説明

内燃機関の触媒劣化診断装置及び方法

【課題】EGRガスの還流を行いつつ触媒劣化診断を正確に行う技術を提供する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に配置され、排気を浄化する触媒ユニットの劣化を診断する場合に、第1に、排気通路から排気の一部をEGRガスとして取り込み、内燃機関の吸気通路へ当該EGRガスを還流させるEGR装置を用いたEGRガスの還流を一旦停止し(S103)、EGRガス非導入時の内燃機関の気筒間の空燃比差を抑制し(S104)、第2に、EGR装置を用いたEGRガスの還流を再開し(S105)、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制し(S106)、第3に、EGR装置を用いたEGRガスの還流を行いつつ、触媒ユニットの劣化を診断する(S108)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の触媒劣化診断装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路から排気の一部をEGRガスとして取り込み、内燃機関の吸気通路へ当該EGRガスを還流させることが行われている。また、内燃機関の排気通路に配置され排気を浄化する触媒の劣化を診断することが行われている。ここで、触媒劣化診断では、触媒よりも下流側の排気通路において検知される空燃比に基づいて触媒の劣化が診断される。このため、触媒劣化診断時に、触媒よりも上流側の内燃機関の気筒間の空燃比差が生じないように、気筒間の空燃比差に影響を与えるEGRガスの還流を禁止することで、触媒劣化診断を正確に行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−38785号公報
【特許文献2】特開平10−318023号公報
【特許文献3】特開2007−247499号公報
【特許文献4】特開2007−297949号公報
【特許文献5】特開2006−200460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1のような技術では、触媒劣化診断時にEGRガスの還流を禁止してしまうので、触媒劣化診断時にはEGRガスを内燃機関に供給することによる燃費低減効果が得られなくなってしまう。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、EGRガスの還流を行いつつ触媒劣化診断を正確に行う技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
内燃機関の排気通路から排気の一部をEGRガスとして取り込み、前記内燃機関の吸気通路へ当該EGRガスを還流させるEGR装置と、
前記内燃機関の各気筒から排出される排気の空燃比に基づいて、気筒間の空燃比差を抑制する気筒間空燃比差抑制制御手段と、
前記排気通路に配置され、排気を浄化する触媒と、
前記触媒の劣化を診断する触媒劣化診断手段と、
を備え、
前記触媒劣化診断手段によって前記触媒の劣化を診断する場合に、
第1に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を一旦停止し、前記気筒間空燃比差抑制制御手段によってEGRガス非導入時の気筒間の空燃比差を抑制し、
第2に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を再開し、前記気筒間空燃比差抑制制御手段によってEGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制し、
第3に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を行いつつ、前記触媒劣化診断手段によって前記触媒の劣化を診断することを特徴とする内燃機関の触媒劣化診断装置である。
【0006】
本発明によると、EGRガス非導入時の気筒間の空燃比差を抑制した後に、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制する。これにより、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差がより小さくでき、触媒劣化診断を正確に行うことができる。
【0007】
また、本発明によると、触媒劣化診断時においてもEGRガスの還流を行っているので、触媒劣化診断時にEGRガスを内燃機関に供給することによる燃費低減効果を得ることができる。
【0008】
前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を行いつつ、前記触媒劣化診断手段によって前記触媒の劣化を診断している最中に、前記内燃機関のトルク変動が所定変動以上となる場合に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を停止するとよい。
【0009】
ここで、触媒劣化診断の最中に、内燃機関のトルク変動が所定変動以上となる場合には、サージ(定常運転時でも生じる振動)が発生する。一方、触媒劣化診断時に生じる内燃機関のトルク変動は、内燃機関に供給するEGRガス量が少ない程小さくなる。このため、本発明によると、触媒劣化診断の最中に、内燃機関のトルク変動が所定変動以上となる場合に、EGRガスの還流を停止するので、触媒劣化診断時に生じる内燃機関のトルク変動が最も小さくなり、サージの発生も回避できる。
