説明

光集積素子の製造方法

【課題】バットジョイント構造を構成する第1及び第2の半導体積層部上に成長する半導体層に生じる結晶欠陥を低減する。
【解決手段】エッチングマスク30を用いて第1の半導体積層部20にエッチングを施す工程と、Alを含む光吸収層42、及び光吸収層42上に設けられるInPクラッド層44を有する第2の半導体積層部40を、エッチングマスク30を用いて選択的に成長させる第1の再成長工程と、エッチングマスク30を除去するマスク除去工程と、第1及び第2の半導体積層部20,40上に第3の半導体積層部を成長させる第2の再成長工程とを行う。第1の再成長工程において、InPに対してエッチング選択性を有するInP系化合物半導体を含むキャップ層46を第2の半導体積層部40上に更に成長させる。マスク除去工程の前に、エッチングマスク30上に生じたInP系堆積物Deを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光集積素子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バットジョイント接合部を有する光集積素子の製造方法が開示されている。この製造方法では、先ず第1の半導体層を基板上に形成し、第1の半導体層の第1の領域を保護するマスクを第1の半導体層上に形成し、このマスクを用いて、第1の半導体層の第1の領域を除く部分をドライエッチングにより選択的に除去し、その後、第1の半導体層が除去された基板上の領域に第2の半導体層を成長させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−263655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バットジョイント構造を備える光集積素子を製造する際には、まず、光導波層やクラッド層を含む第1の半導体積層部を基板上に成長させる。そして、第1の半導体積層部の一部を覆うマスクを形成したのち、このマスクを用いて、第1の半導体積層部に対するエッチングを行う。このとき、第1の半導体積層部の光導波層の側面を露出させる。続いて、このマスクを用いて、光導波層やクラッド層を含む第2の半導体積層部を選択的に成長させることによって、第1及び第2の半導体積層部によるバットジョイント構造を形成する。その後、マスクを除去する。
【0005】
このような光集積素子の製造方法では、マスクを除去した後、例えばコンタクト層などの半導体層を第1及び第2の半導体積層部上に更に成長させる場合がある。このような場合、次のような課題が存在することを本発明者は見出した。すなわち、Alを含む半導体層が第2の半導体積層部に含まれる場合、第2の半導体積層部を成長させると、マスク上に堆積物が生成される。この堆積物の成分を分析した結果、主にInP多結晶体から成ることが判明した。このようなInP系堆積物は、Alを含む半導体層を成長させるときにAl系物質がマスク上に付着し、このAl系物質が核となってその周囲にInPが付着することにより生成されるものと推測される。
【0006】
また、本発明者の研究により、このようなInP系堆積物は、マスクを除去した後においても第1及び第2の半導体積層部上に残留することが判明した。このため、コンタクト層を、InP系堆積物が散在する各半導体積層部の表面上に成長させることとなり、コンタクト層において結晶欠陥が生じてしまう。
【0007】
なお、このようなInP系堆積物は、例えば塩酸を用いたウェットエッチングによって除去される。しかしながら、第2の半導体積層部がInP系半導体から成る場合には、そのウェットエッチングによって第2の半導体積層部の表面も同時にエッチングされてしまう。したがって、第1の半導体積層部の表面と第2の半導体積層部の表面との間に段差が生じるので、コンタクト層に結晶欠陥が発生してしまう。