気酸素濃度調整装置を用いて吸気酸素濃度を相対的に小さい第1所定値とした状態で予混合燃焼を主体とした燃焼である第1の燃焼形態を行わせる第1燃焼形態実行手段と、
前記第1の運転領域に隣接する第2の運転領域で前記吸気酸素濃度調整装置を用いて吸気酸素濃度を前記第1所定値よりも大きい第2所定値とした状態で前記予混合燃焼とは異なる燃焼である第2の燃焼形態を行わせる第2燃焼形態実行手段と、
前記第2の運転領域から前記第1の運転領域に切換わった場合に、前記検出または推定される吸気酸素濃度が減少して前記第2所定値と前記第1所定値との間にある第3所定値に到達するまでは増量されるようにかつその後には吸気酸素濃度が減少するほど減量されるように、パイロット噴射の燃料噴射量を設定するパイロット噴射量設定手段と、
この設定されたパイロット噴射量を用いて主噴射に先立つパイロット噴射を行うパイロット噴射実行手段と
を備えることを特徴とするディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【請求項2】
前記吸気酸素濃度が前記第2所定値から減少して前記第1所定値に到達するまでの移行期間で前記第2の燃焼形態を継続し、前記吸気酸素濃度が前記第1所定値に到達したとき、前記第1の燃焼形態に切換えることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【請求項3】
前記吸気酸素濃度調整装置はEGR率を調整し得るEGR装置であり、
前記吸気酸素濃度推定手段は前記吸気酸素濃度を実際のEGR率に基づいて推定することを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【請求項4】
前記第1燃焼形態実行手段は、前記第1所定値は、主噴射が終了するまで低温酸化反応が生じないような吸気酸素濃度であり、圧縮工程中に主噴射に先立つ先行噴射を行った後、主噴射を行って、リーン混合気とリッチ混合気とを偏在させた予混合気を形成したところで燃焼を開始させることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【請求項5】
前記先行噴射で前記リーン混合気を形成し、圧縮上死点TDC付近で行われる主噴射で前記リッチ混合気を形成することを特徴とする請求項4に記載のディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【請求項6】
前記主噴射を圧縮上死点の直前で噴き終えることを特徴とする請求項5に記載のディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【請求項1】
吸気酸素濃度を検出または推定する吸気酸素濃度検出・推定手段と、
吸気酸素濃度を調整し得る吸気酸素濃度調整装置と、
第1の運転領域でこの吸気酸素濃度調整装置を用いて吸気酸素濃度を相対的に小さい第1所定値とした状態で予混合燃焼を主体とした燃焼である第1の燃焼形態を行わせる第1燃焼形態実行手段と、
前記第1の運転領域に隣接する第2の運転領域で前記吸気酸素濃度調整装置を用いて吸気酸素濃度を前記第1所定値よりも大きい第2所定値とした状態で前記予混合燃焼とは異なる燃焼である第2の燃焼形態を行わせる第2燃焼形態実行手段と、
前記第2の運転領域から前記第1の運転領域に切換わった場合に、前記検出または推定される吸気酸素濃度が減少して前記第2所定値と前記第1所定値との間にある第3所定値に到達するまでは増量されるようにかつその後には吸気酸素濃度が減少するほど減量されるように、パイロット噴射の燃料噴射量を設定するパイロット噴射量設定手段と、
この設定されたパイロット噴射量を用いて主噴射に先立つパイロット噴射を行うパイロット噴射実行手段と
を備えることを特徴とするディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【請求項2】
前記吸気酸素濃度が前記第2所定値から減少して前記第1所定値に到達するまでの移行期間で前記第2の燃焼形態を継続し、前記吸気酸素濃度が前記第1所定値に到達したとき、前記第1の燃焼形態に切換えることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【請求項3】
前記吸気酸素濃度調整装置はEGR率を調整し得るEGR装置であり、
前記吸気酸素濃度推定手段は前記吸気酸素濃度を実際のEGR率に基づいて推定することを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【請求項4】
前記第1燃焼形態実行手段は、前記第1所定値は、主噴射が終了するまで低温酸化反応が生じないような吸気酸素濃度であり、圧縮工程中に主噴射に先立つ先行噴射を行った後、主噴射を行って、リーン混合気とリッチ混合気とを偏在させた予混合気を形成したところで燃焼を開始させることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【請求項5】
前記先行噴射で前記リーン混合気を形成し、圧縮上死点TDC付近で行われる主噴射で前記リッチ混合気を形成することを特徴とする請求項4に記載のディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【請求項6】
前記主噴射を圧縮上死点の直前で噴き終えることを特徴とする請求項5に記載のディーゼルエンジンの燃焼制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図4】
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【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−203274(P2010−203274A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47704(P2009−47704)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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