説明

車両の横方向ダイナミクスを制御するための方法及び装置

本発明は、車両(1)の横方向ダイナミクスを制御するための方法、及び車両(1)のための横方向ダイナミクス制御装置に関する。操作条件が満たされた場合には、シャーシ操作が実行される。この操作条件が満たされるのは、測定された横方向ダイナミクス外乱変数の絶対値が、外乱変数限界値よりも大きいときであり、また、下記の諸基準の中の1つ、又は下記の諸基準の中の複数の基準が満たされているときである。
− 車両縦方向速度が車両縦方向速度限界値よりも大きい、
− センサによって測定された実測ヨーレイトが、算出された現在のヨーレイト以下である、
− 運転者によって制動を通して引き起された、ブレーキトルク値を表しているブレーキトルクが、ブレーキトルク限界値以下である、
− 車両ホイールのシャーシスプリングにおける現在のスプリングのたわみを表すスプリングたわみ値が、スプリングたわみ限界値以下である、
− 2つのシャーシスプリングにおける現在のスプリングたわみの差を表すスプリングたわみ差異値が、スプリングたわみ差異限界値以下である、
− 2つの車両ホイールの間のスキッド差を表すスキッド差値が、スキッド差限界値以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の、特に自動車の横方向ダイナミクスを制御するための方法及び横方向ダイナミクス制御装置に関するものであり、車両及び特にボディに作用する横方向ダイナミクス外乱変数は、外乱変数測定装置を用いて測定され、シャーシ操作、特にブレーキ操作が引き起される。
【0002】
さらに本発明は、車両及び特にボディに作用する横方向ダイナミクス外乱変数を測定するための外乱変数測定装置を備えた、車両、特に自動車のための横方向ダイナミクス制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
車両、特に自動車を運転する際の走行安全性を改善するためには、車両の横方向ダイナミクスに対する突然の影響又は悪影響が発生した場合に、運転者をサポートすることが望ましい。車両の横方向ダイナミクスに対するそのような悪影響は、特に横風突風に関連した強い横風によって発生する。
【0004】
特許文献1によって、自動車の横方向ダイナミクスを制御するための、パラレルドライブ・コントロールシステムの形をとった装置が公知である。その場合には、パラレルドライブ中に、ガイド装置との間隔が測定され、たとえば横風によって間隔が変化した場合には、ブレーキ作動によって進行方向の修正が行われる。この場合には、前述の装置が前記の案内装置の取り付けられている場合にだけ使用可能であるということが、特に不利な点と見なすことができる。
【0005】
さらにまた、特許文献2からは、車両の横方向ダイナミクスを制御するための方法及び装置が公知であり、この方法またはこの装置においては、横方向ダイナミクスに対する障害が確認された場合には、少なくとも1つの車両ホイールのホイール接地力を変化させることによって、対応がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第4014365A1号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/037678A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、冒頭にそれぞれ述べられた方法及び装置に基づき、様々な走行状況のもとで走行安全性の向上が達成されるような、方法若しくは装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、請求項1に基づく方法、及び、請求項13に基づく横方向ダイナミクス制御装置を用いて解決される。
【0009】
本発明に基づいて、車両の運転者は、車両の横方向ダイナミクスが突然に影響を受けたときでも、制御不能となるおそれのあるステアリングの操作によって対応する必要がなくなるばかりか、その影響は自動的に補償若しくは修正されることになり、走行安全性が高められることになる。さらに、このことは、本発明に基づいて、前述のガイド装置のような特定の外的装置に依存することなく行われる。しかも、シャーシ操作は、操作条件が満たされたときにのみ作動される。このような方法で、シャーシ操作、特にブレーキ操作が、走行安全性を高める効果を何一つ排除することのない走行状況が成立する。走行安全性を低めると思われるようなシャーシ操作は、実行されない。下記の諸基準の中のいずれか一つ、又は下記諸基準の中の複数の基準が満たされた時、操作条件が満たされる。
− 測定された横方向ダイナミクス外乱変数の絶対値が、外乱変数限界値よりも大きく、それによって横方向ダイナミクスへの軽微な影響に際してブレーキ操作が回避される
