説明

車両用操舵装置

【課題】 簡素な構成にて、高い信頼性を確保することのできるステアバイワイヤ式の車両用操舵装置を提供すること。
【解決手段】 車両1は、各車輪3から機械的に分離されたステアリング10に入力されるステアリング操作に応じて車両1のヨーモーメントを制御するステアバイワイヤ式の車両用操舵装置11を備える。各車輪3は、その舵角の変更が不能に設けられ、車両用操舵装置11は、各車輪3に対する駆動力分配を可変可能な駆動力分配装置12と、及び該各車輪3における制動力を各車輪3毎に制御可能な制動力制御装置13とを有して構成される。そして、車両用操舵装置11は、各車輪3に伝達される駆動力、及び該各車輪3における制動力を該各車輪3毎に制御することにより、車両1のヨーモーメントを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の各車輪から機械的に分離されたステアリング(ハンドル)を備え、該ステアリングに対するステアリング操作に応じて車両のヨーモーメントを制御、即ち操舵機能を行う所謂ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置が提案されている。
【0003】
ところで、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置は、いうまでもなく車両の操舵機能という本質的且つ重要な機能を電気制御システムに置換えるものである。従って、その要求される信頼性の水準もまた、一層高くなるのが必然である。そのため、こうしたステアバイワイヤ式の車両用操舵装置においては、従来より、その電子制御系を多重化する(例えば、特許文献1参照)、或いは非常用の機械的伝達機構を備える(例えば、特許文献2参照)等、その信頼性の向上を図るべく、様々な対策がなされている。
【特許文献1】特開2003−200840号公報
【特許文献2】特開2002−145098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記第1の従来例のごとく、電子制御系を多重化する構成とした場合、システムが複雑になるとともに、その製造コストも極めて高いものとなる。また、上記第2の従来例に至っては、車輪とステアリングとが機械的に分離されたことによる高い設計自由度等といった、ステアバイワイヤの利点を大きく阻害することになり、いずれの場合もその弊害のあるものとなっていた。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、簡素な構成にて、高い信頼性を確保することのできるステアバイワイヤ式の車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、舵角を変更不能に設けられた複数の車輪と、該各車輪から機械的に分離されたステアリングと、前記各車輪に対する駆動力分配を可変可能な駆動力分配装置と、前記各車輪における制動力を該各車輪毎に制御可能な制動力制御装置とを備え、前記ステアリングに入力されるステアリング操作に応じて前記各車輪に対する駆動力分配及び該各車輪の制動力配分を変化させることにより、車両のヨーモーメントを制御する車両用操舵装置であることを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、駆動力分配装置又は制動力制御装置に何らかの異常が発生し、各車輪の何れかについてその駆動力制御又は制動力制御が不能となった場合であっても、その他の車輪における駆動力制御及び制動力制御により、車両のヨーモーメントを制御、即ちその進行方向を変更することができる。そして、更に駆動力分配装置又は制動力制御装置の何れかが完全に停止した場合であっても、その他方の制御(駆動力分配装置が停止した場合には制動力配分制御、制動力制御装置が停止した場合には、駆動力配分制御)により、その進行方向を変更することができる。
【0008】
