説明

パターン形成方法および積層構造体

【課題】所望のパターンが形成でき、製造工程の迅速化を図ることが可能なパターン形成方法を提供する。
【解決手段】本実施形態のパターン形成方法は、下地10の上に第1の膜11を選択的に形成する工程と、前記第1の膜11および前記第1の膜に覆われていない前記下地10の上に、第2の膜13を形成する工程と、前記第2の膜13の平均結晶粒径を前記第2の膜13の膜厚以上に調整する工程と、前記第1の膜11のエッチャントを前記第2の膜13の表面に晒し、前記第1の膜11の上に形成された前記第2の膜13を前記下地上から選択的に除去する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、パターン形成方法および積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電性膜の1つに、ITO(Indium Tin Oxide)膜がある。ITO膜は、発光装置、太陽電池、フラットパネルディスプレイ等の透光性電極として用いられている。ITO膜のパターニングは、一般的にレジストを用いた光リソグラフィと、レジストパターンをマスクとするウェットエッチングで行われる。ところが、成膜直後のITO膜は、非晶質と結晶とが混在した状態にあるため、エッチング速度が結晶性によって異なる場合がある。例えば、結晶部分においてはエッチング速度が遅く、非晶質部分においてはエッチング速度が速くなる場合がある。このため、結晶部分は残渣になり、非晶質部分においてはオーバーエッチングがなされたりする。その結果、ITO膜のパターン加工においては、微細加工が困難になり、設計通りの寸法に加工できない場合がある。
【0003】
一方、ITO膜の非晶質と結晶とが混在した状態を回避するために、ITO膜に加熱処理を施す方法がある。これは、ITO膜に加熱処理を施すことにより、ITO膜内の結晶性を向上させる方策である。しかしながら、ITO膜の結晶性が高くなるほど、エッチング速度が極端に遅くなってしまい、製造工程の遅延を招来してしまう。従って、この方策も有効な方法ではない。
このように透明導電性膜のパターン加工においては、所望のパターンが形成できず、製造工程の迅速化が図れていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−100474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、所望のパターンを形成でき、製造工程の迅速化を図ることが可能なパターン形成方法、このパターン形成方法によって形成される積層構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態のパターン形成方法は、下地の上に第1の膜を選択的に形成する工程と、前記第1の膜および前記第1の膜に覆われていない前記下地の上に、第2の膜を形成する工程と、前記第2の膜の平均結晶粒径を前記第2の膜の膜厚以上に調整する工程と、前記第1の膜のエッチャントを前記第2の膜の表面に晒し、前記第1の膜の上に形成された前記第2の膜を前記下地上から選択的に除去する工程と、を備える。
【0007】
また、別の本実施形態の積層構造体は、下地と、前記下地の上に選択的に設けられ、平均結晶粒径が前記透明導電性膜の膜厚以上である透明導電性膜と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施の形態に係るパターン形成方法の形成過程を説明するための要部断面模式図であり、(a)は、絶縁膜の形成工程図、(b)は、絶縁膜のエッチング工程図、(c)は、透明導電性膜の形成工程図、(d)は、透明導電性膜の加熱処理工程図、(e)は、絶縁膜のエッチング工程図、(f)は、透明導電性膜のリフトオフ工程図である。
【図2】比較例に係るパターン形成方法の形成過程を説明するための要部断面模式図であり、(a)は、レジストパターン形成工程図、(b)は、透明導電性膜のエッチング工程図、(c)は、エッチング後の透明導電性膜の図である。
【図3】第1の実施の形態に係る透明導電性膜内の平均結晶粒径の変化を説明するグラフであり、(a)は、透明導電性膜の膜厚と、透明導電性膜の平均結晶粒径との関係を説明するグラフであり、(b)は、透明導電性膜を真空処理によって形成する際の雰囲気ガスに添加される水素添加量と、透明導電性膜の平均結晶粒径との関係を説明するグラフである。
【図4】透明導電性膜の要部断面模式図であり、(a)は、図3(a)の線形ラインCの下側における透明導電性膜の要部断面模式図であり、(b)は、図3(a)の線形ラインC上または線形ラインCの上側における透明導電性膜の要部断面模式図である。
