立方晶炭化ケイ素膜の製造方法及び立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法
【課題】エピタキシャル成長温度を低下させても、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を高速にて成長させることが可能な立方晶炭化ケイ素膜の製造方法及び立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、シリコン基板の上に炭素を含むガスを導入し、このシリコン基板を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱してシリコン基板の表面を炭化することにより立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程、この立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、この立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、この立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる第2の工程、を有する。
【解決手段】本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、シリコン基板の上に炭素を含むガスを導入し、このシリコン基板を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱してシリコン基板の表面を炭化することにより立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程、この立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、この立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、この立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる第2の工程、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶炭化ケイ素膜の製造方法及び立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法に関し、特に、ワイドバンドギャップ半導体として期待される立方晶炭化ケイ素(SiC)膜をシリコン基板上または基板上に形成された単結晶シリコン膜上に形成する立方晶炭化ケイ素膜の製造方法、及びシリコン基板上または基板上に形成された単結晶シリコン膜上に立方晶炭化ケイ素膜を形成してなる立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、バンドギャップが2.2eV(300K)と、シリコン(Si)と比べて2倍以上のバンドギャップを有するワイドバンドギャップ半導体であり、パワーデバイス用半導体材料あるいは高耐圧デバイス用材料として注目されている。
ところで、この炭化ケイ素(SiC)の結晶生成温度は、シリコン(Si)と比べて高く、シリコンと同じように液相からの引き上げ法により炭化ケイ素(SiC)単結晶インゴットを得るのが困難である。そこで、昇華法という方法により炭化ケイ素(SiC)単結晶インゴットを作製するが、昇華法では、大口径で結晶欠陥の少ない炭化ケイ素(SiC)単結晶インゴットを得ることが非常に難しい。それ故、現在市販されている炭化ケイ素(SiC)基板の径は3〜4インチであり、価格も非常に高価である。
【0003】
一方、炭化ケイ素(SiC)の中でも立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)は、結晶生成温度が比較的低温であり、安価なシリコン基板上にエピタキシャル成長(ヘテロエピタキシー)させることができる。そこで、炭化ケイ素(SiC)基板の大口径化の手段の一つとして、このヘテロエピタキシャル技術が検討されている。
ところで、立方晶炭化ケイ素の格子定数は4.359オングストロームであり、単結晶シリコンの格子定数(5.4307オングストローム)と比べて20%程度も小さく、かつ熱膨張係数も異なることから、結晶欠陥が少ない高品質のエピタキシャル膜を得ることが非常に難しい。
【0004】
さらに、単結晶シリコンと立方晶炭化ケイ素の熱膨張係数が異なることから、立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長後に室温まで冷却する際に、シリコン基板のそりに起因する応力が発生し、この応力が立方晶炭化ケイ素膜に結晶欠陥を生じさせる原因となっている。この応力の影響を避けるためには、エピタキシャル成長温度を下げることが有効である。
一般に、エピタキシャル成長には気相中での成長(CVD法)が用いられており、このCVD法では、成長温度を下げるには、(1)高真空下にて成長を行う、(2)低温で分解し易い原料ガス、またはSi−C結合を有する原料ガスを用いる、等の方法が考えられるが、成長温度を下げると、それに伴い成長速度も遅くなるという問題点が生じる。
そこで、シリコン原料ガスと炭素原料ガスとを交互に交互に流すことで、結晶欠陥の少ない立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)のエピタキシャル膜を実用的な成長速度で形成する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−335935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、確かにシリコン原料ガスと炭素原料ガスとを交互に交互に流すことで、結晶欠陥の少ないエピタキシャル膜を得ているものの、立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)のエピタキシャル成長温度が1200℃〜1300℃と通常の立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)のエピタキシャル成長温度と何等変わりがなく、したがって、熱膨張係数が異なることから基板冷却時に応力が発生し、この応力が牽引となった結晶欠陥が生じ、立方晶炭化ケイ素膜の結晶欠陥を減少させることが難しいという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を高速にて成長させることが可能な立方晶炭化ケイ素膜の製造方法、及び、シリコン基板上または基板上に形成された単結晶シリコン膜上に、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を高速にて成長させることが可能な立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法及び立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法を採用した。
すなわち、本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、シリコン基板の上または基板の上に形成された単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱して前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を炭化することにより立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程、前記立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、前記立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、前記立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる第2の工程、を有することを特徴とする。
【0009】
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、シリコン基板または単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱することにより、このシリコン基板の表面または単結晶シリコン膜が炭素を含むガスにより炭化され、立方晶炭化ケイ素膜となる。
また、得られた立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、この立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、上記の立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる。
これにより、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を、温度一定にて立方晶炭化ケイ素膜をエピタキシャル成長させる場合と比べて、より速い速度にて形成することができる。
したがって、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を高速で得ることができる。
【0010】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程、を有し、前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことを特徴とする。
【0011】
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程を有し、さらに、前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことにより、得られた立方晶炭化ケイ素膜は、エピタキシャル成長させた立方晶炭化ケイ素層を積層することで所望の膜厚の立方晶炭化ケイ素膜となる。これにより、所望の膜厚を有する結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を高速度にて容易に得ることができる。
【0012】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、前記急速加熱の昇温速度は、5℃/秒以上かつ200℃/秒以下であることを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、急速加熱の昇温速度を5℃/秒以上かつ200℃/秒以下としたことにより、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を、さらに高速で得ることができる。