− 車両縦方向速度が、車両縦方向速度限界値よりも大きく、そのことによって、車両縦方向速度が小さく危機的ではない状況では、ブレーキ操作が避けられることができ、
− センサによって測定された実測ヨーレイトが、たとえば実測横方向加速値に基づいて算定された現在のヨーレイトよりも小さいか、又はこれに等しい大きさであり、その結果、発生しているヨーレイト若しくは横方向加速値が、主として横方向ダイナミクス外乱変数によって引き起こされたのではない状況では、不必要なブレーキ操作が避けられることができ、
− 運転者による制動を通して引き起こされた、ブレーキトルクを表すブレーキトルク値が、ブレーキトルク限界値よりも小さいか、又はこれに等しい大きさであり、その結果、たとえば急ブレーキ動作若しくはフルブレーキ動作のような、大きなブレーキトルクを備えたブレーキ動作の場合に、自動的な一方だけのブレーキ操作が避けられ、
− 1つの車両ホイールのシャーシスプリングにおける現在のスプリングのたわみを表すスプリングたわみ値が、スプリングたわみ限界値よりも小さいか又は同じ大きさであり、
− 両方のシャーシスプリングにおける現在のスプリングのたわみの差を表すスプリングたわみの差異値が、スプリングたわみ差異の限界値よりも小さいか、又はこれに等しい大きさであり、
− 2つの車両ホイールの間のスキッドの差を表すスキッド差の値がスキッド差の限界値よりも小さいか、又はこれに等しい大きさである。
【0010】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項に示されている。
【0011】
有利には、操舵角の絶対値が操舵角限界値よりも小さいか、又はこれに等しい大きさであり、及び/又は、操舵角速度が操舵角速度限界値よりも小さいか、又はこれに等しい大きさであるときだけ操作条件が満たされる。これによって、運転者が積極的にステアリングホイールを回転させる場合には、走行安全性を危険にさらさないために、シャーシ操作を避けることができる。
【0012】
さらに、定常横方向加速度の絶対値が横方向加速度限界値よりも小さいか、又はこれに等しい大きさであるときだけ操作条件が満たされるようにすることもできる。このような方法で、たとえば適宜に小さな曲率半径を有するカーブを走り抜ける場合のような、積極的な操縦による走行の場合に、シャーシ操作を避けることができる。このようにして、縦方向速度に応じた操舵角制限が達成される。
【0013】
外乱変数測定装置を用いて、車両のボディに作用する横風を検知し、車両の横方向ダイナミクスに対する影響を、シャーシ操作によって少なくとも部分的に補償することによって、横風発生時の走行安全性を高めることも可能である。
【0014】
シャーシ操作は、
− 1つ又は複数のホイールにおけるブレーキ操作であることができ、及び/又は
− 1つ又は複数のホイールにおけるホイール接地力の制御であることができ、及び/又は
− パワーステアリングのサーボモータのサーボモータトルクの制御であることができ、及び/又は
− 1つ又は複数のホイールにおける1つ又は複数のホイール駆動モーメントの変更であることができる。
【0015】
さらに、1つの操作決定値(干渉決定値)を算出することができ、この操作決定値によって、横方向ダイナミクス外乱変数の絶対値、又は横方向ダイナミクス外乱変数に基づいて測定された、横方向での影響の補償のために調整されるべきヨーイングモーメントの絶対値、又は、これらの2つの値の1つに関連したその他の値が表される。その場合に、操作決定値の絶対値が下方限界値を下回るときは、ホイールの中の1つだけ、特に、操縦可能ではないホイールの中の1つだけを、それぞれに配置されたブレーキ装置を介して制動することが可能である。操作決定値の絶対値が下方限界値よりも大きいか、又はこれに等しい大きさであり、かつ上方限界値よりも小さい場合には、フロントアクスルにおける操縦可能なホイールの中の1つだけを、それぞれに配置されたブレーキ装置を介して制動することができる。さらにまた、操作決定値の絶対値が上方限界値よりも大きいか、又はこれに等しい大きさであるときは、同じ車体側の2つのホイールを、それぞれに配置されたブレーキ装置を介して制動することができる。このような方法で、横方向ダイナミクス外乱変数によって発生した横方向ダイナミクスへの影響の強度に合わせて、ブレーキ操作を変更することができる。
【0016】
さらに、同じ車体側の2つのホイールを、それぞれに配置されたブレーキ装置を介して制動することもまた可能であり、この場合に、同じ車体側の操縦可能なホイールと、これに対応した操縦可能ではないホイールとの間における制動力の配分は、パラメータ値に応じており、かつ特に車両に応じて準備され、及び/又は走行条件に応じて調整することができる。
