説明

検査装置

【課題】設定された精度の検査結果を得るのに要する時間の点で有利な検査装置を提供する。
【解決手段】異物または欠陥としての不具合に関して物体を検査する検査装置は、光を照射された物体からの光を検出し、当該光の強度が閾値を超えた前記物体上の位置を示す信号を出力する検出部と、前記物体上の位置に異物または欠陥としての不具合が存在することを示す情報を出力する制御部と、前記物体上の位置に前記不具合が存在する確率を示す情報を記憶する記憶部と、前記不具合の検査漏れの数に対する上限値を示す情報を入力する操作部と、を備える。前記制御部は、前記検出部に既定回数(少なくとも1回)前記検出を行わせ、推定された総数と前記記憶部に記憶された情報が示す前記確率とに基づいて、決定された全回数から前記既定回数を減じた残り回数の前記検出を前記検出部に行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物または欠陥としての不具合に関して物体を検査する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体露光用のマスクに塵等の異物が付着していると、その異物がウエハに転写されるため、マスク等の基板に付着した異物を検査する検査装置が重要な役割を果たしている。この検査装置は、異物のほか、基板の表面に存在する欠陥なども検査の対象とする。この検査装置を用いて2種類の検査を行うことができる。その1つは、基板そのものに存在している異物、欠陥の検査であり、以下、単純検査と呼ぶ。他の1つは、ある工程で基板に新たに付着した異物、新たに加わった欠陥の検査であり、以下、増加検査と呼ぶ。
【0003】
単純検査は、基板に付着している異物や欠陥の検査で、もっとも広く行われる検査である。例えば、極端紫外線(EUV)露光用のマスクは、その製作工程で、多層膜を形成するガラス基板、多層膜が形成されたマスク基板、パターンが形成されたマスクなど、多くの工程で、異物検査あるいは多層膜の位相検査、マスクパターンの欠陥検査等が行われる。特定された欠陥や異物の位置をもとに、異物の除去や修正が行われる。増加検査とは、特定の工程で付着した異物の数を測定するもので、対象とする工程の前後で単純検査を行い、その異物の数の増減を求める。例えば、マスクの搬送工程による付着異物数を測定して発塵工程を特定したり、多層膜の蒸着前後で欠陥の数を測定して無欠陥工程の開発に利用したりする。用途や検査対象に応じて様々な検査装置が使用される。例えば、異物検査装置やEUVマスクの位相検査装置は、集光させたレーザ光やEUV光を測定対象の基板上で走査させ、その反射光や散乱光を測定して異物を発見する。その他、CCDで画像として測定する場合もある。
【0004】
単純検査と増加検査のいずれでも、検査は高い信頼性が要求されるが、検出限界付近の微細な異物の測定では、検出確率が100%にならないことから生じる欠陥や異物の数え落としと、擬似信号による誤認とが生じる。擬似信号による誤認は、ノイズの信号が閾値を超えたために検査装置が誤ってノイズを異物であると判断するものである。これらの不確定要素から異物の計数誤差が生じる。そのため、複数回検査して、同一位置に複数回発見される信号だけを存在する異物とみなす測定方法がとられる。この方法は、1回しか検出されない信号を擬似信号として排除するものである。非特許文献1には、マスク基板の検査で、擬似信号を取り除くために複数回検査することが示されている。また、特許文献1には、印刷装置の欠陥検査で、複数回印刷することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2005−205796号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Proc. of SPIE, Vol. 6517, 65171Z (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
検査を繰り返し、閾値を超える信号が同一位置に複数回得られた場合だけ、そこに実際に異物が存在するとみなす検査では、擬似信号を排除しうるが、検査を繰り返す回数が多くなるので検査に要する時間が長くなる。