【0013】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、前記炭素を含むガスと前記ケイ素を含むガスとの切り換えは、前記炭素を含むガスの流量及び前記ケイ素を含むガスの流量をそれぞれ制御することで行うことを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、炭素を含むガスの流量及びケイ素を含むガスの流量をそれぞれ制御することにより、炭素を含むガスとケイ素を含むガスとの切り換えを容易かつ簡便に行うことができる。
【0014】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、前記炭素を含むガスは、炭化水素系ガスを含むことを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、炭素を含むガスを、炭化水素系ガスとしたことにより、炭化水素系ガスに含まれる炭素原子が単結晶シリコン膜のケイ素原子と結合して立方晶炭化ケイ素膜を生成する。これにより、シリコン基板の表面に立方晶炭化ケイ素膜を容易に形成することができる。
【0015】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、前記ケイ素を含むガスは、シラン系ガスを含むことを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、ケイ素を含むガスを、シラン系ガスとしたことにより、シリコン基板または単結晶シリコン膜上にシラン系ガスの分解によって生じるケイ素原子により単結晶シリコン膜が形成される。これにより、単結晶シリコン膜を容易に形成することができる。
【0016】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法は、シリコン基板上または基板上に形成された単結晶シリコン膜上に立方晶炭化ケイ素膜を形成してなる立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法であって、前記シリコン基板の上または前記単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱して前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を炭化することにより立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程、前記立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、前記立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、前記立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる第2の工程、を有することを特徴とする。
【0017】
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法では、シリコン基板または単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱することにより、このシリコン基板の表面または単結晶シリコン膜が炭素を含むガスにより炭化され、立方晶炭化ケイ素膜となる。
また、得られた立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、この立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、上記の立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる。
これにより、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を、温度一定にて立方晶炭化ケイ素膜をエピタキシャル成長させる場合と比べて、より速い速度にて形成することができる。
したがって、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を有する基板を高速で得ることができる。
【0018】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法は、前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程、を有し、前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことを特徴とする。
【0019】
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法では、前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程を有し、さらに、前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことにより、得られた立方晶炭化ケイ素膜は、エピタキシャル成長させた立方晶炭化ケイ素層を積層することで所望の膜厚の立方晶炭化ケイ素膜となる。これにより、所望の膜厚を有する結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を有する基板を高速で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例1の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例2の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施例3の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例4の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例5の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図7】本発明の実施例6の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図8】本発明の実施例6の立方晶炭化ケイ素膜の膜厚及び連続プロセスの立方晶炭化ケイ素膜の膜厚の成長時間依存性を示す図である。
【図9】本発明の実施例7の立方晶炭化ケイ素膜の昇温速度と膜厚との関係を示す図である。
【図10】900℃から950℃まで昇温速度のみを変えた場合の基板温度の変化を示した図である。
【図11】基板温度900℃から950℃までを急速加熱及び低速加熱した場合の炭化層の膜厚を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法及び立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法を実施するための形態について説明する。
本実施形態においては、発明の内容の説明を容易にするために、構造上の各部分の形状等については、適宜、実際の形状と異ならせてある。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板を示す断面図であり、図において、1は立方晶炭化ケイ素膜付き基板であり、シリコン(Si)基板2の表面2aに、立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜3a〜3tを計20層、積層してなる積層構造の立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜3が形成されている。
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板1では、立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜3a〜3tを計20層、積層することにより、所望の膜厚を有する結晶欠陥が少ない高品質の積層構造の立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜3となっている。
【0023】
次に、この立方晶炭化ケイ素膜付き基板1の製造方法について説明する。
まず、シリコン基板2を用意し、このシリコン基板2を熱処理炉のチャンバー内に収納し、このチャンバー内を真空にしてシリコン基板2を加熱して、その基板温度を所定の温度、例えば750℃に上昇させた後、所定の時間、例えば5分間熱処理を行い、シリコン基板2の表面2aの自然酸化膜等のクリーニングを行う。
【0024】
次いで、シリコン基板2の基板温度を室温以上かつ単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1以下に設定する。この温度T1は、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長が遅い温度でもあるので、シリコン基板2の基板温度を温度T1に設定することで、単結晶シリコンのエピタキシャル成長のみに限定することが可能である。
【0025】
次いで、シリコン基板2の上に炭素原料ガス(炭素を含むガス)を導入しつつ、このシリコン基板2を、単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1より高い立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度T2にまで急速加熱する。
炭素原料ガスとしては、炭化水素系ガスが好ましく、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4)、プロパン(C3H8)、ノルマルブタン(n−C4H10)、イソブタン(i−C4H10)、ネオペンタン(neo−C5H12)等が好適に用いられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
この急速加熱とは、基準となる昇温速度、例えば、10℃/分の昇温速度を超える昇温速度にて温度上昇する加熱のことであり、この急速加熱における昇温速度は、5℃/秒以上かつ200℃/秒以下が好ましい。
急速加熱の昇温速度が5℃/秒未満であると、昇温速度が遅すぎるために、炭素ガスが少ない場合は、シリコン基板2の表面からシリコンが昇華し、表面が荒れる虞があり、炭素ガスが多い場合は、シリコン基板2の表面に薄い炭化層が形成され、それ以上成長せず、成長速度が速くなる効果が得られなくなる虞がある。一方、急速加熱の昇温速度が200℃/秒を超えると、急速加熱があまりに急峻なために、シリコン基板2の表面が十分に炭化されず、炭化ケイ素の生成が不十分なものとなる。
