説明

車両の制御装置

【課題】走行路面の傾斜に起因して生じる車両の走行速度の変動を打ち消す制振制御が実行される車両において、排気が還流されることにより内燃機関の燃焼状態が不安定になることを抑制することのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】
排気還流装置44と車両の走行速度SPDを検出する走行速度センサ46とが備えられた車両において、走行路面の傾斜に起因して生じる車両の走行速度SPDの変動を打ち消すように走行速度センサ46の検出結果に基づいてスロットルバルブ34の開度であるスロットル開度θを制御する制振制御が実行されるときには、排気還流弁43を全閉状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行においては、走行路面の傾斜に起因して、車両の走行速度が所望の走行速度に対してわずかに変動することがある。すなわち、走行路面が登坂路であるときには車両の走行速度は一時的に低下する一方、走行路面が降坂路であるときには車両の走行速度は一時的に上昇するようになる。
【0003】
そこで、近年、こうした走行路面の傾斜に起因する車両の走行速度のわずかな変動を打ち消すように、換言すれば車両前後方向の振動を打ち消すように内燃機関の出力を制御する制御、いわゆる制振制御が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この制振制御では、車両の走行速度が走行路面の傾斜に応じて一時的に低下したときには内燃機関の出力を増大させる一方、この走行速度が走行路面の傾斜に応じて一時的に上昇したときには内燃機関の出力を減少させるようにしている。また、このような制振制御において実行される内燃機関の出力の制御は、走行路面の状況に応じて変化する車両の走行速度のわずかな変動を打ち消すように内燃機関の出力を変化させるものであるため、この制振制御の実行中は内燃機関の燃焼状態が頻繁に変化するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59―23037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、内燃機関には、燃焼室から排出された排気の一部を排気還流通路を通じて燃焼室に還流させる排気還流装置が設けられている。こうした排気還流装置による排気の還流を行うことにより、スロットルバルブの開度を大きくしてポンピングロスを低下させることができ、燃費の向上を図ることができるようになる。ただし、このように排気の還流を行っているときに、内燃機関の燃焼状態が変化して排気性状が変化すると、この排気性状の変化は所定の応答遅れをもって燃焼状態に影響を与えることとなる。特に、排気は、吸入空気と比較してその比重が大きいため、こうした応答遅れが顕著になる。
【0006】
このため、上述のように内燃機関の燃焼状態が頻繁に変化する制振制御の実行中に排気が還流されると、この還流された排気の影響によって内燃機関の出力を車両の走行速度の変動に応じてきめ細かく制御することは困難なものとなり、空燃比の変動や失火が生じる等、燃焼状態の不安定化を招くこととなる。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、走行路面の傾斜に起因して生じる車両の走行速度の変動を打ち消す制振制御が実行される車両において、排気が還流されることにより内燃機関の燃焼状態が不安定になることを抑制することのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の吸気通路と排気通路とに接続されて前記吸気通路に排気の一部を還流させる排気還流通路及び同排気還流通路に設けられて同排気還流通路の流路断面積を調節する排気還流弁を備える排気還流装置と、車両の走行速度を検出する走行速度検出手段とを有し、走行路面の傾斜に起因して生じる車両の走行速度の変動を打ち消すように同走行速度検出手段の検出結果に基づいて内燃機関の出力を制御する制振制御を実行する車両の制御装置において、前記制振制御が実行されるときには、前記排気還流弁を全閉状態とすることを要旨とする。
【0009】
同構成によれば、内燃機関の燃焼状態が頻繁に変化する制振制御の実行中には、燃焼室への排気の還流が停止されるため、燃焼室から排出される排気の排気性状が変化したときであっても、これの燃焼状態への影響を抑制することができるようになる。したがって、走行路面の傾斜に起因して生じる車両の走行速度の変動を打ち消す制振制御が実行される車両において、排気が還流されることにより内燃機関の燃焼状態が不安定になることを抑制することができるようになる。
【0010】