【0010】
前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を一旦停止し、前記気筒間空燃比差抑制制御手段によってEGRガス非導入時の気筒間の空燃比差を抑制するときに、前記内燃機関の全気筒において空燃比が一定値となるように各気筒の燃料供給量を変更するとよい。
【0011】
ここで、一定値とは、例えばストイキの値等であり、予め実験等で求められる。本発明によると、EGRガス非導入時の気筒間の空燃比差をより好適に抑制できる。これにより、その後のEGRガス導入時の気筒間の空燃比差がより小さくでき、触媒劣化診断を正確に行うことができる。
【0012】
前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を再開し、前記気筒間空燃比差抑制制御手段によってEGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制するときに、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリッチである気筒では空燃比が許容値以内でリーン側に変更できる燃料供給量を削減し、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリーンである気筒では前記空燃比がリッチである気筒において削減された燃料供給量を気筒間の空燃比の差を抑制するよう分配して燃料供給量を増加するとよい。
【0013】
ここで、許容値とは、それ以内の値であると、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリッチである気筒において空燃比をリーン側に好適に変更できる値である。また、許容値とは、それよりも大きな値であると、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリッチである気筒において空燃比をリーン側に過剰に変更することになり、かえって当該空燃比がリッチである気筒において燃料供給量が過少となり燃焼悪化を引き起こす値である。
【0014】
本発明によると、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差を好適に抑制できると共に、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリッチである気筒において燃料供給量が過少となり燃焼悪化を引き起こすことを回避できる。
【0015】
前記気筒間空燃比差抑制制御手段は、
前記排気通路に配置され、前記内燃機関の各気筒から排出される排気の空燃比を検知する空燃比検知手段と、
前記空燃比検知手段の検知値に基づいて、気筒間の空燃比差を抑制するための各気筒の空燃比補正量を算出する空燃比補正量算出手段と、
前記空燃比補正量算出手段が算出した前記各気筒の空燃比補正量に基づいて、各気筒の燃料供給量を補正し、気筒間の空燃比差を抑制する燃料供給量制御手段と、
を有するとよい。
【0016】
本発明によると、内燃機関の各気筒から排出される排気の空燃比に基づいて、気筒間の空燃比差を抑制することができる。
【0017】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
内燃機関の排気通路に配置され、排気を浄化する触媒の劣化を診断する場合に、
第1に、前記排気通路から排気の一部をEGRガスとして取り込み、前記内燃機関の吸気通路へ当該EGRガスを還流させるEGR装置を用いたEGRガスの還流を一旦停止し、EGRガス非導入時の前記内燃機関の気筒間の空燃比差を抑制し、
第2に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を再開し、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制し、
第3に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を行いつつ、前記触媒の劣化を診断することを特徴とする内燃機関の触媒劣化診断方法である。
【0018】
本発明によると、EGRガス非導入時の気筒間の空燃比差を抑制した後に、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制する。これにより、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差がより小さくでき、触媒劣化診断を正確に行うことができる。
【0019】
また、本発明によると、触媒劣化診断時においてもEGRガスの還流を行っているので、触媒劣化診断時にEGRガスを内燃機関に供給することによる燃費低減効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、EGRガスの還流を行いつつ触媒劣化診断を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。
【0022】
<実施例1>