【0027】
また、炭素原料ガスを導入する場合、炭素原料ガスの流量とケイ素原料ガス(ケイ素を含むガス)の流量をそれぞれ制御することで、炭素原料ガスのみの導入を行うことができる。
この急速加熱の過程で、シリコン基板2の表面が炭素原料ガスにより炭化され、立方晶炭化ケイ素膜が形成される。
【0028】
次いで、シリコン基板2の基板温度が立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度T2に達したところで、このシリコン基板2の基板温度をエピタキシャル成長温度T2に保持しつつ、炭素原料ガスの流量及びケイ素原料ガスの流量を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長に適する流量に設定する。
【0029】
ケイ素原料ガスとしては、シラン系ガスが好ましく、例えば、モノシラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、トリシラン(Si3H8)、テトラシラン(Si4H10)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、テトラクロロシラン(SiCl4)、トリクロロシラン(SiHCl3)、ヘキサクロロジシラン(Si2Cl6)等が好適に用いられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
この過程で、立方晶炭化ケイ素膜の上に立方晶炭化ケイ素がエピタキシャル成長し、立方晶炭化ケイ素膜3aとなる。
【0030】
次いで、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの供給を停止し、シリコン基板2の基板温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1まで低下させる。
このシリコン基板2の基板温度が単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1に達したところで、ケイ素原料ガスの流量を単結晶シリコンのエピタキシャル成長に適する流量に設定する。
この過程で、立方晶炭化ケイ素膜3a上に単結晶シリコンがエピタキシャル成長し、単結晶シリコン膜となる。
【0031】
この単結晶シリコンをエピタキシャル成長させる工程以降を、得られた立方晶炭化ケイ素膜の膜厚が所望の膜厚になるまで繰り返し行う。
ここでは、下記の(1)〜(4)の工程を繰り返し行う。
【0032】
(1)基板温度が単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1に達したところで、ケイ素原料ガスを導入しつつ、立方晶炭化ケイ素膜3a上に単結晶シリコンをエピタキシャル成長させる工程。
(2)立方晶炭化ケイ素膜3aの上に形成された単結晶シリコン膜の上に炭素原料ガスを導入しつつ、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度T2にまで急速加熱する工程。
(3)基板温度がエピタキシャル成長温度T2に達したところで、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスをそれぞれ所定の流量にて導入しつつ、立方晶炭化ケイ素膜をエピタキシャル成長させる工程。
(4)炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの供給を停止し、基板温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1まで低下させる工程。
【0033】
上記の(1)〜(4)の工程を、複数回繰り返し行うことにより、所望の膜厚の立方晶炭化ケイ素膜3を有する立方晶炭化ケイ素膜付き基板1が得られる。
例えば、19回繰り返し行うことにより、図1に示す立方晶炭化ケイ素膜3a〜3tを計20層、積層してなる積層構造の立方晶炭化ケイ素膜3を有する立方晶炭化ケイ素膜付き基板1が得られる。
【0034】
本実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法によれば、立方晶炭化ケイ素膜の生成及び成長、この立方晶炭化ケイ素膜上への単結晶シリコン膜の生成、この単結晶シリコン膜を炭化することによる立方晶炭化ケイ素膜の生成及び成長、という工程を繰り返し行うことにより、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を形成してなる立方晶炭化ケイ素膜付き基板1を、低いエピタキシャル成長温度にて、高速で得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
「実施例1」
図2は、実施例1の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図であり、炭素原料ガスにネオペンタン(neo−C5H12)を、ケイ素原料ガスにジクロロシラン(SiH2Cl2)を、それぞれ用い、単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1を800℃、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度T2を1000℃とした。
【0037】
そして、区間S1(急速加熱による炭化過程)、区間S2(立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長過程)、区間S3(基板降温過程)及び区間S4(単結晶シリコンのエピタキシャル成長過程)、それぞれに最適になるように、炭素原料ガスの流量Fc1〜Fc4及びケイ素原料ガスの流量Fsi1〜Fsi4を設定した。
【0038】
ここでは、区間S1(急速加熱による炭化過程)では、炭素原料ガスのみを導入する必要があることから、炭素原料ガスの流量Fc1=3sccm、ケイ素原料ガスの流量Fsi1=0sccmとした。
また、区間S2(立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長過程)では、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスをバランス良く導入する必要があることから、炭素原料ガスの流量Fc2=5sccm、ケイ素原料ガスの流量Fsi2=5sccmとした。
【0039】
また、区間S3(基板降温過程)では、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスを流す必要がないので、炭素原料ガスの流量Fc3=0sccm、ケイ素原料ガスの流量Fsi3=0sccmとした。
また、区間S4(単結晶シリコンのエピタキシャル成長過程)では、ケイ素原料ガスのみを導入する必要があることから、炭素原料ガスの流量Fc4=0sccm、ケイ素原料ガスの流量Fsi4=20sccmとした。
【0040】
このように、区間S1〜S4について、炭素原料ガスの流量Fc1、Fc2、Fc3及びFc4と、ケイ素原料ガスの流量Fsi1、Fsi2、Fsi3及びFsi4とを、それぞれ最適になるように設定することで、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を、低いエピタキシャル成長温度にて、高速で得ることができた。
【0041】
「実施例2」
図3は、実施例2の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図であり、実施例1とは、炭素原料ガスの流量をFc2=3sccmとし、ケイ素原料ガスの流量をFsi2=0sccmとした点が異なる。
【0042】
ここでは、区間S2(立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長過程)における炭素原料ガスの流量をFc2=3sccm、ケイ素原料ガスの流量をFsi2=0sccmとしたので、炭素原料ガスが過剰の雰囲気となり、炭化処理の促進により立方晶炭化ケイ素膜の生成が促進される。
【0043】
「実施例3」
図4は、実施例3の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図であり、実施例1とは、炭素原料ガスの流量をFc1=Fc2=5sccm、Fc3=Fc4=0sccmとし、ケイ素原料ガスの流量をFsi1=Fsi2=Fsi3=Fc4=20sccmとした点が異なる。
【0044】
ここでは、区間S1(急速加熱による炭化過程)で炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの双方が導入されているが、炭素原料ガスによる炭化処理の効果がケイ素原料ガスによる成長を遙かに上回るので、ケイ素原料ガスの導入は何等問題がない。
【0045】
「実施例4」
図5は、実施例4の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図であり、実施例1とは、炭素原料ガスの流量をFc1=Fc2=Fc3=Fc4=5sccmとし、ケイ素原料ガスの流量をFsi1=Fsi2=Fsi3=Fc4=20sccmとした点が異なる。
【0046】
区間S4(単結晶シリコンのエピタキシャル成長過程)では、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの双方を導入しているが、この温度領域はケイ素原料ガスによるシリコンのエピタキシャル成長領域であり、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長は無い領域であるから、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの双方を導入しても何等問題は無い。
【0047】
「実施例5」
図6は、実施例5の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図であり、実施例1とは、炭素原料ガスの流量をFc1=Fc2=Fc3=Fc4=5sccmとし、ケイ素原料ガスの流量をFsi1=Fsi2=Fsi3=0sccm、Fc4=20sccmとした点が異なる。
【0048】
この区間S4(単結晶シリコンのエピタキシャル成長過程)でも、実施例4と同様、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの双方を導入しているが、この温度領域はケイ素原料ガスによるシリコンのエピタキシャル成長領域であり、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長は無い領域であるから、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの双方を導入しても何等問題は無い。