本発明は、設定された精度の検査結果を得るのに要する時間の点で有利な検査装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光を照射された物体からの光を検出し、当該光の強度が閾値を超えた前記物体上の位置を示す信号を出力する検出部と、前記検出部により行われた全回数(少なくとも2回)の前記検出において前記検出部から所定回数(少なくとも2回)以上出力された前記信号が示す前記物体上の位置に異物または欠陥としての不具合が存在することを示す情報を出力する制御部と、を備え、前記不具合に関して前記物体を検査する検査装置であって、前記検出部から出力された前記信号が示す前記物体上の位置に前記不具合が存在する確率を示す情報を記憶する記憶部と、前記不具合の検査漏れの数に対する上限値を示す情報を入力する操作部と、を備え、前記制御部は、前記物体に対して前記検出部に既定回数(少なくとも1回)前記検出を行わせ、当該検出により出力された前記信号を用いて前記不具合の総数を推定し、推定された前記総数と前記記憶部に記憶された情報が示す前記確率とに基づいて、前記操作部により入力された情報が示す前記上限値を前記検査漏れの数が超えないために行うべき前記全回数を決定し、決定された前記全回数から前記既定回数を減じた残り回数の前記検出を前記検出部に行わせる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、設定された精度の検査結果を得るのに要する時間の点で有利な検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】検査の様子を示す図
【図2】異物の信号強度を示す図
【図3】単純検査のフローチャート
【図4】検出確率、誤差率及び検査回数の関係を示す図
【図5】異物のサイズと信号強度及び検出確率との関係を示す図
【図6】異物の信号位置を示す図
【図7】単純検査の別例のフローチャート
【図8】増加検査のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
[検査の原理]
物体に付着した異物または物体に存在する欠陥である不具合を検査する検査の原理を説明する。異物、欠陥を含む不具合を「異物」で代表させ、以下、「異物」は、基板に付着した塵等の異物に加え、基板の表面に存在する欠陥をも含むものとする。本発明の検査装置は、単純検査及び増加検査のいずれにおいても、設定された異物の検出精度が達成できる検出処理の最少の回数だけ検出処理を実施する。まず、検出処理の回数と検出確率との関係を説明する。異物の検出確率と擬似信号の発生率は、一様で2項分布に従うと仮定し、単純検査について説明した後、増加検査について説明する。
【0012】
単純検査
本発明の検査装置は、物体に光を照射し、物体から発生する散乱光を検出し、検出された散乱光の強度が閾値を超えた物体上の位置に異物が存在すると判断して異物が存在することを示す信号(異物信号)を出力する。検査装置は、検出処理を行い、行った全ての検出処理において異物信号が所定回数(少なくとも2回)以上出力された物体上の位置に異物が存在すると判断する。この異物の存在を判断するための検出処理の所定回数を以下では「基準回数」と呼ぶこととする。一方、検査装置は、同一位置での出力回数が基準回数未満の異物信号を擬似信号であるとみなす。行った検出処理の回数をm、基準回数をkとすると、基準回数は2以上の整数であり、m≧kである。このとき、m回の検出処理による異物の検出漏れの数(計数誤差)の期待値Nerrは、以下の式1で表せる。

【0013】
基準回数kは、例えば2であるが、位置検出分解能が低い、あるいはノイズが多い場合には、基準回数kを3以上とすればよい。ここで、Pは1回の検出処理において特定位置で異物を検出する確率、Pqは1回の検出処理において特定位置で擬似信号を検出する確率である。換言すれば、Pは、出力された信号が示す物体上の位置に異物が存在する確率であり、Pqは、出力された信号が擬似信号である確率である。Niは、150×150mmの物体(例えば基板)の検査範囲に存在する異物の総数(異物数)であり、Nqは基板の検査範囲(すなわち150×150mm)における擬似信号数である。式1の右辺における第1項の成分は、実際に存在する異物を見落とす期待値で、第2項の成分は擬似信号を異物と誤認する期待値である。Nerrは検出漏れの異物数を示すものであるので、第1項の成分と第2項の成分との符号は逆になる。また、検査装置の1回の検出処理において検出確率Pは、一般に、図5の破線で示すように、検出限界付近では異物のサイズが小さくなると異物を検出する確率は小さくなる。
【0014】
また、特定位置で擬似信号を検出する確率Pqは、異物の検出の位置分解能と検査面全面における擬似信号数とに依存する。位置検出分解能の範囲内で検出された異物は同一位置と認識される。そのため、位置分解能が100×100μmで、擬似信号数Nqの場合、1回目の検査の擬似信号の領域である特定領域はNq*(100×100μm)/(150×150mm)=4×10−7*Nqとなる。また、2回目の検査の擬似信号がこの領域で発生する可能性Pqは、4×10−7*Nq2となる。擬似信号数Nqが10個でも第2項は4×10−5となり、事実上、第2項は0と見做せる。従って、計数誤差の期待値Nerrは、式2で表わせる。

