説明

半導体装置の製造方法及び基板処理装置

【課題】酸化膜の窒化速度を向上させる。
【解決手段】ガス流量制御部により処理ガス中の水素含有ガスと窒素含有ガスとの流量をそれぞれ調整し、処理ガス中に含まれる水素原子の数と窒素原子の数との総数に対する水素原子の数の比率Rを0%<R≦80%とする工程と、ガス供給部により処理ガスを処理室内に供給する工程と、プラズマ生成部により励起した処理ガスで酸化膜が形成された基板を処理する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上の薄膜を窒化する工程を含む半導体装置の製造方法及びその工程の実施に用いられる基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラッシュメモリ等の半導体装置の製造工程の一工程として、基板上に形成された酸化膜に対して窒化処理を行う工程が実施される場合がある。窒化処理は、例えば基板を処理する処理室と、処理室内に窒素ガス等の処理ガスを供給するガス供給部と、供給された処理ガスを励起させるプラズマ生成部と、を有する基板処理装置を用い、以下の工程により行われる。すなわち、酸化膜が形成された基板を処理室内に搬入し、処理室内に処理ガスを供給してプラズマ状態に励起し、励起した処理ガスで基板を処理して酸化膜を窒化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、窒化処理の処理ガスとしては、例えば窒素(N)ガスが単独で用いられてきた。しかしながら、窒素ガスのみでは充分な窒化速度が得られ難く、酸化膜を短時間で高濃度に窒化することが困難であった。また、近年の集積回路の微細化や、デバイス特性の向上に伴って、酸化膜を窒化した際、窒化濃度を高濃度にすることが要求されている。しかし窒素ガス単独での処理では充分な窒化濃度を得ることが困難であった。
【0004】
そこで本発明の目的は、酸化膜の窒化速度の向上及び高濃度の窒化ができる半導体装置の製造方法及び基板処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
酸化膜と窒化膜とが積層された基板を処理室内に搬入する工程と、
前記処理室内に設けられた基板支持部により前記基板を支持して加熱する工程と、
ガス流量制御部により処理ガス中の水素含有ガスと窒素含有ガスとの流量をそれぞれ調整し、前記処理ガス中に含まれる水素原子の数と窒素原子の数との総数に対する前記水素原子の数の比率Rを0%<R≦80%とする工程と、
前記ガス流量制御部を備えるガス供給部により、前記比率を調整した前記処理ガスを前記処理室内に供給する工程と、
前記処理室内に供給した前記処理ガスをプラズマ生成部により励起する工程と、
励起した前記処理ガスで前記基板を処理する工程と、
前記基板を前記処理室内から搬出する工程と、を有する
半導体装置の製造方法が提供される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、
酸化膜と窒化膜とが積層された基板が搬入される処理室と、
前記処理室内に設けられ、前記基板を支持して加熱する基板支持部と、
処理ガス中の水素含有ガスと窒素含有ガスとの流量をそれぞれ調整するガス流量制御部と、
前記ガス流量制御部を備え、前記処理ガスを前記処理室内に供給するガス供給部と、
前記処理ガスを励起させるプラズマ生成部と、
前記基板支持部、前記ガス流量制御部、前記ガス供給部及び前記プラズマ生成部を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、
前記処理室内に搬入された前記基板を加熱させ、前記処理ガス中の水素原子の数と窒素原子の数との総数に対する前記水素原子の数の比率Rが0%<R≦80%となるよう前記水素含有ガスの流量と前記窒素含有ガスの流量とを調整させ、前記比率を調整させた前記処理ガスを前記処理室内に供給させ、前記処理室内に供給させた前記処理ガスを励起させ、励起させた前記処理ガスで前記基板を処理させるよう制御する
基板処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酸化膜の窒化速度を向上させることができる半導体装置の製造方法及び基板処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る基板処理装置としての変形マグネトロン型プラズマ処理装置の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る基板処理工程を示すフロー図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る基板処理工程で処理される基板上のゲート構造の形成方法を示す模式図である。
【図4】本発明の実施例1と比較例とに係る酸化膜中の窒素の蛍光X線分析法による信号強度を比較するグラフ図である。
【図5】本発明の実施例1と比較例とに係る酸化膜中の窒素の蛍光X線分析法による信号強度の処理時間変化を比較するグラフ図である。
【図6】処理ガス中の窒素ガスの流量比率を変化させたときの、実施例2に係る酸化膜中の窒素の蛍光X線分析法による信号強度変化の傾向を示すグラフ図である。
【図7】ガス総流量を変化させたときの、実施例3に係る酸化膜中の窒素の蛍光X線分析法による信号強度変化の傾向を示すグラフ図である。
【図8】放電時の処理室内圧力を変化させたときの、実施例4に係る酸化膜中の窒素の蛍光X線分析法による信号強度変化の傾向を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<発明者が得た知見>
まず、本発明の実施形態の説明に先立ち、発明者が得た知見について説明する。
【0010】
上述の窒化処理は、例えば図3に示すフラッシュメモリ等のゲート構造をなす酸化膜に対して行われる。フラッシュメモリは、シリコン基板等のウエハ200上に、例えばシリコン酸化(SiO)膜13、ポリシリコン(Poly−Si)膜14、ONO膜15(シリコン酸化膜15o−シリコン窒化(Si)膜15n−シリコン酸化膜15o)、ポリシリコン膜16を順次積層し(図3(a))、所定のレジストパターン17をマスクとしてドライエッチング等により各膜をパターニングしてなる(図3(b))。各膜は、トンネルゲート絶縁膜、浮遊ゲート、電極間絶縁膜、制御ゲートとして機能する。
【0011】
