磁気抵抗効果素子、それを用いた磁気メモリセル及びランダムアクセスメモリ
【課題】垂直磁化材料を適用し、TMR比の高い磁気抵抗効果素子を提供する。
【解決手段】CoFeB層41/MgOバリア層10/CoFeB層42の外側に融点が1600℃以上の単体金属、もしくはその金属を含んだ合金からなる中間層31,32を挿入する。中間層31,32の挿入により、アニール時におけるCoFeB層の結晶化をMgO(001)結晶側から進行させ、CoFeB層をbcc(001)で結晶配向させる。
【解決手段】CoFeB層41/MgOバリア層10/CoFeB層42の外側に融点が1600℃以上の単体金属、もしくはその金属を含んだ合金からなる中間層31,32を挿入する。中間層31,32の挿入により、アニール時におけるCoFeB層の結晶化をMgO(001)結晶側から進行させ、CoFeB層をbcc(001)で結晶配向させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁化材料を用いた磁気抵抗効果素子と、それを用いた磁気メモリセル及びランダムアクセスメモリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁性体を用いたメモリとしてMRAM(Magnetic Random Access Memory)が開発されている。MRAMは、トンネル磁気抵抗(Tunneling Magnetoresistive:TMR)効果を利用するMTJ(Magnetic Tunneling Junction)を要素素子として用いる。MTJ素子は2枚の強磁性体層で非磁性体層(絶縁層)を挟んだ構造を有し、片側の強磁性体層(記録層)の磁化方向を外部磁場によって反転できる。このように、MTJ素子では磁性体層の磁化方向を制御することによって、情報を記録する。電源を切っても磁性体の磁化方向は変化しないため、記録した情報が保持される不揮発動作を実現できる。MTJ素子の磁化方向を変化させる(情報を書き換える)には、外部から磁場を印加する方式の他、近年、MTJ素子に直接直流電流を流して磁化を反転させる、スピントランスファートルク磁化反転(スピン注入磁化反転)方式が見出されている。例えば、特許文献1には面内磁化材料を記録層として用い、スピン注入磁化反転を利用するMTJ素子及びそれを集積したメモリ:SPRAM(SPin-transfer trque Magnetic Random Access Memory)が開示されている。
【0003】
SPRAMの集積度向上にはMTJ素子の微細化が必要となるが、その際、MTJ素子における磁気情報の熱的安定性が課題となる。MTJ素子の記録層の磁化方向を反転させるために必要な磁気エネルギーに対し、環境温度による熱エネルギーが高くなる場合、外部磁場もしくは電流を印加しなくとも磁化の反転が起こる。サイズの縮小とともにMTJ素子の磁気エネルギーは減少するため、素子の微細化に伴いこの熱的安定性は低下する。微細な領域でも熱的安定性を維持し信頼性の高い動作を実現するためには、MTJ素子の記録層材料の結晶磁気異方性を高めるのが有効である。これまでに、面内磁化材料と比べ結晶磁気異方性の高い垂直磁化材料を用いたMTJ素子が開示されている(特許文献2)。さらに垂直磁化材料を適用したMTJ素子では、記録層内にかかる反磁界の影響が面内磁化MTJ素子とは異なり、磁化の反転に要する電流密度(書き込み電流密度)を低減する方向にはたらく。そのため、面内磁化MTJ素子と比べ書き込み電流密度を低減でき消費電力を抑制できる利点がある。
【0004】
垂直磁化MTJ素子において抵抗変化率(TMR比)を向上させる手段として、絶縁層(バリア層)に酸化マグネシウム(MgO)を用い、その両側に電子スピンの分極率が高い材料(CoFeBなど)を配置する構造が開示されている(特許文献3)。ここで垂直磁化の強磁性層は高分極率磁性層に直に接して配置される。さらに、垂直磁化層として、非磁性体層を2枚の垂直磁化層で挟んだ構造(積層フェリ構造)を用いる素子も提案されている(特許文献3)。この場合、2枚の垂直磁化層の磁化は反平行方向に結合されるため、垂直磁化層から発生する漏れ磁場を抑制する効果がある。
【0005】
上記のような垂直磁化MTJ素子を作製し、高いTMR比を得るためには、バリア層とその両側の高分極率磁性層の結晶配向制御が重要である。これまでの面内磁化TMR素子の研究から、NaCl構造をもつMgO(001)バリア層を用い、その両側にbcc(001)結晶構造をもつCoFeB層を配置すると、高いTMR比が得られることが知られている。室温でCoFeBを形成すると、CoFeBはアモルファスで成長する。その上にMgOを形成すると、MgO(001)結晶が成長する。その上にさらにCoFeBを形成した後、アニール処理を行うと、MgO(001)結晶を核にしてCoFeB層はbcc(001)に結晶配向する。面内磁化TMR素子の場合、このような機構を利用してMgO(001)とCoFeBのbcc(001)配向を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−305337号公報
【特許文献2】特開2005−32878号公報
【特許文献3】特開2007−142364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CoFeBとMgOの組み合わせを垂直磁化MTJ素子に適用する場合、CoFeBに接する材料を考慮する必要がある。上述したように、高いTMR比を得るにはCoFeBのbcc(001)結晶配向を実現するために、薄膜形成後のアニールが不可欠である。しかしながら、CoFeB/MgO/CoFeB積層構造を形成しても、CoFeBの外側に接する材料によっては、アニールでCoFeB層のbcc(001)配向が得られない場合がある。これは、CoFeBの結晶化がMgO界面からではなく、逆側の材料から進行することによる。MgO(001)とCoFeBのbcc(001)結晶配向を実現するには、CoFeBに隣接する材料として、CoFeBのMgO側からの結晶化を疎外しない適切な材料を選択する必要がある。従来の垂直TMR素子の構成では、CoFeBと垂直磁化磁性層が直に接するため、垂直磁化磁性層に用いる材料によっては薄膜形成後のアニール処理でCoFeBのbcc(001)構造実現が困難である。そのため、面内磁化MTJ素子と同様の手法(アニール温度上昇でCoFeBを結晶化させ高いTMR比を実現)を適用しようとした場合、アニール温度上昇に伴いTMR比が低下するか、もしくは、ある程度の温度までTMR比が向上するがそれ以上の温度では逆にTMR比が低下する課題がある。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑み、アニール処理後でも高いTMR比を示す垂直磁化MTJ素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)は、垂直磁化の強磁性材料を適用したMTJ素子であり、MgOのバリア層の基板側あるいは両側に高分極率の強磁性層であるCoFeB層を配置する。さらに、高分極率磁性層のバリア層と反対側の界面には、融点が1600℃以上の金属もしくはその合金からなる中間層を介して垂直磁化磁性層を配置する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、アニール後に高いTMR比を示す垂直磁化MTJ素子が作製可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のMTJ素子の断面模式図である。
【図2A】実施例1のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図2B】実施例1のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図2C】実施例1のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図3】実施例1のMTJ素子に関するTMR比のアニール温度依存性を示す図である。
【図4】実施例2のMTJ素子の断面模式図である。
【図5】実施例3のMTJ素子の断面模式図である。
【図6A】実施例3のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図6B】実施例3のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図6C】実施例3のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図7】磁気メモリセルの構成例を示す断面模式図である。
【図8】ランダムアクセスメモリの構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。
<実施例1>
図1に、実施例1におけるMTJ素子の断面模式図を示す。バリア層10の両側には、電子スピンの分極率が高い第1の高分極率磁性層41と第2の高分極率磁性層42を配置する。その外側には、第1の中間層31と第2の中間層32を配置し、それらに接して第1の磁性層21と第2の磁性層22を配置する。また、第1の磁性層21の下側には、下部電極11及び下地層13が形成され、第2の磁性層22の上側にはキャップ層14と上部電極12が形成される。
【0013】
各層の材料としては、バリア層10にMgO(膜厚:1nm)、第1の磁性層21にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を10周期積層した多層膜(膜厚:14nm)、第2の磁性層22にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を3周期積層した多層膜(膜厚:4.2nm)を用いた。また、第1の高分極率磁性層41及び第2の高分極率磁性層42にはCoFeB(膜厚:1nm)を適用し、第1の中間層31及び第2の中間層32にはTa(膜厚:0.5nm)を用いた。また、下部電極11としては、Ta層(膜厚:5nm)、下地層13にはRu(膜厚:10nm)を用いた。キャップ層14は、Ta(膜厚:5nm)、Ru(膜厚:5nm)の順に積層した薄膜を用いた。各層はArガスを用いたRFスパッタリング法を用いてSi基板5の上に形成した。
【0014】
積層膜を形成後、電子ビーム(EB)リソグラフィとイオンビームエッチングを用いて、上面の面積が50×50nmのピラー形状に加工した。その後、Cr(膜厚:5nm)/Au(膜厚:100nm)の積層構造からなる上部電極12を形成した。なお、図示はしていないが、上部電極層12と下部電極層11にはそれぞれ、素子に電流を流すための配線が接続される。
【0015】
素子の動作について図2Aから図2Cを用いて説明する。簡単のために、素子の抵抗変化に関係するバリア層10、第1の磁性層21、第2の磁性層22、第1の高分極率磁性層41、第2の高分極率磁性層42、第1の中間層31、第2の中間層32のみを図示する。素子の膜面と垂直方向に電流を流すと、第1の磁性層21に比べ膜厚の薄い第2の磁性層22の方が先に磁化反転するため、バリア層10の上側にある積層磁性層(第2の高分極率磁性層42/第2の中間層32/第2の磁性層22)が記録層となり、下側にある積層磁性層(第1の磁性層21/第1の中間層31/第1の高分極率磁性層41)が固定層となる。
【0016】
図2Aは素子に電流を流していない初期状態を示す。第1の磁性層21の磁化61、第1の高分極率磁性層41の磁化62、第2の磁性層22の磁化64、第2の高分極率磁性層42の磁化63はともに上側を向いている。第1の高分極率磁性層41は第1の磁性層21と強磁性結合しているため、両者の磁化は連動して同方向を向く。また、第2の高分極率磁性層42と第1の磁性層22の磁化についても同様である。
