動力伝達装置の制御装置
【課題】非等パワー変速におけるドライバビリティの低下を防ぐことを課題とする。
【解決手段】動力伝達装置の制御装置は、原動機と、電動機と、有段変速部と、前記電動機により差動状態が制御される無段変速部と、を有する車両用の動力伝達装置に適用される。動力伝達装置の制御装置は、例えばECU(Electronic Controlled Unit)により実現される制御手段を備える。制御手段は、有段変速部の変速を行う際に、非等パワー変速を行うことが可能であり、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における変速速度を変化させる。
【解決手段】動力伝達装置の制御装置は、原動機と、電動機と、有段変速部と、前記電動機により差動状態が制御される無段変速部と、を有する車両用の動力伝達装置に適用される。動力伝達装置の制御装置は、例えばECU(Electronic Controlled Unit)により実現される制御手段を備える。制御手段は、有段変速部の変速を行う際に、非等パワー変速を行うことが可能であり、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における変速速度を変化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備えられる動力伝達装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、以下の特許文献1には、電気式差動部と変速部とを備えた車両用駆動装置の制御装置において、電動機、車両用駆動装置各部の潤滑および冷却等に用いられる作動油(オートマチックトランスミッションフルード:ATF)の温度情報を抑制する為に、等パワー変速から非等パワー変速へとエンジンの動作点を変更する技術が記載されている。また、以下の特許文献2には、第1変速部と第2変速部とを備えた自動変速機の変速制御装置において、第1変速部の変速比を変化させる際に、第1変速部の変速の進行状態に応じて第2変速部の変速速度を設定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−143431号公報
【特許文献2】特開2007−118727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非等パワー変速を行う際において、車両の運転状態によっては、エンジン回転数またはエンジントルクの変化によってドライバビリティが低下する恐れがある。この点について、特許文献1又は2には何ら記載されていない。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、非等パワー変速におけるドライバビリティの低下を防ぐことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、原動機と、電動機と、有段変速部と、前記電動機により差動状態が制御される無段変速部と、を有する車両用の動力伝達装置の制御装置であって、前記有段変速部の変速を行う際に、非等パワー変速を行う制御手段を備え、前記制御手段は、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における変速速度を変化させる。
【0007】
動力伝達装置の制御装置は、原動機と、電動機と、有段変速部と、前記電動機により差動状態が制御される無段変速部と、を有する車両用の動力伝達装置に適用される。ここで、原動機とは、例えばエンジンなどの内燃機関である。動力伝達装置の制御装置は、例えばECU(Electronic Controlled Unit)により実現される制御手段を備える。制御手段は、有段変速部の変速を行う際に、非等パワー変速を行うことが可能であり、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における変速速度を変化させる。具体的には、制御手段は、無段変速部の変速速度を変化させる。このようにすることで、ドライバの要求を満足する変速を行うことができ、ドライバビリティを向上させることができる。
【0008】
上記の動力伝達装置の制御装置の好適な実施例では、前記制御手段は、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における前記原動機の回転数変化量を決定し、決定された当該回転数変化量分だけ前記原動機の回転数を変化させる制御を行う。
【0009】
上記の動力伝達装置の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、車両の運転状況に応じて、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードと、駆動力を優先するモードとのうち、いずれか一方のモードで非等パワー変速を行う。これにより、ドライバの要求を満足する変速を確実に行うことができる。
【0010】
上記の動力伝達装置の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、アクセル開度が所定値よりも大きいときに、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードで非等パワー変速を行う。これにより、非等パワー変速が行われる場合において、アクセル開度が所定値よりも大きくなったときのエンジン回転数低下を抑えることができる。
【0011】
上記の動力伝達装置の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、変速速度に応じて、前記原動機の出力を変更して非等パワー変速を行う。これにより、電動機の出力に余裕を持たせるための大型化の必要がなくなり、コストを低減することが可能となる。
【0012】
上記の動力伝達装置の制御装置の好適な実施例では、前記制御手段は、前記電動機の回転数変化率を変速速度とする。
【0013】
上記の動力伝達装置の制御装置の好適な実施例では、前記制御手段は、前記電動機の回転数と動力伝達装置の出力軸回転数の比の変化率を変速速度とする。
【0014】
上記の動力伝達装置の好適な実施例では、前記制御手段は、前記変速速度に基づいて、変速の進み度合いを示す変速進行度を求め、前記原動機の回転数に基づいて、基準値を求め、前記変速進行度と前記基準値との差が所定値以上になる場合に、前記原動機のトルクを変更する。
【0015】
上記の動力伝達装置の好適な実施例では、前記制御手段は、前記変速速度に基づいて、変速の進み度合いを示す変速進行度を求め、前記原動機の回転数に基づいて、基準値を求め、前記変速進行度と前記基準値との差が所定値以内になるように前記原動機のトルクをフィードバック制御する。
【0016】
上記の動力伝達装置の好適な実施例では、前記制御手段は、車両の運転状況に応じて、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードと、駆動力を優先するモードとのうち、いずれか一方のモードで非等パワー変速を行う。
【発明の効果】
【0017】
原動機と、電動機と、有段変速部と、前記電動機により差動状態が制御される無段変速部と、を有する車両用の動力伝達装置の制御装置であって、前記有段変速部の変速を行う際に、非等パワー変速を行う制御手段を備え、前記制御手段は、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における変速速度を変化させる。このようにすることで、ドライバの要求を満足する変速を行うことができ、ドライバビリティを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る動力伝達装置の構成図である。
【図2】摩擦係合装置における係合作動表を示す図である。
【図3】動力伝達装置における各回転要素の回転速度の相対関係を示す共線図である。
【図4】ECUに入力される信号およびECUから出力される信号の一例である。
【図5】有段変速部の変速制御で使用される変速線図である。
【図6】シフトポジションの配列を示す図である。
【図7】等パワー変速領域と非等パワー変速領域を示す図である。
【図8】非等パワー変速制御が行われた場合における電力経路を示す図である。
【図9】車速と駆動力の関係を示すグラフである。
【図10】エンジン回転数低下量と変速後駆動力との関係を示すグラフである。
【図11】第1実施形態に係る非等パワー変速制御が行われるときのタイムチャートである。
【図12】第1実施形態に係る変速制御処理を示すフローチャートである。
【図13】第1電動機の出力可能領域を示している。
【図14】有段変速部でアップシフトが行われた時の無段変速部の共線図である。
【図15】有段変速部でダウンシフトが行われた時の無段変速部の共線図である。
【図16】基準値とエンジン回転数変化進行度との関係を示すグラフである。
【図17】有段変速部のアップシフト時におけるエンジントルク変更量を求める方法を示す図。
【図18】有段変速部のダウンシフト時におけるエンジントルク変更量を求める方法を示す図。
【図19】有段変速部のアップシフト時におけるエンジントルク変更量を求める他の方法を示す図。
【図20】第2実施形態に係る非等パワー変速制御が行われるときのタイムチャートである。
【図21】第2実施形態に係る変速制御処理を示すフローチャートである。
【図22】本発明を適用可能な動力伝達装置の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0020】
[装置構成]
まず、各実施形態に係る車両の動力伝達装置10の構成の一例について図1を用いて説明する。
【0021】
図1は、車両の動力伝達装置10の構成図である。動力伝達装置10は、主に、入力軸14と、トルクリミッタ付きダンパー51と、無段変速部11と、有段変速部20と、出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えばハイブリッド車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものである。動力伝達装置10は、走行用の駆動力源たるエンジン8と一対の駆動輪(図示せず)との間に設けられている。エンジン8は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、入力軸14に連結されている。駆動輪は出力軸22に連結されている。動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1においてはその下側が省略されている。入力軸14は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材である。無段変速部11は、この入力軸14に対し、トルクリミッタ付きダンパー51を介して間接に連結された電気的な変速部である。有段変速部20は、その無段変速部11と駆動輪(図示せず)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式の変速機として機能する変速部である。駆動軸22は、この有段変速部20に連結されている出力回転部材である。
【0022】
無段変速部11は、第1電動機M1と、動力分配機構16と、第2電動機M2と、を備える。動力分配機構16は、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構として機能する。第2電動機M2は、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から駆動輪までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有するいわゆるモータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
【0023】
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24を主体として構成されている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
【0024】
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は、トルクリミッタ付きダンパー51を介して入力軸14に連結され、第1サンギヤS1は、第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は、伝達部材18に連結されている。動力分配機構16は、第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が働く差動状態とされる。そのため、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギが蓄電され、または、第2電動機M2が回転駆動される。これにより、無段変速部11(動力分配機構16)は、いわゆる無段変速状態(電気的CVT状態)とされ、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転を連続的に変化させることが可能となる。
【0025】
有段変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、および、シングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備えている。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、および、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
【0026】
有段変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結されている。第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とは一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とは一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0027】
第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置である。これらの油圧式摩擦係合装置は、油圧を加えることにより、2つの部材(例えばクラッチ)間の間に摩擦力を発生させ、当該2つの部材を互いに係合する装置である。油圧式摩擦係合装置としては、例えば、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどを有し、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0028】
また、車両は、第1コントローラ31と、第2コントローラ32と、蓄電装置33と、油圧制御装置34と、ECU(Electronic Controlled Unit)40と備える。
【0029】
第1コントローラ31は、第1電動機M1を制御するためのものであり、第2コントローラ32は、第2電動機M2を制御するためのものである。これらのコントローラ31、32は、例えばインバータを主体として構成され、それぞれに対応する電動機M1、M2とを電動機として機能させ、あるいは発電機として機能させるように制御し、併せてそれぞれの場合における回転数やトルクを制御するように構成されている。また、各電動機M1、M2は、各コントローラ31、32を介して蓄電装置33に接続されている。この蓄電装置33は、各電動機M1、M2に電力を供給し、また各電動機M1、M2が発電機として機能した場合に、その電力を充電して蓄える装置であって、二次電池(バッテリ)およびキャパシタから構成されている。
【0030】
油圧制御装置34は、各クラッチやブレーキの係合圧や解放圧を制御するためのものである。油圧制御装置34は、オイルポンプ(図示せず)で発生した油圧をライン圧に調圧するとともに、そのライン圧を元圧として各摩擦係合装置の係合圧を制御し、あるいは摩擦係合装置を解放させる際の解放圧を制御する。この油圧制御装置34としては、具体的には従来の自動変速機で使用されている油圧制御装置を採用することができる。
【0031】
ECU40は、後に詳しく説明するが、CPU、R0M、RAMおよび入出カインターフェースなどを有し、各コントローラ31、32や油圧制御装置34を電気信号によって制御することにより、動力伝達装置10の全体を制御する。
【0032】
以上のように構成された動力伝達装置10では、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段:1st)ないし第4速ギヤ段(第4変速段:4th)のいずれかあるいは後進ギヤ段(後進変速段:R)あるいはニュートラル(N)が選択的に成立し、ほぼ等比的に変化する変速比Y(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度N0UT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。図2において、これらの係合作動表を示している。図2に示す係合作動表において、丸印は係合状態になることを示し、無印は解放状態になることを示している。
【0033】
図2の係合作動表に示すように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により第1速ギヤ段(1st)が成立し、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により第2速ギヤ段(2nd)が成立し、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により第3速ギヤ段(3rd)が成立する。また、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により第4速ギヤ段(4th)が成立し、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により後進ギヤ段(変速機によるRev)が成立する。ここで、図2に示すように、車両を後進させるモードとしては、上述の有段変速部20に後進ギヤ段よるモードの他、第2電動機M2によるモード(M2によるRev)もある。この場合には、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合が成立した状態で、車両が後進するように第2電動機M2を逆回転させる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、全ての係合機構が解放される。
【0034】
図3は、動力伝達装置10における各回転要素の回転速度の相対関係を示す共線図である。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標である。図3において、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度「0」を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Neを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0035】