例えば、請求項2に記載の発明によるように、車両の走行速度を自動的に制御する自動走行制御が実行されたときに制振制御を行うことにより、車両の走行速度をよりきめ細かく制御することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の車両の制御装置において、前記制振制御では、スロットルバルブの開度を制御することによって内燃機関の出力が制御されることを要旨とする。
【0012】
スロットルバルブの開度を制御することによって内燃機関の出力を制御して制振制御を実行する場合には、吸入空気量がそのときの車両の走行速度の変動に応じて精密に制御されることになる。しかしながら、上述したように応答遅れによりその都度性状の異なる排気が還流されると、吸入空気量を精密に制御したとしても、その還流される排気の影響により内燃機関の出力は吸入空気量の変化に追従しなくなる。この点、同構成によれば、スロットルバルブの開度の制御を通じて内燃機関の出力を制御する車両において、制振制御を実行する際には、排気還流弁が全閉状態となるようにしているため、このような排気の影響を抑制することができる。
【0013】
また、自動走行制御は、例えば請求項4に記載の発明によるように、車両の走行速度が一定の速度となるように内燃機関の出力を自動的に制御する構成や、請求項5に記載の発明によるように、同車両と先行車両との車間距離が一定に保持されるように、同車両と先行車両との車間距離が所定距離よりも大きいときには内燃機関の出力を増大させる一方、この距離が前記所定距離よりも小さいときには内燃機関の出力を減少させるようにこれを自動的に制御する構成をもって具体化することができる。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両の制御装置において、前記排気還流弁の開度を検出する検出手段を有し、前記制振制御の実行に伴って前記排気還流弁を全閉状態とするときに、前記検出手段により検出される排気還流弁の開度に基づいて同排気還流弁が全閉状態とならない異常が前記排気還流装置に生じているか否かを判定する異常診断手段をさらに実行することを要旨とする。
【0015】
燃焼室から排出された排気が吸気通路を通じて燃焼室へ還流されるときには、こうした排気の還流の非実行時と比較してスロットルバルブの開度が大きくなるため、ポンピングロスを低減させることができるようになる。内燃機関の運転時には、多くの場合、このようなポンピングロスの低減を目的として、排気還流弁は開弁状態とされているため、排気還流弁が全閉状態とされる機会は少ないものとなっている。このため、通常運転時に排気還流弁に異常が生じているか否かを判定する異常診断を行うためには、排気還流弁を全閉状態とする期間を別途設定する必要がある。この点、同構成によれば通常運転時に排気還流弁を全閉状態とする期間を別途設定することなく、排気還流弁の異常診断を実行することができるようになる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の車両の制御装置において、前記異常診断手段により前記排気還流装置の異常が検出されるときに前記制振制御の実行を禁止する禁止手段を備えることを要旨とする。
【0017】
同構成によれば、制振制御が実行されるときに、排気還流装置の異常に起因して排気が燃焼室に還流され、燃焼状態が悪化することを抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態にかかる内燃機関及びその制御装置についての全体構成を示した模式図。
【図2】本実施の形態にかかるスロットル開度制御処理についてその処理手順を示すフローチャート。
【図3】本実施の形態にかかる車両の走行速度及びスロットル開度の補正量の時間変化を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明にかかる車両の制御装置を具体化した一実施の形態について図1〜図3を参照して説明する。
同図1は、排気還流装置44を備えた内燃機関の概略構成を示している。内燃機関の気筒11にはピストン12が往復動可能に収容されている。このピストン12の上方に形成された燃焼室16には吸気通路32及び排気通路33が連通している。内燃機関の運転時には、機関運転状態に応じて調量された吸入空気と燃料噴射弁15から噴射された燃料とが燃焼室16内に導入され、混合気となる。この混合気は、点火プラグ14によって点火され、燃焼に供される。この燃焼によって生じた排気は排気通路33を通じて排出される。こうした燃焼に伴うピストン12の上下運動によってクランクシャフト13が回転される。燃焼室16と吸気通路32との連通部分及び燃焼室16と排気通路33との連通部分はそれぞれ吸気バルブ17及び排気バルブ18によって開閉される。そして、吸気バルブ17及び排気バルブ18にはそれらの駆動態様を変更する可変動弁機構50,51がそれぞれ設けられている。なお、吸気バルブ17及び排気バルブ18は、これら可変動弁機構50,51によってその駆動態様が、所定のリフトプロフィールをもって変更される。