図1は、本実施例に係る内燃機関の触媒劣化診断装置及び方法を適用する内燃機関及びその吸気系・排気系の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、4つの気筒2を有する水冷式の4ストロークサイクル・ガソリンエンジンである。内燃機関1は、車両に搭載されている。
【0023】
内燃機関1における各気筒2につながる各吸気ポートには、燃料を噴射する燃料噴射弁3が配置されている。内燃機関1には、吸気通路4及び排気通路5が接続されている。吸気通路4及びそれに配置された機器が内燃機関1に吸気を取り入れるための吸気系を構成している。
【0024】
一方、内燃機関1に接続された排気通路5の途中には、触媒ユニット6が配置されている。触媒ユニット6は、三元触媒等で構成され、排気を浄化する。本実施例における触媒ユニット6が、本発明の触媒に相当する。触媒ユニット6よりも上流側の排気通路5には、内燃機関1の各気筒2から排出され排気通路5を流通する排気の空燃比を検知する第1空燃比センサ7が配置されている。本実施例における第1空燃比センサ7が、本発明の空燃比検知手段に相当する。触媒ユニット6よりも下流側の排気通路5には、触媒ユニット6から流出した排気の空燃比を検知する第2空燃比センサ8が配置されている。第1、第2空燃比センサ7,8は、測定する排気中の酸素濃度に基づいて排気の空燃比を検知する。これら排気通路5及びそれに配置された機器が内燃機関1から排気を排出させるための排気系を構成している。
【0025】
そして、内燃機関1には、排気通路5内を流通する排気の一部を吸気通路4へ還流(再循環)させるEGR装置(Exhaust Gas Recirculation System)30が備えられている。本実施例では、EGR装置30によって還流される排気をEGRガスと称している。EGR装置30は、EGRガスが流通するEGR通路31と、EGR通路31を流通するEGRガス量を調節するEGR弁32と、を有する。
【0026】
EGR通路31は、第1空燃比センサ7よりも上流側の排気通路5と、吸気通路4とを接続している。このEGR通路31を通って、排気がEGRガスとして内燃機関1へ送り込まれる。
【0027】
EGR弁32は、EGR通路31に配置され、EGR通路31の通路断面積を調整することにより、EGR通路31を流通するEGRガス量を調節する。EGR弁32は、電動アクチュエータにより開閉される。
【0028】
以上述べたように構成された内燃機関1には、内燃機関1を制御するための電子制御装置であるECU9が併設されている。このECU9は、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態を制御する装置である。
【0029】
ECU9には、第1、第2空燃比センサ7,8の他に、クランクポジションセンサ10、及びアクセルポジションセンサ11などの各種センサが電気配線を介して接続され、これら各種センサの出力信号がECU9に入力されるようになっている。一方、ECU9には、燃料噴射弁3、及びEGR弁32の電動アクチュエータが電気配線を介して接続されており、該ECU9によりこれらの機器が制御される。
【0030】
ECU9は、クランクポジションセンサ10やアクセルポジションセンサ11などの出力信号を受けて内燃機関1の運転状態を判別し、判別された機関運転状態に基づいて内燃機関1や上記機器を電気的に制御する。
【0031】
ところで、使用期間が長くなる程触媒ユニット6の排気浄化能力が低下して行き、触媒ユニット6は劣化する。そして、劣化した触媒ユニット6を使用し続けてしまうと、排気エミッションの悪化を招く。
【0032】
そこで、燃料噴射弁3からの燃料供給量を変更して触媒ユニット6に流入する排気の空燃比をリッチとリーンとに交互に振る。そして、そのときの第2空燃比センサ8で検知する触媒ユニット6から流出する排気の空燃比に基づいて、触媒ユニット6の酸素吸蔵能力を計り、触媒ユニット6の劣化を診断することが行われている。以下、触媒ユニット6の劣化を診断することを触媒劣化診断という。本実施例における触媒劣化診断を行うECU9が、本発明の触媒劣化診断手段に相当する。
【0033】
ところで、触媒劣化診断時に、触媒ユニット6よりも上流側の内燃機関1の気筒間の空燃比差が生じていると、触媒ユニット6から流出する排気の空燃比を変化させてしまうので、触媒劣化診断を正確に行うことができない。そこで、従来の触媒劣化診断においては、触媒劣化診断時に、触媒ユニット6よりも上流側の内燃機関1の気筒間の空燃比差が生じないように、気筒間の空燃比差に影響を与えるEGR装置30を用いたEGRガスの還流を禁止することで、触媒劣化診断を正確に行うようにしていた。しかしながら、従来の触媒劣化診断では、触媒劣化診断時にEGR装置30を用いたEGRガスの還流を禁止してしまう。よって、従来の触媒劣化診断を行っている間、EGRガスを内燃機関1に供給することによる燃費低減効果が得られなくなってしまう。
【0034】
そこで、本実施例では、触媒劣化診断を行う場合に、第1に、EGR装置30を用いた
EGRガスの還流を一旦停止し、EGRガス非導入時の気筒間の空燃比差を抑制する。第2に、EGR装置30を用いたEGRガスの還流を再開し、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制する。そして、第3に、EGR装置30を用いたEGRガスの還流を行いつつ、触媒劣化診断を行うようにした。