【0017】
以下に、図示された実施例によって本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明に基づく装置の構造を備えた自動車の概要図である。
【図2】図2は、本発明に基づく方法の経過を説明するためのブロックダイヤグラムである。
【図3】図3は、図2に基づいた有効ブロックVALにおける操作条件の、複数の基準の点検を示すブロックダイヤグラムである。
【図4】図4は、図2に基づいたスイッチオフブロックOFFにおける操作条件の、さらなる基準の点検を示すブロックダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明に基づく装置の構造を備えた自動車の概要図である。自動車1は、4つのホイール2.1〜2.4を有し、これらのホイールは、それぞれ、配置されたブレーキユニット3.1〜3.4がそれぞれに作用するようにブレーキユニットと連結されている。各ブレーキユニット3.1〜3.4は、これらのブレーキユニットにそれぞれ配置されたホイール2.1〜2.4を制動するために形成されており、それぞれ、その他のブレーキユニットからは独立して、個別にコントロールされることができる。これによって、相異なった大きさの制動力若しくは制動作用を、個々のホイール2.1〜2.4について得ることができる。2.1〜2.4を備えたブレーキユニットを適宜作動させることは、「ブレーキ操作」という言葉でも表される。ブレーキユニット3.1〜3.4を作動させるため、本発明に基づいて、制動力作動装置4が準備されており、この装置は、シグナル伝達技術によって、ブレーキユニット3.1〜3.4を作動させるように連結されている。制動力作動装置4は、それ自体がシグナル伝達技術によってコントロールユニット5で作動されるように連結されており、このコントロールユニットは、目下の場合に「外乱変数オブザーバー」という言葉でも表されている外乱変数測定装置5.1と、点検装置5.2とを有し、コントロールユニット5が複数のセンサ6.1〜6.nと結合されている。
【0020】
また、センサ6.1〜6.nは、車両1の走行力学上の実測値、並びに、実測ヨーレイト、車両の縦方向速度、操舵角、進行方向又は実測横方向加速度を決定するために用いられる。これに対応した、SS1〜SSnにおけるセンサ信号は、センサ6.1〜6.nからコントロールユニット5へ、したがって、外乱変数測定装置5.1及び点検装置5.2へ向かって伝送される。
【0021】
独国特許出願明細書102004017638号の中で詳細に説明されている通り、外乱変数測定装置5.1は、車両1の実測値に基づいて、車両の横方向ダイナミクス外乱変数を測定する。車両1若しくはそのボディに作用する横風SWによる影響作用、及びこれによって引き起こされる、車両の横方向ダイナミクスへの影響を特に測定するための外乱変数測定装置5.1は、このような仕方で使用されることができる。独国特許出願明細書102004017638号は、その限りにおいて明示的に言及する。
【0022】
外乱変数測定装置5.1は、外乱変数シグナルSGSを生成し、このシグナルが、点検装置5.2へと伝達される。点検装置5.2の中での点検に際しては、あらかじめ設定された操作条件に基づいて、横方向ダイナミクス障害に対して反対に作用するブレーキ操作が引き起されるべきであるかどうかが確定される。これに対応した操作シグナルBESは、制動力作動装置4へ伝達される。この装置は、操作シグナルBESに応じて、ブレーキユニット3.1〜3.4の中の少なくとも1つ又は複数のものを、これらに対応した制動力作動シグナルBKAS1〜BKAS4を用いて作動させる。制動力作動シグナルBKAS1〜BKAS4は、コントロールユニット5及び特に外乱変数測定装置5.1へもまた伝達され、その結果、車体側において引き起されたブレーキトルクと、そこから生じる車両のヨーイング運動への影響とを、横方向ダイナミクス外乱変数の測定に際して考慮することができるようになる。
【0023】
横方向の影響に対して逆向きのヨーイングモーメントを生成するために、ブレーキ操作は、原則的に、1つの車体側の少なくとも1つのホイール2.1,2.4又は2.2,2.3において実行される。ブレーキ操作を運転者にとって可能なかぎりソフトにすることができるように、第1のブレーキ操作段階の中の1つだけに限って、又は少なくともその1つにおいて、車両のリアアクスルにおける対応した操縦可能でないホイール2.1又は2.2だけに制動がかけられることができ、その結果として、場合によっては、車両1のステアリングホイールにおいて感じ取られる反動は、可能なかぎりわずかなものにとどまる。操縦可能なホイール2.3又は2.4に対してホイールごとの個別の制動がかけられた場合には、考えられ得る反動の強さの程度は、車両のタイプ及びその車両設計に応じて変化する。操縦可能なホイール2.3若しくは2.4及び/又は操縦可能ではないホイール2.1若しくは2.2において、ブレーキ操作が行われるか否かは、車両タイプに応じて個別に適合される。それゆえ、操縦可能なホイール2.3又は2.4に制動をかけたときに、ステアリングホイールでの反動がごくわずかしか発生しないような車両タイプの場合には、操縦可能でないリヤホイール2.1又は2.2に対して選択的に、又は追加的に、同じ車両側の操縦可能なホイール2.3又は2.4もまた、横方向の影響を補償するために、制動をかけられることができる。