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、バットジョイント構造を構成する第1及び第2の半導体積層部上に半導体層を成長させる際に、該半導体層に生じる結晶欠陥を低減することができる光集積素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明による光集積素子の製造方法は、(1)第1の光導波層を有する第1の半導体積層部が基板上に形成されてなる基板生産物に対し、第1の半導体積層部の一部を覆うエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、(2)エッチングマスクを用いて第1の半導体積層部にエッチングを施すエッチング工程と、(3)Alを含む第2の光導波層、及び該第2の光導波層上に設けられるInPクラッド層を有する第2の半導体積層部を、エッチングマスクを用いて基板上に選択的に成長させる第1の再成長工程と、(4)エッチングマスクを除去するマスク除去工程と、(5)第1及び第2の半導体積層部上に半導体層を成長させる第2の再成長工程とを備え、第1の再成長工程において、InPに対してエッチング選択性を有するInP系化合物半導体を含むキャップ層を第2の半導体積層部上に更に成長させ、(6)第1の再成長工程の際にエッチングマスク上に生じたInP系堆積物を除去する堆積物除去工程を、マスク除去工程の前に更に備えることを特徴とする。
【0010】
この光集積素子の製造方法では、マスク除去工程の前に、第1の再成長工程にてエッチングマスク上に生じたInP系堆積物を除去する(堆積物除去工程)。通常であれば、このときマスクに覆われていない第2の半導体積層部の表面もエッチングされてしまうので、後の工程において半導体層に結晶欠陥が生じる原因となる。しかしながら、上記製造方法では、第1の再成長工程において、InPに対してエッチング選択性を有するInP系化合物半導体を含むキャップ層を第2の半導体積層部上に成長させている。これにより、堆積物除去工程では、第2の半導体積層部の表面がキャップ層により保護され、第2の半導体積層部の表面はエッチングされない。したがって、上記製造方法によれば、エッチングマスク上に生成したInP系堆積物を好適に除去することができ、第1及び第2の半導体積層部上に半導体層を成長させる際に、該半導体層に生じる結晶欠陥を低減することができる。
【0011】
また、上述した光集積素子の製造方法は、InP系化合物半導体がAlInAsまたはGaInAsPであることを特徴としてもよい。AlInAsやGaInAsPのエッチング速度はInPのエッチング速度よりも格段に遅いので、InP系化合物半導体がAlInAsまたはGaInAsPであることによって、堆積物除去工程の際に第2の半導体積層部の表面を好適に保護することができる。
【0012】
また、上述した光集積素子の製造方法は、キャップ層の厚さが20nm以上50nm以下であることを特徴としてもよい。キャップ層が堆積物除去工程においてエッチング停止層として機能するためには、キャップ層の厚さは20nm以上であることが好ましい。一方、キャップ層は第2の半導体積層部と半導体層(例えばコンタクト層)との間に配置されるので、素子抵抗を抑えるためには、キャップ層の厚さは50nm以下であることが好ましい。
【0013】
また、上述した光集積素子の製造方法は、堆積物除去工程において、塩酸を用いたウェットエッチングによってInP系堆積物を除去することを特徴としてもよい。これにより、InP系堆積物を効果的に除去することができる。
【0014】
また、上述した光集積素子の製造方法は、ハロゲン系のガスを用いてキャップ層の表面酸化膜を低減する工程を、マスク除去工程と第2の再成長工程との間に更に備えることを特徴としてもよい。これにより、キャップ層上に半導体層をより結晶性良く再成長させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る光集積素子の製造方法によれば、バットジョイント構造を構成する第1及び第2の半導体積層部上に半導体層を成長させる際に、該半導体層に生じる結晶欠陥を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、光集積素子の製造に用いられるInP基板の外観を示す斜視図である。
【図2】図2(a)及び(b)は、一実施形態に係る光集積素子の製造方法に含まれる各工程を示す図面である。
【図3】図3(a)及び(b)は、一実施形態に係る光集積素子の製造方法に含まれる各工程を示す図面である。
【図4】図4(a)及び(b)は、一実施形態に係る光集積素子の製造方法に含まれる各工程を示す図面である。
【図5】図5(a)及び(b)は、一実施形態に係る光集積素子の製造方法に含まれる各工程を示す図面である。
