説明

車両用制動制御装置

【課題】車両用制動制御装置において、車両の定速走行制御時であっても、十分な負圧を確保して操作部材の操作力を適正に高めることで、十分な制動力を確保して制動操作フィーリングの向上を図る。
【解決手段】ハイブリッド車両11にて、車速が予め設定された目標車速となるようにエンジン12の出力とモータ16,19の出力が調整される定速走行制御を実行中であるとき、エンジン12の回転数が予め設定された所定値を超え、且つ、燃料カットの実行が検出されると、エンジン12の吸気管227に設けられたスロットル弁229を閉止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキペダルの操作により発生した操作力をエンジンの吸気負圧により高め、マスタシリンダ圧力を制動力として出力可能な車両用制動制御装置に関し、特に、エンジンと電気モータを動力源として走行可能なハイブリッド車両における車両用制動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料の燃焼によりトルクを出力するエンジンと、電力の供給によりトルクを出力する電気モータとを搭載し、このエンジンと電気モータのトルクを車輪に伝達することで走行可能とするハイブリッド車両が提案されている。このようなハイブリッド車両では、運転状態に応じてエンジン及び電気モータの駆動と停止を制御することにより、電気モータのトルクだけで車輪を駆動したり、エンジンと電気モータの両者のトルクにより車輪を駆動するようにしており、電気モータはバッテリに蓄積された電力により駆動することができ、このバッテリのエネルギが低下したときには、エンジンを駆動してバッテリの充電を行うようにしている。
【0003】
即ち、ハイブリッド車両において、駆力源としてエンジン及び電気モータが設けられると共に、エンジン及び電気モータの動力を合成して車輪に伝達するプラネタリギヤが設けられている。具体的には、エンジンの出力軸がプラネタリギヤのキャリヤに連結され、電気モータの出力軸がプラネタリギヤのリングギヤに連結されると共に、リングギヤに連結されたスプロケットから車輪に対して動力が伝達されるように構成されている。また、プラネタリギヤとエンジンとの間には発電機が設けられており、この発電機の回転軸がプラネタリギヤのサンギヤに連結されている。そのため、エンジンの動力がプラネタリギヤにより車輪及び発電機に分割されることとなり、発電機の回転速度を制御することにより、エンジンの回転速度を制御することができる。つまり、プラネタリギヤにより構成される動力分割機構は、エンジンの回転速度を変換する機能と、エンジンの動力を車輪及び発電機に分割する機能を有している。
【0004】
そして、このハイブリッド車両の制動制御装置にて、ブレーキペダルはブレーキブースタに連結され、このブレーキブースタはマスタシリンダが連結されている。このブレーキブースタは、ドライバによるブレーキペダルの踏み込み操作に対して所定の倍力比を有するアシスト力を発生するものであり、ダイアフラムにより仕切られた負圧室がエンジンの吸気マニホールドに連結されている。従って、ドライバがブレーキペダルを踏むと、正圧室の連通孔が開いてダイアフラムが負圧室側に移動することで操作力が倍力され、この倍力された操作力によりマスタシリンダ内の作動油を加圧し、所定の制動油圧を確保することができる。
【0005】
このようなハイブリッド車両の制動制御装置では、ブレーキブースタに、エンジンの吸気系に接続されて吸気によって負圧を得るブレーキ負圧装置が連結されている。ところが、このブレーキ負圧装置は、吸気によって負圧を得ることから、エンジンの運転状態によっては負圧を生成することが困難となり、負圧不足により適正な制動力を確保できないおそれがある。
【0006】
そこで、例えば、下記特許文献1に記載された内燃機関の制御装置では、ブレーキ倍力装置を4気筒のうち1気筒に接続されている分岐管と負圧管で接続し、分岐管内の負圧を導入して駆動圧としブレーキ踏力を補助可能とし、負圧管を弁部材の下流側において分岐管に接続し、ブレーキ倍力装置内の負圧が必要負圧以上の場合、全気筒においてスロットル開度を全閉または全開とする一方、ブレーキ倍力装置内の負圧が必要負圧より小さい場合、負圧管が接続されている分岐管に設置されているスロットル装置のスロットル開度を、アクセル開度に応じて絞るようにしている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−227357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ドライバによる車両の運転操作を軽減するものとして、車両の車速が目標車速となるように一定車速制御を行う定速走行制御(クルーズコントロール)を行うものがある。この定速走行制御では、実行中に負圧を生成することは困難となる。即ち、ハイブリッド車両に適用されるエンジンは、通常、アトキンソンサイクルまたはミラーサイクルであって、容積型内燃機関を基礎として、圧縮比よりも膨張比を大きくして熱効率を改善したものであることから、等容サイクルであるオットーサイクルに比べて、車両の通常走行では、負圧の生成が難しい。
【0009】
そして、車両の定速走行制御時に、ドライバがブレーキペダルを踏み込んで制動力を確保する場合には、緊急性を要することが多い。この場合、ブレーキブースタにおける負圧が所定量に確保できていないと、十分なブレーキ踏力を発揮することができず、ドライバが要求する十分な制動力を得ることができないおそれがある。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するためのものであって、車両の定速走行制御時であっても、十分な負圧を確保して操作部材の操作力を適正に高めることで、十分な制動力を確保して制動操作フィーリングの向上を図ると共に信頼性及び安全性の向上を図る車両用制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の車両用制動制御装置は、エンジンと電気モータとを動力源として走行可能なハイブリッド車両であって、ドライバが制動操作する操作部材と、前記エンジンの吸気負圧を利用して前記操作部材の操作により発生した操作力を高めて伝達するブレーキ倍力手段と、該ブレーキ倍力手段により高められた操作力で発生した作動流体の圧力であるマスタシリンダ圧を制動力として車輪に作用させるマスタシリンダと、を備える車両用制動装置において、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、前記エンジンの燃焼室への燃料供給を停止する燃料カットの実行を検出する燃料カット検出手段と、車速が予め設定された目標車速となるように前記エンジンの出力と前記電気モータの出力が調整される定速走行制御を実行中であるとき、エンジンの回転数が予め設定された所定値を超え、且つ、燃料カットの実行が検出されると、前記エンジンの吸気系に設けられたスロットル弁を閉止する負圧制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の車両用制動制御装置では、前記ブレーキ倍力手段に供給される負圧を検出する負圧検出手段を設け、前記負圧制御手段は、前記負圧検出手段が検出する負圧が予め設定された判定値より低いときに前記スロットル弁を閉止することを特徴としている。
