説明

光半導体素子、該光半導体素子を用いた波長可変光源および光断層画像取得装置

【課題】製造容易で広帯域な利得スペクトル幅を有し、長時間安定して発光する光半導体素子を実現する。
【解決手段】素子内における共振が抑制され、GaAs基板11上に0.9μm以上かつ1.2μm以下の中心波長λcで発光する発光層が積層されている光半導体素子10において、発光層が、第1の中心波長例えば1.06μmで発光する第1のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)、第1の中心波長とは異なる第2の中心波長例えば1.09μmで発光する第2のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)とを含む多重量子ドット層である。このため、多重量子ドット層間の転位が回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子内における共振が抑制され、SLD(Super Luminescent Diode)やSOA(Semiconductor Optical Amplifier:半導体光増幅器)等として利用可能である光半導体素子に関するものである。また、この光半導体素子を用いた波長可変光源および光断層画像取得装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光半導体素子の中で、素子内における共振が抑制され、広い波長帯域の光を射出可能な光半導体素子として、SLD(Super Luminescent Diode)やSOA(Semiconductor Optical Amplifier:半導体光増幅器)が知られている。これらの光半導体素子は、半導体レーザに近い構造を有しているが、素子内において光が共振して、レーザ光が射出されることがないように、種々の工夫がなされている。例えば、光が射出する端面に無反射コーティングを施す、あるいは光導波路を素子端面の法線方向から数度(3〜12度程度)傾斜させること等により、素子内における共振が抑制されている。
【0003】
SLDでは、半導体レーザ同様に注入キャリアの再結合により生じた自然放出光が、光出射端面方向に進む間に誘導放出による高い利得を受けて増幅され、光出射端面から放出される。SLDは、半導体レーザ同様に数十mW程度までの光出力を得ることが可能であり、また通常の発光ダイオード同様にインコヒーレントでかつ広い波長帯域を有する光を射出することのできる光半導体素子である。このため、SLDは、主にファイバジャイロやOCT(Optical Coherence Tomography)計測を利用した光断層画像取得装置等の光計測の分野でインコヒーレント光源として使用されている。
【0004】
またSOA(Semiconductor Optical Amplifier:半導体光増幅器)は、SLDと非常に良く似たデバイスであり、光通信の分野において光信号を増幅するための光増幅器として研究されていたが、最近では波長可変光源の利得媒体としての応用検討が盛んである。波長可変光源の一例をあげると、SOAの一方の端面からの出射光をレンズにより平行光に変換し、この平行光を回折格子で波長分散した後、ミラーにより回折格子に戻すことにより波長選択してSOAに帰還させることでレーザ発振させている。回折格子とSOAの他方の端面の外部に設置された出力ミラーにより外部共振器が構成されている。出力ミラーから射出されたレーザ光はレンズにより平行光に変換され、光アイソレータを通過して、外部装置例えば光ファイバへ伝送される。なお、レーザ光の波長は、回折格子へ対するミラーの角度を変化させることにより変更へでき、またその波長可変幅はSOAが有する利得スペクトル幅によって制限される。
【0005】
一方、上述のOCT計測を利用した光断層画像取得装置は、光源から射出された光を測定光と参照光とに分割した後、該測定光が測定対象に照射されたときの測定対象からの反射光と参照光とを合波し、該反射光と参照光との干渉光の強度に基づいて光断層画像を取得するものである。
【0006】
このような光断層画像取得装置では、参照光の光路長を変更することにより、測定対象に対する深さ方向の位置(以下、深さ位置という)を変更し光断層画像を取得するTD−OCT(Time domain OCT)計測を利用した装置がある。
【0007】
また、近年では、上述した参照光の光路長を変更することなく高速に光断層画像を取得するSD−OCT(Spectral Domain OCT)計測を利用したSD−OCT装置が提案されている(特許文献1)。このSD−OCT装置は、マイケルソン型干渉計等を用いて、広帯域の低コヒーレント光を測定光と参照光とに分割した後、測定光を測定対象に照射させ、そのとき戻って来た反射光と参照光とを干渉させ、この干渉光を各周波数成分に分解したチャンネルドスペクトルをフーリエ変換することにより、深さ方向の走査を行わずに光断層画像を構成するようにしたものである。
【0008】
さらに、参照光の光路長の変更を行うことなく高速に光断層画像を取得する装置として、SS−OCT(Swept source OCT)計測による光断層画像化装置も提案されている。このSS−OCT装置は、光源から射出されるレーザ光の周波数を掃引させて、反射光と参照光とを各波長において干渉させ、一連の波長に対する干渉スペクトルをフーリエ変換することにより測定対象の深さ位置における反射光強度を検出し、これを用いて光断層画像を構成するようにしたものである。
【0009】
このような光断層画像取得装置においては、スペクトル半値幅が広い低コヒーレンス光を用いることにより分解能が向上することが知られている。また中心波長0.9μm〜1.2μmの帯域の低コヒーレンス光は、生体における吸収損失および散乱損失が少なく、かつ生体の主な構成物質である水による分散の影響を受けにくいため、中心波長0.9μm〜1.2μmの帯域の低コヒーレンス光が有効であることが知られている。
【特許文献1】特開平11−325849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したOCT計測による光断層画像取得装置で用いられる光源として、化合物光半導体素子を用いたSLD(スーパールミネッセントダイオード)や、光半導体素子を光増幅器として用いる波長掃引レーザがあげられる。しかしながら、中心波長が、1.2μm付近の波長は、発光層にInGaAs系量子井戸層を使用したデバイスで作製できる波長の長波側限界に近く、結晶学的に良質な発光層を有するデバイスを作製することが困難である。ゆえにこの波長帯域では、OCT計測に必要とされる長時間安定して発光する半導体発光デバイスの作製は達成されていない。
【0011】
またOCT計測による光断層画像取得装置における計測分解能を向上させるには光源の発光波長帯域(スペクトル幅)を広げる必要があることがわかっている。例えば特願2006−161045では、発光波長帯域の中心波長をλcとし、スペクトル半値全幅をΔλとした場合、λc2/Δλ≦15であることが望ましいことが開示されている。