【図6】図6(a)〜(c)は、一実施形態に係る光集積素子の製造方法に含まれる各工程を示す図面である。
【図7】比較例における光集積素子の製造方法の問題点を説明するための図である。
【図8】比較例における光集積素子の製造方法の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明による光集積素子の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下の説明において、<011>方向とは、[011]方向およびこれと等価な方向を含む。<0−11>方向、<100>方向についても同様である。
【0018】
図1は、光集積素子の製造に用いられるInP基板10の外観を示す斜視図である。本実施形態では、まず第1導電型(例えばn型)のInP基板10を用意する。InP基板10は主面10a及び裏面10bを有する。主面10aの法線方向Vは、InP基板10を構成するInP結晶の<100>方向と一致しているか、若しくは<100>方向に対して5°以下の角度で傾斜している。換言すれば、主面10aは、InP結晶の(100)面を含むか、若しくは(100)面に対して5°以下の角度で傾斜した面を含む。主面10aには、InP基板10を構成するInP結晶の<011>方向に延びる光導波路予定領域Aが含まれる。光導波路予定領域Aには、レーザ素子部となるべき第1の部分A1、及び光変調素子部となるべき第2の部分A2が含まれる。
【0019】
図2〜図6は、本発明の一実施形態に係る光集積素子の製造方法に含まれる各工程を示す図面である。図2〜図4は、この製造方法に含まれる前半の工程を示す側断面図であって、光集積素子の光導波方向に沿った側断面を示している。図5及び図6は、この製造方法に含まれる後半の工程を示す斜視図である。
【0020】
本実施形態では、図2(a)に示されるように、まず第1の半導体積層部20をInP基板10の主面10a上に成長させる。第1の半導体積層部20は、下部光閉じ込め層21、活性層22、上部光閉じ込め層23、クラッド層24、下部キャップ層25、及び上部キャップ層26を含んでいる。活性層22は、アンドープGaInAsPから成る障壁層及び井戸層が交互に積層されて成る多重量子井戸(Multiple Quantum Well;MQW)構造を有している。井戸層は例えば7層設けられ、活性層22全体の厚さは例えば115nmである。障壁層及び井戸層の各バンドギャップエネルギーを発光波長に換算すると、それぞれ例えば1200nm,1550nmである。障壁層及び井戸層の厚さは、それぞれ例えば10nm,5nmである。井戸層の圧縮歪みは例えば0.8%である。なお、この活性層22は、本実施形態における第1の光導波層である。
【0021】
下部光閉じ込め層21及び上部光閉じ込め層23は、例えばアンドープGaInAsPから成り、それぞれの厚さは例えば50nmである。下部光閉じ込め層21及び上部光閉じ込め層23の各バンドギャップエネルギーを発光波長に換算すると、例えば1150nmである。クラッド層24は、第2導電型(例えばp型)のInPから成り、その厚さは例えば530nmである。下部キャップ層25は、例えば第2導電型のGaInAsPから成り、その厚さは例えば20nmである。上部キャップ層26は、例えば第2導電型のInPから成り、その厚さは例えば20nmである。下部光閉じ込め層21、活性層22、上部光閉じ込め層23、クラッド層24、下部キャップ層25、及び上部キャップ層26は、例えば有機金属気相成長法(OrganoMetaric Vapor Phase Epitaxy;OMVPE)によって好適に成長する。
【0022】
続いて、図2(b)に示されるように、第1の半導体積層部20がInP基板10の主面10a上に形成されて成る基板生産物において、エッチングマスク30を第1の半導体積層部20上に形成する(エッチングマスク形成工程)。エッチングマスク30は、例えばSiOやSiNといったシリコン化合物からなり、その厚さは例えば200nmである。エッチングマスク30は、InP基板10の<011>方向に延びており、InP基板10上において想定される光導波路予定領域Aの第1の部分A1を覆っている。エッチングマスク30の横幅(光導波方向と直交する方向の幅)は、例えば50μm以上80μm以下である。なお、エッチングマスク30は、SiO膜やSiN膜といったシリコン化合物膜を、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition;CVD)等により第1の半導体積層部20上に形成したのち、通常のフォトリソグラフィ技術によってこのシリコン化合物膜を部分的にエッチングすることによって好適に形成される。
