説明

内燃機関の作動油路構造

【課題】内燃機関の油圧式テンショナおよび油圧式可変バルブタイミング機構に供給される作動油が流通する作動油路構造を工夫することにより、テンショナおよび可変バルブタイミング機構作動機構に空気を含んだ作動油が供給されることを抑制し、以てテンショナの張力付与機能および制振機能の向上、および可変バルブタイミング機構の動作性能の向上を図る。
【解決手段】作動油路構造は、テンショナ31および可変バルブタイミング機構50に導かれる作動油が流通する共用油路62から下方に分岐してテンショナ31に作動油を導くテンショナ油路63と、共用油路62から上方に分岐して可変バルブタイミング機構50に作動油を導く制御油路70と、可変バルブタイミング機構50での作動油の油圧を制御する油圧制御弁100とを有する。油圧制御弁100は、制御油路70の上流油路71,72からの作動油のリークを許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻掛け伝動機構の無端伝動帯に張力を付与する油圧式テンショナと、被作動部材を作動させる油圧式作動機構とを備える内燃機関において、前記テンショナおよび前記作動機構に供給される作動油が流通する作動油路構造に関する。そして、前記作動機構は、例えば動弁装置に備えられて機関弁のバルブ作動特性を変更可能なバルブ特性可変機構である。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、巻掛け伝動機構の無端伝動帯に張力を付与する油圧式テンショナに作動油を導くテンショナ油路が上下方向に延びていて、オイルポンプから供給されたオイルが、前記テンショナ油路の下端部に供給される作動油路構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、内燃機関の動弁装置に備えられるバルブ特性可変機構として、吸気弁の開閉時期を変更可能な可変バルブタイミング機構が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−144999号公報
【特許文献2】特許第3497462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の作動油路構造は、通常、複数の部材に渡って形成された油路を有すること、油圧を制御するために摺動する弁体を有する油圧制御弁(例えば、スプール弁)が使用されること、また内燃機関の運転および停止に応じて運転および停止される作動油供給源(例えば、オイルポンプ)から作動油が供給されることなどから、内燃機関の停止時に、油路内や作動油供給源内の作動油が微小なクリアランスからリークして、空気が侵入することがある。
そして、油路内に侵入した空気は、内燃機関の始動後に作動油に混入して油路を流通する。このため、テンショナ油路が、上下方向に延びていて、その下端部から作動油が流入し、その上端部を経てテンショナに供給される場合、作動油に混入した空気(以下、「混入空気」という。)もテンショナに流入するので、テンショナの油室内で混入空気が存在する分、テンショナが移動し易くなって、張力付与機能や、無端伝動帯の振動を抑制する制振機能の低下を招来する。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、油圧式テンショナおよび油圧式作動機構を備える内燃機関において、前記テンショナおよび前記作動機構に供給される作動油が流通する作動油路構造を工夫することにより、テンショナおよび作動機構に空気を含んだ作動油が供給されることを抑制し、以てテンショナの張力付与機能および制振機能の向上、および作動機構の動作性能の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、被動部材(21i,21e)を回転駆動する巻掛け伝動機構(25)の無端伝動帯(28)に張力を付与する油圧式テンショナ(31)と、被作動部材(21i)を作動させる油圧式作動機構(50)とを備える内燃機関に設けられて、前記テンショナ(31)および前記作動機構(50)に供給される作動油が流通する内燃機関の作動油路構造において、前記テンショナ(31)および前記作動機構(50)に導かれる作動油が流通するベース油路(62)と、前記ベース油路(62)から下方に分岐して前記テンショナ(31)に作動油を導くテンショナ油路(63)と、前記ベース油路(62)から上方に分岐して前記作動機構(50)に作動油を導く制御油路(70)と、前記制御油路(70)に配置されて前記作動機構(50)での作動油の油圧を制御する油圧制御弁(100)とを有し、前記制御油路(70)は、前記ベース油路(62)から前記油圧制御弁(100)まで上方のみに延びている上流油路(71,72)を有し、前記油圧制御弁(100)は、前記上流油路(71,72)からの作動油のリークを許容する内燃機関の作動油路構造である。
この請求項1記載の発明によれば、テンショナ油路はベース油路から下方に分岐していることから、ベース油路を流れる作動油に空気が混入している場合、混入している空気(すなわち、混入空気)はベース油路からテンショナ油路に流入し難くなるので、テンショナに混入空気が含まれた作動油が供給されることが抑制されて、無端伝動帯に対するテンショナの張力付与機能および制振機能が向上する。また、制御油路はベース油路から上方に分岐しているために、混入空気はベース油路から制御油路に流入し易いが、制御油路の上流油路は上方のみに向かって延びており、しかも油圧制御弁は上流油路の作動油がリークする構造であるため、上流油路内の混入空気は、ベース油路から油圧制御弁に向かって円滑に流れて油圧制御弁に達し、油圧制御弁においてリークする作動油と共に制御油路から外部空間に排出されることで、制御油路から混入空気が抜け易くなる。この結果、作動機構に混入空気が含まれた作動油が供給されることが抑制されて、被作動部材に対する作動機構の動作性能が向上する。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の内燃機関の作動油路構造において、前記テンショナ油路(63)および前記制御油路(70)は、前記ベース油路(62)の下流端部(62b)から分岐しているものである。