【0049】
実施例2〜5においても、実施例1と同様、炭素原料ガスの流量Fc1、Fc2、Fc3及びFc4、及びケイ素原料ガスの流量Fsi1、Fsi2、Fsi3及びFsi4を各区間毎に最適になるように設定することで、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を、低いエピタキシャル成長温度にて、高速で得ることができる。
【0050】
「実施例6」
図7は、実施例6の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。ここでは、炭素原料ガスにネオペンタン(neo−C5H12)を、ケイ素原料ガスにジクロロシラン(SiH2Cl2)を、それぞれ用い、単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1を900℃、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度T2を1000℃とし、5サイクルのエピタキシャル成長を行った。
【0051】
そして、区間S1(急速加熱による炭化過程)を60秒、区間S2(立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長過程)を300秒、区間S3(基板降温過程)を120秒、区間S4(単結晶シリコンのエピタキシャル成長過程)を300秒とし、炭素原料ガスの流量をFc1=1sccm、Fc2=Fc3=5sccm、Fc4=0sccmとし、ケイ素原料ガスの流量をFsi1=0sccm、Fsi2=Fsi3=Fsi4=20sccmとした。
【0052】
また、同様の温度サイクルにて、10サイクルのエピタキシャル成長、20サイクルのエピタキシャル成長、をそれぞれ行った。
図8は、図7のサイクルプロセスにて形成された立方晶炭化ケイ素膜の膜厚、及び一定温度にてエピタキシャル成長させる通常の連続プロセスにて形成された立方晶炭化ケイ素膜の膜厚の成長時間依存性を示す図である。なお、連続プロセスの条件としては、基板温度を1000℃とし、炭素原料ガスであるネオペンタン(neo−C5H12)の流量を5sccm、ケイ素原料ガスであるジクロロシラン(SiH2Cl2)の流量を20sccmとした。
【0053】
ここでは、サイクルプロセスのプロセス時間は、成長に係わる区間S1(急速加熱による炭化過程)、区間S2(立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長過程)及び区間S3(基板降温過程)の合計時間とサイクル数との積で表した。
その結果、サイクルプロセスでの成長速度は33.1nm/時間であり、一方、連続プロセスでの成長速度は25.1nm/時間であり、同様の処理条件の下では、サイクルプロセスを行うことで、成長速度が速くなることが分かった。
また、図8では、各区間の処理時間を最適化していないので、連続プロセスに対して1.3倍強の成長速度であったが、各区間の処理時間を最適化することにより、さらなる成長速度の向上が可能である。
【0054】
「実施例7」
図9は、実施例7の立方晶炭化ケイ素膜の昇温速度と膜厚との関係を示す図である。ここでは、シリコン基板を600℃に加熱した後、(1)炭素原料ガスとしてエチレン(C2H4)ガスを流量3sccmで流しながら、1000℃まで180℃/秒の昇温速度にて昇温させ、1000℃にて10分間炭化処理した場合、(2)エチレン(C2H4)ガスを流量10sccmで流しながら、1000℃まで150℃/秒の昇温速度にて昇温させ、1000℃にて5分間炭化処理した場合、(3)エチレン(C2H4)ガスを流量10sccmで流しながら、1000℃まで10℃/秒の昇温速度にて昇温させ、1000℃にて5分間炭化処理した場合、それぞれにて形成される立方晶炭化ケイ素膜の膜厚を図示している。
【0055】
図によれば、1000℃まで150℃/秒以上の昇温速度にて急速加熱することにより、急速加熱しなかった場合と比べて、短時間にて、およそ3倍の膜厚の立方晶炭化ケイ素膜が形成されていることが分かる。
【0056】
図10は、特に、900℃から950℃まで昇温する時に、昇温速度のみを変えた場合の基板温度の変化を示した図である。
図中、実線で示したグラフは、基板温度900℃までは10℃/分のゆっくりとした昇温速度で昇温させ、基板温度900℃から950℃までを5℃/秒の昇温速度で急速加熱して炭化処理を行った場合の温度変化を示したものである。
一方、破線で示したグラフは、基板温度950℃までを10℃/分のゆっくりとした昇温速度で昇温させた場合の温度変化を示したものである。
【0057】
図11は、炭素原料ガスとしてエチレン(C2H4)ガスを流量10sccmで流し、実線で示したグラフ及び破線で示したグラフそれぞれに従って950℃まで昇温させ、950℃にて5分間炭化処理を行ったときに形成される炭化層の膜厚を示したものである。
図によれば、基板温度900℃から950℃までを急速加熱した場合は、ゆっくり昇温させた場合と比べて炭化反応が促進され、より高速にて炭化膜を形成することができることが分かった。
【0058】
また、900℃以下の温度では、立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長がほとんど観察されなかったが、単結晶シリコンのエピタキシャル成長は観察された。したがって、基板温度を、900℃以下の単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度領域と、900℃から950℃までの急速加熱領域との間で繰り返すことにより、(1)単結晶シリコンのエピタキシャル成長、(2)単結晶シリコンの炭化処理による立方晶炭化ケイ素膜の生成及び立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長、を交互に行うことができる。
【0059】
このとき、急速加熱を行うことで、通常の処理と比べて高速にて立方晶炭化ケイ素膜の形成が可能であることから、比較的低い温度にても高速にて立方晶炭化ケイ素膜の形成が可能となる。
また、低温にて立方晶炭化ケイ素膜を形成することができるので、シリコン基板と立方晶炭化ケイ素膜との熱膨張差に起因する結晶欠陥の発生を抑制することができ、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を形成することができる。
【0060】
なお、本実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板1では、シリコン基板2の表面2aに、立方晶炭化ケイ素膜3a〜3tを計20層、積層してなる積層構造の立方晶炭化ケイ素膜3を形成した構成としたが、積層する立方晶炭化ケイ素膜の層数は、要求される特性に応じて積層構造の層数を決定すればよい。
また、シリコン基板2の代わりに、単結晶シリコン膜が表面に形成された基板を用いても、同様の作用、効果を奏することができる。この場合、単結晶シリコン膜の厚みは、急速加熱の際に炭化処理を十分行うことができる程度の厚みを有する必要がある。
さらに、この単結晶炭化ケイ素膜付き基板1は、次世代における低損失のパワーデバイス用半導体材料としても利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…立方晶炭化ケイ素膜付き基板、2…シリコン(Si)基板、2a…表面、3…積層構造の立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜、3a〜3t…立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶炭化ケイ素膜の製造方法及び立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法に関し、特に、ワイドバンドギャップ半導体として期待される立方晶炭化ケイ素(SiC)膜をシリコン基板上または基板上に形成された単結晶シリコン膜上に形成する立方晶炭化ケイ素膜の製造方法、及びシリコン基板上または基板上に形成された単結晶シリコン膜上に立方晶炭化ケイ素膜を形成してなる立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、バンドギャップが2.2eV(300K)と、シリコン(Si)と比べて2倍以上のバンドギャップを有するワイドバンドギャップ半導体であり、パワーデバイス用半導体材料あるいは高耐圧デバイス用材料として注目されている。
ところで、この炭化ケイ素(SiC)の結晶生成温度は、シリコン(Si)と比べて高く、シリコンと同じように液相からの引き上げ法により炭化ケイ素(SiC)単結晶インゴットを得るのが困難である。そこで、昇華法という方法により炭化ケイ素(SiC)単結晶インゴットを作製するが、昇華法では、大口径で結晶欠陥の少ない炭化ケイ素(SiC)単結晶インゴットを得ることが非常に難しい。それ故、現在市販されている炭化ケイ素(SiC)基板の径は3〜4インチであり、価格も非常に高価である。
【0003】
一方、炭化ケイ素(SiC)の中でも立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)は、結晶生成温度が比較的低温であり、安価なシリコン基板上にエピタキシャル成長(ヘテロエピタキシー)させることができる。そこで、炭化ケイ素(SiC)基板の大口径化の手段の一つとして、このヘテロエピタキシャル技術が検討されている。
ところで、立方晶炭化ケイ素の格子定数は4.359オングストロームであり、単結晶シリコンの格子定数(5.4307オングストローム)と比べて20%程度も小さく、かつ熱膨張係数も異なることから、結晶欠陥が少ない高品質のエピタキシャル膜を得ることが非常に難しい。
【0004】
さらに、単結晶シリコンと立方晶炭化ケイ素の熱膨張係数が異なることから、立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長後に室温まで冷却する際に、シリコン基板のそりに起因する応力が発生し、この応力が立方晶炭化ケイ素膜に結晶欠陥を生じさせる原因となっている。この応力の影響を避けるためには、エピタキシャル成長温度を下げることが有効である。
一般に、エピタキシャル成長には気相中での成長(CVD法)が用いられており、このCVD法では、成長温度を下げるには、(1)高真空下にて成長を行う、(2)低温で分解し易い原料ガス、またはSi−C結合を有する原料ガスを用いる、等の方法が考えられるが、成長温度を下げると、それに伴い成長速度も遅くなるという問題点が生じる。