【0013】
本発明の車両用制動制御装置では、前記負圧制御手段は、前記スロットル弁を閉止した後、前記負圧検出手段が検出する負圧が判定値より高くなったら前記スロットル弁を開放することを特徴としている。
【0014】
本発明の車両用制動制御装置では、前記負圧制御手段は、前記負圧検出手段が検出する負圧が判定値より低いときに前記スロットル弁を予め設定された所定期間閉止することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用制動制御装置によれば、ハイブリッド車両にて、車速が予め設定された目標車速となるようにエンジンの出力と電気モータの出力が調整される定速走行制御を実行中であるとき、エンジンの回転数が予め設定された所定値を超え、且つ、燃料カットの実行が検出されると、エンジンの吸気系に設けられたスロットル弁を閉止するので、定速走行制御を実行中であっても、スロットル弁を閉止することで十分な負圧を確保することができ、操作部材の操作力を適正に高め、十分な制動力を確保し、制動操作フィーリングの向上を図ると共に信頼性及び安全性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係る車両用制動制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の一実施例に係る車両用制動制御装置を表す概略構成図、図2は、本実施例の車両用制動制御装置が適用されたハイブリッド車両を表す概略構成図、図3は、本実施例のハイブリッド車両に適用されたエンジンを表す概略構成図、図4は、本実施例の車両用制動制御装置におけるブースタ負圧処理制御を表すフローチャートである。
【0018】
本実施例の車両用制動制御装置が適用された車両は、ハイブリッド車両であって、動力源として、エンジンと電気モータと発電機が搭載されており、このエンジンと電気モータと発電機は、動力分配統合機構により接続され、エンジンの出力を発電機と駆動輪とに振り分けると共に、電気モータからの出力を駆動輪に伝達したり、減速機を介してドライブシャフトから駆動輪に伝達される駆動力に関する変速機として機能する。
【0019】
即ち、図2に示すように、本実施例のハイブリッド車両11は、エンジン12と、エンジン12の出力軸としてのクランクシャフト13にダンパ14を介して接続された3軸式の動力分配統合機構15と、動力分配統合機構15に接続された発電可能なモータ(MG1)16と、動力分配統合機構15に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸17に取り付けられた減速ギヤ18と、この減速ギヤ18に接続されたモータ(MG2)19と、動力出力装置全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット(以下、ハイブリッドECUという)20とを有している。
【0020】
エンジン12は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、このエンジン12の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)21により燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御などの運転制御指令を受けている。エンジンECU21は、ハイブリッドECU20と通信可能であり、ハイブリッドECU20からの制御信号によりエンジン12を運転制御すると共に必要に応じてエンジン12の運転状態に関するデータをハイブリッドECU20に出力する。
【0021】
動力分配統合機構15は、外歯歯車のサンギヤ22と、このサンギヤ22と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ23と、サンギヤ22に噛合すると共にリングギヤ23に噛合する複数のピニオンギヤ24と、複数のピニオンギヤ24を自転、且つ、公転自在に保持するキャリア25とを有し、サンギヤ22とリングギヤ23とキャリア25とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構15にて、キャリア25にはエンジン12のクランクシャフト13が、サンギヤ22にはモータ19が、リングギヤ23にはリングギヤ軸17を介して減速ギヤ18がそれぞれ連結されている。そして、モータ16が発電機として機能するときにはキャリア25から入力されるエンジン12からの動力をサンギヤ22側とリングギヤ23側にそのギヤ比に応じて分配し、モータ16が電動機として機能するときにはキャリア25から入力されるエンジン12からの動力とサンギヤ22から入力されるモータ16からの動力を統合してリングギヤ23側に出力する。リングギヤ23に出力された動力は、リングギヤ軸17からギヤ機構26及びデファレンシャルギヤ27を介して、最終的には車両の駆動輪28に出力される。
【0022】
モータ16及びモータ19は、いずれも発電機として駆動することができると共に、電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ29,30を介してバッテリ31と電力のやりとりを行う。インバータ29,30とバッテリ31とを接続する電力ライン32は、各インバータ29,30が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータ16,19いずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。従って、バッテリ31は、モータ16,19のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータ16,19により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ31は充放電されない。
【0023】