この請求項2記載の事項によれば、ベース油路の混入空気は、ベース油路の下流端部において上方に分岐する制御油路に流入して、ベース油路から流出し易くなるので、ベース油路に残留する混入空気を速やかに減少できる。この結果、ベース油路から分岐するテンショナ油路および制御油路での混入空気を速やかに減少できる。
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の内燃機関の作動油路構造において、前記ベース油路(62)に連通する下端部(71a)と前記油圧制御弁(100)に連通する上端部(72b)とを有する前記上流油路(71,72)は、前記下端部(71a)から前記上端部(72b)まで上方にほぼ一直線状に延びている通路(73)であるか、または、鉛直方向で第1下端部(71a)から上端部(71b)に近づくにつれて、水平方向で前記上流油路(71,72)の前記上端部(72b)から遠ざかることなく前記第1下端部(71a)から上方にほぼ一直線状に延びている第1直線油路(71)と、鉛直方向で下端部(72a)から前記上流油路(71,72)の前記上端部(72b)に近づくにつれて、前記第1直線油路(71)の前記上端部(71b)から前記上流油路(71,72)の前記上端部(72b)まで水平方向で前記上流油路(71,72)の前記上端部(72b)から遠ざかることなく上方にほぼ一直線状に延びている第2直線油路(72)とから構成されるものである。
この請求項3記載の事項によれば、上流油路がほぼ一直線状またはほぼ一直線に近い形状になるので、上流油路が複雑に屈曲する場合に比べて、混入空気が制御油路内に滞留することが抑制される。また、上流油路が機械加工により形成される場合に、発生した切り粉の除去作業が容易になって、残留する切り粉が減少して、油路や油圧制御弁に設けられるフィルタの目詰まりによる圧力損失を減少でき、さらにはフィルタの個数削減または不要化により、コスト削減が可能になる。
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の内燃機関の作動油路構造において、前記制御油路(70)は、前記油圧制御弁(100)を境にして、前記ベース油路(62)と前記油圧制御弁(100)との間に位置する前記上流油路(71,72)と、前記油圧制御弁(100)と前記作動機構(50)との間に位置する下流油路(80,90)とを有し、前記油圧制御弁(100)は、弁ボディ(101)に摺動可能に嵌合して作動軸線(La)に平行な作動軸線方向に移動可能な弁体(102)を備え、前記下流油路(80,90)は、前記上流油路(71,72)が前記油圧制御弁(100)に連通する位置に対して、前記作動軸線方向でオフセットした位置で前記油圧制御弁(100)に連通するものである。
この請求項4記載の事項によれば、油圧制御弁の弁体が作動軸線方向に移動する際に、弁ボディと摺動する弁体との僅かなクリアランスを通じて、作動油と共に混入空気が排出されるので、制御油路から混入空気が抜け易くなり、作動機構に混入空気が含まれた作動油が供給されることが抑制される。
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項記載の内燃機関の作動油路構造において、前記制御油路(70)は、前記油圧制御弁(100)よりも下流に、摺動部材(21i)と前記摺動部材(21i)を摺動可能に支持する支持部材(41)との間に形成されて前記摺動部材(21i)および前記支持部材(41)の摺接面(Pb)を作動油で潤滑するための潤滑用油路(84)を有し、前記制御油路(70)は、前記油圧制御弁(100)から前記潤滑用油路(84)まで上方に一直線状に延びている油路(81)を有するものである。
この請求項5記載の事項によれば、混入空気が油圧制御弁を通って油路に流入したとき、該油路は一直線状に延びて潤滑用油路に連通しているので、潤滑用油路に流入し易い。そして、潤滑用油路に流入した混入空気は、摺動可能であることで僅かなクリアランスが形成されている摺接面から抜け易いので、作動機構に混入空気が含まれた作動油が供給されることが抑制される。
請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項記載の内燃機関の作動油路構造において、前記作動機構(50)は、前記被作動部材である動弁カム軸(21i)を制御して機関弁(12)の開閉時期を制御する可変バルブタイミング機構(50)であるものである。
この請求項6記載の事項によれば、テンショナと可変バルブタイミング機構とに供給されるベース油路からの作動油に混入空気が含まれている場合にも、テンショナと同様に、可変バルブタイミング機構に混入空気が含まれた作動油が供給されることが抑制される。この結果、動弁カム軸に対する可変バルブタイミング機構の動作性能が向上して、機関弁の開閉時期の制御応答性や制御精度が向上する。
【発明の効果】
【0007】
油圧式テンショナおよび油圧式作動機構を備える内燃機関の作動油路構造において、テンショナおよび作動機構に空気を含んだ作動油が供給されることが抑制されるので、テンショナの張力付与機能および制振機能を向上させ、作動機構の動作性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明が適用された作動油路構造が設けられた内燃機関を、カム軸の軸方向から見たときの要部の図であり、一部が断面で示されている。
【図2】図1の内燃機関をシリンダ軸線方向から見たときの要部の図である。
【図3】図2の概略III−III線での要部断面図であり、シリンダブロックについては、カム軸の回転中心線に直交すると共にシリンダ軸線を含む平面での断面図である。
【図4】図2の概略IV−IV線での要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図1〜図4を参照して説明する。