そこで、シリコン原料ガスと炭素原料ガスとを交互に交互に流すことで、結晶欠陥の少ない立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)のエピタキシャル膜を実用的な成長速度で形成する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−335935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、確かにシリコン原料ガスと炭素原料ガスとを交互に交互に流すことで、結晶欠陥の少ないエピタキシャル膜を得ているものの、立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)のエピタキシャル成長温度が1200℃〜1300℃と通常の立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)のエピタキシャル成長温度と何等変わりがなく、したがって、熱膨張係数が異なることから基板冷却時に応力が発生し、この応力が牽引となった結晶欠陥が生じ、立方晶炭化ケイ素膜の結晶欠陥を減少させることが難しいという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を高速にて成長させることが可能な立方晶炭化ケイ素膜の製造方法、及び、シリコン基板上または基板上に形成された単結晶シリコン膜上に、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を高速にて成長させることが可能な立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法及び立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法を採用した。
すなわち、本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、シリコン基板の上または基板の上に形成された単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱して前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を炭化することにより立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程、前記立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、前記立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、前記立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる第2の工程、を有することを特徴とする。
【0009】
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、シリコン基板または単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱することにより、このシリコン基板の表面または単結晶シリコン膜が炭素を含むガスにより炭化され、立方晶炭化ケイ素膜となる。
また、得られた立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、この立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、上記の立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる。
これにより、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を、温度一定にて立方晶炭化ケイ素膜をエピタキシャル成長させる場合と比べて、より速い速度にて形成することができる。
したがって、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を高速で得ることができる。
【0010】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程、を有し、前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことを特徴とする。
【0011】
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程を有し、さらに、前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことにより、得られた立方晶炭化ケイ素膜は、エピタキシャル成長させた立方晶炭化ケイ素層を積層することで所望の膜厚の立方晶炭化ケイ素膜となる。これにより、所望の膜厚を有する結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を高速度にて容易に得ることができる。
【0012】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、前記急速加熱の昇温速度は、5℃/秒以上かつ200℃/秒以下であることを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、急速加熱の昇温速度を5℃/秒以上かつ200℃/秒以下としたことにより、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を、さらに高速で得ることができる。
【0013】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、前記炭素を含むガスと前記ケイ素を含むガスとの切り換えは、前記炭素を含むガスの流量及び前記ケイ素を含むガスの流量をそれぞれ制御することで行うことを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、炭素を含むガスの流量及びケイ素を含むガスの流量をそれぞれ制御することにより、炭素を含むガスとケイ素を含むガスとの切り換えを容易かつ簡便に行うことができる。
【0014】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、前記炭素を含むガスは、炭化水素系ガスを含むことを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、炭素を含むガスを、炭化水素系ガスとしたことにより、炭化水素系ガスに含まれる炭素原子が単結晶シリコン膜のケイ素原子と結合して立方晶炭化ケイ素膜を生成する。これにより、シリコン基板の表面に立方晶炭化ケイ素膜を容易に形成することができる。
【0015】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法は、前記ケイ素を含むガスは、シラン系ガスを含むことを特徴とする。
この立方晶炭化ケイ素膜の製造方法では、ケイ素を含むガスを、シラン系ガスとしたことにより、シリコン基板または単結晶シリコン膜上にシラン系ガスの分解によって生じるケイ素原子により単結晶シリコン膜が形成される。これにより、単結晶シリコン膜を容易に形成することができる。
【0016】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法は、シリコン基板上または基板上に形成された単結晶シリコン膜上に立方晶炭化ケイ素膜を形成してなる立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法であって、前記シリコン基板の上または前記単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱して前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を炭化することにより立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程、前記立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、前記立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、前記立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる第2の工程、を有することを特徴とする。
【0017】
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法では、シリコン基板または単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱することにより、このシリコン基板の表面または単結晶シリコン膜が炭素を含むガスにより炭化され、立方晶炭化ケイ素膜となる。
また、得られた立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、この立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、上記の立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる。
これにより、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を、温度一定にて立方晶炭化ケイ素膜をエピタキシャル成長させる場合と比べて、より速い速度にて形成することができる。
したがって、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を有する基板を高速で得ることができる。
【0018】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法は、前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程、を有し、前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことを特徴とする。
【0019】