【0015】
異物の計数誤差の期待値Nerrの付着した異物数Niに対する割合、すなわち異物の検出漏れの確率Nerr/Niを誤差率Rerrと定義すると、誤差率Rerrは次式3で表される。

【0016】
図4Aに、1回の検出処理において特定位置で異物を検出する確率Pと誤差率Rerrとの関係を示す。横軸に検出確率Pを、縦軸に誤差率Rerrをとり、検出処理が行われた全回数mを変数に取った。擬似信号を検出するために検出処理を2回以上行う場合、検出処理の全回数mが増加するに従って誤差率Rerrが小さくなることがわかる。図4Bに検出処理の全回数mに対する誤差率Rerrを示す。横軸に検出処理の回数mを、縦軸に誤差率Rerrを、変数に検出確率Pをとった。
【0017】
式2、式3から明らかなように、検出処理の回数mを算出するためには、1回の検出処理において特定位置で異物を検出する確率Pと、異物の計数誤差の期待値Nerr及び基板に付着した異物数Ni、又は、誤差率Rerrとを取得する必要がある。そのうち、異物の計数誤差の期待値Nerrと誤差率Rerrとのいずれかは目標値として入力される。異物の計数誤差の期待値Nerrが目標値として入力された場合、基板に付着した異物数Niが判明すれば、この異物数Niと異物の計数誤差の期待値Nerrとから、誤差率Rerrは、Rerr=Nerr/Niの関係を用いて算出可能である。したがって、この場合に検出処理の回数mを決定するために取得すべき変数は、異物の検出確率Pと基板に付着した異物数Niとの2つである。また、誤差率Rerrが目標値として入力された場合、検出処理の回数mを決定するために取得すべき変数は、異物の検出確率Pのみである。
【0018】
(異物の検出確率Pの取得手法)
大きさがわかった標準粒子、例えばPSL(polystyrene latex)を散布した基板を検査して、異物のサイズと出力の大きさ、異物のサイズの検出確率Pとの関係の情報を取得する。この情報は、例えば図5で示される情報であり、取得した情報を検査装置の記憶部に格納しておく。
【0019】
(基板に付着した異物数Niの取得手法)
検査対象の基板に対して検査装置により検出処理を1回以上実行する。1回目、2回目、・・・、k回目の検出処理で検出された異物信号数をそれぞれN1、N2、・・・、Nとし、k回の検出処理のすべてで共通して検出された異物信号数をN1kとする。基板に付着した異物数Niは不明であるが、次の手法のいずれかで暫定的に決定できる。
(1)1回目(又は2回目、・・・、k回目)の検出処理で得られた異物信号数N1(又はN2、・・・、N)を検出確率Pで割った値を基板上の異物数Niとして暫定的に決定する。
Ni=N1/P(又はN2/P、・・・、Nk/P)・・・(4)
この手法は初期異物数に比べて擬似信号が少ない場合に有効である。
(2)k回の検出処理で共通して検出された異物信号数N1kを検出確率Pのk乗で割った値を異物数Niとして暫定的に決定する。
Ni=N1k/P・・・(5)
この手法は、初期異物数に比べて擬似信号が多い場合に適切に初期異物数を暫定的に決定できる。また、(1)と(2)の手法は、図5の異物サイズに対する検出確率Pの情報が事前に得られている場合に有効である。
(3)上記(2)の手法において、検出確率Pは(N1/Ni)、(N2/Ni),・・・、(Nk/Ni)で近似できるから、これらを辺々掛け合わせると、次式が得られる。
Pk=N1×N×・・・×N/Nik
さらに、この式を上記(2)の手法のNi=N1k/Pの算出式に代入して、Pを消去すれば、NiがN1〜NとN1kで表せる。
Ni=(N1×N×・・・×N/N1k)1/(k−1)・・・(6)
【0020】
例えば基準回数を2回とし(1)の手法でNiを暫定的に決定する場合、第1回目の検出処理で検出確率Pが90%の異物信号が9個得られた場合、異物数Niは10個(9÷90%)と暫定的に決定される。検査漏れ(異物の計数誤差)の期待値Nerrを0.01個にするためには、誤差率(Nerr/Ni)を0.1%(0.01÷10)以下にする必要がある。式2又は式3、式3をグラフ化した図4Bから、目標検出精度である計数誤差の上限値0.01個を満たすに必要な検出処理の回数mの値以上であって当該mの値に最も近い整数5が必要回数として算出される。したがって、検出処理の残り回数(m−k)は5−2=3回と算出される。この例では、1回だけ検出処理を行い、当該1回の検出処理の検出結果を用いて異物数Niを推定した。この異物数Niの推定のために行う検出処理の回数を「既定回数(少なくとも1回)」と呼ぶとすると、先の例における既定回数は1回である。