上記積層膜をパターニングする際、例えばシリコン酸化膜13、15o、15oの側壁にダメージ13d、15dが発生することがある。ダメージ13d、15dの修復のためには酸化処理を行うが、このとき以下のように、バーズビーク13b、15bが形成されてしまう場合があった(図3(c))。つまり、酸化処理で使用される酸化種が、積層膜の端部から内部へと侵入してシリコン酸化膜13、15o、15oの界面近傍で反応を起こし、上下で接するポリシリコン膜14、16が酸化されることで、バーズビーク13b、15bが形成される場合があった。バーズビーク13b、15bが形成されると、ゲート構造のキャパシタンスが減少し、半導体装置の信頼性が低下してしまうことがある。
【0012】
但し、ポリシリコン膜14、16と上下で接するシリコン酸化膜13、15o、15oが予め窒化されていると、酸化処理の際にポリシリコン膜14、16側へと酸化が広がり難くなり、バーズビーク13b、15bの形成を抑制できる(図3(d))。
【0013】
しかし、上述のように、例えば窒素(N)ガスのみを用いる従来の窒化処理においては、シリコン酸化膜13、15o、15o等を短時間で高濃度に窒化することが困難であった。このため、例えば窒化処理に長時間を要し、生産性が低下してしまう場合があった。発明者は、窒化速度を向上させるべく、例えば窒化処理の温度を上げたり、プラズマを生成するときの高周波電力を大きくしたりする等の手法を試みたが、係る手法では、パーティクルが発生してウエハ200に付着したり、金属汚染が発生したりする等の弊害が生じる場合があった。
【0014】
そこで発明者は、係る手法に依らずとも窒化速度を向上させることができる方法について、さらに鋭意研究を行った。その結果、水素含有ガスの存在下で窒化処理を行えば、窒化速度を向上させることができるとの知見を得るに至った。本発明は、発明者が見出した上記知見に基づくものである。
【0015】
<本発明の一実施形態>
(1)基板処理装置の構成
本発明の一実施形態に係る基板処理装置について、図1を用いて以下に説明する。図1は、本実施形態に係る基板処理装置としての変形マグネトロン型プラズマ処理装置の断面図である。
【0016】
本実施形態に係る基板処理装置は、電界と磁界とにより高密度プラズマを生成できる変形マグネトロン型プラズマ源(Modified Magnetron Typed Plasma Source)を用いて、シリコン基板等のウエハ200をプラズマ処理する変形マグネトロン型プラズマ処理装置(以下、MMT装置100と記載)である。MMT装置100は、機密性を保持した処理室201内にウエハ200を設置し、処理室201内に供給した処理ガスに、一定の圧力下で高周波電圧をかけてマグネトロン放電を起こすように構成されている。MMT装置100によれば、係る機構により処理ガスを励起させて、ウエハ200に酸化、窒化等の拡散処理を行なったり、薄膜を形成したり、またはウエハ200表面をエッチングしたりする等の各種プラズマ処理を施すことができる。
【0017】
(処理室)
MMT装置100は、ウエハ200をプラズマ処理する処理炉202を備えている。処理炉202には、処理室201を構成する処理容器203が設けられている。処理容器203は、第1の容器であるドーム型の上側容器210と、第2の容器である碗型の下側容器211とを備えている。上側容器210が下側容器211の上に被さることにより、処理室201が形成される。上側容器210は、例えば酸化アルミニウム(Al)または石英(SiO)等の非金属材料で形成されており、下側容器211は、例えばアルミニウム(Al)で形成されている。
【0018】
また、下側容器211の下部側壁には、ゲートバルブ244が設けられている。ゲートバルブ244は、開いているときには、搬送機構(図示せず)を用いて処理室201内へウエハ200を搬入し、または処理室201外へとウエハ200を搬出することができるように構成されている。ゲートバルブ244は、閉まっているときには、処理室201内の機密性を保持する仕切弁となるように構成されている。
【0019】
(サセプタ)
処理室201の底側中央には、ウエハ200を支持するサセプタ217が配置されてい
る。サセプタ217は例えば窒化アルミニウム(AlN)、セラミックス、石英等の非金属材料から形成されており、ウエハ200上に形成される膜等の金属汚染を低減することができるように構成されている。
【0020】
サセプタ217の内部には、加熱機構としてのヒータ217bが一体的に埋め込まれている。ヒータ217bは、電力が供給されると、ウエハ200表面を例えば25℃〜500℃程度まで加熱することができるように構成されている。
【0021】
サセプタ217は、下側容器211とは電気的に絶縁されている。サセプタ217内部にはインピーダンス調整電極217cが装備されており、インピーダンス調整部としてのインピーダンス可変機構274を介して接地されている。インピーダンス調整電極217cは、後述する第1の電極としての筒状電極215に対する第2の電極として機能する。インピーダンス可変機構274はコイルや可変コンデンサから構成されており、コイルのパターン数や可変コンデンサの容量値を制御することにより、インピーダンス調整電極217c及びサセプタ217を介して、ウエハ200の電位(バイアス電圧)を制御できるように構成されている。
【0022】
サセプタ217には、サセプタ昇降機構268が設けられている。そしてサセプタ217には貫通孔217aが設けられ、一方、下側容器211の底面には基板突上げピン266が設けられている。貫通孔217aと基板突上げピン266とは互いに対向する位置に、少なくとも各3箇所ずつ設けられている。サセプタ昇降機構268によりサセプタ217が下降させられたときには、基板突上げピン266がサセプタ217とは非接触な状態で、貫通孔217aを突き抜けるように構成されている。また、サセプタ昇降機構268は、サセプタ217上面の中心を通る垂直軸回りにサセプタ217を回転させるサセプタ回転機能を備えている。プラズマ処理中にウエハ200を回転させることで、ウエハ200面内におけるプラズマ処理の均一性を向上させることができるように構成されている。
【0023】
主に、サセプタ217及びヒータ217bにより、本実施形態に係る基板支持部が構成されている。
【0024】
(ランプヒータユニット)