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法では、前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程を有し、さらに、前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことにより、得られた立方晶炭化ケイ素膜は、エピタキシャル成長させた立方晶炭化ケイ素層を積層することで所望の膜厚の立方晶炭化ケイ素膜となる。これにより、所望の膜厚を有する結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を有する基板を高速で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例1の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例2の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施例3の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例4の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例5の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図7】本発明の実施例6の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。
【図8】本発明の実施例6の立方晶炭化ケイ素膜の膜厚及び連続プロセスの立方晶炭化ケイ素膜の膜厚の成長時間依存性を示す図である。
【図9】本発明の実施例7の立方晶炭化ケイ素膜の昇温速度と膜厚との関係を示す図である。
【図10】900℃から950℃まで昇温速度のみを変えた場合の基板温度の変化を示した図である。
【図11】基板温度900℃から950℃までを急速加熱及び低速加熱した場合の炭化層の膜厚を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法及び立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法を実施するための形態について説明する。
本実施形態においては、発明の内容の説明を容易にするために、構造上の各部分の形状等については、適宜、実際の形状と異ならせてある。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板を示す断面図であり、図において、1は立方晶炭化ケイ素膜付き基板であり、シリコン(Si)基板2の表面2aに、立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜3a〜3tを計20層、積層してなる積層構造の立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜3が形成されている。
この立方晶炭化ケイ素膜付き基板1では、立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜3a〜3tを計20層、積層することにより、所望の膜厚を有する結晶欠陥が少ない高品質の積層構造の立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜3となっている。
【0023】
次に、この立方晶炭化ケイ素膜付き基板1の製造方法について説明する。
まず、シリコン基板2を用意し、このシリコン基板2を熱処理炉のチャンバー内に収納し、このチャンバー内を真空にしてシリコン基板2を加熱して、その基板温度を所定の温度、例えば750℃に上昇させた後、所定の時間、例えば5分間熱処理を行い、シリコン基板2の表面2aの自然酸化膜等のクリーニングを行う。
【0024】
次いで、シリコン基板2の基板温度を室温以上かつ単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1以下に設定する。この温度T1は、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長が遅い温度でもあるので、シリコン基板2の基板温度を温度T1に設定することで、単結晶シリコンのエピタキシャル成長のみに限定することが可能である。
【0025】
次いで、シリコン基板2の上に炭素原料ガス(炭素を含むガス)を導入しつつ、このシリコン基板2を、単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1より高い立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度T2にまで急速加熱する。
炭素原料ガスとしては、炭化水素系ガスが好ましく、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4)、プロパン(C3H8)、ノルマルブタン(n−C4H10)、イソブタン(i−C4H10)、ネオペンタン(neo−C5H12)等が好適に用いられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
この急速加熱とは、基準となる昇温速度、例えば、10℃/分の昇温速度を超える昇温速度にて温度上昇する加熱のことであり、この急速加熱における昇温速度は、5℃/秒以上かつ200℃/秒以下が好ましい。
急速加熱の昇温速度が5℃/秒未満であると、昇温速度が遅すぎるために、炭素ガスが少ない場合は、シリコン基板2の表面からシリコンが昇華し、表面が荒れる虞があり、炭素ガスが多い場合は、シリコン基板2の表面に薄い炭化層が形成され、それ以上成長せず、成長速度が速くなる効果が得られなくなる虞がある。一方、急速加熱の昇温速度が200℃/秒を超えると、急速加熱があまりに急峻なために、シリコン基板2の表面が十分に炭化されず、炭化ケイ素の生成が不十分なものとなる。
【0027】
また、炭素原料ガスを導入する場合、炭素原料ガスの流量とケイ素原料ガス(ケイ素を含むガス)の流量をそれぞれ制御することで、炭素原料ガスのみの導入を行うことができる。
この急速加熱の過程で、シリコン基板2の表面が炭素原料ガスにより炭化され、立方晶炭化ケイ素膜が形成される。
【0028】
次いで、シリコン基板2の基板温度が立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度T2に達したところで、このシリコン基板2の基板温度をエピタキシャル成長温度T2に保持しつつ、炭素原料ガスの流量及びケイ素原料ガスの流量を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長に適する流量に設定する。
【0029】
ケイ素原料ガスとしては、シラン系ガスが好ましく、例えば、モノシラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、トリシラン(Si3H8)、テトラシラン(Si4H10)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、テトラクロロシラン(SiCl4)、トリクロロシラン(SiHCl3)、ヘキサクロロジシラン(Si2Cl6)等が好適に用いられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
この過程で、立方晶炭化ケイ素膜の上に立方晶炭化ケイ素がエピタキシャル成長し、立方晶炭化ケイ素膜3aとなる。
【0030】
次いで、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの供給を停止し、シリコン基板2の基板温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1まで低下させる。
このシリコン基板2の基板温度が単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1に達したところで、ケイ素原料ガスの流量を単結晶シリコンのエピタキシャル成長に適する流量に設定する。
この過程で、立方晶炭化ケイ素膜3a上に単結晶シリコンがエピタキシャル成長し、単結晶シリコン膜となる。
【0031】
この単結晶シリコンをエピタキシャル成長させる工程以降を、得られた立方晶炭化ケイ素膜の膜厚が所望の膜厚になるまで繰り返し行う。
ここでは、下記の(1)〜(4)の工程を繰り返し行う。
【0032】
(1)基板温度が単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1に達したところで、ケイ素原料ガスを導入しつつ、立方晶炭化ケイ素膜3a上に単結晶シリコンをエピタキシャル成長させる工程。
(2)立方晶炭化ケイ素膜3aの上に形成された単結晶シリコン膜の上に炭素原料ガスを導入しつつ、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度T2にまで急速加熱する工程。
(3)基板温度がエピタキシャル成長温度T2に達したところで、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスをそれぞれ所定の流量にて導入しつつ、立方晶炭化ケイ素膜をエピタキシャル成長させる工程。
(4)炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの供給を停止し、基板温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1まで低下させる工程。
【0033】
上記の(1)〜(4)の工程を、複数回繰り返し行うことにより、所望の膜厚の立方晶炭化ケイ素膜3を有する立方晶炭化ケイ素膜付き基板1が得られる。
例えば、19回繰り返し行うことにより、図1に示す立方晶炭化ケイ素膜3a〜3tを計20層、積層してなる積層構造の立方晶炭化ケイ素膜3を有する立方晶炭化ケイ素膜付き基板1が得られる。
【0034】
本実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法によれば、立方晶炭化ケイ素膜の生成及び成長、この立方晶炭化ケイ素膜上への単結晶シリコン膜の生成、この単結晶シリコン膜を炭化することによる立方晶炭化ケイ素膜の生成及び成長、という工程を繰り返し行うことにより、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を形成してなる立方晶炭化ケイ素膜付き基板1を、低いエピタキシャル成長温度にて、高速で得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
「実施例1」
図2は、実施例1の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図であり、炭素原料ガスにネオペンタン(neo−C5H12)を、ケイ素原料ガスにジクロロシラン(SiH2Cl2)を、それぞれ用い、単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1を800℃、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度T2を1000℃とした。