また、無段変速部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものである。縦線Y1、Y2、Y3の間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、有段変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素RE4、第5回転要素RE5、第6回転要素RE6、第7回転要素RE7、第8回転要素RE8を示している。ここで、第4回転要素RE4は、相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3であり、第5回転要素RE5は、第2キャリヤCA2であり、第6回転要素RE6は、第4リングギヤR4である。また、第7回転要素RE7は、相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4であり、第8回転要素RE8は、相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4である。縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8の間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とするとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔となる。すなわち、無段変速部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、有段変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がギヤ比ρに対応する間隔に設定される。
【0036】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、動力伝達装置10は、動力分配機構16(無段変速部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤC A1)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されている。これにより、入力軸14の回転は、伝達部材18を介して有段変速部20へ伝達される。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
【0037】
また、第1電動機M1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転速度を上昇あるいは下降させると、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が下降あるいは上昇する。
【0038】
また、有段変速部20において、第4回転要素RE4は、第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。第5回転要素RE5は、第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は、第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結されている。第7回転要素RE7は、出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は、第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0039】
有段変速部20では、先にも述べたように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により第1速ギヤ段(1st)が成立する。このとき、第6回転要素RE6の回転速度は「0」となり、第8回転要素RE8の回転速度は第3回転要素RE3の回転速度と等しくなる。従って、図3でいうと、縦線Y8と横線XGとの交点と、縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1が、第1速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L1と縦線Y7との交点が第1速ギヤ段のときの出力軸22の回転速度を示している。
【0040】
第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により第2速ギヤ段(2nd)が成立する。このとき、第5回転要素RE5は「0」となり、第8回転要素RE8の回転速度は第3回転要素RE3の回転速度と等しくなる。従って、図3でいうと、縦線Y8と横線XGとの交点と、縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L2が、第2速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L2と縦線Y7との交点が第2速ギヤ段のときの出力軸22の回転速度を示している。
【0041】
第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により第3速ギヤ段(3rd)が成立する。このとき、第4回転要素RE4は「0」となり、第8回転要素RE8の回転速度は第3回転要素RE3の回転速度と等しくなる。従って、図3でいうと、縦線Y8と横線XGとの交点と、縦線Y4と横線X1との交点とを通る斜めの直線L3が、第3速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L3と縦線Y7との交点が第3速ギヤ段のときの出力軸22の回転速度を示している。
【0042】
第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により第4速ギヤ段(4th)が成立する。このとき、第4回転要素RE4および第8回転要素RE8の回転速度は第3回転要素RE3の回転速度と等しくなる。従って、図3でいうと、横線XGに沿った直線L4が、第4速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L4と縦線Y7との交点が第4速ギヤ段のときの出力軸22の回転速度を示している。
【0043】
第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により変速機による後進ギヤ段(Rev)が成立する。このとき、第4回転要素RE4の回転速度は第3回転要素RE3の回転速度と等しくなり、第6回転要素RE6の回転速度は「0」となる。従って、図3でいうと、縦線Y4と横線XGとの交点と、縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線LRが、後進ギヤ段の共線図となる。なお、直線LRと縦線Y7との交点が後進ギヤ段のときの出力軸22の回転速度を示している。
【0044】
次に、ECU40の制御について図4を用いて説明する。図4は、ECU40に入力される信号およびECU40から出力される信号を例示している。
【0045】
ECU40は、CPU、R0M、RAM、および入出カインターフェースなどから成るいわゆるマイクロコンピュータを含んで構成されている。ECU40は、RAMの一時記憶機能を利用しつつR0Mに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、有段変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。ECU40は、図4左側に示すような各センサやスイッチなどから信号を受信し、受信した信号に基づいて、図4右側に示すような制御信号を各装置に送信する。
【0046】
ECU40は、図4左側に示すような各センサやスイッチなどから信号を受信する。例えば、ECU40は、エンジン水温センサよりエンジン水温を示す信号を受信し、Pb1油圧センサより第1ブレーキB1の油圧を示す信号を受信し、Pb2油圧センサより第2ブレーキB2の油圧を示す信号を受信し、Pb3油圧センサより第3ブレーキB3の油圧を示す信号を受信する。ECU40は、M1回転速度センサより第1電動機の回転速度を示す信号を受信し、M2回転速度センサより第2電動機の回転速度を示す信号を受信し、クランク角センサよりエンジン回転数Neを示す信号を受信する。ECU40は、トーイングスイッチよりトーイングモードを指示する信号を受信し、M(モータ走行)モードスイッチよりMモードを指示する信号を受信し、エアコンスイッチよりエアコンの作動を示すエアコン信号を受信し、車速センサより出力軸22の回転速度に対応する車速を示す信号を受信する。
【0047】
また、ECU40は、AT油温センサより有段変速部20の作動油温(AT油温)を示す油温信号を受信し、ECTスイッチよりECT(Electronic Controlled Transmission)モード設定を示す設定信号を受信し、サイドブレーキスイッチよりサイドブレーキ操作を示す信号を受信し、フットブレーキスイッチよりフットブレーキ操作を示す信号を受信し、触媒温度センサより触媒温度を示す触媒温度信号を受信し、アクセル開度センサより運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量を示すアクセル開度信号を受信する。ECU40は、EVスイッチより電気走行モードを示す信号を受信し、スノーモードスイッチよりスノーモード設定を示すスノーモード設定信号を受信し、車両加速度センサより車両の前後加速度を示す加速度信号を受信する。ECU40は、オートクルーズ設定スイッチよりオートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号を受信し、パワーモード設定スイッチよりパワーモード設定を示す設定信号を受信し、シフトポジションセンサよりシフトポジションを表す信号を受信する。また、ECU40は、車速センサより駆動輪の車輪速を示す検出信号を受信し、ABSセンサより車体速を示す検出信号を受信し、スピードモード設定スイッチよりスピードモード設定を示すスピードモード設定信号を受信する。
【0048】
ECU40は、図4右側に示すような各装置に対して制御信号を送信する。例えば、ECU40は、電子スロットル弁の開度を操作するための制御信号をスロットルアクチュエータに送信し、過給圧を調整するための制御信号をターボチャージャへ送信し、電動エアコンを作動させるための制御信号を電動エアコンに送信し、エンジン8の点火時期を指令する制御信号を点火装置に送信する。ECU40は、電動機M1、M2の作動を指令する制御信号を第1及び第2コントローラに送信し、蓄電可能な及び放電可能な電力量を調整するための制御信号を蓄電装置に送信し、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号をギヤ比インジケータに送信し、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号をスノーモードインジケータに送信する。ECU40は、油圧を調整するための制御信号をATライン圧コントロールソレノイド、ATソレノイドに送信し、制動時の車輸のスリップを防止するためのABS作動信号をABSアクチュエータに送信し、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号をMモードインジケータに送信する。ECU40は、油圧制御装置34の油圧源である機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプを作動させるための制御信号を機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプに送信する。ECU40は、電動ヒータを駆動するための制御信号を電動ヒータに送信し、クルーズコントロールのための制御信号をクルーズコントロール制御用コンピュータに送信し、エンジン8の気筒内に供給される燃料噴射量を調整するための制御信号を燃料噴射装置に供給する。
【0049】
図5は、有段変速部20の変速制御で使用される変速線図を示しており、車速を横軸にとり、駆動力を縦軸にとって、これら車速および駆動力をパラメータとして変速段領域が定められている。
【0050】
図5における実線は、アップシフト線を示し、アップシフトする際の各変速段領域の境界となっている。また、図5における破線は、ダウンシフト線を示し、ダウンシフトする際の各変速段領域の境界となっている。また、一点鎖線で囲まれる領域は、モータ走行領域となっており、エンジン8が作動していない状態で、例えば電動機M2により走行が行われる。これらの変速段の全ては、ドライブレンジ(ドライブポジション)が選択されている場合に設定可能であるが、手動変速モード(マニュアルモード)では高速側の変速段が制限されるようになっている。
【0051】
図6は上記のECU40に対してシフトポジション信号を出力するシフト装置42におけるシフトポジションの配列を示しており、車両を停止状態に維持するパーキング(P)、後進段(R:リバース)、ニュートラル(N)、ドライブ(D)の各ポジションがほぼ直線的に配列されている。この配列方向は、例えば車両の前後方向に沿う方向である。そのドライブポジションに対して車両の幅方向で隣接する位置にマニュアルポジション(M)が設けられ、そのマニュアルポジションを挟んで車両の前後方向での両側にアップシフトポジション(+)とダウンシフトポジション(−)とが設けられている。これらの各シフトポジションは、シフトレバー43を案内するガイド溝44によって連結されており、したがってシフトレバー43をガイド溝44に沿って移動させることにより適宜のシフトポジションが選択され、その選択されたシフトポジション信号がECU40に入力されるようになっている。
【0052】
そして、ドライブポジションが選択された場合には、有段変速部20での第1速ギヤ段から第4速ギヤ段の全ての前進段が走行状態に応じて設定されるようになっている。これに対して、ドライブポジションからマニュアルポジションにシフトレバー43を移動させた状態ではドライブポジションが維持され、第4速ギヤ段までの変速が可能であるが、この状態から1回ダウンシフトポジションにシフトレバー43を移動する都度、ダウンシフト信号(ダウンレンジ信号)が出力され、第4速ギヤ段以上が禁止された3レンジ、第3速ギヤ段以上が禁止された3レンジ、第1速ギヤ段に固定されるLレンジに切り替えられるようになっている。なお、アップシフトポジションを選択する都度、アップシフト信号(アップレンジ信号)が出力されて、順次、高速側のレンジに切り替えられるようになっている。
【0053】
上記動力伝達装置10では、駆動トルクに関する要求を満たしつつエンジン8を燃費が最適な回転数で運転し、さらに電力への変換を少なくして動力伝達効率の良い走行を行うために、車速が所定の幅の範囲内ではその車速に応じた変速段を有段変速部20で設定し、その状態で第1電動機M1によって無段変速部11の変速比を連続的に変化させる。これに対して、図5に変速線図で示す変速段領域を渡って走行状態が変化した場合、有段変速部20がその変速線図に従って変速される。具体的には、図2に示す各変速段に応じて摩擦係合装置が係合・解放させられる。このような有段変速部20での変速では、変速比がステップ的に変化するので、エンジン回転数の変化を防止もしくは抑制するために、無段変速部11の変速比は、有段変速部20での変速比の変化とは反対方向に変化させられる。例えば、有段変速部20でダウンシフトすると、その変速比の増大によって、図1に示す入力部材である第8回転要素RE8(第3リングギヤR3と第4サンギヤS4)の回転数が増大するので、その第8回転要素RE8に第1クラッチC1を介して連結されている第1リングギヤR1の回転数が同様に増大するように、第2電動機M2の回転数が増大させられる。即ち、無段変速部11はアップシフトする。それとは反対に、有段変速部20でアップシフトすると、無段変速部11はダウンシフトする。
【0054】
ここで、変速制御の具体的な方法としては、変速中に駆動力変化が起こらないように制御される等パワー変速制御と、駆動力は低下するものの、第1電動機M1の出力は定格出力範囲内に収まるように制御される非等パワー変速制御の2つの方法がある。ECU40は、変速制御の際において、例えば、車速と駆動力とに応じて、上述の2つの変速制御方法のうち、いずれかの方法をとる。以下、図7を用いて具体的に説明する。
【0055】
図7は、等パワー変速制御が行われる領域(以下、「等パワー変速領域」と称する)と非等パワー変速制御が行われる領域(以下、「非等パワー変速領域」と称する)を示している。図7において、車速が横軸で示され、駆動力が縦軸で示されており、等パワー変速領域と非等パワー変速領域との境界がグラフ101で示されている。具体的には、グラフ101の右側の領域が非等パワー変速領域であり、グラフ101の左側の領域が等パワー変速領域である。グラフ101は、予め実験などによって求められた適合値であり、変速前後の駆動力変化と第1電動機M1の定格出力値とのトレードオフによって決められる。図7を見ると分かるように、走行パワーが比較的高い高パワー域では、非等パワー変速領域となっており、走行パワーが比較的低い中パワー域および低パワー域では等パワー変速領域となっている。
【0056】
ECU40は、変速制御を行う際において、図7に示す関係を例えばマップとして有し、車速と駆動力とに応じて、当該マップを用いて、等パワー変速制御を行うか、非等パワー変速制御を行うかを決定する。具体的には、図7に示すように、変速制御が行われる際において、車速と駆動力とで決まる走行パワーが高パワー域にある場合には、非等パワー変速とされ、走行パワーが中パワー域または低パワー域にある場合には、等パワー変速とされる。等パワー変速制御が行われる場合には、エンジン回転数を一定にした変速制御が行われるため、変速前後でエンジン動作点が変化せず、変速に伴う燃費の悪化を防ぐことができる。以下に述べる各実施形態では、非等パワー変速制御の具体的な方法について説明する。
【0057】
[第1実施形態]
最初に、第1実施形態に係る変速制御方法について説明する。
【0058】
非等パワー変速制御では、エンジン回転数を低下させることで、変速後の駆動力の低下を抑えるような、即ち、駆動力を優先した制御が行われる。しかしながら、このような非等パワー変速を行った場合、運転状況によっては、エンジン回転数低下が駆動力低下の印象をドライバに与えることがあり、ドライバビリティが低下する恐れがある。
【0059】
そこで、第1実施形態に係る動力伝達装置の制御方法では、ECU40は、変速を行う際において、運転状況に応じて、例えば、ドライバにより指定された運転モード、アクセル開度や走行状況に応じて、無段変速部11の変速速度を変化させる、具体的には、エンジン回転数の低下量を決定する。より詳細には、ECU40は、運転モードに応じて、エンジン回転数の低下を抑えたモードであるエンジン回転数優先の非等パワー変速を行うか、または、駆動力を優先したモードである駆動力優先の非等パワー変速を行うか、を決定することとする。
【0060】
まず、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合および駆動力優先の非等パワー変速を行う場合の各制御方法について図8〜図10を用いて説明する。