図1,図3を参照すると、本発明が適用された内燃機関Eは、ピストン5が往復運動可能に嵌合する複数のシリンダ1aが直列に配列されて一体に設けられたシリンダブロック1と、該シリンダブロック1の下端部に結合されるロアブロック2と、シリンダブロック1の上端部に結合されるシリンダヘッド3および該シリンダヘッド3の上端部に結合されるヘッドカバー4から構成されるエンジンヘッドと、潤滑用のオイルが貯留されるオイルパンとから構成されるエンジン本体を備え、さらに、各ピストン5にコンロッド6を介して連結されるクランク軸7を備える多気筒の4ストローク内燃機関である。
クランク軸7はシリンダブロック1の下部1bおよびロアブロック2に回転可能に支持される。そして、シリンダブロック1の下部1b、ロアブロック2および前記オイルパンは、クランク軸7が収容されるクランク室を形成するクランクケースを構成する。そして、シリンダブロック1、ロアブロック2および前記オイルパンはエンジンブロックを構成する。
また、内燃機関Eは、この実施形態では、シリンダ軸線Lc(したがって、シリンダ軸線Lcに平行なシリンダ軸線方向)が鉛直方向(図1参照)に対して所定の傾斜角で傾斜するように、搭載対象としての車両に傾斜して搭載される。
【0010】
なお、この明細書および特許請求の範囲において、上下方向は鉛直方向であり、上方には、鉛直上方(すなわち、鉛直方向に平行な方向での上方)および斜め上方(すなわち、鉛直方向に交差する方向での上方)が含まれ、同様に下方には、鉛直下方(すなわち、鉛直方向に平行な方向での下方)および斜め下方(すなわち、鉛直方向に交差する方向での下方)が含まれるものとする。
【0011】
図1〜図3を参照すると、シリンダヘッド3には、シリンダ1a毎に、ピストン5とシリンダヘッド3との間に形成された燃焼室8に開口する吸気ポート10および排気ポート11をそれぞれ開閉する機関弁としての吸気弁12および排気弁13が設けられる。
内燃機関Eは、シリンダヘッド3およびヘッドカバー4により形成される動弁室9内に配置されると共に吸気弁12および排気弁13を開閉駆動する動弁装置20と、吸気ポート10を介して吸入空気を燃焼室8に導く吸気装置14と、吸入空気と混合して混合気を形成する燃料を噴射する燃料噴射弁(図示されず)と、燃焼室8内での混合気の燃焼により発生した燃焼ガスを排気ガスとして排気ポート11を介して内燃機関Eの外部に導く排気装置15とを備える。
そして、ピストン5は、燃焼室8内の混合気が点火栓16により点火されて燃焼して発生する燃焼ガスの圧力により駆動されて往復運動し、コンロッド6を介してクランク軸7を回転駆動する。点火栓16は、シリンダヘッド3に設けられた保持部18に保持される円筒状の収容筒17に収容される。
【0012】
動弁装置20は、動弁カムとしての吸気カム22iを有する第1カム軸としての吸気カム軸21iおよび動弁カムとしての排気カム22eを有する第2カム軸としての排気カム軸21eから構成される動弁カム軸と、吸気弁12および排気弁13にそれぞれ当接すると共に吸気カム22iおよび排気カム22eによりそれぞれ駆動されて吸気弁12および排気弁13をそれぞれ開閉するカムフォロアである吸気ロッカアーム23iおよび排気ロッカアーム23eと、制御装置120(図1参照)により制御される油圧式アクチュエータである油圧式作動機構としての可変バルブタイミング機構50とを備える。可変バルブタイミング機構50は、吸気弁12のバルブ作動特性としての開閉時期を変更可能に制御するバルブ特性可変機構である。
【0013】
内燃機関Eは、さらに、被動部材としての各カム軸21i,21e(したがって、各カム22i,22e)をクランク軸7の回転と同期して回転駆動するバルブタイミング用の巻掛け伝動機構25と、巻掛け伝動機構25のチェーン28に張力を付与するテンショナ装置30とを備える。
巻掛け伝動機構25は、駆動軸としてのクランク軸7に設けられた駆動回転体である駆動スプロケット26と、吸気カム軸21iに可変バルブタイミング機構50を介して設けられた被動回転体としての被動スプロケット27iと、排気カム軸21eに設けられた被動回転体としての被動スプロケット27eと、これらスプロケット26,27i,27eに掛け渡された無端伝動帯としての無端のチェーン28とを備え、各カム軸21i,21eをクランク軸7の1/2の回転速度で回転駆動する。
【0014】
巻掛け伝動機構25は、カム軸21i,21eの回転中心線Li,Leに平行な方向である軸方向での一方向側におけるシリンダヘッド3およびシリンダブロック1のそれぞれの側壁1w,3wと、それら側壁1w,3wに結合されるカバー19と、ヘッドカバー4とにより形成される伝動室としてのチェーン室29内に配置される。
【0015】
図1を参照すると、テンショナ装置30は、側壁1wに一体成形されて設けられた取付座33のネジ孔33bにねじ込まれるボルトで取り付けられる油圧式アクチュエータとしての油圧式テンショナ31と、側壁3wに揺動可能に支持されると共にテンショナ31に付勢されてチェーン28に押し付けられる案内部材としてのテンショナシュー32とを備える。テンショナ31は、後述する分岐部64よりも下方に配置され、側壁3wに設けられた取付座34に枢着されるテンショナシュー32の支点部32aは、テンショナ31よりも上方に配置される。
【0016】
それ自体周知のテンショナ31は、取付座33にボルトにより固定されるボディ31aと、ボディ31a内に収容されて付勢方向に進退可能な押圧部材としてのプランジャ31bとを備える。プランジャ31bは、張力を付与するテンショナバネにより付勢されると共にボディ31aとプランジャ31bとの協働により形成される油室内の作動油の圧力により、テンショナシュー32を介してチェーン28に張力を付与する。
【0017】
図1〜図3を参照すると、各カム軸21i,21eは、シリンダヘッド3に固定されて一体に設けられるカムホルダに回転可能に支持される。前記カムホルダは、軸方向に間隔を置いて配置された複数の支持部材としての軸受部材40から構成される。
