共振器およびその製造方法、発振器ならびに電子機器
【課題】複数の共振周波数を有する共振器において、従来よりも小型化を図ることが可能な共振器およびその製造方法、ならびにそのような共振器を備えた発振器および電子機器を提供する。
【解決手段】入力交流信号Sinが入力される入力端子を、複数の端子in3,in5,in7間で切り換えることにより、導体部111におけるブロックに対する入力交流信号Sinの入力経路を切り換える。また、出力交流信号Soutが出力される出力端子を、複数の端子out3,out5,out7間で切り換えることにより、導体部111におけるブロックからの出力交流信号Soutの出力経路を切り換える。これにより、単一構造の共振器1内において、電位差が生じる絶縁膜112の振動部11内での位置に応じて、複数の共振周波数fr(複数の次数の共振モード)が励起される。
【解決手段】入力交流信号Sinが入力される入力端子を、複数の端子in3,in5,in7間で切り換えることにより、導体部111におけるブロックに対する入力交流信号Sinの入力経路を切り換える。また、出力交流信号Soutが出力される出力端子を、複数の端子out3,out5,out7間で切り換えることにより、導体部111におけるブロックからの出力交流信号Soutの出力経路を切り換える。これにより、単一構造の共振器1内において、電位差が生じる絶縁膜112の振動部11内での位置に応じて、複数の共振周波数fr(複数の次数の共振モード)が励起される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の要素技術を応用した共振器およびその製造方法、ならびにそのような共振器を備えた発振器および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線通信技術の発展に伴い、無線通信技術を利用した通信機器において、小型化、軽量化が要求されている。そのため、これまで小型化が困難とされてきたRF信号処理部分等に、半導体分野における微細加工技術を用いて微細な機械構造を作製するマイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)技術が利用されてきている。このMEMSは、シリコンプロセス技術により、マイクロな機械的要素と電子回路要素とを融合したシステムであり、日本では主にマイクロマシンと称されるものである。MEMS技術は、その精密加工性などの優れた特徴から、高機能化に対応しつつ、小型で低価格なSoC(System on a Chip)を実現することができる。
【0003】
このようなMEMS技術を用いた素子の1つとして、機械的な共振を利用したメカニカル共振器(MEMS共振器)があり、これを利用したフィルタ、発信器、ミキサ等のRF素子は、小型で集積化が可能であることから、通信分野への応用が始まっている(例えば、特許文献1)。しかしながら、携帯電話やミリ波通信等のアプリケーションの高周波化に伴い、このようなMEMS共振器においても、動作周波数のGHz以上の高周波化が求められている。
【0004】
そこで、このような動作周波数の高周波化を実現するため、縦波振動を利用した、誘電体埋め込み型のMEMS共振器が提案されている。この共振器では、静電駆動力を得るための誘電体膜(絶縁膜)を振動体内部に埋め込むことにより縦波振動を発生させ、GHz以上の高周波領域での動作を実現している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dana Weinstein and Sunil A. Bhave, "Internal Dielectric Transduction of a 4.5 GHz Silicon Bar Resonator", IEEE International Electron Device Meeting 2007, pp.415-418.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10および図11は、この縦波振動を利用した誘電体埋め込み型のMEMS共振器(共振器100−1)の概略構成および動作原理を表すものであり、図10は外観斜視構成を、図11はX−Y平面(上面)構成をそれぞれ表している。この共振器100−1では、支持基板100上に、間隙Gを介して直方体状(X軸方向に延在)の振動部101が設けられている。この振動部101は、導電体Si(シリコン)等からなる導体部101Aと、SiN(窒化シリコン)等からなる2つの絶縁膜101Bとから構成されている。導体部101Aはこれら2つの絶縁膜101Bにより、交流信号の伝送方向(X軸方向)に沿って3つのブロックに電気的に分離されている。各ブロックの両側面(Z−X側面)は、梁部102(サポートビーム)および支持部103(アンカー)により基板面に対して支持されている。そして、3つのブロックのうちの一端側のブロックでは、これら支持部103および梁部102を介して、コンデンサC1が接続された入力信号線Linから、入力交流信号Sinが入力されている。一方、他端側のブロックでは、梁部102および支持部103を介して出力信号線Loutから出力交流信号が出力されている。また、真ん中のブロックには、各絶縁膜101Bにおける両端面(Y−Z端面)間に電位差(バイアス)を与えるための直流電圧Vdcが、コイルL1を介して供給されるようになっている。
【0007】
この状態において、入力信号線Linから任意の周波数の入力交流信号Sinが入力されると、各絶縁膜101Bにはその周波数の静電引力が発生し、これにより振動部101内に圧縮応力が働く。ここで、入力交流信号Sinの周波数が、共振器の寸法により定まる縦波振動の共振周波数と等しい場合、振動部101は縦波振動による共振振動を起こす(図11中の波形W101参照)。すると、各絶縁膜101Bは、振動によって圧縮および膨張を繰り返すことになる。このような絶縁膜101Bの変形により(図11中の矢印P101参照)、各絶縁膜101Bの両端面(Y−Z端面)には電位差が発生するため、この共振周波数と等しい周波数の出力交流信号Soutが、出力信号線Loutから出力される。このような動作原理により、この共振器100−1は、任意の入力交流信号Sinのうち、ある周波数(共振周波数)の信号のみを選択的に透過する共振器として機能する。
【0008】
ところが、このような従来のMEMS共振器では、機能上求められる(使用したい)共振周波数が複数ある場合には、固有の共振周波数が互いに異なる複数個の共振器を用意する必要があったため、それに伴って共振器全体として大型化してしまうという問題があった。これは、以下の理由による。すなわち、まず、この方式の共振器における共振周波数は、振動部の材質や寸法、そして縦波振動の次数(共振モードの次数)により定まる。したがって、振動部の材質および寸法が変わらない場合、共振周波数を変化させるには共振モードの次数を変える必要があることから、絶縁膜の配置位置を変更させる必要が生じ、1つの共振器内で実現するのが困難であるからである。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、複数の共振周波数を有する共振器において、従来よりも小型化を図ることが可能な共振器およびその製造方法、ならびにそのような共振器を備えた発振器および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の共振器は、導体部と、この導体部を複数のブロックに電気的に分離するように設けられた複数の絶縁部とを有する振動部と、導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、複数の入力端子において、入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより入力経路を切り換える入力切換部と、複数の出力端子において、出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより出力経路を切り換える出力切換部とを備えたものである。なお、このような振動部としては、例えば、絶縁部において両端間に電位差を生じさせたときに、入力交流信号の周波数に応じて縦波振動による共振振動を行うものが挙げられる。
【0011】
本発明の発振器および電子機器は、共振振動を行う上記本発明の共振器を備えたものである。
【0012】
本発明の共振器、発振器および電子機器では、複数の入力端子において、入力交流信号が入力される入力端子が切り換えられることにより、導体部におけるブロックに対する入力交流信号の入力経路が切り換えられる。また、複数の出力端子において、出力交流信号が出力される出力端子が切り換えられることにより、導体部におけるブロックからの出力交流信号の出力経路が切り換えられる。これにより、振動に寄与する絶縁部の振動部内での位置に応じて、複数の共振周波数が励起される。また、単一構造の共振器内で実現されるため、従来のように、個別に複数の共振器を用いる必要もない。
【0013】
本発明の共振器の製造方法は、基板上に、導体部とこの導体部を複数のブロックに電気的に分離する複数の絶縁部とを有する振動部を形成する工程と、導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、複数の入力端子において入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより入力経路を切り換える入力切換部と、複数の出力端子において出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより出力経路を切り換える出力切換部とをそれぞれ形成する工程とを含むようにしたものである。
【0014】
本発明の共振器の製造方法では、上記各工程により、上記振動部、複数の入力端子、複数の出力端子、入力切換部および出力切換部がそれぞれ設けられるため、単一構造の共振器内において、振動に寄与する絶縁部の振動部内での位置に応じて、複数の共振周波数が励起される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の共振器およびその製造方法、発振器ならびに電子機器によれば、複数の入力端子において、入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより導体部におけるブロックに対する入力交流信号の入力経路を切り換えると共に、複数の出力端子において、出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより導体部におけるブロックからの出力交流信号の出力経路を切り換えるようにしたので、単一構造の共振器内において、振動に寄与する絶縁部の振動部内での位置に応じて、複数の共振周波数を励起させることができる。よって、複数の共振周波数を有する共振器において、従来よりも小型化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る共振器の概略外観構成を表す斜視図である。
【図2】図1に示した共振器の構成および動作原理ならびに各共振モードの波形を模式的に表す上面図および波形図である。
【図3】図1に示した共振器の製造方法の一例を工程順に表す断面図である。
【図4】図3に続く工程を表す断面図である。
【図5】図1に示した共振器における3次モードの共振時の接続状態を模式的に表す上面図である。
【図6】図1に示した共振器における5次モードの共振時の接続状態を模式的に表す上面図である。
【図7】図1に示した共振器における7次モードの共振時の接続状態を模式的に表す上面図である。
【図8】本発明の変形例に係る共振器の構成および動作原理ならびに各共振モードの波形を模式的に表す上面図および波形図である。
【図9】本発明の共振器の適用例に係る電子機器の機能ブロック図である。
【図10】従来の共振器の外観構成例を表す斜視図である。
【図11】図10に示した共振器の構成および動作原理を模式的に表す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(複数の共振モード間の切り換えが可能な共振器の一例)
2.変形例 (複数の共振モード間の切り換えが可能な共振器の他の構成例)
3.適用例 (実施の形態および変形例の共振器を内蔵した電子機器の例)
【0018】
<1.実施の形態>
[共振器の構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る共振器1における概略外観構成を斜視的に表したものであり、図2(A)は、この共振器1の上面構成(X−Y平面構成)を模式的に表したものである。また、図2(B)は、詳細は後述するが、共振器1において実現可能な複数(ここでは3つ)の共振モード(ここでは、3次,5次,7次モード)の波形を表したものである。この共振器1は、以下説明するX軸方向に延在する振動部11における機械的な縦波振動による共振振動を利用して、高周波(例えば、60GHz程度)の交流信号を伝送するMEMS共振器である。
【0019】