【0061】
最初に、エンジン回転数優先の非等パワー変速および駆動力優先の非等パワー変速の各制御が行われた場合における電力経路について図8を用いて説明する。
【0062】
図8において、横軸のNeはエンジン回転数を示し、Naxlは駆動軸の回転数を示している。従って、Ne/Naxlはトータルギヤ比を示している。また、縦軸のPeはエンジンパワーを示し、Pmは電動機パワーを示している。従ってPm/Peはエンジンパワーに対する電動機パワーの比率(以下、「パワー比」と称する)を示している。また、破線で示すグラフ201aは、第1速ギヤ段における第1電動機M1のパワー比を示し、グラフ201bは、第1速ギヤ段における第2電動機M2のパワー比を示している。一方、実線で示すグラフ202aは、第2速ギヤ段における第1電動機M1のパワー比を示し、グラフ202bは、第2速ギヤ段における第2電動機M2のパワー比を示している。つまり、各グラフは、エンジンパワーのうち、電動機により伝達されるパワーの割合を示している。
【0063】
図8において、実線矢印は、第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へと変速が行われる際において、駆動力優先の非等パワー変速が行われたときの第1電動機M1へ供給される電力の電力経路を示している。一方、破線矢印は、第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へと変速が行われる際において、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われたときの第1電動機M1へ供給される電力の電力経路を示している。点Aでは、変速ギヤ段は第1速ギヤ段に設定され、点B、Cでは、変速ギヤ段は第2速ギヤ段に設定される。図8に示すように、駆動力優先の非等パワー変速が行われる場合には、点Aから点Cに直接向かう電力経路をとるのに対し、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われる場合には、点Aから点Bを介して点Cへ向かう電力経路をとる。
【0064】
点Aでは、トータルギヤ比は4.3程度となっており、パワー比は0.1程度となっている。点Cでは、トータルギヤ比は3.4程度となっており、パワー比は−0.18程度となっている。トータルギヤ比が3.4程度となるときの第2速ギヤ段における第1電動機M1のパワー比は−0.3程度となっており、このパワー比と点Cにおけるパワー比とを比較すると、0.12程度の差があることが分かる。それに対し、点Bでは、トータルギヤ比は4.1程度となっており、パワー比は−0.18程度となっている。トータルギヤ比が4.1程度となるときの第2速ギヤ段における第1電動機M1のパワー比は−0.38程度となっており、このパワー比と点Bにおけるパワー比とを比較すると、0.2程度の差があることが分かる。つまり、点Cと比較して、点Bでは、第1電動機M1に伝達されるパワー比が低下するため、その分、エンジンパワーも低下させる必要がある。従って、点Aから点Cに直接向かう電力経路と比較して、点Aから点Bを介して点Cに向かう電力経路の方がエンジン回転数は低くなる。
【0065】
図9は、車速と駆動力の関係を示すグラフである。図9において、実線で示すグラフが、駆動力優先の非等パワー変速が行われた場合のグラフを示し、破線で示すグラフが、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われた場合のグラフを示している。図9を見ると分かるように、車速がV1からV2の間にある場合には、駆動力優先の非等パワー変速が行われた場合の駆動力と比較して、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われた場合の駆動力は低くなっている。
【0066】
ここで、エンジン回転数優先の場合の非等パワー変速および駆動力優先の場合の非等パワー変速の各制御が行われる際において、エンジン回転数の低下量は、運転状態に応じて決められる。図10は、エンジン回転数低下量と変速後駆動力との関係を示すグラフである。図10に示すように、エンジン回転数低下量が所定の値ΔNeAとなるまでは、エンジン回転数低下量が大きくなるほど、変速後駆動力は大きくなる。エンジン回転数低下量が値ΔNeAを超えてから値ΔNeBとなるまでは、エンジン回転数が低下しても、変速後駆動力は一定となる。これは、第1電動機M1により伝達されるパワーの低下に起因するエンジンパワーの低減を実施せずに済むからである。エンジン回転数低下量が値ΔNeBを超えると、エンジンパワー低下により変速後駆動力は低下する。
【0067】
次に、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合および駆動力優先の非等パワー変速を行う場合の各制御方法について図11のタイムチャートを用いて説明する。
【0068】
図11は、時間を横軸にとり、有段変速部20のギヤ段、有段変速部20のギヤ比、無段変速部11のギヤ比、トータルギヤ比Ne/Naxl、エンジン回転数Ne、エンジントルクTe、エンジンパワーPe、および、駆動力を縦軸にとっている。図11において、破線で示すグラフが、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われるときのグラフを示し、実線で示すグラフが、駆動力優先の非等パワー変速が行われるときのグラフを示している。
【0069】
時刻t1から時刻t2において、ECU40は、有段変速部20のギヤ段を第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へと切り替えて、有段変速部20のギヤ比を1.901から1.000へと変化させる。このとき、ECU40は、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合には、無段変速部11のギヤ比は0.639から1.042へと変化させ、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合には、無段変速部11のギヤ比を0.639から1.159へと変化させる。
【0070】
時刻t1から時刻t2において、ECU40は、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合には、トータルギヤ比Ne/Naxlを4.300から3.400へと変化させる。この変化は、図8で言うと、電力経路が点Aから点Cへと変化することを示している。一方、時刻t1から時刻t2において、ECU40は、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合には、トータルギヤ比Ne/Naxlを4.300から4.105へと変化させる。この変化は、図8で言うと、電力経路が点Aから点Bへと変化することを示している。従って、図8でも述べたように、時刻t2において、駆動力優先の非等パワー変速が行われる場合と比較して、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われる場合には、エンジンパワーは低く設定される。
【0071】
時刻t1から時刻t2において、ECU40は、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合には、エンジン回転数NeをΔNeAだけ低下させ、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合には、エンジン回転数NeをΔNeBだけ低下させる。ここで、エンジン回転数低下量ΔNeA、ΔNeBは、運転状況に応じて決定され、エンジン回転数低下量ΔNeAと比較して、エンジン低下量ΔNeBは小さくなるように設定される。それに応じて、ECU40は、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合と比較して、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合には、エンジントルクTeの低下量をより大きくする。従って、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われる場合と比較して、駆動力優先の非等パワー変速が行われる場合の方が、時刻t2における駆動力の低下量は小さくなる。
【0072】
この後、時刻t2から時刻t4にかけて、ECU40は、エンジン回転数およびエンジントルクを上昇させ、変速前のエンジン回転数およびエンジントルクに戻して、変速制御を終了する。このとき、ECU40は、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合には、時刻t2から時刻t4にかけて、エンジン回転数およびエンジントルクを上昇させているのに対し、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合には、時刻t2から時刻t3(<時刻t4)にかけて、エンジン回転数およびエンジントルクを上昇させている。これは、回転数優先の非等パワー変速を行う場合と比較して、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合には、駆動力をなるべく早く上昇させる必要があるためである。つまり、ECU40は、エンジン回転数優先の非等パワー変速と駆動力優先の非等パワー変速を行うときとで、変速速度を異ならせる。即ち、ECU40は、運転状況に応じて、無段変速部11の変速速度を変化させる。
【0073】
以上に述べたことから分かるように、駆動力優先の非等パワー変速が行われる場合と比較して、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われる場合には、変速時におけるエンジン回転数の低下を抑えることができる。エンジン回転数優先の非等パワー変速を行うことにより、エンジン回転数低下による駆動力低下の印象をドライバに与えるのを防ぐことができ、ドライバは小気味良いドライバビリティを体感することができる。
【0074】
上述の第1実施形態に係る変速制御処理について図12を用いて説明する。図12に示すフローチャートでは、ECU40は、非等パワー変速制御が行われる場合において、ドライバにより指定された運転モードに応じて、エンジン回転数優先の非等パワー変速制御を行うか、または、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うか、を決定する。
【0075】
まず、ステップS101において、ECU40は、変速制御を行う際において、例えば、車速と駆動力とを基に、非等パワー変速制御を行うか否かについて判定する。ECU40は、非等パワー変速制御を行うと判定した場合には(ステップS101:Yes)、ステップS102の処理へ進み、非等パワー制御を行わないと判定した場合には(ステップS101:No)、本制御処理をリターンする。
【0076】
ステップS102において、ECU40は、ドライバにより指示された運転モードがスポーツモードになっているか否かについて判定する。スポーツモードは、比較的高いエンジン回転数の保持を要求するモードである。ECU40は、運転モードがスポーツモードになっていると判定した場合には(ステップS102:Yes)、ステップS103の処理へ進み、スポーツモードになっていないと判定した場合には(ステップS102:No)、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うこととして、ステップS105の処理へ進む。
【0077】
ステップS103において、ECU40は、アクセル開度センサからの検出信号に基づいて、アクセル開度が閾値よりも大きいか否かについて判定する。ECU40は、アクセル開度が閾値よりも大きいと判定した場合には(ステップS103:Yes)、エンジン回転数優先の非等パワー変速制御を行うこととして、ステップS104の処理へ進み、アクセル開度が閾値以下であると判定した場合には(ステップS103:No)、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うこととして、ステップS105の処理へ進む。これは、駆動力優先の非等パワー変速制御が行われる場合において、アクセル開度が大きくなるほど、エンジン回転数低下量が大きくなるためである。つまり、このようにすることで、アクセル開度が閾値よりも大きくなったときのエンジン回転数低下を抑えることができる。なお、閾値は、予め実験などにより求められた適合値である。
【0078】
ステップS104において、ECU40は、運転状況に応じて、例えば、運転モードとエンジン回転数低下量との関係を示されたエンジン回転数優先用のマップを用いて、エンジン回転数優先の非等パワー変速制御が行われる場合の回転数低下量NeBを求めた後、ステップS106の処理へ進む。また、ステップS105においても、ECU40は、運転状況に応じて、例えば、運転モードとエンジン回転数低下量との関係が示された駆動力優先用のマップを用いて、駆動力優先の非等パワー変速制御が行われる場合の回転数低下量NeAを求めた後、ステップS106の処理へ進む。
【0079】
ステップS106において、ECU40は、エンジン回転数優先または駆動力優先の非等パワー変速制御を行い、本制御処理をリターンする。
【0080】
上述の変速制御処理によれば、運転モードとしてスポーツモードに設定され、かつ、アクセル開度が閾値よりも大きい場合に、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われる。この場合、非等パワー変速制御の際に、エンジン回転数低下が抑えられるので、ドライバは小気味良いドライバビリティを体感することができる。なお、運転モードとしては、スポーツモードに限られるものでない。この代わりに、または、加えて、ECU40は、運転モードとして、オートクルーズモード、トーイングモードなどの各場合に応じて、エンジン回転数優先の非等パワー変速制御を行うか、または、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うかを決定するとしても良い。例えば、ECU40は、運転モードがオートクルーズモードに設定されている場合には、無用な車速変化を避けるべく、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うこととし、トーイング時や急坂路走行時は、高負荷で駆動力が必要とされるので、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うこととする。また、ECU40は、シフトレンジがミッションレンジにある場合には、エンジン回転数優先の非等パワー変速制御を行うことにより、小気味良い感覚をドライバに与えることとしても良い。
【0081】
また、エンジン回転数低下量は、運転モードなどの運転状況に応じて予め設定されるとしても良いが、このようにする代わりに、図10に示したエンジン回転数低下量と変速後駆動力との関係をマップとして用いて、変速後の駆動力に応じて、エンジン回転数低下量を求めるとしても良い。
【0082】
以上に述べたことから分かるように、第1実施形態に係る変速制御方法では、ECU40は、運転状況に応じて、無段変速部11の変速速度を変化させる、具体的には、エンジン回転数の低下量を決定する。このようにすることで、ドライバの要求を満足する変速を行うことができ、ドライバビリティを向上させることができる。具体的には、ECU40は、運転状況に応じて、エンジン回転数の低下を抑えたエンジン回転数優先の非等パワー変速を行うか、または、駆動力を優先した駆動力優先の非等パワー変速を行うか、を決定することとする。運転状況に応じて、これらのうち、いずれか一方の非等パワー変速制御を行うとすることで、ドライバの要求を確実に満足する変速を行うことができる。
【0083】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る変速制御方法について説明する。
【0084】
装置構成のところで述べたように、図1に示した動力伝達装置では、変速制御が行われる際において、有段変速部20の変速制御が行われるとともに、それと同時に、無段変速部11の変速制御も行われる。ここで、非等パワー変速制御が行われる場合において、エンジンの出力変化に対し、変速速度が遅過ぎたり速過ぎたりすると、第1電動機M1の高回転化を招く可能性がある。そのため、従来は、第1電動機M1の出力に余裕を持たせる必要があった。図13に、第1電動機M1の出力可能領域を示している。図13において、「余裕代」として示される領域が、第1電動機M1の出力に余裕を持たせるための領域である。このように、第1電動機M1の出力に余裕を持たせようとすると、第1電動機M1を大型化する必要がある。
【0085】
そこで、第2実施形態に係る動力伝達装置の制御方法では、ECU40は、非等パワー変速制御を行う際において、変速速度に応じて、エンジン出力、具体的にはエンジントルクおよびエンジン回転数を変更することとし、第1電動機M1の出力に余裕を持たせなくても済むようにする。
【0086】
まず、ECU40は、非等パワー変速が行われる場合において、有段変速部20の変速制御と同時に、エンジン回転数を変化させる。以下、図14、図15を用いて具体的に説明する。
【0087】
図14は、有段変速部20でアップシフトが行われた時の無段変速部11の共線図である。図14において、第1電動機M1の動作可能な回転数の範囲をMG動作可能域(以下、単に「動作可能域」と称する)としている(図15において同じ)。また、図14において、変速前のエンジン回転数をNePとし、変速前の第1電動機M1の回転数をA1としている。なお、ここで、第2電動機M2の回転数の上限値は、例えば、第2電動機M2の最高回転数や、有段変速部20のクラッチやブレーキの強度の上限値とされる(図15において同じ)。
【0088】
有段変速部20のアップシフトが行われた場合、無段変速部11ではダウンシフトが行われる。従って、もし、エンジン回転数をNePにしたまま、有段変速部20のアップシフトが行われた場合には、無段変速部11でダウンシフトが行われることで、変速後の第1電動機M1の回転数はB1となり、第1電動機M1の動作可能域を外れてしまう恐れがある。そこで、第2実施形態に係る制御方法では、ECU40は、有段変速部20のアップシフトを行うと同時に、エンジントルクを低下させて、エンジン回転数をNePからNeQへと低下させることとする。これにより、変速後の第1電動機M1の回転数はB2となる。ここで、エンジン回転数NeQは、第1電動機M1の回転数B2が第1電動機M1の動作可能域内に位置するように決められる。このようにすることで、無段変速部11のダウンシフトが行われた場合であっても、変速後の第1電動機の回転数を動作可能域内に収めることが可能となる。
【0089】
図15は、有段変速部20でダウンシフトが行われた時の無段変速部11の共線図である。図15において、変速前のエンジン回転数をNeQとし、変速前の第1電動機M1の回転数をB2としている。
【0090】