【0024】
それゆえ、1つの車両側のホイール2.1,2.4又は2.2,2.3が同時に制動をかけられるようにブレーキ操作を行うことが可能である。この車両側における操縦可能なフロントホイール2.3又は2.4と、リヤホイール2.2又は2.1との間の制動力配分は、車両の違いに応じて提供されることができ、及び/又は、走行条件に応じて調整されることができる。たとえば、操縦可能なフロントホイール2.3又は2.4と、操縦可能ではないリヤホイール2.2又は2.1との間の制動力配分は、横方向ダイナミクス外乱変数の絶対値、進行方向、又はその他の、縦方向移動及び横方向移動に関する走行状態値に応じて、変化させることができる。
【0025】
点検装置5.2の中では、操作決定値が測定されることができ、この操作決定値によって、横方向ダイナミクス外乱変数の絶対値、又は横方向ダイナミクス外乱変数に基づいて算定された、横方向の影響を補償するために調整されるべきヨーイングモーメントの絶対値、又は、これらの2つの値の1つに関連したその他の値の絶対値が表される。そのときには、操作決定値に応じて、多段階式のブレーキ操作が行われることができ、この場合には、たとえば、以下のような可能性が生まれる。
− 操作決定値が操作限界値を超過しており、かつ、あらかじめ設定された下方の限界値よりも小さい。始めに、ホイール2.1,2.2,2.3又は2.4だけが、好適には、操縦可能ではないホイール2.3又は2.4だけが制動をかけられる。ホイール2.1,2.2,2.3又は2.4の中のもっぱら1つに限って実行された、このブレーキ操作が、充分な効果を示さないときに初めて、追加的に、同じ車両側のさらなるホイール2.1,2.2,2.3又は2.4が制動をかけられる。
− 操作決定値が、あらかじめ決定された下方の限界値よりも大きいか又は同じ大きさであるときには、車両1の横方向ダイナミクスに対する影響の十分に素早い補償、若しくは軽減を、横方向ダイナミクス外乱変数によって確実にし、高度な走行安全性を保証するために、直ちに、同じ車両側の2つのホイール2.1,2.4又は2.2,2.3に両方とも制動がかけられる。
− さらに明確にすると、3つの操作段階を準備することもまた可能である。
・操作決定値が操作限界値を上回り、かつ下方限界値を下回る場合には、操縦可能ではないホイール2.1又は2.2の中の1つだけが、それぞれに配置されたブレーキ装置3.1若しくは3.2を介して制動をかけられる。
・操作決定値が下方限界値よりも大きいか、又はこれに等しい大きさであり(下方限界値以上であり)、かつ上方限界値よりも小さい場合には、フロントアクスルにおける操縦可能なホイール2.3又は2.4の中の1つだけが、それぞれに配置されたブレーキ装置3.3若しくは3.4を介して制動をかけられる。
・操作決定値が上方限界値よりも大きいか又はこれに等しい大きさであるときは(上方限界値以上であるときは)、同じ車体側の2つのホイール2.1,2.4又は2.2,2.3が、それぞれに配置されたブレーキ装置3.1,3.4又は3.2,3.3を介して制動をかけられる。
【0026】
車両1のボディに対して、たとえば、進行方向で見て右側からの横風突風SWが作用するときには、右側のリヤホイール2.2及び/又は右側のフロントホイール2.3に制動をかけることができ、それにより、車両1に対して、車両1のヨー軸を中心とする時計回りのヨーイングモーメントが発生させられることになる。横風が左側から車両1に作用する場合には、方向が正反対になり、そうすると、この場合には、左側のフロントホイール2.4及び/又は左側のリヤホイール2.1に制動がかけられる。
【0027】
本発明に基づき、このブレーキ操作によって、横風SWによる横方向ダイナミクスへの影響は、少なくとも部分的に補償される。このような目的のために、外乱変数測定装置5及び/又は制動力作動装置4は、適切な方法若しくはモデルを用いて、車両1の1つのホイール又は複数のホイール2.1〜2.4へ、必要な制動力を伝達し、前述のとおり、これに対応して、車両横方向ダイナミクスへの悪影響を補償するように形成されている。