この共振器1では、支持基板10上に、間隙Gを介して直方体状の振動部11が設けられている。この振動部11は、導体部111と、複数(ここでは、6つ)の絶縁膜(絶縁部)112とから構成されている。導体部111はこれら6つの絶縁膜112により、交流信号の伝送方向(X軸方向)に沿って7つのブロック111a〜111gに電気的に分離されている。各ブロック111a〜111gの両側面(Z−X側面)は、梁部12A,12B(サポートビーム)および支持部13A,13B(アンカー)により、基板面に対して支持されている。
【0020】
支持基板10は、Si基板10Aと、このSi基板10A上に積層された保護層10Bとから構成されている。保護層10Bは、製造時において後述する犠牲層20をウェットエッチングにより除去する際に、下地(Si基板10A)を保護するためのものであり、例えばSiNなどの絶縁材料により構成されている。したがって、この保護層10Bは、エッチングに耐え得る程度の厚み(例えば、200nm程度)となっている。
【0021】
振動部11は、例えば、(X軸方向:40μm程度、Y軸方向:10μm程度、Z軸方向:2μm程度)の大きさの直方体状となっている。この振動部11において、導体部111は、例えば、リン(P)を含有して導電性を示す多結晶Si(p−Si)等の導電性Siにより構成されている。ただし、金属(アルミニウム(Al),チタン(Ti)等)や半導体(Si,ゲルマニウム(Ge)等)、またはそれらの窒化物(窒化チタン(TiN)等)や炭化物(炭化チタン(TiC)等)などの他の導電性材料を用いるようにしてもよい。なお、上記した梁部12および支持部13も、この導体部111と同一の材料により構成されている。一方、絶縁膜112は、例えばSiN等の絶縁性材料により構成されており、その厚みは、例えば30nm程度となっている。ここで、SiN以外の絶縁性材料としては、例えば、酸化シリコン(SiO2),酸化チタン(TiOX),ポリイミド,BCB等の酸化物や窒化物、有機物等が挙げられる。
【0022】
振動部11における複数のブロック111a〜111gは、入力交流信号Sinが入力される入力ブロックと、出力交流信号Soutが出力される出力ブロックと、電圧供給ブロックとから構成されている。入力ブロックでは、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、コンデンサC1が接続された入力信号線Linから、入力交流信号Sinが入力される。出力ブロックでは、梁部12Aおよび支持部13Aを介して、出力信号線Loutから出力交流信号が出力される。電圧供給ブロックでは、各絶縁膜112における両端面(Y−Z端面)間に電位差を与えるための直流電圧Vdcが、電圧供給線Ldc、梁部12Bおよび支持部13Bを介して供給される。具体的には、ここでは、電圧供給ブロックに対応する位置の梁部12Bおよび支持部13Bを介して、直流電圧Vdcが供給されるようになっている。ただし、場合によっては、直流電圧Vdcがこれら梁部12Bおよび支持部13Bを介さずに、別個の端子等を経由して供給されるようにしてもよい。
【0023】
ここで、本実施の形態の共振器1には、入力スイッチSWin(入力切換部)、出力スイッチSWout(出力切換部)および電圧供給スイッチSWdc(電圧供給切換部)が設けられている。入力スイッチSWinは、一端が入力信号線Linに接続されると共に、他端が端子(入力端子)in3,in5,in7のうちのいずれかに接続可能となっており、入力ブロックに対して入力交流信号Sinを入力するための入力経路を切り換えるためのスイッチである。出力スイッチSWoutは、一端が出力信号線Loutに接続されると共に、他端が端子(出力端子)out3,out5,out7のうちのいずれかに接続可能となっており、出力ブロックから出力交流信号Soutを出力するための出力経路を切り換えるためのスイッチである。電圧供給スイッチSWdcは、一端が電圧供給線Ldcに接続されると共に、他端が端子(電圧供給端子)dc3,dc5,dc7のうちのいずれかに接続可能となっており、直流電圧Vdcを電圧供給ブロックへ供給するための電圧供給経路を切り換えるためのスイッチである。なお、これらの入力スイッチSWin、出力スイッチSWoutおよび電圧供給スイッチSWdcはそれぞれ、例えばユーザの操作等に応じて外部から入力される制御信号(図示せず;例えば、後述する複数の共振モードによる共振振動のうちのいずれを用いるか等の制御信号)に従って、個別に切換動作を行うようになっている。このような入力スイッチSWin、出力スイッチSWoutおよび電圧供給スイッチSWdcの切換動作により、後述するように、導体部111a〜111gにおける入力ブロック、出力ブロックおよび電圧供給ブロックの配置(割り当て)をそれぞれ切り換えることが可能となっている。
【0024】
この振動部11は、詳細は後述するが、各絶縁膜112において両端面(Y−Z端面)間に電位差(上記直流電圧Vdcに対応)を生じさせたときに、入力交流信号Sinの周波数に応じて、縦波振動による共振振動を行うようになっている(図2中の波形W3,W5,W7参照)。そして、各絶縁膜112が所定の1方向(ここではX軸方向:図1中の矢印P1参照)に沿って振動することとなるように、導体部111における複数のブロック111a〜111gおよび絶縁膜112が、その1方向(X軸方向)に沿って配置されている。また、本実施の形態の共振器1では、図2(B)に示した波形W3,W5,W7のように、単一構造の共振器1内において、複数の共振モード(ここでは、3次モード,5次モードおよび7次モードの3つの共振モード)による共振振動が実現されるようになっている。
【0025】
ここで、この方式の共振器における共振周波数frは、振動部の材質や寸法、そして縦波振動の次数(共振モードの次数)により定まる。したがって、本実施の形態の振動部11では、その材質および寸法が一定である(変わらない)ことから、共振周波数frを変化させるために、共振モードの次数を変えるようになっている。具体的には、上記した入力スイッチSWin、出力スイッチSWoutおよび電圧供給スイッチSWdcの切換動作により、設定すべき共振モードに応じて、有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)絶縁膜112の位置を切り換えている。したがって、各絶縁膜112は、図2に示したように、これら各共振モードの縦波振動における波形W3,W5,W7の節部分の少なくとも1つ(図2(B)の波形中の黒点参照)に対応する位置もしくはその近傍に配置されるようになっている。また、このように各絶縁膜112を各共振モードの縦波振動における節部分付近に配置することにより、より効果的な共振振動が実現されるようになっている。
【0026】
また、同じく図2に示したように、梁部12A,12Bおよび支持部13A,13Bは、これら各共振モードの縦波振動における波形W3,W5,W7の節部分の少なくとも1つに対応する位置もしくはその近傍に配置されているようにするのが好ましい。このような位置に配置することにより、振動部11の振動を妨げてしまうのが回避されるからである。なお、本実施の形態の共振器1では、梁部12A,12Bを用いて振動部11をその側面側から支持するようにしているが、例えば振動部11の下方(基板面側)からなど、他の方向から支持するようにしてもよい。
【0027】
[共振器の製造方法]
この共振器1は、例えば次のようにして製造することができる。図3および図4は、共振器1を製造する工程の一例を断面図で表すものであり、図1におけるII−II線に沿った矢視断面図(Z−X断面図)およびIII−III線に沿った矢視断面図(Y−Z断面図)でそれぞれ示している。
【0028】
まず、図3(A)に示したように、Si基板10A上に例えば減圧CVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)法を用いて、上述した材料からなる保護層10Bを、例えば500nm程度の厚みで一様に形成する。これにより、支持基板10が形成される。次いで、この支持基板10上に、例えば減圧CVD法を用いて前述した材料からなるp−Si層15を、例えば1000nm程度の厚みで一様に形成したのち、例えばフォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングを行い、このp−Si層15をパターニングする。このようにしてパターニングされたp−Si層15は、入力信号線Lin、出力信号線Lout等の配線部分となる。これにより、入力スイッチSWin、出力スイッチSWoutおよび電圧供給スイッチSWdcも同時に形成されるようになっている。
【0029】
続いて、図3(B)に示したように、支持基板10およびp−Si層15上に、例えば減圧CVD法を用いて、例えばSiO2(酸化シリコン)膜を例えば500nm程度の厚みで一様に形成することにより、犠牲層20を形成する。そののち、図4(C)に示したように、例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)を用いて、この犠牲層20の表面を平坦化する。
【0030】
次に、図3(D)に示したように、この平坦化した犠牲層20の表面に、例えばフォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングを行うことにより、支持部13A,13Bを形成するための開口21(コンタクト孔)を形成する。この開口21の大きさは、例えば5μm×5μm程度とし、深さは例えば400nm程度とする。
【0031】
続いて、図3(E)に示したように、この開口21を含む犠牲層20上に、例えば減圧CVD法を用いて、振動部11における導体部111を形成するための前述した材料からなるp−Si層16を、例えば2000nm程度の厚みで一様に形成する。そののち、このp−Si層16を、例えばフォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングを行ってパターニングする。これにより、図3(F)に示したように、犠牲層20上に、互いに離隔配置された複数(ここでは3つ)の導体パターンからなる導体パターン層が形成される。
【0032】
次に、図3(G)に示したように、犠牲層20上ならびにこれら各導体パターンの表面および側面に、例えば減圧CVD法を用いて、SiN等からなる絶縁層17を、例えば30nm程度の厚みで一様に形成する。
【0033】
続いて、図4(A)に示したように、この絶縁層17上に、再び、前述した材料からなるp−Si層17(導体層)を、例えば2000nm程度の厚みで一様に形成する。そののち、図4(B)に示したように、p−Si層16(導体パターン層)、絶縁層17およびp−Si層18の表面を、例えばCMPを用いて平坦化する。これにより、導体部111の各ブロックとなるp−Si層16,18間に、絶縁膜112となる絶縁層17が埋め込まれた形状となる。
【0034】
次に、図4(C)に示したように、埋め込まれた絶縁体層17を含むp−Si層16,18を、例えばフォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングを行ってパターニングする。これにより、梁部12A,12Bおよび支持部13A,13Bと共に振動部11の外形を形成する。
【0035】
続いて、図4(D)に示したように、例えばDHF(希釈弗酸)溶液等のエッチング溶液を用いたウェットエッチングを行い、犠牲層20を選択的に除去する。これにより、振動部11が、基板面に対して間隙Gを介して、梁部12A,12Bおよび支持部13A,13Bにより支持されるようになる。なお、このとき、埋め込まれている部分以外の絶縁層17も同時に除去されることになる。以上により、図1に示した共振器1が完成する。
【0036】
[共振器の作用・効果]
(基本動作)
本実施の形態の共振器1では、電気信号におけるある特定の周波数の信号のみを機械的な振動に変換すると共に、この機械的な振動を再び電気信号に変換することにより、共振器として機能する。
【0037】
具体的には、まず、任意の周波数の入力交流信号Sinが、入力信号線Linから支持部13Aおよび梁部12Aを介して導体部111のうちの入力ブロックへ入力されると、各絶縁膜112にはその周波数の静電引力が発生し、振動部11内に圧縮応力が働く。すなわち、電気信号から機械的な振動への変換がなされる。
【0038】
ここで、入力交流信号Sinの周波数が、共振器1の寸法により定まる縦波振動の共振周波数frと等しい場合、振動部11は縦波振動による共振振動を行う(図2(B)中の波形W3,W5,W7参照)。
【0039】
すると、絶縁膜112は、振動によって圧縮および膨張を繰り返すことになる。このような絶縁膜112の変形により(図1中の矢印P1参照)、絶縁膜112の両端面(Y−Z端面)に、誘導起電力による電位差が発生する。すなわち、機械的な振動から電気信号への再変換がなされる。これにより、共振周波数frと等しい周波数の出力交流信号Soutが、導体部111のうちの出力ブロックから梁部12Bおよび支持部13Bを介して、出力信号線Loutから出力される。このような動作原理により、共振器1は、任意の入力交流信号Sinのうち、ある周波数(共振周波数fr)の信号のみを選択的に透過する共振器として機能する。
【0040】
(共振モードの切換動作)