有段変速部20のダウンシフトが行われた場合、無段変速部11ではアップシフトが行われる。従って、もし、エンジン回転数をNeQにしたまま、有段変速部20のダウンシフトが行われた場合には、無段変速部11でアップシフトが行われることで、変速後の第1電動機M1の回転数はA2となり、第1電動機M1の動作可能域を外れてしまう恐れがある。そこで、第2実施形態に係る制御方法では、ECU40は、有段変速部20のダウンシフトを行うと同時に、エンジントルクを上昇させて、エンジン回転数をNeQからNePへと上昇させることとする。これにより、変速後の第1電動機M1の回転数はA1となる。ここで、エンジン回転数NePは、第1電動機M1の回転数A1が第1電動機M1の動作可能域内に位置するように決められる。このようにすることで、無段変速部11のアップシフトが行われた場合であっても、変速後の第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めることが可能となる。
【0091】
ここで、ECU40は、非等パワー変速中に、第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めるため、エンジン回転数を変化させる際に、変速速度に応じて、エンジントルクを変化させることとする。具体的には、ECU40は、変速速度に応じたエンジントルク変更量を求め、当該エンジントルク変更量分だけ余分にエンジントルクを変化させることとする。以下、図16〜図19を用いて具体的に説明する。
【0092】
まず、ECU40は、変速速度の度合いの基準となる変速毎の基準値を設定する。図16は、変速毎の基準値とエンジン回転数変化進行度との関係を示すグラフである。エンジン回転数変化進行度とは、変速完了時のエンジン回転数に対して、どのくらいエンジン回転数が近づいたかを示す尺度であり、変速開始前が0%とされ、変速完了時が100%とされる。また、図16では、一例として、基準値についても変速開始前が0%とされ、変速完了時が100%とされる。従って、例えば、非等パワー変速制御中において、エンジン回転数変化進行度が30%となっている場合には、基準値も30%となる。
【0093】
次に、ECU40は、実際の変速速度に基づいて、変速の進み度合いを示す変速進行度を求め、当該変速進行度と基準値との間の差を求める。ここで、実際の変速速度としては、例えば、第1電動機M1の回転数変化率が用いられる。実際の変速速度として、第1電動機M1の回転数変化率が用いられた場合、変速進行度は、変速完了時の第1電動機M1の回転数に対して、どのくらい第1電動機M1の回転数が近づいたかを示す尺度となり、変速開始前が0%とされ、変速完了時が100%とされる。ECU40は、変速進行度と基準値との間の差に基づいて、エンジントルク変更量を求める。
【0094】
有段変速部20のアップシフト時におけるエンジントルク変更量を求める方法について図17を用いて説明する。図17は、有段変速部20のアップシフト時における、エンジントルク変更量と、変速進行度と基準値との間の差との関係を示すグラフである。図17において、変速進行度と基準値との間の差をポイントとして示している(図18、19において同じ)。例えば、変速進行度が60%となっており、基準値が50%となっている場合には、60−50=10ポイントとなる。
【0095】
ECU40は、有段変速部20のアップシフト時において、変速進行度と基準値との間の差を基に、例えば、図17に示す関係をマップとして用いて、エンジントルク変更量を求める。具体的には、ECU40は、変速進行度が基準値よりも大きくなるほど、即ち、変速の進行が速くなるほど、トルクダウンさせるエンジントルク変更量を大きくして、エンジン回転数を早く低下させる。有段変速部20がアップシフトする場合には、変速が速すぎることが問題となる。つまり、変速中において、変速が速すぎることにより、第1電動機M1の回転数が動作可能域に収まらなくなる。一方、ECU40は、変速進行度が基準値よりも小さくなるほど、即ち、変速の進行が遅くなるほど、トルクアップさせるエンジントルク変更量を大きくする。
【0096】
有段変速部20のダウンシフト時におけるエンジントルク変更量を求める方法について図18を用いて説明する。図18は、有段変速部20のダウンシフト時における、エンジントルク変更量と、変速進行度と基準値との間の差との関係を示すグラフである。
【0097】
ECU40は、有段変速部20のダウンシフト時において、変速進行度と基準値との間の差を基に、例えば、図18に示す関係をマップとして用いて、エンジントルク変更量を求める。具体的には、ECU40は、変速進行度が基準値よりも大きくなるほど、即ち、変速の進行が速くなるほど、トルクアップさせるエンジントルク変更量を大きくして、エンジン回転数を早く上昇させる。一方、ECU40は、変速進行度が基準値よりも小さくなるほど、即ち、変速の進行が遅くなるほど、トルクダウンさせるエンジントルク変更量を大きくする。有段変速部20がダウンシフトする場合には、変速が遅すぎることが問題となる。つまり、変速中において、変速が遅すぎることにより、第1電動機M1の回転数が動作可能域に収まらなくなる。
【0098】
なお、有段変速部20のアップシフト時において、ECU40は、図17に示す関係をマップとして用いるとする代わりに、図19に示す関係をマップとして用いるとしても良い。この場合、ECU40は、変速進行度と基準値との間の差が所定値Pq1、Pq2を超えるまで、具体的には、変速進行度が基準値よりも所定値Pq1以上大きくなるまで、又は、変速進行度が基準値よりも所定値Pq2以上小さくなるまで、エンジントルクの変更を行わないとしている。そして、ECU40は、変速進行度と基準値との差が所定値Pq1、Pq2を超えたときに、エンジントルクの変更を行う。これは、通常、目標変速速度に追従するように変速速度が制御されることから、変速進行度と基準値との間の差が比較的小さい場合には、エンジントルクの変更を行わないとしているものである。ここで、所定値Pq1、Pq2は、予め実験などにより求められた適合値である。なお、有段変速部20のダウンシフト時においても同様に、ECU40は、変速進行度と基準値との間の差が所定値を超えるまでは、エンジントルクの変更を行わないとしても良いのは言うまでもない。
【0099】
このように、変速速度に応じて、エンジントルクを変更して非等パワー変速を行うことにより、第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めることが可能となる。
【0100】
次に、上述の変速制御方法について図20のタイムチャートを用いて説明する。
【0101】
図20は、時間を横軸にとり、エンジン回転数、エンジントルク、アクセル開度、第2電動機M2の回転数(MG2回転数)、有段変速部20の変速部油圧、第1電動機M1の回転数(MG1回転数)、および、車速を縦軸にとっている。図20において、破線で示すグラフは、通常の変速制御のグラフであり、実線で示すグラフは、変速速度が速すぎる場合における変速制御のグラフである。
【0102】
時刻ta1において、ECU40は、アクセル開度などに基づいて、非等パワー変速制御を行うことを判断する。図20に示す例では、第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へと変速する場合を示している。従って、変速制御中において、ECU40は、第3ブレーキB3の油圧を低下させるとともに、第2ブレーキB2の油圧を上昇させる。通常の変速制御の場合には、時刻ta1から時刻ta5にかけて変速制御が行われるのに対し、変速速度が速すぎる場合には、時刻ta1から時刻ta4(<時刻t5)にかけて変速制御が行われる。以下では、変速速度が速すぎる場合、即ち、実線で示すグラフについて説明する。
【0103】
有段変速部20は第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へとアップシフトされるので、無段変速部11はダウンシフトされることになる。従って、ここでは、図14で述べたように、ECU40は、エンジントルクを低下させ、エンジン回転数を低下させることで、第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めることとする。
【0104】
時刻ta2から時刻ta4にかけて、ECU40は、単位時間毎に、エンジン回転数を基に、エンジン回転数変化進行度を求め、例えば、図16に示した関係をマップとして用いて、基準値を求める。そして、ECU40は、第1電動機M1の回転数変化率に基づいて、実際の変速進行度を求め、基準値との比較を行う。
【0105】
時刻ta2において、ECU40は、実際の変速進行度と基準値との比較を行い、当該変速進行度が基準値よりも大きくなっていると判定している。そこで、ECU40は、当該変速進行度と基準値との間の差を基に、図17に示したマップを用いて、トルクダウンさせるエンジントルク変更量を求める。ECU40は、求められたエンジントルク変更量分だけ、エンジントルクを余分に低下させ、エンジン回転数を低下させる。
【0106】
時刻ta3において、ECU40は、実際の変速進行度と基準値との比較を行い、当該変速進行度が基準値よりも小さくなっていると判定している。そこで、ECU40は、当該変速進行度と基準値との間の差を基に、図17に示したマップを用いて、トルクアップさせるエンジントルク変更量を求める。ECU40は、求められたエンジントルク変更量分だけ、エンジントルクを余分に上昇させ、エンジン回転数の低下の度合いを小さくする。その後、時刻ta4において、ECU40は、変速制御を終了する。
【0107】
以上に述べたことから分かるように、変速速度に応じて、エンジン出力、具体的には、エンジントルクおよびエンジン回転数を変更して非等パワー変速を行うことにより、第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めることが可能となる。
【0108】
上述の第2実施形態に係る変速制御処理について図21を用いて説明する。図21に示すフローチャートでは、ECU40は、非等パワー変速制御が行われる場合において、変速速度に応じて、エンジントルクを変更することとする。
【0109】
まず、ステップS201において、ECU40は、変速制御を行う際において、例えば、車速と駆動力とを基に、非等パワー変速制御を行うか否かについて判定する。ECU40は、非等パワー変速制御を行うと判定した場合には(ステップS201:Yes)、ステップS202の処理へ進み、非等パワー制御を行わないと判定した場合には(ステップS201:No)、本制御処理をリターンする。
【0110】
ステップS202において、ECU40は、エンジン回転数を基に、エンジン回転数変化進行度を求め、例えば、図16に示した関係をマップとして用いて、基準値を求める。なお、このようにする代わりに、ECU40は、予め決めた目標の変速時間(例えば800msec)と有段変速部20における変速前後のギヤ比とから、目標のギヤ比変化速度を基準値として求めるとしても良い。この後、ECU40は、ステップS203の処理へ進む。
【0111】
ステップS203において、ECU40は、第1電動機M1の回転数変化率に基づいて、実際の変速進行度を求め、求められた実際の変速進行度と基準値との比較を行う。ここで、ECU40は、基準値よりも実際の変速進行度の方が大きい場合には、変速が速すぎることによる変速速度外れが発生したと判定し、基準値よりも実際の変速進行度の方が小さい場合には、変速が遅すぎることによる変速速度外れが発生したと判定する。なお、このようにする代わりに、ECU40は、目標のギヤ比変化速度を基準値とした場合には、有段変速部20のギヤ比の変速速度に基づいて、実際の変速進行度を求めて、当該変速進行度と基準値との比較を行うとしても良い。有段変速部20がアップシフトする場合には、変速が速すぎることによる変速速度外れが問題となり、有段変速部20がダウンシフトする場合には、変速が遅すぎることによる変速速度外れが問題となる。ECU40は、変速外れが発生したと判定した場合には(ステップS203:Yes)、ステップS204の処理へ進み、変速外れが発生していないと判定した場合には(ステップS204:No)、本制御処理をリターンする。
【0112】
ステップS204において、ECU40は、非等パワー変速制御によるエンジン出力変化に加えて、変速速度外れ分の調整を行う。具体的には、ECU40は、例えば、図17、図18に示した関係をマップとして用いて、エンジントルク変更量を求め、当該エンジントルク変更量分だけ、エンジントルクを変化させる。例えば、有段変速部20がアップシフトする場合には、ECU40は、エンジントルク変更量だけ余分にエンジントルクを低下させ、エンジン回転数を低下させる。一方、有段変速部20がダウンシフトする場合には、ECU40は、エンジントルク変更量だけ余分にエンジントルクを上昇させ、エンジン回転数を上昇させる。なお、このようにする代わりに、ECU40は、例えば、図19に示した関係をマップとして用いて、変速速度外れが所定値よりも大きくなった場合に、エンジントルクを変更するとしても良いのは言うまでもない。
【0113】
以上に述べたことから分かるように、第2実施形態に係る変速制御方法では、ECU40は、非等パワー変速制御を行う際において、変速速度に応じて、エンジン出力を変更する。これにより、第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めることが可能となり、第1電動機M1の出力に余裕を持たせるための大型化の必要がなくなり、コストを低減することが可能となる。
【0114】
[変形例]
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。
【0115】
例えば、第1実施形態に係る変速制御方法と第2実施形態に係る変速制御方法とを組み合わせるとしても良い。例えば、ECU40は、車両の運転状況に基づいて、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行うか、または、駆動力優先の非等パワー変速を行うか、を決定し、決定した非等パワー変速を行う際に、変速速度に応じて、エンジン出力を変更するとしても良い。
【0116】
また、本発明を適用可能な装置構成としては、図1に示した動力伝達装置に限られるものではない。この代わりに、例えば、図22に示す動力伝達装置にも本発明を適用可能である。
【0117】
図22(a)に示す動力伝達装置は、電動機M1、M2と、無段変速部11bと、有段変速部20bとを有する。無段変速部11bは、シングルピニオン型の遊星歯車機構であり、サンギヤSB1と、遊星歯車PB1と、リングギヤRB1とを有する。有段変速部20bは、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であり、サンギヤSB2と、遊星歯車PB2a、PB2bと、リングギヤRB2とを有する。
【0118】
遊星歯車PB1は、エンジン8bに一端が接続されたキャリヤCB1の他端に接続されている。第1電動機M1の回転軸は、サンギヤSB1に接続されている。また、第1電動機M1の回転軸は、ブレーキB−0を介してケースに接続され、クラッチC−0を介してキャリヤCB1に接続されている。リングギヤRB1は、有段変速部20bのサンギヤSB2および第2電動機M2の回転軸と接続されている。
【0119】
遊星歯車PB2a、PB2bは、キャリヤCB2の一端に接続されている。キャリヤCBの他端は、ブレーキB−1を介してケースに接続され、クラッチC−1を介して第2電動機M2の回転軸と接続されている。リングギヤRB2は、駆動軸22bと接続されている。
【0120】
図22(b)は、図22(a)に示した動力伝達装置の係合作動表を示している。図22(b)に示すように、クラッチC−1またはブレーキB−1の係合によりEVT(モータ走行モード)となる。また、クラッチC−0およびブレーキB−1の係合により第1ギヤ段が成立し、ブレーキB−0およびB−1の係合により第2ギヤ段が成立する。クラッチC−0およびC−1の係合により第3ギヤ段が成立し、クラッチC−1およびブレーキB−0の係合により第4ギヤ段が成立する。
【0121】
図22に示す動力伝達装置に対しても、非等パワー変速制御を行う際において、運転状況に応じて、エンジン回転数の低下量を決定することにより、ドライバの要求を満足する変速を行うことができ、ドライバビリティを向上させることができる。また、非等パワー変速制御を行う際において、変速速度に応じて、エンジン出力を変更することで、第1電動機M1の出力に余裕を持たせるための大型化の必要がなくなり、コストを低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0122】
8 エンジン
10 動力伝達装置
11 無段変速部
20 有段変速部
34 油圧制御装置
40 ECU
M1、M2 電動機
C1、C2、B1、B2、B3 摩擦係合装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備えられる動力伝達装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、以下の特許文献1には、電気式差動部と変速部とを備えた車両用駆動装置の制御装置において、電動機、車両用駆動装置各部の潤滑および冷却等に用いられる作動油(オートマチックトランスミッションフルード:ATF)の温度情報を抑制する為に、等パワー変速から非等パワー変速へとエンジンの動作点を変更する技術が記載されている。また、以下の特許文献2には、第1変速部と第2変速部とを備えた自動変速機の変速制御装置において、第1変速部の変速比を変化させる際に、第1変速部の変速の進行状態に応じて第2変速部の変速速度を設定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−143431号公報
【特許文献2】特開2007−118727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非等パワー変速を行う際において、車両の運転状態によっては、エンジン回転数またはエンジントルクの変化によってドライバビリティが低下する恐れがある。この点について、特許文献1又は2には何ら記載されていない。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、非等パワー変速におけるドライバビリティの低下を防ぐことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、原動機と、電動機と、有段変速部と、前記電動機により差動状態が制御される無段変速部と、を有する車両用の動力伝達装置の制御装置であって、前記有段変速部の変速を行う際に、非等パワー変速を行う制御手段を備え、前記制御手段は、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における変速速度を変化させる。
【0007】
動力伝達装置の制御装置は、原動機と、電動機と、有段変速部と、前記電動機により差動状態が制御される無段変速部と、を有する車両用の動力伝達装置に適用される。ここで、原動機とは、例えばエンジンなどの内燃機関である。動力伝達装置の制御装置は、例えばECU(Electronic Controlled Unit)により実現される制御手段を備える。制御手段は、有段変速部の変速を行う際に、非等パワー変速を行うことが可能であり、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における変速速度を変化させる。具体的には、制御手段は、無段変速部の変速速度を変化させる。このようにすることで、ドライバの要求を満足する変速を行うことができ、ドライバビリティを向上させることができる。