【0017】
図2Bは図2Aの状態から、素子に電流を流した時の磁化の方向を示す。素子の下部から上部へ向けて電流70を流すと、スピン偏極した電子80が第2の高分極率磁性層42を通り、第1の高分極率磁性層41に流れる。その際、第2の高分極率磁性層42のスピンと同方向のスピンを持った電子のみが、第1の高分極率磁性層41に流れ込み、逆方向のスピンを持った電子はバリア層10の表面で反射される。反射された電子は記録層の第2の高分極率磁性層42の磁化63に作用し、スピン注入磁化反転により、第2の高分極率磁性層42の磁化63が反転する。同時に、第2の高分極率磁性層42と磁気結合している第2の磁性層22の磁化64も反転する。このとき固定層の第1の高分極率磁性層41の磁化62と、記録層にある第2の高分極率磁性層42の磁化63が反平行配列となりMTJ素子は低抵抗状態から高抵抗状態にスイッチする。
【0018】
一方、図2Bの状態から、逆に素子の上部から下部へ電流を流すと図2Cの状態となる。素子の上部から下部へ向けて電流70を流すと、スピン偏極した電子80が第1の高分極率磁性層41から第2の高分極率磁性層42に流れこみ、スピン注入磁化反転により、第2の高分極率磁性層42の磁化63が反転する。同時に、第2の高分極率磁性層42と磁気結合している第2の磁性層22の磁化64も反転する。このとき固定層にある第1の高分極率磁性層41の磁化62と、記録層の第2の高分極率磁性層42の磁化63が平行配列となりMTJ素子の抵抗は高抵抗状態から低抵抗状態にスイッチする。
【0019】
実施例1の構造の素子を作製し評価した結果を図3に示す。TMR比はアニール温度とともに増大し、250℃のアニールでTMR比60%が得られた。一方、比較として、第1の中間層31及び第2の中間層22を挿入せずに作製した素子(第1の高分極率材料41のCoFeBが、第1の磁性層21の最上部にあるPdと接する構成)の場合、アニール温度200℃までは実施例1の素子と同等のTMR比を示したが、250℃のアニールではTMR比は20%にまで低下した。すなわち、実施例1の構造の素子では、適切な中間層(Ta)の挿入によりTMR比の耐熱性が向上する効果が確認された。上述したように、中間層として融点が1600℃より低いPdがCoFeBに接する場合にはTMR比の耐熱性は悪く、その他に、融点が1600℃より低いAlなどを適用した場合にもPdの時と同様の結果となった。
【0020】
実施例1の素子でTMR比の耐熱性が向上するのは以下の理由による。CoFeBを熱処理すると、ホウ素(B)の拡散が起きる。その際、実施例1のように、CoFeBに適切な中間層が隣接しているとBの拡散が抑制され、CoFeBはMgO(001)結晶の界面から結晶化し、bcc(001)に配向する。一方、中間層がない場合(直接、磁性層が隣接する場合)、もしくは、中間層がBの拡散を抑制しにくい材料(Pd,Cu,Alなど)の場合、アニールによってCoFeB中のBが拡散によって抜けるため、低いアニール温度でCoFeBがCoFeに結晶化する。その時、CoFeBの結晶化はMgOと逆側(CoFeBに隣接する中間層側もしくは磁性層側)から進行し、中間層もしくは磁性層の結晶構造に影響を受けてbcc(001)とは異なる結晶構造(fcc構造)か、異なる結晶方位(bcc(110))で結晶化する。したがって、Bの拡散を抑制する非磁性材料の挿入がCoFeBのbcc(001)結晶を得るために有効となる。本実施例で中間層に用いたTaは、CoやFeに比べて高い融点(1600℃以上)を有する。この場合、上述したようなCoFeBの結晶化をMgO側から進行させる効果が得られる。一方、アニール温度250℃でTMR比が低下した素子においてCoFeBと接するPdは融点が1600℃以下であり、CoFeBの結晶化をMgO側から進行させるのが困難である。
【0021】
実施例1では、第1の中間層31と第2の中間層32にTaを用いたが、それ以外にも、融点が1600℃以上の材料である、W,Ru,Pt,Ti,Os,V,Cr,Nb,Mo,Rh,Hf,Reなどを用いても、実施例1と同様の効果が得られる。また、第1の中間層31と第2の中間層32に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0022】
また、実施例1では、第1の磁性層21、第2の磁性層22の垂直磁化材料としてCoFeとPdの積層膜を適用したが、それ以外の垂直磁化材料を適用しても実施例1と同様の効果が得られる。具体的な材料として、例えば、Co50Pt50,Fe50Pt50,Fe30Ni20Pt50等のL10型規則合金や、m−D019型のCo75Pt25規則合金、もしくは、CoCrPt−SiO2,FePt−SiO2など粒状の磁性体が非磁性体の母相中に分散したグラニュラー構造の材料、もしくは、Fe,Co,Niのいずれかもしくは一つ以上を含む合金と、Ru,Pt,Rh,Pd,Crなどの非磁性金属を交互に積層した積層膜、もしくは、TbFeCo,GdFeCoなど、Gd,Dy,Tb等の希土類金属に遷移金属を含んだアモルファス合金を用いてもよい。また、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む、例えばCoCr合金や、CoCrPt合金を用いても良い。また、第1の磁性層21と第2の磁性層22に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0023】
また、キャップ層14としては、アニール処理による磁性層との反応や拡散の観点から、実施例1で用いたRuもしくはTaが望ましい。ただし、それ以外の材料として、Pt,Cr,Ti,Wなどの金属を用いてもよい。
【0024】
また、実施例1では、バリア層10の上側の磁性層(第2の磁性層22)を下側の磁性層(第1の磁性層21)よりも薄くしたため、第2の磁性層22が記録層として磁化反転する。それとは逆に、バリア層10の下側の磁性層(第1の磁性層21)を上側の磁性層(第2の磁性層22)よりも薄くした場合でも、実施例1と同様の抵抗変化及び同等のTMR比が得られる。ただし、その際はバリア層10の下側の磁性層(第1の磁性層21)が記録層としてはたらくため、第1の磁性層21の磁化が反転する。
【0025】
<実施例2>
実施例2は、バリア層10の下側のみに、垂直磁化磁性層/中間層/高分極磁性層の積層構造を適用したMTJ素子を提案するものである。図4に、実施例2のMTJ素子の断面模式図を示す。基本的な構成は実施例1で示した素子と同様であるが、実施例2では、第2の高分極率磁性層42と垂直磁化を示す第2の磁性層22は直接接続され、両者の間に中間層は挿入しない。
【0026】
各層の材料としては、バリア層10にMgO(膜厚:1nm)、第1の磁性層21にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を10周期積層した多層膜(膜厚:14nm)、第2の磁性層22にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を3周期積層した多層膜(膜厚:4.2nm)を用いた。また、第1の高分極率磁性層41及び第2の高分極率磁性層42にはCoFeB(膜厚:1nm)を適用し、第1の中間層31にはTa(膜厚:0.5nm)を用いた。また、下部電極11としては、Ta層(膜厚:5nm)、下地層13にはRu(膜厚:10nm)を用いた。キャップ層14は、Ta(膜厚:5nm)、Ru(膜厚:5nm)の順に積層した薄膜を用いた。
【0027】
各層はArガスを用いたRFスパッタリング法によってSi基板5の上に形成した。基板5から第2の高分極率磁性層42まで順に積層した後、その段階で真空チャンバー内において250℃のin-situアニールを行った。これにより、MgO(001)とCoFeBのbcc(001)結晶配向を実現した。その後、第2の磁性層22からキャップ層14までを形成した。
【0028】
積層膜を形成後、電子ビーム(EB)リソグラフィとイオンビームエッチングを用いて、上面の面積が50×50nmのピラー形状に加工した。その後、Cr(膜厚:5nm)/Au(膜厚:100nm)の積層構造を有する上部電極12を形成した。なお、図示はしていないが、上部電極層12と下部電極層11にはそれぞれ、素子に電流を流すための配線が接続される。
【0029】
素子の動作については実施例1と同様である。実施例2では、第2の高分極率磁性層42と第2の磁性層22が強磁性結合し、両者の磁化は連動して同方向を向くため、実施例1の図2Aから図2Cに示したのと同様の動作を示す。
【0030】
実施例2の構造の素子を作製し評価した結果、素子作製後にアニール処理を行わない(as-depo)状態でTMR比60%が得られ、素子作製後に250℃でアニール処理した場合でもTMR比の低下はなかった。これは、薄膜形成時のin-situアニールの段階で、CoFeBのbcc(001)結晶配向とMgO(001)結晶配向を実現したことによる。一方、比較として、第1の中間層31を挿入せずに(第1の高分極率材料41のCoFeBが、第1の磁性層21の最上部にあるPdと接する構成)作製した素子の場合、as-depoから250℃未満の温度でのアニール条件においてTMR比は実施例2よりも低く、250℃のアニールでTMR比は20%にまで低下した。以上より、実施例2の構造の素子では、適切な中間層(Ta)の挿入によりTMR比の耐熱性が向上する効果が確認された。
【0031】
また、実施例2では、第2の高分極率磁性層42を形成した直後に、in-situアニールを行う。第2の高分極率磁性層42の上部には接触する層が無いため、第2の高分極率磁性層42はMgO(001)側のみの影響を受けて結晶化する。つまり、第2の高分極率磁性層42については、上部層の材料の影響されることなく、容易にbcc(001)構造を実現できる利点がある。
【0032】
実施例2では、第1の中間層31にTaを用いたが、それ以外にも、融点が1600℃以上の材料である、W,Ru,Pt,Ti,Os,V,Cr,Nb,Mo,Rh,Hf,Reなどを用いても実施例2と同様の効果が得られる。また、第1の中間層31と第2の中間層32に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0033】
また、実施例2では、第2の高分極率磁性層42の磁性材料として、CoFeBを用いたが、それ以外にも、bcc結晶構造をとるCo50Fe50、Feなどの材料を用いても良い。例えば、第1の高分極率磁性層41としてアモルファスのCoFeBを成膜し、その上にMgOバリア層10を(001)に配向成長させる。その上に第2の高分極率磁性層42としてFeを堆積すると、MgOの結晶構造に従ってFeのbcc(001)構造が成長し、in-situアニール処理によって、bcc−CoFeB(001)/MgO(001)/bcc−Fe(001)を作製できる。
【0034】
また、実施例2では、第1の磁性層21及び第2の磁性層22の垂直磁化材料としてCoFeとPdの積層膜を適用したが、それ以外の垂直磁化材料を適用しても実施例2と同様の効果が得られる。具体的な材料として、例えば、Co50Pt50,Fe50Pt50,Fe30Ni20Pt50等のL10型規則合金や、m−D019型のCo75Pt25規則合金、もしくは、CoCrPt−SiO2,FePt−SiO2など粒状の磁性体が非磁性体の母相中に分散したグラニュラー構造の材料、もしくは、Fe,Co,Niのいずれかもしくは一つ以上を含む合金と、Ru,Pt,Rh,Pd,Crなどの非磁性金属を交互に積層した積層膜、もしくは、TbFeCo,GdFeCoなど、Gd,Dy,Tb等の希土類金属に遷移金属を含んだアモルファス合金を用いてもよい。また、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む、例えばCoCr合金や、CoCrPt合金を用いても良い。また、第1の磁性層21と第2の磁性層22に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0035】