処理室201の上方、つまり上側容器210の上部には光透過窓278が設けられ、光透過窓278上の反応容器203外側には、ランプヒータユニット280が設けられている。ランプヒータユニット280は、ヒータ217bとの協働により、ウエハ200の表面温度を500℃〜900℃に調整できるように構成されている。
【0025】
(ガス供給部)
処理室201の上方、つまり上側容器210の上部には、シャワーヘッド236が設けられている。シャワーヘッド236は、キャップ状の蓋体233と、ガス導入口234と、バッファ室237と、開口238と、遮蔽プレート240と、ガス吹出口239とを備え、処理ガスを処理室201内へ供給できるように構成されている。バッファ室237は、ガス導入口234より導入される処理ガスを分散する分散空間としての機能を持つ。
【0026】
ガス導入口234には、水素含有ガスとしての水素(H)ガスを供給する水素含有ガス供給管232aの下流端と、窒素含有ガスとしての窒素(N)ガスを供給する窒素含有ガス供給管232bの下流端と、が合流するように接続されている。水素含有ガス供給管232aには、上流側から順にHガス供給源250a、マスフローコントローラ252a、開閉弁としてのバルブ253aが設けられている。窒素含有ガス供給管232bには、上流側から順にNガス供給源250b、マスフローコントローラ252b、開閉弁としてのバルブ253bが設けられている。水素含有ガス供給管232aと窒素含有ガス
供給管232bとが合流した下流側には、バルブ243aが設けられ、ガスケット203bを介してガス導入口234の上流端に接続されている。バルブ253a、253b、243aを開閉させることによって、マスフローコントローラ252a、252bによりそれぞれのガスの流量を調整しつつ、ガス供給管232a、232bを介して、水素含有ガスと窒素含有ガスとを含む処理ガスを処理室201内へ供給できるように構成されている。
【0027】
主に、マスフローコントローラ252a、252bにより、本実施形態に係るガス流量制御部が構成されている。また、主に、シャワーヘッド236(蓋体233、ガス導入口234、バッファ室237、開口238、遮蔽プレート240、ガス吹出口239)、水素含有ガス供給管232a、窒素含有ガス供給管232b、Hガス供給源250a、Nガス供給源250b、マスフローコントローラ252a、252b、バルブ253a、253b、243aにより、本実施形態に係るガス供給部が構成されている。
【0028】
(排気部)
下側容器211の側壁には、処理室201内から処理ガスを排気するガス排気口235が設けられている。ガス排気口235には、ガス排気管231の上流端が接続されている。ガス排気管231には、上流側から順に圧力調整器(圧力調整部)としてのAPC(Auto Pressure Controller)242、開閉弁としてのバルブ243b、真空排気装置としての真空ポンプ246が設けられている。
【0029】
主に、ガス排気口235、ガス排気管231、APC242、バルブ243b、真空ポンプ246により、本実施形態に係る排気部が構成されている。
【0030】
(プラズマ生成部)
処理室201の外周部、すなわち上側容器210の外側壁には、処理室201を囲うように、第1の電極としての筒状電極215が設けられている。筒状電極215は、筒状、例えば円筒状に形成されている。筒状電極215は、インピーダンスの整合を行なう整合器272を介して、高周波電力を印加する高周波電源273に接続されている。
【0031】
筒状電極215の外側表面の上下端部には、上側磁石216a及び下側磁石216bがそれぞれ取り付けられている。上側磁石216aおよび下側磁石216bは、ともに筒状、例えば円筒状に形成された永久磁石により構成されている。上側磁石216aおよび下側磁石216bは、処理室201に向いた面側とその反対の面側に磁極を有している。上側磁石216aおよび下側磁石216bの磁極の向きは、逆向きになるよう配置されている。すなわち、上側磁石216aおよび下側磁石216bの処理室201に向いた面側の磁極同士は互いに異極となっている。これにより、筒状電極215の内側表面に沿って円筒軸方向の磁力線が形成される。
【0032】
上側磁石216aおよび下側磁石216bにより磁界を発生させ、さらに処理室201内に処理ガスを導入した後、筒状電極215に高周波電力を供給して電界を形成することで、処理室201内のプラズマ生成領域224にマグネトロン放電プラズマが生成されるように構成されている。放出された電子を上述の電磁界が周回運動させることによって、プラズマの電離生成率が高まり、長寿命かつ高密度のプラズマを生成させることができる。
【0033】
なお、筒状電極215、上側磁石216aおよび下側磁石216bの周囲には、これらが形成する電磁界が他の装置や外部環境に悪影響を及ぼさないように、電磁界を有効に遮蔽する金属製の遮蔽板223が設けられている。
【0034】
主に、筒状電極215、整合器272、高周波電源273、上側磁石216aおよび下側磁石216bにより、本実施形態に係るプラズマ生成部が構成されている。
【0035】
(制御部)
制御部としてのコントローラ121は、信号線Aを通じてAPC242、バルブ243b及び真空ポンプ246を、信号線Bを通じてサセプタ昇降機構268を、信号線Cを通じてヒータ217b及びインピーダンス可変機構274を、信号線Dを通じてゲートバルブ244を、信号線Eを通じて整合器272及び高周波電源273を、信号線Fを通じてマスフローコントローラ252a、252b及びバルブ253a、253b、243aを、信号線Gを通じてランプヒータユニット280を、それぞれ制御するように構成されている。
【0036】
(2)基板処理工程
次に、本実施形態に係る基板処理工程について、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る基板処理工程を示すフロー図である。本実施形態に係る基板処理工程は、例えばフラッシュメモリ等の半導体デバイスの製造工程の一工程として、上述のMMT装置100により実施される。なお以下の説明において、MMT装置100を構成する各部の動作は、コントローラ121により制御される。
【0037】