【0008】
上記の動力伝達装置の制御装置の好適な実施例では、前記制御手段は、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における前記原動機の回転数変化量を決定し、決定された当該回転数変化量分だけ前記原動機の回転数を変化させる制御を行う。
【0009】
上記の動力伝達装置の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、車両の運転状況に応じて、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードと、駆動力を優先するモードとのうち、いずれか一方のモードで非等パワー変速を行う。これにより、ドライバの要求を満足する変速を確実に行うことができる。
【0010】
上記の動力伝達装置の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、アクセル開度が所定値よりも大きいときに、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードで非等パワー変速を行う。これにより、非等パワー変速が行われる場合において、アクセル開度が所定値よりも大きくなったときのエンジン回転数低下を抑えることができる。
【0011】
上記の動力伝達装置の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、変速速度に応じて、前記原動機の出力を変更して非等パワー変速を行う。これにより、電動機の出力に余裕を持たせるための大型化の必要がなくなり、コストを低減することが可能となる。
【0012】
上記の動力伝達装置の制御装置の好適な実施例では、前記制御手段は、前記電動機の回転数変化率を変速速度とする。
【0013】
上記の動力伝達装置の制御装置の好適な実施例では、前記制御手段は、前記電動機の回転数と動力伝達装置の出力軸回転数の比の変化率を変速速度とする。
【0014】
上記の動力伝達装置の好適な実施例では、前記制御手段は、前記変速速度に基づいて、変速の進み度合いを示す変速進行度を求め、前記原動機の回転数に基づいて、基準値を求め、前記変速進行度と前記基準値との差が所定値以上になる場合に、前記原動機のトルクを変更する。
【0015】
上記の動力伝達装置の好適な実施例では、前記制御手段は、前記変速速度に基づいて、変速の進み度合いを示す変速進行度を求め、前記原動機の回転数に基づいて、基準値を求め、前記変速進行度と前記基準値との差が所定値以内になるように前記原動機のトルクをフィードバック制御する。
【0016】
上記の動力伝達装置の好適な実施例では、前記制御手段は、車両の運転状況に応じて、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードと、駆動力を優先するモードとのうち、いずれか一方のモードで非等パワー変速を行う。
【発明の効果】
【0017】
原動機と、電動機と、有段変速部と、前記電動機により差動状態が制御される無段変速部と、を有する車両用の動力伝達装置の制御装置であって、前記有段変速部の変速を行う際に、非等パワー変速を行う制御手段を備え、前記制御手段は、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における変速速度を変化させる。このようにすることで、ドライバの要求を満足する変速を行うことができ、ドライバビリティを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る動力伝達装置の構成図である。
【図2】摩擦係合装置における係合作動表を示す図である。
【図3】動力伝達装置における各回転要素の回転速度の相対関係を示す共線図である。
【図4】ECUに入力される信号およびECUから出力される信号の一例である。
【図5】有段変速部の変速制御で使用される変速線図である。
【図6】シフトポジションの配列を示す図である。
【図7】等パワー変速領域と非等パワー変速領域を示す図である。
【図8】非等パワー変速制御が行われた場合における電力経路を示す図である。
【図9】車速と駆動力の関係を示すグラフである。
【図10】エンジン回転数低下量と変速後駆動力との関係を示すグラフである。
【図11】第1実施形態に係る非等パワー変速制御が行われるときのタイムチャートである。
【図12】第1実施形態に係る変速制御処理を示すフローチャートである。
【図13】第1電動機の出力可能領域を示している。
【図14】有段変速部でアップシフトが行われた時の無段変速部の共線図である。
【図15】有段変速部でダウンシフトが行われた時の無段変速部の共線図である。
【図16】基準値とエンジン回転数変化進行度との関係を示すグラフである。
【図17】有段変速部のアップシフト時におけるエンジントルク変更量を求める方法を示す図。
【図18】有段変速部のダウンシフト時におけるエンジントルク変更量を求める方法を示す図。
【図19】有段変速部のアップシフト時におけるエンジントルク変更量を求める他の方法を示す図。
【図20】第2実施形態に係る非等パワー変速制御が行われるときのタイムチャートである。
【図21】第2実施形態に係る変速制御処理を示すフローチャートである。
【図22】本発明を適用可能な動力伝達装置の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0020】
[装置構成]
まず、各実施形態に係る車両の動力伝達装置10の構成の一例について図1を用いて説明する。
【0021】
図1は、車両の動力伝達装置10の構成図である。動力伝達装置10は、主に、入力軸14と、トルクリミッタ付きダンパー51と、無段変速部11と、有段変速部20と、出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えばハイブリッド車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものである。動力伝達装置10は、走行用の駆動力源たるエンジン8と一対の駆動輪(図示せず)との間に設けられている。エンジン8は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、入力軸14に連結されている。駆動輪は出力軸22に連結されている。動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1においてはその下側が省略されている。入力軸14は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材である。無段変速部11は、この入力軸14に対し、トルクリミッタ付きダンパー51を介して間接に連結された電気的な変速部である。有段変速部20は、その無段変速部11と駆動輪(図示せず)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式の変速機として機能する変速部である。駆動軸22は、この有段変速部20に連結されている出力回転部材である。
【0022】
無段変速部11は、第1電動機M1と、動力分配機構16と、第2電動機M2と、を備える。動力分配機構16は、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構として機能する。第2電動機M2は、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から駆動輪までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有するいわゆるモータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
【0023】
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24を主体として構成されている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
【0024】
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は、トルクリミッタ付きダンパー51を介して入力軸14に連結され、第1サンギヤS1は、第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は、伝達部材18に連結されている。動力分配機構16は、第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が働く差動状態とされる。そのため、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギが蓄電され、または、第2電動機M2が回転駆動される。これにより、無段変速部11(動力分配機構16)は、いわゆる無段変速状態(電気的CVT状態)とされ、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転を連続的に変化させることが可能となる。
【0025】
有段変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、および、シングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備えている。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、および、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
【0026】
有段変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結されている。第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とは一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とは一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0027】
第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置である。これらの油圧式摩擦係合装置は、油圧を加えることにより、2つの部材(例えばクラッチ)間の間に摩擦力を発生させ、当該2つの部材を互いに係合する装置である。油圧式摩擦係合装置としては、例えば、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどを有し、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0028】
また、車両は、第1コントローラ31と、第2コントローラ32と、蓄電装置33と、油圧制御装置34と、ECU(Electronic Controlled Unit)40と備える。
【0029】
第1コントローラ31は、第1電動機M1を制御するためのものであり、第2コントローラ32は、第2電動機M2を制御するためのものである。これらのコントローラ31、32は、例えばインバータを主体として構成され、それぞれに対応する電動機M1、M2とを電動機として機能させ、あるいは発電機として機能させるように制御し、併せてそれぞれの場合における回転数やトルクを制御するように構成されている。また、各電動機M1、M2は、各コントローラ31、32を介して蓄電装置33に接続されている。この蓄電装置33は、各電動機M1、M2に電力を供給し、また各電動機M1、M2が発電機として機能した場合に、その電力を充電して蓄える装置であって、二次電池(バッテリ)およびキャパシタから構成されている。
【0030】
油圧制御装置34は、各クラッチやブレーキの係合圧や解放圧を制御するためのものである。油圧制御装置34は、オイルポンプ(図示せず)で発生した油圧をライン圧に調圧するとともに、そのライン圧を元圧として各摩擦係合装置の係合圧を制御し、あるいは摩擦係合装置を解放させる際の解放圧を制御する。この油圧制御装置34としては、具体的には従来の自動変速機で使用されている油圧制御装置を採用することができる。
【0031】
ECU40は、後に詳しく説明するが、CPU、R0M、RAMおよび入出カインターフェースなどを有し、各コントローラ31、32や油圧制御装置34を電気信号によって制御することにより、動力伝達装置10の全体を制御する。
【0032】
以上のように構成された動力伝達装置10では、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段:1st)ないし第4速ギヤ段(第4変速段:4th)のいずれかあるいは後進ギヤ段(後進変速段:R)あるいはニュートラル(N)が選択的に成立し、ほぼ等比的に変化する変速比Y(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度N0UT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。図2において、これらの係合作動表を示している。図2に示す係合作動表において、丸印は係合状態になることを示し、無印は解放状態になることを示している。
【0033】
図2の係合作動表に示すように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により第1速ギヤ段(1st)が成立し、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により第2速ギヤ段(2nd)が成立し、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により第3速ギヤ段(3rd)が成立する。また、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により第4速ギヤ段(4th)が成立し、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により後進ギヤ段(変速機によるRev)が成立する。ここで、図2に示すように、車両を後進させるモードとしては、上述の有段変速部20に後進ギヤ段よるモードの他、第2電動機M2によるモード(M2によるRev)もある。この場合には、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合が成立した状態で、車両が後進するように第2電動機M2を逆回転させる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、全ての係合機構が解放される。
【0034】
図3は、動力伝達装置10における各回転要素の回転速度の相対関係を示す共線図である。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標である。図3において、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度「0」を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Neを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0035】
また、無段変速部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものである。縦線Y1、Y2、Y3の間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、有段変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素RE4、第5回転要素RE5、第6回転要素RE6、第7回転要素RE7、第8回転要素RE8を示している。ここで、第4回転要素RE4は、相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3であり、第5回転要素RE5は、第2キャリヤCA2であり、第6回転要素RE6は、第4リングギヤR4である。また、第7回転要素RE7は、相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4であり、第8回転要素RE8は、相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4である。縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8の間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とするとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔となる。すなわち、無段変速部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、有段変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がギヤ比ρに対応する間隔に設定される。
【0036】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、動力伝達装置10は、動力分配機構16(無段変速部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤC A1)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されている。これにより、入力軸14の回転は、伝達部材18を介して有段変速部20へ伝達される。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
【0037】
また、第1電動機M1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転速度を上昇あるいは下降させると、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が下降あるいは上昇する。
【0038】
また、有段変速部20において、第4回転要素RE4は、第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。第5回転要素RE5は、第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は、第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結されている。第7回転要素RE7は、出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は、第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0039】