また、キャップ層14としては、アニール処理による磁性層との反応や拡散の観点から、実施例2で用いたRuもしくはTaが望ましい。ただし、それ以外の材料として、Pt,Cr,Ti,Wなどの金属を用いてもよい。
【0036】
<実施例3>
実施例3は、バリア層の下側に、垂直磁化磁性層/高分極率磁性層/中間層/高分極率磁性層の積層構造を適用したMTJ素子を提案するものである。図5に、実施例3のMTJ素子の断面模式図を示す。基本的な構成は実施例1で示した素子と同様であるが、第1の中間層31と第1の磁性層21の間に第3の高分極率磁性層43を挿入する。
【0037】
各層の材料としては、バリア層10にMgO(膜厚:1nm)、第1の磁性層21にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を10周期積層した多層膜(膜厚:14nm)、第2の磁性層22にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を3周期積層した多層膜(膜厚:4.2nm)を用いた。また、第1の高分極率磁性層41と、第2の高分極率磁性層42、及び第3の高分極率層43にはCoFeB(膜厚:1nm)を適用し、第1の中間層31にはTa(膜厚:0.5nm)を用いた。また、下部電極11としては、Ta層(膜厚:5nm)、下地層13にはRu(膜厚:10nm)を用いた。キャップ層14は、Ta(膜厚:5nm)、Ru(膜厚:5nm)の順に積層した薄膜を用いた。
【0038】
実施例3の薄膜積層構造では、高分極率磁性層のCoFeBを中間層31の上下に1層ずつ挿入する。この構造の場合、薄膜形成後はアモルファスであるCoFeBが、第一の磁性層21の表面凹凸をより緩和し、MgOバリア層の下地層における表面平坦性を向上できる。その結果、より均一なバリア層が得られ、TMR比の向上や素子特性のばらつき抑制などに有効である。
【0039】
実施例1と同様の方法で実施例3のMTJ素子を作製し、特性を評価した結果、実施例1と同様の動作を示し、TMR比のアニール温度依存性においても実施例1と同様の効果が得られた。
【0040】
実施例3では、第1の中間層31及び第2の磁性層32にTaを用いたが、それ以外にも、融点が1600℃以上の材料である、W,Ru,Pt,Ti,Os,V,Cr,Nb,Mo,Rh,Hf,Reなどを用いても実施例3と同様の効果が得られる。また、第1の中間層31と第2の中間層32に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0041】
また、実施例3では、第1の磁性層21及び第2の磁性層22の垂直磁化材料としてCoFeとPdの積層膜を適用したが、それ以外の垂直磁化材料を適用しても実施例3と同様の効果が得られる。具体的な材料として、例えば、Co50Pt50,Fe50Pt50,Fe30Ni20Pt50等のL10型規則合金や、m−D019型のCo75Pt25規則合金、もしくは、CoCrPt−SiO2,FePt−SiO2など粒状の磁性体が非磁性体の母相中に分散したグラニュラー構造の材料、もしくは、Fe,Co,Niのいずれかもしくは一つ以上を含む合金と、Ru,Pt,Rh,Pd,Crなどの非磁性金属を交互に積層した積層膜、もしくは、TbFeCo,GdFeCoなど、Gd,Dy,Tb等の希土類金属に遷移金属を含んだアモルファス合金を用いてもよい。また、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む、例えばCoCr合金や、CoCrPt合金を用いても良い。また、第1の磁性層21と第2の磁性層22に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0042】
また、キャップ層14としては、アニール処理による磁性層との反応や拡散の観点から、実施例3で用いたRuもしくはTaが望ましい。ただし、それ以外の材料として、Pt,Cr,Ti,Wなどの金属を用いてもよい。
【0043】
<実施例4>
実施例4は、バリア層の上下にある、磁性層/中間層/高分極率磁性層、及び、高分極率磁性層/中間層/磁性層を、それぞれ反強磁性結合を有する積層フェリ構造として用いるMTJ素子を提案するものである。実施例4のMTJ素子の基本構成、及び各層の材料と膜厚は、第1の中間層31と第2の中間層32を除いて図1に示した実施例1構成と同じである。実施例4では、第1の中間層31と第2の中間層32として、膜厚0.8nmのRuを用いた。実施例4の構成の場合、第1の磁性層21と第1の高分極率磁性層41、及び第2の高分極率磁性層42と第2の磁性層22が反強磁性結合するため、それらからの漏れ磁場を抑制できる利点がある。
【0044】
実施例4の素子の動作について図6Aから図6Cを用いて説明する。簡単のために、素子の抵抗変化に関係するバリア層10、第1の磁性層21、第2の磁性層22、第1の高分極率磁性層41、第2の高分極率磁性層42、第1の中間層31、第2の中間層32のみを図示する。素子の膜面と垂直方向に電流を流すと、第1の磁性層21に比べ膜厚の薄い第2の磁性層22の方が先に磁化反転するため、バリア層10の上側にある積層磁性層(第2の高分極率磁性層42/第2の中間層32/第2の磁性層22)が記録層となり、下側にある積層磁性層(第1の磁性層21/第1の中間層31/第1の高分極率磁性層41)が固定層となる。
【0045】
図6Aは素子に電流を流していない初期状態を示す。第1の磁性層21の磁化61、及び第2の磁性層22の磁化64はともに上側を向いている。第1の高分極率磁性層41及び第2の高分極率磁性層42はそれぞれ、第1の中間層31及び第2の中間層32を介して、第1の磁性層21及び第2の磁性層22と反強磁性結合している。高分極率磁性層41,42の材料であるCoFeBは本来面内磁化材料であるが、垂直磁化の磁性層21,22と磁気結合することで、磁化が垂直方向を向く。垂直磁化を示す第1の磁性層21と反強磁性結合するため、第1の高分極率磁性層41の磁化62は下側を向き、同様に、第2の磁性層22と反強磁性結合する第2の高分極率磁性層42の磁化63も下側を向く。
【0046】
図6Bは図6Aの状態から、素子に電流を流した時の磁化の方向を示す。素子の下部から上部へ向けて電流70を流すと、スピン偏極した電子80が第2の高分極率磁性層42を通り、第1の高分極率磁性層41に流れる。その際、第2の高分極率磁性層42のスピンと同方向のスピンを持った電子のみが、第1の高分極率磁性層41に流れ込み、逆方向のスピンを持った電子はバリア層10の表面で反射される。反射された電子は記録層の第2の高分極率磁性層42の磁化63に作用し、スピン注入磁化反転により、第2の高分極率磁性層42の磁化63が反転する。同時に、積層フェリ構成で反強磁性結合となっている第2の磁性層22の磁化64も反転する。このとき固定層の第1の高分極率磁性層41の磁化62と、記録層にある第2の高分極率磁性層42の磁化63が反平行配列となり、MTJ素子は低抵抗状態から高抵抗状態にスイッチする。
【0047】
一方、図6Bの状態から、逆に素子の上部から下部へ電流を流すと、図6Cの状態となる。素子の上部から下部へ向けて電流70を流すと、スピン偏極した電子80が第1の高分極率磁性層41から第2の高分極率磁性層42に流れ込み、スピン注入磁化反転により、第2の高分極率磁性層42の磁化63が反転する。同時に、積層フェリ構成で反強磁性結合している第2の磁性層22の磁化64も反転する。このとき固定層にある第1の高分極率磁性層41の磁化62と、記録層の第2の高分極率磁性層42の磁化63が平行配列となりMTJ素子の抵抗は高抵抗状態から低抵抗状態にスイッチする。
【0048】
以上のように、実施例4のMTJ素子では、中間層を介して高分極率磁性層41(42)と磁性層21(22)が反平行に結合して動作するが、電流による抵抗変化の特性は、実施例1と同様である。また、アニールによるTMR比の変化も実施例1と同様であり、高分極率磁性層と磁性層の間に中間層を挿入しない従来のMTJ素子に比べ、TMR比の耐熱性が向上する効果が確認された。
【0049】
実施例4では、第1の中間層31及び第2の中間層32にRuを用いたが、それ以外にも、融点が1600℃以上の材料である、W,Ta,Pt,Ti,Os,V,Cr,Nb,Mo,Rh,Hf,Reなどを用いても実施例4と同様の効果が得られる。また、第1の中間層31と第2の中間層32に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0050】
また、実施例4では、第1の磁性層21及び第2の磁性層22の垂直磁化材料としてCoFeとPdの積層膜を適用したが、それ以外の垂直磁化材料を適用しても実施例4と同様の効果が得られる。具体的な材料として、例えば、Co50Pt50,Fe50Pt50,Fe30Ni20Pt50等のL10型規則合金や、m−D019型のCo75Pt25規則合金、もしくは、CoCrPt−SiO2,FePt−SiO2など粒状の磁性体が非磁性体の母相中に分散したグラニュラー構造の材料、もしくは、Fe,Co,Niのいずれかもしくは一つ以上を含む合金と、Ru,Pt,Rh,Pd,Crなどの非磁性金属を交互に積層した積層膜、もしくは、TbFeCo,GdFeCoなど、Gd,Dy,Tb等の希土類金属に遷移金属を含んだアモルファス合金を用いてもよい。また、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む、例えばCoCr合金や、CoCrPt合金を用いても良い。また、第1の磁性層21と第2の磁性層22に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0051】
また、キャップ層14としては、アニール処理による磁性層との反応や拡散の観点から、実施例4で用いたRuもしくはTaが望ましい。ただし、それ以外の材料として、Pt,Cr,Ti,Wなどの金属を用いてもよい。
【0052】
<実施例5>
実施例5は、中間層の材料としてアモルファス合金の強磁性体を用いたMTJ素子を提案するものである。素子の構成は、図1に示した実施例1のMTJ素子と同様であるが、第1の中間層31と第2の中間層32に、アモルファス合金のFeTaNを用いる。FeTaNは強磁性体であるため、第1の磁性層21と第1の中間層31と第1の高分極率磁性層41は磁気的に結合し、3層の磁化は同方向を向く。そのため、素子の動作としては実施例1のMTJ素子と同様となる。実施例1と同様の方法で実施例5のMTJ素子を作製し、特性を評価した結果、実施例1と同等のTMR比が得られ、中間層を挿入しない従来のMTJ素子と比較してTMR比の耐熱性向上効果を確認した。
【0053】
250℃のアニール後でも高いTMR比が得られるのは、第1の中間層31、第2の中間層32に用いたFeTaNが、CoやFeに比べて高融点のTaを含み、高分極率磁性層に用いたCoFeBより高い結晶化温度を有するためである。アニールによりCoFeBが結晶化する際、それに接するFeTaNは依然アモルファス状態を保つ。これにより、CoFeB中のBはFeTaN中に拡散しにくく、MgO側からCoFeBがbcc(001)に結晶化する。