次に、図2,図5〜図7を参照して、本発明の特徴的部分の1つである共振モードの切換動作について詳細に説明する。図5〜図7はそれぞれ、共振器1における各共振モードによる共振時の接続状態を模式的に表したものであり、図5は3次モードによる共振時を、図6は5次モードによる共振時を、図7は7次モードによる共振時を、それぞれ表している。
【0041】
まず、図5に示した3次モードによる共振時には、入力スイッチSWinの他端は端子in3に接続され、出力スイッチSWoutの他端は端子out3に接続され、電圧供給スイッチSWdcの他端は端子dc3に接続される。これにより、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in3、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111aへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc3、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111b,11fへそれぞれ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111a,111b間およびブロック111f,111g間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図中に示した波形W3のように、3次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111gから梁部12A、支持部13A、端子out3および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(5次モード,7次モード)による共振振動は励起されない。
【0042】
また、図6に示した5次モードによる共振時には、入力スイッチSWinの他端は端子in5に接続され、出力スイッチSWoutの他端は端子out5に接続され、電圧供給スイッチSWdcの他端は端子dc5に接続される。これにより、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in5、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111bへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc5、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111c,11eへそれぞれ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111b,111c間およびブロック111e,111f間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図中に示した波形W5のように、5次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111fから梁部12A、支持部13A、端子out5および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(3次モード,7次モード)による共振振動は励起されない。
【0043】
同様に、図7に示した7次モードによる共振時には、入力スイッチSWinの他端は端子in7に接続され、出力スイッチSWoutの他端は端子out7に接続され、電圧供給スイッチSWdcの他端は端子dc7に接続される。これにより、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in7、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111cへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc7、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111dへ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111c,111d間およびブロック111d,111e間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図中に示した波形W7のように、7次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111eから梁部12A、支持部13A、端子out7および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(3次モード,5次モード)による共振振動は励起されない。
【0044】
このようにして本実施の形態の共振器1では、入力スイッチSWin、出力スイッチSWoutおよび電圧供給スイッチSWdcの切換動作により、導体部111における複数のブロック111a〜111gのうちの入力ブロックに対して入力交流信号Sinを入力するための入力経路、およびこれらブロック111a〜111gのうちの出力ブロックから出力交流信号Soutを出力するための出力経路が、それぞれ個別に切り換えられる。これにより、有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)絶縁膜112をも切り換えることが可能となり、この電位差が生じる絶縁膜112の振動部11内での位置に応じて、複数の共振周波数fr(複数の次数の共振モード)が励起される。また、単一構造の共振器内で実現されるため、従来のように、個別に複数の共振器を用いる必要もない。
【0045】
以上のように本実施の形態では、入力交流信号Sinの周波数に応じて縦波振動による共振振動を行う振動部11において、入力交流信号Sinが入力される入力端子を複数の端子in3,in5,in7間で切り換えることにより、導体部111におけるブロックに対する入力交流信号Sinの入力経路を切り換えると共に、出力交流信号Soutが出力される出力端子を複数の端子out3,out5,out7間で切り換えることにより、導体部111におけるブロックからの出力交流信号Soutの出力経路を切り換えるようにしたので、単一構造の共振器1内において、両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる絶縁膜112の振動部11内での位置に応じて、複数の共振周波数frを励起させることができる。よって、複数の共振周波数frを有する共振器において、従来よりも小型化を図ることが可能となる。
【0046】
また、各絶縁膜112における両端面(Y−Z端面)間に電位差を与えるための直流電圧Vdcが、電圧供給線Ldcから支持部13Bおよび梁部12Bを介して導体部111のうちの電圧供給ブロックへ供給されるようにしたので、直流電圧Vdcを入力するための専用の電極等を別個設ける必要がなくなり、構造を簡素化することができる。
【0047】
<2.変形例>
図8(A)は、本発明の変形例に係る共振器1Aの上面構成(X−Y平面構成)を模式的に表したものであり、図8(B)は、この共振器1Aにおいて実現可能な複数(ここでは3つ)の共振モード(ここでは、3次,5次,7次モード)の波形を表したものである。なお、上記実施の形態と同様の構成要素については、同一の符号を付し、適宜説明を省略する。また、本変形例の共振器1Aの製造方法は、上記実施の形態で説明した製造方法と基本的に同様となっており、違いはマスクパターンが異なることだけであるため、説明を省略する。
【0048】
本変形例の共振器1Aでは、上記実施の形態の共振器1において、複数の共振モード(3次,5次,7次モード)に応じた、導体部111内における入力ブロック、出力ブロックおよび電圧供給ブロック間の配置関係(割り当て)を変更した構造となっている。
【0049】
具体的には、3次モードによる共振時には、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in3、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111cへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc3、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111dへ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111c,111d間およびブロック111d,111e間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図8(B)中に示した波形W3のように、3次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111eから梁部12A、支持部13A、端子out3および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(5次モード,7次モード)による共振振動は励起されない。
【0050】
また、5次モードによる共振時には、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in5、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111bへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc5、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111c,11eへそれぞれ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111b,111c間およびブロック111e,111f間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図8(B)中に示した波形W5のように、5次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111fから梁部12A、支持部13A、端子out5および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(3次モード,7次モード)による共振振動は励起されない。
【0051】
同様に、7次モードによる共振時には、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in7、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111aへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc7、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111b,111fへそれぞれ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111a,111b間およびブロック111f,111g間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図8(B)中に示した波形W7のように、7次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111gから梁部12A、支持部13A、端子out7および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(3次モード,5次モード)による共振振動は励起されない。
【0052】
このような構成により本変形例においても、上記実施の形態と同様の作用により同様の効果を得ることができる。すなわち、複数の共振周波数frを有する共振器において、従来よりも小型化を図ることが可能となる。
【0053】
<3.適用例>
図9は、上記実施の形態および変形例で説明した共振器1,1A等を搭載した電子機器の一例としての通信装置の機能ブロック構成を表すものである。この通信装置は、上記実施の形態等で説明した共振器1,1A等を、後述する送信用PLL回路313、チャンネル選択用PLL回路342または中間周波数用PLL回路344等の発振器や、高周波フィルタ302等のフィルタ素子として搭載したものである。具体的には、この通信装置は、例えば、携帯電話器、情報携帯端末(PDA)、無線LAN機器などである。
【0054】
この通信装置は、例えば、送信系回路300Aと、受信系回路300Bと、送受信経路を切り替える送受信切替器301と、高周波フィルタ302と、送受信用のアンテナ303とを備えている。
【0055】