モータ16,19は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)33により駆動制御されている。モータECU33には、モータ16,19を駆動制御するために必要な信号、例えば、モータ16,19の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ34,35からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータ16,19に印加される相電流などが入力されており、モータECU33からは、インバータ29,30へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU33は、ハイブリッドECU20と通信しており、ハイブリッドECU20からの制御信号によってモータ16,19を駆動制御すると共に必要に応じてモータ16,19の運転状態に関するデータをハイブリッドECU20に出力する。
【0024】
バッテリ31は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)36によって管理されている。バッテリECU36には、バッテリ31を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ31の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ31の出力端子に接続された電力ライン32に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ31に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度などが入力されており、必要に応じてバッテリ31の状態に関するデータを通信によりハイブリッドECU20に出力する。なお、バッテリECU36では、バッテリ31を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
【0025】
また、車両には、駆動輪28に対応して油圧ブレーキ装置37が設けられている。この油圧ブレーキ装置37には、油圧制御装置38から調圧された制動油圧が供給されるようになっており、この油圧制御装置38は、ブレーキ用電子制御ユニット(以下、ブレーキECUという)39によって管理されている。ブレーキECU39には、油圧制御装置38を管理するのに必要な後述する信号が入力される。即ち、ブレーキECU39は、ハイブリッドECU20と通信しており、ハイブリッドECU20からの制御信号によって油圧制御装置38を駆動制御すると共に必要に応じて油圧制御装置38の運転状態に関するデータをハイブリッドECU20に出力する。
【0026】
ハイブリッドECU20は、CPU41を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU41の他に処理プログラムを記憶するROM42と、データを一時的に記憶するRAM43と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを有している。ハイブリッドECU20には、イグニッションスイッチ44からのイグニッション信号、シフトレバー45の操作位置を検出するシフトポジションセンサ(シフト位置検出手段)46からのシフトポジション信号Sr、アクセルペダル47の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ48からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル(操作部材)49の踏み込み量を検出するブレーキペダルストロークセンサ(操作ストローク検出手段)50からのペダルストロークSp、車速センサ51からの車速V、ステアリングホイール近傍に設けられたオートクルーズスイッチ52からの定速走行用のセット信号やキャンセル信号などがDSS(driver support system)−ECU53を介して入力ポートを介して入力されている。
【0027】
即ち、車両には、運転者による車両の運転操作を軽減するものとして、車速が目標車速となるように一定車速制御を行う定速走行制御や、先行車両に対して自車両を追従走行させるように追従走行制御を可能とするアダプティブクルーズコントロール(ACC)などの自動走行制御を行う車両走行制御装置が搭載されており、オートクルーズスイッチ52は、車両走行制御装置の設定及び解除を行うものである。
【0028】
従って、ハイブリッドECU20は、オートクルーズスイッチ52からのセット信号がDSS−ECU53を介して入力されたときに、そのときの車速Vを目標車速Vtに設定して定速走行モード(オートクルーズモード)とし、オートクルーズスイッチ52からのキャンセル信号がDSS−ECU53を介して入力されたときに、設定した目標車速Vtを解除して定速走行モードを解除する。また、定速走行モード中に、アクセルペダルポジションセンサ48からのアクセル開度Accやブレーキペダルストロークセンサ50からのペダルストロークSpが入力されたときに、設定した目標車速Vtが変更される。更に、ハイブリッドECU20は、オートクルーズスイッチ52からのセット信号がDSS−ECU53を介して入力されたとき、そのときの先行車両に対して自車両を追従走行させるように、目標車速Vtに設定して定速走行モード(オートクルーズモード)とする。そして、ハイブリッドECU20は、目標車速Vtに応じて算出された目標駆動力に応じてエンジン12及びモータ16,19を駆動制御する。
【0029】
また、ハイブリッドECU20は、前述したように、エンジンECU21、モータECU33、バッテリECU36、ブレーキECU39と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU21、モータECU33、バッテリECU36、ブレーキECU39と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0030】
このように構成された本実施例のハイブリッド車両11は、運転者によるアクセルペダル47の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸17に出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求駆動力がリングギヤ軸17に出力されるように、エンジン12とモータ16とモータ19が駆動制御される。
【0031】
