説明

ナノドットの作製方法、並びに浮遊ゲートトランジスタ及びその作製方法

【課題】低温、かつ少ない工程で、ナノドットを作製する方法、並びにこのナノドットを有する浮遊ゲートトランジスタ及びその作製方法の提供。
【解決手段】同軸型真空アーク蒸着源1を用いて、金属材料又は半導体材料から、絶縁層34中に埋め込まれる、電荷を保持するためのナノドット33を作製する。基板31上に酸化物膜32を形成する工程と、ナノドット33を酸化物膜32上に作製する工程と、ナノドット上に絶縁層34を形成することでナノドットを埋め込むようにする工程と、絶縁層34上に電極膜35を形成する工程とを有し、かくして浮遊ゲートトランジスタが作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノドットの作製方法、並びに浮遊ゲートトランジスタ及びその作製方法に関し、特に同軸型真空アーク蒸着源を用いたナノドットの作製方法、並びに浮遊ゲートトランジスタ及びその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラッシュメモリのような半導体素子には、一般に浮遊ゲートと呼ばれている構造が用いられており、この浮遊ゲートは、電荷を保持するための金属ナノドットが絶縁層中に形成されたものである。
【0003】
フラッシュメモリは、例えば、シリコン基板上にソース拡散層とドレイン拡散層とが設けられ、このシリコン基板のチャネル領域上に、ゲート絶縁膜、金属ドットを有する浮遊ゲート、制御ゲートが順次設けられたものであり、電気的に絶縁された浮遊ゲートに電子(電荷)が書き込まれて保存され、これにより、一度情報が書き込まれると、電源が供給されなくても情報が保持されるように構成されている。この浮遊ゲートは電気的にどこにも接続されていないので、一度保存された電子は長期間保持され得る。
【0004】
上記のような浮遊ゲートトランジスタの作動原理として、浮遊ゲートを構成する絶縁層中に形成されている金属ナノドットへの電荷の出し入れにより、ON/OFF状態を作り、メモリとして機能させることが知られている。
【0005】
金属ナノドットの作製方法としては、例えば、シリコン基板上に極薄膜アモルファスシリコン層を形成し、高温でシリコン含有ガスに曝すことでシリコンナノドットを作製する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、フェリチンのような超分子構造を持つタンパク質を用いて低温でナノドットを作製する技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−129708号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−268531号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したシリコンナノドットを形成するためには、シリコン含有ガスの使用や高温処理が必要であるので、熱源が必要であると共に残留ガス等の不純物があるナノドットが形成されるという問題がある。また、フェリチンを使ったナノドットの形成方法では、低温で作製可能であるが、タンパク質をUV光で除去し、その後、フェリチンに内包されたコア部分を還元処理する必要があるので、工程が煩雑であるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、低温、かつ少ない工程で、ナノドットを作製する方法、並びにこのナノドットを有する浮遊ゲートトランジスタ及びその作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のナノドットの作製方法は、同軸型真空アーク蒸着源を用いて、金属材料又は半導体材料から、絶縁層中に埋め込まれる、電荷を保持するためのナノドットを作製することを特徴とする。
【0010】
同軸型真空アーク蒸着源を用いることにより、低温、かつ少ない工程で、基板上に直接ナノドットを作製することができ、高温処理やガスを使用することが不要であると共に、真空中で形成されるため、作製されるナノドットは高純度である。
【0011】
前記ナノドットの作製方法において用いる金属材料及び半導体材料は、同軸型真空アーク蒸着源でナノドットを作製可能な材料であればよく、特に制限を受けるものではない。
【0012】