【0028】
したがって、車両1の操縦者は、たとえば横風突風などによる車両横方向ダイナミクスへの影響を補償する際に、サポートされる。横方向ダイナミクスへの影響が発生すると、この影響は自動的に軽減されるか、又は完全に補償される。このことは、走行安全性の向上に寄与する。
【0029】
以下に、図2に基づく方法の実施例を詳しく説明する。図2は、車両の、特に図1に基づく自動車1の横方向ダイナミクスを制御するための、本発明に基づいた方法の形態を示すブロックダイヤグラムである。
【0030】
本発明に基づく方法は、センサ6.1〜6.nを用いて測定された、車両の走行ダイナミクス実測値に基づき、かつ、制動力作動シグナルBKAS1〜BKAS4に基づく、オブザーバーブロックOBSの中での、横方向ダイナミクス外乱変数FSWの測定によって始まる。横方向ダイナミクス外乱変数FSWを測定するためにオブザーバーブロックOBSの中で使用された方法は、この関連の中で考慮される独国特許出願明細書第102004017638号の中に記述されている。
【0031】
このような方法で、オブザーバーブロックOBSを用いて測定された横方向ダイナミクス外乱変数FSWは、それに続いて、横方向ダイナミクス外乱変数FSWの定常部分を選別するために、高域フィルターHPの中で高域フィルタリングされ、それ以後の手順の中では、この定常部分が考慮されないことになる。さらなる手順の中では、もっぱら、横方向ダイナミクス外乱変数FSWの動的な部分だけが考慮される。高域フィルターHPは、高域フィルタリングを受けた横方向ダイナミクス外乱変数を生成し、以下の場合には、この横方向ダイナミクス外乱変数が、外乱変数信号SGSに対応し、この信号が、コントロールユニット5の点検装置5.2へ伝送される。
【0032】
点検装置5.2の中では、あらかじめ決定された操作条件が満たされているかどうかが点検される。この方法の実施例では、操作条件が数多くの基準を有し、操作条件が満たされるためには、これらの基準が、実例に基づいてそれぞれ満たされていなければならない。これらの基準は、自動的なブレーキ操作が決して引き起されるべきではないような走行条件を、排除するために役立つ。
【0033】
ヒステリシスブロックHYSの中では、外乱変数信号SGSが、したがって高域フィルタリングを受けた横方向ダイナミクス外乱変数が、あらかじめ決定された作動限界値よりも大きいか、それとも作動解除限界値よりも小さいか、ということが第1の基準として点検される。作動限界値は、作動解除限界値よりも大きく、その結果、ヒステリシスが形成される。外乱変数信号SGSが作動限界値よりも大きいときには、第1のフラグF1=1がセットされる。これに対して、外乱変数信号SGSが作動解除限界値よりも小さいときには、第1のフラグK1=0がセットされる。
SGS>作動限界値⇒F1=1又は
SGS<作動解除限界値⇒F1=0。
【0034】
有効ブロックVALの中では、詳しくは図3の中で概略図が示されている通り、たとえばK2からK9までの8つの基準のような、それらの基準を介して現在の走行条件が評価される、さらなる基準が点検される。以下の諸基準が点検される。
− 第2の基準K2:
操舵角のδの絶対値が操舵角の限界値δよりも小さいか、それともこれに等しいかが点検される
− 第3の基準K3:
操舵角速度の限界値δ’が操舵角速度の限界値 δ’よりも小さいか、それともこれに等しいかが点検される
− 第4の基準K4:
車両の縦方向速度Vが、車両の縦方向速度限界値VXSよりも大きいか否かが点検される
− 第5の基準K5:
センサによって測定された実測ヨーレイトΨ’が、現在のヨーレイトΨ’modよりも小さいか、それともこれに等しいかが点検され、計算された現在のヨーレイトΨ’mod が、横方向加速度とヨーレイトとの間の関連を表すような、あらかじめ決定された車両モデルに基づいて、測定された実測横方向加速度aに基づいて、決定される
− 第6の基準K6:
定常横方向加速度ay,stat の絶対値が、横方向加速度の限界値ay,stat,sよりも小さいか、それともこれに等しいかが点検される
− 第7の基準K7:
運転者によって、制動を通して引き起された、この実施例の場合にはブレーキトルク値を表しているブレーキトルクMbrが、ブレーキトルクの限界値Mbrsよりも小さいか、それともこれに等しいかが点検される
− 第8の基準K8:
車両ホイール2.1(HL)、2.2(HR)、2.3(VR)、2.4(VL)のシャーシスプリングにおける現在のスプリングのたわみzVL,zVR,zHL,zHRは、実例に基づいてスプリングのたわみ値を表しており、これらがスプリングのたわみ限界値zよりも小さいか、それともこれに等しいか、が点検され、スプリングのたわみ差異値は、実例に基づいて、車両の中心線の2つのシャーシスプリングにおける、特にハイパスを介して高域フィルタリングを受けた現在のスプリングのたわみ zHPVL,zHPVRの差|zHPVL−zHPVR|によって形成されており、このスプリングのたわみ差異値の絶対値が、スプリングのたわみ差異値の限界値Δzよりも小さいか、それともこれに等しいかが追加的に点検される