【0054】
実施例5では、第1の中間層31と第2の中間層32にFeTaNを用いたが、それ以外の材料として、FeTaC,FeZrB,FeHfB,FeTaB,CoZrNb,CoFeBNb,CoFeZr,CoFeZrNb,CoFeZrTa,CoTaZr,FeSiBNb,FeSiBZr,FeSiBHf,FeSiBTa,CoSiBNb,CoSiBZr,CoSiBHf,CoSiBTaなどのアモルファスの強磁性体合金を用いても、実施例5と同様の効果が得られる。また、第1の中間層31と第2の中間層32に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0055】
また、実施例5では、第1の磁性層21と第2の磁性層22の垂直磁化材料としてCoFeとPdの積層膜を適用したが、それ以外の垂直磁化材料を適用しても実施例5と同様の効果が得られる。具体的な材料として、例えば、Co50Pt50,Fe50Pt50,Fe30Ni20Pt50等のL10型規則合金や、m−D019型のCo75Pt25規則合金、もしくは、CoCrPt−SiO2,FePt−SiO2など粒状の磁性体が非磁性体の母相中に分散したグラニュラー構造の材料、もしくは、Fe,Co,Niのいずれかもしくは一つ以上を含む合金と、Ru,Pt,Rh,Pd,Crなどの非磁性金属を交互に積層した積層膜、もしくは、TbFeCo,GdFeCoなど、Gd,Dy,Tb等の希土類金属に遷移金属を含んだアモルファス合金を用いてもよい。また、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む、例えばCoCr合金や、CoCrPt合金を用いても良い。また、第1の磁性層21と第2の磁性層22に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0056】
また、キャップ層14としては、アニール処理による磁性層との反応や拡散の観点から、実施例5で用いたRuもしくはTaが望ましい。ただし、それ以外の材料として、Pt,Cr,Ti,Wなどの金属を用いてもよい。
【0057】
<実施例6>
実施例6は、本発明によるMTJ素子を適用したランダムアクセスメモリを提案するものである。図7は、本発明による磁気メモリセルの構成例を示す断面模式図である。この磁気メモリセルは、実施例1〜5に示したMTJ素子110を搭載している。
【0058】
C−MOS111は、2つのn型半導体112,113と一つのp型半導体114からなる。n型半導体112にドレインとなる電極121が電気的に接続され、電極141及び電極147介してグラウンドに接続されている。n型半導体113には、ソースとなる電極122が電気的に接続されている。さらに123はゲート電極であり、このゲート電極123のON/OFFによりソース電極122とドレイン電極121の間の電流のON/OFFを制御する。上記ソース電極122に電極145、電極144、電極143、電極142、電極146が積層され、電極146を介してMTJ素子110の下部電極11が接続されている。
【0059】
ビット線222はMTJ素子110の上部電極12に接続されている。本実施例の磁気メモリセルでは、MTJ素子110に流れる電流、すなわちスピントランスファートルクによりMTJ素子110の記録層の磁化方向を回転し、磁気的情報を記録する。スピントランスファートルクは空間的な外部磁界ではなく主として、MTJ素子中を流れるスピン偏極した電流のスピンがMTJ素子の強磁性記録層の磁気モーメントにトルクを与える原理である。したがってMTJ素子に外部から電流を供給する手段を備え、その手段を用いて電流を流すことによりスピントランスファートルク磁化反転は実現される。本実施例では、ビット線222と電極146の間に電流を流すことによりMTJ素子110中の記録層の磁化の方向を制御する。
【0060】
図8は、上記磁気メモリセルをアレイ状に配置した磁気ランダムアクセスメモリの構成例を示す図である。ゲート電極123に接続されたワード線223、及びビット線222がMTJ素子110を備えるメモリセルに電気的に接続されている。実施例1〜5に記載のMTJ素子を備えた磁気メモリセルを配置することにより、本発明の磁気メモリは従来よりも低消電力で動作が可能であり、ギガビット級の高密度磁気メモリを実現可能である。
【0061】
本構成の場合の書込みは、まず、電流を流したいビット線222に接続された書き込みドライバにライトイネーブル信号を送って昇圧し、ビット線222に所定の電流を流す。電流の向きに応じ、書き込みドライバ230ないし書き込みドライバ231のいずれかをグランドに落として、電位差を調節して電流方向を制御する。次に所定時間経過後、ワード線223に接続された書き込みドライバ232にライトイネーブル信号を送り、書き込みドライバ232を昇圧して、書き込みたいMTJ素子に接続されたトランジスタをオンにする。これによりMTJ素子に電流が流れ、スピントルク磁化反転が行われる。所定の時間、トランジスタをオンにしたのち、書込みドライバ232への信号を切断し、トランジスタをオフにする。読出しの際は、読出したいMTJ素子につながったビット線222のみを読出し電圧Vに昇圧し、選択トランジスタのみをオンにして電流を流し、読出しを行う。この構造は最も単純な1トランジスタ+1メモリセルの配置なので、単位セルの占める面積は2F×4F=8F2と高集積なものにすることができる。
【符号の説明】
【0062】
5…基板、10…バリア層、11…下部電極、12…上部電極、13…下地層、14…キャップ層、21…第1の磁性層、22…第2の磁性層、31…第1の中間層、32…第2の中間層、41…第1の高分極率磁性層、42…第2の高分極率磁性層、43…第3の高分極率磁性層、61,62,63,64…磁化、電流…70、電子…80、110…MTJ素子、111…C−MOS、112,113…n型半導体、114…p型半導体、121…ソース電極、122…ドレイン電極、123…ゲート電極、141,142,143,144,145,146,147…電極、222…ビット線、223…ワード線、230,231,232…書き込みドライバ
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁化材料を用いた磁気抵抗効果素子と、それを用いた磁気メモリセル及びランダムアクセスメモリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁性体を用いたメモリとしてMRAM(Magnetic Random Access Memory)が開発されている。MRAMは、トンネル磁気抵抗(Tunneling Magnetoresistive:TMR)効果を利用するMTJ(Magnetic Tunneling Junction)を要素素子として用いる。MTJ素子は2枚の強磁性体層で非磁性体層(絶縁層)を挟んだ構造を有し、片側の強磁性体層(記録層)の磁化方向を外部磁場によって反転できる。このように、MTJ素子では磁性体層の磁化方向を制御することによって、情報を記録する。電源を切っても磁性体の磁化方向は変化しないため、記録した情報が保持される不揮発動作を実現できる。MTJ素子の磁化方向を変化させる(情報を書き換える)には、外部から磁場を印加する方式の他、近年、MTJ素子に直接直流電流を流して磁化を反転させる、スピントランスファートルク磁化反転(スピン注入磁化反転)方式が見出されている。例えば、特許文献1には面内磁化材料を記録層として用い、スピン注入磁化反転を利用するMTJ素子及びそれを集積したメモリ:SPRAM(SPin-transfer trque Magnetic Random Access Memory)が開示されている。
【0003】
SPRAMの集積度向上にはMTJ素子の微細化が必要となるが、その際、MTJ素子における磁気情報の熱的安定性が課題となる。MTJ素子の記録層の磁化方向を反転させるために必要な磁気エネルギーに対し、環境温度による熱エネルギーが高くなる場合、外部磁場もしくは電流を印加しなくとも磁化の反転が起こる。サイズの縮小とともにMTJ素子の磁気エネルギーは減少するため、素子の微細化に伴いこの熱的安定性は低下する。微細な領域でも熱的安定性を維持し信頼性の高い動作を実現するためには、MTJ素子の記録層材料の結晶磁気異方性を高めるのが有効である。これまでに、面内磁化材料と比べ結晶磁気異方性の高い垂直磁化材料を用いたMTJ素子が開示されている(特許文献2)。さらに垂直磁化材料を適用したMTJ素子では、記録層内にかかる反磁界の影響が面内磁化MTJ素子とは異なり、磁化の反転に要する電流密度(書き込み電流密度)を低減する方向にはたらく。そのため、面内磁化MTJ素子と比べ書き込み電流密度を低減でき消費電力を抑制できる利点がある。
【0004】
垂直磁化MTJ素子において抵抗変化率(TMR比)を向上させる手段として、絶縁層(バリア層)に酸化マグネシウム(MgO)を用い、その両側に電子スピンの分極率が高い材料(CoFeBなど)を配置する構造が開示されている(特許文献3)。ここで垂直磁化の強磁性層は高分極率磁性層に直に接して配置される。さらに、垂直磁化層として、非磁性体層を2枚の垂直磁化層で挟んだ構造(積層フェリ構造)を用いる素子も提案されている(特許文献3)。この場合、2枚の垂直磁化層の磁化は反平行方向に結合されるため、垂直磁化層から発生する漏れ磁場を抑制する効果がある。
【0005】
上記のような垂直磁化MTJ素子を作製し、高いTMR比を得るためには、バリア層とその両側の高分極率磁性層の結晶配向制御が重要である。これまでの面内磁化TMR素子の研究から、NaCl構造をもつMgO(001)バリア層を用い、その両側にbcc(001)結晶構造をもつCoFeB層を配置すると、高いTMR比が得られることが知られている。室温でCoFeBを形成すると、CoFeBはアモルファスで成長する。その上にMgOを形成すると、MgO(001)結晶が成長する。その上にさらにCoFeBを形成した後、アニール処理を行うと、MgO(001)結晶を核にしてCoFeB層はbcc(001)に結晶配向する。面内磁化TMR素子の場合、このような機構を利用してMgO(001)とCoFeBのbcc(001)配向を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−305337号公報
【特許文献2】特開2005−32878号公報