【0037】
そして、区間S1(急速加熱による炭化過程)、区間S2(立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長過程)、区間S3(基板降温過程)及び区間S4(単結晶シリコンのエピタキシャル成長過程)、それぞれに最適になるように、炭素原料ガスの流量Fc1〜Fc4及びケイ素原料ガスの流量Fsi1〜Fsi4を設定した。
【0038】
ここでは、区間S1(急速加熱による炭化過程)では、炭素原料ガスのみを導入する必要があることから、炭素原料ガスの流量Fc1=3sccm、ケイ素原料ガスの流量Fsi1=0sccmとした。
また、区間S2(立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長過程)では、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスをバランス良く導入する必要があることから、炭素原料ガスの流量Fc2=5sccm、ケイ素原料ガスの流量Fsi2=5sccmとした。
【0039】
また、区間S3(基板降温過程)では、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスを流す必要がないので、炭素原料ガスの流量Fc3=0sccm、ケイ素原料ガスの流量Fsi3=0sccmとした。
また、区間S4(単結晶シリコンのエピタキシャル成長過程)では、ケイ素原料ガスのみを導入する必要があることから、炭素原料ガスの流量Fc4=0sccm、ケイ素原料ガスの流量Fsi4=20sccmとした。
【0040】
このように、区間S1〜S4について、炭素原料ガスの流量Fc1、Fc2、Fc3及びFc4と、ケイ素原料ガスの流量Fsi1、Fsi2、Fsi3及びFsi4とを、それぞれ最適になるように設定することで、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を、低いエピタキシャル成長温度にて、高速で得ることができた。
【0041】
「実施例2」
図3は、実施例2の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図であり、実施例1とは、炭素原料ガスの流量をFc2=3sccmとし、ケイ素原料ガスの流量をFsi2=0sccmとした点が異なる。
【0042】
ここでは、区間S2(立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長過程)における炭素原料ガスの流量をFc2=3sccm、ケイ素原料ガスの流量をFsi2=0sccmとしたので、炭素原料ガスが過剰の雰囲気となり、炭化処理の促進により立方晶炭化ケイ素膜の生成が促進される。
【0043】
「実施例3」
図4は、実施例3の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図であり、実施例1とは、炭素原料ガスの流量をFc1=Fc2=5sccm、Fc3=Fc4=0sccmとし、ケイ素原料ガスの流量をFsi1=Fsi2=Fsi3=Fc4=20sccmとした点が異なる。
【0044】
ここでは、区間S1(急速加熱による炭化過程)で炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの双方が導入されているが、炭素原料ガスによる炭化処理の効果がケイ素原料ガスによる成長を遙かに上回るので、ケイ素原料ガスの導入は何等問題がない。
【0045】
「実施例4」
図5は、実施例4の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図であり、実施例1とは、炭素原料ガスの流量をFc1=Fc2=Fc3=Fc4=5sccmとし、ケイ素原料ガスの流量をFsi1=Fsi2=Fsi3=Fc4=20sccmとした点が異なる。
【0046】
区間S4(単結晶シリコンのエピタキシャル成長過程)では、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの双方を導入しているが、この温度領域はケイ素原料ガスによるシリコンのエピタキシャル成長領域であり、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長は無い領域であるから、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの双方を導入しても何等問題は無い。
【0047】
「実施例5」
図6は、実施例5の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図であり、実施例1とは、炭素原料ガスの流量をFc1=Fc2=Fc3=Fc4=5sccmとし、ケイ素原料ガスの流量をFsi1=Fsi2=Fsi3=0sccm、Fc4=20sccmとした点が異なる。
【0048】
この区間S4(単結晶シリコンのエピタキシャル成長過程)でも、実施例4と同様、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの双方を導入しているが、この温度領域はケイ素原料ガスによるシリコンのエピタキシャル成長領域であり、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長は無い領域であるから、炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの双方を導入しても何等問題は無い。
【0049】
実施例2〜5においても、実施例1と同様、炭素原料ガスの流量Fc1、Fc2、Fc3及びFc4、及びケイ素原料ガスの流量Fsi1、Fsi2、Fsi3及びFsi4を各区間毎に最適になるように設定することで、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を、低いエピタキシャル成長温度にて、高速で得ることができる。
【0050】
「実施例6」
図7は、実施例6の温度サイクルの各区間における基板温度と炭素原料ガス及びケイ素原料ガスの流量との関係を示す図である。ここでは、炭素原料ガスにネオペンタン(neo−C5H12)を、ケイ素原料ガスにジクロロシラン(SiH2Cl2)を、それぞれ用い、単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度T1を900℃、立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度T2を1000℃とし、5サイクルのエピタキシャル成長を行った。
【0051】
そして、区間S1(急速加熱による炭化過程)を60秒、区間S2(立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長過程)を300秒、区間S3(基板降温過程)を120秒、区間S4(単結晶シリコンのエピタキシャル成長過程)を300秒とし、炭素原料ガスの流量をFc1=1sccm、Fc2=Fc3=5sccm、Fc4=0sccmとし、ケイ素原料ガスの流量をFsi1=0sccm、Fsi2=Fsi3=Fsi4=20sccmとした。
【0052】
また、同様の温度サイクルにて、10サイクルのエピタキシャル成長、20サイクルのエピタキシャル成長、をそれぞれ行った。
図8は、図7のサイクルプロセスにて形成された立方晶炭化ケイ素膜の膜厚、及び一定温度にてエピタキシャル成長させる通常の連続プロセスにて形成された立方晶炭化ケイ素膜の膜厚の成長時間依存性を示す図である。なお、連続プロセスの条件としては、基板温度を1000℃とし、炭素原料ガスであるネオペンタン(neo−C5H12)の流量を5sccm、ケイ素原料ガスであるジクロロシラン(SiH2Cl2)の流量を20sccmとした。
【0053】
ここでは、サイクルプロセスのプロセス時間は、成長に係わる区間S1(急速加熱による炭化過程)、区間S2(立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長過程)及び区間S3(基板降温過程)の合計時間とサイクル数との積で表した。
その結果、サイクルプロセスでの成長速度は33.1nm/時間であり、一方、連続プロセスでの成長速度は25.1nm/時間であり、同様の処理条件の下では、サイクルプロセスを行うことで、成長速度が速くなることが分かった。
また、図8では、各区間の処理時間を最適化していないので、連続プロセスに対して1.3倍強の成長速度であったが、各区間の処理時間を最適化することにより、さらなる成長速度の向上が可能である。
【0054】
「実施例7」
図9は、実施例7の立方晶炭化ケイ素膜の昇温速度と膜厚との関係を示す図である。ここでは、シリコン基板を600℃に加熱した後、(1)炭素原料ガスとしてエチレン(C2H4)ガスを流量3sccmで流しながら、1000℃まで180℃/秒の昇温速度にて昇温させ、1000℃にて10分間炭化処理した場合、(2)エチレン(C2H4)ガスを流量10sccmで流しながら、1000℃まで150℃/秒の昇温速度にて昇温させ、1000℃にて5分間炭化処理した場合、(3)エチレン(C2H4)ガスを流量10sccmで流しながら、1000℃まで10℃/秒の昇温速度にて昇温させ、1000℃にて5分間炭化処理した場合、それぞれにて形成される立方晶炭化ケイ素膜の膜厚を図示している。
【0055】
図によれば、1000℃まで150℃/秒以上の昇温速度にて急速加熱することにより、急速加熱しなかった場合と比べて、短時間にて、およそ3倍の膜厚の立方晶炭化ケイ素膜が形成されていることが分かる。
【0056】
図10は、特に、900℃から950℃まで昇温する時に、昇温速度のみを変えた場合の基板温度の変化を示した図である。
図中、実線で示したグラフは、基板温度900℃までは10℃/分のゆっくりとした昇温速度で昇温させ、基板温度900℃から950℃までを5℃/秒の昇温速度で急速加熱して炭化処理を行った場合の温度変化を示したものである。
一方、破線で示したグラフは、基板温度950℃までを10℃/分のゆっくりとした昇温速度で昇温させた場合の温度変化を示したものである。
【0057】
図11は、炭素原料ガスとしてエチレン(C2H4)ガスを流量10sccmで流し、実線で示したグラフ及び破線で示したグラフそれぞれに従って950℃まで昇温させ、950℃にて5分間炭化処理を行ったときに形成される炭化層の膜厚を示したものである。