各カム軸21i,21eをそのジャーナル24i,24eにて回転可能に支持する各軸受部材40は、シリンダヘッド3に一体成形されて設けられた第1軸受部としての下軸受部42と、下軸受部42に結合手段としてのボルト49により結合される第2軸受部としての上軸受部43とから構成される。下軸受部42には、ボルト49がねじ込まれるネジ孔42cが設けられている。
【0018】
吸気カム軸21iを支持する前記複数の軸受部材40のうちで、軸方向での前記一方向側の端部に位置して軸方向で可変バルブタイミング機構50に隣接する特定軸受部材としての端部軸受部材41には、可変バルブタイミング機構50を作動させるための作動油が流通する油路81,84,91,94が設けられる。軸受部材41は、下軸受部44と上軸受部45とから構成される。
また、吸気カム軸21iを支持する残りの軸受部材40および排気カム軸21eを支持する全ての軸受部材40には、摺接するジャーナル24i,24eとの間を潤滑するオイルが導かれる油溝(図示されず)が設けられる。
【0019】
ジャーナル24i,24eの外周面24aが摺接する軸受面42a,43aをそれぞれ有する下軸受部42および上軸受部43は、それぞれの合わせ面42b,43b同士が互いに接触した状態でボルト49により締結されて一体化される。それゆえ、各カム軸21i,21eは、軸受部材40に摺動可能に支持される摺動部材である。また、軸受部材40は、各合わせ面42b,43bにより構成される分割面Paにより下軸受部42および上軸受部43の2つに分割される。
【0020】
吸気弁12の開閉時期を最遅角時期および最進角時期の間で連続的に変更することが可能な可変バルブタイミング機構50は、巻掛け伝動機構25と吸気カム軸21iとの間での相対回転を生じさせる周知の装置であり、巻掛け伝動機構25からカム軸21iへの回転駆動力の伝達経路上で被動スプロケット27iとカム軸21iとの間に設けられて、クランク軸7に対するカム軸21i、したがってカム22iの位相を機関運転状態に応じて制御する。それゆえ、カム軸21iは、可変バルブタイミング機構50によりその作動が制御される被作動部材である。
【0021】
カム軸21iにおいて軸受部材41から軸方向での前記一方向側に突出する軸端部21i1に設けられる可変バルブタイミング機構50は、互いに相対回転可能な駆動側回転体51および被動側回転体52を備える。駆動側回転体51は被動スプロケット27iと一体に回転し、被動側回転体52はボルト55により結合されてカム軸21iと一体に回転する。カム軸21iの周方向で両回転体51,52の間には、両回転体51,52により、それぞれ1以上の、ここでは複数の第1油室としての進角油室53および第2油室としての遅角油室54が周方向に間隔を置いて形成される。
【0022】
次に、図1,図2,図4を参照して、内燃機関Eに設けられて、可変バルブタイミング機構50を作動させる作動油が流通する作動油路構造について説明する。
図1を参照すると、内燃機関Eに設けられる潤滑系統を構成すると共にクランク軸7の動力で駆動されるオイルポンプ60は、内燃機関Eのクランク軸7やピストン5(図3参照)などの潤滑箇所にオイルを供給する一方で、吐出したオイルの一部をテンショナ31および可変バルブタイミング機構50の作動油として供給する作動油供給源である。
【0023】
前記作動油路構造は、内燃機関Eの運転時に作動油を供給すると共に停止時に作動油の供給を停止するオイルポンプ60と、オイルポンプ60からのオイルが供給されるメインギャラリ61と、メインギャラリ61のオイルを作動油としてテンショナ31および可変バルブタイミング機構50に供給する給油路と、可変バルブタイミング機構50の進角油室53および遅角油室54での作動油の油圧を制御する油圧制御弁100とを有して構成される。
【0024】
前記クランク室内に配置されるオイルポンプ60は、例えばトロコイドポンプから構成されて、オイル貯留部である前記オイルパンから汲み上げたオイルをメインギャラリ61に吐出する。前記潤滑系統を構成するメインギャラリ61は、シリンダブロック1に設けられて軸方向に一直線状に延びている。そして、メインギャラリ61からは、内燃機関Eの多数の潤滑箇所にオイルを供給する多数の分岐油路が分岐している。
【0025】
前記給油路は、テンショナ31と可変バルブタイミング機構50とに導かれる作動油が一緒に流通するベース油路としての共用油路62と、共用油路62から下方に分岐してテンショナ31に作動油を導くテンショナ油路63と、共用油路62から上方に分岐して可変バルブタイミング機構50に作動油を導く制御油路70とから構成される。
【0026】
シリンダブロック1に設けられた共用油路62は、軸方向から見たとき(以下、「軸方向視」という。)、シリンダ軸線方向にほぼ直交する直交方向にメインギャラリ61から一直線状に延びていて(図1参照)、上流端部62aでメインギャラリ61に開口し、下流端部62bで行き止まりとなる。下流端部62bは、テンショナ油路63と制御油路70とが分岐する1つの分岐部64であり、共用油路62を上流端部62aから流れてきた作動油は、分岐部64においてテンショナ油路63と制御油路70とに分流する。
なお、「ほぼ」との表現は、「ほぼ」との修飾語がない場合を含むと共に、「ほぼ」との修飾語がない場合とは厳密には一致しないものの、「ほぼ」との修飾語がない場合と比べて作用効果に関して有意の差異がない範囲を意味する。
【0027】
シリンダブロック1に設けられて上流端部63aで分岐部64に開口するテンショナ油路63は、鉛直方向に対して斜め下方に一直線状に延びていて、取付座33に設けられた下流端部63bにおいて取付座33の、ボディ31aが取り付けられる取付面33aに開口する。そして、テンショナ油路63の作動油は、取付座33において下流端部の出口63cからボディ31aに設けられた油路を通じてテンショナ31の前記油室に導かれる。別の例として、テンショナ油路63が分岐部64から鉛直下方に一直線状に延びていてもよい。
【0028】