【図5】第1の実施の形態に係る透明導電性膜の平均結晶粒径の算出方法を説明するための平面模式図である。
【図6】第2の実施の形態に係る半導体発光素子の要部模式図であり、(a)は、半導体発光素子の要部斜視模式図であり、(b)は、(a)のX−Y断面模式図が例示されている。
【図7】第2の実施の形態に係る半導体発光素子の形成過程を説明するための要部断面模式図であり、(a)は、半導体積層体および絶縁膜の形成工程図、(b)は、絶縁膜のエッチング工程図、(c)は、透明導電性膜の形成工程図である。
【図8】第2の実施の形態に係る半導体発光素子の形成過程を説明するための要部断面模式図であり、(a)は、透明導電性膜の加熱処理工程図、(b)は、絶縁膜のエッチング工程図、(c)は、透明導電性膜のリフトオフ工程図である。
【図9】第2の実施の形態に係る半導体発光素子の形成過程を説明するための要部断面模式図であり、(a)は、レジストパターン形成工程図、(b)は、絶縁膜および半導体層のエッチング工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係るパターン形成方法の形成過程を説明するための要部断面模式図であり、(a)は、絶縁膜の形成工程図、(b)は、絶縁膜のエッチング工程図、(c)は、透明導電性膜の形成工程図、(d)は、透明導電性膜の加熱処理工程図、(e)は、絶縁膜のエッチング工程図、(f)は、透明導電性膜のリフトオフ工程図である。
【0010】
まず、図1(a)に示すように、下地である半導体層10の上に、第1の膜である絶縁膜11を形成する。第1の膜である絶縁膜11は、スパッタリング法、CVD法で形成される。下地である半導体層10は、例えば、化合物半導体層である。第1の膜である絶縁膜11は、例えば、酸化シリコン(SiO)膜である。下地および第1の膜は、これらの材料に限定されない。続いて、絶縁膜11の上にフォトリソグラフィによってパターニングされたレジスト12を形成する。レジスト12は、例えば、有機レジストである。
【0011】
次に、パターニングされたレジスト12をマスクとして、図1(b)に示すように、絶縁膜11にエッチング加工を施す。エッチングの手法は、例えば、異方性のドライエッチングである。これにより、下地である半導体層10の上に、第1の膜である絶縁膜11が選択的に形成される。半導体層10の一部は、絶縁膜11から選択的に表出する。異方性のドライエッチング条件を調整することによって、エッチング後の絶縁膜11の側面がテーパ状ではなく、ストレート形状に形成される。
【0012】
次に、レジスト12を取り除いた後、図1(c)に示すように、パターニングされた絶縁膜11、および絶縁膜11に覆われておらず表出した半導体層10の上に、第2の膜である透明導電性膜13を形成する。第2の膜である透明導電性膜13は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法によって形成する。透明導電性膜13は、例えば、ITO膜である。透明導電性膜13としては、このほか、酸化亜鉛(ZnO)膜、酸化錫(SnO)膜等を用いてもよい。透明導電性膜13を半導体層10の上および絶縁膜11の上に形成した直後においては、透明導電性膜13は、結晶部分と非晶質部分とが混在した状態にある。
【0013】
透明導電性膜13については、例えば、真空蒸着法によって形成してもよい。真空蒸着法によって透明導電性膜13を形成する場合、半導体層10上に形成される透明導電性膜13の電気抵抗率を予め下げるために、下地である半導体層10の温度を200℃〜400℃に設定してもよい。
【0014】
次に、図1(d)に示すように、透明導電性膜13に加熱処理を施す。透明導電性膜13を加熱する温度は、550℃〜800℃である。透明導電性膜13に加熱処理を施すと、透明導電性膜13内の結晶部分が核となって透明導電性膜13内の結晶成長が促進する。本実施の形態では、この加熱処理によって、透明導電性膜13の平均結晶粒径を透明導電性膜13の膜厚d(nm)以上に調整する。
【0015】
透明導電性膜13の平均結晶粒径が透明導電性膜13の膜厚d(nm)以上に調整されることにより、透明導電性膜13のそれぞれの結晶粒界13bは、透明導電性膜13の表面から裏面の方向に向かう。換言すれば、透明導電性膜13の平均結晶粒径が透明導電性膜13の膜厚d(nm)以上に調整されることにより、透明導電性膜13の表面から裏面にまでに至る結晶粒界のパスが形成される。
【0016】