【0023】
続いて、図3(a)に示されるように、エッチングマスク30を用いて第1の半導体積層部20にウェットエッチングを施す(エッチング工程)。具体的には、例えば塩酸及び酢酸を含むエッチャントを用いて上部キャップ層26をエッチングしたのち、硫酸及び過酸化水素を含むエッチャントを用いて下部キャップ層25をエッチングする。このとき、下部キャップ層25には横方向エッチングが施され、その結果、エッチングマスク30が庇状に突出する。続いて、臭化水素酸を含むエッチャントを用いてクラッド層24をエッチングする。このようなエッチャントをエッチャントとして用いることにより、InP結晶の(111)A面、若しくは(111)A面に近い結晶面がクラッド層24の端面に現れ、該端面が順メサ形状となる。続いて、上部光閉じ込め層23、活性層22、及び下部光閉じ込め層21を、硫酸及び過酸化水素を含むエッチャントを用いてエッチングする。このエッチングは、InP基板10に到達することにより停止する。こうして、第1の半導体積層部20のうちエッチングマスク30に覆われた部分を除く部分がInP基板10上から除去される。
【0024】
続いて、図3(b)に示されるように、エッチングマスク30を残したまま、第2の半導体積層部40をInP基板10の主面10a上に選択的に成長させる(第1の再成長工程)。第2の半導体積層部40は、光吸収層42及びクラッド層44を含んでいる。光吸収層42は、本実施形態における第2の光導波層である。光吸収層42は、障壁層及び井戸層が交互に積層されて成る多重量子井戸(MQW)構造を有している。障壁層及び井戸層は例えばそれぞれ25層設けられ、合計厚さは例えば380nmである。障壁層は、InPに対して格子整合が可能な組成を有するアンドープAlInAsから成り、その厚さは例えば5nmである。井戸層は、InPに対して格子整合が可能な組成を有するアンドープAlGaInAsから成り、その厚さは例えば10nmである。井戸層のバンドギャップエネルギーを発光波長に換算すると、例えば1480nmである。なお、光吸収層42を成長させる際には、第1導電型のInPからなる図示しないバッファ層(厚さ50nm)を主面10a上に先に成長させ、その上に光吸収層42を成長させることが望ましい。クラッド層44は、第2導電型のInPから成る。クラッド層44の厚さは、例えば500nmである。バッファ層、光吸収層42及びクラッド層44は、例えばOMVPE装置を用いて好適に形成される。
【0025】
ここで、上述した第1の再成長工程では、光吸収層42及びクラッド層44を成長させる際に、InP系堆積物Deがエッチングマスク30上に生成する。このInP系堆積物Deは、次のようにして生成すると推測される。すなわち、AlGaInAsからなる光吸収層42を成長させる際に、成長炉内に導入されたAl系物質がエッチングマスク30上に付着する。その後、InPからなるクラッド層44を成長させる際に、このAl系物質が核となってその周囲にInPが付着し、InP系堆積物Deとなる。
【0026】
そこで、この第1の再成長工程では、図3(b)に示されるように、エッチングマスク30を残したまま、第2導電型のキャップ層46を第2の半導体積層部40上に選択的に成長させる。このキャップ層46は、InPに対してエッチング選択性を有する、例えばAlInAsまたはGaInAsPといったInP系化合物半導体を含んでいる。なお、InPに対してエッチング選択性を有するとは、特定のエッチャント(例えば、塩酸などの酸性液)に対するエッチングレートがInPと比較して遅いことをいう。キャップ層46の好適な厚さは、例えば20nm以上50nm以下である。また、キャップ層46には第2導電型の不純物が添加される。キャップ層46の好適なキャリア濃度は、例えば5.0×1017cm−3以上である。キャップ層46は、後の工程において除去されることなく光変調素子部の一部を構成する。したがって、キャップ層46の組成は、光変調素子部の電気的特性の観点からクラッド層44に対するバンドギャップ差が小さい組成であることが望ましい。