【0035】
本実施例によると、EGRガス非導入時の気筒間の空燃比差を抑制した後に、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制する。これにより、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差がより小さくでき、触媒劣化診断を正確に行うことができる。また、本実施例によると、触媒劣化診断時においてもEGR装置30を用いたEGRガスの還流を行っているので、触媒劣化診断時にEGRガスを内燃機関1に供給することによる燃費低減効果を得ることができる。したがって、本実施例によると、EGRガスの還流を行いつつ触媒劣化診断を正確に行うことができる。
【0036】
また、EGR装置30を用いたEGRガスの還流を行いつつ、触媒劣化診断を行っている最中に、内燃機関1のトルク変動が所定変動以上となる場合に、EGR装置30を用いたEGRガスの還流を停止する制御も行う。
【0037】
ここで、触媒劣化診断の最中に、内燃機関1のトルク変動が所定変動以上となる場合には、サージ(定常運転時でも生じる振動)が発生する。一方、触媒劣化診断時に生じる内燃機関1のトルク変動は、内燃機関1に供給するEGRガス量が少ない程小さくなる。このため、本実施例によると、触媒劣化診断の最中に、内燃機関1のトルク変動が所定変動以上となる場合に、EGR装置30を用いたEGRガスの還流を停止するので、触媒劣化診断時に生じる内燃機関1のトルク変動が最も小さくなり、サージの発生も回避できる。
【0038】
次に、本実施例による触媒劣化診断制御ルーチンについて説明する。図2は、本実施例による触媒劣化診断制御ルーチンを示したフローチャートである。本ルーチンは、ECU9により所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0039】
ステップS101では、触媒劣化診断を行うか否かを判別する。具体的には、内燃機関1の搭載された車両の走行距離が触媒ユニット6の触媒劣化診断を行う必要のある距離に達したとき等に触媒劣化診断を行う必要があると判断する。
【0040】
ステップS101において触媒劣化診断を行うと肯定判定された場合には、ステップS102へ移行する。ステップS101において触媒劣化診断を行わないと否定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0041】
ステップS102では、各種センサの出力信号に基づき、内燃機関1の運転状態が定常運転か否かを判別する。定常運転は、過渡運転でなく運転領域が変化しない運転状態である。なお、定常運転としては、内燃機関1の運転状態がただ一つにだけに定められているのではなく、幾つかの状態で定められている。
【0042】
ステップS102において内燃機関1の運転状態が定常運転であると肯定判定された場合には、ステップS103へ移行する。ステップS102において内燃機関1の運転状態が定常運転でないと否定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0043】
ステップS103では、EGR弁32を全閉にし、EGR装置30を用いたEGRガスの還流を強制的に一旦停止する。
【0044】
ステップS104では、第1気筒間空燃比差抑制制御サブルーチンにて、EGRガス非導入時の気筒間の空燃比差を抑制する。
【0045】
ここで、本実施例による第1気筒間空燃比差抑制制御サブルーチンについて説明する。図3は、本実施例による第1気筒間空燃比差抑制制御サブルーチンを示したフローチャートである。本実施例における第1気筒間空燃比差抑制制御サブルーチンを実行するECU9が、本発明の気筒間空燃比差抑制制御手段に相当する。
【0046】
ステップS201では、第1空燃比センサ7を用いて、内燃機関1の各気筒2から排出される排気の空燃比を検知する。具体的には、内燃機関1の各気筒2で排出された排気が第1空燃比センサを通過するタイミングで排気の空燃比を検知することで、各気筒2から排出される排気の空燃比を検知する。この際、EGR装置30を用いたEGRガスの還流は行われていない。
【0047】
ステップS202では、ステップS201で検知された各気筒2から排出される排気の空燃比に基づいて、気筒間の空燃比差を抑制するための各気筒2の空燃比補正量を算出する。なお、本ステップS202を実行するECU9が、本発明の空燃比補正量算出手段に相当する。
【0048】
ここで、ステップS202で算出される各気筒2の空燃比補正量は、内燃機関1の全気筒2において空燃比がストイキになるようにする。すなわち、各気筒2の空燃比補正量は、ステップS201で検知された各気筒2の空燃比と、ストイキ(=14.6)との差分がそのまま補正量となる。これにより、その後のEGRガス導入時の気筒間の空燃比差がより小さくでき、触媒劣化診断を正確に行うことができる。
【0049】
ステップS203では、ステップS202で算出された各気筒2の空燃比補正量に基づいて、各気筒2の燃料噴射弁3からの燃料供給量を補正して、気筒間の空燃比差を抑制する。なお、燃料供給量の補正量は、空燃比補正量との関係を示すマップから算出される。本ステップS203の処理により、EGRガス非導入時には、全気筒2から排出される排気の空燃比は、一律にストイキとなる。本ステップS203の処理の後、触媒劣化診断制御ルーチンに戻る。なお、本ステップS203を実行するECU9が、本発明の燃料供給量制御手段に相当する。