【0012】
量子井戸構造を有する光半導体素子において、発光層の発光波長帯域を広げる方法としては、発光層の量子井戸数を増やし組成を変化させることが挙げられるが、この方法では発光層の結晶にさらに負担がかかり、良質な結晶をもち、長時間安定して発光する光半導体素子を作製することは非常に困難であった。また、発光層が、積層された複数枚の量子井戸層から形成されている多重量子井戸層型の光半導体素子も知られているが、例えば組成を変えることにより発光波長が異なる量子井戸層を積層した場合、井戸層間に転位が発生するため、やはり長時間安定して発光する光半導体素子を製造することが難しいという問題がある。
【0013】
本発明は上記の事情に鑑みて、中心波長0.9μm以上かつ1.2μm以下の範囲の波長で発光し、発光波長帯域が広く、かつ数十mW程度までの出力が出せ、長時間安定して発光する光半導体素子を実現することを目的とするものである。
【0014】
本発明はまた、上記光半導体素子を用いた波長可変光源および光断層画像取得装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の光半導体素子は、素子内における共振が抑制され、GaAs基板上に0.9μm以上かつ1.2μm以下の中心波長λcで発光する発光層が積層されている光半導体素子において、
前記発光層が、第1の中心波長λで発光する第1のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)および第1の中心波長λとは異なる第2の中心波長λで発光する第2のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)とを備える多重量子ドット層であることを特徴とするものである。
【0016】
前記第1の中心波長λと前記第2の中心波長λとは、30nm以上離れていてもよい。また、前記第1の中心波長λと前記第2の中心波長λとは、50nm以上離れているもよいし、あるいは100nm以上離れていてもよい。
【0017】
前記発光層の発光中心波長λcは、1.1μm以上であってもよい。また1.15μm以上であってもよい。
【0018】
前記発光層の発光スペクトル半値全幅をΔλとしたときに、
λc/Δλ≦15
であってもよい。
【0019】
前記発光層において、第1のInXGa1-XAs量子ドット層の組成と前記第2のInXGa1-XAs量子ドット層の組成とが略同一であり、前記第1のInXGa1-XAs量子ドット層のドットの高さと、前記第2のInXGa1-XAs量子ドット層のドットの高さとが異なるものであってもよい。
【0020】
また、前記第1のInXGa1-XAs量子ドット層の高さと前記第2のInXGa1-XAs量子ドット層の高さとが略同一であり、前記第1のInXGa1-XAs量子ドット層の組成と、前記第2のInXGa1-XAs量子ドット層の組成とが異なるものであってもよい。
【0021】
本発明の波長可変光源は、共振器内に、光増幅器および該光増幅器により増幅される光の波長を選択する波長選択手段を備えた外部共振器型の波長可変光源において、
前記光増幅器が、素子内における共振が抑制され、GaAs基板上に0.9μm以上かつ1.2μm以下の中心波長λで発光する発光層が積層され、該発光層が、中心発光波長が異なる第1の中心波長λで発光する第1のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)および第1の中心波長λとは異なる第2の中心波長λで発光する第2のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)とを備える多重量子ドット層である光半導体素子を有していることを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の光断層画像取得装置は、低コヒーレンス光を射出する光源と、
前記光源から射出された光を測定光と参照光とに分割する光分割手段と、
前記測定光を測定対象に照射する照射手段と、
前記測定光が前記測定対象に照射されたときの該測定対象からの反射光と前記参照光とを重ね合わせる合波手段と、
該合波手段により合波された前記反射光と前記参照光との干渉光を検出する干渉光検出手段と、
該干渉光検出手段により検出された前記干渉光から前記測定対象の断層画像を取得する画像取得手段とを備えた光断層画像取得装置において、
前記光源が、素子内における共振が抑制され、GaAs基板上に0.9μm以上かつ1.2μm以下の中心波長λで発光する発光層が積層され、該発光層が、中心発光波長が異なる第1の中心波長λで発光する第1のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)および第1の中心波長λとは異なる第2の中心波長λで発光する第2のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)とを備える多重量子ドット層である光半導体素子を有していることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の他の光断層画像取得装置は、波長を一定の周期で掃引させながらレーザ光を射出する波長掃引光源と、
該波長掃引光源から射出された前記レーザ光を測定光と参照光とに分割する光分割手段と、
前記測定光を測定対象に照射する照射手段と、
前記測定光の前記測定対象からの反射光と前記参照光とを重ね合わせる合波手段と、
該合波手段により重ねあわされた前記反射光と前記参照光との干渉光の周波数および強度に基づいて、前記測定対象の各深さ位置における前記反射光の強度を検出する干渉光検出手段と、
該干渉光検出手段により検出された前記各深さ位置における前記反射光の強度を用いて前記測定対象の断層画像を取得する画像取得手段とを有する光断層画像取得装置において、
前記波長掃引光源が、光増幅器および該光増幅器により増幅される光の波長を掃引する波長掃引手段を備え、
前記光増幅器が、素子内における共振が抑制され、GaAs基板上に0.9μm以上かつ1.2μm以下の中心波長λcで発光する発光層が積層され、該発光層が、中心発光波長が異なる第1の中心波長λで発光する第1のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)および第1の中心波長λとは異なる第2の中心波長λで発光する第2のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)とを備える多重量子ドット層である光半導体素子を有していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光半導体素子は、素子内における共振が抑制され、GaAs基板上に0.9μm以上かつ1.2μm以下の中心波長λcで発光する発光層が積層され、前記発光層が、中心発光波長が異なる第1の中心波長λで発光する第1のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)および第1の中心波長λとは異なる第2の中心波長λで発光する第2のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)とを備える多重量子ドット層であるため、転位の発生を回避することができるので、中心波長0.9μm以上かつ1.2μm以下の範囲の波長で発光し、かつ数十mW程度までの出力が出せ、長時間安定して発光する光半導体素子を実現することができる。