更に、キャップ層46の結晶性を良好にする為に、キャップ層46の組成はクラッド層44のInPに対して格子整合が可能な組成であることが望ましい。例えば、キャップ層46がAlInAsからなる場合、InPに対して−0.5%程度の歪みを有する組成(Al0.56In0.44As、バンドギャップ1.75eV、格子定数5.83Å)であれば、価電子帯のフェルミレベルがInPと略等しくなるので特に好適である。なお、キャップ層46は、例えばOMVPE装置を用いて好適に形成される。これらの点に鑑み、キャップ層46に含まれるAlIn1−XAsのAl組成Xの好適な範囲は、0.46以上0.58以下である。
【0027】
続いて、図4(a)に示されるように、エッチングマスク30上に生じたInP系堆積物Deを除去する(堆積物除去工程)。この工程では、例えば塩酸を用いるウェットエッチングによって、InP系堆積物Deを除去する。このとき、キャップ層46はInPに対してエッチング選択性を有し、塩酸に対するエッチング速度がInPと比較して極めて遅いので、キャップ層46によって第2の半導体積層部40の各層が好適に保護される。こうして、エッチングマスク30上のInP系堆積物Deを除去したのち、エッチングマスク30をフッ酸により除去する(マスク除去工程)。
【0028】
続いて、ハロゲン系のガスを成長炉内に導入することによって、キャップ層46の表面のクリーニング(典型的には、表面酸化膜の低減(除去))を行う。その後、図4(b)に示されるように、第3の半導体積層部60を第1及び第2の半導体積層部20,40上に成長させる(第2の再成長工程)。
【0029】
第3の半導体積層部60は、クラッド層62、下部コンタクト層64及び上部コンタクト層66を含んでいる。クラッド層62は、第2導電型のInPから成り、その厚さは例えば1000nmである。下部コンタクト層64は、第2導電型のGaInAsP層64a及び64bから成り、その厚さは例えばそれぞれ50nmである。上部コンタクト層66は、第2導電型のInGaAsから成り、その厚さは例えば100nmである。なお、クラッド層62、下部コンタクト層64及び上部コンタクト層66は、例えばOMVPE装置を用いて好適に形成される。
【0030】
続いて、図5(a)に示されるように、第3の半導体積層部60上にエッチングマスク70を形成し、このエッチングマスク70を利用して各半導体積層部20,40及び60に対しエッチングを行う(メサ形成工程)。エッチングマスク70は、例えばSiOやSiNといったシリコン化合物からなる。また、このエッチングマスク70は、図1に示された光導波路予定領域Aの全域を覆うように、InP基板10の<011>方向に沿ってストライプ状に延びている。なお、エッチングマスク70は、前述したエッチングマスク30と同様の形成方法によって好適に形成される。この工程では、第1の半導体積層部20、第2の半導体積層部40及び第3の半導体積層部60のうちエッチングマスク70から露出した部分に対してエッチングが施される。このエッチングの深さは、InP基板10に達する。この工程によって、所定の光導波方向に延びる光導波路構造であるメサ構造80が形成される。
【0031】
続いて、図5(b)に示されるように、エッチングマスク70を残したまま、埋込領域81をInP基板10上に選択的に成長させる。この埋込領域81は、半絶縁性の半導体(例えばFeがドープされたInP)によって好適に構成される。その後、エッチングマスク70をフッ酸により除去する。そして、図6(a)に示されるように、光導波方向と交差する方向に伸びる溝82を、メサ構造80及び埋込領域81に形成する。これにより、第3の半導体積層部60のコンタクト層64及び66が、レーザ素子部を構成する部分と光変調素子部を構成する部分とに分離される。
【0032】
続いて、図6(b)に示されるように、SiOやSiNといった絶縁性シリコン化合物からなる保護膜83を、例えばCVD法を用いてメサ構造80上及び埋込領域81上に形成する。そして、メサ構造80と電極とのコンタクトの為の開口83a,83bを、保護膜83に形成する。その後、図6(c)に示されるように、レーザ素子部のためのアノード電極84を、開口83aを覆うように蒸着する。また、光変調素子部のためのアノード電極85を、開口83bを覆うように蒸着する。更に、InP基板10の裏面を研磨することによりInP基板10を薄くしたのち、該裏面上にカソード電極86を蒸着する。その後、これらの電極の合金化処理を行う。