図1,図2,図4を参照すると、油圧制御弁100が配置される制御油路70は、油圧制御弁100を境にして、共用油路62と油圧制御弁100との間に位置すると共に共用油路62から油圧制御弁100まで上方のみに延びている上流油路71,72と、油圧制御弁100と可変バルブタイミング機構50の進角油室53および遅角油室54(図2参照)との間にそれぞれ位置する第1下流油路としての進角油路80および第2下流油路としての遅角油路90とを有する。
【0029】
上流油路71,72は、軸方向視で、分岐部64に開口する上流端部である下端部71aから特定方向としてのシリンダ軸線方向にほぼ平行に延びていて、下流端部である上端部71bにおいてシリンダブロック1の、シリンダヘッド3との合わせ面1cに開口する第1上流油路71と、シリンダヘッド3の、シリンダブロック1との合わせ面3cに開口する上流端部である下端部72aを有すると共に油圧制御弁100の入口ポート110に開口する下流端部である上端部72bを有する第2上流油路72とを有する。
共用油路62に連通する下端部71aと油圧制御弁100に連通する上端部72bとを有する上流油路71,72は、上端部71bおよび下端部72aとが合わせ面1c,3cで接続して形成される屈曲部において屈曲している。
【0030】
第1上流油路71は、上下方向で第1下端部71aから第2上端部71bに近づくにつれて、水平方向で上端部72bから遠ざかることなく下端部71aから上方にほぼ一直線状に延びている第1直線油路である。テンショナ油路63および第1上流油路71は、ほぼ一直線状の通路を構成し、共用油路62とほぼ直交する(図1参照)。
また、第2上流油路72は、上下方向で下端部72aから上端部72bに近づくにつれて、上端部71bおよび下端部72aから上端部72bまで水平方向で該上端部72bから遠ざかることなく上方にほぼ一直線状に延びている第2直線油路である。
【0031】
別の例として、上流油路71,72は、下端部71aから上端部72bまで第1,第2上流油路71,72の両者が上方にほぼ一直線状に延びている通路73(図1に太い二点鎖線で示される。)、換言すれば上流油路71,72全体と交わる1つの直線が存在するような通路であってもよい。
さらに、別の例として、第1上流油路71が共用油路62に対して、その劣角が鈍角となるように(例えば、通路73のように。)形成されてもよく、その場合には、共用油路62の混入空気が制御油路70に流入し易くなって、テンショナ油路63に混入空気が含まれた作動油が供給されることが一層抑制される。
【0032】
第2上流油路72と油圧制御弁100を介して連通している進角油路80および遅角油路90のそれぞれは、油圧制御弁100に上流端部で連通する第1油路としての接続油路81,91と、接続油路81,91に連通する第2油路としてのジャーナル油路84,94と、ジャーナル油路84,94に連通する第3油路としての軸内油路85,95とから構成される。ジャーナル油路84,94は、下軸受部44の軸受面44a、上軸受部45の軸受面45aおよび外周面24a(図2も参照)から構成される摺接面Pbを潤滑する潤滑用油路を兼ねる。
そして、第1,第2上流油路71,72、接続油路81および後述する上流側接続油路92は、例えばドリルによる切削などの機械加工により形成される。
【0033】
図4を参照すると、油圧制御弁100は、側壁3wに設けられた収容孔3dに収容された状態で、シリンダヘッド3にブラケット108を介してボルト109により着脱可能に取り付けられる。スプール弁から構成される油圧制御弁100は、収容孔3dに挿入される円筒状の弁ボディ101と、弁ボディ101の内部に摺動可能に嵌合する弁体である円柱状のスプール102と、弁ボディ101に固定されてスプール102を駆動する駆動部としてのソレノイド103と、内燃機関Eの停止時にソレノイド103が消磁されたときにスプール102が初期位置を占めるように付勢する戻しバネ104とを備える。
ここで、弁ボディ101およびスプール102は、油圧制御弁100において、第2上流油路72の上端部72bおよび各接続油路81,91の上流端部81a,92aが連通する弁部を構成する。
【0034】
制御装置120(図1参照)は、内燃機関Eの機関状態(例えば、機関回転速度)を検出する機関状態検出手段と、該機関状態検出手段からの検出信号が入力される電子制御ユニットとを備え、前記機関状態検出手段により検出された機関状態に基づいて判定される機関運転状態に応じて、油圧制御弁100を制御する。
内燃機関Eが備える制御装置120により制御されて作動するソレノイド103は、スプール102の端部に当接する駆動部材103aを駆動して、スプール102を戻しバネ104の付勢力に抗してスプール102の作動軸線La(油圧制御弁100の中心軸線でもある。)に平行な方向である作動軸線方向に無段階に移動させる。油圧制御弁100は、作動軸線Laがカム軸21iの回転中心線Liに直交するカム直交平面上にほぼ位置するように配置される(図2参照)。
【0035】
弁ボディ101には、第2上流油路72の上端部72bが開口する入口ポート110と、第1接続油路81および第2接続油路91にそれぞれ開口する第1出口ポートとしての進角ポート111および第2出口ポートとしての遅角ポート112と、1対のドレンポート113,114とが設けられる。一方、スプール102には、中央グルーブ115と、作動軸線方向で中央グルーブ115の両側に位置する1対のランド118,119と、両ランド118,119の両側に位置する1対の端部グルーブ116,117とが設けられる。
【0036】
油圧制御弁100は、機関停止時に図4に示される初期位置を占める。この初期位置では、スプール102を付勢するソレノイド103の付勢力が消失するため、スプール102が戻しバネ104により付勢されて、進角ポート111が入口ポート110に対して遮断された状態でドレンポート113と連通し、遅角ポート112がドレンポート114に対して遮断された状態で入口ポート110と連通する。
【0037】