つまり、車両の各車輪に伝達される駆動力、及び該各車輪における制動力をそれぞれ該各車輪毎に制御することで、極めて高い冗長性を確保することができる。従って、電子制御系の多重化によるシステムの複雑化及びコスト上昇や、非常用の機械的伝達機構を設けることによる設計自由度の低下等を招くことなく、簡素な構成にて高い信頼性を確保することができる。また、各車輪の舵角を変更しないことで、仮に、駆動力分配装置及び制動力制御装置の両方が完全に停止した場合であっても、最低限、車両を直進状態とすることだけは確保することができる。加えて、ラックシャフト等、車輪の舵角を変更するための転舵機構が不要であることから、ステアバイワイヤの利点を一層高めることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記駆動力分配装置及び制動力制御装置における異常の発生を前記各車輪毎に検出可能な異常検出手段を備え、前記異常の発生が検出された場合には、該異常の発生が検出された車輪及びそれに対応する反対側の車輪について、前記駆動力の分配制御又は前記制動力の配分制御のうち該異常が検出された方の制御を停止すること、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、異常発生時においても、左右の旋回時における反応の差異を抑制することができ、これにより運転者の不安感を和らげることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡素な構成にて、高い信頼性を確保することが可能なステアバイワイヤ式の車両用操舵装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を四輪駆動車の車両用操舵装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、車両1は、エンジン2の駆動力をその前輪3f(3fR,3fL)及び後輪3r(3rR,3rL)に伝達可能な四輪駆動車であり、エンジン2の片側に組み付けられたトランスアクスル4には、一対のフロントアクスル5、及びプロペラシャフト6が連結されている。また、プロペラシャフト6は、リヤディファレンシャル7に連結されており、同リヤディファレンシャル7には一対のリヤアクスル8が連結されている。そして、エンジン2の駆動力は、各フロントアクスル5、並びにプロペラシャフト6及び各リヤアクスル8を介して、それぞれ各フロントアクスル5に連結された前輪3f(3fR,3fL)、及び各リヤアクスル8に連結された後輪3r(3rR,3rL)へと伝達されるようになっている。
【0013】
また、車両1は、各車輪3から機械的に分離されたステアリング10に入力されるステアリング操作に応じて車両1のヨーモーメントを制御するステアバイワイヤ式の車両用操舵装置11を備えている。
【0014】
ここで、本実施形態では、車両1の各車輪3は、その舵角の変更が不能に設けられている。そして、車両用操舵装置11は、ステアリング操作に応じた各車輪3の舵角変更を行うことなく、該各車輪3に伝達される駆動力、及び該各車輪3における制動力を該各車輪3毎に制御することにより、車両1のヨーモーメントを制御する。
【0015】
詳述すると、図2に示すように、車両1の前輪3fに伝達する駆動力Fdrの一方を他方よりも大とすることで、その前輪3fには、進行方向に対して車両1を同前輪3fと反対側(右前輪3fRの場合には左側、左前輪3fLの場合には右側)に旋回させる力Ff´が作用する。また、後輪3rに伝達する駆動力Fdrの一方を他方よりも大とすることで、その後輪3rには、進行方向に対して車両1を同後輪3r側(右後輪3rRの場合には右側、左後輪3rLの場合には左側)に旋回させる力Fr´が作用する。
【0016】
一方、前輪3fに加える制動力Fbkの一方を他方よりも大とすることで、その前輪3fには、進行方向に対して車両1を同前輪3f側(右前輪3fRの場合には右側、左前輪3fLの場合には左側)に旋回させる力Ff´が作用する。また、後輪3rの制動力Fbkの一方を他方よりも大とすることで、その後輪3rには、進行方向に対して車両1を同後輪3rと反対側(右後輪3rRの場合には左側、左後輪3rLの場合には右側)に旋回させる力Fr´が作用する。
【0017】
即ち、左前輪3fLの作用点(接地面の中心)PfLと車両1の重心P0とを結ぶ直線を直線NfLとし、重心P0を通る車両前後方向の直線Nnと上記直線NfLとの挟み角をθfLとすれば、左前輪3fLに加えられた駆動・制動力(駆動力又は制動力)FfLの車両旋回成分FfL´は、次の式(1)により表すことができ、
FfL´=FfL×sin(θfL) ・・・(1)