【特許文献3】特開2007−142364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CoFeBとMgOの組み合わせを垂直磁化MTJ素子に適用する場合、CoFeBに接する材料を考慮する必要がある。上述したように、高いTMR比を得るにはCoFeBのbcc(001)結晶配向を実現するために、薄膜形成後のアニールが不可欠である。しかしながら、CoFeB/MgO/CoFeB積層構造を形成しても、CoFeBの外側に接する材料によっては、アニールでCoFeB層のbcc(001)配向が得られない場合がある。これは、CoFeBの結晶化がMgO界面からではなく、逆側の材料から進行することによる。MgO(001)とCoFeBのbcc(001)結晶配向を実現するには、CoFeBに隣接する材料として、CoFeBのMgO側からの結晶化を疎外しない適切な材料を選択する必要がある。従来の垂直TMR素子の構成では、CoFeBと垂直磁化磁性層が直に接するため、垂直磁化磁性層に用いる材料によっては薄膜形成後のアニール処理でCoFeBのbcc(001)構造実現が困難である。そのため、面内磁化MTJ素子と同様の手法(アニール温度上昇でCoFeBを結晶化させ高いTMR比を実現)を適用しようとした場合、アニール温度上昇に伴いTMR比が低下するか、もしくは、ある程度の温度までTMR比が向上するがそれ以上の温度では逆にTMR比が低下する課題がある。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑み、アニール処理後でも高いTMR比を示す垂直磁化MTJ素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)は、垂直磁化の強磁性材料を適用したMTJ素子であり、MgOのバリア層の基板側あるいは両側に高分極率の強磁性層であるCoFeB層を配置する。さらに、高分極率磁性層のバリア層と反対側の界面には、融点が1600℃以上の金属もしくはその合金からなる中間層を介して垂直磁化磁性層を配置する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、アニール後に高いTMR比を示す垂直磁化MTJ素子が作製可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のMTJ素子の断面模式図である。
【図2A】実施例1のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図2B】実施例1のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図2C】実施例1のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図3】実施例1のMTJ素子に関するTMR比のアニール温度依存性を示す図である。
【図4】実施例2のMTJ素子の断面模式図である。
【図5】実施例3のMTJ素子の断面模式図である。
【図6A】実施例3のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図6B】実施例3のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図6C】実施例3のMTJ素子の磁化反転動作を模式的に示した図である。
【図7】磁気メモリセルの構成例を示す断面模式図である。
【図8】ランダムアクセスメモリの構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。
<実施例1>
図1に、実施例1におけるMTJ素子の断面模式図を示す。バリア層10の両側には、電子スピンの分極率が高い第1の高分極率磁性層41と第2の高分極率磁性層42を配置する。その外側には、第1の中間層31と第2の中間層32を配置し、それらに接して第1の磁性層21と第2の磁性層22を配置する。また、第1の磁性層21の下側には、下部電極11及び下地層13が形成され、第2の磁性層22の上側にはキャップ層14と上部電極12が形成される。
【0013】
各層の材料としては、バリア層10にMgO(膜厚:1nm)、第1の磁性層21にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を10周期積層した多層膜(膜厚:14nm)、第2の磁性層22にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を3周期積層した多層膜(膜厚:4.2nm)を用いた。また、第1の高分極率磁性層41及び第2の高分極率磁性層42にはCoFeB(膜厚:1nm)を適用し、第1の中間層31及び第2の中間層32にはTa(膜厚:0.5nm)を用いた。また、下部電極11としては、Ta層(膜厚:5nm)、下地層13にはRu(膜厚:10nm)を用いた。キャップ層14は、Ta(膜厚:5nm)、Ru(膜厚:5nm)の順に積層した薄膜を用いた。各層はArガスを用いたRFスパッタリング法を用いてSi基板5の上に形成した。
【0014】
積層膜を形成後、電子ビーム(EB)リソグラフィとイオンビームエッチングを用いて、上面の面積が50×50nmのピラー形状に加工した。その後、Cr(膜厚:5nm)/Au(膜厚:100nm)の積層構造からなる上部電極12を形成した。なお、図示はしていないが、上部電極層12と下部電極層11にはそれぞれ、素子に電流を流すための配線が接続される。
【0015】
素子の動作について図2Aから図2Cを用いて説明する。簡単のために、素子の抵抗変化に関係するバリア層10、第1の磁性層21、第2の磁性層22、第1の高分極率磁性層41、第2の高分極率磁性層42、第1の中間層31、第2の中間層32のみを図示する。素子の膜面と垂直方向に電流を流すと、第1の磁性層21に比べ膜厚の薄い第2の磁性層22の方が先に磁化反転するため、バリア層10の上側にある積層磁性層(第2の高分極率磁性層42/第2の中間層32/第2の磁性層22)が記録層となり、下側にある積層磁性層(第1の磁性層21/第1の中間層31/第1の高分極率磁性層41)が固定層となる。
【0016】
図2Aは素子に電流を流していない初期状態を示す。第1の磁性層21の磁化61、第1の高分極率磁性層41の磁化62、第2の磁性層22の磁化64、第2の高分極率磁性層42の磁化63はともに上側を向いている。第1の高分極率磁性層41は第1の磁性層21と強磁性結合しているため、両者の磁化は連動して同方向を向く。また、第2の高分極率磁性層42と第1の磁性層22の磁化についても同様である。
【0017】
図2Bは図2Aの状態から、素子に電流を流した時の磁化の方向を示す。素子の下部から上部へ向けて電流70を流すと、スピン偏極した電子80が第2の高分極率磁性層42を通り、第1の高分極率磁性層41に流れる。その際、第2の高分極率磁性層42のスピンと同方向のスピンを持った電子のみが、第1の高分極率磁性層41に流れ込み、逆方向のスピンを持った電子はバリア層10の表面で反射される。反射された電子は記録層の第2の高分極率磁性層42の磁化63に作用し、スピン注入磁化反転により、第2の高分極率磁性層42の磁化63が反転する。同時に、第2の高分極率磁性層42と磁気結合している第2の磁性層22の磁化64も反転する。このとき固定層の第1の高分極率磁性層41の磁化62と、記録層にある第2の高分極率磁性層42の磁化63が反平行配列となりMTJ素子は低抵抗状態から高抵抗状態にスイッチする。
【0018】
一方、図2Bの状態から、逆に素子の上部から下部へ電流を流すと図2Cの状態となる。素子の上部から下部へ向けて電流70を流すと、スピン偏極した電子80が第1の高分極率磁性層41から第2の高分極率磁性層42に流れこみ、スピン注入磁化反転により、第2の高分極率磁性層42の磁化63が反転する。同時に、第2の高分極率磁性層42と磁気結合している第2の磁性層22の磁化64も反転する。このとき固定層にある第1の高分極率磁性層41の磁化62と、記録層の第2の高分極率磁性層42の磁化63が平行配列となりMTJ素子の抵抗は高抵抗状態から低抵抗状態にスイッチする。
【0019】
実施例1の構造の素子を作製し評価した結果を図3に示す。TMR比はアニール温度とともに増大し、250℃のアニールでTMR比60%が得られた。一方、比較として、第1の中間層31及び第2の中間層22を挿入せずに作製した素子(第1の高分極率材料41のCoFeBが、第1の磁性層21の最上部にあるPdと接する構成)の場合、アニール温度200℃までは実施例1の素子と同等のTMR比を示したが、250℃のアニールではTMR比は20%にまで低下した。すなわち、実施例1の構造の素子では、適切な中間層(Ta)の挿入によりTMR比の耐熱性が向上する効果が確認された。上述したように、中間層として融点が1600℃より低いPdがCoFeBに接する場合にはTMR比の耐熱性は悪く、その他に、融点が1600℃より低いAlなどを適用した場合にもPdの時と同様の結果となった。
【0020】
実施例1の素子でTMR比の耐熱性が向上するのは以下の理由による。CoFeBを熱処理すると、ホウ素(B)の拡散が起きる。その際、実施例1のように、CoFeBに適切な中間層が隣接しているとBの拡散が抑制され、CoFeBはMgO(001)結晶の界面から結晶化し、bcc(001)に配向する。一方、中間層がない場合(直接、磁性層が隣接する場合)、もしくは、中間層がBの拡散を抑制しにくい材料(Pd,Cu,Alなど)の場合、アニールによってCoFeB中のBが拡散によって抜けるため、低いアニール温度でCoFeBがCoFeに結晶化する。その時、CoFeBの結晶化はMgOと逆側(CoFeBに隣接する中間層側もしくは磁性層側)から進行し、中間層もしくは磁性層の結晶構造に影響を受けてbcc(001)とは異なる結晶構造(fcc構造)か、異なる結晶方位(bcc(110))で結晶化する。したがって、Bの拡散を抑制する非磁性材料の挿入がCoFeBのbcc(001)結晶を得るために有効となる。本実施例で中間層に用いたTaは、CoやFeに比べて高い融点(1600℃以上)を有する。この場合、上述したようなCoFeBの結晶化をMgO側から進行させる効果が得られる。一方、アニール温度250℃でTMR比が低下した素子においてCoFeBと接するPdは融点が1600℃以下であり、CoFeBの結晶化をMgO側から進行させるのが困難である。
【0021】
実施例1では、第1の中間層31と第2の中間層32にTaを用いたが、それ以外にも、融点が1600℃以上の材料である、W,Ru,Pt,Ti,Os,V,Cr,Nb,Mo,Rh,Hf,Reなどを用いても、実施例1と同様の効果が得られる。また、第1の中間層31と第2の中間層32に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0022】
また、実施例1では、第1の磁性層21、第2の磁性層22の垂直磁化材料としてCoFeとPdの積層膜を適用したが、それ以外の垂直磁化材料を適用しても実施例1と同様の効果が得られる。具体的な材料として、例えば、Co50Pt50,Fe50Pt50,Fe30Ni20Pt50等のL10型規則合金や、m−D019型のCo75Pt25規則合金、もしくは、CoCrPt−SiO2,FePt−SiO2など粒状の磁性体が非磁性体の母相中に分散したグラニュラー構造の材料、もしくは、Fe,Co,Niのいずれかもしくは一つ以上を含む合金と、Ru,Pt,Rh,Pd,Crなどの非磁性金属を交互に積層した積層膜、もしくは、TbFeCo,GdFeCoなど、Gd,Dy,Tb等の希土類金属に遷移金属を含んだアモルファス合金を用いてもよい。また、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む、例えばCoCr合金や、CoCrPt合金を用いても良い。また、第1の磁性層21と第2の磁性層22に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0023】
また、キャップ層14としては、アニール処理による磁性層との反応や拡散の観点から、実施例1で用いたRuもしくはTaが望ましい。ただし、それ以外の材料として、Pt,Cr,Ti,Wなどの金属を用いてもよい。
【0024】
また、実施例1では、バリア層10の上側の磁性層(第2の磁性層22)を下側の磁性層(第1の磁性層21)よりも薄くしたため、第2の磁性層22が記録層として磁化反転する。それとは逆に、バリア層10の下側の磁性層(第1の磁性層21)を上側の磁性層(第2の磁性層22)よりも薄くした場合でも、実施例1と同様の抵抗変化及び同等のTMR比が得られる。ただし、その際はバリア層10の下側の磁性層(第1の磁性層21)が記録層としてはたらくため、第1の磁性層21の磁化が反転する。
【0025】
<実施例2>