【0050】
ステップS105では、EGR弁32を定常運転における目標量に合わせて開弁し、EGR装置30を用いたEGRガスの還流を再開する。
【0051】
ステップS106では、第2気筒間空燃比差抑制制御サブルーチンにて、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制する。
【0052】
ここで、本実施例による第2気筒間空燃比差抑制制御サブルーチンについて説明する。図4は、本実施例による第2気筒間空燃比差抑制制御サブルーチンを示したフローチャートである。本実施例における第2気筒間空燃比差抑制制御サブルーチンを実行するECU9が、本発明の気筒間空燃比差抑制制御手段に相当する。
【0053】
ステップS301では、第1空燃比センサ7を用いて、内燃機関1の各気筒2から排出される排気の空燃比を検知する。具体的には、内燃機関1の各気筒2で排出された排気が第1空燃比センサを通過するタイミングで排気の空燃比を検知することで、各気筒2から排出される排気の空燃比を検知する。この際、EGR装置30を用いたEGRガスの還流が行われている。
【0054】
ステップS302では、ステップS301で検知された各気筒2から排出される排気の空燃比に基づいて、気筒間の空燃比差を抑制するための各気筒2の空燃比補正量を算出す
る。なお、本ステップS302を実行するECU9が、本発明の空燃比補正量算出手段に相当する。
【0055】
ここで、ステップS302で算出される各気筒2の空燃比補正量は、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリッチである気筒では、空燃比が許容値以内でリーン側に変更できる分が当該気筒の補正量(以下、リッチ気筒補正量という)となる。つまり、リッチ気筒補正量は、図5に示すように、当該気筒の空燃比が許容値以内でリーン側に変更できる間はリッチになる程一様に増加する量である。しかし、リッチ気筒補正量は、空燃比が許容値よりも大きくリーン側に変更する場合には一定量(ここでは、1.0である)に制限される。そして、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリーンである気筒では、先のリッチ気筒補正量の正負を反対にした量を気筒間の空燃比の差を抑制するよう分配する。すなわち、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリッチである気筒の補正量と、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリーンである気筒の補正量との和が、0となる。これによると、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差を好適に抑制できると共に、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリッチである気筒において燃料供給量が過少となり燃焼悪化を引き起こすことを回避できる。
【0056】
具体的には、図6に示すように、ステップS105によりEGRガスの還流を再開した際の1番気筒#1、2番気筒#2、3番気筒#3、4番気筒#4の空燃比が13.0、15.0、15.0、15.0である場合を想定する。この場合には、1番気筒#1の空燃比をストイキに近づけるように14.5までリーン側に変更したい。しかし、空燃比を1.5までリーン側に変更すると、空燃比をリーン側に過剰に変更することになり、かえって1番気筒#1において燃料供給量が過少となり燃焼悪化を引き起こす。そこで、1番気筒#1の空燃比を許容値である1.0以内でリーン側に変更する。すなわち、1番気筒#1の空燃比を14.0までリーン側に変更する。そうすると、リッチ気筒補正量は、1.0となる。また、2番気筒#2、3番気筒#3、4番気筒#4は同じ15.0の空燃比である。よって、2番気筒#2、3番気筒#3、4番気筒#4には、リッチ気筒補正量の正負を反対にした量を3等分した、−0.33(≒−1.0/3)づつの補正量が加えられる。すなわち、2番気筒#2、3番気筒#3、4番気筒#4の空燃比を同じ14.67に変更する。
【0057】
また、図7に示すように、ステップS105によりEGRガスの還流を再開した際の1番気筒#1、2番気筒#2、3番気筒#3、4番気筒#4の空燃比が16.0、14.0、14.0、14.0である場合を想定する。この場合には、2番気筒#2、3番気筒#3、4番気筒#4の空燃比をストイキに近づけるように、同じ14.5までリーン側に変更する。そうすると、リッチ気筒補正量は、3気筒分の補正量の和をとり、1.5(=0.5×3)となる。よって、1番気筒#1には、リッチ気筒補正量の正負を反対にした、−1.5の補正量が加えられる。すなわち、1番気筒#1の空燃比を14.5に変更する。なお、空燃比をリッチ側に変更することでは、燃料供給量が多くなるだけであり、燃焼悪化を引き起こすことが無いので、この場合の1番気筒のようにEGRガスの還流を再開した際に空燃比がリーンである気筒の補正量には、許容値が無く制限が加えられていない。
【0058】
