説明

薄膜トランジスタおよびその製造方法、ならびに電子機器

【課題】ソース電極およびドレイン電極と有機半導体層とにおける電荷注入効率の向上と性能の確保とを両立させることが可能な薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】薄膜トランジスタは、エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含む金属含有材料により形成された有機半導体層と、互いに離間されたソース電極およびドレイン電極と、有機半導体層とソース電極およびドレイン電極とが重なる領域において有機半導体層とソース電極およびドレイン電極との間に挿入され、エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含まない非金属含有材料により形成された有機導電層とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、有機半導体層を備えた薄膜トランジスタおよびその製造方法、ならびにその薄膜トランジスタを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多様な電子機器に、スイッチング用の素子などとして薄膜トランジスタ(TFT:thin film transistor)が用いられている。このTFTとしては、最近では、チャネル層である半導体層の形成材料として無機半導体材料を用いた無機TFTに代えて、有機半導体材料を用いた有機TFTが有望視されている。塗布法を用いてチャネル層を形成可能であるため、低コスト化を図ることができるからである。また、蒸着法などよりも低い温度でチャネル層を形成可能であるため、支持基体として低耐熱性でフレキシブルなプラスチックフィルムなどを用いることができるからである。
【0003】
有機TFTは、チャネル層である有機半導体層と共に、その有機半導体層に接続されたソース電極およびドレイン電極を備えており、そのソース電極およびドレイン電極は、金属材料などにより形成されている。有機半導体層とソース電極およびドレイン電極との位置関係は2種類に分類されるが、中でも、ソース電極およびドレイン電極が有機半導体層の上側に重なるように配置されるトップコンタクト型が一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この有機TFTでは、金属材料であるソース電極およびドレイン電極と有機材料である有機半導体層とが接続されるため、それらの電荷注入効率が十分でない場合がある。そこで、有機半導体層の上にホール注入層などの有機導電層を形成して、ソース電極およびドレイン電極と有機半導体層との間に有機導電層を介在させることが提案されている(例えば、特許文献2,3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−085200号公報
【特許文献2】特開2006−253675号公報
【特許文献3】特開2005−327797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、有機半導体層の上において有機導電層がソース電極からドレイン電極に至る領域に延在していると、電荷注入効率は向上するが、その有機導電層の存在に起因して電極間にリーク電流が生じやすくなる。そこで、有機導電層の不要部分を除去してリーク電流を防止するために、ソース電極およびドレイン電極をマスクとして有機導電層をドライエッチングすることが検討されている。ところが、有機導電層をエッチングしようとすると、その有機導電層だけでなく有機半導体層までエッチングされるため、電流経路が切断されやすくなる。よって、いずれの場合においても、電荷注入効率が向上する一方で、有機TFTの性能が低下してしまう。
【0007】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、ソース電極およびドレイン電極と有機半導体層とにおける電荷注入効率の向上と性能の確保とを両立させることが可能な薄膜トランジスタまたはその製造方法、あるいは電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術の薄膜トランジスタは、エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含む金属含有材料により形成された有機半導体層と、互いに離間されたソース電極およびドレイン電極と、有機半導体層とソース電極およびドレイン電極とが重なる領域において有機半導体層とソース電極およびドレイン電極との間に挿入され、エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含まない非金属含有材料により形成された有機導電層とを備えたものである。また、本技術の電子機器は、上記した本技術の薄膜トランジスタを備えたものである。
【0009】
本技術の薄膜トランジスタの製造方法は、エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含む金属含有材料を用いて有機半導体層を形成し、その有機半導体層の上に、エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含まない非金属含有材料を用いて有機導電層を形成し、その有機導電層の上に互いに離間されたソース電極およびドレイン電極を形成し、エッチングガスを用いてソース電極およびドレイン電極をマスクとして有機導電層をエッチングするようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本技術の薄膜トランジスタまたはその製造方法、あるいは電子機器によれば、金属含有材料により形成された有機半導体層とソース電極およびドレイン電極とが重なる領域において、それらの間に非金属含有材料により形成された有機導電層が挿入されている。これにより、ソース電極およびドレイン電極をマスクとして有機導電層がエッチングされる。よって、ソース電極およびドレイン電極と有機半導体層とにおける電荷注入効率の向上と性能の確保とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本技術の一実施形態における薄膜トランジスタの構成を表す断面図である。
【図2】薄膜トランジスタの製造方法を説明するための断面図である。
【図3】図2に続く工程を説明するための断面図である。
【図4】比較例の薄膜トランジスタの構成を表す断面図である。
【図5】薄膜トランジスタの構成に関する変形例を表す断面図である。
【図6】薄膜トランジスタの構成に関する他の変形例を表す断面図である。