本発明の浮遊ゲートトランジスタは、シリコン基板上に、酸化物膜と、同軸型真空アーク蒸着源を用いて、金属材料又は半導体材料から作製された、電荷を保持するためのナノドットと、前記ナノドットを埋め込むように形成された絶縁層と、前記絶縁層上に形成された電極膜とをこの順序で有することを特徴とする。
【0013】
同軸型真空アーク蒸着源を用いることにより、低温、かつ少ない工程で、酸化物膜付き基板上に直接作製されたナノドットと、このナノドットを埋め込むように被覆する絶縁膜とを有するので、高温処理やガスを使用することが不要であると共に、真空中で形成される高純度ナノドットであるので、有用な浮遊トランジスタを提供することができる。
【0014】
前記浮遊ゲートトランジスタにおいて、ナノドットは、円筒状のトリガ電極と、金属材料又は半導体材料からなる蒸発材料部材を有する円柱状のカソードとが、円筒状の絶縁碍子を介して同軸状に隣接して固定されて配置され、前記円柱状のカソードの周りに同軸状に円筒状のアノードが離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる蒸着装置を用い、真空雰囲気中で、基板を熱源で加熱することなく、前記トリガ電極とカソードとの間に電圧を印加してトリガ放電を発生させ、前記カソードとアノードとの間にコンデンサと直流電源とを接続して放電電圧を印加して間欠的にアーク放電を誘起させ、前記蒸発材料部材から生成される荷電粒子を前記真空チャンバ内に放出させ、前記真空チャンバ内に載置した基板上の酸化物膜上に作製された、絶縁層中に埋め込まれているナノドットであることを特徴とする。
【0015】
前記浮遊ゲートトランジスタにおいて用いる金属材料及び半導体材料は、同軸型真空アーク蒸着源でナノドットを作製可能な材料であればよく、特に制限を受けるものではない。
【0016】
本発明の浮遊ゲートトランジスタの作製方法は、シリコン基板上に酸化物膜を形成する工程と、同軸型真空アーク蒸着源を用いて、金属材料又は半導体材料からなるナノドットを前記酸化物膜上に作製する工程と、前記ナノドット上に絶縁層を形成することで前記ナノドットを埋め込むようにする工程と、前記絶縁層上に電極膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
同軸型真空アーク蒸着源を用いることにより、低温、かつ少ない工程で、酸化物膜付き基板上に直接ナノドットを作製し、このナノドットを埋め込むようにナノドットを被覆する絶縁膜を有するので、高温処理やガスを使用することが不要であると共に、真空中で形成される高純度ナノドットであるので、有用な浮遊ゲートトランジスタ作製方法を提供することができる。
【0018】
本発明の浮遊ゲートトランジスタの作製方法において、前記ナノドットは、円筒状のトリガ電極と、金属材料又は半導体材料からなる蒸発材料部材を有する円柱状のカソードとが、円筒状の絶縁碍子を介して同軸状に隣接して固定されて配置され、前記円柱状のカソードの周りに同軸状に円筒状のアノードが離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる蒸着装置を用い、真空雰囲気中で、シリコン基板を熱源で加熱することなく、前記トリガ電極とカソードとの間に電圧を印加してトリガ放電を発生させ、前記カソードとアノードとの間にコンデンサと直流電源とを接続して放電電圧を印加して間欠的にアーク放電を誘起させ、前記蒸発材料部材から生成される荷電粒子を前記真空チャンバ内に放出させ、前記真空チャンバ内に載置した基板上の酸化物膜上に作製されたものであることを特徴とする。
【0019】
前記浮遊ゲートトランジスタの作製方法において用いる金属材料及び半導体材料は、同軸型真空アーク蒸着源でナノドットを作製可能な材料であればよく、特に制限を受けるものではない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、同軸型真空アーク蒸着源を用いてナノドットを形成する際に、真空排気されたナノドット形成チャンバ(真空チャンバ)内で実施するので、ガスを使用する必要がなく、残留ガスなどの不純物のないナノドットを形成し、提供することができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明によれば、蒸着源として同軸型真空アーク蒸着源を用いることにより、被処理基板を加熱することなく、低温