なお、本実施形態に係る基板処理工程で処理されるウエハ200上には、例えば図3(a)に示すシリコン酸化膜15o、15oやシリコン窒化膜15nが予め形成されている。ここでは、図3(a)に示す積層膜のうち、シリコン窒化膜15n上層のシリコン酸化膜15oまで積層済みの状態となっているものとし、ポリシリコン膜16形成前に窒化処理を行って、主にシリコン窒化膜15n上層のシリコン酸化膜15oを窒化させる場合について説明する。
【0038】
(基板搬入工程S10)
まずは、上記のウエハ200を処理室201内に搬入する。具体的には、ウエハ200の搬送位置までサセプタ217を下降させて、サセプタ217の貫通孔217aにウエハ突上げピン266を貫通させる。その結果、突き上げピン266が、サセプタ217表面よりも所定の高さ分だけ突出した状態となる。
【0039】
続いて、ゲートバルブ244を開き、図中省略の搬送機構を用いて処理室201に隣接する真空搬送室(図示せず)から処理室201内にウエハ200を搬入する。その結果、ウエハ200は、サセプタ217の表面から突出したウエハ突上げピン266上に水平姿勢で支持される。処理室201内にウエハ200を搬入したら、搬送機構を処理室201外へ退避させ、ゲートバルブ244を閉じて処理室201内を密閉する。そして、サセプタ昇降機構268を用いてサセプタ217を上昇させる。その結果、ウエハ200はサセプタ217の上面に支持される。その後、ウエハ200を所定の処理位置まで上昇させる。一方、サセプタ昇降機構268の回転機能を用いて、ウエハ200の回転を開始する。後述の排気工程S70の終了時までこの回転を継続することで、ウエハ200面内における基板処理の均一性を向上させることができる。なお、基板搬入工程S10は、処理室201内を不活性ガス等でパージしながら行ってもよい。
【0040】
(昇温・排気工程S20)
続いて、サセプタ217の内部に埋め込まれたヒータ217bに電力を供給することによって所定の温度(25℃〜500℃)に予め加熱されたサセプタ217によって、ウエハ200表面が所定の温度となるように加熱される。また、ウエハ200を500℃〜900℃に加熱したい場合は、装置のランプヒータユニット280も用いる。また、ウエハ200の昇温を行う間、真空ポンプ246によりガス排気管231を介して処理室201
内を排気し、処理室201内の圧力を0.1Pa以上100Pa以下の範囲内の所定値とする。真空ポンプ246は、少なくとも後述の基板搬出工程S80が終了するまで作動させておく。
【0041】
(処理ガス流量調整工程S30)
次に、水素含有ガスとしてのHガス及び窒素含有ガスとしてのNガスの流量調整を行う。具体的には、バルブ253a、253b、243aを開ける。Hガス及びNガスは、まず、ガス供給管232a、232b内にそれぞれ流れ込む。このとき、ガス流量制御部としてのマスフローコントローラ252a、252bにより、ガス供給管232a、232b内におけるHガス及びNガスの流量の調整をそれぞれ行う。流量調整されたHガス及びNガスはガス供給管232a、232b内を更に下流側に流れて合流し、混合されて、HガスとNガスとを含む処理ガスとなる。
【0042】
このとき、処理ガス中に含まれる水素原子の数と窒素原子の数との総数に対する水素原子の数の比率が、例えば0%よりも多く80%以下となるよう、Hガス及びNガスの流量をそれぞれ調整する。すなわち、上記比率Rを、R=[水素原子数/(水素原子数+窒素原子数)]×100(%)と定義した場合、例えば0%<R≦80%となるように流量調整する。本実施形態においては、処理ガス中のHガスとNガスとの合計の流量に対するHガスの流量の比率を0%より多く、80%以下となるようにすれば、水素原子の上記所定の比率Rを満たす。これによって、窒化速度をより向上させることができる。より好ましくは、水素原子の数の比率が、5%以上75%以下となるようにする。これによって、酸化膜を高濃度に窒化させることができる。
【0043】
また、Hガス及びNガスのそれぞれの流量を、例えば100sccm以上1000sccm以下の範囲内の所定値とする。好ましくは、HガスとNガスとを含む処理ガスの総流量が、200sccm以上1000sccm以下となるようにする。これによって、後の工程で生じる窒素活性種のウエハ200への供給効率を増大させ、窒化速度を向上させることができる。より好ましくは、HガスとNガスとを含む処理ガスの総流量が、600sccm以上となるようにする。これによって、後の工程で生じる窒素活性種のウエハ200への供給効率を増大させ、窒化速度をより向上させることができると共に、酸化膜を高濃度に窒化させることができる。
【0044】
(処理ガス供給工程S40)
処理ガス流量調整工程S30にてバルブ253a、253b、243aを開けると、流量調整されたHガスとNガスとを含む処理ガスが処理室201内へと供給される。このとき、処理室201内の圧力が、例えば0.1Pa以上100Pa以下の範囲内の所定圧力となるように、APC242の開度を調整する。より好ましくは、8Pa以上100Pa以下の範囲内の所定値となるようにする。これによって、後述のプラズマ中でのイオン形成に適した圧力となり、窒化速度を向上させることができ、シリコン酸化膜を高濃度に窒化させることができる。さらに好ましくは、25Pa以上80Pa以下の範囲内の所定値となるようにする。これによって、さらに高濃度な窒化を実現することができる。処理ガスの供給は、後述の窒化処理工程S60の終了時まで継続する。
【0045】
(処理ガス励起工程S50)
処理室201内の圧力が安定したら、筒状電極215に対して高周波電源273から整合器272を介して高周波電力を印加する。このとき、高周波電力の周波数を例えば13.56MHzとし、例えば150W以上1000W以下の範囲内の所定の出力値の高周波電力を印加する。これにより、処理室201内、より具体的にはウエハ200の上方のプラズマ生成領域224内で、HガスとNガスとを含む処理ガスをプラズマ状態に励起させる。プラズマ状態となった処理ガス中のHガスとNガスとは例えば解離し、水素
活性種や窒素活性種、すなわち、水素ラジカル(H)や窒素ラジカル(N)のほか、水素イオン(H)や窒素イオン(N)、その他のラジカル、イオン等を生成する。
【0046】
また、インピーダンス可変機構274により、サセプタ217を予め所定のインピーダンス値に制御しておく。これにより、サセプタ217の電位、ひいてはウエハ200の電位(バイアス電圧)を制御することができる。このとき、ウエハ200のバイアス電圧を高めるようにインピーダンス値を制御すれば、サセプタ217上のウエハ200へのイオン入射量を増大させることができ、窒化速度をより向上させることができる。また、ウエハ200への窒素の侵入深さが所定深さとなるバイアス電圧が得られるようにインピーダンス値を調整することで、積層膜中の所定の膜、例えば上層のシリコン酸化膜15oを窒化することができる。