そして、弁ボディ101とスプール102との間には、スプール102の摺動を可能とするために、作動軸線Laを中心とする径方向での微小なクリアランスが形成されている。このため、油圧制御弁100は、このクリアランスを通じて、作動軸線方向で隣接する各ポート110,111;110,112;111,113;112,114間において、可変バルブタイミング機構50の作動に影響を与えない程度のリーク量で、作動油のリークを許容する。
【0038】
併せて図1,図2を参照すると、弁ボディ101の露出部としての先端部101aは、収容孔3dを貫通して、動弁室915内に露出した状態で突出している。先端部101aに設けられたドレンポート113は、ドレン油路を介することなく動弁室9に直接開口して、進角油室53から排出された作動油を動弁室9と、側壁3wに設けられた開口部3hを通じてチェーン室29内に流出させる。一方、ドレンポート114は、側壁3wに設けられてチェーン室29Caに開口するドレン油路3kを通じて遅角油室54から排出された作動油をチェーン室29内に流出させる。
【0039】
油圧制御弁100と可変バルブタイミング機構50の進角油室53との間で作動油を流通させる進角油路80において、接続油路81は、進角ポート111から上方に、かつ作動軸線Laに直交する方向に一直線状に延びていて、ジャーナル油路84に開口する。ジャーナル油路84は、両軸受面44a,45aにそれぞれ設けられた半円環状溝と外周面24aとにより形成される環状溝により構成され、軸内油路85は、カム軸21iに形成されて進角油室53に連通する。
【0040】
同様に、油圧制御弁100と可変バルブタイミング機構50の遅角油室54との間で作動油を流通させる遅角油路90において、ジャーナル油路94と油圧制御弁100との間で作動油を流通させる接続油路91は、遅角ポート112から延びてジャーナル油路94に開口する。ジャーナル油路94は、両軸受面44a,45aにそれぞれ設けられた半円環状溝と外周面24aとにより形成される環状溝により形成され、ジャーナル油路94と遅角油室54との間で作動油を流通させる軸内油路95は、カム軸21iに形成されて遅角油室54に連通する。
【0041】
接続油路91は、各合わせ面44b,45bに設けられた溝により形成されてジャーナル油路94に開口する下流側接続油路93と、下流側接続油路93と油圧制御弁100との間で作動油を流通させる上流側接続油路92とから構成される。上流側接続油路92は、下軸受部44および側壁3wに渡って設けられて遅角ポート112から上方に、かつ軸方向視で作動軸線Laに直交する方向に一直線状に延びていて、合わせ面44bにおいて上流側接続油路92に対してほぼ直角に屈曲してシリンダ軸線方向にほぼ直交する方向に延びている下流側接続油路93に開口する。
そして、第1接続油路81の通路長は、上流側接続油路92の通路長と下流側接続油路93の通路長との合計である接続油路91の通路長よりも短く、さらに上流側接続油路92の通路長よりも短い。
【0042】
進角油路80および遅角油路90は、上流油路71,72が油圧制御弁100に連通する入口ポート110の位置に対して、作動軸線方向においてオフセットした位置で、より具体的には進角ポート111および遅角ポート112に対応して入口ポート110の位置に対して作動軸線方向での両側にそれぞれオフセットした位置で油圧制御弁100に連通する。
【0043】
そして、内燃機関Eが運転を開始すると、クランク軸7により駆動されるオイルポンプ60は、メインギャラリ61にオイルを供給する。メインギャラリ61のオイルの一部は、作動油として共用油路62に流入した後に、分岐部64においてテンショナ油路63および制御油路70にそれぞれ上下に分流して、テンショナ31および可変バルブタイミング機構50にそれぞれ導かれる。
制御油路70においては、制御装置120が制御する油圧制御弁100により、機関運転状態に応じて、進角油室53および遅角油室54に対して進角油路90および遅角油路90を通じて作動油が給排され、両回転体51,52が相対回転することで、クランク軸7に対するカム軸21iの位相、したがって吸気弁12の開閉時期が進角側または遅角側に変更される。
また、油圧制御弁100により、各油室53,54に対する作動油の給排が行われることなく、作動油が各油室53,54に閉じこめられることにより、両回転体51,52が相対回転することなく一体に回転して、クランク軸7に対するカム軸21iの位相、したがって吸気弁12の開閉時期が保持される。
【0044】
また、軸受面42a,43a(44a,45a)と外周面24aとの間に形成される微小なクリアランスは、カム軸21i,21eを回転可能に支持する必要性から、下軸受部42および上軸受部43がボルト49により締め付けられる軸受部材40の分割面Pa(すなわち、両合わせ面42b,43b(44b,45b)での微小なクリアランスに比べて大きい。このため、機関停止時にオイルポンプ60内に侵入した空気や、上流油路71,72を形成する部材間の微小なクリアランスから上流油路71,72内に侵入した空気は、オイルポンプ60による作動油の供給開始時に、下流側接続油路93に比べてジャーナル油路84,94から排出されやすい。そして、第1ジャーナル油路84内に侵入した空気は、接続油路81がジャーナル油路84に直接接続されていることにより、接続油路91に比べて圧力損失が小さい作動油により、一層排出されやすい。このため、進角油路80には、遅角油路90に比べて、空気の混入が少ない作動油が供給されるので、進角側への可変バルブタイミング機構50の作動応答性が向上する。
【0045】
機関停止時には、オイルポンプ60が停止して、メインギャラリ61へのオイルの供給が停止し、油圧制御弁100は図4に示される初期位置を占める。このため、進角油室53および進角油路80の作動油は、進角ポート111およびドレンポート113を通じて、時間の経過と共に、前記作動油路構造に対する外部空間であるドレン空間としての動弁室9に流出する。一方、遅角油室54および遅角油路90の作動油は、遅角油路90が遅角ポート112および入口ポート110を通じてメインギャラリ61に連なる上流油路71,72と連通した状態にあり、遅角油路90および上流油路71,72を形成する部材間の僅かなクリアランスから徐々に流出する。