− 第9の基準K9:
スキッド差の値は、ここでは、2つの車両ホイールの間のスキッド差によって形成されており、このスキッド差の値が、スキッド差の限界値よりも小さいか、それともこれに等しいか、が点検され、実例に基づいて、2つのフロントホイール2.3(VR)、2.4(VL)の間の第1のスキッド差|λVL−λVR|と、2つのリヤホイール2.1(HL)、2.2(HR)の間の第2のスキッド差|λHL−λHR|とが、フロントアクスル・スキッド差限界値λVS若しくはリヤアクスルスキッド差限界値λHSと比較される。
VL−λVR|≦λVS
HL−λHR|≦λHS
【0035】
アンド条件ブロックANDを介して、K2からK9までの8つの基準がすべて満たされているかどうか、したがって、図3の中で示された不等式がすべて満たされており、したがって、「真」であるかどうかが確定される。このことが当てはまるならば、第2のフラグF2=1がセットされる。そうでない場合には、有効ブロックVALの中で検査されたK2からK9までの基準の中の1つ又は複数が満たされていないときには、第2のフラグF2=0がセットされる。
【0036】
図4の中で詳しく説明されているスイッチオフブロックOFFの中では、1つ又は複数のスイッチオフ基準K10,K11,K12が点検される。これらのスイッチオフ基準の中の少なくとも1つが満たされているときには、第3のフラグF3=1がセットされる。ここで説明されている実施例の場合に点検されるスイッチオフ基準。
− 第1のスイッチオフ基準K10:
操舵角のδの絶対値が操舵角の限界値δよりも大きいかどうかが点検される
− 第2のスイッチオフ基準K11:
操舵角速度の絶対値δ’が操舵角速度の限界値δ’よりも大きいかどうかが点検される
− 第3のスイッチオフ基準K12:
運転者によって、制動を通して引き起されたブレーキトルクMbrが、ブレーキトルクの限界値Mbrsよりも大きいかどうかが点検される。
【0037】
K10,K11,K12のスイッチオフ基準が、どれも満たされていないときには、第3のフラグF3=0である。スイッチオフ基準K10,K11,K12は、オア条件ブロックORの中で、第3のフラグF3へと相互に結合される。
【0038】
3つのフラグF1,F2,F3及び第4のフラグF4を考慮することにより、ロジックブロックLOGの中で、操作信号BESが測定され、この操作信号は、第4のフラグF4として、ロジックブロックLOGの入力へとフィードバックされる。ロジックブロックの中では、操作信号BESを測定するために、現在の手順サイクルnの中で存在する、フラグF1,F2,F3,F4の値と、部分的には、先行手続きサイクルn―1に基づく、フラグF1,F2,F3,F4の値との両方が使用される。目下の場合には、先行手続きサイクルに基づく、第1のフラグF1、第2のフラグF2及び第4のフラグF4の値が考慮される。
【0039】
ブレーキ動作を作動させる操作信号BESのために必要な条件としては、次のものが重要である。
− 第3のフラグF3=0、すなわち、スイッチオフ基準K10,K11,K12は1つも満たされておらず、かつ
− 第1のフラグF1=1、すなわち、ヒステリシスブロックHYSの中で定義された条件が満たされていなければならない。
【0040】
次の表の中に出てくる組合せの中の1つが出現するときに、現在の手続きサイクルnの中で、操作信号BESは、BES(n)=F4(n)=1である。この表の各行は、現在の手続きサイクルの中でブレーキ動作を作動させるか、又は維持している状態の1つの組合せに対応する。
【表1】

操作信号がBES=1であるときには、ブレーキ動作が、制動力作動装置4を介して、1つ又は複数のホイールにおいて作動されるか、又は維持される。
それに続いて、新たな手続きサイクルが、上記の手続きサイクルと同様にして開始される。第1の手続きサイクルの冒頭では、先行手続きサイクルのためのフラグF1,F2,F3,F4の値として、それぞれ始動値F1(スタート),F2(スタート),F3(スタート)及びF4(スタート)が準備され、その結果、この手続きは、たとえば車両を始動させる場合のような、第1の手続きサイクルの場合でも、機能することができる。そのような方法は、サイクル手順の場合に公知である。たとえば、始動値は次のように準備されていることができる。F1(スタート)=0,F2(スタート)=0,F3(スタート)=0及びF4(スタート)=0.