【0025】
また、共振器内に、光増幅器および該光増幅器により増幅される光の波長を選択する波長選択手段を備えた外部共振器型の波長可変光源において、光増幅器として本発明の光半導体素子を用いることにより容易に広帯域に渡り射出光の波長を変更することができ、かつ長時間安定して動作する波長可変光源を実現することができる。
【0026】
また、低コヒーレンス光を射出する光源から射出された光を用いて光断層画像を取得する光断層画像取得装置において、光源として本発明の光半導体素子を有するものを用いることにより、容易に低コヒーレンス光の波長帯域を広帯域化することができるので、分解能の高い光断層画像を取得することができる。また長時間安定して動作する光断層画像取得装置を実現することができる。
【0027】
さらに、波長を一定の周期で掃引させながらレーザ光を射出する波長掃引光源から射出された光を用いて光断層画像を取得する光断層画像取得装置において、光源として本発明の光半導体素子を有するものを用いることにより、容易に掃引波長帯域を広帯域化することができ、分解能の高い光断層画像を取得することができる。また長時間安定して動作する光断層画像取得装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図面を参照して、本発明の第1の実施形態である光半導体素子10について説明する。図1は、光半導体素子10の全体斜視図である。光半導体素子10は、有機金属気相成長(MOCVD)法を用いて結晶成長を行って作成した埋め込み型リッジ構造を有する光半導体素子である。
【0029】
有機金属気相成長(MOCVD)法の原料ガスとしては、TEG(トリエチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、TMI(トリメチルインジウム)、AsH3(アルシン)、PH3(ホスフィン)等を用いている。また、ドーパントとしては、SiH4(シラン)、DEZ(ジエチル亜鉛)を用いている。
【0030】
まず、光半導体素子10の層構造について説明する。光半導体素子10は、n型GaAs基板11上に、n型GaAsバッファ層12、n型In0.49Ga0.51P下部クラッド層13、ノンドープGaAs下部光ガイド層14、InGa1-xAs/GaAs多重量子ドット発光層15、ノンドープGaAs上部光ガイド層16、p型In0.49Ga0.51P上部第1クラッド層17、p型 GaAsエッチングストップ層18が順に積層されている。
【0031】
p型 GaAsエッチングストップ層18上には、リッジ形状のp型In0.49Ga0.51P上部第2クラッド層19が形成されている。このリッジ(p型In0.49Ga0.51P上部第2クラッド層19)の側面にはn型InAlGaP電流ブロック層20が形成され、さらにリッジおよびn型InAlGaP電流ブロック層20の上面にはp型In0.49Ga0.51P上部第3クラッド層21およびp型GaAsコンタクト層22が形成されている。
【0032】
以下光半導体素子10の作成方法について説明する。まず、n型GaAs基板11上に、MOCVD法により成長温度600℃、成長温度10.3kPaの条件下にてn型GaAsバッファ層(0.05μm厚キャリア濃度7.0×1017cm-3)12、n型In0.49Ga0.51P下部クラッド層(2.0μm厚キャリア濃度7.0×1017cm-3)13、ノンドープGaAs下部光ガイド層(0.034μm厚)14 を積層し、さらにInXGa1-XAs/GaAs多重量子ドット層15を成長させる。この層は自己形成されたInGaAsドット層が3層構造になっていて、In組成を0.7〜0.8で変化させながら成長させている。このとき、多重量子ドット層の高さは統一されている。フォトルミネッセンス測定にて、層ごとに中心発光波長が1.06μm、1.09μm、1.12μmになり、また、本光半導体素子10から出射される光の半値幅が150nmになるように各層の組成が設計されている。
【0033】
その後、ノンドープGaAs上部光ガイド層(0.034μm厚)16、p型In0.49Ga0.51P上部第1クラッド層(0.2μm厚、キャリア濃度7.0×1017cm-3)17、p型 GaAsエッチングストップ層(100Å厚、キャリア濃度7.0×1017cm-3)18、In0.49Ga0.51P上部第2クラッド層(0.5μm厚、キャリア濃度7.0×1017cm-3)19およびp型GaAsキャップ層(0.1μm厚、キャリア濃度7.0×1017cm-3)をこの順で1回目の成長により積層配置する。
【0034】
次にストライプ上にSiO2などの誘電体膜を形成し、この誘電体膜をマスクとしてGaAsキャップ層、p型In0.49Ga0.51P上部第2クラッド層19をエッチングして、メサストライプ状のリッジ構造を下端の幅が3μm、かつ光出射端面に対し6度傾くように形成する。その後、選択成長法により、前記p-GaAsエッチングストップ層18の上でかつ前記ストライプの上を除く部分にn-In0.49(Al0.12Ga0.88)0.51P電流ブロック層(0.5μm厚、キャリア濃度1.0×1018cm-3)20を成長温度600℃で2回目の結晶成長により形成する。さらに、前記誘電体マスクとその下のGaAsキャップ層を除去した後に、前記ストライプ及び電流ブロック層の全面に対してp型In0.49(Al0.12Ga0.88)0.51P上部第3クラッド層(1.3μm厚、キャリア濃度7.0×1017cm-3)21、p-GaAsコンタクト層(0.5μm厚、キャリア濃度1.0×1019cm-3)22を成長温度600℃で3回目の結晶成長により形成する。その後全体の厚みが100μm程度になるまで基板の研磨を行い、n側電極24を基板裏面に、p側電極23をコンタクト層上に蒸着し、さらに熱処理により形成する。そして、共振器長0.7mmになるように光半導体素子バ−を劈開により切り出し、共振器面へAR膜(素子自体からの発光波長に対して0.5%以下の反射率)のコ−ティングを行う。チップは、放熱効果を高めるため発光部のあるpn接合部を下にしてヒートシンクに実装を行い、光半導体素子10が形成される。
【0035】
なお、上述したように、光半導体素子10は、素子内における光の共振を抑制するために、図2に示すように、光Lが射出する端面25および26にARコーティングが施されている。また、導波路であるメサストライプ状のリッジ構造を端面25および26の法線方向から6度傾斜させることにより、素子内における光の共振を抑制している。このように、光半導体素子内における光の共振を抑制することにより、光半導体素子10がその素子内においてレーザ発振することを防止することができる。素子内における共振が抑制されているため、光半導体素子10は、自然放出光を射出するSLDあるいは光信号を増幅するSOAとして機能することができる。