次に、図1(e)に示すように、透明導電性膜13の表面側をエッチング溶液14に晒す。エッチング溶液14は、絶縁膜11のエッチャントである。絶縁膜11のエッチャントとは、絶縁膜11を選択的に溶解することが可能なエッチング剤である。エッチング剤には、ウェット処理で用いられるエッチング用の液体のほか、ドライ処理で用いられるエッチング用の気体も含まれる。第1の実施の形態では、ウェット処理の場合を例示している。
【0017】
例えば、エッチング溶液14として、水を溶媒とするフッ化アンモニウム(NHF)溶液を用いる。透明導電性膜13の表面側にエッチング溶液14を晒すと、エッチング溶液14が透明導電性膜13の表面側から透明導電性膜13のそれぞれの結晶粒界13bに侵入する。結晶粒界13bに侵入したエッチング溶液14は、結晶粒界13bを介して絶縁膜11の表面にまで到達する。
【0018】
続いて、エッチング溶液14が透明導電性膜13の表面側から絶縁膜11の表面にまで到達すると、図1(f)に示すように、絶縁膜11の表面がエッチング溶液14によって晒され、透明導電性膜13の裏面側に接する絶縁膜11が溶解する。これにより、透明導電性膜13と絶縁膜11との密着力が弱まり、絶縁膜11の上に形成された透明導電性膜13を下地である半導体層10上から選択的に除去することができる。すなわち、リフトオフによって絶縁膜11の上に設けられた透明導電性膜13を選択的に除去することができる。リフトオフを促進させるために、エッチング溶液14に超音波を印加する方法、エッチング溶液14を加温する方法を採用してもよい。
【0019】
このような製造過程によって、下地である半導体層10と、下地である半導体層10の上に選択的に設けられた透明導電性膜13と、を備えた積層構造体が形成される。この積層構造体においては、透明導電性膜13の平均結晶粒径が透明導電性膜13の膜厚以上に設計されている。
【0020】
比較のために、一般的なフォトリソグラフィによって、透明導電性膜13をパターニングする製造過程を図2に示す。
図2は、比較例に係るパターン形成方法の形成過程を説明するための要部断面模式図であり、(a)は、レジストパターン形成工程図、(b)は、透明導電性膜のエッチング工程図、(c)は、エッチング後の透明導電性膜の図である。
【0021】
まず、図2(a)に示すように、半導体層10の上に、透明導電性膜13を形成する。続いて、透明導電性膜13の上に、パターニングされたレジスト15を形成する。パターニングされたレジスト15は、フォトリソグラフィによって形成される。レジストパターンを透明導電性膜13の上に形成することにより、透明導電性膜13の一部が選択的にレジスト15から表出する。
【0022】
次に、図2(b)に示すように、レジスト15から表出した透明導電性膜13の表面に、塩酸(HCl)、あるいは硝酸(HNO)を含む酸溶液16を晒す。すなわち、酸溶液16によって表出した部分の透明導電性膜13を酸溶液16によってウェットエッチングする。
【0023】
比較例に係る製造過程では、ウェットエッチングをする際に、透明導電性膜13に結晶部分と非晶質部分とが含まれている。結晶部分と非晶質部分との酸溶液16に対するエッチング速度は、それぞれ異なることから、透明導電性膜13の内部においてエッチング速度が速い部分と遅い部分が生じる。エッチング速度は、一般的に結晶部分よりも非晶質部分のほうが速い。
【0024】
従って、エッチング後の透明導電性膜13は、図2(c)に示すように、その結晶部分が残渣となったり(矢印A)、非晶質部分においては、レジスト15の下部においてオーバーエッチングがなされたりする(矢印B)。その結果、透明導電性膜13のパターン加工においては、微細加工が困難になり、設計値通りの寸法に加工できない場合が生じる。
【0025】
透明導電性膜13の非晶質と結晶とが混在した状態を回避するために、550℃〜800℃の加熱処理を透明導電性膜13に施し、透明導電性膜13の結晶性を向上させる方策もある。しかしながら、透明導電性膜13の結晶性が高くなるほど、エッチング速度が極端に遅くなるので、この方策では製造工程の遅延を招来してしまう。
【0026】
また、透明導電性膜13に550℃〜800℃の加熱処理を施すと、レジスト15も同時に加熱される。これにより、レジスト15が熱ダメージを受け易くなる。特に、熱ダメージは、レジスト15が微細パターンになるほど顕著になる。レジスト15の熱ダメージとしては、例えば、レジストの変質、変形がある。レジストの変質は、例えば、レジスト15の硬化(例えば、炭化)である。レジスト15の変形は、例えば、レジストの亀裂、シュリンク等である。いずれの場合もレジスト15が原形を維持できずに透明導電性膜13のマスクパターンとして機能しなくなる。あるいは、透明導電性膜13に550℃〜800℃の加熱処理を施すと、レジスト15と半導体層10とが反応し、レジスト15と半導体層10との界面において、炭化物(例えば、炭化珪素)が生成する場合もある。