【図7】薄膜トランジスタの適用例である液晶表示装置の構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した液晶表示装置の回路図である。
【図9】薄膜トランジスタの適用例である有機エレクトロルミネセンス(EL)表示装置の構成を表す断面図である。
【図10】図9に示した有機EL表示装置の回路図である。
【図11】薄膜トランジスタの適用例である電子ペーパー表示装置の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、以下の通りである。

1.薄膜トランジスタの構成
2.薄膜トランジスタの製造方法
3.変形例
4.薄膜トランジスタの適用例(電子機器)
4−1.液晶表示装置
4−2.有機EL表示装置
4−3.電子ペーパー表示装置
【0013】
<1.薄膜トランジスタの構成>
まず、本技術の一実施形態の薄膜トランジスタの構成について説明する。図1は、薄膜トランジスタの断面構成を表している。
【0014】
ここで説明する薄膜トランジスタは、チャネル層として有機半導体層4を備えた有機TFTである。この有機TFTは、例えば、支持基体1の上に、ゲート電極2と、ゲート絶縁層3と、有機半導体層4と、有機導電層5,6と、ソース電極7およびドレイン電極8とがこの順に積層されたものである。すなわち、図1に示した有機TFTは、ソース電極7およびドレイン電極8が有機半導体層4の上側に配置されていると共にゲート電極2が有機半導体層4の下側に配置されているトップコンタクト・ボトムゲート型である。なお、「上側」とは支持基体1から遠い側、「下側」とは支持基体1に近い側をそれぞれ意味している。
【0015】
支持基体1は、例えば、プラスチック材料、金属材料または無機材料などのいずれか1種類または2種類以上により形成されている。
【0016】
プラスチック材料は、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチルエーテルケトン(PEEK)、ポリアクリレート(PAR)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)またはトリアセチルセルロース(TAC)などである。金属材料は、例えば、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)またはステンレスなどである。無機材料は、例えば、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiOx )、窒化ケイ素(SiNx )、酸化アルミニウム(AlOx )または他の金属酸化物などである。ただし、酸化ケイ素には、ガラス、石英またはスピンオングラス(SOG)なども含まれる。
【0017】
この支持基体1は、ウェハなどの剛性を有する基板でもよいし、可撓性を有するフィルムまたは箔などでもよい。また、支持基体1の表面には、所定の機能を有する被覆層が設けられていてもよい。この被覆層は、例えば、密着性を確保するためのバッファ層またはガス放出を防止するためのガスバリア層などであり、他の機能を有する層でもよい。
【0018】
なお、支持基体1は、単層でもよいし、多層でもよい。多層の場合には、上記した各種材料の層が2層以上積層されている。このように単層でも多層でもよいことは、ゲート電極2、ゲート絶縁層3、有機半導体層4、有機導電層5,6、ソース電極7およびドレイン電極8についても同様である。
【0019】
ゲート電極2は、支持基体1の上に設けられており、例えば、金属材料、無機導電性材料、有機導電性材料または炭素材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0020】
金属材料は、例えば、アルミニウム、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル、パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、タングステン(W)、タンタル(Ta)またはそれらを含む合金などである。無機導電性材料は、例えば、酸化インジウム(In2 3 )、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)または酸化亜鉛(ZnO)などである。有機導電性材料は、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)またはポリアニリン(PANI)などである。炭素材料は、例えば、グラファイトなどである。なお、ゲート電極2は、例えば、PEDOT/PSSなどの多層でもよい。
【0021】
ゲート絶縁層3は、少なくともゲート電極2を覆うように設けられており、例えば、無機絶縁性材料または有機絶縁性材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。無機絶縁性材料は、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン(TiO2 )、酸化ハフニウム(HfOx )またはチタン酸バリウム(BaTiO3 )などである。有機絶縁性材料は、例えば、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリル酸アクリレート、エポキシ樹脂、ベンゾシクロブテン(BCB)、フッ素樹脂、感光性ポリイミド、感光性ノボラック樹脂またはポリパラキシリレンなどである。
【0022】
有機半導体層4は、ゲート絶縁層3の上に設けられており、エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方(以下、「金属元素等」という。)を構成元素として含む材料(金属含有材料)を含んでいる。
【0023】
金属含有材料は、有機TFTの製造工程において、任意のエッチングガスを用いたドライエッチング法によりエッチングされた場合に、金属元素等とエッチングガスの成分との反応物を形成できる材料である。この反応物は、後述するように、エッチング時において有機半導体層4の表面に堆積されることで、そのエッチング処理の進行を実質的に停止させる機能、すなわちエッチングストッパとしての機能を果たす。
【0024】