【0047】
また、インピーダンス可変機構274により、電位的に揺れるサセプタ217とプラズマとの電位の位相差を調整できる。サセプタ217とプラズマとで例えば位相を反転(ほぼ180°)させ、サセプタ217とプラズマとの電位差の絶対値が大きくなるように制御すると、ウエハ200への供給される窒素活性種と水素活性種の供給量を増やすことができ、窒化速度をより向上させることができる。或いは、例えば上記の位相差を0°〜180°の範囲内で調整し、窒化速度とウエハ200面内の窒素濃度の均一性とのバランスが取れるように制御すると、窒化速度と均一性との双方を許容値の範囲内とすることができる。
【0048】
(窒化処理工程S60)
高周波電力により処理ガスが励起されると、励起した処理ガスにより、ウエハ200の表面にプラズマ処理が施される。プラズマ中の窒素活性種はシリコン酸化膜15o膜中に侵入して窒化させ、シリコン窒化(SiN)膜やシリコン酸窒化(SiON)膜へと改質させる。このとき、窒素活性種と共に水素活性種をウエハ200表面に供給することにより、シリコン酸化膜が還元される。シリコン酸化膜が還元されると、Si未結合手が生成され、窒素とSiが反応し易い状態になり、窒化速度が向上していると考えられる。また、窒素は酸素原子等の不純な原子を介す事無くSiと直接結合するので、窒素とSiの結合状態は、窒素活性種のみで処理した場合よりも、結合度の強い窒化シリコンや酸窒化シリコンが形成される。また、還元で発生した酸素や、水素活性種と反応して生成された水(HO)は、シリコン酸化膜中から脱離し、雰囲気と共に排気される。
【0049】
窒化処理後には、シリコン酸化膜15oと窒素との結合を強固なものにするため、アニール処理が施されることがある。このとき、窒化処理によってシリコン酸化膜15o中に取り込まれた窒素の結合が弱すぎると、アニール処理の高温により窒素がシリコン酸化膜15o中から抜けてしまう。しかし、本実施形態では、シリコン酸化膜15o中の窒素が安定した結合状態となっており、アニール処理での窒素の抜けを抑制することができる。
【0050】
その後、所定の処理時間、例えば9秒〜15秒が経過したら、バルブ253aを閉めて、Hガスの処理室201内への供給を停止し、ほぼ同時に、高周波電源273からの電力の印加を停止する。係る操作の後、プラズマ放電後の処理室201内は、主にNガスの雰囲気で満たされる。Hガスの供給を先に停止することによって、水素活性種とシリコン酸化膜が反応することで生成されるSiの未結合手を残したまま処理が終わらないようになっている。Siの未結合手が残っていると、後の工程においてSi未結合手と酸素が反応し、薄膜の特性が変化することがある。また、処理中に高温となったシリコン酸化膜と残留したHガスが反応することも防止できる。Hガス停止後は、Si未結合手と窒素が結合する。これらにより、処理後の薄膜の安定性が向上する。
【0051】
その後、バルブ253b、243aを閉めて、Nガスの処理室201内への供給を停
止する。以上により、シリコン酸化膜15oが窒化(改質)され、窒化処理工程S60が終了する。
【0052】
(排気工程S70)
ガスの供給を停止したら、ガス排気管231を用いて処理室201内を排気する。これにより、処理室201内のNガスやHガス、及びそれらが反応した排ガス等を処理室201外へと排気する。その後、APC242の開度を調整し、処理室201内の圧力を処理室201に隣接する真空搬送室(ウエハ200の搬出先。図示せず)と同じ圧力(例えば100Pa)に調整する。
【0053】
(基板搬出工程S80)
処理室201内が所定の圧力となったら、サセプタ217をウエハ200の搬送位置まで下降させ、ウエハ突上げピン266上にウエハ200を支持させる。そして、ゲートバルブ244を開き、図中省略の搬送機構を用いてウエハ200を処理室201外へ搬出する。このとき、処理室201内を不活性ガス等でパージしながら基板搬出を行ってもよい。以上により、本実施形態に係る基板処理工程を終了する。
【0054】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0055】
(a)本実施形態によれば、HガスとNガスとを含む処理ガスを使用して窒化処理を行っており、また、処理ガス中に含まれる水素原子の数と窒素原子の数との総数に対する水素原子の数の比率を0%より多く80%以下となるようにしている。これによって、シリコン酸化膜15oの窒化速度を向上させることができ、短時間で高濃度に窒化させることができる。
【0056】
(b)また、本実施形態によれば、HガスとNガスとを含む処理ガスを使用して窒化処理を行っており、また、処理ガス中に含まれる水素原子の数と窒素原子の数との総数に対する水素原子の数の比率を5%以上75%以下としている。これによって、シリコン酸化膜15oの窒化速度を向上させることができる。またさらなる高濃度な窒化を実現でき、近年の集積回路の微細化や半導体デバイスが要求する窒化濃度を実現することができる。
【0057】
(c)また、本実施形態によれば、上記構成とすることで、シリコン酸化膜15o中に侵入した窒素を安定な結合状態とすることができる。よって、後にアニール処理を行う場合、窒素がシリコン酸化膜15o中から抜けるのを抑制することができ、アニール処理後もシリコン酸化膜15o中の窒素を高濃度に維持することが可能である。
【0058】
(d)また、本実施形態によれば、処理ガスの総流量を600sccm以上としている。あるいは、処理室201内の圧力を25Pa以上80Pa以下としている。これらの条件のいずれか又は両方を採用することによって、窒化速度をより向上させることができる。
【0059】
(e)また、本実施形態によれば、インピーダンス可変機構274を備え、ウエハ200のバイアス電圧を調整しながらプラズマによる窒化処理を行っている。これによって、所定の窒化速度を得ることができ、特に、ウエハ200のバイアス電圧を高めれば、窒化速度をさらに向上させることができる。
【0060】
(f)また、本実施形態によれば、上記バイアス電圧の調整により、ウエハ200への窒素の侵入深さを所定値とすることができ、図3に示す積層膜中の所定の膜、例えば上層のシリコン酸化膜15oを窒化することができる。このとき、積層膜中の下層膜深さまで窒