送信系回路300Aは、2つのデジタル/アナログ変換器(DAC;Digital/Analogue Converter)311I,311Qと、2つのバンドパスフィルタ312I,312Qとを備えている。これらのDAC311I,311Qおよびバンドパスフィルタ312I,312Qは、Iチャンネルの送信データおよびQチャンネルの送信データに対応したものである。送信系回路300Aはまた、変調器320および送信用PLL(Phase-Locked Loop )回路313と、電力増幅器314とを備えている。変調器320は、上記した2つのバンドパスフィルタ312I,312Qに対応した2つのバッファアンプ321I,321Qおよび2つのミキサ322I,322Qと、移相器323と、加算器324と、バッファアンプ325とを含んで構成されている。
【0056】
受信系回路300Bは、高周波部330、バンドパスフィルタ341およびチャンネル選択用PLL回路342と、中間周波回路350およびバンドパスフィルタ343と、復調器360および中間周波用PLL回路344とを備えている。この受信系回路300Bはまた、Iチャンネルの受信データおよびQチャンネルの受信データに対応した2つのバンドパスフィルタ345I,345Qおよび2つのアナログ/デジタル変換器(ADC;Analogue/Digital Converter)346I,346Qを備えている。高周波部330は、低ノイズアンプ331と、バッファアンプ332,334と、ミキサ333とを含んで構成されている。中間周波回路350は、バッファアンプ351,353と、自動ゲイン調整(AGC;Auto Gain Controller)回路352とを含んで構成されている。復調器360は、バッファアンプ361と、上記した2つのバンドパスフィルタ345I,345Qに対応した2つのミキサ362I,362Qおよび2つのバッファアンプ363I,363Qと、移相器364とを含んで構成されている。
【0057】
この通信装置では、送信系回路300AにIチャンネルの送信データおよびQチャンネルの送信データが入力されると、それぞれの送信データを以下の手順で処理する。すなわち、まず、DAC311I、311Qにおいてアナログ信号に変換し、引き続きバンドパスフィルタ312I,312Qにおいて送信信号の帯域以外の信号成分を除去したのち、変調器320に供給する。続いて、変調器320において、バッファアンプ321I,321Qを介してミキサ322I,322Qに供給し、引き続き送信用PLL回路313から供給される送信周波数に対応した周波数信号を混合して変調する。そののち、両混合信号を加算器324において加算することにより、1系統の送信信号とする。この際、ミキサ322Iに供給する周波数信号に関しては、移相器323において信号移相を90°シフトさせることにより、Iチャンネルの信号とQチャンネルの信号とが互いに直交変調されるようにする。最後に、バッファアンプ325を介して電力増幅器314に供給することにより、所定の送信電力となるように増幅する。この電力増幅器314において増幅された信号は、送受信切換器301および高周波フィルタ302を介してアンテナ303に供給されることにより、そのアンテナ303を介して無線送信される。この高周波フィルタ302は、通信装置において送信または受信する信号のうちの周波数帯域以外の信号成分を除去するバンドパスフィルタとして機能する。
【0058】
一方、アンテナ303から高周波フィルタ302および送受信切換器301を介して受信系回路300Bに信号が受信されると、その信号を以下の手順で処理する。すなわち、まず、高周波部330において、受信信号を低ノイズアンプ331で増幅し、引き続きバンドパスフィルタ341で受信周波数帯域以外の信号成分を除去したのち、バッファアンプ332を介してミキサ333に供給する。続いて、チャンネル選択用PPL回路342から供給される周波数信号を混合し、所定の送信チャンネルの信号を中間周波信号とすることにより、バッファアンプ334を介して中間周波回路350に供給する。続いて、中間周波回路350において、バッファアンプ351を介してバンドパスフィルタ343に供給することにより中間周波信号の帯域以外の信号成分を除去する。そして、引き続きAGC回路352でほぼ一定のゲイン信号としたのち、バッファアンプ353を介して復調器360に供給する。続いて、復調器360において、バッファアンプ361を介してミキサ362I,362Qに供給したのち、中間周波用PPL回路344から供給される周波数信号を混合し、Iチャンネルの信号成分とQチャンネルの信号成分とを復調する。この際、ミキサ362Iに供給する周波数信号に関しては、移相器364において信号移相を90°シフトさせることにより、互いに直交変調されたIチャンネルの信号成分とQチャンネルの信号成分とを復調する。最後に、Iチャンネルの信号およびQチャンネルの信号をバンドパスフィルタ345I,345Qに供給することによりIチャンネルの信号およびQチャンネルの信号以外の信号成分を除去したのち、ADC346I,346Qに供給してデジタルデータとする。これにより、Iチャンネルの受信データおよびQチャンネルの受信データが得られる。
【0059】
この通信装置は、上記各実施の形態等で説明した共振器を、送信用PLL回路313、チャンネル選択用PLL回路342または中間周波数用PLL回路344等の発振器や、高周波フィルタ302等のフィルタ素子として搭載している。このため、上記実施の形態等において説明した作用により、優れた高周波特性を有する。
【0060】
(その他の変形例)
以上、実施の形態、変形例および適用例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0061】
例えば、上記実施の形態等では、振動部11,11A内に6つの絶縁膜112が設けられていることにより、導体部111が7つのブロックに分離されている場合について説明したが、振動部内に設けられる絶縁膜112の数は、これには限られない。すなわち、振動部内に2つ以上の絶縁膜112が設けられていればよく、その数は任意に設定することが可能である。
【0062】
また、上記実施の形態等では、入力交流信号の周波数に応じて縦波振動による共振振動を行う振動部を備えた共振器を例に挙げて説明したが、本発明は、これ以外のタイプの共振器(例えば、横波振動による共振振動を行う振動部を備えたもの)にも適用可能である。
【0063】
更に、上記実施の形態等において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0064】
加えて、上記実施の形態等では、本発明の共振器を、通信装置に代表される電子機器に適用する場合について説明したが、これに限られるものではなく、本発明の共振器は、通信装置以外の電子機器(例えば、計測器など)に適用することも可能である。これらのいずれの場合においても、上記実施の形態等と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0065】
1,1A…共振器、10…支持基板、10A…Si基板、10B…保護層、11,11A…振動部、111…導体部、111a〜111g…(導体部の)ブロック、112…絶縁膜、12A,12B…梁部、13A,13B…支持部、15,16,18…p−Si層、17…絶縁層、20…犠牲層、21…開口、300A…送信系回路、300B…受信系回路、302…高周波フィルタ、313…送信用PLL回路、342…チャンネル選択用PLL回路、344…中間周波数用PLL回路、G…間隙、Vdc…直流電源、C1…コンデンサ、L1…コイル、Lin…入力信号線、Lout…出力信号線、Ldc…電圧供給線、Sin…入力交流信号、Sout…出力交流信号、SWin…入力スイッチ、SWout…出力スイッチ、SWdc…電圧供給スイッチ、in3,in5,in7,out3,out5,out7,dc3,dc5,dc7…端子、W3,W5,W7…波形、P1…振動方向、fr…共振周波数。
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の要素技術を応用した共振器およびその製造方法、ならびにそのような共振器を備えた発振器および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線通信技術の発展に伴い、無線通信技術を利用した通信機器において、小型化、軽量化が要求されている。そのため、これまで小型化が困難とされてきたRF信号処理部分等に、半導体分野における微細加工技術を用いて微細な機械構造を作製するマイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)技術が利用されてきている。このMEMSは、シリコンプロセス技術により、マイクロな機械的要素と電子回路要素とを融合したシステムであり、日本では主にマイクロマシンと称されるものである。MEMS技術は、その精密加工性などの優れた特徴から、高機能化に対応しつつ、小型で低価格なSoC(System on a Chip)を実現することができる。
【0003】
このようなMEMS技術を用いた素子の1つとして、機械的な共振を利用したメカニカル共振器(MEMS共振器)があり、これを利用したフィルタ、発信器、ミキサ等のRF素子は、小型で集積化が可能であることから、通信分野への応用が始まっている(例えば、特許文献1)。しかしながら、携帯電話やミリ波通信等のアプリケーションの高周波化に伴い、このようなMEMS共振器においても、動作周波数のGHz以上の高周波化が求められている。
【0004】
そこで、このような動作周波数の高周波化を実現するため、縦波振動を利用した、誘電体埋め込み型のMEMS共振器が提案されている。この共振器では、静電駆動力を得るための誘電体膜(絶縁膜)を振動体内部に埋め込むことにより縦波振動を発生させ、GHz以上の高周波領域での動作を実現している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dana Weinstein and Sunil A. Bhave, "Internal Dielectric Transduction of a 4.5 GHz Silicon Bar Resonator", IEEE International Electron Device Meeting 2007, pp.415-418.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10および図11は、この縦波振動を利用した誘電体埋め込み型のMEMS共振器(共振器100−1)の概略構成および動作原理を表すものであり、図10は外観斜視構成を、図11はX−Y平面(上面)構成をそれぞれ表している。この共振器100−1では、支持基板100上に、間隙Gを介して直方体状(X軸方向に延在)の振動部101が設けられている。この振動部101は、導電体Si(シリコン)等からなる導体部101Aと、SiN(窒化シリコン)等からなる2つの絶縁膜101Bとから構成されている。導体部101Aはこれら2つの絶縁膜101Bにより、交流信号の伝送方向(X軸方向)に沿って3つのブロックに電気的に分離されている。各ブロックの両側面(Z−X側面)は、梁部102(サポートビーム)および支持部103(アンカー)により基板面に対して支持されている。そして、3つのブロックのうちの一端側のブロックでは、これら支持部103および梁部102を介して、コンデンサC1が接続された入力信号線Linから、入力交流信号Sinが入力されている。一方、他端側のブロックでは、梁部102および支持部103を介して出力信号線Loutから出力交流信号が出力されている。また、真ん中のブロックには、各絶縁膜101Bにおける両端面(Y−Z端面)間に電位差(バイアス)を与えるための直流電圧Vdcが、コイルL1を介して供給されるようになっている。
【0007】
この状態において、入力信号線Linから任意の周波数の入力交流信号Sinが入力されると、各絶縁膜101Bにはその周波数の静電引力が発生し、これにより振動部101内に圧縮応力が働く。ここで、入力交流信号Sinの周波数が、共振器の寸法により定まる縦波振動の共振周波数と等しい場合、振動部101は縦波振動による共振振動を起こす(図11中の波形W101参照)。すると、各絶縁膜101Bは、振動によって圧縮および膨張を繰り返すことになる。このような絶縁膜101Bの変形により(図11中の矢印P101参照)、各絶縁膜101Bの両端面(Y−Z端面)には電位差が発生するため、この共振周波数と等しい周波数の出力交流信号Soutが、出力信号線Loutから出力される。このような動作原理により、この共振器100−1は、任意の入力交流信号Sinのうち、ある周波数(共振周波数)の信号のみを選択的に透過する共振器として機能する。
【0008】