【0021】
ここで、m回の検出処理のうちの最終回であるm回目の検出処理の意味を考える。最終回を除く1〜(m−1)回目の検出処理のうちの1回だけ検出された異物が、m回目の検出処理で検出され検出回数が2回になって現実の異物とみなせるかどうかを判断するのに使用される異物信号のみが意味を有する。従って、m回目の検出処理では、(m−1)回目までの検出処理で1回しか検出されていない異物信号の位置のみを対象とした検出処理をすれば、それまでの(m−1)回の検出処理と同じ検出精度で検出処理したことになる。(m−1)回の検出処理で1回しか検出されていない異物の位置の検出処理は、全面の検出処理に要する時間に比べて極めて短時間でできるので、事実上(m−1)回の処理時間でm回の検出処理ができることになる。
【0022】
増加検査
先に述べたように、増加検査とは、基板を特定の処理(プロセス)において使用することで付着した異物数を求める検査である。増加検査と単純検査の差は、増加検査では、基板を特定のプロセスで使用する前後でそれぞれ複数回の検出処理が実施されることにある。特定のプロセスで使用する前の検出処理を前検査、後の検出処理を後検査と呼ぶことにする。増加検査の計数誤差の期待値Nerrは、式7で表わせる。ここで、m1とm2はそれぞれ前検査及び後検査における検出処理回数で、Naがプロセスで付着した異物数である。

【0023】
式7の右辺の第1項の成分は、前検査で検出しなかったにもかかわらず後検査で異物を検出してプロセスでの使用によって付着した異物と誤認識する期待値、第2項の成分はプロセスでの使用によって付着した異物を後検査で検査漏れする期待値である。また、第3項の成分は、擬似信号をプロセスでの使用によって付着した異物と誤認識する期待値である。式7において、Pq<10−4なので、第2項の成分のうち前方の{}の値は1であると近似でき、また、第3項の成分は無視できる。そうすると、誤差率RerrをNerr/Naと定義すれば、式7は次式8に変形できる。

【0024】
[実施例1]
図1に検査装置を用いた異物検査の様子を示す。検査装置は、基板2上を走査しながら、不図示の光源から細く絞ったレーザ光1を被検査物であるマスク(基板)2に照射する。レーザ光1が基板2に付着した異物5a,5bに照射されると、散乱光3が発生し、検出器4がその散乱光を検出する。検出された散乱光3の強度が閾値を超えた場合、信号処理部6は、散乱光3の強度が閾値を超えた基板2の上の位置に異物が存在することを示す異物信号を出力する。光源、検出器4、信号処理部6は検査装置の検出部7を構成している。検査装置は、さらに、記憶部8、操作部9、制御部10を備える。大きさがわかった標準粒子、例えばPSL(polystyrene latex)を散布した基板の検出処理によって検出部7が取得した異物の大きさと信号強度、検出確率との情報は記憶部8に記憶される。また、操作部9を介して、許容可能な異物の計数誤差Nerrや誤差率Rerrが入力される。制御部10は、検出部7による複数回の検出処理の結果、記憶部8により記憶された異物の大きさと検出確率Pとの関係を示す情報、操作部9を介して入力された計数誤差Nerr、誤差率Rerrを用いて検出処理の必要回数を算出する。制御部10は、また算出された回数の検出処理を検出部7に行わせ、その検出結果から基板2に付着した異物の大きさ、位置を決定する。
【0025】
基板上の位置に対応した散乱光の強度を図2に示す。実線と破線がそれぞれ、第1回目と第2回目の検出処理時の出力とする。レーザ光1が異物5に照射されると、散乱光3の強度が増加し、異物の存在がわかる。例えば、制御部10は、散乱光の強度が閾値Vを超えれば異物が存在するとみなして異物の有無を判断し、さらには散乱光の強度の大きさで異物の大きさも判断できる。ところが、検出限界の付近の異物を検出しようとすると、異物からの散乱光の強度とノイズとの差が小さくなるため、位置X3に異物がないにも関わらず、第1回目の検出処理では閾値V以上の散乱光が出現し、異物と誤認されることがある。このような異物と誤認されるノイズ信号を擬似信号と呼ぶ。擬似信号が出現する位置は、ランダムであるため複数回の検出処理を行った場合に2回同じ位置に出現する可能性は極めて小さい。例えば、図2の第2回目の検出処理では、位置X3での散乱光の強度は閾値Vより小さくなっている。逆に検出限界の異物からの散乱光の強度は閾値Vより小さくなることがある。その場合、異物の数え落しが出現し、複数回の検出処理を行っても全ての検出処理で異物を検出できるわけではない。ある大きさの異物を検出する確率は、検出確率として表す。