【0027】
これに対し、本実施の形態に係るパターン形成方法では、透明導電性膜13のパターニングとして、リフトオフを採用する。従って、透明導電性膜13自体をエッチング加工することなく、透明導電性膜13をパターニングすることができる。これにより、透明導電性膜13のエッチング速度が製造過程の律速段階となることはない。その結果、製造プロセスの迅速化を図ることができる。
【0028】
また、絶縁膜11は、酸化膜で構成されている。このため、透明導電性膜13と同時に絶縁膜11が加熱されても、絶縁膜11は、変質し難く、変形し難い。すなわち、本実施の形態によれば、透明導電性膜13の微細加工が可能で、透明導電性膜13を設計通りの寸法に加工することが可能になる。その結果、所望の透明導電性膜13のパターンを形成することができる。
【0029】
また、絶縁膜11の耐熱性が高いので、透明導電性膜13を加熱し得る温度のマージンが拡大する。このため、加熱温度をパラメータとして、透明導電性膜13の膜質(例えば、電気抵抗率、透過率等)を容易に制御することができる。
【0030】
図3は、第1の実施の形態に係る透明導電性膜内の平均結晶粒径の変化を説明するグラフであり、(a)は、透明導電性膜の膜厚と、透明導電性膜の平均結晶粒径との関係を説明するグラフであり、(b)は、透明導電性膜を真空処理によって形成する際の雰囲気ガスに添加される水素添加量と、透明導電性膜の平均結晶粒径との関係を説明するグラフである。図3(a)の横軸は、加熱処理前のITO膜の膜厚(nm)であり、縦軸は、加熱処理後のITO膜の平均結晶粒径(nm)である。図3(b)の横軸は、雰囲気ガスに対する水素添加量(%)であり、縦軸は、ITO膜の平均結晶粒径(nm)である。
【0031】
図3には、透明導電性膜としてのITO膜を窒素雰囲気で、700℃、15分間、加熱処理をした場合のITO膜の平均結晶粒径が示されている。
【0032】
図3(a)においては、ITO膜は、例えば、雰囲気ガスとしてアルゴンガスを用いたスパッタリング法で形成されている。
【0033】
アルゴンガスを用いたスパッタリング法でITO膜を形成した場合は、ITO膜は、加熱処理前後において、次のように変化した。例えば、膜厚が55nmのITO膜は、平均結晶粒径が242nmになった。膜厚が105nmのITO膜は、平均結晶粒径が136nmになった。膜厚が170nmのITO膜は、平均結晶粒径が68nmになった。膜厚が250nmのITO膜は、平均結晶粒径が58nmになった。
【0034】
アルゴンガスを用いたスパッタリング法でITO膜を形成した場合においては、膜厚が170nmのITO膜は、平均結晶粒径が68nmになったが、スパッタリング法において、アルゴンガスに水素を添加すると、同じ膜厚でも、より平均結晶粒径が増大することが分かった。
【0035】
例えば、図3(b)に示すように、アルゴンガスと水素ガスとの混合ガスを用いたスパッタリング法でITO膜を形成した場合は、水素ガスを0.5%添加した場合では、平均結晶粒径が530nmになり、水素ガスを0.75%添加した場合では、平均結晶粒径が700nmになり、水素ガスを1.1%添加した場合では、平均結晶粒径が875nmになった。
【0036】
このように、ITO膜に加熱処理を施すことにより、ITO膜の平均結晶粒径(nm)をITO膜の膜厚(nm)以上に調整することができる。
また、スパッタリング法による真空処理で形成する際の雰囲気ガスに水素ガスを添加することにより、ITO膜の平均結晶粒径(nm)をITO膜の膜厚(nm)以上に調整することができる。
【0037】
また、図3(a)には、ITO膜の膜厚(nm)と平均結晶粒径(nm)とが等しい線形ラインCが表示されている。線形ラインCの下側と、上側とにおける透明導電性膜13の断面の違いを図4に示す。
【0038】
図4は、透明導電性膜の要部断面模式図であり、(a)は、図3(a)の線形ラインCの下側における透明導電性膜の要部断面模式図であり、(b)は、図3(a)の線形ラインC上または線形ラインCの上側における透明導電性膜の要部断面模式図である。
【0039】
図4(a)に示すように、ラインCよりも下側の領域では、透明導電性膜13内の各結晶粒13cの平均結晶粒径が透明導電性膜13の膜厚よりも小さい。結晶粒13cの粒界には、非晶質のITO成分が介在している場合もある。このため、線形ラインCの下側では、透明導電性膜13の表面側から裏面側に直接的に通じる粒界パスが形成され難く、また、粒界パスが形成されても必然的にその長さが長くなってしまう。従って、エッチング溶液14は、透明導電性膜13の表面側から裏面側に結晶粒界を通じて移動し難くなり、透明導電性膜13の裏面に接する絶縁膜11の表面はエッチング溶液14に晒され難くなる。従って、ラインCよりも下側では、透明導電性膜13の裏面に接する絶縁膜11の表面が溶解し難くなり、透明導電性膜13のリフトオフがされ難くなる。