有段変速部20では、先にも述べたように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により第1速ギヤ段(1st)が成立する。このとき、第6回転要素RE6の回転速度は「0」となり、第8回転要素RE8の回転速度は第3回転要素RE3の回転速度と等しくなる。従って、図3でいうと、縦線Y8と横線XGとの交点と、縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1が、第1速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L1と縦線Y7との交点が第1速ギヤ段のときの出力軸22の回転速度を示している。
【0040】
第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により第2速ギヤ段(2nd)が成立する。このとき、第5回転要素RE5は「0」となり、第8回転要素RE8の回転速度は第3回転要素RE3の回転速度と等しくなる。従って、図3でいうと、縦線Y8と横線XGとの交点と、縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L2が、第2速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L2と縦線Y7との交点が第2速ギヤ段のときの出力軸22の回転速度を示している。
【0041】
第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により第3速ギヤ段(3rd)が成立する。このとき、第4回転要素RE4は「0」となり、第8回転要素RE8の回転速度は第3回転要素RE3の回転速度と等しくなる。従って、図3でいうと、縦線Y8と横線XGとの交点と、縦線Y4と横線X1との交点とを通る斜めの直線L3が、第3速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L3と縦線Y7との交点が第3速ギヤ段のときの出力軸22の回転速度を示している。
【0042】
第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により第4速ギヤ段(4th)が成立する。このとき、第4回転要素RE4および第8回転要素RE8の回転速度は第3回転要素RE3の回転速度と等しくなる。従って、図3でいうと、横線XGに沿った直線L4が、第4速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L4と縦線Y7との交点が第4速ギヤ段のときの出力軸22の回転速度を示している。
【0043】
第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により変速機による後進ギヤ段(Rev)が成立する。このとき、第4回転要素RE4の回転速度は第3回転要素RE3の回転速度と等しくなり、第6回転要素RE6の回転速度は「0」となる。従って、図3でいうと、縦線Y4と横線XGとの交点と、縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線LRが、後進ギヤ段の共線図となる。なお、直線LRと縦線Y7との交点が後進ギヤ段のときの出力軸22の回転速度を示している。
【0044】
次に、ECU40の制御について図4を用いて説明する。図4は、ECU40に入力される信号およびECU40から出力される信号を例示している。
【0045】
ECU40は、CPU、R0M、RAM、および入出カインターフェースなどから成るいわゆるマイクロコンピュータを含んで構成されている。ECU40は、RAMの一時記憶機能を利用しつつR0Mに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、有段変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。ECU40は、図4左側に示すような各センサやスイッチなどから信号を受信し、受信した信号に基づいて、図4右側に示すような制御信号を各装置に送信する。
【0046】
ECU40は、図4左側に示すような各センサやスイッチなどから信号を受信する。例えば、ECU40は、エンジン水温センサよりエンジン水温を示す信号を受信し、Pb1油圧センサより第1ブレーキB1の油圧を示す信号を受信し、Pb2油圧センサより第2ブレーキB2の油圧を示す信号を受信し、Pb3油圧センサより第3ブレーキB3の油圧を示す信号を受信する。ECU40は、M1回転速度センサより第1電動機の回転速度を示す信号を受信し、M2回転速度センサより第2電動機の回転速度を示す信号を受信し、クランク角センサよりエンジン回転数Neを示す信号を受信する。ECU40は、トーイングスイッチよりトーイングモードを指示する信号を受信し、M(モータ走行)モードスイッチよりMモードを指示する信号を受信し、エアコンスイッチよりエアコンの作動を示すエアコン信号を受信し、車速センサより出力軸22の回転速度に対応する車速を示す信号を受信する。
【0047】
また、ECU40は、AT油温センサより有段変速部20の作動油温(AT油温)を示す油温信号を受信し、ECTスイッチよりECT(Electronic Controlled Transmission)モード設定を示す設定信号を受信し、サイドブレーキスイッチよりサイドブレーキ操作を示す信号を受信し、フットブレーキスイッチよりフットブレーキ操作を示す信号を受信し、触媒温度センサより触媒温度を示す触媒温度信号を受信し、アクセル開度センサより運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量を示すアクセル開度信号を受信する。ECU40は、EVスイッチより電気走行モードを示す信号を受信し、スノーモードスイッチよりスノーモード設定を示すスノーモード設定信号を受信し、車両加速度センサより車両の前後加速度を示す加速度信号を受信する。ECU40は、オートクルーズ設定スイッチよりオートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号を受信し、パワーモード設定スイッチよりパワーモード設定を示す設定信号を受信し、シフトポジションセンサよりシフトポジションを表す信号を受信する。また、ECU40は、車速センサより駆動輪の車輪速を示す検出信号を受信し、ABSセンサより車体速を示す検出信号を受信し、スピードモード設定スイッチよりスピードモード設定を示すスピードモード設定信号を受信する。
【0048】
ECU40は、図4右側に示すような各装置に対して制御信号を送信する。例えば、ECU40は、電子スロットル弁の開度を操作するための制御信号をスロットルアクチュエータに送信し、過給圧を調整するための制御信号をターボチャージャへ送信し、電動エアコンを作動させるための制御信号を電動エアコンに送信し、エンジン8の点火時期を指令する制御信号を点火装置に送信する。ECU40は、電動機M1、M2の作動を指令する制御信号を第1及び第2コントローラに送信し、蓄電可能な及び放電可能な電力量を調整するための制御信号を蓄電装置に送信し、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号をギヤ比インジケータに送信し、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号をスノーモードインジケータに送信する。ECU40は、油圧を調整するための制御信号をATライン圧コントロールソレノイド、ATソレノイドに送信し、制動時の車輸のスリップを防止するためのABS作動信号をABSアクチュエータに送信し、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号をMモードインジケータに送信する。ECU40は、油圧制御装置34の油圧源である機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプを作動させるための制御信号を機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプに送信する。ECU40は、電動ヒータを駆動するための制御信号を電動ヒータに送信し、クルーズコントロールのための制御信号をクルーズコントロール制御用コンピュータに送信し、エンジン8の気筒内に供給される燃料噴射量を調整するための制御信号を燃料噴射装置に供給する。
【0049】
図5は、有段変速部20の変速制御で使用される変速線図を示しており、車速を横軸にとり、駆動力を縦軸にとって、これら車速および駆動力をパラメータとして変速段領域が定められている。
【0050】
図5における実線は、アップシフト線を示し、アップシフトする際の各変速段領域の境界となっている。また、図5における破線は、ダウンシフト線を示し、ダウンシフトする際の各変速段領域の境界となっている。また、一点鎖線で囲まれる領域は、モータ走行領域となっており、エンジン8が作動していない状態で、例えば電動機M2により走行が行われる。これらの変速段の全ては、ドライブレンジ(ドライブポジション)が選択されている場合に設定可能であるが、手動変速モード(マニュアルモード)では高速側の変速段が制限されるようになっている。
【0051】
図6は上記のECU40に対してシフトポジション信号を出力するシフト装置42におけるシフトポジションの配列を示しており、車両を停止状態に維持するパーキング(P)、後進段(R:リバース)、ニュートラル(N)、ドライブ(D)の各ポジションがほぼ直線的に配列されている。この配列方向は、例えば車両の前後方向に沿う方向である。そのドライブポジションに対して車両の幅方向で隣接する位置にマニュアルポジション(M)が設けられ、そのマニュアルポジションを挟んで車両の前後方向での両側にアップシフトポジション(+)とダウンシフトポジション(−)とが設けられている。これらの各シフトポジションは、シフトレバー43を案内するガイド溝44によって連結されており、したがってシフトレバー43をガイド溝44に沿って移動させることにより適宜のシフトポジションが選択され、その選択されたシフトポジション信号がECU40に入力されるようになっている。
【0052】
そして、ドライブポジションが選択された場合には、有段変速部20での第1速ギヤ段から第4速ギヤ段の全ての前進段が走行状態に応じて設定されるようになっている。これに対して、ドライブポジションからマニュアルポジションにシフトレバー43を移動させた状態ではドライブポジションが維持され、第4速ギヤ段までの変速が可能であるが、この状態から1回ダウンシフトポジションにシフトレバー43を移動する都度、ダウンシフト信号(ダウンレンジ信号)が出力され、第4速ギヤ段以上が禁止された3レンジ、第3速ギヤ段以上が禁止された3レンジ、第1速ギヤ段に固定されるLレンジに切り替えられるようになっている。なお、アップシフトポジションを選択する都度、アップシフト信号(アップレンジ信号)が出力されて、順次、高速側のレンジに切り替えられるようになっている。
【0053】
上記動力伝達装置10では、駆動トルクに関する要求を満たしつつエンジン8を燃費が最適な回転数で運転し、さらに電力への変換を少なくして動力伝達効率の良い走行を行うために、車速が所定の幅の範囲内ではその車速に応じた変速段を有段変速部20で設定し、その状態で第1電動機M1によって無段変速部11の変速比を連続的に変化させる。これに対して、図5に変速線図で示す変速段領域を渡って走行状態が変化した場合、有段変速部20がその変速線図に従って変速される。具体的には、図2に示す各変速段に応じて摩擦係合装置が係合・解放させられる。このような有段変速部20での変速では、変速比がステップ的に変化するので、エンジン回転数の変化を防止もしくは抑制するために、無段変速部11の変速比は、有段変速部20での変速比の変化とは反対方向に変化させられる。例えば、有段変速部20でダウンシフトすると、その変速比の増大によって、図1に示す入力部材である第8回転要素RE8(第3リングギヤR3と第4サンギヤS4)の回転数が増大するので、その第8回転要素RE8に第1クラッチC1を介して連結されている第1リングギヤR1の回転数が同様に増大するように、第2電動機M2の回転数が増大させられる。即ち、無段変速部11はアップシフトする。それとは反対に、有段変速部20でアップシフトすると、無段変速部11はダウンシフトする。
【0054】
ここで、変速制御の具体的な方法としては、変速中に駆動力変化が起こらないように制御される等パワー変速制御と、駆動力は低下するものの、第1電動機M1の出力は定格出力範囲内に収まるように制御される非等パワー変速制御の2つの方法がある。ECU40は、変速制御の際において、例えば、車速と駆動力とに応じて、上述の2つの変速制御方法のうち、いずれかの方法をとる。以下、図7を用いて具体的に説明する。
【0055】
図7は、等パワー変速制御が行われる領域(以下、「等パワー変速領域」と称する)と非等パワー変速制御が行われる領域(以下、「非等パワー変速領域」と称する)を示している。図7において、車速が横軸で示され、駆動力が縦軸で示されており、等パワー変速領域と非等パワー変速領域との境界がグラフ101で示されている。具体的には、グラフ101の右側の領域が非等パワー変速領域であり、グラフ101の左側の領域が等パワー変速領域である。グラフ101は、予め実験などによって求められた適合値であり、変速前後の駆動力変化と第1電動機M1の定格出力値とのトレードオフによって決められる。図7を見ると分かるように、走行パワーが比較的高い高パワー域では、非等パワー変速領域となっており、走行パワーが比較的低い中パワー域および低パワー域では等パワー変速領域となっている。
【0056】
ECU40は、変速制御を行う際において、図7に示す関係を例えばマップとして有し、車速と駆動力とに応じて、当該マップを用いて、等パワー変速制御を行うか、非等パワー変速制御を行うかを決定する。具体的には、図7に示すように、変速制御が行われる際において、車速と駆動力とで決まる走行パワーが高パワー域にある場合には、非等パワー変速とされ、走行パワーが中パワー域または低パワー域にある場合には、等パワー変速とされる。等パワー変速制御が行われる場合には、エンジン回転数を一定にした変速制御が行われるため、変速前後でエンジン動作点が変化せず、変速に伴う燃費の悪化を防ぐことができる。以下に述べる各実施形態では、非等パワー変速制御の具体的な方法について説明する。
【0057】
[第1実施形態]
最初に、第1実施形態に係る変速制御方法について説明する。
【0058】
非等パワー変速制御では、エンジン回転数を低下させることで、変速後の駆動力の低下を抑えるような、即ち、駆動力を優先した制御が行われる。しかしながら、このような非等パワー変速を行った場合、運転状況によっては、エンジン回転数低下が駆動力低下の印象をドライバに与えることがあり、ドライバビリティが低下する恐れがある。
【0059】
そこで、第1実施形態に係る動力伝達装置の制御方法では、ECU40は、変速を行う際において、運転状況に応じて、例えば、ドライバにより指定された運転モード、アクセル開度や走行状況に応じて、無段変速部11の変速速度を変化させる、具体的には、エンジン回転数の低下量を決定する。より詳細には、ECU40は、運転モードに応じて、エンジン回転数の低下を抑えたモードであるエンジン回転数優先の非等パワー変速を行うか、または、駆動力を優先したモードである駆動力優先の非等パワー変速を行うか、を決定することとする。
【0060】
まず、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合および駆動力優先の非等パワー変速を行う場合の各制御方法について図8〜図10を用いて説明する。
【0061】
最初に、エンジン回転数優先の非等パワー変速および駆動力優先の非等パワー変速の各制御が行われた場合における電力経路について図8を用いて説明する。
【0062】
図8において、横軸のNeはエンジン回転数を示し、Naxlは駆動軸の回転数を示している。従って、Ne/Naxlはトータルギヤ比を示している。また、縦軸のPeはエンジンパワーを示し、Pmは電動機パワーを示している。従ってPm/Peはエンジンパワーに対する電動機パワーの比率(以下、「パワー比」と称する)を示している。また、破線で示すグラフ201aは、第1速ギヤ段における第1電動機M1のパワー比を示し、グラフ201bは、第1速ギヤ段における第2電動機M2のパワー比を示している。一方、実線で示すグラフ202aは、第2速ギヤ段における第1電動機M1のパワー比を示し、グラフ202bは、第2速ギヤ段における第2電動機M2のパワー比を示している。つまり、各グラフは、エンジンパワーのうち、電動機により伝達されるパワーの割合を示している。
【0063】
図8において、実線矢印は、第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へと変速が行われる際において、駆動力優先の非等パワー変速が行われたときの第1電動機M1へ供給される電力の電力経路を示している。一方、破線矢印は、第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へと変速が行われる際において、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われたときの第1電動機M1へ供給される電力の電力経路を示している。点Aでは、変速ギヤ段は第1速ギヤ段に設定され、点B、Cでは、変速ギヤ段は第2速ギヤ段に設定される。図8に示すように、駆動力優先の非等パワー変速が行われる場合には、点Aから点Cに直接向かう電力経路をとるのに対し、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われる場合には、点Aから点Bを介して点Cへ向かう電力経路をとる。
【0064】
点Aでは、トータルギヤ比は4.3程度となっており、パワー比は0.1程度となっている。点Cでは、トータルギヤ比は3.4程度となっており、パワー比は−0.18程度となっている。トータルギヤ比が3.4程度となるときの第2速ギヤ段における第1電動機M1のパワー比は−0.3程度となっており、このパワー比と点Cにおけるパワー比とを比較すると、0.12程度の差があることが分かる。それに対し、点Bでは、トータルギヤ比は4.1程度となっており、パワー比は−0.18程度となっている。トータルギヤ比が4.1程度となるときの第2速ギヤ段における第1電動機M1のパワー比は−0.38程度となっており、このパワー比と点Bにおけるパワー比とを比較すると、0.2程度の差があることが分かる。つまり、点Cと比較して、点Bでは、第1電動機M1に伝達されるパワー比が低下するため、その分、エンジンパワーも低下させる必要がある。従って、点Aから点Cに直接向かう電力経路と比較して、点Aから点Bを介して点Cに向かう電力経路の方がエンジン回転数は低くなる。
【0065】
図9は、車速と駆動力の関係を示すグラフである。図9において、実線で示すグラフが、駆動力優先の非等パワー変速が行われた場合のグラフを示し、破線で示すグラフが、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われた場合のグラフを示している。図9を見ると分かるように、車速がV1からV2の間にある場合には、駆動力優先の非等パワー変速が行われた場合の駆動力と比較して、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われた場合の駆動力は低くなっている。
【0066】