左前輪3fL側のトレッドをWfLとすれば、この車両旋回成分FfL´により発生する重心P0周りのヨーモーメントMfLは、次の式(2)に表すことができる。
【0018】
MfL=(WfL/sin(θfL))×(FfL×sin(θfL))=WfL×FfL ・・・(2)
同様に、他の各車輪3(3fR,3rL,3rR)についても、これら各車輪3(3fR,3rL,3rR)の作用点PfR,PrL,PrRと重心P0とを結ぶ直線をそれぞれ直線NfR,NrL,NrRとし、車両前後方向の直線Nnとの挟み角をθfR,θrL,θrRとすれば、その駆動・制動力FfR,FrL,FrRの車両旋回成分FfR´,FrL´,FrR´は、次の式(3)〜(5)に表すことができ、
FfR´=FfR×sin(θfR) ・・・(3)
FrL´=FrL×sin(θrL) ・・・(4)
FrR´=FrR×sin(θrR) ・・・(5)
これら各車輪3(3fR,3rL,3rR)側のトレッドをWfR,WrL,WrRとすれば、その車両旋回成分FfR´,FrL´,FrR´により発生する重心P0周りのヨーモーメントMfR,MrL,MrRは、次の式(6)〜(8)に表すことができる。
【0019】
MfR=WfR×FfR ・・・(6)
MrL=WrL×FrL ・・・(7)
MrR=WrR×FrR ・・・(8)
そして、車両1の各車輪3に加えた駆動・制動力FfL,FfR,FrL,FrRに基づき発生するヨーモーメントMは、上記の式(2)及び(6)〜(8)により、次の式(9)に表すことができる。
【0020】
M=MfL+MfR+MrL+MrR ・・・(9)
従って、例えば、同図に示すごとく、右側の車輪3(右前輪3fR及び右後輪3rR)に制動力Fbkを加え、左側の車輪3(左前輪3fL及び左後輪3rL)に駆動力Fdrを加えることで、車両1を進行方向右側に大きく旋回させるヨーモーメントを発生させることができる。そして、車両用操舵装置11は、こうした各車輪3における駆動力Fdr及び制動力Fbkを該各車輪3毎に制御、即ち駆動力分配及び制動力配分を制御することにより、車両1のヨーモーメントを制御する。
【0021】
さらに詳述すると、図1に示すように、本実施形態の車両1は、各車輪3に対する駆動力分配を可変可能な駆動力分配装置12と、及び該各車輪3における制動力を各車輪3毎に制御可能な制動力制御装置13とを備えている。本実施形態では、各フロントアクスル5には、電磁クラッチ(図示略)の係合力変化に基づいて、その対応する車輪3に伝達される駆動力を可変可能なトルクカップリング15a〜15dが設けられており、これら各トルクカップリング15a〜15dは、駆動ECU16によりその作動が制御されている。また、各車輪3には、油圧式のブレーキ装置17a〜17dが設けられており、これら各ブレーキ装置17a〜17dの発生する制動力は、制動ECU18により各車輪3毎に制御されている。尚、本実施形態では、各ブレーキ装置17a〜17dの油圧伝達系には、該各ブレーキ装置17a〜17dに供給されるフルード流量を制御可能な電磁弁(図示略)が設けられており、制動ECU18は、これら各電磁の作動を制御することにより、各ブレーキ装置17a〜17dの発生する制動力を各車輪3毎に制御する。
【0022】
即ち、本実施形態では、上記各トルクカップリング15a〜15d及び駆動ECU16により駆動力分配装置12が構成され、各ブレーキ装置17a〜17d及び制動ECU18により制動力制御装置13が構成されている。
【0023】
また、本実施形態の車両用操舵装置11は、ステアリング10に入力されるステアリング操作に応じたヨーモーメントを発生させるための駆動力分配及び制動力配分を演算する操舵ECU20を備えている。そして、上記駆動力分配装置12及び制動力制御装置13は、それぞれ、この操舵ECU20の出力する駆動力制御指令Sdrc及び制動力制御指令Sbkcに基づいて、各車輪3に対する駆動力分配の可変制御(駆動力配分制御)、及び各車輪3における制動力の可変制御(制動力配分制御)を実行する。即ち、本実施形態では、車両用操舵装置11は、ステアリング10、上記駆動力分配装置12及び制動力制御装置13、並びにこの操舵ECU20により構成されている。尚、通常の駆動・制動機能については、それぞれ駆動ECU16及び制動ECU18にて制御されており、これら各ECUは、操舵ECU20の出力する駆動力制御指令Sdrc及び制動力制御指令Sbkcに基づく操舵制御成分をその駆動・制動制御成分に重畳することにより、駆動力配分制御及び制動力配分制御を実行する。