エンジン12とモータ16とモータ19の駆動制御としては、要求駆動力に見合う駆動力がエンジン12から出力されるようにエンジン12を駆動制御すると共に、エンジン12から出力される駆動力の全てが動力分配統合機構15とモータ16とモータ19とによってトルク変換されてリングギヤ軸17に出力されるように、モータ16及びモータ19を駆動制御するトルク変換運転モード、要求駆動力とバッテリ31の充放電に必要な電力との和に見合う駆動力がエンジン12から出力されるようにエンジン12を駆動制御すると共に、バッテリ31の充放電を伴ってエンジン12から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構15とモータ16とモータ19とによるトルク変換を伴って要求駆動力がリングギヤ軸17に出力されるようモータ16及びモータ19を駆動制御する充放電運転モード、エンジン12の駆動を停止してモータ19からの要求駆動力に見合う駆動力をリングギヤ軸17に出力するよう駆動制御するモータ運転モードなどがある。
【0032】
また、油圧制御装置38による油圧ブレーキ装置37の作動制御としては、要求制動力に見合う制動力が油圧ブレーキ装置37から出力されるように油圧制御装置38を作動制御する。即ち、ブレーキペダル49のペダルストロークに応じてドライバの要求制動力を検出し、この要求制動力に対してモータ19による回生ブレーキを実行し、要求制動力から回生制動力を減算した要求油圧制動力に基づいて油圧制御装置38を制御し、油圧ブレーキ装置37を作動する。
【0033】
そして、このハイブリッド車両では、上述したように、動力源としてエンジン12とモータ16,19を有しており、走行状態に応じてエンジン12やモータ16,19の出力を動力分配統合機構15により分配して駆動輪28に伝達している。この動力分配統合機構15は、遊星歯車機構として構成されているため、各歯車間にバックラッシ等のガタを有しており、エンジン12が始動するときのショックが各歯車間のガタにより増幅されてしまう。そのため、ハイブリッドECU20は、エンジン12の始動要求があったとき、モータ16またはエンジン12を作動することで、動力分配統合機構15に対して所定のトルク(車両前進側)を付与し、この動力分配統合機構15における歯車列の押し当て(ガタ詰め)処理を実行(押し当て制御手段)するようにしている。
【0034】
ところで、本実施例のハイブリッド車両では、直列4気筒筒内噴射式エンジンを適用している。この直列4気筒エンジン12において、図3に示すように、シリンダブロック201上にシリンダヘッド202が締結されており、このシリンダブロック201に形成された複数のシリンダボア203にピストン204がそれぞれ上下移動自在に嵌合している。そして、シリンダブロック201の下部にクランクケース205が締結され、このクランクケース205内にクランクシャフト206が回転自在に支持されており、各ピストン204はコネクティングロッド207を介してこのクランクシャフト206にそれぞれ連結されている。
【0035】
燃焼室208は、シリンダブロック201におけるシリンダボア203の壁面とシリンダヘッド202の下面とピストン204の頂面により構成されており、この燃焼室208は、上部(シリンダヘッド202の下面)の中央部が高くなるように傾斜したペントルーフ形状をなしている。そして、この燃焼室208の上部、つまり、シリンダヘッド202の下面に吸気ポート209及び排気ポート210が対向して形成されており、この吸気ポート209及び排気ポート210に対して吸気弁211及び排気弁212の下端部がそれぞれ位置している。この吸気弁211及び排気弁212は、シリンダヘッド202に軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、吸気ポート209及び排気ポート210を閉止する方向(図3にて上方)に付勢支持されている。また、シリンダヘッド202には、吸気カムシャフト213及び排気カムシャフト214が回転自在に支持されており、吸気カム215及び排気カム216が吸気弁211及び排気弁212の上端部に接触している。
【0036】
なお、図示しないが、クランクシャフト206に固結されたクランクシャフトスプロケットと、吸気カムシャフト213及び排気カムシャフト214にそれぞれ固結された各カムシャフトスプロケットとは、無端のタイミングチェーンが掛け回されており、クランクシャフト206と吸気カムシャフト213と排気カムシャフト214が連動可能となっている。
【0037】
従って、クランクシャフト206に同期して吸気カムシャフト213及び排気カムシャフト214が回転すると、吸気カム215及び排気カム216が吸気弁211及び排気弁212を所定のタイミングで上下移動することで、吸気ポート209及び排気ポート210を開閉し、吸気ポート209と燃焼室208、燃焼室208と排気ポート210とをそれぞれ連通することができる。この場合、この吸気カムシャフト213及び排気カムシャフト214は、クランクシャフト206が2回転(720度)する間に1回転(360度)するように設定されている。そのため、エンジン12は、クランクシャフト206が2回転する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の4行程を実行することとなり、このとき、吸気カムシャフト213及び排気カムシャフト214が1回転することとなる。
【0038】
また、このエンジン12の動弁機構は、運転状態に応じて吸気弁211及び排気弁212を最適な開閉タイミングに制御する吸気・排気可変動弁機構(VVT:Variable Valve Timing-intelligent)217,218となっている。この吸気・排気可変動弁機構217,218は、吸気カムシャフト213及び排気カムシャフト214の軸端部にVVTコントローラ219,220が設けられて構成され、オイルコントロールバルブ221,222からの油圧をこのVVTコントローラ219,220の図示しない進角室及び遅角室に作用させることによりカムスプロケットに対するカムシャフト213,214の位相を変更し、吸気弁211及び排気弁212の開閉時期を進角または遅角することができるものである。この場合、吸気・排気可変動弁機構217,218は、吸気弁211及び排気弁212の作用角(開放期間)を一定としてその開閉時期を進角または遅角する。また、吸気カムシャフト213及び排気カムシャフト214には、その回転位相を検出するカムポジションセンサ223,224が設けられている。
【0039】
吸気ポート209には、吸気マニホールド225を介してサージタンク226が連結され、このサージタンク226に吸気管227が連結されており、この吸気管227の空気取入口にはエアクリーナ228が取付けられている。そして、このエアクリーナ228の下流側にスロットル弁229を有する電子スロットル装置230が設けられている。
【0040】