【0046】
次に、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
テンショナ31および可変バルブタイミング機構50に供給される作動油が流通する内燃機関Eの前記作動油路構造は、テンショナ31および可変バルブタイミング機構50に導かれる作動油が流通する共用油路62と、共用油路62から下方に分岐してテンショナ31に作動油を導くテンショナ油路63と、共用油路62から上方に分岐して可変バルブタイミング機構50に作動油を導く制御油路70と、制御油路70に配置されて可変バルブタイミング機構50での作動油の油圧を制御する油圧制御弁100とを有し、制御油路70は、共用油路62から油圧制御弁100まで上方のみに延びている上流油路71,72を有し、油圧制御弁100は、上流油路71,72からの作動油のリークを許容する。
この作動油路構造により、テンショナ油路63は共用油路62から下方に分岐していることから、共用油路62を流れる作動油に空気が混入している場合、混入している空気(すなわち、混入空気)は共用油路62からテンショナ油路63に流入し難くなるので、テンショナ31に混入空気が含まれた作動油が供給されることが抑制されて、チェーン28に対するテンショナ31の張力付与機能および制振機能が向上する。また、制御油路70は共用油路62から上方に分岐しているために、混入空気は共用油路62から制御油路70に流入し易いが、制御油路70の上流油路71,72は上方のみに向かって延びており、しかも油圧制御弁100は上流油路71,72の作動油がリークする構造であるため、上流油路71,72内の混入空気は、共用油路62から油圧制御弁100に向かって円滑に流れて油圧制御弁100に達し、油圧制御弁100においてリークする作動油と共に制御油路70から外部空間としての動弁室9に排出されることで、制御油路70から混入空気が抜け易くなる。この結果、可変バルブタイミング機構50に混入空気が含まれた作動油が供給されることが抑制されて、カム軸21i,21eに対する可変バルブタイミング機構50の動作性能が向上して、吸気弁12の開閉時期の制御応答性や制御精度が向上する。
【0047】
テンショナ油路63および制御油路70は、共用油路62の下流端部62bから分岐していることにより、共用油路62の混入空気は、共用油路62の下流端部62bにおいて上方に分岐する制御油路70に流入して、共用油路62から流出し易くなるので、共用油路62に残留する混入空気を速やかに減少できる。この結果、共用油路62から分岐するテンショナ油路63および制御油路70での混入空気を速やかに減少できる。
【0048】
共用油路62に連通する下端部71aと油圧制御弁100に連通する上端部72bとを有する上流油路71,72は、上下方向で下端部71aから上端部72bに近づくにつれて、水平方向で上端部72bから遠ざかることなく下端部71aから上方にほぼ一直線状に延びている第1上流油路71と、上下方向で上端部71bおよび下端部72aから上端部72bに近づくにつれて、上端部71bおよび下端部72aから上端部72bまで水平方向で上端部72bから遠ざかることなく上方にほぼ一直線状に延びている第2上流油路72とから構成されるか、または、上流油路71,72が下端部71aから上端部72bまで上方にほぼ一直線状に延びている通路73であることにより、上流油路71,72がほぼ一直線に近い形状またはほぼ一直線状になるので、上流油路71,72が複雑に屈曲する場合に比べて、混入空気が制御油路70内に滞留することが抑制される。また、上流油路71,72が機械加工により形成される場合に、発生した切り粉の除去作業が容易になって、残留する切り粉が減少して、油路や油圧制御弁100に設けられるフィルタの目詰まりによる圧力損失を減少でき、さらにはフィルタの個数削減または不要化により、コスト削減が可能になる。
【0049】
制御油路70は、油圧制御弁100を境にして、共用油路62と油圧制御弁100との間に位置する上流油路71,72と、油圧制御弁100と可変バルブタイミング機構50との間に位置する進角油路80および遅角油路90とを有し、油圧制御弁100は、弁ボディ101に摺動可能に嵌合して作動軸線Laに平行な作動軸線方向に移動可能なすスプール102を備え、進角油路80および遅角油路90は、上流油路71,72が油圧制御弁100に連通する位置に対して、作動軸線方向でオフセットした位置で油圧制御弁100に連通する。
この構造により、油圧制御弁100の弁体が作動軸線方向に移動する際に、弁ボディ101と摺動するスプール102との僅かなクリアランスを通じて、作動油と共に混入空気が排出されるので、制御油路70から混入空気が抜け易くなり、可変バルブタイミング機構50に混入空気が含まれた作動油が供給されることが抑制される。
【0050】
制御油路70は、油圧制御弁100よりも下流に、カム軸21iと該カム軸21iのジャーナル24iを摺動可能に支持する軸受部材41との間に形成されてジャーナル24iおよび軸受部材41の摺接面Pbである外周面24aおよび軸受面44b,45bを作動油で潤滑するための潤滑用油路であるジャーナル油路84を有し、制御油路70は、油圧制御弁100からジャーナル油路84まで上方に一直線状に延びている油路である接続油路81を有する。
この構造により、混入空気が油圧制御弁100を通って接続油路81に流入したとき、該接続油路81は一直線状に延びてジャーナル油路84に連通しているので、ジャーナル油路84に流入し易い。そして、ジャーナル油路84に流入した混入空気は、摺動可能であることで僅かなクリアランスが形成されている摺接面Pbから抜け易いので、可変バルブタイミング機構50に混入空気が含まれた作動油が供給されることが抑制される。
【0051】
以下、前述した実施形態の一部の構成を変更した実施形態について、変更した構成に関して説明する。