【0026】
本実施例の検査装置は、検出処理すべき一つの基板に対して基準回数(ただし、基準回数は2以上)以上のある回数の検出処理を行う。検査装置は、行った全ての検出処理において基準回数以上にわたって異物信号が出力された基板上の位置に異物が存在すると判断することで擬似信号を排除する。検出処理の回数を増加させると、検査時間が増大するため、目的の検出精度で最短の検査時間となるような検出処理の最適の回数を算出する手法を説明する。
【0027】
図3に、単純検査の一例のフローチャートを示す。第1ステップで、制御部10は、異物の大きさ毎の検出確率を示す情報を記憶部8から取得する。図5は、検査対象の基板の検出処理前に予め検出された異物の大きさに対する検出部7の出力と異物の検出確率Pとの関係を示す情報である。この情報は、粒子径の分かったPolystyrene latex(PSL)を散布した基板を、同一粒子が検査装置を用いたM回の検出処理で検出される回数Nを求めて、各粒子径に対して検出確率P(=N/M)を計算することで得ることができる。さらに、この検出確率を算出する際に信号強度と異物の大きさとの関係を示す情報も得ておく。
第2ステップで、操作部9を介して、大きさ70nmの異物に対して検出漏れの数の許容可能な範囲の上限の値0.1個が入力される。第3ステップで、検出部7は、基板に対して検出処理を2回実施する。第4ステップで、制御部10は、基板に実際に存在する異物数Niを暫定的に決定する。制御部10がステップ1で記憶部8から取得した図5の情報から70nmの異物の検出確率は95%であることがわかる。第3ステップの2回の異物検査で、2回とも検出された70nmの異物数が90個とすると、実際の異物数Niは、90/(0.95×0.95)で99.8個と暫定的に決定される。
【0028】
第5ステップで、制御部10は、計数誤差Nerrが0.1個となる検出処理の残り必要回数を求める。暫定的に決定された異物数Niは99.8個であるため、誤差率Rerr(=Nerr/Ni)は、0.1%となる。この誤差率と式3又は図4Bとから検出処理の必要回数は3.5回となる。通常算出された必要回数は小数となるが、制御部10は、それを切り上げた回数、即ち4回を検出処理の必要回数と算出する。4回の検出処理を行えば異物を見落とす数は、1枚のマスク当たり0.1個より小さい値となることがわかる。既に第3ステップで2回の検出処理が行われたので、検出処理の必要回数に満たない残り回数は2回と算出される。第6ステップで検出部7は、残り回数2回の検出処理を実施する。第7ステップで、制御部10は、第3ステップ及び第6ステップで実施した計4回の検出処理結果から、実際の異物の大きさ、位置を決定する。即ち、2回以上同じ位置で検出された異物信号を選択し、その位置に異物が付着しているとして認識する。以上の異物位置をもとに、異物の除去または基板の修正が行われる。なお、第1ステップは、同一の検査条件では1回実施しておけばよく、通常の場合の検出処理は第2ステップから実施される。第5ステップで算出された検出処理回数4回は最低必要回数であって、それ以上の回数の検出処理を実施することは何ら問題ない。
【0029】
ここで、60nmの異物に対しても0.2個以下の精度で検出したい場合、第2ステップで、70nmの異物に対して許容計数誤差0.1個、60nmの異物に対して許容計数誤差0.2個と入力される。第3ステップで検出部7が60nmの異物を81個検出するとすると、図5から得られる60nmの異物に対する検出確率90%を使用して、60nmの異物数は100個と暫定的に決定される。即ち誤差率は0.2%で、図4Bから必要回数は4.3回となる。70nm相当の異物に対して求めた必要回数は3.5回だった。したがって、70nmと60nmの異物に対して求めた必要回数のうち多い回数、即ち5回を必要回数として選択する。
【0030】
最後の1回の検出処理に関して、検査時間を短縮することができる。図6に過去3回目までの検出処理における異物信号の検出状況を示した。○、△、×が、それぞれ第1回目から3回目までの検出処理で散乱光の強度が閾値を超える異物信号が検出された位置とする。最後の4回目の検出処理は、3回目までの検出処理で回しか出現していない位置での異物信号が異物か擬似信号かを判別することなので、位置P1と位置P2でだけ検査すれば、最後の1回の検出処理の目的を達成できる。その結果、検査時間の短縮が可能となる。
【0031】
[実施例2]