また、図8に示すように、ステップS105によりEGRガスの還流を再開した際の1番気筒#1、2番気筒#2、3番気筒#3、4番気筒#4の空燃比が13.0、15.0、14.5、15.5である場合を想定する。この場合には、1番気筒#1の空燃比を許容値である1.0以内でストイキに近づけるように、14.0までリーン側に変更する。そうすると、リッチ気筒補正量は、1.0となる。また、2番気筒#2、3番気筒#3、4番気筒#4はそれぞれ異なる空燃比である。よって、2番気筒#2、3番気筒#3、4番気筒#4はそれぞれストイキに近づくように、量を変えて補正量を分配する。つまり、
2番気筒#2には、リッチ気筒補正量の正負を反対にした量の3分の1である、−0.33(≒−1.0/3)の補正量が加えられる。3番気筒#3には、補正量は加えられない。4番気筒#4には、リッチ気筒補正量の正負を反対にした量の3分の2である、−0.67(≒−1.0×2/3)の補正量が加えられる。すなわち、2番気筒#2の空燃比を14.67に変更する。3番気筒#3の空燃比は14.5のまま維持する。4番気筒#4の空燃比を14.83に変更する。この場合のように、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリーンである気筒では、先のリッチ気筒補正量の正負を反対にした量を気筒間の空燃比の差を抑制するよう量を変えて分配してもよい。
【0059】
ステップS303では、ステップS302で算出された各気筒2の空燃比補正量に基づいて、各気筒2の燃料噴射弁3からの燃料供給量を補正して、気筒間の空燃比差を抑制する。なお、燃料供給量の補正量は、空燃比補正量との関係を示すマップから算出される。本ステップS303の処理により、EGRガス導入時には、全気筒2から排出される排気の空燃比は、ストイキに近づく。本ステップS303の処理の後、触媒劣化診断制御ルーチンに戻る。なお、本ステップS303を実行するECU9が、本発明の燃料供給量制御手段に相当する。
【0060】
ステップS107では、触媒劣化診断条件を満たすか否かを判別する。具体的には、触媒ユニット6の床温が一定であることや、内燃機関1の運転状態が定常運転であることや、各種センサが正常動作していること等を満たすときに、触媒劣化診断条件を満たすと判断する。
【0061】
ステップS107において触媒劣化診断条件を満たすと肯定判定された場合には、ステップS108へ移行する。ステップS107において触媒劣化診断条件を満たさないと否定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0062】
ステップS108では、触媒劣化診断を行う。具体的には、燃料噴射弁3からの燃料供給量を変更して触媒ユニット6に流入する排気の空燃比をリッチとリーンとに交互に振る。そして、そのときの第2空燃比センサ8で検知する触媒ユニット6から流出する排気の空燃比に基づいて、触媒ユニット6の酸素吸蔵能力を計り、触媒ユニット6の劣化を診断する。
【0063】
ステップS109では、内燃機関1のトルク変動が所定変動以上となるか否かを判別する。内燃機関1のトルク変動は、クランクポジションセンサ10の出力値から検知される機関回転数に基づいて導出される。ここで、触媒劣化診断の最中に、内燃機関1のトルク変動が所定変動以上となる場合には、サージ(定常運転時でも生じる振動)が発生する。
【0064】
ステップS109において内燃機関1のトルク変動が所定変動以上となると肯定判定された場合には、ステップS110へ移行する。ステップS109において内燃機関1のトルク変動が所定変動以上とならないと否定判定された場合には、ステップS111へ移行する。
【0065】
ステップS110では、EGR弁32を全閉にし、EGR装置30を用いたEGRガスの還流を強制的に停止する。
【0066】
ステップS111では、触媒劣化診断が終了したか否かを判別する。
【0067】
ステップS111において触媒劣化診断が終了したと肯定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。ステップS111において触媒劣化診断が終了していないと否定判定された場合には、ステップS108へ移行する。
【0068】
以上説明した本ルーチンによれば、EGRガス非導入時の気筒間の空燃比差を抑制した後に、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制できる。そして、EGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制した後に、EGRガスの還流を行いつつ触媒劣化診断を正確に行うことができる。
【0069】
本発明に係る内燃機関の触媒劣化診断装置及び方法は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1に係る内燃機関及びその吸気系・排気系の概略構成を示す図。
【図2】実施例1に係る触媒劣化診断制御ルーチンを示すフローチャート。
【図3】実施例1に係る第1気筒間空燃比差抑制制御サブルーチンを示すフローチャート。
【図4】実施例1に係る第2気筒間空燃比差抑制制御サブルーチンを示すフローチャート。
【図5】実施例1に係るストイキからリッチ気筒の空燃比までの差とリッチ気筒補正量の関係を示す図。
【図6】実施例1に係る第2気筒間空燃比差抑制制御の前後での各気筒の空燃比を示す図。
【図7】実施例1に係る第2気筒間空燃比差抑制制御の前後での各気筒の空燃比を示す図。