【0024】
詳述すると、本実施形態では、操舵ECU20には、複数のセンサが接続されており、操舵ECU20は、これら各センサにより検出される各種車両状態量に基づいてステアリング操作に応じたヨーモーメントを発生させるための駆動力分配及び制動力配分を演算する。具体的には、ステアリング10が連結されたステアリングシャフト21には、操舵角センサ22及びトルクセンサ23が設けられており、操舵ECU20は、これら操舵角センサ22及びトルクセンサ23の出力信号に基づいて、ステアリング10の操舵角θs及び操舵速度ωs、並びに該ステアリング10に入力される操舵トルクτを検出する。また、各車輪3には、それぞれ車輪速センサ24a〜24dが設けられており、操舵ECU20は、これら各車輪速センサ24a〜24dの出力信号に基づいて各車輪3の車輪速Vw_a〜Vw_d、及び車速Vを検出する。更に、車両1には、図示しないアクセル開度センサ、ブレーキセンサ、ヨレイトセンサ及び加速度センサを備えており、操舵ECU20には、これら各センサにより検出されたアクセル開度信号Sa、ブレーキ信号Sbk、ヨーレイトRy、並びに横方向加速度(横G)Gx及び前後方向加速度(前後G)Gyが入力される。そして、操舵ECU20は、上記のように検出された各種車両状態に基づいて、ステアリング操作に応じたヨーモーメントを発生させるための駆動力分配及び制動力配分を演算する。
【0025】
具体的には、操舵ECU20は、操舵角θs及び車速Vに基づく車両モデル演算により、目標ヨーレイトを演算する。そして、上記各種車両状態量に基づいて、その演算された目標ヨーレイトを発生させるための駆動力分配及び制動力配分を演算し、その駆動力分配及び制動力配分を実現すべく、駆動ECU16に対する駆動力制御指令Sdrc及び制動ECU18に対する制動力制御指令Sbkcを出力する。そして、この駆動力制御指令Sdrc及び制動力制御指令Sbkcに基づき駆動力分配装置12及び制動力制御装置13が作動し、その駆動力分配及び制動力配分が変化することにより、車両1のヨーモーメントが制御されるようになっている。
【0026】
また、本実施形態では、ステアリングシャフト21には、ステアリング10に操舵反力を付与するための反力アクチュエータ25が設けられており、該反力アクチュエータ25は、操舵ECU20によりその作動が制御されている。そして、操舵ECU20は、上記駆動力制御指令Sdrc及び制動力制御指令Sbkcの出力と併せて、車両状態に応じた最適な操舵反力を付与すべく、同反力アクチュエータ25の作動を制御する(操舵反力制御)。尚、本実施形態では、操舵ECU20は、操舵トルクτ、操舵角θs及び車速V、並びに推定される路面反力に基づいて、上記操舵反力を演算する。そして、反力アクチュエータ25の駆動源であるモータ(図示略)に対する駆動電力の供給を通じて同反力アクチュエータ25の作動を制御する。
【0027】
即ち、図3のフローチャートに示すように、操舵ECU20は、センサ値として上記各種車両状態量を取得すると(ステップ101)、先ず車両モデルに基づいて目標ヨーレイトを算出し(ステップ102)、続いてその目標ヨーレイトを発生されるための駆動力分配(駆動力制御演算、ステップ103)、及び制動力配分を演算する(制動力制御演算、ステップ104)。そして、駆動ECU16に対して駆動力制御指令Sdrcを出力し(ステップ105)、及び制動ECU18に対して制動力制御指令Sbkcを出力する(ステップ106)。次に、操舵ECU20は、ステアリング10に付与する操舵反力を演算する(ステップ107)。そして、その演算された操舵反力を発生させるべく反力アクチュエータの作動を制御する(反力アクチュエータ駆動、ステップ108)。
【0028】
(フェールセーフ制御)
次に、本実施形態の車両用操舵装置におけるフェールセーフ制御について説明する。
上述のように、本実施形態の車両用操舵装置11は、各車輪3に伝達される駆動力、及び該各車輪3における制動力を該各車輪3毎に制御することにより、車両1のヨーモーメントを制御する。従って、車両用操舵装置11を構成する駆動力分配装置12又は制動力制御装置13に何らかの異常が発生し、各車輪3の何れかについてその駆動力制御又は制動力制御が不能となった場合であっても、その他の車輪3における駆動力制御及び制動力制御により、車両1のヨーモーメントを制御、即ちその進行方向の変更が可能である。そして、駆動力分配装置12又は制動力制御装置13の何れかが完全に停止した場合であっても、その他方の制御(駆動力分配装置12が停止した場合には制動力配分制御、制動力制御装置13が停止した場合には、駆動力配分制御)により、その進行方向の変更が可能である。