で粒径の揃ったナノドットを形成することができ、かつ作製後の処理が不要であるため、工程数を減らすことができ、その結果、容易に浮遊ゲートトランジスタ等の半導体装置を作製し、提供できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係るナノドット作製方法の実施の形態によれば、同軸型真空アーク蒸着源を備えたナノドット形成装置(蒸着装置)を用いて、真空雰囲気中で、シリコン基板等の基板を熱源で加熱することなく、同軸型真空アーク蒸着源を用いて、ナノドットを作製可能な材料である金属材料又は半導体材料から、絶縁層中に埋め込まれる、電荷を保持するためのナノドットを基板上に直接作製する。
【0023】
真空排気された、同軸型真空アーク蒸着源を備えたナノドット形成装置を用いて、低温、かつ少ない工程で、基板上に直接ナノドットを形成することができるので、ガスを使用する必要がなく、浮遊ゲート構造を有する半導体素子(例えば、フラッシュメモリ等)の絶縁層中に、残留ガスなどの不純物のない、電荷を保持するための高純度ナノドットが所定の状態で形成され得る。
【0024】
上記基板としては、例えば、シリコン基板、ガラス基板、高分子フィルム等を挙げることができる。
【0025】
上記金属材料としては、例えば、C、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、及びWから選ばれた少なくとも1種の金属を挙げることができ、また、半導体材料としては、例えば、(1)Si、Ge等のIV族半導体、(2)II族元素としてMg、Zn、Cd、Hgを用い、また、VI族元素としてO、S、Se、Teを用いた、例えば、ZnSe、CdS、CdTe、ZnO等のII−VI族半導体、(3)III族(13族)元素としてAl、Ga、Inを用い、また、V族(15族)元素としてN、P、As、Sbを用いた、例えば、GaAs、InP、GaN、AlN、InN等のIII−V族化合物半導体、(4)CuInSe等のI−III−VI族のカルコパイライト系半導体からなる化合物半導体、その他にB、Tl、Biなどを含んだIII−V族化合物半導体等を挙げることができる。
【0026】
また、本発明に係る浮遊ゲートトランジスタの実施に形態によれば、浮遊ゲートトランジスタは、シリコン基板上に、例えば、酸化シリコンのよう酸化物膜と、同軸型真空アーク蒸着源を用いて、上記金属材料又は半導体材料から作製された、電荷を保持するナノドットと、上記ナノドットを埋め込むように形成された、例えば、酸化シリコンのような酸化物膜である絶縁層と、上記絶縁層上に形成されたクロム、アルミニウム、銀のような電極膜とをこの順序で有するように構成されたものである。
【0027】
さらに、本発明に係る浮遊ゲートトランジスタの作製方法の実施の形態によれば、シリコン基板等の基板上に上記酸化物膜を形成する工程と、同軸型真空アーク蒸着源を用いて、上記酸化物膜上に、上記金属材料又は半導体材料からナノドットを形成する工程と、このナノドット上に上記絶縁層を形成することでナノドットを埋め込むようにする工程と、この絶縁層上に電極膜を形成する工程とを有する。
【0028】
上記浮遊ゲートトランジスタ及びその作製方法においては、真空排気された、同軸型真空アーク蒸着源を備えたナノドット形成装置を用いてナノドットが形成されるので、ガスを使用する必要がなく、浮遊ゲート構造を有する半導体素子(例えば、フラッシュメモリ等)の絶縁層中に、残留ガスなどの不純物のないナノドットを作製することができる。
【0029】
本発明によれば、上記ナノドットは、円筒状のトリガ電極と、金属材料又は半導体材料からなる蒸発材料部材を有する円柱状のカソードとが、円筒状の絶縁碍子を介して同軸状に隣接して固定されて配置され、円柱状のカソードの周りに同軸状に円筒状のアノードが離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなるナノドット形成装置を用い、10−6〜10−4Pa真空雰囲気中で、シリコン基板等の基板を熱源で加熱することなく、トリガ電極とカソードとの間に電圧を印加してトリガ放電を発生させ、カソードとアノードとの間にコンデンサと直流電源とを接続して放電電圧を印加して間欠的にアーク放電を誘起させ、蒸発材料部材から生成される荷電粒子を真空チャンバ内に放出させ、前記真空チャンバ内に載置した基板上の酸化物膜上に作製されたものである。