金属元素は、例えば、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル、銅、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム、銀、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、スズ(Sn)、バリウム(Ba)、ハフニウム(Hf)、タンタル、タングステン、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金、金、水銀(Hg)、タリウム(Tl)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)およびポロニウム(Po)のうちの少なくとも1種であり、他の金属元素でもよい。また、半金属元素は、例えば、ホウ素(B)、ケイ素、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)およびテルル(Te)のうちの少なくとも1種であり、他の半金属元素でもよい。なお、金属元素および半金属元素は、上記した一連の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種であればよい。
【0025】
具体的には、金属含有材料は、例えば、金属元素等を含む基(金属含有基)を有する有機半導体材料、またはその金属元素等を含む有機金属錯体などである。金属含有基は、例えば、半金属元素であるケイ素などを含み、その金属含有基の数は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。このケイ素を含む金属含有基は、例えば、トリイソプロピルシリルエチニル基(TIPS)またはトリエチルシリルエチニル基(TES)などのシリルアルキル基であり、他のシリルアルキル基でもよい。有機半導体材料の詳細については後述するが、上記した金属含有基を有する有機半導体材料の具体例は、TIPS−ペンタセンまたはTES−アントラジチオフェンなどである。有機金属錯体は、例えば、金属フタロシアニン、金属ジチオレート錯体またはトリス(8−キノリノラト)アルミニウム (Alq−3)などである。
【0026】
なお、エッチングガスの組成は、金属元素等の反応物を形成できるものであれば特に限定されないが、中でも、活性ガスを含んでいることが好ましい。活性ガスは反応性に優れているため、反応物を形成しやすいからである。この活性ガスは、例えば、酸素(O2 )およびハロゲンのうちの少なくとも1種であり、他の活性ガスでもよい。このハロゲンは、例えば、フッ素(F2 )または塩素(Cl2 )などのいずれか1種類または2種類以上である。
【0027】
中でも、エッチングガスが活性ガスである酸素を含む場合には、金属含有材料はケイ素を構成元素として含んでいることが好ましく、より具体的には、金属含有材料はシリルアルキル基を有する有機半導体材料などであることが好ましい。ケイ素は酸素と反応しやすいため、有機半導体層4のエッチング時においてケイ素と酸素との反応物(酸化ケイ素)を形成しやすいからである。また、酸化ケイ素は十分なエッチング耐性を有するため、有機半導体層4が僅かにエッチングされただけでエッチング処理の進行を実質的に停止させることができるからである。
【0028】
なお、有機半導体材料は、以下の材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。(1)ポリピロール、(2)ポリチオフェン、(3)ポリイソチアナフテンなどのイソチアナフテン、(4)ポリチェニレンビニレンなどのチェニレンビニレン、(5)ポリ(p−フェニレンビニレン)などのポリ(p−フェニレンビニレン)、(6)ポリアニリン、(7)ポリアセチレン、(8)ポリジアセチレン、(9)ポリアズレン、または(10)ポリピレンである。(11)ポリカルバゾール、(12)ポリセレノフェン、(13)ポリフラン、(14)ポリ(p−フェニレン)、(15)ポリインドール、(16)ポリピリダジン、(17)ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、ジベンゾペンタセン、テトラベンゾペンタセン、ピレン、ジベンゾピレン、クリセン、ペリレン、コロネン、テリレン、オバレン、クオテリレンまたはサーカムアントラセンなどのアセン、(18)アセン類のうちの炭素の一部が窒素(N)、硫黄(S)または酸素(O)などの原子、あるいはカルボニル基などの官能基により置換された誘導体、例えば、トリフェノジオキサジン、トリフェノジチアジンまたはヘキサセン−6,15−キノンなど、(19)ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレンスルフィドまたはポリビニレンスルフィドなどの高分子材料および多環縮合体、または(20)上記した高分子材料と同じ繰り返し単位を有するオリゴマーである。(21)銅フタロシアニンなどの金属フタロシアニン、(22)テトラチアフルバレン、(23)テトラチアペンタレン、(24)ナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミド、N,N’−ビス(4−トリフルオロメチルベンジル)ナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミドと共に、N,N’−ビス(1H,1H−ペルフルオロオクチル)、N,N’−ビス(1H,1H−ペルフルオロブチル)またはN,N’−ジオクチルナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミド誘導体、(25)ナフタレン2,3,6,7テトラカルボン酸ジイミドなどのナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、(26)アントラセン2,3,6,7−テトラカルボン酸ジイミドなどのアントラセンテトラカルボン酸ジイミド類に代表される縮合環テトラカルボン酸ジイミド、(27)C60、C70、C76、C78またはC84などのフラーレン、(28)単層ナノチューブ(SWNT)などのカーボンナノチューブ、(29)メロシアニン色素またはヘミシアニン色素などの色素、または(30)2,9−ジナフチル−ペリキサンテノキサンテンなどのペリキサンテノキサンテン化合物である。
【0029】
この他、有機半導体材料は、上記した一連の材料の誘導体でもよい。誘導体とは、上記した材料に1または2以上の置換基が導入された材料であり、その置換基の種類および導入位置などは、任意である。
【0030】
有機導電層5,6は、有機半導体層4とソース電極7およびドレイン電極8とにおける電荷注入効率を向上させるものであり、例えば、ホール注入層などである。有機導電層5は、有機半導体層4とソース電極7とが重なる領域において、その有機半導体層4とソース電極7との間に挿入されている。一方、有機導電層6は、有機半導体層4とドレイン電極8とが重なる領域において、その有機半導体層4とドレイン電極8との間に挿入されている。なぜなら、有機導電層5,6は、後述するように、有機半導体層4の表面を覆うように有機導電層9(図2)が形成されたのち、ソース電極6およびドレイン電極7をマスクとして有機導電層9が選択的にエッチングされることにより形成されたものだからである。このため、有機導電層5,6は、互いに離間されている。