【0033】
最後に、InP基板10や上述した各半導体層を含む基板生産物をチップ状に分割することによって、レーザ素子部及び光変調素子部といった2つの光素子部を備える光集積素子が得られる。
【0034】
以上に説明した本実施形態による光集積素子の製造方法によって得られる効果について説明する。この製造方法では、第2の半導体積層部40を選択的に成長させる工程(第1の再成長工程)において、キャップ層46を第2の半導体積層部40上に更に成長させている。また、この製造方法は、第1の再成長工程ののち、エッチングマスク30を除去する工程(マスク除去工程)の前に、InP系堆積物Deを除去する工程(堆積物除去工程)を備えている。
【0035】
キャップ層46を成長させる工程や堆積物除去工程を行わない場合の問題点は、次のとおりである。本実施形態において述べたように、第2の半導体積層部40を選択的に成長させる際、エッチングマスク30上にInP系堆積物Deが生じる(図3(b)を参照)。エッチングマスク30上にInP系堆積物Deが存在する状態のままエッチングマスク30をフッ酸により除去すると、図7(a)に示されるように、InP系堆積物Deは完全には除去されずに第1の半導体積層部20上に残留する。そして、この状態で第3の半導体積層部60を成長させると、InP系堆積物Deを起点とする結晶欠陥Cfが発生し、また、InP系堆積物Deによる第1の半導体積層部20上の凹凸が第3の半導体積層部60の表面に現れてしまう。このように、InP系堆積物Deは、第3の半導体積層部60の結晶性を低下させる原因となる。
【0036】
また、InP系堆積物Deを除去する工程を単に追加した場合、エッチングマスク30を除去する前に塩酸等を用いてInP系堆積物Deを除去しようとすると、図8に示されるように、エッチングマスク30に覆われていない第2の半導体積層部40の表面もエッチングされてしまう。特に、光吸収層42がAlを含む材料からなり、バットジョイント構造の界面において這い上がっている場合には、該界面の付近において光吸収層42が深くエッチングされてしまう。したがって、後の工程において第3の半導体積層部60の表面に段差や結晶欠陥が生じてしまう。
【0037】
これらの問題点に対し、本実施形態では、第1の再成長工程において、InPに対してエッチング選択性を有するInP系化合物半導体を含むキャップ層46を第2の半導体積層部40上に成長させている。これにより、堆積物除去工程では、第2の半導体積層部40の表面がキャップ層46により保護され、第2の半導体積層部40の表面はエッチングされない。したがって、本実施形態の製造方法によれば、エッチングマスク30上に生成したInP系堆積物Deを好適に除去することができ、第1及び第2の半導体積層部20,40上に第3の半導体積層部60を成長させる際に、第3の半導体積層部60に生じる結晶欠陥を低減することができる。
【0038】
また、本実施形態のように、キャップ層46に含まれるInP系化合物半導体は、AlInAsまたはGaInAsPであることが好ましい。特定のエッチャントに対し、AlInAsやGaInAsPのエッチング速度はInPのエッチング速度よりも格段に遅いので、堆積物除去工程の際に第2の半導体積層部40の表面を好適に保護することができる。
【0039】
また、本実施形態のように、キャップ層46の厚さは20nm以上50nm以下であることが好ましい。キャップ層46が堆積物除去工程においてエッチング停止層として機能するためには、キャップ層46の厚さは20nm以上であることが好ましい。一方、キャップ層46は、コンタクト層64,66を含む第3の半導体積層部60と、第2の半導体積層部40との間に配置されるので、キャップ層46の厚さが50nm以下であることによって素子抵抗を効果的に抑えることができる。
【0040】
また、本実施形態のように、堆積物除去工程において、塩酸を用いたウェットエッチングによってInP系堆積物Deを除去することが好ましい。これにより、InP系堆積物Deを効果的に除去することができる。また、AlInAsまたはGaInAsPを含むキャップ層46のInPに対するエッチング選択性を好適に実現することができる。
【0041】