【0030】
本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源を備えたナノドット形成装置の一構成例について、図1を参照して、以下説明する。
【0031】
ナノドット形成装置は、同軸型真空アーク蒸着源1とナノドット形成チャンバ2とを有する。この同軸型真空アーク蒸着源1は、円筒状のアノード11と円柱状のカソード12と円筒状のトリガ電極13とを有し、カソード12とトリガ電極13とは、アノード11の内部にアノード11の内周面と離間して同軸状に配置されている。同軸型真空アーク蒸着源1は、その蒸着機能を果たすように配置されていればよく、その全体又は一部がナノドット形成チャンバ2内部に設置されていればよい。
【0032】
カソード12は、円柱状であり、全体が上記したようなナノドット形成用金属材料又は半導体材料(以下、「蒸発材料」と称す)で構成されていてもよいし、一端がこれらの蒸発材料で構成され、他端が棒状電極で構成されていてもよい。カソード12は、蒸発材料がナノドット形成チャンバ2内部へ放出され得るように、被処理基板に対向するように設置される。このカソード12は、円筒状のトリガ電極13と円筒状の絶縁碍子(以下、ハット型碍子と称す)14とに密接して挿通されている。
【0033】
かくして、本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源は、円筒状のトリガ電極13と円柱状のカソード12とが円筒状のハット型碍子14を介して同軸状に隣接して固定されて配置され、円柱状のカソード12の周りに同軸状に円筒状のアノード11が離間して配置されているように構成されている。
【0034】
ハット型碍子14は、カソード12とトリガ電極13との間に配置されており、中心からカソード12、ハット型碍子14、トリガ電極13の順序で並んでいる。カソード12とハット型碍子14とトリガ電極13との3つの部品は、密着させ、図示していないが、ネジなどで密着、固定させて取り付けられている。アノード11及びトリガ電極13の材質は、例えばステンレスであり、また、ハット型碍子の材質は、例えばアルミナである。
【0035】
アノード11とトリガ電極13とカソード12とは、相互に絶縁されており、カソード12とアノード11との間には、直流電圧源15aとコンデンサユニット15bとを有するアーク電源が接続され、トリガ電極13にはトリガ電源16が接続され、各電極11、12には異なる電圧が印加できるように構成されている。このコンデンサユニット15bは、複数のコンデンサを複数並列に接続してなるユニットであり、例えば容量が360μF(耐圧:400V)のコンデンサを5つ並列に並べると容量1800μFとなる。
【0036】
コンデンサユニット15bの各端部は、それぞれがアノード11、カソード12に接続され、コンデンサユニット15bと直流電圧源15aとは、並列接続されている。直流電圧源15aは、100Vで数Aの容量の電流を流す能力を有する電源であり、コンデンサユニット15bに対して、一定の充電時間で充電されるように構成されている。図1には1つのコンデンサを示してあるが、コンデンサの数は、適宜、増減可能である。
【0037】
トリガ電源16は、パルストランスからなり、入力200Vのμsのパルス電圧を約17倍に変圧して3.4kV(数μA)極性:プラスにして出力できるように構成されており、変圧された電圧を、カソード12に対して正の極性で、トリガ電極13に印加できるように接続されている。すなわち、トリガ電源16のプラス出力端子は、トリガ電極13に接続され、そのマイナス端子は、アーク電源(直流電圧源15a)のマイナス側出力側端子と同じ電位に接続されて、カソード12に接続されている。直流電圧源15aのプラス端子は、グランド電位に接地され、アノード11に接続されている。また、コンデンサユニットの両端子は、直流電圧源15aのプラス及びマイナス端子間に接続されている。
【0038】
上記したように構成されている同軸型真空アーク蒸着源1は、所定の真空排気系(例えば、ターボ分子ポンプとロータリーポンプとで構成されている。)を有するナノドット形成チャンバ2の壁面に取り付けられ、本発明のナノドットを形成するために用いられる。この同軸型真空アーク蒸着源1は、1つでも複数でも、適宜、設置することが可能である。
【0039】