【0031】
この有機導電層5,6は、有機半導体層4とは異なり、エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を構成元素として含まない材料(非金属含有材料)を含んでいる。非金属含有材料は、有機TFTの製造工程において任意のエッチングガスを用いたドライエッチング法によりエッチングされた場合に、上記した反応物を形成できない材料である。このため、有機導電層9(図2)は、エッチングストッパとして機能せず、所望のパターン形状となるようにエッチングされる。これにより、エッチングガスを用いて有機導電層9をドライエッチングする際に、その有機導電層9と有機半導体層4との間に選択比が得られる。
【0032】
有機導電層5,6は、有機半導体層4とソース電極7およびドレイン電極8とにおける電荷注入効率を向上させるために、有機半導体層4のイオン化ポテンシャルに近い仕事関数を有していることが好ましい。このような性質を有する非金属含有材料は、例えば、導電性高分子、任意のアクセプタ等がドープされた導電性高分子、導電性有機伝導体、および炭素材料のうちの少なくとも1種である。導電性高分子は、例えば、PEDOT−PSSなどの共重合体、またはポリアニリンなどである。任意のアクセプタ等がドープされた導電性高分子は、例えば、酸素がドープされたポリチオフェンなどである。導電性有機伝導体は、例えば、テトラチアフルバレン−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TTF−TCNQ)などである。炭素材料は、例えば、カーボンナノチューブなどである。
【0033】
なお、上記したように、エッチングガスが酸素を含んでいると共に、金属含有材料がケイ素を構成元素として含んでいる場合には、非金属含有量はケイ素を構成元素として含んでいないことが好ましい。選択比を得るためである。
【0034】
ソース電極7およびドレイン電極8は、それぞれ有機導電層5,6の上に互いに離間されるように設けられていると共に、例えば、ゲート電極2と同様の材料を含んでいる。ソース電極7およびドレイン電極8のそれぞれは、少なくとも一部においてゲート電極2と重なるように配置されていることが好ましい。
【0035】
なお、図1に示したP1は、有機TFTにおける電流の経路を表している。この有機TFTでは、ソース電極7が有機導電層5を介して有機半導体層4に接続されていると共に、ドレイン電極8が有機導電層6を介して有機半導体層4に接続されている。このため、電流は、経路P1に沿って、ソース電極7から有機導電層5を経由して有機半導体層4に流れたのち、有機導電層6を経由してドレイン電極8まで流れるようになっている。
【0036】
<2.薄膜トランジスタの製造方法>
次に、上記した薄膜トランジスタの製造方法について説明する。図2および図3は、薄膜トランジスタである有機TFTの製造方法を説明するためのものであり、図1に対応する断面構成を示している。なお、有機TFTの各構成要素の形成材料については既に詳細に説明したので、以下では、その形成材料の一例を挙げることとする。
【0037】
有機TFTを製造する場合には、最初に、図2に示したように、プラスチックフィルムなどの支持基体1の上に、ゲート電極2を形成する。この場合には、例えば、支持基体1の表面を覆うように金属材料層(図示せず)を形成したのち、その金属材料層をパターニングする。
【0038】
金属材料層の形成材料は、例えば、銅などである。また、金属材料層の形成方法は、例えば、スパッタリング法、蒸着法または化学気相成長(CVD)法などの気相成長法であり、そのパターニング方法は、例えば、エッチング法などである。このエッチング法は、イオンミリング法または反応性イオンエッチング(RIE)法などのドライエッチング法でもよいし、ウェットエッチング法でもよい。
【0039】
なお、金属材料層をパターニングする場合には、フォトリソグラフィ法または紫外線描画法などを併用してもよい。この場合には、例えば、金属材料層の表面にフォトレジストを塗布してフォトレジスト膜を形成してから、フォトリソグラフィ法などを用いてフォトレジスト膜をパターニングしたのち、そのフォトレジスト膜をマスクとして金属材料層をエッチングする。ただし、フォトレジスト膜に代えて金属膜などをマスクとして用いてもよい。
【0040】
続いて、少なくともゲート電極2を覆うようにゲート絶縁層3を形成する。このゲート絶縁層3の形成材料は、例えば、PVPなどであり、その形成方法は、例えば、スピンコート法などの塗布法である。
【0041】
続いて、ゲート絶縁層3の上に、その表面を覆うように有機半導体層4を形成する。この有機半導体層4の形成材料は、例えば、金属含有材料であるTES−アントラジチオフェンまたはTIPS−ペンタセンなどである。また、有機半導体層4の形成方法は、例えば、(1)抵抗加熱蒸着法、スパッタリング、蒸着法またはCVD法などの気相成長法、(2)スピンコート法、エアドクタコータ法、ブレードコータ法、ロッドコータ法、ナイフコータ法、スクイズコータ法、リバースロールコータ法、トランスファーロールコータ法、グラビアコータ法、キスコータ法、キャストコータ法、スプレーコータ法、スリットオリフィスコータ法、カレンダーコータ法または浸漬法などの塗布法である。これらの形成方法は、有機半導体層4の形成材料などの条件に応じて適宜選択可能である。なお、有機半導体層4の厚さは、特に限定されないが、例えば、50nmである。
【0042】
続いて、有機半導体層4の上に、その表面を覆うように有機導電層9を形成する。この有機導電層9は、有機導電層5,6を形成するための準備層であり、その形成材料は、有機導電層5,6の形成材料(非金属含有材料)と同様である。すなわち、有機導電層9の形成材料は、例えば、導電性有機伝導体であるTTF−TCNQなどである。また、有機導電層9の形成方法は、例えば、有機半導体層4の形成方法と同様である。これらの形成方法は、有機導電層9の形成材料などの条件に応じて適宜選択可能である。なお、有機導電層9の厚さは、特に限定されないが、例えば、5nmである。
【0043】
続いて、有機導電層9の上に、互いに離間されたソース電極7およびドレイン電極8を形成する。この場合には、例えば、有機導電層9の表面を覆うように金属材料層(図示せず)を形成したのち、その金属材料層をパターニングする。
【0044】
金属層の形成材料は、例えば、金などである。また、金属材料層の形成方法は、例えば、スパッタリング法、蒸着法または化学気相成長(CVD)法などの気相成長法であり、そのパターニング方法は、例えば、エッチング法などである。このエッチング法は、イオンミリング法または反応性イオンエッチング(RIE)法などのドライエッチング法でもよいし、ウェットエッチング法でもよい。中でも、パターニング方法は、有機半導体層4および有機導電層9にダメージを及ぼしにくいウェットエッチング法が好ましい。なお、ソース電極7およびドレイン電極8の厚さは、特に限定されないが、例えば、50nmである。