【0040】
これに対し、図4(b)には、ラインC上またはラインCよりも上側の透明導電性膜13の断面が示されている。この場合、透明導電性膜13内の結晶粒13cの平均結晶粒径は、透明導電性膜13の膜厚以上に調整されている。換言すれば、透明導電性膜13の表面側から裏面側に通じる結晶粒界13bによるパスが形成されている。
【0041】
これにより、絶縁膜11のエッチャントであるエッチング溶液14を透明導電性膜13に晒すことにより、エッチング溶液14を透明導電性膜13の結晶粒界13bを通じて、透明導電性膜13の裏面に接する絶縁膜11にまで到達させることができる。その結果、透明導電性膜13の裏面に接する絶縁膜11の表面がエッチング溶液14によって溶解する。
【0042】
この際、透明導電性膜13の裏面に接する半導体層10についてもエッチング溶液14に晒される。しかし、エッチング溶液14は、半導体層10のエッチャントでないために、半導体層10は溶解しない。
【0043】
従って、ラインC上またはラインCよりも上側の領域では、絶縁膜11の幅を調整することにより、リフトオフによって半導体層10上に所望のパターンの透明導電性膜13を選択的に形成することができる。特に、透明導電性膜13が同じ膜厚でもラインC近傍ほど、結晶粒界13bの面内密度は高くなる。従って、エッチング溶液14を絶縁膜11の表面により満遍なく晒すには、ラインC近傍の領域においてリフトオフを図ることが望ましい。
【0044】
透明導電性膜13の平均結晶粒径(nm)の算出方法について説明する。
図5は、第1の実施の形態に係る透明導電性膜の平均結晶粒径の算出方法を説明するための平面模式図である。図5には、透明導電性膜13に加熱処理(550℃〜800℃)を施し、透明導電性膜13の平均結晶粒径を透明導電性膜13の膜厚以上に調整した後の透明導電性膜13の平面が示されている。本実施の形態では、透明導電性膜13の表面に対して略垂直な方向から透明導電性膜13をみて、透明導電性膜13の平均結晶粒径を算出する方策を採る。透明導電性膜13の平均結晶粒径を透明導電性膜13の膜厚以上に調整するので、透明導電性膜13の表面側に表出した透明導電性膜13の結晶粒径によって、透明導電性膜13の平均結晶粒径を算出することができる。
【0045】
例えば、透明導電性膜13の平面に任意の領域(例えば、長方形)90を画定し、領域90の面積と、領域90内の結晶粒の数を算出する。ここで、結晶粒の数については、領域90内に結晶粒の全体が入っている結晶粒13c(例えば、白丸で付された結晶粒)の数を「1」個とし、領域90の外枠に掛かっている結晶粒13c(例えば、黒丸で付された結晶粒)の数を「0.5」個とカウントする。
【0046】
次に、領域90の面積を結晶粒の数で除算して、透明導電性膜13の平面における結晶粒の平均面積aを算出する。そして、この平均面積aの平方根を透明導電性膜13の平均結晶粒径とする。
【0047】
このような方法によれば、簡便且つ迅速に透明導電性膜13の平均結晶粒径を算出することできる。透明導電性膜13の平均結晶粒径の算出によって、透明導電性膜13の平均結晶粒径が透明導電性膜13の膜厚以上であることを簡便且つ迅速に確認することができる。これにより、透明導電性膜13にエッチング溶液14を晒す前に、透明導電性膜13の表面側から裏面側に結晶粒界13bが形成していることを簡便且つ迅速に確認することができる。
【0048】
(第2の実施の形態)
透明導電性膜13を備えた半導体発光素子について説明する。
図6は、第2の実施の形態に係る半導体発光素子の要部模式図であり、(a)は、半導体発光素子の要部斜視模式図であり、(b)は、(a)のX−Y断面模式図が例示されている。
【0049】
半導体発光素子1は、サファイア基板20の上に、GaNバッファ層21、n形GaN層22、n形GaNガイド層23、活性層24、p形GaNガイド層25、p形GaN層26がこの順序で設けられた半導体多層構造体を有している。活性層24は、n形とp形の半導体層に挟まれている。
【0050】
また、活性層24は、例えば、In0.15Ga0.85N/In0.02Ga0.98N−MQW(Multi-Quantum Well)構造などで構成でき、活性層24から、例えば、青色光、紫色光等が放射される。また、n形GaN層22の一部表面には、主電極としてのn側電極40が形成されている。