ここで、エンジン回転数優先の場合の非等パワー変速および駆動力優先の場合の非等パワー変速の各制御が行われる際において、エンジン回転数の低下量は、運転状態に応じて決められる。図10は、エンジン回転数低下量と変速後駆動力との関係を示すグラフである。図10に示すように、エンジン回転数低下量が所定の値ΔNeAとなるまでは、エンジン回転数低下量が大きくなるほど、変速後駆動力は大きくなる。エンジン回転数低下量が値ΔNeAを超えてから値ΔNeBとなるまでは、エンジン回転数が低下しても、変速後駆動力は一定となる。これは、第1電動機M1により伝達されるパワーの低下に起因するエンジンパワーの低減を実施せずに済むからである。エンジン回転数低下量が値ΔNeBを超えると、エンジンパワー低下により変速後駆動力は低下する。
【0067】
次に、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合および駆動力優先の非等パワー変速を行う場合の各制御方法について図11のタイムチャートを用いて説明する。
【0068】
図11は、時間を横軸にとり、有段変速部20のギヤ段、有段変速部20のギヤ比、無段変速部11のギヤ比、トータルギヤ比Ne/Naxl、エンジン回転数Ne、エンジントルクTe、エンジンパワーPe、および、駆動力を縦軸にとっている。図11において、破線で示すグラフが、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われるときのグラフを示し、実線で示すグラフが、駆動力優先の非等パワー変速が行われるときのグラフを示している。
【0069】
時刻t1から時刻t2において、ECU40は、有段変速部20のギヤ段を第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へと切り替えて、有段変速部20のギヤ比を1.901から1.000へと変化させる。このとき、ECU40は、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合には、無段変速部11のギヤ比は0.639から1.042へと変化させ、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合には、無段変速部11のギヤ比を0.639から1.159へと変化させる。
【0070】
時刻t1から時刻t2において、ECU40は、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合には、トータルギヤ比Ne/Naxlを4.300から3.400へと変化させる。この変化は、図8で言うと、電力経路が点Aから点Cへと変化することを示している。一方、時刻t1から時刻t2において、ECU40は、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合には、トータルギヤ比Ne/Naxlを4.300から4.105へと変化させる。この変化は、図8で言うと、電力経路が点Aから点Bへと変化することを示している。従って、図8でも述べたように、時刻t2において、駆動力優先の非等パワー変速が行われる場合と比較して、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われる場合には、エンジンパワーは低く設定される。
【0071】
時刻t1から時刻t2において、ECU40は、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合には、エンジン回転数NeをΔNeAだけ低下させ、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合には、エンジン回転数NeをΔNeBだけ低下させる。ここで、エンジン回転数低下量ΔNeA、ΔNeBは、運転状況に応じて決定され、エンジン回転数低下量ΔNeAと比較して、エンジン低下量ΔNeBは小さくなるように設定される。それに応じて、ECU40は、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合と比較して、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合には、エンジントルクTeの低下量をより大きくする。従って、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われる場合と比較して、駆動力優先の非等パワー変速が行われる場合の方が、時刻t2における駆動力の低下量は小さくなる。
【0072】
この後、時刻t2から時刻t4にかけて、ECU40は、エンジン回転数およびエンジントルクを上昇させ、変速前のエンジン回転数およびエンジントルクに戻して、変速制御を終了する。このとき、ECU40は、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行う場合には、時刻t2から時刻t4にかけて、エンジン回転数およびエンジントルクを上昇させているのに対し、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合には、時刻t2から時刻t3(<時刻t4)にかけて、エンジン回転数およびエンジントルクを上昇させている。これは、回転数優先の非等パワー変速を行う場合と比較して、駆動力優先の非等パワー変速を行う場合には、駆動力をなるべく早く上昇させる必要があるためである。つまり、ECU40は、エンジン回転数優先の非等パワー変速と駆動力優先の非等パワー変速を行うときとで、変速速度を異ならせる。即ち、ECU40は、運転状況に応じて、無段変速部11の変速速度を変化させる。
【0073】
以上に述べたことから分かるように、駆動力優先の非等パワー変速が行われる場合と比較して、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われる場合には、変速時におけるエンジン回転数の低下を抑えることができる。エンジン回転数優先の非等パワー変速を行うことにより、エンジン回転数低下による駆動力低下の印象をドライバに与えるのを防ぐことができ、ドライバは小気味良いドライバビリティを体感することができる。
【0074】
上述の第1実施形態に係る変速制御処理について図12を用いて説明する。図12に示すフローチャートでは、ECU40は、非等パワー変速制御が行われる場合において、ドライバにより指定された運転モードに応じて、エンジン回転数優先の非等パワー変速制御を行うか、または、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うか、を決定する。
【0075】
まず、ステップS101において、ECU40は、変速制御を行う際において、例えば、車速と駆動力とを基に、非等パワー変速制御を行うか否かについて判定する。ECU40は、非等パワー変速制御を行うと判定した場合には(ステップS101:Yes)、ステップS102の処理へ進み、非等パワー制御を行わないと判定した場合には(ステップS101:No)、本制御処理をリターンする。
【0076】
ステップS102において、ECU40は、ドライバにより指示された運転モードがスポーツモードになっているか否かについて判定する。スポーツモードは、比較的高いエンジン回転数の保持を要求するモードである。ECU40は、運転モードがスポーツモードになっていると判定した場合には(ステップS102:Yes)、ステップS103の処理へ進み、スポーツモードになっていないと判定した場合には(ステップS102:No)、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うこととして、ステップS105の処理へ進む。
【0077】
ステップS103において、ECU40は、アクセル開度センサからの検出信号に基づいて、アクセル開度が閾値よりも大きいか否かについて判定する。ECU40は、アクセル開度が閾値よりも大きいと判定した場合には(ステップS103:Yes)、エンジン回転数優先の非等パワー変速制御を行うこととして、ステップS104の処理へ進み、アクセル開度が閾値以下であると判定した場合には(ステップS103:No)、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うこととして、ステップS105の処理へ進む。これは、駆動力優先の非等パワー変速制御が行われる場合において、アクセル開度が大きくなるほど、エンジン回転数低下量が大きくなるためである。つまり、このようにすることで、アクセル開度が閾値よりも大きくなったときのエンジン回転数低下を抑えることができる。なお、閾値は、予め実験などにより求められた適合値である。
【0078】
ステップS104において、ECU40は、運転状況に応じて、例えば、運転モードとエンジン回転数低下量との関係を示されたエンジン回転数優先用のマップを用いて、エンジン回転数優先の非等パワー変速制御が行われる場合の回転数低下量NeBを求めた後、ステップS106の処理へ進む。また、ステップS105においても、ECU40は、運転状況に応じて、例えば、運転モードとエンジン回転数低下量との関係が示された駆動力優先用のマップを用いて、駆動力優先の非等パワー変速制御が行われる場合の回転数低下量NeAを求めた後、ステップS106の処理へ進む。
【0079】
ステップS106において、ECU40は、エンジン回転数優先または駆動力優先の非等パワー変速制御を行い、本制御処理をリターンする。
【0080】
上述の変速制御処理によれば、運転モードとしてスポーツモードに設定され、かつ、アクセル開度が閾値よりも大きい場合に、エンジン回転数優先の非等パワー変速が行われる。この場合、非等パワー変速制御の際に、エンジン回転数低下が抑えられるので、ドライバは小気味良いドライバビリティを体感することができる。なお、運転モードとしては、スポーツモードに限られるものでない。この代わりに、または、加えて、ECU40は、運転モードとして、オートクルーズモード、トーイングモードなどの各場合に応じて、エンジン回転数優先の非等パワー変速制御を行うか、または、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うかを決定するとしても良い。例えば、ECU40は、運転モードがオートクルーズモードに設定されている場合には、無用な車速変化を避けるべく、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うこととし、トーイング時や急坂路走行時は、高負荷で駆動力が必要とされるので、駆動力優先の非等パワー変速制御を行うこととする。また、ECU40は、シフトレンジがミッションレンジにある場合には、エンジン回転数優先の非等パワー変速制御を行うことにより、小気味良い感覚をドライバに与えることとしても良い。
【0081】
また、エンジン回転数低下量は、運転モードなどの運転状況に応じて予め設定されるとしても良いが、このようにする代わりに、図10に示したエンジン回転数低下量と変速後駆動力との関係をマップとして用いて、変速後の駆動力に応じて、エンジン回転数低下量を求めるとしても良い。
【0082】
以上に述べたことから分かるように、第1実施形態に係る変速制御方法では、ECU40は、運転状況に応じて、無段変速部11の変速速度を変化させる、具体的には、エンジン回転数の低下量を決定する。このようにすることで、ドライバの要求を満足する変速を行うことができ、ドライバビリティを向上させることができる。具体的には、ECU40は、運転状況に応じて、エンジン回転数の低下を抑えたエンジン回転数優先の非等パワー変速を行うか、または、駆動力を優先した駆動力優先の非等パワー変速を行うか、を決定することとする。運転状況に応じて、これらのうち、いずれか一方の非等パワー変速制御を行うとすることで、ドライバの要求を確実に満足する変速を行うことができる。
【0083】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る変速制御方法について説明する。
【0084】
装置構成のところで述べたように、図1に示した動力伝達装置では、変速制御が行われる際において、有段変速部20の変速制御が行われるとともに、それと同時に、無段変速部11の変速制御も行われる。ここで、非等パワー変速制御が行われる場合において、エンジンの出力変化に対し、変速速度が遅過ぎたり速過ぎたりすると、第1電動機M1の高回転化を招く可能性がある。そのため、従来は、第1電動機M1の出力に余裕を持たせる必要があった。図13に、第1電動機M1の出力可能領域を示している。図13において、「余裕代」として示される領域が、第1電動機M1の出力に余裕を持たせるための領域である。このように、第1電動機M1の出力に余裕を持たせようとすると、第1電動機M1を大型化する必要がある。
【0085】
そこで、第2実施形態に係る動力伝達装置の制御方法では、ECU40は、非等パワー変速制御を行う際において、変速速度に応じて、エンジン出力、具体的にはエンジントルクおよびエンジン回転数を変更することとし、第1電動機M1の出力に余裕を持たせなくても済むようにする。
【0086】
まず、ECU40は、非等パワー変速が行われる場合において、有段変速部20の変速制御と同時に、エンジン回転数を変化させる。以下、図14、図15を用いて具体的に説明する。
【0087】
図14は、有段変速部20でアップシフトが行われた時の無段変速部11の共線図である。図14において、第1電動機M1の動作可能な回転数の範囲をMG動作可能域(以下、単に「動作可能域」と称する)としている(図15において同じ)。また、図14において、変速前のエンジン回転数をNePとし、変速前の第1電動機M1の回転数をA1としている。なお、ここで、第2電動機M2の回転数の上限値は、例えば、第2電動機M2の最高回転数や、有段変速部20のクラッチやブレーキの強度の上限値とされる(図15において同じ)。
【0088】
有段変速部20のアップシフトが行われた場合、無段変速部11ではダウンシフトが行われる。従って、もし、エンジン回転数をNePにしたまま、有段変速部20のアップシフトが行われた場合には、無段変速部11でダウンシフトが行われることで、変速後の第1電動機M1の回転数はB1となり、第1電動機M1の動作可能域を外れてしまう恐れがある。そこで、第2実施形態に係る制御方法では、ECU40は、有段変速部20のアップシフトを行うと同時に、エンジントルクを低下させて、エンジン回転数をNePからNeQへと低下させることとする。これにより、変速後の第1電動機M1の回転数はB2となる。ここで、エンジン回転数NeQは、第1電動機M1の回転数B2が第1電動機M1の動作可能域内に位置するように決められる。このようにすることで、無段変速部11のダウンシフトが行われた場合であっても、変速後の第1電動機の回転数を動作可能域内に収めることが可能となる。
【0089】
図15は、有段変速部20でダウンシフトが行われた時の無段変速部11の共線図である。図15において、変速前のエンジン回転数をNeQとし、変速前の第1電動機M1の回転数をB2としている。
【0090】
有段変速部20のダウンシフトが行われた場合、無段変速部11ではアップシフトが行われる。従って、もし、エンジン回転数をNeQにしたまま、有段変速部20のダウンシフトが行われた場合には、無段変速部11でアップシフトが行われることで、変速後の第1電動機M1の回転数はA2となり、第1電動機M1の動作可能域を外れてしまう恐れがある。そこで、第2実施形態に係る制御方法では、ECU40は、有段変速部20のダウンシフトを行うと同時に、エンジントルクを上昇させて、エンジン回転数をNeQからNePへと上昇させることとする。これにより、変速後の第1電動機M1の回転数はA1となる。ここで、エンジン回転数NePは、第1電動機M1の回転数A1が第1電動機M1の動作可能域内に位置するように決められる。このようにすることで、無段変速部11のアップシフトが行われた場合であっても、変速後の第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めることが可能となる。
【0091】
ここで、ECU40は、非等パワー変速中に、第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めるため、エンジン回転数を変化させる際に、変速速度に応じて、エンジントルクを変化させることとする。具体的には、ECU40は、変速速度に応じたエンジントルク変更量を求め、当該エンジントルク変更量分だけ余分にエンジントルクを変化させることとする。以下、図16〜図19を用いて具体的に説明する。
【0092】
まず、ECU40は、変速速度の度合いの基準となる変速毎の基準値を設定する。図16は、変速毎の基準値とエンジン回転数変化進行度との関係を示すグラフである。エンジン回転数変化進行度とは、変速完了時のエンジン回転数に対して、どのくらいエンジン回転数が近づいたかを示す尺度であり、変速開始前が0%とされ、変速完了時が100%とされる。また、図16では、一例として、基準値についても変速開始前が0%とされ、変速完了時が100%とされる。従って、例えば、非等パワー変速制御中において、エンジン回転数変化進行度が30%となっている場合には、基準値も30%となる。
【0093】
次に、ECU40は、実際の変速速度に基づいて、変速の進み度合いを示す変速進行度を求め、当該変速進行度と基準値との間の差を求める。ここで、実際の変速速度としては、例えば、第1電動機M1の回転数変化率が用いられる。実際の変速速度として、第1電動機M1の回転数変化率が用いられた場合、変速進行度は、変速完了時の第1電動機M1の回転数に対して、どのくらい第1電動機M1の回転数が近づいたかを示す尺度となり、変速開始前が0%とされ、変速完了時が100%とされる。ECU40は、変速進行度と基準値との間の差に基づいて、エンジントルク変更量を求める。
【0094】
有段変速部20のアップシフト時におけるエンジントルク変更量を求める方法について図17を用いて説明する。図17は、有段変速部20のアップシフト時における、エンジントルク変更量と、変速進行度と基準値との間の差との関係を示すグラフである。図17において、変速進行度と基準値との間の差をポイントとして示している(図18、19において同じ)。例えば、変速進行度が60%となっており、基準値が50%となっている場合には、60−50=10ポイントとなる。
【0095】
ECU40は、有段変速部20のアップシフト時において、変速進行度と基準値との間の差を基に、例えば、図17に示す関係をマップとして用いて、エンジントルク変更量を求める。具体的には、ECU40は、変速進行度が基準値よりも大きくなるほど、即ち、変速の進行が速くなるほど、トルクダウンさせるエンジントルク変更量を大きくして、エンジン回転数を早く低下させる。有段変速部20がアップシフトする場合には、変速が速すぎることが問題となる。つまり、変速中において、変速が速すぎることにより、第1電動機M1の回転数が動作可能域に収まらなくなる。一方、ECU40は、変速進行度が基準値よりも小さくなるほど、即ち、変速の進行が遅くなるほど、トルクアップさせるエンジントルク変更量を大きくする。
【0096】
有段変速部20のダウンシフト時におけるエンジントルク変更量を求める方法について図18を用いて説明する。図18は、有段変速部20のダウンシフト時における、エンジントルク変更量と、変速進行度と基準値との間の差との関係を示すグラフである。
【0097】