【0045】
ここでは、必要に応じて、ソース電極7およびドレイン電極8を形成する前に、有機半導体層4および有機導電層9をパターニングしてもよい。この場合には、フォトリソグラフィ法などを用いて有機導電層9の上にフォトレジスト膜などを形成したのち、そのフォトレジスト膜などをマスクとして有機半導体層4および有機導電層9をパターニングすればよい。このパターニング方法は、例えば、エッチングガスとして四フッ化炭素(CF4 )などの活性ガスを用いたドライエッチング法などである。
【0046】
最後に、ソース電極7およびドレイン電極8をマスクとして有機導電層9をエッチングして、その有機導電層9を選択的に除去することにより、図3に示したように、有機導電層5,6を形成する。このエッチング法は、例えば、エッチングガスとして酸素ガスなどの活性ガスを用いたドライエッチング法である。
【0047】
このエッチング工程では、有機導電層9がエッチングされたのち、そのエッチング処理が有機半導体層4に到達すると、金属含有材料のうちの金属元素等がエッチングガスの成分と反応するため、反応物10が生じる。この反応物10は、例えば、エッチングガスが酸素ガスであると共に金属含有材料がシリルアルキル基を有するTES−アントラジチオフェンまたはTIPSペンタセンなどである場合には、酸化ケイ素である。
【0048】
この反応物10が有機半導体層4の表面に生じると、その反応物10がエッチングストッパ層として機能するため、エッチング速度が急激に減少してエッチング処理は実質的に終了する。これにより、エッチング時に選択比が得られるため、有機導電層5,6を形成するために有機導電層9は完全にエッチング(パターニング)されるのに対して、有機半導体層4はほとんどエッチングされずに残存する。このため、有機半導体層4とソース電極7およびドレイン電極8とが重なる領域において、それらの間に挿入されるように有機導電層5,6が形成される。
【0049】
なお、有機導電層5,6を形成したのち、反応物10を残存させてもよいし、その反応物10を除去してもよい。反応物10が絶縁性の酸化物などであれば、有機TFTの性能に影響を与えないため、残存させておいても問題はない。反応物10を除去する場合には、例えば、ウェットエッチング法などを用いればよい。図1では、反応物10の図示を省略している。
【0050】
これにより、有機半導体層4、有機導電層5,6、ソース電極7およびドレイン電極8は、図1に示した電流の経路P1が得られるように接続されるため、トップコンタクト・ボトムゲート型の有機TFTが完成する。
【0051】
[薄膜トランジスタの製造方法に関する作用および効果]
この薄膜トランジスタである有機TFTおよびその製造方法では、有機半導体層4とソース電極7およびドレイン電極8とが重なる領域において、それらの間に有機導電層5,6が挿入されている。この有機半導体層4は、エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含む金属含有材料により形成されている。これに対して、有機導電層5,6は、エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含まない非金属含有材料により形成されている。よって、以下の理由により、ソース電極7およびドレイン電極8と有機半導体層4とにおける電荷注入効率の向上と有機TFTの性能の確保とを両立させることができる。
【0052】
図4は、比較例の有機TFTの構成および製造方法を説明するためのものであり、図1に対応する断面構成を示している。この比較例の有機TFTは、金属含有材料により形成された有機半導体層4に代えて、非金属含有材料により形成された有機半導体層14を備えることを除き、本実施形態の有機TFTと同様の構成を有している。
【0053】
まず、技術的な前提事項として、有機半導体層4とソース電極7およびドレイン電極8との間に有機導電層9を挿入すると(図2)、その有機導電層9の存在に起因して電極間にリーク電流が生じるため、有機TFTの性能が低下してしまう。なぜなら、有機半導体層4の上において有機導電層9がソース電極7からドレイン電極8に至る領域に延在していると、経路P1において正規の電流が流れるだけでなく、経路P2において不要な電流が流れるからである。このため、リーク電流に起因する問題を解消するために、有機導電層9をパターニングすることが検討される。
【0054】
しかしながら、有機半導体層14が非金属含有材料により形成されている比較例(図4)では、その有機半導体層14がエッチング時においてエッチングストッパとして機能できない。これにより、有機半導体層14が有機導電層9と同様にエッチングされやすいため、選択比が得られず、エッチング処理の進行を制御できない。この場合には、有機導電層9だけをエッチングしようとしても、エッチング処理が過剰に進行して有機半導体層14までエッチングされるため、電流の経路P1が狭まってしまう。よって、ソース電極7およびドレイン電極8と有機半導体層14とにおける電荷注入効率は有機導電層5,6により向上されるが、電流経路P1の狭窄に起因して有機TFTの性能が低下してしまう。
【0055】
これに対して、有機半導体層4が金属含有材料により形成されている本実施形態(図1)では、エッチングストッパとして機能する有機半導体層4により選択比が得られるため、その選択比を利用してエッチング処理の進行度を制御できる。この場合には、有機導電層9だけがエッチングされると共に、有機半導体層4はほとんどエッチングされずに残存するため、有機導電層5,6により電荷注入効率が向上すると共に、電流経路P1の確保により有機TFTの性能も維持される。よって、電荷注入効率の向上と電流経路P1の確保とを両立させることができるのである。
【0056】
<3.変形例>
図1では、有機TFTが有機導電層5,6に隣接すると共に金属含有材料により形成された有機半導体層4だけを備えているが、例えば、ゲート絶縁層3と有機半導体層4との間に1層または2層の以上の追加有機半導体層を備えていてもよい。
【0057】
有機半導体層4は、上記したように、エッチングストッパとして機能するために、金属含有材料により形成されていなければならない。これに対して、追加有機半導体層は、エッチングストッパとして機能する必要がないため、金属含有材料により形成されていてもよいし、非金属含有材料により形成されていてもよい。この追加有機半導体層の形成材料(金属含有材料または非金属含有材料)は、有機半導体層4および有機導電層5,6の形成材料と同様である。