実施例2は、バリア層10の下側のみに、垂直磁化磁性層/中間層/高分極磁性層の積層構造を適用したMTJ素子を提案するものである。図4に、実施例2のMTJ素子の断面模式図を示す。基本的な構成は実施例1で示した素子と同様であるが、実施例2では、第2の高分極率磁性層42と垂直磁化を示す第2の磁性層22は直接接続され、両者の間に中間層は挿入しない。
【0026】
各層の材料としては、バリア層10にMgO(膜厚:1nm)、第1の磁性層21にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を10周期積層した多層膜(膜厚:14nm)、第2の磁性層22にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を3周期積層した多層膜(膜厚:4.2nm)を用いた。また、第1の高分極率磁性層41及び第2の高分極率磁性層42にはCoFeB(膜厚:1nm)を適用し、第1の中間層31にはTa(膜厚:0.5nm)を用いた。また、下部電極11としては、Ta層(膜厚:5nm)、下地層13にはRu(膜厚:10nm)を用いた。キャップ層14は、Ta(膜厚:5nm)、Ru(膜厚:5nm)の順に積層した薄膜を用いた。
【0027】
各層はArガスを用いたRFスパッタリング法によってSi基板5の上に形成した。基板5から第2の高分極率磁性層42まで順に積層した後、その段階で真空チャンバー内において250℃のin-situアニールを行った。これにより、MgO(001)とCoFeBのbcc(001)結晶配向を実現した。その後、第2の磁性層22からキャップ層14までを形成した。
【0028】
積層膜を形成後、電子ビーム(EB)リソグラフィとイオンビームエッチングを用いて、上面の面積が50×50nmのピラー形状に加工した。その後、Cr(膜厚:5nm)/Au(膜厚:100nm)の積層構造を有する上部電極12を形成した。なお、図示はしていないが、上部電極層12と下部電極層11にはそれぞれ、素子に電流を流すための配線が接続される。
【0029】
素子の動作については実施例1と同様である。実施例2では、第2の高分極率磁性層42と第2の磁性層22が強磁性結合し、両者の磁化は連動して同方向を向くため、実施例1の図2Aから図2Cに示したのと同様の動作を示す。
【0030】
実施例2の構造の素子を作製し評価した結果、素子作製後にアニール処理を行わない(as-depo)状態でTMR比60%が得られ、素子作製後に250℃でアニール処理した場合でもTMR比の低下はなかった。これは、薄膜形成時のin-situアニールの段階で、CoFeBのbcc(001)結晶配向とMgO(001)結晶配向を実現したことによる。一方、比較として、第1の中間層31を挿入せずに(第1の高分極率材料41のCoFeBが、第1の磁性層21の最上部にあるPdと接する構成)作製した素子の場合、as-depoから250℃未満の温度でのアニール条件においてTMR比は実施例2よりも低く、250℃のアニールでTMR比は20%にまで低下した。以上より、実施例2の構造の素子では、適切な中間層(Ta)の挿入によりTMR比の耐熱性が向上する効果が確認された。
【0031】
また、実施例2では、第2の高分極率磁性層42を形成した直後に、in-situアニールを行う。第2の高分極率磁性層42の上部には接触する層が無いため、第2の高分極率磁性層42はMgO(001)側のみの影響を受けて結晶化する。つまり、第2の高分極率磁性層42については、上部層の材料の影響されることなく、容易にbcc(001)構造を実現できる利点がある。
【0032】
実施例2では、第1の中間層31にTaを用いたが、それ以外にも、融点が1600℃以上の材料である、W,Ru,Pt,Ti,Os,V,Cr,Nb,Mo,Rh,Hf,Reなどを用いても実施例2と同様の効果が得られる。また、第1の中間層31と第2の中間層32に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0033】
また、実施例2では、第2の高分極率磁性層42の磁性材料として、CoFeBを用いたが、それ以外にも、bcc結晶構造をとるCo50Fe50、Feなどの材料を用いても良い。例えば、第1の高分極率磁性層41としてアモルファスのCoFeBを成膜し、その上にMgOバリア層10を(001)に配向成長させる。その上に第2の高分極率磁性層42としてFeを堆積すると、MgOの結晶構造に従ってFeのbcc(001)構造が成長し、in-situアニール処理によって、bcc−CoFeB(001)/MgO(001)/bcc−Fe(001)を作製できる。
【0034】
また、実施例2では、第1の磁性層21及び第2の磁性層22の垂直磁化材料としてCoFeとPdの積層膜を適用したが、それ以外の垂直磁化材料を適用しても実施例2と同様の効果が得られる。具体的な材料として、例えば、Co50Pt50,Fe50Pt50,Fe30Ni20Pt50等のL10型規則合金や、m−D019型のCo75Pt25規則合金、もしくは、CoCrPt−SiO2,FePt−SiO2など粒状の磁性体が非磁性体の母相中に分散したグラニュラー構造の材料、もしくは、Fe,Co,Niのいずれかもしくは一つ以上を含む合金と、Ru,Pt,Rh,Pd,Crなどの非磁性金属を交互に積層した積層膜、もしくは、TbFeCo,GdFeCoなど、Gd,Dy,Tb等の希土類金属に遷移金属を含んだアモルファス合金を用いてもよい。また、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む、例えばCoCr合金や、CoCrPt合金を用いても良い。また、第1の磁性層21と第2の磁性層22に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0035】
また、キャップ層14としては、アニール処理による磁性層との反応や拡散の観点から、実施例2で用いたRuもしくはTaが望ましい。ただし、それ以外の材料として、Pt,Cr,Ti,Wなどの金属を用いてもよい。
【0036】
<実施例3>
実施例3は、バリア層の下側に、垂直磁化磁性層/高分極率磁性層/中間層/高分極率磁性層の積層構造を適用したMTJ素子を提案するものである。図5に、実施例3のMTJ素子の断面模式図を示す。基本的な構成は実施例1で示した素子と同様であるが、第1の中間層31と第1の磁性層21の間に第3の高分極率磁性層43を挿入する。
【0037】
各層の材料としては、バリア層10にMgO(膜厚:1nm)、第1の磁性層21にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を10周期積層した多層膜(膜厚:14nm)、第2の磁性層22にCoFe(膜厚:0.2nm)とPd(膜厚:1.2nm)の2層膜を3周期積層した多層膜(膜厚:4.2nm)を用いた。また、第1の高分極率磁性層41と、第2の高分極率磁性層42、及び第3の高分極率層43にはCoFeB(膜厚:1nm)を適用し、第1の中間層31にはTa(膜厚:0.5nm)を用いた。また、下部電極11としては、Ta層(膜厚:5nm)、下地層13にはRu(膜厚:10nm)を用いた。キャップ層14は、Ta(膜厚:5nm)、Ru(膜厚:5nm)の順に積層した薄膜を用いた。
【0038】
実施例3の薄膜積層構造では、高分極率磁性層のCoFeBを中間層31の上下に1層ずつ挿入する。この構造の場合、薄膜形成後はアモルファスであるCoFeBが、第一の磁性層21の表面凹凸をより緩和し、MgOバリア層の下地層における表面平坦性を向上できる。その結果、より均一なバリア層が得られ、TMR比の向上や素子特性のばらつき抑制などに有効である。
【0039】
実施例1と同様の方法で実施例3のMTJ素子を作製し、特性を評価した結果、実施例1と同様の動作を示し、TMR比のアニール温度依存性においても実施例1と同様の効果が得られた。
【0040】
実施例3では、第1の中間層31及び第2の磁性層32にTaを用いたが、それ以外にも、融点が1600℃以上の材料である、W,Ru,Pt,Ti,Os,V,Cr,Nb,Mo,Rh,Hf,Reなどを用いても実施例3と同様の効果が得られる。また、第1の中間層31と第2の中間層32に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0041】
また、実施例3では、第1の磁性層21及び第2の磁性層22の垂直磁化材料としてCoFeとPdの積層膜を適用したが、それ以外の垂直磁化材料を適用しても実施例3と同様の効果が得られる。具体的な材料として、例えば、Co50Pt50,Fe50Pt50,Fe30Ni20Pt50等のL10型規則合金や、m−D019型のCo75Pt25規則合金、もしくは、CoCrPt−SiO2,FePt−SiO2など粒状の磁性体が非磁性体の母相中に分散したグラニュラー構造の材料、もしくは、Fe,Co,Niのいずれかもしくは一つ以上を含む合金と、Ru,Pt,Rh,Pd,Crなどの非磁性金属を交互に積層した積層膜、もしくは、TbFeCo,GdFeCoなど、Gd,Dy,Tb等の希土類金属に遷移金属を含んだアモルファス合金を用いてもよい。また、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む、例えばCoCr合金や、CoCrPt合金を用いても良い。また、第1の磁性層21と第2の磁性層22に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0042】
また、キャップ層14としては、アニール処理による磁性層との反応や拡散の観点から、実施例3で用いたRuもしくはTaが望ましい。ただし、それ以外の材料として、Pt,Cr,Ti,Wなどの金属を用いてもよい。
【0043】
<実施例4>
実施例4は、バリア層の上下にある、磁性層/中間層/高分極率磁性層、及び、高分極率磁性層/中間層/磁性層を、それぞれ反強磁性結合を有する積層フェリ構造として用いるMTJ素子を提案するものである。実施例4のMTJ素子の基本構成、及び各層の材料と膜厚は、第1の中間層31と第2の中間層32を除いて図1に示した実施例1構成と同じである。実施例4では、第1の中間層31と第2の中間層32として、膜厚0.8nmのRuを用いた。実施例4の構成の場合、第1の磁性層21と第1の高分極率磁性層41、及び第2の高分極率磁性層42と第2の磁性層22が反強磁性結合するため、それらからの漏れ磁場を抑制できる利点がある。
【0044】
実施例4の素子の動作について図6Aから図6Cを用いて説明する。簡単のために、素子の抵抗変化に関係するバリア層10、第1の磁性層21、第2の磁性層22、第1の高分極率磁性層41、第2の高分極率磁性層42、第1の中間層31、第2の中間層32のみを図示する。素子の膜面と垂直方向に電流を流すと、第1の磁性層21に比べ膜厚の薄い第2の磁性層22の方が先に磁化反転するため、バリア層10の上側にある積層磁性層(第2の高分極率磁性層42/第2の中間層32/第2の磁性層22)が記録層となり、下側にある積層磁性層(第1の磁性層21/第1の中間層31/第1の高分極率磁性層41)が固定層となる。
【0045】
図6Aは素子に電流を流していない初期状態を示す。第1の磁性層21の磁化61、及び第2の磁性層22の磁化64はともに上側を向いている。第1の高分極率磁性層41及び第2の高分極率磁性層42はそれぞれ、第1の中間層31及び第2の中間層32を介して、第1の磁性層21及び第2の磁性層22と反強磁性結合している。高分極率磁性層41,42の材料であるCoFeBは本来面内磁化材料であるが、垂直磁化の磁性層21,22と磁気結合することで、磁化が垂直方向を向く。垂直磁化を示す第1の磁性層21と反強磁性結合するため、第1の高分極率磁性層41の磁化62は下側を向き、同様に、第2の磁性層22と反強磁性結合する第2の高分極率磁性層42の磁化63も下側を向く。