【0029】
つまり、本実施形態の車両用操舵装置11では、車両1の各車輪3に伝達される駆動力、及び該各車輪3における制動力をそれぞれ該各車輪3毎に制御することよって、既に極めて高い冗長性が確保されており、これにより、電子制御系の多重化や、非常用の機械的伝達機構を設けることなく高い信頼性が確保されている。また、各車輪3は、その舵角の変更が不能に設けられていることから、仮に、駆動力分配装置12及び制動力制御装置13の両方が完全に停止した場合であっても、最低限、車両1を直進状態とすることだけはできるようになっている。
【0030】
しかしながら、例えば、前輪3f(右前輪3fR又は左前輪3fL)に対応するトルクカップリング15a,15bの何れか一方に異常が発生した場合に、その異常が発生した側の駆動力配分制御のみを停止するとすれば、左旋回時と右旋回時の反応に差異が生じ、ひいては運転者の不安感を助長するおそれがある。
【0031】
この点を踏まえ、本実施形態の車両用操舵装置11では、各車輪3の何れかについて、駆動力分配装置12及び制動力制御装置13の異常が検出された場合には、その異常の発生が検出された車輪3に加えて、それに対応する反対側の車輪3(右前輪3fの場合、左前輪3fL)についても、その駆動力配分制御又は制動力配分制御のうち異常が検出された方の制御を停止する。そして、これにより、異常発生時においても、左右の旋回時における反応の差異を抑制するようになっている。
【0032】
詳述すると、図1に示すように、本実施形態では、操舵ECU20は、各トルクカップリング15a〜15dの出力する駆動異常信号Sdrf_a〜Sdrf_d、各ブレーキ装置17a〜17dの出力する制動異常信号Sbkf_a〜Sbkf_dに基づいて、駆動力分配装置12並びに制動力制御装置13の異常をそれぞれ各車輪3毎に検出可能となっている。即ち、本実施形態では、操舵ECU20が異常検出手段を構成する。そして、その異常が発生した車輪3が前輪3fの何れかである場合には両前輪3f、その異常が発生した車輪3が後輪3rの何れかである場合には両後輪3rについて、その駆動力配分制御又は制動力配分制御のうち異常が検出された方の制御を停止する。
【0033】
具体的には、図4のフローチャートに示すように、操舵ECU20は、先ず、右前輪3fRについて制動力制御装置13の異常が発生したことを示す制動異常信号Sbkf_aの入力があるか否かを判定し(ステップ201)、同制動異常信号Sbkf_aの入力がない場合(ステップ201:NO)、続いて左前輪3fLについて制動力制御装置13の異常が発生したことを示す制動異常信号Sbkf_bの入力があるか否かを判定する(ステップ202)。そして、ステップ201において制動異常信号Sbkf_aの入力がある(ステップ201:YES)、又はステップ202において制動異常信号Sbkf_bの入力がある(ステップ202:YES)と判定した場合には、前輪3fについての制動力配分制御を停止する(ステップ203)。
【0034】
一方、ステップ202において制動異常信号Sbkf_bの入力がないと判定した場合(ステップ202:NO)、操舵ECU20は、右後輪3rRについて制動力制御装置13の異常が発生したことを示す制動異常信号Sbkf_cの入力があるか否かを判定し(ステップ204)、同制動異常信号Sbkf_cの入力がない場合(ステップ204:NO)、続いて左後輪3rLについて制動力制御装置13の異常が発生したことを示す制動異常信号Sbkf_dの入力があるか否かを判定する(ステップ205)。そして、ステップ204において制動異常信号Sbkf_cの入力がある(ステップ204:YES)、又はステップ205において制動異常信号Sbkf_dの入力がある(ステップ205:YES)と判定した場合には、後輪3rについての制動力配分制御を停止する(ステップ206)。
【0035】