排気ポート210には、排気マニホールド231を介して排気管232が連結されており、この排気管232には排気ガス中に含まれる有害物質を浄化処理する三元触媒233及びNOx吸蔵還元型触媒234が装着されている。この三元触媒233は、空燃比(排気空燃比)がストイキのときに排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxを酸化還元反応により同時に浄化処理するものである。NOx吸蔵還元型触媒234は、空燃比(排気空燃比)がリーンのときに排気ガス中に含まれるNOxを一旦吸蔵し、排気ガス中の酸素濃度が低下したリッチ燃焼領域またはストイキ燃焼領域にあるときに、吸蔵したNOxを放出し、添加した還元剤としての燃料によりNOxを還元するものである。
【0041】
そして、このエンジンには、排気ガスのエネルギによりタービンを回し、これに直結されたコンプレッサにより空気を燃焼室に押し込むターボ過給機235が設けられている。このターボ過給機235は、吸気管227に設けられたコンプレッサ236と排気管232に設けられたタービン237とが連結軸238により一体に連結されて構成されている。そして、このターボ過給機235におけるコンプレッサ236の下流側における吸気管227には、このコンプレッサ236により圧縮して温度上昇した吸入空気を冷却するインタークーラ239が設けられている。
【0042】
シリンダヘッド202には、燃焼室208に直接燃料を噴射するインジェクタ240が装着されており、このインジェクタ240は、吸気ポート209側に位置して水平上端から下方に所定角度傾斜して配置されている。各気筒に装着されるインジェクタ240はデリバリパイプ241に連結され、このデリバリパイプ241には、高圧燃料供給管242を介して高圧燃料ポンプ243が連結され、所定圧の燃料を供給可能となっている。また、シリンダヘッド202には、燃焼室208の上方に位置して混合気に着火する点火プラグ244が装着されている。
【0043】
車両には、上述したエンジンECU21が搭載されており、このエンジンECU21は、インジェクタ240の燃料噴射タイミングや点火プラグ244の点火時期などを制御可能となっており、検出した吸入空気量、吸気温度、過給圧、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、冷却水温などのエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量、噴射時期、点火時期などを決定している。
【0044】
即ち、吸気管227の上流側にはエアフローセンサ245及び吸気温センサ246が装着され、計測した吸入空気量及び吸気温度をエンジンECU21に出力している。また、サージタンク226には過給圧センサ247が装着され、計測した過給圧をエンジンECU21に出力している。電子スロットル装置230にはスロットルポジションセンサ248が設けられ、現在のスロットル開度をエンジンECU21に出力している。また、クランクシャフト206にはクランク角センサ249が設けられ、検出したクランク角度をエンジンECU21に出力し、エンジンECU21はクランク角度に基づいて各気筒における吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を判別すると共に、エンジン回転数を算出する。また、シリンダブロック201には水温センサ250が設けられており、検出したエンジン冷却水温をエンジンECU21に出力している。
【0045】
また、エンジンECU21は、エンジン運転状態に基づいて吸気・排気可変動弁機構217,218を制御可能となっている。即ち、低温時、エンジン始動時、アイドル運転時や軽負荷時には、排気弁212の閉止時期と吸気弁211の開放時期のオーバーラップをなくすことで、排気ガスが吸気ポート209または燃焼室208に吹き返す量を少なくし、燃焼安定及び燃費向上を可能とする。また、中負荷時には、このオーバーラップを大きくすることで、内部EGR率を高めて排ガス浄化効率を向上させると共に、ポンピングロスを低減して燃費向上を可能とする。更に、高負荷低中回転時には、吸気弁211の閉止時期を進角することで、吸気が吸気ポート209に吹き返す量を少なくし、体積効率を向上させる。そして、高負荷高回転時には、吸気弁211の閉止時期を回転数にあわせて遅角することで、吸入空気の慣性力に合わせたタイミングとし、体積効率を向上させる。
【0046】
このように構成されたハイブリッド車両にて、以下に、本実施例の車両用制動制御装置について詳細に説明する。
【0047】
本実施例の車両用制動制御装置において、図1に示すように、ブレーキペダル49には、ブレーキブースタ(ブレーキ倍力手段)101が接続され、このブレーキブースタ101には、マスタシリンダ102が固定されている。そして、ブレーキペダル49に、その踏み込み量、即ち、ペダルストロークを検出するブレーキペダルストロークセンサ50が装着されており、検出結果をブレーキECU39に出力する。
【0048】
このブレーキブースタ101は、ドライバによるブレーキペダル49の踏み込み操作に対して所定の倍力比を有するアシスト力を発生することができる。この場合、ブレーキブースタ101は、内部がダイアフラムにより正圧室と負圧室に仕切られており、正圧室が連通孔を介して大気に連通し、負圧室が負圧管103を介してエンジン12の吸気マニホールド225に連結されている。そして、この負圧管103に、エンジン12からブレーキブースタ101の負圧室に供給されるブースタ負圧を検出する負圧センサ(負圧検出手段)104が設けられており、検出結果をブレーキECU39に出力する。従って、ドライバがブレーキペダル49を踏むと、正圧室の連通孔が開いてダイアフラムが負圧室側に移動することで操作力が倍力され、このダイアフラムがプッシュロッドを介してマスタシリンダ102のピストンに連結されていることから、倍力された作動力をマスタシリンダ102に伝達することができる。
【0049】
マスタシリンダ102は、内部に図示しない2つの油圧室を有しており、各油圧室には、ブレーキ踏力とアシスト力を合わせたマスタシリンダ圧が発生する。マスタシリンダ102の上部には、リザーバタンク105が設けられており、このマスタシリンダ102とリザーバタンク105とは、ブレーキペダル49の踏み込みが解除されときに連通状態となる。
【0050】
マスタシリンダ102の各油圧室には、それぞれ油圧供給通路106,107が接続されており、油圧供給通路106は、油圧制御装置38における一方の駆動輪側の油圧制御回路に接続され、油圧供給通路107は、油圧制御装置38における他方の駆動輪側の油圧制御回路に接続されている。そして、一方の油圧供給通路106に、供給油圧、つまり、マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ(マスタシリンダ圧検出手段)108が装着されており、検出結果をブレーキECU39に出力する。