【図8】実施例1に係る第2気筒間空燃比差抑制制御の前後での各気筒の空燃比を示す図。
【符号の説明】
【0071】
1 内燃機関
2 気筒
3 燃料噴射弁
4 吸気通路
5 排気通路
6 触媒ユニット
7 第1空燃比センサ
8 第2空燃比センサ
9 ECU
10 クランクポジションセンサ
11 アクセルポジションセンサ
30 EGR装置
31 EGR通路
32 EGR弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路から排気の一部をEGRガスとして取り込み、前記内燃機関の吸気通路へ当該EGRガスを還流させるEGR装置と、
前記内燃機関の各気筒から排出される排気の空燃比に基づいて、気筒間の空燃比差を抑制する気筒間空燃比差抑制制御手段と、
前記排気通路に配置され、排気を浄化する触媒と、
前記触媒の劣化を診断する触媒劣化診断手段と、
を備え、
前記触媒劣化診断手段によって前記触媒の劣化を診断する場合に、
第1に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を一旦停止し、前記気筒間空燃比差抑制制御手段によってEGRガス非導入時の気筒間の空燃比差を抑制し、
第2に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を再開し、前記気筒間空燃比差抑制制御手段によってEGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制し、
第3に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を行いつつ、前記触媒劣化診断手段によって前記触媒の劣化を診断することを特徴とする内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項2】
前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を行いつつ、前記触媒劣化診断手段によって前記触媒の劣化を診断している最中に、前記内燃機関のトルク変動が所定変動以上となる場合に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を停止することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項3】
前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を一旦停止し、前記気筒間空燃比差抑制制御手段によってEGRガス非導入時の気筒間の空燃比差を抑制するときに、前記内燃機関の全気筒において空燃比が一定値となるように各気筒の燃料供給量を変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項4】
前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を再開し、前記気筒間空燃比差抑制制御手段によってEGRガス導入時の気筒間の空燃比差を抑制するときに、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリッチである気筒では空燃比が許容値以内でリーン側に変更できる燃料供給量を削減し、EGRガスの還流を再開した際に空燃比がリーンである気筒では前記空燃比がリッチである気筒において削減された燃料供給量を気筒間の空燃比の差を抑制するよう分配して燃料供給量を増加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項5】
前記気筒間空燃比差抑制制御手段は、
前記排気通路に配置され、前記内燃機関の各気筒から排出される排気の空燃比を検知する空燃比検知手段と、
前記空燃比検知手段の検知値に基づいて、気筒間の空燃比差を抑制するための各気筒の空燃比補正量を算出する空燃比補正量算出手段と、
前記空燃比補正量算出手段が算出した前記各気筒の空燃比補正量に基づいて、各気筒の燃料供給量を補正し、気筒間の空燃比差を抑制する燃料供給量制御手段と、
を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項6】
内燃機関の排気通路に配置され、排気を浄化する触媒の劣化を診断する場合に、
第1に、前記排気通路から排気の一部をEGRガスとして取り込み、前記内燃機関の吸気通路へ当該EGRガスを還流させるEGR装置を用いたEGRガスの還流を一旦停止し、EGRガス非導入時の前記内燃機関の気筒間の空燃比差を抑制し、
第2に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を再開し、EGRガス導入時の気筒
間の空燃比差を抑制し、
第3に、前記EGR装置を用いたEGRガスの還流を行いつつ、前記触媒の劣化を診断することを特徴とする内燃機関の触媒劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−101211(P2010−101211A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271634(P2008−271634)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】