検査装置に入力する計数誤差に関する条件として、許容異物数を付着異物数で割った誤差率を使用する場合を、図7のフローチャートを用いて説明する。第1ステップは、実施例1と同じである。第2ステップで、操作部9を介して70nmの異物に対して許容される誤差率0.1%が検査装置に入力される。誤差率0.1%は、70nmの異物が1000個あった場合、検出できない異物が1個しか許容されない、あるいは、100個の異物が付着している基板10枚の検出処理で、検出できない異物が1枚の基板の1個しか許容されないことを意味する。第3ステップで、制御部10は、誤差率0.1%と例えば図4Bの情報とから検出処理の回数3.5回を算出し、その回数を切り上げて必要回数を4回と算出する。第4ステップで、検出部7は、必要回数4回の検出処理を実施する。第5ステップは、実施例1の第7ステップと同じステップなので説明を省略する。
【0032】
[実施例3]
検査装置を用いて増加検査を行う実施例3を図8のフローチャートを用いて説明する。先に述べたように、増加検査とは、基板を特定の処理(プロセス)で使用することにより基板に付着する異物を決定する検査である。その計数誤差は式7で、または計数誤差を付着した異物数で割った値である誤差率は式8で与えられる。実施例1と相違するステップのみを説明する。本実施例では、ステップ7の基板を特定の処理(プロセス)で使用する前後で、それぞれ複数回の検出処理が実施される。プロセスでの使用前の異物検査を前検査、後の異物検査を後検査と呼ぶことにする。第2ステップで、70nmの異物の許容計数誤差Nerrが入力される。次に実施例1の単純検査と同様に、第3ステップ3で検出部7は2回の検出処理を実施し、第4ステップで制御部10は、基板の異物数Niを暫定的に決定する。次に、第5ステップ5で、制御部10は、前検査の検出処理の残り回数を算出する。
【0033】
増加検査の計数誤差Nerrは式7で表わせるように、付着異物数Naが求まらないと決定できない。式7は、指定値である許容計数誤差Nerrを満たす条件(検査回数m1、初期異物数Ni)の範囲を示すためにあるので、式9の不等式で書き直すことができる。


ここで、式9の右辺をみると、第2項の成分及び第3項の成分は、式9の右辺の値を減じる成分である。従って、式10を満たす検査回数m1’を求め、式9のm1に代入すれば式9を満たすことは明らかである。

【0034】
式10の、第1項の成分は前検査で検出できなった異物を後検査で検出して新しく付着した異物と誤認識する誤差であり、そのうちの{}の部分が前検査の誤差率Rerr1であり、その後ろのΣ部分は、後検査で異物を検出する確率であり1に近いが1を超えない。従って、増加測定の計数誤差Nerr、基板の異物数Ni、前検査の誤差率Rerr1が、式11を満たせばよい。すなわち、未知の付着異物数Naを含まない式11が成立するようにすれば、増加検査の許容計数誤差Nerrを満たすことができる。

【0035】
今、増加検査の計数誤差Nerr=0.2個が求められ、第4ステップ4で暫定的に決定された異物数Niが100個とすると、前検査の誤差率Rerr1は、Rerr1<Nerr/Ni=0.002=0.2%となる。70nmの異物の検出確率は95%であり、前検査の誤差率Rerr1は0.2%を超えていればよいので、図4Bを用いると、前検査の検出処理の必要回数は3.3回と算出されるので切り上げられて4回と算出される。第6ステップで、検出部7は、必要回数に満たない残り回数2回の検出処理を実施し、前検査が終了する。次に、第7ステップで、基板が特定の処理で使用され、その後、検査装置は、第8〜11ステップの後検査を実施する。後検査では、第8ステップ8で検出部7が、2回の検出処理を実施し、第9ステップで、制御部10は、特定の処理での使用により基板に付着した異物の数Naの推定を行う。第9ステップ9では、前検査で正確に異物が検査されたとして、第8ステップ8で実施した2回の検出処理で、前検査で検出されなかった新しい位置に2回とも検出された異物数Na1に、検出確率Pの2乗で割った値をNaとして使用する。Na1が9個の場合、基板に付着した異物数は10個であると暫定的に決定される。次に第10ステップで、制御部10は、検出処理の必要回数を算出する。許容誤差0.1個と基盤に付着した異物数から誤差率は1%となり、図4Bから後検査の検出処理の必要回数は2.8回と算出されるので切り上げられて3回と決定される。第11ステップで、検出部7は、必要回数に満たない残り回数1回の検出処理を実施して、後検査が終了する。最後に、第12ステップで、制御部10は、前検査における4回の検出処理と後検査における3回の検出処理で得られた異物位置から、後検査のみで検出された異物の大きさ、位置が決定される。特定の処理での使用により基板に付着した異物は、後検査の3回の検出処理のうち少なくとも2回の検出処理において同一位置で検出された信号とする。このようにして、増加検査を高精度で検査できる。