【0051】
そして、各油圧供給通路106,107には、マスタカット弁109,110が装着されており、上述したマスタシリンダ圧センサ108は、油圧供給通路106におけるマスタシリンダ102とマスタカット弁109との間に配置されている。このマスタカット弁109,110は、流量調整式の電磁弁であり、所謂、ノーマルオープン式であって、ブレーキECU39による通電時に開度制御可能となっている。
【0052】
一方の油圧供給通路106は、マスタカット弁109を介して連結通路111が接続され、他方の油圧供給通路107は、マスタカット弁110を介して連結通路112が接続されている。一方の連結通路111は、2つの分岐通路113,114に分岐され、他方の連結通路112は、2つの分岐通路115,116に分岐されている。そして、分岐通路113,114は、各駆動輪28(図2参照)にそれぞれ配置される油圧ブレーキ装置37(37FR,37RL)を駆動するホイールシリンダ117FR,117RLに接続されている。また、分岐通路115,116は、駆動輪28(図2参照)にそれぞれ配置される油圧ブレーキ装置37(37FL,37RR)を駆動するホイールシリンダ117FL,117RRに接続されている。なお、ここでは、油圧配管系統をクロス配管としたが、前後配管としても良い。
【0053】
各分岐通路113,114,115,116には、それぞれ電磁式保持弁118,119,120,121が配置されている。また、分岐通路113,114,115,116には、電磁式保持弁118,119,120,121よりホイールシリンダ117FR,117RL,117FL,117RR側から油圧排出通路122,123,124,125が分岐しており、この油圧排出通路122,123,124,125は補助リザーバ126,127に接続されている。そして、この油圧排出通路122,123,124,125に、それぞれ電磁式減圧弁128,129,130,131が配置されている。
【0054】
この電磁式保持弁118,119,120,121は、流量調整式の電磁弁であり、所謂、ノーマルオープン式であって、ブレーキECU39による通電時に開度制御可能となっている。また、この電磁式減圧弁128,129,130,131は、流量調整式の電磁弁であり、所謂、ノーマルクローズ式であって、ブレーキECU39による通電時に開度制御可能となっている。
【0055】
なお、油圧供給通路106,107と連結通路111,122との間には、マスタカット弁109,110と並列して逆止弁132,133が設けられており、油圧供給通路106,107側から連結通路111,112側への作動油の流れのみ許容している。また、分岐通路113,114,115,116には、電磁式保持弁118,119,120,121と並列して逆止弁134,135,136,137が設けられており、ホイールシリンダ117FR,117RL,117FL,117RR側からマスタカット弁109,110側への作動油の流れのみ許容している。
【0056】
各連結通路111,112から分岐して補助リザーバ126,127に接続するポンプ通路138,139が設けられ、このポンプ通路138,139の途中に、ポンプモータ140により駆動する油圧ポンプ(加圧手段)141,142が配置されると共に、この油圧ポンプ141,142よりマスタカット弁109,110側に逆止弁143,144が配置されている。また、油圧供給通路106,107から分岐して補助リザーバ126,127に接続する吸入通路145,146が設けられ、この吸入通路145,146における補助リザーバ126,127側にリザーバカット逆止弁147,148が配置されている。
【0057】
ブレーキECU39は、CPUやメモリ等からなり、格納されているブレーキ制御プログラムを実行することにより制動制御を実行する。即ち、このブレーキECU39には、ペダルストロークセンサ50が検出したペダルストロークSp、マスタシリンダ圧センサ108が検出したマスタシリンダ圧Pmcが入力される。そのため、ブレーキECU39は、ペダルストロークSp及びマスタシリンダ圧Pmcに基づいてマスタカット弁109,110、電磁式保持弁118,119,120,121、電磁式減圧弁128,129,130,131、ポンプモータ140を制御し、ホイールシリンダ117FR,117RL,117FL,117RRへの制動油圧を調整可能となっている。
【0058】
従って、通常、マスタカット弁109,110は開弁され、電磁式保持弁118,119,120,121は開弁され、電磁式減圧弁128,129,130,131は閉弁されており、ドライバがブレーキペダル49を踏み込み操作すると、ブレーキブースタ101は、その踏み込み操作に対して所定の倍力比を有するアシスト力を発生し、マスタシリンダ102は、ブレーキ踏力とアシスト力を合わせたマスタシリンダ圧Pmcを発生する。
【0059】
ブレーキECU39は、ブレーキペダル49のペダルストロークSp及びマスタシリンダ圧Pmcに基づいてドライバの要求制動力を検出し、ハイブリッドECU20に対してこの要求制動力を出力する。ハイブリッドECU20は、モータECU33にこの要求制動力を出力し、モータECU33は回生ブレーキを制御すると共に、その実行値、つまり、実行した回生制動力をハイブリッドECU20に出力する。ハイブリッドECU20は、要求制動力から回生制動力を減算して要求油圧制動力を設定し、ブレーキECU39は、この要求油圧制動力に基づいて油圧制御装置38を制御する。
【0060】
また、油圧ブレーキ装置37の増圧モードにおけるブレーキアシスト作動モードでは、マスタカット弁109及び電磁式保持弁118が開弁状態で、電磁式減圧弁128が閉弁状態のまま、ブレーキECU39は、ポンプモータ140により油圧ポンプ141を駆動制御し、補助リザーバ126の作動油を加圧することで、マスタシリンダ102で発生したマスタシリンダ圧Pmcに加えて油圧ポンプ141による加圧圧力が、ポンプ通路138、連結通路111、マストカット弁109、油圧供給通路106、補助リザーバ126を循環し、電磁式保持弁118及び分岐通路113を経由してホイールシリンダ117FRへ作用することとなり、このホイールシリンダ117FRの油圧が増圧し、制動力が更に強められる。
【0061】