【0041】
ここで説明された実施例は、シャーシ操作としては、横方向ダイナミクス外乱変数に対して反対に作用するために、ブレーキ操作を実行する。
【0042】
横方向ダイナミクスへの影響は、選択的に、又は追加的に、その他のシャーシ操作によってもまた、少なくとも部分的には補償されることができる。
−特に電気的パワーステアリングのサーボモータのサーボモータトルクを制御して、運転者が逆位相操舵の際にサポートを受けるようにすることができる。
−サーボモータトルクは、運転者が横方向ダイナミクスへの悪影響に対する逆方向の操舵へと仕向けられるように調整されている。運転者がステアリングホイールを保持せず、サーボモータのサーボモータトルクに屈するときには、いわゆる自動逆位相操舵が行われる。
−車両1の1つ又は複数のホイール2.1〜2.4のホイール接地力は、たとえば、対応したホイール2.1,2.2,2.3,2.4に配置された作動状態のスプリング、ダンパシステム、又は車両の作動状態のスタビライザを制御することによって、変化させることができる。たとえば、対角線上で向かい合う2つのホイール2.1(HL)と2.3(VR)、又は2.2(HR)と2.4(VL)のホイール接地力は、その他の2つのホイール2.2(HR)と2.4(VL)、又は2.1(HL)と2.3(VR)に対して、高めることができる。アクスルジオメトリ特にトーインによって、横方向の力が生成される。ホイール接地力は、選択的又は追加的に、対角線上で向かい合う2つのホイールにおいて、弱めることもできる。この横方向の力は、横方向ダイナミクスへの悪影響を少なくとも部分的には補償するという目的のために使用される。
−ブレーキ動作の実行と同様にして、ホイール接地力を、両方の車両側で不均等に配分することも可能であるが、このことは、たとえば、制御可能なアクスルディファレンシャルを介して達成されることができる。したがって、ホイール接地力は、1つの車両側では高められ、及び/又は、それぞれのその他の車両側では軽減されることができる。2つの車両側でのホイール接地力が不均等であることによって、ヨーイング運動が引き起される。このヨーイング運動は、横方向ダイナミクスへの悪影響に対抗して生じ、それゆえ、この悪影響を少なくとも減少させ、理想的な場合には完全に補償することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)の横方向ダイナミクスを制御するための方法であって、車両(1)及び特にボディに作用する横方向ダイナミクス外乱変数が測定され、あらかじめ決定された操作条件が満たされているかどうかが点検され、該操作条件が満たされると横方向ダイナミクスを制御するために、シャーシ操作が行われ、該操作条件は、
測定された該横方向ダイナミクス外乱変数の絶対値が外乱変数限界値よりも大きく、かつ以下の複数の基準:
− 車両縦方向速度が車両縦方向速度限界値よりも大きい、
− センサによって測定された実測ヨーレイトが、算出された現在のヨーレイト以下、
− 運転者による制動により引き起されたブレーキトルクを表しているブレーキトルク値が、ブレーキトルク限界値以下、
− 車両ホイールのシャーシスプリングにおける現在のスプリングのたわみを表すスプリングたわみ値が、スプリングたわみ限界値以下、
− 2つのシャーシスプリングにおける現在のスプリングのたわみの差を表すスプリングたわみ差異値が、スプリングたわみ差異限界値以下、
− 2つの車両ホイールの間のスキッド差を表すスキッド差値が、スキッド差限界値以下、
の中の1つ又は複数の基準が満たされているときに、該操作条件が満たされることを特徴とする方法。
【請求項2】
操舵角の絶対値が操舵角限界値以下であり、及び/又は、操舵角速度の絶対値が操舵角速度限界値以下であるときに、前記操作条件が満たされていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
定常横方向加速度の絶対値が横方向加速度限界値以下であるときに前記操作条件が満たされていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
外乱変数測定装置(5)を用いて、車両(1)のボディに作用する横風(SW)が検知され、これに対応した、車両(1)の横方向ダイナミクスへの影響が、前記シャーシ操作によって、少なくとも部分的に補償されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
操作決定値が算定され、この操作決定値によって、前記横方向ダイナミクス外乱変数の前記絶対値が表されるか、又は該横方向ダイナミクス外乱変数に基づいて算定された、前記横方向悪影響の補償のために調整されるべきヨーイングモーメントの絶対値が表されるか、又は、これらの2つの値のうちの1つに関連した、その他の1つの値の絶対値が表されることを特徴とする、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
シャーシ操作として、
− 1つ又は複数のホイール(2.1〜2.4)におけるブレーキ操作、及び/又は、