【0058】
具体的には、例えば、図5に示したように、有機TFTは1層の追加有機半導体層11を備えていてもよい。この追加有機半導体層11の形成材料は、例えば、非金属含有材料であり、具体的には2,9−ジナフチル−ペリキサンテノキサンテンなどのペリキサンテノキサンテン化合物である。また、有機半導体層4の形成材料は、例えば、TES−アントラジチオフェンなどの金属含有材料である。有機半導体層4および追加有機半導体層11のそれぞれの厚さは、特に限定されないが、例えば、それぞれ20nmおよび30nmである。この場合においても、追加有機半導体層を備えていない場合(図1)と同様の作用および効果を得ることができる。もちろん、追加有機半導体層は、1層に限らず、2層以上でもよい。
【0059】
なお、追加有機半導体層11の形成材料が金属含有材料である場合には、有機半導体層4の形成材料と追加有機半導体層11の形成材料とは同じでもよいし、異なってもよい。このことは、両者の厚さについても同様である。ただし、例えば、金属含有材料により形成された有機半導体層4よりも、非金属含有材料により形成された追加有機半導体11を主要な電流の経路P1とするためには、前者の厚さを後者の厚さよりも小さくすることが好ましい。電流の経路P1を確保するためには追加有機半導体層11の厚さを十分に大きくする必要があるのに対して、有機半導体層4の厚さはエッチングストッパとして機能できる厚さであれば済むからである。
【0060】
また、図1では、有機TFTをトップコンタクト・ボトムゲート型にしたが、図6に示したように、トップコンタクト・トップゲート型にしてもよい。この有機TFTは、例えば、支持基体1の上に、有機半導体層4と、有機導電層5,6と、ソース電極7およびドレイン電極8と、ゲート絶縁層3と、ゲート電極2とがこの順に積層されたものである。この有機TFTの詳細な構成および製造方法は、上記したように各構成要素の積層順が異なることを除き、本実施形態と同様である。この場合においても、トップコンタクト・ボトムゲート型である場合(図1)と同様の作用が得られるため、同様の効果を得ることができる。
【0061】
<4.薄膜トランジスタの適用例(電子機器)>
次に、上記した薄膜トランジスタである有機TFTの適用例について説明する。この有機TFTは、例えば、以下で説明するように、いくつかの電子機器に適用可能である。
【0062】
<4−1.液晶表示装置>
有機TFTは、例えば、液晶表示装置に適用される。図7および図8は、それぞれ液晶表示装置の断面構成および回路構成を表している。なお、以下で説明する装置構成(図7)および回路構成(図8)はあくまで一例であるため、それらの構成は適宜変更可能である。
【0063】
ここで説明する液晶表示装置は、例えば、有機TFTを用いたアクティブマトリクス駆動方式の透過型液晶ディスプレイであり、その有機TFTは、スイッチング(画素選択)用の素子として用いられる。この液晶表示装置は、図7に示したように、駆動基板20と対向基板30との間に液晶層41が封入されたものである。
【0064】
駆動基板20は、例えば、支持基板21の一面に有機TFT22、平坦化絶縁層23および画素電極24がこの順に積層されると共に、有機TFT22および画素電極24がマトリクス状に配置されたものである。ただし、1画素内に含まれる有機TFT22の数は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。図7および図8では、例えば、1画素内に1つの有機TFT22が含まれる場合を示している。
【0065】
支持基板21は、例えば、ガラスまたはプラスチック材料などの透過性材料により形成されており、有機TFT22は、上記した有機TFTと同様の構成を有している。プラスチック材料の種類は、例えば、有機TFTについて説明した場合と同様であり、そのことは、以降で説明する場合においても同様である。平坦化絶縁層23は、例えば、ポリイミドなどの絶縁性樹脂材料により形成されており、画素電極24は、例えば、ITOなどの透過性導電性材料により形成されている。なお、画素電極24は、平坦化絶縁層23に設けられたコンタクトホール(図示せず)を通じて有機TFT22に接続されている。
【0066】
対向基板30は、例えば、支持基板31の一面に対向電極32が全面形成されたものである。支持基板31は、例えば、ガラスまたはプラスチック材料などの透過性材料により形成されており、対向電極32は、例えば、ITOなどの透過性導電性材料により形成されている。
【0067】
駆動基板20および対向基板30は、液晶層41を挟んで画素電極24と対向電極32とが対向するように配置されていると共に、シール材40により貼り合わされている。液晶層41に含まれる液晶分子の種類は、任意に選択可能である。
【0068】
この他、液晶表示装置は、例えば、位相差板、偏光板、配向膜およびバックライトユニットなどの他の構成要素(いずれも図示せず)を備えていてもよい。
【0069】
液晶表示装置を駆動させるための回路は、例えば、図8に示したように、有機TFT22および液晶表示素子44(画素電極24、対向電極32および液晶層41を含む素子部)と共に、キャパシタ45を含んでいる。この回路では、行方向に複数の信号線42が配列されていると共に列方向に複数の走査線43が配列されており、それらが交差する位置に有機TFT22、液晶表示素子44およびキャパシタ45が配置されている。有機TFT22におけるソース電極、ゲート電極およびドレイン電極の接続先は、図8に示した態様に限らず、任意に変更可能である。信号線42および走査線43は、それぞれ図示しない信号線駆動回路(データドライバ)および走査線駆動回路(走査ドライバ)に接続されている。
【0070】
この液晶表示装置では、有機TFT22により液晶表示素子44が選択され、その画素電極24と対向電極32との間に電界が印加されると、その電界強度に応じて液晶層41における液晶分子の配向状態が変化する。これにより、液晶分子の配向状態に応じて光の透過量(透過率)が制御されるため、階調画像が表示される。
【0071】
この液晶表示装置によれば、有機TFT22が上記した有機TFTと同様の構成を有しているので、ソース電極およびドレイン電極と有機半導体層とにおける電荷注入効率の向上と有機TFT22の性能の確保とが両立される。よって、表示性能を向上させることができる。なお、液晶表示装置は、透過型に限らずに反射型でもよい。
【0072】
<4−2.有機EL表示装置>
有機TFTは、例えば、有機EL表示装置に適用される。図9および図10は、それぞれ有機EL表示装置の断面構成および回路構成を表している。なお、以下で説明する装置構成(図9)および回路構成(図10)はあくまで一例であるため、それらの構成は適宜変更可能である。