このように構成された本実施例の車両用制動制御装置にて、ブレーキペダル49はブレーキブースタ101に連結され、このブレーキブースタ101はマスタシリンダ102が連結されている。このブレーキブースタ101は、上述したように、ドライバによるブレーキペダル49の踏み込み操作に対して所定の倍力比を有するアシスト力を発生するものであり、ダイアフラムにより仕切られた負圧室が負圧管103を介してエンジンの吸気マニホールド225に連結されている。従って、ドライバがブレーキペダル49を踏むと、正圧室の連通孔が開いてダイアフラムが負圧室側に移動することで操作力が倍力され、この倍力された操作力によりマスタシリンダ102内の作動油を加圧し、所定の制動油圧(マスタシリンダ圧)を確保することができる。
【0062】
ところで、ブレーキブースタ101の負圧室に供給される負圧は、エンジン12の吸気マニホールド225から供給されるため、その負圧量はエンジン12の運転状態に応じて変化する。また、このブレーキブースタ101の負圧室の負圧は、ブレーキペダル49の操作時に使用されることから、ブレーキの操作状態に応じて変化する。そのため、ブレーキブースタ101を適正に作動させるには、エンジン12の運転状態やブレーキペダル49の操作状態に応じて変化する負圧室内の負圧量を所定量以上に維持する必要がある。
【0063】
特に、車両走行制御装置により定速走行制御が実行され、ハイブリッド車両11が所定の車速で自動走行しているときには、負圧室内の負圧量を所定量以上に維持することが困難となる。そして、車両の定速走行制御時に、ドライバがブレーキペダル49を踏み込んで制動力を確保する場合には、緊急性を要することが多く、この場合、ブレーキブースタ102における負圧が所定量に確保できていないと、十分なブレーキ踏力を発揮することができず、ドライバが要求する十分な制動力を得ることができないおそれがある。
【0064】
そこで、本実施例の車両用制動制御装置では、エンジン12の回転数を検出するエンジン回転数検出手段としてクランク角センサ249を設けると共に、エンジン12の燃焼室208への燃料供給を停止する燃料カットの実行を検出する燃料カット検出手段としてエンジンECU21を設け、ハイブリッドECU20は、車速が予め設定された目標車速となるようにエンジン12の出力と電気モータ16,19の出力が調整される定速走行制御を実行中であるとき、エンジン12の回転数が予め設定された所定値を超え、且つ、燃料カットの実行が検出されると、エンジン12の吸気系に設けられたスロットル弁229を閉止(負圧制御手段)するようにしている。
【0065】
この場合、ハイブリッドECU20は、負圧センサ104が検出する負圧が予め設定された判定値より低いときに、エンジン12のスロットル弁229を閉止するようにしている。
【0066】
また、本実施例の車両用制動制御装置では、ハイブリッドECU20は、スロットル弁229を閉止した後、負圧センサ104が検出する負圧が判定値より高くなったらスロットル弁229を開放するようにしている。なお、この場合、ハイブリッドECU20は、負圧センサ104が検出する負圧が予め設定された判定値より低いときに、エンジン12のスロットル弁229を予め設定された所定期間だけ閉止するようにしてもよい。
【0067】
以下、本実施例の車両用制動制御装置におけるブレーキブースタ101の負圧処理制御について、図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0068】
本実施例の車両用制動制御装置におけるブレーキブースタ101の負圧処理制御において、図4に示すように、ステップS11にて、ハイブリッドECU20は、ハイブリッド車両11の車速が目標車速となるようにエンジン12の出力と電気モータ16,19の出力を調整する定速走行制御を実行しているかどうかを判定する。この場合、ハイブリッドECU20は、オートクルーズスイッチ52がONされているかどうかを判定し、オートクルーズスイッチ52がONされていると判定したら、ステップS12にて、クランク角センサ249が検出した現在のエンジン回転数Neが予め設定された所定のエンジン回転数Neより高いかどうかを判定する。ここで、現在のエンジン回転数Neが所定のエンジン回転数Neより高いと判定されたら、ステップS13にて、エンジン12における燃料カットが実行されているかどうかを判定する。ここで、エンジン12における燃料カットが実行されていると判定されたら、ステップS14に移行する。
【0069】
一方、ステップS11にて、オートクルーズスイッチ52がONされていないと判定されたり、ステップS12にて、現在のエンジン回転数Neが所定のエンジン回転数Neより高くないと判定されたり、ステップS13にて、エンジン12における燃料カットが実行されていないと判定されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。
【0070】
ステップS14にて、ハイブリッドECU20は、負圧センサ104が検出したブースタ負圧Pbを読み込む。そして、ステップS15にて、ハイブリッドECU20は、負圧センサ104が検出した現在のブースタ負圧Pbが予め設定された所定のブースタ負圧PBより低いかどうかを判定する。ここで、現在のブースタ負圧Pbが所定のブースタ負圧PBより低いと判定したら、ステップS16にて、エンジン12の吸気管227に設けられた電子スロットル装置230によりスロットル弁229を閉止する。
【0071】
従って、ハイブリッド車両11が定速走行制御中であり、現在のエンジン回転数Neが所定のエンジン回転数Neより高く、エンジン12における燃料カットが実行されているときに、スロットル弁229を閉止すると、エンジン12の吸気負圧が発生し、負圧量が増加することとなる。この場合、エンジン回転数Neが高いときに、スロットル弁229を閉止すると、吸気管227に十分な負圧を確保することができる。また、エンジン12における燃料カット中には、フリクションを低減する目的でスロットル弁229を開放しており、吸気管227に十分な負圧を確保するためにはスロットル弁229を閉止する必要がある。
【0072】
一方、ステップS15にて、現在のブースタ負圧Pbが所定のブースタ負圧PBより低くないと判定されたら、ブレーキブースタ101による助勢が十分可能であることから、ステップS17にて、電子スロットル装置230によりスロットル弁229を開放する。また、ステップS16にて、エンジン12の吸気管227に設けられた電子スロットル装置230によりスロットル弁229を閉止すると、エンジン12の吸気負圧が発生して負圧量が増加するため、次のルーチンにおけるステップS15にて、現在のブースタ負圧Pbが所定のブースタ負圧PBより低くないと判定されたら、スロットル弁229を開放する。実際には、ハイブリッド車両11の運転状態に応じて電子スロットル装置230を制御し、スロットル弁229の開度を調整する。
【0073】