【0036】
ここで、高精度あるいは高効率な検査のために、以下の方法も取りえる。第10ステップで後検査の検出処理の必要回数を算出し、決定する場合に、前検査の計数誤差が小さいとして、単純検査で使用した式3から求められた図を使用した。しかし、単純検査と増加検査の誤差の期待値は、それぞれ式2と式7で表され、両者の間には差があるため、増加検査では式7で計算したグラフを用いてもよい。また、前述の様に、計数誤差の期待値を示す式7は、第1項の成分と第2項の成分の符号は逆であるため期待値が負になる場合がある。これは、単に、付着異物数が小さく出ているに過ぎないので絶対値をとって計算すればよい。あるいは、第2項の成分のみで計数誤差を算出してもよい。さらに、前検査における検出処理の必要回数を決定するために、前検査の開始前に付着異物数を推定して、式7で計算したグラフを用いてもよい。あるいは、発塵工程を特定する実験では、同一の基板を繰り返し使用して前検査以前の全検査を前検査の検査として使用して、前検査の検出処理の回数を増やして、式7の右辺における第1項の成分の計数誤差を事実上無視できる値にしてもよい。
【0037】
計数誤差の期待値を示す式7は、第1項の成分と第2項の成分の符号は逆であるため、両者が打ち消しあって、計数誤差の期待値が0となる場合がある。その場合、第2項の成分の符号を敢えて正にして計数誤差を大きく見積もることで、式7から算出される精度より高精度な検査をすることができる。また、後検査の最後の1回の検査に関して、1回しか出現していない信号の位置のみを検査して、検査時間を短縮できることは、単純検査と同様であるが、増加検査ではさらに検査位置を少なくできる。後検査で1回しか出現していない信号の位置のうち、前検査で1回でも信号が得られた位置は、前検査時に、既に異物が付着していたことを示すものであるから、後検査の最後の検査位置から除外でき、かつこれらは付着異物でないと判断できる。以上、実施例1〜3で検査される異物は、基板に付着した塵埃に限られるものではなく、マスク基板の欠陥、マスクのパターン欠陥、多層膜マスクの位相欠陥、さらに基板に形成した回路の欠陥であってもよい。また、本実施例では、走査型の検査装置で説明したが、検査光を一括照射して、その反射光をCCDで画像として検査する場合にも適用可能である。また、実施例1で基板に検査光を照射して、異物からの散乱光を測定するものとして説明したが、異物からの反射光または蛍光線を異物からの信号光としてもよい。
【0038】
以上の実施例において、異物の大きさを実寸法として入力する場合を説明したが、異物の大きさに対応する信号強度で入力してもよい。これは、検査可能な粒子を全て異物として認識させたい場合に有効となる。その場合、標準粒子による異物の検出確率Pの取得が必ずしも必要ではなく、検出確率Pは次に示す別の方法で取得してもよい。
【0039】
既に、基板に付着した異物数Niの取得手法で示したように、検査対象の基板に対して検査装置により検出処理を2回以上実行する。1回目、2回目、・・・、k回目の検出処理で検出された異物信号数をそれぞれN1、N2、・・・、Nとし、k回の検出処理のすべてで共通して検出された異物信号数をN1kとする。ここで、式6を式5に代入して、Niを消去して、検出確率PをN1、N2、・・・、NとN1kで書き表して、式12を得る。
P=N1k1/(k−1)/((N1×N×・・・×N)1/k(k−1))・・・(12)
例えば、検査回数2回(K=2)の場合で、N1=N2=90、N12=81が得られたとすると、P=N1k/(N1×N)1/2となり、P=90%が得られる。 この様にして得られた検出確率Pを記憶部で記憶しておき、既に述べた実施例の処理に従って、必要な検査回数を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を照射された物体からの光を検出し、当該光の強度が閾値を超えた前記物体上の位置を示す信号を出力する検出部と、
前記検出部により行われた全回数(少なくとも2回)の前記検出において前記検出部から所定回数(少なくとも2回)以上出力された前記信号が示す前記物体上の位置に異物または欠陥としての不具合が存在することを示す情報を出力する制御部と、を備え、前記不具合に関して前記物体を検査する検査装置であって、
前記検出部から出力された前記信号が示す前記物体上の位置に前記不具合が存在する確率を示す情報を記憶する記憶部と、