次に、ステップ205において制動異常信号Sbkf_dの入力がないと判定した場合(ステップ205:NO)、操舵ECU20は、右前輪3fRについて駆動力分配装置12の異常が発生したことを示す駆動異常信号Sdrf_aの入力があるか否かを判定し(ステップ207)、同駆動異常信号Sdrf_aの入力がない場合(ステップ207:NO)、続いて左前輪3fLについて駆動力分配装置12の異常が発生したことを示す駆動異常信号Sdrf_bの入力があるか否かを判定する(ステップ208)。そして、ステップ207において駆動異常信号Sdrf_aの入力がある(ステップ207:YES)、又はステップ208において駆動異常信号Sdrf_bの入力がある(ステップ208:YES)と判定した場合には、前輪3fについての駆動力配分制御を停止する(ステップ209)。
【0036】
一方、ステップ208において駆動異常信号Sdrf_bの入力がないと判定した場合(ステップ208:NO)、操舵ECU20は、右後輪3rRについて駆動力分配装置12の異常が発生したことを示す駆動異常信号Sdrf_cの入力があるか否かを判定し(ステップ210)、同駆動異常信号Sdrf_cの入力がない場合(ステップ210:NO)、続いて左後輪3rLについて駆動力分配装置12の異常が発生したことを示す駆動異常信号Sdrf_dの入力があるか否かを判定する(ステップ211)。そして、ステップ210において駆動異常信号Sdrf_cの入力がある(ステップ210:YES)、又はステップ211において駆動異常信号Sdrf_dの入力がある(ステップ211:YES)と判定した場合には、後輪3rについての駆動力配分制御を停止する(ステップ212)。尚、ステップ211において駆動異常信号Sdrf_dの入力がない(ステップ211:NO)と判定した場合には、制動力配分制御及び駆動力配分制御を停止しない。
【0037】
以上、本実施形態によれば、以下のような特徴を得ることができる。
(1)車両1は、各車輪3から機械的に分離されたステアリング10に入力されるステアリング操作に応じて車両1のヨーモーメントを制御するステアバイワイヤ式の車両用操舵装置11を備える。車両1において、各車輪3は、その舵角の変更が不能に設けられ、車両用操舵装置11は、各車輪3に対する駆動力分配を可変可能な駆動力分配装置12と、及び該各車輪3における制動力を各車輪3毎に制御可能な制動力制御装置13とを有して構成される。そして、車両用操舵装置11は、各車輪3に伝達される駆動力、及び該各車輪3における制動力を該各車輪3毎に制御することにより、車両1のヨーモーメントを制御する。
【0038】
このような構成とすれば、車両用操舵装置11を構成する駆動力分配装置12又は制動力制御装置13に何らかの異常が発生し、各車輪3の何れかについてその駆動力制御又は制動力制御が不能となった場合であっても、その他の車輪3における駆動力制御及び制動力制御により、車両1のヨーモーメントを制御、即ちその進行方向を変更することができる。そして、更に駆動力分配装置12又は制動力制御装置13の何れかが完全に停止した場合であっても、その他方の制御(駆動力分配装置12が停止した場合には制動力配分制御、制動力制御装置13が停止した場合には、駆動力配分制御)により、その進行方向を変更することができる。
【0039】
つまり、車両1の各車輪3に伝達される駆動力、及び該各車輪3における制動力をそれぞれ該各車輪3毎に制御することで、極めて高い冗長性を確保することができる。従って、電子制御系の多重化によるシステムの複雑化及びコスト上昇や、非常用の機械的伝達機構を設けることによる設計自由度の低下等を招くことなく、簡素な構成にて高い信頼性を確保することができる。また、各車輪3の舵角を変更しないことで、仮に、駆動力分配装置12及び制動力制御装置13の両方が完全に停止した場合であっても、最低限、車両1を直進状態とすることだけは確保することができる。加えて、ラックシャフト等の車輪3の舵角を変更するための転舵機構が不要であることから、ステアバイワイヤの利点を一層高めることができる。
【0040】
(2)車両用操舵装置11は、駆動力分配装置12並びに制動力制御装置13の異常をそれぞれ各車輪3毎に検出する機能を有している。そして、各車輪3の何れかについて、駆動力分配装置12及び制動力制御装置13の異常が検出された場合には、その異常の発生が検出された車輪3に加えて、それに対応する反対側の車輪3(右前輪3fの場合、左前輪3fL)についても、その駆動力配分制御又は制動力配分制御のうち異常が検出された方の制御を停止する。このような構成とすれば、異常発生時においても、左右の旋回時における反応の差異を抑制することができ、これにより運転者の不安感を和らげることができる。