素を侵入させ、下層のシリコン酸化膜15oを同時に窒化することも可能である。これによって、複数の膜の一括処理が可能となり、工程数を削減することができる。
【0061】
(g)また、本実施形態によれば、インピーダンス可変機構274によって、サセプタ217とプラズマとの電位の位相差を0°〜180°の範囲内の所定値に調整している。これによって、位相をほぼ180°に反転させれば、窒化速度をさらに向上させることができ、或いは、位相差を0°〜180°の範囲内で調整すれば、窒化速度とウエハ200面内の窒素濃度の均一性とを共に許容値の範囲内とすることができる。
【0062】
(h)また、本実施形態によれば、プラズマを生成する高周波電力を停止するタイミングで、Nガスの供給よりも先にHガスの供給を停止している。Hガスの供給を先に停止することによって、水素活性種とシリコン酸化膜が反応することによって生成されるSiの未結合手を残したまま処理が終わらないようになっている。Siの未結合手が残っていると、後の工程においてSi未結合手と酸素が反応し、薄膜の特性が変化することがある。また、処理中に高温となったシリコン酸化膜と残留したHガスが反応することも防止できる。これにより、処理後の薄膜の安定性が向上する。
【0063】
(h)また、本実施形態を、図3(a)に示すようなフラッシュメモリ等の半導体装置の積層膜に適用することによって、高スループットで高濃度に窒化処理をすることができ、バーズビークの発生を抑制して半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【0064】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施の形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0065】
例えば、上述の実施形態においては、水素含有ガスとしてHガスを用い、窒素含有ガスとしてNガスを用いることとしたが、これ以外の水素含有ガスや窒素含有ガスを用いることもできる。例えば、水素含有ガスとしてアンモニア(NH)ガスを用いることも可能である。NHガスを用いて処理ガス中における水素原子の比率Rを75%とするときは、NHガスを単独で使用し、窒素含有ガスの流量を0sccmに調整すればよい。また、NHガスに窒素含有ガスを添加して水素原子の比率Rを75%未満としてもよく、NHガス以外の水素含有ガスを更に添加して所定の比率Rとなるようにしてもよい。
【0066】
また、上述の実施形態においては、水素原子の比率Rを0%より多く、80%以下とし、好ましくは5%以上75%以下としたが、係る範囲を外れる場合であっても、水素含有ガスの存在下、窒化速度を向上させる一定の効果は得られる。よって、窒化処理の時間を延ばすことで、酸化膜中の窒素濃度を所定値とすることが可能である。
【0067】
また、上述の実施形態においては、Hガスの供給停止を高周波電力の停止とほぼ同タイミングとしたが、Hガスの供給停止は、高周波電力の停止前あるいは後のタイミングであってもよく、また、Nガスの供給停止とほぼ同タイミングとしてもよい。
【0068】
また、上述の実施形態においては、ONO膜15が積層された状態でシリコン酸化膜15o等を窒化するものとしたが、例えば各膜を一層ずつ、或いは途中まで積層するごとに窒化処理を行ってもよく、各膜の窒化処理のタイミングを任意に選定することができる。よって、工程順序の自由度を増すことができる。
【0069】
また、上述の実施形態においては、成膜後に窒化処理をするものとしたが、その後のパターニングがされた積層膜に対して窒化処理を行ってもよい。各膜のパターニングされた端部から窒素を侵入させ、窒化することが可能である。
【0070】
また、上述の実施形態においては、窒化処理のみをMMT装置100にて行うこととしたが、窒化膜や酸化膜の形成をMMT装置100で行い、同一の処理室201内にて連続して窒化処理を行うようにしてもよい。
【0071】
また、上述の実施形態においては、フラッシュメモリに本発明を適用することとしたが、DRAM(Dynamic Random Access Memory)のゲート絶縁膜等、その他の半導体装置に本発明を適用することも可能である。
【0072】
また、上述の実施形態においては、シリコン酸化膜15o等を窒化処理するものとしたが、酸化膜としてはこれ以外にも、ハフニア(HfO)やハフニウムシリケート(HfSi)、ジルコニア(ZrO)、ジルコニウムシリケート(ZrSi)等のHigh−k膜や、Al、Ti、W等を含む膜であってもよい。
【0073】
また、上述の実施形態においては、MMT装置100により基板処理工程を実施するものとしたが、使用可能な基板処理装置はこれに限られず、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)方式プラズマ処理装置やECR(Electron Cyclotron Resonance)方式プラズマ処理装置を用いることも可能である。
【実施例】
【0074】
次に、本発明に係る実施例1〜4について説明する。以下の各実施例においては、シリコン基板上にシリコン酸化膜が10nm厚さに形成されたサンプルを複数用意し、係るサンプルそれぞれに対して異なる条件で窒化処理を施し、シリコン酸化膜中の窒素の量・状態を調べた。窒化処理は、図1に示す上記実施形態のMMT装置100を使用し、図2に示す基板処理工程を基本とする工程を用いて行った。
【0075】
(実施例1)
本発明の実施例1を、比較例とともに説明する。本実施例では、Hガス及びNガスを用いて上記サンプルに窒化処理を施し、シリコン酸化膜中の窒素の量・状態を、Nガスのみを用いて窒化処理を施した比較例に係るサンプルと比較した。
【0076】
図4に、本実施例及び比較例に係るサンプルの、シリコン酸化膜中の窒素量を蛍光X線分析法による窒素の信号強度の強弱で比較したデータを示す。図4の左側が(a)実施例1を示すデータであり、右側が(b)比較例を示すデータである。図4の縦軸は、蛍光X線分析法によるシリコン酸化膜中の窒素の相対的な信号強度(a.u.)を示している。係る信号強度は、シリコン酸化膜中の窒素濃度との相関を有し、信号強度が高いほど窒素濃度も高い。以下に、(a)実施例1(Hガス及びNガスを使用)と、(b)比較例(Nガスのみを使用)と、に係る条件の詳細を示す。