カムホルダの軸受部材の下軸受部は、シリンダヘッドとは別個の部材により構成され、シリンダヘッドに結合手段(例えば、ボルト)により固定されて一体に設けられてもよい。
可変バルブタイミング機構50は、吸気カム軸および排気カム軸、または排気カム軸のみに設けられてもよい。
動弁装置の動弁カム軸は、吸気カムおよび排気カムを有する単一のカム軸であってもよい。
テンショナ油路63および制御油路70の第1上流油路71は、共用油路62において、メインギャラリ61からの、共用油路62に沿った距離が異なる位置で分岐していてもよく、また分岐部64は、下流端部62bでなくてもよく、上流端部62aと下流端部62bとの間であってもよい。
バルブ特性可変機構は、動弁装置が備えるカムフォロアとしての複数のロッカアーム同士の連結および連結解除を行う連結部材を被作動部材として、吸気弁のリフト量を制御する連結切換機構であってもよい。
油圧式作動機構は、バルブ特性可変機構以外の油圧式の機構であってもよく、また下流油路は1つであってもよい。
ベース油路は、メインギャラリ61であってもよく、したがって共用油路62が設けられることなく、メインギャラリ61からテンショナ油路63および制御油路70が直接分岐していてもよい。
巻掛け伝動機構は、無端伝動帯として無端のベルトを備えるものであってもよい。
内燃機関は、圧縮点火式機関であってもよく、さらに、V型機関、または1つのシリンダを備える単気筒機関であってもよい。
内燃機関が搭載される対象は、車両以外の機械、例えば、鉛直方向を指向するクランク軸を備える船外機等の船舶推進装置、または発電装置であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
20 動弁装置
21i カム軸
25 巻掛け伝動機構
31 テンショナ
50 可変バルブタイミング機構
61 メインギャラリ
62 共用油路
63 テンショナ油路、
70 制御油路
71,72 上流油路
80 進角油路
90 遅角油路
100 油圧制御弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被動部材を回転駆動する巻掛け伝動機構の無端伝動帯に張力を付与する油圧式テンショナと、被作動部材を作動させる油圧式作動機構とを備える内燃機関に設けられて、前記テンショナおよび前記作動機構に供給される作動油が流通する内燃機関の作動油路構造において、
前記テンショナおよび前記作動機構に導かれる作動油が流通するベース油路と、前記ベース油路から下方に分岐して前記テンショナに作動油を導くテンショナ油路と、前記ベース油路から上方に分岐して前記作動機構に作動油を導く制御油路と、前記制御油路に配置されて前記作動機構での作動油の油圧を制御する油圧制御弁とを有し、
前記制御油路は、前記ベース油路から前記油圧制御弁まで上方のみに延びている上流油路を有し、
前記油圧制御弁は、前記上流油路からの作動油のリークを許容することを特徴とする内燃機関の作動油路構造。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関の作動油路構造において、
前記テンショナ油路および前記制御油路は、前記ベース油路の下流端部から分岐していることを特徴とする内燃機関の作動油路構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の内燃機関の作動油路構造において、
前記ベース油路に連通する下端部と前記油圧制御弁に連通する上端部とを有する前記上流油路は、前記下端部から前記上端部まで上方にほぼ一直線状に延びている通路であるか、または、鉛直方向で第1下端部から上端部に近づくにつれて、水平方向で前記上流油路の前記上端部から遠ざかることなく前記第1下端部から上方にほぼ一直線状に延びている第1直線油路と、鉛直方向で下端部から前記上流油路の前記上端部に近づくにつれて、前記第1直線油路の前記上端部から前記上流油路の前記上端部まで水平方向で前記上流油路の前記上端部から遠ざかることなく上方にほぼ一直線状に延びている第2直線油路とから構成されることを特徴とする内燃機関の作動油路構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の内燃機関の作動油路構造において、
前記制御油路は、前記油圧制御弁を境にして、前記ベース油路と前記油圧制御弁との間に位置する前記上流油路と、前記油圧制御弁と前記作動機構との間に位置する下流油路とを有し、
前記油圧制御弁は、弁ボディに摺動可能に嵌合して作動軸線に平行な作動軸線方向に移動可能な弁体を備え、
前記下流油路は、前記上流油路が前記油圧制御弁に連通する位置に対して、前記作動軸線方向でオフセットした位置で前記油圧制御弁に連通することを特徴とする内燃機関の作動油路構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の内燃機関の作動油路構造において、
前記制御油路は、前記油圧制御弁よりも下流に、摺動部材と前記摺動部材を摺動可能に支持する支持部材との間に形成されて前記摺動部材および前記支持部材の摺接面を作動油で潤滑するための潤滑用油路を有し、
前記制御油路は、前記油圧制御弁から前記潤滑用油路まで上方に一直線状に延びている油路を有することを特徴とする内燃機関の作動油路構造。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項記載の内燃機関の作動油路構造において、
前記作動機構は、前記被作動部材である動弁カム軸を制御して機関弁の開閉時期を制御する可変バルブタイミング機構であることを特徴とする内燃機関の作動油路構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−32945(P2011−32945A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180500(P2009−180500)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】