ナノドット形成チャンバ2内には、同軸型真空アーク蒸着源1に対向して、被処理基板を載置するための基板ステージ21が設置されており、この基板ステージ21の下面中心には基板ステージを回転自在にするための回転機構22が接続されている。また、ナノドット形成チャンバ2の壁面には、バルブ23a、ターボ分子ポンプ23b、バルブ23c及びロータリーポンプ23dからなる真空排気系がこの順序で金属製配管により接続されている。この真空排気系により、ナノドット形成チャンバ2内を真空排気し、このチャンバ内を10−4Pa以下に保つことができるように構成されている。
【0040】
上記した同軸型真空アーク蒸着源1として、例えばアルバック製ARL−300を挙げることができる。以下の実施例では、このアルバック製の同軸型真空アーク蒸着源を用いてナノドットの作製を行う。同軸型真空アーク蒸着源は、スパッタ法に比べて粒子の持つエネルギーが高いことが知られており、また、気相中での成膜であるため、不純物が少ないという特徴をもっている。
【0041】
本発明によれば、真空排気し、所定の真空雰囲気が形成されているナノドット形成チャンバ2内へ、同軸型真空アーク蒸着源1の作動により生成した金属材料又は半導体材料等の荷電粒子を放出して、ナノドット形成チャンバ2内に載置されている被処理基板上へ供給して、被処理基板上にナノドットを形成する。アノード11とナノドット形成チャンバ2とは接地電位に接続されている。
以下、本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源1の動作例について説明する。
【0042】
先ず、コンデンサユニット15bの容量を1800μFに設定し、直流電圧源15aから0〜400Vまで可変の電圧を出力し、その電圧でコンデンサユニット15bを充電し、アノード11とカソード12との間にコンデンサユニット15bの充電電圧を印加する。蒸発材料部材に、コンデンサユニット15bが出力する負電圧を印加する。
【0043】
上記したような電圧印加の状態で、トリガ電源16から3.4kVのパルス状のトリガ電圧を出力し、カソード12とトリガ電極13との間に印加すると、ハット型碍子14の表面でトリガ放電(沿面放電)が発生する。カソード12とハット型碍子14のつなぎ目からは電子が放出される。
【0044】
このトリガ放電によってアノード11とカソード12との間の耐電圧が低下し、アノード11の内周面とカソード12の外周面(側面)との間にアーク放電が誘起される。
【0045】
コンデンサユニット15bに充電された電荷の放電により、尖頭電流が1800A以上であるアーク電流が200μ秒程度の時間流れ、カソード12(すなわち、蒸発材料部材)の側面から金属蒸気が放出され、金属のプラズマが形成される。この時、金属の原子状イオンや、クラスタ化した金属により、数ナノメータのナノ粒子が形成される。
【0046】
上記したように、カソード12はアノード11の中心軸線上に配置されており、アーク電源(直流電圧源15a)が、カソード12の端部に接続されているので、アーク電流は、カソード12の中心軸線上を流れ、アノード11内に磁界が形成される。アノード11内に放出された電子は、アーク電流によって形成される磁界により、電流が流れる向きとは逆向きのローレンツ力を受け、ナノドット形成チャンバ2内に放出される。
【0047】
カソード12の側面から放出された金属蒸気にはイオン(荷電粒子)と中性粒子とが含まれているが、電荷質量比の小さい(電荷が質量に比べて小さい)液滴等の巨大荷電粒子や中性粒子は直進し、アノード11の壁面に衝突するが、電荷質量比の大きな荷電粒子は、クーロン力によって電子に引き付けられ、基板ステージ21に対向するアノード11の放出口11aからナノドット形成チャンバ2内に放出される。
【0048】
アノード11の表面から所定の距離離れた場所には、被処理基板が載置されており、ナノドット形成チャンバ2内に放出された金属蒸気イオンが被処理基板の表面に到達すると、ナノメータオーダーの金属粒子が被処理基板上に形成される。同軸型真空アーク蒸着源を用いると、低温で、かつ少ない工程でナノドットを形成できるというメリットがある。
【0049】
以上では、同軸型真空アーク蒸着源を用いれば、ヒーターなどの加熱手段である熱源で被処理基板を加熱することなく、ナノドットを形成できるということについて説明したが、熱源により所定の温度に加熱した被処理基板を用いる場合でも、加熱することなく実施した場合と同様に、ナノドットを形成することは出来る。