【0036】
素子内における光の共振を抑制するためには、上記以外にも種々の方法が可能であり、例えば端面に凹凸を形成する、端面近傍で光導波路構造を消失させる、素子内部で光を吸収または拡散する領域を設ける等の手段によっても、光導波路内における共振を抑制することができる。
【0037】
このように作製した光半導体素子10をSLDとして発光させたところ、30mWの出力で、発光中心波長1.102μm、発光スペクトル半値全幅150nmであった。素子寿命を評価するため室温で連続駆動したところ、出力が初期の90%になったのは約13000時間後であった。
【0038】
素子性能を比較するために、発光層以外の部分は上記のものと全く同一にして、発光層はInGaAs材料で出射光の中心波長1.1μmになるように井戸幅を調整した多重量子井戸発光層からなる光半導体素子を作製した。発光層の組成はIn0.2Ga0.8Asを用いた。この光半導体素子をSLDとして発光させたところ、発光スペクトル半値全幅は48nmであり、出力が初期の90%になったのは、で約7000時間後であった。
【0039】
以上の説明から、発光層が、中心波長が異なる3層のInGaAsドット層から形成されている光半導体素子10は、各ドッド層間に転位が発生することが回避されているため、長時間安定して発光することがわかる。さらに、従来の発光層構造では、素子寿命が短くなる中心波長が1.1μm以上の場合においても、長時間安定して発光することがわかる。また、上記実施の形態の変形では、発光層を形成する各量子ドッド層のIn組成を変えることにより、各量子ドッド層から射出される光の中心波長を変えていたが、例えば各量子層において、組成は固定して、各量子ドット層のドットの高さを変えることにより各量子ドッド層から射出される光の中心波長を変えることもできる。
【0040】
本発明者は、Ga1-XInXAs/GaAs多重量子ドット層15のIn組成を固定し、各層のドットの高さを2.8ML〜3.5MLに振って、層ごとに中心発光波長1.06μm、1.09μm、1.16μmになり、また、出射される光の半値幅が150nmになるように各層のドッド高さを設計して、光半導体素子10を作成した。。素子寿命を評価するため室温で連続駆動したところ、出力が初期の90%になったのは約9500時間であった。このことから、各量子ドット層のドットの高さを変えることにより各量子ドッド層から射出される光の中心波長を変えて発光層を形成した場合であっても、各ドッド層間に転位が発生することが回避されているため、長時間安定して発光することがわかる。なお、各量子ドット層の組成およびドット高さの両方を変更して、各量子ドッド層から射出される光の中心波長を変えてもよい。
【0041】
さらに、本発明者は、Ga1-XInXAs/GaAs多重量子ドット層15のIn組成を0.7〜0.82にし各ドット層の高さは統一し、出射される光の中心波長が1.15μmになるよう設計して、光半導体素子10を作成した。この光半導体素子10を発光させたところ、波高中心波長は1.153μmとなり、発光スペクトル半値全幅は160nmであった。素子寿命を評価するため室温で連続駆動したところ、出力が初期の90%になったのは約10000時間後であった。
【0042】
素子性能を比較するために、発光層以外の部分は上記のものと全く同一にして、発光層はInGaAs材料で出射光の中心波長1.15μmになるように井戸幅を調整した多重量子井戸発光層からなる光半導体素子を作成した。発光層の組成はIn0.27Ga0.73Asであった。そして信頼性を評価したところ、出力が初期の90%になったのは、約3800時間後であった。
【0043】
これから、従来の発光層構造では、素子寿命が非常に短くなる中心波長が1.15μm以上の場合においても、長時間安定して発光することがわかる。
【0044】
なお、本実施の形態では、結晶成長方法にMOCVD法を用いたが、これに限定されるものではなく、分子線エピタキシー法など他の成長方法を用いることもできる。また、本実施の形態において、光ガイド層の材料組成および層厚、電流ブロック層の材料組成および層厚、クラッド層の材料組成および層厚は発光波長が単一モードで発光する条件の1例を示したものであり、本発明を前述の材料組成、層厚に限定したものではない。またここでは埋込型リッジストライプ構造による光半導体素子を実施の形態として挙げたが、内部ストライプ構造など他の構造であってもよい。
【0045】
次に、本発明における第2の実施例である波長可変レーザ装置30を示す。波長可変レーザ装置30は、第1の実施の形態に記載されている光半導体素子10を光増幅器として用い、回折格子32を波長選択手段として用いるリトロー配置型の外部共振器型波長可変レーザ装置であり、その概略構成図を図3に示す。
【0046】
波長可変レーザ装置30では、回折格子32および出力ミラー31(透過率50%)により共振器が構成されている。光半導体素子10から回折格子32側へ射出された自然放出光はレンズ33により集光されて平行光となり、回折格子32へ入射する。回折格子32により波長分散された光の中から、入射光軸方向へ分散された光が戻り光として光半導体素子10へ帰還する。この光が、回折格子32および出力ミラー31からなる共振器内で共振してレーザ光Lとして出力ミラー31から光アイソレータ35側へ射出される。光アイソレータ35は光ファイバFB1より遠端の反射光が光半導体素子10に結合しないようにする働きを持つ。光アイソレータ35を透過したレーザ光Lは、集光レンズ34により集光されて光ファイバFB1へ入射する。回折格子32を回転させることにより、戻り光の波長を変更し、共振光周波数(レーザ発振波長)を変えることができる。なお、レーザ光の波長可変範囲は、光増幅器である光半導体素子10の利得スペクトル幅と略一致するものである。
【0047】
また、光半導体素子10の発光層であるInXGa1-XAs/GaAs多重量子ドット層15のIn組成は0.7〜0.82で、電流で駆動させたときの発光中心波長が1.15μm、発光スペクトル半値全幅が160nmになるように設計した。そして回折格子32を1.15μmの光が取り出せる角度に調整した。
【0048】
素子寿命を評価するため、室温で、10mWの出力で連続駆動したところ、出力が初期の90%になったのは約28000時間後であった。
【0049】
素子性能を比較するために、発光層をIn0.27Ga0.73As(電流駆動での発光波長は1.15μm)で作製した光半導体素子を使用して同様の波長可変光源を用意し、室温で10mWの出力で、連続駆動したところ、出力が初期の90%になったのは約9000時間後であった。
【0050】