ところが、このような従来のMEMS共振器では、機能上求められる(使用したい)共振周波数が複数ある場合には、固有の共振周波数が互いに異なる複数個の共振器を用意する必要があったため、それに伴って共振器全体として大型化してしまうという問題があった。これは、以下の理由による。すなわち、まず、この方式の共振器における共振周波数は、振動部の材質や寸法、そして縦波振動の次数(共振モードの次数)により定まる。したがって、振動部の材質および寸法が変わらない場合、共振周波数を変化させるには共振モードの次数を変える必要があることから、絶縁膜の配置位置を変更させる必要が生じ、1つの共振器内で実現するのが困難であるからである。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、複数の共振周波数を有する共振器において、従来よりも小型化を図ることが可能な共振器およびその製造方法、ならびにそのような共振器を備えた発振器および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の共振器は、導体部と、この導体部を複数のブロックに電気的に分離するように設けられた複数の絶縁部とを有する振動部と、導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、複数の入力端子において、入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより入力経路を切り換える入力切換部と、複数の出力端子において、出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより出力経路を切り換える出力切換部とを備えたものである。なお、このような振動部としては、例えば、絶縁部において両端間に電位差を生じさせたときに、入力交流信号の周波数に応じて縦波振動による共振振動を行うものが挙げられる。
【0011】
本発明の発振器および電子機器は、共振振動を行う上記本発明の共振器を備えたものである。
【0012】
本発明の共振器、発振器および電子機器では、複数の入力端子において、入力交流信号が入力される入力端子が切り換えられることにより、導体部におけるブロックに対する入力交流信号の入力経路が切り換えられる。また、複数の出力端子において、出力交流信号が出力される出力端子が切り換えられることにより、導体部におけるブロックからの出力交流信号の出力経路が切り換えられる。これにより、振動に寄与する絶縁部の振動部内での位置に応じて、複数の共振周波数が励起される。また、単一構造の共振器内で実現されるため、従来のように、個別に複数の共振器を用いる必要もない。
【0013】
本発明の共振器の製造方法は、基板上に、導体部とこの導体部を複数のブロックに電気的に分離する複数の絶縁部とを有する振動部を形成する工程と、導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、複数の入力端子において入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより入力経路を切り換える入力切換部と、複数の出力端子において出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより出力経路を切り換える出力切換部とをそれぞれ形成する工程とを含むようにしたものである。
【0014】
本発明の共振器の製造方法では、上記各工程により、上記振動部、複数の入力端子、複数の出力端子、入力切換部および出力切換部がそれぞれ設けられるため、単一構造の共振器内において、振動に寄与する絶縁部の振動部内での位置に応じて、複数の共振周波数が励起される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の共振器およびその製造方法、発振器ならびに電子機器によれば、複数の入力端子において、入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより導体部におけるブロックに対する入力交流信号の入力経路を切り換えると共に、複数の出力端子において、出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより導体部におけるブロックからの出力交流信号の出力経路を切り換えるようにしたので、単一構造の共振器内において、振動に寄与する絶縁部の振動部内での位置に応じて、複数の共振周波数を励起させることができる。よって、複数の共振周波数を有する共振器において、従来よりも小型化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る共振器の概略外観構成を表す斜視図である。
【図2】図1に示した共振器の構成および動作原理ならびに各共振モードの波形を模式的に表す上面図および波形図である。
【図3】図1に示した共振器の製造方法の一例を工程順に表す断面図である。
【図4】図3に続く工程を表す断面図である。
【図5】図1に示した共振器における3次モードの共振時の接続状態を模式的に表す上面図である。
【図6】図1に示した共振器における5次モードの共振時の接続状態を模式的に表す上面図である。
【図7】図1に示した共振器における7次モードの共振時の接続状態を模式的に表す上面図である。
【図8】本発明の変形例に係る共振器の構成および動作原理ならびに各共振モードの波形を模式的に表す上面図および波形図である。
【図9】本発明の共振器の適用例に係る電子機器の機能ブロック図である。
【図10】従来の共振器の外観構成例を表す斜視図である。
【図11】図10に示した共振器の構成および動作原理を模式的に表す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(複数の共振モード間の切り換えが可能な共振器の一例)
2.変形例 (複数の共振モード間の切り換えが可能な共振器の他の構成例)
3.適用例 (実施の形態および変形例の共振器を内蔵した電子機器の例)
【0018】
<1.実施の形態>
[共振器の構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る共振器1における概略外観構成を斜視的に表したものであり、図2(A)は、この共振器1の上面構成(X−Y平面構成)を模式的に表したものである。また、図2(B)は、詳細は後述するが、共振器1において実現可能な複数(ここでは3つ)の共振モード(ここでは、3次,5次,7次モード)の波形を表したものである。この共振器1は、以下説明するX軸方向に延在する振動部11における機械的な縦波振動による共振振動を利用して、高周波(例えば、60GHz程度)の交流信号を伝送するMEMS共振器である。
【0019】
この共振器1では、支持基板10上に、間隙Gを介して直方体状の振動部11が設けられている。この振動部11は、導体部111と、複数(ここでは、6つ)の絶縁膜(絶縁部)112とから構成されている。導体部111はこれら6つの絶縁膜112により、交流信号の伝送方向(X軸方向)に沿って7つのブロック111a〜111gに電気的に分離されている。各ブロック111a〜111gの両側面(Z−X側面)は、梁部12A,12B(サポートビーム)および支持部13A,13B(アンカー)により、基板面に対して支持されている。
【0020】
支持基板10は、Si基板10Aと、このSi基板10A上に積層された保護層10Bとから構成されている。保護層10Bは、製造時において後述する犠牲層20をウェットエッチングにより除去する際に、下地(Si基板10A)を保護するためのものであり、例えばSiNなどの絶縁材料により構成されている。したがって、この保護層10Bは、エッチングに耐え得る程度の厚み(例えば、200nm程度)となっている。
【0021】
振動部11は、例えば、(X軸方向:40μm程度、Y軸方向:10μm程度、Z軸方向:2μm程度)の大きさの直方体状となっている。この振動部11において、導体部111は、例えば、リン(P)を含有して導電性を示す多結晶Si(p−Si)等の導電性Siにより構成されている。ただし、金属(アルミニウム(Al),チタン(Ti)等)や半導体(Si,ゲルマニウム(Ge)等)、またはそれらの窒化物(窒化チタン(TiN)等)や炭化物(炭化チタン(TiC)等)などの他の導電性材料を用いるようにしてもよい。なお、上記した梁部12および支持部13も、この導体部111と同一の材料により構成されている。一方、絶縁膜112は、例えばSiN等の絶縁性材料により構成されており、その厚みは、例えば30nm程度となっている。ここで、SiN以外の絶縁性材料としては、例えば、酸化シリコン(SiO2),酸化チタン(TiOX),ポリイミド,BCB等の酸化物や窒化物、有機物等が挙げられる。
【0022】
振動部11における複数のブロック111a〜111gは、入力交流信号Sinが入力される入力ブロックと、出力交流信号Soutが出力される出力ブロックと、電圧供給ブロックとから構成されている。入力ブロックでは、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、コンデンサC1が接続された入力信号線Linから、入力交流信号Sinが入力される。出力ブロックでは、梁部12Aおよび支持部13Aを介して、出力信号線Loutから出力交流信号が出力される。電圧供給ブロックでは、各絶縁膜112における両端面(Y−Z端面)間に電位差を与えるための直流電圧Vdcが、電圧供給線Ldc、梁部12Bおよび支持部13Bを介して供給される。具体的には、ここでは、電圧供給ブロックに対応する位置の梁部12Bおよび支持部13Bを介して、直流電圧Vdcが供給されるようになっている。ただし、場合によっては、直流電圧Vdcがこれら梁部12Bおよび支持部13Bを介さずに、別個の端子等を経由して供給されるようにしてもよい。
【0023】
ここで、本実施の形態の共振器1には、入力スイッチSWin(入力切換部)、出力スイッチSWout(出力切換部)および電圧供給スイッチSWdc(電圧供給切換部)が設けられている。入力スイッチSWinは、一端が入力信号線Linに接続されると共に、他端が端子(入力端子)in3,in5,in7のうちのいずれかに接続可能となっており、入力ブロックに対して入力交流信号Sinを入力するための入力経路を切り換えるためのスイッチである。出力スイッチSWoutは、一端が出力信号線Loutに接続されると共に、他端が端子(出力端子)out3,out5,out7のうちのいずれかに接続可能となっており、出力ブロックから出力交流信号Soutを出力するための出力経路を切り換えるためのスイッチである。電圧供給スイッチSWdcは、一端が電圧供給線Ldcに接続されると共に、他端が端子(電圧供給端子)dc3,dc5,dc7のうちのいずれかに接続可能となっており、直流電圧Vdcを電圧供給ブロックへ供給するための電圧供給経路を切り換えるためのスイッチである。なお、これらの入力スイッチSWin、出力スイッチSWoutおよび電圧供給スイッチSWdcはそれぞれ、例えばユーザの操作等に応じて外部から入力される制御信号(図示せず;例えば、後述する複数の共振モードによる共振振動のうちのいずれを用いるか等の制御信号)に従って、個別に切換動作を行うようになっている。このような入力スイッチSWin、出力スイッチSWoutおよび電圧供給スイッチSWdcの切換動作により、後述するように、導体部111a〜111gにおける入力ブロック、出力ブロックおよび電圧供給ブロックの配置(割り当て)をそれぞれ切り換えることが可能となっている。
【0024】
この振動部11は、詳細は後述するが、各絶縁膜112において両端面(Y−Z端面)間に電位差(上記直流電圧Vdcに対応)を生じさせたときに、入力交流信号Sinの周波数に応じて、縦波振動による共振振動を行うようになっている(図2中の波形W3,W5,W7参照)。そして、各絶縁膜112が所定の1方向(ここではX軸方向:図1中の矢印P1参照)に沿って振動することとなるように、導体部111における複数のブロック111a〜111gおよび絶縁膜112が、その1方向(X軸方向)に沿って配置されている。また、本実施の形態の共振器1では、図2(B)に示した波形W3,W5,W7のように、単一構造の共振器1内において、複数の共振モード(ここでは、3次モード,5次モードおよび7次モードの3つの共振モード)による共振振動が実現されるようになっている。
【0025】
ここで、この方式の共振器における共振周波数frは、振動部の材質や寸法、そして縦波振動の次数(共振モードの次数)により定まる。したがって、本実施の形態の振動部11では、その材質および寸法が一定である(変わらない)ことから、共振周波数frを変化させるために、共振モードの次数を変えるようになっている。具体的には、上記した入力スイッチSWin、出力スイッチSWoutおよび電圧供給スイッチSWdcの切換動作により、設定すべき共振モードに応じて、有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)絶縁膜112の位置を切り換えている。したがって、各絶縁膜112は、図2に示したように、これら各共振モードの縦波振動における波形W3,W5,W7の節部分の少なくとも1つ(図2(B)の波形中の黒点参照)に対応する位置もしくはその近傍に配置されるようになっている。また、このように各絶縁膜112を各共振モードの縦波振動における節部分付近に配置することにより、より効果的な共振振動が実現されるようになっている。
【0026】
また、同じく図2に示したように、梁部12A,12Bおよび支持部13A,13Bは、これら各共振モードの縦波振動における波形W3,W5,W7の節部分の少なくとも1つに対応する位置もしくはその近傍に配置されているようにするのが好ましい。このような位置に配置することにより、振動部11の振動を妨げてしまうのが回避されるからである。なお、本実施の形態の共振器1では、梁部12A,12Bを用いて振動部11をその側面側から支持するようにしているが、例えば振動部11の下方(基板面側)からなど、他の方向から支持するようにしてもよい。