【0020】
また、吸気通路32にはモータ34aにより開閉駆動されるスロットルバルブ34が設けられており、このスロットルバルブ34の開度(以下、スロットル開度θとする)が制御されることにより、燃焼室16に導入される吸入空気の量が調量される。そして、この吸入空気量、換言すればスロットル開度θの制御を通じて内燃機関の出力が制御される。
【0021】
また、この内燃機関には、排気通路33の排気を吸気通路32へ還流して排気還流を実行するための排気還流装置44が設けられている。すなわち、排気通路33から分岐した排気還流通路42が吸気通路32のスロットルバルブ34の下流側に接続されている。この排気還流通路42の途中には、排気還流弁43が配設され、この排気還流弁43の開度に応じて排気還流通路42を還流する排気の流量が調節される。このように、スロットルバルブ34が吸気通路32に設けられる内燃機関にあっては、排気還流の実行時には、非実行時と比較してスロットル開度θを大きくしてポンピングロスを低減させることができるようになる。これにより、燃費の向上を図ることができるようになる。
【0022】
これら燃料噴射弁15、排気還流弁43及びモータ34aは電子制御装置92に電気的に接続され、電子制御装置92の作動により駆動タイミング等が制御される。そして、電子制御装置92には、車両の走行速度SPDを検出するための走行速度センサ46、排気還流弁43のリフト量を検出する排気還流弁リフト量センサ45など各種センサが接続されている。また、電子制御装置92には排気還流装置44の異常を報知するための警告灯48が接続されている。
【0023】
電子制御装置92は、これら各種センサからの検出信号に基づいて内燃機関の各種制御を行う。こうした各種制御には、点火プラグ14による混合気の点火時期を制御する点火時期制御、燃料噴射弁15から噴射供給する燃料の量や時期を制御する燃料噴射制御、スロットル開度θを制御するスロットル開度制御、可変動弁機構50,51により吸気バルブ17及び排気バルブ18のリフト量を制御する可変動弁機構制御等がある。
【0024】
また、電子制御装置92には、車両の走行速度SPDが一定の速度となるように内燃機関の出力を自動的に制御するクルーズコントロールを実行するためのスイッチであるクルーズコントロールスイッチ47が接続されている。本実施の形態では、運転者の選択によってクルーズコントロールスイッチ47が「ON」操作されてクルーズコントロールが実行されると、これに伴って制振制御が実行されるとともに、排気還流弁43が全閉状態とされる。以下、図2及び3にしたがって、この一連の処理について説明する。
【0025】
同図2に示されるように、この処理が開始されると、まず、クルーズコントロールスイッチ47が「ON」操作されているか否かが判断される(ステップS101)。クルーズコントロールスイッチ47が「ON」操作されていないとき(ステップS101:NO)には、この処理は一旦終了する。
【0026】
一方、クルーズコントロールスイッチ47が「ON」操作されているとき(ステップS101:YES)には、目標走行速度が設定されて、車両の走行速度SPDがこの目標走行速度と一致するようにスロットル開度θが制御されるクルーズコントロールが実行される(ステップS102)。
【0027】
具体的には、まず走行速度センサ46によって車両の走行速度SPDが検出される。実際の車両走行において、車両の走行速度SPDは、図3(a)に実線で示されるように走行路面の傾斜に起因して一時的に上昇したり、低下したりする。そこで、この検出された車両の走行速度SPDに対して重み付け平均処理などのフィルタリング処理が行われて、車両の走行速度SPDの平均走行速度SPD1が算出される。この平均走行速度SPD1は、車両の走行速度SPDの僅かな変動を除いた走行速度であり、車両の走行速度SPDをローパスフィルタにて濾波した値である。このように算出された平均走行速度SPD1を図3(a)に一点鎖線で示す。
【0028】
そして、以下に述べるように、この平均走行速度SPD1が目標走行速度と一致するようにスロットル開度θが制御される。すなわち、まず、平均走行速度SPD1と目標走行速度との偏差ΔSPD1が算出される。次に、この偏差ΔSPD1に応じて目標とするスロットル開度θがF(ΔSPD1)として算出される。なお、「F(ΔSPD1)」は平均走行速度SPD1と目標走行速度との偏差ΔSPD1を引数とする関数を示す。
【0029】