【0077】
(a)実施例1に係る条件
高周波電力:800W
ガス流量:250sccm
ガス流量:750sccm
処理室内圧力:30Pa
基板温度:450℃
窒化処理時間:60秒
【0078】
(b)比較例に係る条件
高周波電力:800W
ガス流量: 0sccm
ガス流量:1000sccm
処理室内圧力:30Pa
基板温度:450℃
窒化処理時間:60秒
【0079】
図4に示すように、本実施例は比較例よりも強い信号強度を示しており、シリコン酸化膜中の窒素濃度の向上率は約38%であった。HガスとNガスとを用いて窒化処理をすることで、Nガス単独での窒化処理に比べて、一定の処理時間(60秒)で得られるシリコン酸化膜中の窒素濃度、すなわち、窒化速度が向上していることがわかる。
【0080】
また、それぞれのサンプルについて、X線光電子分光法によってシリコン酸化膜中の窒素の結合状態を比較したところ、本実施例に係るシリコン酸化膜中の窒素のほうが、より安定した結合状態となっていることがわかった。このことから、窒化処理後のアニール処理において、窒素がシリコン酸化膜中から抜け難いと考えられ、アニール処理後も膜中の窒素を高濃度に維持できると予想される。
【0081】
図5に、上記(b)の条件において処理時間を60秒〜240秒の範囲で変化させて処理した薄膜の窒素信号強度と、上記(a)の条件で作製した薄膜の窒素信号強度を比較したグラフ図を示す。図5の横軸は、処理時間(秒)を示している。図5の縦軸は、蛍光X線分析法によるシリコン酸化膜中の窒素の相対的な信号強度(a.u.)を示している。図中、◆印が上記(b)の条件にて処理した場合のデータであり、■印が上記(a)の条件にて処理した場合のデータである。
【0082】
図5に示すように、(a)の条件で処理した薄膜と同等の窒素信号強度の薄膜を、(b)の条件で得るためには、約120秒以上必要なことが分かる。よって、本実施例では、窒化速度を約2倍向上させることができる。
【0083】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例では、上記(a)の条件を基準として、Nガスの流量比率のみが異なる幾つかの条件で、それぞれ別々のサンプルに窒化処理を施し、各サンプルのシリコン酸化膜中の窒素量を蛍光X線分析法による窒素の信号強度の強弱で比較した。比較にあたっては窒化された薄膜が用いられるデバイスの特性を満足するような窒素信号強度を目標値と定め、信号強度が目標値以上となる流量比について検討した。
【0084】
図6に、Nガスの流量比率、具体的には、Hガス及びNガスの合計の流量に対するNガスの流量の比率を変化させたときの、シリコン酸化膜中の窒素の信号強度変化を示す。図6の横軸は、Nガスの流量比率(%)を示している。図6の縦軸は、蛍光X線分析法によるシリコン酸化膜中の窒素の相対的な信号強度(a.u.)を示している。
【0085】
図6に示すように、Nガスの流量比率を変化させると、一定範囲内の流量比率において信号強度が強まる凸型のグラフとなった。つまり、Nガスの流量比率には最適値(範囲)がある。信号強度が目標値以上となるNガスの流量比率は、25%以上95%以下の範囲であった。係る比率を、Hガス及びNガスの合計の流量に対するHガスの流量比率(上述の水素原子の比率Rに相当)で表わすと、Hガスの流量比率が5%以上75%以下となる。5%以上75%以下の範囲内において、信号強度が目標値以上となり、酸化膜の窒化速度を向上させるとともに、高濃度な窒化を実現することができる。また、Hガスの流量比率が0%より多く、5%より少ない範囲内と、75%より多く、80%以下の範囲内と、においても窒化速度を向上させることができる。
【0086】
(実施例3)
本実施例では、処理ガスの総流量のみが異なる幾つかの条件について、上述の実施例2と同様の比較・検討を行った。
【0087】
図7に、処理ガス(ここではHガス及びNガス)の総流量を変化させたときの、シリコン酸化膜中の窒素の信号強度変化を示す。図7の横軸は、Hガス及びNガスの総流量(sccm)を示している。図7の縦軸は、蛍光X線分析法によるシリコン酸化膜中の窒素の相対的な信号強度(a.u.)を示している。
【0088】
図7に示すように、総流量を増やすほど信号強度は強まり、測定範囲内では総流量と信号強度とは概ね比例関係にあることがわかった。これは、処理ガスをプラズマ化した際に生成される窒素活性種のウエハ200への供給効率が増大するためと考えられる。信号強度が目標値以上となるHガス及びNガスの総流量は、600sccm以上であった。
【0089】
(実施例4)
本実施例では、処理室内圧力のみが異なる幾つかの条件について、上述の実施例2と同様の比較・検討を行った。
【0090】
図8に、処理室内圧力を変化させたときの、シリコン酸化膜中の窒素の信号強度変化を示す。図8の横軸は、処理室内圧力(Pa)を示しており、放電時の圧力をみている。図8の縦軸は、蛍光X線分析法によるシリコン酸化膜中の窒素の相対的な信号強度(a.u.)を示している。
【0091】
図8に示すように、処理室内圧力が50Pa付近で信号強度が極を持つ凸型のグラフが得られた。つまり、処理室内圧力には最適値(範囲)が存在する。これは、プラズマ中でのイオン形成に適した圧力範囲があるためと考えられる。窒化濃度が向上した処理室内圧力は、約8Pa以上100Pa以下の範囲であり、信号強度が目標値以上となる処理室内圧力は、25Pa以上80Pa以下の範囲であった。
【0092】
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様を付記する。
【0093】
本発明の一態様は、
処理室内に設けられた基板支持部により、酸化膜が形成された基板を支持して加熱する工程と、
ガス流量制御部により処理ガス中の水素含有ガスと窒素含有ガスとの流量をそれぞれ調整し、前記処理ガス中に含まれる水素原子の数と窒素原子の数との総数に対する前記水素原子の数の比率Rを0%<R≦80%とする工程と、
前記ガス流量制御部を備えるガス供給部により、前記比率を調整した前記処理ガスを前記処理室内に供給する工程と、
前記処理室内に供給した前記処理ガスをプラズマ生成部により励起する工程と、
励起した前記処理ガスで前記基板を処理する工程と、を有する
半導体装置の製造方法。
【0094】
本発明の他の態様は、