【0027】
[共振器の製造方法]
この共振器1は、例えば次のようにして製造することができる。図3および図4は、共振器1を製造する工程の一例を断面図で表すものであり、図1におけるII−II線に沿った矢視断面図(Z−X断面図)およびIII−III線に沿った矢視断面図(Y−Z断面図)でそれぞれ示している。
【0028】
まず、図3(A)に示したように、Si基板10A上に例えば減圧CVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)法を用いて、上述した材料からなる保護層10Bを、例えば500nm程度の厚みで一様に形成する。これにより、支持基板10が形成される。次いで、この支持基板10上に、例えば減圧CVD法を用いて前述した材料からなるp−Si層15を、例えば1000nm程度の厚みで一様に形成したのち、例えばフォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングを行い、このp−Si層15をパターニングする。このようにしてパターニングされたp−Si層15は、入力信号線Lin、出力信号線Lout等の配線部分となる。これにより、入力スイッチSWin、出力スイッチSWoutおよび電圧供給スイッチSWdcも同時に形成されるようになっている。
【0029】
続いて、図3(B)に示したように、支持基板10およびp−Si層15上に、例えば減圧CVD法を用いて、例えばSiO2(酸化シリコン)膜を例えば500nm程度の厚みで一様に形成することにより、犠牲層20を形成する。そののち、図4(C)に示したように、例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)を用いて、この犠牲層20の表面を平坦化する。
【0030】
次に、図3(D)に示したように、この平坦化した犠牲層20の表面に、例えばフォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングを行うことにより、支持部13A,13Bを形成するための開口21(コンタクト孔)を形成する。この開口21の大きさは、例えば5μm×5μm程度とし、深さは例えば400nm程度とする。
【0031】
続いて、図3(E)に示したように、この開口21を含む犠牲層20上に、例えば減圧CVD法を用いて、振動部11における導体部111を形成するための前述した材料からなるp−Si層16を、例えば2000nm程度の厚みで一様に形成する。そののち、このp−Si層16を、例えばフォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングを行ってパターニングする。これにより、図3(F)に示したように、犠牲層20上に、互いに離隔配置された複数(ここでは3つ)の導体パターンからなる導体パターン層が形成される。
【0032】
次に、図3(G)に示したように、犠牲層20上ならびにこれら各導体パターンの表面および側面に、例えば減圧CVD法を用いて、SiN等からなる絶縁層17を、例えば30nm程度の厚みで一様に形成する。
【0033】
続いて、図4(A)に示したように、この絶縁層17上に、再び、前述した材料からなるp−Si層17(導体層)を、例えば2000nm程度の厚みで一様に形成する。そののち、図4(B)に示したように、p−Si層16(導体パターン層)、絶縁層17およびp−Si層18の表面を、例えばCMPを用いて平坦化する。これにより、導体部111の各ブロックとなるp−Si層16,18間に、絶縁膜112となる絶縁層17が埋め込まれた形状となる。
【0034】
次に、図4(C)に示したように、埋め込まれた絶縁体層17を含むp−Si層16,18を、例えばフォトリソグラフィ法を用いたドライエッチングを行ってパターニングする。これにより、梁部12A,12Bおよび支持部13A,13Bと共に振動部11の外形を形成する。
【0035】
続いて、図4(D)に示したように、例えばDHF(希釈弗酸)溶液等のエッチング溶液を用いたウェットエッチングを行い、犠牲層20を選択的に除去する。これにより、振動部11が、基板面に対して間隙Gを介して、梁部12A,12Bおよび支持部13A,13Bにより支持されるようになる。なお、このとき、埋め込まれている部分以外の絶縁層17も同時に除去されることになる。以上により、図1に示した共振器1が完成する。
【0036】
[共振器の作用・効果]
(基本動作)
本実施の形態の共振器1では、電気信号におけるある特定の周波数の信号のみを機械的な振動に変換すると共に、この機械的な振動を再び電気信号に変換することにより、共振器として機能する。
【0037】
具体的には、まず、任意の周波数の入力交流信号Sinが、入力信号線Linから支持部13Aおよび梁部12Aを介して導体部111のうちの入力ブロックへ入力されると、各絶縁膜112にはその周波数の静電引力が発生し、振動部11内に圧縮応力が働く。すなわち、電気信号から機械的な振動への変換がなされる。
【0038】
ここで、入力交流信号Sinの周波数が、共振器1の寸法により定まる縦波振動の共振周波数frと等しい場合、振動部11は縦波振動による共振振動を行う(図2(B)中の波形W3,W5,W7参照)。
【0039】
すると、絶縁膜112は、振動によって圧縮および膨張を繰り返すことになる。このような絶縁膜112の変形により(図1中の矢印P1参照)、絶縁膜112の両端面(Y−Z端面)に、誘導起電力による電位差が発生する。すなわち、機械的な振動から電気信号への再変換がなされる。これにより、共振周波数frと等しい周波数の出力交流信号Soutが、導体部111のうちの出力ブロックから梁部12Bおよび支持部13Bを介して、出力信号線Loutから出力される。このような動作原理により、共振器1は、任意の入力交流信号Sinのうち、ある周波数(共振周波数fr)の信号のみを選択的に透過する共振器として機能する。
【0040】
(共振モードの切換動作)
次に、図2,図5〜図7を参照して、本発明の特徴的部分の1つである共振モードの切換動作について詳細に説明する。図5〜図7はそれぞれ、共振器1における各共振モードによる共振時の接続状態を模式的に表したものであり、図5は3次モードによる共振時を、図6は5次モードによる共振時を、図7は7次モードによる共振時を、それぞれ表している。
【0041】
まず、図5に示した3次モードによる共振時には、入力スイッチSWinの他端は端子in3に接続され、出力スイッチSWoutの他端は端子out3に接続され、電圧供給スイッチSWdcの他端は端子dc3に接続される。これにより、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in3、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111aへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc3、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111b,11fへそれぞれ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111a,111b間およびブロック111f,111g間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図中に示した波形W3のように、3次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111gから梁部12A、支持部13A、端子out3および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(5次モード,7次モード)による共振振動は励起されない。
【0042】
また、図6に示した5次モードによる共振時には、入力スイッチSWinの他端は端子in5に接続され、出力スイッチSWoutの他端は端子out5に接続され、電圧供給スイッチSWdcの他端は端子dc5に接続される。これにより、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in5、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111bへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc5、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111c,11eへそれぞれ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111b,111c間およびブロック111e,111f間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図中に示した波形W5のように、5次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111fから梁部12A、支持部13A、端子out5および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(3次モード,7次モード)による共振振動は励起されない。
【0043】
同様に、図7に示した7次モードによる共振時には、入力スイッチSWinの他端は端子in7に接続され、出力スイッチSWoutの他端は端子out7に接続され、電圧供給スイッチSWdcの他端は端子dc7に接続される。これにより、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in7、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111cへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc7、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111dへ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111c,111d間およびブロック111d,111e間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図中に示した波形W7のように、7次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111eから梁部12A、支持部13A、端子out7および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(3次モード,5次モード)による共振振動は励起されない。
【0044】
このようにして本実施の形態の共振器1では、入力スイッチSWin、出力スイッチSWoutおよび電圧供給スイッチSWdcの切換動作により、導体部111における複数のブロック111a〜111gのうちの入力ブロックに対して入力交流信号Sinを入力するための入力経路、およびこれらブロック111a〜111gのうちの出力ブロックから出力交流信号Soutを出力するための出力経路が、それぞれ個別に切り換えられる。これにより、有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)絶縁膜112をも切り換えることが可能となり、この電位差が生じる絶縁膜112の振動部11内での位置に応じて、複数の共振周波数fr(複数の次数の共振モード)が励起される。また、単一構造の共振器内で実現されるため、従来のように、個別に複数の共振器を用いる必要もない。
【0045】
以上のように本実施の形態では、入力交流信号Sinの周波数に応じて縦波振動による共振振動を行う振動部11において、入力交流信号Sinが入力される入力端子を複数の端子in3,in5,in7間で切り換えることにより、導体部111におけるブロックに対する入力交流信号Sinの入力経路を切り換えると共に、出力交流信号Soutが出力される出力端子を複数の端子out3,out5,out7間で切り換えることにより、導体部111におけるブロックからの出力交流信号Soutの出力経路を切り換えるようにしたので、単一構造の共振器1内において、両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる絶縁膜112の振動部11内での位置に応じて、複数の共振周波数frを励起させることができる。よって、複数の共振周波数frを有する共振器において、従来よりも小型化を図ることが可能となる。
【0046】
また、各絶縁膜112における両端面(Y−Z端面)間に電位差を与えるための直流電圧Vdcが、電圧供給線Ldcから支持部13Bおよび梁部12Bを介して導体部111のうちの電圧供給ブロックへ供給されるようにしたので、直流電圧Vdcを入力するための専用の電極等を別個設ける必要がなくなり、構造を簡素化することができる。
【0047】
<2.変形例>