このように本実施例の車両用制動制御装置にあっては、ハイブリッド車両11にて、車速が予め設定された目標車速となるようにエンジン12の出力とモータ16,19の出力が調整される定速走行制御を実行中であるとき、エンジン12の回転数が予め設定された所定回転数を超え、且つ、燃料カットの実行が検出されると、エンジン12の吸気管227に設けられたスロットル弁229を閉止している。
【0074】
従って、ハイブリッド車両11が定速走行制御を実行中であっても、スロットル弁229を閉止することで、ブレーキブースタ101に十分な負圧を確保することができ、ブレーキペダル49のブレーキ踏力を適正に高め、十分な制動力を確保し、制動操作フィーリングの向上を図ることができると共に、信頼性及び安全性の向上を図ることができる。
【0075】
また、本実施例の車両用制動制御装置では、ブレーキブースタ101に供給される負圧を検出する負圧センサ104を設け、ハイブリッドECU20は、負圧センサ104が検出する負圧が予め設定された判定値より低いときに、エンジン12の吸気管227に設けられたスロットル弁229を閉止している。従って、ブレーキブースタ101を作動するために必要な負圧が低いときに、スロットル弁229を閉止することで、負圧の生成遅れを抑制することができる。
【0076】
また、本実施例の車両用制動制御装置では、ハイブリッドECU20は、スロットル弁229を閉止した後、負圧センサ104が検出した現在のブースタ負圧Pbが所定のブースタ負圧PBより高くなったらスロットル弁229を開放している。従って、ブレーキブースタ101の負圧確保のため、必要期間だけスロットル弁229を閉止することで、定速走行制御中におけるフリクションの悪化を最低限に止めることができる。
【0077】
また、本実施例の車両用制動制御装置では、定速走行制御を実行中に、エンジン12の回転数が所定回転数を超え、且つ、燃料カットの実行が検出されると、エンジン12の吸気管227に設けられたスロットル弁229を所定期間だけ閉止している。従って、制御の簡素化を可能とすることができる。
【0078】
なお、上述した実施例では、ハイブリッドECU20とモータECU33を別体としたが、一体型のECUを用いて制御を行ってもよい。また、その他、エンジンECU21、バッテリECU36、ブレーキECU39なども一体型のECUとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明に係る車両用制動制御装置は、ハイブリッド車両が定速走行制御を実行中であり、エンジン回転数が高く、且つ、燃料カットが実行されると、スロットル弁を閉止することで、車両の定速走行制御時であっても、十分な負圧を確保するようにしたものであり、いずれの種類の車両用制動制御装置に用いても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の一実施例に係る車両用制動制御装置を表す概略構成図である。
【図2】本実施例の車両用制動制御装置が適用されたハイブリッド車両を表す概略構成図である。
【図3】本実施例のハイブリッド車両に適用されたエンジンを表す概略構成図である。
【図4】本実施例の車両用制動制御装置におけるブースタ負圧処理制御を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0081】
11 ハイブリッド車両
12 エンジン
15 動力分配統合機構
16 モータ、MG1、電動機(電気モータ)
19 モータ、MG2、発電機(電気モータ)
20 ハイブリッド用電子制御ユニット、ハイブリッドECU(燃料カット検出手段、負圧制御手段)
21 エンジン用電子制御ユニット、エンジンECU
31 バッテリ
33 モータ用電子制御ユニット、モータECU
36 バッテリ用電子制御ユニット、バッテリECU
37 油圧ブレーキ装置
38 油圧制御装置
39 ブレーキ用電子制御ユニット、ブレーキECU
46 シフトポジションセンサ
49 ブレーキペダル(操作部材)
50 ブレーキペダルストロークセンサ
52 オートクルーズスイッチ
101 ブレーキブースタ(ブレーキ倍力手段)
102 マスタシリンダ
103 負圧管
104 負圧センサ(負圧検出手段)
108 マスタシリンダ圧センサ
117FR,117FL,117RL,117RR ホイールシリンダ
118,119,120,121 電磁式保持弁
128,129,130,131 電磁式減圧弁
141,142 油圧ポンプ
249 クランク角センサ(エンジン回転数検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと電気モータとを動力源として走行可能なハイブリッド車両であって、
ドライバが制動操作する操作部材と、
前記エンジンの吸気負圧を利用して前記操作部材の操作により発生した操作力を高めて伝達するブレーキ倍力手段と、
該ブレーキ倍力手段により高められた操作力で発生した作動流体の圧力であるマスタシリンダ圧を制動力として車輪に作用させるマスタシリンダと、
を備える車両用制動装置において、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記エンジンの燃焼室への燃料供給を停止する燃料カットの実行を検出する燃料カット検出手段と、
車速が予め設定された目標車速となるように前記エンジンの出力と前記電気モータの出力が調整される定速走行制御を実行中であるとき、エンジンの回転数が予め設定された所定値を超え、且つ、燃料カットの実行が検出されると、前記エンジンの吸気系に設けられたスロットル弁を閉止する負圧制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用制動制御装置。
【請求項2】
前記ブレーキ倍力手段に供給される負圧を検出する負圧検出手段を設け、前記負圧制御手段は、前記負圧検出手段が検出する負圧が予め設定された判定値より低いときに前記スロットル弁を閉止することを特徴とする請求項1に記載の車両用制動制御装置。
【請求項3】
前記負圧制御手段は、前記スロットル弁を閉止した後、前記負圧検出手段が検出する負圧が判定値より高くなったら前記スロットル弁を開放することを特徴とする請求項2に記載の車両用制動制御装置。
【請求項4】
前記負圧制御手段は、前記負圧検出手段が検出する負圧が判定値より低いときに前記スロットル弁を予め設定された所定期間閉止することを特徴とする請求項2に記載の車両用制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−161121(P2009−161121A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2607(P2008−2607)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】