このことから、波長可変光源において、発光層をInXGa1-XAs/GaAs多重量子ドット層で作成した光半導体素子を増幅器として用いた場合には、信頼性が向上することがわかった。またこのような波長可変光源は、容易に広帯域に渡り射出光の波長を変更することができ、かつ長時間安定して動作することができる。
【0051】
また、図4に本実施の形態の変形例である波長掃引レーザ装置40を示す。波長掃引レーザ装置40では、回折格子32の角度を周期的に変更する波長掃引部41が設けられている。回折格子32の角度が周期的に変化することにより波長掃引レーザ装置40から射出されるレーザ光Laの発振波長が周期的に掃引される。
【0052】
さらに上記実施例では波長可変レーザの例としてリトロー配置型の波長可変レーザを説明したが、これに限定されるものではなくリットマン配置型の波長可変レーザであってもよい。
【0053】
次に、本発明における第3の実施例である波長可変リングレーザ装置50について、図5を用いて説明する。波長可変リングレーザ装置50は、共振器の構成をリング状にしたレーザ装置であり、第1の実施の形態に記載されている光半導体素子10を光増幅器として用い、多層誘電体膜からなる光フィルタ51を波長選択手段として用いている。光フィルタ51は、光軸に対する多層誘電体膜の角度により透過する波長が定まるものであり、光フィルタ51の角度を変更することにより、透過する光の波長を変更することができる。
【0054】
光半導体素子10からの自然放出光は、レンズ56により平行光化され、光フィルタ51に入射されて特定の波長(発振波長)のみが透過する。この光フィルタ51を透過した光はレンズ56により集光されて光ファイバ53入射し、さらに光カプラ54を透過して、レンズ58により平行光化され光アイソレータ52を透過し、レンズ59により集光されて、光半導体素子10へ戻る。光アイソレータ52は光の周回方向を決めるほか、リングレーザ装置50の安定な発振動作に寄与する。光半導体素子10のもつ光利得がリングレーザ共振器の全損失を上回る状態になるとレーザ発振が生じる。前述したように、発振波長は光フィルタ54の透過中心波長により決まることから、光軸に対する光フィルタ54の角度を変えることで発振波長を可変できる。また波長可変リングレーザ装置50内の光は光カプラ56により取り出すことができる。このような波長可変光源においても、容易に広帯域に渡り射出光の波長を変更することができ、かつ長時間安定して動作することができる。
【0055】
また、図6に本実施の形態の変形例である波長掃引リングレーザ装置60を示す。この波長掃引リングレーザ60は、光フィルタ54に接続され、光軸に対する光フィルタ54の角度を周期的に変更する光フィルタ掃引部61を備えている。光フィルタの角度が周期的の変更されることにより、発振波長が周期的に掃引される。
【0056】
以下、本発明による光半導体素子を有する光源を用いて光断層画像を取得する光断層画像取得装置について説明する。従来、生体組織の光断層画像を取得する際に、OCT計測を利用した光断層画像取得装置が用いられることがある。この光断層画像取得装置は、光源から射出された低コヒーレント光を測定光と参照光とに分割した後、該測定光が測定対象に照射されたときの測定対象からの反射光と参照光とを合波し、該反射光と参照光との干渉光の強度に基づいて光断層画像を取得するものである。
【0057】
上記のような光断層画像取得装置では、参照光の光路長を変更することにより、測定対象に対する深さ方向の位置(以下、深さ位置という)を変更し光断層画像を取得するTD−OCT(Time domain OCT)計測を利用した装置がある。
【0058】
また、近年では、上述した参照光の光路長を変更することなく高速に光断層画像を取得するSD−OCT(Spectral Domain OCT)計測を利用したSD−OCT装置が提案されている。このSD−OCT装置は、マイケルソン型干渉計等を用いて、広帯域の低コヒーレント光を測定光と参照光とに分割した後、測定光を測定対象に照射させ、そのとき戻って来た反射光と参照光とを干渉させ、この干渉光を各周波数成分に分解したチャンネルドスペクトルをフーリエ変換することにより、深さ方向の走査を行わずに光断層画像を構成するようにしたものである。
【0059】
さらに、参照光の光路長の変更を行うことなく高速に光断層画像を取得する装置として、SS−OCT(Swept source OCT)計測による光断層画像化装置も提案されている。このSS−OCT装置は、光源から射出されるレーザ光の周波数を掃引させて、反射光と参照光とを各波長において干渉させ、一連の波長に対する干渉スペクトルをフーリエ変換することにより測定対象の深さ位置における反射光強度を検出し、これを用いて光断層画像を構成するようにしたものである。
【0060】
図7に示す光断層画像取得装置100は、上述のいわゆるSS−OCT(Swept source OCT)により断層画像を取得するものであって、1.0μmを中心波長とした80nmの波長範囲において一定周期で波長を掃引しながら測定光L1を、測定対象Sへ射出するものである。そして、光断層画像取得装置100は、測定光L1が照射対象に照射されたときの照射対象Sからの反射光(後方散乱光)Lrに基づいて断層画像を生成し、表示装置4に表示するようになっている。
【0061】
本装置における光源としては、図4に示す、第3の実施形態の変形例である波長掃引レーザ装置40が用いられている。波長掃引レーザ装置40からは、1.0μmを中心波長として、80nmの波長範囲において一定周期で波長が掃引されるレーザ光Lbが光ファイバFB1へ射出される。
【0062】
光分割手段3は、例えば2×2の光ファイバカプラから構成されており、波長掃引レーザ装置40から光ファイバFB1を介して導波した光Lbを測定光L1と参照光L2とに分割する。この光分割手段3は、2本の光ファイバFB2、FB3にそれぞれ光学的に接続されており、測定光L1は光ファイバFB2を導波し、参照光L2は光ファイバFB3を導波する。なお、本例におけるこの光分割手段3は、合波手段4としても機能するものである。
【0063】
光ファイバFB2には、光プローブ130が光学的に接続されており、測定光L1は光ファイバFB2から光プローブ130へ導波する。光プローブ130は、例えば鉗子口から鉗子チャンネルを介して体腔内に挿入されるものであって、光学コネクタ136により光ファイバFB2に対して着脱可能に取り付けられている。
【0064】
光プローブ130は、先端が閉じられた円筒状のプローブ外筒131と、このプローブ外筒131の内部空間に、該外筒131の軸方向に延びる状態に配設された1本の光ファイバ132と、光ファイバ132の先端から出射した測定光L1をプローブ外筒131の周方向に偏向させるプリズムミラー133と、光ファイバ132の先端から出射した測定光L1を、プローブ外筒131の周外方に配された被走査体としての測定対象Sにおいて収束するように集光するロッドレンズ134と、光ファイバ132を該光ファイバ132の光軸を回転軸として回転させるモータ135とを備えている。なお、ロッドレンズ134およびプリズムミラー133は、光ファイバ132とともに回転するように配設されている。