【0041】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、本発明を四輪駆動車に具体化したが、4輪以上の車輪を有する車両に具体化してもよい。
【0042】
・本実施形態では、車両用操舵装置11は、操舵ECU20を有し、駆動力分配装置12及び制動力制御装置13は、それぞれ、この操舵ECU20の出力する駆動力制御指令Sdrc及び制動力制御指令Sbkcに基づいて駆動力配分制御及び制動力配分制御を実行することとした。しかし、これに限らず、駆動力分配装置12及び制動力制御装置13が、それぞれ、ステアリング10に入力されるステアリング操作に応じたヨーモーメントを発生させるための駆動力分配及び制動力配分を演算し、その駆動力配分制御及び制動力配分制御を実行する構成としてもよい。また、一つの制御装置が、本実施形態における操舵ECU20、駆動ECU16及び制動ECU18の機能を有することとしてもよい。
【0043】
・本実施形態では、駆動力分配装置12は、各フロントアクスル5に設けられた各トルクカップリング15a〜15dにより構成されることとしたが、これに限らずディファレンシャルギヤ等により一体に構成されることとしてもよい。
【0044】
・本実施形態では、エンジン2の駆動力を各車輪3に伝達する構成としたが、駆動源はモータであってもよい。尚、各車輪にその駆動用モータが内蔵された所謂インホイールモータ型の車両においては、それらの駆動用モータを駆動する制御装置が駆動力分配装置を構成することはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】車両用操舵装置を備えた車両の概略構成図。
【図2】駆動力配分制御及び制動力配分制御による車両のヨーモーメント制御の原理説明図。
【図3】操舵ECUによるヨーモーメント制御及び操舵反力制御の処理手順を示すフローチャート。
【図4】操舵ECUによるフェールセーフ制御の態様を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0046】
1…車両、2…エンジン、3…車輪、3f…前輪、3fR…右前輪、3fL…左前輪、3r…後輪、3rR…右後輪、3rL…左後輪、10…ステアリング、11…車両用操舵装置、12…駆動力分配装置、13…制動力制御装置、15a〜15d…トルクカップリング、16…駆動ECU、17a〜17d…ブレーキ装置、18…制動ECU、20…制動ECU、Ry…ヨーレイト、Sdrc…駆動力制御指令、Sbkc…制動力制御指令、Sdrf_a〜Sdrf_d…駆動異常信号、Sbkf_a〜Sbkf_d…制動異常信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
舵角を変更不能に設けられた複数の車輪と、
該各車輪から機械的に分離されたステアリングと、
前記各車輪に対する駆動力分配を可変可能な駆動力分配装置と、
前記各車輪における制動力を該各車輪毎に制御可能な制動力制御装置とを備え、
前記ステアリングに入力されるステアリング操作に応じて前記各車輪に対する駆動力分配及び該各車輪の制動力配分を変化させることにより、車両のヨーモーメントを制御する車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用操舵装置において、
前記駆動力分配装置及び制動力制御装置における異常の発生を前記各車輪毎に検出可能な異常検出手段を備え、
前記異常の発生が検出された場合には、該異常の発生が検出された車輪及びそれに対応する反対側の車輪について、前記駆動力の分配制御又は前記制動力の配分制御のうち該異常が検出された方の制御を停止すること、を特徴とする車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−321271(P2006−321271A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143894(P2005−143894)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】