【0050】
1回のトリガ放電でアーク放電が一回誘起され、アーク電流が300μs流れる。上記コンデンサユニット15bの充電時間が約1秒である場合、1Hzの周期でアーク放電を誘起させることができる。アーク放電を所定の回数誘起させて、所定のショット数(発数)でナノドットを形成する。
【0051】
図1において、バルブ24a、マスフローメータ24b、ガスボンベ24cは、ナノドット形成装置内へ、ガスを導入することが必要になった場合のために設けられている。
【0052】
次に、浮遊ゲートトランジスタ作製方法の一例について、図2を参照して説明する。まず、Si基板などの基板31上に、公知の手法でSiO等からなる熱酸化物膜のような酸化物膜32を形成し、次いで図1に示すナノドット形成装置に設けた同軸型真空アーク蒸着源を用いて、酸化物膜32上に上記金属材料又は半導体材料のナノドット33を形成する。その後スパッタ法やCVD法等を用いてシリコン酸化物膜のような絶縁層34を成膜して、ナノドット33を絶縁層34中に埋め込み、キャパシタ構造を形成する。最後に、絶縁層34上にスパッタ法やCVD法等を用いて電極膜35を形成することで、浮遊ゲートデバイスを作製することができる。
【0053】
以下、実施例を挙げて、本発明について詳細に説明する。以下の実施例では、金属材料としてCo、Fe及びSiを選び、Si基板上にナノドットを蒸着し、作製した。上記した他の金属材料でも基板でも、同軸型真空アーク蒸着源を用いて同様にナノドットが形成できる。また、金属材料の代わりに、上記した半導体材料を用いても同様に有用なナノドットを作製できる。実施例に挙げたものに限定されず、また、放電条件も、同軸型真空アーク蒸着源を用いて同様にナノドットが形成できる条件範囲であればよく、以下の実施例記載の条件に限定されない。
【実施例1】
【0054】
同軸型真空アーク蒸着源((株)アルバック製:ARL−300)を用い、SiO熱酸化物膜付きSi基板上に、Coナノドットを形成した。この場合の放電条件は、200V、1800μF、10発に設定した。この場合、Si基板を熱源で加熱せずに実施した。
【0055】
かくして得られたナノドット形成後の基板のTEM像を図3に示す。図3から明らかなように、粒径5nm程度のCoナノドットが形成されていることが確認できた。
【実施例2】
【0056】
金属材料としてFeを用い、実施例1と同様の手法に従ってFeナノドットを形成したところ、実施例1の場合と同様の粒径を有するFeナノドットが形成されていることが確認できた。
【実施例3】
【0057】
金属材料としてSiを用い、実施例1と同様の手法に従ってSiナノドットを形成したところ、実施例1の場合と同様の粒径を有するSiナノドットが形成されていることが確認できた。
【実施例4】
【0058】
SiO熱酸化物膜付きSi基板上に、実施例1記載の方法でCoナノドットを形成した後、スパッタ法により、公知の条件(300W、Ar中0.5Pa)で絶縁層としてSiO酸化物膜を形成して、Coナノドットをこの絶縁層中に埋め込み、キャパシタ構造を形成した。最後に、絶縁層上にスパッタ法により、公知の条件(300W、Ar中0.5Pa)で、クロムからなる電極膜を形成し、浮遊ゲートデバイスを作製することができた。
【0059】
得られた浮遊ゲートトランジスタに対して、ゲート電圧を正方向に印加することで、ドレイン電流が増加していった。その状態から次に負方向に電圧を印加すると、正に印加したときよりも早く電流の減少が起こり、I−V曲線はヒステリシスを形成した。このことから、作製したトランジスタがメモリ効果を有しており、浮遊ゲートトランジスタができていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、従来手法に比べて、低温でナノドットを作製でき、かつ後処理が不要なため、工程数を大幅に減らすことができ、容易に浮遊ゲートトランジスタ等の半導体素子を作製することが可能となる。また、粒径の揃った高純度のナノドットを形成できることから、高性能な半導体素子の作製が期待できる。従って、本発明は、半導体素子分野での適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着源を備えたナノドット形成装置の一構成例を模式的に示す構成図。
【図2】浮遊ゲートトランジスタの一構成例を模式的に示す構成図。