【0046】
図6Bは図6Aの状態から、素子に電流を流した時の磁化の方向を示す。素子の下部から上部へ向けて電流70を流すと、スピン偏極した電子80が第2の高分極率磁性層42を通り、第1の高分極率磁性層41に流れる。その際、第2の高分極率磁性層42のスピンと同方向のスピンを持った電子のみが、第1の高分極率磁性層41に流れ込み、逆方向のスピンを持った電子はバリア層10の表面で反射される。反射された電子は記録層の第2の高分極率磁性層42の磁化63に作用し、スピン注入磁化反転により、第2の高分極率磁性層42の磁化63が反転する。同時に、積層フェリ構成で反強磁性結合となっている第2の磁性層22の磁化64も反転する。このとき固定層の第1の高分極率磁性層41の磁化62と、記録層にある第2の高分極率磁性層42の磁化63が反平行配列となり、MTJ素子は低抵抗状態から高抵抗状態にスイッチする。
【0047】
一方、図6Bの状態から、逆に素子の上部から下部へ電流を流すと、図6Cの状態となる。素子の上部から下部へ向けて電流70を流すと、スピン偏極した電子80が第1の高分極率磁性層41から第2の高分極率磁性層42に流れ込み、スピン注入磁化反転により、第2の高分極率磁性層42の磁化63が反転する。同時に、積層フェリ構成で反強磁性結合している第2の磁性層22の磁化64も反転する。このとき固定層にある第1の高分極率磁性層41の磁化62と、記録層の第2の高分極率磁性層42の磁化63が平行配列となりMTJ素子の抵抗は高抵抗状態から低抵抗状態にスイッチする。
【0048】
以上のように、実施例4のMTJ素子では、中間層を介して高分極率磁性層41(42)と磁性層21(22)が反平行に結合して動作するが、電流による抵抗変化の特性は、実施例1と同様である。また、アニールによるTMR比の変化も実施例1と同様であり、高分極率磁性層と磁性層の間に中間層を挿入しない従来のMTJ素子に比べ、TMR比の耐熱性が向上する効果が確認された。
【0049】
実施例4では、第1の中間層31及び第2の中間層32にRuを用いたが、それ以外にも、融点が1600℃以上の材料である、W,Ta,Pt,Ti,Os,V,Cr,Nb,Mo,Rh,Hf,Reなどを用いても実施例4と同様の効果が得られる。また、第1の中間層31と第2の中間層32に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0050】
また、実施例4では、第1の磁性層21及び第2の磁性層22の垂直磁化材料としてCoFeとPdの積層膜を適用したが、それ以外の垂直磁化材料を適用しても実施例4と同様の効果が得られる。具体的な材料として、例えば、Co50Pt50,Fe50Pt50,Fe30Ni20Pt50等のL10型規則合金や、m−D019型のCo75Pt25規則合金、もしくは、CoCrPt−SiO2,FePt−SiO2など粒状の磁性体が非磁性体の母相中に分散したグラニュラー構造の材料、もしくは、Fe,Co,Niのいずれかもしくは一つ以上を含む合金と、Ru,Pt,Rh,Pd,Crなどの非磁性金属を交互に積層した積層膜、もしくは、TbFeCo,GdFeCoなど、Gd,Dy,Tb等の希土類金属に遷移金属を含んだアモルファス合金を用いてもよい。また、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む、例えばCoCr合金や、CoCrPt合金を用いても良い。また、第1の磁性層21と第2の磁性層22に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0051】
また、キャップ層14としては、アニール処理による磁性層との反応や拡散の観点から、実施例4で用いたRuもしくはTaが望ましい。ただし、それ以外の材料として、Pt,Cr,Ti,Wなどの金属を用いてもよい。
【0052】
<実施例5>
実施例5は、中間層の材料としてアモルファス合金の強磁性体を用いたMTJ素子を提案するものである。素子の構成は、図1に示した実施例1のMTJ素子と同様であるが、第1の中間層31と第2の中間層32に、アモルファス合金のFeTaNを用いる。FeTaNは強磁性体であるため、第1の磁性層21と第1の中間層31と第1の高分極率磁性層41は磁気的に結合し、3層の磁化は同方向を向く。そのため、素子の動作としては実施例1のMTJ素子と同様となる。実施例1と同様の方法で実施例5のMTJ素子を作製し、特性を評価した結果、実施例1と同等のTMR比が得られ、中間層を挿入しない従来のMTJ素子と比較してTMR比の耐熱性向上効果を確認した。
【0053】
250℃のアニール後でも高いTMR比が得られるのは、第1の中間層31、第2の中間層32に用いたFeTaNが、CoやFeに比べて高融点のTaを含み、高分極率磁性層に用いたCoFeBより高い結晶化温度を有するためである。アニールによりCoFeBが結晶化する際、それに接するFeTaNは依然アモルファス状態を保つ。これにより、CoFeB中のBはFeTaN中に拡散しにくく、MgO側からCoFeBがbcc(001)に結晶化する。
【0054】
実施例5では、第1の中間層31と第2の中間層32にFeTaNを用いたが、それ以外の材料として、FeTaC,FeZrB,FeHfB,FeTaB,CoZrNb,CoFeBNb,CoFeZr,CoFeZrNb,CoFeZrTa,CoTaZr,FeSiBNb,FeSiBZr,FeSiBHf,FeSiBTa,CoSiBNb,CoSiBZr,CoSiBHf,CoSiBTaなどのアモルファスの強磁性体合金を用いても、実施例5と同様の効果が得られる。また、第1の中間層31と第2の中間層32に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0055】
また、実施例5では、第1の磁性層21と第2の磁性層22の垂直磁化材料としてCoFeとPdの積層膜を適用したが、それ以外の垂直磁化材料を適用しても実施例5と同様の効果が得られる。具体的な材料として、例えば、Co50Pt50,Fe50Pt50,Fe30Ni20Pt50等のL10型規則合金や、m−D019型のCo75Pt25規則合金、もしくは、CoCrPt−SiO2,FePt−SiO2など粒状の磁性体が非磁性体の母相中に分散したグラニュラー構造の材料、もしくは、Fe,Co,Niのいずれかもしくは一つ以上を含む合金と、Ru,Pt,Rh,Pd,Crなどの非磁性金属を交互に積層した積層膜、もしくは、TbFeCo,GdFeCoなど、Gd,Dy,Tb等の希土類金属に遷移金属を含んだアモルファス合金を用いてもよい。また、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む、例えばCoCr合金や、CoCrPt合金を用いても良い。また、第1の磁性層21と第2の磁性層22に、異なる材料の組み合わせを用いてもよい。
【0056】
また、キャップ層14としては、アニール処理による磁性層との反応や拡散の観点から、実施例5で用いたRuもしくはTaが望ましい。ただし、それ以外の材料として、Pt,Cr,Ti,Wなどの金属を用いてもよい。
【0057】
<実施例6>
実施例6は、本発明によるMTJ素子を適用したランダムアクセスメモリを提案するものである。図7は、本発明による磁気メモリセルの構成例を示す断面模式図である。この磁気メモリセルは、実施例1〜5に示したMTJ素子110を搭載している。
【0058】
C−MOS111は、2つのn型半導体112,113と一つのp型半導体114からなる。n型半導体112にドレインとなる電極121が電気的に接続され、電極141及び電極147介してグラウンドに接続されている。n型半導体113には、ソースとなる電極122が電気的に接続されている。さらに123はゲート電極であり、このゲート電極123のON/OFFによりソース電極122とドレイン電極121の間の電流のON/OFFを制御する。上記ソース電極122に電極145、電極144、電極143、電極142、電極146が積層され、電極146を介してMTJ素子110の下部電極11が接続されている。
【0059】
ビット線222はMTJ素子110の上部電極12に接続されている。本実施例の磁気メモリセルでは、MTJ素子110に流れる電流、すなわちスピントランスファートルクによりMTJ素子110の記録層の磁化方向を回転し、磁気的情報を記録する。スピントランスファートルクは空間的な外部磁界ではなく主として、MTJ素子中を流れるスピン偏極した電流のスピンがMTJ素子の強磁性記録層の磁気モーメントにトルクを与える原理である。したがってMTJ素子に外部から電流を供給する手段を備え、その手段を用いて電流を流すことによりスピントランスファートルク磁化反転は実現される。本実施例では、ビット線222と電極146の間に電流を流すことによりMTJ素子110中の記録層の磁化の方向を制御する。
【0060】
図8は、上記磁気メモリセルをアレイ状に配置した磁気ランダムアクセスメモリの構成例を示す図である。ゲート電極123に接続されたワード線223、及びビット線222がMTJ素子110を備えるメモリセルに電気的に接続されている。実施例1〜5に記載のMTJ素子を備えた磁気メモリセルを配置することにより、本発明の磁気メモリは従来よりも低消電力で動作が可能であり、ギガビット級の高密度磁気メモリを実現可能である。
【0061】
本構成の場合の書込みは、まず、電流を流したいビット線222に接続された書き込みドライバにライトイネーブル信号を送って昇圧し、ビット線222に所定の電流を流す。電流の向きに応じ、書き込みドライバ230ないし書き込みドライバ231のいずれかをグランドに落として、電位差を調節して電流方向を制御する。次に所定時間経過後、ワード線223に接続された書き込みドライバ232にライトイネーブル信号を送り、書き込みドライバ232を昇圧して、書き込みたいMTJ素子に接続されたトランジスタをオンにする。これによりMTJ素子に電流が流れ、スピントルク磁化反転が行われる。所定の時間、トランジスタをオンにしたのち、書込みドライバ232への信号を切断し、トランジスタをオフにする。読出しの際は、読出したいMTJ素子につながったビット線222のみを読出し電圧Vに昇圧し、選択トランジスタのみをオンにして電流を流し、読出しを行う。この構造は最も単純な1トランジスタ+1メモリセルの配置なので、単位セルの占める面積は2F×4F=8F2と高集積なものにすることができる。
【符号の説明】
【0062】
5…基板、10…バリア層、11…下部電極、12…上部電極、13…下地層、14…キャップ層、21…第1の磁性層、22…第2の磁性層、31…第1の中間層、32…第2の中間層、41…第1の高分極率磁性層、42…第2の高分極率磁性層、43…第3の高分極率磁性層、61,62,63,64…磁化、電流…70、電子…80、110…MTJ素子、111…C−MOS、112,113…n型半導体、114…p型半導体、121…ソース電極、122…ドレイン電極、123…ゲート電極、141,142,143,144,145,146,147…電極、222…ビット線、223…ワード線、230,231,232…書き込みドライバ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気異方性を有する強磁性体薄膜からなる記録層と、
垂直磁気異方性を有し、磁化の方向が一方向に固定された強磁性体薄膜からなる固定層と、
前記記録層と前記固定層の間に配置されたMgOのバリア層と、