【0051】
そして、p形GaN層26の表面には、透明導電性膜13が設けられている。透明導電性膜13の上の一部に、主電極としてのp側電極50が選択的に配置されている。すなわち、n側電極40およびp側電極50は、ともに、半導体層が積層されているサファイア基板20の主面の上に配置されている。
【0052】
また、p側電極50としては、AuZn/Mo/Au(AuZnとMoとAuとをこの順に積層させた積層体)、Ti/Pt/Auなどを用いる。n側電極40としては、AuGe/Mo/Auや、Ti/Pt/Auなどを用いる。
また、半導体層23〜26とn側電極40との間には、例えば、絶縁層を介設してもよい。
【0053】
透明導電性膜13は、p側電極50からn側電極40に向かって延出している。そして、透明導電性膜13の終端は、n側電極40の周辺を取り囲むように配置されている。
【0054】
半導体発光素子1においては、n側電極40とp側電極50との間に電圧を印加することにより活性層24において正孔と電子とが結合して、活性層24から光を発光させる。p形GaN層26の上には、透明導電性膜13が設けられているので、活性層24から放出された光は、透明導電性膜13を透過させて外部に取り出すことが可能になる。
【0055】
次に、半導体発光素子1の製造方法について説明する。
図7は、第2の実施の形態に係る半導体発光素子の形成過程を説明するための要部断面模式図であり、(a)は、半導体積層体および絶縁膜の形成工程図、(b)は、絶縁膜のエッチング工程図、(c)は、透明導電性膜の形成工程図である。図7には、図6のX−Yの位置の断面が示されている。
【0056】
まず、図7(a)に示すように、サファイア基板20の上に、エピタキシャル成長によって、GaNバッファ層21、n形GaN層22、n形GaNガイド層23、活性層24、p形GaNガイド層25、p形GaN層26をこの順序で積層する。これらの半導体層を含む半導体多層構造体が図1で例示した半導体層10に対応している。続いて、p形GaN層26の上に、絶縁膜11を形成する。絶縁膜11は、スパッタリング法、CVD法で形成される。絶縁膜11は、例えば、酸化シリコン膜である。続いて、絶縁膜11の上に光リソグラフィによってパターニングされたレジスト12を形成する。
【0057】
次に、レジスト12をマスクとして、図7(b)に示すように、絶縁膜11にエッチング加工を施す。エッチングの手法は、例えば、異方性のドライエッチングである。これにより、p形GaN層26の一部分が絶縁膜11から選択的に表出する。異方性のドライエッチング条件を調整することにより、絶縁膜11の側面をテーパ状ではなく、ストレート形状に調整する。
【0058】
次に、レジスト12を取り除いた後、図7(c)に示すように、表出したp形GaN層26の上、およびパターニングされた絶縁膜11の上に、透明導電性膜13を形成する。透明導電性膜13は、例えば、ITO膜である。ITO膜の代わりとして、酸化亜鉛(ZnO)膜、酸化錫(SnO)膜を用いてもよい。透明導電性膜13は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法によって形成する。透明導電性膜13を成膜した直後の透明導電性膜13には、結晶部分と非晶質部分とが含まれている。
【0059】
透明導電性膜13に関しては、真空蒸着法で形成してもよい。真空蒸着法で透明導電性膜13を形成する場合には、p形GaN層26上に形成される透明導電性膜13の電気抵抗率を予め下げるために、下地である半導体多層構造体およびサファイア基板20の温度を200℃〜400℃に設定してもよい。
【0060】
図8は、第2の実施の形態に係る半導体発光素子の形成過程を説明するための要部断面模式図であり、(a)は、透明導電性膜の加熱処理工程図、(b)は、絶縁膜のエッチング工程図、(c)は、透明導電性膜のリフトオフ工程図である。図8には、図6のX−Yの位置の断面が示されている。
【0061】
次に、図8(a)に示すように、透明導電性膜13に加熱処理を施す。透明導電性膜13を加熱する温度は、550℃〜800℃である。例えば、透明導電性膜13を加熱する温度は、700℃である。透明導電性膜13に加熱処理を施すと、透明導電性膜13内の結晶部分が核となって透明導電性膜13内の結晶成長が促進する。この加熱処理によって、透明導電性膜13の平均結晶粒径を透明導電性膜13の膜厚d(nm)以上に調整する。透明導電性膜13の平均結晶粒径が透明導電性膜13の膜厚d(nm)以上に調整されることにより、透明導電性膜13の表面から裏面にまでに至る結晶粒界13bによるパスが形成する。