図8(A)は、本発明の変形例に係る共振器1Aの上面構成(X−Y平面構成)を模式的に表したものであり、図8(B)は、この共振器1Aにおいて実現可能な複数(ここでは3つ)の共振モード(ここでは、3次,5次,7次モード)の波形を表したものである。なお、上記実施の形態と同様の構成要素については、同一の符号を付し、適宜説明を省略する。また、本変形例の共振器1Aの製造方法は、上記実施の形態で説明した製造方法と基本的に同様となっており、違いはマスクパターンが異なることだけであるため、説明を省略する。
【0048】
本変形例の共振器1Aでは、上記実施の形態の共振器1において、複数の共振モード(3次,5次,7次モード)に応じた、導体部111内における入力ブロック、出力ブロックおよび電圧供給ブロック間の配置関係(割り当て)を変更した構造となっている。
【0049】
具体的には、3次モードによる共振時には、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in3、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111cへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc3、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111dへ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111c,111d間およびブロック111d,111e間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図8(B)中に示した波形W3のように、3次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111eから梁部12A、支持部13A、端子out3および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(5次モード,7次モード)による共振振動は励起されない。
【0050】
また、5次モードによる共振時には、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in5、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111bへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc5、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111c,11eへそれぞれ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111b,111c間およびブロック111e,111f間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図8(B)中に示した波形W5のように、5次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111fから梁部12A、支持部13A、端子out5および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(3次モード,7次モード)による共振振動は励起されない。
【0051】
同様に、7次モードによる共振時には、入力交流信号Sinは、入力信号線Lin、端子in7、支持部13Aおよび梁部12Aを介して、導体部111におけるブロック111aへ入力される。また、直流電圧Vdcは、電圧供給線Ldc、端子dc7、支持部13Bおよび梁部12Bを介して、導体部111におけるブロック111b,111fへそれぞれ供給される。このため、6つの絶縁膜112のうち、ブロック111a,111b間およびブロック111f,111g間に位置する2つの絶縁膜112のみが、選択的に有効に機能する(振動に寄与する;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生じる)。したがって、図8(B)中に示した波形W7のように、7次モードによる共振振動のみが励起し、ブロック111gから梁部12A、支持部13A、端子out7および出力信号線Loutを介して、出力交流信号Soutが出力される。なお、他の4つの絶縁膜112は有効に機能しない(振動に寄与しない;両端面(Y−Z端面)間に電位差が生ない)ため、他のモード(3次モード,5次モード)による共振振動は励起されない。
【0052】
このような構成により本変形例においても、上記実施の形態と同様の作用により同様の効果を得ることができる。すなわち、複数の共振周波数frを有する共振器において、従来よりも小型化を図ることが可能となる。
【0053】
<3.適用例>
図9は、上記実施の形態および変形例で説明した共振器1,1A等を搭載した電子機器の一例としての通信装置の機能ブロック構成を表すものである。この通信装置は、上記実施の形態等で説明した共振器1,1A等を、後述する送信用PLL回路313、チャンネル選択用PLL回路342または中間周波数用PLL回路344等の発振器や、高周波フィルタ302等のフィルタ素子として搭載したものである。具体的には、この通信装置は、例えば、携帯電話器、情報携帯端末(PDA)、無線LAN機器などである。
【0054】
この通信装置は、例えば、送信系回路300Aと、受信系回路300Bと、送受信経路を切り替える送受信切替器301と、高周波フィルタ302と、送受信用のアンテナ303とを備えている。
【0055】
送信系回路300Aは、2つのデジタル/アナログ変換器(DAC;Digital/Analogue Converter)311I,311Qと、2つのバンドパスフィルタ312I,312Qとを備えている。これらのDAC311I,311Qおよびバンドパスフィルタ312I,312Qは、Iチャンネルの送信データおよびQチャンネルの送信データに対応したものである。送信系回路300Aはまた、変調器320および送信用PLL(Phase-Locked Loop )回路313と、電力増幅器314とを備えている。変調器320は、上記した2つのバンドパスフィルタ312I,312Qに対応した2つのバッファアンプ321I,321Qおよび2つのミキサ322I,322Qと、移相器323と、加算器324と、バッファアンプ325とを含んで構成されている。
【0056】
受信系回路300Bは、高周波部330、バンドパスフィルタ341およびチャンネル選択用PLL回路342と、中間周波回路350およびバンドパスフィルタ343と、復調器360および中間周波用PLL回路344とを備えている。この受信系回路300Bはまた、Iチャンネルの受信データおよびQチャンネルの受信データに対応した2つのバンドパスフィルタ345I,345Qおよび2つのアナログ/デジタル変換器(ADC;Analogue/Digital Converter)346I,346Qを備えている。高周波部330は、低ノイズアンプ331と、バッファアンプ332,334と、ミキサ333とを含んで構成されている。中間周波回路350は、バッファアンプ351,353と、自動ゲイン調整(AGC;Auto Gain Controller)回路352とを含んで構成されている。復調器360は、バッファアンプ361と、上記した2つのバンドパスフィルタ345I,345Qに対応した2つのミキサ362I,362Qおよび2つのバッファアンプ363I,363Qと、移相器364とを含んで構成されている。
【0057】
この通信装置では、送信系回路300AにIチャンネルの送信データおよびQチャンネルの送信データが入力されると、それぞれの送信データを以下の手順で処理する。すなわち、まず、DAC311I、311Qにおいてアナログ信号に変換し、引き続きバンドパスフィルタ312I,312Qにおいて送信信号の帯域以外の信号成分を除去したのち、変調器320に供給する。続いて、変調器320において、バッファアンプ321I,321Qを介してミキサ322I,322Qに供給し、引き続き送信用PLL回路313から供給される送信周波数に対応した周波数信号を混合して変調する。そののち、両混合信号を加算器324において加算することにより、1系統の送信信号とする。この際、ミキサ322Iに供給する周波数信号に関しては、移相器323において信号移相を90°シフトさせることにより、Iチャンネルの信号とQチャンネルの信号とが互いに直交変調されるようにする。最後に、バッファアンプ325を介して電力増幅器314に供給することにより、所定の送信電力となるように増幅する。この電力増幅器314において増幅された信号は、送受信切換器301および高周波フィルタ302を介してアンテナ303に供給されることにより、そのアンテナ303を介して無線送信される。この高周波フィルタ302は、通信装置において送信または受信する信号のうちの周波数帯域以外の信号成分を除去するバンドパスフィルタとして機能する。
【0058】
一方、アンテナ303から高周波フィルタ302および送受信切換器301を介して受信系回路300Bに信号が受信されると、その信号を以下の手順で処理する。すなわち、まず、高周波部330において、受信信号を低ノイズアンプ331で増幅し、引き続きバンドパスフィルタ341で受信周波数帯域以外の信号成分を除去したのち、バッファアンプ332を介してミキサ333に供給する。続いて、チャンネル選択用PPL回路342から供給される周波数信号を混合し、所定の送信チャンネルの信号を中間周波信号とすることにより、バッファアンプ334を介して中間周波回路350に供給する。続いて、中間周波回路350において、バッファアンプ351を介してバンドパスフィルタ343に供給することにより中間周波信号の帯域以外の信号成分を除去する。そして、引き続きAGC回路352でほぼ一定のゲイン信号としたのち、バッファアンプ353を介して復調器360に供給する。続いて、復調器360において、バッファアンプ361を介してミキサ362I,362Qに供給したのち、中間周波用PPL回路344から供給される周波数信号を混合し、Iチャンネルの信号成分とQチャンネルの信号成分とを復調する。この際、ミキサ362Iに供給する周波数信号に関しては、移相器364において信号移相を90°シフトさせることにより、互いに直交変調されたIチャンネルの信号成分とQチャンネルの信号成分とを復調する。最後に、Iチャンネルの信号およびQチャンネルの信号をバンドパスフィルタ345I,345Qに供給することによりIチャンネルの信号およびQチャンネルの信号以外の信号成分を除去したのち、ADC346I,346Qに供給してデジタルデータとする。これにより、Iチャンネルの受信データおよびQチャンネルの受信データが得られる。
【0059】
この通信装置は、上記各実施の形態等で説明した共振器を、送信用PLL回路313、チャンネル選択用PLL回路342または中間周波数用PLL回路344等の発振器や、高周波フィルタ302等のフィルタ素子として搭載している。このため、上記実施の形態等において説明した作用により、優れた高周波特性を有する。
【0060】
(その他の変形例)
以上、実施の形態、変形例および適用例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0061】
例えば、上記実施の形態等では、振動部11,11A内に6つの絶縁膜112が設けられていることにより、導体部111が7つのブロックに分離されている場合について説明したが、振動部内に設けられる絶縁膜112の数は、これには限られない。すなわち、振動部内に2つ以上の絶縁膜112が設けられていればよく、その数は任意に設定することが可能である。
【0062】
また、上記実施の形態等では、入力交流信号の周波数に応じて縦波振動による共振振動を行う振動部を備えた共振器を例に挙げて説明したが、本発明は、これ以外のタイプの共振器(例えば、横波振動による共振振動を行う振動部を備えたもの)にも適用可能である。
【0063】
更に、上記実施の形態等において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0064】
加えて、上記実施の形態等では、本発明の共振器を、通信装置に代表される電子機器に適用する場合について説明したが、これに限られるものではなく、本発明の共振器は、通信装置以外の電子機器(例えば、計測器など)に適用することも可能である。これらのいずれの場合においても、上記実施の形態等と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0065】
1,1A…共振器、10…支持基板、10A…Si基板、10B…保護層、11,11A…振動部、111…導体部、111a〜111g…(導体部の)ブロック、112…絶縁膜、12A,12B…梁部、13A,13B…支持部、15,16,18…p−Si層、17…絶縁層、20…犠牲層、21…開口、300A…送信系回路、300B…受信系回路、302…高周波フィルタ、313…送信用PLL回路、342…チャンネル選択用PLL回路、344…中間周波数用PLL回路、G…間隙、Vdc…直流電源、C1…コンデンサ、L1…コイル、Lin…入力信号線、Lout…出力信号線、Ldc…電圧供給線、Sin…入力交流信号、Sout…出力交流信号、SWin…入力スイッチ、SWout…出力スイッチ、SWdc…電圧供給スイッチ、in3,in5,in7,out3,out5,out7,dc3,dc5,dc7…端子、W3,W5,W7…波形、P1…振動方向、fr…共振周波数。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体部と、この導体部を複数のブロックに電気的に分離するように設けられた複数の絶縁部とを有する振動部と、