【0065】
一方、光ファイバFB3の参照光L2の射出側には光路長調整手段120が配置されている。光路長調整手段120は、断層画像の取得を開始する位置を調整するために、参照光L2の光路長を変更するものであって、光ファイバFB3から射出された参照光L2を反射させる反射ミラー122と、反射ミラー122と光ファイバFB3との間に配置された第1光学レンズ121aと、第1光学レンズ121aと反射ミラー122との間に配置された第2光学レンズ121bとを有している。
【0066】
第1光学レンズ121aは、光ファイバFB3のコアから射出された参照光L2を平行光にするとともに、反射ミラー122により反射された参照光L2を光ファイバFB3のコアに集光する機能を有している。また、第2光学レンズ121bは、第1光学レンズ21aにより平行光にされた参照光L2を反射ミラー122上に集光するとともに、反射ミラー122により反射された参照光L2を平行光にする機能を有している。つまり、第1光学レンズ121aと第2光学レンズ121bとにより共焦点光学系が形成されている。
【0067】
したがって、光ファイバFB3から射出した参照光L2は、第1光学レンズ121aにより平行光になり、第2光学レンズ121bにより反射ミラー122上に集光される。その後、反射ミラー122により反射された参照光L2は、第2光学レンズ121bにより平行光になり、第1光学レンズ121aにより光ファイバFB3のコアに集光される。
【0068】
さらに光路長調整手段120は、第2光学レンズ121bと反射ミラー122とを固定した基台123と、該基台123を第1光学レンズ121aの光軸方向に移動させるミラー移動手段124とを有している。そして基台123が矢印A方向に移動することにより、参照光L2の光路長が変えられるようになっている。
【0069】
また合波手段4は、前述の通り2×2の光ファイバカプラからなり、光路長調整手段120により周波数シフトおよび光路長の変更が施された参照光L2と、照射対象Sからの反射光L3とを合波し、光ファイバFB4を介して干渉光検出手段140側に射出するように構成されている。
【0070】
干渉光検出手段140は、合波手段4により合波された反射光L3と参照光L2との干渉光L4を検出する。そして、画像取得手段150は、干渉光検出手段140により検出された干渉光L4をフーリエ変換することにより、照射対象Sの各深さ位置における反射光L3の強度を検出し、照射対象Sの断層画像を取得する。そして、この取得された断層画像が表示装置160に表示される。なお本例の装置は、干渉光L4を光ファイバカプラ3で二分した光をそれぞれ光検出器142aと142bに導き、演算手段141においてバランス検波を行う機構を有している。以上の通り本例では、光検出器142a、142bおよび演算手段141により干渉光検出手段140が構成されている。
【0071】
ここで、干渉光検出手段140および画像取得手段150における干渉光L4の検出および画像の生成について簡単に説明する。なお、この点の詳細については「武田 光夫、「光周波数走査スペクトル干渉顕微鏡」、光技術コンタクト、2003、Vol.41、No.7、p426−p432」に詳しい記載がなされている。
【0072】
測定光L1は光プローブ130から体腔内に向けて射出され、測定対象Sに照射される。このとき、光プローブ130により、そこから出射した測定光L1が測定対象Sを1次元に走査する。そして、測定対象Sからの反射光L3が光路長調整手段120の反射ミラー122において反射した参照光L2と合波され、反射光L3と参照光L2との干渉光L4が干渉光検出手段140によって検出される。
【0073】

測定光L1が照射対象Sに照射されたとき、照射対象Sの各深さからの反射光L3と参照光L2とがいろいろな光路長差をもって干渉しあう際の各光路長差lに対する干渉縞の光強度をS(l)とすると、干渉光検出手段140において検出される光強度I(k)は、
I(k)=∫S(l)[1+cos(kl)]dl
で表される。ここで、kは波数、lは光路長差である。上式は波数k=ω/cを変数とする光周波数領域のインターフェログラムとして与えられていると考えることができる。このため、画像取得手段150において、干渉光検出手段140が検出したスペクトル干渉縞をフーリエ変換を行い、干渉光L4の光強度S(l)を決定することにより、照射対象Sの測定開始位置からの距離情報と反射強度情報とを取得し、断層画像を生成することができる。
【0074】
このように、波長を一定の周期で掃引させながらレーザ光を射出する波長掃引光源から射出された光を用いて光断層画像を取得する光断層画像取得装置100において、光源として本発明の光半導体素子を有する波長掃引レーザ装置40を用いることにより、容易に掃引波長帯域を広帯域化することができ、分解能の高い光断層画像を取得することができる。また長時間安定して動作する光断層画像取得装置を実現することができる。
【0075】
なお、実施の形態においては、光源として波長掃引レーザ装置40を用いたが、図6に示す波長掃引リングレーザ60を用いることもできる。
【0076】
次に、図8を用いて本発明による光半導体素子を光源として用いた光断層画像取得装置の別の例について説明する。図8に示す光断層画像取得装置200は、例えば体腔内の生体組織や細胞等の測定対象の断層画像を前述のSD−OCT(Spectral Domain OCT)計測により取得するものであって、具体的に図7の光断層画像取得装置1と異なる点は、光源ユニットおよび干渉光検出手段の構成である。
【0077】
光Lbを射出する光源ユニット210と、光源ユニット210から射出された光Lbを測定光L1と参照光L2とに分割する光分割手段3と、光分割手段3により分割された参照光L2の光路長を調整する光路長調整手段220と、光分割手段3により分割された測定光L1を照射対象Sに照射する光プローブ130と、こうして照射対象Sに測定光L1が照射されたとき照射対象Sで反射した反射光L3と参照光L2とを合波する合波手段4と、合波された反射光L3と参照光L2との間の干渉光L4を検出する干渉光検出手段240とを有している。
【0078】
光源ユニット210は、図2に示した光半導体素子10と、この光半導体素子10からから射出された低コヒーレンス光Lbを光ファイバFB1内に入射させるための光学系212とを有している。なお、光半導体素子10はSLDとして機能するものであり、光半導体素子10からは中心波長1.0μm、スペクトル線幅80nmの低コヒーレンス光Lbが射出される。
【0079】
一方、干渉光検出手段240は、合波手段4により合波された反射光L3と参照光L2との干渉光L4を検出するものであって、光ファイバFB4から出射した干渉光L4を平行光化するコリメータレンズ241と、複数の波長帯域を有する干渉光L4を各波長帯域毎に分光する分光手段242と、分光手段242により分光された各波長帯域の干渉光L4を検出する光検出手段244とを有している。
【0080】