【0062】
次に、図8(b)に示すように、透明導電性膜13の表面側をエッチング溶液14に晒す。エッチング溶液14は、絶縁膜11のエッチャントである。例えば、エッチング溶液14として、水を溶媒とするフッ化アンモニウム(NHF)溶液を用いる。透明導電性膜13の表面側にエッチング溶液14を晒すと、エッチング溶液14が透明導電性膜13の表面側から透明導電性膜13のそれぞれの結晶粒界13bに侵入する。結晶粒界13bに侵入したエッチング溶液14は、結晶粒界13bを介して絶縁膜11の表面にまで到達する。
【0063】
エッチング溶液14が透明導電性膜13の表面側から絶縁膜11の表面にまで到達すると、図8(c)に示すように、絶縁膜11の表面がエッチング溶液14によって晒される。その結果、透明導電性膜13の裏面側に接する絶縁膜11が溶解する。これにより、透明導電性膜13と絶縁膜11との密着力が弱まり、絶縁膜11の上に形成された透明導電性膜13を下地である半導体層10上から選択的に除去することができる。すなわち、絶縁膜11の上に設けられた透明導電性膜13をリフトオフによって除去することができる。
【0064】
図9は、第2の実施の形態に係る半導体発光素子の形成過程を説明するための要部断面模式図であり、(a)は、レジストパターン形成工程図、(b)は、絶縁膜および半導体層のエッチング工程図である。図9には、図6のX−Yの位置の断面が示されている。
【0065】
次に、図9(a)に示すように、n側電極40を形成する領域61以外の部分をレジスト60で被覆する。続いて、図9(b)に示すように、レジスト60から表出した絶縁膜11、およびこの絶縁膜11の下方のp形GaN層26、p形GaNガイド層25、活性層24、およびn形GaNガイド層23に異方性のエッチングを施す。
【0066】
これにより、n形GaN層22の一部が表出する。そして、この後においては、表出したn形GaN層22の上にn側電極40を形成し、透明導電性膜13の上にp側電極50を形成する。レジスト60については必要に応じて除去する。このような製造過程により、半導体発光素子1が形成される。
【0067】
ところで、図9(b)に例示する異方性のエッチングを施す際に、透明導電性膜13の残渣がp形GaN層26に残存していると、この残渣が障害となって、領域61における絶縁膜11、絶縁膜11の下方の半導体層を充分にエッチングできない場合がある。さらに、透明導電性膜13の残渣のエッチャントと、絶縁膜11のエッチャントと、半導体層のエッチャントとはそれぞれ異なる。このため、透明導電性膜13の残渣は、領域61における絶縁膜11、絶縁膜11の下方の半導体層をエッチングしても残り続ける場合もある。この残渣がn形半導体層とp形半導体層とに跨って付着すると、残渣は導電性を有するために、半導体発光素子1のn形半導体層とp形半導体層とが短絡してしまう。その結果、半導体発光素子1は発光素子として動作しなくなる。
【0068】
これに対し、本実施の形態によれば、リフトオフを採用するので、製造プロセス中に、透明導電性膜13の残渣は生じ難くなる。従って、半導体発光素子1のn形半導体層とp形半導体層とが短絡する現象は生じ難く、半導体発光素子の製造歩留まりが向上する。
【0069】
また、本実施の形態によれば、透明導電性膜13の微細加工が容易になり、設計通りの透明導電性膜13のパターン形成が可能になる。これにより、透明導電性膜13内に微細な切り欠きを形成したり、透明導電性膜13自体を微細なパターン(例えば、櫛形パターン、網目状パターン)に加工することができる。すなわち、透明導電性膜13をパターニングする際の微細化、設計自由度がより向上する。
【0070】
また、絶縁膜11の耐熱性が高いので、透明導電性膜13を加熱し得る温度のマージンが拡大する。このため、加熱温度をパラメータとして、透明導電性膜13の膜質(例えば、電気抵抗率、透過率等)を容易に制御することができる。
【0071】
なお、絶縁膜11に代えて、レジストを用いて透明導電性膜13のリフトオフする方策も考えられる。しかし、ITO膜等の透明導電性膜13を真空蒸着で形成する場合は、通常、透明導電性膜13の電気抵抗率を低減させ、透明導電性膜13の透過率を増加させるために、半導体層10の温度を200℃〜400℃に設定しながら透明導電性膜13の成膜を行う。このため、レジストのパターンが上述したように変質したり、変形したりする場合がある。さらに、200℃以上の条件下では、レジストが硬化(例えば、炭化)する場合もある。レジストが硬化すると、硬化したレジストを有機溶剤で除去することは困難になる。
【0072】