また、本実施形態のように、ハロゲン系のガスを用いてキャップ層46の表面酸化膜を低減する工程を、マスク除去工程と第2の再成長工程との間に行うことが好ましい。これにより、キャップ層46上に第3の半導体積層部60をより結晶性良く再成長させることができる。
【0042】
また、本実施形態のように、堆積物除去工程の後にキャップ層46を除去することなく、その上に第3の半導体積層部60を成長させることが好ましい。これにより、第3の半導体積層部60の成長面における段差の発生を抑え、第3の半導体積層部60を結晶性良く成長させることができる。
【0043】
本発明による光集積素子の製造方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではレーザ素子部及び光変調素子部といった2つの光素子部を備える光集積素子を製造する方法について説明したが、本発明は、これら以外の光素子部の組み合わせに対しても適用でき、また3つ以上の光素子部を備える光集積素子を製造する場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0044】
10…基板、10a…主面、20…第1の半導体積層部、21…下部光閉じ込め層、22…活性層、23…上部光閉じ込め層、24…クラッド層、25…下部キャップ層、26…上部キャップ層、30…エッチングマスク、40…第2の半導体積層部、42…光吸収層、44…クラッド層、46…キャップ層、60…第3の半導体積層部、62…クラッド層、64…下部コンタクト層、66…上部コンタクト層、70…エッチングマスク、80…メサ構造、81…埋込領域、83…保護膜、84,85…アノード電極、86…カソード電極、A…光導波路予定領域、Cf…結晶欠陥、De…InP系堆積物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光導波層を有する第1の半導体積層部が基板上に形成されてなる基板生産物に対し、前記第1の半導体積層部の一部を覆うエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、
前記エッチングマスクを用いて前記第1の半導体積層部にエッチングを施すエッチング工程と、
Alを含む第2の光導波層、及び該第2の光導波層上に設けられるInPクラッド層を有する第2の半導体積層部を、前記エッチングマスクを用いて前記基板上に選択的に成長させる第1の再成長工程と、
前記エッチングマスクを除去するマスク除去工程と、
前記第1及び第2の半導体積層部上に半導体層を成長させる第2の再成長工程と
を備え、
前記第1の再成長工程において、InPに対してエッチング選択性を有するInP系化合物半導体を含むキャップ層を前記第2の半導体積層部上に更に成長させ、
前記第1の再成長工程の際に前記エッチングマスク上に生じたInP系堆積物を除去する堆積物除去工程を、前記マスク除去工程の前に更に備えることを特徴とする、光集積素子の製造方法。
【請求項2】
前記InP系化合物半導体がAlInAsまたはGaInAsPであることを特徴とする、請求項1に記載の光集積素子の製造方法。
【請求項3】
前記キャップ層の厚さが20nm以上50nm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光集積素子の製造方法。
【請求項4】
前記堆積物除去工程において、塩酸を用いたウェットエッチングによって前記InP系堆積物を除去することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光集積素子の製造方法。
【請求項5】
ハロゲン系のガスを用いて前記キャップ層の表面酸化膜を低減する工程を、前記マスク除去工程と前記第2の再成長工程との間に更に備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光集積素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−16582(P2013−16582A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147318(P2011−147318)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】