分光手段242は例えば回折格子素子等から構成されており、そこに入射した干渉光L4を分光して、光検出手段244に向けて射出する。また光検出手段244は、例えば1次元もしくは2次元に光センサが配列されてなるCCD等の素子から構成され、各光センサが、上述のように分光された干渉光L4を波長帯域毎にそれぞれ検出するようになっている。
【0081】
上記光検出手段244は例えばパーソナルコンピュータ等のコンピュータシステムからなる画像取得手段250に接続され、この画像取得手段250はCRTや液晶表示装置等からなる表示装置160に接続されている。
【0082】
以下、上記構成を有する光断層画像取得装置200の作用について説明する。断層画像を取得する際には、まず基台123を矢印A方向に移動させることにより、測定可能領域内に照射対象Sが位置するように光路長の調整が行われる。その後、光源ユニット210から光Lbが射出され、この光Laは光分割手段3により測定光L1と参照光L2とに分割される。測定光L1は光プローブ130から体腔内に向けて射出され、照射対象Sに照射される。このとき、該光プローブ130により、そこから出射した測定光L1が照射対象Sを1次元に走査する。そして、照射対象Sからの反射光L3が反射ミラー22において反射した参照光L2と合波され、反射光L3と参照光L2との干渉光L4が干渉光検出手段240によって検出される。この検出された干渉光L4が画像取得手段250において適当な波形補償、ノイズ除去を施した上でフーリエ変換されることにより、照射対象Sの深さ方向の反射光強度分布情報が得られる。
【0083】
そして、光プローブ130により上述のように測定光L1を照射対象S上で走査させれば、この走査方向に沿った各部分において照射対象Sの深さ方向の情報が得られるので、この走査方向を含む断層面についての断層画像を取得することができる。このようにして取得された断層画像は、表示装置160に表示される。なお、例えば光プローブ130を図8の左右方向に移動させて、照射対象Sに対して測定光L1を、上記走査方向に対して直交する第2の方向に走査させることにより、この第2の方向を含む断層面についての断層画像をさらに取得することも可能である。
【0084】
このように、低コヒーレンス光を射出する光源から射出された光を用いて光断層画像を取得する光断層画像取得装置200において、光源として本発明の光半導体素子10を用いることにより、容易に低コヒーレンス光の波長帯域を広帯域化することができ、分解能の高い光断層画像を取得することができる。また長時間安定して動作する光断層画像取得装置を実現することができる。
【0085】
次に、本発明による光半導体素子を光源として用いた光断層画像取得装置のさらに別の例について説明する。図9に示す光断層画像取得装置300は、測定対象の断層画像を前述のTD−OCT計測により取得するものであって、レーザ光Lbを射出する光半導体素子10および集光レンズ121からなる光源ユニット210と、光源ユニット210から射出されて光ファイバFB1を伝搬する低コヒーレンス光KLbを分割する光分割手段2と、ここを通過した低コヒーレンス光Lbを測定光L1と参照光L2とに分割する光分割手段3と、光分割手段3により分割されて光ファイバFB3を伝搬した参照光L2の光路長を調整する光路長調整手段320と、光分割手段3により分割されて光ファイバFB2を伝搬した測定光L1を照射対象Sに照射する光プローブ130と、光プローブ130から測定光L1が照射対象Sに照射されたときの測定対象からの反射光L3と参照光L2とを合波する合波手段4(光分割手段3が兼ねている)と、合波手段4により合波されて反射光L3と参照光L2との干渉光L4を検出する干渉光検出手段330とを備えている。
【0086】
上記光路長調整手段320は、光ファイバFB3から出射した参照光L2を平行光化するコリメータレンズ321と、このコリメータレンズ321との距離を変えるように図中矢印A方向に移動可能とされたミラー323と、このミラー323を移動させるミラー移動手段324とから構成されて、照射対象S内の測定位置を深さ方向に変化させるために、参照光L2の光路長を変える機能を有している。そして、光路長調整手段320により光路長の変更がなされた参照光L2が合波手段4に導波されるようになっている。
【0087】
干渉光検出手段330は、合波手段4から光ファイバFB2を伝搬して来た干渉光L4の光強度を検出する。具体的には、測定光L1の全光路長と照射対象Sのある点で反射、もしくは後方散乱された反射光L3の合計と、参照光L2の光路長差が光源のコヒーレンス長よりも短い場合にのみ、反射光量に比例した振幅の干渉信号が検出される。また、光路長調整手段320により光路長を走査することで、干渉信号が得られる照射対象Sの反射点位置(深さ)が変わって行き、それにより、干渉光検出手段330が照射対象Sの各測定位置における反射率信号を検出するようになっている。なお、測定位置の情報は光路長調整手段320から画像取得手段へ出力されるようになっている。そして、ミラー移動手段324における測定位置の情報と干渉光検出手段330により検出された信号とに基づいて、画像取得手段350により照射対象Sの深さ方向の反射光強度分布情報が得られる。
【0088】
そして、光プローブ130により上述のように測定光L1を照射対象S上で走査させれば、この走査方向に沿った各部分において照射対象Sの深さ方向の情報が得られるので、この走査方向を含む断層面についての断層画像を取得することができる。このようにして取得された断層画像は、表示装置160に表示される。なお、例えば光プローブ130を図9の左右方向に移動させて、照射対象Sに対して測定光L1を、上記走査方向と直交する第2の方向に走査させることにより、この第2の方向を含む断層面についての断層画像をさらに取得することも可能である。
【0089】
このように、低コヒーレンス光を射出する光源から射出された光を用いて光断層画像を取得する光断層画像取得装置300において、光源として本発明の光半導体素子10を用いることにより、容易に低コヒーレンス光の波長帯域を広帯域化することができ、分解能の高い光断層画像を取得することができる。また長時間安定して動作する光断層画像取得装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の第1実施形態による光半導体素子の概略立断面図
【図2】本発明の第1実施形態による光半導体素子の概略測断面図
【図3】本発明の第2の実施形態による波長可変レーザ装置の概略構成図
【図4】波長掃引レーザ装置の概略構成図
【図5】本発明の第3実施形態による波長可変リングレーザ装置の概略構成図
【図6】波長掃引リングレーザ装置の概略構成図
【図7】SS−OCT計測による光断層画像取得装置の一例を示す概略構成図
【図8】SD−OCT計測による光断層画像取得装置の一例を示す概略構成図
【図9】TD−OCT計測による光断層画像取得装置の一例を示す概略構成図
【符号の説明】
【0091】
10 光半導体素子
11 n型GaAs基板
12 n型GaAsバッファ層
13 n型In0.49Ga0.51P下部クラッド層