− 1つ又は複数のホイール(2.1〜2.4)におけるホイール接地力の制御、及び/又は
− パワーステアリングのサーボモータのサーボモータトルクの制御、及び/又は、
− 1つ又は複数のホイール(2.1〜2.4)における1つ又は複数のホイール駆動モーメントの変更、
が実行されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記操作決定値の絶対値が下方限界値を下回るときには、前記ホイール(2.1〜2.4)の中の1つだけが、特に、操縦可能ではないホイール(2.1又は2.2)の中の1つだけが、それぞれに配置されたブレーキ装置(3.1〜3.4)を介して制動をかけられることを特徴とする、
請求項5に従属する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記操作決定値の絶対値が下方限界値以上かつ上方限界値よりも小さいときには、フロントアクスルにおける前記の操作可能なホイール(2.3又は2.4)の中の1つだけが、それぞれに配置された前記ブレーキ装置(3.3若しくは3.4)を介して制動をかけられることを特徴とする、請求項5に従属する請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記操作決定値の絶対値が前記上方限界値以上であるときには、同じ車体側の2つのホイール(2.1、2.4又は2.2、2.3)が、それぞれに配置された前記ブレーキ装置(3.1、3.4又は3.2、3.3)を介して制動をかけられることを特徴とする、請求項5に従属する請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
同じ車体側の2つのホイール(2.1、2.4又は2.2、2.3)が、それぞれに配置された前記ブレーキ装置(3.1、3.4又は3.2、3.3)を介して制動をかけられ、この場合に、同じ車体側の前記操縦可能なホイール(2.3又は2.4)と、対応した前記操縦可能ではないホイール(2.2又は2.1)との間での制動力の配分は、パラメータ値に応じており、かつ特に車両に応じて準備され、及び/又は走行条件に応じて調整されていることができることを特徴とする、請求項5に従属する請求項6に記載の方法。
【請求項11】
− 運転者によって制動を通して引き起された、ブレーキトルク値を表している前記のブレーキトルクが、前記ブレーキトルク限界値よりも大きいときに、及び/又は
− 前記操舵角の絶対値が操舵角限界値よりも大きいときに、及び/又は
− 前記操舵角速度の絶対値が操舵角速度限界値よりも大きいときに、
前記操作条件が満たされた後に作動されたシャーシ操作が、再び終了されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記横方向ダイナミクス外乱変数が、高域フィルターを用いて、前記操作条件の点検に先立ってフィルタリングを受けることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
車両(1)のための横方向ダイナミクス制御装置であって、車両(1)及び特にボディに作用する横方向ダイナミクス外乱変数を測定するための外乱変数測定装置(5.1)を備え、点検装置(5.2)を備え、該点検装置はあらかじめ決定された操作条件が満たされているかどうかを点検するために使用され、該操作条件が満たされたときは横方向ダイナミクスを制御するためにシャーシ操作が行われ、該操作条件は、
測定された該横方向ダイナミクス外乱変数の絶対値が外乱変数限界値よりも大きく、かつ以下の基準:
− 車両縦方向速度が車両縦方向速度限界値よりも大きい、
− センサによって測定された前記ヨーレイトが、算出された現在のヨーレイト以下、
− 運転者による制動により引き起されたブレーキトルクを表しているブレーキトルク値が、ブレーキトルク限界値以下、
− 車両ホイールのシャーシスプリングにおける現在のスプリングのたわみを表すスプリングたわみ値が、スプリングたわみ限界値以下、
− 2つのシャーシスプリングにおける現在のスプリングのたわみの差を表すスプリングたわみ差異値が、スプリングたわみ差異限界値以下、
− 2つの車両ホイールの間のスキッド差を表すスキッド差値が、スキッド差限界値以下、
の中の1つ又は複数の基準が満たされているときに、該操作条件が満たされることを特徴とする横方向ダイナミクス制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−531262(P2010−531262A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513698(P2010−513698)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004458
【国際公開番号】WO2009/000388
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】