前記導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、
前記導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、
前記複数の入力端子において、前記入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより、入力経路を切り換える入力切換部と、
前記複数の出力端子において、前記出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより、出力経路を切り換える出力切換部と
を備えた共振器。
【請求項2】
前記振動部は、前記絶縁部において両端間に電位差を生じさせたときに、前記入力交流信号の周波数に応じて縦波振動による共振振動を行うように構成されている
請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
前記導体部における複数のブロックが、
前記入力交流信号が入力される入力ブロックと、
前記出力交流信号が出力される出力ブロックと、
前記電位差を生じさせるための直流電圧が供給される電圧供給ブロックと
により構成されている
請求項2に記載の共振器。
【請求項4】
前記直流電圧を前記電圧供給ブロックへ供給するための複数の電圧供給端子と、
前記複数の電圧供給端子において、前記直流電圧が供給される電圧供給端子を切り換えることにより、電圧供給経路を切り換える電圧供給切換部と
を備え、
前記入力切換部、前記出力切換部および前記電圧供給切換部は、前記入力経路、前記出力経路および前記電圧供給経路をそれぞれ個別に切り換えることにより、前記導体部内における前記入力ブロック、前記出力ブロックおよび前記電圧供給ブロックの配置をそれぞれ切り換える
請求項3に記載の共振器。
【請求項5】
前記切換部は、複数の共振モードによる共振振動のうちのいずれを用いるかに応じて、切換動作を行う
請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の共振器。
【請求項6】
基板と、
前記振動部を前記基板の一面に対して間隙を介して支持する支持部と
を備えた請求項1に記載の共振器。
【請求項7】
前記振動部は、前記絶縁部において両端間に電位差を生じさせたときに、前記入力交流信号の周波数に応じて縦波振動による共振振動を行うように構成され、
前記支持部は、前記縦波振動における節部分の少なくとも1つに対応する位置もしくはその近傍に配置されている
請求項6に記載の共振器。
【請求項8】
前記振動部は、前記絶縁部において両端間に電位差を生じさせたときに、前記入力交流信号の周波数に応じて縦波振動による共振振動を行うように構成され、
前記絶縁部は、前記縦波振動における節部分の少なくとも1つに対応する位置もしくはその近傍に配置されている
請求項1に記載の共振器。
【請求項9】
前記導体部は、交流信号の伝送方向に沿って、前記複数のブロックに分離されている
請求項1に記載の共振器。
【請求項10】
基板上に、導体部と、この導体部を複数のブロックに電気的に分離する複数の絶縁部とを有する振動部を形成する工程と、
前記導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、前記導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、前記複数の入力端子において前記入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより入力経路を切り換える入力切換部と、前記複数の出力端子において前記出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより出力経路を切り換える出力切換部とをそれぞれ形成する工程と
を含む共振器の製造方法。
【請求項11】
前記振動部を形成する工程は、
前記基板上に、導体パターンを有する導体パターン層を形成する工程と、
前記導体パターンの表面および側面に、絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層上に導体層を形成する工程と、
前記導体パターン層、前記絶縁層および前記導体層の表面を平坦化することにより、前記導体部および前記絶縁部を形成する工程と
を含む請求項10に記載の共振器の製造方法。
【請求項12】
共振振動を行う共振器を備え、
前記共振器は、
導体部と、この導体部を複数のブロックに電気的に分離するように設けられた複数の絶縁部とを有する振動部と、
前記導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、
前記導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、
前記複数の入力端子において、前記入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより、入力経路を切り換える入力切換部と、
前記複数の出力端子において、前記出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより、出力経路を切り換える出力切換部と
を備えた発振器。
【請求項13】
共振振動を行う共振器を備え、
前記共振器は、
導体部と、この導体部を複数のブロックに電気的に分離するように設けられた複数の絶縁部とを有する振動部と、
前記導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、
前記導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、
前記複数の入力端子において、前記入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより、入力経路を切り換える入力切換部と、
前記複数の出力端子において、前記出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより、出力経路を切り換える出力切換部と
を備えた電子機器。
【請求項1】
導体部と、この導体部を複数のブロックに電気的に分離するように設けられた複数の絶縁部とを有する振動部と、
前記導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、
前記導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、
前記複数の入力端子において、前記入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより、入力経路を切り換える入力切換部と、
前記複数の出力端子において、前記出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより、出力経路を切り換える出力切換部と
を備えた共振器。
【請求項2】
前記振動部は、前記絶縁部において両端間に電位差を生じさせたときに、前記入力交流信号の周波数に応じて縦波振動による共振振動を行うように構成されている
請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
前記導体部における複数のブロックが、
前記入力交流信号が入力される入力ブロックと、
前記出力交流信号が出力される出力ブロックと、
前記電位差を生じさせるための直流電圧が供給される電圧供給ブロックと
により構成されている
請求項2に記載の共振器。
【請求項4】
前記直流電圧を前記電圧供給ブロックへ供給するための複数の電圧供給端子と、
前記複数の電圧供給端子において、前記直流電圧が供給される電圧供給端子を切り換えることにより、電圧供給経路を切り換える電圧供給切換部と
を備え、
前記入力切換部、前記出力切換部および前記電圧供給切換部は、前記入力経路、前記出力経路および前記電圧供給経路をそれぞれ個別に切り換えることにより、前記導体部内における前記入力ブロック、前記出力ブロックおよび前記電圧供給ブロックの配置をそれぞれ切り換える
請求項3に記載の共振器。
【請求項5】
前記切換部は、複数の共振モードによる共振振動のうちのいずれを用いるかに応じて、切換動作を行う
請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の共振器。
【請求項6】
基板と、
前記振動部を前記基板の一面に対して間隙を介して支持する支持部と
を備えた請求項1に記載の共振器。
【請求項7】
前記振動部は、前記絶縁部において両端間に電位差を生じさせたときに、前記入力交流信号の周波数に応じて縦波振動による共振振動を行うように構成され、
前記支持部は、前記縦波振動における節部分の少なくとも1つに対応する位置もしくはその近傍に配置されている
請求項6に記載の共振器。
【請求項8】
前記振動部は、前記絶縁部において両端間に電位差を生じさせたときに、前記入力交流信号の周波数に応じて縦波振動による共振振動を行うように構成され、
前記絶縁部は、前記縦波振動における節部分の少なくとも1つに対応する位置もしくはその近傍に配置されている
請求項1に記載の共振器。
【請求項9】
前記導体部は、交流信号の伝送方向に沿って、前記複数のブロックに分離されている
請求項1に記載の共振器。
【請求項10】
基板上に、導体部と、この導体部を複数のブロックに電気的に分離する複数の絶縁部とを有する振動部を形成する工程と、
前記導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、前記導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、前記複数の入力端子において前記入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより入力経路を切り換える入力切換部と、前記複数の出力端子において前記出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより出力経路を切り換える出力切換部とをそれぞれ形成する工程と
を含む共振器の製造方法。
【請求項11】
前記振動部を形成する工程は、
前記基板上に、導体パターンを有する導体パターン層を形成する工程と、
前記導体パターンの表面および側面に、絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層上に導体層を形成する工程と、
前記導体パターン層、前記絶縁層および前記導体層の表面を平坦化することにより、前記導体部および前記絶縁部を形成する工程と
を含む請求項10に記載の共振器の製造方法。
【請求項12】
共振振動を行う共振器を備え、
前記共振器は、
導体部と、この導体部を複数のブロックに電気的に分離するように設けられた複数の絶縁部とを有する振動部と、
前記導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、
前記導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、
前記複数の入力端子において、前記入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより、入力経路を切り換える入力切換部と、
前記複数の出力端子において、前記出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより、出力経路を切り換える出力切換部と
を備えた発振器。
【請求項13】
共振振動を行う共振器を備え、
前記共振器は、
導体部と、この導体部を複数のブロックに電気的に分離するように設けられた複数の絶縁部とを有する振動部と、
前記導体部におけるブロックに対して入力交流信号を入力するための複数の入力端子と、
前記導体部におけるブロックから出力交流信号を出力するための複数の出力端子と、
前記複数の入力端子において、前記入力交流信号が入力される入力端子を切り換えることにより、入力経路を切り換える入力切換部と、
前記複数の出力端子において、前記出力交流信号が出力される出力端子を切り換えることにより、出力経路を切り換える出力切換部と
を備えた電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−4251(P2011−4251A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146651(P2009−146651)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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