図によれば、基板温度900℃から950℃までを急速加熱した場合は、ゆっくり昇温させた場合と比べて炭化反応が促進され、より高速にて炭化膜を形成することができることが分かった。
【0058】
また、900℃以下の温度では、立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長がほとんど観察されなかったが、単結晶シリコンのエピタキシャル成長は観察された。したがって、基板温度を、900℃以下の単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度領域と、900℃から950℃までの急速加熱領域との間で繰り返すことにより、(1)単結晶シリコンのエピタキシャル成長、(2)単結晶シリコンの炭化処理による立方晶炭化ケイ素膜の生成及び立方晶炭化ケイ素膜のエピタキシャル成長、を交互に行うことができる。
【0059】
このとき、急速加熱を行うことで、通常の処理と比べて高速にて立方晶炭化ケイ素膜の形成が可能であることから、比較的低い温度にても高速にて立方晶炭化ケイ素膜の形成が可能となる。
また、低温にて立方晶炭化ケイ素膜を形成することができるので、シリコン基板と立方晶炭化ケイ素膜との熱膨張差に起因する結晶欠陥の発生を抑制することができ、結晶欠陥が少ない高品質の立方晶炭化ケイ素膜を形成することができる。
【0060】
なお、本実施形態の立方晶炭化ケイ素膜付き基板1では、シリコン基板2の表面2aに、立方晶炭化ケイ素膜3a〜3tを計20層、積層してなる積層構造の立方晶炭化ケイ素膜3を形成した構成としたが、積層する立方晶炭化ケイ素膜の層数は、要求される特性に応じて積層構造の層数を決定すればよい。
また、シリコン基板2の代わりに、単結晶シリコン膜が表面に形成された基板を用いても、同様の作用、効果を奏することができる。この場合、単結晶シリコン膜の厚みは、急速加熱の際に炭化処理を十分行うことができる程度の厚みを有する必要がある。
さらに、この単結晶炭化ケイ素膜付き基板1は、次世代における低損失のパワーデバイス用半導体材料としても利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…立方晶炭化ケイ素膜付き基板、2…シリコン(Si)基板、2a…表面、3…積層構造の立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜、3a〜3t…立方晶炭化ケイ素(3C−SiC)膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の上または基板の上に形成された単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱して前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を炭化することにより立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程、
前記立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、前記立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、前記立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる第2の工程、
を有することを特徴とする立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程、
を有し、
前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことを特徴とする請求項1記載の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項3】
前記急速加熱の昇温速度は、5℃/秒以上かつ200℃/秒以下であることを特徴とする請求項1または2記載の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項4】
前記炭素を含むガスと前記ケイ素を含むガスとの切り換えは、前記炭素を含むガスの流量及び前記ケイ素を含むガスの流量をそれぞれ制御することで行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項5】
前記炭素を含むガスは、炭化水素系ガスを含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項6】
前記ケイ素を含むガスは、シラン系ガスを含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項7】
シリコン基板上または基板上に形成された単結晶シリコン膜上に立方晶炭化ケイ素膜を形成してなる立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法であって、
前記シリコン基板の上または前記単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱して前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を炭化することにより立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程、
前記立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、前記立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、前記立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる第2の工程、
を有することを特徴とする立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法。
【請求項8】
前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程、
を有し、
前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことを特徴とする請求項7記載の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法。
【請求項1】
シリコン基板の上または基板の上に形成された単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱して前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を炭化することにより立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程、
前記立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、前記立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、前記立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる第2の工程、
を有することを特徴とする立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程、
を有し、
前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことを特徴とする請求項1記載の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項3】
前記急速加熱の昇温速度は、5℃/秒以上かつ200℃/秒以下であることを特徴とする請求項1または2記載の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項4】
前記炭素を含むガスと前記ケイ素を含むガスとの切り換えは、前記炭素を含むガスの流量及び前記ケイ素を含むガスの流量をそれぞれ制御することで行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項5】
前記炭素を含むガスは、炭化水素系ガスを含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項6】
前記ケイ素を含むガスは、シラン系ガスを含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の立方晶炭化ケイ素膜の製造方法。
【請求項7】
シリコン基板上または基板上に形成された単結晶シリコン膜上に立方晶炭化ケイ素膜を形成してなる立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法であって、
前記シリコン基板の上または前記単結晶シリコン膜の上に、炭素を含むガスを導入し、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度まで急速加熱して前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜を炭化することにより立方晶炭化ケイ素膜を形成する第1の工程、
前記立方晶炭化ケイ素膜を立方晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長温度に保持しつつ、前記立方晶炭化ケイ素膜の上に、炭素を含むガス及びケイ素を含むガスを導入し、前記立方晶炭化ケイ素膜をさらにエピタキシャル成長させる第2の工程、
を有することを特徴とする立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法。
【請求項8】
前記第2の工程の後に、さらにエピタキシャル成長させた前記立方晶炭化ケイ素膜の温度を単結晶シリコンのエピタキシャル成長温度に設定し、前記立方晶炭化ケイ素膜の上にケイ素を含むガスを導入し、該立方晶炭化ケイ素膜の上に単結晶シリコン膜を形成する第3の工程、
を有し、
前記第3の工程の後に、前記第1の工程及び前記第2の工程を順次行うことを特徴とする請求項7記載の立方晶炭化ケイ素膜付き基板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−41204(P2012−41204A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181206(P2010−181206)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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