このF(ΔSPD1)は、例えば図3(a)のタイミングT1におけるように、平均走行速度SPD1が目標走行速度よりも小さいときには、この平均走行速度SPD1が小さいときほど大きくなるように設定される。すなわち、平均走行速度SPD1が目標走行速度に対して小さいときほど、内燃機関の出力が大きくなるようにF(ΔSPD1)が設定される。一方、平均走行速度SPD1が目標走行速度よりも大きいときには、この平均走行速度SPD1が大きいときほど小さくなるように設定される。すなわち、このときは平均走行速度SPD1が目標走行速度に対して大きいときほど、内燃機関の出力が小さくなるように、F(ΔSPD1)が設定される。このようにΔSPD1に応じて、平均走行速度SPD1が目標走行速度と一致するようにスロットル開度θ、すなわち内燃機関の出力が制御される。
【0030】
次に、排気還流弁43が全閉状態とされる(ステップS103)。そして、排気還流弁43に接続された排気還流弁リフト量センサ45によって排気還流弁43のリフト量が検出される(ステップS104)。
【0031】
そして、排気還流弁43のリフト量が「0」であるか否かが判断される(ステップS105)。排気還流弁43のリフト量が「0」でないとき(ステップS105:NO)には、排気還流弁43に異常が生じていると判断されて、排気還流弁43に異常が生じている旨が警告灯48を点灯することにより運転者に報知される(ステップS106)。
【0032】
一方、排気還流弁43のリフト量が「0」であるとき(ステップS105:YES)には、車両前後方向の振動を打ち消すようにF(ΔSPD1)を補正する制御、すなわち制振制御が実行される(ステップS107)。
【0033】
具体的には、まず、図3(a)に示されるように、実際の走行速度SPDから平均走行速度SPD1を減算した値である車両の走行速度変動量ΔSPD2が算出される。この車両の走行速度変動量ΔSPD2の推移を図3(b)に示す。次に、この車両の走行速度変動量ΔSPD2に基づいて、スロットル開度補正量G(ΔSPD2)が設定される。なお、「G(ΔSPD2)」は走行速度変動量ΔSPD2を引数とする関数を示す。
【0034】
このスロットル開度補正量G(ΔSPD2)は、図3(c)に実線で示されるように、車両の走行速度変動量ΔSPD2が正の値であるとき、すなわち車両の走行速度SPDが一時的に上昇したときには、F(ΔSPD1)を減少させるように、負の値に設定される。さらに、この車両の走行速度変動量ΔSPD2が大きいほど小さくなるように設定される(例えば、タイミングT1)。一方、車両の走行速度変動量ΔSPD2が負の値であるとき、すなわち車両の走行速度SPDが一時的に低下したときには、スロットル開度補正量G(ΔSPD2)は、F(ΔSPD1)を増加させるように、正の値に設定される。さらに、この車両の走行速度変動量ΔSPD2が大きいときほど大きくなるように設定される(例えば、タイミングT2)。このように、車両の走行速度変動量ΔSPD2に応じて、車両の走行速度SPDが平均走行速度SPD1に近づくようにスロットル開度補正量G(ΔSPD2)が設定される。
【0035】
ところで、このようにスロットル開度θを制御することによって制振制御を実行する場合には、吸入空気量がそのときの車両の走行速度SPDの変動に応じて精密に制御されることになる。しかしながら、スロットル開度θの制御の結果が実際に燃焼室16に流入される吸入空気量に反映されるまでには、スロットルバルブ34から燃焼室16までの吸入空気の移動時間などによる若干の応答遅れがある。こうした吸入空気量の応答遅れが存在する場合、車両の走行速度SPDにそのまま基づく補正を行っても、実際の内燃機関の出力は、本来必要される量よりも若干遅れて変化するようになる。そこで、本実施の形態においては、応答遅れ時間Tを加味してスロットル開度補正量G(ΔSPD2)を補正するようにしている。すなわち、図3(c)に一点鎖線で示されるように、吸入空気量の応答遅れに対応した時間分を補償するように、応答遅れ時間Tだけ早く推移するようにスロットル開度補正量G(ΔSPD2)を補正して、これをG(ΔSPD2,応答遅れ時間T)として算出するようにしている。
【0036】
そして、次式(1)のように、F(ΔSPD1)をG(ΔSPD2,応答遅れ時間T)によって補正することにより、スロットル開度θが算出される。

θ=F(ΔSPD1)+G(ΔSPD2,応答遅れ時間T)…(1)

このような処理を実行することによって、クルーズコントロールが実行される際に、走行路面の傾斜に起因する車両の走行速度SPDのわずかな変動を抑制することができるようになる。
【0037】
また、排気還流弁43のリフト量が「0」でないとき(ステップS105:NO)には、このような制振制御は実行されずに(ステップS108)、この処理は終了する。