酸化膜と窒化膜とが積層された基板を処理室内に搬入する工程と、
前記処理室内に設けられた基板支持部により前記基板を支持して加熱する工程と、
ガス流量制御部により処理ガス中の水素含有ガスと窒素含有ガスとの流量をそれぞれ調整し、前記処理ガス中に含まれる水素原子の数と窒素原子の数との総数に対する前記水素
原子の数の比率Rを0%<R≦80%とする工程と、
前記ガス流量制御部を備えるガス供給部により、前記比率を調整した前記処理ガスを前記処理室内に供給する工程と、
前記処理室内に供給した前記処理ガスをプラズマ生成部により励起する工程と、
励起した前記処理ガスで前記基板を処理する工程と、
前記基板を前記処理室内から搬出する工程と、を有する
半導体装置の製造方法。
【0095】
好ましくは、
前記流量を調整する工程では、
前記比率Rを5%≦R≦75%とする。
【0096】
好ましくは、
前記酸化膜には、シリコンが含まれている。
【0097】
好ましくは、
前記窒化膜には、シリコンが含まれている。
【0098】
好ましくは、
前記酸化膜は、前記窒化膜の上面側、下面側のいずれか又は両方に形成されている。
【0099】
好ましくは、
前記処理ガスは、水素ガス、窒素ガス、アンモニアガスの少なくともいずれかを含む。
【0100】
好ましくは、
前記処理ガスの総流量は600sccm以上である。
【0101】
好ましくは、
前記基板を処理するときの前記処理室内の圧力は、25Pa以上80Pa以下である。
【0102】
好ましくは、
前記基板を処理する工程では、
前記基板支持部の内部に設けられたインピーダンス調整電極に接続されるインピーダンス調整部により前記基板のバイアス電圧を調整する。
【0103】
本発明のさらに他の態様は、
酸化膜と窒化膜とが積層された基板が搬入される処理室と、
前記処理室内に設けられ、前記基板を支持して加熱する基板支持部と、
処理ガス中の水素含有ガスと窒素含有ガスとの流量をそれぞれ調整するガス流量制御部と、
前記ガス流量制御部を備え、前記処理ガスを前記処理室内に供給するガス供給部と、
前記処理ガスを励起させるプラズマ生成部と、
前記基板支持部、前記ガス流量制御部、前記ガス供給部及び前記プラズマ生成部を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、
前記処理室内に搬入された前記基板を加熱させ、前記処理ガス中の水素原子の数と窒素原子の数との総数に対する前記水素原子の数の比率Rが0%<R≦80%となるよう前記水素含有ガスの流量と前記窒素含有ガスの流量とを調整させ、前記比率を調整させた前記処理ガスを前記処理室内に供給させ、前記処理室内に供給させた前記処理ガスを励起させ、励起させた前記処理ガスで前記基板を処理させるよう制御する
基板処理装置。
【0104】
好ましくは、
前記制御部は、
前記比率Rが5%≦R≦75%となるよう前記各部を制御する。
【0105】
好ましくは、
前記基板支持部の内部に設けられたインピーダンス調整電極に接続され、前記基板のバイアス電圧を調整するインピーダンス調整部を有し、
前記制御部は、
前記基板の前記バイアス電圧を調整させつつ前記基板を処理させるよう、前記インピーダンス調整部を制御する。
【符号の説明】
【0106】
15o シリコン酸化膜
15n シリコン窒化膜
100 MMT装置(基板処理装置)
121 コントローラ(制御部)
200 ウエハ(基板)
201 処理室
252a、252b マスフローコントローラ(ガス流量制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化膜と窒化膜とが積層された基板を処理室内に搬入する工程と、
前記処理室内に設けられた基板支持部により前記基板を支持して加熱する工程と、
ガス流量制御部により処理ガス中の水素含有ガスと窒素含有ガスとの流量をそれぞれ調整し、前記処理ガス中に含まれる水素原子の数と窒素原子の数との総数に対する前記水素原子の数の比率Rを0%<R≦80%とする工程と、
前記ガス流量制御部を備えるガス供給部により、前記比率を調整した前記処理ガスを前記処理室内に供給する工程と、
前記処理室内に供給した前記処理ガスをプラズマ生成部により励起する工程と、
励起した前記処理ガスで前記基板を処理する工程と、
前記基板を前記処理室内から搬出する工程と、を有する
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記酸化膜には、シリコンが含まれている
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記窒化膜には、シリコンが含まれている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記酸化膜は、前記窒化膜の上面側、下面側のいずれか又は両方に形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
酸化膜と窒化膜とが積層された基板が搬入される処理室と、
前記処理室内に設けられ、前記基板を支持して加熱する基板支持部と、
処理ガス中の水素含有ガスと窒素含有ガスとの流量をそれぞれ調整するガス流量制御部と、
前記ガス流量制御部を備え、前記処理ガスを前記処理室内に供給するガス供給部と、
前記処理ガスを励起させるプラズマ生成部と、
前記基板支持部、前記ガス流量制御部、前記ガス供給部及び前記プラズマ生成部を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、
前記処理室内に搬入された前記基板を加熱させ、前記処理ガス中の水素原子の数と窒素原子の数との総数に対する前記水素原子の数の比率Rが0%<R≦80%となるよう前記水素含有ガスの流量と前記窒素含有ガスの流量とを調整させ、前記比率を調整させた前記処理ガスを前記処理室内に供給させ、前記処理室内に供給させた前記処理ガスを励起させ、励起させた前記処理ガスで前記基板を処理させるよう制御する
ことを特徴とする基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−69674(P2012−69674A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212409(P2010−212409)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】