【0073】
ここで説明する有機EL表示装置は、例えば、有機TFTをスイッチング用の素子として用いたアクティブマトリクス駆動方式の有機ELディスプレイである。この有機EL表示装置は、駆動基板50と対向基板60とが接着層70を介して貼り合わされたものであり、例えば、対向基板60を経由して光を放出するトップエミッション型である。
【0074】
駆動基板50は、例えば、支持基板51の一面に有機TFT52、保護層53、平坦化絶縁層54、画素分離絶縁層55、画素電極56、有機層57、対向電極58および保護層59がこの順に積層されたものである。有機TFT52、画素電極56および有機層57は、マトリクス状に配置されている。ただし、1画素内に含まれる有機TFT52の数は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。図9および図10では、例えば、1画素内に2つの有機TFT52(選択用TFT52Aおよび駆動用TFT52B)が含まれる場合を示している。
【0075】
支持基板51は、例えば、ガラスまたはプラスチック材料などにより形成されている。トップエミッション型では対向基板60から光が取り出されるため、支持基板51は、透過性材料または非透過性材料のいずれにより形成されていてもよい。有機TFT52は、上記した有機TFTと同様の構成を有しており、保護層53は、例えば、PVAまたはポリパラキシリレンなどの高分子材料により形成されている。平坦化絶縁層54および画素分離絶縁層55は、例えば、ポリイミドなどの絶縁性樹脂材料により形成されている。この画素分離絶縁層55は、例えば、形成工程を簡略化すると共に所望の形状に形成可能にするために、光パターニングまたはリフローなどにより成形可能な感光性樹脂材料により形成されていることが好ましい。なお、保護層53により十分な平坦性が得られていれば、平坦化絶縁層54は省略されてもよい。
【0076】
画素電極56は、例えば、アルミニウム、銀、チタンまたはクロムなどの反射性材料により形成されており、対向電極58は、例えば、ITOまたはIZOなどの透過性導電性材料により形成されている。ただし、カルシウム(Ca)などの透過性の金属材料またはその合金や、PEDOTなどの透過性の有機導電性材料により形成されていてもよい。有機層57は、例えば、赤色、緑色または青色などの光を発生させる発光層を含んでおり、必要に応じて正孔輸送層および電子輸送層などを含む積層構造を有していてもよい。発光層の形成材料は、発生させる光の色に応じて任意に選択可能である。画素電極56および有機層57は、画素分離絶縁層55により分離されながらマトリクス状に配置されているのに対して、対向電極58は、有機層57を介して画素電極56に対向しながら各画素を経由するように連続的に延在している。保護層59は、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、ポリパラキシリレンまたはウレタンなどの光透過性誘電材料により形成されている。なお、画素電極56は、保護層53および平坦化絶縁層54に設けられたコンタクトホール(図示せず)を通じて有機TFT52に接続されている。
【0077】
対向基板60は、例えば、支持基板61の一面にカラーフィルタ62が設けられたものである。支持基板61は、例えば、ガラスまたはブラスチック材料などの透過性材料により形成されており、カラーフィルタ62は、有機層57において発生した光の色に対応する複数の色領域を有している。ただし、カラーフィルタ62はなくてもよい。
【0078】
接着層70は、例えば、熱硬化型樹脂などの接着剤である。
【0079】
有機EL表示装置を駆動させるための回路は、例えば、図10に示したように、有機TFT52(選択用TFT52Aおよび駆動用TFT52B)および有機EL表示素子73(画素電極56、有機層57および対向電極58を含む素子部)と共に、キャパシタ74を含んでいる。この回路では、複数の信号線71および走査線72が交差する位置に、有機TFT52、有機EL表示素子73およびキャパシタ74が配置されている。選択用TFT52Aおよび駆動用TFT52Bにおけるソース電極、ゲート電極およびドレイン電極の接続先は、図10に示した態様に限らず、任意に変更可能である。
【0080】
この有機EL表示装置では、例えば、選択用TFT52Aにより有機EL表示素子73が選択されると、その有機EL表示素子73が駆動用TFT52Bにより駆動される。これにより、画素電極56と対向電極58との間に電界が印加されると、有機層57において光が発生する。この場合には、例えば、隣り合う3つの有機EL表示素子73において、それぞれ赤色、緑色または青色の光が発生する。これらの光の合成光が対向基板60を経由して外部へ放出されるため、階調画像が表示される。
【0081】
この有機EL表示装置によれば、有機TFT52が上記した有機TFTと同様の構成を有しているので、液晶表示装置と同様に表示性能を向上させることができる。
【0082】
なお、有機EL表示装置は、トップエミッション型に限らず、駆動基板50を経由して光を放出するボトムエミッション型でもよいし、駆動基板50および対向基板60の双方を経由して光を放出するデュアルエミッション型でもよい。この場合には、画素電極56および対向電極58のうち、光が放出される側の電極が透過性材料により形成され、光が放出されない側の電極が反射性材料により形成されることになる。
【0083】
<4−3.電子ペーパー表示装置>
有機TFTは、例えば、電子ペーパー表示装置に適用される。図11は、電子ペーパー表示装置の断面構成を表している。なお、以下で説明する装置構成(図11)および図8を参照して説明する回路構成はあくまで一例であるため、それらの構成は適宜変更可能である。
【0084】
ここで説明する電子ペーパー表示装置は、例えば、有機TFTをスイッチング用の素子として用いたアクティブマトリクス駆動方式の電子ペーパーディスプレイである。この電子ペーパー表示装置は、例えば、駆動基板80と電気泳動素子93を含む対向基板90とが接着層100を介して貼り合わされたものである。
【0085】
駆動基板80は、例えば、支持基板81の一面に有機TFT82、保護層83、平坦化絶縁層84および画素電極85がこの順に積層されると共に、有機TFT82および画素電極85がマトリクス状に配置されたものである。支持基板81は、例えば、ガラスまたはプラスチック材料などにより形成されており、有機TFT82は、上記した有機TFTと同様の構成を有している。保護層83および平坦化絶縁層84は、例えば、ポリイミドなどの絶縁性樹脂材料により形成されており、画素電極85は、例えば、銀などの金属材料により形成されている。なお、画素電極85は、保護層83および平坦化絶縁層84に設けられたコンタクトホール(図示せず)を通じて有機TFT82に接続されている。また、保護層83により十分な平坦性が得られていれば、平坦化絶縁層84は省略されてもよい。