制振制御が実行されると、吸入空気量はそのときの車両の走行速度SPDの変動に応じて精密に制御されることになる。このため、排気還流弁43の異常に起因して、排気還流弁43を全閉状態としたにもかかわらず、排気が燃焼室16に還流されてしまうおそれのあるときに制振制御を実行すると、応答遅れによりその都度性状の異なる排気が還流されてしまい、燃焼状態が不安定になるおそれがある。そこで、排気還流弁43に異常が生じているときには、制振制御を実行しないようにして、このような燃焼状態の不安定化を抑制するようにしている。
【0038】
以上説明した本実施形態によれば、以下に記載する作用効果を奏することができるようになる。
(1)本実施の形態によれば、内燃機関の燃焼状態が頻繁に変化する制振制御の実行中には、燃焼室16への排気の還流が停止されるため、燃焼室16から排出された排気が燃焼状態に影響を与えることを抑制することができるようになる。したがって、車両の走行速度SPDを自動的に制御するクルーズコントロールと車両の走行速度SPDの変動を打ち消す制振制御とが併せて実行される車両において、排気還流の実行に起因して内燃機関の燃焼状態が不安定になることを抑制することができるようになる。
【0039】
(2)スロットル開度θを制御することによって制振制御を実行する場合には、吸入空気量がそのときの車両の走行速度SPDの変動に応じて精密に制御されることになる。ところで、排気の還流を行っているときに、内燃機関の燃焼状態が変化して排気性状が変化すると、この排気性状の変化が所定の応答遅れをもって燃焼状態に影響を与えることとなる。そして、このような応答遅れによりその都度性状の異なる排気が還流されると、吸入空気量を精密に制御したとしても、その還流される排気の影響により内燃機関の出力は吸入空気量の変化に追従しなくなる。この点、本実施の形態によれば、スロットル開度θの制御を通じて内燃機関の出力を制御する車両において、制振制御を実行する際には、排気還流弁43が全閉状態となるようにしているため、このような排気の影響を抑制することができるようになる。
【0040】
(3)燃焼室16から排出された排気が吸気通路32を通じて燃焼室16へ還流されるときには、こうした排気の還流の非実行時と比較してスロットル開度θが大きくなるため、ポンピングロスを低減させることができるようになる。内燃機関の運転時には、多くの場合、このようなポンピングロスの低減を目的として、排気還流弁43は開弁状態とされているため、排気還流弁43が全閉状態とされる機会は少ないものとなっている。このため、通常運転時に排気還流弁43に異常が生じているか否かを判定する異常診断を行うためには、排気還流弁43を全閉状態とする期間を別途設定する必要がある。この点、本実施の形態によれば通常運転時に排気還流弁43を全閉状態とする期間を別途設定することなく、排気還流弁43の異常診断を実行することができるようになる。
【0041】
(4)本実施の形態によれば、排気還流弁43の異常が検出されたときには制振制御が実行されないため、排気還流弁43の異常によって排気が燃焼室16に還流されてしまうことに起因する燃焼状態の悪化を抑制することができるようになる。
【0042】
なお、以上説明した実施形態は次のようにその形態を適宜変更した態様にて実施することができる。
・上記実施の形態においては、クルーズコントロール(定速走行制御)を実行するときに制振制御を実行するようにしたが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、自車と先行車両との車間距離が一定の所定距離に保持されるように内燃機関の出力を自動的に制御する先行車車間制御が実行されることを条件として、制振制御を実行するようにしてもよい。先行車車間制御が実行されると、自車と先行車両との車間距離が所定距離よりも大きいときにはF(ΔSPD1)は大きくなるように設定される一方、自車と先行車両との車間距離が所定距離よりも小さいときにはF(ΔSPD1)は小さくなるように設定される。本実施の形態においても、上記作用効果に準じた作用効果を奏することができるようになる。
【0043】
・上記実施の形態においては、スロットル開度θを制御することによって内燃機関の出力を制御するようにしたが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、内燃機関の出力を大きくする必要のあるときには燃料噴射量を増量させる一方、内燃機関の出力を小さくするときには燃料噴射量を減少させるようにしてもよい。本実施の形態においても、上記(1)、(3)及び(4)に準じた作用効果を奏することができるようになる。また、可変動弁機構50,51の最大リフト量の変更を通じて吸入空気量を制御することによって、内燃機関の出力を制御するようにしてもよい。本実施の形態においても、上記(1)、(3)及び(4)に準じた作用効果を奏することができるようになる。また、点火プラグ14による混合気の点火時期を制御することによっても内燃機関の出力を制御することができる。本実施の形態においても、上記(1)、(3)及び(4)に準じた作用効果を奏することができるようになる。