14 ノンドープGaAs下部光ガイド層
15 InXGa1-XAs/GaAs多重量子ドット発光層
16 ノンドープGaAs上部光ガイド層
17 p型In0.49Ga0.51P上部第一クラッド層
18 p型GaAsエッチングストップ層
19 p型In0.49Ga0.51P上部第二クラッド層
20 n型InAlGaP電流ブロック層
21 p型In0.49Ga0.51P上部第三クラッド層
22 p型GaAsコンタクト層
23 p側電極
24 n側電極
25、26 端面
30 波長可変レーザ装置
31 出力ミラー
32 回折格子
40 波長掃引レーザ装置
50 波長可変リングレーザ装置
51 光フィルタ
60 波長掃引リングレーザ装置
100、200、300 光断層画像取得装置
120、320 光路長調整手段
130 プローブ
140、240、330 干渉光検出手段
La レーザ光
Lb 低コヒーレンス光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子内における共振が抑制され、GaAs基板上に0.9μm以上かつ1.2μm以下の中心波長λcで発光する発光層が積層されている光半導体素子において、
前記発光層が、第1の中心波長λで発光する第1のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)および第1の中心波長λとは異なる第2の中心波長λで発光する第2のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)とを備える多重量子ドット層であることを特徴とする光半導体素子。
【請求項2】
前記第1の中心波長λと前記第2の中心波長λとは、30nm以上離れていることを特徴とする請求項1記載の光半導体素子。
【請求項3】
前記発光層の発光中心波長λcが、1.1μm以上であることを特徴とする請求項1または2いずれか1項記載の光半導体素子。
【請求項4】
前記発光層の発光中心波長λcが、1.15μm以上であることを特徴とする請求項3記載の光半導体素子。
【請求項5】
前記発光層の発光スペクトル半値全幅をΔλとしたときに、
λc/Δλ≦15
であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の光半導体素子。
【請求項6】
前記第1のInXGa1-XAs量子ドット層の組成と前記第2のInXGa1-XAs量子ドット層の組成とが略同一であり、前記第1のInXGa1-XAs量子ドット層のドットの高さと、前記第2のInXGa1-XAs量子ドット層のドットの高さとが異なるものであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の光半導体素子。
【請求項7】
前記第1のInXGa1-XAs量子ドット層の高さと前記第2のInXGa1-XAs量子ドット層の高さとが略同一であり、前記第1のInXGa1-XAs量子ドット層の組成と、前記第2のInXGa1-XAs量子ドット層の組成とが異なるものであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の光半導体素子。
【請求項8】
共振器内に、光増幅器および該光増幅器により増幅される光の波長を選択する波長選択手段を備えた外部共振器型の波長可変光源において、
前記光増幅器が、素子内における共振が抑制され、GaAs基板上に0.9μm以上かつ1.2μm以下の中心波長λで発光する発光層が積層され、該発光層が、中心発光波長が異なる第1の中心波長λで発光する第1のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)および第1の中心波長λとは異なる第2の中心波長λで発光する第2のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)とを備える多重量子ドット層である光半導体素子を有していることを特徴とする波長可変光源。
【請求項9】
低コヒーレンス光を射出する光源と、
前記光源から射出された光を測定光と参照光とに分割する光分割手段と、
前記測定光を測定対象に照射する照射手段と、
前記測定光が前記測定対象に照射されたときの該測定対象からの反射光と前記参照光とを重ね合わせる合波手段と、
該合波手段により合波された前記反射光と前記参照光との干渉光を検出する干渉光検出手段と、
該干渉光検出手段により検出された前記干渉光から前記測定対象の断層画像を取得する画像取得手段とを備えた光断層画像取得装置において、
前記光源が、素子内における共振が抑制され、GaAs基板上に0.9μm以上かつ1.2μm以下の中心波長λで発光する発光層が積層され、該発光層が、中心発光波長が異なる第1の中心波長λで発光する第1のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)および第1の中心波長λとは異なる第2の中心波長λで発光する第2のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)とを備える多重量子ドット層である光半導体素子を有していることを特徴とする光断層画像取得装置。
【請求項10】
波長を一定の周期で掃引させながらレーザ光を射出する波長掃引光源と、
該波長掃引光源から射出された前記レーザ光を測定光と参照光とに分割する光分割手段と、
前記測定光を測定対象に照射する照射手段と、
前記測定光の前記測定対象からの反射光と前記参照光とを重ね合わせる合波手段と、
該合波手段により重ねあわされた前記反射光と前記参照光との干渉光の周波数および強度に基づいて、前記測定対象の各深さ位置における前記反射光の強度を検出する干渉光検出手段と、
該干渉光検出手段により検出された前記各深さ位置における前記反射光の強度を用いて前記測定対象の断層画像を取得する画像取得手段とを有する光断層画像取得装置において、
前記波長掃引光源が、光増幅器および該光増幅器により増幅される光の波長を掃引する波長掃引手段を備え、
前記光増幅器が、素子内における共振が抑制され、GaAs基板上に0.9μm以上かつ1.2μm以下の中心波長λで発光する発光層が積層され、該発光層が、中心発光波長が異なる第1の中心波長λで発光する第1のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)および第1の中心波長λとは異なる第2の中心波長λで発光する第2のInXGa1-XAs量子ドット層(0≦x≦1)とを備える多重量子ドット層である光半導体素子を有していることを特徴とする光断層画像取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−270585(P2008−270585A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112668(P2007−112668)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】