ECU40は、有段変速部20のダウンシフト時において、変速進行度と基準値との間の差を基に、例えば、図18に示す関係をマップとして用いて、エンジントルク変更量を求める。具体的には、ECU40は、変速進行度が基準値よりも大きくなるほど、即ち、変速の進行が速くなるほど、トルクアップさせるエンジントルク変更量を大きくして、エンジン回転数を早く上昇させる。一方、ECU40は、変速進行度が基準値よりも小さくなるほど、即ち、変速の進行が遅くなるほど、トルクダウンさせるエンジントルク変更量を大きくする。有段変速部20がダウンシフトする場合には、変速が遅すぎることが問題となる。つまり、変速中において、変速が遅すぎることにより、第1電動機M1の回転数が動作可能域に収まらなくなる。
【0098】
なお、有段変速部20のアップシフト時において、ECU40は、図17に示す関係をマップとして用いるとする代わりに、図19に示す関係をマップとして用いるとしても良い。この場合、ECU40は、変速進行度と基準値との間の差が所定値Pq1、Pq2を超えるまで、具体的には、変速進行度が基準値よりも所定値Pq1以上大きくなるまで、又は、変速進行度が基準値よりも所定値Pq2以上小さくなるまで、エンジントルクの変更を行わないとしている。そして、ECU40は、変速進行度と基準値との差が所定値Pq1、Pq2を超えたときに、エンジントルクの変更を行う。これは、通常、目標変速速度に追従するように変速速度が制御されることから、変速進行度と基準値との間の差が比較的小さい場合には、エンジントルクの変更を行わないとしているものである。ここで、所定値Pq1、Pq2は、予め実験などにより求められた適合値である。なお、有段変速部20のダウンシフト時においても同様に、ECU40は、変速進行度と基準値との間の差が所定値を超えるまでは、エンジントルクの変更を行わないとしても良いのは言うまでもない。
【0099】
このように、変速速度に応じて、エンジントルクを変更して非等パワー変速を行うことにより、第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めることが可能となる。
【0100】
次に、上述の変速制御方法について図20のタイムチャートを用いて説明する。
【0101】
図20は、時間を横軸にとり、エンジン回転数、エンジントルク、アクセル開度、第2電動機M2の回転数(MG2回転数)、有段変速部20の変速部油圧、第1電動機M1の回転数(MG1回転数)、および、車速を縦軸にとっている。図20において、破線で示すグラフは、通常の変速制御のグラフであり、実線で示すグラフは、変速速度が速すぎる場合における変速制御のグラフである。
【0102】
時刻ta1において、ECU40は、アクセル開度などに基づいて、非等パワー変速制御を行うことを判断する。図20に示す例では、第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へと変速する場合を示している。従って、変速制御中において、ECU40は、第3ブレーキB3の油圧を低下させるとともに、第2ブレーキB2の油圧を上昇させる。通常の変速制御の場合には、時刻ta1から時刻ta5にかけて変速制御が行われるのに対し、変速速度が速すぎる場合には、時刻ta1から時刻ta4(<時刻t5)にかけて変速制御が行われる。以下では、変速速度が速すぎる場合、即ち、実線で示すグラフについて説明する。
【0103】
有段変速部20は第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へとアップシフトされるので、無段変速部11はダウンシフトされることになる。従って、ここでは、図14で述べたように、ECU40は、エンジントルクを低下させ、エンジン回転数を低下させることで、第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めることとする。
【0104】
時刻ta2から時刻ta4にかけて、ECU40は、単位時間毎に、エンジン回転数を基に、エンジン回転数変化進行度を求め、例えば、図16に示した関係をマップとして用いて、基準値を求める。そして、ECU40は、第1電動機M1の回転数変化率に基づいて、実際の変速進行度を求め、基準値との比較を行う。
【0105】
時刻ta2において、ECU40は、実際の変速進行度と基準値との比較を行い、当該変速進行度が基準値よりも大きくなっていると判定している。そこで、ECU40は、当該変速進行度と基準値との間の差を基に、図17に示したマップを用いて、トルクダウンさせるエンジントルク変更量を求める。ECU40は、求められたエンジントルク変更量分だけ、エンジントルクを余分に低下させ、エンジン回転数を低下させる。
【0106】
時刻ta3において、ECU40は、実際の変速進行度と基準値との比較を行い、当該変速進行度が基準値よりも小さくなっていると判定している。そこで、ECU40は、当該変速進行度と基準値との間の差を基に、図17に示したマップを用いて、トルクアップさせるエンジントルク変更量を求める。ECU40は、求められたエンジントルク変更量分だけ、エンジントルクを余分に上昇させ、エンジン回転数の低下の度合いを小さくする。その後、時刻ta4において、ECU40は、変速制御を終了する。
【0107】
以上に述べたことから分かるように、変速速度に応じて、エンジン出力、具体的には、エンジントルクおよびエンジン回転数を変更して非等パワー変速を行うことにより、第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めることが可能となる。
【0108】
上述の第2実施形態に係る変速制御処理について図21を用いて説明する。図21に示すフローチャートでは、ECU40は、非等パワー変速制御が行われる場合において、変速速度に応じて、エンジントルクを変更することとする。
【0109】
まず、ステップS201において、ECU40は、変速制御を行う際において、例えば、車速と駆動力とを基に、非等パワー変速制御を行うか否かについて判定する。ECU40は、非等パワー変速制御を行うと判定した場合には(ステップS201:Yes)、ステップS202の処理へ進み、非等パワー制御を行わないと判定した場合には(ステップS201:No)、本制御処理をリターンする。
【0110】
ステップS202において、ECU40は、エンジン回転数を基に、エンジン回転数変化進行度を求め、例えば、図16に示した関係をマップとして用いて、基準値を求める。なお、このようにする代わりに、ECU40は、予め決めた目標の変速時間(例えば800msec)と有段変速部20における変速前後のギヤ比とから、目標のギヤ比変化速度を基準値として求めるとしても良い。この後、ECU40は、ステップS203の処理へ進む。
【0111】
ステップS203において、ECU40は、第1電動機M1の回転数変化率に基づいて、実際の変速進行度を求め、求められた実際の変速進行度と基準値との比較を行う。ここで、ECU40は、基準値よりも実際の変速進行度の方が大きい場合には、変速が速すぎることによる変速速度外れが発生したと判定し、基準値よりも実際の変速進行度の方が小さい場合には、変速が遅すぎることによる変速速度外れが発生したと判定する。なお、このようにする代わりに、ECU40は、目標のギヤ比変化速度を基準値とした場合には、有段変速部20のギヤ比の変速速度に基づいて、実際の変速進行度を求めて、当該変速進行度と基準値との比較を行うとしても良い。有段変速部20がアップシフトする場合には、変速が速すぎることによる変速速度外れが問題となり、有段変速部20がダウンシフトする場合には、変速が遅すぎることによる変速速度外れが問題となる。ECU40は、変速外れが発生したと判定した場合には(ステップS203:Yes)、ステップS204の処理へ進み、変速外れが発生していないと判定した場合には(ステップS204:No)、本制御処理をリターンする。
【0112】
ステップS204において、ECU40は、非等パワー変速制御によるエンジン出力変化に加えて、変速速度外れ分の調整を行う。具体的には、ECU40は、例えば、図17、図18に示した関係をマップとして用いて、エンジントルク変更量を求め、当該エンジントルク変更量分だけ、エンジントルクを変化させる。例えば、有段変速部20がアップシフトする場合には、ECU40は、エンジントルク変更量だけ余分にエンジントルクを低下させ、エンジン回転数を低下させる。一方、有段変速部20がダウンシフトする場合には、ECU40は、エンジントルク変更量だけ余分にエンジントルクを上昇させ、エンジン回転数を上昇させる。なお、このようにする代わりに、ECU40は、例えば、図19に示した関係をマップとして用いて、変速速度外れが所定値よりも大きくなった場合に、エンジントルクを変更するとしても良いのは言うまでもない。
【0113】
以上に述べたことから分かるように、第2実施形態に係る変速制御方法では、ECU40は、非等パワー変速制御を行う際において、変速速度に応じて、エンジン出力を変更する。これにより、第1電動機M1の回転数を動作可能域内に収めることが可能となり、第1電動機M1の出力に余裕を持たせるための大型化の必要がなくなり、コストを低減することが可能となる。
【0114】
[変形例]
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。
【0115】
例えば、第1実施形態に係る変速制御方法と第2実施形態に係る変速制御方法とを組み合わせるとしても良い。例えば、ECU40は、車両の運転状況に基づいて、エンジン回転数優先の非等パワー変速を行うか、または、駆動力優先の非等パワー変速を行うか、を決定し、決定した非等パワー変速を行う際に、変速速度に応じて、エンジン出力を変更するとしても良い。
【0116】
また、本発明を適用可能な装置構成としては、図1に示した動力伝達装置に限られるものではない。この代わりに、例えば、図22に示す動力伝達装置にも本発明を適用可能である。
【0117】
図22(a)に示す動力伝達装置は、電動機M1、M2と、無段変速部11bと、有段変速部20bとを有する。無段変速部11bは、シングルピニオン型の遊星歯車機構であり、サンギヤSB1と、遊星歯車PB1と、リングギヤRB1とを有する。有段変速部20bは、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であり、サンギヤSB2と、遊星歯車PB2a、PB2bと、リングギヤRB2とを有する。
【0118】
遊星歯車PB1は、エンジン8bに一端が接続されたキャリヤCB1の他端に接続されている。第1電動機M1の回転軸は、サンギヤSB1に接続されている。また、第1電動機M1の回転軸は、ブレーキB−0を介してケースに接続され、クラッチC−0を介してキャリヤCB1に接続されている。リングギヤRB1は、有段変速部20bのサンギヤSB2および第2電動機M2の回転軸と接続されている。
【0119】
遊星歯車PB2a、PB2bは、キャリヤCB2の一端に接続されている。キャリヤCBの他端は、ブレーキB−1を介してケースに接続され、クラッチC−1を介して第2電動機M2の回転軸と接続されている。リングギヤRB2は、駆動軸22bと接続されている。
【0120】
図22(b)は、図22(a)に示した動力伝達装置の係合作動表を示している。図22(b)に示すように、クラッチC−1またはブレーキB−1の係合によりEVT(モータ走行モード)となる。また、クラッチC−0およびブレーキB−1の係合により第1ギヤ段が成立し、ブレーキB−0およびB−1の係合により第2ギヤ段が成立する。クラッチC−0およびC−1の係合により第3ギヤ段が成立し、クラッチC−1およびブレーキB−0の係合により第4ギヤ段が成立する。
【0121】
図22に示す動力伝達装置に対しても、非等パワー変速制御を行う際において、運転状況に応じて、エンジン回転数の低下量を決定することにより、ドライバの要求を満足する変速を行うことができ、ドライバビリティを向上させることができる。また、非等パワー変速制御を行う際において、変速速度に応じて、エンジン出力を変更することで、第1電動機M1の出力に余裕を持たせるための大型化の必要がなくなり、コストを低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0122】
8 エンジン
10 動力伝達装置
11 無段変速部
20 有段変速部
34 油圧制御装置
40 ECU
M1、M2 電動機
C1、C2、B1、B2、B3 摩擦係合装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、電動機と、有段変速部と、前記電動機により差動状態が制御される無段変速部と、を有する車両用の動力伝達装置の制御装置であって、
前記有段変速部の変速を行う際に、非等パワー変速を行う制御手段を備え、
前記制御手段は、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における変速速度を変化させることを特徴とする動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における前記原動機の回転数変化量を決定し、決定された当該回転数変化量分だけ前記原動機の回転数を変化させる制御を行う請求項1に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、車両の運転状況に応じて、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードと、駆動力を優先するモードとのうち、いずれか一方のモードで非等パワー変速を行う請求項1又は2に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、アクセル開度が所定値よりも大きいときに、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードで非等パワー変速を行う請求項1乃至3のいずれか一項に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記変速速度に応じて、前記原動機の出力を変更して非等パワー変速を行う請求項1に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記電動機の回転数変化率を変速速度とする請求項5に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記電動機の回転数と動力伝達装置の出力軸回転数の比の変化率を変速速度とする請求項5又は6に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記変速速度に基づいて、変速の進み度合いを示す変速進行度を求め、前記原動機の回転数に基づいて、基準値を求め、前記変速進行度と前記基準値との差が所定値以上になる場合に、前記原動機のトルクを変更する請求項5乃至7のいずれか一項に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記変速速度に基づいて、変速の進み度合いを示す変速進行度を求め、前記原動機の回転数に基づいて、基準値を求め、前記変速進行度と前記基準値との差が所定値以内になるように前記原動機のトルクをフィードバック制御する請求項5乃至8のいずれか一項に記載の動力伝達装置。
【請求項10】
前記制御手段は、車両の運転状況に応じて、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードと、駆動力を優先するモードとのうち、いずれか一方のモードで非等パワー変速を行う請求項5乃至9のいずれか一項に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項1】
原動機と、電動機と、有段変速部と、前記電動機により差動状態が制御される無段変速部と、を有する車両用の動力伝達装置の制御装置であって、
前記有段変速部の変速を行う際に、非等パワー変速を行う制御手段を備え、
前記制御手段は、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における変速速度を変化させることを特徴とする動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、車両の運転状況に基づいて、非等パワー変速を行う際における前記原動機の回転数変化量を決定し、決定された当該回転数変化量分だけ前記原動機の回転数を変化させる制御を行う請求項1に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、車両の運転状況に応じて、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードと、駆動力を優先するモードとのうち、いずれか一方のモードで非等パワー変速を行う請求項1又は2に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、アクセル開度が所定値よりも大きいときに、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードで非等パワー変速を行う請求項1乃至3のいずれか一項に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記変速速度に応じて、前記原動機の出力を変更して非等パワー変速を行う請求項1に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記電動機の回転数変化率を変速速度とする請求項5に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記電動機の回転数と動力伝達装置の出力軸回転数の比の変化率を変速速度とする請求項5又は6に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記変速速度に基づいて、変速の進み度合いを示す変速進行度を求め、前記原動機の回転数に基づいて、基準値を求め、前記変速進行度と前記基準値との差が所定値以上になる場合に、前記原動機のトルクを変更する請求項5乃至7のいずれか一項に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記変速速度に基づいて、変速の進み度合いを示す変速進行度を求め、前記原動機の回転数に基づいて、基準値を求め、前記変速進行度と前記基準値との差が所定値以内になるように前記原動機のトルクをフィードバック制御する請求項5乃至8のいずれか一項に記載の動力伝達装置。
【請求項10】
前記制御手段は、車両の運転状況に応じて、前記原動機の回転数変化の抑制を優先するモードと、駆動力を優先するモードとのうち、いずれか一方のモードで非等パワー変速を行う請求項5乃至9のいずれか一項に記載の動力伝達装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−183974(P2011−183974A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52902(P2010−52902)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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