【0044】
・上記実施の形態においては、定速走行制御や先行車車間制御が行われるときに制振制御を実行するようにしたが、本発明はこれに限られるものではなく、運転者の要求に基づいて車両の走行速度SPDを制御する際に前記制振制御を実行するようにしてもよい。本実施の形態においても、上記(2)〜(4)に準じた作用効果を奏することができるようになる。
【0045】
・上記実施の形態においては、クルーズコントロールの実行に併せて制振制御を実行するときに排気還流弁43の異常を診断するようにしたが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、排気還流弁43の異常を診断するために排気還流弁43を強制的に全閉状態にする期間を別途設定するようにしてもよい。本実施の形態においても、上記(4)に準じた作用効果を奏することができるようになる。
【符号の説明】
【0046】
11…気筒、12…ピストン、13…クランクシャフト、14…点火プラグ、15…燃焼噴射弁、16…燃焼室、17…吸気バルブ、18…排気バルブ、32…吸気通路、33…排気通路、34…スロットルバルブ、34a…モータ、42…排気還流通路、43…排気還流弁、44…排気還流装置、45…排気還流弁リフト量センサ(診断手段)、46…走行速度センサ(走行速度検出手段)、47…クルーズコントロールスイッチ、48…警告灯、50…可変動弁機構、51…可変動弁機構、92…電子制御装置(走行速度検出手段、診断手段、禁止手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路と排気通路とに接続されて前記吸気通路に排気の一部を還流させる排気還流通路及び同排気還流通路に設けられて同排気還流通路の流路断面積を調節する排気還流弁を備える排気還流装置と、車両の走行速度を検出する走行速度検出手段とを有し、走行路面の傾斜に起因して生じる車両の走行速度の変動を打ち消すように同走行速度検出手段の検出結果に基づいて内燃機関の出力を制御する制振制御を実行する車両の制御装置において、
前記制振制御が実行されるときには、前記排気還流弁を全閉状態とする
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記制振制御は、車両の走行速度を自動的に制御する自動走行制御が実行されたときに行われる
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の制御装置において、
前記制振制御では、スロットルバルブの開度を制御することによって内燃機関の出力が制御される
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の車両の制御装置において、
前記自動走行制御では、車両の走行速度が一定の速度となるように内燃機関の出力を自動的に制御する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項2または3に記載の車両の制御装置において、
前記自動走行制御では、同車両と先行車両との車間距離が一定に保持されるように、同車両と先行車両との車間距離が所定距離よりも大きいときには内燃機関の出力を増大させる一方、この距離が前記所定距離よりも小さいときには内燃機関の出力を減少させるようにこれを自動的に制御する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両の制御装置において、
前記排気還流弁の開度を検出する検出手段を有し、前記制振制御の実行に伴って前記排気還流弁を全閉状態とするときに、前記検出手段により検出される排気還流弁の開度に基づいて同排気還流弁が全閉状態とならない異常が前記排気還流装置に生じているか否かを判定する異常診断手段をさらに実行する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両の制御装置において、
前記異常診断手段により前記排気還流装置の異常が検出されるときに前記制振制御の実行を禁止する禁止手段を備える
ことを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−17295(P2011−17295A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162890(P2009−162890)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】