前記バリア層の少なくとも基板側界面に配置されたCoFeB層と、
前記CoFeB層の前記バリア層と反対側の界面に配置された中間層とを有し、
前記中間層は融点が1600℃以上の金属、もしくはその金属を含んだ合金であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記バリア層の基板と反対側の界面に第2のCoFeB層が配置され、前記第2のCoFeB層の前記バリア層と反対側の界面に、融点が1600℃以上の金属、もしくはその金属を含んだ合金である第2の中間層が配置されていることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記中間層の材料は、W,Ru,Pt,Ti,Os,V,Cr,Nb,Mo,Rh,Hf,Reのいずれかであることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記中間層は、アモルファスの強磁性体であり、かつCoFeBよりも結晶化温度が高い材料からなることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記中間層の材料は、FeTaN,FeTaC,FeZrB,FeHfB,FeTaB,CoZrNb,CoFeBNb,CoFeZr,CoFeZrNb,CoFeZrTa,CoTaZrのいずれかであることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記中間層は、Si及びBを含み、かつ、Fe,Coのいずれか、及び、Nb,Zr,Hf,Taのいずれかを含んだ合金であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記記録層及び前記固定層の両方もしくは一方は、Co,Fe,Niのいずれか、もしくはその1つ以上の元素と、Pt,Pdのうち1つ以上の元素を含む規則合金であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記記録層及び前記固定層の両方もしくは一方は、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む合金であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記記録層及び前記固定層の両方もしくは一方は、Fe,Co,Niのいずれか、もしくはその1つ以上を含む合金と、非磁性金属を交互に積層した積層膜であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記記録層及び前記固定層の両方もしくは一方は、粒状の磁性体の周囲を非磁性体が取り囲んだグラニュラー構造を有することを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記記録層及び前記固定層の両方もしくは一方は、希土類金属と遷移金属を含んだアモルファス合金であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項12】
記録層と固定層を有するトンネル磁気抵抗効果素子と、
前記トンネル磁気抵抗効果素子に電流を流すための電極と、
前記トンネル磁気抵抗効果素子に流れる電流をオン・オフ制御するスイッチング素子とを備え、
前記記録層の磁化がスピントランスファートルクにより反転可能な磁気メモリセルにおいて、
前記トンネル磁気抵抗効果素子は、垂直磁気異方性を有する強磁性体薄膜からなる記録層と、垂直磁気異方性を有し、磁化の方向が一方向に固定された強磁性体薄膜からなる固定層と、前記記録層と前記固定層の間に配置されたMgOのバリア層と、前記バリア層の少なくとも基板側界面に配置されたCoFeB層と、前記CoFeB層の前記バリア層と反対側の界面に配置された中間層とを有し、前記中間層は融点が1600℃以上の金属、もしくはその金属を含んだ合金である
ことを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項13】
複数の磁気メモリセルと、
前記複数の磁気メモリセルの中から所望の磁気メモリセルを選択する手段と、
前記選択された磁気メモリセルに対して情報の読み出しあるいは書き込みを行う手段とを備えたランダムアクセスメモリにおいて、
前記磁気メモリセルは、記録層と固定層を有するトンネル磁気抵抗効果素子と、前記トンネル磁気抵抗効果素子に電流を流すための電極と、前記トンネル磁気抵抗効果素子に流れる電流をオン・オフ制御するスイッチング素子とを備え、
前記トンネル磁気抵抗効果素子は、垂直磁気異方性を有する強磁性体薄膜からなる記録層と、垂直磁気異方性を有し、磁化の方向が一方向に固定された強磁性体薄膜からなる固定層と、前記記録層と前記固定層の間に配置されたMgOのバリア層と、前記バリア層の少なくとも基板側界面に配置されたCoFeB層と、前記CoFeB層の前記バリア層と反対側の界面に配置された中間層とを有し、前記中間層は融点が1600℃以上の金属、もしくはその金属を含んだ合金であり、
前記選択された磁気メモリセルに対して情報の書き込みを行う手段は、前記磁気メモリセルの前記記録層をスピントランスファートルクにより磁化反転させる
ことを特徴とするランダムアクセスメモリ。
【請求項1】
垂直磁気異方性を有する強磁性体薄膜からなる記録層と、
垂直磁気異方性を有し、磁化の方向が一方向に固定された強磁性体薄膜からなる固定層と、
前記記録層と前記固定層の間に配置されたMgOのバリア層と、
前記バリア層の少なくとも基板側界面に配置されたCoFeB層と、
前記CoFeB層の前記バリア層と反対側の界面に配置された中間層とを有し、
前記中間層は融点が1600℃以上の金属、もしくはその金属を含んだ合金であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記バリア層の基板と反対側の界面に第2のCoFeB層が配置され、前記第2のCoFeB層の前記バリア層と反対側の界面に、融点が1600℃以上の金属、もしくはその金属を含んだ合金である第2の中間層が配置されていることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記中間層の材料は、W,Ru,Pt,Ti,Os,V,Cr,Nb,Mo,Rh,Hf,Reのいずれかであることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記中間層は、アモルファスの強磁性体であり、かつCoFeBよりも結晶化温度が高い材料からなることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記中間層の材料は、FeTaN,FeTaC,FeZrB,FeHfB,FeTaB,CoZrNb,CoFeBNb,CoFeZr,CoFeZrNb,CoFeZrTa,CoTaZrのいずれかであることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記中間層は、Si及びBを含み、かつ、Fe,Coのいずれか、及び、Nb,Zr,Hf,Taのいずれかを含んだ合金であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記記録層及び前記固定層の両方もしくは一方は、Co,Fe,Niのいずれか、もしくはその1つ以上の元素と、Pt,Pdのうち1つ以上の元素を含む規則合金であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記記録層及び前記固定層の両方もしくは一方は、Coを含み、Cr,Ta,Nb,V,W,Hf,Ti,Zr,Pt,Pd,Fe,Niの中の1つ以上の元素を含む合金であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記記録層及び前記固定層の両方もしくは一方は、Fe,Co,Niのいずれか、もしくはその1つ以上を含む合金と、非磁性金属を交互に積層した積層膜であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記記録層及び前記固定層の両方もしくは一方は、粒状の磁性体の周囲を非磁性体が取り囲んだグラニュラー構造を有することを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子において、前記記録層及び前記固定層の両方もしくは一方は、希土類金属と遷移金属を含んだアモルファス合金であることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項12】
記録層と固定層を有するトンネル磁気抵抗効果素子と、
前記トンネル磁気抵抗効果素子に電流を流すための電極と、
前記トンネル磁気抵抗効果素子に流れる電流をオン・オフ制御するスイッチング素子とを備え、
前記記録層の磁化がスピントランスファートルクにより反転可能な磁気メモリセルにおいて、
前記トンネル磁気抵抗効果素子は、垂直磁気異方性を有する強磁性体薄膜からなる記録層と、垂直磁気異方性を有し、磁化の方向が一方向に固定された強磁性体薄膜からなる固定層と、前記記録層と前記固定層の間に配置されたMgOのバリア層と、前記バリア層の少なくとも基板側界面に配置されたCoFeB層と、前記CoFeB層の前記バリア層と反対側の界面に配置された中間層とを有し、前記中間層は融点が1600℃以上の金属、もしくはその金属を含んだ合金である
ことを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項13】
複数の磁気メモリセルと、
前記複数の磁気メモリセルの中から所望の磁気メモリセルを選択する手段と、
前記選択された磁気メモリセルに対して情報の読み出しあるいは書き込みを行う手段とを備えたランダムアクセスメモリにおいて、
前記磁気メモリセルは、記録層と固定層を有するトンネル磁気抵抗効果素子と、前記トンネル磁気抵抗効果素子に電流を流すための電極と、前記トンネル磁気抵抗効果素子に流れる電流をオン・オフ制御するスイッチング素子とを備え、
前記トンネル磁気抵抗効果素子は、垂直磁気異方性を有する強磁性体薄膜からなる記録層と、垂直磁気異方性を有し、磁化の方向が一方向に固定された強磁性体薄膜からなる固定層と、前記記録層と前記固定層の間に配置されたMgOのバリア層と、前記バリア層の少なくとも基板側界面に配置されたCoFeB層と、前記CoFeB層の前記バリア層と反対側の界面に配置された中間層とを有し、前記中間層は融点が1600℃以上の金属、もしくはその金属を含んだ合金であり、
前記選択された磁気メモリセルに対して情報の書き込みを行う手段は、前記磁気メモリセルの前記記録層をスピントランスファートルクにより磁化反転させる
ことを特徴とするランダムアクセスメモリ。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2011−155073(P2011−155073A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14576(P2010−14576)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、高機能・超低消費電力スピンデバイス・ストレージ基盤技術の開発 委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、高機能・超低消費電力スピンデバイス・ストレージ基盤技術の開発 委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]