【図3】実施例1に従って形成されたナノドット形成後の基板表面のTEM像を示す写真。
【符号の説明】
【0062】
1 同軸型真空アーク蒸着源 2 ナノドット形成チャンバ
11 アノード 11a 放出口
12 カソード 13 トリガ電極
14 ハット型碍子 15a 直流電圧源
15b コンデンサユニット 16 トリガ電源
21 基板ステージ 22 回転機構
23a、23c バルブ 23b ターボ分子ポンプ
23d ロータリーポンプ 31 基板
32 酸化物膜 33 ナノドット
34 絶縁層 35 電極膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸型真空アーク蒸着源を用いて、金属材料又は半導体材料から、絶縁層中に埋め込まれる、電荷を保持するためのナノドットを作製することを特徴とするナノドットの作製方法。
【請求項2】
前記金属材料及び半導体材料が、同軸型真空アーク蒸着源でナノドットを作製可能な材料であることを特徴とする請求項1記載のナノドットの作製方法。
【請求項3】
シリコン基板上に、酸化物膜と、同軸型真空アーク蒸着源を用いて、金属材料又は半導体材料から作製された、電荷を保持するためのナノドットと、前記ナノドットを埋め込むように形成された絶縁層と、前記絶縁層上に形成された電極膜とをこの順序で有することを特徴とする浮遊ゲートトランジスタ。
【請求項4】
前記ナノドットが、円筒状のトリガ電極と、金属材料又は半導体材料からなる蒸発材料部材を有する円柱状のカソードとが、円筒状の絶縁碍子を介して同軸状に隣接して固定されて配置され、前記円柱状のカソードの周りに同軸状に円筒状のアノードが離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる蒸着装置を用い、真空雰囲気中で、基板を熱源で加熱することなく、前記トリガ電極とカソードとの間に電圧を印加してトリガ放電を発生させ、前記カソードとアノードとの間にコンデンサと直流電源とを接続して放電電圧を印加して間欠的にアーク放電を誘起させ、前記蒸発材料部材から生成される荷電粒子を前記真空チャンバ内に放出させ、前記真空チャンバ内に載置した基板上の酸化物膜上に作製された、絶縁層中に埋め込まれるナノドットであることを特徴とする請求項3記載の浮遊ゲートトランジスタ。
【請求項5】
前記金属材料及び半導体材料が、同軸型真空アーク蒸着源でナノドットを作製可能な材料であることを特徴とする請求項3又は4記載の浮遊ゲートトランジスタ。
【請求項6】
シリコン基板上に酸化物膜を形成する工程と、同軸型真空アーク蒸着源を用いて、金属材料又は半導体材料からなるナノドットを前記酸化物膜上に作製する工程と、前記ナノドット上に絶縁層を形成することで前記ナノドットを埋め込むようにする工程と、前記絶縁層上に電極膜を形成する工程とを有することを特徴とする浮遊ゲートトランジスタの作製方法。
【請求項7】
前記金属材料及び半導体材料が、同軸型真空アーク蒸着源でナノドットを作製可能な材料であることを特徴とする請求項6記載の浮遊ゲートトランジスタの作製方法。
【請求項8】
前記ナノドットが、円筒状のトリガ電極と、金属材料又は半導体材料からなる蒸発材料部材を有する円柱状のカソードとが、円筒状の絶縁碍子を介して同軸状に隣接して固定されて配置され、前記円柱状のカソードの周りに同軸状に円筒状のアノードが離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる蒸着装置を用い、真空雰囲気中で、基板を熱源で加熱することなく、前記トリガ電極とカソードとの間に電圧を印加してトリガ放電を発生させ、前記カソードとアノードとの間にコンデンサと直流電源とを接続して放電電圧を印加して間欠的にアーク放電を誘起させ、前記蒸発材料部材から生成される荷電粒子を前記真空チャンバ内に放出させ、前記真空チャンバ内に載置した基板上の酸化物膜上に作製されたものであることを特徴とする請求項6又は7記載の浮遊ゲートトランジスタの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−50168(P2010−50168A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211147(P2008−211147)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】