【0086】
対向基板90は、例えば、支持基板91の一面に対向電極92および電気泳動素子93がこの順に積層されると共に、その対向電極92が全面形成されたものである。支持基板91は、例えば、ガラスまたはプラスチック材料などの透過性材料により形成されており、対向電極92は、例えば、ITOなどの透過性導電性材料により形成されている。電気泳動素子93は、電気泳動現象を利用してコントラストを生じさせるものであり、その構成は任意である。
【0087】
この他、電子ペーパー表示装置は、例えば、カラーフィルタなどの他の構成要素(図示せず)を備えていてもよい。
【0088】
電子ペーパー表示装置を駆動させるための回路は、例えば、図8に示した液晶表示装置の回路と同様の構成を有している。電子ペーパー表示装置の回路は、有機TFT22および液晶表示素子44の代わりに、それぞれ有機TFT82および電子ペーパー表示素子(画素電極85、対向電極92および電気泳動素子93を含む素子部)を含んでいる。
【0089】
この電子ペーパー表示装置では、有機TFT82により電子ペーパー表示素子が選択され、その画素電極85と対向電極92との間に電界が印加されると、その電界に応じて電気泳動素子93においてコントラストが生じるため、階調画像が表示される。
【0090】
この電子ペーパー表示装置によれば、有機TFT82が上記した有機TFTと同様の構成を有しているので、液晶表示装置と同様に表示性能を向上させることができる。
【0091】
以上、実施形態を挙げて本技術を説明したが、本技術は実施形態で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本技術の薄膜トランジスタが適用される電子機器は、液晶表示装置、有機EL表示装置または電子ペーパー表示装置に限らず、他の表示装置でもよい。このような他の表示装置としては、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)表示部(MEMS型ディスプレイ)などが挙げられる。この場合においても、表示性能を向上させることができる。
【0092】
また、例えば、本技術の薄膜トランジスタは、表示装置以外の他の電子機器に適用されてもよい。このような電子機器としては、例えば、センサマトリクス、メモリセンサ、RFIDタグ(Radio Frequency Identification)またはセンサアレイなどが挙げられる。この場合においても、性能向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0093】
1…支持基体、2…ゲート電極、3…ゲート絶縁層、4…有機半導体層、5,6,9…有機導電層、7…ソース電極、8…ドレイン電極、10…反応物、P1…電流経路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含む金属含有材料により形成された有機半導体層と、
互いに離間されたソース電極およびドレイン電極と、
前記有機半導体層と前記ソース電極およびドレイン電極とが重なる領域において前記有機半導体層と前記ソース電極およびドレイン電極との間に挿入され、前記エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含まない非金属含有材料により形成された有機導電層とを備えた、
薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記エッチングガスは酸素(O2 )およびハロゲンのうちの少なくとも1種の活性ガスを含み、
前記金属元素および非金属元素はベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、スズ(Sn)、バリウム(Ba)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、水銀(Hg)、タリウム(Tl)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、ポロニウム(Po)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)およびテルル(Te)のうちの少なくとも1種である、
請求項1記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記金属含有材料は、前記金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含む基を有する有機半導体材料であり、
前記非金属含有材料は、前記金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含まない有機導電性材料または有機半導体材料である、
請求項1記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記エッチングガスは酸素を含み、
前記金属含有材料はケイ素(Si)を構成元素として含み、
前記非金属含有材料はケイ素を構成元素として含まない、
請求項1記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記有機導電層は、前記ソース電極およびドレイン電極と前記有機半導体層との電荷注入効率を向上させるためのホール注入層である、請求項1記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含む金属含有材料を用いて、有機半導体層を形成し、
前記有機半導体層の上に、前記エッチングガスと反応可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも一方を含まない非金属含有材料を用いて、有機導電層を形成し、
前記有機導電層の上に、互いに離間されたソース電極およびドレイン電極を形成し、
前記エッチングガスを用いて、前記ソース電極およびドレイン電極をマスクとして前記有機導電層をエッチングする、
薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記請求項1ないし請求項5に記載した薄膜トランジスタを用いた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−4564(P2013−4564A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131103(P2011−131103)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】