一方、透明導電性膜13をスパッタリング法で形成する場合には、レジスト自体がスパッタ粒子、あるいはプラズマによってダメージを受けたり、レジスト成分が透明導電性膜13上に飛散したりする場合もある。レジスト成分が透明導電性膜13上に残存していると、透明導電性膜13とp側電極50との電気的コンタクトに不具合をもたらす場合もある。従って、リフトオフで用いるマスクとしては、スパッタ粒子、プラズマに対し耐性の高い絶縁膜11を用いることが望ましい。
【0073】
以上、具体例を参照しつつ本実施の形態について説明した。しかし、本実施の形態はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本実施の形態の特徴を備えている限り、本実施の形態の範囲に包含される。
【0074】
例えば、透明導電性膜13の表面側の少なくとも一部に、透光性を有する極薄の金属膜を形成することにより、透明導電性膜13の電気抵抗率を見かけ上、低減させることができる。このような実施の形態も本実施の形態に含まれる。
【0075】
本実施の形態では、透明導電性膜13を使用する具体的な用途として半導体発光素子1を例示したが、透明導電性膜13は、半導体発光素子1の用途に限られるものではない。本実施の形態に係る透明導電性膜13の用途は、太陽光電池、フラットパネルディスプレイ、タッチ式パネル、電磁波シールド材等にも用いることができる。さらに、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することもできる。
【符号の説明】
【0076】
1 半導体発光素子
10 半導体層(下地)
11 絶縁膜(第1の膜)
13 透明導電性膜(第2の膜)
13b 結晶粒界
13c 結晶粒
14 エッチング溶液(エッチャント)
20 サファイア基板
21 GaNバッファ層
22 n形GaN層
23 n形GaNガイド層
24 活性層
25 p形GaNガイド層
26 p形GaN層
40 n側電極
50 p側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地の上に第1の膜を選択的に形成する工程と、
前記第1の膜および前記第1の膜に覆われていない前記下地の上に、第2の膜を形成する工程と、
前記第2の膜の平均結晶粒径を前記第2の膜の膜厚以上に調整する工程と、
前記第1の膜のエッチャントを前記第2の膜の表面に晒し、前記第1の膜の上に形成された前記第2の膜を前記下地上から選択的に除去する工程と、
を備えたことを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
前記第2の膜に加熱処理を施し、前記第2の膜の平均結晶粒径を前記第2の膜の膜厚以上に調整することを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項3】
前記第2の膜を真空処理によって形成する際の雰囲気ガスに水素ガスを添加して、前記第2の膜の平均結晶粒径を前記第2の膜の膜厚以上に調整することを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項4】
前記エッチャントを前記第2の膜の結晶粒界を介して、前記第2の膜の裏面に接する前記第1の膜にまで到達させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のパターン形成方法。
【請求項5】
前記第2の膜の表面に対して略垂直な方向から前記第2の膜をみて、前記第2の膜の平均結晶粒径を算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のパターン形成方法。
【請求項6】
前記第1の膜として、酸化膜を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のパターン形成方法。
【請求項7】
前記第2の膜として、透明導電性膜を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のパターン形成方法。
【請求項8】
下地と、
前記下地の上に選択的に設けられ、平均結晶粒径が前記透明導電性膜の膜厚以上である透明導電性膜と、
を備えていることを特徴とする積層構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−4187(P2012−4187A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135465(P2010−135465)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】