前記不具合の検査漏れの数に対する上限値を示す情報を入力する操作部と、を備え、
前記制御部は、
前記物体に対して前記検出部に既定回数(少なくとも1回)前記検出を行わせ、当該検出により出力された前記信号を用いて前記不具合の総数を推定し、
推定された前記総数と前記記憶部に記憶された情報が示す前記確率とに基づいて、前記操作部により入力された情報が示す前記上限値を前記検査漏れの数が超えないために行うべき前記全回数を決定し、
決定された前記全回数から前記既定回数を減じた残り回数の前記検出を前記検出部に行わせる、ことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記既定回数をkとし、k回の前記検出のうち1回目、2回目、・・・、k回目の前記検出で出力された信号の数をそれぞれN1、N2、・・・、Nkとし、k回の前記検出のすべてで出力された信号の数をN1kとし、前記確率をPとするとき、前記制御部は、前記総数を、N1/P、N2/P、・・・、Nk/P、N1k/P又は(N1×N×・・・×N/N1k)1/(k−1)として推定する、ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記確率をPとし、前記上限値をNerrとし、前記物体上の検査範囲に存在する不具合の総数をNiとするとき、前記制御部は、

を満たすmの値以上であって当該mの値に最も近い整数を前記全回数として決定する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
光を照射された物体からの光を検出し、当該光の強度が閾値を超えた前記物体上の位置を示す信号を出力する検出部と、
前記検出部により行われた全回数(少なくとも2回)の前記検出において前記検出部から所定回数(少なくとも2回)以上出力された前記信号が示す前記物体上の位置に異物または欠陥としての不具合が存在することを示す情報を出力する制御部と、を備え、前記不具合に関して前記物体を検査する検査装置であって、
前記検出部から出力された前記信号が示す前記物体上の位置に前記不具合が存在する確率を示す情報を記憶する記憶部と、
前記不具合の検査漏れの確率に対する上限値を示す情報を入力する操作部と、を備え、
前記制御部は、
前記記憶部に記憶された情報が示す前記確率に基づいて、前記操作部により入力された情報が示す前記上限値を前記検査漏れの確率が超えないために行うべき前記全回数を決定し、
決定された前記全回数の前記検出を前記検出部に行わせる、ことを特徴とする検査装置。
【請求項5】
前記検出部に前記検出を行わせる回数をk(ただしkは2以上)とし、前記確率をPとし、前記上限値をRerrとするとき、前記制御部は、

を満たすmの値以上であって当該mの値に最も近い整数を前記全回数として決定する、ことを特徴とする請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記全回数のうち最終回を除く全ての回の前記検出において1回のみ前記検出部から出力された前記信号が示す前記物体上の位置のみを対象として前記最終回の前記検出を前記検出部に行わせる、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記物体を特定の処理において使用する前および後のそれぞれにおいて、前記全回数だけ前記検出を前記検出部に行わせ、
前記後において前記制御部により出力された前記信号の示す前記物体上の位置のうち、前記前において前記制御部により出力された前記信号の示す前記物体上の位置でない前記物体上の位置に、前記特定の処理において増加した前記不具合が存在する、ことを示す情報を出力する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項8】
前記検出部に前記検出を行わせる回数をk(ただしkは2以上の整数)とし、k回の前記検出のうち1回目、2回目、・・・、k回目の前記検出で出力された信号の数をそれぞれN1、N2、・・・、Nkとし、k回の前記検出のすべてで出力された信号の数をN1kとするとき、前記確率をN1k1/(k−1)/((N1×N×・・・×N)1/k(k−1))として推定する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−174892(P2011−174892A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41004(P2010−41004)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】